説明

凸版反転オフセット印刷用印刷版及びその製造方法、並びに表示装置及び表示装置用基板の製造方法

【課題】
凹部の深さを増すことなく中抜けを確実に防止することができる凸版反転オフセット印刷用印刷版及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
凸版反転オフセット印刷に使用される印刷版10であって、親インキ性の母材10aの表面に形成された凹部13a、13c及び凸部14と、凹部13a、13cの内面を覆う撥インキ層12a、12cとを備えている。凹部13a、13cの平面形状は、所望の印刷パターンが得られるように形成されている。凸部14には、凸版反転オフセット印刷の際にインキ皮膜21の対応する部分(転写部21a)が転写可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版及びその製造方法、並びに表示装置及び表示装置用基板の製造方法に関する。さらに言えば、凹部の内面を撥インキ層で覆ってなる凸版反転オフセット印刷用の印刷版及びその製造方法と、その印刷版を用いて微細パターンを含む液晶表示装置、有機EL(Electroluminescence)表示装置、プラズマ表示装置等の表示装置の製造方法と、それら表示装置に使用される表示装置用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高解像度の表示装置(ディスプレイ)として液晶表示装置が広く用いられている。液晶表示装置は、薄膜トランジスタ(Thin-Film Transistor, TFT)等のスイッチング素子が形成された基板(以下、TFT基板という)と、カラーフィルタやブラックマトリックスが形成された基板(以下、カラーフィルタ基板という)と、TFT基板及びカラーフィルタ基板の間に挟持された液晶層とを備えており、TFT基板及びカラーフィルタ基板にそれぞれ形成された画素電極と対向(共通)電極の間、あるいはTFT基板に形成された画素電極と対向(共通)電極の間に電界を印加して液晶層中の液晶分子の配向方向を変化させることにより、画素ごとに光の透過量を制御して所望の画像を表示する装置である。
【0003】
TFT基板やカラーフィルタ基板上に形成された上記電極やこれら電極の電気的接続を行うための配線は、微細な形状にパターン化されている。これに対し、カラーフィルタやブラックマトリックスは、比較的大きな形状にパターン化されている。また、両基板には、当該基板の全面を覆う絶縁膜も形成されている。
【0004】
TFT基板やカラーフィルタ基板の製造工程において上記電極等を形成する際には、従来、フォトリソグラフィ法及びエッチング法が使用されているが、これは上記電極等の形成に高い寸法精度と形状精度が要求されるためである。しかし、最近、液晶表示装置の製造コストをよりいっそう低減するために、工程が複雑で高価な装置を必要とするフォトリソグラフィ法及びエッチング法に代えて、印刷法を使用することが提案されている。この提案は、上記電極等を以前から知られている印刷技術を使用して形成する、というものである。
【0005】
例えば、特許文献1(特許第2612492号公報)には、平版オフセット印刷によるカラーフィルタ基板の製造方法が開示されている。この方法について、図12を参照しながら説明する。
【0006】
この方法で使用される印刷版100は、図12(a)に示すように、母材100aの一面にインキとの親和性(親インキ性)が高い親インキ層101が形成されており、その親インキ層101の上には、撥インキ性が高い撥インキ層102が形成されている。この撥インキ層102は、カラーフィルタの画素に対応する形状にパターン化されており、複数の透孔102aを有している。親インキ層101は、これら透孔102aを介して露出している。
【0007】
以上の構成を持つ印刷版100を用いてカラーフィルタ基板を製造する際には、まず、印刷版100の表面にカラーフィルタの画素となる所定色のインキを塗布する。このインキは、通常、合成樹脂中に所定の着色剤を配合して生成される。すると、このインキは、撥インキ層102上でははじかれてしまい、撥インキ層102上には残らない。他方、撥インキ層102の透孔102aの内部にあるインキは、親インキ層101と接触するため、透孔102aの内部にそのまま残る。その結果、印刷版100の表面には、図12(a)に示す形状(パターン)のインキ皮膜121が形成される。
【0008】
次に、ブランケット胴(図示せず)の外周面に巻き付けられたブランケット131を、インキ皮膜121が形成された印刷版100の表面上に押し付けながら転動させる。すると、図12(b)に示すように、印刷版100の各透孔102a内にあるインキ皮膜121は、ブランケット131の表面に転写され、転写部121aとなる。こうして、印刷版100上にあるパターン化されたインキ皮膜121の全体がブランケット131の表面に転写される。
