説明

内燃機関システムの制御方法及び内燃機関システム

【課題】機関出力を安定させることができる内燃機関システムの制御方法及び内燃機関システムを提供する。
【解決手段】内燃機関2のエンジン回転数が、等スロットル開度において内燃機関2のトルクが最大となる機関速度よりも低く設定された第1速度Nよりも低いときに、エンジン回転数の上昇に応じて、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更を、第1率A1で増加させ、エンジン回転数が、第1速度Nより高く設定された第2速度Nよりのときに、エンジン回転数の上昇に応じて、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更を、第1率A1より小さい第2率A2で増加させ、エンジン回転数が第1速度Nと第2速度Nの間であるときに、エンジン回転数の上昇に応じて、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更を、第1率A1よりも小さく第2率A2以下である第3率A3で増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関システムの制御方法及び内燃機関システムに関し、特に、内燃機関の吸気弁及び排気弁がともに開弁するバルブ・オーバーラップ期間を有する内燃機関システムの制御方法及び内燃機関システムに関する。
【背景技術】
【0002】
過給機を備えた内燃機関システムにおいて、吸気弁と排気弁がともに開弁するオーバーラップ期間を設けて、その運転状況に応じてこのオーバーラップ期間を変更する方法が知られている。このようなオーバーラップ期間の変更手法として、例えば特許文献1には、排気管に配置された触媒の状態に応じてオーバーラップ期間を変更するものが開示されている。この特許文献1に記載の内燃機関システムでは、減速時にオーバーラップ期間を小さくするが、このとき、触媒の内部の酸素濃度が所定値以上である場合には、排気弁の閉じ時期を先に目標値まで変更し、その後吸気弁の開き時期を目標値まで変更する。反対に、触媒の内部の酸素濃度が所定値未満である場合には、吸気弁の開き時期を先に目標値まで変更し、その後排気弁の閉じ時期を目標値まで変更する。このような制御を行うことにより、オーバーラップ時に吸気側から排気側に吹き抜ける空気量を調節して触媒への酸素供給量を調整し、排気エミッションの悪化や触媒の劣化を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−19611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ターボ過給機を有する内燃機関システムにおいては、排気行程で内燃機関の排気側に排出される燃え残りの燃料を、オーバーラップ期間に吸気側から排気側へ吹き抜けた酸素と燃焼させる、いわゆる後燃えの作用を利用している場合がある。このような後燃え作用を利用すると、内燃機関の排気側でのエネルギが高くなり、ターボ過給機の効率を高くすることができ、これにより、内燃機関のトルクを高めることができる。
【0005】
ところが、前述の特許文献1にも記載されるように、オーバーラップによる吸気の排気側への吹き抜け量は、オーバーラップ期間を変更するために吸気弁及び排気弁のどちらを先に変更するかによっても異なる。すなわち、オーバーラップ期間を変更する動作には或る程度の時間を要するため、オーバーラップ期間を変更する際に、オーバーラップ期間の目標値に対してずれが生じる場合がある。このため、吸気の排気側への吹き抜け量にもずれが生じ、これに伴って後燃え効果も変動してしまい、内燃機関のトルクや回転に変動が生じる場合がある。また、この変動により、更なるオーバーラップ期間の変更が生じ、これが更なるトルクや回転数の変動につながり、機関出力に過大な変動が生じてしまうという悪循環に陥る可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、オーバーラップ期間を設けている内燃機関の少なくとも一部の運転領域において、オーバーラップ期間の変更をより応答性よく行い、機関出力を安定させることができる内燃機関システムの制御方法及び内燃機関システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の内燃機関システムの制御方法は、少なくとも一部の運転領域において吸気弁及び排気弁がともに開弁するバルブ・オーバーラップ期間を有するように吸気弁及び排気弁を駆動するバルブ駆動機構を有する内燃機関と、該内燃機関の排気通路に配置されたタービン及び内燃機関の吸気通路に配置され且つタービンにより駆動されるコンプレッサを有するターボ過給機と、吸気弁の開タイミング及び/又は排気弁の閉タイミングを変更するバルブタイミング可変手段と、吸気通路に配置され吸気量を調整するためのスロットルと、を備えた内燃機関システムを制御する方法であって、内燃機関の機関速度が、等スロットル開度において内燃機関のトルクが最大となる機関速度よりも低く設定された第1速度よりも低いときに、機関速度の上昇に応じて、吸気弁及び/又は排気弁のバルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、第1率で増加する変更速度で行う工程と、機関速度が、第1速度より高く設定された第2速度より高いときに、機関速度の上昇に応じて、吸気弁及び/又は排気弁のバルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、第1率より小さい第2率で増加する変更速度で行う工程と、機関速度が第1速度と第2速度の間であるときに、機関速度の上昇に応じて、吸気弁及び/又は排気弁の上記バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、第1率よりも小さく且つ第2率以下である第3率で増加する変更速度で行う工程と、を有する、ことを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明においては、機関速度が第1速度よりも低い場合には、バルブタイミングの変更速度を第1率で増加させる。したがって、バルブタイミングの変更速度が機関速度の増加にしたがって増大し、機関速度が第1速度に近づく領域では特に、オーバーラップ期間がより迅速に変更され、変更動作が応答性よく短時間で行われるようになる。
