説明

内燃機関の燃料噴射時期決定装置

【課題】 着火時期予測順モデルを利用して燃料噴射時期と予測着火時期との関係を精度良く近似することで、その近似関係と目標着火時期とに基づいて予測着火時期を目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を精度良く決定できる燃料噴射時期決定装置の提供。
【解決手段】 この装置は、第1噴射時期d1を、所定の手法により設定された燃料噴射時期と予測着火時期との3つの関係に対応する3点c1,c2,c3を通る仮の近似2次曲線z1から得られる仮の燃料噴射時期CAinj1そのものに設定し、第2、第3噴射時期d2,d3を、目標とする燃料噴射時期近傍の時期となるように設定する。ここで、近似曲線の精度は、近似曲線を構成する燃料噴射時期が目標燃料噴射時期に近いほど高い。従って、これらの燃料噴射時期と予測着火時期との3つの関係に対応する3点f1,f2,f3を通る近似2次曲線z2を使用して、燃料噴射時期CAinjが精度良く求められ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合気の着火時期を目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を決定する内燃機関の燃料噴射時期決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関等、圧縮による自己着火により混合気が着火する(燃焼を開始する)内燃機関においては、機関の運転状態に応じて目標着火時期を決定し、実際の着火時期が目標着火時期に一致する(近づく)ように着火時期を適切に制御する必要がある。このためには、着火時期を正確に予測する必要がある。着火時期を予測する手法としては種々のものが知られている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2002−221071号公報
【0003】
ところで、本発明者は、流体力学等に基づく式等を利用して着火時期を予測するモデル(着火時期予測モデル)を使用して着火時期を精度良く予測する試みを行っている(例えば、特願2004−32948号、特願2004−32950号等を参照)。この着火時期予測モデルは、少なくとも燃料噴射時期を含む複数のパラメータ(エンジン回転速度等)を引数とするものである。
【0004】
従って、着火時期予測モデルを利用して予測される着火時期(以下、「予測着火時期」と称呼する。)を目標着火時期に一致させるための燃料噴射時期を決定するためには、理論的には、着火時期予測モデルの逆モデルを解く必要がある。着火時期予測モデルの逆モデルとは、目標着火時期と、燃料噴射時期以外の残りのパラメータを引数とする、予測着火時期を目標着火時期に一致させるための燃料噴射時期を求めるモデルである。
【0005】
しかしながら、この着火時期予測モデルの逆モデルを解いて燃料噴射時期を求めることは実際には非常に困難である。従って、着火時期予測モデルの逆モデルを用いることなく、予測着火時期を目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を簡易、且つ精度良く決定することが望まれていたところである。
【発明の開示】
【0006】
そこで、本発明者は、燃料噴射時期と予測着火時期との関係が大略的に2次曲線で近似できることに基づいて、燃料噴射時期をX軸(横軸)に、着火時期をY軸(縦軸)にとった場合において、X−Y座標上に着火時期予測モデルの引数値としての燃料噴射時期である噴射時期引数値と予測着火時期との3つの関係にそれぞれ対応する3つの点を利用して数学的手法により燃料噴射時期と予測着火時期との関係を近似する近似2次曲線を求め、燃料噴射時期を、近似2次曲線に基づいて得られる目標着火時期に対応する燃料噴射時期に決定することで、着火時期予測モデルの逆モデルを用いることなく、予測着火時期を目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を容易に決定できる手法を考案した(例えば、特願2005−281413号を参照)。以下、その手法について図9を参照しながら説明する。
【0007】
先ず、内燃機関の運転状態としてのアクセル操作量、エンジン回転数等に基づいて目標着火時期CAigtを決定する。次に、所定の第1噴射時期引数値a1を設定し、この第1噴射時期引数値a1と燃料噴射時期以外のパラメータの引数値と上記着火時期予測モデル(の順モデル)とに基づいて、第1噴射時期引数値a1に対応する第1予測着火時期b1を求める。これにより、近似2次曲線z1を得るための1番目の点c1が決定される。
【0008】
次いで、第2噴射時期引数値a2を、第1噴射時期引数値a1に目標着火時期CAigtと第1予測着火時期b1の差δ1を加えることで第1噴射時期引数値a1と異なるように設定し、この第2噴射時期引数値a2と燃料噴射時期以外のパラメータの引数値と上記着火時期予測モデルとに基づいて、第2噴射時期引数値a2に対応する第2予測着火時期b2を求める。これにより、近似2次曲線z1を得るための2番目の点c2が決定される。
【0009】
続いて、第3噴射時期引数値a3を、第2噴射時期引数値a2に目標着火時期CAigtと第2予測着火時期b2の差δ2を加えることで第1、第2噴射時期引数値a1,a2と異なるように設定し、この第3噴射時期引数値a3と燃料噴射時期以外のパラメータの引数値と上記着火時期予測モデルとに基づいて、第3噴射時期引数値a3に対応する第3予測着火時期b3を求める。これにより、近似2次曲線z1を得るための3番目の点c3が決定される。
【0010】
このように、第2、第3噴射時期引数値a2,a3は、第2、第3予測着火時期b2,b3が上記目標着火時期CAigtに近づくように設定される。そして、点c1,c2,c3を通る近似2次曲線z1を数学的に求め、この近似2次曲線z1と、上記決定された目標着火時期CAigtとから、目標着火時期CAigtに対応する燃料噴射時期CAinj1を求める。
【0011】
ここで、一般に、第1、第2、第3予測着火時期b1,b2,b3が、上記目標着火時期CAigtに近いほど、近似2次曲線z1の精度が高い。換言すれば、第1、第2、第3噴射時期引数値a1,a2,a3が、着火予測モデルの引数値とした場合に予測される予測着火時期が目標着火時期CAigtと一致する燃料噴射時期(即ち、着火時期予測モデルの逆モデルを用いたと仮定した場合に求められる、予測着火時期を目標着火時期CAigtに一致させるための燃料噴射時期、以下、「目標燃料噴射時期」と称呼する。)に近いほど、近似2次曲線z1の精度が高い。
【0012】
従って、上述の手法により燃料噴射時期を決定する場合において、上記第1噴射時期引数値a1が、上記目標燃料噴射時期から大きく乖離した値に設定される場合、第2、第3噴射時期引数値a2,a3は、第1噴射時期引数値a1よりも目標燃料噴射時期に近づき得るものの、第1、第2、第3噴射時期引数値a1,a2,a3が全体として目標燃料噴射時期から大きく乖離するため、近似2次曲線z1の精度が低い。
【0013】
従って、この場合、上記燃料噴射時期CAinj1が上記目標燃料噴射時期から大きく偏移した値に決定される。即ち、上記燃料噴射時期CAinj1に対応する予測着火時期CAig1(具体的には、引数値を燃料噴射時期CAinj1とした場合の着火時期予測モデルに基づいて決定される予測着火時期CAig1)が、上記決定された目標着火時期CAigtから大きくずれる。以上のことから、着火時期予測モデルの逆モデルを利用することなく、着火時期予測モデルの順モデルを利用して求められる噴射時期引数値と予測着火時期との関係を近似する近似関係に基づいて予測着火時期を目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を求める場合において、この燃料噴射時期を精度良く決定することがなおも望まれていたところである。
【0014】
従って、本発明の目的は、燃料噴射時期を含む複数のパラメータを引数とする着火時期を予測する着火時期予測モデルを備えるとともに、着火時期予測モデルの逆モデルを用いることなく予測着火時期を目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を精度良く決定できる内燃機関の燃料噴射時期決定装置を提供することにある。
【0015】
本発明に係る燃料噴射時期決定装置は、少なくとも燃料噴射時期を含む複数のパラメータを引数とする着火時期予測モデルを使用して内燃機関の着火時期の予測値である予測着火時期を予測する着火時期予測手段と、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記着火時期の目標値である目標着火時期を決定する目標着火時期決定手段とを備える。
