説明

内燃機関の燃料供給制御装置

【課題】燃料供給系におけるベーパの発生を安価に検出して、ベーパ発生を抑制することができる内燃機関の燃料供給装置を提供する。
【解決手段】燃圧センサが検出した燃料の圧力を目標燃圧に近づけるように、燃料ポンプの操作量を演算する燃料供給制御装置において、燃料圧力の検出値と前記操作量とから燃料ポンプ内でのベーパ発生の有無を判断するか、又は、燃料圧力の検出値の振幅と平均燃料圧力とから燃料供給配管内でのベーパ発生の有無を判断する。そして、ベーパ発生時には、目標燃圧を増大補正し、燃料圧力を高くすることで、ベーパを押し潰して除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料供給制御装置に関し、詳しくは、燃料ポンプの操作量を、燃料圧力の検出値に基づいて演算して出力する内燃機関の燃料供給制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、始動時に燃料ポンプの回転数が第1の所定回転数に達するまでは、燃料ポンプを駆動する制御電流値を最大にし、燃料ポンプの回転数が第1の所定回転数に達した時点で通電の制御電流値に切り替え、燃圧を目標燃圧に一致させるように制御電流値をフィードバック制御し、該フィードバック制御中に燃料ポンプの回転数が第2回転数を越えると、燃料配管内にエアやベーパが多量に混入しているものと判定し、制御電流値を最大にする、燃料供給装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−151823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述のように、ベーパ混入(ベーパ発生)の有無を、燃料ポンプの回転数に基づき判定する構成では、ポンプ回転センサを必要とし、システムコストが増大してしまうという問題があった。
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、ベーパの発生を安価に検出して、ベーパ発生を抑制することができる内燃機関の燃料供給制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そのため、本願発明に係る内燃機関の燃料供給制御装置は、燃料ポンプが吐出する燃料の圧力を検出する燃圧センサの出力信号を入力し、該出力信号に基づき検出した燃料の圧力が目標値に近づくように、前記燃料ポンプの操作量を演算して出力する装置であって、前記燃圧センサが検出した燃料の圧力に基づいてベーパ発生の有無を判断し、ベーパの発生を判断したときに、前記目標値をより高圧側に変更するようにした。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によると、ベーパ検出用に新たにセンサを設ける必要がなく、ベーパ発生を安価に判断でき、更に、ベーパ発生に対して、燃圧の目標値をより高圧側に変更することでベーパを押し潰して除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態における車両用内燃機関のシステム構成図である。
【図2】実施形態におけるベーパ検出及びベーパ除去制御の第1実施形態を示すフローチャートである。
【図3】実施形態において燃圧フィードバック制御をモデル規範制御で行った場合の燃料圧力,駆動デューティ,ベーパ発生量の相関を示すタイムチャートである。
【図4】実施形態において燃圧フィードバック制御をPID制御で行った場合の燃料圧力,駆動デューティ,ベーパ発生量の相関を示すタイムチャートである。
【図5】実施形態におけるベーパ検出及びベーパ除去制御の第2実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る内燃機関の燃料供給制御装置を含む、車両用内燃機関のシステム構成図である。
図1において、内燃機関(エンジン)1は、その吸気通路(吸気ポート)2に燃料噴射弁3を備え、この燃料噴射弁3が開弁することで内燃機関1に対する燃料噴射がなされる。
【0009】
燃料噴射弁3が噴射した燃料は、空気と共に吸気バルブ4を介して燃焼室5内に吸引され、点火プラグ6による火花点火によって着火燃焼する。燃焼室5内の燃焼ガスは、排気バルブ7を介して排気通路8に排出される。
吸気通路2の燃料噴射弁3よりも上流側に、スロットルモータ9で開閉される電子制御スロットル10を設けてあり、この電子制御スロットル10の開度によって内燃機関1の吸入空気量を調整する。
【0010】
また、燃料タンク11内の燃料を燃料ポンプ12によって燃料噴射弁3に圧送する燃料供給装置13を設けてある。
燃料供給装置13は、燃料タンク11、燃料ポンプ12、圧力調整弁(プレッシャレギュレータ)14、オリフィス15、燃料ギャラリー配管16、燃料供給配管17、燃料戻し配管18、ジェットポンプ19、燃料移送管20を含む。
【0011】
燃料ポンプ12は、電動モータでポンプインペラを回転駆動する電動式ポンプであり、燃料タンク11内に配置してある。
燃料ポンプ12の吐出口には燃料供給配管17の一端を接続し、燃料供給配管17の他端は燃料ギャラリー配管16に接続し、更に、燃料ギャラリー配管16に燃料噴射弁3の燃料供給口を接続してある。
【0012】
燃料戻し配管18は、燃料タンク11内で燃料供給配管17から分岐延設され、燃料戻し配管18の他端は燃料タンク11内に開口する。
燃料戻し配管18には、上流側から順に、圧力調整弁14、オリフィス15、ジェットポンプ19が介装されている。
