説明

内耳前庭の刺激装置

【課題】平衡感覚に関連する迷路部分及び/又はそれに関連する神経を刺激して、患者の呼吸機能を増大させ又は制御し、患者の気道を開放状態に維持し、睡眠を誘導し及び/又は目眩を防止する機能の少なくともつを実行する装置及び方法を提供する。
【解決手段】前庭刺激装置30は、1)組織の実際の刺激を実行する刺激要素32、2)患者の生理学的状態を検出するセンサ34、及び3)センサから供給される信号を受信して適当なタイミング、レベル、パターン及び/又は周波数で刺激要素に刺激エネルギし、所望の機能を達成する動力/制御ユニット36とを備える。本発明は、所定のパターンの刺激を患者に印加するためにセンサを省略することも企図する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の内耳前庭系を刺激して治療の恩恵を与える装置並びに特に、迷路感覚(平衡感覚)に関する迷路器官の一部及び/又はそれに関する神経の一部を刺激して、被験者の呼吸機能を増大し若しくは制御し、被験者の気道を開放し、睡眠を誘発若しくは誘導し、目眩を防止し又はこれらの機能を組み合わせて実施する機能の少なくとも一つを実行する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
呼吸不調及び/又は機能不全に苦しむ患者の呼吸を援助する多数の技術がある。例えば、人工呼吸器を経て被験者の気道に呼吸気体流を送出することにより機械的な呼吸支援を行うことは公知である。被験者の呼吸作用を支援する機械的人工呼吸法には、充分に立証された多数の難点がある。例えば、気管チューブ、挿管用管及び鼻マスク/口マスク等の患者界面装置を被験者の内部又は上に配置することは困難な場合があり、被験者の長期の問題が生じることもありかつ/又は被験者にとって耐え難い場合もある。また、機械式人工呼吸器は、部分的に完全に被験者の呼吸作用を置き換えるので、特に被験者が長期間人工呼吸器を使用してきた場合、被験者にとって人工呼吸器を除去することが困難となることがある。
【0003】
また、被験者の横隔膜神経を直接に刺激して横隔膜を収縮させることにより、被験者に呼吸支援を与えることは公知である。また、被験者の胸部に電極を配置して横隔膜又は胸部筋を直接刺激するこのいわゆる「電気式人工呼吸」技術を提供することは公知である。例えば、「デマンド型電気式人工呼吸器」と称するゲッデスその他名義の米国特許第4,827,935号明細書を参照されたい。しかしながら、正常な被験者の各呼吸作用は、まさに横隔膜神経及び横隔膜より多くの組織を含む神経刺激及び筋肉刺激の複雑な相互作用を含むので、前記従来の電気式人工呼吸技術は、比較的有効に被験者の自然な呼吸機能を模倣することができない。従来の電気式人工呼吸技術は個々の筋肉又はせいぜい一群の筋肉を対象とするので、正常な呼吸サイクルを支配する全体的な神経−筋肉系を対象としない。
【0004】
また、被験者の気道を開放状態に保持し、及び/又は被験者の呼吸を維持して、睡眠無呼吸症候群を治療する多数の技術がある。例えば、閉塞性睡眠無呼吸症(obstructive sleep apnea/OSA)を治療する一般の技術は、被験者が呼吸サイクルの吸気段階又は呼気段階のいずれかに依存して変化する持続的気道正圧(continuous positive airway pressure/CPAP)又は2レベル圧力を被験者に供給することである。被験者に対して供給される気体は、気道部分に対する空気力学的支持体を形成し、この空気力学的支持体がなければ気道は圧壊されるであろう。また、非侵入式人工呼吸器と同様にシステムを使用して中心性睡眠無呼吸症(CSA)を治療することは公知である。中心性睡眠無呼吸症治療システムは、所定の限界時間を超過しかつこれが発生した場合に呼吸支援を行う一定時間の間に被験者が呼吸動作を停止したか否かを検出することが好ましい。睡眠無呼吸症候群を治療する前記技術は、被験者に呼吸支援を行うことに関連する欠点と同様の欠陥、即ち、患者界面装置に耐えることが困難な若干の被験者も存在する。また、気道に供給される気体流に対して障害が発生しかつ/又は不快な呼吸動作となる被験者も存在する。また、被験者の睡眠中に前記システムを使用するので、睡眠中の被験者(着用者)又は同室者を起こさないように極力静粛に前記システムを保持しなければならない。
【0005】
また、上部気道を形成する首領域の筋肉組織を電気的に刺激することによって閉塞性睡眠無呼吸症を治療することは公知である。睡眠中の前記筋肉弛緩は、多くの苦しむ患者に対する閉塞性睡眠無呼吸症が発生する主要な要因ではなくても、一因であると思われる。上部気道を構成する筋肉を電気的に刺激する従来の一方法は、被験者の面に直接接触させて電極を配置し、面組織を通じて通電して、下部筋肉を刺激する過程を含む。例えば、口腔内に電流を流してオトガイ舌筋の収縮を誘導することにより、気道を開放状態に維持するのに役立つ口腔内器具が開発されてきた。公知の他の電気刺激器具は、顎の下方に位置する被験者の首の外面に電気エネルギを印加して基礎上部気道筋の収縮を誘導するものである。
【0006】
表面実装電極を使用する電気式筋肉刺激は、電極部位で比較的大きな電流密度を形成する。比較的多数の神経末端を典型的に含む被験者の表層に前記電流密度が形成されるので、前記電気刺激装置は、着用者に不快感を与えて、着用者を睡眠から目覚めさせる場合もあるかもしれない。また、睡眠中に、首部でも口部の何れでも電気刺激器具を着用することが快適でない被験者も存在する。
【0007】
被験者に埋め込まれる電極を経て上部気道の神経及び/又は筋肉に直接に電気刺激を印加して、上部気道の筋肉に緊張を与えることにより、睡眠中の筋肉の圧壊を防止することは公知である。横隔膜神経を刺激して呼吸作用を誘導する前記従来の神経−筋肉電気刺激技術は、正常な呼吸作用の間に行われる自然の上部気道筋肉収縮機能を模倣してもあまり効果がない。正常な呼吸作用は、気道崩壊を防ぐために正確な時間間隔でかつ正確な刺激レベルで発生する神経及び/又は筋肉刺激の複合作用を含む。詳記すれば、上部気道に関連する神経及び/又は筋肉の直接的な侵入刺激は、一つの神経/筋肉を対象とするので、正常な呼吸作用の間に気道を開放状態に維持する場合に行われる正常な人間の全体的な神経筋機能を再生しない。また、上部気道を形成する神経及び/又は筋肉に直接侵入させる刺激は、むしろ侵襲性医学手順であると思われるので、必ずしも大多数の被験者及び/又は介護人に好まれない。
【0008】
上部気道組織の外科的切除による睡眠無呼吸症候群の治療も公知である。また、少なくとも中心性睡眠無呼吸症の治療に対する薬理学的解決法も追求された。しかしながら、前記療法の何れも全症例に成功していない。組織の外科的切除は侵襲性であり、合併症への潜在性があり、長期的効果は知られておらず、わずかに成功したに過ぎない。薬理学的療法は、一般に満足できるものでなく、副作用も多い。
【0009】
睡眠無呼吸症候群以外の又は睡眠無呼吸症候群に加えて睡眠障害で苦しむ多くの被験者がいる。例えば、多くの人々は、睡眠できない障害がある。ある人々が睡眠できない障害を持つ特定の病理学的理由は公知であると思えないが、人の睡眠を支援する多くの薬理学的解決法が存在する。しかしながら、本質的に弛緩薬であるこの種の薬物は、例えば、有害な、公知又は未知の薬物相互作用のために投与に適さない患者がいるため、この種の薬物を嫌う被験者及び/又は介護人もいる。また、前記薬物は、例えば過剰の嗜眠状態になる等有害な副作用を併発することもある。本当に、前記薬物は、禁忌を示すこともあるので、健康に対する危険性があるかもしれない。
【0010】
また、患者に物理的な振動を与えることが睡眠を誘導するのに役に立つことも公知である。この目的で、機械的振動発生機構を有するベッドが開発されてきた。しかしながら、患者の同室者には振動を我慢できないこともあることは理解されよう。また、所望の振動方向にベッドを動かすように、成人に振動を加えられるベッドを設けることは、比較的高価で、機械的に複雑であり、潜在的に雑音を発生する振動機構を必要とする。また、この種の振動式ベッドは、取扱いが煩瑣なものが殆どであり、外観上好ましくなく多くの家庭で実用的でない。
【0011】
