説明

内燃機関の燃料性状判定装置

【課題】内燃機関に供給される燃料の性状を精度よく判定する内燃機関の燃料性状判定装置を提供する。
【解決手段】ディーゼル機関10の運転条件を検出する(ステップ100)。排気空燃比をABYF1に制御する(ステップ102)。リッチスパイクを実施する(ステップ104)。A/Fピーク量ΔPABYF1を取得する(ステップ106)。排気空燃比をABYF2に制御する(ステップ108)。リッチスパイクを実施する(ステップ110)。A/Fピーク量ΔPABYF2を取得する(ステップ112)。偏差ΔP(=ΔPABYF1−ΔPABYF2)を演算する(ステップ114)。偏差ΔPとT90との関係を規定したマップに従い、燃料性状(T90)を判定する(ステップ116)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関に供給される燃料の性状を判定する内燃機関の燃料性状判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2007−187094号公報に開示されるように、内燃機関の冷機時の触媒床温制御において、空燃比から演算されるパラメータ値と基準値とを比較して燃料性状を判定する装置が知られている。この装置では、冷機始動時の触媒床温制御において、点火時期をリタードすることにより空燃比が過渡的にリーンへ変化される。かかるリーン度合いは、ポート等への燃料付着量、すなわち、燃料の蒸発性によって変化する。このため、かかるリーン空燃比から演算されるパラメータに基づいて、燃料の性状を判定することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2007−187094号公報
【特許文献2】特開2006−161788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の装置のように、ある特定条件のみに基づいて燃料の蒸発性のパラメータを検出した場合、かかる検出値には機関性能の個体差やセンサの劣化などの要因による様々な誤差が重畳することとなる。したがって、この検出値と所定値とを比較して燃料性状を判定する従来の装置では、燃料性状を精度よく判定できないおそれがあった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、内燃機関に供給される燃料の性状を精度よく判定することのできる内燃機関の燃料性状判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の燃料性状判定装置であって、
内燃機関の排気ガスの空燃比を制御目標空燃比に制御する空燃比制御手段と、
前記内燃機関の排気通路に設けられ、前記空燃比を検出する空燃比検出手段と、
排気ガスの流量(以下、排気流量)を制御する排気流量制御手段と、
前記空燃比を一時的に制御目標空燃比よりもリッチ側へ変化させるリッチスパイク手段と、
前記排気流量が所定の排気流量である状況下で前記リッチスパイク手段を実行した場合の前記空燃比の変化と、前記所定の排気流量と異なる排気流量である状況下で前記リッチスパイク手段を実行した場合の前記空燃比の変化とに基づいて、前記内燃機関に供給された燃料の燃料性状を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、
前記空燃比制御手段は、前記排気流量制御手段を用いて前記排気流量を変化させることにより、前記空燃比を前記制御目標空燃比に制御することを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、第2の発明において、
前記判定手段は、
前記制御目標空燃比が所定の第1空燃比である状況下で前記リッチスパイク手段を実行した場合に、前記空燃比のピークと前記第1空燃比との偏差(以下、第1空燃比偏差)を演算する第1の演算手段と、
前記制御目標空燃比が前記第1空燃比よりもリッチな所定の第2空燃比である状況下で前記リッチスパイク手段を実行した場合に、前記空燃比のピークと前記第2空燃比との偏差(以下、第2空燃比偏差)を演算する第2の演算手段と、を含み、
前記第1空燃比偏差と前記第2空燃比偏差とに基づいて、前記内燃機関の燃料の燃料性状を判定することを特徴とする。
【0009】
第4の発明は、第3の発明において、
前記判定手段は、前記第1空燃比偏差と前記第2空燃比偏差との偏差を演算する第3の演算手段を含み、当該偏差と所定値との比較に基づいて、前記燃料性状を判定することを特徴とする。
【0010】
第5の発明は、第3の発明において、
前記判定手段は、前記第1空燃比と前記第2空燃比との偏差に対する、前記第1空燃比偏差と前記第2空燃比偏差との偏差の割合(以下、第1割合)を演算する第4の演算手段を含み、前記第1割合と所定値との比較に基づいて、前記燃料性状を判定することを特徴とする。
【0011】
第6の発明は、第3乃至第5の何れか1つの発明において、
排気ガスの温度を制御する温度制御手段を更に備え、
前記制御目標空燃比が前記第1空燃比である時の排気ガスの温度を、前記第2空燃比である時のそれよりも低く制御することを特徴とする。
【0012】
第7の発明は、第6の発明において、
前記判定手段は、前記制御目標空燃比が前記第1空燃比である時の排気ガスの温度と前記第2空燃比である時の排気ガスの温度との偏差に対する、前記第1空燃比偏差と前記第2空燃比偏差との偏差の割合(以下、第2割合)を演算する第5の演算手段を含み、前記第2割合と所定値との比較に基づいて、前記燃料性状を判定することを特徴とする。
【0013】
第8の発明は、第1乃至第7の何れか1つの発明において、
前記リッチスパイク手段は、前記空燃比検出手段の上流側の前記排気通路に設けられた燃料噴射弁を含み、前記燃料噴射弁から所定量の燃料を前記排気通路内へ噴射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、排気流量が所定の排気流量である状況下で、排気空燃比を一時的に制御目標空燃比よりリッチ側へ変化させる手段(リッチスパイク)を実行した場合の空燃比変化と、所定の排気流量と異なる排気流量である状況下でリッチスパイクを実行した場合の空燃比変化と、に基づいて、内燃機関に供給された燃料の燃料性状が判定される。ここで、リッチスパイクによる空燃比変化には、装置の個体差や経年劣化等に起因する定常的な誤差成分、すなわち、燃料の性状や排気流量によらない誤差成分が重畳している。本発明によれば、異なる排気流量条件での空燃比変化に基づいて、当該誤差成分を相殺することができるので、単に一排気流量時の空燃比変化で燃料性状を判定する場合に比して、判定精度を効果的に向上させることができる。
