説明

内燃機関用潤滑油組成物及びその製造方法

【課題】粘度−温度特性及び低温粘度特性に優れ、十分なロングドレイン性及び省燃費性を達成することが可能な潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、粘度指数が100以上、初留点が400℃以下、90%留出温度が470℃以上、90%留出温度から10%留出温度を減じた値が70℃以上である潤滑油基油と、硫黄を構成元素として含まない無灰酸化防止剤と、硫黄を構成元素として含む無灰酸化防止剤及び有機モリブデン化合物から選ばれる少なくとも1種とを含有し、上記潤滑油基油は、尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が100以上、100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満である第1の潤滑油基油成分と、尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が120以上、100℃における動粘度が4.5〜20mm/sである第2の潤滑油基油成分と、を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関用潤滑油組成物及びその製造方法に関し、詳しくは、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、含酸素化合物含有燃料対応エンジン、ガスエンジン等の潤滑油として好適な内燃機関用潤滑油組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンなどの内燃機関に使用される潤滑油には、過酷な条件下での長期の使用に耐えるための熱・酸化安定性が求められている。さらに、近年では、省燃費の観点から、粘度指数の高い基油が求められており、また、添加剤、基油についてのさまざまな検討がなされている。例えば、添加剤として、ジチオリン酸亜鉛やジチオカルバミン酸モリブデンなどのパーオキサイド分解能を有する硫黄系含有化合物、あるいはフェノール系又はアミン系酸化防止剤等の無灰酸化防止剤を基油に配合することが一般的になされている(例えば、特許文献1〜4を参照。)。
【0003】
また、粘度−温度特性/低温粘度特性や熱酸化安定性を向上させる手法として、天然や合成のノルマルパラフィンを含む原料油について水素化分解/水素化異性化を行なうことにより、高粘度指数基油を製造する方法が知られている(例えば、特許文献5〜6を参照)。さらに、潤滑油の低温粘度特性を改善する手法としては、高度精製鉱油系基油に流動点降下剤等の添加剤を配合する方法がある。
【特許文献1】特開平4−36391号公報
【特許文献2】特開昭63−223094号公報
【特許文献3】特開平8−302378号公報
【特許文献4】特開平9−003463号公報
【特許文献5】特表2006−502298号公報
【特許文献6】特表2002−503754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時、エンジン始動時の低温時の粘度を低くし、粘性抵抗を少なくして省燃費効果を高める要求が強くなっている。従来の内燃機関用潤滑油に使用される潤滑油基油は、高性能基油と呼ばれるものであっても、粘度−温度特性/低温粘度特性が必ずしも十分とはいえない。また、粘度−温度特性/低温粘度特性に関しては、潤滑油基油への添加剤の配合によりある程度改善することはできても、この手法には限界がある。特に、流動点降下剤は、配合量を増加させてもその効果が濃度と比例関係ではなく、また、配合量の増加に伴ってせん断安定性が低下してしまう。
【0005】
また、従来、潤滑油基油及び潤滑油の低温粘度特性の評価指標としては、流動点、曇り点、凝固点などが一般的である。また、最近では、ノルマルパラフィンやイソパラフィンの含有量等の潤滑油基油に基づき低温粘度特性を評価する手法も知られている。しかし、本発明者の検討によれば、上記の要求に応える潤滑油基油及び潤滑油を実現するためには、流動点や凝固点等の指標が潤滑油基油の低温粘度特性(省燃費性)の評価指標として必ずしも適切でないことが判明した。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、粘度−温度特性及び低温粘度特性に優れ、十分なロングドレイン性及び省燃費性を達成することが可能な潤滑油基油及び潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、粘度指数が100以上、初留点が400℃以下、90%留出温度が470℃以上、90%留出温度から10%留出温度を減じた値が70℃以上である潤滑油基油と、硫黄を構成元素として含まない無灰酸化防止剤と、硫黄を構成元素として含む無灰酸化防止剤及び有機モリブデン化合物から選ばれる少なくとも1種とを含有し、上記潤滑油基油は、尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が100以上、100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満である第1の潤滑油基油成分と、尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が120以上、100℃における動粘度が4.5〜20mm/sである第2の潤滑油基油成分と、を含有することを特徴とする潤滑油組成物を提供する。
【0008】
本発明の潤滑油基油は、上記第1及び第2の潤滑油基油成分を含んで構成されるものであるため、それ自体が熱・酸化安定性に優れる。更に、当該潤滑油基油は、添加剤が配合された場合に、当該添加剤を安定に溶解保持しつつその機能をより高水準で発現させることができるものである。そして、このように優れた特性を有する潤滑油基油に、硫黄を構成元素として含まない無灰酸化防止剤(以下、場合により「(A)成分」という)と、硫黄を構成元素として含む無灰酸化防止剤及び有機モリブデン化合物から選ばれる少なくとも1種(以下、場合により「(B)成分」という)との双方を含有せしめることで、(A)、(B)成分の相乗作用による熱・酸化安定性の向上効果を最大限に発揮させることができるようになる。したがって、本発明の潤滑油基油及びこれに上記添加剤を含有する内燃機関用潤滑油組成物によって、十分なロングドレイン化を達成することが可能となる。
【0009】
また、本発明の内燃機関用組成物においては、潤滑油基油が上記第1及び第2の潤滑油成分を含んで構成され、また、潤滑油基油自体の粘度指数が100以上であるため、潤滑油基油自体が粘度−温度特性及び摩擦特性に優れている。そして、当該潤滑油基油によれば、優れた粘度−温度特性により実用温度範囲における粘度抵抗や攪拌抵抗を低減することができ、特に、0℃以下の低温条件において、粘性抵抗や攪拌抵抗を大幅に低減することによりその効果を発揮することができるため、装置におけるエネルギー損失を低減し、省エネルギー化を達成できる。更に、当該潤滑油基油は、上述のように添加剤の溶解性及び効き目の点で優れており、摩擦調整剤が配合された場合には摩擦低減効果を高水準で得ることができるものである。したがって、このように優れた潤滑油基油を含む本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、摺動部における摩擦抵抗や撹拌抵抗などに起因するエネルギー損失を低減し、十分な省エネルギー化を図ることができる。
【0010】
更に、従来の潤滑油基油の場合は低温粘度特性の改善と揮発防止性の確保との両立が困難であったが、本発明にかかる潤滑油基油によれば、上記構成を有するため、低温粘度特性と揮発防止性との双方を高水準でバランスよく達成することができる。したがって、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、内燃機関のロングドレイン化及び省エネルギー化に加えて、低温時始動性の改善の点でも有用である。
【0011】
なお、本発明でいう尿素アダクト値は以下の方法により測定される。秤量した試料油(潤滑油基油)100gを丸底フラスコに入れ、尿素200g、トルエン360ml及びメタノール40mlを加えて室温で6時間攪拌する。これにより、反応液中に白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300ml及びトルエン300mlを加えて80℃で1時間攪拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた炭化水素成分(尿素アダクト物)の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義する。
【0012】
また、本発明でいう粘度指数及び100℃における動粘度、並びに後述する40℃における動粘度とは、それぞれJIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数、100℃における動粘度、及び、40℃における動粘度を意味する。
【0013】
なお、従来、水素化分解/水素化異性化による潤滑油基油の精製方法においてノルマルパラフィンからイソパラフィンへの異性化率の向上が検討されていることは上述の通りであるが、本発明者らの検討によれば、単にノルマルパラフィンの残存量を低減するだけでは低温粘度特性を十分に改善することは困難である。すなわち、水素化分解/水素化異性化により生成するイソパラフィンの中にも低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分は含まれるが、従来の評価方法においてはその点について十分に認識されていない。また、ノルマルパラフィン及びイソパラフィンの分析にはガスクロマトグラフィー(GC)やNMRなどの分析手法が適用されるが、これらの分析手法ではイソパラフィンの中から低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分を分離又は特定することは、煩雑な作業や多大な時間を要するなど実用上有効であるとはいえない。
【0014】
これに対して、本発明における尿素アダクト値の測定においては、尿素アダクト物として、イソパラフィンのうち低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分、さらには潤滑油基油中にノルマルパラフィンが残存している場合の当該ノルマルパラフィンを精度よく且つ確実に捕集することができるため、潤滑油基油の低温粘度特性の評価指標として優れている。なお、本発明者らは、GC及びNMRを用いた分析により、尿素アダクト物の主成分が、ノルマルパラフィン及び主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィンの尿素アダクト物であることを確認している。
【0015】
本発明においては、上記潤滑油基油が、ノルマルパラフィンを含有する原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下且つ粘度指数が100以上となるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程により得られたものであることが好ましい。これにより、熱・酸化安定性及び粘度−温度特性と低温粘度特性とが高水準で両立された潤滑油組成物をより確実に得ることができる。
【0016】
