説明

内燃機関の潤滑装置

【課題】内燃機関の潤滑装置に備えられたイオン交換樹脂等の反応体の温度を調整する。
【解決手段】本発明に係る内燃機関10の潤滑装置1は、オイル中から所定の成分を除去するように該所定の成分を吸着する機能を有する反応体を含む除去装置44と、除去装置44に対して、オイルパン36から吸引された後にオイルクーラー24を経ていない第1オイルおよびオイルパン36から吸引された後にオイルクーラー24を経た第2オイルを供給するように構成された供給装置49であって、第1オイルおよび第2オイルの少なくとも一方の温度に応じて、第1オイルの供給量と第2オイルの供給量とを制御する、供給装置49とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルが循環するように構成された内燃機関の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、内燃機関の潤滑システム内で使用する化学フィルタを開示する。特許文献1の記載によれば、この化学フィルタは、内燃機関潤滑システム内のオイルフィルタのハウジング内に使用されるか、またはそのオイルフィルタのバイパス部分に使用され、イオン交換材料を有することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−540123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、イオン交換材料であるイオン交換樹脂は、吸着機能を良好に発揮する温度域を有する。それ故、イオン交換樹脂の温度をそのような温度域内に維持するようにイオン交換樹脂の温度制御を行うことが望まれる。
【0005】
そこで、本発明はかかる点に鑑みて創案されたものであり、その目的は、内燃機関の潤滑装置に備えられるイオン交換樹脂等の反応体の温度を好適に調整することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、オイル中から所定の成分を除去するように該所定の成分を吸着する機能を有する反応体を含む除去装置と、該除去装置に対して、オイルクーラーを経ていない第1オイルを供給すると共にオイルクーラーを経た第2オイルを供給するように構成された供給装置であって、前記第1オイルおよび前記第2オイルの少なくとも一方の温度に応じて、前記第1オイルの供給量と前記第2オイルの供給量とを制御する、供給装置とを備えた、内燃機関の潤滑装置を提供する。なお、供給装置は、反応体の温度を調整するように、第1オイルおよび前記第2オイルの少なくとも一方の温度に応じて、第1オイルの供給量と第2オイルの供給量とを制御するとよい。
【0007】
供給装置は、第1オイルの供給量を制御するための第1弁と、第2オイルの供給量を制御するための第2弁と、第1オイルおよび第2オイルの少なくとも一方の温度に応じて、第1弁および第2弁の作動を制御するための制御手段とを備えるとよい。
【0008】
除去装置に形成された第1オイルが出入可能な第1室と第2オイルが出入可能な第2室とは隔てられていて、第1室および第2室の各々に、所定の成分を吸着する機能を有する反応体が配置されているとよい。この場合、第1室と第2室とは互いに熱伝達可能に構成されているとよい。
【0009】
または、除去装置内で第1オイルと第2オイルとが混合可能なように、除去装置は構成されているとよい。
【0010】
または、第1オイルを除去装置に供給するための第1オイル供給通路と、第2オイルを除去装置に供給するための第2オイル供給通路とは、除去装置の上流側で合流するとよい。
【0011】
本発明は、そのような潤滑装置を備えた内燃機関を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態が適用された内燃機関の概念図である。
【図2】図1の内燃機関の潤滑装置の第1弁および第2弁の制御を説明するために用いられるグラフであり、イオン交換樹脂の温度とイオン交換樹脂のイオン吸着効率との関係を概念的に表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0014】