【0016】
本発明に係る燃料噴射時期決定装置の特徴は、前記着火時期予測モデルの引数値として使用される前記燃料噴射時期である噴射時期引数値としての第1仮噴射時期引数値、第2仮噴射時期引数値、及び第3仮噴射時期引数値を前記第1、第2、及び第3仮噴射時期引数値が全て異なる値となるように設定する仮噴射時期引数値設定手段と、前記第1仮噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第1仮予測着火時期と前記第2仮噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第2仮予測着火時期と前記第3仮噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第3仮予測着火時期とを取得するとともに前記第1仮噴射時期引数値と前記第1仮予測着火時期との関係と前記第2仮噴射時期引数値と前記第2仮予測着火時期との関係と前記第3仮噴射時期引数値と前記第3仮予測着火時期との関係との3つの関係から前記燃料噴射時期と前記着火時期との関係を近似する仮の2次の近似関係を求め前記仮の2次の近似関係と前記目標着火時期とに基づいて前記噴射時期引数値としての第1噴射時期引数値を設定する噴射時期引数値設定手段と、前記第1噴射時期引数値と前記第1噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第1予測着火時期との関係と前記目標着火時期とに基づいて前記予測着火時期を前記目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を決定する燃料噴射時期決定手段とを備えたことにある。なお、本明細書では、「燃料噴射時期」、及び「着火時期」はそれぞれ、「燃料噴射開始時期」、及び「着火開始時期」を意味するものとする。
【0017】
これによれば、上述した手法により上記近似2次曲線z1と上記目標着火時期CAigtとから上記目標着火時期CAigtに対応する上記燃料噴射時期CAinj1が求められるのと同様、第1噴射時期引数値が、仮の2次の近似関係と目標着火時期とから目標着火時期に対応する燃料噴射時期そのものに設定される。従って、第1噴射時期引数値が、第1仮噴射時期引数値に比して、上記目標燃料噴射時期近傍の時期に推移し得、第1予測着火時期も目標着火時期近傍の時期に推移し得る。
【0018】
第1噴射時期引数値と第1予測着火時期との関係の他に、着火時期予測モデルを用いて、噴射時期引数値と噴射時期引数値に対応する予測着火時期との関係が1つ以上求められる場合、これらの関係を利用して、現時点での内燃機関の運転状態における燃料噴射時期と着火時期との関係を近似する、仮の2次の近似関係とは別の近似関係を求めることができる。ここで、上記近似関係を構成する噴射時期引数値が、上記目標燃料噴射時期近傍の或る時期に設定されることで、上記近似関係を、燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似するものとすることができる。
【0019】
具体的には、例えば、燃料噴射時期をX軸(横軸)に、着火時期をY軸(縦軸)にとった場合、先ず、X−Y座標上に第1、第2、第3仮噴射時期引数値と第1、第2、第3仮予測着火時期との3つの関係にそれぞれ対応する3つの点を利用して数学的手法により燃料噴射時期と着火時期との関係を近似する仮の近似2次曲線を求め、第1噴射時期引数値を、この仮の近似2次曲線と目標着火時期とから仮の近似2次曲線に基づいて得られる目標着火時期に対応する燃料噴射時期そのものに設定する。これにより、第1噴射時期引数値を、上記目標燃料噴射時期近傍の或る時期に設定することができる。
【0020】
次に、第1噴射時期引数値と第1予測着火時期との関係に対応する点と、第1噴射時期引数値とは異なる上記目標燃料噴射時期近傍の或る時期に設定される噴射時期引数値と、その噴射時期引数値に対応する予測着火時期との1つ以上の関係にそれぞれ対応する1つ以上の点を利用して、数学的手法により燃料噴射時期と着火時期との関係を近似する、仮の近似2次曲線とは別の近似線を求める。これにより、全ての噴射時期引数値が、上記目標燃料噴射時期近傍の時期に設定され得るから、近似線を、燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似するものとすることができる。
【0021】
そして、この仮の2次の近似関係(仮の近似2次曲線)とは別の近似関係(近似線)と、目標着火時期とから、近似関係に基づいて得られる目標着火時期に対応する燃料噴射時期を精度良く求めることができる。
【0022】
また、第1噴射時期引数値と第1予測着火時期との関係のみが求められる場合であっても、例えば、第1予測着火時期が目標着火時期に非常に近いときには、燃料噴射時期を第1噴射時期引数値そのものに設定することで、予測着火時期を目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を得ることができる。
【0023】
即ち、上記構成のように、上記目標燃料噴射時期近傍の或る時期に設定され得る第1噴射時期引数値と第1予測着火時期との関係と、目標着火時期とに基づいて、予測着火時期を目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を精度良く決定することができる。
【0024】
上記本発明に係る燃料噴射時期決定装置においては、前記燃料噴射時期決定手段が、前記第1予測着火時期と前記目標着火時期との差が所定値より小さい場合、前記燃料噴射時期を前記第1噴射時期引数値に決定するように構成されることが好適である。
【0025】
この場合、所定値は、例えば、燃料噴射時期を求める際に要求される計算精度に相当する誤差(許容誤差)に対応する値(例えば、許容誤差が±0.5CAである場合、所定値は1CA。CAはクランク角度)に設定される。これにより、第1予測着火時期と目標着火時期との差が所定値より小さい場合、第1噴射時期引数値と第1予測着火時期との1つの関係を利用するだけで(即ち、仮の2次の近似関係に係る噴射時期引数値と予測着火時期との関係の他に、第1噴射時期引数値と第1予測着火時期との関係とは別の噴射時期引数値と予測着火時期との関係を求めることなく)、計算負荷(具体的には、上記近似関係(近似線)を求める際の計算負荷)を減らしつつ、計算精度を下げることなく燃料噴射時期を精度良く決定することができる。
【0026】
加えて、前記噴射時期引数値設定手段は、前記第1予測着火時期と前記目標着火時期との差が前記所定値以上である場合、前記噴射時期引数値としての第2噴射時期引数値を前記第1噴射時期引数値と異なる値に設定し、前記燃料噴射時期決定手段が、前記第2噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第2予測着火時期を取得するとともに、前記目標着火時期が前記第1予測着火時期と前記第2予測着火時期との間にある場合、前記第1噴射時期引数値と前記第1予測着火時期との関係と前記第2噴射時期引数値と前記第2予測着火時期との関係との2つの関係から前記燃料噴射時期と前記着火時期との関係を近似する1次の近似関係を求め、前記燃料噴射時期を前記1次の近似関係に基づいて得られる前記目標着火時期に対応する燃料噴射時期に決定するように構成されることが好適である。
【0027】
上述したように、一般に、燃料噴射時期をX軸(横軸)に、着火時期をY軸(縦軸)にとった場合、燃料噴射時期と着火時期との関係は、X−Y座標上における2次曲線で近似できることが判っている。即ち、着火時期予測モデルにより得られる噴射時期引数値と予測着火時期との関係は2次曲線で近似できる。従って、第1噴射時期引数値と第1予測着火時期との関係と、それぞれ異なるいくつかの或る噴射時期引数値とそれらに対応する予測着荷時期との関係とに基づいて得られる近似関係も、仮の2次曲線とは別の2次曲線で近似できる。この2次曲線は、全ての噴射時期引数値が上記目標燃料噴射時期近傍の時期に設定されることで、燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似するものとなる。
【0028】