【0009】
その後、インキ皮膜121の転写部121aが表面に形成されたブランケット131を、パターン化された遮光膜(ブラックマトリックス)が形成されたカラーフィルタ基板用ガラス板(図示せず)の表面に転動させ、ブランケット131上のインキ皮膜121の転写部121aを同ガラス板上に転写する。その結果、ブランケット131上の転写部121aは、遮光膜の各画素に対応する箇所に印刷される。この時、同ガラス板上に印刷された転写部121aの表面には微細な凹凸が存在する。
【0010】
最後に、同ガラス板の表面に印刷された転写部121a上にブランケット131を押圧しながら転動させ、その表面を平坦化する。こうして、同ガラス板へのインキ皮膜121の印刷が完了する。
【0011】
以上の工程をカラーフィルタに必要な各色について繰り返せば、表面に所望色(例えば、R、G、B3色)の印刷パターンが形成されたカラーフィルタ基板が得られる。
【0012】
特許文献2(特開平10−213706号公報)には、凹版オフセット印刷によるカラーフィルタ基板の製造方法が開示されている。この方法について、図13を参照しながら説明する。
【0013】
この方法で使用される印刷版110は、図13(a)に示すように、母材110aの一面に、カラーフィルタの画素に対応する形状にパターン化された凹部110bが複数個形成されている。各凹部110bは、その内面全体が離型剤層112で覆われていて、インキ皮膜が離脱しやすいようにしてある。離型剤層112は、シリコーンオイルを用いた生成された離型剤を塗布することにより形成されている。
【0014】
以上の構成を持つ印刷版110を用いてカラーフィルタ基板を製造する際には、まず、スキージ122を用いて、印刷版110の表面の凹部110bの内部にカラーフィルタの画素となる所定色のインキを選択的に充填する。その結果、凹部110bの内部にそれぞれインキ皮膜121が形成される。印刷版110の表面、すなわち凹部110b以外の箇所には、インキ皮膜は存在しない。インキ皮膜121は所定形状(パターン)を持つ。
【0015】
次に、ブランケット胴(図示せず)の外周面に巻き付けられたブランケット131を、印刷版110の表面上に押し付けながら転動させる。すると、図13(b)に示すように、印刷版110の各凹部110b内にあるインキ皮膜121は、ブランケット131の表面に転写され、転写部121aとなる。こうして、印刷版110の表面上にあるパターン化されたインキ皮膜121の全体がブランケット131の表面に転写される。
【0016】
各凹部110bの内面には離型剤層112が塗布されているため、凹部110b内に充填されているインキ皮膜121は容易に凹部110bから離脱し、その結果、インキ皮膜121のすべてがブランケット131に転写される。
【0017】
その後、表面にインキ皮膜121の転写部121aを有するブランケット131を、パターン化された遮光膜(ブラックマトリックス)が形成されたカラーフィルタ用ガラス板(図示せず)の表面に押し付けながら転動させ、ブランケット131上のインキ皮膜121を同ガラス板上に転写する。その結果、ブランケット131上のインキ皮膜121は、遮光膜の画素に対応する箇所に印刷される。こうして、同ガラス板へのインキ皮膜121の印刷が完了する。
【0018】
以上の工程をカラーフィルタに必要な各色について繰り返せば、表面に所望色(例えば、R、G、B3色)の印刷パターンが形成されたカラーフィルタ基板が得られる。
【0019】
特許文献3(特許第3730002号公報)には、凸版反転オフセット印刷法が開示されている。この印刷法について、図14を参照しながら説明する。
【0020】
この方法で使用される印刷版120は、図14に示すように、親インキ性の母材120aの一面に凹部123と凸部124が形成されている。凸部124は、凹部123がカラーフィルタの画素に対応する形状となるようにパターン化されている。
【0021】
以上の構成を持つ印刷版120を用いてカラーフィルタ基板を製造する際には、まず、コーター133を用いて、転写胴132の外周面に巻き付けられたブランケット131の表面全体に、カラーフィルタの画素となる所定色のインキを塗布する。この時、ブランケット131の表面には、均一なインキ皮膜121が形成される。
【0022】
次に、定盤150上に設置された印刷版120の表面にブランケット131を押し付けながら転動させる。すると、ブランケット131の表面に形成されたインキ皮膜121の一部が、印刷版120の親インキ性の凸部124に選択的に転写され、転写部121aとなる。他方、ブランケット131の表面には、インキ皮膜121の非転写部121bが残存する。