【0015】
第2の発明によれば、排気ガスの空燃比を制御することで排気流量を制御することができる。
【0016】
第3の発明によれば、空燃比が各制御目標空燃比に制御された状況下で、リッチスパイク手段を実行した場合の空燃比のピークと制御目標空燃比との偏差(空燃比偏差)がそれぞれ演算される。これらの空燃比偏差には、各空燃比環境(各排気流量環境)における燃料性状の影響が直接的に反映されている。このため、本発明によれば、これらの空燃比偏差に基づいて、燃料性状を精度よく判定することができる。
【0017】
第4の発明によれば、第1空燃比偏差と第2空燃比偏差との偏差と所定値との比較に基づいて、燃料性状が判定される。各空燃比偏差には、装置の個体差や経年劣化等に起因する定常的な誤差成分がそれぞれ重畳している。このため、本発明によれば、第1空燃比偏差と第2空燃比偏差との偏差を演算することで、当該誤差成分を相殺することができるので、かかる偏差と所定値を比較することにより、燃料性状を精度よく判定することができる。
【0018】
第5の発明によれば、第1空燃比と第2空燃比との偏差に対する、第1空燃比偏差と第2空燃比偏差との偏差の割合(第1割合)と所定値との比較に基づいて、燃料性状が判定される。第1割合は、各空燃比偏差に重畳している定常的な誤差成分が相殺されている。その上、第1割合の演算において、制御目標空燃比の選択に制限はない。このため、本発明によれば、空燃比の選択の自由度があがるので、使用する燃料に応じて適した空燃比を適宜設定することができる。
【0019】
排気ガスの温度が低いほど、排気通路に導入されたリッチスパイクの蒸発性が低くなる。このため、排気ガスの温度が低いほど、燃料による蒸発性の差が顕著に現れやすい。第6の発明によれば、第1空燃比においてリッチスパイクを行う場合の排気温度が第2空燃比の場合のそれよりも低く制御される。このため、本発明によれば、燃料性状の判定精度を効果的に向上させることができる。
【0020】
第7の発明によれば、第1排気流量時の排気温度と第2排気流量時の排気温度との偏差に対する、第1空燃比偏差と第2空燃比偏差との偏差の割合(第2割合)と所定値との比較に基づいて、燃料性状が判定される。第2割合と燃料性状との間には一定の相関関係が存在する。このため、本発明によれば、かかる関係に基づいて、燃料性状を精度よく判定することができる。
【0021】
第8の発明によれば、リッチスパイク手段は、排気通路内に排気ガスに燃料を噴射することで実現される。このため、本発明によれば、特殊な空燃比制御を行うことなく、簡易な構成でリッチスパイクを実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいてこの発明の幾つかの実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0023】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1としての内燃機関システムの概略構成を説明するための図である。図1に示すとおり、本実施の形態のシステムは、複数気筒(図1では4気筒)を有する4サイクルのディーゼル機関10を備えている。ディーゼル機関10は車両に搭載され、その車両の動力源とされているものとする。
【0024】
ディーゼル機関10の各気筒には、燃料を筒内に直接噴射するためのインジェクタ12が設置されている。各気筒のインジェクタ12は、共通のコモンレール14に接続されている。図示しない燃料タンク内の燃料は、サプライポンプ16によって所定の燃圧まで加圧されて、コモンレール14内に蓄えられ、コモンレール14から各インジェクタ12に供給される。
【0025】
ディーゼル機関10の排気通路18は、排気マニホールド20により枝分かれして、各気筒の排気ポート(図示せず)に接続されている。また、排気通路18の下流側には、ターボ過給機24の排気タービンが接続されている。排気通路18におけるターボ過給機24の更に下流側には、排気ガスを浄化するための後処理装置26が設けられている。後処理装置26としては、例えば、酸化触媒、NOx触媒、DPF(Diesel Particulate Filter)、DPNR(Diesel Particulate-NOx-Reduction system)等を用いることができる。
【0026】
ディーゼル機関10の吸気通路28の入口付近には、エアクリーナ30が設けられている。エアクリーナ30を通って吸入された空気は、ターボ過給機24の吸気圧縮機で圧縮された後、インタークーラ32で冷却される。インタークーラ32を通過した吸入空気は、吸気マニホールド34により各気筒の吸気ポート(図示せず)に分配される。
【0027】
吸気通路28におけるインタークーラ32と吸気マニホールド34との間には、吸気絞り弁36が設置されている。また、吸気通路28における吸気マニホールド34近傍には、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路40の一端が接続されている。EGR通路40の他端は、排気通路18における排気マニホールド20近傍に接続されている。本システムでは、このEGR通路40を通して、排気ガス(既燃ガス)の一部を吸気通路28へ還流させることができる。以下、EGR通路40を通して吸気通路28へ還流される排気ガスのことを「EGRガス」と称する。
【0028】
EGR通路40の途中には、EGRガスを冷却するためのEGRクーラ42が設けられている。EGR通路40におけるEGRクーラ42の下流には、EGR弁44が設けられている。このEGR弁44の開度を変化させることにより、EGR通路40を通る排気ガス量、すなわちEGR量を調整することができる。
【0029】
また、ディーゼル機関10の排気マニホールド20には、排気ポートから排気された排気ガスに燃料を噴射するための排気噴射インジェクタ46が設置されている。排気噴射インジェクタ46は、排気ガスに過剰燃料供給(リッチスパイク)を行うことで、排気ガスの空燃比を制御目標空燃比よりも一時的に燃料過剰(リッチ)な状態にすることができる。また、排気通路18における後処理装置26の上流側には、排気ガスの空燃比(A/F)を検知するためのA/Fセンサ52が設置されている。
【0030】