ここで、第1予測着火時期と目標着火時期との差が前記所定値以上である場合、燃料噴射時期を上述したように第1噴射時期引数値に設定することは、燃料噴射時期の誤差が上記許容誤差を超えることになるから好ましくない。他方、第1予測着火時期と目標着火時期との差が、前記所定値以上であっても、上記仮の2次曲線とは別の2次曲線上の、第1噴射時期引数値に対応する点と、第1噴射時期引数値とは異なり上記目標燃料噴射時期近傍の或る時期(即ち、上記第2噴射時期引数値)に対応する点とを通る直線が、目標着火時期を内挿する直線となる場合(従って、目標着火時期が第1予測着火時期と第2予測着火時期の間にある場合)、この直線は、上述した燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似する2次曲線における、第1噴射時期引数値に対応する点と第2噴射時期引数値に対応する点との間に対応する部分を精度良く近似する近似直線となり得る。従って、この場合、上記近似直線と、目標着火時期とから、近似直線に基づいて得られる目標着火時期に対応する燃料噴射時期を求めることができる。
【0029】
上記構成は係る知見に基づくものである。即ち、第1予測着火時期と目標着火時期との差が前記所定値以上である場合、第1噴射時期引数値と第1予測着火時期との関係とは別の第2噴射時期引数値と第2予測着火時期との関係が求められ、目標着火時期が第1予測着火時期と第2予測着火時期との間にある場合(即ち、これらの2つの関係に対応する2つの点を通る近似直線が、目標着火時期を内挿する直線となる場合)、2次の近似関係(上記2次曲線)を求めるまでもなく、第1噴射時期引数値と第1予測着火時期との関係と、その関係とは別の噴射時期引数値と予測着火時期との関係との2つの関係を利用するだけで、計算精度を下げることなく燃料噴射時期を精度良く決定することができる。
【0030】
この場合、例えば、前記噴射時期引数値設定手段は、前記第2噴射時期引数値を、前記第1噴射時期引数値に前記目標着火時期と前記第1予測着火時期との差を加えた値に設定するように構成され得る。
【0031】
これによれば、前記第2噴射時期引数値を、上記目標燃料噴射時期に近づけることができる。従って、上記近似直線を、燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似するものとすることができる。以上のことから、上記構成によれば、燃料噴射時期の計算精度を高くすることができる。
【0032】
更には、前記噴射時期引数値設定手段は、前記目標着火時期が前記第1予測着火時期と前記第2予測着火時期との間にない場合、前記噴射時期引数値としての第3噴射時期引数値を前記第1、第2、及び第3噴射時期引数値が全て異なる値となるように設定し、前記燃料噴射時期決定手段が、前記第3噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第3予測着火時期を取得するとともに、前記第1噴射時期引数値と前記第1予測着火時期との関係と前記第2噴射時期引数値と前記第2予測着火時期との関係と前記第3噴射時期引数値と前記第3予測着火時期との関係との3つの関係から前記燃料噴射時期と前記着火時期との関係を近似する2次の近似関係を求め、前記燃料噴射時期を前記2次の近似関係に基づいて得られる前記目標着火時期に対応する燃料噴射時期に決定するように構成されることが好適である。
【0033】
目標着火時期が第1予測着火時期と第2予測着火時期との間にない場合(即ち、目標着火時期が、上記2次曲線上の第1予測着火時期に対応する点と第2予測着火時期に対応する点との2点を通る直線で内挿されない場合)において、燃料噴射時期をこの2点を通る直線に基づいて決定する場合、目標着火時期をこの2点を通る直線で外挿することになる。この直線における上記外挿に係る部分は、上記2次曲線を近似する精度が低い。従って、この場合、燃料噴射時期の計算精度が低下する。他方、上述したように、着火時期予測モデルにより得られる噴射時期引数値と予測着火時期との関係は2次曲線で近似でき、この2次曲線は、全ての噴射時期引数値が上記目標燃料噴射時期近傍の時期に設定されることで、燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似するものとなる。また、3点を通る2次曲線は一意的に決定される。
【0034】
以上のことから、目標着火時期が第1予測着火時期と第2予測着火時期との間にない場合、上記構成のように、2次の近似関係(第1、第2、第3噴射時期引数値と第1、第2、第3予測着火時期の3つの関係に対応する3点を通る近似2次曲線)と、目標着火時期とから、近似2次曲線に基づいて得られる目標着火時期に対応する燃料噴射時期を求めることができる。換言すれば、第1噴射時期引数値と第1予測着火時期との関係と、その関係とは別の2つの噴射時期引数値と予測着火時期との関係との、3つの関係を利用することで、燃料噴射時期を精度良く決定することができる。
【0035】
なお、上記近似2次曲線においては、第1噴射時期引数値a1が、上記目標燃料噴射時期近傍の時期に設定されているため、第2,第3噴射時期引数値a2,a3が、上記目標燃料噴射時期近傍にそれぞれ設定されることで、近似2次曲線が、燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似するものとなる。このようにして得られる近似2次曲線が目標着火時期を内挿するか、又は、外挿するかにかかわらず、同近似2次曲線に基づいて燃料噴射時期を精度良く決定することができる。
【0036】
この場合、例えば、前記噴射時期引数値設定手段は、前記第3噴射時期引数値を、前記第1噴射時期引数値に前記目標着火時期と前記第1予測着火時期との差に「2」を乗じた値を加えた値に設定するように構成され得る。これによれば、前記第3噴射時期引数値を、簡易に上記目標燃料噴射時期近傍の或る時期に設定することができる。従って、第2噴射時期引数値をも上記目標燃料噴射時期近傍の或る時期に設定することで、上記構成により、近似2次曲線の高い精度を維持しつつ、近似2次曲線を得る上での第3の点を簡易に設定することができる。
【0037】
また、上記本発明に係る噴射時期決定装置においては、前記仮噴射時期引数値設定手段が、前記第1、第2、及び第3仮噴射時期引数値として、前記仮の2次の近似関係において前記目標着火時期よりも早い前記着火時期に対応する前記燃料噴射時期である第1所定時期、前記仮の2次の近似関係において前記目標着火時期よりも遅い前記着火時期に対応する前記燃料噴射時期である第2所定時期、及び前記第1所定時期と前記第2所定時期との間の前記燃料噴射時期をそれぞれ用いるように構成されてもよい。これによれば、上記第1噴射時期引数値を求めるために使用される仮の近似2次曲線を、目標着火時期を確実に内挿するものとすることができる。
【0038】
この場合、例えば、前記仮噴射時期引数値設定手段が、前記第1所定時期として、内燃機関の設計諸元等に基づいて予め設定される目標着火時期が決定され得る期間内の最進角側の着火時期であって、内燃機関の運転状態に応じて変動する着火時期のうち最も早い時期に対応する燃料噴射時期を用い、前記第2所定時期として、同期間内の最遅角側の着火時期であって、内燃機関の運転状態に応じて変動する着火時期のうち最も遅い時期を用い、前記第3仮噴射時期引数値として、前記第1所定時期と前記第2所定時期の中央の時期を用いるように構成されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明による内燃機関(ディーゼル機関)の燃料噴射時期決定装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0040】
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関の燃料噴射時期決定装置を含んだ燃料噴射制御装置を4気筒内燃機関(ディーゼル機関)10に適用したシステム全体の概略構成を示している。このシステムは、燃料供給系統を含むエンジン本体20、エンジン本体20の各気筒の燃焼室(筒内)にガスを導入するための吸気系統30、エンジン本体20からの排ガスを放出するための排気系統40、排気還流を行うためのEGR装置50、及び電気制御装置60を含んでいる。
【0041】
エンジン本体20の各気筒の上部には燃料噴射弁(噴射弁、インジェクタ)21が配設されている。各燃料噴射弁21は、図示しない燃料タンクと接続された燃料噴射用ポンプ22に燃料配管23を介して接続されている。燃料噴射用ポンプ22は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、電気制御装置60からの駆動信号(後述する指令燃料噴射圧力に応じた指令信号)により燃料の実際の噴射圧力(噴射圧力Pf)が指令燃料噴射圧力になるように同燃料を昇圧するようになっている。
【0042】
これにより、燃料噴射弁21には、燃料噴射用ポンプ22から指令燃料噴射圧力まで昇圧された燃料が供給されるようになっている。また、燃料噴射弁21は、電気制御装置60と電気的に接続されていて、電気制御装置60からの駆動信号(指令燃料噴射量(質量)Qfinに応じた指令信号)により噴射期間だけ開弁し、これにより各気筒の燃焼室内に指令燃料噴射圧力にまで昇圧された燃料を指令燃料噴射量Qfinだけ直接噴射するようになっている。
