説明

内燃機関の空燃比制御装置

【課題】噴射形態の切替時における空燃比の乱れを抑えることのできる内燃機関の空燃比制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン11は、ポート噴射用インジェクタ22と筒内噴射用インジェクタ17とを備える。電子制御装置30は、エンジン11の実空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量を補正する空燃比補正値を算出する。この空燃比補正値は、目標空燃比と実空燃比との偏差に基づいて算出されるフィードバック補正値と、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれを補償する学習値とで構成されている。噴射形態の切替に際して、切替前の噴射形態における学習値及び切替後の噴射形態における学習値の少なくとも一方の学習が完了していないときには、切替前のフィードバック補正値による燃料噴射量の補正を抑制するためにフィードバック補正値を初期化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の実空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量を補正する空燃比制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、実空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量を補正する空燃比制御が行われている。この空燃比制御では、目標空燃比と実空燃比との偏差に基づいて算出されるフィードバック補正値と、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれを補償する学習値とによって燃料噴射量が補正される。
【0003】
他方、特許文献1に記載されているように、吸気通路に燃料を噴射する吸気通路用噴射弁と燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内用噴射弁とを備える内燃機関が知られている。この内燃機関では、各噴射弁から噴射される燃料の噴射比率が互いに異なる複数の噴射形態が用意されており、機関運転状態に応じて噴射形態が切り替えられる。そして、同文献1に記載のごとく、噴射形態を切替可能な内燃機関では噴射形態毎に上記学習値が算出されることにより、吸気通路用噴射弁や筒内用噴射弁の噴射特性に応じた学習値が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−258037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記学習値の学習が完了していない状態で、噴射形態の切替前におけるフィードバック補正値を噴射形態の切替後におけるフィードバック補正値としてそのまま利用してしまうと、噴射形態の切替直後において空燃比が乱れてしまうことがある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、噴射形態の切替時における空燃比の乱れを抑えることのできる内燃機関の空燃比制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、吸気通路に燃料を噴射する吸気通路用噴射弁と、燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内用噴射弁とを備え、これら各噴射弁から噴射される燃料の噴射比率が異なる複数の噴射形態に切り替えられる内燃機関に適用されて、同内燃機関の実空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量を補正する空燃比補正値を算出する空燃比制御装置において、前記空燃比補正値は、目標空燃比と実空燃比との偏差に基づいて算出されるフィードバック補正値と、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれを補償する学習値とで構成されており、前記噴射形態の切替に際して、切替前の噴射形態における前記学習値及び切替後の噴射形態における前記学習値の少なくとも一方の学習が完了していないときには、切替前のフィードバック補正値による燃料噴射量の補正を抑制することをその要旨とする。
【0008】
上記学習値の学習完了前では、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれが上記フィードバック補正値に含まれてしまうため、同フィードバック補正値は比較的大きい値になりやすい。一方、上記学習値の学習が完了すると、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれは学習値によって補償されるため、フィードバック補正値は、学習値の学習完了前と比較して小さい値になる。
【0009】
従って、噴射形態の切替前での学習値の学習が完了しておらず、噴射形態の切替後での学習値の学習が完了している場合には、噴射形態切替後の上記空燃比補正値として、比較的大きな値となっているフィードバック補正値が学習値に加算されることになり、空燃比補正値が過度に大きくなって燃料噴射量が過剰に補正されるおそれがある。