本実施の形態のシステムは、図1に示すとおり、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50の入力部には、上述したA/Fセンサ52の他、ディーゼル機関10を制御するための各種センサが接続されている。また、ECU50の出力部には、上述したインジェクタ12、吸気絞り弁36、EGR弁44、排気噴射インジェクタ46の他、ディーゼル機関10を制御するための各種アクチュエータが接続されている。ECU50は、入力された各種の情報に基づいて、所定のプログラムに従って各機器を駆動する。
【0031】
[実施の形態1の動作]
次に、本実施の形態のシステムにおける特徴的動作について説明する。本実施の形態のディーゼル機関10では、A/Fセンサ52で検知される排気空燃比が所定の制御目標空燃比となるように、EGR弁44の開度がフィードバック制御される。より具体的には、例えば、燃料噴射量を変化させずに排気空燃比をリーン方向に変化させる場合には、EGRガス量が減量される。これにより、ディーゼル機関10内に吸入される新気の割合が増加するので、排気通路18へ排気される排気ガスの流量(以下、「排気流量」と称する)は、多量となる方向へ変化する。一方、排気空燃比をリッチ方向に変化させる場合には、EGRガスが増量される。これにより、新気の割合が減少するので、排気流量は少量となる方向へ変化する。
【0032】
ここで、本実施の形態のディーゼル機関10において、排気噴射インジェクタ46からリッチスパイクが行われると、噴射された燃料は、排気ガス中に蒸発(気化)しながら排気通路18内を流通する。このため、リッチスパイク時の排気ガスがA/Fセンサ52へ到達すると、センサ出力は一時的に制御目標空燃比よりもリッチ側に変化する。
【0033】
図2は、リッチスパイクが行われた場合のA/Fセンサ出力の変化を示す図である。この図において、実線L1は、ディーゼル機関10の燃料に高蒸発性燃料を使用した場合を、一点鎖線L2は、該燃料に低蒸発性燃料を使用した場合を、それぞれ示している。この図に示すとおり、各燃料において、リッチスパイクによる空燃比のピーク(以下、「ピーク空燃比」と称する)と制御目標空燃比との偏差(以下、「A/Fピーク量」と称する)を比較すると、低蒸発性燃料のA/Fピーク量ΔPL2は、高蒸発性燃料のA/Fピーク量ΔPL1に比して小さくなっている。これは、高蒸発性燃料であるほど、排気通路18内を流通する過程で燃料の蒸発が活発に行われるからである。
【0034】
そこで、A/Fピーク量と所定値とを比較して、燃料の性状を判定することも考えられる。しかしながら、A/Fピーク量には、燃料性状の影響だけでなく、ディーゼル機関10の機関性能の個体差や、各種センサの劣化等に起因する出力ズレ等の定常的な誤差の影響が重畳している。このため、A/Fピーク量と所定値とを単純に比較することとしても、燃料性状を精度よく判定することはできない。
【0035】
ここで、制御目標空燃比を変化させた場合のA/Fピーク量の変化について考える。図3は、リッチスパイクを実施した場合の排気空燃比曲線を示す図である。この図において、実線L3および一点鎖線L4は、制御目標空燃比が所定の第1空燃比(例えば、A/F=30)である場合において、ディーゼル機関10の燃料に高蒸発性燃料および低蒸発性燃料を使用した場合の排気空燃比を、実線L5および一点鎖線L6は、制御目標空燃比が上記第1空燃比よりも小さな第2空燃比(例えば、A/F=20)である場合において、高蒸発性燃料および低蒸発性燃料を使用した場合の排気空燃比を、それぞれ示している。
【0036】
この図に示すとおり、制御目標空燃比が第1空燃比である場合においては、低蒸発性燃料のA/Fピーク量ΔPL4が高蒸発性燃料のA/Fピーク量ΔPL3よりも大幅に小さくなっている。このA/Fピーク量の差には、排気流量が関連している。すなわち、制御目標空燃比を大きくするほど、つまり排気流量が多量であるほど、リッチスパイクがA/Fセンサ52まで到達する時間が短くなる。このため、蒸発性の低い低蒸発性燃料では、リッチスパイクの燃料が十分に蒸発する前にA/Fセンサ52まで到達してしまい、その結果として、A/Fピーク量に大きな差が生じることとなる。
【0037】
一方、制御目標空燃比が第2空燃比(<第1空燃比)である場合においては、高蒸発性燃料のA/Fピーク量ΔPL5と低蒸発性燃料のA/Fピーク量ΔPL6との差が僅かになっている。これは、制御目標空燃比が小さい、つまり排気流量が少量である場合には、リッチスパイクがA/Fセンサ52まで到達する時間が長くなる。このため、低蒸発性燃料であっても蒸発が促進されて、その結果として、A/Fピーク量の差が小さくなる。
【0038】
このように、制御目標空燃比を変化させた場合のA/Fピーク量の変化量(以下、「偏差ΔP」と称する)は、使用する燃料の蒸発性能によって異なる。図4は、異なる制御目標空燃比でのリッチスパイク時のA/Fピーク量の偏差ΔPと燃料性状(T90)との関係を示す図である。この図に示すとおり、燃料のT90が大きいほど、すなわち燃料が低蒸発性燃料(重質燃料)であるほど、偏差ΔPは大きな値となっている。これは、A/Fピーク量の偏差ΔPと燃料性状(T90)との間には、一定の相関関係が存在することを示している。さらに、当該偏差ΔPは、上記各A/Fピーク量の偏差として演算されるため、各A/Fピーク量に重畳している定常的な誤差成分が相殺されている。
【0039】
そこで、本実施の形態では、偏差ΔPに基づいて、該ディーゼル機関10に使用されている燃料の性状(例えば、T90)を判定することとする。より具体的には、異なる制御目標空燃比でのA/Fピーク量の偏差ΔPを演算する。そして、演算された偏差ΔPと、上記図4に示す相関関係とに基づいて、燃料性状(T90)を判定することとする。これにより、A/Fピーク量に重畳していた定常的な誤差成分の影響を排除することができるので、ディーゼル機関10に供給される燃料の燃料性状(T90)を精度よく判定することができる。
【0040】
[実施の形態1における具体的処理]
次に、図5を参照して、本実施の形態において実行する処理の具体的内容について説明する。図5は、ECU50が、供給される燃料の性状(T90)を判定するために実行するルーチンのフローチャートである。
【0041】
図5に示すルーチンでは、先ず、ディーゼル機関10の運転条件が検出される(ステップ100)。ここでは、具体的には、エンジン回転数NE、燃料噴射量TAU、水温THW等の運転条件が検出される。
【0042】
次に、排気空燃比がABYF1に制御される(ステップ102)。ここでは、具体的には、A/Fセンサ52で検出される排気空燃比がABYF1となるように、EGR弁44の開度がフィードバック制御される。