【0043】
吸気系統30は、エンジン本体20の各気筒の燃焼室にそれぞれ接続された吸気マニホールド31、吸気マニホールド31の上流側集合部に接続され吸気マニホールド31とともに吸気通路を構成する吸気管32、吸気管32内に回動可能に保持されたスロットル弁33、電気制御装置60からの駆動信号に応答してスロットル弁33を回転駆動するスロットル弁アクチュエータ33a、スロットル弁33の上流において吸気管32に順に介装されたインタクーラー34と過給機35のコンプレッサ35a、及び吸気管32の先端部に配設されたエアクリーナ36とを含んでいる。
【0044】
排気系統40は、エンジン本体20の各気筒にそれぞれ接続された排気マニホールド41、排気マニホールド41の下流側集合部に接続された排気管42、排気管42に配設された過給機35のタービン35b、及び排気管42に介装されたディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPNR」と称呼する。)43を含んでいる。排気マニホールド41及び排気管42は排気通路を構成している。
【0045】
EGR装置50は、排気ガスを還流させる通路(EGR通路)を構成する排気還流管51と、排気還流管51に介装されたEGR制御弁52と、EGRクーラー53とを備えている。排気還流管51はタービン35bの上流側排気通路(排気マニホールド41)とスロットル弁33の下流側吸気通路(吸気マニホールド31)を連通している。EGR制御弁52は電気制御装置60からの駆動信号に応答し、再循環される排気ガス量(排気還流量、EGRガス流量)を変更し得るようになっている。
【0046】
電気制御装置60は、互いにバスで接続されたCPU61、CPU61が実行するプログラム、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、及び定数等を予め記憶したROM62、CPU61が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM63、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM64、並びにADコンバータを含むインターフェース65等からなるマイクロコンピュータである。
【0047】
インターフェース65は、吸気管32に配置された熱線式エアフローメータ71、スロットル弁33の下流であって排気還流管51が接続された部位よりも下流の吸気通路に設けられた吸気温センサ72、スロットル弁33の下流であって排気還流管51が接続された部位よりも下流の吸気通路に配設された吸気管圧力センサ73、クランクポジションセンサ74、アクセル開度センサ75、燃料噴射用ポンプ22の吐出口の近傍の燃料配管23に配設された燃料噴射圧力センサ76、スロットル弁33の下流であって排気還流管51が接続された部位よりも下流の吸気通路に配設された吸気酸素濃度センサ77、水温センサ78、及びDPNR43の下流の排気管42に設けられた排気温度センサ79と接続されていて、これらのセンサからの信号をCPU61に供給するようになっている。
【0048】
また、インターフェース65は、燃料噴射弁21、燃料噴射用ポンプ22、スロットル弁アクチュエータ33a、及びEGR制御弁52と接続されていて、CPU61の指示に応じてこれらに駆動信号を送出するようになっている。
【0049】
熱線式エアフローメータ71は、吸気通路内を通過する吸入空気の質量流量(単位時間当りの吸入空気量、単位時間あたりの新気量)を計測し、質量流量(空気流量)を表す信号を発生するようになっている。吸気温センサ72は、内燃機関10のシリンダ(即ち、燃焼室、筒内)に吸入されるガスの温度(即ち、吸気温度)を検出し、吸気温度Tbを表す信号を発生するようになっている。吸気管圧力センサ73は、内燃機関10のシリンダに吸入されるガスの圧力(即ち、吸気管圧力)を検出し、吸気管圧力Pbを表す信号を発生するようになっている。
【0050】
クランクポジションセンサ74は、各気筒の絶対クランク角度を検出し、内燃機関10の回転速度であるエンジン回転速度NEをも表す信号を発生するようになっている。アクセル開度センサ75は、アクセルペダルAPの操作量を検出し、アクセル開度Accpを表す信号を発生するようになっている。燃料噴射圧力センサ76は、燃料配管23内の燃料の圧力を検出し、噴射圧力Pfを表す信号を発生するようになっている。吸気酸素濃度センサ77は、吸気中の酸素濃度を検出し、吸気酸素濃度RO2inを表す信号を発生するようになっている。水温センサ78は、冷却水温を検出し、冷却水温THWを表す信号を発生するようになっている。排気温度センサ79は、排気温度を検出し、排気温度Texを表す信号を発生するようになっている。
【0051】
(燃焼室内における混合気の進行の概要)
次に、上記のように構成された燃料噴射時期決定装置を含んだ燃料噴射制御装置(以下、「本装置」と云う。)が扱う混合気の燃焼室内における混合気の進行の様子について図2を参照しながら説明する。
【0052】
図2に示したように、燃焼室は、シリンダヘッドと、円筒状のシリンダ内壁面と、ピストン24とにより画定されている。燃焼室内に吸入されるガスには、吸気管32の先端部からスロットル弁33を介して吸入された新気と、排気還流管51からEGR制御弁52を介して吸入されたEGRガスが含まれる。吸入される新気量(新気質量)と吸入されるEGRガス量(ガス質量)の和に対するEGRガス量の割合(EGR率)は、運転状態に応じて電気制御装置60(CPU61)により適宜制御されるスロットル弁33の開度、及びEGR制御弁52の開度に応じて変化する。
【0053】
かかる新気、及びEGRガスは、吸気行程において開弁している吸気弁Vinを介してピストン24の下降に伴って燃焼室内に吸入されて筒内ガスとなる。筒内ガスは、ピストンが圧縮下死点に達する時点近傍で吸気弁Vinが閉弁することにより燃焼室内に密閉され、その後の圧縮行程においてピストンの上昇に伴って圧縮される。
【0054】
そして、ピストンが圧縮上死点近傍に達すると(具体的には、後述する燃料噴射時期(クランク角度)CAinjが到来すると)、本装置は、指令燃料噴射量Qfinに応じた噴射期間だけ燃料噴射弁21を開弁することで燃料を燃焼室内に直接噴射する。ここで、燃料噴射弁21は、その軸心がシリンダの軸心と一致するようにシリンダヘッドに固定配置されていて、その噴孔から噴射された液体の(液滴)燃料は、燃焼室内においてシリンダの軸心を中心軸として円錐状に拡散していくようになっている。
【0055】
この結果、噴射された燃料は、時間の経過に伴って筒内ガスを取り込みながら混合気となって燃焼室内において円錐状に拡散していく。本装置は、係る混合気の着火時期を目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を決定するものである。
【0056】
(燃料噴射時期の決定方法の概要)
次に、本装置による燃料噴射時期(クランク角度)CAinjの決定方法について説明する。本装置は、流体力学等に基づく式等を利用して着火時期を予測するモデル(着火時期予測(順)モデル)を備えている。この種の着火時期予測順モデルについては、例えば、上述した特願2004−32948号、特願2004−32950号に詳述されているから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0057】
本例にて使用される着火時期予測順モデルは、燃料噴射時期に加えて、吸気酸素濃度RO2in、エンジン回転速度NE、吸気温度Tb、冷却水温THW、排気温度Tex、吸気管圧力Pb、指令燃料噴射量Qfin、噴射圧力Pfの8つのパラメータ(以下、「残りの8つのパラメータ」と称呼することもある。)を引数として使用する。この着火時期予測順モデルは、これら9つのパラメータの引数値に基づいて燃料噴射時期以降の混合気の温度を微小時間毎に逐次計算していき、混合気温度が所定の着火温度に達する時期を予測着火時期として求める(予測する)モデルである。この着火時期予測順モデルを用いて予測着火時期を求める手段が着火時期予測手段に対応する。
【0058】
この予測着火時期を目標着火時期CAigtに一致させるための燃料噴射時期CAinjである目標燃料噴射時期を決定するためには、この着火時期予測順モデルから導かれる逆モデルを解く必要がある。この逆モデルとは、目標着火時期CAigtと、「残りの8つのパラメータ」とを引数とする、予測着火時期を目標着火時期CAigtに一致させるための燃料噴射時期CAinjを求めるモデルである。
【0059】