潤滑装置1を備えた内燃機関(以下、エンジン)10には図示しないウォータジャケットが形成されている。このウォータジャケットのジャケット入口12とジャケット出口14とは、冷却水路16および電動ファン18にて冷却されるラジエータ20により相互に接続されて冷却水の循環路を形成している。また、ジャケット入口12側にはウォータポンプ22が設けられている。エンジン10の運転時、冷却水は、ウォータポンプ22により圧送され、ウォータジャケット内を循環してエンジン10を冷却し、冷却水路16およびラジエータ20内を流通して放熱され、再びウォータジャケット内に導入されている。また、この冷却水は潤滑装置1のオイルクーラー24にも供給され、エンジンオイルを冷却する。
【0015】
潤滑装置1にはオイルポンプ26が配設されている。オイルポンプ26の吸込側はストレーナ28に接続されている。オイルポンプ26の吐出側はリリーフ弁30の他、オイルフィルタ32を介してエンジン10内に形成された油路34に接続されている。
【0016】
より具体的には、この潤滑装置1はオイル溜部としてのオイルパン36を備え、オイルパン36には油路34に供給されるエンジンオイルが貯留されている。このエンジンオイルは、オイルポンプ26によりオイルパン36からストレーナ28を介して吸引され、オイルフィルタ32に圧送される。
【0017】
オイルフィルタ32の下流側には、上記オイルクーラー24を介してオイルフィルタ32からのエンジンオイルが油路34に供給されるようにメイン通路38が形成されている。メイン通路38には、それぞれメイン通路38から分岐してメイン通路38に戻る第1オイル通路40および第2オイル通路42が形成されている。第1オイル通路40は、オイルフィルタ32とオイルクーラー24との間にオイルクーラー24よりも上流側に延びるメイン通路38の上流側メイン通路38aから分岐すると共に上流側メイン通路38aに合流するように延びている。第2オイル通路42は、オイルクーラー24よりも下流側に延びるメイン通路38の下流側メイン通路38bから分岐すると共に下流側メイン通路38bに合流するように延びている。したがって、第1オイル通路40にはオイルパン36から吸引された後にオイルクーラー24を経ていないオイル(以下、第1オイルと称し得る。)が流れることができ、また、第2オイル通路42にはオイルパン36から吸引された後にオイルクーラー24を経たオイル(以下、第2オイルと称し得る。)が流れることができる。そして、このような第1オイル通路40および第2オイル通路42は、それぞれ、除去装置44内に延びるように形成されている。
【0018】
第1オイル通路40へのオイルの流れを調節するために、つまり、除去装置44への第1オイルの供給量を調節するために、除去装置44に向けて延びる第1オイル通路40の第1オイル供給通路40aに、ここでは制御弁である第1弁46が設けられている。また、第2オイル通路42へのオイルの流れを調節するために、つまり、除去装置44への第2オイルの供給量を調節するために、除去装置44に向けて延びる第2オイル通路42の第2オイル供給通路42aに、ここでは制御弁である第2弁48が設けられている。なお、第1弁46、第2弁48、およびこれらの作動を制御するための制御手段の機能を有する後述するECUの一部は、除去装置44に対して第1オイルおよび第2オイルを供給するように構成された供給装置49に含まれる。
【0019】
メイン通路38は、油圧調整用のレギュレータ弁50を介して油路34に接続されている。このように、エンジン10の運転時のエンジンオイルは、ストレーナ28を経てオイルポンプ26に吸い上げられ、オイルフィルタ32およびオイルクーラー24に至る。そして、エンジンオイルの一部は、第1弁46、第2弁48の作動により、第1オイル通路40や第2オイル通路42に流れてから油路34に流通する。油路34に至ったオイルは、エンジン10内の図示しないピストンやジャーナル部等を潤滑し、その後にオイルパン36に戻される。例えば、シリンダヘッドに圧送されたオイルは、シリンダブロックとシリンダヘッドに形成された、ヘッドカバー内とクランクケース内つまりオイルパン36内とを連通する図示しないオイル落とし通路(オイル戻し孔)を介して、オイルパン36に戻される。このようなオイル落とし通路は、具体的に説明すると、動弁系の潤滑を終えたオイルをシリンダヘッドからオイルパン内へ向けて落とす(戻す)ための通路であると同時に、クランクケース内のブローバイガスをヘッドカバー内に向けて上昇移動させるための通路である。
【0020】
