説明

内燃機関の異常判定装置

【課題】燃料噴射装置の異常を簡単かつ正確に判定することが可能な内燃機関の異常判定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射手段11と、内燃機関がアイドル運転状態であるか否かを判定する第1判定手段27と、前記アイドル運転状態であると判定した場合、内燃機関の回転速度を一定値にさせるように、燃料噴射手段に指示噴射量を噴射する噴射制御手段30と、指示噴射量が所定閾値を超えた場合、燃料噴射手段の噴射状態が暫定的異常状態であると判定する第2判定手段28と、内燃機関の始動から停止までの所定運転期間を単位として、前記暫定的異常状態が連続して発生した回数が所定回数を超えた場合、燃料噴射手段の噴射状態が確定的異常状態であると判定する第3判定手段29と、確定的異常状態に関する異常状態情報を記憶する記憶手段26と、を備えたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばディーゼルエンジン等の圧縮着火式の内燃機関の異常判定装置の技術分野に関する。特に、燃料噴射装置の異常判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関の異常判定装置として、例えば特許文献1等では、燃料カットスイッチ(所謂、キルスイッチ)の作動状態をマイクロコンピュータが認識する技術に関して開示されている。この技術は、例えば、バイク転倒等の危険発生時にキルスイッチが作動して、回転角センサ、気筒判別センサ、及びインジェクタ等の機器は電力の供給が停止される。その際に、マイクロコンピュータは電力の供給が停止された機器の異常判定を停止して誤判定するのを回避している。
また、この特許文献1には、燃料を吸気ポートに噴射する燃料インジェクタの異常を判定する手段として、インジェクタ駆動回路からインジェクタへ噴射信号が出力されているにも拘わらず、2噴射以上連続して噴射実施信号が入力されない時に異常と判断することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3346307号公報
【特許文献2】特開2008−75535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1等によれば、車両で走行に関する不具合が発生した場合に、回転角センサ、気筒判別センサ、及びインジェクタ等の機器のうちいずれかの機器に異常が発生したかを判定することができないので、不具合の原因の範囲が広くなってしまい、不具合の原因を特定することができない可能性があるという技術的な問題が生じる。
また、具体的な異常判定手段として吸気ポートに噴射する燃料インジェクタの異常を判定する手段が示されているが、2噴射以上連続して噴射実施信号が入力されない時、すなわち噴射が実施されないことが検出されるまで異常と判定できないため、インジェクタ異常の早期判定には適用できない問題も生じる。
【0005】
そこで、本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、燃料噴射装置の異常を簡単かつ正確に判定することが可能な内燃機関の異常判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る内燃機関の異常判定装置は、排気系に排気浄化装置を有する圧縮着火式の内燃機関の異常を判定する内燃機関の異常判定装置であって、
前記内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射手段と、前記内燃機関がアイドル運転状態であるか否かを判定する第1判定手段と、前記内燃機関が前記アイドル運転状態であると判定した場合、前記内燃機関の回転速度を一定値にさせるように、前記燃料噴射手段に指示噴射量を噴射する噴射制御手段と、前記指示噴射量が所定閾値を超えた場合、前記燃料噴射手段の噴射状態が暫定的異常状態であると判定する第2判定手段と、前記内燃機関の始動から停止までの所定運転期間を単位として、前記暫定的異常状態が連続して発生した回数が所定回数を超えた場合、前記燃料噴射手段の噴射状態が確定的異常状態であると判定する第3判定手段と、前記確定的異常状態であると判定した場合、前記確定的異常状態に関する異常状態情報を記憶する記憶手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る内燃機関の異常判定装置によれば、例えばディーゼルエンジン等の圧縮着火式の内燃機関の異常判定を行う。
例えばインジェクタ等の燃料噴射手段は、典型的には、内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する。例えばメモリやプロセッサ等によって構成可能な第1判定手段は、内燃機関がアイドル運転状態であるか否かを判定する。ここに、本発明に係るアイドル運転状態とは、内燃機関の外界から内燃機関へ掛かる負荷を最小にした状態での内燃機関の運転状態を意味する。アイドル運転状態とは、典型的には、(i)内燃機関を搭載した車両が停止状態であること、(ii)車両の変速段がニュートラル状態であること、(iii)内燃機関が暖機運転状態であること、(iv)補機類が非作動状態であること、(v)例えばDPF(Diesel Particulate Filter)を有する排気浄化装置において、所謂、DPF再生が非実施であること、等の条件を満たした内燃機関の運転状態を意味する。
【0008】