【0043】
上記ステップ102において、排気空燃比がABYF1に制御されると、次に、リッチスパイクが実施される(ステップ104)。ここでは、具体的には、排気噴射インジェクタ46から所定量の燃料が噴射される。
【0044】
次に、A/Fピーク量ΔPABYF1が取得される(ステップ106)。ここでは、具体的には、先ず、A/Fセンサ52の出力信号に基づいて、ピーク空燃比PABYF1が検出される。次に、次式(1)にしたがって、A/Fピーク量ΔPABYF1が演算される。
ΔPABYF1=PABYF1−ABYF1 ・・・(1)
【0045】
次に、排気空燃比がABYF2に制御される(ステップ108)。次に、リッチスパイクが実施される(ステップ110)。次に、A/Fピーク量ΔPABYF2が取得される(ステップ112)。ここでは、具体的には、上記ステップ102乃至106と同様の処理が実行される。
【0046】
図5に示すルーチンでは、次に、A/Fピーク量の偏差ΔPが演算される(ステップ114)。ここでは、具体的には、ABYF1、ABYF2、および上記ステップ106および112において検出されたA/Fピーク量ΔPABYF1およびΔPABYF2が、次式(2)に代入される。
偏差ΔP=ΔPABYF1−ΔPABYF2・・・(2)
【0047】
次に、燃料性状(T90)が判定される(ステップ116)。図6は、偏差ΔPとT90(℃)との関係を規定したマップを示す。このマップに示すとおり、T90は、A/Fピーク量の偏差ΔPが大きいほど大きい値となっている。ECU50は、図6に示すマップを記憶している。ここでは、具体的には、図6に示すマップに従って、上記ステップ114において演算された偏差ΔPに対応するT90が特定される。
【0048】
以上説明したとおり、本実施の形態1によれば、異なる排気空燃比環境でリッチスパイクを行った場合のA/Fピーク量の偏差ΔPに基づいて、燃料性状(T90)を判定することができる。これにより、センサ出力に重畳する定常的な誤差成分の影響を排除することができるので、機関に供給される燃料の燃料性状(T90)を精度よく判定することができる。
【0049】
ところで、上述した実施の形態1によれば、ディーゼル機関10に供給される燃料の燃料性状を判定することとしているが、本発明が適用される内燃機関はディーゼル機関に限られない。すなわち、ガソリンを燃料として用いるガソリン機関を使用することとしてもよいし、また、他の公知の内燃機関を使用することとしてもよい。
【0050】
また、上述した実施の形態1によれば、燃料性状としてT90を判定することとしているが、判定可能な燃料性状はT90に限られない。すなわち、A/Fピーク量の偏差ΔPと他の燃料性状(例えば、T50)との関係を予めマップとして記憶しておけば、上記処理と同様の処理を実行することにより、他の燃料性状についても精度よく判定することができる。
【0051】
また、上述した実施の形態1によれば、異なる排気流量環境を形成するために、排気空燃比をABYF1およびABYF2に制御することとしている。しかしながら、排気流量の制御は、当該空燃比制御を使用する方法に限らず、他の公知の手法を用いて、所望の排気流量に制御することとしてもよい。これにより、排気空燃比と排気流量との間に一定の相関関係が存在しない場合においても、本発明を実現することができる。
【0052】
また、上述した実施の形態1によれば、制御目標空燃比として、ABYF1、およびABYF1より小さなABYF2に制御することとしているが、ABYF2をより小さな値に設定することで、燃料性状の判定精度を効果的に高めることができる。つまり、制御目標空燃比が小さいと、つまり排気流量が少量であると、リッチスパイクによるA/Fピーク量は大きくなる。このため、ABYF2をより小さな値に設定すれば、A/Fピーク量の偏差ΔPが大きな値になるので、判定誤差を効果的に小さくすることができる。
【0053】
また、上述した実施の形態1によれば、A/Fピーク量の偏差ΔPに基づいて、燃料性状を判定することとしているが、判定に使用可能なパラメータは偏差ΔPに限られない。図7は、リッチスパイクを実施した場合の排気空燃比曲線を示す図である。この図に示すとおり、リッチスパイクによるピーク空燃比PABYF1およびPABYF2に基づいて、これらの偏差ΔP´を演算し、燃料性状(T90)を判定することしてもよい。
【0054】
尚、上述した実施の形態1においては、ディーゼル機関10が前記第1の発明における「内燃機関」に、A/Fセンサ52が前記第1の発明における「空燃比検出手段」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、上記ステップ102または108の処理を実行することにより、前記第1の発明における「空燃比制御手段」および「排気流量制御手段」が、上記ステップ104または110の処理を実行することにより、前記第1の発明における「リッチスパイク手段」が、上記ステップ116の処理を実行することにより、前記第1の発明における「判定手段」が、それぞれ実現されている。
【0055】
また、上述した実施の形態1においては、ECU50が、上記ステップ102または108の処理を実行することにより、前記第2の発明における「空燃比制御手段」および「排気流量制御手段」が、それぞれ実現されている。
【0056】
また、上述した実施の形態1においては、空燃比ABYF1が前記第3の発明における「第1空燃比」に、空燃比ABYF2が前記第3の発明における「第2空燃比」に、A/Fピーク量ΔPABYF1が前記第3の発明における「第1空燃比偏差」に、A/Fピーク量ΔPABYF1が前記第3の発明における「第1空燃比」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、上記ステップ106の処理を実行することにより、前記第3の発明における「第1の演算手段」が、上記ステップ112の処理を実行することにより、前記第3の発明における「第2の演算手段」が、それぞれ実現されている。
【0057】
また、上述した実施の形態1においては、偏差ΔPが前記第4の発明における「偏差」に相当しているとともに、ECU50が上記ステップ114の処理を実行することにより、前記第4の発明における「第3の演算手段」が実現されている。
【0058】
また、上述した実施の形態1においては、排気噴射インジェクタ46が前記第8の発明における「燃料噴射弁」に相当している。
【0059】
実施の形態2.