【0023】
続いて、定盤150上に載置されたカラーフィルタ基板用ガラス板160の表面に、インキ皮膜121の非転写部121bが残存しているブランケット131を押し付けながら転動させる。すると、ブランケット131の表面にあるインキ皮膜121の非転写部121bが、ガラス板160の表面に転写される。こうして、ガラス板160の表面に、非転写部121bからなる印刷パターン151が形成される。この時、ブランケット131の表面にはインキ皮膜121は残存しない。
【0024】
以上の工程をカラーフィルタに必要な各色について繰り返せば、表面に所望色(例えば、R、G、B3色)の印刷パターンが形成されたカラーフィルタ基板が得られる。
【0025】
特許文献4(特開平2005−310405号公報)には、凸版反転オフセット印刷法に用いられる除去板(印刷版)が開示されている。この除去板(印刷版)は、図14の印刷版120の凸部121aの上表面がドライ処理されていて、その面における水の接触角が25度以下とされている。ドライ処理としては、サンドブラスト処理またはエッチング処理が挙げられている。
【0026】
凸部121aの上表面における水の接触角が25度以下とすることにより、凸部121aに対するインキの濡れ性が向上し、その結果、ブランケット131から印刷版120へインキ皮膜121を転写する際に、精細な転写が可能となる、とされている。
【特許文献1】特許第2612492号公報(請求項1〜2、第1図〜第3図)
【特許文献2】特開平10−213706号公報(請求項3、段落0023〜0033)
【特許文献3】特許第3730002号公報(請求項1〜6、段落0007〜0020、図1〜図5)
【特許文献4】特開平2005−310405号公報(請求項1〜3、図1〜図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
上述した特許文献1に開示されたカラーフィルタ基板の製造方法(図12を参照)では、印刷版100に形成されたインキ皮膜121をブランケット131に100%転写できないため、TFT基板等の製造に必要とされる微細なパターンを形成することが難しい、という難点がある。また、カラーフィルタ用ガラス板上に印刷されたインキ皮膜121の表面を平坦化する工程が必要であるため、タクトタイムが長くなり量産性に欠ける、という難点もある。
【0028】
上述した特許文献2に開示されたカラーフィルタ基板の製造方法(図13を参照)では、印刷版110の凹部110bの形状によってその離型性が変化するため、TFT基板のような種々のパターンの形成を必要とする場合には適用が困難である、という問題がある。また、凹部110bの内部に充填されたインキ皮膜121をブランケット131に転写する際に、インキ皮膜121の形状や寸法が再現性よく転写されない、という問題もある。
【0029】
上述した特許文献3に開示された凸版反転オフセット印刷法(図14を参照)では、フォトリソグラフィ法と同等の微細パターンを形成することができ、また、印刷パターン141の表面の平坦化工程も不要である、という利点がある。しかし、この印刷法では、インキ皮膜121の非転写部121bの面積が大きくなると、それに伴って印刷版120の凹部123の面積も大きくなることから、印刷版120の表面にブランケット131を押し付けながら転動させる際に、凹部123の内面(特にその内底面)にインキ皮膜121やブランケット131が接触してしまうことがある。すると、ブランケット131上のインキ皮膜121が、凸部124だけでなく凹部123にも転写されてしまうため、本来は非転写部121bとなって印刷パターン151の一部となるべきインキ皮膜121の一部が、カラーフィルタ用ガラス板140の表面に転写されないことになる。その結果、印刷パターン151中のインキ皮膜121の存在すべき箇所に、インキ皮膜121が存在しない状態が生じてしまう。このような現象は「中抜け」と呼ばれている。この状況を図15及び図16に示す。
【0030】
インキ皮膜121により形成される所望の印刷パターン151が、図15に示すように、二つのパターン要素151a及び151bから形成されているとすると、中抜けが生じた場合、その印刷パターン151は、図16に示す印刷パターン151’のようになる。図16から明らかなように、印刷パターン151’の一方のパターン要素151aは所望の平面形状を有しているが、他方のパターン要素151b’は中央部分に中抜け部分152が生じており、所望の平面形状とは異なっている。このようなパターン要素151b’が生じる現象を「中抜け」と言うのである。