また、第1の潤滑油基油成分は、ノルマルパラフィンを含有する原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が100以上、100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満となるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程により得られた潤滑油基油成分であることが好ましく、第2の潤滑油基油成分は、ノルマルパラフィンを含有する原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が120以上、100℃における動粘度が4.5〜20mm/sとなるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程により得られた潤滑油基油成分であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、低温粘度グレードがSAE0W又は5Wであり、高温粘度グレードがSAE30及びそれ以上(SAE40、SAE50、SAE60)であることが好ましい。ここで、SAE粘度グレードはSAE−J300に規定される粘度グレードであり、例えば0W粘度グレードは、−30℃におけるCCS粘度が3250mPa・s以下あるいは−35℃におけるCCS粘度が6200mPa・s以下であり、−40℃におけるMRV粘度が60000mPa・s以下、100℃における動粘度が3.8mm/s以上のものである。また、5W粘度グレードは、−25℃におけるCCS粘度が3500mPa・s以下あるいは−30℃におけるCCS粘度が6600mPa・s以下であり、−35℃におけるMRV粘度が60000mPa・s以下、100℃における動粘度が3.8mm/s以上のものである。さらにSAE30グレードは、100℃における動粘度が9.3mm/s以上12.5mm/s未満、150℃におけるHTHS粘度が2.9mPa・s以上のものである。つまり、SAE0W−30グレードは、0Wの低温粘度グレードとSAE30の高温粘度グレードを両方満たすものである。
【0018】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物の−35℃におけるCCS粘度は6,000mPa・s以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物の−40℃におけるMRV粘度は20,000mPa・s以下であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物においては、第1の潤滑油基油成分の90%留出温度から10%留出温度を減じた値が40〜100℃であることが好ましい。一方、第2の潤滑油基油成分の90%留出温度から10%留出温度を減じた値は35〜110℃であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が100以上、100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満である第1の潤滑油基油成分と、尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が120以上、100℃における動粘度が4.5〜20mm/sである第2の潤滑油基油成分とを混合して、粘度指数が100以上、初留点が400℃以下、90%留出温度が470℃以上、90%留出温度から10%留出温度を減じた値が70℃以上である潤滑油基油を得ることを特徴とする潤滑油基油の製造方法、さらに、該潤滑油基油に、硫黄を構成元素として含まない無灰酸化防止剤と、硫黄を構成元素として含む無灰酸化防止剤及び有機モリブデン化合物から選ばれる少なくとも1種とを含有させることを特徴とする、内燃機関用潤滑油組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
以上の通り、本発明によれば、粘度−温度特性/低温粘度特性、摩擦特性、熱・酸化安定性及び揮発防止性に優れた内燃機関用潤滑油組成物が実現可能となる。そして、本発明の内燃機関用潤滑油組成物を内燃機関に適用することにより、ロングドレイン化及び省エネルギー化を達成することができるようになり、更には低温始動性を改善することができるようになる。
【0023】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物の製造方法によれば、上記のように優れた特性を有する本発明の内燃機関用潤滑油組成物を容易に且つ確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0025】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、粘度指数が100以上、初留点が400℃以下、90%留出温度が470℃以上、90%留出温度から10%留出温度を減じた値が70℃以上である潤滑油基油と、(A)硫黄を構成元素として含まない無灰酸化防止剤と、(B)硫黄を構成元素として含む無灰酸化防止剤及び有機モリブデン化合物から選ばれる少なくとも1種とを含有する。また、上記潤滑油基油は、尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が100以上、100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満である第1の潤滑油基油成分と、尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が120以上、100℃における動粘度が4.5〜20mm/sである第2の潤滑油基油成分と、を含有する。
【0026】
第1及び第2の潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、それぞれ4質量%以下であることが必要であり、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。また、第1及び第2の潤滑油基油成分の尿素アダクト値は、0質量%でも良い。しかし、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。なお、第1及び第2の潤滑油基油成分を含んで構成される潤滑油基油(以下、場合により単に「潤滑油基油」という。)の尿素アダクト値は特に制限されないが、当該潤滑油基油の尿素アダクト値も上記条件を満たすことが好ましい。
【0027】
また、第1及び第2の潤滑油基油成分、並びに第1及び第2の潤滑油基油成分を含んで構成される潤滑油基油の粘度指数は、粘度−温度特性の観点から、上述の通り100以上であることが必要であり、好ましくは110以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは130以上、特に好ましくは140以上、好ましくは170以下、より好ましくは160以下である。
【0028】
また、第1及び第2の潤滑油基油成分、並びに第1及び第2の潤滑油基油成分を含んで構成される潤滑油基油の粘度指数は、粘度−温度特性の観点から、上述の通り100以上であることが必要であり、好ましくは110以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは130以上、特に好ましくは140以上、好ましくは170以下、より好ましくは160以下である。
【0029】
また、第1の潤滑油基油成分の100℃における動粘度は、3.5mm/s以上4.5mm/s未満、より好ましくは3.7〜4.1mm/sである。一方、第2の潤滑油基油成分の100℃における動粘度は、4.5〜20mm/s、より好ましくは4.8〜11mm/s、特に好ましくは5.5〜8.0mm/sである。
【0030】
なお、第1及び第2の潤滑油基油成分を含んで構成される潤滑油基油の100℃における動粘度は特に制限されないが、好ましくは3.5〜20mm/s、より好ましくは4.0〜11mm/s、さらに好ましくは4.4〜6mm/sである。潤滑油基油の100℃における動粘度が3.5mm/s未満の場合、蒸発損失の点で好ましくない。また、100℃における動粘度が20mm/sを超える潤滑油基油を得ようとする場合、その収率が低くなり、原料として重質ワックスを用いる場合であっても分解率を高めることが困難となるため好ましくない。
【0031】
また、第1の潤滑油基油成分の40℃における動粘度は、好ましくは12mm/s以上28mm/s未満、より好ましくは13〜19mm/s、さらに好ましくは14〜17mm/sである。一方、第2の潤滑油基油成分の40℃における動粘度は、好ましくは28〜230mm/s、より好ましくは29〜50mm/s、さらに好ましくは29.5〜40mm/s、特に好ましくは30〜33mm/sである。また、本発明に係る潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは6.0〜80mm/s、より好ましくは8.0〜50mm/s、さらに好ましくは10〜30mm/s、特に好ましくは15〜20mm/sである。
【0032】
また、第1の潤滑油基油成分の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、更に好ましくは−17.5℃以下である。また、第2の潤滑油基油成分の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。さらに、本発明に係る潤滑油基油の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、潤滑油組成物の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0033】
また、第1の潤滑油基油成分の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは3000mPa・s以下、より好ましくは2400mPa・s以下、更に好ましくは2000mPa・s以下、更に好ましくは1800mPa・s以下、特に好ましくは1600mPa・s以下である。また、第2の潤滑油基油成分の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは15000mPa・s以下、より好ましくは10000mPa・s以下、さらに好ましくは8000mPa・s以下であり、好ましくは3000mPa・s以上、よりこの間シックは3100mPa・s以上である。さらに、潤滑油基油の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは10,000mPa・s、より好ましくは8,000mPa・sである。−35℃におけるCCS粘度が前記上限値を超えると、潤滑油組成物の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう−35℃におけるCCS粘度とは、JIS K 2010−1993に準拠して測定された粘度を意味する。
【0034】
また、第1及び第2の潤滑油基油成分並びに潤滑油基油のアニリン点(AP(℃))は、それぞれ下記式(1)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.3×kv100+100 (1)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0035】
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0036】
例えば、第1の潤滑油基油留分のAPは、好ましくは113℃以上、より好ましくは118℃以上、好ましくは135℃以下、より好ましくは125℃以下である。また、第2の潤滑油基油のAPは、好ましくは125℃以上、より好ましくは128℃以上、好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下である。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
【0037】
また、本発明に係る潤滑油基油の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は400℃以下であり、好ましくは355〜395℃、より好ましくは365〜385℃である。また、90%留出温度(T90)は、470℃以上であり、好ましくは475〜515℃、より好ましくは480〜505℃である。また、90%留出温度から5%留出温度を減じた値T90−T5は、70℃以上であり、好ましくは80〜120℃、より好ましくは90〜110℃である。
【0038】