【0009】
次に、機関速度が第1速度よりも高く第2速度よりも低い場合には、バルブタイミングの変更速度を第1率よりも低く且つ第2率以下の第3率で増加させる。ここで、バルブタイミングの変更速度は、機関速度が第1速度よりも低い領域で第1率で増加させているので、第1速度と第2速度の間の速度においては、必要なバルブタイミングの変更速度が既に確保されている。したがって、バルブタイミングを迅速に変更することができるため、目標とするオーバーラップ期間を精度よく得ることができるから、望ましい後燃え効果を得ることができ、内燃機関の効率が良好となる。
また、第1率よりも低く且つ第2率以下の第3率で変更速度を増大させる、すなわち、比較的低い増加率により、安定した変更速度でバルブタイミングを変更することができる。これにより、バルブタイミングの変更動作が安定し、吸気の吹き抜け量の変動を抑制することができる。したがって、安定した機関出力を得ることができる。
【0010】
以上のような制御を行うことにより、内燃機関システムにおいて、必要な運転領域でのバルブタイミングの変更動作の応答性を良好にして必要なオーバーラップ期間を精度よく確保し、安定した吸気の吹き抜け量を得ることによって機関出力を安定させることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、内燃機関への要求トルクの増加に応じて、第1速度の設定値を増大させる。
このように構成された本発明においては、内燃機関の要求トルクが増加すると、後燃え効果が有効に利用される運転領域もより高速側に遷移する。そこで、要求トルクの増加に応じて第1速度の設定値を増大させることにより、第1速度を超えた領域でバルブタイミングの変更速度をあらゆる運転状況においても最適に設定することができ、内燃機関システムを広い運転領域にわたって安定させることができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、内燃機関への要求トルクの増加に応じて、第2速度の設定値を増大させる。
このように構成された本発明においては、内燃機関の要求トルクが増大すると、後燃え効果が有効に利用される運転領域もより高速側に遷移する。そこで、要求トルクの増加に応じて第2速度の設定値を増大させることにより、第1率より低い第3率でのバルブタイミングの変更速度の増加を行う領域の上限がより高速側に移行する。これにより、より広い運転領域で安定した変更速度を得ることができ、内燃機関システムの出力を安定させることができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、内燃機関への要求トルクが最大の時に、第2率と第3率とが同一である。
このように構成された本発明においては、内燃機関への要求トルクが最大のとき、第2率と第3率とを同じに設定するので、バルブタイミングの変更速度の増減の変動が少なくなり、機関出力をより一層安定させることができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、第3率がゼロである。
このように構成された本発明においては、第3率がゼロに設定されているので、機関速度が第1速度と第2速度の間にあるときには、バルブタイミングの変更速度が一定となる。したがって、機関速度が第1速度と第2速度の間にある運転領域において、バルブタイミングの変更動作が安定し、それにより、機関出力が安定する。
【0015】
また、上記の目的を達成するために、本発明の内燃機関システムは、少なくとも一部の運転領域において吸気弁及び排気弁がともに開弁するバルブ・オーバーラップ期間を有するように吸気弁及び排気弁を駆動するバルブ駆動機構を有する内燃機関と、該内燃機関の排気通路に配置されたタービン及び内燃機関の吸気通路に配置され且つタービンにより駆動されるコンプレッサを有するターボ過給機と、吸気弁の開タイミング及び/又は排気弁の閉タイミングを変更するバルブタイミング可変手段と、バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更速度を調整する変更速度調整手段と、吸気通路に配置され吸気量を調整するためのスロットルと、内燃機関の運転状況に応じて変更速度調整手段を制御するための制御手段と、を含み、制御手段は、変更速度調整手段を、内燃機関の機関速度が、等スロットル開度において内燃機関のトルクが最大となる機関速度よりも低く設定された第1速度よりも低いときに、機関速度の上昇に応じて、吸気弁及び/又は排気弁のバルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、第1率で増加する変更速度で行い、機関速度が、第1速度より高く設定された第2速度より高いときに、機関速度の上昇に応じて、吸気弁及び/又は排気弁の上記バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、第1率より小さい第2率で増加する変更速度で行い、機関速度が第1速度と第2速度の間であるときに、機関速度の上昇に応じて、吸気弁及び/又は排気弁の上記バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、第1率よりも低く且つ第2率以下の第3率で増加する変更速度で行う制御を実施するように構成されている、ことを特徴としている。
【0016】
このように構成された本発明においては、機関速度が第1速度よりも低い場合には、バルブタイミングの変更速度を第1率で増加させる。したがって、バルブタイミングの変更速度が機関速度の増加にしたがって増大し、機関速度が第1速度に近づく領域では特に、オーバーラップ期間がより迅速に変更され、変更動作が応答性よく短時間で行われるようになる。
【0017】
次に、機関速度が第1速度よりも高く第2速度よりも低い場合には、バルブタイミングの変更速度を第1率よりも低く且つ第2率以下の第3率で増加させる。ここで、バルブタイミングの変更速度は、機関速度が第1速度よりも低い領域で第1率で増加させているので、第1速度と第2速度の間の速度においては、必要なバルブタイミングの変更速度が既に確保されている。したがって、バルブタイミングを迅速に変更することができるため、目標とするオーバーラップ期間を精度よく得ることができるから、望ましい後燃え効果を得ることができ、内燃機関の効率が良好となる。
