説明

内燃機関の過給装置

【課題】ターボ過給機のコンプレッサに流入する吸気に対し、低速域における旋回成分の付与と、中・高速域における通気抵抗の低下と、の両立を図る。
【解決手段】吸気を過給するコンプレッサの上流側に、その内周面が下流側へ向かうに従って徐々に縮径するテーパ状をなす吸気管部10を設ける。この吸気管部10内に、吸気に旋回成分を付与するガイドベーン23を備えた吸気ガイドユニット20を通路長手方向L0に移動可能に配設する。低速域では、アクチュエータ25により吸気ガイドユニット20を下流側に配置することで、テーパ状をなす吸気管部10の内周と吸気ガイドユニット20の外筒部の外周との隙間ΔD2を小さくして、旋回成分の強化を図る。中・高速域では、吸気ガイドユニット20を上流側に配置することで、隙間ΔD1を大きくして、通気抵抗の低減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の過給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ過給機の吸気効率を高める技術として、特許文献1には、吸気を過給するコンプレッサの上流側に案内羽根(ガイドベーン)を設ける技術が記載されている。この案内羽根は、吸気通路の中心部に設けたギヤケース内の歯車によって、その傾き角が調整可能とされており、機関負荷や機関回転速度に応じて案内羽根の傾き角度を制御するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−167824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
案内羽根により遠心式のコンプレッサへ流入する吸気を整流するとともに旋回成分を付与することにより、特に吸気流量の少ない低速域において、吸気効率を高めて、機関出力・トルクの立ち上がりを早くすることができるものの、吸気流量が多い中・高速域では、案内羽根による通気抵抗が増加して、逆に機関出力・トルクを低下させることが懸念される。
【0005】
また、上記特許文献1のように、機関回転速度等に応じて案内羽根の傾き角を調整するものでは、個々の案内羽根を可動式とした上で、その傾き角を変更・保持するための複雑なギヤ機構が必要となり、装置の大型化,コストの増加や、耐久性・信頼性の低下などが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、簡素な構造でありながら、低速域における旋回成分の付与と、中・高速域における通気抵抗の低下と、を両立することができる新規な内燃機関の過給装置を提供することを目的としている。
【0007】
すなわち、本発明に係る内燃機関の過給装置は、吸気を過給するコンプレッサと、このコンプレッサの上流側に設けられ、その内周面が下流側へ向かうに従って徐々に縮径するテーパ状をなす吸気管部と、吸気に旋回成分を付与するガイドベーンを備え、上記吸気管部の内部に設けられる吸気ガイドユニットと、上記吸気ガイドユニットと吸気管部との隙間が増減するように、上記吸気ガイドユニットを通路長手方向に沿って駆動するアクチュエータと、を有することを特徴としている。
【0008】
上記の構成により、所定の低速域では、アクチュエータにより吸気ガイドユニットを下流側に駆動・配置することで、下流側へ向けて徐々に縮径するテーパ状の吸気管部と、その内側に配置される吸気ガイドユニットと、の隙間が小さくなる。従って、吸気の多くが、ガイドベーンを備えた吸気ガイドユニット内を通過することとなり、ガイドベーンによる吸気の整流及び旋回成分の付与が促進される。この結果、コンプレッサの回転上昇が速まり、ブーストの発達が促進されるために、低速トルクの立ち上げるを早めて、ターボラグを抑制・解消することができる。
【0009】
一方、この低速域よりも機関回転速度が高い所定の中・高速域では、アクチュエータにより吸気ガイドユニットを上流側に駆動・配置する。これにより、上流側へ向けて広がる吸気管部の内周面と、その内側に配置される吸気ガイドユニットと、の隙間が大きくなって、通気抵抗が低下し、機関出力・トルクの低下を抑制することができる。
【0010】
また、吸気管部を下流側へ向けて徐々に縮径するテーパ形状とすることで、吸気の流れを乱すことなく流速を高めることができる。つまり、このようなテーパ形状の吸気管部を利用して、吸気ガイドユニットを通路長手方向に駆動することで、吸気管部を通過する吸気の全量のうち、吸気ガイドユニット内を通過する流量と、吸気ガイドユニットの外側の隙間を流れる流量と、の比率を調整可能としている。
