説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】排気浄化部材の前端面におけるPMの詰まりを好適に低減することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】エンジン1は、排気通路26に設けられた酸化触媒31と、酸化触媒31に添加剤を供給する燃料添加弁5と、排気を吸気通路3に還流させる排気還流機構と、排気還流機構による排気の還流量を機関運転状態に基づいて制御する制御装置25とを備える。制御装置25は、酸化触媒31の前端面の詰まり量が閾値を超えたときには、排気の還流量を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、一部の内燃機関の排気系には、排気中のPM(Particulate Matter:粒子状物質)を捕集するフィルタ等の排気浄化部材が設けられている。
この排気浄化部材には、浄化機能の回復等を行うために添加剤供給が行われる場合がある。例えば、特許文献1に記載の装置では、フィルタ内に捕集されたPMが堆積すると、フィルタでの圧力損失が増大してしまうため、フィルタに添加剤として燃料を供給することにより捕集されたPMを焼失させて、同フィルタを再生するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−23792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排気浄化部材に供給される添加剤は、排気浄化部材での燃焼や酸化反応等によって基本的には気化・焼失される。しかし、一部の添加剤が燃焼や酸化反応等によって焼失されることなく、そのまま比較的温度の低い排気浄化部材の前端面に付着してしまうと、前端面に付着した添加剤がバインダとなってPM等を吸着し、排気浄化部材の前端面にPMによる詰まりを生じさせるおそれがある。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、排気浄化部材の前端面におけるPMの詰まりを好適に低減することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、排気通路に設けられた排気浄化部材と、同排気浄化部材に添加剤を供給する添加剤供給機構と、排気を吸気通路に還流させる排気還流機構と、同排気還流機構による排気の還流量を機関運転状態に基づいて制御する制御部とを備える内燃機関の排気浄化装置において、前記排気浄化部材の前端面の詰まり量が予め定められた閾値を超えたときには、前記詰まり量が前記閾値を超えていないときに比して前記還流量を減少させることをその要旨とする。
【0007】
同構成によれば、前端面の詰まり量が閾値を超えて多くなったときには、排気の還流量が減少されることにより、排気浄化部材に流入する排気の流量が増大するようになる。このように排気の流量が増大すると、排気の流速が高まるため、排気浄化部材の前端面に詰まったPMは排気の動圧によって吹き飛ばされるようになる。従って、同構成によれば、排気浄化部材の前端面におけるPMの詰まりを好適に低減することができるようになる。
【0008】
なお、排気を高温化することによって排気浄化部材の前端面における詰まりを低減させることも可能であるが、こうした排気の高温化は常に行えるものではなく、例えば排気温度が比較的低い機関の低負荷時などでは、排気の高温化が困難である。一方、上記構成では、排気の流量を増大させるようにしており、こうした処理は機関の低負荷時などであっても実行可能である。従って、同構成によれば、詰まりを低減させる処理の実行機会を増加させることも可能になる。
【0009】
また、排気の還流量を減少させることで、排気浄化部材に流れ込む排気の流量を増加させるようにしているため、排気流量を増加させるためだけの機構を別途設けることなく、前端面の詰まりを低減させることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記詰まり量は、機関回転速度及び燃料噴射量に基づいて算出される詰まり量の増加量と、吸入空気量に基づいて算出される詰まり量の減少量との差を求めることで算出されることをその要旨とする。
【0011】