圧力調整弁14は、燃料戻し配管18を開閉する弁体14aと、該弁体14aを燃料戻し配管18上流側の弁座に向けて押圧するコイルスプリングなどの弾性部材14bとを備え、この圧力調整弁14は、燃料噴射弁3に供給する燃料圧力が最小圧力FPMINを超えたときに開弁し、燃料圧力が最小圧力FPMIN以下であるときに閉弁する。
【0013】
前述のように、圧力調整弁14は、燃料噴射弁3に供給する燃料圧力が最小圧力FPMINよりも高くなると開弁するが、圧力調整弁14の下流側に設けられるオリフィス15によって、燃料戻し配管18を介して燃料タンク11内に戻される燃料流量が絞られるようになっているため、燃料ポンプ12からの燃料の吐出量を、戻し流量以上に増やすことで、最小圧力FPMINを超える圧力にまで燃料圧力を昇圧できるようになっている。
【0014】
換言すれば、圧力調整弁14が調整する最小圧FPMINをベースに、燃料ポンプ12の吐出量を制御することで、燃料圧力を機関運転状態に応じた目標燃圧(目標燃圧≧FPMIN)にまで昇圧できるようになっている。
尚、燃料ポンプ12の吐出量の制御によって、最小圧FPMINを超える燃料圧力にまで昇圧できる程度に、燃料戻し配管18を介して燃料タンク11内に戻る燃料量(リリーフ流量)を絞るようになっていればよく、例えば、前記オリフィス15を設けずに、圧力調整弁14が流量(リリーフ流量)を絞る機能を備える構成であってもよい。
【0015】
ジェットポンプ19は、圧力調整弁14及びオリフィス15を介して燃料タンク11内に戻る燃料の流れによって、燃料移送管20を介して燃料を移送させるものである。
燃料タンク11は、底面の一部が盛り上がって、底部空間を2つの領域11a,11bに隔てている所謂鞍型の燃料タンクであり、燃料ポンプ12の吸い込み口は領域11a内に開口するため、領域11b内の燃料を領域11a側に移送させないと、領域11b内の燃料が残存することになってしまう。
【0016】
そこで、ジェットポンプ19は、圧力調整弁14及びオリフィス15を介して燃料タンク11の領域11a内に戻る燃料の流れによって、燃料移送管20内に負圧を作用させ、燃料移送管20が開口する領域11b内の燃料を、燃料移送管20を介してジェットポンプ19まで導き、戻し燃料と共に領域11a内に排出させる。
燃料噴射弁3による燃料噴射、点火プラグ6による点火、電子制御スロットル10の開度などを制御するエンジン制御ユニットとして、マイクロコンピュータを備えるECM(エンジン・コントロール・モジュール)31を設けてある。
【0017】
また、燃料ポンプ12の駆動信号(操作量)を出力して燃料ポンプ12を駆動する燃料ポンプ制御ユニットとして、マイクロコンピュータを備えるFPCM(フューエル・ポンプ・コントロール・モジュール)30を設けてある。
ECM31とFPCM30とは、相互に送受信するための通信回路を備えていて、ECM31は、燃料ポンプ12の駆動デューティ(オン時間割合)の指示信号PINS(駆動指示信号)をFPCM30に向けて送信する。
【0018】
また、FPCM30は、前記指示信号PINSの入力異常などの診断を実施し、診断結果を示す診断信号DIAGをECM31に向けて送信する。
尚、燃料供給制御装置としてのECM31と、該ECM31の指令を受けて燃料ポンプ12を駆動するFPCM30とを一体化した制御ユニットを備えるシステムであっても良い。
【0019】
また、圧力調整弁14、オリフィス15、燃料戻し配管18、ジェットポンプ19を備えない燃料供給装置であってもよい。
ECM31は、燃料ギャラリー配管16内の燃圧FUPR(燃料ポンプ12の吐出圧、燃料噴射弁3への燃料供給圧)を検出する燃圧センサ(燃圧検出手段)33、図外のアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)ACCを検出するアクセル開度センサ34、内燃機関1の吸入空気流量QAを検出するエアフローセンサ35、内燃機関1の回転速度NE(rpm)を検出する回転センサ36、内燃機関1の冷却水温度TW(機関温度)を検出する水温センサ37、排気中の酸素濃度に応じて内燃機関1の空燃比の理論空燃比(目標空燃比)に対するリッチ・リーンRLを検出する酸素センサ38などからの検出信号を入力する。
尚、酸素センサ38に代えて、空燃比に応じた出力を発生することで、広域に空燃比検出が可能な空燃比センサを備えてもよい。
【0020】
そして、ECM31は、吸入空気流量QAと機関回転速度NEとに基づいて基本噴射パルス幅TPを演算し、基本噴射パルス幅TPをそのときの燃圧FUPRに応じて補正する一方、酸素センサ38の出力に基づいて実際の空燃比を目標空燃比に近づけるための空燃比フィードバック補正係数LAMBDAを演算し、燃圧FUPRに応じて補正した基本噴射パルス幅TPを、更に空燃比フィードバック補正係数LAMBDAなどで補正して、最終的な噴射パルス幅TIを演算する。
【0021】
そして、各気筒の噴射タイミングになると、燃料噴射弁3に対して噴射パルス幅TIの噴射パルス信号を出力し、燃料噴射弁3による燃料噴射量及び噴射タイミングを制御する。
また、ECM31は、内燃機関1の負荷を示す基本噴射パルス幅TPや機関回転速度NEなどに基づいて点火時期(点火進角値)を演算し、該点火時期において点火プラグ6による火花放電がなされるように、図外の点火コイルへの通電を制御する。
【0022】
また、ECM31は、アクセル開度ACCなどから電子制御スロットル10の目標開度を演算し、電子制御スロットル10の実開度が目標開度に近づくようにスロットルモータ9を駆動制御する。