しかしながら、上述したように、この着火時期予測順モデルは、混合気温度を逐次計算することで予測着火時期を求めるものであるため、その逆モデルを解いて目標燃料噴射時期を求めることは実際には非常に困難である。
【0060】
従って、本装置は、逆モデルを用いることなく、燃料噴射時期についての複数の引数値と、着火時期予測順モデルとから、燃料噴射時期についての各引数値に対応する予測着火時期をそれぞれ求めることで得られる、燃料噴射時期と予測着火時期との複数の関係に対応する複数のプロット点を求める。そして、この複数のプロット点を利用して燃料噴射時期と予測着火時期との関係を近似する近似線を数学的手法により求め、この近似線と、目標着火時期CAigtとから、現時点での運転状態における目標着火時期CAigtに対応する燃料噴射時期CAinjを求める。
【0061】
本装置は、原則的に、この原理を使用して燃料噴射時期CAinjを求める。その際、燃料噴射時期と予測着火時期との関係を精度良く近似する近似線を得るために使用されるプロット点(具体的には、燃料噴射時期についての複数の引数値)を如何に設定するかが問題となる。以下、図3を参照しながら、本装置によるプロット点の設定の方法、及び燃料噴射時期CAinjの求め方について説明する。
【0062】
ところで、燃料噴射時期と予測着火時期との関係は、大略的には2次曲線で近似できることが判っている。従って、本装置は、図3に示すように、先ず、仮の近似2次曲線z1を得るための3点(具体的には、燃料噴射時期についての互いに異なる3つの仮の引数値)を後述するように設定する。以下、燃料噴射時期についての1番目、2番目、3番目の仮の引数値をそれぞれ、第1、第2、第3仮噴射時期a1,a2,a3と呼ぶものとする。
【0063】
先ず、第1仮噴射時期a1は、内燃機関10の設計諸元等に基づいて予め設定されている目標着火時期CAigtが決定され得る期間内の最進角側の着火時期であって、内燃機関10の運転状態に応じて変動する着火時期のうち最も早い時期に対応する燃料噴射時期CA1(例えば、ATDC−90°CA。前記第1所定時期)に設定される。この第1仮噴射時期a1(=CA1)と、残りの8つのパラメータの引数値と、着火時期予測順モデルとから、第1仮噴射時期a1に対応する予測着火時期(以下、「第1仮予測着火時期b1」と呼ぶ。)を求めることができる。即ち、仮の近似2次曲線z1を得るための3点のうちの1番目の点c1が決定される。
【0064】
第2仮噴射時期a2は、内燃機関10の設計諸元等に基づいて予め設定されている目標着火時期CAigtが決定され得る期間内の最遅角側の着火時期であって、内燃機関10の運転状態に応じて変動する着火時期のうち最も遅い時期に対応する燃料噴射時期CA2(例えば、ATDC0°CA。前記第2所定時期)に設定される。この第2仮噴射時期a2(=CA2)と、残りの8つのパラメータの引数値と、着火時期予測順モデルとから、第2仮噴射時期a2に対応する予測着火時期(以下、「第2仮予測着火時期b2」と呼ぶ。)を求めることができる。即ち、仮の近似2次曲線z1を得るための2番目の点c2が決定される。
【0065】
第3仮噴射時期a3は、第1仮噴射時期a1と第2仮噴射時期a2の間の時期(本例では、a1とa2の中央の時期)に設定される。この第3仮噴射時期a3(=(a1+a2)/2)と、残りの8つのパラメータの引数値と、着火時期予測順モデルとから、第3仮噴射時期a3に対応する予測着火時期(以下、「第3仮予測着火時期b3」と呼ぶ。)を求めることができる。即ち、仮の近似2次曲線z1を得るための3番目の点c3が決定される。
【0066】
このように決定された3点c1,c2,c3を通る2次曲線を数学的に求めることで、図3の実線で示すように、燃料噴射時期と予測着火時期との関係を近似するとともに、目標着火時期CAigtを必ず内挿する仮の近似2次曲線z1を得ることができる。このように、第1、第2、第3仮噴射時期a1,a2,a3を求める手段が仮噴射時期引数値設定手段に対応する。
【0067】
そして、本装置は、上述のように得られる仮の近似2次曲線z1と、目標着火時期CAigtとから、現時点での運転状態における目標着火時期CAigtに対応する仮の燃料噴射時期CAinj1を求める。ここで、第1仮噴射時期a1又は第2仮噴射時期a2は、上記目標燃料噴射時期から大きく乖離した値となる場合が多い。従って、この場合、仮の近似2次曲線z1は、真の燃料噴射時期と着火時期との関係を表す線(図3の破線を参照)からずれる。この結果、上記求められた仮の燃料噴射時期CAinj1は、上記目標燃料噴射時期からずれる。
【0068】
一方、仮の燃料噴射時期CAinj1は、上記目標燃料噴射時期からずれてはいるものの、上記目標燃料噴射時期近傍に推移し得る。そこで、本装置は、この上記目標燃料噴射時期近傍に推移し得る仮の燃料噴射時期CAinj1を利用することで、上記仮の近似2次曲線z1とは別の、燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似する近似2次曲線z2を求め、原則的に、近似2次曲線z2と目標着火時期CAigtとから、現時点での運転状態における目標着火時期CAigtに対応する仮の燃料噴射時期CAinj1を求める。
【0069】
即ち、本装置は、図3に示すように、近似2次曲線z2を得るための3点(具体的には、燃料噴射時期についての互いに異なる3つの引数値)を後述するように設定する。以下、燃料噴射時期についての1番目、2番目、3番目の引数値をそれぞれ、第1、第2、第3噴射時期d1,d2,d3と呼ぶものとする。
【0070】
先ず、第1噴射時期d1は、上記求められた仮の燃料噴射時期CAinj1そのものに設定する。これにより、第1噴射時期d1は、上記目標燃料噴射時期近傍の時期に設定される。この第1噴射時期d1(=CAinj1)と、残りの8つのパラメータの引数値と、着火時期予測順モデルとから、第1噴射時期d1に対応する予測着火時期(以下、「第1予測着火時期e1」と呼ぶ。)を求めることができる。即ち、近似2次曲線z2を得るための1番目の点f1が決定される。
【0071】
第2噴射時期d2は、第1噴射時期d1に、目標着火時期CAigtと第1予測着火時期e1との差δを加えた値に設定される(d2=d1+δ)。これにより、第2噴射時期d2は、第1噴射時期d1から上記目標燃料噴射時期へ近づく方向に設定される。なお、この差δは、仮の燃料噴射時期CAinj1(=第1噴射時期d1)の上記目標燃料噴射時期からの偏移の程度に対応する。この第2噴射時期d2と、残りの8つのパラメータの引数値と、着火時期予測順モデルとから、第2噴射時期d2に対応する予測着火時期(以下、「第2予測着火時期e2」と呼ぶ。)を求めることができる。即ち、近似2次曲線z2を得るための2番目の点f2が決定される。
【0072】
第3噴射時期d3は、第1噴射時期d1に、目標着火時期CAigtと第1予測着火時期e1との差δに「2」を乗じた値を加えた値に設定される。(d3=d1+(2・δ))。この第3噴射時期d3と、残りの8つのパラメータの引数値と、着火時期予測順モデルとから、第3噴射時期d3に対応する予測着火時期(以下、「第3予測着火時期e3」と呼ぶ。)を求めることができる。即ち、近似2次曲線z2を得るための3番目の点f3が決定される。
【0073】
以上のように、第1、第2、第3噴射時期d1,d2,d3が、上記目標燃料噴射時期近傍に設定され得(従って、第1、第2、第3予測着火時期e1,e2,e3が、上記目標着火時期CAigtに設定され得)、これらに対応する3点f1,f2,f3を通る2次曲線を数学的に求めることで、図3の破線で示される上記真の燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似する近似2次曲線z2を得ることができる。このように、第1、第2、第3噴射時期d1,d2,d3を求める手段が噴射時期引数値設定手段に対応する。
【0074】
本装置は、通常、このようにして得られる近似2次曲線z2と、目標着火時期CAigtとから、現時点での運転状態における目標着火時期CAigtに対応する燃料噴射時期CAinjを求める(図3を参照)。なお、上述のように、近似2次曲線z2は燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似するものとなり得るため、このようにして得られる近似2次曲線z2が目標着火時期CAigtを内挿するか、又は、外挿するかにかかわらず、同近似2次曲線z2に基づいて燃料噴射時期CAinjを精度良く決定することができる。このようにして燃料噴射時期CAinjを決定する手段が燃料噴射時期決定手段に対応する。この結果、近似2次曲線z2を得るために使用する3点を決定するために、(仮の近似2次曲線z1を得るために使用する3点を決定するのを除いて)着火時期予測順モデルが3回使用される。
【0075】