呼吸作用又は睡眠に関与しないが、本発明に関する重要な他の判断事項は、患者自身又は患者の周囲が旋回していると患者が感じる障害である目眩及び/又はめまいである。例えば方向感覚を失った独楽のように、ユーザの病理学的な原因又は身体上の運動により、前記障害が誘発されることもある。また、例えば、目眩は患者の平衡感覚系を実行する内耳障害の結果であることもある。基本的な原因に依存して、前記障害の治療は、物理療法、頭蓋処置、外科及び薬理学的介入を含む。しかしながら、原因によっては治療法又は処置法がない目眩及び/又はめまいもある。更に、既存の物理療法、頭蓋処置治療及び外科手術は、適度に効果的であっても長時間を要するか又は特定型疾患にのみ有効に過ぎない。薬理学的治療は、有害な副作用を生じても、即時軽減効果を生じない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、従来の治療技術の欠点を克服して、患者の呼吸機能を増大し又は制御し、患者の気道を開放し、睡眠を誘発し及び/又は目眩を防止する作用の1つ又はそれ以上を実行するシステムを提供することにある。前記一般目的は、迷路感覚(平衡感覚)に関連する少なくとも迷路の一部及び/又は平衡感覚に関連する前庭神経及び分岐神経等の内耳神経の少なくとも1つを刺激する前庭刺激システムを提供することによって本発明の原理により達成される。この目的を達成する前庭刺激装置の一般的構造は、目標組織を刺激する刺激要素と、刺激電源及び前庭刺激装置を経て目標組織に刺激エネルギを付与しかつ制御する制御装置とを含み、刺激要素を経て患者に刺激エネルギをいつどのように印加するかを制御装置が決定できるように、制御装置に入力データを付与するセンサ等の入力装置を設けてもよい。前記生理学的機能を実行する刺激システムの構造を下記に略記する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
患者の前庭神経及び/又は前庭神経に関連する1つ又はそれ以上の分岐神経を直接的又は間接的に刺激して前庭神経の神経伝達を誘導することにより、患者の自然な呼吸作用を増大し又は制御することができる。横隔膜神経、舌下神経及び回帰性喉頭神経等の前庭神経と呼吸作用に関連する神経との間の相互作用のため、前庭神経に誘発される刺激は、呼吸作用に関連する神経の刺激を誘発し、患者の呼吸作用を起動し又は支援する。前庭神経の神経伝達を誘導することにより、吸気開始時期の設定、呼吸作用の持続期間及び/又は呼吸力等の患者の呼吸作用に関連する1つ又はそれ以上の要因を制御する前庭刺激装置を使用することができる。呼吸動作障害を生じた患者の前庭系を刺激して患者の呼吸を支援することができる。不適切レベルでしか患者自身が自己呼吸できない場合、前庭系の刺激により患者の自然な呼吸機能を増大させて、患者の呼吸作用を増加させることができる。一実施の形態では、本発明は少なくとも1つのセンサ及び単一又は複数の制御アルゴリズムを使用して、前庭刺激の開始時期を患者の呼吸サイクルに同期させることができる。しかしながら、本発明は、患者の呼吸サイクルに無関係に前庭系の少なくとも一部に経時的に変化する刺激エネルギを印加することもできる。何れの場合でも、患者は、呼吸サイクルをこの刺激サイクルに同期させるであろう。
【0014】
前庭神経の刺激は、舌下神経及び回帰性喉頭神経の刺激を誘発するので、前庭系を刺激することにより、気道を開放状態に維持して、閉塞性睡眠無呼吸症(OSA)及び上部気道抵抗症候群を治療することもできる。呼吸作用を監視して、患者の呼吸サイクルをセンサにより感知し、呼吸サイクルの間に制御装置により、適当な時間、持続期間及びパターンで前庭系に刺激を印加して、患者の気道を開放状態に維持することが望ましい。
【0015】
半規管、球形嚢、内耳の卵形嚢及び/又は内耳びん又はこれらの構造に関連する分岐神経を律動的に刺激して、患者に一様な揺動感覚を発生することにより、睡眠を誘発又は促進することができる。例えば、単一又は複数の半規管、球形嚢及び/又は卵形嚢のうちの1つ又はそれ以上の位置に刺激を加えて、半規管流体の後方及び前方への流れを形成し、揺動感を生成することができる。患者のベッドを物理的に揺動することにより実際に搖動するような前記人工的な揺動感覚は、患者をリラックスさせ、最終的に患者を眠らせて、一旦患者が睡眠すると、睡眠を促進させる。
【0016】
独楽感覚として脳が感じないように前庭系からの信号を遮断して前庭系を刺激することにより、目眩及び/又はめまいに対向することができる。内耳神経から患者の運動及び/又は異常な活動をセンサにより検出し、本発明の前庭の刺激装置を実施して、回転信号及び/又は異常な神経信号を表す信号を遮断するように、前庭系を刺激することによりこの運動及び/又は異常な神経活動を補償することが好ましい。このように、脳が前庭系からの信号を独楽感覚として感じるとき、及び/又は治療しなければ、患者に目眩を経験させる前庭系からの信号が正常でないとき、前庭系の刺激のみが実施される。
【0017】
本発明の更に他の目的は、患者の呼吸機能を増大し又は制御し、患者の気道を開放し、睡眠を誘導し、及び/又は目眩を防止すると共に、前記機能を生ずる従来の技術に付随する欠陥が発生しない装置を提供することである。平衡感覚に関連する迷路の受容体及び/又は前庭神経及びその分岐神経を含む前記受容体に関連する神経に刺激を印加する手段を含む装置を提供することによりこの目的を達成することができる。
【0018】
患者の呼吸機能を増大し又は制御して、患者の気道を開放させる方法に対し、本発明の一実施の形態では、前記過程は、患者の呼吸サイクル等の患者の状態を検出する過程と、呼吸機能を増大させる場合に、刺激を吸気段階に同期させる過程とを含む。他の実施の形態では、患者の呼吸サイクルに無関係にかつ刺激サイクルに患者が自分自身を自然に同期させるように、経時的に変化する刺激エネルギが、少なくとも患者前庭系の一部に印加される。また、患者の気道を開放する方法は、患者の状態が気道閉塞又は呼吸作用の休止が生じたことを示唆するときを決定する過程と、前記の状態が存在する場合、前庭刺激のみを発生する過程を含んでもよい。例えば、前記刺激装置は、患者の睡眠中、横臥中、呼吸中断時又は鼾発生時を検出して、前記状態の少なくとも1つ又はそれ以上が存在するときにのみ、刺激療法を開始することができる。
【0019】
睡眠を誘導し又は促進する方法に対し、刺激過程は、半規管、内耳びん、球形嚢及び/又は卵形嚢のうちの1つ以上に刺激を印加して、患者に揺動感覚を発生する過程を含んでもよい。また、この方法は、患者が例えば仰臥等の好適な体位にあることを感知する過程及び/又は患者が睡眠中か目覚めているかを検出して、例えば、患者が仰臥し目覚めている場合にのみ、揺動感覚を発生する刺激を開始する過程を含んでもよい。また、この方法は、刺激療法の開始後に、例えば予め定められた期間のように、設定された持続期間の間に刺激を付与し、刺激が印加された患者が一旦睡眠に入ったとき、ラジオ又はテレビ上の睡眠タイマが設定時間経過後に、機器の電源を切るのと殆ど同じ方法で、しばらくして刺激を中止する過程を含んでもよい。患者が寝入った後でも、揺動感覚は患者の穏やかな睡眠を促進すると思われるので、全睡眠持続期間にわたり刺激過程を持続できることも勿論である。
【0020】
目眩を防止する方法に対し、前庭刺激過程は、脳が独楽感覚として感じないように、半規管からの信号を遮断して前庭系を刺激する過程を含む。また、この方法は、患者の実際の挙動を感知して患者が実際に運動する場合にのみ遮断刺激を印加する過程を含んでもよい。
【0021】
本発明の前記及び他の目的、特徴及び特性、構造を構成する関連要素の操作法及び及び機能並びに製造の経済性は、全て本明細書の一部となり、種々の図面で対応する部品を同一の符号で示す添付図面に関する下記の記載及び特許請求の範囲の記載から明らかとなろう。しかしながら、図面は、図示及び説明の目的に過ぎず、本発明の限界を決定する定義を意味しないことは明白に理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の現在好適な実施の形態の詳細な説明
図1は、本発明の原理による前庭刺激装置30の典型的な実施の形態を示すブロック図である。前庭刺激装置30は、患者の平衡感覚に関連する迷路部分及び/又は関連神経を刺激して、患者に治療の恩恵を与える装置である。より具体的には、本発明は、侵襲性であると非侵襲性であるとを問わず、平衡感覚神経に関連する迷路の受容体及び/又は前庭神経及びその神経分岐を含む前記受容体に関連する複数の神経又は神経分岐を刺激することを企図する。本発明は、前記刺激部位の少なくとも1つ又はそれ以上に刺激を印加して、a)患者の自然な呼吸機能を増大し又は支援し、b)患者の気道を開放し、c)睡眠を誘発し及びd)目眩を防止する機能の1つ又はそれ以上を実行することを企図する。前記各機能を達成する特定の刺激部位及び好適な刺激メカニズムの詳細を以下説明する。しかしながら、本発明の刺激装置の概要を最初に説明する。本発明で重要なシミュレーション部位は、前庭系と一般に指称される平衡感覚に関連する人間の内耳の前記構造及び/又は組織であるから、本発明の刺激装置を「前庭刺激装置」として本明細書中に示す点で留意を要する。
【0023】