【0031】
「中抜け」を防止するためには、凹部123の深さを増して、ブランケット131上のインキ皮膜121が凹部123に転写されないようにすることが考えられる。しかし、そうすると、印刷版120の母材120aとしてはガラスが使用されるのが通常であり、また、母材120aの表面をウェットエッチング法により選択的にエッチング除去して凹部123を形成するのが一般的であるので、印刷パターン141の隣接する要素(印刷パターン要素)の間隔が狭い箇所では、当該要素を所望の精度で形成することができない、という問題が生じる。
【0032】
また、凹部123の深さを増した場合、それだけ印刷版120の母材120aのウェットエッチング工程に要する時間が長くなるから、凹部123の寸法精度が劣化しやすい、という問題も生じる。
【0033】
したがって、特許文献3に開示された凸版反転オフセット印刷法は、カラーフィルタ基板よりも微細な印刷パターンを高精度で形成することが必要なTFT基板の製造には、適用することができないものである。
【0034】
上述した特許文献4に開示された除去板(印刷版)においても、インキ皮膜121の非転写部121bの面積が大きくなる(印刷版120の凹部123の面積が大きくなる)と、「中抜け」が生じるから、この除去板(印刷版)を用いて実施される凸版反転オフセット印刷法においても、特許文献3の凸版反転オフセット印刷法と同じ問題があることが明らかである。
【0035】
本発明は上記従来技術のこのような点を考慮してなされたものであって、その目的とするところは、凹部の深さを増すことなく「中抜け」を確実に防止することができる凸版反転オフセット印刷用印刷版と、その製造方法を提供することにある。
【0036】
本発明の他の目的は、TFT基板のように「中抜け」が生じやすいと共に、微細な印刷パターンを高精度で形成することが必要な表示装置用基板を製造することができる表示装置用基板の製造方法を提供することにある。
【0037】
本発明のさらに他の目的は、TFT基板のように「中抜け」が生じやすいと共に、微細な印刷パターンを高精度で形成することが必要な表示装置用基板を含む表示装置を製造することができる、表示装置の製造方法を提供することにある。
【0038】
ここに明記しない本発明の他の目的は、以下の説明及び添付図面から明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0039】
(1) 本発明の第1の観点による印刷版は、
凸版反転オフセット印刷に使用される印刷版であって、
母材の表面に形成された凹部及び凸部と、
前記凹部の内面を覆う撥インキ層とを備え、
前記凹部の平面形状は、所望の印刷パターンが得られるように形成されており、
前記凸部は、凸版反転オフセット印刷の際にインキ皮膜の対応する部分が転写可能とされていることを特徴とするものである。
【0040】
(2) 本発明の第1の観点による印刷版では、上述したように、母材の表面に凹部及び凸部が形成されており、前記凹部の内面が撥インキ層で覆われている。そして、前記凹部の平面形状は、所望の印刷パターンが得られるように形成されている。前記凸部は、凸版反転オフセット印刷の際にインキ皮膜の対応する部分(インキ皮膜の前記凸部に重なる部分)が転写可能とされている。このため、凸版反転オフセット印刷においてインキ皮膜を当該印刷版に押し付けて、前記インキ皮膜の前記凸部に重なる部分(転写部分)を前記凸部に選択的に転写させる際に、前記インキ皮膜の前記凹部に重なる部分(非転写部分)がその内面に接触しても、前記撥インキ層によってはじかれるから、前記非転写部分が前記凹部に転写されることがない。
【0041】
したがって、所望の印刷パターン中のインキ皮膜が存在すべき箇所に、前記インキ皮膜の対応する部分が存在しない状態、すなわち「中抜け」という現象が生じない。また、前記凹部の内面が前記撥インキ層で覆われているため、前記凹部の深さが小さい場合でも、前記非転写部分の転写が防止される。よって、前記凹部の深さを増すことなく「中抜け」を確実に防止することができる。
【0042】
(3) 本発明の第1の観点による印刷版の好ましい例では、前記凹部の深さが2μm〜0.05μmの範囲に設定される。この場合、前記凹部の深さは1μm〜0.05μmの範囲に設定であるのがより好ましい。この例では、微細な印刷パターンを高い精度と高いフレキシビリティをもって形成することができる利点がある。前記凹部の深さの下限を0.05μmとしているのは、必要な前記撥インキ層の最小厚さを考慮したものである。すなわち、前記凹部の深さを0.05μmより小さくすると、内面が前記撥インキ層で覆われた前記凹部が、前記凸部より突出してしまう可能性があるからである。