例えば、メモリやプロセッサ等によって構成可能な噴射制御手段は、内燃機関がアイドル運転状態であると判定される場合、内燃機関の回転速度を一定値にさせるように、燃料噴射手段に指示噴射量だけ噴射させる。ここに、本発明に係る指示噴射量とは、内燃機関の回転速度を一定値にさせるように、噴射制御手段から燃料噴射手段に指示される燃料の噴射量を意味する。典型的には、この指示噴射量は、内燃機関の回転速度を一定値にさせるフィードバック制御の手法に基づいて、可変に設定される。
【0009】
次に、例えば、メモリやプロセッサ等によって構成可能な第2判定手段は、指示噴射量が所定閾値を超えた場合、燃料噴射手段の噴射状態を暫定的異常状態であると判定する。ここに、本発明に係る所定閾値は、例えば目詰まり等の燃料噴射手段の噴射に関する異常を迅速又は確実に判別させるために所望の値を、実験的に、経験的に、理論的に、又はシミュレーション等を用いて個別具体的に定義した値を意味する。この所定閾値は、例えば、燃料噴射手段の噴射に関する異常を迅速に判別させるために低減させてよいし、或いは、例えば、燃料噴射手段の噴射に関する異常を確実に判別させるために増大させてよい。より典型的には、所定閾値とは、燃料噴射手段が新品であり、燃料噴射手段の目詰まりが発生しない状態の下で、内燃機関に最小の負荷で運転をさせるために必要な燃料量に所定の測定誤差量を加算した値を意味してよい。特に、指示噴射量と所定閾値との比較に際しては、例えば、所定期間における指示噴射量の平均値と所定閾値とを比較することが、例えば外界温度等の外界環境に起因する誤差の影響をより低減することができるので、暫定的異常状態の判定の確実性を向上させることができる。
【0010】
次に、例えばメモリやプロセッサ等によって構成可能な第3判定手段は、内燃機関の始動から停止までの所定運転期間を単位として、暫定的異常状態が連続して発生した回数が所定回数を超えた場合、燃料噴射手段の噴射状態を確定的異常状態であると判定する。
ここに、本発明に係る所定運転期間とは、内燃機関を始動した時点から内燃機関を停止した時点までの期間、所謂、ドライビングサイクルを意味する。また、本発明に係る所定回数は、燃料噴射手段の噴射に関する異常を迅速又は確実に判別させるために所望の値を、実験的に、経験的に、理論的に、又はシミュレーション等を用いて個別具体的に定義した値を意味する。この所定回数は、例えば、燃料噴射手段の噴射に関する異常を迅速に判別させるために低減させてよいし、或いは、例えば、燃料噴射手段の噴射に関する異常を確実に判別させるために増大させてよい。この所定回数は、典型的には、例えば3回乃至10回等の回数でよい。
【0011】
例えば、不揮発性メモリ等の記憶手段は、確定的異常状態であると判定された場合、確定的異常状態に関する異常状態情報を記憶する。ここに、本発明に係る異常状態情報とは、典型的には、確定的異常状態であることを示すフラグ情報、確定的異常状態が発生した日付、確定的異常状態が発生した際の車両の走行距離などの確定的異常状態に関する情報を意味する。
【0012】
この結果、記憶手段に記憶された異常状態情報によって、例えばインジェクタ等の燃料噴射手段に異常が発生したか否かを確実又は迅速に判定することができる。特に、車両で走行に関する不具合が発生した場合に、燃料噴射手段に異常が発生したか否かを確実に判定することができるので、不具合の原因の範囲を狭くすることができるので、不具合の特定を簡便にすることができる。
加えて、燃料噴射手段の異常を確実又は迅速に判定することができるので、燃料噴射手段の新品部品への交換や修理等を促し、燃料噴射手段の正常な状態を長期間維持することができる。これにより、高精度な燃料噴射(所謂、ポスト噴射)が要求されるDPF再生を適切に実施することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、更に、前記暫定的異常状態又は前記確定的異常状態において、前記指示噴射量が前記所定閾値を下回る暫定的正常状態であるか否かを判定し、
前記所定運転期間を単位として、前記暫定的正常状態が所定回数だけ連続して発生した確定的正常状態であるか否かを判定し、前記確定的正常状態であると判定した場合、前記異常状態情報を消去する異常情報消去手段を備えるとよい。
【0014】
かかる構成によれば、仮に確定的異常状態と判定され、新品と交換した場合、新品であれば、所定運転期間を少なくとも所定回数だけ運転すれば、暫定的正常状態を経て確定的正常状態であると判定されるので(換言すれば暫定的正常状態が少なくとも所定回数だけ連続して発生した後、確定的正常状態であると判定されるので)、異常状態情報を消去することができる。これにより、燃料噴射手段の新品と交換後に、燃料噴射手段の異常を判定する際の誤判断の可能性を効果的に低減できるので、燃料噴射手段の整備の際に利用される記憶手段に記憶されている異常情報の正確性を向上させることが可能である。
【0015】
加えて、異常状態情報を消去することにより、記憶手段において、異常状態情報の情報量が冗長的に増大するのを防止することができるので、記憶手段を含むエンジンコントロールユニットの構成を簡素化することができる。
更に加えて、偶発的又は突発的に、燃料噴射手段の噴射状態が暫定的異常状態又は確定的異常状態と判定された場合においても、時間の経過に伴って、暫定的正常状態の判定、又は、この暫定的正常状態を経た確定的正常状態の判定という燃料噴射手段の正常状態を復帰的に判定することができる。これにより、例えば外界温度等の外界環境に起因する偶発的又は突発的な誤判定の確率を小さくすることができる。
【0016】