図1に示すように、前庭刺激装置30は、組織を実際に刺激する刺激要素32と、患者の生理学的な状態を検出するセンサ34と、センサ34から供給される信号を受信して、適当なタイミング、レベル、パターン及び/又は頻度で刺激要素32に刺激エネルギを付与して、所望の生理学的な機能を達成する電力/制御ユニット36との3つの要素を含む。明らかなように、患者の生理学的な状態を感知することは適当な刺激を供給するのに必ずしも必要でない場合がある。例えば、本発明の一実施の形態では、刺激装置は、患者の状態又は呼吸の状態に無関係に患者に刺激を付与する。その場合に、センサを省略し又は電力/制御ユニットを経る刺激エネルギの供給を起動及び停止させるオンオフ・スイッチにセンサを単純化することができる。
【0024】
刺激要素32は、制御された刺激を目標部位に付与するいかなる装置又は組合わせ装置でもよい。前記のように本発明の重要な特定刺激部位は、前庭神経、前庭神経の部分、前庭神経又はその部分の分岐、各半規管(前方、後方及び側方の)又はそれらの部分、総脚、卵形嚢、球形嚢及び内耳びんの1つ又はそれ以上及び/又はそれの組み合わせである。単数又は複数の正確な刺激部位のほか、複数の部位を刺激する方法は、達成すべき生理学的な機能に従い変化することを理解すべきである。表面上で、内部で又は付近の組織又は構造で前記組織の各々を刺激することができる。また、使用する刺激技術に依存して、完全に侵襲性、完全に非侵襲性(非観血的)又はそれらの組み合わせで刺激装置を構成することができる。
【0025】
本発明は、電気的、機械的、磁気的、熱的又は化学的刺激等の種々の刺激技術の1つ又はそれ以上を使用して上記刺激部位の1つ又はそれ以上を刺激することを企図する。刺激を供給する特定のメカニズム又は組合わせメカニズムを選択するかは、使用する刺激技術に依存し、使用する刺激技術は、選択された刺激部位に依存する。前記刺激部位の1つ又はそれ以上を刺激するのに本発明の前庭刺激装置で使用できる適切な刺激技術及び刺激メカニズムの例として下記を列挙することができる。
【0026】
1)電気的刺激−本発明は、刺激すべき組織の内部、上部及び又は近くに電気伝導性電極を備え、電極を通じて隣り合う組織に電流を供給することを企図する。形成すべき刺激パターンにより様々なサイズ及び形態の単数又は複数の電極を設けることができる。例えば、点電極を使用して非常に特殊な部位を刺激でき、スポット電極又細片(ストリップ)電極を使用してより大きな領域上の刺激を誘導することができる。また、本発明は、刺激部位に嵌入されかつ例えば外部発振器により形成される無線周波数領域等の外部電源から、電力及び制御データを受け取る超小型刺激装置の電極を使用することを企図する。
【0027】
本発明で神経の刺激に使用できる特定型の細片電極は、刺激すべき神経又は神経分岐を完全に又は部分的に包囲する電極カフである。カフが対象神経を包囲するので、他の組織の副次的刺激を最小にすると共に、神経組織を通じて刺激エネルギを供給することができる。勿論、複数の電極及び電極対を設けて、刺激すべき所望の領域上に所望の刺激パターンを達成することができる。また、本発明は、一つ又はそれ以上の針電極を内耳に挿入して、神経、分岐神経又は球形嚢等の全体的領域を選択的にシミュレーションを行い、所期の生理学的効果を増進することを企図する。針電極は、特定の刺激位置に目標を定められる利点がある。
【0028】
2)機械的刺激−本発明は、刺激すべき組織の近くに例えば膨張可能なバルーン等の加圧装置を配置して、バルーンを膨張させて隣接する組織に圧力を印加することを企図する。この種の機械的刺激装置は、患者に圧力変動を与えて特別な感覚を促進することができる。半規管又は神経との使用に特に適する加圧装置の他の例は、刺激すべき管又は神経の周囲に完全に又は部分的に配置される圧力カフであり、圧力カフの膨張により、半規管又は神経の基底部分上に圧力を印加することができる。更に、他の機械的刺激装置は、選択された周波数で機械的振動を発生する振動要素である。
【0029】
3)音波刺激−本発明は、代表的には人間の可聴範囲外にある20,000Hz以上の搬送波上で刺激を送出する音波装置又は超音波装置を使用して、前庭領域又は前庭領域内の特定部位を刺激することも企図する。
【0030】
4)磁気刺激−本発明は、内耳内及び/又は内耳の近くに配置されかつ1つ又はそれ以上のコイル形磁場発生装置を形成することも企図する。コイルは、目標組織の刺激を誘導しかつ空間的に変化する電界を形成する経時的に変化する磁場を生成する。また、例えば強磁性体インプラント等の焦準要素を目標組織内又はその近くに設けて、特定の位置での磁界及び電界を集中させ又は形成することができる。
【0031】
5)熱的刺激−本発明は、温度の変化を使用して、患者の組織に刺激を誘発する刺激装置を設けることを企図する。温度変化を誘発する装置の例はレーザ、赤外素子又は刺激部位に加熱液体又は冷却液体を分配する装置である。
【0032】
6)化学的刺激−本発明は、刺激部位に薬剤を導入し又は化学的反応を発生させて、その刺激部位で刺激を制御する装置の提供も企図する。例えば、インジェクションポンプ又は薬剤ポンプを内耳に設けて、刺激部位に所望の刺激薬物を導入することができる。
【0033】
7)無線周波数刺激−本発明は、適切な装置によって生成される無線周波数波長を使用して所望の刺激を付与することも更に企図する。例えば、前記のように、患者に埋め込まれる一つ又はそれ以上の超小型刺激装置が受信する無線周波数(rf)を使用して電力及び制御データを供給することにより、刺激を誘起することができる。患者の異なる部位に埋め込まれる異なる超小型刺激装置を異なる周波数に調整して、多種多様な刺激パターンを達成することができる。
【0034】
8)赤外線刺激−本発明は、赤外線技術を使用して患者の組織に刺激を付与することも企図する。7,200−15,000Åの短波長又は15,000−150,000Åの長波長の装置を使用して、目標部位に刺激を付与することができる。
【0035】
刺激技術の前記リストは例示に過ぎず又は限定列挙ではないと理解すべきである。これに対して、本発明は、作動時に所望の刺激機能を発生する如何なる刺激技術又は装置の使用も企図する。本発明の所望の生理学的機能の達成に使用できる適当な刺激装置の選択及び異なる型式は、本発明の刺激装置に関する下記の詳細な実施の形態の説明から良好に理解されよう。
【0036】
センサ34は、患者の生理学的な状態又は患者が経験している外部条件を検出して、電力/制御ユニット36にこの情報を供給する装置である。前記要因の1つ又はそれ以上を監視する本発明の刺激装置に使用される特定型のセンサは、重要な要因に依存する。それにもかかわらず、本発明に使用される適当なセンサは、例えば、1)液体圧力を検出する圧力センサ、2)液体の流量を検出する流量センサ、3)胸部の拡張及び収縮を検出する運動センサ、4)酸素濃度計、5)温度センサ、6)マイクロホン、7)神経活動センサ又は伝導センサ、8)EMG(筋電記録装置)センサ、9)EEG(脳波計)センサ、10)EOG(眼球電図)センサ及び11)加速度計を含む。本発明の前庭の刺激装置と連動して前記センサの各々を最適に使用する方法の詳細を下記に説明する。
【0037】
適切なセンサの前記リストも、例示に過ぎず限定列挙でないと理解すべきである。これに対して、本発明は、例えば患者の呼吸サイクルのような患者の重要な特性を検出又は監視できかつ特性を表す信号を発生する如何なるセンサもの使用を企図する。刺激要素32と同様に、本発明の各実施の形態に使用できる適当なセンサの選択及び異種型は、本発明の刺激装置に関する特定の実施の形態の説明から議論から理解できよう。
【0038】
動力/制御ユニット36は、刺激要素通じて患者に刺激エネルギを印加すると共に、印加される刺激エネルギを制御できる如何なる装置でもよい。例えば、本発明の一実施の形態では、動力/制御ユニット36は、電池によって刺激要素に供給される刺激エネルギのパルス形状、周波数及び振幅を調整するパルス形成装置を有する充電式電池である。また、動力/制御装置は、センサ34からの入力信号に基づいて、センサ34から信号を受信し、刺激要素に適用されるパルスの形状、時間、周波数及び/又は振幅を調整して印加される刺激エネルギを制御でき、所望の生理学的な機能を達成できるプロセッサを含むとよい。センサ34を省略する場合、所定の基準に従って刺激エネルギを発生する動力/制御装置を使用することは勿論である。
【0039】
本発明は、例えば、刺激エネルギを適応制御し、監視された要因の変化を補償し、ユーザに制御範囲を指定させ、例えば呼吸作用、いびき及びノイズのような重要な現象の間を検出するように、相対的に複合する制御機能を発生する「知的」能力を備えた動力/制御ユニット36を企図する。例えば、本発明の典型的な実施の形態では、患者に付与すべき刺激エネルギに対する例えば強度、周波数、パルス間持続期間等の刺激要因をユーザ又は製造業者が動力/制御ユニットに与えることができる。その後、患者により前記要因を変更し又は制御ユニットにより最適に前記要因を変更して、目標神経の励振速度を制御し、所望の刺激機能を形成できる。
