説明

円筒型Mo合金ターゲットの製造方法

【課題】 効率的に高い接合強度で長尺の一体型のターゲットを実現可能な円筒型Mo合金ターゲットの製造方法を提供する。
【解決手段】 Mo粉末とMo以外の高融点金属粉末とからなる複数の円筒型成形体を端面で接合する円筒型Mo合金ターゲットの製造方法であって、一方の円筒型成形体の接合端面を5〜85度のテーパー状に形成し、他方の円筒型成形体の接合端面を前記テーパー状の端面に対して補角となるすり鉢状に形成し、前記円筒型成形体を、前記接合端面同士が当接するように中空の円筒型充填空間を有する金属カプセルに挿入した後、減圧封止し、その後、熱間静水圧プレスを施し、一体型の焼結体を得る円筒型Mo合金ターゲットの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MoとMo以外の高融点金属とからなる円筒型Mo合金ターゲットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スパッタリングにおけるターゲット材の使用効率を向上させる方法として、円筒型、すなわち断面がリング状の筒型であるターゲットを使用したマグネトロン型回転スパッタリング法の使用が進んできている。この方式は円筒型ターゲットの内側に磁場発生装置を有しターゲットの内側から冷却しつつ、ターゲットを回転させながらスパッタを行うものであり、ターゲット表面が全面に亘ってエロージョンとなり均一にスパッタリングされるため、従来の平板状ターゲットを使用する方式に比べて格段に高い使用効率が得られることが知られている。
【0003】
また、現在、液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの配線・電極膜、タッチパネルの電極膜、太陽電池の裏面電極などにMo系の薄膜が利用されており、このようなMo系薄膜の形成に関しても、円筒型ターゲットを使用したスパッタリング法によって形成することが試みられている。
そして、このようなMo系の円筒型ターゲット材の製造方法としては、例えば、Mo粉末を圧縮成形後に焼結したビレットを加熱しながら押出し成形した長尺の円筒体とすることが提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−511757号公報
【特許文献2】特表2008−506852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1や特許文献2に開示されるMo系の円筒型ターゲットの製造方法は、溶解鋳造法による製造が困難な高融点金属のMoをベースとする組成で、粉末焼結法と押出し処理を組合せることで、効率的に円筒形状のターゲットが作製可能という点で大変有利な方法である。
一方で、配線・電極膜にMo系の薄膜を使用するにあたっては、耐食性の向上やエッチング性の観点からMoに対してTa、Nb、Cr、W、V等の高融点金属元素を添加したMo合金とすることが要求されている。そして、このようなMo合金の場合には、Moと高融点金属元素との合金相の形成により、塑性加工性が低下するため、押出し処理による加工が困難な合金組成が存在する。
また、平板形状の焼結体ターゲットとは異なり、円筒形状の焼結体ターゲットを作製する場合には、軸方向に長尺の円筒型ターゲットを原料粉末から一度の焼結で形状精度よく作製することが困難であるという問題もある。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、効率的に高い接合強度で長尺の一体型のターゲットを実現可能な円筒型Mo合金ターゲットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決する方法を種々検討した結果、複数の円筒型成形体を熱間静水圧プレスで接合すること、また、接合にあたっては円筒型成形体の接合端面をテーパー状とすり鉢状とし接合端面を当接させて熱間静水圧プレスを施すことで、効率的に高い接合強度で一体型の円筒型Mo合金ターゲットを製造できることを見いだし本発明に到達した。