排気浄化部材の前端面に詰まりを生じさせるPMは、機関の燃料に由来するものであり、基本的には燃料噴射量が多いほど前端面の詰まり量は多くなる。また、機関回転速度が高いほど単位時間当たりの排気の排出量が多くなってPMの排出量も増大するため、基本的には機関回転速度が高いほど前端面の詰まり量は多くなる。他方、吸入空気量が多いほど排気通路を流れる排気の流量は多くなるため、前端面からPMが吹き飛ばされやすくなる。従って、吸入空気量が多いほど前端面の詰まり量は少なくなる。そこで、同構成では、機関回転速度及び燃料噴射量に基づいて詰まり量の増加量を算出するとともに、吸入空気量に基づいて詰まり量の減少量を算出し、これら増加量と減少量との差を求めることで前端面でのPMの詰まり量を算出するようにしており、同構成によれば前端面の詰まり量を好適に推定することができるようになる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記増加量は、大気圧が低いほど多くされることをその要旨とする。
PMを構成する成分の1つである煤は、大気圧が低く酸素密度が低いほど機関から排出されやすい。そこで、同構成では、大気圧が低いほど、算出される詰まり量の増加量が多くなるようにしており、これにより詰まり量の増加量に対して大気圧が与える影響を好適に補正することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記減少量は、前記排気浄化部材の前端面の温度が高いほど多くされることをその要旨とする。
【0014】
前端面に付着したPMは、排気浄化部材の前端面の温度が高いほど酸化や焼失が促進されて量が減少していく。そこで、同構成では、排気浄化部材の前端面の温度が高いほど、算出される詰まり量の減少量が多くなるようにしており、これにより詰まり量の減少量に対して排気浄化部材の前端面温度が与える影響を好適に補正することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置において、機関回転速度が低いほど前記還流量の減少量は多くされることをその要旨とする。
【0016】
機関回転速度が低くなるにつれて内燃機関から排出される排気の量は減少するため、排気によって行われる前端面の詰まりを低減させる効果は小さくなってしまう。この点、同構成によれば、機関回転速度が低いほど排気還流量の減少量が多くされることにより、排気浄化部材に流れ込む排気の流量は多くなる。そのため、同構成によれば、機関回転速度に依らず前端面の詰まりを好適に低減させることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記詰まり量が多いときほど前記還流量の減少量は多くされることをその要旨とする。
【0018】
同構成によれば、詰まり量が多く、より多くのPMを吹き飛ばす必要があるときほど、排気浄化部材に流れ込む排気の流量は多くされる。従って、還流量の減少量を詰まり量に応じて適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置の一実施形態について、これが適用される内燃機関及びその周辺構成を示す概略図。
【図2】詰まり量の算出処理の手順を示すフローチャート。
【図3】機関回転速度及び燃料噴射量と基本詰まり量との関係を示すグラフ。
【図4】大気圧と基本詰まり量との関係を示すグラフ。
【図5】空気量比と空気量補正係数の関係を示すグラフ。
【図6】吸入空気量及び前端面温度と詰まり減少量との関係を示すグラフ。
【図7】詰まり量の低減処理の手順を示すフローチャート。
【図8】機関回転速度とEGR減少値との関係を示すグラフ。
【図9】詰まり量と詰まり補正係数との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明にかかる内燃機関の排気浄化装置をディーゼルエンジンの排気浄化装置に具体化した一実施形態について、図1〜図9を併せ参照して説明する。
図1に示すように、エンジン1には複数の気筒#1〜#4が設けられている。シリンダヘッド2には複数の燃料噴射弁4a〜4dが取り付けられている。これら燃料噴射弁4a〜4dは各気筒#1〜#4の燃焼室に燃料を噴射する。また、シリンダヘッド2には、外気を気筒内に導入するための吸気ポートと燃焼ガスを気筒外へ排出するための排気ポート6a〜6dとが各気筒#1〜#4に対応して設けられている。
【0021】