【0040】
例えば、特定の要因を検出した場合に、制御ユニットが一定の作用を発生する場合の一定の要因制御、入力信号を閾値と比較して、制御ユニットがある作用が必要か否かを決定する場合の閾値ベース制御、規則ベース制御、ファジー論理及び神経ネットワーク制御等、様々な制御技術を使用して前記知的能力を付与することができる。患者の外側、患者の完全な内部又は外部と内部との組み合わせで、動力/制御ユニット36を設けることができる。患者に供給される刺激エネルギを制御する動力/制御ユニットの機能及び具体例の詳細を以下説明する。
【0041】
図2、図3及び図4は、前庭刺激装置30の典型的な実施の形態を示す。図2に示す前庭刺激装置30は、如何なる装置部分も患者の内部に配置しない(埋め込まない)点で完全に非観血的(非侵襲性)装置である。図2の前庭刺激装置30は、ほぼ前庭系上に電極を配置するように、患者の耳の直後にある表面に取り付ける表面電極形の刺激要素33を備えている。例えば電源及び制御ユニット36等の刺激装置の他の部分は、従来の補聴器と同様に耳に装着される。動作の際に、電源及び制御ユニット36は、患者の前庭系に刺激電流を送出する電極33を付勢する。
【0042】
図3の前庭の刺激装置30'は、前庭神経及び/又はその分岐神経を直接刺激する侵襲性装置である。図3の前庭刺激装置30'は、前庭神経42及び前庭神経42に連絡する分岐神経44上に直接配置され又は接近して配置される電極である刺激要素38及び40を含む。本発明は、関連する神経の刺激を誘導するように配置できる限り、それぞれ、前庭神経42又は前庭神経42に関連する分岐神経44に沿う様々な位置で、前庭神経42及び/又は分岐神経44に対して配置できる電極38及び/又は40を企図する。例えば、前庭神経節41上に電極38を設けることができる。分岐神経44は、例えば半規管46a、内耳びん46b、卵形嚢46c及び球形嚢46d等の平衡感覚に関連する迷路受容体に連結される神経である。図3では、数字46によって半規管、内耳びん、卵形嚢及び球形嚢の全体を示すが、図4ではこれらを更に詳細に示す点に注意されたい。分岐神経44は、前庭神経42を構成するように結合する。
【0043】
図4は、分岐神経44上の電極41a〜41eの配置、前庭神経42上の電極38の配置及び内耳の詳細を示す断面図である。図3では、電極40a〜40eを電極40として略示する。電極の数及び位置を変更することができかつ電極刺激装置を各分岐神経上に配置する必要がないことを理解すべきである。他の単一又は複数の神経を刺激して所望の刺激効能を達成する場合、例えば、前庭神経42上の電極38又は分岐神経44上の1つ又はそれ以上の電極40a〜40eを省略することができる。理想的には、所望の刺激効果を得ながら、電極数を最小に保持しなければならない。
【0044】
再び図3を参照すると、図示の典型的な実施の形態では、前庭刺激装置30の動力/制御ユニット36は、鼓膜52の内側上にある鼓室50に埋め込まれた信号受信装置48を含む。耳管58の鼓膜52の外側に信号発生器56が設けられる。1本又はそれ以上のリード54により、信号受信装置48を各電極38及び/又は40に接続して、各電極38及び/又は40を個々に又は何らかの組み合わせで付勢することができる。例えば、この構造では、信号受信装置48からの共用刺激源に基づいて複数部位で複数電極の同期刺激を行うことができる。また、この構造では、1個又はそれ以上の電極を独立して制御し、患者の前庭系に供給できる異なる型の刺激パターンに対し大きな柔軟性を与えることができる。本発明は、例えば、電極40aと40bとの間、40aと40cとの間、40bと40cとの間等のように、各部位間での刺激を企図する。
【0045】
信号発生器56を信号受信器48に接続して、信号受信器48から刺激電極38及び/又は40に刺激エネルギを供給することができる。本発明の典型的な実施の形態では、信号発生器56は、電極38及び/又は40に伝送される電流を信号受信装置48に誘導する電磁場を生成する。しかしながら、信号受信装置48自身に電源を設ける場合、信号発生器56からの信号は、信号受信装置48からどのようにかついつ刺激エネルギを出力するかを指令する指令信号及び制御信号である。信号発生器56は、より大きな距離を伝達するのに十分な伝達範囲をカバーするとき、図示のように、信号発生器56を耳管内に設ける必要がない点に留意する必要がある。
【0046】
また、本発明は、電極又は刺激部位で刺激脈拍を直接誘導する電磁場を信号発生器56によって形成するために、信号受信装置48及びリード54を省略することを企図する。例えば、磁気刺激を使用して、目標組織の刺激を誘導することができる。何れの場合でも、磁場を生成する単一又は複数のコイルは信号発生器56として機能し、電極38及び/又は40を省略することができる。別法として、信号発生器56により磁場領域を形成される強磁性装置を刺激部位又はその付近に設けて、電極38及び/又は40と殆ど同じ能力で機能させて、目標部位を適切かつ正確に刺激することができる。
【0047】
本発明は、無線周波数の周波数を通じて外部電源から電力及びデータを受け取り、電極38及び/又は40として機能させる患者に埋め込まれる1つ又はそれ以上の超小型刺激装置を企図する。何れの場合でも、信号発生器56として機能する無線周波数発振器をベッドサイド等の患者の外部に配置することができる。
【0048】
前記動力/制御ユニット36に対し機能上同一でなくても、類似の動力/制御ユニット60は、信号発生器56又は刺激を開始する他の結合メカニズムに電磁場を形成させる。図示の実施の形態では、少なくとも一つのセンサ34は、動力/制御ユニット60と通信を行い、動力/制御ユニット60が使用する入力信号を供給して、いつ電磁場を生成すべきかを決定する。下記に更に詳記するように、使用する単一又は複数のセンサの特定の型及び制御ユニットが受信信号を使用してどのように刺激要素38及び/又は40に刺激エネルギを供給するかは、前庭系の刺激の結果、達成される生理学的な機能に依存する。動力/制御ユニット60を患者の外部に設けて、電源の再充電又は交換を単純化することが好ましい。また、センサ34も一般的に患者の外部に設けられる。しかしながら、監視すべき要因がセンサの侵襲性位置を必要及び/又は可能となる場合、患者の内部にセンサ34を埋め込むことができる。
【0049】
前記のように、図2、図3及び図4に示すように、前庭神経及びその分岐神経を直接刺激することに加えて又はその代わりに、本発明は平衡感覚と関連する内耳の1つ又はそれ以上の位置を刺激して、治療の利点を得ることを企図する。即ち、前庭神経の神経伝達を誘導するのに前庭神経又はその分岐神経を直接刺激する必要はない。前庭神経は、求心性神経であり、その前に何かを刺激することは、エネルギ導入(transduction)を含むので、前庭神経に対して1つ又はそれ以上の部位に刺激を与えても、依然として所望の神経伝達を誘導することができる。本明細書で使用する用語「前」は、正常な神経伝達方向とは反対方向にある神経の一部を意味する点に留意する必要がある。
【0050】
図5は、一旦刺激されると、前庭神経の神経伝達を誘導して、患者に治療の恩恵を与える付加刺激部位を示す内耳の部分断面図である。図5に示す刺激装置の基本成分は、刺激部位を除き、図2〜図4に図示するものと同じである。図示の目的で、本発明の本実施の形態に刺激要素32として役立つ様々な刺激装置を示す。例えば、図5は、各々後骨半規管46a'の一部を包囲しかつ互いに一定間隔離間する一対のカフ62a及び62bを示す。カフ62a及び62bには、半規管上に力を及ぼす電極又は加圧装置を使用できる。また、図5は、膨大部46b及び卵形嚢46cの部分に設けられかつ前記構造を刺激する電極又は加圧装置64、66及び68を示す。また、図5は、後骨半規管46a'両側に設けられた電極又は加圧装置70及び72を示す。図示のように、本発明は、半規管内を刺激するのみならず、半規管の外側の刺激を企図することを理解すべきである。単一又は複数のリード54は、前記刺激要素の各々に信号受信装置48を連結して、電極の場合の電流又は加圧装置の場合の膨張流体等のように、適切な刺激エネルギ又は刺激を発生する。
【0051】
図2〜図5に示す前庭刺激装置30, 30'の構造は、患者内に設けられる成分の数及び複雑さを最小にする点で有利である。本発明は、図示の電流連結装置ではなく、患者の内部に埋め込まれる1個又はそれ以上の小型電池を備えられる電源を企図することを理解すべきである。しかしながら、前記移植式バッテリ装置は、患者の内部に配置しなければならない外部対象物の量を増大させる。また、将来ある時点で電池の交換が必要になる場合、特別な外科手術が必要となろう。