また、第1の潤滑油基油成分の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは310〜400℃、より好ましくは320〜390℃、更に好ましくは330〜380℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは350〜430℃、より好ましくは360〜420℃、更に好ましくは370〜410℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは390〜470℃、より好ましくは400〜460℃、更に好ましくは410〜450℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは420〜490℃、より好ましくは430〜480℃、更に好ましくは440〜470℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは450〜530℃、より好ましくは460〜520℃、更に好ましくは470〜510℃である。また、T90−T10は、好ましくは40〜100℃、より好ましくは45〜90℃、更に好ましくは50〜80℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは110〜170℃、より好ましくは120〜160℃、更に好ましくは125〜150℃である。また、T10−IBPは、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜55℃、更に好ましくは15〜50℃である。また、FBP−T90は、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜55℃、更に好ましくは15〜50℃である。
【0039】
また、第2の潤滑油基油成分の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは390〜460℃、より好ましくは400〜450℃、更に好ましくは410〜440℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは430〜510℃、より好ましくは440〜500℃、更に好ましくは450〜480℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは460〜540℃、より好ましくは470〜530℃、更に好ましくは480〜520℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは470〜560℃、より好ましくは480〜550℃、更に好ましくは490〜540℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは505〜585℃、より好ましくは515〜565℃、更に好ましくは525〜565℃である。また、T90−T10は、好ましくは35〜110℃、より好ましくは45〜90℃、更に好ましくは55〜80℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは80〜150℃、より好ましくは90〜140℃、更に好ましくは100〜130℃である。また、T10−IBPは、好ましくは5〜80℃、より好ましくは10〜70℃、更に好ましくは10〜60℃である。また、FBP−T90は、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜50℃、更に好ましくは15〜40℃である。
【0040】
潤滑油基油並びに第1及び第2の潤滑油基油成分のそれぞれにおいて、IBP、T10、T50、T90、FBP、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP、FBP−T90を上記の好ましい範囲に設定することで、低温粘度の更なる改善と、蒸発損失の更なる低減とが可能となる。なお、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP及びFBP−T90のそれぞれについては、それらの蒸留範囲を狭くしすぎると、潤滑油基油の収率が悪化し、経済性の点で好ましくない。
【0041】
なお、本発明でいう、IBP、T10、T50、T90及びFBPとは、それぞれASTM D 2887−97に準拠して測定される留出点を意味する。
【0042】
また、第1及び第2の潤滑油基油成分における飽和分の含有量は、各潤滑油基油成分の全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜40質量%、更に好ましくは1〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油成分に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油成分中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0043】
なお、飽和分の含有量が90質量%未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となる傾向にある。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1質量%未満であると、潤滑油基油成分に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が不十分となり、潤滑油基油成分中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下するため、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。更に、飽和分に占める環状飽和分の割合が50質量%を超えると、潤滑油基油成分に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0044】
本発明において、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1〜50質量%であることは、飽和分に占める非環状飽和分が99.9〜50質量%であることと等価である。ここで、非環状飽和分にはノルマルパラフィン及びイソパラフィンの双方が包含される。本発明に係る潤滑油基油に占めるノルマルパラフィン及びイソパラフィンの割合は、尿素アダクト値が上記条件を満たせば特に制限されないが、イソパラフィンの割合は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは50〜99.9質量%、より好ましくは60〜99.9質量%、更に好ましくは70〜99.9質量%、特に好ましくは80〜99.9質量%である。潤滑油基油に占めるイソパラフィンの割合が前記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性をより向上させることができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能を一層高水準で発現させることができる。
【0045】
なお、本発明でいう飽和分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0046】
また、本発明でいう飽和分に占める環状飽和分及び非環状飽和分の割合とは、それぞれASTM D 2786−91に準拠して測定されるナフテン分(測定対象:1環〜6環ナフテン、単位:質量%)及びアルカン分(単位:質量%)を意味する。
【0047】
また、本発明でいう潤滑油基油成分中のノルマルパラフィンの割合とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により分離・分取された飽和分について、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行い、当該飽和分に占めるノルマルパラフィンの割合を同定・定量したときの測定値を、潤滑油基油成分の全量を基準として換算した値を意味する。なお、同定・定量の際には、標準試料として炭素数5〜50のノルマルパラフィンの混合試料が用いられ、飽和分に占めるノルマルパラフィンは、クロマトグラムの全ピーク面積値(希釈剤に由来するピークの面積値を除く)に対する各ノルマルパラフィンに相当に相当するピーク面積値の合計の割合として求められる。
(ガスクロマトグラフィー条件)
カラム:液相無極性カラム(長さ25mm、内径0.3mmφ、液相膜厚さ0.1μm)昇温条件:50℃〜400℃(昇温速度:10℃/min)
キャリアガス:ヘリウム(線速度:40cm/min)
スプリット比:90/1
試料注入量:0.5μL(二硫化炭素で20倍に希釈した試料の注入量)
【0048】
また、潤滑油基油成分中のイソパラフィンの割合とは、前記飽和分に占める非環状飽和分と前記飽和分に占めるノルマルパラフィンとの差を、潤滑油基油の全量を基準として換算した値を意味する。
【0049】
飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0050】
なお、第1及び第2の潤滑油基油成分において、原料として、燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を用いた場合には、飽和分の含有量が90質量%以上、該飽和分に占める環状飽和分の割合が、30〜50質量%、該飽和分に占める非環状飽和分の割合が50〜70質量%、潤滑油基油成分中のイソパラフィンの割合が40〜70質量%、粘度指数が100〜135、好ましくは120〜130の基油が得られるが、尿素アダクト値が上記条件を満たすことで、本発明の効果、特に−40℃におけるMRV粘度を20000mPa・s以下、特に10000mPa・s以下という優れた低温粘度特性を有する潤滑油組成物を得ることができる。また、第1及び第2の潤滑油基油成分において、原料としてワックス含有量が高い原料(例えばノルマルパラフィン含有量が50質量%以上)であるスラックワックス、フィッシャー−トロプシュワックスを用いた場合には、飽和分の含有量が90質量%以上、該飽和分に占める環状飽和分の割合が、0.1〜40質量%、該飽和分に占める非環状飽和分の割合が60〜99.9質量%、潤滑油基油成分中のイソパラフィンの割合が60〜99.9質量%、粘度指数が100〜170、好ましくは135〜160の基油が得られるが、尿素アダクト値が上記条件を満たすことで、本発明の効果、特に−40℃におけるMRV粘度を12000mPa・s以下、特に7000mPa・s以下という高粘度指数と低温粘度特性に極めて優れた特性を有する潤滑油組成物を得ることができる。
【0051】
また、第1及び第2の潤滑油基油成分における芳香族分は、潤滑油基油成分の全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.05〜3質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油成分に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明に係る潤滑油基油成分は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.05質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0052】
なお、ここでいう芳香族分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン及びこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0053】
また、第1及び第2の潤滑油基油成分の%Cは、好ましくは80以上、より好ましくは82〜99、更に好ましくは85〜98、特に好ましくは90〜97である。潤滑油基油成分の%Cが80未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油成分に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油成分の%Cが99を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0054】