燃料噴射弁4a〜4dは、高圧燃料を蓄圧するコモンレール9に接続されている。コモンレール9はサプライポンプ10に接続されている。サプライポンプ10は燃料タンク内の燃料を吸入するとともにコモンレール9に高圧燃料を供給する。コモンレール9に供給された高圧燃料は、各燃料噴射弁4a〜4dの開弁時に同燃料噴射弁4a〜4dから気筒内に噴射される。
【0022】
吸気ポートにはインテークマニホールド7が接続されている。インテークマニホールド7は吸気通路3に接続されている。この吸気通路3内には吸入空気量を調整するための吸気絞り弁16が設けられている。
【0023】
排気ポート6a〜6dにはエキゾーストマニホールド8が接続されている。エキゾーストマニホールド8は排気通路26に接続されている。
排気通路26の途中には、排気成分を浄化する触媒装置30が設けられている。この触媒装置30の内部には、排気の流れ方向に対して直列に酸化触媒31及びフィルタ32が配設されている。
【0024】
酸化触媒31には、排気中のHCを酸化処理する触媒が担持されている。また、フィルタ32は、排気中のPM(粒子状物質)を捕集する部材であって、多孔質のセラミックで構成されており、排気中のPMは多孔質の壁を通過する際に捕集される。
【0025】
また、シリンダヘッド2には、酸化触媒31やフィルタ32に添加剤として燃料を供給するために燃料添加弁5が設けられている。この燃料添加弁5は、燃料供給管27を介して前記サプライポンプ10に接続されており、同燃料添加弁5からは第4気筒#4の排気ポート6d内に向けて燃料が噴射される。この噴射された燃料は、排気とともに酸化触媒31やフィルタ32に到達する。なお、燃料添加弁5の配設位置は、排気系にあって触媒装置30の上流側であれば適宜変更するも可能である。また、燃料添加弁5や燃料供給管27、サプライポンプ10は上記の添加剤供給機構を構成する。
【0026】
この他、エンジン1には排気還流機構(以下、EGR装置という)が備えられている。このEGR装置は、吸入空気に排気の一部を導入することで気筒内の燃焼温度を低下させてNOxの発生量を低減させる装置である。この装置は吸気通路3と排気通路26とを連通するEGR通路13、同EGR通路13に設けられたEGR弁15、EGRクーラ14等により構成されている。EGR弁15はその開度を調整することにより排気通路26から吸気通路3に導入される排気の還流量、すなわちEGR量EKを調整する。EGRクーラ14はEGR通路13内を流れる排気の温度を低下させる。またEGR弁15にはEGR弁開度センサ22が配設されており、このEGR弁開度センサ22によりEGR弁15の開度、すなわちEGR弁開度EAが検出される。EGR弁15の開度は、機関運転状態に基づいて設定されるEGR率に対応した開度となるように制御される。なお、EGR率が高いほどEGR弁15の開度は大きくされ、これによりEGR量EKは増大される。ちなみに、EGR率とは、「気筒内に流入するEGR量/(気筒内に流入する新気量+気筒内に流入するEGR量)」で求められる値である。
【0027】
また、エンジン1は排気圧を利用して気筒に導入される吸入空気を過給するターボチャージャ11を備えている。吸気側タービンと吸気絞り弁16との間の吸気通路3には、このターボチャージャ11の過給により温度が上昇する吸入空気の温度を低下させるため、インタークーラ18が備えられている。
【0028】
エンジン1には、機関運転状態を検出するための各種センサが取り付けられている。例えば、エアフロメータ19は吸気通路3内の吸入空気量GAを検出する。絞り弁センサ20は吸気絞り弁16の開度である絞り弁開度TAを検出する。酸化触媒31の排気下流側に設けられた第1温度センサ33は、酸化触媒31を通過した直後の排気の温度である第1排気温度Thiを測定する。酸化触媒31の排気下流側に設けられたフィルタ32の排気下流側に設けられた第2温度センサ34は、フィルタ32を通過した直後の排気の温度である第2排気温度Thoを検出する。機関回転速度センサ23はクランクシャフトの回転速度、すなわち機関回転速度NEを検出する。アクセルセンサ24はアクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセル操作量ACCPを検出する。空燃比センサ21は排気の空燃比λを検出する。
【0029】