【0052】
患者の組織の内部位置から外部位置まで貫通する装置要素がない点で、図2〜図5に示す前庭刺激装置30, 30'の構造は更に有利である。本発明は、例えば鼓膜又は包囲する組織を通じて電極にエネルギを供給する身体の外部での信号受信装置48及び延伸するリード54の省略を企図することを理解すべきである。別法として、本発明は、例えば、患者の外側で残っている末端部を有する鼓膜を通して挿入される比較的固い針電極である電極38及び/又は40を企図する。前記構造では、患者の体内位置から体外位置にリード又は電極を物理的に通過させて、リード又は電極を動力/制御ユニットに接続しなければならない。この実施の形態では、外部物体が、患者の組織を貫通して患者の体内から体外までの経路を形成するとき、刺激エネルギに対する良好な伝導経路となり、患者の体内に配置される外部物体の量を最小にするのに対し、これは、有害物質の潜在的な部位又は有害物質が体内に侵入できる経路となる。
【0053】
図2、図3及び図4は、電極刺激装置を示すが、前記刺激技術の何かを使用して患者の前庭系を刺激することができると理解すべきである。例えば、前庭知覚組織上に物理的な圧力を印加する圧力カフに電極38及び/又は40を交換することができる。本発明の刺激装置により達成できる生理学的機能に関する下記の説明から理解できるように、本発明は、図2、図3及び図4に示す神経刺激部位以外又はそれに加えて内耳内の複数部位を刺激することを企図する。例えば、前庭神経を直接刺激して得られるのと同じ刺激効能を、平衡感覚に関連する迷路部分を包括的に刺激しても達成することができる。本発明の他の例示的な刺激部位について図5を参照されたい。
【0054】
患者の呼吸機能の増大及び/又は制御
本発明の一実施の形態では、前庭刺激装置30, 30'を使用して、患者の呼吸作用を増大させる生理学的機能を達成することができる。図3及び図4に示すように直接的に又は図2及び図5に示すように間接的にの何れかで、患者の呼吸サイクルに同期して前庭神経を刺激することによってこれを達成することができる。図2〜図7について、本実施の形態を以下詳細に説明する。
【0055】
前記のように、呼吸器系の筋系に全て関連する横隔神経、腹式神経、舌下神経及び反回神経に対し前庭神経42は多シナプス的(多神経連接的)に接続される。このため、前庭神経の刺激により、マクロレベルで前記他の全呼吸関連神経を刺激する効果が得られる。これにより、呼吸筋の収縮を誘導し又は増大させて、患者の全体的な呼吸機能を支持し又は増大させることができる。本発明では、前庭系の刺激レベルを変化させることにより、患者に供給される通気の支援度を制御することができる。
【0056】
前記の方法で前庭系を刺激することにより、比較的小さい部位に刺激目標を定めながら、例えば横隔膜及び内肋間筋等の呼吸筋の全てではないが多数をマクロ的に刺激することができる。他方、従来の電気式人工呼吸装置は、横隔神経、横隔膜の部分又は呼吸筋を直接目標とし、例えば、米国特許第4,827,935号明細書及びゲッデス、その他による「電気式人工通気」と称する記事(「医療機器」と称する定期刊行物第6号第22巻第263−271頁1988年発行)を参照されたい。その結果、前記電気式人工呼吸技術は、呼吸作用の付与に伴う全生理学的な一成分の微小刺激のみを付与する。
【0057】
本発明の一実施の形態では、前庭系に対する刺激エネルギは、患者の呼吸サイクルに同期して適用される。本実施の形態では、前庭刺激装置30, 30'のセンサ34は、自発的に呼吸する患者の呼吸サイクルを検出及び/又は監視できかつそれは、呼吸サイクルの吸気段階と呼気段階との間を識別するのに使用できる何れかの機器、装置又はシステムである。例えば、本発明は、呼吸の間に患者が排出し又は吸い込む流体の流量、圧力又は容量を検出することを企図する。例えば、患者の気道に連通する呼吸気流計を使用して、患者の呼吸に関連する前記要因を検出することができる。呼吸サイクルの段階を決定する周知の手技を使用して、制御ユニット60により前記情報を処理することができる。
【0058】
本発明は、患者の呼吸音を検出して、患者の吸気段階と呼気段階がいつ行われるかを識別することも企図する。また、本発明は、センサ34通じて、例えば胸部の上下運動等の患者の運動を検出し、呼吸サイクルの吸気段階及び呼気段階を検出することを企図する。例えば、電気抵抗ベルト又は電気インダクタンスベルト、圧力センサ及びインピーダンス気体注入撮影法等の患者の前記運動を検出する多数の技術は公知である。患者呼吸作用を検出する他の適切なセンサは、患者の呼吸作用に関連する温度変化を検出する温度検出装置を含む。例えば、患者の気道で又はその近くにサーミスタを配置して、患者から排出された空気に関連する熱を検出することは公知である。このように、前記センサが熱を検出するとき、これは、患者が呼吸サイクルの呼気段階に達することを示す。例えば、いずれも本明細書の構成の一部として引用するウィルキンソン名義の米国特許第5,190,048及び5,413,111を参照されたい。また、本実施の形態では、患者の呼吸作用と関連する例えば横隔膜からの筋電図(EMG)信号等の患者の電気/神経の活動をセンサ34により検出して、吸気作用及び呼気作用を検出することができる。
【0059】
本実施の形態では、患者の呼吸に同期して前庭系に刺激を付与して、吸気の開始と一致する適当な時点で前庭神経42の刺激が起こるために、患者の自然な呼吸を増大させることができる。例えば、目標組織の刺激を誘導する刺激エネルギと考えられる時間及び呼吸作用に関連する神経の刺激を誘導する例えば脳幹等の身体の部分に移動する前庭神経の興奮と考えられる時間のように、刺激装置により導入される如何なるタイムラグ及び如何なる生理学的なタイムラグの原因となるために、患者の吸気に刺激を同期させることは、吸気段階の開始前に刺激エネルギを付与する過程を開始することが必要であると認められる。
【0060】
本発明の他の実施の形態では、患者自身の呼吸サイクル又は呼吸作用に無関係に、前庭系の少なくとも一部に刺激が印加される。その代わりに、正弦波形態のように経時的に変化する方法で、刺激エネルギは連続的に印加される。患者は、自身の呼吸サイクルを自然に刺激サイクルに同期させるであろう。これは、センサ34及びそのフィードバック機能を省略できる点で、患者の呼吸サイクルに刺激の印加を同期させようとする刺激装置上の重大な単純化を表す。更に、本発明の本実施の形態は、前庭刺激装置によって前庭系に印加される刺激パターンに整合させるように、患者が彼ら自身の呼吸パターンを自然に調整するので、呼吸作用の増強又は制御機能を効果的に達成することができる。
【0061】
本発明の本実施の形態による例示的な構造では、前庭神経42及び/又は分岐神経44に刺激が直接印加される。前記神経を刺激する装置を示す図3及び図4を参照されたい。図5は、信号受信装置48を使用する電極38を通じて前庭神経42に直接シミュレーションを行う人の内耳を示す。しかしながら、図6に示す実施の形態では、鼻咽頭76に設けられた圧力センサ74は、鼓室50及び鼻咽頭76との間に、エウスタキオ管と称される咽鼓(聴覚)管80に沿って延びる連絡ワイヤ78を通じて信号受信装置48と通信する。鼻咽頭に配置することにより、圧力センサ74は、呼吸作用、上部気道機能不全及び嚥下運動から生ずる患者の圧力変化を検出する。特に重要な点は、呼吸作用から生ずる圧力変化を検出し、センサからの出力を入力信号として使用して、前庭の刺激を起動することである。
【0062】
図6は、鼻咽頭に設けられる圧力センサ74を示すが、上部気道領域の圧力変動をセンサが検出する限り、咽鼓等の他の位置に圧力センサを設けてもよいことは理解されよう。また、圧力センサ74に加えて又はその代わりに、エウスタキオ管通じて患者の上部気道に連絡する他のセンサを設けることができる。例えば、呼吸作用及び/又はいびきを検出するマイクロホンを設けることができる。また、鼻咽頭及び/又はエウスタキオ管に設けた単一又は複数のセンサを、例えば信号受信装置48等の他の装置とワイヤレスで通信させることができる。
【0063】
この実施の形態の一変形例では、矢視Aで示すように、信号受信装置48は、信号発生装置56に連絡し、圧力センサ74からの出力に基づき、信号受信装置48から信号発生装置56まで患者呼吸作用に関する情報を伝え、これにより動力/制御ユニット60は、正しい時間の刺激エネルギを前庭系に供給する。この実施の形態の他の変形例では、圧力センサ74からの出力に基づいて、信号受信装置が前庭系に印加される刺激エネルギを制御することを企図する。何れの場合でも、信号受信装置48が刺激を印加すべきことを決定したとき、刺激エネルギを常に利用できるように、信号発生装置56により信号受信装置48に刺激エネルギを安定して供給することが好ましい。
【0064】