また、第1率よりも低く且つ第2率以下の第3率で変更速度を増大させる、すなわち、比較的低い増加率により、安定した変更速度でバルブタイミングを変更することができる。これにより、バルブタイミングの変更動作が安定し、吸気の吹き抜け量の変動を抑制することができる。したがって、安定した機関出力を得ることができる。
【0018】
以上のような制御を行うことにより、内燃機関システムにおいて、必要な運転領域でのバルブタイミングの変更動作の応答性を良好にして必要なオーバーラップ期間を精度よく確保し、安定した吸気の吹き抜け量を得ることによって機関出力を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関システムの構成を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る吸気弁位相可変機構を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る排気弁位相可変機構を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る内燃機関システムの制御を示すフローチャートである。
【図5】内燃機関の回転数及びトルクに対する、オーバーラップ期間を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る弁の開閉位相の変更速度の設定手順を原理的に示すフローチャートである。
【図7】内燃機関の回転数及びトルクに対する、等スロットル開度線を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る吸気弁の電動モータの回転数の変化を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る排気弁の油圧の変化を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態による制御マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関システムの構成を示す概略図である。この図1において、内燃機関システム1は、内燃機関2と、内燃機関2に接続される吸気管4及び排気管6と、吸気を過給するためのターボ過給機8と、ターボ過給機8で過給された吸気を冷却するためのインタークーラ10と、吸気管4に配置され吸気量を調整するためのスロットル12と、内燃機関システム1を制御するための制御器14と、を備えている。
【0021】
内燃機関2は、シリンダブロック16及びシリンダヘッド18の内部に形成されるシリンダ20と、シリンダ20内で摺動可能に設けられたピストン22と、シリンダ20及びピストン22によって画定される燃焼室24と、吸気管4の吸気ポート26に設けられた吸気弁28と、排気管6の排気ポート30に配置された排気弁32と、燃焼室24内に燃料を噴射する燃料噴射装置34と、噴射された燃料に点火する点火プラグ36と、を備えている。ピストン22は、クランクシャフト23に連結されている。
【0022】
吸気弁28には、クランクシャフト23の回転によって吸気ポート26を開閉するように吸気弁28を駆動する吸気弁駆動機構38が設けられている。吸気弁駆動機構38は、偏心円を有するカム本体(図示せず)と、カム本体が取り付けられたカムシャフト40と、カムシャフト40をクランクシャフト23に連結するスプロケット42(図2)及びプーリ(図示せず)とを備える。吸気弁28は、カム本体のカム面に当接し、クランクシャフト23の回転に伴ってカムシャフト40及びカム本体が回転することにより、カム面に沿って移動して吸気ポート26を開閉するように構成される。
【0023】
吸気弁駆動機構38のカムシャフト40とスプロケット42との間には、吸気弁24の開閉位相を変更する吸気弁バルブタイミング可変手段としての吸気弁位相可変機構44が設けられている。図2に吸気弁位相可変機構44の構造を示す。吸気弁位相可変機構44は、カムシャフト40に固定されたカム一体ギヤ46と、カム一体ギヤ46及びスプロケット42に連結されたロータ48と、ロータ48に連結された電動モータ50とを備える。ロータ48は、カム一体ギヤ46の内面に形成されたギヤ部46Aに噛み合うカム側ギヤ部48Aと、スプロケット42の内面に形成されたギヤ部42Aに噛み合うスプロケット側ギヤ部48Bとを備える。ロータ48の回転軸線は、電動モータ50及びカムシャフト40の回転軸線に対して偏心している。カム側ギヤ部48A及びスプロケット側ギヤ部48Bの歯数は、ギヤ部46A及びギヤ部42Aの歯数よりもそれぞれ1つ少なく、したがって、ロータ48は、スプロケット42及びカム一体ギヤ46との間で偏心遊星歯車機構を構成している。また、電動モータ50は、ロータ48にスプライン結合している。
【0024】
このような構造の吸気弁位相可変機構44によれば、電動モータ50をスプロケット42の回転方向と同じ方向に所定量回転させれば、スプロケット42に対するカムシャフト40の相対位置が変化し、吸気弁28の開閉位相が進角側に変更される。反対に、電動モータ50をスプロケット42の回転方向と逆の方向に所定量回転させれば、吸気弁28の開閉位相が遅角側に変更される。
【0025】
ここで、吸気弁位相可変機構44は、電動モータ50の回転数(回転速度)を変更することにより、吸気弁28の開閉位相の変更速度を調整可能となる。即ち、電動モータ50の回転数を高くすれば、吸気弁28の開閉位相がより短時間で変更され、電動モータ50の回転数を低くすれば、吸気弁28の開閉位相がより長時間で変更されることとなる。したがって、本実施形態では、電動モータ50が、吸気弁28の開閉タイミングの変更速度を調整する吸気弁変更速度調整手段の役割を果たす。
【0026】