[実施の形態2の特徴]
次に、図8乃至図10を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU50に後述する図9に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0060】
上述した実施の形態1においては、異なる制御目標空燃比でリッチスパイクをそれぞれ実施し、検出されたA/Fピーク量の偏差ΔPに基づいて、燃料性状(T90)を判定することとしている。ここで、燃料性状は、A/Fピーク量の偏差ΔPに限らず、例えば、制御目標空燃比の変化に対するA/Fピーク量の変化割合(以下、「A/Fピーク傾き」と称する)に基づいて判定することも可能である。図8は、図3に示す空燃比曲線における、制御目標空燃比とA/Fピーク量との関係を示す図である。この図に示すとおり、高蒸発性燃料のA/Fピーク傾きα1は、低蒸発性燃料のA/Fピーク傾きα2よりも小さくなっている。つまり、A/Fピーク傾きは、燃料性状によって異なる値となっている。
【0061】
そこで、本実施の形態2では、異なる制御目標空燃比でリッチスパイクをそれぞれ実施し、検出されたA/Fピーク傾きに基づいて、燃料性状(T90)を判定することとする。A/Fピーク傾きを演算する場合においては、制御目標空燃比の選択に制約はない。このため、例えば、着火性の悪い燃料を使用している場合においては、制御目標空燃比を失火が発生しない領域内で設定することができる。このように、燃料性状判定の際の制御目標空燃比の選択幅が大きくなるので、様々な条件(燃料の種類、運転条件等)に対応した燃料性状の判定を効果的に行うことができる。
【0062】
[実施の形態2における具体的処理]
次に、図9を参照して、本実施の形態において実行する処理の具体的内容について説明する。図9は、ECU50が、供給される燃料の性状(T90)を判定するために実行するルーチンのフローチャートである。
【0063】
図9に示すルーチンでは、先ず、ディーゼル機関10の運転条件が検出される(ステップ200)。次に、排気空燃比がABYF1に制御される(ステップ202)。上記ステップ202において、排気空燃比がABYF1に制御されると、次に、リッチスパイクが実施される(ステップ204)。次に、A/Fピーク量ΔPABYF1が取得される(ステップ206)。次に、排気空燃比がABYF2に制御される(ステップ208)。次に、リッチスパイクが実施される(ステップ210)。次に、A/Fピーク量ΔPABYF2が検出される(ステップ212)。ここでは、具体的には、上記ステップ100乃至112と同様の処理が実行される。
【0064】
図9に示すルーチンでは、次に、A/Fピーク傾きαが演算される(ステップ214)。ここでは、具体的には、ABYF1、ABYF2、および上記ステップ206および212において検出されたA/Fピーク量ΔPABYF1およびΔPABYF2が次式(3)に代入されて、A/Fピーク傾きαが演算される。
α=(ΔPABYF1−ΔPABYF2)/(ABYF1−ABYF2)・・・(3)
【0065】
次に、燃料性状(T90)が判定される(ステップ216)。図10は、A/Fピーク傾きαとT90(℃)との関係を規定したマップを示す。このマップに示すとおり、T90は、A/Fピーク傾きαが大きいほど大きい値となっている。ECU50は図10に示すマップを記憶している。ここでは、具体的には、図10に示すマップに従って、上記ステップ214において演算されたA/Fピーク傾きαに対応するT90が特定される。
【0066】
以上説明したとおり、本実施の形態2によれば、異なる制御目標空燃比でリッチスパイクをそれぞれ実施し、検出されたA/Fピーク傾きに基づいて、燃料性状(T90)を判定することができる。これにより、センサ出力に重畳する定常的な誤差成分の影響を排除することができるので、機関に供給される燃料の燃料性状(T90)を精度よく判定することができる。
【0067】
また、上述した本実施の形態2によれば、A/Fピーク傾きに基づいて、燃料性状(T90)を判定するため、制御目標空燃比の選択に制約はない。このため、制御目標空燃比の選択幅が大きくなるので、様々な条件(燃料の種類、運転条件等)に対応した燃料性状の判定を効果的に行うことができる。
【0068】
ところで、上述した実施の形態2によれば、ディーゼル機関10に供給される燃料の燃料性状を判定することとしているが、本発明が適用される内燃機関はディーゼル機関に限られない。すなわち、ガソリンを燃料として用いるガソリン機関を使用することとしてもよいし、また、他の公知の内燃機関を使用することとしてもよい。
【0069】
また、上述した実施の形態2によれば、燃料性状としてT90を判定することとしているが、判定可能な燃料性状はT90に限られない。すなわち、A/Fピーク傾きαと他の燃料性状(例えば、T50)との関係を予めマップとして記憶しておけば、上記処理と同様の処理を実行することにより、他の燃料性状についても精度よく判定することができる。
【0070】
また、上述した実施の形態2によれば、異なる排気流量環境を形成するために、排気空燃比をABYF1およびABYF2に制御することとしている。しかしながら、排気流量の制御は、当該空燃比制御を使用する方法に限らず、他の公知の手法を用いて、所望の排気流量に制御することとしてもよい。これにより、排気空燃比と排気流量との間に一定の相関関係が存在しない場合においても、本発明を実現することができる。
【0071】
また、上述した実施の形態2によれば、制御目標空燃比として、ABYF1およびABYF2に制御することとしているが、設定される制御目標空燃比はこれに限られない。すなわち、A/Fピーク傾きαを演算することができれば、他の制御目標空燃比であっても、図10に示すマップに従い燃料性状(T90)を判定することができる。
【0072】
また、制御目標空燃比を設定する際には、ABYF2をより小さな値に設定することで、燃料性状の判定精度を効果的に高めることができる。つまり、制御目標空燃比が小さいと、つまり排気流量が少量であると、リッチスパイクによるA/Fピーク量は大きくなる。このため、ABYF2をより小さな値に設定すれば、A/Fピーク傾きαが大きな値になるので、判定誤差を効果的に小さくすることができる。
【0073】