更に、ECM31は、燃圧センサ33の検出信号に基づき実際の燃圧FUPRを検出する一方、機関負荷TP,機関回転速度NE,冷却水温度TW(機関温度)などの機関運転条件に基づいて、目標燃圧TGPR(燃料燃圧の目標値)を算出する。
【0023】
機関温度を代表する温度として、冷却水温度TWを用いることができる他、潤滑油温度などを用いることができる。
ECM31は、前記目標燃圧TGPRを、例えば、高負荷・高回転領域では、低負荷・低回転領域に比べて高い圧に設定し、また、冷却水温度TWが低い冷機時には暖機後に比べて高い圧に設定する。
【0024】
そして、ECM31は、実際の燃圧FUPR(検出値)が目標燃圧TGPRに近づくように、例えば、実際の燃圧FUPRと目標燃圧TGPRとの偏差に基づく比例・積分・微分制御(PID制御)によって、燃料ポンプ12の駆動デューティDUTY(印加電圧)を算出する、燃圧フィードバック制御を実行する。
尚、燃圧のフィードバック制御においては、所謂モデル規範制御を用い、所望の燃圧応答特性に対応する規範目標に追従させるように、駆動デューティDUTY(印加電圧)を算出させることができる。
【0025】
前記モデル規範制御においては、例えば、目標燃圧を、燃圧制御系の規範モデルに基づく規範応答に従った規範応答目標値に変換し、該規範応答目標値と実際の燃圧FUPR(検出値)との偏差に基づいてフィードバック分を演算する一方、前記目標燃圧に基づいてフィードホワード分を演算し、前記フィードバック分とフィードホワード分との加算値を最終的な操作量(駆動デューティ)として出力する構成とすることができる。
【0026】
ECM31は、前記駆動デューティDUTYを指示する信号PINSを、FPCM30に送信し、前記指示信号PINSを受けたFPCM30では、前記駆動デューティDUTYに応じたスイッチング動作によって燃料ポンプ12(電動モータ)に印加する電圧を調整し、調整した電圧(操作量)を燃料ポンプ12(電動モータ)に加える。
ここで、ECM31は、燃料噴射弁3への燃料供給系におけるベーパ発生の有無を判断し、ベーパ発生時に前記目標燃圧TGPRを増大補正する機能を有しており、以下では、前記ベーパ発生判断(ベーパ検出手段)及び目標燃圧TGPRの補正制御(目標変更手段)を、詳細に説明する。
【0027】
図2のフローチャートは、燃圧FUPR(燃圧検出値)と印加電圧(操作量)とから、燃料ポンプ12内におけるベーパ発生の有無を判断する第1実施形態を示す。尚、ECM31は、図2のフローチャートに示すルーチンを、一定の時間周期で割り込み実行する。
ステップS101(ベーパ検出手段)では、燃料ポンプ12の印加電圧(操作量)と燃圧FUPRとの相関が、通常状態(ベーパの非発生状態)に相当するか、ベーパ発生状態に相当するかを、予め記憶した第1テーブルを参照し、現時点での印加電圧(操作量)と燃圧FUPRとの組み合わせが、通常領域に該当するか、ベーパ発生領域に該当するかを判断する。
【0028】
前記第1テーブルにおいて、通常領域とベーパ発生領域とを区分する境界BO1(閾値)は、印加電圧(駆動デューティ)が高くなるほど、換言すれば、吐出量を増大させる側に操作量が変位するほどより高い燃圧となる特性を有し、前記境界BO1よりもそのときの実際の燃圧FUPRが高い領域が通常領域(ベーパの非発生領域)であり、前記境界BO1よりもそのときの実際の燃圧FUPRが低い領域がベーパ発生領域に相当する。
【0029】
即ち、燃料ポンプ12内でベーパが発生すると(ベーパ量が増えると)、同じ燃圧を維持するのにより高い印加電圧が要求されることになるため、ベーパが発生していない状態で要求される電圧よりも高い電圧が要求されている場合に、燃料ポンプ12内でのベーパ発生を推定するものである。
そして、ベーパ発生量が許容レベルよりも多くなったときに、燃料ポンプ12の印加電圧が、前記境界BO1を超えるように設定されており、前記境界BO1よりも高い電圧が要求されている場合には、ベーパ発生量が許容レベルよりも多くなっていると推定できる一方、前記境界BO1よりも低い電圧が要求されている場合には、ベーパ発生量が許容レベル内であると推定できるようになっている。
尚、図2中に示す第1テーブルでは、通常領域とベーパ発生領域とを区分する境界BO1は、印加電圧の増大に対して燃料圧力がリニアに増大する特性としてあるが、このようなリニアな特性に限定するものではない。
【0030】
また、図2中に示す第1テーブルは、例えば、そのときの印加電圧(駆動デューティ)が高いほど高い燃料圧力の閾値を設定し、この燃圧閾値よりも実際の燃圧FUPRが高い場合に通常状態(ベーパの非発生状態)であると判断し、前記燃圧閾値よりも実際の燃圧FUPRが高い場合にベーパ発生状態であると判断することを示すものであり、図中に示した第1テーブルを用いた判断に限定するものではない。
【0031】
ステップS102では、ステップS101でそのときの印加電圧(操作量)及び燃圧FUPRからベーパの発生状態であると判断した否か、換言すれば、そのときの燃圧FUPRが、印加電圧(駆動デューティ)に応じた閾値よりも低いか否かを判定する。
そして、そのときの燃圧FUPRが、印加電圧(駆動デューティ)に応じた閾値よりも高く、通常状態(ベーパの非発生状態)であると判断した場合には、ステップS104へ進み、ベーパ発生判定フラグFに1が設定されているか否かを判断する。
【0032】
前記ベーパ発生判定フラグFは、後述するように、ステップS101でベーパの発生状態であると判断した場合に1を設定し、その後、ベーパを除去できたと判断するまでの間において1を保持し、ベーパを除去できたと判断した時点で0にリセットするようになっている。