排気弁32には、クランクシャフト23の回転によって排気ポート30を開閉するように排気弁32を駆動する排気弁駆動機構52が設けられている。排気弁駆動機構52は、偏心円を有するカム本体(図示せず)と、カム本体が取り付けられたカムシャフト54と、カムシャフト54をクランクシャフト23に連結するスプロケット56(図3)及びプーリ(図示せず)とを備える。排気弁32は、カム本体のカム面に当接し、クランクシャフト23の回転に伴ってカムシャフト54及びカム本体が回転することにより、カム面に沿って移動して排気ポート30を開閉するように構成される。
【0027】
排気弁駆動機構52のカムシャフト54とスプロケット56との間には、排気弁32の開閉位相を変更する排気弁バルブタイミング可変手段としての排気弁位相可変機構58が設けられている。図3に排気弁位相可変機構58の構造を示す。
排気弁位相可変機構58は、カムシャフト54に固定されスプロケット56の内側に同軸上に配置されたロータ60と、ロータ60とスプロケット56との間に形成される油圧室62と、油圧室62に作動油を供給する油圧回路64とを備える。
【0028】
ロータ60は、半径方向外側に突出する複数の突出部60A,60Bを備え、突出部60A,60Bの外周面は、スプロケット56の内周面に摺動可能に配置される。一方、スプロケット56には、内周面に等間隔に配置され、内周面から半径方向内側に突出する複数の突出部56Aが形成されている。これらの突出部56Aは、ロータ60の突出部60A,60Bの間に配置され、その内周面が、ロータ60の外周面に摺動可能に配置されている。
【0029】
油圧室62は、ロータ60の突出部60A,60Bの両側にそれぞれ形成された進角用油圧室62Aと、遅角用油圧室62Bとを有する。複数の進角用油圧室62Aの各々には、半径方向に延びる作動油路66Aの一端が接続され、これらの作動油路66Aの他端はロータ60の中央で互いに連通し、油圧回路64に接続されている。また、複数の遅角用油圧室62Bの各々にも、半径方向に延びる作動油路66Bの一端が接続され、これらの作動油路66Bの他端は、図示しない周方向溝によって互いに連通し、この周方向溝は、油圧回路64に接続されている。
【0030】
油圧回路64は、作動油を貯留するオイルパン68と、オイルパン68から油圧室62へ作動油を供給するためのオイルポンプ70と、オイルポンプ70と油圧室62との間に設けられ、進角用油圧室62A及び遅角用油圧室62Bとオイルポンプ70とを選択的に連通するためのソレノイドバルブ71と、オイルポンプ70からの作動油の供給圧を調整するためのソレノイド駆動の可変オリフィス72と、を備える。
オイルポンプ68は、所定圧力でオイルパン68から作動油を油圧室62に供給し、可変オリフィス72はの絞り量によってその供給圧が調整される。ソレノイドバルブ71は、進角用油圧室62A及び遅角用油圧室62Bのいずれか一方をオイルポンプ70に接続しいずれか他方をオイルパン68に連通するドレイン通路68Aに接続し、または、これらの両方をオイルポンプ70及びドレイン通路68Aから遮断するように構成される。
【0031】
このような構造により、オイルポンプ70から進角用油圧室62Aに作動油が供給されると、進角用油圧室62Aの容積が増大し、一方で遅角用油圧室62Bの容積は減少して遅角用油圧室62B内の作動油はオイルパン68に戻される。これにより、ロータ60が進角側に回転することにより、スプロケット56とカムシャフト54との相対位置が変化し、排気弁32の開閉位相が進角側に変更される。反対に、オイルポンプ70が遅角用油圧室62Bに作動油が供給されれば、ロータ60が遅角側に回転して排気弁32の開閉位相が遅角側に変更される。ロータ60のスプロケット56に対する相対位置は、進角用油圧室62A内の油圧と遅角用油圧室62B内の油圧との差圧と、カムシャフト54に作用するトルクとをバランスさせることで維持される。
【0032】
ここで、排気弁位相可変機構58は、油圧室62に供給される作動油の油圧を調整することにより、排気弁32の開閉位相の変更速度を調整可能となる。即ち、可変オリフィス72の絞り量を小さくしてオイルポンプ70の作動油の供給圧を高くすれば、排気弁32の開閉位相がより短時間で変更され、可変オリフィス72の絞り量を大きくしてオイルポンプ70の作動油の供給圧を低くすれば、排気弁32の開閉位相がより長時間で変更されることとなる。したがって、本実施形態では、オイルポンプ70及び可変オリフィス72が、排気弁32の開閉タイミングの変更速度を調整する排気弁変更速度調整手段の役割を果たす。
【0033】
ターボ過給機8は、排気管6に配置されたタービン74と、吸気管4に配置されたコンプレッサ76とを有し、タービン74及びコンプレッサ76の回転軸が互いに連結されている。また、排気管6には、タービン74の上流側と下流側とをバイパスするウェストゲート78が設けられている。ウェストゲート78が、タービン74における排気ガスの圧力が高すぎる場合に、ウェストゲート78を開いて排気ガスの一部をタービン74を通さずにバイパスするように構成されている。
【0034】
制御器14は、内燃機関システム1の運転状態を把握するために各種センサからの検出信号を入力可能に設けられている。これらのセンサとしては、例えば内燃機関2のクランクシャフト23の回転数、即ちエンジン回転数を検出する回転数検出センサ80、吸入空気量を検出するエアフローメータ82、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ86、等が挙げられる。また、制御器14は、燃料噴射装置34に燃料噴射時期を指示したり、点火プラグ36に点火時期を指示したりする等、各種の運転指令を送信するように構成され、また、電動モータ50及び可変オリフィス72に、内燃機関2の運転状態に応じて、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更速度を変更するための指令を送信するように構成されている。
【0035】
以上のように構成された本実施形態に係る内燃機関システム1においては、次のように動作を制御する。
図4は、本発明の一実施形態に係る内燃機関システム1の全体の制御動作を示すフローチャートである。
ステップS1において、内燃機関システム1の制御器14は、現在の内燃機関2の運転状態を調べるために、各センサから各種検出信号を受け入れる。ここで、各センサからの検出信号としては、例えば、回転数検出センサ80で検出したエンジン回転数NENG、エアフローメータ82で検出した吸入空気量CE、アクセルペダルセンサ86で検出したアクセルペダルの踏み込み量α等が挙げられる。