これら各種センサの出力は制御装置25に入力される。この制御装置25は、中央処理制御装置(CPU)、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、タイマカウンタ、入力インターフェース、出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成されている。そして、この制御装置25により、例えば、燃料噴射弁4a〜4dの燃料噴射量制御や燃料噴射時期制御、サプライポンプ10の吐出圧力制御、吸気絞り弁16を開閉するアクチュエータ17の駆動量制御、EGR弁15の開度制御、燃料添加弁5の噴射制御等、エンジン1の各種制御が行われる。なお、この制御装置25は、排気還流機構による排気の還流量を機関運転状態に基づいて制御する上記制御部を構成する。また、上記フィルタ32に捕集されたPMを燃焼させるフィルタの再生処理等といった各種の排気浄化制御も同制御装置25によって行われる。
【0030】
フィルタ32の再生処理は周知であるため、以下では、その概要を説明する。この再生処理では、機関運転状態等に基づいてフィルタ32のPM堆積量が推定される。そして推定されたPM堆積量が所定の値を超えると、燃料添加弁5から添加剤として燃料が噴射される。この噴射された燃料は酸化触媒31で酸化され、この酸化熱によって排気が昇温される。酸化触媒31にて昇温された排気がフィルタ32に流れ込むと、同フィルタ32の温度上昇が促進されてPMの再生可能温度に達し、これによりフィルタ32に捕集されたPMは、酸化されたり燃焼されたりして減少していく。こうした昇温処理を通じてフィルタ32に捕集されたPMが減少していき、PM堆積量が所定の値にまで低下すると、燃料添加弁5からの燃料添加が終了されて、フィルタ32の再生処理は終了する。
【0031】
ところで、燃料添加弁5から噴射される添加剤は、酸化触媒31を通過する過程で酸化される。従って、酸化触媒31の前端面は比較的温度が低くなっている。そのため、一部の添加剤は燃焼や酸化反応等によって焼失されることなく、そのまま比較的温度の低い酸化触媒31の前端面に付着してしまうおそれがある。このように前端面に添加剤が付着すると、この添加剤がバインダとなってPM等を吸着し、酸化触媒31の前端面にPMによる詰まりを生じさせるおそれがある。
【0032】
このように酸化触媒31の前端面に詰まりが生じると、酸化触媒31における添加剤の通過領域が減少するため、酸化触媒31で酸化される添加剤の量が減少し、その結果酸化触媒31で酸化されることなくそのまま通過する添加剤の量が増加するようになる。このように酸化触媒31にて酸化されることなく通過する添加剤の量が増加すると、フィルタ32に流れ込む排気の昇温が不足するようになり、フィルタ32の再生処理が滞ってしまう。
【0033】
また、酸化触媒31の前端面に詰まりが生じると、酸化触媒31を通過する排気の流れに偏流が生じ易くなり、その結果、酸化触媒31の排気下流側に設けられる第1温度センサ33に排気が当たりにくくなるおそれもある。このように第1温度センサ33に排気が当たりにくくなると、同第1温度センサ33にて検出される排気の温度が不正確になるため、例えば、再生処理中に行われる排気温度制御に対して悪影響を与える可能性もある。
【0034】
そこで、本実施形態では、以下に説明する詰まり量の算出処理及び低減処理の実行を通じて、酸化触媒31の前端面におけるPMの詰まりを低減するようにしている。
図2に、酸化触媒31の前端面における詰まり量Mの算出処理についてその手順を示す。この処理は制御装置25によって所定周期毎に繰り返し実行される。
【0035】
本処理が開始されるとまず、機関回転速度NE、燃料噴射量Q、及び大気圧Pに基づいて詰まり量Mの基本値である基本詰まり量Mbが算出される(S100)。ここでは、図3に示すように、機関回転速度NEが高いほど、あるいは燃料噴射量Qが多いほど、基本詰まり量Mbは大きい値となるように算出される。また、機関回転速度NE及び燃料噴射量Qが同一であっても、図4に示すように、大気圧Pが低いほど、基本詰まり量Mbは大きい値となるように算出される。
【0036】