【0043】
本発明の第1の観点による印刷版の他の好ましい例では、前記母材が親インキ性であって、その母材が前記凸部において露出せしめられる。この例では、印刷版の構造が簡単になる、という利点がある。
【0044】
本発明の第1の観点による印刷版のさらに他の好ましい例では、前記凸部が金属膜で覆われる。前記母材はガラスにより形成されるのが通常であり、その場合、前記凸部はガラスにより形成されるが、金属膜はガラスより親インキ性が一般的に高いため、金属膜で覆うことにより前記凸部の親インキ性が向上する。このため、前記凸部と前記凹部における撥インキ性の差が拡大する。よって、この例では、前記凸部を金属膜で覆わずに前記母材を露出させた場合に比べて、インキ皮膜の転写精度が向上する、という利点が得られる。
【0045】
本発明の第1の観点による印刷版のさらに他の好ましい例では、前記凸部の表面が粗面化される。この例では、粗面化により前記凸部の親インキ性が高まるため、粗面化しない場合に比べて、インキ皮膜の転写精度が向上する、という利点が得られる。
【0046】
本発明の第1の観点による印刷版のさらに他の好ましい例では、前記撥インキ層が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂またはジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂により形成される。この例では、前記撥インキ層を容易に形成することができる、という利点がある。
【0047】
本発明の第1の観点による印刷版のさらに他の好ましい例では、前記撥インキ層の表面エネルギーが18dyn/cm以下とされる。この場合、前記凸部の表面エネルギーは50dyn/cm以上であるのが好ましい。この例では、本発明の効果が顕著に得られるという利点がある。
【0048】
(4) 本発明の第2の観点による印刷版の製造方法は、
凸版反転オフセット印刷に使用される印刷版の製造方法であって、
母材の表面に第1マスクを形成する工程と、
前記第1マスクを用いて前記母材を選択的に除去することにより、前記母材に凹部を形成する工程と、
前記凹部が形成された前記母材の表面に、前記第1マスクの上から直接または第2マスクを介在させて撥インキ層を形成する工程と、
前記第1マスクまたは前記第2マスクを除去することにより前記撥インキ層を選択的に除去し、もって前記撥インキ層の残存部分によって前記凹部の内面を覆う工程とを備え、
前記凹部の平面形状は、所望の印刷パターンが得られるように形成されることを特徴とするものである。
【0049】
(5) 本発明の第2の観点による印刷版の製造方法によれば、(1)で述べた本発明の第1の観点による凸版反転オフセット印刷用の印刷版が得られることが明らかである。
【0050】
(6) 本発明の第2の観点による印刷版の製造方法の好ましい例では、前記撥インキ層が、前記凹部が形成された前記母材の表面に、前記第2マスクを使用せずに直接形成され、前記第1マスクを除去することにより前記撥インキ層が除去される。この場合、前記凸部において前記母材が露出する。
【0051】
本発明の第2の観点による印刷版の製造方法の他の好ましい例では、前記撥インキ層が、前記凹部が形成された前記母材の表面に、前記第2マスクを介在させて形成され、前記第2マスクを除去することにより前記撥インキ層が除去される。この場合、前記凸部が前記第1マスクで覆われる。前記第1マスクは金属膜から形成されているのが好ましい。前記母材はガラスにより形成されるのが通常であり、その場合、前記凸部はガラスにより形成されるが、金属膜はガラスより親インキ性が一般的に高いため、金属膜で覆うことにより前記凸部の親インキ性が向上するからである。
【0052】
本発明の第2の観点による印刷版の製造方法のさらに他の好ましい例では、前記マスクを前記母材の表面に形成する前に、前記母材の表面を粗面化処理する工程が実行される。
【0053】
(7) 本発明の第3の観点による表示装置用基板の製造方法は、上記(1)で述べた本発明の第1の観点による印刷版を用いた凸版反転オフセット印刷法により、表示装置用部材上に所望の印刷パターンを形成することを特徴とするものである。
【0054】
(8) 本発明の第3の観点による表示装置用基板の製造方法では、上記(1)で述べた本発明の第1の観点による印刷版を用いた凸版反転オフセット印刷法により、表示装置用部材上に所望の印刷パターンを形成するので、TFT基板のように、「中抜け」が生じやすいと共に微細な印刷パターンを高精度で形成することが必要な表示装置用基板を、「中抜け」を生じることなく製造することができる。
【0055】