従って、継続的な通常状態(ベーパの非発生状態)であれば、ベーパ発生判定フラグF=0であって、ステップS108へ進むことになる。
【0033】
ステップS108では、目標燃圧TGPRとして、機関負荷TP・機関回転速度NE・冷却水温度TWなどの機関運転条件に応じて設定した目標燃圧TGPR−STD(基本目標値)をそのまま最終的な目標燃圧TGPRに設定し、目標燃圧TGPR−STDに実際の燃圧FUPRを近づけるように、燃料ポンプ12の印加電圧(駆動デューティ)を演算する、燃圧フィードバック制御を行う。
【0034】
一方、ステップS101で、現時点での印加電圧(操作量)と燃圧FUPRとの組み合わせがベーパ発生領域に該当していると判断した場合、換言すれば、そのときの燃圧FUPRが、印加電圧(駆動デューティ)に応じた閾値よりも低い場合には、ステップS102からステップS103へ進む。
ステップS103では、前記ベーパ発生判定フラグFに1を設定し、その後、ステップS109へ進む。
【0035】
ステップS109(目標変更手段)では、燃料ポンプ12内に発生しているベーパを押し潰して除去するために、目標燃圧TGPRを目標燃圧TGPR−STD(基本目標値)よりも高い圧に補正する。
前記目標燃圧TGPRの補正設定においては、目標燃圧TGPR−STD(基本目標値)に増大補正値TGPRHOSを加算した結果を、最終的な目標燃圧TGPRに設定する。
【0036】
前記増大補正値TGPRHOSは、ベーパを押し潰して除去できる圧力にまで目標燃圧TGPRを高めることができる値として予め適合され、固定値であっても良いし、ベーパ発生量に影響する運転条件である、燃料温度,機関温度,燃料性状,燃料タンク11内の圧力などに応じて可変に設定しても良い。
燃料は非圧縮性流体であるため、燃圧を高めると、燃料中に含まれる圧縮性流体であるベーパを押し潰すことになるが、燃圧を増大させても燃料が受ける影響は小さく、燃圧の増大によってベーパを押し潰して除去しつつ、基本噴射パルス幅TPをそのときの燃圧FUPRに応じて補正することで、目標の空燃比に制御できる。
【0037】
前記増大補正値TGPRHOSを、燃料温度などの運転条件に応じて可変とする場合、例えば、燃料温度(機関温度)が高くなるとベーパが発生し易くなるので、燃料温度が高くなるほど前記増大補正値TGPRHOSをより大きくし、目標燃圧TGPRをより高い圧に変更する。
また、燃料性状としては、蒸気圧が高い燃料であると、高温になったときにベーパが発生し易くなるので、燃料の蒸気圧が高くなるほど前記増大補正値TGPRHOSをより大きくし、目標燃圧TGPRをより高い圧に変更する。
【0038】
更に、燃料タンク11内の圧力が低いと、ベーパが発生し易くなるので、燃料温度が高くなるほど前記増大補正値TGPRHOSをより大きくし、目標燃圧TGPRをより高い圧に変更する。
尚、燃料温度,機関温度,燃料性状,燃料タンク11内の圧力のうちの複数を組み合わせて、増大補正値TGPRHOSを設定することができる。
【0039】
また、増大補正値TGPRHOSによる補正を行わず、目標燃圧TGPRを、ベーパ押し潰し用の目標燃圧に切り換えてもよく、このベーパ押し潰し用の目標燃圧を、固定値、又は、燃料温度などの運転条件に応じた可変値とすることができる。
更に、増大補正値TGPRHOSを、固定の初期値又は燃料温度などの運転条件に応じて可変とした初期値から漸増させるようにしてもよい。
【0040】
上記のようにして、印加電圧(操作量)及び燃圧FUPRからベーパ発生の有無を判断し、ベーパ発生状態である場合に、目標燃圧TGPRをより高い圧に変更すれば、燃料ポンプ12内のベーパを押し潰して除去することができ、ベーパ量が減ると、実際の燃圧FUPRを目標燃圧TGPR付近とするために要求される印加電圧が低下する。
従って、ステップS109で目標燃圧TGPRをより高い圧に変更して、ベーパを押し潰すと、より高く変更した目標燃圧TGPR付近の燃圧FUPRを得るために要求される印加電圧が低下し、ステップS101で参照する第1テーブルにおいて、印加電圧(操作量)と燃圧FUPRとの組み合わせで規定されるポイントが、ベーパ量の減少に応じてベーパ発生領域から通常領域に向けて徐々に変位する。
【0041】
そして、最終的には、ステップS101で、印加電圧(操作量)と燃圧FUPRとの組み合わせが通常状態(ベーパの非発生状態)に該当する(そのときの燃圧FUPRが、印加電圧に応じた閾値よりも高い)と判断するようになる。
ステップS102で通常状態(ベーパの非発生状態)であると判定すると、ステップS104に進むが、ベーパ発生判定フラグFに1が設定されているので、ステップS104からステップS105へ進む。
【0042】
ステップS105(ベーパ検出手段)では、ステップS101でベーパ発生状態であるか否かの判断に用いた第1テーブルよりも、通常領域(ベーパの非発生領域)を狭く、ベーパ発生領域を広くしたテーブル、換言すれば、通常領域とベーパ発生領域とを区分する境界BO2を、ステップS101で参照する第1テーブルでの境界BO1よりも低電圧側にシフトさせた第2テーブルを参照し、そのときの印加電圧(操作量)と燃圧FUPRとの組み合わせが、通常領域(ベーパの非発生領域)とベーパ発生領域とのいずれに該当しているかを判断する。
【0043】
前記第2テーブルは、ベーパ発生状態が解消したか否か、換言すれば、ベーパ量が十分に減少したか否かを判断するためのものである。
前記ステップS101で参照する第1テーブルに基づいて、ベーパ発生及びベーパ発生状態の解消を判断させるようにすると、前記境界BO1付近での圧力及び/又は電圧の変化によって、ベーパ発生判断と、ベーパ発生状態の解消判断とを繰り返す、ハンチングが発生してしまう。
