説明

内燃機関の可変バルブタイミング制御装置

【課題】進角室・遅角室へのオイル充填時にエンジンの潤滑にまわすオイル量を確保できるようにする。
【解決手段】油圧制御弁25がオイル充填モードから変化できない異常が発生したときにエンジン回転速度が所定回転速度以上、及び/又は、オイル温度が所定温度以下であれば、エンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できると判断して何もしないが、エンジン回転速度が所定回転速度以下、及び/又は、オイル温度が所定温度以上であれば、オイルポンプ28を駆動するエンジン回転速度を、エンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できる回転速度まで上昇させる。或は、オイルポンプ28が可変容量ポンプである場合は、オイルポンプ28の容量をエンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できる容量まで増加させるようにしても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(エンジン)のクランク軸に対するカム軸の回転位相(以下「VCT位相」という)をその調整可能範囲に位置する中間ロック位相でロックする中間ロック機構を備えた内燃機関の可変バルブタイミング制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来より、油圧駆動式の可変バルブタイミング装置においては、特許文献1(特開平9−324613号公報)、特許文献2(特開2001−159330号公報)に記載されているように、エンジン停止時のロック位相をVCT位相の調整可能範囲の略中間に設定して、バルブタイミング(VCT位相)の調整可能範囲を拡大するようにしたものがある。このものは、エンジン停止時にロックする中間ロック位相を始動に適した位相に設定して、この中間ロック位相で始動し、始動完了後のエンジン回転上昇(オイルポンプ回転上昇)により油圧が適正な油圧に上昇して可変バルブタイミング装置内にオイルを充填してから、ロックを解除してVCT位相をエンジン運転状態に応じて設定した目標VCT位相に制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−324613号公報
【特許文献2】特開2001−159330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、中間ロック機構付きの可変バルブタイミング装置では、エンジン停止中は中間ロック位相でロックされた状態になっているため、エンジン始動後に進角室と遅角室の両方にオイルを速やかに充填する必要がある。そのため、ロック状態で進角室と遅角室との間を連通路で連通させ、進角室に供給したオイルを連通路を通して遅角室にも供給すると共に、遅角室のオイル供給油路をドレンに開放し、オイル供給の邪魔となる各室内のエアーをドレンに排出して、オイル充填性を向上させるようにしている。
【0005】
この構成では、オイル充填時に遅角室に充填されるオイルの一部がドレンに排出されることになり、オイルを無駄に消費してしまう。このため、オイル充填時にエンジンの潤滑にまわすオイルが不足してエンジン潤滑性が悪化する懸念がある。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、進角室・遅角室へのオイル充填による内燃機関の潤滑性悪化を回避できる内燃機関の可変バルブタイミング制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相(以下「VCT位相」という)を変化させてバルブタイミングを調整する油圧駆動式の可変バルブタイミング装置と、VCT位相をその調整可能範囲に位置する中間ロック位相でロックするロックピンと、VCT位相を進角側に駆動する進角室と遅角側に駆動する遅角室と前記ロックピンを駆動する油圧室に供給する油圧を制御する油圧制御弁と、内燃機関の潤滑用のオイルを前記油圧制御弁に供給するオイルポンプとを備え、前記可変バルブタイミング装置は、前記ロックピンを突出させてVCT位相を前記中間ロック位相でロックするように前記油圧制御弁を制御することで前記進角室と前記遅角室とを連通させた状態に切り替えるように構成され、前記油圧制御弁がオイル充填モードのときに前記進角室と前記遅角室とを連通させた状態でいずれか一方の室にオイルを供給して両室にオイルを充填する内燃機関の可変バルブタイミング制御装置において、油圧制御弁がオイル充填モードから変化できない異常が発生したときにオイルポンプのオイル吐出量が所定値以上となるように制御するオイル量確保制御を実行するオイル量確保制御を備えた構成としたものである。