また、第1及び第2の潤滑油基油成分の%Cは、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、より好ましくは1〜12、更に好ましくは3〜10である。潤滑油基油成分の%Cが20を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%Cが1未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0055】
また、本発明に係る潤滑油基油成分の%Cは、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.1〜0.5である。潤滑油基油成分の%Cが0.7を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、第1及び第2の潤滑油基油成分の%Cは0であってもよいが、%Cを0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0056】
更に、第1及び第2の潤滑油基油成分における%Cと%Cとの比率は、%C/%Cが7以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。%C/%Cが7未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油成分に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、%C/%Cは、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、25以下であることが特に好ましい。%C/%Cを200以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0057】
なお、本発明でいう%C、%C及び%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、及び芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%C及び%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油成分であっても、上記方法により求められる%Cが0を超える値を示すことがある。
【0058】
また、第1及び第2の潤滑油基油成分のヨウ素価は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.15以下であり、また、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点及び経済性との関係から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.05以上である。潤滑油基油成分のヨウ素価を0.5以下とすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。なお、本発明でいうヨウ素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価及び不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0059】
また、第1及び第2の潤滑油基油成分における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油成分を得ることができる。また、潤滑油基油成分の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油成分中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる可能性がある。第1及び第2の潤滑油基油成分においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることが更に好ましい。
【0060】
また、コスト低減の点からは、原料としてスラックワックス等を使用することが好ましく、その場合、得られる潤滑油基油成分中の硫黄分は50質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう硫黄分とは、JIS K 2541−1996に準拠して測定される硫黄分を意味する。
【0061】
また、第1及び第2の潤滑油基油成分における窒素分の含有量は、特に制限されないが、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、更に好ましくは1質量ppm以下である。窒素分の含有量が5質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0062】
第1及び第2の潤滑油基油成分を製造するに際し、ノルマルパラフィン、又はノルマルパラフィンを含有するワックスを含有する原料油を用いることができる。原料油は、鉱物油又は合成油のいずれであってもよく、あるいはこれらの2種以上の混合物であってもよい。
【0063】
本発明で用いられる原料油は、ASTM D86又はASTM D2887に規定する潤滑油範囲で沸騰するワックス含有原料であることが好ましい。原料油のワックス含有率は、原料油全量を基準として、好ましくは50質量%以上100質量%以下である。原料のワックス含有率は、核磁気共鳴分光法(ASTM D5292)、相関環分析(n−d−M)法(ASTM D3238)、溶剤法(ASTM D3235)などの分析手法によって測定することができる。
【0064】
ワックス含有原料としては、例えば、ラフィネートのような溶剤精製法に由来するオイル、部分溶剤脱ロウ油、脱瀝油、留出物、減圧ガスオイル、コーカーガスオイル、スラックワックス、フーツ油、フィッシャー−トロプシュ・ワックスなどが挙げられ、これらの中でもスラックワックス及びフィッシャー−トロプシュ・ワックスが好ましい。
【0065】
スラックワックスは、典型的には溶剤又はプロパン脱ロウによる炭化水素原料に由来する。スラックワックスは残留油を含有し得るが、この残留油は脱油により除去することができる。フーツ油は脱油されたスラックワックスに相当するものである。
【0066】
また、フィッシャー−トロプシュ・ワックスは、いわゆるフィッシャー−トロプシュ合成法により製造される。
【0067】
さらに、ノルマルパラフィンを含有する原料油として市販品を用いてもよい。具体的には、パラフィリント(Paraflint)80(水素化フィッシャー−トロプシュ・ワックス)及びシェルMDSワックス質ラフィネート(Shell MDS Waxy Raffinate)(水素化及び部分異性化中間留出物合成ワックス質ラフィネート)などが挙げられる。
【0068】
また、溶剤抽出に由来する原料油は、常圧蒸留からの高沸点石油留分を減圧蒸留装置に送り、この装置からの蒸留留分を溶剤抽出することによって得られるものである。減圧蒸留からの残渣は、脱瀝されてもよい。溶剤抽出法においては、よりパラフィニックな成分をラフィネート相に残したまま抽出相に芳香族成分を溶解する。ナフテンは、抽出相とラフィネート相とに分配される。溶剤抽出用の溶剤としては、フェノール、フルフラール及びN−メチルピロリドンなどが好ましく使用される。溶剤/油比、抽出温度、抽出されるべき留出物と溶剤との接触方法などを制御することによって、抽出相とラフィネート相との分離の程度を制御することができる。さらに原料として、より高い水素化分解能を有する燃料油水素化分解装置を使用し、燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を用いてもよい。
【0069】
上記の原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が100以上、100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満となるように、水素化分解/水素化異性化を行うことによって、第1の潤滑油基油成分を得ることができる。また、上記の原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が120以上、100℃における動粘度が4.5〜20mm/sとなるように、水素化分解/水素化異性化を行うことによって、第2の潤滑油基油成分を得ることができる。水素化分解/水素化異性化工程は、得られる被処理物の尿素アダクト値、粘度指数及び100℃における動粘度が上記条件を満たせば特に制限されない。本発明における好ましい水素化分解/水素化異性化工程は、
ノルマルパラフィンを含有する原料油について、水素化処理触媒を用いて水素化処理する第1工程と、
第1工程により得られる被処理物について、水素化脱ロウ触媒を用いて水素化脱ロウする第2工程と、
第2工程により得られる被処理物について、水素化精製触媒を用いて水素化精製する第3工程と
を備える。
【0070】
なお、従来の水素化分解/水素化異性化においても、水素化脱ロウ触媒の被毒防止のための脱硫・脱窒素を目的として、水素化脱ロウ工程の前段に水素化処理工程が設けられることはある。これに対して、本発明における第1工程(水素化処理工程)は、第2工程(水素化脱ロウ工程)の前段で原料油中のノルマルパラフィンの一部(例えば10質量%程度、好ましくは1〜10質量%)を分解するために設けられたものであり、当該第1工程においても脱硫・脱窒素は可能であるが、従来の水素化処理とは目的を異にする。かかる第1工程を設けることは、第3工程後に得られる被処理物(第1及び第2の潤滑油基油成分)の尿素アダクト値を確実に4質量%以下とする上で好ましい。
【0071】
上記第1工程で用いられる水素化触媒としては、6族金属、8−10族金属、及びそれらの混合物を含有する触媒などが挙げられる。好ましい金属としては、ニッケル、タングステン、モリブデン、コバルト及びそれらの混合物が挙げられる。水素化触媒は、これらの金属を耐熱性金属酸化物担体上に担持した態様で用いることができ、通常、金属は担体上で酸化物又は硫化物として存在する。また、金属の混合物を用いる場合は、金属の量が触媒全量を基準として30質量%以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。金属酸化物担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ又はチタニアなどの酸化物が挙げられ、中でもアルミナが好ましい。好ましいアルミナは、γ型又はβ型の多孔質アルミナである。金属の担持量は、触媒全量を基準として、0.5〜35質量%の範囲であることが好ましい。また、9−10族金属と6族金属との混合物を用いる場合には、9族又は10族金属のいずれかが、触媒全量を基準として、0.1〜5質量%の量で存在し、6族金属は5〜30質量%の量で存在することが好ましい。金属の担持量は、原子吸収分光法、誘導結合プラズマ発光分光分析法又は個々の金属について、ASTMで指定された他の方法によって測定されてもよい。
【0072】
金属酸化物担体の酸性は、添加物の添加、金属酸化物担体の性質の制御(例えば、シリカ−アルミナ担体中へ組み入れられるシリカの量の制御)などによって制御することができる。添加物の例には、ハロゲン、特にフッ素、リン、ホウ素、イットリア、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類酸化物、及びマグネシアが挙げられる。ハロゲンのような助触媒は、一般に金属酸化物担体の酸性を高めるが、イットリア又はマグネシアのような弱塩基性添加物はかかる担体の酸性を弱くする傾向がある。
【0073】
水素化処理条件に関し、処理温度は、好ましくは150〜450℃、より好ましくは200〜400℃であり、水素分圧は、好ましくは1400〜20000kPa、より好ましくは2800〜14000kPaであり、液空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1〜10hr−1、より好ましく0.1〜5hr−1であり、水素/油比は、好ましくは50〜1780m/m、より好ましくは89〜890m/mである。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第1工程における水素化処理条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0074】