(9) 本発明の第3の観点による表示装置用基板の製造方法の好ましい例では、前記撥インキ層の表面エネルギーEREPと、前記凸部の表面エネルギーEPROTと、印刷に使用されるインキの表面エネルギーEINKとが、EREP<EINK<EPROTの関係を満たすように設定される。この場合、EREP≦18dyn/cm、20dyn/cm≦EINK≦24dyn/cm、EPROT≧50dyn/cmに設定されるのがより好ましい。
【0056】
本発明の第3の観点による表示装置用基板の製造方法の他の好ましい例では、前記撥インキ層の表面エネルギーEREPと、前記凸部の表面エネルギーEPROTと、印刷に使用されるインキの表面エネルギーEINKと、印刷に使用されるブランケットの表面エネルギーEBLANKETとが、EREP<EINK≦EBLANKET<EPROTの関係を満たすように設定される。この場合、EREP≦18dyn/cm、20dyn/cm≦EINK≦24dyn/cm、18dyn/cm≦EBLANKET≦30dyn/cm、EPROT≧50dyn/cmに設定されるのがより好ましい。
【0057】
本発明の第3の観点による表示装置用基板の製造方法のさらに他の好ましい例では、前記撥インキ層の表面エネルギーEREPと、前記凸部の表面エネルギーEPROTと、印刷に使用されるインキの表面エネルギーEINKと、印刷パターンが形成される部材の表面エネルギーEPLATEとが、EREP<EINK≦EBLANKET<EPLATEの関係を満たすように設定される。この場合、EREP≦18dyn/cm、20dyn/cm≦EINK≦24dyn/cm、18dyn/cm≦EBLANKET≦30dyn/cmに設定されるのがより好ましい。
【0058】
本発明の第3の観点による表示装置用基板の製造方法の好ましい例では、レジスト材を含むインキを用いた凸版反転オフセット印刷により、前記表示装置用部材上にパターン化されたマスクが形成される。
【0059】
本発明の第3の観点による表示装置用基板の製造方法の他の好ましい例では、導電性微粉を含むインキを用いた凸版反転オフセット印刷により、前記表示装置用部材上にパターン化された導電膜が形成される。
【0060】
本発明の第3の観点による表示装置用基板の製造方法のさらに他の好ましい例では、絶縁性樹脂を含むインキを用いた凸版反転オフセット印刷により、前記表示装置用部材上にパターン化された導電膜が形成される。
【0061】
(10) 本発明の第4の観点による表示装置の製造方法は、上記(1)で述べた本発明の第1の観点による印刷版を用いた凸版反転オフセット印刷法により、表示装置用基板上に所望の印刷パターンを形成する工程を含むことを特徴とするものである。
【0062】
(11) 本発明の第4の観点による表示装置の製造方法では、上記(1)で述べた本発明の第1の観点による印刷版を用いた凸版反転オフセット印刷法により、表示装置用基板上に所望の印刷パターンを形成する工程を含むので、TFT基板のように「中抜け」が生じやすいと共に、微細な印刷パターンを高精度で形成することが必要な表示装置用基板を製造することができる。そこで、こうして製造された表示装置用基板を用いれば、「中抜け」を生じることなく表示装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0063】
本発明の第1の観点による印刷版では、凸版反転オフセット印刷において、凹部の深さを増すことなく「中抜け」を確実に防止することができる。
【0064】
本発明の第2の観点による印刷版の製造方法では、凹部の深さを増すことなく「中抜け」を確実に防止することができる凸版反転オフセット印刷用の印刷版を製造することができる。
【0065】
本発明の第3の観点による表示装置用基板の製造方法では、TFT基板のように、「中抜け」が生じやすいと共に微細な印刷パターンを高精度で形成することが必要な表示装置用基板を、「中抜け」を生じることなく製造することができる。
【0066】
本発明の第4の観点による表示装置の製造方法では、「中抜け」が生じやすいと共に微細な印刷パターンを高精度で形成することが必要な表示装置用基板(例えばTFT基板)を含む表示装置を、「中抜け」を生じることなく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0068】
(第1実施形態の印刷版の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る凸版反転オフセット印刷用印刷版10の構成を示す概略部分断面図である。
【0069】