【0044】
そこで、前述の目標燃圧TGPRの増大補正で、印加電圧(操作量)と燃圧FUPRとの組み合わせが、通常領域側に所定幅以上にシフトしたときに、ベーパ発生状態の解消を判断するように、ステップS105では、ステップS101でベーパ発生状態であるか否かの判断に用いた第1テーブルよりも、通常領域(ベーパの非発生領域)を狭く、ベーパ発生領域を広くした第2テーブルを参照する。
【0045】
即ち、ベーパ発生の有無の判断においてヒステリシスを有するように、ベーパ発生領域に入ったことを判断する閾値と、ベーパ発生領域から脱したことを判断する閾値とを異ならせてある。
ステップS106では、ステップS105でベーパ発生領域に該当していると判断したか否かを判定し、ベーパ発生領域に該当していれば、ベーパの除去によって印加電圧は減少変化しているものの、目標燃圧TGPRの増大補正を解除できるまでに至っていない、換言すれば、ベーパ量の減少が不十分であるものと判断し、ステップS109へ進んで、目標燃圧TGPRの増大補正を継続させる。
【0046】
一方、ステップS105で通常領域(ベーパの非発生領域)に該当していると判断した場合には、ベーパの除去が十分に進行し、目標燃圧TGPRの増大補正を解除できるものと判断し、ステップS107でベーパ発生判定フラグFを0にリセットした後、ステップS108へ進んで、目標燃圧TGPRの増大補正を解除し、運転条件に応じた目標燃圧TGPR−STDをそのまま最終的な目標燃圧TGPRに設定する。
【0047】
上記実施形態によると、燃圧フィードバック制御に用いる燃圧センサ33の検出結果から、ベーパ発生の有無を判断するので、ベーパ発生検出のために新たにセンサを設ける必要がなく、システムコストを抑制できる。
また、ベーパ発生を検出したときに、目標燃圧TGPRをより高く変更して、ベーパを押し潰すようにするので、燃料ポンプ12内に発生したベーパを速やかに除去することができ、ベーパによってより高い印加電圧が要求される状態を解消して、燃料ポンプ12での消費電力を低減できる。
【0048】
また、上記実施形態では、ベーパ発生状態の判断に用いる第1テーブル(第1判定閾値)と、ベーパ除去完了の判断に用いる第2テーブル(第2判定閾値)とを備え、目標燃圧TGPRの増大補正によってベーパを十分に除去してから増大補正を解除させるようにしたので、目標燃圧TGPRの増大補正と、目標燃圧TGPRの増大補正解除とを繰り返すことを抑制でき、安定した通常状態(ベーパの非発生状態)が得られるため、燃料噴射パルス幅と実際の燃料噴射量との相関がずれることを抑制して、燃料噴射弁3の計量精度を高いレベルに維持できる。
【0049】
更に、目標燃圧TGPRの増大補正において、補正レベルを、燃料温度などのベーパ発生に影響する条件に応じて可変とすれば、ベーパ発生時に目標燃圧TGPRを過剰に高く補正して、無駄に電力を消費することを抑制できる。
図3及び図4は、本実施形態によるベーパ検出と該検出結果に基づく燃圧制御の様子を示すタイムチャートであり、図3は、燃圧FUPRを目標燃圧TGPRに近づける燃圧のフィードバック制御においてモデル規範制御を用いた場合、図4はPID制御を用いた場合を示す。
【0050】
図3及び図4のタイムチャートにおいて、時刻t1から時刻t2までの間で、燃料ポンプ12内におけるベーパ量が増大を続け、ベーパ発生による燃圧の低下分を補うように、燃料ポンプ12の駆動デューティ(印加電圧)が燃圧フィードバック制御の結果漸増する。
そして、時刻t2の時点で、燃圧に対する駆動デューティ(印加電圧)が閾値を超えたことで(第1テーブルのベーパ発生領域に該当するようになって)、ベーパ発生を検出する。
【0051】
時刻t2でベーパ発生を検出すると、目標燃圧TGPRをより高い圧に変更し、この変更後の目標燃圧TGPRに実際の燃圧FUPRを近づけようとするために、燃料ポンプ12の駆動デューティ(印加電圧)は、燃圧フィードバック制御の結果として増大変化する。
時刻t3で、通常よりも高く変更された目標燃圧TGPRに付近に実際の燃圧FUPRが昇圧すると、この高い燃圧FUPRによってベーパが押し潰され、ベーパ量は減少変化を開始する。
【0052】
そして、ベーパ量が減少することで、通常よりも高く変更された目標燃圧TGPRに付近に実際の燃圧FUPRを維持するために要求される駆動デューティ(印加電圧)が減少し、時刻t4で燃圧に対する駆動デューティ(印加電圧)が閾値を下回った、換言すれば、第2テーブルの通常領域(ベーパ非発生領域)に該当するようになったことで、ベーパ除去の完了を判断する。
【0053】
時刻t4でベーパ除去の完了を判断すると、目標燃圧TGPRを通常値にまで減少させ、この低下させた目標燃圧TGPRにまで燃圧FUPRを低下させるために、駆動デューティ(印加電圧)が減少し、燃圧FUPRが目標燃圧TGPR付近にまで低下した時点(時刻t5)で、駆動デューティは安定状態に移行する。
上記図3及び図4に示すように、本実施形態では、燃料ポンプ12内でベーパ量が増えることで、目標燃圧を維持するための駆動デューティ(印加電圧)が増えることから、ベーパ発生を検知し、ベーパ発生を検知すると、燃圧を高めることでベーパを押し潰し、該押し潰しによってベーパ量が減ったことを、目標燃圧を維持するための駆動デューティ(印加電圧)の減少変化に基づいて判断し、ベーパ量が十分に減ったと判断した時点で、燃圧を低下させて通常レベルに戻す。
【0054】