また、本発明において、好ましくは、前記アイドル運転状態は、前記内燃機関を搭載した車両が停止状態であり、前記車両の変速段がニュートラル状態であり、前記内燃機関が暖機運転状態であり、前記車両の補機類が非作動状態であり、且つ、前記排気浄化装置のDPF再生が非実施であるとよい。
このようにアイドル運転状態を、内燃機関に掛かる負荷が小さい状態で、且つ一定の運転状態とすることによって、燃料噴射手段に異常が発生したか否かの判定を高精度にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射手段と、前記内燃機関がアイドル運転状態であるか否かを判定する第1判定手段と、前記内燃機関が前記アイドル運転状態であると判定した場合、前記内燃機関の回転速度を一定値にさせるように、前記燃料噴射手段に指示噴射量を噴射する噴射制御手段と、前記指示噴射量が所定閾値を超えた場合、前記燃料噴射手段の噴射状態が暫定的異常状態であると判定する第2判定手段と、前記内燃機関の始動から停止までの所定運転期間を単位として、前記暫定的異常状態が連続して発生した回数が所定回数を超えた場合、前記燃料噴射手段の噴射状態が確定的異常状態であると判定する第3判定手段と、前記確定的異常状態であると判定した場合、前記確定的異常状態に関する異常状態情報を記憶する記憶手段と、を備えるので、燃料噴射装置の異常を簡単かつ正確に判定することが可能な内燃機関の異常判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る内燃機関の異常判定装置を搭載した車両の基本構成を図式的に示した模式図である。
【図2】本実施形態に係る内燃機関の異常判定装置における動作の流れを示したフローチャートである。
【図3】本実施形態に係る、ドライビングサイクルの時間軸上において、エンジン回転速度の変化、及び、指示噴射量の変化を示したグラフである。
【図4】本実施形態に係る、ドライビングサイクル単位での暫定的異常状態、確定的異常状態、暫定的正常状態、及び、確定的正常状態の変化を示した模式図(図4(a)、図4(b)、及び図4(c))である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
(実施形態)
本実施形態に係る圧縮着火式の内燃機関の異常を判定する異常判定装置について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0020】
(車両の基本構成)
先ず、図1を参照して、本実施形態に係る内燃機関の異常判定装置を搭載した車両1の基本構成について説明する。ここに、図1は、本実施形態に係る内燃機関の異常判定装置を搭載した車両の基本構成を図式的に示した模式図である。尚、本実施形態に係る内燃機関の異常判定装置を搭載した車両は、6つの気筒が一列に並べられた、いわゆる直列六気筒のディーゼルエンジン、以下、適宜、エンジン10と称す、に適用した一形態を示している。尚、説明の便宜上、6つの気筒のうち1つの気筒に着目する。エンジン10は例えば自動車の走行用駆動源として使用され、エンジン10の燃焼室10nで発生した燃焼圧が、駆動力として、ピストン10p、クランク軸10c、図示しない、クラッチや変速機やディファレンシャルギヤやドライブシャフトを介して車輪に伝達される。
【0021】
図1に示されるように、エンジン10を搭載した車両1は、吸気系としての、吸気通路2、エアクリーナー3、エアフローセンサー(AFM:Air Flow Meter)4、ターボ過給機5のコンプレッサ5c、インタクーラー7、バタフライバルブ(吸気量調節用の絞り弁(ディーゼルスロットル弁))8、EGR通路9、エンジン10、EGR弁9b、EGRクーラー9C、排気系としての、排気通路6、ターボ過給機5のタービン5t、DPF(Diesel Particulate Filter:ディーゼル・パティキュレート・フィルター)を有する排気浄化装置14、及びエンジンECU20を備えて構成されている。
【0022】
エンジン10は、気筒10k、燃焼室10n、吸気弁10i、排気弁10e、ピストン10p、クランク軸10c、水温センサー10w、インジェクタ11、コモンレール12、燃料ポンプ13、気筒判別センサー10s、エンジン速度センサー(エンジンの回転速度を測定するためのクランク角センサ)15を備えて構成されている。
【0023】
エンジンECU20(以下、適宜、ECU20と称す)は、例えば書き換え可能な不揮発性メモリである記憶部26を有すると共に、エアフローセンサー4、気筒判別センサー10s、エンジン速度センサー15、ニュートラルスイッチ21、補機類を作動させる補機類作動部22、DPF再生スイッチ23、アクセル位置センサー24、コモンレール圧センサー25と電気的に接続し、各種の信号を入出力可能に構成されている。
【0024】
補機類としては、オルタネーター(alternator)、車両駆動用のエンジン動力を作業機の駆動のために取り出す機構、所謂、PTO(パワー・テイク・オフ:Power take-off)、エアコン装置、又はオーディオ装置を挙げることができる。
【0025】
エンジン10は、ECU20によって統括制御される。特に、ECU20の制御下で、記憶部26は、ECU20からインジェクタ11に指示された燃料の噴射量(即ち、本発明に係る指示噴射量の一例)を示すデータ、及び、確定的異常状態であるか否かを示すフラグ情報(即ち、本発明に係る「確定的異常状態に関する異常状態情報」の一例)並びに暫定的異常状態であるか否かを示すフラグ情報を格納可能である。と共に、記憶部26は、ECU20が噴射制御手段として機能する際に使用する、所定のプログラムや所定のマップが格納されている。