ところで、図4に示すように、目標着火時期CAigtが、第1予測着火時期e1と第2予測着火時期e2の間にある場合について考える。この場合、2点f1,f2を通る直線yは、上記近似2次曲線z2における点f1と点f2の間に対応する部分を近似する近似直線となり得る。
【0076】
従って、この場合、本装置は、近似2次曲線z2の代わりの近似直線yと、目標着火時期CAigtとから、現時点での運転状態における目標着火時期CAigtに対応する燃料噴射時期CAinjを求める。これにより、点f3を求める必要がなくなるから、(仮の近似2次曲線z1を得るために使用する3点を決定するのを除いて)着火時期予測順モデルが使用される回数を3回から2回に減らすことができる。換言すれば、燃料噴射時期CAinjの計算精度を下げることなく、CPU61の計算負荷を減らすことができる。
【0077】
更には、図5に示すように、差δが、燃料噴射時期CAinjを求める際に要求される計算精度に相当する誤差に対応する値α(一定値。例えば、1°)より小さい場合、本装置は、燃料噴射時期CAinjを第1噴射時期d1(即ち、仮の燃料噴射時期CAinj1)そのものに設定する。これにより、点f3のみならず点f2をも求める必要がなくなるから、(仮の近似2次曲線z1を得るために使用する3点を決定するのを除いて)着火時期予測順モデルが使用される回数を3回から1回に減らすことができる。換言すれば、燃料噴射時期CAinjの計算精度を下げることなく、CPU61の計算負荷を更に減らすことができる。
【0078】
このように、噴射時期引数値と予測着火時期との関係に対応する点を用いて得られる近似関係(近似線)の次数は、最大で2次となる。即ち、2次より大きい次数での近似曲線を作成することなく燃料噴射時期と着火時期との関係を精度良く近似することができるから、上述の手法を用いることで、近似曲線を得るためのCPU61の計算負荷を低減しつつ、燃料噴射時期CAinjを精度良く決定することができる。
【0079】
以上のように、本装置は、先ず、3つの異なる仮噴射時期引数値と仮予測着火時期との関係に対応する3点c1,c2,c3を通る仮の近似2次曲線z1を求める。この3点c1,c2,c3は、仮の近似2次曲線z1が目標着火時期CAigtを必ず内挿するように設定される。仮の近似2次曲線z1と、目標着火時期CAigtとに基づいて仮の燃料噴射時期CAinj1を求め、この仮の燃料噴射時期CAinj1が上記目標燃料噴射時期近傍に推移することを利用して、第1噴射時期d1を仮の燃料噴射時期CAinj1そのものに設定する。そして、少なくとも第1噴射時期d1と第1予測着火時期e1との関係と、目標着火時期CAigtとに基づいて、着火時期予測順モデルにより得られる予測着火時期(即ち、実際の着火時期)を目標着火時期CAigtに近づけるための燃料噴射時期CAinjを決定する。
【0080】
加えて、本装置は、今回の燃料噴射時期CAinjについての上述した計算を、今回の筒内ガスの量が確定する今回の吸気弁Vinの閉弁時(即ち、筒内ガスが密閉された時点。)の直後に開始し、今回の燃料噴射時期CAinjとして決定され得る範囲内の最早時期が到来する前に今回の燃料噴射時期CAinjを決定する。以上が、本装置による燃料噴射時期の決定方法の概要である。
【0081】
(実際の作動)
次に、上記のように構成された実施形態に係る内燃機関の燃料噴射時期決定装置を含んだ燃料噴射制御装置の実際の作動について説明する。
【0082】
CPU61は、図6〜図8に一連のフローチャートにより示した燃料噴射時期を決定するためのルーチンを所定時間の経過毎に、気筒毎に、繰り返し実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPU61はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで吸気弁Vinが開状態から閉状態へと変化したか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ695に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0083】
いま、或る気筒において吸気弁Vinが開状態から閉状態へと変化したものとすると、CPU61はステップ605に進んだとき「Yes」と判定してステップ610に進み、アクセル開度Accpと、エンジン回転速度NEと、Accp及びNEとを引数とする目標着火時期CAigtを求める関数funcCAigtと、に基づいて目標着火時期CAigtを求める。このステップ610は、目標着火時期決定手段の一部に対応する。
【0084】
次に、CPU61はステップ615に進んで、内燃機関10が定常運転状態にあるか否かを判定する。本例では、定常運転状態として、上記残りの8つのパラメータの値及び目標着火時期CAigtの値における今回値と前回値の差の各々が対応する所定の閾値以下となる状態が採用される。
【0085】
いま、内燃機関10が定常運転状態にあるものとすると、CPU61はステップ615にて「Yes」と判定してステップ620に進み、(今回の)燃料噴射時期CAinjを前回の燃料噴射時期CAinjbと等しい時期に設定した後、ステップ695に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0086】
この処理は、内燃機関10が定常運転状態にある場合、予測着火時期(従って、実際の着火時期)を目標着火時期CAigtに近づけるための燃料噴射時期は今回と前回とで等しくなるという事実に基づく。これにより、燃料噴射時期CAinjを決定するために着火時期予測順モデルを使用する回数(従って、噴射時期引数値と予測着火時期との関係を求める回数)を「0」とすることができる。この結果、燃料噴射時期CAinjの計算精度を下げることなく、CPU61の計算負荷を減らすことができる。
【0087】
次に、内燃機関10が定常運転状態にない場合について説明する。この場合、CPU61はステップ615に進んだとき「No」と判定してステップ625,630,635に順に進み、第1、第2、第3仮噴射時期a1,a2,a3を、上記時期CA1,CA2,a1とa2の中央の値である値「(a1+a2)/2」にそれぞれ設定する。これらのステップ625,630,635は、仮噴射時期引数値設定手段の一部に対応する。
【0088】
次いで、CPU61はステップ640に進んで、第1、第2、第3仮噴射時期a1,a2,a3と、現時点での残りの8つのパラメータ値と、着火時期予測順モデルとから、第1、第2、第3仮予測着火時期b1,b2,b3を算出し、続くステップ645にて、点(a1,b1)と、点(a2,b2)、点(a3,b3)との3点を通る仮の近似2次曲線を決定する。
【0089】
続いて、CPU61はステップ650に進んで、この仮の近似2次曲線に基づいて目標着火時期CAigtに対応する(今回の)仮の燃料噴射時期CAinj1を求め、続くステップ655にて、第1噴射時期d1を上記仮の燃料噴射時期CAinj1と等しい時期に設定する。
【0090】
次に、CPU61は図7のステップ705に進んで、この第1噴射時期d1と、現時点での残りの8つのパラメータ値と、着火時期予測順モデルとから、第1予測着火時期e1を算出する。次いで、CPU61はステップ710に進んで、差δを、目標着火時期CAigtから第1予測着火時期e1を減じた値に設定し、続くステップ715にて、差δの絶対値が値α未満か否かを判定する。
【0091】
いま、差δの絶対値が値α未満であるものとすると(図5を参照)、CPU61はステップ715にて「Yes」と判定してステップ720に進み、(今回の)燃料噴射時期CAinjを上記設定された第1噴射時期d1(=(今回の)仮の燃料噴射時期CAinj1)と等しい時期に設定し、続くステップ725にて、今回の燃料噴射時期CAinjの値を前回の燃料噴射時期CAinjbとして格納した後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。この場合、(仮の近似2次曲線z1を得るために使用する3点を決定するのを除いて)燃料噴射時期CAinjを決定するために着火時期予測順モデルが1回使用されることになる。
【0092】
次に、差δの絶対値が値α以上である場合について説明する。この場合、CPU61はステップ715に進んだとき「No」と判定してステップ730に進み、第2噴射時期d2を第1噴射時期d1に差δを加えた値に設定する。
【0093】
次いで、CPU61はステップ735に進んで、この第2噴射時期d2と、現時点での残りの8つのパラメータ値と、着火時期予測順モデルとから、第2予測着火時期e2を算出し、続くステップ740に進んで、目標着火時期CAigtが第1予測着火時期e1と第2予測着火時期e2の間にあるか否かを判定する。