次に、空気量比GAHに基づいて空気量補正係数Kaが算出される(S110)。この空気量比GAHは、「吸入空気量GA/目標空気量GAp」で求められる値である。つまり、機関運転状態に基づいて設定される目標空気量GApに対する現状の吸入空気量GAの割合を示す値である。従って、機関定常時などのように吸入空気量GAと目標空気量GApとが一致しているときには空気量比GAHは「1」となる。また、機関過渡時などのように吸入空気量GAが目標空気量GApよりも少ないときには空気量比GAHは「1」よりも小さい値になる。そして図5に示すように、空気量比GAHが小さい、つまり目標空気量GApに対して吸入空気量GAが不足しているときほど、空気量補正係数Kaは大きい値に設定される。
【0037】
次に、基本詰まり量Mbに空気量補正係数Kaが乗算されることによって、詰まり増加量Miが算出される(S120)。この詰まり増加量Miは、前回の本処理実行周期から今回の本処理実行周期の間で増加した詰まり量Mとして算出される。
【0038】
次に、吸入空気量GA及び前端面温度Thmに基づいて詰まり減少量Mdが算出される(S130)。前端面温度Thmは、酸化触媒31の前端面の温度であり、第1温度センサ33によって検出される第1排気温度Thiから推定される。なお、酸化触媒31の前端面近傍に温度センサを設けて前端面温度Thmを直接測定するようにしてもよい。また、詰まり減少量Mdは、前回の本処理実行周期から今回の本処理実行周期の間で減少した詰まり量Mとして算出される。そして、図6に示すように、吸入空気量GAが多いほど、あるいは前端面温度Thmが高いほど、詰まり減少量Mdは大きい値となるように算出される。
【0039】
次に、今回の本処理実行周期における詰まり量Mが算出されて(S140)、本処理は一旦終了される。このステップS140では、前回の本処理実行周期において算出された詰まり量Mに対して、上記ステップS120で算出された詰まり増加量Miを加算すると共に上記ステップS130で算出された詰まり減少量Mdを減算することによって、今回の本処理実行周期における詰まり量Mが算出される。
【0040】
次に、図7を参照して、詰まり量の低減処理の手順を説明する。なお、この低減処理も制御装置25によって所定周期毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されとまず、上述した算出処理で求められた詰まり量Mが閾値αを超えているか否かが判定される(S200)。この閾値αは、現在の詰まり量Mが上述したような不都合を起こす程度の値になっているか否かを判定するための値である。そして、詰まり量Mが閾値α以下のときには(S200:NO)、本処理は一旦終了される。このようにステップS200で否定判定されたときには、機関運転状態(例えば機関回転速度及び機関負荷)に基づいて基本EGR率Ebが設定され、この基本EGR率Ebに応じて目標EGR率Epが設定されることでEGR弁15の開度が制御される。なお、基本EGR率Ebは、機関運転状態が高負荷高回転になるほど小さい値に設定される。
【0041】
一方、詰まり量Mが閾値αを超えているときには(S200:YES)、前端面の詰まりによる不都合が生じる可能性があるため、そうした詰まりを低減するためにステップS210以降の処理が行われる。
【0042】
ステップS210では、機関回転速度NEに基づいてEGR減少値Edが算出される。ここでは、図8に示すように、機関回転速度NEが高いほどEGR減少値Edは大きい値に設定される。
【0043】
次に、詰まり量Mに基づいて詰まり補正係数Kcが算出される(S220)。ここでは、図9に示すように、詰まり量Mが所定の量M1に達するまでは、詰まり補正係数Kcは、詰まり量Mの増加に合わせて「1」に向けて増大されていく。そして、詰まり量Mが所定の量M1に達した以降は、詰まり補正係数Kcは「1」に固定される。
【0044】
次に、EGR補正値Hが算出される(S230)。ここでは、上記ステップS210で算出されたEGR減少値Edに対して上記ステップS220で算出された詰まり補正係数Kcが乗算されることによってEGR補正値Hが算出される。従って、機関回転速度NEが高いほどEGR補正値Hは大きい値に設定される。また、詰まり量Mが上記所定の量M1に達するまでは、詰まり量Mの増加に合わせてEGR補正値Hは大きい値に設定される。そして、詰まり量Mが上記所定の量M1に達した以降は、EGR減少値EdがそのままEGR補正値Hとされる。
【0045】