【0011】
更に、吸気ガイドユニット全体をアクチュエータにより通路長手方向に沿って直線的に駆動するものであるために、アクチュエータや吸気ガイドユニットの構造が簡素なものとなる。特に、ガイドベーンを含む吸気ガイドユニットが、可動部分を必要としないことから、例えば複数のガイドベーンとノーズコーンとを合成樹脂材料により一体的に成形することが可能となり、上記特許文献1のように個々のガイドベーンを可動式の構造とする場合に比して、大幅な部品点数の削減,簡素化,軽量化を図ることができるとともに、耐久性や信頼性も向上する。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明によれば、簡素な構造でありながら、低速域でのガイドベーンによる整流・旋回成分の付与と、中・高速域での通気抵抗の低減と、の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例に係る内燃機関の過給装置の吸気管部を示す斜視図。
【図2】上記実施例の過給装置の要部を示し、(A)が吸気ガイドユニットを最も上流側に配置した状態での断面図、(B)が吸気ガイドユニットを最も下流側に配置した状態での断面図。
【図3】吸気ガイドユニットを単体で示す斜視図。
【図4】吸気ガイドユニットの一体成形されたノーズコーン及びガイドベーンを示す斜視図。
【図5】上記吸気管部が取り付けられるターボ過給機を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図示実施例により本発明を説明する。図5を参照して、この内燃機関にはターボ過給機1が設けられている。このターボ過給機1は、周知のように、排気エネルギーにより駆動される排気タービン2と、排気タービン2と同軸上に固定されて、この排気タービン2と一体的に回転し、吸気を圧縮・過給する遠心スクロール式のコンプレッサ3と、を有している。排気タービン2の上流側には、内燃機関の排気側の側壁に取り付けられる排気マニホールド4が設けられている。コンプレッサ3の上流側の取付フランジ5には、後述する吸気管部10が取り付けられる(図1,図2参照)。吸気は、図示せぬエアクリーナ等から吸気管部10を通過した後、コンプレッサ3に供給され、このコンプレッサ3の出口管部6に取り付けられる吸気出口管あるいは吸気マニホールド(図示省略)を経て、内燃機関の各気筒の燃焼室へと供給される。
【0015】
図1及び図2に示すように、吸気管部10は、両端が開放する筒状をなし、かつ、吸気の流れ方向Fの上流側から下流側へ向かうに従って、内周面が徐々に縮径する傾斜面・テーパ面となっており、これによって、吸気の流れを乱すことなく、吸気の流速を早める形状となっている。この吸気管部10の上流側端部には、吸気ダクト(図示省略)が取り付けられる上流側の取付フランジ11が設けられるとともに、下流側端部には、上記コンプレッサ3の上流側の取付フランジ5(図5)に取り付けられる下流側の取付フランジ12が設けられている。これらの取付フランジ11,12には、それぞれ固定用のボルトが挿通するボルト孔11A,12Aが形成されている。
【0016】
そして、このテーパ状をなす吸気管部10の内部に、本実施例の要部をなす吸気ガイドユニット20が配設されている。図3は、吸気ガイドユニット20を単体で示す斜視図であり、図4は、吸気ガイドユニット20の外筒部21を省略し、その内側に設けられるノーズコーン22及びガイドベーン23を示す斜視図である。この吸気ガイドユニット20は、筒状をなす外筒部21と、この外筒部21の中心軸線(L0)に沿って同心状に配置されるノーズコーン22と、このノーズコーン22と外筒部21とに掛け渡される複数のガイドベーン23と、により大略構成されており、外筒部21の中心軸線が通路長手方向(通路中心線)L0に沿う姿勢で、吸気管部10の内部に配置されている。
【0017】
ノーズコーン22とガイドベーン23とは合成樹脂材料により一体的に形成され、ガイドベーン23の外周縁が、合成樹脂材料(あるいはアルミ合金等の金属材料)により形成される外筒部21の内周面と一体的に接合されている。このように、吸気ガイドユニット20が2部品により構成されており、大幅な部品点数の削減化・軽量化・低コスト化が図られている。
【0018】