【0008】
本発明は、油圧制御弁が正常に動作している場合でも、油圧制御弁がオイル充填モードのときにオイル量確保制御を実行するようにしても良いが、油圧制御弁が正常に動作している場合は、油圧制御弁がオイル充填モードに維持される時間は比較的短く、内燃機関の潤滑性が悪化した状態は長く続かないため、焼き付き等の最悪の事態には至らないが、油圧制御弁がオイル充填モードから変化できない異常が発生した場合は、内燃機関の潤滑性が悪化した状態が長く続くため、焼き付き等の最悪の事態に至る可能性がある。
【0009】
そこで、本発明のように、油圧制御弁がオイル充填モードから変化できない異常が発生したときにオイルポンプのオイル吐出量が所定値以上となるように制御するオイル量確保制御を実行するようにすれば、油圧制御弁がオイル充填モードから変化できない異常が発生しても、オイル量確保制御により内燃機関の潤滑にまわすオイル量を確保することができ、内燃機関の潤滑性を確保できる。
【0010】
ここで、「オイル充填モードから変化できない異常」とは、油圧制御弁がオイル充填モードで固着した異常(請求項2)、又は、油圧制御弁の駆動信号がオイル充填モードで固定された異常(請求項3)である。また、請求項4のように、油圧制御弁が通電オフ時にオイル充填モードの状態となるように構成されている場合は、油圧制御弁が断線等により通電不能になった異常も、「オイル充填モードから変化できない異常」となる。
【0011】
また、請求項5のように、VCT位相が中間ロック位相でロックされた状態が所定時間継続する毎に一時的にロック解除する制御を実行し、ロック解除できなければ、油圧制御弁がオイル充填モードから変化できない異常が発生していると判定するようにしても良い。これにより、ロック期間中に油圧制御弁がオイル充填モードから変化できない異常が発生していないか否かを監視することができる。
【0012】
また、請求項6のように、オイル量確保制御の実行中にオイルポンプを駆動する内燃機関の回転速度を上昇させるようにしても良い。内燃機関の回転速度を上昇させることで、オイルポンプのオイル吐出量を増加させることができる。
【0013】
また、請求項7のように、オイルポンプが可変容量ポンプである場合は、オイル量確保制御の実行中にオイルポンプの容量を増加させるようにしても良い。オイルポンプの容量を増加させることで、オイルポンプのオイル吐出量を増加させることができる。
【0014】
また、請求項8のように、内燃機関回転速度とオイル温度の少なくとも一方に基づいてオイル量確保制御を実行する領域を制限するようにしても良い。内燃機関回転速度が高いときには、オイルポンプのオイル吐出量が多くなるため、オイル量確保制御を実行しなくても、内燃機関の潤滑にまわすオイル量を確保できる。また、オイル温度が低いときには、オイルの粘度が高くなってオイルの漏れが少なくなるため、オイル量確保制御を実行しなくても、内燃機関の潤滑にまわすオイル量を確保できる。従って、内燃機関回転速度やオイル温度に基づいてオイル量確保制御を実行する領域を制限するようにすれば、オイル量確保制御を実行しなくても内燃機関の潤滑にまわすオイル量を確保できる領域で、オイル量確保制御を実行せずに済む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の実施例1を示す制御システム全体の概略構成図である。
【図2】図2は可変バルブタイミング装置と油圧制御回路の構成を説明する縦断側面図である。
【図3】図3は可変バルブタイミング装置の縦断正面図である。
【図4】図4はロックピンの状態と進角室−遅角室間の連通/遮断との関係を説明する図であり、(a)はロック解除状態の場合の進角室−遅角室間の遮断状態を説明する図、(b)は正常なロック状態の場合の進角室−遅角室間の連通状態を説明する図である。
【図5】図5は可変バルブタイミング装置の制御特性を説明する図である。
【図6】図6は実施例1のオイル量確保制御プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は実施例1の異常診断プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】図8は実施例2の異常診断プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】図9は実施例3のオイル量確保制御プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を吸気バルブの可変バルブタイミング装置に適用して具体化した3つの実施例1〜3を説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の実施例1を図1乃至図7に基づいて説明する。
