説明

円筒型酸化物焼結ターゲット材の製造方法

【課題】 安価な方法で高密度かつ均一な組織の円筒型の酸化物焼結ターゲット材を得ることが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】 酸化物粉末を含むスラリーを円筒形状の吸水型に注入した後、前記吸水型の円筒内壁にスラリーを沈降させながら吸水型の中心線を回転軸心として回転速度30rpm以下で回転させことにより円筒形状の酸化物成形体を得、次いで前記酸化物成形体を焼結して円筒型酸化物焼結体を得る円筒型酸化物焼結ターゲット材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒型酸化物焼結ターゲット材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スパッタリングにおけるターゲット材の使用効率を向上させる方法として、円筒型ターゲット材を使用したマグネトロン型回転スパッタリング法の使用が進んできている。この方式は円筒型ターゲット材の内側に磁場発生装置を有しターゲット材の内側から冷却しつつ、ターゲット材を回転させながらスパッタを行うものであり、ターゲット材の全面がエロージョンとなり均一に削られるため、従来の平板状ターゲットを使用する方式に比べて格段に高い使用効率が得られることが知られている。
【0003】
また、現在、液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどに利用される透明導電膜として、錫が添加されたインジウム酸化物(ITO)や亜鉛酸化物が使用されており、このような透明導電膜の形成に関しても、円筒型ターゲットを使用したスパッタリング法によって形成することが試みられている。
そして、このような酸化物の円筒型ターゲット材の製造方法としては、例えば、円筒状または円柱状の支持体に酸化物原料粉末を溶射して一定厚さの酸化物層を形成してターゲット材とする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、酸化物粉末を円筒形状のゴム型に充填した後に冷間静水圧プレス(CIP)によって円筒形状の成形体を得た後に焼結を行ってターゲット材とする方法や、樹脂製の円筒形状をした遠心成形多孔質型に酸化物粉末を含むスラリーを注入し、型を高速回転させて遠心成形を行なった後に、得られた成形体を焼結してターゲット材を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−068072号公報
【特許文献2】特開2005−281862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される溶射法でターゲットを製作する方法は、容易に酸化物の円筒型ターゲット材を製造できるため有効な方法であるが、溶射法でターゲット層を形成する方法は、ターゲット層中に気泡を含みやすく、相対密度の低いものしか得られないという問題がある。また、溶射法は、支持体上に溶射膜を堆積させていく方法であるため、膜厚の厚いターゲット材を得ようとする場合には生産効率が悪いという課題もある。
また、特許文献2に開示されるCIP法で成形した成形体を用いて焼結する方法ではCIP装置などの高価な設備が必要になり、また、CIP法で得られる形状精度が悪いため、成形体の段階で旋盤による研削加工が必要になる場合がある。
【0005】
また、遠心成形法で成形体を得る方法は、遠心力により円筒形状の吸水型内壁全面にほぼ均等な厚さにスラリーを付着させ、更に遠心力を用いてスラリー中の水分を吸水型へ吸収させ水分濃度を下げることにより成形体を得る方法であり、形状精度の高い円筒形状の成形体を得るのに有効な方法である。しかし、十分な遠心力を得るために回転数を数百〜数千rpmと高速回転させる必要があるため、吸水型が高回転による遠心力で装置から脱落したり、吸水型のゆれにより装置が破損したりすることを回避するために、耐震対策や設備強度を高める必要があり設備コストが高くなるという問題がある。また遠心力を付与することによりスラリーに遠心分離作用が働き、板厚方向での成分偏在や粉末粒子径差による偏在が発生しやすいという課題を有する。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、安価な方法で高密度かつ均一な組織の円筒型の酸化物焼結ターゲット材を得ることが可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決する方法を種々検討した結果、酸化物粉末を含むスラリーを円筒形状の吸水型内で、吸水型の円筒内壁に沈降させながら、スラリーが吸水型の回転中に気泡を巻き込まない程度の低速で吸水型を回転させることにより、密度偏在のない円筒形状の酸化物成形体が得られること、得らえた酸化物成形体を焼結することにより、組織が均一で高密度のターゲット材が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、酸化物粉末を含むスラリーを円筒形状の吸水型に注入した後、前記吸水型の円筒内壁にスラリーを沈降させながら吸水型の中心線を回転軸心として回転速度30rpm以下で回転させことにより円筒形状の酸化物成形体を得、次いで前記酸化物成形体を焼結して円筒型酸化物焼結体を得る円筒型酸化物焼結ターゲット材の製造方法である。
本発明においては、前記吸水型の内径は400mm以下であることが好ましい。
また、本発明で適用するスラリーの濃度は、70%以上であることが好ましい。
また、本発明は、酸化物粉末として、亜鉛酸化物粉末とAl、B、Gaから選択される少なくとも1種以上の酸化物粉末との混合粉末を用いる場合に有効である。
また、本発明で適用する酸化物粉末は、平均粒子径2μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高密度かつ板圧方向で組織が均一な円筒型酸化物焼結ターゲット材を安価な方法で製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の最大の特徴は、円筒形状の吸水型に注入した酸化物粉末を含むスラリーを、吸水型の円筒内壁に沈降させながら、吸水型の中心線を回転軸として回転速度30rpm以下という低速で回転させることにより円筒形状の酸化物成形体を得る点にある。