【0010】
逆に、噴射形態の切替前での学習値の学習が完了しており、噴射形態の切替後での学習値の学習が完了していない場合には、噴射形態切替後の上記空燃比補正値が、比較的小さい値となっているフィードバック補正値のみによって構成されることになり、空燃比補正値が過度に小さくなって燃料噴射量の補正が不足するおそれがある。
【0011】
そこで、同構成では、噴射形態の切替に際して、切替前の噴射形態における学習値及び切替後の噴射形態における学習値の少なくとも一方の学習が完了していないときには、切替前のフィードバック補正値による燃料噴射量の補正を抑制するようにしている。そのため、燃料噴射量の過剰補正や補正不足が抑えられるようになり、これにより噴射形態の切替時における空燃比の乱れを抑えることができるようになる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記切替前のフィードバック補正値による燃料噴射量の補正の抑制は、前記フィードバック補正値を初期化することによって行われることをその要旨とする。
【0013】
同構成によれば、噴射形態の切替に際して、切替前の噴射形態における学習値及び切替後の噴射形態における学習値の少なくとも一方の学習が完了していないときには、フィードバック補正値が初期化される。従って、噴射形態切替前のフィードバック補正値によって行われる噴射形態切替後の燃料噴射量の補正を適切に抑制することができるようになる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記噴射形態の切替に際して、切替前の噴射形態における前記学習値及び切替後の噴射形態における前記学習値の双方についてともに学習が完了しているときには、切替直後のフィードバック補正値として、切替直前のフィードバック補正値を設定することをその要旨とする。
【0015】
噴射形態の切替前後において学習値の学習が完了している場合には、噴射形態切替後の上記空燃比補正値として、比較的小さい値となっているフィードバック補正値が噴射形態切替後の学習値に加算される。従って、空燃比補正値として過度に大きい値や小さい値が設定されることはなく、燃料噴射量の過剰補正や補正不足が抑えられる。
【0016】
また、噴射形態切替直後のフィードバック補正値として、噴射形態切替直前のフィードバック補正値を設定する場合には、フィードバック補正値の初期値を設定する場合と比較して、切替直後のフィードバック補正値がある程度更新された状態となっている。そのためより早い時期に空燃比を安定化させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる内燃機関の空燃比制御装置を具体化した一実施形態にあって、これが適用されるエンジンの構造を示す模式図。
【図2】学習値の学習完了前と学習完了後とにおけるフィードバック補正値の変化を示す概念図。
【図3】同実施形態におけるフィードバック補正値の反映処理の手順を示すフローチャート。
【図4】噴射形態の切り替えに伴うフィードバック補正値の変化、及び実空燃比の変化を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明にかかる内燃機関の空燃比制御装置を具体化した一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
図1に示されるように、内燃機関11の気筒12内にはピストン13が備えられている。ピストン13は、内燃機関11の出力軸であるクランクシャフト15にコンロッド14を介して連結されており、コンロッド14によりピストン13の往復運動がクランクシャフト15の回転運動に変換される。
【0019】
気筒12内にあってピストン13の上方には燃焼室16が区画形成されており、この燃焼室16に向かって筒内噴射用インジェクタ17(筒内用噴射弁)が取り付けられている。筒内噴射用インジェクタ17には、周知の燃料供給機構を通じて所定の高圧燃料が供給されている。そして、この筒内噴射用インジェクタ17の開弁駆動により、燃料が燃焼室16内に直接噴射供給される(筒内噴射)。
【0020】
また、燃焼室16には、その内部に形成される燃料と空気とからなる混合気に対して点火を行う点火プラグ18が取り付けられている。この点火プラグ18による混合気への点火タイミングは、点火プラグ18の上方に設けられたイグナイタ19によって調整される。
【0021】
更に、上記燃焼室16には、吸気通路20及び排気通路21が連通されている。そして、燃焼室16と吸気通路20との連通部分、すなわち吸気ポート20aには、同吸気ポート20aに燃料を噴射するポート噴射用インジェクタ22(吸気通路用燃料噴射弁)が設けられている。このポート噴射用インジェクタ22には、周知の機構を通じて所定圧の燃料が供給されている。そして、このポート噴射用インジェクタ22の開弁駆動に伴って、燃料が吸気ポート20aに噴射される(ポート噴射)。また、吸気通路20には燃焼室16に導入される空気量を調量するスロットルバルブが設けられている。
【0022】
また、排気通路21の下流には、混合気の空燃比が所定範囲内の値となっているときに浄化機能を発揮する排気浄化装置100が設けられている。