ここで、ブローバイガスとは、ピストンのピストンリングと、シリンダブロックのシリンダボアとの隙間からクランクケース内へ漏れ出るガスのことである。このブローバイガスは多量の炭化水素や水分を含み得る。このため、ブローバイガスがあまりに多いとそれはエンジンオイルの早期劣化やエンジン内部の錆の原因になる。また、ブローバイガスには炭化水素が含まれているため、それをこのまま大気に解放することは環境上好ましくない。そのため、エンジン10は、既知のブローバイガス環流装置(不図示)を備えている。ブローバイガスは、上記したように、上記オイル落とし通路を通して、クランクケース内からヘッドカバー内に向けて上昇移動させられる。そして、ブローバイガスは、ヘッドカバー内に導入された後、吸気負圧を利用してブローバイガス還流装置のPCV通路等を通じて強制的に吸気通路へ戻され、燃焼室に供給される。
【0021】
また、エンジン10のヘッドカバー内には、ブローバイガスからオイルを分離するためのオイルセパレータ室が区画形成されている。ブローバイガスは、上記したような燃料成分である炭化水素、水分を含む以外に、クランクケース内のオイルの攪拌、蒸発によって生成された気体としてのオイルミストを含んでいる。このため、単にブローバイガスを吸気側に環流させるだけだとオイルも同時に燃焼されてしまい、オイルの消費量が多くなると同時に、オイル燃焼による白煙が生じて問題となる。そこで、ヘッドカバー内には、既知の構成のオイルセパレータ室が形成されている。オイルセパレータ室は、例えば、部分的にまたは全体的にバッフルプレートによって区画形成される。このオイルセパレータ室にブローバイガスを通すことにより、ブローバイガスを吸気系に戻す前にブローバイガスからオイルを分離して回収することを可能にし、そのような問題を解消可能にしている。なお、オイルセパレータ室は、ヘッドカバー以外の箇所に設けられることができる。
【0022】
ところで、そのようなブローバイガスには既燃焼ガスに含まれるNOxおよび水分が含まれている。そして、ヘッドカバーがエンジンからの熱を伝達されづらくかつその外面が外気に晒されて冷却風等によって冷却されるので、ヘッドカバーの内面には結露等による凝縮水が生じやすい。よって、ヘッドカバー内には、それらの反応により、酸性物質、例えば硝酸ができ易い。このような酸性物質は、潤滑油つまりエンジンオイルに混ざり得、エンジン内部におけるスラッジの発生、付着、堆積を促し得る。
【0023】
そこで、そのような酸性物質つまり酸性成分をオイル中から除去するべく、潤滑装置1は上記除去装置44を備える。除去装置44は、ケース部材44cと、その中に入れられたイオン交換樹脂とを備える。なお、除去装置44は、ここではクランクケース内に位置付けられるが、エンジン10内外の種々の箇所に位置付けられ得る。
【0024】
ケース部材44cは、第1室44aと第2室44bとを除去装置44の内部に隔てて形成するように構成されている。図示しないが、第1室44aと第2室44bとは相互に熱伝達可能に構成されていて、例えばフィンである熱伝達部材が第1室44aおよび第2室44bの間の間仕切部44dに備えられている。なお、第1室44aと第2室44bとは間仕切部44dによりオイルが互いに流れ込まないように隔てられている。第1室44aは第1オイルが出入可能なように第1オイル通路40の途中に位置付けられ、第2室44bは第2オイルが出入可能なように第2オイル通路42の途中に位置付けられている。ここでは、第1室44aは第1オイル通路40に含まれ得、第2室44bは第2オイル通路42に含まれ得る。第1室44aおよび第2室44bの各々に同種のイオン交換樹脂が配置されている。なお、第1室44aおよび第2室44bのそれぞれからイオン交換樹脂が流出しないように、ここでは、第1室44aおよび第2室44bのそれぞれは金網部材を備えている。
【0025】
除去装置44のイオン交換樹脂は、反応体であり、所定のイオン(イオン成分)を吸着する機能を有する。換言すると、所定のイオンを除去するべく、そのような所定のイオンを吸着する機能を除去装置44のイオン交換樹脂は有する。なお、イオン交換樹脂は、所定のイオンを吸着し、その代わりに、別のイオンを放出する機能を有する。ここでは、イオン交換樹脂としてアニオン性イオン交換樹脂が用いられ、除去装置44のイオン交換樹脂はこれからなる。なお、イオン交換樹脂としては、例えば、三菱化学社製ダイヤイオン(登録商標)シリーズのイオン交換樹脂、ローム・アンド・ハース社製アンバーライト(登録商標)シリーズのイオン交換樹脂がある。
【0026】
ここでは、具体的に、ブローバイガス中のNOxと水とにより生じ得る硝酸イオン(NO3-)のオイル中からの除去を図るべく、硝酸イオンを吸着する機能を有するアニオン性イオン交換樹脂が用いられる。このようなアニオン性イオン交換樹脂は、その陰イオンを吸着し、代わりに、例えば水酸化物イオンを放出する機能を有する。なお、このようなイオン交換樹脂は、繊維状、ビーズ状(球状)または膜状の種々の形状を有し得る。