ここで、吸水型に注入したスラリーは、吸水型の円筒内壁に沈降させる状態を保ちながら回転速度30rpm以下という低速で回転させることが重要である。酸化物粉末を含むスラリーは円筒形状の吸水型中で、スラリー中の水分が徐々に吸水型に吸水されることで吸水型の円筒内壁に沿って酸化物粉末が着肉し、円筒形状の酸化物成形体が形成される。そして、円筒形状の酸化物成形体を形成するためには、円筒形状の吸水型を回転させることにより、吸水型の円筒内壁に沿ってスラリーの膜を形成する必要があり、その際には吸水型中に含まれる気体をスラリー中に巻き込むことを抑制するため、吸水型の回転速度を低速とする必要がある。
【0011】
以下に本発明を詳しく説明する。
まず、図1に示すように、酸化物粉末を含むスラリー1を円筒形状の吸水型2に注入する。
ここで、酸化物粉末を含むスラリーとは、原料となる酸化物粉末に、バインダー(例えばアクリル酸エステル共重合物エマルジョン等)、分散剤(例えばポリカルボン酸型高分子界面活性剤等)、水を添加して混合したものである。なお、スラリーは酸化物粉末が均一に混合されたものが望ましいため、ボールミル等の混合機によって3時間以上混合したものを使用すると良い。また、円筒形状の吸水型は代表的には石膏であるが、吸水性を備える多孔質の材質であればどのようなものを使用してもよい。
【0012】
次いで、吸水型をその円筒内壁にスラリーを沈降させながら吸水型の中心線を回転軸心として回転速度30rpm以下で回転させて円筒形状の酸化物成形体を得る。
図2に示すように、吸水型1の円筒内壁にスラリー2を沈降させながら吸水型を中心線を回転軸心として回転させることにより、吸水型の円筒内壁の表面全体に沿ってスラリーの膜が形成され、スラリー膜中の水分が徐々に吸水型に吸水されることで酸化物粉末が着肉し、円筒形状の酸化物成形体3を得ることができる。この場合の回転数としては30rpm以下とする。それは、30rpmを超える回転数で吸水型を回転させると、回転中にスラリーが吸水型内で激しく攪拌されるため気泡を巻き込み、成形体内に気孔ができ易くなるため、成形体密度および、焼結後の焼結体の密度を低下させる場合があるためである。
【0013】
続いて、得られた円筒形状の酸化物成形体を焼結して円筒型酸化物焼結体を得る。
酸化物成形体の焼結方法としては、例えば、無加圧状態での減圧雰囲気焼結や雰囲気焼結(大気、窒素、アルゴン、水素など)、ホットプレス等の加圧焼結などが適用可能である。また、焼結体の相対密度をより向上させるために、無加圧状態での焼結後に、更に加圧焼結を行ってもよい。相対密度としては90%以上の焼結体が得られることが望ましい。
【0014】
また、本発明における吸水型は内径400mm以下であることが好ましい。それは、吸水型中のスラリーに掛かる遠心力は吸水型の内径に依存し、吸水型の回転速度を低速に保っても内径の大きな吸水型では、スラリーが気泡を巻き込む可能性が高くなるためである。
【0015】
また、本発明におけるスラリーの濃度は、吸水型中での流動性や得られる成形体の密度を向上させるために重要となる。スラリー濃度は、100×(酸化物粉末重量/(酸化物粉末重量+バインダー重量+分散剤重量+水重量))で規定した場合に70%以上であることが望ましい。それは、スラリー濃度70%未満のスラリーを使用すると、成形体の密度が低くなり、成形体の焼結の際に収縮が大きいため割れが発生しやすくなるためである。また、スラリー濃度は、70%以上であることが望ましいが、濃度が高すぎてもスラリーの流動性が低下して円筒形状の成形体を得がたいので、上限としては90%程度である。
【0016】
本発明の円筒型酸化物焼結ターゲット材の製造方法では、酸化物粉末として、亜鉛酸化物粉末とAl、B、Gaから選択される少なくとも1種以上の酸化物粉末との混合粉末に適用可能である。酸化亜鉛に添加元素としてAl、B、Gaが添加される酸化物焼結ターゲット材は、一般的に亜鉛酸化物粉末と上記添加元素の酸化物粉末を混合した粉末を使用して製造されるが、亜鉛酸化物粉末と添加元素の酸化物粉末とは比重が異なることから、本発明によって吸水型の回転の際に粉末間の偏在を抑制することが可能となるためである。
【0017】
また、本発明で使用される酸化物粉末は、平均粒子径2μm以下であることが好ましい。平均粒子径2μmを超える酸化物粉末を使用した場合には、成形体を焼結する際の焼結性が悪く、より高温で長時間の焼結が必要になり経済的でないためである。酸化物粉末の平均粒径は0.5μm以下であることがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明において、スラリーの吸水型への注入状態を模式的に示す図である。
【図2】本発明において、吸水型中での酸化物成形体が形成される状態を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1.スラリー、2.吸水型、3.酸化物成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物粉末を含むスラリーを円筒形状の吸水型に注入した後、前記吸水型の円筒内壁にスラリーを沈降させながら吸水型の中心線を回転軸心として回転速度30rpm以下で回転させことにより円筒形状の酸化物成形体を得、次いで前記酸化物成形体を焼結して円筒型酸化物焼結体を得ることを特徴とする円筒型酸化物焼結ターゲット材の製造方法。
【請求項2】
前記吸水型は、内径400mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の円筒型酸化物焼結ターゲット材の製造方法。
【請求項3】
前記スラリーの濃度は、70%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の円筒型酸化物焼結ターゲット材の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物粉末は、亜鉛酸化物粉末とAl、B、Gaから選択される少なくとも1種以上の酸化物粉末との混合粉末であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の円筒型酸化物焼結ターゲット材の製造方法。
【請求項5】
前記酸化物粉末は、平均粒子径2μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の円筒型酸化物焼結ターゲット材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−84176(P2010−84176A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253302(P2008−253302)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】