【0018】
図1に示すように、内燃機関であるエンジン11は、クランク軸12からの動力がタイミングチェーン13により各スプロケット14,15を介して吸気側カム軸16と排気側カム軸17とに伝達されるようになっている。但し、吸気側カム軸16には、クランク軸12に対する吸気側カム軸16の進角量(VCT位相)を調整する可変バルブタイミング装置18(VCT)が設けられている。
【0019】
また、吸気側カム軸16の外周側には、気筒判別のために特定のカム角でカム角信号パルスを出力するカム角センサ19が設置され、一方、クランク軸12の外周側には、所定クランク角毎にクランク角信号パルスを出力するクランク角センサ20が設置されている。これらカム角センサ19及びクランク角センサ20の出力信号は、エンジン制御回路21に入力され、このエンジン制御回路21によって吸気バルブの実バルブタイミング(実VCT位相)が演算されると共に、クランク角センサ20の出力パルスの周波数(パルス間隔)に基づいてエンジン回転速度が演算される。また、エンジン運転状態を検出する各種センサ(吸気圧センサ22、水温センサ23、スロットルセンサ24等)の出力信号がエンジン制御回路21に入力される。
【0020】
このエンジン制御回路21は、上記各種センサで検出したエンジン運転状態に応じて燃料噴射制御や点火制御を行うと共に、可変バルブタイミング制御(位相フィードバック制御)を行い、吸気バルブの実バルブタイミング(実VCT位相)を目標バルブタイミング(目標VCT位相)に一致させるように可変バルブタイミング装置18を駆動する油圧をフィードバック制御する。
【0021】
次に、図2及び図3に基づいて可変バルブタイミング装置18(VCT)の構成を説明する。
可変バルブタイミング装置18のハウジング31は、吸気側カム軸16の外周に回動自在に支持されたスプロケット14にボルト32で締め付け固定されている。これにより、クランク軸12の回転がタイミングチェーン13を介してスプロケット14とハウジング31に伝達され、スプロケット14とハウジング31がクランク軸12と同期して回転する。
【0022】
一方、吸気側カム軸16の一端部には、ロータ35がボルト37で締め付け固定されている。このロータ35は、ハウジング31内に相対回動自在に収納されている。
図3に示すように、ハウジング31の内部には、複数のベーン収容室40が形成され、各ベーン収容室40が、ロータ35の外周部に形成されたベーン41によって進角室42と遅角室43とに区画されている。少なくとも1つのベーン41の両側部には、ハウジング31に対するロータ35(ベーン41)の相対回動範囲を規制するストッパ部56が形成され、このストッパ部56によって実VCT位相(カム軸位相)の調整可能範囲の最遅角位相と最進角位相が規制されている。
【0023】
可変バルブタイミング装置18には、VCT位相をその調整可能範囲の略中間に位置する中間ロック位相でロックする中間ロック機構50が設けられている。この中間ロック機構50の構成を説明すると、いずれか1つ又は複数のベーン41にロックピン収容孔57が設けられ、このロックピン収容孔57に、ハウジング31とロータ35(ベーン41)との相対回動をロックするためのロックピン58が突出可能に収容され、このロックピン58がスプロケット14側に突出してスプロケット14のロック穴59に嵌り込むことで、VCT位相がその調整可能範囲の略中間に位置する中間ロック位相でロックされる。この中間ロック位相は、エンジン11の始動に適した所定位相に設定されている。尚、ロック穴59をハウジング31に設けた構成としても良い。
【0024】
ロックピン58は、スプリング62によってロック方向(突出方向)に付勢されている。また、ロックピン58の外周部とロックピン収容孔57との間には、ロックピン58をロック解除方向に駆動する油圧を制御するためのロック解除用の油圧室が形成されている。 また、ハウジング31には、進角制御時にロータ35を進角方向に相対回動させる油圧をばね力で補助する付勢手段としてねじりコイルばね等のばね55(図2参照)が設けられている。吸気バルブの可変バルブタイミング装置18では、吸気側カム軸16のトルクがVCT位相を遅角させる方向に作用することから、上記ばね55は、VCT位相を吸気側カム軸16のトルク方向と反対方向である進角方向に付勢することになる。
【0025】