【0026】
図1に示されるように、エンジン10は、車両1に走行用動力源として搭載されるもので、エンジン10の還流系、所謂、EGR(Exhaust Gas Recirculation)系は、各気筒10kには、吸気通路2及び排気通路6が接続され、吸気通路2には吸気濾過用のエアクリーナー3、ターボ過給機5のコンプレッサ5c、インタクーラー7、吸気量を調節するためのバタフライバルブ8が設けられている。排気通路6にはターボ過給機5のタービン5tが設けられている。排気通路6のタービン5tよりも下流側にはDPFを有する排気浄化装置14が設けられている。排気通路6と吸気通路2とはEGR通路9で接続され、EGR通路9には、還流ガスの流れる方向を基準として、上流側から下流側へ向かって、EGR弁9b、及びEGRクーラー9Cが設けられている。
【0027】
エンジン10の吸気系において、吸気が、図示しない外気を取り込むためのエアダクトから、エアフローセンサー4、吸気通路2へ流れ、インタクーラー7、及び吸気ポートを経由して、各気筒10k内の燃焼室10nへ吸気されるように構成されている。吸気ポートには、吸気ポートを開閉する吸気弁10iが設けられている。他方、エンジン10の排気系において、排気ガスが、気筒10k内の燃焼室10nから排気ポート、排気通路6、タービン5t、排気浄化装置14、及び図示しないマフラーを経由して、大気中へ排出されるように構成されている。
【0028】
排気浄化装置14には、DPF(Diesel Particulate Filter:ディーゼル・パティキュレート・フィルター)を有し、PM(Particulate Matter:粒子状物質)を捕集しつつ排気を浄化可能である。
【0029】
一般的に、ディーゼルエンジンの排気中に多く含まれるPM(粒子状物質)は、環境保護の観点から問題視されている。その対策として、PMを捕集するフィルタ、いわゆるDPFを備える排気浄化装置等が提案され、これを車両へ搭載することが検討されている。DPFは、各種フィルターを用いたパティキュレート捕集装置の一般名称である。
DPFを車両に搭載すれば、走行中定期的に(又はPM捕集量に応じて)燃焼処理を行うことにより、その都度フィルタに捕集したPMを炭酸ガスに変化(無害化)させて排出することができる。しかも、この燃焼によりフィルタ自体も再生されるため、DPFは、繰り返し再生させることによって継続的に使用することができる。
【0030】
再生方式としては、能動的再生方式と自己再生方式が提案されているが、一般的なものは、ポスト噴射による自己再生方式である。また、DPFのフィルタ構造としては、モノリスと呼ばれる蜂の巣構造の穴を交互に目詰め(目封じ)し、壁を濾過に使用するウォールフローフィルタが一般的である。他の構造としては、素材繊維を布状に織り込んだもの、短繊維をマット状にしたもの、泡構造(フォーム状)にしたものがある。
DPFの再生方式としては、(i)能動的(Active)再生方式(電気加熱、バーナー燃焼など)、(ii)自己再生(Self-regenerating system、能動的(Passive)再生とも呼ぶ)方式(CRTRなど)等が提案されている。
【0031】
ところで、高温(例えば600℃程度)の排気をDPFに与えることによって、DPFに捕集されたPMを燃焼除去することは可能である。しかし、NOx低減のためにEGR装置等で排気温度を冷却する場合には、捕集PMを燃焼させるだけの排気温度が得られないこともある。そこで、フィルタの再生にあたっては、ポスト噴射により排気温度を上昇させる方法がよく知られている。
例えば、触媒を担持するDPFに対して、出力トルクを生成するためになされるメインの燃料噴射から所定時間遅れた時期に1回又は多段噴射のポスト噴射を実行する。これにより、ポスト噴射により触媒に対して未燃燃料としてのHC(炭化水素)が添加され、触媒温度はPMの自己燃焼温度(例えば600℃程度)までに上昇し、DPFに堆積したPMが短時間で燃焼する。尚、ポスト噴射の有無(又は噴射量)は、DPFの中心温度等に基づいて制御される。また、DPFの再生の際に、排気ガスの温度を高めるために、例えば、燃焼タイミングを下死点の時期に近づけさせ、燃焼タイミングを遅らせるように、燃料の噴射タイミングを調節するようにしてもよい。
以上のDPFの再生制御は、ECU20によって統轄制御される。
【0032】
ECU20は気筒10kに燃料を噴射するためのインジェクタ11、燃料ポンプ13からインジェクタ11へ供給される燃料圧力を蓄えるコモンレール12の圧力調整弁といった各種の装置を操作してエンジン10の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。ECU20はエンジン10に吸入される空気とインジェクタ11から添加される燃料との質量比として与えられる空燃比が理論空燃比よりもリーン側に制御されるようにインジェクタ11の燃料噴射動作を制御する。
【0033】
各種のアクチュエータの動作は、ECU20によって制御される。ECU20は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、各種センサから入力される信号に基づいて、EGR弁9bなどの各種の装置を操作してエンジン10の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。ECU20には、吸気系の過給圧に対応した信号を出力する過給圧センサ、例えばエンジン10のクランク軸の角度に対応した信号を出力するエンジン速度センサー15、排気浄化装置14を通過中の排気の温度に対応した信号を出力する排気温センサ、及びエアフローセンサー4などが接続され、ECU20はこれらの出力信号を参照してエンジン10の運転状態を制御する。