内燃機関11の機関制御は、電子制御装置30により行われている。電子制御装置30は、機関制御に係る各種処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、制御用のプログラムや機関制御に必要な情報を記憶するメモリ、筒内噴射用インジェクタ17やポート噴射用インジェクタ22の駆動回路、並びにイグナイタ19等の駆動回路等を備えて構成されている。
【0023】
電子制御装置30には、機関運転状態を検出する各種のセンサが接続されている。例えばクランクセンサ31によって機関出力軸であるクランクシャフト15の位相角、すなわちクランク角が検出され、これに基づいて機関回転速度NEが算出される。またアクセルセンサ33によって、アクセル操作量ACCPが検出される。また、電子制御装置30には、吸気通路20内を流れる空気の量を検出するエアフロエータ34の検出信号が入力され、この検出信号に基づいて吸入空気量Qaが検出される。さらに電子制御装置30には、機関冷却水の温度(冷却水温THW)を検出する水温センサ35、吸気の温度(吸気温THA)を検出する温度センサ36、実空燃比AFrを検出するために排気中の酸素濃度を検出する空燃比センサ37等、機関制御に必要なセンサの検出信号が入力されている。そして電子制御装置30は、こうした各種センサの検出信号によって把握される内燃機関11の運転状況に応じて、燃料噴射制御や点火時期制御を始めとする各種機関制御を実施する。
【0024】
電子制御装置30は、機関負荷や機関回転速度に基づいて筒内噴射用インジェクタ17及びポート噴射用インジェクタ22からそれぞれ噴射される燃料の噴射比率を変更することで複数の噴射形態を具現化する。例えば、低負荷運転領域ではポート噴射用インジェクタ22だけを用いて燃料噴射を行い、高負荷運転領域では筒内噴射用インジェクタ17だけを用いて燃料噴射を行う。そして中負荷運転領域では、ポート噴射用インジェクタ22及び筒内噴射用インジェクタ17の双方から燃料噴射を行う。さらに、後述する学習値Gの学習が未完の場合や、筒内噴射用インジェクタ17に対するデポジット付着の抑制を図る場合には、本来ポート噴射用インジェクタ22だけを用いた燃料噴射を行う領域であっても、一時的に筒内噴射用インジェクタ17だけを用いた燃料噴射に切り替える。
【0025】
また、電子制御装置30は空燃比制御を行う。この空燃比制御は周知の制御であるため、以下では概要のみを説明する。
空燃比制御では、混合気の実空燃比AFrが目標空燃比AFpとなるように基本燃料噴射量Qbを補正する空燃比補正値AFHを算出される。そして、基本燃料噴射量Qbに対して空燃比補正値AFHの分だけ燃料噴射量が補正されることにより最終的な燃料噴射量Qが算出される。
【0026】
空燃比補正値AFHは、目標空燃比AFpと実空燃比AFrとの偏差に基づいて算出されるフィードバック補正値(以下、FB補正値という)Hと、目標空燃比AFpと実空燃比AFrとの定常的なずれを補償する学習値Gとで構成されている。
【0027】
FB補正値Hは、目標空燃比AFpと実空燃比AFrとの偏差に基づいて算出される値であり、算出周期ごとに更新される。
一方、学習値Gは、ポート噴射用インジェクタ22や筒内噴射用インジェクタ17の噴射特性の個体差等に起因して実空燃比AFrが目標空燃比AFpからリッチ側またはリーン側に定常的にずれることを補償する値であり、FB補正値Hの絶対値が所定値を超えることを条件に更新されて学習が完了する。従って、図2に示すように、学習値Gの学習完了前では、空燃比補正値AFHの全てがFB補正値Hで構成されている一方、学習値Gの学習完了後では、空燃比補正値AFHがFB補正値H及び学習値Gで構成される。さらに、学習値Gの学習完了前では、目標空燃比AFpと実空燃比AFrとの定常的なずれがFB補正値Hに含まれてしまうため、同FB補正値Hは比較的大きい値になりやすい。一方、学習値Gの学習が完了すると、目標空燃比AFpと実空燃比AFrとの定常的なずれは学習値Gによって補償されるため、FB補正値Hは、学習値Gの学習完了前と比較して小さい値になる。
【0028】
なお、学習値Gは、各インジェクタ17、22の個体差等を補償する値であるため、ポート噴射用インジェクタ22及び筒内噴射用インジェクタ17のそれぞれについて算出される。以下では、ポート噴射用インジェクタ22に対応した学習値Gをポート用学習値Gpといい、筒内噴射用インジェクタ17に対応した学習値Gを筒内用学習値Gdという。
【0029】
次に、燃料を噴射するインジェクタがポート噴射用インジェクタ22から筒内噴射用インジェクタ17に切り替えられるとき、あるいは筒内噴射用インジェクタ17からポート噴射用インジェクタ22に切り替えられるとき、つまり噴射形態を切り替えるときのFB補正値Hの設定態様について、図3、4を参照して説明する。
【0030】
図3に、噴射形態切り替え直後のFB補正値Hを設定する反映処理についてその処理手順を示す。なお、本処理は電子制御装置30によって所定周期ごとに繰り返し実行される。また、この反映処理によって設定された噴射形態の切り替え直後におけるFB補正値Hは、その後、目標空燃比AFpと実空燃比AFrとの偏差に基づいて随時更新されることにより、切り替え後の噴射形態に対応した値に更新されていく。