図6に示す実施の形態では、多くの型補聴器を現在使用するのと殆ど同じ方法で、動力/制御ユニット60を耳の後部に着用し、リード61により動力/制御ユニットを信号発生装置56に連結することが好ましい。しかしながら、本発明では、動力/制御ユニット60が刺激要素に刺激エネルギの制御供給を行う所期の目的に対して機能する限り、患者の上又はその付近のどこにでも動力/制御ユニット60を配置できることを企図すると理解すべきである。
【0065】
図3及び図6は、蝸牛を明白に通過するリード54を示すが、これは必ずしも好適な例ではないことを理解すべきである。図示の便宜上、蝸牛上に配置したリード54を示す。信号受信装置48から刺激電極までの経路上にリード54を向けて、患者の組織に対する損傷を最小化することが好ましい。
【0066】
図7は、本実施の形態に対して本発明の原理による現在好適な刺激部位を示す迷路及び関連神経の後部斜視図である。本実施の形態では、前庭神経の刺激を誘導して、呼吸作用と関連する神経に対する前庭神経の多シナプス相互作用が患者の呼吸機能を増大させるように、呼吸機能を増大することができる。このように、前庭刺激装置の一次機能は、前庭神経の刺激を誘導することにある。本発明の例示的な実施の形態では、図7に示すように、前庭神経42を直接刺激し及び/又は一つ以上の分岐神経44a及び44bの1つ又はそれ以上を刺激することにより、一次機能を達成することができる。例えば、前庭神経と直接接触する電極82は、この神経に刺激を印加する。リード84は、刺激エネルギ源に電極を連結する。例えば、無線周波数結合によって起動されかつ制御される電極82として超小型刺激装置を使用することによって、刺激エネルギが電極によって誘導される場合、勿論、リード84を省略することができる。また、例えば、目標領域の刺激を誘導する磁気刺激を使用して、経時的に変化する磁場を発生させ、空間的に変化する電場勾配を形成することにより、リード84又は電極82がなくても非侵襲性で刺激を印加することができる。別法として又は電極82に加えて、本発明は、分岐神経44a及び44bとそれぞれ接触して電極86a及び86bを設けて、分岐神経を順番に刺激し、前庭神経の刺激を誘導することを企図する。リード54a及び54bは、刺激エネルギ源に電極86a及び86bを連結する。勿論、リード84について説明したように、前記リードを省略することができる。
【0067】
本発明の本実施の形態の呼吸機能を増大させる生理学的機能は、前庭神経又は分岐神経より前に、前庭系部分を刺激して、その中で神経伝達を誘導することを企図すると理解すべきである。このように、本発明の本実施の形態は、上記刺激メカニズムの何かを使用して、例えば半規管46a、内耳びん46b、卵形嚢46c、球形嚢46d及び総膜脚46e等の前庭系構造を刺激することも企図する。また、本発明は、呼吸と同期して前庭神経野を包括的に刺激して、患者の呼吸機能を増大させることを企図する。
【0068】
本発明の前記実施の形態では、前庭系を使用して前庭神経に印加され又は誘起される刺激を通じて呼吸筋の刺激を実質的に「増大させる」ことにより患者の呼吸機能を増大させることができる。本発明の一実施の形態は、患者の呼吸作用を検出する過程及び刺激エネルギの印加時期を適切に調節して、患者の呼吸サイクルと一致させる過程とを含む。しかしながら、前記のように、本発明は、前庭系の刺激に基づき患者の通気を制御することも企図する。例えば、患者が保有する如何なる呼吸機能でも増大させる代わりに、本発明の刺激装置は、吸気の開始又は誘発の信頼性を支配する。前記装置は、中心性睡眠無呼吸症で苦しむ患者に特に適する。例えば、本発明は、患者の呼吸作用を監視し、所定時間の呼吸休止を一旦検出すれば、前庭刺激を印加して、吸気を誘導又は開始することを企図する。
【0069】
また、本発明は、患者及び/又は刺激装置の状態を監視し、介護人及び/又は記憶装置に監視情報を伝達し、例えば、前庭刺激装置の故障等の緊急状態を検出し報知する適切な警報及び他の監視機能を実施することを企図する。刺激装置の使用法及び機能に関する情報も入手しかつ記録することができる。
【0070】
気道の開放維持
多くの個人に対する閉塞性睡眠無呼吸症が発生する場合に、例えばオトガイ舌筋等の上部気道に関連する筋肉の弛緩は、第一の要因ではないが、重要要因であると思われる。呼吸サイクルの吸気段階の間に少なくとも前記上部気道筋を緊張させることは、上部気道の崩壊を最小にすることも判明した。このように、本発明の別の実施の形態は、少なくとも呼吸サイクルの吸気段階の間、上部気道筋を緊張させることによって、閉塞性睡眠無呼吸症の発生又は上部気道抵抗を減少し又は最小化することを企図する。前庭神経の刺激は、上部気道の筋群に関連する第一の神経である舌下神経及び反回神経の励振を誘発するので、前庭神経の刺激により、上部気道筋を緊張させ、これにより上部気道の圧壊を最小化するものと認められる。このように、本発明は、前庭系を刺激して上部気道の崩壊を最小化することを企図する。
【0071】
前記刺激技術及び刺激メカニズムの何かを使用して、例えば、神経を直接刺激し又は前庭神経の前に組織又は分岐神経を刺激することによってこの神経を刺激して患者の呼吸機能を増大させる前記の方法で、前庭神経を刺激して、気道を開放状態に維持することが好ましい。また、気道に対する支えの有無に係わらず、気道の陰圧は、気道を圧壊するように働く傾向があるときに吸気段階が生ずるため、呼吸サイクルの吸気段階に刺激を同期させることが好ましい。従って、気道を開放状態に維持する前庭刺激装置の使用に等しく、前記制御システム及び技術を適用できる。
【0072】
本発明は、患者が療法を開始し又は睡眠に入った後に、例えば、毎夜所定の時間間隔で又は若干の持続時間で療法を始めるように、患者が、タイマーに基づいて、療法装置を起動させ又は患者が横臥して睡眠に入るときに、現象に基づいて気道を開放状態に維持する刺激療法の開始を企図する。一旦開始すると、一晩中刺激療法を実施することができる。しかしながら、本発明は、患者が無呼吸又は呼吸低下でも感じ又は感じる可能性があるときでも、刺激療法を実施して、気道を開放状態に維持することも企図する。例えば、本発明は、患者が無呼吸を経験すると一旦決定されれば、刺激療法の開始を企図する。例えば、呼吸作用(患者の呼吸運動)、呼吸の流量及び/又は酸素飽和度を監視することによって如何なる従来の技術を使用しても、これを実施することができる。本発明は、いびきを使用して、刺激療法を開始することを企図する。
【0073】
また、本発明は、患者の状態のひどさに基づいて刺激エネルギを制御することを企図する。例えば、刺激療法を開始した後に、無呼吸症及び/又はいびきが続く場合でも、本発明は、刺激レベルを増加することを企図する。逆に、無呼吸症及び/又はいびきが軽減する場合に、刺激レベルは減少される。
【0074】
上部気道を圧壊させるレベルにまで吸気力が増加する前に、上部気道に関連する筋肉が収縮しつつあり又は収縮を開始する吸気の開始の前に、前庭系に刺激エネルギを印加することが好ましい。吸気の開始前に刺激を印加する理由の1つは、吸気の間、上部気道に作用する圧壊力に対抗しなければならないことである。例えば、一旦吸気が開始すると、気道に陰圧が発生する。この陰圧は、気道を圧壊させるか又は横断面積を減少する傾向がある。一旦気道が圧壊すると、圧壊力を克服することは不可能ではないが、困難であると思われる。
【0075】
また、第一に気道崩壊を防ぐために、吸気流が気道に発生する前に、極力大きく気道の断面積を形成することが好ましいと考えられる。気道の断面積の減少により、電気抵抗を吸気流に対する抵抗が増加して、これにより気道を圧壊させる作用のある気道内の陰圧を増加させると認められる。前庭刺激を吸気前に印加する場合、気道に関連する筋肉を緊張させ、これにより、断面積の減少を防止して、空気流に対する抵抗を最小化することができる。空気流に対する抵抗を最小化することにより、気流を改良して、これにより気道を圧壊する潜在的原因となる陰圧を減少することができる。前記理由のため、本発明では、例えば吸気段階の間に発生する陰圧のような圧壊力が、気道を圧壊させるレベルに達する前に、上部気道内に関連する筋肉の収縮を誘導することができる。
【0076】
前記のように、一旦気道の崩壊又は減少が発生すると、上部気道筋肉の収縮を誘導して気道を開放することが比較的困難な患者も存在する。一旦気道崩壊が発生したときに、極端に大きい量の組織集団の運動が要求される。また、患者が横臥している場合、重力は、気道内に組織を圧壊させる作用を生ずる傾向があるので、重力の作用を克服して、気道を開放させる必要がある。また、呼吸作用を継続する際の呼吸筋の作用により、一緒に気道組織を押圧する傾向のある真空が形成され、これにより気道開放に有効な収縮を電気的に誘発することが特に困難となることがある。更に、気道の粘液状特性によって、気道開放に有効な収縮を電気的に誘導することも特に困難にさせる密封作用が発生することがある。従って、吸気開始前に刺激を開始することが好ましい。