ところで、上記実施形態では、印加電圧(操作量)と燃圧FUPRとから、燃料ポンプ12内におけるベーパ発生の有無を判断したが、燃料供給配管17内におけるベーパの発生を、燃圧FUPRの振幅ΔFUPRから推定して、燃料供給配管17内のベーパを押し潰すための目標燃圧TGPRの増大補正を行わせることができる。
即ち、燃料供給配管17内の圧力は、燃料噴射弁3の噴射に同期する脈動を生じるが、圧縮性流体であるベーパが燃料供給配管17内発生すると、燃料噴射弁3の噴射で発生する圧力脈動によってベーパが圧縮・膨張を繰り返すことで、圧力脈動の振幅が大きくなる。従って、圧力脈動の振幅ΔFUPRが、通常範囲を超えて大きくなったときに、燃料供給配管17内におけるベーパの発生(ベーパ量が許容レベルを超えたこと)を推定することが可能である。
【0055】
図5のフローチャートは、上記の燃圧振幅ΔFUPRに基づいて、燃料供給配管17内におけるベーパ発生の有無を検出する第2実施形態を示す。
図5のフローチャートに示すルーチンは、ECM31が一定の時間周期で割り込み実行し、まず、ステップS201(ベーパ検出手段)では、燃圧センサ33が検出した燃圧FUPRの振幅ΔFUPRを算出すると共に、燃圧センサ33が検出した燃圧FUPRの平均値FUPRAVを算出する。
【0056】
そして、そのときの燃圧振幅ΔFUPRと燃圧平均値FUPRAVとの相関が、通常状態(ベーパの非発生状態)に相当するか、ベーパ発生状態に相当するかを予め記憶した第1テーブルを参照し、現時点での燃圧振幅ΔFUPRと燃圧平均値FUPRAVとの組み合わせが、通常領域に該当するか、ベーパ発生領域に該当するかを判断する。
尚、燃圧振幅ΔFUPRは、振幅検出期間(例えば燃圧FUPRの1周期間)における燃圧FUPRの最大値と平均値FUPRAVとの差、平均値FUPRAVと最小値との差、或いは、最大値と最小値との差として算出することができる。
【0057】
また、平均値FUPRAVは、平均値検出期間内で検出した燃圧FUPRの単純平均値として求めることができる他、燃圧センサ33の出力信号をローパスフィルタで処理した値を、平均圧力として設定することができる。
更に、燃圧変化の過渡状態では、燃圧振幅ΔFUPR及び平均値FUPRAVを精度良く検出することができず、ベーパ発生検知の精度が低下するので、過渡状態では、燃圧振幅ΔFUPR及び平均値FUPRAVに基づくベーパ発生の検知、又は、ベーパ発生検知に基づく目標燃圧TGPRの増大補正を禁止すると良い。
【0058】
前述のように、ベーパが発生すると、燃圧振幅ΔFUPR(燃圧の脈動幅)は増加するが、ベーパ発生がない状態で生じる燃圧振幅ΔFUPRの大きさは、燃圧が高いほど大きくなる。
そこで、平均値FUPRAVが高いほど、通常領域とベーパ発生領域とを区分する境界BO1を、より振幅ΔFUPRが大きい側にシフトさせるように、前記第1テーブルを設定してあり、前記境界BO1(閾値)よりも振幅ΔFUPRが大きい領域がベーパ発生領域であり、前記境界BO1よりも振幅ΔFUPRが小さい領域が通常領域(ベーパの非発生状態)であり、前記境界BO1は、許容できるベーパ量(燃圧振幅ΔFUPR)の最大値に相当する。
尚、図5中に示す第1テーブルでは、通常領域とベーパ発生領域とを区分する境界線BO1は、平均値FUPRAVの増大に対して振幅ΔFUPRがリニアに増大する特性としてあるが、このようなリニアな特性に限定するものではない。
【0059】
ステップS202では、ステップS201でそのときの平均値FUPRAV及び振幅ΔFUPRからベーパの発生状態であると判断した否かを判定する。
通常状態(ベーパの非発生状態)であると判断した場合、換言すれば、平均値FUPRAVが高いほど高く設定される振幅閾値よりも実際の振幅ΔFUPRが小さい場合には、ステップS204へ進み、ベーパ発生判定フラグFに1が設定しているか否かを判断する。
【0060】
前記ベーパ発生判定フラグFは、図2のフローチャートに示した第1実施形態と同様に、ステップS201でベーパの発生状態であると判断した場合に1を設定し、その後、ベーパを除去したと判断するまでの間において1を保持し、ベーパを除去したと判断された時点で0にリセットするようになっている。
【0061】
従って、継続的な通常状態(ベーパの非発生状態)であれば、ベーパ発生判定フラグF=0であって、ステップS208へ進むことになる。
ステップS208では、目標燃圧TGPRとして、機関負荷TP・機関回転速度NE・冷却水温度TWなどの機関運転条件に応じて設定される目標燃圧TGPR−STD(基本目標値)をそのまま最終的な目標燃圧TGPRに設定し、目標燃圧TGPR−STDに実際の燃圧FUPRを近づけるように、燃料ポンプ12の印加電圧(駆動デューティ)を演算する、燃圧フィードバック制御を行う。
【0062】
一方、ステップS201で、現時点での平均値FUPRAV及び振幅ΔFUPRとの組み合わせがベーパ発生領域に該当していると判断した場合、換言すれば、平均値FUPRAVが高いほど高く設定される振幅閾値よりも実際の振幅ΔFUPRが大きく、燃料供給配管17内にベーパが発生している(ベーパ量が許容レベルを超えている)場合には、ステップS202からステップS203へ進む。
【0063】
ステップS203では、前記ベーパ発生判定フラグFに1を設定し、その後、ステップS209へ進む。
ステップS209(目標変更手段)では、燃料供給配管17内に発生しているベーパを押し潰して除去するために、目標燃圧TGPRを目標燃圧TGPR−STD(基本目標値)よりも高い圧に補正する。
尚、ステップS209における目標燃圧TGPRの補正は、前記ステップS109と同様に行わせる。
【0064】