【0036】
次に、ステップS2において、制御器14は、ステップS1で検出したアクセルペダルの踏み込み量α及びエンジン回転数NENGに基づいて、目標のエンジントルクTQDを算出する。また、ステップS3において、制御器14は、ステップS1で検出したエンジン回転数NENGとステップS2で算出した目標エンジントルクTQDに基づいて、目標の空気充填量CED及び点火時期SAを算出する。
【0037】
ステップS4において、制御器14は、目標の空気充填量CEDに基づいて、吸気弁28の目標の位相角θN_D、排気弁32の目標の位相角θEX_D、及び目標のスロットル開度TVOを算出する。これらの吸気弁28の位相角θIN_D及び排気弁32の位相角θEX_Dによって、内燃機関2の運転中、吸気弁28及び排気弁32が同時に開弁する期間であるオーバーラップ期間O/Lが決定される。
このステップS4で決定された吸気弁28の目標の位相角θN_D及び排気弁32の目標の位相角θEX_Dが現在の位相角に対して進んでいる場合には、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相をそれぞれ遅角側に所定量変更する制御を行うこととなる。
【0038】
ここで、本実施形態におけるオーバーラップ期間O/Lの設定について説明する。図5は、本実施形態におけるエンジン回転数NENG及びエンジントルクTQDと設定されるオーバーラップ期間O/Lとの関係を模式的に示す。この図において、オーバーラップ期間O/Lは、吸気弁駆動機構38及び排気弁駆動機構52が機械的に設定可能なオーバーラップ期間O/Lの最大値に対する割合で示す。図5に示すように、ターボ過給機8による過給をほとんど行わない、エンジントルクTQDが小さい領域では、オーバーラップ期間O/Lは原則的に0%に設定されている。エンジントルクTQDが所定値以上の領域においては、エンジン回転数NENGが小さい領域でオーバーラップ期間O/Lが大きく(例えば100%)設定されている。その後、エンジン回転数NENGが大きくなり、ターボ過給機8でのエネルギが十分に確保されターボ過給機8の圧力が高くなりすぎると、ウェストゲート78を開いて排気ガスの一部を逃がす。このウェストゲート78を開く境界であるウェストゲート開閉境界線Aを超えた領域では、ターボ過給機8の効率も良好であるので、オーバーラップ期間O/Lはさほど必要ではなく、したがって、エンジン回転数NENGの増加に従ってオーバーラップ期間O/Lが次第に減少するように設定されている。
【0039】
このようなオーバーラップ期間O/Lは、内燃機関システム1の要求性能や使用条件等を勘案して予め決定され、そのオーバーラップ期間O/Lに応じて、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相も予め決定されている。したがって、実際の制御工程では、吸気弁28の目標の位相角θN_D及び排気弁32の目標の位相角θEX_Dは、予め設定されたマップから読み込まれ、決定される。
【0040】
図4に戻って、次に、ステップS5において、制御器14は、目標エンジントルクTQD及びエンジン回転数NENGに基づいて、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更速度を算出する。具体的には、このステップS5において、制御器14は、後述する設定手法に基づいて、吸気弁28の電動モータ50の回転数と、排気弁32の可変オリフィス72の絞り量によって決定される油圧室62に供給される作動油の油圧を決定する。
【0041】
ステップS6において、エアフローメータ82で検出した吸入空気量CEに基づいて、燃料噴射量FPを算出する。そして、ステップS7において、前述の各ステップで設定された設定条件を実行して内燃機関2を運転する。具体的には、電動モータ50及び可変オリフィス72を設定された回転数及び絞り量でそれぞれ駆動して、所定の開閉位相の変更動作速度で、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相を変更する。また、所定のスロットル開度TVO、燃料噴射量FP、及び点火時期SA等の条件で内燃機関2を運転する。
その後、ステップS1に戻って、同じステップを繰り返す。
【0042】
上述のように、本実施形態では、図4のステップS5において、吸気弁位相可変機構44及び排気弁位相可変機構52による開閉位相変更動作の変更速度、具体的には吸気弁28の電動モータ50の回転数と、油圧室62に供給される作動油の油圧を設定している。なお、排気弁位相可変機構52において作動油の油圧は、排気弁32の可変オリフィス72の絞り量によって決定されるから、排気弁32側においては、より具体的には可変オリフィス72の絞り量を決定することとなる。これらの設定値は、本実施形態では、以下のように決定される。
【0043】
本実施形態では、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更速度は、エンジン回転数NENGが予め設定された第1回転数(第1速度)N1よりも低い場合には、エンジン回転数NENGが増大するに従って所定の第1率A1で増大するように、開閉位相の変更速度を調整する。また、エンジン回転数NENGが第1回転数N1と、予め設定された第2回転数(第2速度)N2との間の速度の場合には、エンジン回転数NENGが増大するに従って所定の第3率A3で増大するように、開閉位相の変更速度を調整する。そして、エンジン回転数NENGが第2回転数N2より高い場合には、エンジン回転数NENGが増大するに従って、所定の第2率A2で増大するように、開閉位相の変更速度を調整する。
【0044】
図6は、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更速度の設定手順を原理的に示すフローチャートである。
まず、ステップS11において、目標のスロットル開度TVO及びエンジン回転数NENGを入力する。ステップS12において、これらのスロットル開度TVO及びエンジン回転数NENGに基づいて、第1速度N1及び第2速度N2を決定する。
【0045】
ここで、第1速度N1及び第2速度N2は、以下のように予め設定されている。