次に、上述した基本EGR率Eb、EGR補正値Hに基づいて目標EGR率Epが算出される(S240)。このステップS240では、基本EGR率EbからEGR補正値Hを減算した値が目標EGR率Epとされる。従って、EGR補正値Hが大きい値のときほど目標EGR率Epは小さい値となり、EGR量EKは少なくなる。このようにEGR量EKが少なくなくなると、吸気通路に戻される排気の量が少なくなるため、酸化触媒31に流入する排気の流量が増えるようになる。
【0046】
次に、本実施形態の作用を説明する。
図7のステップS200にて、詰まり量Mが閾値αを超えていないと判定される場合には、基本EGR率Ebに応じた目標EGR率Epが設定される。一方、ステップS200にて、詰まり量Mが閾値αを超えて多くなったと判定される場合には、ステップS240にて、基本EGR率EbからEGR補正値Hを減算した値が目標EGR率Epとされる。従って、詰まり量Mが閾値αを超えたときには、詰まり量Mが閾値αを超えていない場合と比較して、目標EGR率Epが小さくされる。このように目標EGR率Epが小さくされると、排気の還流量が減少することにより、酸化触媒31に流入する排気の流量が増大するようになる。このように排気の流量が増大すると、排気の流速が高まるため、酸化触媒31の前端面に詰まったPMは排気の動圧によって吹き飛ばされるようになる。従って、酸化触媒31の前端面におけるPMの詰まりが低減するようになる。
【0047】
なお、排気を高温化することによって酸化触媒31の前端面における詰まりを低減させることも可能である。しかし、こうした排気の高温化は常に行えるものではなく、例えば排気温度が比較的低い機関の低負荷時などでは、排気の高温化が困難であるため、前端面の詰まりを低減させる処理についてその実行機会はある程度限定されてしまう。一方、本実施形態では、排気の流量を増大させるようにしており、こうした処理は機関の低負荷時などであっても実行可能である。従って、前端面の詰まりを低減させる処理についてその実行機会を増加させることも可能になる。
【0048】
また、EGR量EKを減少させることで、酸化触媒31に流れ込む排気の流量を増加させるようにしている。そのため、排気流量を増加させるためだけの機構を別途設けることなく、前端面の詰まりを低減させることができる。
【0049】
また、酸化触媒31の前端面に詰まりを生じさせるPMは、機関の燃料に由来するものであり、基本的には燃料噴射量Qが多いほど前端面の詰まり量は多くなる。また、機関回転速度NEが高いほど単位時間当たりの排気の排出量が多くなってPMの排出量も増大するため、基本的には機関回転速度が高いほど前端面の詰まり量は多くなる。他方、吸入空気量GAが多いほど排気通路26を流れる排気の流量は多くなるため、前端面からPMが吹き飛ばされやすくなる。従って、吸入空気量GAが多いほど前端面の詰まり量は少なくなる。そこで、本実施形態では、機関回転速度NE及び燃料噴射量Qに基づいて詰まり増加量Miを算出するとともに、吸入空気量GAに基づいて詰まり減少量Mdを算出し、これら詰まり増加量Miと詰まり減少量Mdとの差を求めることで前端面でのPMの詰まり量Mを算出するようにしている。従って、前端面の詰まり量Mを好適に推定することができる。
【0050】
また、PMを構成する成分の1つである煤は、大気圧が低く酸素密度が低いほど機関から排出されやすい。そこで、大気圧Pが低いほど基本詰まり量MBが大きくなるようにすることで、詰まり増加量Miが多くなるようにしている。そのため、詰まり増加量Miに対して大気圧Pが与える影響を適切に補正することができる。
【0051】
また、上記空気量比GAHが小さい、つまり目標空気量GApに対して吸入空気量GAが不足しているときほど、煤が発生し易く、詰まり量Mは増加し易くなる。そこで、空気量比GAHが小さいときほど空気量補正係数Kaが大きくなるようにすることで、ステップS120にて算出される詰まり増加量Miが増大するようにしている。従って、目標空気量GApに対して吸入空気量GAが不足しやすい機関過渡時での詰まり増加量Miの推定精度が向上するようになる。
【0052】
また、前端面に付着したPMは、酸化触媒31の前端面の温度が高いほど酸化や焼失が促進されて量が減少していく。そこで、本実施形態では、酸化触媒31の前端面温度Thmが高いほど、算出される詰まり減少量Mdが大きくなるようにしている。そのため、詰まり減少量Mdに対して前端面温度Thmが与える影響を適切に補正することができる。
【0053】