【0027】
エンジン10は、各種制御手段ないしは制御装置の機能を有するECU54を備えている。ECU54には、図示しない入出力装置、多数の制御プログラムを内蔵した記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、CPUやタイマカウンタ等が備えられている。ECU54により、除去装置44へのオイルの供給制御を含めたエンジン10の総合的な制御が行われる。
【0028】
ECU54には種々のセンサ等が接続されている。例えば、ECU54には第1オイルの温度を検出するために第1温度センサ(第1温度検出手段)56から検出信号が出力される。また、ECU54には第2オイルの温度を検出するために第2温度センサ(第2温度検出手段)58から検出信号が出力される。また、ECU54には、図示しないが、エンジン回転速度を検出するためにエンジン回転速度センサから検出信号が出力され、エンジン負荷を検出するためにエンジン負荷センサから検出信号が出力される。
【0029】
そして、ECU54は上記各種センサ等の出力信号に基づいて、特に第1温度センサ56および第2温度センサ58の出力信号に基づいて、第1弁46および第2弁48の作動を制御する。つまり、ECU54は、第1オイルおよび第2オイルの両方の温度に応じて、除去装置44に対する第1オイルの供給量と第2オイルの供給量とを制御できる。なお、第1弁46および第2弁48の各々は、初期状態では、閉じられている。
【0030】
第1弁46および第2弁48の作動制御に関して図2を用いて説明する。図2には、除去装置44のイオン交換樹脂の温度Tと、該イオン交換樹脂のイオン吸着効率ηとの関係が概念的に表されている。イオン交換樹脂は、耐用温度Tmaxを有し、また、その温度が所定温度域にあるとき、その機能、特に吸着機能を好適に発揮する。イオン交換樹脂のそのような所定温度域は第1温度T1以上、第2温度T2以下の温度域である。ここでは、イオン交換樹脂が十分にその吸着機能を発揮する温度域、具体的には所定吸着効率η1以上の吸着効率を発揮する温度域が、所定温度域として定められている。つまり、その所定温度域は、イオン交換樹脂の温度特性を考慮して設定されている。所定吸着効率η1は、種々設定され得、例えば最大の吸着効率ηmaxに対して90%の吸着効率である。好ましくは、その所定温度域は、除去装置44のイオン交換樹脂が上記最大吸着効率ηmaxに対して70%以上の吸着効率を発揮する温度域にされるとよい。
【0031】
ECU54は、除去装置44のイオン交換樹脂の温度Tを上記所定温度域に上昇させてそこに維持するように、つまりイオン交換樹脂の温度Tを調整するように、以下で説明するように、第1弁46および第2弁48の作動をそれぞれ制御する。
【0032】
ECU54は、第1オイルの温度Toil1が第1温度T1以上、第2温度T2以下であり、かつ、第2オイルの温度Toil2が第1オイルの温度Toil1未満のとき、第1弁46を開き、第2弁48を閉じるように作動信号を出力する。なお、具体的には、ECU54は、第1弁46を開くように第1弁46のアクチュエータを作動させるための作動信号を出力し、第2弁48を閉じるように第2弁48のアクチュエータを作動させるための作動信号を出力する。
【0033】
また、ECU54は、第2オイルの温度Toil2が第1温度T1以上、第2温度T2未満であり、かつ、第1オイルの温度Toil1が第2温度T2よりも高いとき、以下に示すように第1オイルの温度Toil1および第2オイルの温度Toil2の関係に応じてそれら弁46、48の作動を制御する。予め実験により定められているデータや予め定められている演算式を用いて、ECU54は、第1オイルの温度Toil1および第2オイルの温度Toil2の関係が、イオン交換樹脂の温度を第1温度T1以上かつ第2温度T2以下に維持できる関係であると判断した場合、第1弁46および第2弁48を開くように作動信号を出力する。他方、予め実験により定められているデータや予め定められている演算式を用いて、ECU54は、第1オイルの温度Toil1および第2オイルの温度Toil2の関係が、イオン交換樹脂の温度を第2温度T2以上にまで高める可能性のある関係であると判断した場合、第1弁46を閉じて第2弁48を開くように作動信号を出力する。
【0034】