図7は、内燃機関1の等スロットル開度におけるエンジン回転数NENG及びトルクTQDの関係を示す。この図7に示すように、等スロットル開度においては、あるエンジン回転数に対してトルクが最大となる。これは、オーバーラップ期間を設けた内燃機関システムにおいて特に見られる傾向である。つまり、オーバーラップ期間が設けられていない内燃機関システムでは、等スロットル開度においてはエンジン回転数が増大するにつれてトルクが減少するのが一般的である。ところが、本実施形態のようにオーバーラップ期間を設けた内燃機関システム1においては、オーバーラップ期間を設けた運転領域では、燃焼室24で燃え残った燃料と、オーバーラップによって吸気側から排気側に吹き抜けた酸素とが燃焼して、いわゆる後燃えが発生する。この後燃えにより、排気側のエネルギが増大し、ターボ過給機8の効率が向上して、トルクが増大するという現象が発生する。したがって、等スロットル開度における図7の各線において、トルクが上昇している領域が、後燃え効果が有効な領域であり、そして、トルクが最大となるピーク点が、後燃え効果が最大となる点である。このピーク点を結んだ線を一点鎖線Bで示す。
【0046】
上記のような後燃え作用を考慮して、第1速度N1は、等スロットル開度線におけるピーク値となるエンジン回転数、即ち、等スロットル開度においてトルクが最大となるエンジン回転数よりも低い値に設定される。従って、第1速度N1は、等スロットル開度線のピーク線Bよりも低エンジン回転数側(図7の左側)に設定され、本実施形態では、第1速度N1は例えばアイドル回転数に設定される。
【0047】
一方、第2速度N2は、第1速度N1よりも大きくなるように設定されている。第2速度N2は、オーバーラップ期間O/Lが設けられている領域内の最も高いエンジン回転数以下に設定されるのが望ましい。また、第2速度N2は、好ましくは、上記に加えてまたは上記に代えて、等スロットル開度においてトルクが最大となるエンジン回転数以上、即ち等スロットル開度線のピーク線B上またはピーク線Bよりも高エンジン回転数側(図7の右側)の値に設定される。本実施形態では、第2速度N2は、全負荷時に過給圧の制御を開始するインターセプト点におけるエンジン回転数NPに設定されている。
【0048】
ここで、図7に示すように、等スロットル開度線は、スロットル開度TVOまたはトルクTQDが大きくなるにつれて高エンジン回転数側に遷移している。したがって、後燃え効果が最大となる等スロットル開度線のピーク点におけるエンジン回転数も大きくなる。そこで、この等スロットル開度線の遷移に応じて、つまり、スロットル開度TVOまたはトルクの増大に従って、第1速度N1及び第2速度N2も大きくなるように設定されることが好ましい。
【0049】
次に、図6に戻って、ステップS13において、スロットル開度TVO及びエンジン回転数NENGに基づいて、第1率A1、第2率A3、及び第3率A2を決定する。第1率A1、第2率A3、及び第3率A2は、以下のようにして予め設定されている。
【0050】
図8は、吸気弁位相可変機構44におけるエンジン回転数に対する電動モータ50の回転数の関係を示す。また、図9には、排気弁位相可変機構58におけるエンジン回転数に対する油圧室62の油圧の関係を示す。
これらの図8及び図9に二点鎖線で示すように、従来の内燃機関システムでは、電動モータ50の回転数や油圧室62の油圧は、所定値となるまでエンジン回転数がゼロの地点から、エンジン回転数に対して一定の増加率で増加するのが一般的であった。これに対して、本実施形態では、エンジン回転数が第1速度N1よりも低い場合における吸気弁28及び排気弁32の開閉位相変更動作の動作速度の増加率である第1率A1は、図8及び図9にそれぞれ示すように、従来の一定の増加率よりも、高い増加率に設定されている。第1率A1は、エンジン回転数が第1速度N1に到達したときに、厳密なオーバーラップ期間O/Lの制御が可能な吸気弁28及び排気弁32の変更速度を得られるように設定される。
【0051】
次に、エンジン回転数が第1速度N1以上第2速度N2以下である場合における吸気弁28及び排気弁32の開閉位相変更動作の動作速度の増加率である第3率A3は、第1率A1よりも小さく、第2率A2以下に設定されている。本実施形態では、第3率A3は、図8に示すように吸気弁28においては、ゼロに設定され、図9に示すように排気弁32においては、第1率A1及び第2率A2よりも小さく設定されている。
【0052】
そして、エンジン回転数が第2速度N2より大きい場合における吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更速度の増加率である第2率A2は、図8及び図9に示すように、吸気弁28及び排気弁32ともに、従来の増加率と同じ値に設定されている。この第2率A2は、第1率A1よりも小さく設定される。
【0053】
ここで、第1率A1、第2率A2、及び第3率A3は、内燃機関システム1の構成に応じて固定値として設定されることが好ましい。したがって、内燃機関2の要求トルクまたはスロットル開度が大きくなると第1速度N1及び第2速度N2の設定値は大きくなるが、これらの増加率は固定であるため、吸気弁28の電動モータ50の回転数及び排気弁32の油圧室62の油圧は、図8及び図9に点線でそれぞれ示すように変化する。
なお、本実施形態では、第1率A1、第2率A2、及び第3率A3は固定値であるが、これらの値を可変としてもよい。この場合、トルクが最大であるとき、吸気弁28及び排気弁32における第3率A3を、第2率A2と同一に設定してもよい。
【0054】
次に図6に戻って、ステップS14において、エンジン回転数NENGが第1速度N1よりも小さいか否かを判断する。エンジン回転数NENGが第1速度N1よりも小さい場合には、ステップS15に進み、吸気弁28の電動モータ50の回転数または排気弁32の油圧室62の油圧の増加を第1率A1の増加率で行うように決定する。
ステップS14において、エンジン回転数NENGが第1速度N1以上である場合には、ステップS16に進み、エンジン回転数NENGが第2速度N2以下か否かを判断する。エンジン回転数NENGが第2速度N2以下である場合には、ステップS17に進み、吸気弁28の電動モータ50の回転数または排気弁32の油圧室62の油圧の増加を第3率A3の増加率で行うように決定する。