第1工程において水素化処理された後の被処理物は、そのまま第2工程に供してもよいが、当該被処理物についてストリッピング又は蒸留を行い、被処理物(液状生成物)からガス生成物を分離除去する工程を、第1工程と第2工程との間に設けることが好ましい。これにより、被処理物に含まれる窒素分及び硫黄分を、第2工程における水素化脱ロウ触媒の長期使用に影響を及ぼさないでレベルにまで減らすことができる。ストリッピング等による分離除去の対象は主として硫化水素及びアンモニアのようなガス異物であり、ストリッピングはフラッシュドラム、分留器などの通常の手段によって行うことができる。
【0075】
また、第1工程における水素化処理の条件がマイルドである場合には、使用する原料によって残存する多環芳香族分が通過する可能性があるが、これらの異物は、第3工程における水素化精製により除去されてもよい。
【0076】
また、第2工程で用いられる水素化脱ロウ触媒は、結晶質又は非晶質のいずれの材料を含んでもよい。結晶質材料としては、例えば、アルミノシリケート(ゼオライト)又はシリコアルミノホスフェート(SAPO)を主成分とする、10又は12員環通路を有するモレキュラーシーブが挙げられる。ゼオライトの具体例としては、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、フェリエライト、ITQ−13、MCM−68、MCM−71などが挙げられる。また、アルミノホスフェートの例としては、ECR−42が挙げられる。モレキュラーシーブの例としては、ゼオライトベータ、及びMCM−68が挙げられる。これらの中でも、ZSM−48、ZSM−22及びZSM−23から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、ZSM−48が特に好ましい。モレキュラーシーブは好ましくは水素形にある。水素化脱ロウ触媒の還元は、水素化脱ロウの際にその場で起こり得るが、予め還元処理が施された水素化脱ロウ触媒を水素化脱ロウに供してもよい。
【0077】
また、水素化脱ロウ触媒の非晶質材料としては、3族金属でドープされたアルミナ、フッ化物化アルミナ、シリカ−アルミナ、フッ化物化シリカ−アルミナ、シリカ−アルミナなどが挙げられる。
【0078】
脱ロウ触媒の好ましい態様としては、二官能性、すなわち、少なくとも1つの6族金属、少なくとも1つの8−10族金属、又はそれらの混合物である金属水素添加成分が装着されたものが挙げられる。好ましい金属は、Pt、Pd又はそれらの混合物などの9−10族貴金属である。これらの金属の装着量は、触媒全量を基準として好ましくは0.1〜30質量%である。触媒調製及び金属装着方法としては、例えば分解性金属塩を用いるイオン交換法及び含浸法が挙げられる。
【0079】
なお、モレキュラーシーブを用いる場合、水素化脱ロウ条件下での耐熱性を有するバインダー材料と複合化してもよく、又はバインダーなし(自己結合)であってもよい。バインダー材料としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカとチタニア、マグネシア、トリア、ジルコニアなどのような他の金属酸化物との二成分の組合せ、シリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−マグネシアなどのような酸化物の三成分の組合せなどの無機酸化物が挙げられる。水素化脱ロウ触媒中のモレキュラーシーブの量は、触媒全量を基準として、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは35〜100質量%である。水素化脱ロウ触媒は、噴霧乾燥、押出などの方法によって形成される。水素化脱ロウ触媒は、硫化物化又は非硫化物化した態様で使用することができ、硫化物化した態様が好ましい。
【0080】
水素化脱ロウ条件に関し、温度は好ましくは250〜400℃、より好ましくは275〜350℃であり、水素分圧は好ましくは791〜20786kPa(100〜3000psig)、より好ましくは1480〜17339kPa(200〜2500psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1〜10hr−1、より好ましくは0.1〜5hr−1であり、水素/油比は好ましくは45〜1780m/m(250〜10000scf/B)、より好ましくは89〜890m/m(500〜5000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第2工程における水素化脱ロウ条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0081】
第2工程で水素化脱ロウされた被処理物は、第3工程における水素化精製に供される。水素化精製は、残留ヘテロ原子及び色相体の除去に加えて、オレフィン及び残留芳香族化合物を水素化により飽和することを目的とするマイルドな水素化処理の一形態である。第3工程における水素化精製は、脱ロウ工程とカスケード式で実施することができる。
【0082】
第3工程で用いられる水素化精製触媒は、6族金属、8−10族金属又はそれらの混合物を金属酸化物担体に担持させたものであることが好ましい。好ましい金属としては、貴金属、特に白金、パラジウム及びそれらの混合物が挙げられる。金属の混合物を用いる場合、金属の量が触媒を基準にして30質量%もしくはそれ以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。触媒の金属含有率は、非貴金属については20質量%以下、貴金属については1質量%以下が好ましい。また、金属酸化物担体としては、非晶質又は結晶質酸化物のいずれであってもよい。具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ又はチタニアのような低酸性酸化物が挙げられ、アルミナが好ましい。芳香族化合物の飽和の観点からは、多孔質担体上に比較的強い水素添加機能を有する金属が担持された水素化精製触媒を用いることが好ましい。
【0083】
好ましい水素化精製触媒として、M41Sクラス又は系統の触媒に属するメソ細孔性材料を挙げることができる。M41S系統の触媒は、高いシリカ含有率を有するメソ細孔性材料であり、具体的には、MCM−41、MCM−48及びMCM−50が挙げられる。かかる水素化精製触媒は15〜100Åの細孔径を有するものであり、MCM−41が特に好ましい。MCM−41は、一様なサイズの細孔の六方晶系配列を有する無機の多孔質非層化相である。MCM−41の物理構造は、ストローの開口部(細孔のセル径)が15〜100オングストロームの範囲であるストローの束のようなものである。MCM−48は、立方体対称を有し、MCM−50は、層状構造を有する。MCM−41は、メソ細孔性範囲の異なるサイズの細孔開口部で製造することができる。メソ細孔性材料は、8族、9族又は10族金属の少なくとも1つである金属水素添加成分を有してもよく、金属水素添加成分としては、貴金属、特に10族貴金属が好ましく、Pt、Pd又はそれらの混合物が最も好ましい。
【0084】
水素化精製の条件に関し、温度は好ましくは150〜350℃、より好ましくは180〜250℃であり、全圧は好ましくは2859〜20786kPa(約400〜3000psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1〜5hr−1、より好ましくは0.5〜3hr−1であり、水素/油比は好ましくは44.5〜1780m/m(250〜10,000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第3工程における水素化生成条件は、原料や処理装置の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0085】
また、第3工程後に得られる被処理物については、必要に応じて、蒸留等により所定の成分を分離除去してもよい。
【0086】
本発明に係る潤滑油基油中の第1及び第2の潤滑油基油成分の含有量は、潤滑油基油の粘度指数が100以上、初留点が400℃以下、90%留出温度が470℃以上、90%留出温度から10%留出温度を減じた値が70℃以上である限りにおいて特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、第1の潤滑油基油成分の含有量は、好ましくは50〜90質量%、より好ましくは55〜85質量%、さらに好ましくは65〜75質量%であり、第2の潤滑油基油成分の含有量は、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜45質量%、さらに好ましくは25〜35質量%である。
【0087】
また、本発明に係る潤滑油基油は、第1及び第2の潤滑油基油成分のみからなるものであってもよく、あるいは第1及び第2の潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分を更に含有してもよい。なお、本発明に係る潤滑油基油が第1及び第2の潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分を含有する場合には、本発明に係る潤滑油基油中の第1及び第2の潤滑油基油成分の合計の含有量が、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0088】
本発明に係る潤滑油基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば尿素アダクト値、粘度指数又は100℃における動粘度の一部又は全部が第1及び第2の潤滑油基油成分についての各条件を満たさない溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。
【0089】
また、合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0090】
ポリα−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウム又は三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸又はエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0091】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物が含有する潤滑油基油は、第1及び第2の潤滑油基油成分を含んで構成されるため、粘度−温度特性及び低温粘度特性に優れると共に、粘性抵抗や撹拌抵抗が低く、更には熱・酸化安定性及び摩擦特性が改善されたものであり、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができるものである。また、本発明に係る潤滑油基油に添加剤が配合された場合には当該添加剤の機能(酸化防止剤による熱・酸化安定性向上効果等)をより高水準で発現させることができる。
【0092】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、(A)成分として、硫黄を構成元素として含まない無灰酸化防止剤を含有する。かかる(A)成分としては、硫黄を構成元素として含まないフェノール系又はアミン系の無灰酸化防止剤が好適である。
【0093】
硫黄を構成元素として含まないフェノール系無灰酸化防止剤としては、具体的には、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシフェニル基置換脂肪酸と炭素数4〜12のアルコールとのエステルであるヒドロキシフェニル基置換エステル系酸化防止剤(オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等)及びビスフェノール系酸化防止剤が好ましく、ヒドロキシフェニル基置換エステル系酸化防止剤がより好ましい。また、分子量が240以上のフェノール系化合物は、分解温度が高く、より高温条件においてもその効果が発揮されるため、好ましい。
【0094】