上記のようにして、平均値FUPRAV及び振幅ΔFUPRから、燃料供給配管17内におけるベーパ発生の有無を判断し、ベーパ発生状態である場合に、目標燃圧TGPRをより高い圧に変更すれば、燃料供給配管17内のベーパを押し潰して除去することができる。そして、ベーパが除去されれば、燃料噴射弁3が燃料と共にベーパを噴射することで、燃料の計量精度が低下することを抑制でき、高い精度で空燃比制御を行えるようになる。
【0065】
ステップS209で目標燃圧TGPRをより高い圧に変更して、ベーパを押し潰すと、燃圧振幅ΔFUPRが小さくなり、その結果、ステップS201で、平均値FUPRAVと振幅ΔFUPRとの組み合わせが通常状態(ベーパの非発生状態)に該当すると判断されるようになる。
ステップS202で通常状態(ベーパの非発生状態)であると判定すると、ステップS204に進むが、ベーパ発生判定フラグFに1が設定されているので、ステップS204からステップS205へ進む。
【0066】
ステップS205(ベーパ検出手段)では、ステップS201でベーパ発生状態であるか否かの判断に用いた第1テーブルでの境界BO1よりも、通常領域(ベーパの非発生領域)とベーパ発生領域との境界BO2を、振幅ΔFUPRがより小さい側にシフトさせた第2テーブルを参照し、そのときの平均値FUPRAVと振幅ΔFUPRとの組み合わせが、通常領域(ベーパの非発生領域)とベーパ発生領域とのいずれに該当しているかを判断する。
【0067】
前記第2テーブルは、ベーパ発生状態が解消したか否か、換言すれば、燃料供給配管17内のベーパ量が十分に減少したか否かを判断するためのものである。
前記ステップS201で参照する第1テーブルに基づいて、ベーパ発生及びベーパ発生状態の解消を判断させるようにすると、前記境界BO1付近での変化によって、ベーパ発生判断と、ベーパ発生状態の解消判断とを繰り返す、ハンチングが発生してしまう。
【0068】
そこで、前述の目標燃圧TGPRの増大補正で、振幅ΔFUPRが、ステップS101で参照する第1テーブルの境界BO1よりも所定幅以上に通常領域側にシフトしたときに、ベーパ発生状態の解消を判断するように、ステップS205では、ステップS201でベーパ発生状態であるか否かの判断に用いた第1テーブルの境界BO1よりも、通常領域(ベーパの非発生領域)とベーパ発生領域との境界BO2を振幅ΔFUPRが小さい側にシフトさせた第2テーブルを参照する。
【0069】
即ち、ベーパ発生の有無の判断においてヒステリシスを有するように、ベーパ発生を判断する振幅ΔFUPRをより高く、ベーパ発生状態の解消を判断する振幅ΔFUPRをより低く設定している。
ステップS206では、ステップS205でベーパ発生領域に該当していると判断されたか否かを判定し、ベーパ発生領域に該当していれば、ベーパの除去によって振幅ΔFUPRは減少変化しているものの、目標燃圧TGPRの増大補正を解除できるまでに至っていないものと判断し、ステップS209へ進んで、目標燃圧TGPRの増大補正を継続させる。
【0070】
一方、ステップS205で通常領域(ベーパの非発生領域)に該当していると判断した場合には、ベーパの除去が十分に進行し、目標燃圧TGPRの増大補正を解除できるものと判断し、ステップS207でベーパ発生判定フラグFを0にリセットした後、ステップS208へ進んで、目標燃圧TGPRの増大補正を解除し、運転条件に応じた目標燃圧TGPR−STDをそのまま最終的な目標燃圧TGPRに設定する。
【0071】
上記実施形態によると、燃圧フィードバック制御に用いる燃圧センサ33の検出結果から、ベーパ発生の有無を判断するので、ベーパ発生検出のために新たにセンサを設ける必要がなく、システムコストを抑制できる。
また、ベーパ発生を検出したときに、目標燃圧TGPRをより高く変更して、ベーパを押し潰すようにするので、燃料供給配管17内に発生したベーパを速やかに除去することができ、燃料噴射弁3が燃料と共にベーパを噴射することによる燃料の計量精度の低下を解消して、空燃比制御性を維持できる。
【0072】
また、上記実施形態では、ベーパ発生状態の判断に用いる第1テーブル(第1判定閾値)と、ベーパ除去の判断に用いる第2テーブル(第2判定閾値)とを備え、ベーパ発生有無の判断においてヒステリシスを有するようにしたので、目標燃圧TGPRの増大補正と、目標燃圧TGPRの増大補正解除とを繰り返すことを抑制でき、安定した通常状態(ベーパの非発生状態)を得て、燃料噴射弁3の計量精度を高いレベルに維持できる。
【0073】
更に、目標燃圧TGPRの増大補正において、補正レベルを、燃料温度などのベーパ発生に影響する条件に応じて可変とすれば、目標燃圧TGPRを過剰に高く補正して、無駄に電力を消費することを抑制できる。
尚、図5のフローチャートに示すルーチン(第2実施形態)において、簡易には、平均値FUPRAVによるベーパ発生判定レベルの変更を行わず、振幅ΔFUPRの判定閾値を固定として、該固定の判定閾値よりも振幅ΔFUPRが大きいか小さいかで、ベーパ発生の有無を判断させることができる。
【0074】
また、平均値FUPRAVから、通常状態(ベーパの非発生状態)で発生する標準振幅を求め、計測した振幅ΔFUPRから前記標準振幅を減算した結果が、固定の判定閾値よりも大きいか小さいかで、ベーパ発生の有無を判断させることができる。
更に、図2のフローチャートに示した燃料ポンプ12内でのベーパ発生検出と、図5のフローチャートに示した燃料供給配管17内でのベーパ発生検出とをそれぞれに並行して実行し、少なくとも一方でベーパ発生を検出した場合に、目標燃圧TGPRの増大補正を行うことができる。
【0075】