【0031】
さて、本処理が開始されるとまず、噴射形態の切り替え時、つまりポート噴射から筒内噴射への切り替え時、または筒内噴射からポート噴射への切り替え時のいずれかであるか否かが判定される(S100)。そして、噴射形態の切り替え時である場合には、筒内用学習値Gd及びポート用学習値Gpの双方についてともに学習が完了しているか否かが判定される(S110)。そして、筒内用学習値Gd及びポート用学習値Gpの学習がともに完了している場合には(S110:YES)、噴射形態を切り替える直前のFB補正値Hが、噴射形態を切り替えた直後のFB補正値Hとして設定される(S120)。そして本処理は一旦終了される。
【0032】
このように噴射形態切替直後のFB補正値Hとして、噴射形態切替直前のFB補正値Hを設定する場合には、FB補正値Hの初期値を設定する場合と比較して、切替直後のFB補正値Hがある程度更新された状態となっている。そのためより早い時期に実空燃比AFrを目標空燃比AFpに向けて安定化させることができる。
【0033】
また、筒内用学習値Gd及びポート用学習値Gpの学習がともに完了している場合、つまり噴射形態の切替前後において学習値Gの学習が完了している場合には、噴射形態切替後の空燃比補正値AFHとして、比較的小さい値となっているFB補正値Hが噴射形態切替後の学習値Gに加算される。従って、空燃比補正値AFHとして過度に大きい値や小さい値が設定されることはなく、基本燃料噴射量Qbの過剰補正や補正不足が抑えられる。
【0034】
上記ステップS110にて筒内用学習値Gd及びポート用学習値Gpの学習がともに完了していないと判定される場合、つまり筒内用学習値Gd及びポート用学習値Gpの少なくとも一方の学習が完了していない場合には(S110:NO)、ステップS130の処理が行われる。このステップS130では、噴射形態切替前のFB補正値Hによる基本燃料噴射量Qbの補正を噴射形態切り替え後において抑制するために、FB補正値Hが初期化される。そして本処理は終了される。なお、本実施形態では、FB補正値Hの初期値が「0」に設定されているため、ステップS130ではFB補正値Hとして「0」が設定される。
【0035】
図4に、上記反映処理によるFB補正値Hの変化、及び実空燃比AFrの変化を示す。なお、同図4において、実線には本実施形態におけるFB補正値H及び実空燃比AFrの変化を示し、二点鎖線には従来のFB補正値H及び実空燃比AFrの変化を示す。
【0036】
上述したように、学習値Gの学習完了前では、目標空燃比AFpと実空燃比AFrとの定常的なずれがFB補正値Hに含まれてしまうため、同FB補正値Hは比較的大きい値になりやすい。一方、学習値Gの学習が完了すると、目標空燃比AFpと実空燃比AFrとの定常的なずれは学習値Gによって補償されるため、FB補正値Hは、学習値Gの学習完了前と比較して小さい値になる。
【0037】
従って、例えば図4の時刻t1に示すように、ポート噴射から筒内噴射への切り替えに際して、ポート用学習値Gpの学習が完了しておらず筒内用学習値Gdの学習が完了している場合に、噴射形態切り替え前のFB補正値Hをそのまま噴射形態切り替え後のFB補正値Hに反映してしまうと、次の不都合が生じるおそれがある。すなわち、噴射形態切替後の空燃比補正値AFHとして、筒内用学習値Gdに加えて、比較的大きな値となっているFB補正値Hが加味される。そのため、空燃比補正値AFHが過度に大きくなって燃料噴射量が過剰に増量補正され、噴射形態の切り替え直後において実空燃比が過度にリッチ化するおそれがある。
【0038】
また、例えば図4の時刻t2に示すように、筒内噴射からポート噴射への切り替えに際して、筒内用学習値Gdの学習が完了しており、ポート用学習値Gpの学習が完了していない場合に、噴射形態切り替え前のFB補正値Hをそのまま噴射形態切り替え後のFB補正値Hに反映してしまうと、次の不都合が生じるおそれがある。すなわち、ポート用学習値Gpの学習が完了していないため、噴射形態切替後の空燃比補正値AFHは、筒内噴射中に更新された比較的小さい値となっているFB補正値Hのみによって構成されることになる。従って、空燃比補正値AFHが過度に小さくなって基本燃料噴射量Qbの補正が不足してしまい、噴射形態の切り替え直後において実空燃比が過度にリーン化するおそれがある。
【0039】
この点、本実施形態では、ステップS130の実行により、噴射形態の切替直前におけるFB補正値Hを用いた基本燃料噴射量Qbの補正が抑制される。そのため、基本燃料噴射量Qbの過剰な補正や補正不足が抑えられるようになり、これにより噴射形態の切替時における実空燃比AFrの乱れが抑えられる。特に、本実施形態では、時刻t1や時刻t2においてFB補正値Hが初期化される。そのため、噴射形態切替直後の基本燃料噴射量Qbの補正が、噴射形態切替前のFB補正値Hによって行われてしまうことを確実に抑制することができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)噴射形態の切替に際して、切替前の噴射形態における学習値G及び切替後の噴射形態における学習値Gの少なくとも一方の学習が完了していないときには(図3のステップS110:NO)、噴射形態切替前のFB補正値Hによる燃料噴射量の補正を抑制するようにしている(図3のステップS130)。そのため、噴射形態の切替に際して、燃料噴射量の過剰補正や補正不足が抑えられるようになり、これにより噴射形態の切替時における実空燃比AFrの乱れを抑えることができるようになる。