すなわち本発明は、Mo粉末とMo以外の高融点金属粉末とからなる複数の円筒型成形体を端面で接合する円筒型Mo合金ターゲットの製造方法であって、一方の円筒型成形体の接合端面を5〜85度のテーパー状に形成し、他方の円筒型成形体の接合端面を前記テーパー状の端面に対して補角となるすり鉢状に形成し、前記円筒型成形体を、前記接合端面同士が当接するように中空の円筒型充填空間を有する金属カプセルに挿入した後、減圧封止し、その後、熱間静水圧プレスを施し、一体型の焼結体を得る円筒型Mo合金ターゲットの製造方法である。
【0008】
また、熱間静水圧プレスは円筒成形体の軸方向を重力方向として行うことが好ましい。
また、円筒型成形体は、中空の円筒型の金属カプセルに、Mo粉末とMo以外の高融点金属粉末との混合粉末を充填し、熱間静水圧プレスを施して得られる仮焼結体であることが好ましい。
また、一体型の焼結体を得る熱間静水圧プレスは、温度450〜1300℃、圧力30〜150MPaの条件で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、効率的に高い接合強度の一体型の円筒型Mo合金ターゲットを実現できる。これは、長尺の円筒型Mo合金ターゲットの製造に対して有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】円筒型成形体を金属カプセルに挿入した状態の断面模式図である。
【図2】円筒型成形体の斜視模式図である。
【図3】テーパー状の接合端面有する円筒型成形体の模式図である。
【図4】混合粉末を充填した金属カプセルの斜視模式図および断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述したように、本発明の重要な特徴は、効率的に高い接合強度で一体型の円筒型Mo合金ターゲットを製造するため、複数の円筒型成形体を熱間静水圧プレスで接合すること、接合にあたって円筒型成形体の接合端面をテーパー状とすり鉢状とし接合端面を当接させて熱間静水圧プレスを施すことを採用した点にある。
【0012】
本発明の円筒型Mo合金ターゲットの製造方法としては、まず、Mo粉末と高融点金属粉末からなる複数の円筒型成形体を準備する。そして、一方の円筒型成形体の接合端面を図2(a)に示すようにテーパー状に形成し、他方の円筒型成形体の接合端面を図2(b)に示すようにすり鉢状に形成する。さらに、上記のテーパー状の接合端面は、5〜85度の角度を有するテーパー状とする。なお、このテーパー状の角度は、図3に示すように円筒型成形体の軸方向に対する角度θとする。また、上記のすり鉢状の接合端面は、テーパー状の端面に対して補角となる角度で形成する。このように、一方の円筒型成形体の接合端面に5〜85度の角度のテーパーを形成し、他方の円筒型成形体の接合端面をテーパー状端面に対して補角(175〜95度)となるようにすり鉢状に形成して接合端面同士を当接させて金属カプセルに挿入することで、後の熱間静水圧プレス処理において格段に接合強度を向上させることができる。
【0013】
また、一方の円筒型成形体の接合端面をテーパー状、他方の円筒型成形体の接合端面をテーパー状の端面に対して補角となるすり鉢状とすることにより、金属カプセルに挿入する際に、複数の円筒型成形体において端面同士の位置ズレを抑制することが可能となり、熱間静水圧プレス後の一体型の焼結体において外側面と内側面での位置ズレが抑制され各側面が一直線に形成することが可能となる。このように外内側面での位置ズレの抑制が可能となることで、その後の機械加工の工数を低減できるという効果を得ることもできる。
【0014】
図1に示すように、上記で作製した複数の円筒型成形体をテーパー状の接合端面とすり鉢状の接合端面が当接するように中空の円筒型充填空間を有する金属カプセルに挿入する。円筒型成形体を挿入した金属カプセルは、減圧封止し、熱間静水圧プレスを施すことで、円筒型成形体を接合し一体型の焼結体を得る。
尚、図1では、テーパー状に加工した円筒型成形体を上にして、すり鉢状に加工した円筒型成形体を下にそれぞれ配置しているが、この位置関係は逆になっても構わない。
【0015】