また、ECU20は、後述の図2に示したルーチンを実行することにより本発明に係る「第1判定手段27」、「第2判定手段28」、「第3判定手段29」、「噴射制御手段30」および「異常情報消去手段31」として機能する。尚、これらのルーチンの詳細は後述する。ECU20による制御対象はその他にも種々存在するが、ここでは図示を省略する。
【0034】
(内燃機関の異常判定装置の動作原理)
次に、図2乃至図4を参照して、本実施形態に係る内燃機関の異常判定装置の動作原理について説明する。ここに、図2は、本実施形態に係る内燃機関の異常判定装置における動作の流れを示したフローチャートである。尚、この図2で示された動作は、例えば数マイクロ秒等の所定周期で繰り返し実行される。或いは、この図2で示された動作は、不定周期で、或いは、連続して繰り返し実行される。
【0035】
図3は、本実施形態に係る、車両1が駆動されるドライビングサイクルの時間軸上において、エンジン回転速度の変化、及び、指示噴射量の変化を示したグラフである。尚、図3の上側のグラフの縦軸はエンジン回転速度(rpm)を示し、図3の上側のグラフの横軸は時間軸を示す。図3の下側のグラフの縦軸は指示噴射量(立方mm per stroke)を示し、図3の下側のグラフの横軸は時間軸を示す。
【0036】
図4は、本実施形態に係る、車両1が駆動される時間の時間軸上において、ドライビングサイクル単位での暫定的異常状態、確定的異常状態、暫定的正常状態、及び、確定的正常状態の変化を示した模式図(図4(a)、図4(b)、及び図4(c))である。尚、図4中、「暫定」は暫定的異常状態を示し、「確定」は確定的異常状態を示し、「○」は暫定的正常状態を示し、「正常」は確定的正常状態を示す。
【0037】
先ず、図2に示されるように、ECU20は、各種センサーの測定値を示す信号や各種の制御信号を読み込み、取得する(ステップS101)。エンジン速度センサー15からエンジン回転速度を示す信号及び車速を示す信号を取得し、水温センサー10wからエンジン10を冷却する水温を示す信号を取得する。
また、ECU20は、コモンレール12又は燃料ポンプ13内に設けられた温度センサーから燃料の温度を示す信号を取得すると共に、コモンレール12内の圧力やインジェクタ11の開弁時間等から燃料噴射量を算出し、算出した燃料噴射量を取得する。
また、ECU20は、ニュートラルスイッチ21から変速段がニュートラル状態であるか否かを示すニュートラル信号を取得し、アクセル位置センサー24からアクセルが踏み込まれたか否かを示すアクセル信号を取得し、補機類作動部22から例えばオルタネーターやエアコン等の補機類が作動しているか否かを示す補機類作動信号を取得する。
また、ECU20は、補機類作動部22から、例えばPTOを作動しているか否かを示すPTO信号を取得する。
また、ECU20は、排気浄化装置14からDPF再生を実施しているか否かを示すDPF再生信号を取得する。
【0038】
次に、DPF再生を実施しているか否かが判定される(ステップS102)。本実施形態に係るDPF再生は、典型的には、上述したポスト噴射によって実施される。
【0039】
このステップS102の判定の結果、DPF再生を実施していないと判定される場合(ステップS102:No)、更に、次の4つの条件を全て満たすか否かが判定される(ステップS103)。4つの条件とは、(i)車両が停止状態であること、(ii)変速段がニュートラル状態であること、(iii)内燃機関が暖機運転状態であること、及び(iv)補機類が非作動状態であること、である。
尚、本発明に係るアイドル運転状態の一例が、DPF再生が非実施の最中に、これらの4つの条件を満たした運転状態によって構成されている。
【0040】
このステップS103の判定の結果、上述の4つの条件が全て満たされると判定される場合(ステップS103:Yes)、エンジン10の回転速度を一定値にさせるように、ECU20の制御下で、インジェクタ11によって、指示噴射量だけ燃料が噴射されると共に、ECU20がインジェクタ11に噴射するように指示した指示噴射量を示す情報が、ECU20の記憶部26に記憶される(ステップS104)。
【0041】
具体的には、図3中の期間T1、期間T2、期間T3、期間T4、期間T5及び期間T6において、上述の4つの条件が真となり、即ち、4つの条件が全て満たされている、エンジン10のアイドル運転状態の下で、エンジン10の回転速度が一定値になるように燃料噴射が制御される。これらの期間T1〜T6において、インジェクタ11への指示噴射量が、ECU20の記憶部26に記憶される。尚、典型的には、この指示噴射量は、ECU20によって、所定周期毎に、或いは、例えば噴射の都度等の所定の契機の度に調整されてよい。
【0042】
次に、記憶部26に記憶されたインジェクタ11への指示噴射量が所定閾値を超えるか否かが判定される(ステップS105)。典型的には、期間T1〜T6における、インジェクタ11への指示噴射量の平均値等の指示噴射量の代表値が所定閾値を超えるか否かが判定されてよい。ここに、本実施形態に係る所定閾値は、例えば目詰まり等のインジェクタ11の噴射に関する異常を迅速又は確実に判別させるために所望の値を、実験的に、経験的に、理論的に、又はシミュレーション等を用いて個別具体的に定義した値を意味する。
【0043】