図1に示すように、印刷版10は、板状の母材10aの表面に窪み11a及び11bを有しており、窪み11aと11bの内面には、撥インキ層12aと12bがそれぞれ形成されている。このため、窪み11aと11bの内面の全体が、撥インキ層12aと12bによってそれぞれ覆われている。その結果、印刷版10の表面には、窪み11aと11b及び撥インキ層12aと12bでそれぞれ画定された凹部13aと13bが形成されている。印刷版10の凹部13a及び13b以外の箇所、すなわち凸部14では、母材10aがそのまま露出している。
【0070】
実際には、印刷版10には、窪み11aと11b以外にも同様の窪みが存在しており、それら窪みの内面にも撥インキ層がそれぞれ形成されている。窪み11a及び11bと図示しない窪み、そして撥インキ層12a及び12bと図示しない撥インキ層は、所望の印刷パターンが得られるように形成されている。しかし、図示及び説明を簡単にするために、ここでは二つの凹部13a及び13bと撥インキ層12a及び12bのみを示している。
【0071】
印刷版10の母材10aは、平坦性に優れると共に、印刷に使用されるインキに対して親インキ性を持つ材料で形成される。例えば、ソーダライム、無アルカリガラス、石英などが母材10aとして使用可能であるが、優れた平坦性と高い親インキ性を持つ石英ガラスを使用するのが好ましい。
【0072】
撥インキ層12aと12b用の材料(撥インキ材)は、印刷に使用されるインキに対して撥インキ性を持っていれば、任意の材料を使用できるが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、ジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂を使用するのが好ましい。
【0073】
本発明の第1実施形態に係る印刷版10は、以上のような構成を有しているから、印刷版10の母材10aがそのまま露出する凸部14は、印刷に使用されるインキに対して親インキ性であり、撥インキ層12aで覆われている凹部13aの内面と、撥インキ層12bで覆われている凹部13bの内面は、印刷に使用されるインキに対して撥インキ性である。したがって、印刷に使用されるインキよりなる皮膜(インキ皮膜)(図示せず)を印刷版10の表面に接触させた時に、当該インキ皮膜の凸部14に接触する部分は母材10a上に転写されるが、当該インキ皮膜の凹部13aと凹部13b(撥インキ層12aと12b)に対応する部分は、印刷版10に接触しないため、転写されない。
【0074】
仮に、当該インキ皮膜が、凹部13aと凹部13bの内部に押し込まれて(入り込んで)撥インキ層12aと12bに接触せしめられても、撥インキ層12aと12bによってはじかれてしまうから、当該インキ皮膜が凹部13aと凹部13bに転写されて「中抜け」の原因となることはない。
【0075】
この点を図2を参照しながら具体的に説明する。図2は、印刷版10を用いて凸版反転オフセット印刷を行う場合において印刷版10へのインキ皮膜の転写状況を示す概略部分断面図である。
【0076】
図2の印刷版10の構成は、図1のそれとほぼ同じであるが、凹部の構成が少し異なっている。すなわち、図2の左側の凹部13aは、図1の左側の凹部13aと同じ構成であり、インキ皮膜やブランケットが凹部13aの底面には接触しない大きさである。これに対し、図2の右側の凹部13cは、図1の右側の凹部13bとは異なり、凹部13a及び13bよりも面積がかなり大きくなっていて、インキ皮膜やブランケットが凹部13cの底面に接触し得る大きさである。凹部13cの内面全体は、凹部13a及び13bと同様に、撥インキ層12cで覆われている。撥インキ層12cは、撥インキ層12a及び12bと同じ材料から形成されている。
【0077】
まず、図2(a)に示すように、円筒形のブランケット31の外周面に形成されたインキ皮膜21を、印刷版10の表面に押し付けながら転動させることにより、ブランケット31の最下縁が凹部13aに重なる位置に達すると、インキ皮膜21の凸部14に接触する部分は凸部14上に転写される。これは凸部14が親インキ性だからである。しかし、インキ皮膜21の凹部13a上に位置する部分は転写されない。これは、インキ皮膜21(ブランケット31)の曲率半径に比べて凹部13aの面積が十分小さいために、インキ皮膜21が凹部13aの内側に入り込まないからである。この部分は、インキ皮膜21のこの部分は、非転写部21bとなってブランケット31上に残る(図2(b)を参照)。
【0078】
次に、図2(b)に示すように、ブランケット31の最下縁が凹部13cに重なる位置に達すると、凹部13aと13cの間の領域においてインキ皮膜21の凸部14に接触する部分は、凸部14上に転写される。しかし、インキ皮膜21の凹部13c上に位置する部分は、凹部13cの内部に入り込んでその内面に接触するにもかかわらず転写されない。これは、凹部13cの内面全体が撥インキ層12cで覆われているからである。その結果、図2(c)に示すように、インキ皮膜21の凹部13c上に位置する部分は、非転写部21cとなってブランケット31上に残ることになる。