本実施例1では、ばね55が作用する範囲は、最遅角位相から中間ロック位相直前までの範囲に設定され、エンジンストール等の異常停止後の再始動時のフェールセーフを想定して、ロックピン58がロック穴59から外れた状態で中間ロック位相より遅角側の実VCT位相で始動した場合に、スタータ(図示せず)によるクランキング中に、ばね55のばね力により実VCT位相を遅角側から中間ロック位相へ進角させる進角動作を補助してロックピン58をロック穴59に嵌まり込ませてロックできるように構成されている。
【0026】
一方、中間ロック位相より進角側の実VCT位相で始動した場合は、クランキング中に吸気側カム軸16のトルクが遅角方向に作用するため、吸気側カム軸16のトルクにより実VCT位相を進角側から中間ロック位相へ遅角させてロックピン58をロック穴59に嵌まり込ませてロックさせることができる。
【0027】
更に、本実施例1では、図4に示すように、ロータ35には、進角室42と遅角室43とを連通させるための連通路63が形成され、図4(a)に示すように、ロックピン58がロック穴59から抜き出されたロック解除状態の場合は、進角室42と遅角室43との間の連通路63がロックピン58で遮断された状態に維持される。また、図4(b)に示すように、ロックピン58が突出してロック穴59に嵌まり込んだロック状態の場合は、進角室42と遅角室43との間の連通路63が開放され、進角室42と遅角室43との間でオイルが出入り可能な状態に維持される。
【0028】
また、本実施例1では、可変バルブタイミング装置18のVCT位相及びロックピン58を駆動する油圧を制御する油圧制御弁25は、VCT位相を駆動する油圧を制御する位相制御用の油圧制御弁機能とロックピン58を駆動する油圧を制御するロック制御用の油圧制御弁機能とを一体化した油圧制御弁により構成され、エンジン11の動力によって駆動されるオイルポンプ28により、オイルパン27内のオイル(作動油)が汲み上げられて油圧制御弁25に供給される。この油圧制御弁25は、例えば8ポート・4ポジション型のスプール弁により構成され、図5に示すように、油圧制御弁25の制御デューティ(制御量)に応じて、ロックモードL1,L2、進角モードA、保持モードH、遅角モードRの4つの制御領域に区分されている。
【0029】
ロックモードL1,L2の制御領域では、ロックピン収容孔57内のロック解除用油圧室のオイル供給油路を遮断してロックピン収容孔57内のロック解除用油圧室の油圧を抜いて、スプリング62によってロックピン58をロック方向に突出させる。
【0030】
更に、ロックモードL1,L2の制御領域は、ロックピン58を突出させながら進角室42のオイル供給油路を開放して進角室42にオイルを供給して連通路63を通して遅角室43にもオイルを充填するオイル充填モードL1の制御領域と、ロックピン58を突出させながら進角室42のオイル供給油路を遮断するロック保持モードL2の制御領域とに区分されている。
【0031】
ロックモードL1,L2の制御領域では、遅角室43をドレンに開放するようにしている。これにより、オイル充填モードL1の制御領域では、オイル供給の邪魔となる各室42,43のエアーをドレンに排出して、オイル充填性を向上させるようにしている。
【0032】
進角モードAの制御領域では、遅角室43のオイル供給油路を遮断して、遅角室43をドレンに開放して遅角室43の油圧を抜いた状態で、油圧制御弁25の制御デューティに応じて、進角室42のオイル供給油路を開放して、進角室42にオイルを供給して進角室42の油圧を変化させて実VCT位相を進角させる。
【0033】
保持モードHの制御領域では、進角室42と遅角室43の両方のオイル供給油路を遮断して両室42,43の油圧を保持して、実VCT位相が動かないように保持する。
遅角モードRの制御領域では、進角室42のオイル供給油路を遮断して、進角室42をドレンに開放して進角室42の油圧を抜いた状態で、油圧制御弁25の制御デューティに応じて、遅角室43へのオイル供給油路を開放して、遅角室43にオイルを供給して遅角室43の油圧を変化させて実VCT位相を遅角させる。
【0034】
ロックモードL1,L2以外の制御領域(進角モードA、保持モードH、遅角モードR)では、ロックピン収容孔57内のロック解除用油圧室のオイル供給油路を開放してロック解除用油圧室にオイルを充填してロック解除用油圧室の油圧を上昇させ、その油圧によりロックピン58をロック穴59から抜き出してロックピン58のロックを解除する。
【0035】