ステップS16においてエンジン回転数NENGが第2速度N2より大きい場合には、ステップS18に進み、吸気弁28の電動モータ50の回転数または排気弁32の油圧室62の油圧の増加を第2率A2の増加率で行うように決定する。
【0055】
以上に吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更速度の設定手法を説明したが、実際の制御工程においては、トルク及びエンジン回転数に対して吸気弁28の電動モータ50の回転数及び排気弁32の油圧室62の油圧が予め設定されたマップを用いて、これらの設定値をエンジン回転数NENG及びトルクTQDから求めることができる。
【0056】
図10は、トルク及びエンジン回転数に対して排気弁32の油圧室62の油圧(実際には可変オリフィス72の絞り量)が予め設定されたマップを示す。このマップには、予め設定された第1速度、第2速度、第1率、第2率、及び第3率に基づいて、トルク及びエンジン回転数に対する可変オリフィス72の絞り量の目標値が設定されている。また、吸気弁28についても、同様にトルク及びエンジン回転数に対する電動モータ50の回転数の目標値を設定したマップが用意される。そして、実際の制御工程では、前述の図4のステップS5では、予め設定された図10に示すようなマップから、電動モータ50の回転数及び可変オリフィス72の絞り量の目標値を読み出す作業を行う。
【0057】
以上のように構成された本実施形態によれば、次のような優れた効果を得ることができる。
等スロットル開度線に基づいてエンジン回転数の閾値である第1速度N1及び第2速度N2を設定し、内燃機関2のエンジン回転数NENGが第1速度N1よりも小さい場合には、吸気弁28の電動モータ50の回転数及び排気弁32の油圧室62の油圧を第1率A1で増大させるので、エンジン回転数NENGが第1速度N1に達する頃には、吸気弁28における十分な電動モータ50の回転数と、排気弁32における十分な油圧室62の油圧とを確保することができる。したがって、大きなオーバーラップ期間O/Lが設けられる第1速度N1前後の運転領域において、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更動作が応答性よく行われ、目標値により近い開閉タイミングが実現でき、より正確なオーバーラップ期間O/Lを実現できる。これにより、内燃機関2の排気側に吹き抜ける空気量を正確に制御することができるから、後燃えを効果的に行うことができ、内燃機関システム1の効率を高めることができる。
【0058】
エンジン回転数NENGが第2速度N2より大きい場合には、吸気弁28の電動モータ50の回転数及び排気弁32の油圧室62の油圧を第1率A1よりも低い第2率A2で増大させるが、ここで、既に第1速度N1より小さい領域及び第1速度N1と第2速度N2の間の領域で増大させた回転数及び油圧によって内燃機関2の効率を良好に維持することができる。これに加えて、第2率A2を第1率A1よりも低く設定しているので、オーバーラップ期間O/Lが徐々に減少する第2速度N2より大きい運転領域における機械的なロスを抑制して内燃機関2の効率の低下を抑制することができる。
【0059】
エンジン回転数NENGが第1速度N1と第2速度N2の間にある場合には、吸気弁28の電動モータ50の回転数及び排気弁32の油圧室62の油圧を第1率A1及び第2率A2よりも低い第3率A3で増大させるので、比較的大きなオーバーラップ期間O/Lが設けられる第1速度N1と第2速度N2との間の運転領域において、開閉位相の変更動作時の電動モータ50の回転数及び油圧室62の油圧の変動が抑制され、安定した回転数及び油圧を得ることができる。したがって、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相変更動作の良好な応答性が得られるとともに、開閉位相変更動作が安定するため、トルクの変動をより一層抑制することができる。これにより、内燃機関システム1の出力が安定する。
【0060】
第1速度N1及び第2速度N2を、スロットル開度またはトルクの増大にしたがってそれぞれ大きく設定するので、内燃機関2の運転状況に応じて、厳密なオーバーラップ期間O/Lの制御が必要な領域で吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更動作を応答性よく行うことができる。したがって、内燃機関2のあらゆる運転領域において、内燃機関2の効率を良好に維持することができる。
【0061】
内燃機関2への要求トルクが最大のとき、第2率A2と第3率A3とを同じに設定すれば、吸気弁28及び排気弁32の開閉位相の変更速度の増減の変動が少なくなり、機関出力をより一層安定させることができる。
【0062】
吸気弁28の電動モータ50における第3率A3がゼロに設定されているので、内燃機関2のエンジン回転数が第1速度N1と第2速度N2の間にあるときには、吸気弁28の開閉位相の変更速度が一定となる。したがって、エンジン回転数が第1速度N1と第2速度N2の間にある運転領域においては、開閉位相の変更動作が安定し、オーバーラップ期間O/Lをより厳密に制御することができる。また、それにより、内燃機関2の機関出力が安定する。
【0063】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、例えば、バルブタイミング可変手段は、バルブの開閉位相を変更するものに限らず、バルブの開閉のタイミングを可変に構成されるものであれば、任意の構造を採用できる。したがって、バルブタイミング可変手段として、例えば、バルブのリフトを可変に構成されたものや、開閉位相及びリフトの両方を可変に構成されたもの等を採用できる。
【0064】
バルブタイミング可変手段は、吸気弁及び排気弁のバルブ開閉タイミングを変更するものに限らず、吸気弁及び/又は排気弁の開閉タイミングを変更するものであればよく、少なくとも、吸気弁の開タイミング及び/又は排気弁の閉タイミングを変更可能な構造であればよい。
【0065】
変更速度調整手段は、電動モータや可変オリフィスを用いたものに限らず、バルブタイミングの変更速度を調整可能なものであれば任意の構造を採用できる。したがって、変更速度調整手段は、例えば電動オイルポンプを使用したものであってもよい。この場合には、第3率は、ゼロに設定されるのが好ましい。