【0077】
本発明の前庭刺激装置を使用して、患者の呼吸作用を増大又は制御することと、前庭刺激装置を使用して気道を開放状態に維持するためにすることとの間の主要な相違は、気道開通性を維持する後者の生理学的機能をむしろ健康な患者が達成する点である。即ち、患者の呼吸サイクルを監視しかつ呼吸サイクルと同期して前庭系を刺激する同一の基本システムを使用して、1)通気支援を必要とする患者の呼吸機能を増大させる又は2)閉塞性睡眠無呼吸症(OSA)又は上部気道抵抗症候群(UARS)で苦しむ患者の気道開口部を維持することができる。閉塞性睡眠無呼吸症(OSA)又は上部気道抵抗症候群(UARS)で苦しむ患者が通気支援を必要とすれば、両機能を達成できることは勿論である。
【0078】
呼吸作用の制御/速度調整
本発明は、前庭系に印加する刺激量を変更して、吸気作用又は呼気作用の力及び持続時間を制御することも企図する。例えば、時々深いため息をつくことは呼吸作用に有益であることは公知である。このように、本発明の前庭刺激装置を使用して、呼吸サイクルの吸気段階の間に、深いため息を誘導することができる。
【0079】
前記のように、本発明は、動力/制御システムが患者に刺激を印加して、横隔膜ペーシング装置として役立つことを企図する。例えば、正確かつ確実に呼吸サイクルを開始する能力が低下又は喪失したような患者も存在する。横隔神経の直接応答を誘発する前庭神経を直接的又は間接的に刺激して、患者の吸気を開始し及び/又は制御することができる。この実施の形態は、一定時間経過後に、患者が自分で吸気を開始しない場合に、刺激装置が前庭系に刺激を印加して、中心性睡眠無呼吸症を治療する前庭刺激装置の使用と同様である。
【0080】
患者の換気を制御するには、動力/制御ユニット60に計時ロジックを設けて、前庭系に刺激エネルギを周期的形態で付与し、適当な持続時間の間に刺激エネルギを供給することを必要とする。動力/制御ユニットをプログラム制御して、換気機能を高めるのに公知である患者の呼吸サイクルに対するパターンをランダムに変化させることもできることを理解すべきである。従来の電気式人工呼吸装置の制御に使用する技術を使用して、本実施例の前庭刺激装置を制御することもできることを理解すべきである。本発明では、電気的刺激を前庭系に印加して、横隔膜を刺激するような、一つの特定成分ではなく、呼吸作用に関連する神経の筋系の全てではないが、多数にマクロ刺激を達成できる相違がある。
【0081】
睡眠の誘発又は促進
本発明の他の実施の形態は、適切に計時された方法で前庭系の適当な部分に刺激を印加し、患者の揺動感を誘発させることを企図する。前庭系の人工的刺激から発生する揺動感は、当に患者を物理的に揺するように患者に睡眠を誘導し、睡眠中の患者はより安穏な睡眠を促進すると思われる。
【0082】
本発明の一実施の形態では、1つ又はそれ以上の半規管、球形嚢及び/又は卵形嚢を刺激することにより、揺動感覚が誘発される。例えば、図8は、半規管90上の第1の位置に設けられる第1の刺激要素88及び同じ半規管上の第2の位置に設けられる第2の刺激要素92とを示す。第1及び第2の刺激要素88及び92は、半規管90に印加される刺激を制御する信号受信装置に作動連結される。一実施の形態では、刺激要素88及び92は、電源から患者に電気エネルギを供給する例えば前記カフ電極等の電極である。リード94及び96は、電極を電源に連結する。他の実施の形態では、第1及び第2の刺激要素88及び92は、圧力を半規管に印加する例えば前記圧力カフ等の加圧装置である。何れの場合でも、リード94及び96は、膨張用流体を圧力カフに供給する導管である。更に他の実施の形態では、第1及び第2の刺激要素88及び92は、半規管内に配置されかつ半規管内の流体を移動させる加圧装置である。本発明の更に別の実施の形態では、例えば半規管が位置する管に隣接する骨組織のような半規管の直近に位置する1個又はそれ以上の振動要素を通じて管の刺激を行う。
【0083】
本実施の形態では、第1及び第2の刺激要素88及び92を二者択一的に駆動することにより、患者内に揺動感を誘発することができる。例えば、第1及び第2の刺激要素88及び92が圧力カフである場合、第1の刺激要素88を作動し、第2の刺激要素92を停止すると、矢視Bに示すように、第2の刺激要素に向かう第一の方向に半規管90内で液体を圧送する傾向がある。その後、第1の刺激要素88を停止して、刺激要素92を作動すると、矢視Cに示すように、第1の刺激要素に向かう逆方向に液体が圧送される。この過程を反復して、人が物理的に動揺されるときに発生するのと同一の効果である半規管内で前後に流体を移動することができる。勿論、流体を前後移動させる周波数を変更して、患者の揺動速度を変えることができる。
【0084】
後骨半規管である半規管90上の第1及び第2の刺激要素88及び92の配置は、全患者に対する最適位置というわけではないことを理解すべきである。このように、本発明は、例えば前半規管96及び/又は外側骨半規管100等の他の半規管に第1及び第2の刺激要素を配置することを企図する。人間の均衡システムの三次元特性が与えられる特に重要な1個又はそれ以上の前記半規管にこの種の刺激要素を設けることができることを理解すべきである。前記刺激要素の作動が患者の揺動感を生ずる限り、関連する半規管上の刺激要素の数及び特定の位置も、更に変更できると考えるべきである。
【0085】
本発明の他の実施の形態では、半規管の上、内部又は隣接位置でなく、内耳びん102、球形嚢104及び/又は卵形嚢106に刺激要素を設けることができる。本発明は、図8について説明した刺激技術を使用して、二者択一的に前記構造を刺激して、揺動感を形成することも企図する。
【0086】
本発明のこの実施の形態の一目的は、睡眠を誘導する揺動をシミュレーションすることであるから、本発明のこの実施の形態の更なる変形は、患者が寝入った時を検出して、自動的に揺動型刺激を停止することを企図する。本発明は、患者が眠っている時を検出する多様な公知技術の何れでも使用することを企図する。その後、患者を睡眠から起こさないように、睡眠の検出直後又はできれば徐々に、揺動型刺激を軽減することができる。本発明は、例えば刺激療法の開始後、所定の期間等の設定持続時間経過後に、動揺型刺激を停止することも企図する。例えば、この種の刺激装置は、刺激を開始した以後の時間量又は刺激を停止するまでの残り時間量を監視するタイマを含む。本発明のこの実施の形態では、揺動型刺激を印加して、患者を眠らせると共に、ラジオ又はテレビの睡眠タイマ機能と殆ど同じ方法で、一定時間経過後に、できれば患者が寝入ったとき、刺激を停止することができる。勿論、患者が寝入った後でも、揺動型刺激を継続することができる。この方法で、睡眠中の患者を刺激すれば、より安穏な睡眠の促進が助長されると考えられる。
【0087】
また、図2に示すのと同様の前庭刺激装置を使用して、非侵襲性で患者の揺動感を誘発することができる。本実施の形態では、患者の左側前庭系の直近にある患者の表面に第1の刺激電極を配置し、患者の右側前庭系の直近に第2の刺激電極を配置する。制御ユニットは、転極を有する刺激エネルギを第1及び第2の電極間に印加して、揺動感を誘導する。これは、例えば、第1及び第2の刺激電極間に正弦波の電圧波形を形成し、患者の前庭系を刺激する電流の極性を交互に換えることによって達成される。
【0088】
本明細書中に使用する用語「揺動」は、この用語の通常の意味であるように、前後運動、即ち後方から前方への運動及び前方から後方への運動に限定されないと理解すべきである。これに反して、動揺感覚も、円運動と考えられる前後運動及び左右運動の組み合わせのみならず、左右運動、横方向運動又は揺れ運動を意味する。
【0089】
目眩の防止
本発明のなお更なる実施の形態は、適切に計時された方法で前庭系の適当な部分に刺激を印加して、目眩及び/又は患者の環境が回転している感覚である目眩を防止することを企図する。目眩は、脳が独楽感覚と認める励振パターンにより神経学上の信号を出力する前庭系の結果である。目眩は、必ずしも患者を物理的に回転させる結果ではない。しかしながら、この種の物理的回転から目眩が生じることがある。
【0090】
本発明は、めまい又は目眩感覚として脳が判断する神経伝達を実質的に遮断又は妨害する相殺法で前庭系を刺激することによって、目眩及び/又はめまいを防止することを企図する。例えば、第1のパターンで神経信号を出力する前庭系の結果として、左に回転している感覚を患者が有すると仮定する。本発明は、前庭系又はその部分を刺激して、人が回転していることを脳がもはや感じないように、第1のパターンが脳に送られることを防止し又は脳に送られているパターンを変更することを企図する。例えば、回転している患者が、回転している信号を脳に送るときに、神経細胞の励振周波数が遅くなれば、本発明の刺激装置を使用して、神経細胞の励新周波数を増加し、これにより人が回転していない信号を脳に伝達することができる。