また、硫黄を構成元素として含まないアミン系無灰酸化防止剤としては、具体的には、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。これらのアミン系無灰酸化防止剤が有するアルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖又は分枝のアルキル基が好ましく、炭素数4〜12の直鎖又は分枝のアルキル基がより好ましい。
【0095】
本発明における(A)成分の含有量は特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。その含有量が0.01質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、(A)成分の含有量が5質量%を超える場合、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0096】
本発明においては、(A)成分として、組成物全量基準で、フェノール系無灰酸化防止剤0.4〜2質量%とアミン系無灰酸化防止剤0.4〜2質量%とを併用するか、あるいは、アミン系酸化防止剤0.5〜2質量%、より好ましくは0.6〜1.5質量%を単独で用いることが特に好ましく、これにより長期に渡り優れた清浄性を維持させることができる。
【0097】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、(B)成分として、(B−1)硫黄を構成元素として含む無灰酸化防止剤及び(B−2)有機モリブデン化合物から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0098】
(B−1)硫黄を構成元素として含有する無灰酸化防止剤としては、硫化油脂、ジヒドロカルビルポリスルフィド、ジチオカーバメート類、チアジアゾール類、及び硫黄を構成元素として含有するフェノール系無灰酸化防止剤などが好適である。
【0099】
硫化油脂としては、例えば、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などの油;硫化オレイン酸などの二硫化脂肪酸;及び硫化オレイン酸メチルなどの硫化エステルを挙げることができる。
【0100】
硫化オレフィンとしては炭素数2〜15のオレフィン又はその2〜4量体を硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得ることができる。オレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましく用いられる。
【0101】
ジヒドロカルビルポリスルフィドの例の好ましいものとしては、具体的には、ジベンジルポリスルフィド、ジ−tert−ノニルポリスルフィド、ジドデシルポリスルフィド、ジ−tert−ブチルポリスルフィド、ジオクチルポリスルフィド、ジフェニルポリスルフィド、及びジシクロヘキシルポリスルフィドなどが挙げられる。
【0102】
ジチオカーバメート類としては、下記一般式(4)又は(5)で示される化合物が好ましい具体例として挙げられる。
【化1】


【化2】

【0103】
一般式(4)及び(5)において、R15、R16、R17、R18、R19及びR20はそれぞれ個別に、炭素数1〜30、好ましくは1〜20の炭化水素基を示し、R21は水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基、好ましくは水素原子又は1〜20の炭化水素基を示し、eは0〜4の整数を、fは0〜6の整数を示す。
【0104】
上記炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0105】
チアジアゾール類としては、例えば、1,3,4−チアジアゾール化合物、1,2,4−チアジアゾール化合物及び1,4,5−チアジアゾール化合物を挙げることができる。
【0106】
また、硫黄を構成元素として含むフェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。
【0107】
上記(B−1)成分の中でも、より優れた熱・酸化安定性が得られる点から、ジヒドロカルビルポリスルフィド、ジチオカーバメート類及びチアジアゾール類が好ましく、ジチオカーバメート類がより好ましく用いられる。
【0108】
本発明における(B)成分として(B−1)硫黄を構成元素として含む無灰酸化防止剤を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、硫黄元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.04質量%以下である。その含有量が前記下限値未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、前記上限値を超える場合、潤滑油組成物の高硫黄化による排ガス浄化装置への悪影響が大きくなる傾向にある。
【0109】
また、(B)成分としての(B−2)有機モリブデン化合物には、(B−2−1)硫黄を構成元素として含む有機モリブデン化合物、及び(B−2−2)硫黄を構成元素として含まない有機モリブデン化合物の双方が包含される。
【0110】
(B−2−1)硫黄を構成元素として含む有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の有機モリブデン錯体が挙げられる。
【0111】
好ましいモリブデンジチオホスフェートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化モリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これらモリブデンジチオホスフェートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
【0112】
好ましいモリブデンジチオカーバメートとしては、具体的には、硫化モリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である)、及びこれらの混合物等が例示できる。なお、これらモリブデンジチオカーバメートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。
【0113】
また、これら以外の硫黄を含有する有機モリブデン錯体としては、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
【0114】
本発明における(B)成分として(B−2−1)硫黄を構成元素として含む有機モリブデン化合物を用いると、熱・酸化安定性の向上効果に加えて摩擦低減効果を得ることができるので好ましく、中でもモリブデンジチオカーバメートが特に好ましい。
【0115】
また、(B−2−2)硫黄を構成元素として含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0116】
上記モリブデン−アミン錯体を構成するモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO・nHO)、モリブデン酸(HMoO)、モリブデン酸アルカリ金属塩(MMoO4;Mはアルカリ金属を示す)、モリブデン酸アンモニウム((NH)2MoO又は(NH[Mo24]・4HO)、MoCl、MoOCl、MoOCl、MoOBr、MoCl等の硫黄を含まないモリブデン化合物が挙げられる。こららのモリブデン化合物の中でも、モリブデン−アミン錯体の収率の点から、6価のモリブデン化合物が好ましい。更に、入手性の点から、6価のモリブデン化合物の中でも、三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩、及びモリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0117】
また、モリブデン−アミン錯体を構成する窒素化合物としては、特に制限されないが、アンモニアや、炭素数4〜30の炭化水素基を有するモノアミン、ジアミン、ポリアミンが挙げられる。これらの中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。
【0118】
また、モリブデン−コハク酸イミド錯体としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないモリブデン化合物と、炭素数4〜400のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。
【0119】
また、有機酸のモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたモリブデン酸化物あるいはモリブデン水酸化物、モリブデン炭酸塩又はモリブデン塩化物等のモリブデン塩基と、炭素数1〜30の炭化水素基を有するリン含有酸又はカルボン酸等の有機酸との塩が挙げられる。
【0120】
また、上記アルコールのモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたような硫黄を含まないモリブデン化合物と、炭素数1〜24のアルコールとの塩が挙げられ、アルコールは1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステルもしくは部分エステル化合物、水酸基を有する窒素化合物(アルカノールアミン等)などのいずれであってもよい。
【0121】
本発明における(B)成分として(B−2−2)硫黄を構成元素として含まない有機モリブデン化合物を用いると、潤滑油組成物の高温清浄性や塩基価保持性を高めることができ、また、初期の摩擦低減効果を長時間維持できる点で好ましく、中でもモリブデン−アミン錯体が特に好ましい。
【0122】
また、本発明においては、(B−2−1)硫黄を構成元素として含む有機モリブデン化合物と(B−2−2)硫黄を構成元素として含まない有機モリブデン化合物とを併用してもよい。
【0123】
本発明における(B)成分として(B)有機モリブデン化合物を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.04質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、(B−1)成分の含有量が0.2質量%を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0124】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上述の潤滑油基油及び(A)、(B)成分のみからなるものであってもよいが、その性能を更に向上させるために、必要に応じて以下に示す各種添加剤を更に含有してもよい。
【0125】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、耐摩耗性の更なる向上の点から、摩耗防止剤を更に含有することが好ましい。かかる極圧剤としては、リン系極圧剤、リン−硫黄系極圧剤などが好ましく用いられる。
【0126】
リン系極圧剤としては、リン酸、亜リン酸、リン酸エステル類(リン酸モノエステル類、リン酸ジエステル類及びリン酸トリエステル類を含む)、亜リン酸エステル類(亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類及び亜リン酸トリエステル類を含む)、及びこれらの塩(アミン塩又は金属塩)が挙げられる。リン酸エステル類及び亜リン酸エステル類としては、通常炭素数2〜30、好ましくは炭素数3〜20の炭化水素基を有するものが用いられる。
【0127】
また、リン−硫黄系極圧剤としては、チオリン酸、チオ亜リン酸、チオリン酸エステル類(チオリン酸モノエステル類、チオリン酸ジエステル類、チオリン酸トリエステル類を含む)、チオ亜リン酸エステル類(チオ亜リン酸モノエステル類、チオ亜リン酸ジエステル類、チオ亜リン酸トリエステル類を含む)、及びこれらの塩、並びにジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。チオリン酸エステル類及びチオ亜リン酸エステル類としては、通常炭素数2〜30、好ましくは炭素数3〜20の炭化水素基を有するものが用いられる。