この所定閾値は、例えば、インジェクタ11の噴射に関する異常を迅速に判別させるために低減させてよいし、或いは、例えば、インジェクタ11の噴射に関する異常を確実に判別させるために増大させてよい。より典型的には、所定閾値とは、インジェクタ11が新品であり、インジェクタ11の目詰まりが発生しない状態の下で、エンジン10に負荷が最小の運転をさせるために必要な燃料量に所定の測定誤差量を加算した値を意味してよい。
【0044】
上述したステップS105の判定の結果、インジェクタ11への指示噴射量が所定閾値を超えると判定される場合(ステップS105:Yes)、インジェクタ11の噴射状態は、暫定的異常状態であると判定される(ステップS106)。
【0045】
次に、ドライビングサイクルを単位として、暫定的異常状態が連続して発生した回数が、例えば3回等の所定回数以上であるか否かが判定される(ステップS107)。ここに、本実施形態に係るドライビングサイクル(DC:Driving Cycle)とは、エンジン10の始動後、エンジン10を停止するまでのエンジン10の運転期間を意味する。
【0046】
ここに本実施形態に係る所定回数は、インジェクタ11の噴射に関する異常を迅速又は確実に判別させるために所望の値を、実験的に、経験的に、理論的に、又はシミュレーション等を用いて個別具体的に定義した値を意味する。この所定回数は、例えば、インジェクタ11の噴射に関する異常を迅速に判別させるために低減させてよいし、或いは、例えば、インジェクタ11の噴射に関する異常を確実に判別させるために増大させてよい。この所定回数は、典型的には、例えば3回乃至10回等の回数でよい。
【0047】
このステップS107の判定の結果、ドライビングサイクルを単位として、暫定的異常状態が連続して発生した回数が、例えば3回等の所定回数以上であると判定される場合(ステップS107:Yes)、ECU20は、インジェクタ11の異常を確定し、インジェクタ11の噴射状態は、確定的異常状態であると判定し、インジェクタ11の噴射状態が異常状態であることを示す異常履歴情報を、記憶部26に記憶する(ステップS108)。典型的には、記憶部26は、異常履歴情報として、確定的異常状態であることを示すフラグ情報、確定的異常状態が発生した日付、確定的異常状態が発生した際の車両の走行距離などの確定的異常状態に関する情報を記憶する。
【0048】
この結果、記憶部26に記憶された異常履歴情報によって、インジェクタ11に異常が発生したか否かを確実又は迅速に判定することができる。特に、車両1で走行に関する不具合が発生した場合に、インジェクタ11に異常が発生したか否かを確実に判定することができるので、不具合の原因の範囲を狭くすることができるので、不具合の特定を簡便にすることができるので、実践上、大変有益である。加えて、インジェクタ11の異常を確実又は迅速に判定することができるので、インジェクタ11の新品部品への交換や修理等を促し、インジェクタ11の正常な状態を長期間維持することができる。これにより、高精度な燃料噴射(ポスト噴射)が要求されるDPF再生を適切に実施することができる。
【0049】
典型的には、図4(a)に示されるように、車両1が駆動される時間の時間軸上、ドライビングサイクルDC1ではインジェクタ11が正常な状態となり、ドライビングサイクルDC2では暫定的異常状態となり、ドライビングサイクルDC3では暫定的異常状態となり、ドライビングサイクルDC4では暫定的異常状態となり、確定的異常状態であると判定された場合について説明する。
即ち、ドライビングサイクルDC4の直後に整備のために車庫に駐車した際には、記憶部26には、確定的異常状態であることを示すフラグ情報、確定的異常状態が発生した日付、確定的異常状態が発生した際の車両の走行距離などの確定的異常状態に関する情報が記憶されている。これにより、インジェクタ11の異常を確実又は迅速に判定することができるので、インジェクタ11の新品部品への交換や修理等を促し、インジェクタ11の正常な状態を長期間維持することができる。
【0050】
他方、上述したステップS105の判定の結果、インジェクタ11への指示噴射量が所定閾値を超えると判定されない場合、換言すると、インジェクタ11への指示噴射量が所定閾値を下回ると判定される場合(ステップS105:No)、噴射状態は、暫定的異常状態及び確定的異常状態のうちいずれか一方の状態であるか否かが判定される(ステップS109)。ここで、噴射状態は、暫定的異常状態及び確定的異常状態のうちいずれか一方の状態であると判定される場合(ステップS109:Yes)、更に、ECU20の制御下で、ドライビングサイクルを単位として、インジェクタ11の噴射状態が連続して正常状態である回数が、例えば3回等の所定回数以上であるか否かが判定される(ステップS110)。ここに、本実施形態に係る正常状態とは、インジェクタ11への指示噴射量が所定閾値を超えない、インジェクタ11の噴射状態を意味する。
【0051】
上述のステップS110の判定の結果、ドライビングサイクルを単位として、インジェクタ11の噴射状態が連続して正常状態である回数が、例えば3回等の所定回数以上であると判定される場合(ステップS110:Yes)、ECU20は、インジェクタ11の異常状態から正常状態への復帰を判定し、インジェクタ11の噴射状態は、正常状態であると判定し、インジェクタ11の噴射状態が異常状態であることを示す異常履歴情報を、記憶部26から消去する(ステップS111)。
【0052】