【0091】
人が実際に回転してもしていなくても、この「遮断」機能を達成することができる。例えば、目眩等の平衡感覚障害で苦しむ患者は、遮断機能を使用して、アンバランスでないのに、アンバランスであると患者の脳が考えさせる信号を前庭系から遮蔽することができる。
【0092】
しかしながら、本発明も前庭系に刺激を印加して、患者が実際に回転している場合にのみ、めまいを防止することを企図する。例えば、本発明は、患者の頭部又は身体の加速又は運動を検出するセンサ34として加速度計を設けることを企図する。加速を検出した場合、前庭系を刺激して、頭がくらくらする感覚を防止することができる。前庭刺激装置に対するこの実施の形態は、ユーザがめまいを経験しそうであるが、人が目眩を経験できないように機能を実行し続ける必要な場合の適用に特に適する。例えば、飛行機が回転する場合に、飛行機のテストパイロットは目眩を経験することがある。本発明は、刺激装置は、パイロットが回転していることを検出して、前庭の刺激を開始して、行為、目眩を防止し、これにより、パイロットは、目眩を経験し難い仕事となる制御を回復し又は脱出することを試みることができることを企図する。
【0093】
現在最も実用的かつ及び好適である実施の形態と思われる対象に基づき、図示の目的で本発明を詳述したが、詳細な説明は、説明の目的に過ぎず、本発明は、開示された実施の形態に限定されないばかりでなく、特許請求の範囲の精神及び限界の範囲内で、実施の形態の修正及び均等な構造も含むことを企図するものと理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の原理による前庭刺激装置の回路図
【図2】本発明の一実施の形態による刺激的要素となる表面電極を使用する前庭刺激装置の配置を示す人間頭部の側面図
【図3】本発明の一実施の形態による前庭刺激装置を図式的に示す内耳を含む人間の解剖学的構造の部分断面図
【図4】前庭神経及び分岐神経上の刺激電極の位置を図式的に示す内耳を含む人間の解剖学的構造の部分断面図
【図5】付加刺激部位及び刺激要素を示す内耳の部分断面図
【図6】本発明の別の実施の形態により患者の鼻咽頭に設けられたセンサを有する前庭刺激装置を図式的に示す内耳を有する人間の解剖学的構造の部分断面図
【図7】本発明の原理により患者の呼吸作用を増大/制御する刺激部位を示す迷路器官及び関連神経の後部斜視図
【図8】本発明の原理に従い睡眠を誘導する刺激部位を示す迷路器官及び関連する神経の他の後部斜視図
【符号の説明】
【0095】
32・・刺激要素(刺激手段)、 34・・センサ(検知手段)、 36・・電源(制御ユニット、調節手段、エネルギ手段)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と、
一対の電極、一対の加圧装置及び1又はそれ以上の振動要素の少なくとも1つを有する刺激要素と、
電源及び刺激要素に作動連結される制御ユニットとを備え、
制御ユニットにより刺激要素の動作を制御して、半規管、球形嚢、卵形嚢、内耳びん若しくはこれらの分岐神経に又は前庭神経若しくはその分岐神経の少なくとも一部に刺激エネルギを印加して、患者の揺動感覚を誘導し又は呼吸筋を収縮させることを特徴とする前庭刺激装置。
【請求項2】
刺激要素は、患者の耳の後部で患者の頭骨の表層に配置される表面電極である請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項3】
制御ユニットは、振幅、波形形状、周波数及び持続時間の少なくとも1つを含む刺激エネルギの特性を制御する請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項4】
刺激要素は、患者の左側前庭系に接近して配置された第1の刺激電極と、患者の右側前庭系に接近して配置された第2の刺激電極とを備え、制御ユニットは、第1の刺激電極と第2の刺激電極との間に転極波形を印加して、揺動感覚を誘導する請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項5】
制御ユニットは、(1)所定期間の経過及び(2)所定の現象の発生の少なくとも1つに応答して刺激エネルギの印加を終了する請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項6】
患者の前庭系の付近に刺激要素を配置する位置決め手段を含む請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項7】
制御ユニットは、所定のパターンに従って持続的な方法で刺激要素に刺激エネルギを連続的に送出させる請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項8】
制御ユニットは、刺激要素に刺激エネルギを送出させて、患者の呼吸作用を増大させる請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項9】
患者の生理学的特性を検出して、患者の生理学的特性を表す信号を制御ユニットに出力するセンサを備え、制御ユニットは、センサの出力に基づいて患者に印加される刺激エネルギを制御する請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項10】
センサは、呼吸作用に関連する生理学的特性を検出し、制御ユニットは、センサからの信号に基づいて、患者が、呼吸サイクルの吸気段階及び呼気段階の1つであるか否かを決定すると共に、(1)吸気段階の開始直前の期間、(2)吸気段階の開始を含む期間及び(3)吸気段階の開始後の吸気期間の少なくとも1つの期間中に刺激エネルギを印加するように患者に印加される刺激エネルギを制御する請求項9に記載の前庭刺激装置。
【請求項11】
制御ユニットは、刺激要素に刺激エネルギを送出させて、患者の上部気道筋肉の収縮を誘発させ、気道を開放状態に維持する請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項12】
呼吸作用に関連する患者の生理学的特性を検出して、患者の生理学的特性を表す信号を制御ユニットに出力するセンサを備え、制御ユニットは、センサからの信号に基づいて、患者が呼吸障害を経験しているか否かを決定すると共に、呼吸障害を経験している患者に応答して刺激エネルギを供給して、印加される刺激エネルギを制御する請求項11に記載の前庭刺激装置。
【請求項13】
第1の刺激電極及び第2の刺激電極は、患者の表面上に配置される非侵襲性の電極である請求項4に記載の前庭刺激装置。
【請求項14】
刺激要素は、患者の左側前庭系に接近して配置される第1の非侵襲性電極と、患者の右側前庭系に接近して配置される第2の非侵襲性電極とを備え、制御ユニットは、第1の非侵襲性電極と第2の非侵襲性電極との間に変化する電流波形を印加する請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項15】
刺激要素は、患者の左側前庭系又は右側前庭系に接近して配置される第1の非侵襲性電極と、患者の別の位置に配置される第2の非侵襲性電極とを備え、制御ユニットは、第1の非侵襲性電極と第2の非侵襲性電極との間に変化する電流波形を印加する請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項16】
患者の睡眠時を決定する睡眠検出手段を備え、制御ユニットは、睡眠検出手段の出力に基づいて刺激エネルギの印加を制御する請求項1に記載の前庭刺激装置。
【請求項17】
患者の体位を検出する体位センサを備え、制御ユニットは、体位センサの出力に基づいて刺激要素に印加される刺激エネルギを制御する請求項1に記載の前庭刺激装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−7433(P2007−7433A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208523(P2006−208523)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【分割の表示】特願2000−615096(P2000−615096)の分割
【原出願日】平成12年5月4日(2000.5.4)
【出願人】(500053333)レスピロニクス・インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】