【0128】
上記の極圧剤の含有量は特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0129】
本発明では、上記の極圧剤の中でも炭素数3〜24の炭化水素基を有するジチオリン酸亜鉛、モノチオリン酸亜鉛、リン酸亜鉛等のリン化合物金属塩から選ばれる1種又は2種以上を用いることが特に好ましい。
【0130】
上記炭素数3〜24の炭化水素基を有するジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0131】
上記炭素数3〜24の炭化水素基を有するモノチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルモノチオリン酸亜鉛、ジイソブチルモノチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルモノチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルモノチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルモノチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルモノチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルモノチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルモノチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルモノチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルモノチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルモノチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0132】
上記炭素数3〜24の炭化水素基を有するリン酸亜鉛等のリン酸金属塩の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルリン酸亜鉛、ジイソブチルリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルリン酸亜鉛、ジ−オクチルリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルリン酸亜鉛、ジ−n−デシルリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルリン酸亜鉛、ジイソトリデシルリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0133】
また、上記リン化合物金属塩の含有量は、特に制限されないが、排ガス浄化装置の触媒被毒を抑制する点から、組成物全量を基準として、リン元素換算量で、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.08質量%以下、特に好ましくは0.06質量%以下である。であることが好ましく、また0.06%以下であることがより好ましい。また、リン化合物金属塩の含有量は、耐摩耗性添加剤の作用効果を及ぼすリン酸金属塩の形成の点から、組成物全量を基準として、リン元素換算量で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.04質量%以上である。リン化合物金属塩の含有量が前記下限値未満であると、その添加による耐摩耗性向上効果が不十分となる傾向にある。
【0134】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、清浄性及びスラッジ分散性の点から、無灰分散剤を更に含有することが好ましい。
【0135】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
本発明で用いられる無灰分散剤、好ましくはビスタイプのポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の重量平均分子量は、好ましくは3000以上、より好ましくは6500以上、更に好ましくは7000以上、特に好ましくは8000以上である。重量平均分子量が3000未満では、非極性基のポリブテニル基の分子量が小さくスラッジの分散性に劣り、また、酸化劣化の活性点となる恐れのある極性基のアミン部分が相対的に多くなって酸化安定性に劣る可能性がある。このような観点から、無灰分散剤に含まれる窒素含有量は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。一方、低温粘度特性の悪化を防止する観点から、当該重量平均分子量は、20000以下であることが好ましく、15000以下であることが特に好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ウォーターズ製の150−CALC/GPC装置に東ソー製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてはテトラヒドロフラン、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0136】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物における無灰分散剤の含有量は、組成物全量を基準として、窒素元素換算で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.015質量%以下である。無灰分散剤の含有量が上記下限値に満たない場合は、十分な清浄性効果が発揮できず、一方、その含有量が上記上限値を超える場合は、低温粘度特性の悪化及び抗乳化性が悪化するためそれぞれ好ましくない。なお、重量平均分子量が6500以上のコハク酸イミド系無灰分散剤を使用する場合、十分なスラッジ分散性を発揮し、低温粘度特性に優れる点で、その含有量は、組成物全量を基準として、窒素元素換算で、0.005〜0.05質量%とすることが好ましく、0.01〜0.04質量%とすることがより好ましい。
【0137】
また、ホウ素化合物で変性された無灰分散剤を用いる場合、その含有量は、組成物全量を基準として、ホウ素元素換算で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。ホウ素化合物で変性された無灰分散剤の含有量が上記下限値に満たない場合は、十分な清浄性効果が発揮できず、一方、その含有量が上記上限値を超える場合は、低温粘度特性の悪化及び抗乳化性が悪化するためそれぞれ好ましくない。
【0138】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、その摩擦特性を更に改善できる点から、無灰摩擦調整剤を含有することが好ましい。無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ヒドラジド(オレイルヒドラジド等)、セミカルバジド、ウレア、ウレイド、ビウレット等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。
【0139】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物における摩擦調整剤の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。摩擦調整剤の含有量が前記下限値未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また、前記上限値を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
【0140】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、清浄性の点から、金属系清浄剤を更に含有することが好ましい。かかる金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属系清浄剤を用いることが好ましい。
【0141】
金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。本発明で用いるアルカリ土類金属系清浄剤の全塩基価は任意であるが、通常、全塩基価が500mgKOH/g以下、好ましくは150〜450mgKOH/gのものを用いるのが望ましい。なおここでいう全塩基価は、JISK2501(1992)の「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味している。
【0142】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物における金属系清浄剤の含有量は任意であるが、組成物全量基準で、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜8質量%、より好ましくは1〜5質量%含有するのが望ましい。この含有量が10質量%を超える場合は、その含有量に見合うだけの効果が得られないため好ましくない。
【0143】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、粘度−温度特性を更に改善できる点から、粘度指数向上剤を含有することが好ましい。かかる粘度指数向上剤としては、非分散型又は分散型ポリメタクリレート類、分散型エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられ、中でも重量平均分子量が50,000以下、好ましくは40,000以下、最も好ましくは10,000〜35,000の非分散型粘度指数向上剤及び/又は分散型粘度指数向上剤が好ましく用いられる。上記の粘度指数向上剤の中でも、低温流動性により優れる点から、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤が好ましい。
【0144】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物における粘度指数向上剤の配合量は、組成物全量基準で、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。粘度指数向上剤の含有量が0.1質量%未満の場合、その添加による粘度−温度特性の改善効果が不十分となる傾向にあり、また、10質量%を超える場合、初期の極圧性を長期間維持しにくくなる傾向にある。
【0145】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物においては、その性能をさらに向上させる目的で、必要に応じて、上記添加剤の他にさらに、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、着色剤等の各種添加剤を単独で又は数種類組み合わせて配合しても良い。
【0146】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0147】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0148】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0149】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0150】
流動点降下剤としては、潤滑油基油の性状に応じて公知の流動点降下剤を任意に選択することができるが、重量平均分子量が1〜30万、好ましくは、5〜20万のポリメタクリレートが好ましい。
【0151】
消泡剤としては、潤滑油用の消泡剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で配合することができる。