本発明の円筒型Mo合金ターゲットの製造方法に適用する高融点金属とは、具体的には、Feよりも融点の高い金属元素、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Wが挙げられる。また、高融点金属粉末としては、1種でも、また2種類以上を含むものであってもよい。本発明はMoとの合金相等形成による塑性加工性の低下を補うものであり、適用する高融点金属の量に制限はない。例えば高融点金属は原子比で5〜95%の範囲で適用することができる。
MoとMo以外の高融点金属で形成されるMo合金ターゲットについては、高融点ゆえに既存の溶解設備での溶解や円筒形状への鋳造が困難である。また、粉末焼結法により作製したインゴット素材を押出し等の塑性加工によって円筒形状に加工することは、合金組成によっては拡散相や化合物相の形成により延性が低下する場合があるため困難である。さらに、ターゲット中で成分の不均一分布が発生する可能性もある。
そこで、MoとMo以外の高融点金属で形成されるMo合金ターゲットにおいては、特に一体型の円筒型ターゲットを実現する方法として本発明が有効である。
【0016】
また、熱間静水圧プレスは、円筒型成形体の軸方向を重力方向として行うことが望ましい。それは、金属カプセルを挿入した円筒型成形体の軸方向を重力方向となるように熱間静水圧プレス装置に戴置することで円筒型成形体の接合端面が成形体の自重を受けてより密着した状態で固相拡散接合が行え、より高い接合が得られるためである。
【0017】
また、Mo粉末とMo以外の高融点金属粉末とからなる円筒型成形体は、テーパー状およびすり鉢状の加工処理が可能で金属カプセルへの挿入にあたり形状を保持できる密度を有するものであれば利用可能である。
具体的には、円筒型成形体としては、Mo粉末とMo以外の高融点金属粉末とを混合した混合粉末を金型中で機械的にプレスして圧縮成形した成形体、あるいはこの成形体を減圧雰囲気中または水素含有雰囲気中で焼結した焼結体や、混合粉末を成形用モールド中や金属カプセルに充填してホットプレスや熱間静水圧プレスを施して得られる焼結体等が利用可能である。
【0018】
なお、円筒型成形体としては、相対密度60%以上の成形体であることが望ましい。それは、複数の円筒型成形体に熱間静水圧プレスを施す際に、円筒型成形体の焼結における収縮が過度に進む場合には、圧縮による寸法変形で焼結体に曲がり等の問題が発生する可能性が高まるためである。
【0019】
以上から、相対密度や寸法を制御した円筒型成形体を作製する上では、図4に示すように、中空の円筒型の金属カプセルに、Mo粉末とMo以外の高融点金属粉末とを混合した混合粉末を充填し、熱間静水圧プレスを施して得られる焼結体を円筒型成形体とすることが望ましい。なお、その際の熱間静水圧プレスとしては、十分な相対密度を有する円筒型成形体を得るために、温度600〜1300℃、圧力50〜150MPa、1〜10時間の条件で行うことが望ましい。
【0020】
また、複数の円筒型成形体を金属カプセルに挿入した後に行う熱間静水圧プレスは、温度450〜1300℃、圧力30〜150MPa、0.5〜5時間の範囲で行うことが望ましい。それは、450℃に満たない温度や30MPaに満たない圧力では接合強度が弱く十分な接合強度を得る事が出来ない為であり、1300℃を超える温度では一体型の焼結体の組織中で結晶粒の粗大化が促進され、ターゲットとしてスパッタリング成形する際に異常放電等の不具合が発生する可能性が高くなる為である。以上より、均一微細な結晶粒および十分な接合強度を有した円筒型Mo合金ターゲット材を得るという理由から、さらに好ましくは、熱間静水圧プレスの温度範囲は700〜1100℃である。
【0021】
なお、本発明における金属カプセルは図1のように金属カプセル自体を円筒状としたものでも良いし、中実な軸の周りに中空の円筒型充填空間を形成するものであっても良い。
図1のように、金属カプセル自体を円筒状とすれば、外周面と内周面から等方的に圧力が付加され、またカプセルの外周面と内周面とにおける変形抵抗に大きな差が生じないため、割れの発生を防止する上で好ましいものとなる。
本発明で適用できる金属カプセルは、内径が50〜300mm、外径が70〜500mm、長さが100〜4300mmの範囲のものが好ましく、金属カプセルの肉厚は3.0〜30.0mmの範囲のものが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