また、上述した実施の形態2によれば、2つの異なる制御目標空燃比を設定し、A/Fピーク傾きαを演算することとしているが、設定する制御目標空燃比は2つに限られない。すなわち、更に複数の制御目標空燃比を設定して、A/Fピーク傾きを演算することとすれば、A/Fピーク傾きαの精度を効果的に高めることができる。
【0074】
尚、上述した実施の形態2においては、ディーゼル機関10が前記第1の発明における「内燃機関」に、A/Fセンサ52が前記第1の発明における「空燃比検出手段」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、上記ステップ202または208の処理を実行することにより、前記第1の発明における「空燃比制御手段」および「排気流量制御手段」が、上記ステップ204または210の処理を実行することにより、前記第1の発明における「リッチスパイク手段」が、上記ステップ216の処理を実行することにより、前記第1の発明における「判定手段」が、それぞれ実現されている。
【0075】
また、上述した実施の形態2においては、ECU50が、上記ステップ202または208の処理を実行することにより、前記第2の発明における「空燃比制御手段」および「排気流量制御手段」が、それぞれ実現されている。
【0076】
また、上述した実施の形態2においては、空燃比ABYF1が前記第3の発明における「第1空燃比」に、空燃比ABYF2が前記第3の発明における「第2空燃比」に、A/Fピーク量ΔPABYF1が前記第3の発明における「第1空燃比偏差」に、A/Fピーク量ΔPABYF1が前記第3の発明における「第1空燃比」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、上記ステップ206の処理を実行することにより、前記第3の発明における「第1の演算手段」が、上記ステップ212の処理を実行することにより、前記第3の発明における「第2の演算手段」が、それぞれ実現されている。
【0077】
また、上述した実施の形態2においては、傾きαが前記第5の発明における「第1割合」に相当しているとともに、ECU50が上記ステップ214の処理を実行することにより、前記第5の発明における「第4の演算手段」が実現されている。
【0078】
また、上述した実施の形態2においては、排気噴射インジェクタ46が前記第8の発明における「燃料噴射弁」に相当している。
【0079】
実施の形態3.
[実施の形態3の特徴]
次に、図11乃至図15を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成に加えて、ディーゼル機関10から排出される排気ガスの温度(以下、「排気温度」と称する)を制御するための手段を用いることで実現することができる。尚、排気温度を制御するための手段としては、例えば、燃料の噴射時期を制御する方法や、インタークーラ32のバイパス量を制御する方法等、公知の手段を用いて実現することができる。
【0080】
上述した実施の形態1においては、異なる制御目標空燃比でリッチスパイクをそれぞれ実施し、検出されたA/Fピーク量の偏差ΔPに基づいて、燃料性状(T90)を判定することとしている。ここで、A/Fピーク量が最大値(すなわち、リッチスパイクによる燃料が全て蒸発した場合のA/Fピーク量)の近傍まで大きくなるような条件では、燃料の蒸発性の差がA/Fピーク量に現れ難くなってしまう。このため、このようなA/Fピーク量に基づいて偏差ΔPを検出した場合、判定誤差が大きくなることも想定される。
【0081】
ここで、排気温度が低い条件では、燃料による蒸発性の差が顕著に現れる。図11は、リッチスパイクを実施した場合の排気空燃比曲線を示す図である。この図に示すとおり、制御目標空燃比がABYF1(>ABYF2)である状況下で、排気温度を250℃に制御した場合のA/Fピーク量ΔPABYF1′は、排気温度が300℃である場合のA/Fピーク量ΔPABYF1よりも小さくなっている。
【0082】
そこで、本実施の形態3では、上述した実施の形態1における燃料性状の判定において、排気温度条件を制御目標空燃比毎に個別に設定することとする。より具体的には、制御目標空燃比がABYF1である場合の排気温度条件を、排気温度が低い条件(例えば、250℃)に制御する。これにより、A/Fピーク量の偏差ΔPに燃料の蒸発性を効果的に反映させることができるので、燃料性状の判定精度を効果的に高めることができる。
【0083】
また、排気温度条件の設定は、上述した実施の形態2における燃料性状の判定に適用することもできる。図12は、図11に示す空燃比曲線における、制御目標空燃比とA/Fピーク量との関係を示す図である。この図に示すとおり、制御目標空燃比がABYF1である場合の排気温度条件を排気温度が低い条件にすると、A/Fピーク傾きが大きくなる。これは、A/Fピーク傾きに燃料の蒸発性がより反映されていることを示している。このため、異なる排気温度条件を設定した場合のA/Fピーク傾きα´に基づいて、上述した実施の形態2における燃料性状の判定処理を実行することにより、燃料性状を精度よく判定することができる。
【0084】
更に、実施の形態3では、排気温度条件とA/Fピーク量との関係に基づいて、燃料性状を判定することができる。図13は、図11に示す空燃比曲線における、排気温度とA/Fピーク量との関係を示す図である。この図に示すとおり、排気温度の変化に対するA/Fピーク量の変化の割合をA/Fピーク傾きβとすると、A/Fピーク傾きβと燃料性状(T90)との間には、一定の相関関係が存在する。図14は、A/Fピーク傾きβとT90(℃)との関係を規定したマップを示す。このマップに示すとおり、T90は、A/Fピーク傾きβが大きいほど大きい値となっている。したがって、かかるマップに従って、燃料性状の判定処理を実行することにより、燃料性状を精度よく判定することができる。以下、A/Fピーク傾きβに基づいて燃料性状(T90)を判定する具体的処理について、フローチャートを用いて詳細に説明する。
【0085】
[実施の形態3における具体的処理]
次に、図15を参照して、本実施の形態3において実行する処理の具体的内容について説明する。図15は、ECU50が、A/Fピーク傾きβに基づいて、供給される燃料の性状(T90)を判定するために実行するルーチンのフローチャートである。
【0086】