このように、ECU54は、オイルクーラー24を未だ経ていない第1オイルの温度とオイルクーラー24を経た第2オイルの温度とに応じて第1弁46および第2弁48の作動を制御することで、除去装置44への第1オイルと第2オイルとの供給を制御する。これにより、除去装置44のイオン交換樹脂の温度は調整され、上記所定温度域に上昇させられると共にその温度域に維持され得る。故に、除去装置44でより適切にオイル中から上記した所定の成分を除去し、オイルの劣化を抑制できる。
【0035】
また、エンジン冷間始動時等には、特に、イオン交換樹脂の暖機を行うことが求められる。そのようなときには以下に説明するように相対的に温度の高い一方のオイルを用いるように第1弁46および第2弁48の作動を制御することで除去装置44のイオン交換樹脂の暖機が図られる(イオン交換樹脂の温度を上記所定温度域に高めて維持することが促される)。具体的には、第1オイルおよび第2オイルの一方の温度が例えば25%であるイオン吸着効率η3に対応する第3温度T3以上、第1温度T1未満のとき、次のように弁46、48を制御することで、イオン交換樹脂の暖機が図られる。例えば、エンジンオイルの温度が概して冷却水の温度よりも低く、第1オイルの温度Toil1が第3温度T3未満であり、第2オイルの温度Toil2が第3温度T3以上かつ第1温度T1未満のとき、第1弁46が閉じられ、第2弁48が開かれる。これに対して、第2オイルの温度Toil2が第3温度T3未満であり、第1オイルの温度Toil1が第3温度T3以上かつ第1温度T1未満のとき、第1弁46が開かれ、第2弁48が閉じられる。
【0036】
ただし、エンジンオイルの温度が除去装置44でのオイル中の所定の成分の除去を阻害する温度域にあるときには、積極的に、第1弁46および第2弁48が閉じられる。具体的には、第1オイルおよび第2オイルの両温度が第3温度T3未満の場合、ECU54は、積極的に、第1弁46および第2弁48を共に閉じるように作動信号を出力する。これは、そのようなオイルを除去装置44に供給した場合、イオン交換樹脂が冷やされ、イオン交換樹脂の温度を上記所定温度域に高めて維持することを阻害する可能性があるからである。また、第1オイルおよび第2オイルの両温度が第2温度T2を超えている場合には、ECU54は、積極的に、第1弁46および第2弁48を共に閉じるように作動信号を出力する。これは、そのようなオイルを除去装置44に供給した場合、イオン交換樹脂は過熱され、イオン交換樹脂の温度をその耐用温度Tmax以上に高める虞があるからである。
【0037】
以上、本発明を一実施形態に基づいて説明したが、種々の変更が可能である。除去装置への第1オイルの供給時期および供給タイミング、並びに、除去装置への第2オイルの供給時期および供給タイミングは、上記説明に限定されず、除去装置のイオン交換樹脂の温度を上記所定温度域に高めてそこに維持するように様々にされ得る。また、例えば、上記実施形態では、第1弁および第2弁は単に開閉されたが、全開、全閉以外の中間開度に開かれることも可能である。
【0038】
また、例えば、第1オイルの温度や第2オイルの温度は温度センサを用いずに、エンジン負荷またはエンジン運転状態に基づいて、推定可能である。また、上記実施形態では第1オイルの温度および第2オイルの温度に応じて除去装置に対する第1オイルの供給量および第2オイルの供給量は制御されたが、第1オイルの温度および第2オイルの温度は関係があるので、これらのうちの一方の温度に応じて除去装置へのオイルの供給制御が実行されてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、第1オイルと第2オイルとが別途独立して除去装置に供給され、それらが除去装置への供給に際して混ざることは無かったが、それらが除去装置への供給に際して混合可能にされてもよい。温度の異なるオイルを混ぜることで、除去装置でのオイルの温度を調節し、除去装置のイオン交換樹脂の温度を上記実施形態と同様に上記所定温度域に高めると共に維持することができるからである。例えば、除去装置の上記間仕切部44dは省かれることができ、この場合、除去装置からオイルを排出する通路はまとめられ得る。そしてさらに、第1オイル供給通路40aと第2オイル供給通路42aとは合流するように構成されてもよい。
【0040】
また、上記したような除去装置44へのオイルの供給制御は、上記エンジン10を備えた車両の走行距離が所定距離に達するたびに定期的に所定時間行われてもよい。例えば、そのような供給制御は、走行距離が3000kmに達するたびに、実行され得る。