【0152】
着色剤としては、通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、また任意の量を配合することができるが、通常その配合量は、組成物全量基準で0.001〜1.0質量%である。
【0153】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、流動点降下剤では、0.05〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%、着色剤では0.001〜1.0質量%の範囲で通常選ばれる。
【0154】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上述の通り硫黄を構成元素として含む添加剤を含有し得るが、潤滑油組成物の全硫黄含有量(潤滑油基油及び添加剤に起因する硫黄分の合計量)は、添加剤の溶解性、並びに高温酸化条件における硫黄酸化物の生成に起因する塩基価の消耗を抑制する点から、好ましくは0.05〜0.3質量%であり、より好ましくは0.1〜0.2質量%、特に好ましくは0.12〜0.18質量%である。
【0155】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物の100℃における動粘度は、通常、4〜24mm/sであるが、焼付きや磨耗を抑制する油膜厚さを保持する点、並びに撹拌抵抗の増加を抑制する点から、好ましくは5〜18mm/s、より好ましくは6〜15mm/s、さらに好ましくは7〜12mm/sである。
【0156】
上記の構成を有する本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、熱・酸化安定性あるいは更に粘度−温度特性、摩擦特性及び揮発防止性に優れるものであり、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、含酸素化合物含有燃料対応エンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として用いた場合に、ロングドレイン化及び省エネルギー化を十分に実現することができる。
【実施例】
【0157】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0158】
[原料ワックス]
溶剤精製基油を精製する工程において減圧蒸留で分離した留分を、フルフラールで溶剤抽出した後で水素化処理し、次いで、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤で溶剤脱ろうした。溶剤脱ろうの際に除去され、スラックワックスとして得られたワックス分(以下、「WAX1」という)の性状を表1に示す。
【0159】
【表1】

【0160】
WAX1をさらに脱油して得られたワックス分(以下、「WAX2」という。)の性状を表2に示す。
【0161】
【表2】

【0162】
パラフィン含量が95質量%であり、20から80までの炭素数分布を有するFTワックス(以下、「WAX3」という。)を用いたWAX3の性状を表3に示す。
【0163】
【表3】

【0164】
[潤滑油基油の製造]
WAX1、WAX2およびWAX3を原料油とし、水素化処理触媒を用いて水素化処理を行った。このとき、原料油の分解率が5質量%以上かつ、被処理油の硫黄分が10質量ppm以下となるように反応温度および液空間速度を調整した。なお、「原料油の分解率が5質量%以上」とは、被処理油において、原料油の初留点よりも軽質となる留分の割合が原料油全量に対し5質量%以上であることを意味し、ガスクロ蒸留にて確認される。
【0165】
次に、上記の水素化処理により得られた被処理物について、貴金属含有量0.1〜5重量%に調整されたゼオライト系水素化脱ロウ触媒を用い、315℃〜325℃の温度範囲で水素化脱ロウを行った。
【0166】
更に、上記の水素化脱ロウにより得られた被処理物(ラフィネート)について、水素化生成触媒を用いて水素化精製を行った。その後蒸留により軽質分および重質分を分離して、表4、5に示す組成及び性状を有する潤滑油基油1−1〜1−3、2−1及び2−2を得た。表4、5中、「尿素アダクト物中のノルマルパラフィン由来成分の割合」は、尿素アダクト値の測定の際に得られた尿素アダクト物についてガスクロマトグラフィー分析を実施することによって得られたものである(以下、同様である)。
【0167】
また、従来の潤滑油基油として、表6に示す組成及び性状を有する基油3及び基油4を用意した。
【0168】
次に、表4〜6の潤滑油基油に、自動車用潤滑油に一般的に用いられているポリメタアクリレート系流動点降下剤(重量平均分子量:約6万)を添加した。流動点降下剤の添加量は、いずれも、組成物全量基準で0.3質量%、0.5質量%および1.0質量%の3条件とした。次に、得られた各潤滑油組成物について、−40℃におけるMRV粘度を測定し、得られた結果を表4に示す。この結果から、本発明の潤滑油基油は優れた低温特性及び粘度温度特性を示すとともに、流動点降下剤を配合した場合には、−40℃におけるMRV粘度が格別に優れていることがわかる。
【0169】
【表4】

【0170】
【表5】

【0171】
【表6】

【0172】
[実施例1〜7、比較例1〜5]
実施例1〜7においては、基油1−1〜基油1−3のいずれかと基油2−1又は基油2−2とを表7、8に示す組成となるように混合し、さらに、当該混合基油に以下の添加剤を配合して、表7、8に示す組成を有するSAE0W−30グレードの潤滑油組成物を調製した。また、比較例1〜5においては、基油1−1又は基油2−1と基油3又は基油4と表9に示す組成となるように混合し、さらに、当該混合基油に以下の添加剤を配合して、表9に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。得られた潤滑油組成物の性状を表7〜9に示す。
(硫黄を構成元素として含まない無灰酸化防止剤)
A1:アルキルジフェニルアミン
A2:オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
(硫黄を構成元素として含む無灰酸化防止剤及び有機モリブデン化合物)
B1:無灰ジチオカーバメート(硫黄含有量:29.4質量%)
B2:モリブデンのジトリデシルアミン錯体(モリブデン含有量:10.0質量%)
(摩耗防止剤)
C1:ジオクチルリン酸亜鉛(リン含有量:8.8質量%)
C2:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(リン含有量:7.2質量%、アルキル基:第2級ブチル基又は第2級ヘキシル基の混合物)
(無灰分散剤)
D1:ポリブテニルコハク酸イミド(ビスタイプ、重量平均分子量:8,500、窒素含有量:0.65質量%)
(無灰摩擦調整剤)
E1:グリセリン脂肪酸エステル(商品名:MO50、花王社製)
(その他の添加剤)
F1:金属系清浄剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤及び消泡剤を含むパッケージ。
【0173】
[摩擦特性評価試験I]
実施例1〜7及び比較例1〜5の潤滑油組成物について、往復動型摩擦試験機を用いて鋼球とディスク間の摩擦係数を測定した。試験条件としては、荷重50N,温度80℃、ストローク1mm、試験時間30分、振動数50Hzとし、データは1秒毎にコンピュータに記録した。試験時間に得られた摩擦力を荷重で除して摩擦係数を算出した。得られた結果を表7〜9に示す。
【0174】
[摩擦特性評価試験II]
実施例1〜7及び比較例1〜5の潤滑油組成物について、すべり率50%、面圧0.50GPaの条件下で室温にて摩擦係数を測定した。得られた結果を表7〜9に示す。試験機はPCS社製ミニトラクションマシンを使用した。
【0175】
【表7】

【0176】
【表8】

【0177】
【表9】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度指数が100以上、初留点が400℃以下、90%留出温度が470℃以上、90%留出温度から10%留出温度を減じた値が70℃以上である潤滑油基油と、
硫黄を構成元素として含まない無灰酸化防止剤と、
硫黄を構成元素として含む無灰酸化防止剤及び有機モリブデン化合物から選ばれる少なくとも1種とを含有し、
前記潤滑油基油は、
尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が100以上、100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満である第1の潤滑油基油成分と、
尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が120以上、100℃における動粘度が4.5〜20mm/sである第2の潤滑油基油成分と、
を含有することを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記第1の潤滑油基油成分が、ノルマルパラフィンを含有する原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が100以上、100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満となるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程により得られた潤滑油基油成分であり、
前記第2の潤滑油基油成分が、ノルマルパラフィンを含有する原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が120以上、100℃における動粘度が4.5〜20mm/sとなるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程により得られた潤滑油基油成分であることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記原料油が潤滑油基油の溶剤脱ろうによって得られるスラックワックスを50質量%以上含有することを特徴とする、請求項2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
低温粘度グレードがSAE0W又は5Wであり、高温粘度グレードがSAE30以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項5】
−35℃におけるCCS粘度が6,000mPa・s以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項6】
−40℃におけるMRV粘度が20,000mPa・s以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項7】
尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が100以上、100℃における動粘度が3.5mm/s以上4.5mm/s未満である第1の潤滑油基油成分と、尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が120以上、100℃における動粘度が4.5〜20mm/sである第2の潤滑油基油成分とを混合して、粘度指数が100以上、初留点が400℃以下、90%留出温度が470℃以上、90%留出温度から10%留出温度を減じた値が70℃以上である潤滑油基油を得、さらに、該潤滑油基油に、硫黄を構成元素として含まない無灰酸化防止剤と、硫黄を構成元素として含む無灰酸化防止剤及び有機モリブデン化合物から選ばれる少なくとも1種とを含有させることを特徴とする、内燃機関用潤滑油組成物の製造方法。


【公開番号】特開2010−90256(P2010−90256A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261079(P2008−261079)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】