【0066】
第1速度は、等スロットル開度においてトルクが最大となる機関速度よりも小さく設定されていればよく、前述の実施形態のようにアイドル回転数に設定されるものに限らず、内燃機関システムの構成や使用条件等に応じて、任意に設定することができる。
第2速度は、第1速度よりも高く設定されていればよく、前述の実施形態にようにインターセプト点における機関速度に設定されるものに限らず、例えば等スロットル開度においてトルクが最大となる機関速度、この機関速度よりも低い速度、またはこの機関速度よりも高い速度等、内燃機関システムの構成や使用条件等に応じて、任意に設定することができる。
【0067】
本発明の制御方法は、オーバーラップが設けられている全ての運転領域について行う必要はなく、オーバーラップが設けられている運転領域の少なくとも1部について行えばよい。
【符号の説明】
【0068】
1 内燃機関システム
2 内燃機関
8 ターボ過給機
12 スロットル
14 制御器
28 吸気弁
32 排気弁
38 吸気弁駆動機構
44 吸気弁位相可変機構
50 電動モータ
52 排気弁駆動機構
58 排気弁位相可変機構
64 油圧回路
70 オイルポンプ
72 可変オリフィス
74 タービン
76 コンプレッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部の運転領域において吸気弁及び排気弁がともに開弁するバルブ・オーバーラップ期間を有するように上記吸気弁及び上記排気弁を駆動するバルブ駆動機構を有する内燃機関と、該内燃機関の排気通路に配置されたタービン及び上記内燃機関の吸気通路に配置され且つ上記タービンにより駆動されるコンプレッサを有するターボ過給機と、上記吸気弁の開タイミング及び/又は上記排気弁の閉タイミングを変更するバルブタイミング可変手段と、上記吸気通路に配置され吸気量を調整するためのスロットルと、を備えた内燃機関システムを制御する方法であって、
上記内燃機関の機関速度が、等スロットル開度において上記内燃機関のトルクが最大となる機関速度よりも低く設定された第1速度よりも低いときに、機関速度の上昇に応じて、上記吸気弁及び/又は上記排気弁の上記バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、第1率で増加する変更速度で行う工程と、
機関速度が、上記第1速度より高く設定された第2速度より高いときに、機関速度の上昇に応じて、上記吸気弁及び/又は上記排気弁の上記バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、第1率より小さい第2率で増加する変更速度で行う工程と、
機関速度が上記第1速度と上記第2速度の間であるときに、機関速度の上昇に応じて、上記吸気弁及び/又は上記排気弁の上記バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、上記第1率よりも小さく上記第2率以下である第3率で増加する変更速度で行う工程と、を有する、
ことを特徴とする内燃機関システムの制御方法。
【請求項2】
上記内燃機関への要求トルクの増加に応じて、上記第1速度の設定値を増大させることを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
上記内燃機関への要求トルクの増加に応じて、上記第2速度の設定値を増大させることを特徴とする請求項2に記載の制御方法。
【請求項4】
上記内燃機関への要求トルクが最大の時に、上記第2率と上記第3率とが同一であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の制御方法。
【請求項5】
上記第3率がゼロであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項6】
少なくとも一部の運転領域において吸気弁及び排気弁がともに開弁するバルブ・オーバーラップ期間を有するように上記吸気弁及び上記排気弁を駆動するバルブ駆動機構を有する内燃機関と、
該内燃機関の排気通路に配置されたタービン及び上記内燃機関の吸気通路に配置され且つ上記タービンにより駆動されるコンプレッサを有するターボ過給機と、
上記吸気弁の開タイミング及び/又は上記排気弁の閉タイミングを変更するバルブタイミング可変手段と、
上記バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更速度を調整する変更速度調整手段と、
上記吸気通路に配置され吸気量を調整するためのスロットルと、
上記内燃機関の運転状況に応じて上記変更速度調整手段を制御するための制御手段と、を含み、
上記制御手段は、上記変更速度調整手段を、上記内燃機関の機関速度が、等スロットル開度において上記内燃機関のトルクが最大となる機関速度よりも低く設定された第1速度よりも低いときに、機関速度の上昇に応じて、上記吸気弁及び/又は上記排気弁の上記バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、第1率で増加する変更速度で行い、機関速度が、上記第1速度より高く設定された第2速度より高いときに、機関速度の上昇に応じて、上記吸気弁及び/又は上記排気弁の上記バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、第2率で増加する変更速度で行い、機関速度が上記第1速度と上記第2速度の間であるときに、機関速度の上昇に応じて、上記吸気弁及び/又は上記排気弁の上記バルブタイミング可変手段によるバルブタイミングの変更を、上記第1率よりも低い第3率で増加する変更速度で行う制御を実施するように構成されている、
ことを特徴とする内燃機関システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−17297(P2011−17297A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162923(P2009−162923)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】