前述したように、オイル充填モードL1の制御領域では、進角室42と遅角室43との間の連通路63が開放された状態で、進角室42のオイル供給油路が開放され、且つ、遅角室43がドレンに開放されるため、遅角室43に充填されるオイルの一部がドレンに排出されることになり、オイルを無駄に消費して、エンジン11の潤滑にまわすオイルが不足する懸念がある。このため、油圧制御弁25がオイル充填モードL1から変化できない異常が発生した場合は、エンジン11の潤滑にまわすオイルが不足する状態が長く続くことになり、最悪の場合は、エンジン11の焼き付き等が発生する可能性がある。
【0036】
そこで、本実施例1では、エンジン制御回路21は、後述する図6のオイル量確保制御プログラムを実行することで、油圧制御弁25がオイル充填モードから変化できない異常が発生したときに、オイルポンプ28のオイル吐出量がエンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できる所定値以上となるように制御するオイル量確保制御を実行する。
【0037】
ここで、「オイル充填モードから変化できない異常」とは、油圧制御弁25がオイル充填モードで固着した異常、又は、油圧制御弁25の駆動信号がオイル充填モードで固定された異常である。また、本実施例1のように、油圧制御弁25が通電オフ時にオイル充填モードの状態となるように構成されている場合は、油圧制御弁25が断線等により通電不能になった異常も、「オイル充填モードから変化できない異常」となる。
【0038】
また、オイル量確保制御によりオイルポンプ28のオイル吐出量を増加させる方法は、オイルポンプ28を駆動するエンジン回転速度を上昇させれば良い。
或は、オイルポンプ28が可変容量ポンプである場合は、オイル量確保制御の実行中にオイルポンプ28の容量を増加させてオイル吐出量を増加させるようにしても良い。
【0039】
ところで、エンジン回転速度が高いときには、オイルポンプ28のオイル吐出量が多くなるため、オイル量確保制御を実行しなくても、エンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できる。また、オイル温度が低いときには、オイルの粘度が高くなってオイルの漏れが少なくなるため、オイル量確保制御を実行しなくても、エンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できる。
【0040】
これらの事情を考慮して、本実施例1では、油圧制御弁25がオイル充填モードから変化できない異常が発生したときに、エンジン回転速度が所定回転速度以下、及び/又は、オイル温度が所定温度以上の条件が満たされたときのみ、オイル量確保制御を実行するようにしている。
【0041】
以上説明した本実施例1のオイル量確保制御は、エンジン制御回路21によって図6及び図7の各プログラムに従って実行される。以下、図6及び図7の各プログラムの処理内容を説明する。
【0042】
[オイル量確保制御プログラム]
図6のオイル量確保制御プログラムは、エンジン制御回路21によってエンジン運転中に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいうオイル量確保制御手段としての役割を果たす。
【0043】
本プログラムが起動されると、まずステップ101で、後述する図7の異常診断プログラムの処理結果に基づいて、油圧制御弁25がオイル充填モードから変化できない異常が発生したか否かを判定し、当該異常が発生していないと判定されれば、そのまま何もせずに本プログラムを終了する。
【0044】
これに対し、上記ステップ101で、油圧制御弁25がオイル充填モードから変化できない異常が発生したと判定されれば、ステップ102に進み、エンジン回転速度が所定回転速度以下、且つ、オイル温度が所定温度以上の条件が満たされるか否かを判定する。ここで、エンジン回転速度が所定回転速度以下、又は、オイル温度が所定温度以上の条件が満たされるか否かを判定しても良い。或は、エンジン回転速度とオイル温度のいずれか一方のみの条件を判定しても良い。尚、オイル温度は、温度センサで検出しても良いし、冷却水温センサで検出した冷却水温からオイル温度を推定したり、走行履歴からオイル温度を推定したり、自動変速機の油温からオイル温度を推定したり、或は、これらの中から複数の推定方法を組み合わせてオイル温度を推定しても良い。
【0045】
上記ステップ102の条件が満たされなければ、オイル量確保制御を実行しなくてもエンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できると判断して、そのまま何もせずに本プログラムを終了する。
【0046】