図15に示すルーチンでは、先ず、ディーゼル機関10の運転条件が検出される(ステップ300)。次に、排気空燃比がABYF1に制御される(ステップ302)。ここでは、具体的には、上記ステップ100〜102と同様の処理が実行される。
【0087】
次に、排気温度がT1(250℃)に制御される(ステップ304)。排気温度T1は、ディーゼル機関10に供給される燃料の蒸発性の差が顕著に現れる温度として、予め設定された温度が使用される。排気空燃比がABYF1に制御された状況下で排気温度がT1に制御されると、次に、リッチスパイクが実施される(ステップ306)。次に、A/Fピーク量ΔPABYF1´が検出される(ステップ308)。次に、排気空燃比がABYF2に制御される(ステップ310)。ここでは、具体的には、上記ステップ104乃至108と同様の処理が実行される。
【0088】
次に、排気温度がT2(300℃)に制御される(ステップ312)。排気温度T2は、T1より高い温度として予め設定された温度が使用される。次に、リッチスパイクが実施される(ステップ314)。次に、A/Fピーク量ΔPABYF2が検出される(ステップ316)。ここでは、具体的には、上記ステップ110乃至112と同様の処理が実行される。
【0089】
図15に示すルーチンでは、次に、A/Fピーク傾きβが演算される(ステップ318)。ここでは、具体的には、上記ステップ308および316において検出されたA/Fピーク量ΔPABYF1´およびΔPABYF2が次式(4)に代入されて、A/Fピーク傾きβが演算される。
β=(ΔPABYF2−ΔPABYF1´)/(T2−T1)・・・(4)
【0090】
次に、燃料性状(T90)が判定される(ステップ320)。ECU50は上述した図14に示すマップを記憶している。ここでは、具体的には、図14に示すマップに従って、上記ステップ318において演算されたA/Fピーク傾きβに対応するT90が特定される。
【0091】
以上説明したとおり、本実施の形態3によれば、異なる制御目標空燃比で排気温度条件を個別に設定することで、A/Fピーク傾きβに燃料の蒸発性を効果的に反映させることができる。このため、機関に供給される燃料の燃料性状(T90)を判定する精度をさらに向上させることができる。
【0092】
ところで、上述した実施の形態3によれば、ディーゼル機関10に供給される燃料の燃料性状を判定することとしているが、本発明が適用される内燃機関はディーゼル機関に限られない。すなわち、ガソリンを燃料として用いるガソリン機関を使用することとしてもよいし、また、他の公知の内燃機関を使用することとしてもよい。
【0093】
また、上述した実施の形態3によれば、燃料性状としてT90を判定することとしているが、判定可能な燃料性状はT90に限られない。すなわち、A/Fピーク傾きβと他の燃料性状(例えば、T50)との関係を予めマップとして記憶しておけば、上記処理と同様の処理を実行することにより、他の燃料性状についても精度よく判定することができる。
【0094】
また、上述した実施の形態3によれば、異なる排気流量環境を形成するために、排気空燃比をABYF1およびABYF2に制御することとしている。しかしながら、排気流量の制御は、当該空燃比制御を使用する方法に限らず、他の公知の手法を用いて、所望の排気流量に制御することとしてもよい。これにより、排気空燃比と排気流量との間に一定の相関関係が存在しない場合においても、本発明を実現することができる。
【0095】
また、上述した実施の形態3によれば、制御目標空燃比として、ABYF1およびABYF2に制御することとしているが、設定される制御目標空燃比はこれに限られない。また、排気温度T1およびT2に関しても、判定する燃料性状等に応じて適当な値を設定することができる。
【0096】
また、制御目標空燃比を設定する際には、ABYF2をより小さな値に設定することで、燃料性状の判定精度を効果的に高めることができる。つまり、制御目標空燃比が小さいと、つまり排気流量が少量であると、リッチスパイクのA/Fピーク量は大きくなる。このため、ABYF2をより小さな値に設定すれば、A/Fピーク傾きβが大きな値になるので、判定誤差を効果的に小さくすることができる。
【0097】
尚、上述した実施の形態3においては、ディーゼル機関10が前記第1の発明における「内燃機関」に、A/Fセンサ52が前記第1の発明における「空燃比検出手段」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、上記ステップ302または310の処理を実行することにより、前記第1の発明における「空燃比制御手段」および「排気流量制御手段」が、上記ステップ306または314の処理を実行することにより、前記第1の発明における「リッチスパイク手段」が、上記ステップ320の処理を実行することにより、前記第1の発明における「判定手段」が、それぞれ実現されている。
【0098】
また、上述した実施の形態3においては、ECU50が、上記ステップ302または310の処理を実行することにより、前記第2の発明における「空燃比制御手段」および「排気流量制御手段」が、それぞれ実現されている。
【0099】
また、上述した実施の形態3においては、空燃比ABYF1が前記第3の発明における「第1空燃比」に、空燃比ABYF2が前記第3の発明における「第2空燃比」に、A/Fピーク量ΔPABYF1が前記第3の発明における「第1空燃比偏差」に、A/Fピーク量ΔPABYF1が前記第3の発明における「第1空燃比」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、上記ステップ308の処理を実行することにより、前記第3の発明における「第1の演算手段」が、上記ステップ316の処理を実行することにより、前記第3の発明における「第2の演算手段」が、それぞれ実現されている。
【0100】
また、上述した実施の形態3においては、ECU50が上記ステップ304または312の処理を実行することにより、前記第6の発明における「温度制御手段」が実現されている。
【0101】
また、上述した実施の形態3においては、傾きβが前記第7の発明における「第2割合」に相当しているとともに、ECU50が上記ステップ318の処理を実行することにより、前記第7の発明における「第5の演算手段」が実現されている。
【0102】