ノーズコーン22は、吸気流れ方向Fの下流側(図2の右側)へ向かうに従って徐々に拡径する中実円錐形状をなしており、これによって、吸気の流れを整流しつつ、下流側へ向かうに従って吸気通路断面積を徐々に縮小させて、吸気流速を上昇させる機能を有している。なお、ノーズコーン22の後端部22Aは、流れを乱すことのないように、下流側へ向かって凸に湾曲する滑らかな湾曲面に形成されている。
【0019】
ガイドベーン23は、吸気に旋回成分を付与し、旋回流速度を強化するように、外筒部21の上流端から下流端にわたって、螺旋状に湾曲しつつ延在する帯状をなしている。このガイドベーン23により付与される吸気の旋回方向は、下流側に配置される遠心スクロール式のコンプレッサ3のインペラー形状等に応じて適宜に設定されている。
【0020】
このような吸気ガイドユニット20は、支持機構によって、通路長手方向L0に沿って移動可能に吸気管部10に支持されており、かつ、電動式あるいは油圧駆動式のアクチュエータ25によって、通路長手方向L0に沿って駆動・保持される。このアクチュエータ25の動作は、各種制御処理を記憶及び実行する機能を有する制御部24(図1参照)により制御される。
【0021】
上記の支持機構は、外筒部21の前端外周から直径方向に沿って径方向外方へ突出する一対のアーム部26と、各アーム部26に固定され、通路長手方向L0に沿って延在する一対のガイドプレート27と、を有しており、一方のアーム部26の先端が、アクチュエータ25の出力軸25Aの先端と連結されている。吸気管部10の外周には、通路長手方向L0と平行なガイド面29を有するガイド部28が膨出形成されており、このガイド面29上を、上記のガイドプレート27が通路長手方向Fに沿ってスライド可能に配置されている。このガイド部28には、アーム部26が貫通するスリット30が形成されている。
【0022】
図2(A)は、吸気ガイドユニット20を最も上流側(図の左側)に配置した状態を示しており、図2(B)は、吸気ガイドユニット20を最も下流側(図の右側)に配置した状態を示している。
【0023】
同図に示すように、吸気管部10の内周面が下流側へ向かうに従って徐々に縮径するテーパ面をなしているために、アクチュエータ25により吸気ガイドユニット20を通路長手方向L0に沿って駆動することに伴って、この吸気管部10と吸気ガイドユニット20との最小の隙間ΔD1,ΔD2、より詳しくは、吸気管部10の内周面と、これに対向する吸気ガイドユニット20の外筒部21の下流側端部の外周面と、の隙間ΔD1,ΔD2が増減する。具体的には、図2(A)に示すように、吸気ガイドユニット20が上流側に移動するほど隙間ΔD1が大きくなり、吸気ガイドユニット20が下流側に移動するほど隙間ΔD2が小さくなる。
【0024】
そして本実施例においては、機関回転速度が所定値よりも低い所定の低速域、より具体的には、全負荷時に過給圧のコントロールを開始するエンジン回転速度であるインターセプトポイントよりも低速側のインターセプト前の領域では、図2(B)に示すように、アクチュエータ25により吸気ガイドユニット20を(最)下流側に駆動・配置して、上記の隙間ΔD2を小さくする。これによって、吸気管部10を流れる吸気の全量のうち、外側の隙間ΔD2を流れる吸気の割合・流量を抑制し、その多くを吸気ガイドユニット20の外筒部21内に流れるようにすることで、コンプレッサ3に流入する吸気の旋回成分を強化して、旋回流速度を高めることができる。これによって、コンプレッサ3の回転上昇を促進し、ブースト圧の上昇・立ち上がりを早めて、低速トルクの立ち上がりを向上し、ターボラグを抑制・解消することができる。
【0025】
一方、機関回転速度が所定値以上の中・高速域、より具体的には、インターセプトポイントよりも高速側のインターセプト後の領域では、過給圧が既に上昇しているために、旋回成分の強化はあまり要求されず、むしろ、外筒部21内の複数のガイドベーン23を通過する際の通気抵抗の増加により、機関出力(最高出力)・トルクの低下が懸念される。そこで本実施例では、このようなインターセプト後の中・高速域では、図2(A)に示すように、アクチュエータ25により吸気ガイドユニット20を(最)上流側に駆動・配置して、上記の隙間ΔD1を小さくする。これによって、吸気管部10を流れる吸気の全量のうち、外周側の隙間ΔD1を流れる吸気の割合・流量が多くなる一方、吸気ガイドユニット20の外筒部21内を流れる吸気の流量が抑制される。このように、外周側の隙間D1を大きくして、通路面積を十分に確保するとともに、外筒部21内を流れる流量を抑制することで、通気抵抗を抑制し、最高出力・トルクの向上を図ることができる。
【0026】