(2)図3のステップS110で否定判定されるときには、噴射形態切替前のFB補正値Hによる燃料噴射量の補正を抑制するためにFB補正値Hを初期化するようにしている。従って、噴射形態切替前のFB補正値Hによって行われる噴射形態切替後の燃料噴射量の補正を適切に抑制することができるようになる。
(3)噴射形態の切替に際して、切替前の噴射形態における学習値G及び切替後の噴射形態における学習値Gの双方についてともに学習が完了しているときには、切替直後のFB補正値Hとして、切替直前のFB補正値Hを設定するようにしている。従って、噴射形態切り替え後の空燃比補正値AFHとして過度に大きい値や小さい値が設定されることはなく、燃料噴射量の過剰補正や補正不足が抑えられるようになる。
【0041】
また、噴射形態切替直後のFB補正値Hとして、同FB補正値Hの初期値を設定する場合と比較してより早い時期に実空燃比AFrを安定化させることができるようになる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・噴射形態切替前のFB補正値Hによる燃料噴射量の補正を抑制するために、FB補正値Hを初期化するようにした。この他、噴射形態の切替に際しては、噴射形態切替前のFB補正値Hを補正してある程度小さい値にし、この補正された値を切り替え直後のFB補正値Hとして設定するようにしてもよい。
・上記反映処理では、図3のステップS100における噴射形態の切り替え判定に際して、ポート噴射から筒内噴射への切り替え時、または筒内噴射からポート噴射への切り替え時のいずれかであるか否かを判定するようにした。この他、ポート噴射及び筒内噴射をともに行う領域において、各インジェクタ17、22の噴射比率が変更されるときにも、噴射形態の切り替え時であると判定し、ステップS110〜S130の処理を同様に行うようにしてもよい。なお、この場合には、設定される噴射比率ごとにポート用学習値Gp及び筒内用学習値Gdをそれぞれ算出する。そしてステップS110では、噴射比率変更前及び変更後のそれぞれにおいてポート用学習値Gp及び筒内用学習値Gdの双方の学習が完了している場合に肯定判定されるようにする。
【符号の説明】
【0042】
11…内燃機関、12…気筒、13…ピストン、14…コンロッド、15…クランクシャフト、16…燃焼室、17…筒内噴射用インジェクタ、18…点火プラグ、19…イグナイタ、20…吸気通路、20a…吸気ポート、21…排気通路、22…ポート噴射用インジェクタ、30…電子制御装置、31…クランクセンサ、33…アクセルセンサ、34…エアフロメータ、35…水温センサ、36…温度センサ、37…空燃比センサ、100…排気浄化装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路に燃料を噴射する吸気通路用噴射弁と、燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内用噴射弁とを備え、これら各噴射弁から噴射される燃料の噴射比率が異なる複数の噴射形態に切り替えられる内燃機関に適用されて、同内燃機関の実空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量を補正する空燃比補正値を算出する空燃比制御装置において、
前記空燃比補正値は、目標空燃比と実空燃比との偏差に基づいて算出されるフィードバック補正値と、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれを補償する学習値とで構成されており、
前記噴射形態の切替に際して、切替前の噴射形態における前記学習値及び切替後の噴射形態における前記学習値の少なくとも一方の学習が完了していないときには、切替前のフィードバック補正値による燃料噴射量の補正を抑制する
ことを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項2】
前記切替前のフィードバック補正値による燃料噴射量の補正の抑制は、前記フィードバック補正値を初期化することによって行われる
請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記噴射形態の切替に際して、切替前の噴射形態における前記学習値及び切替後の噴射形態における前記学習値の双方についてともに学習が完了しているときには、切替直後のフィードバック補正値として、切替直前のフィードバック補正値を設定する
請求項1または2に記載の内燃機関の空燃比制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202209(P2012−202209A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64421(P2011−64421)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】