これにより、仮にインジェクタ11の噴射状態が、確定的異常状態と判定され、インジェクタ11を新品と交換した場合、新品であれば、ドライビングサイクルを少なくとも所定回数だけ運転すれば、暫定的正常状態を経て確定的正常状態であると判定されるので(換言すれば暫定的正常状態が少なくとも所定回数だけ連続して発生した後、確定的正常状態であると判定されるので)、異常状態情報を記憶部26から消去することができる。これにより、インジェクタ11の新品と交換後に、インジェクタ11の異常を判定する際の誤判断の可能性を効果的に低減できるので、インジェクタ11の整備の際に利用される記憶部26に記憶されている異常情報の正確性を向上させることが可能である。
【0053】
加えて、異常状態情報を消去することにより、記憶部26において、異常状態情報の情報量が冗長的に増大するのを防止することができるので、記憶部26を含むエンジンECU20の構成を簡素化することができる。
更に加えて、偶発的又は突発的に、インジェクタ11の噴射状態が暫定的異常状態又は確定的異常状態と判定された場合においても、時間の経過に伴って、暫定的正常状態、又は、この暫定的正常状態を経た確定的正常状態というインジェクタ11の正常状態を復帰的に判定することができる。これにより、例えば外界温度等の外界環境に影響される目詰まり等に起因する偶発的又は突発的な誤判定の確率を小さくすることができる。
【0054】
典型的には、図4(b)に示されるように、車両1が走行した時間軸上、ドライビングサイクルDC1ではインジェクタ11が正常な状態となり、ドライビングサイクルDC2、ドライビングサイクルDC3、及びドライビングサイクルDC4では暫定的異常状態となり、ドライビングサイクルDC5、ドライビングサイクルDC6、及びドライビングサイクルDC7ではインジェクタ11が正常な状態となった場合について説明する。このように、例えば目詰まり等に起因して偶発的又は突発的に、インジェクタ11の噴射状態が暫定的異常状態、及びこの暫定的異常状態を経た確定的異常状態と判定された場合においても、時間の経過に伴って、暫定的正常状態、及び、この暫定的正常状態を経た確定的正常状態というインジェクタ11の正常状態を復帰的に判定することができる。
これにより、例えば目詰まりや外界温度等の外界環境の変化に起因する偶発的又は突発的な誤判定の確率を小さくすることができる。
【0055】
或いは、典型的には、図4(c)に示されるように、車両1が走行した時間軸上、ドライビングサイクルDC1ではインジェクタ11が正常な状態となり、ドライビングサイクルDC2、及びドライビングサイクルDC3では暫定的異常状態となり、ドライビングサイクルDC4、ドライビングサイクルDC5、及びドライビングサイクルDC6ではインジェクタ11が正常な状態となった場合について説明する。このように、例えば目詰まり等に起因して偶発的又は突発的に、インジェクタ11の噴射状態が暫定的異常状態と判定された場合においても、時間の経過に伴って、暫定的正常状態、及び、この暫定的正常状態を経た確定的正常状態というインジェクタ11の正常状態を復帰的に判定することができる。これにより、例えば目詰まりや外界温度等の外界環境の変化に起因する偶発的又は突発的な誤判定の確率を小さくすることができる。
【0056】
或いは、典型的には、図4(d)に示されるように、車両1が走行した時間軸上、ドライビングサイクルDC1ではインジェクタ11が正常な状態となり、ドライビングサイクルDC2、ドライビングサイクルDC3、及びドライビングサイクルDC4では暫定的異常状態となり、確定的異常状態であると判定され、インジェクタ11を新品と交換後、ドライビングサイクルDC5、ドライビングサイクルDC6、及びドライビングサイクルDC7ではインジェクタ11が正常な状態となった場合について説明する。このように、仮にインジェクタ11の噴射状態が、確定的異常状態と判定され、インジェクタ11を新品と交換した場合、新品であれば、ドライビングサイクルを少なくとも3回だけ運転すれば、暫定的正常状態を経て確定的正常状態であると判定されるので(換言すれば暫定的正常状態が少なくとも3回だけ連続して発生した後、確定的正常状態であると判定されるので)、異常状態情報を記憶部26から消去することができる。これにより、インジェクタ11の新品と交換後に、インジェクタ11の異常を判定する際の誤判断の可能性を効果的に低減できるので、インジェクタ11の整備の正確性を向上させることが可能である。
【0057】
他方、上述したステップS102の判定の結果、ECU20の制御下で、DPF再生を実施していると判定される場合(ステップS102:Yes)、上述したステップS103の判定の結果、ECU20の制御下で、上述の4つの条件が全て満たされると判定されない場合、換言すると、上述の4つの条件のうち少なくとも一つの条件が満たされないと判定される場合(ステップS103:No)、又は、上述のステップS107の判定の結果、ドライビングサイクルを単位として、暫定的異常状態が連続して発生した回数が、例えば3回等の所定回数以上であると判定されない場合、換言すると暫定的異常状態が連続して発生した回数が、所定回数未満であると判定される場合(ステップS107:No)、上述したステップS101へ戻る。
【0058】
或いは、他方、上述のステップS109の判定の結果、噴射状態は、暫定的異常状態及び確定的異常状態のうちいずれでもなく、正常状態であると判定される場合(ステップS109:No)、又は、上述のステップS110の判定の結果、ドライビングサイクルを単位として、インジェクタ11の噴射状態が連続して正常状態である回数が、例えば3回等の所定回数以上であると判定されない場合、換言すると、インジェクタ11の噴射状態が連続して正常状態である回数が、所定回数未満であると判定される場合(ステップS110:No)、上述したステップS101へ戻る。