【0094】
いま、目標着火時期CAigtが第1予測着火時期e1と第2予測着火時期e2の間にあるものとすると(図4を参照)、CPU61はステップ740にて「Yes」と判定してステップ745に進み、点(d1,e1)と、点(d2,e2)との2点を通る近似直線を決定する。
【0095】
そして、CPU61はステップ750に進み、この近似直線に基づいて目標着火時期CAigtに対応する(今回の)燃料噴射時期CAinjを求め、続くステップ725にて、今回の燃料噴射時期CAinjの値を前回の燃料噴射時期CAinjbとして格納した後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。この場合、(仮の近似2次曲線z1を得るために使用する3点を決定するのを除いて)燃料噴射時期CAinjを決定するために着火時期予測順モデルが2回使用されることになる。
【0096】
次に、目標着火時期CAigtが第1予測着火時期e1と第2予測着火時期e2の間にない場合(図3を参照)について説明する。この場合、CPU61はステップ740に進んだとき「No」と判定してステップ755に進み、第3噴射時期d3を、第1噴射時期d1に差δに「2」を乗じた値を加えた値に設定する。これらのステップ640〜655,715,730,740,755が噴射時期引数値設定手段の一部に対応する。
【0097】
続いて、CPU61は図8のステップ805に進んで、この第3噴射時期d3と、現時点での残りの8つのパラメータ値と、着火時期予測順モデルとから、第3予測着火時期e3を算出し、続くステップ810にて、点(d1,e1)と、点(d2,e2)と、点(d3,e3)との3点を通る近似2次曲線を決定する。
【0098】
そして、CPU61はステップ815に進み、この近似2次曲線に基づいて目標着火時期CAigtに対応する(今回の)燃料噴射時期CAinjを求め、続くステップ820にて前述の処理を行った後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。この場合、(仮の近似2次曲線z1を得るために使用する3点を決定するのを除いて)燃料噴射時期CAinjを決定するために着火時期予測順モデルが3回使用されることになる。これらのステップ705,715,720,735,740,745,750,805〜815が燃料噴射時期決定手段の一部に対応する。
【0099】
以上、説明したように、本発明による燃料噴射時期決定装置の実施形態は、燃料噴射時期、及び残りの8つのパラメータを引数とする着火時期予測順モデルを備えている。この実施形態は、燃料噴射時期をX軸(横軸)に、予測着火時期(即ち、実際の着火時期)をY軸(縦軸)にとった場合、X−Y座標上に燃料噴射時期と予測着火時期との関係が2次の近似関係で近似できることに基づいて、先ず、第1、第2、第3仮噴射時期a1,a2,a3を、それぞれ異なる所定の時期に設定するとともに、着火時期予測モデルに基づいて第1、第2、第3仮噴射時期a1,a2,a3にそれぞれ対応する第1、第2、第3仮予測着火時期b1,b2,b3を計算する。これにより、燃料噴射時期と予測着火時期との関係を近似する3点(a1,b1),(a2,b2),(a3,b3)を通る仮の近似2次曲線を得ることができる。このようにして得られる仮の近似2次曲線に基づいて現時点での運転状態における目標着火時期CAigtに対応する仮の燃料噴射時期CAinj1を求める。
【0100】
次に、この実施形態は、上述のように求められた仮の燃料噴射時期CAinj1が上記目標燃料噴射時期近傍に推移することを利用して、第1噴射時期d1を仮の燃料噴射時期CAinj1そのものに設定し、第2、第3噴射時期d2,d3も上記目標燃料噴射時期近傍に設定するとともに、着火時期予測モデルに基づいて第1、第2、第3噴射時期d1,d2,d3にそれぞれ対応する第1、第2、第3予測着火時期e1,e2,e3を計算する。これにより、燃料噴射時期と予測着火時期との関係を精度良く近似する3点(d1,e1),(d2,e2),(d3,e3)を通る近似2次曲線を得ることができる。そして、このようにして得られる近似2次曲線に基づいて現時点での運転状態における目標着火時期CAigtに対応する燃料噴射時期CAinjを求める(図3を参照)。この結果、着火時期予測順モデルの逆モデルを用いることなく予測着火時期を目標着火時期CAigtに近づけるための燃料噴射時期CAinjを精度良く決定することができる。
【0101】
加えて、この実施形態では、第1予測着火時期e1と目標着火時期CAigtとの差δがδ≧値α(本例では、1°)であり、且つ、目標着火時期CAigtが第1予測着火時期e1と第2予測着火時期e2の間にある場合、上記近似2次曲線に代えて2点(d1,e1),(d2,e2)を通る近似直線に基づいて燃料噴射時期CAinjが求められる(図4を参照)。更には、δ<値αの場合、燃料噴射時期CAinjが第1噴射時期d1と等しい時期(即ち、上記仮の燃料噴射時期CAinj1)に設定される(図5を参照)。これにより、燃料噴射時期CAinjの計算精度を下げることなく、CPU61の計算負荷を減らすことができる。
【0102】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、第3噴射時期d3を、第1噴射時期d1に上記差δに「2」を乗じた値を加えた値に設定しているが、これに代えて、第3噴射時期d3を、第2噴射時期d2に目標着火時期CAigtと第2予測着火時期e2の差を加えた値に設定してもよい。
【0103】
また、上記実施形態においては、上記差δが値αより小さいか否か、或いは、目標着火時期CAigtが第1予測着火時期e1と第2予測着火時期e2の間にあるか否かの判定に応じて、第1噴射時期d1に基づいて得られる近似線の次数を変更しているが、これに代えて、上記判定にかかわらず近似線の次数を一定としてもよい。この場合、燃料噴射時期CAinjを精度良く求めるため、近似線の次数は2次以上であることが好ましい。
【0104】
また、上記実施形態においては、着火時期予測順モデルとして、燃料噴射時期に加えて、吸気酸素濃度RO2in、エンジン回転速度NE、吸気温度Tb、冷却水温THW、排気温度Tex、吸気管圧力Pb、指令燃料噴射量Qfin、噴射圧力Pfの8つのパラメータ(残りの8つのパラメータ)を引数とするものが採用されているが、燃料噴射時期に加えて、上記8つのパラメータ以外のパラメータを引数とする着火時期予測順モデルが採用されてもよい。
【0105】
また、上記実施形態においては、第1、第2仮噴射時期a1,a2を、目標着火時期CAigtが決定され得る期間内の最も早い着火時期に対応する燃料噴射時期CA1、及び同期間内における最も遅い着火時期に対応する燃料噴射時期CA2に設定しているが、これに代えて、燃料の噴射開始から同燃料により形成される混合気の燃料濃度が着火可能範囲の下限、及び上限に達するまでの期間である下限到達期間、及び上限到達期間をそれぞれ取得し、第1仮噴射時期a1を、目標着火時期CAigtから上記下限到達期間だけ早い時期以前に設定し、第2仮噴射時期a2を、目標着火時期CAigtから上記上限到達期間だけ早い時期以降に設定するように構成されてもよい。
【0106】
噴射された燃料に基づく混合気の燃料濃度は、噴射後の時間経過に従って次第に小さくなっていく。混合気は、燃料濃度が或る着火可能範囲内にある場合にのみ着火し得る。即ち、噴射後経過時間が上記上限到達期間から上記下限到達期間の間にある場合にのみ混合気は着火し得る。係る観点に基づき、上記構成のように、第1仮噴射時期a1を、目標着火時期CAigtから上記下限到達期間だけ早い時期以前に設定すれば、第1仮予測着火時期b1を、目標着火時期CAigtよりも確実に早い時期に設定することができる。同様に、第2仮噴射時期a2を、目標着火時期CAigtから上記上限到達期間だけ早い時期以降に設定すれば、第2仮予測着火時期b2を、目標着火時期CAigtよりも確実に遅い時期に設定することができる。従って、これによっても、仮の近似2次曲線で目標着火時期CAigtを確実に内挿することができる。なお、上記下限到達期間、及び上限到達期間の求め方については、例えば、特願2005−281413号に詳述されているので、ここではその詳細な説明を省略する。
【0107】
また、第2仮噴射時期a2を、目標着火時期CAigtと等しい時期に設定してもよい。これによっても、当然に、第2仮予測着火時期b2を目標着火時期CAigtよりも確実に遅い時期に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の燃料噴射時期決定装置を含んだ燃料噴射制御を4気筒内燃機関(ディーゼル機関)に適用したシステム全体の概略構成図である。
【図2】或る一つの気筒のシリンダ内(筒内)において混合気が進行する様子を模式的に示した図である。