また、上述した実施の形態3においては、排気噴射インジェクタ46が前記第8の発明における「燃料噴射弁」に相当している。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の実施の形態1としての内燃機関システムの概略構成を説明するための図である。
【図2】リッチスパイクが行われた場合のA/Fセンサ出力の変化を示す図である。
【図3】リッチスパイクを実施した場合の排気空燃比曲線を示す図である。
【図4】異なる制御目標空燃比でのリッチスパイク時のA/Fピーク量の偏差ΔPと燃料性状(T90)との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図6】偏差ΔPと燃料性状(T90)との関係を規定したマップを示す。
【図7】リッチスパイクを実施した場合の排気空燃比曲線を示す図である。
【図8】図3に示す空燃比曲線における、制御目標空燃比とA/Fピーク量との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図10】A/Fピーク傾きαと燃料性状(T90)との関係を規定したマップを示す。
【図11】リッチスパイクを実施した場合の排気空燃比曲線を示す図である。
【図12】図11に示す空燃比曲線における、制御目標空燃比とA/Fピーク量との関係を示す図である。
【図13】図11に示す空燃比曲線における、排気温度とA/Fピーク量との関係を示す図である。
【図14】A/Fピーク傾きβと燃料性状(T90)との関係を規定したマップを示す。
【図15】本発明の実施の形態3において実行されるルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0104】
10 ディーゼル機関
12 インジェクタ
14 コモンレール
16 サプライポンプ
18 排気通路
20 排気マニホールド
24 ターボ過給機
26 後処理装置
28 吸気通路
30 エアクリーナ
32 インタークーラ
34 吸気マニホールド
36 吸気絞り弁
40 EGR通路
42 EGRクーラ
44 EGR弁
46 排気噴射インジェクタ
50 ECU(Electronic Control Unit)
52 A/Fセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気ガスの空燃比を制御目標空燃比に制御する空燃比制御手段と、
前記内燃機関の排気通路に設けられ、前記空燃比を検出する空燃比検出手段と、
排気ガスの流量(以下、排気流量)を制御する排気流量制御手段と、
前記空燃比を一時的に制御目標空燃比よりもリッチ側へ変化させるリッチスパイク手段と、
前記排気流量が所定の排気流量である状況下で前記リッチスパイク手段を実行した場合の前記空燃比の変化と、前記所定の排気流量と異なる排気流量である状況下で前記リッチスパイク手段を実行した場合の前記空燃比の変化とに基づいて、前記内燃機関に供給された燃料の燃料性状を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の燃料性状判定装置。
【請求項2】
前記空燃比制御手段は、前記排気流量制御手段を用いて前記排気流量を変化させることにより、前記空燃比を前記制御目標空燃比に制御することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料性状判定装置。
【請求項3】
前記判定手段は、
前記制御目標空燃比が所定の第1空燃比である状況下で前記リッチスパイク手段を実行した場合に、前記空燃比のピークと前記第1空燃比との偏差(以下、第1空燃比偏差)を演算する第1の演算手段と、
前記制御目標空燃比が前記第1空燃比よりもリッチな所定の第2空燃比である状況下で前記リッチスパイク手段を実行した場合に、前記空燃比のピークと前記第2空燃比との偏差(以下、第2空燃比偏差)を演算する第2の演算手段と、を含み、
前記第1空燃比偏差と前記第2空燃比偏差とに基づいて、前記内燃機関の燃料の燃料性状を判定することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の燃料性状判定装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記第1空燃比偏差と前記第2空燃比偏差との偏差を演算する第3の演算手段を含み、当該偏差と所定値との比較に基づいて、前記燃料性状を判定することを特徴とする請求項3記載の内燃機関の燃料性状判定装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記第1空燃比と前記第2空燃比との偏差に対する、前記第1空燃比偏差と前記第2空燃比偏差との偏差の割合(以下、第1割合)を演算する第4の演算手段を含み、前記第1割合と所定値との比較に基づいて、前記燃料性状を判定することを特徴とする請求項3記載の内燃機関の燃料性状判定装置。
【請求項6】
排気ガスの温度を制御する温度制御手段を更に備え、
前記制御目標空燃比が前記第1空燃比である時の排気ガスの温度を、前記第2空燃比である時のそれよりも低く制御することを特徴とする請求項3乃至5の何れか1項記載の内燃機関の燃料性状判定装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記制御目標空燃比が前記第1空燃比である時の排気ガスの温度と前記第2空燃比である時の排気ガスの温度との偏差に対する、前記第1空燃比偏差と前記第2空燃比偏差との偏差の割合(以下、第2割合)を演算する第5の演算手段を含み、前記第2割合と所定値との比較に基づいて、前記燃料性状を判定することを特徴とする請求項6記載の内燃機関の燃料性状判定装置。
【請求項8】
前記リッチスパイク手段は、前記空燃比検出手段の上流側の前記排気通路に設けられた燃料噴射弁を含み、前記燃料噴射弁から所定量の燃料を前記排気通路内へ噴射することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の内燃機関の燃料性状判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−77832(P2010−77832A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244545(P2008−244545)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】