また、上記実施形態では、ベーパ発生の有無の判断において、ヒステリシスを有するようにしたが、ヒステリシスを有する構成に限定するものではない。
また、ベーパ発生判定に基づいて目標燃圧TGPRを高圧側にシフトさせた後、予め設定した高圧保持時間が経過するまで、高圧側へのシフト状態(増大補正状態)を保持させ、前記高圧保持時間が経過した時点で目標燃圧TGPRを通常値に戻す構成としてもよい。ここで、前記高圧保持時間は、一定時間としても良いし、ベーパ発生量に影響する運転条件である、燃料温度,機関温度,燃料性状,燃料タンク11内の圧力などに応じて、前記高圧保持時間を可変に設定してもよい。
【0076】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)請求項2記載の内燃機関の燃料供給制御装置において、
前記ベーパ検出手段が、前記操作量が燃料の圧力を増大させる方向に変位するほど、より高い燃料圧力の閾値を設定し、該閾値よりも実際の燃料圧力が低いときに、ベーパの発生状態であると判断する内燃機関の燃料供給制御装置。
上記構成によると、燃料ポンプ内にベーパが発生すると(ベーパ量が増えると)、同じ燃料圧力を得るために要求される操作量が増え、同じ操作量ではベーパ発生によって燃料圧力が低下することから、操作量が増えるほどより高い値に設定した閾値よりも、実際の燃料圧力が低い場合に、ベーパの発生を推定する。
【0077】
(ロ)請求項3記載の内燃機関の燃料供給制御装置において、
前記ベーパ検出手段が、燃料圧力の振幅が閾値よりも高いときに、ベーパの発生状態であると判断する内燃機関の燃料供給制御装置。
上記構成によると、燃料供給配管内にベーパが発生すると(ベーパ量が増えると)、燃料圧力の振幅が大きくなることから、燃料圧力の振幅が閾値よりも高いときに、ベーパの発生状態であると判断する。
【0078】
(ハ)請求項(ロ)記載の内燃機関の燃料供給制御装置において、
前記ベーパ検出手段が、燃料圧力が高いほど前記閾値をより高く変更する内燃機関の燃料供給制御装置。
上記構成によると、燃料圧力(平均圧力)が高い場合には、ベーパの非発生状態での燃料圧力の振幅が大きくなるので、この燃料圧力が高いことによる振幅の増大と、ベーパ発生による振幅の増大とを区別できるように、燃料圧力が高いほど、燃圧振幅の閾値をより高く設定する。
【0079】
(ニ)請求項1〜3のいずれか1つに記載の内燃機関の燃料供給制御装置において、
前記目標変更手段が、目標値の高圧側への補正量を、燃料温度,機関温度,燃料性状,燃料タンク内の圧力のうちの少なくとも1つに基づいて可変に設定する内燃機関の燃料供給制御装置。
上記構成によると、ベーパ発生量(ベーパの発生し易さ)に影響する燃料温度,機関温度,燃料性状,燃料タンク内の圧力などに基づいて、ベーパを押し潰す(除去する)ための目標燃圧の補正量を設定することで、目標燃圧が過剰に高く補正されることを抑制しつつ、ベーパを押し潰し(除去)を図ることができる。
【0080】
(ホ)請求項1記載の内燃機関の燃料供給制御装置において、
前記ベーパ検出手段が、
前記燃圧センサが検出した燃料の圧力と操作量とに基づいてベーパ発生の有無を判断する第1検出手段と、
前記燃圧センサが検出した燃料の圧力の振幅に基づいてベーパ発生の有無を判断する第2検出手段と、
を含み、
前記目標変更手段が、前記第1検出手段と第2検出手段との少なくとも一方がベーパの発生を判断したときに、前記目標値をより高圧側に変更する内燃機関の燃料供給制御装置。
上記構成によると、燃料の圧力と操作量とに基づいて燃料ポンプ内におけるベーパ発生を検出した場合、及び/又は、燃料の圧力の振幅に基づいて燃料供給配管内におけるベーパ発生を検出した場合に、燃料圧力の目標値をより高圧側に変更することで、ベーパを押し潰して除去する。
【符号の説明】
【0081】
1…内燃機関(エンジン)、3…燃料噴射弁、11…燃料タンク、12…燃料ポンプ、14…圧力調整弁(プレッシャレギュレータ)、15…燃料ギャラリー配管、16…燃料供給配管、17…燃料戻し配管、30…FPCM(フューエル・ポンプ・コントロール・モジュール)、31…ECM(エンジン・コントロール・モジュール)、33…燃圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ポンプが吐出する燃料の圧力を検出する燃圧センサの出力信号を入力し、該出力信号に基づき検出した燃料の圧力が目標値に近づくように、前記燃料ポンプの操作量を演算して出力する内燃機関の燃料供給制御装置であって、
前記燃圧センサが検出した燃料の圧力に基づいてベーパ発生の有無を判断するベーパ検出手段と、
前記ベーパ検出手段がベーパの発生を判断したときに、前記目標値をより高圧側に変更する目標変更手段と、
を備えた内燃機関の燃料供給制御装置。
【請求項2】
前記ベーパ検出手段が、前記燃圧センサが検出した燃料の圧力と前記操作量とに基づいてベーパ発生の有無を判断する請求項1記載の内燃機関の燃料供給制御装置。
【請求項3】
前記ベーパ検出手段が、前記燃圧センサが検出した燃料の圧力の振幅に基づいてベーパ発生の有無を判断する請求項1記載の内燃機関の燃料供給制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−196274(P2011−196274A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64856(P2010−64856)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】