また、機関回転速度NEが低くなるにつれてエンジン1から排出される排気の量は減少するため、排気によって行われる前端面の詰まりを低減させる効果は小さくなってしまう。この点、本実施形態では、機関回転速度NEが低いほどEGR減少値Edが大きい値となるようにすることで、排気還流量の減少量が多くなるようにしており、これにより酸化触媒31に流れ込む排気の流量が多くなる。そのため、機関回転速度NEに依らず前端面の詰まりを適切に低減させることができる。
【0054】
また、詰まり量Mが多いときほど詰まり補正係数Kcを大きくすることで、EGR補正値Hがより大きい値となるようにしており、これにより目標EGR率Epが小さくなってEGR量EKが少なくなるようにしている。つまり、詰まり量Mが多いときほど排気還流量(EGR量EK)の減少量が多くなるようにしている。従って、詰まり量Mが多く、より多くのPMを吹き飛ばす必要があるときほど、酸化触媒31に流れ込む排気の流量は多くされる。このように排気還流量の減少量を詰まり量Mに応じて適切に設定することができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)酸化触媒31の前端面の詰まり量Mが閾値αを超えたときには、EGR量EKを減少させるようにしている。
【0056】
従って、酸化触媒31の前端面におけるPMの詰まりを好適に低減することができるようになる。また、詰まりを低減させる処理の実行機会を増加させることも可能になる。そして、排気流量を増加させるためだけの機構を別途設けることなく、酸化触媒31の前端面の詰まりを低減させることができる。
【0057】
(2)機関回転速度NE及び燃料噴射量Qに基づいて算出される詰まり増加量Miと、吸入空気量GAに基づいて算出される詰まり減少量Mdとの差を求めることで詰まり量Mを算出するようにしている。そのため、前端面の詰まり量Mを好適に推定することができるようになる。
【0058】
(3)大気圧Pが低いほど詰まり増加量Miが多くなるようにしている。そのため、詰まり量Mの増加量に対して大気圧Pが与える影響を好適に補正することができる。
(4)酸化触媒31の前端面温度Thmが高いほど詰まり減少量Mdが多くなるようにしている。そのため、詰まり量Mの減少量に対して酸化触媒31の前端面温度Thmが与える影響を好適に補正することができる。
【0059】
(5)機関回転速度NEが低いほどEGR減少値Edが大きくなるようにしている。そのため、機関回転速度NEに依らず前端面の詰まりを好適に低減させることができる。
(6)詰まり量Mが多いときほど詰まり補正係数Kcが大きくなるようにすることで、詰まり量Mが多いときほどEGR量EKの減少量が多くなるようにしている。従って、EGR量EKの減少量を詰まり量Mに応じて適切に設定することができる。
【0060】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記ステップS210では、機関回転速度NEに基づいてEGR減少値Edを算出するようにした。ここで、一般的には燃料噴射量が少ないとき、すなわち機関負荷が低くときにはEGR量EKは多くされることが多い。そのため、EGR量EKを減少させるEGR減少値Edは、機関負荷が低いときほど大きくすることが可能である。そこで、EGR減少値Edを設定するときのパラメータとして、機関回転速度NEに加え、機関負荷を追加してもよい。この場合には、機関負荷が低いほど(例えば燃料噴射量Qが少ないときほど)EGR減少値Edが大きい値となるようにする。この変形例によれば、機関回転速度NEのみに基づいてEGR減少値Edを算出する場合と比較して、より多くの排気を酸化触媒31に導入することができる。
【0061】
・詰まり量Mを別の態様で求めるようにしてもよい。例えば、酸化触媒31の排気上流側と排気下流側の圧力差を計測し、この圧力差が大きいほど詰まり量が多いと推定してもよい。
【0062】
・詰まり増加量Miを、機関回転速度NE及び燃料噴射量Q及び大気圧Pで求めるようにしたが、大気圧Pを省略して機関回転速度NE及び燃料噴射量Qにて求めるようにしてもよい。
【0063】
・詰まり減少量Mdを、吸入空気量GA及び前端面温度Thmに基づいて求めるように下が、前端面温度Thmを省略して吸入空気量GAのみから求めるようにしてもよい。
