説明

円錐ころ軸受用の合成樹脂製保持器及び円錐ころ軸受

【課題】剥離等の現象を避けながら、潤滑性能の向上を図れるようにした円錐ころ軸受用の合成樹脂製保持器とその保持器を使用した円錐ころ軸受を提供する。
【解決手段】合成樹脂製保持器14は、複数の柱部15のころ案内面19に、潤滑油溜り用の穴部20を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両、鉄鋼機械、工作機械、建設機械等の一般産業機械や自動車のトランスミッション等に使用される円錐ころ軸受用の合成樹脂製保持器及びその合成樹脂製保持器を使用した円錐ころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、円錐ころ軸受は、円錐状の軌道面を有する外輪と、円錐状の軌道面を有し、該軌道面の小径側に小鍔部、大径側に大鍔部を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の円錐ころと、円錐ころを円周方向に所定間隔で案内保持する保持器と、を備えている。
【0003】
この場合の保持器としては、従来から広く使用されている金属製保持器と、近年使用されるようになってきた合成樹脂製保持器とが知られている。
【0004】
図6は金属製保持器と合成樹脂製保持器の違いを説明するための部分拡大断面図で、(a)は金属製保持器、(b)は合成樹脂製保持器を示している。
【0005】
図6(a)に示す金属製保持器101は、冷間圧延鋼板あるいは熱間圧延鋼板をプレス成形して製作されたものであり、(b)に示す合成樹脂製保持器102に比べて強度が高いという長所があり、ころ105の径Dに対しての保持器101の板厚を薄くすることができる。また、保持器101の板厚を薄くできることから、ころ105が樹脂製保持器102に比べて、内外輪の軌道面(図示略)に向けて多く露出することになり、そのために、樹脂製保持器102と比較した場合、ころ105が潤滑剤と接しやすくなって、潤滑性に優れるようになるという長所もある。
【0006】
しかし、その反面、高速高負荷等の厳しい使用条件においては、金属製の保持器101と、ころ105との衝突による振動・騒音の発生や、保持器101の摩耗等の不具合が発生しやすい。特に保持器101と、ころ105の衝突が顕著に発生した場合には、保持器101から発生した金属摩耗粉が潤滑油に混入するため、潤滑油が劣化してしまい、軸受の性能が損なわれるおそれがある。
【0007】
一方、合成樹脂製保持器102は、軽量性に優れ、削り出し加工や射出成形などによって、複雑な形状であっても寸法精度に優れた製品を量産できる上、摩耗粉の発生がなく、摩耗粉に起因する不具合も発生しない等の長所がある。
【0008】
図7は合成樹脂製保持器の例を示し、(a)は全体構成を示す斜視図、(b)は内周側から見た部分斜視図、(c)は潤滑油の流れを説明するための図である。この合成樹脂製保持器102は、ころ105が収納されるポケット102aを画成する複数の柱部102bと、柱部102bを繋ぐ両端の小径及び大径環状部102c、102dとを具備している。柱部102bは、ころ105の母線に沿った方向に延びている。
【0009】
ところで、この種の合成樹脂製保持器102は、上述の長所を持っている反面、金属製保持器101に比べた場合、強度が劣るという短所があり、そのため、金属製保持器101に比べて板厚が厚くなってしまい、その結果、図6に示すように、ころ105が保持器102に包み込まれるような構造になり、保持器102に覆われたころ105の面まで潤滑剤が入り込みにくいという問題がある。
【0010】
このような合成樹脂製保持器の問題点に対し、潤滑性を向上させるために、図8に示すように、保持器112の柱部113の内輪側の面(ころ案内面)113aに軸方向に長い潤滑溝114を設け、潤滑溝114に潤滑油が溜まるようにして、ころ105や軌道面への潤滑量を多くするようにした技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】米国特許第4425011号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の技術のように、保持器112の柱部113の内輪側の面113aに軸方向に長い潤滑溝114を設けると、潤滑溝114の幅方向の両端の溝縁部114aの肉厚が薄くなってしまうため、該溝縁部114aの強度低下は免れない。そして、その部分が内輪軌道面と接触して剥離する可能性があり、剥離した保持器の破片は内外輪の軌道面やころの転動面などを著しく劣化させる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、剥離等の現象を避けながら、潤滑性能の向上を図れるようにした円錐ころ軸受用の合成樹脂製保持器とその保持器を使用した円錐ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 円周方向に所定の間隔で設けられる複数の柱部と、該複数の柱部の一端同士及び他端同士をそれぞれ繋ぐ小径及び大径環状部と、を有し、前記柱部及び前記小径及び大径環状部とで円錐ころが収納されるポケットを画成する円錐ころ軸受用の合成樹脂製保持器であって、
前記複数の柱部のころ案内面には、少なくとも一つの潤滑油溜り用の穴部が設けられることを特徴とする円錐ころ軸受用の合成樹脂製保持器。