これに対し、上記ステップ102の条件を満足していれば、エンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できないと判断して、ステップ103に進み、オイルポンプ28を駆動するエンジン回転速度を、エンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できる回転速度まで上昇させる。或は、オイルポンプ28が可変容量ポンプである場合は、オイルポンプ28の容量をエンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できる容量まで増加させるようにしても良い。
【0047】
尚、ステップ102の処理を省略して、油圧制御弁25がオイル充填モードから変化できない異常が発生したときに、エンジン回転速度やオイル温度を問わず、ステップ103に進んで、エンジン回転速度を上昇(又はオイルポンプ28の容量を増加)させるようにしても良い。
【0048】
[異常診断プログラム]
図7の異常診断プログラムは、エンジン制御回路21によってエンジン運転中に所定周期で繰り返し実行される。本プログラムが起動されると、まずステップ201で、油圧制御弁25が断線等により通電不能であるか否かを判定し、油圧制御弁25が通電不能であると判定されれば、ステップ205に進み、油圧制御弁25が「オイル充填モードから変化できない異常」になっていると判定する。
【0049】
一方、上記ステップ201で、油圧制御弁25が通電不能ではない(通電可能である)と判定されれば、ステップ202に進み、油圧制御弁25の駆動信号がオイル充填モードで固定されているか否かを判定する。この判定は、例えば、油圧制御弁25の駆動信号をオイル充填モードから変化できるか否かを判定すれば良い。このステップ202で、油圧制御弁25の駆動信号がオイル充填モードで固定されていると判定されれば、ステップ205に進み、油圧制御弁25が「オイル充填モードから変化できない異常」になっていると判定する。
【0050】
これに対し、上記ステップ202で、油圧制御弁25の駆動信号がオイル充填モードで固定されていないと判定されれば、ステップ203に進み、VCT位相が中間ロック位相で固着しているか否かを判定する。この判定は、例えば、一時的にロック解除制御を実行してロック解除できたか否か(VCT位相を中間ロック位相から変化できたか否か)を判定すれば良い。このステップ203で、VCT位相が中間ロック位相で固着していると判定されれば、ステップ205に進み、油圧制御弁25が「オイル充填モードから変化できない異常」になっていると判定する。油圧制御弁25が「オイル充填モードから変化できない異常」が発生すれば、VCT位相を中間ロック位相から変化させることができないためである。
【0051】
上記ステップ201〜203の判定結果が全て「No」であれば、ステップ204に進み、油圧制御弁25が正常であると判定する。
尚、ステップ201〜203のうちのいずれか1つ又は2つの判定を省略するようにしても良い。
【0052】
以上説明した本実施例1によれば、油圧制御弁25がオイル充填モードから変化できない異常が発生したときに、オイルポンプ28のオイル吐出量が所定値以上となるように制御するようにしたので、油圧制御弁25がオイル充填モードから変化できない異常が発生しても、エンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保することができて、エンジン11の潤滑性を確保でき、エンジン11の焼き付き等が発生することを未然に防止できる。
【実施例2】
【0053】
本発明の実施例2では、エンジン制御回路21によって図8の異常診断プログラムを所定周期で実行することで、VCT位相が中間ロック位相でロックされた状態が所定時間継続する毎に一時的にロック解除する制御を実行し、ロック解除できなければ、油圧制御弁25がオイル充填モードから変化できない異常が発生していると判定する。
【0054】
図8の異常診断プログラムでは、まずステップ301で、VCT位相が中間ロック位相でロックされたロックモードであるか否かを判定し、ロックモードでなければ、そのまま本プログラムを終了し、ロックモードであれば、ステップ302に進み、ロックモードの状態が所定時間継続したか否かを判定し、まだ所定時間継続していなければ、そのまま本プログラムを終了する。
【0055】
その後、ロックモードの状態が所定時間継続した時点で、ステップ302からステップ303に進み、一時的にロック解除制御を実行して、次のステップ303で、実際にロック解除できたか否か(VCT位相を中間ロック位相から変化できたか否か)を判定する。その結果、ロック解除できないと判定されれば、ステップ307に進み、油圧制御弁25が「オイル充填モードから変化できない異常」になっていると判定する。油圧制御弁25が「オイル充填モードから変化できない異常」が発生すれば、ロック解除できないためである。