また、吸気ガイドユニット20全体をアクチュエータ25により通路長手方向に沿って直線的に駆動する構造であるために、アクチュエータ25や吸気ガイドユニット20の構造が簡素なものとなり、応答性にも優れている。特に、ガイドベーンを含む吸気ガイドユニットが、可動部分を必要としないことから、上記実施例のように、複数のガイドベーン23とノーズコーン22とを合成樹脂材料により一体的に成形することが可能となり、個々のガイドベーンを可動式の構造とする場合に比して、大幅な部品点数の削減,簡素化,軽量化を図ることができるとともに、耐久性や信頼性も大幅に向上する。
【0027】
以上のように本発明を具体的な実施例に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変形・変更を含むものである。
【0028】
例えば、上記実施例では、外筒部21を同一外径のストレート形状としているが、吸気管部10と同様に、下流側へ向かうに従って徐々に縮径するテーパ形状としても良い。このようなテーパ形状とした場合、上記実施例のようなストレート形状とした場合に比して、より多くの吸気が外筒部21内に案内・供給されることとなるために、図2(B)に示すように吸気ガイドベーン23を下流側に駆動・配置する低速域では、通気抵抗が抑制されるとともに、旋回成分も更に強化されるものの、図2(A)に示す吸気ガイドベーン23を上流側に駆動・配置する中・高速域では、入口側からみた吸気ガイドベーン23の外筒部21の投影断面積が拡大して、通気抵抗が悪化し、最大出力・トルクが低下する。従って、主に低速域での旋回成分の付与による低速トルクの向上を狙う場合には、外筒部をテーパ形状とすることが好ましく、主に中・高速域での通気抵抗の低下を狙う場合には、上記実施例のように外筒部をストレート形状とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0029】
1…ターボ過給機
3…コンプレッサ
10…吸気管部
20…吸気ガイドユニット
21…外筒部
22…ノーズコーン
23…ガイドベーン
25…アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気を過給するコンプレッサと、
このコンプレッサの上流側に設けられ、その内周面が下流側へ向かうに従って徐々に縮径するテーパ状をなす吸気管部と、
吸気に旋回成分を付与するガイドベーンを備え、上記吸気管部の内部に設けられる吸気ガイドユニットと、
上記吸気ガイドユニットと吸気管部との隙間が増減するように、上記吸気ガイドユニットを通路長手方向に沿って駆動するアクチュエータと、
を有することを特徴とする内燃機関の過給装置。
【請求項2】
所定の低速域では、上記吸気管部のテーパ状をなす内周面と、その内側に配置される吸気ガイドユニットと、の隙間が小さくなるように、上記アクチュエータにより吸気ガイドユニットを下流側に配置させる一方、
この低速域よりも機関回転速度が高い所定の中・高速域では、上記隙間が大きくなるように、上記アクチュエータにより吸気ガイドユニットを上流側に配置させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の過給装置。
【請求項3】
上記吸気ガイドユニットは、上記吸気管部と同心状に配置され、内部に上記ガイドベーンが設けられた外筒部を有し、
上記アクチュエータにより吸気ガイドユニットを通路長手方向に駆動することによって、上記吸気管部の内周面と外筒部の外周面との隙間が増減するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の過給装置。
【請求項4】
上記吸気ガイドユニットは、上記外筒部の中心軸線上に沿って配置されるノズルコーンを有し、このノズルコーンは、その外周面が下流側へ向かうに従って徐々に拡径するテーパ状をなしており、
上記ガイドベーンは、上記ノズルコーンと外筒部とに掛け渡されるとともに、上流側から下流側へ向けて螺旋状に湾曲しつつ延在する帯状をなしていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の過給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2349(P2013−2349A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133757(P2011−133757)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】