(2) 円錐状の軌道面を有する外輪と、円錐状の軌道面を有し、該軌道面の小径側に小鍔部、大径側に大鍔部を有する内輪と、前記外輪の軌道面と前記内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の円錐ころと、該円錐ころを円周方向に所定間隔で案内保持する保持器と、を備え、前記保持器は、(1)に記載の合成樹脂製保持器が用いられることを特徴とする円錐ころ軸受。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、柱部のころ案内面に潤滑油溜り用の穴部を設けたので、穴部に一時的に潤滑油を蓄えておくことができ、内外輪の軌道面や円錐ころの転動面に対する潤滑油の供給量を増やすことができる。そのため、潤滑性能の向上と共に油膜形成も良好に行われるようになり、耐摩耗性や耐焼付性を高めることができて、ころがり寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の各実施形態に係る円錐ころ軸受用合成樹脂製保持器及び円錐ころ軸受について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1に示す円錐ころ軸受10は、円錐状の軌道面11aを有し、該軌道面11aの大径側に大鍔部11b、小径側に小鍔部11cを有する内輪11と、円錐状の軌道面12aを有する外輪12と、外輪12の軌道面12aと内輪11の軌道面11aとの間に転動自在に配された複数の円錐ころ13と、これら円錐ころ13を円周方向に所定間隔で案内保持する保持器14と、を備えている。
【0017】
この場合の保持器14は、合成樹脂製で一体に成形されたもので、図2に示すように、円周方向に所定の間隔で設けられる複数の柱部15と、該複数の柱部15の一端同士及び他端同士をそれぞれ繋ぐ小径及び大径環状部16,17と、を有し、柱部15及び小径及び大径環状部16,17とで円錐ころ13(図1参照)が収納されるポケット18を画成する。
【0018】
そして、ポケット18に収納される円錐ころ13を案内する各柱部15の円周方向側面であるころ案内面19には、少なくとも一つの潤滑油溜り用の穴部20が形成されている。穴部20は、図3に示すように、ころ案内面19の径方向中間部に柱部15の長手方向に沿って形成されており、また、穴部20の途中から大径環状部側に向けて徐々に径方向幅を小さくするように先細り形状に形成されている。ここで、保持器強度を考慮し、穴部20の径方向最大幅w1は、ころ案内面19の径方向幅wの20%未満に設定されている。
【0019】
このように柱部15のころ案内面19に潤滑油溜り用の穴部20を設けた場合、穴部20に一時的に潤滑油を蓄えておくことができ、内外輪11、12の軌道面11a、12aや円錐ころ13の転動面に対する潤滑油の供給量を増やすことができる。そのため、潤滑性の向上と共に油膜形成も良好に行われるようになり、耐摩耗性や耐焼付性を高めることができて、ころがり寿命を延ばすことができる。また、図4に示すように、穴部20に蓄えられた潤滑油は、これら軌道面や転動面だけでなく、小径環状部16の側面にも行き渡り易くなる。
【0020】
また、その穴部20は、柱部15のころ案内面19に形成されるので、従来の潤滑溝の溝縁部のような肉薄の部分を生じさせることが一切なく、従って柱部が剥離するような問題も起こらない。
【0021】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0022】
例えば、穴部20の形状は、上述の例に限られることなく、種々選択可能である。例えば、図5に示す保持器14aのように、柱部15のころ案内面19に、穴部20は小径環状部近傍から大径環状部近傍まで柱部15の長手方向に沿って一様の径方向幅で長方形状に形成されてもよい。
【0023】
また、穴部20の形状、径方向幅、軸方向長さ、深さは、必要とされる潤滑油量や攪拌抵抗等に応じて適宜設計されるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の合成樹脂製保持器を用いた円錐ころ軸受の断面図である。
【図2】同実施形態の合成樹脂製保持器の構成図で、(a)は全体斜視図、(b)はII部拡大図である。
【図3】同保持器の穴部を示す要部拡大図である。
【図4】同実施形態の潤滑油の流れを示す図である。
【図5】本発明の合成樹脂製保持器の変形例を示す図である。
【図6】従来の金属製保持器と合成樹脂製保持器の違いを説明するための部分拡大断面図であり、(a)は金属製保持器、(b)は合成樹脂製保持器を示す図である。
【図7】従来の合成樹脂製保持器の例を示す図で、(a)は全体構成を示す斜視図、(b)は内周側(VII方向)から見た部分斜視図、(c)は従来の保持器の潤滑油の流れを示す図である。
【図8】従来の他の合成樹脂製保持器の要部構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
10 円錐ころ軸受
11 内輪
11a 軌道面
11b 大鍔部
11c 小鍔部
12 外輪
12a 軌道面
13 円錐ころ
14、14a 合成樹脂製保持器
15 柱部
18 ポケット
19 ころ案内面
20 穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に所定の間隔で設けられる複数の柱部と、該複数の柱部の一端同士及び他端同士をそれぞれ繋ぐ小径及び大径環状部と、を有し、前記柱部及び前記小径及び大径環状部とで円錐ころが収納されるポケットを画成する円錐ころ軸受用の合成樹脂製保持器であって、
前記複数の柱部のころ案内面には、少なくとも一つの潤滑油溜り用の穴部が設けられることを特徴とする円錐ころ軸受用の合成樹脂製保持器。
【請求項2】
円錐状の軌道面を有する外輪と、円錐状の軌道面を有し、該軌道面の小径側に小鍔部、大径側に大鍔部を有する内輪と、前記外輪の軌道面と前記内輪の軌道面との間に転動自在に配された複数の円錐ころと、該円錐ころを円周方向に所定間隔で案内保持する保持器と、を備え、前記保持器は、請求項1に記載の合成樹脂製保持器が用いられることを特徴とする円錐ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−191940(P2009−191940A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33091(P2008−33091)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】