【0041】
また、上記実施形態では、第1弁および第2弁は制御手段によって制御される制御弁であったが、他の形式の弁であり得る。例えば、第1弁および第2弁は、それぞれ、オイルの温度に応じて自動的に作動する弁とされてもよい。
【0042】
また、除去装置に備えられるイオン交換樹脂のような反応体は、該反応体が高効率にその機能を発揮する温度域と、エンジンのエンジンオイルの温度範囲Toil(図2参照)のうちの高温領域(例えば80℃〜100℃)とが一致または重なるように、選択されるとよい。
【0043】
さらに、上記実施形態の潤滑装置では、反応体としてアニオン性イオン交換樹脂を用いたが、反応体は、上記の如きイオン交換樹脂に限定されない。反応体として、種々のアニオン性イオン交換樹脂および/またはカチオン性イオン交換樹脂を用いることが可能である。以下、具体的に説明する。
【0044】
アニオン性イオン交換樹脂の使用により吸着除去することが望まれるイオンには、上記硝酸イオン(NO3-)ばかりでなく、例えば、ブローバイガスから生じ得る硫酸イオン(SO42-)、ブローバイガスから生じ得る酢酸イオン(CH3COO-)、同様にブローバイガスから生じ得るギ酸イオン(HCOO-)、塩化物イオン(Cl-)、クロム酸イオン(CrO42-)がある。これらを含む群またはこれらからなる群から選択された少なくとも1つのイオンを吸着する機能を有するアニオン性イオン交換樹脂が用いられ得る。なお、アニオン性イオン交換樹脂から放出されるイオンは、オイルの劣化を促進しないイオンであるとよく、好ましくは、オイルの劣化を抑制するイオンであるとよい。
【0045】
また、スラッジ生成を抑制するようにエンジンにアルカリ性物質、例えば炭酸カルシウムが設けられた場合、Caイオンを吸着する機能を有するイオン交換樹脂が用いられるとよい。また、オイル中に添加剤としてカルシウムスルホネートが添加されている場合には、このカルシウムスルホネートからCaイオンが生じ得るので、このような場合にもCaイオンを吸着する機能を有するカチオン性イオン交換樹脂が用いられるとよい。
【0046】
なお、カチオン性イオン交換樹脂の使用により吸着除去することが望まれるイオンには、そのようなCaイオン(Ca2+)ばかりでなく、例えば、Al3+、Fe2+、Fe3+、Cr3+、Pb2+、Ni2+、Cu2+、Mg2+、Ti+がある。これらは、オイルへの添加剤、例えばZnDTPから生じたり、エンジンの構成部材の磨耗および/または溶出により生じたりする。特に、エンジンの摺動部の摩耗によりエンジンオイル中に生じるCuイオン、Alイオン、Feイオン等は、除去されることが望まれる。これらを含む群またはこれらからなる群から選択された少なくとも1つのイオンを吸着する機能を有するカチオン性イオン交換樹脂が用いられ得る。なお、カチオン性イオン交換樹脂から放出されるイオンは、オイルの劣化を促進しないイオンであるとよく、好ましくは、オイルの劣化を抑制するイオンであるとよい。
【0047】
また、本発明における反応体はイオン交換樹脂に限定されない。イオン交換樹脂、無機イオン交換体、キレート樹脂および/または合成吸着剤を反応体として用いることが可能である。反応体として、所定の成分を吸着する機能を有する種々の物質や、所定の成分を吸着する機能と別の所定の成分を放出する機能とを有する種々の物質を用いることができる。
【0048】
また、反応体によって吸着除去されるべき成分は、上記したような硝酸イオン等の酸成分、添加物から生じた成分、エンジンの構成部材の磨耗および/または溶出により生じた成分であって、オイル中の不要成分または不純物であるとよい。なお、吸着されるべき成分は、上記イオンに限定されず、また、イオン以外の成分をも含み得る。また反応体から放出されるべき成分はエンジンオイルに無害である成分またはオイルへの添加剤として機能する有用成分であるとよい。なお、同様に、放出されるべき成分は、上記イオンに限定されず、イオン以外の成分も含み得る。
【0049】
また、除去装置では、金網ケース、パンチングメッシュタイプのケース、金網や樹脂などを用いて形成された袋状ケース、メッシュタイプの筒状ケース(内筒と外筒との間に収納領域を有する。)等が用いられ得、その中にイオン交換樹脂等の反応体が入れられ得る。また、反応体は、板やフィルムに積層されたり、部品にスプレー等を用いて塗布されたりすることができ、そのようにして板等に固定された反応体が除去装置に備えられることができる。
【0050】