まず、Mo原料粉末(純度99.95%、平均粒径(d50)6μm)とTi原料粉末(純度99.9%、平均粒径(d50)30μm)とを原子比で50:50となるように秤量して混合した混合粉末を準備した。続いて、図4に示すような形状(内寸Φ220×Φ110×770mm)の軟鋼製の中空の金属カプセルに混合粉末を充填し、800℃、120MPa、5時間の条件で、金属カプセルの軸方向を重力方向として熱間静水圧プレス処理を施し、焼結体を2本作製した。この2本の焼結体をそれぞれ機械加工して、外径Φ170×内径Φ120×685mmの中空の円筒型成形体を得た。このとき、得られた2本の円筒型成形体の相対密度は、それぞれ100.8%であった。
次に、上記で得られた一方の円筒型成形体の接合端面には、図2(a)に示すようなテーパー状の加工を旋盤で行なった。また、他方の円筒型成形体の接合端面には、図2(b)に示すようなすり鉢状の加工を旋盤で行なった。なお、テーパー状の加工は円筒型成形体の軸方向に対して80度となるように形成し、すり鉢状の加工はテーパー状の端面に対して補角となるように100度に形成した。
【0023】
その後、図1に示すように、2本の加工した円筒型成形体を端面同士が当接するように、内寸Φ170.5×Φ119.5×1406mmの軟鋼製の中空の円筒型充填空間を有する金属カプセルに挿入し、上蓋体を溶接したのち減圧封止し、1000℃、120MPa、5時間の条件で、円筒型成形体の軸方向を重力方向として熱間静水圧プレス処理を施して一体型の焼結体を得た。得られた焼結体に機械加工して、外径Φ155×内径Φ130×1200mmの円筒型Mo合金ターゲットを得た。このとき、得られた円筒型Mo合金ターゲットの相対密度は、101.7%であった。
【0024】
上記で得られた円筒型Mo合金ターゲットは、機械加工中に割れや欠け等の欠陥を生じることなく加工が可能であったことから、十分な接合強度を有していたことが分かる。また、超音波探傷装置を使用して、作製した円筒型Mo合金ターゲットの全長を検査したところ、全長にわたって接合部と分かる判別可能な欠陥は識別されず、良好な接合が実現できたことを確認した。
【符号の説明】
【0025】
1 円筒型成形体
2 金属カプセル
3 上蓋体
4 下蓋体
5a 接合端面(テーパー状)
5b 接合端面(すり鉢状)
6 混合粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mo粉末とMo以外の高融点金属粉末とからなる複数の円筒型成形体を端面で接合する円筒型Mo合金ターゲットの製造方法であって、
一方の円筒型成形体の接合端面を5〜85度のテーパー状に形成し、他方の円筒型成形体の接合端面を前記テーパー状の端面に対して補角となるすり鉢状に形成し、前記円筒型成形体を、前記接合端面同士が当接するように中空の円筒型充填空間を有する金属カプセルに挿入した後、減圧封止し、その後、熱間静水圧プレスを施し、一体型の焼結体を得ることを特徴とする円筒型Mo合金ターゲットの製造方法。
【請求項2】
円筒型成形体の軸方向を重力方向として熱間静水圧プレスを行うことを特徴とする請求項1に記載の円筒型Mo合金ターゲットの製造方法。
【請求項3】
前記円筒型成形体は、中空の円筒型の金属カプセルに、Mo粉末とMo以外の高融点金属粉末との混合粉末を充填し、熱間静水圧プレスを施して得られる焼結体であることを特徴とする請求項1または2に記載の円筒型Mo合金ターゲットの製造方法。
【請求項4】
一体型の焼結体を得る前記熱間静水圧プレスは、温度450〜1300℃、圧力30〜150MPaの条件で行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の円筒型Mo合金ターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−225985(P2011−225985A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74126(P2011−74126)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】