【図3】目標着火時期に対応する燃料噴射時期を求めるために使用される近似線として、仮の2次曲線と、仮の2次曲線に基づいて求められる仮の燃料噴射時期に対応する点とその他の2点との計3点を通る近似2次曲線が使用される場合における、燃料噴射時期の求め方を説明するための図である。
【図4】目標着火時期に対応する燃料噴射時期を求めるために使用される近似線として、仮の2次曲線と、仮の2次曲線に基づいて求められる仮の燃料噴射時期に対応する点とその他の1点との計2点を通る近似直線が使用される場合における、燃料噴射時期の求め方を説明するための図である。
【図5】目標着火時期に対応する燃料噴射時期を求めるために使用される近似線として仮の2次曲線のみが用いられ、仮の2次曲線に基づいて求められる仮の燃料噴射時期とその予測着火時期との1つ関係(1点)のみが使用される場合における、燃料噴射時期の求め方を説明するための図である。
【図6】図1に示したCPUが実行する燃料噴射時期を決定するためのルーチンの第1番目の部分を示したフローチャートである。
【図7】図1に示したCPUが実行する燃料噴射時期を決定するためのルーチンの第2番目の部分を示したフローチャートである。
【図8】図1に示したCPUが実行する燃料噴射時期を決定するためのルーチンの第3番目の部分を示したフローチャートである。
【図9】着火予測順モデルを利用して求められる噴射時期引数値と予測着火時期との3つの関係に対応する3点を通る近似2次曲線に基づいて、目標着火時期に対応する燃料噴射時期の求め方を説明するための図である。
【符号の説明】
【0109】
21…燃料噴射弁、60…電気制御装置、61…CPU、72…吸気温センサ、73…吸気管圧力センサ、74…クランクポジションセンサ、76…燃料噴射圧力センサ、77…吸気酸素濃度センサ、78…水温センサ、79…排気温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも燃料噴射時期を含む複数のパラメータを引数とする着火時期予測モデルを使用して内燃機関の着火時期の予測値である予測着火時期を予測する着火時期予測手段と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて前記着火時期の目標値である目標着火時期を決定する目標着火時期決定手段と、
前記着火時期予測モデルの引数値として使用される前記燃料噴射時期である噴射時期引数値としての、第1仮噴射時期引数値、第2仮噴射時期引数値、及び第3仮噴射時期引数値を、前記第1、第2、及び第3仮噴射時期引数値が全て異なる値となるように設定する仮噴射時期引数値設定手段と、
前記第1仮噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第1仮予測着火時期と、前記第2仮噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第2仮予測着火時期と、前記第3仮噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第3仮予測着火時期とを取得するとともに、前記第1仮噴射時期引数値と前記第1仮予測着火時期との関係と、前記第2仮噴射時期引数値と前記第2仮予測着火時期との関係と、前記第3仮噴射時期引数値と前記第3仮予測着火時期との関係との3つの関係から前記燃料噴射時期と前記着火時期との関係を近似する仮の2次の近似関係を求め、前記仮の2次の近似関係と、前記目標着火時期とに基づいて、前記噴射時期引数値としての第1噴射時期引数値を設定する噴射時期引数値設定手段と、
前記第1噴射時期引数値と前記第1噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第1予測着火時期との関係と、前記目標着火時期とに基づいて、前記予測着火時期を前記目標着火時期に近づけるための燃料噴射時期を決定する燃料噴射時期決定手段と、
を備えた内燃機関の燃料噴射時期決定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射時期決定装置において、
前記燃料噴射時期決定手段は、
前記第1予測着火時期と前記目標着火時期との差が所定値より小さい場合、前記燃料噴射時期を前記第1噴射時期引数値に決定するように構成された内燃機関の燃料噴射時期決定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射時期決定装置において、
前記噴射時期引数値設定手段は、
前記第1予測着火時期と前記目標着火時期との差が前記所定値以上である場合、前記噴射時期引数値としての第2噴射時期引数値を、前記第1噴射時期引数値と異なる値に設定し、
前記燃料噴射時期決定手段は、
前記第2噴射時期引数値を前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第2予測着火時期を取得するとともに、前記目標着火時期が前記第1予測着火時期と前記第2予測着火時期との間にある場合、前記第1噴射時期引数値と前記第1予測着火時期との関係と、前記第2噴射時期引数値と前記第2予測着火時期との関係との2つの関係から前記燃料噴射時期と前記着火時期との関係を近似する1次の近似関係を求め、前記燃料噴射時期を、前記1次の近似関係に基づいて得られる前記目標着火時期に対応する燃料噴射時期に決定するように構成された内燃機関の燃料噴射時期決定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関の燃料噴射時期決定装置において、
前記噴射時期引数値設定手段は、
前記第2噴射時期引数値を、前記第1噴射時期引数値に前記目標着火時期と前記第1予測着火時期との差を加えた値に設定するように構成された内燃機関の燃料噴射時期決定装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の内燃機関の燃料噴射時期決定装置であって、
前記噴射時期引数値設定手段は、
前記目標着火時期が前記第1予測着火時期と前記第2予測着火時期との間にない場合、前記噴射時期引数値としての第3噴射時期引数値を、前記第1、第2、及び第3噴射時期引数値が全て異なる値となるように設定し、
前記燃料噴射時期決定手段は、
前記第3噴射時期引数値を、前記着火時期予測モデルの引数値とした場合に予測される前記予測着火時期である第3予測着火時期を取得するとともに、前記第1噴射時期引数値と前記第1予測着火時期との関係と、前記第2噴射時期引数値と前記第2予測着火時期との関係と、前記第3噴射時期引数値と前記第3予測着火時期との関係との3つの関係から前記燃料噴射時期と前記着火時期との関係を近似する2次の近似関係を求め、前記燃料噴射時期を、前記2次の近似関係に基づいて得られる前記目標着火時期に対応する燃料噴射時期に決定するように構成された内燃機関の燃料噴射時期決定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関の燃料噴射時期決定装置において、
前記噴射時期引数値設定手段は、
前記第3噴射時期引数値を、前記第1噴射時期引数値に前記目標着火時期と前記第1予測着火時期との差に「2」を乗じた値を加えた値に設定するように構成された内燃機関の燃料噴射時期決定装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の内燃機関の燃料噴射時期決定装置において、
前記仮噴射時期引数値設定手段は、前記第1、第2、及び第3仮噴射時期引数値として、
前記仮の2次の近似関係において前記目標着火時期よりも早い前記着火時期に対応する前記燃料噴射時期である第1所定時期、前記仮の2次の近似関係において前記目標着火時期よりも遅い前記着火時期に対応する前記燃料噴射時期である第2所定時期、及び前記第1所定時期と前記第2所定時期との間の前記燃料噴射時期をそれぞれ用いるように構成された内燃機関の燃料噴射時期決定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の内燃機関の燃料噴射時期決定装置において、
前記仮噴射時期引数値設定手段は、前記第3仮噴射時期引数値として、
前記第1所定時期と前記第2所定時期の中央の時期を用いるように構成された内燃機関の燃料噴射時期決定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−261312(P2008−261312A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106144(P2007−106144)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】