以上、本発明を上記実施形態や変形例に基づいて説明した。それら実施形態では、基本的に、反応体としてイオン交換樹脂を用いた。そして、上記の如くオイル循環路にイオン交換樹脂を配置することによる効果を調べるために種々の実験を行った。例えば、硝酸を含むオイル中に硝酸イオンを吸着する機能を有するイオン交換樹脂を加えて所定温度までそのオイルを加熱したとき、そのオイルの粘度は上がった。しかし、その上昇量は、そのようなイオン交換樹脂を添加しなかった場合のオイルの粘度の上昇量の約半分程度であった。これは、イオン交換樹脂により硝酸イオンが吸着され、スラッジ生成が抑制されたことを意味する。このように、硝酸イオンを吸着する機能を有するイオン交換樹脂を用いることで、オイルの劣化を抑制できた。したがって、上記した実施形態の潤滑装置で、エンジンオイルの劣化を抑制できることは明らかである。
【0051】
以上、本発明を上記実施形態およびその変形例に基づいて説明した。しかし、本発明は、それら実施形態等に限定されず、さらに他の実施形態を許容する。本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1 潤滑装置
10 エンジン
16 冷却水路
18 電動ファン
20 ラジエータ
22 ウォータポンプ
24 オイルクーラー
26 オイルポンプ
34 油路
36 オイルパン
40 第1オイル通路
40a 第1オイル供給通路
42 第2オイル通路
42a 第2オイル供給通路
44 除去装置
46 第1弁
48 第2弁
49 供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイル中から所定の成分を除去するように該所定の成分を吸着する機能を有する反応体を含む除去装置と、
該除去装置に対して、オイルクーラーを経ていない第1オイルおよびオイルクーラーを経た第2オイルを供給するように構成された供給装置であって、前記第1オイルおよび前記第2オイルの少なくとも一方の温度に応じて、前記第1オイルの供給量と前記第2オイルの供給量とを制御する、供給装置と
を備えたことを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項2】
前記供給装置は、前記反応体の温度を調整するように、前記第1オイルおよび前記第2オイルの少なくとも一方の温度に応じて、前記第1オイルの供給量と前記第2オイルの供給量とを制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項3】
前記供給装置は、
前記第1オイルの供給量を制御するための第1弁と、
前記第2オイルの供給量を制御するための第2弁と、
前記第1オイルおよび前記第2オイルの少なくとも一方の温度に応じて、前記第1弁および前記第2弁の作動を制御するための制御手段と
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項4】
前記除去装置に形成された前記第1オイルが出入可能な第1室と前記第2オイルが出入可能な第2室とは隔てられていて、
前記第1室および前記第2室の各々に、所定の成分を吸着する機能を有する反応体が配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項5】
前記第1室と前記第2室とは互いに熱伝達可能に構成されていることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項6】
前記除去装置内で前記第1オイルと前記第2オイルとが混合可能なように、前記除去装置は構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項7】
前記第1オイルを前記除去装置に供給するための第1オイル供給通路と、前記第2オイルを前記除去装置に供給するための第2オイル供給通路とは、前記除去装置の上流側で合わさることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関の潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−12963(P2012−12963A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147989(P2010−147989)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】