【0056】
これに対し、上記ステップ304で、ロック解除できたと判定されれば、ステップ305に進み、油圧制御弁25が正常であると判定して、次のステップ306で、ロック制御を実行して、VCT位相を中間ロック位相でロックした状態に戻す。
その他の事項は、前記実施例1と同じである。
【実施例3】
【0057】
前記実施例1では、油圧制御弁25がオイル充填モードから変化できない異常が発生したときに、オイルポンプ28のオイル吐出量が所定値以上となるように制御するオイル量確保制御を実行するようにしたが、本発明の実施例3では、図9のオイル量確保制御プログラムを実行することで、油圧制御弁25がオイル充填モードになっているときに、オイルポンプ28のオイル吐出量がエンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できる所定値以上となるように制御するオイル量確保制御を実行する。
【0058】
中間ロック機構50付きの可変バルブタイミング装置18では、エンジン停止中は中間ロック位相でロックされた状態になっているため、エンジン始動後に進角室42と遅角室43の両方にオイルを速やかに充填する必要がある。そのため、エンジン始動時には油圧制御弁25がオイル充填モードとなり、遅角室43に充填されるオイルの一部がドレンに排出されることになり、オイルを無駄に消費してしまうため、エンジン11の潤滑にまわすオイルが不足する懸念がある。
【0059】
そこで、本実施例3では、図9のオイル量確保制御プログラムのステップ101aで、油圧制御弁25がオイル充填モードになっているか否かを判定し、油圧制御弁25がオイル充填モードになっていなければ、そのまま何もせずに本プログラムを終了する。
【0060】
これに対し、上記ステップ101aで、油圧制御弁25がオイル充填モードになっていると判定されれば、ステップ102に進み、エンジン回転速度が所定回転速度以下、及び/又は、オイル温度が所定温度以上の条件が満たされるか否かを判定し、この条件が満たされなければ、オイル量確保制御を実行しなくてもエンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できると判断して、そのまま何もせずに本プログラムを終了する。
【0061】
これに対し、上記ステップ102の条件が満たされれば、エンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できないと判断して、ステップ103に進み、オイルポンプ28を駆動するエンジン回転速度を、エンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できる回転速度まで上昇させる。或は、オイルポンプ28が可変容量ポンプである場合は、オイルポンプ28の容量をエンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保できる容量まで増加させるようにしても良い。
【0062】
尚、ステップ102の処理を省略して、油圧制御弁25がオイル充填モードのときに、エンジン回転速度やオイル温度を問わず、ステップ103に進んで、エンジン回転速度を上昇(又はオイルポンプ28の容量を増加)させるようにしても良い。
【0063】
以上説明した本実施例3によれば、油圧制御弁25がオイル充填モードのときに、オイルポンプ28のオイル吐出量が所定値以上となるように制御するオイル量確保制御を実行するため、進角室42・遅角室43へのオイル充填時にエンジン11の潤滑にまわすオイル量を確保するようにオイルポンプ28のオイル吐出量を制御することが可能となり、進角室42・遅角室43へのオイル充填によるエンジン11の潤滑性悪化を回避できる。
【0064】
尚、油圧制御弁25がオイル充填モードのときに、オイル量確保制御を間欠的に実行するようにしても良い(オイル量確保制御の実行/停止を交互に所定の時間毎に切り替えるようにしても良い)。このようにしても、油圧制御弁25がオイル充填モードのときに、エンジン11の潤滑にまわすオイル量を間欠的に増加させることができるため、エンジン11の潤滑性を確保できる。
【0065】
尚、上記実施例1〜3は、本発明を吸気バルブの可変バルブタイミング装置に適用して具体化した実施例であるが、排気バルブの可変バルブタイミング装置に適用して実施しても良い。本発明を排気バルブの可変バルブタイミング装置に適用する場合は、排気バルブのVCT位相の制御方向(「進角」と「遅角」の関係)を吸気バルブのVCT位相の制御方向とは反対にすれば良い。
【0066】