【0059】
なお、図2のフローチャートの説明において、第1判定手段27がステップS102、S103に相当し、第2判定手段28がステップS104〜S106に相当し、第3判定手段29がステップS107、S108に相当し、異常情報消去手段31がステップS109〜S111に相当する。
【0060】
以上の結果、インジェクタ11の噴射状態の異常を正確に判定することができると共に、記憶部26に記憶された異常履歴情報に基づいて、インジェクタ11に異常が発生したか否かを自動的に判定することができる。
【0061】
仮に、本実施形態に係るインジェクタ11の異常判定が実施されない場合、ポスト噴射を用いることによるDPFの再生制御において、インジェクタ11への異物の付着等に起因した燃料の噴射量が低下することに伴って、DPFの再生時間が長時間化し、燃料消費が増大したり、オイルダイリューションが増加してしまうという技術的な問題が生じる。
【0062】
これに対して、本実施形態によれば、異常の判定の結果を異常履歴情報として、ECU20の記憶部26に記憶させておく。この結果、例えば、整備工場に入庫した際に、インジェクタ11に異常が発生したか否かを簡便に判定することができる。インジェクタ11の交換等の整備作業に役立ち、DPFの効率的な再生制御を維持できる。
【0063】
尚、上述した実施形態では、インジェクタ11の噴射状態が異常状態であることを示す異常履歴情報を、記憶部26に記憶したが、本実施形態はこの限りではなく、インジェクタ11の噴射状態が異常状態であることを示すランプ等の報知手段を用いて運転者や整備士に知らせるように構成してよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、燃料噴射装置の異常を簡単かつ正確に判定することが可能なため、例えばディーゼルエンジン等の圧縮着火式の内燃機関の異常判定装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 車両
2 吸気通路
3 エアクリーナー
4 エアフローセンサー(AFM)
5 ターボ過給機
5c コンプレッサ
5t タービン
6 排気通路
7 インタクーラー
8 バタフライバルブ
9 EGR通路
9b EGR弁
9c EGRクーラー
10 エンジン
10k 気筒
10n 燃焼室
10i 吸気弁
10e 排気弁
10p ピストン
10c クランク軸
10w 水温センサー
10s 気筒判別センサー
11 インジェクタ
12 コモンレール
13 燃料ポンプ
14 排気浄化装置
15 エンジン速度センサー
20 エンジンECU(ECU)
21 ニュートラルスイッチ
22 補機類作動部
23 DPF再生スイッチ
24 アクセル位置センサー
25 コモンレール圧センサー
26 記憶部
DC1〜DC7 ドライビングサイクル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気系に排気浄化装置を有する圧縮着火式の内燃機関の異常を判定する内燃機関の異常判定装置であって、
前記内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射手段と、
前記内燃機関がアイドル運転状態であるか否かを判定する第1判定手段と、
前記内燃機関が前記アイドル運転状態であると判定した場合、前記内燃機関の回転速度を一定値にさせるように、前記燃料噴射手段に指示噴射量を噴射する噴射制御手段と、
前記指示噴射量が所定閾値を超えた場合、前記燃料噴射手段の噴射状態が暫定的異常状態であると判定する第2判定手段と、
前記内燃機関の始動から停止までの所定運転期間を単位として、前記暫定的異常状態が連続して発生した回数が所定回数を超えた場合、前記燃料噴射手段の噴射状態が確定的異常状態であると判定する第3判定手段と、
前記確定的異常状態であると判定した場合、前記確定的異常状態に関する異常状態情報を記憶する記憶手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の異常判定装置。
【請求項2】
更に、前記暫定的異常状態又は前記確定的異常状態において、前記指示噴射量が前記所定閾値を下回る暫定的正常状態であるか否かを判定し、
前記所定運転期間を単位として、前記暫定的正常状態が所定回数だけ連続して発生した確定的正常状態であるか否かを判定し、
前記確定的正常状態であると判定した場合、前記異常状態情報を消去する異常情報消去手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の異常判定装置。
【請求項3】
前記アイドル運転状態は、前記内燃機関を搭載した車両が停止状態であり、前記車両の変速段がニュートラル状態であり、前記内燃機関が暖機運転状態であり、前記車両の補機類が非作動状態であり、且つ、前記排気浄化装置のDPF再生が非実施であることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の異常判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−102650(P2012−102650A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250849(P2010−250849)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】