・EGR減少値Edを機関回転速度NEに基づいて可変設定するようにしたが、適宜設定した一定値としてもよい。
【0064】
・詰まり量Mが所定の量M1を超えた後は、詰まり補正係数Kcの値を固定するようにしたが、詰まり量Mの増加に合わせて詰まり補正係数Kcを増大させるようにしてもよい。
【0065】
・詰まり補正係数Kcの算出を省略してもよい。
・空気量補正係数Kaの算出を省略してもよい。
・フィルタ32の昇温を図るための燃料を燃料添加弁5から供給するようにした。この他、燃料噴射弁4a〜4dによるポスト噴射(メイン噴射の実行時期から遅れた時期に再度行われる燃料噴射)を実行することで、フィルタ32の昇温を図るようにしてもよい。また、燃料添加弁5による燃料供給とポスト噴射による燃料供給と併用するようにしてもよい。
【0066】
・上記添加剤はエンジン1の燃料であったが、これと同様な作用が得られる添加剤であればどのようなものでもよい。
・触媒装置30内に配設される触媒やフィルタの数は任意にすることができる。例えば、フィルタ32のみを備えている場合でも、その前端面には添加剤添加による詰まりが生じるおそれがある。しかし、本発明を適用することによって、フィルタ32のみを備えている場合でも、その前端面の詰まりを低減させることができる。
【0067】
・酸化触媒31の代わりにNOx浄化触媒を備えるようにしてもよい。
・上記エンジン1は、直列4気筒の内燃機関であったが、その他の気筒数や気筒配列を備える内燃機関の排気浄化装置にも、本発明は同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1…エンジン、2…シリンダヘッド、3…吸気通路、4a〜4d…燃料噴射弁、5…噴射ノズル、6a〜6d…排気ポート、7…インテークマニホールド、8…エキゾーストマニホールド、9…コモンレール、10…サプライポンプ、11…ターボチャージャ、13…EGR通路、14…EGRクーラ、15…EGR弁、16…スロットル弁、17…アクチュエータ、18…インタークーラ、19…エアフロメータ、20…スロットル開度センサ、21…空燃比センサ、22…EGR弁開度センサ、23…機関回転速度センサ、24…アクセルセンサ、25…制御装置、26…排気通路、27…燃料供給管、30…触媒装置、31…酸化触媒、32…フィルタ、33…第1温度センサ、34…第2温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に設けられた排気浄化部材と、同排気浄化部材に添加剤を供給する添加剤供給機構と、排気を吸気通路に還流させる排気還流機構と、同排気還流機構による排気の還流量を機関運転状態に基づいて制御する制御部とを備える内燃機関の排気浄化装置において、
前記排気浄化部材の前端面の詰まり量が予め定められた閾値を超えたときには、前記詰まり量が前記閾値を超えていないときに比して前記還流量を減少させる
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記詰まり量は、機関回転速度及び燃料噴射量に基づいて算出される詰まり量の増加量と、吸入空気量に基づいて算出される詰まり量の減少量との差を求めることで算出される
請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記増加量は、大気圧が低いほど多くされる
請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記減少量は、前記排気浄化部材の前端面の温度が高いほど多くされる
請求項2または3に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
機関回転速度が高いほど前記還流量の減少量は少なくされる
請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記詰まり量が多いときほど前記還流量の減少量は多くされる
請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−2388(P2013−2388A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135388(P2011−135388)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】