その他、本発明は、可変バルブタイミング装置18の構成や油圧制御弁25の構成等を適宜変更しても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0067】
11…エンジン(内燃機関)、12…クランク軸、13…タイミングチェーン、14,15…スプロケット、16…吸気カム軸、17…排気カム軸、18…可変バルブタイミング装置(VCT)、19…カム角センサ、20…クランク角センサ、21…エンジン制御回路(オイル量確保制御手段)、25…油圧制御弁、28…オイルポンプ、31…ハウジング、35…ロータ、40…ベーン収容室、41…ベーン、42…進角室、43…遅角室、50…中間ロック機構、55…ばね、58…ロックピン、59…ロック穴、62…スプリング、63…連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相(以下「VCT位相」という)を変化させてバルブタイミングを調整する油圧駆動式の可変バルブタイミング装置と、VCT位相をその調整可能範囲に位置する中間ロック位相でロックするロックピンと、VCT位相を進角側に駆動する進角室と遅角側に駆動する遅角室と前記ロックピンを駆動する油圧室に供給する油圧を制御する油圧制御弁と、内燃機関の潤滑用のオイルを前記油圧制御弁に供給するオイルポンプとを備え、前記可変バルブタイミング装置は、前記ロックピンを突出させてVCT位相を前記中間ロック位相でロックするように前記油圧制御弁を制御することで前記進角室と前記遅角室とを連通させた状態に切り替えるように構成され、前記油圧制御弁がオイル充填モードのときに前記進角室と前記遅角室とを連通させた状態でいずれか一方の室にオイルを供給して両室にオイルを充填する内燃機関の可変バルブタイミング制御装置において、
前記油圧制御弁が前記オイル充填モードから変化できない異常が発生したときに前記オイルポンプのオイル吐出量が所定値以上となるように制御するオイル量確保制御を実行するオイル量確保制御手段を備えていることを特徴とする内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項2】
前記オイル充填モードから変化できない異常とは、前記油圧制御弁が前記オイル充填モードで固着した異常であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項3】
前記オイル充填モードから変化できない異常とは、前記油圧制御弁の駆動信号が前記オイル充填モードに固定された異常であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項4】
前記油圧制御弁は、通電オフ時に前記オイル充填モードの状態となるように構成され、 前記オイル充填モードから変化できない異常とは、前記油圧制御弁が通電不能になった異常であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項5】
前記オイル量確保制御手段は、VCT位相が前記中間ロック位相でロックされた状態が所定時間継続する毎に一時的にロック解除する制御を実行し、ロック解除できなければ、前記油圧制御弁が前記オイル充填モードから変化できない異常が発生していると判定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項6】
前記オイル量確保制御手段は、前記オイル量確保制御の実行中に前記オイルポンプを駆動する内燃機関の回転速度を上昇させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項7】
前記オイルポンプは、可変容量ポンプにより構成され、
前記オイル量確保制御手段は、前記オイル量確保制御の実行中に前記オイルポンプの容量を増加させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項8】
前記オイル量確保制御手段は、内燃機関回転速度とオイル温度の少なくとも一方に基づいて前記オイル量確保制御を実行する領域を制限することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−100836(P2013−100836A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−47355(P2013−47355)
【出願日】平成25年3月8日(2013.3.8)
【分割の表示】特願2010−216390(P2010−216390)の分割
【原出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】