【0079】
以上説明したところから明らかなように、本発明の第1実施形態に係る印刷版10では、インキ皮膜21やブランケット31が内面に接触し得る面積と深さを持つ凹部13cを印刷版10が含んでいても、その凹部13cの深さを増すことなく「中抜け」を確実に防止することができる。よって、ブランケット31上に残ったインキ皮膜21によって、所望の印刷パターンを確実に得ることができる。
【0080】
(第1実施形態の印刷版の製造方法)
次に、図3〜図4を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る印刷版10の製造方法について説明する。図3〜図4は、印刷版10の製造方法を工程毎に示す概略部分断面図である。
【0081】
最初に、板状の母材10aの表面に、公知の方法でクロム(Cr)膜41を形成する。この工程には、例えば蒸着法、スパッタ法などを使用することができる。
【0082】
次に、Cr膜41の上にレジスト膜42を形成してから、公知の方法でレジスト膜42のパターニングを行う。レジスト膜42の形成は、スピンコート法、スリットコート法、ロールコート法、スプレー法など、均一なレジスト膜42が得られるものであれば、任意の方法を使用して行うことができる。また、レジスト膜42のパターニングには、フォトリソグラフィ法、電子ビームリソグラフィ法、レーザ直描法などを使用可能である。その結果、レジスト膜42には透孔42aと42bが形成される。この時の状態は、図3(a)に示すようになる。透孔42aと42bの平面形状は、所望の印刷パターンに応じて決まり、例えば矩形、帯状といった形に設定される。
【0083】
次に、こうしてパターン化されたレジスト膜42をマスク(第1マスク)として、Cr膜41を選択的にエッチングすると、図3(b)に示すように、Cr膜41に窓41Aaと41Abが形成される。Cr膜41のエッチングには、ウェットエッチング法を使用するのが好ましい。こうして、パターン化されたCr膜41Aが得られる。このCr膜41Aは、母材10aをエッチングする際のマスクとして使用される。Cr膜41Aに形成された窓41Aaと41Abは、それぞれ、レジスト膜42の透孔42aと42bの直下に位置している。Cr膜41のエッチング終了後、レジスト膜42を除去する。
【0084】
その後、パターン化されたCr膜41Aを用いて、母材10aの表面を選択的にエッチングし、図3(c)に示すように、母材10aの表面に所定深さの窪み11aと11bを形成する。母材10aのエッチングには、ウェットエッチング法を使用するのが好ましい。窪み11aと11bの平面形状は、それぞれ、透孔42aと42bの平面形状とほぼ同じである。
【0085】
次に、パターン化されたCr膜41Aの上から、窪み11aと11bを有する母材10aの表面に撥インキ層12を形成する。すると、図4(a)に示すように、Cr膜41Aの表面と、窪み11a及び11bの内面(内底面と内側面)と、窪み11aと11bの側に露出しているCr膜41Aの端面とが、撥インキ層12で覆われる。
【0086】
撥インキ層12は、例えば、PTFEからなるフッ素樹脂、ジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂などを適当な溶剤に溶解させておき、それを塗布、噴霧等の方法で、マスク41Aの上から覆った後、乾燥させることにより、容易に形成することができる。
【0087】
撥インキ層12に使用する撥インキ材としては、撥インキ材の乾燥後の表面エネルギー(すなわち撥インキ層12の表面エネルギー)EREPが、印刷に使用するインキの表面エネルギーEINKよりも小さくなるもの、すなわちEREP<EINKの関係を満たすものを使用するのが好ましい。EREP<EINKの関係を満たしていれば、インキ皮膜の転写防止に有効な撥インキ性(機能)が得られるからである。
【0088】
凸部14の表面エネルギーEPROTは、印刷に使用されるインキの表面エネルギーEINKよりも大きいことが必要である。したがって、EREP<EINK<EPROTの関係を満たすことになる。
【0089】
また、撥インキ材の乾燥後の表面エネルギー(撥インキ層12の表面エネルギー)EREPが18dyn/cm以下、すなわち、EREP≦18dyn/cmの関係を満たす撥インキ材を使用するのが、より好ましい。これは、撥インキ材がEREP≦18dyn/cmの関係を満たしていれば、TFT基板やカラーフィルタ基板の製造に使用される各種インキとの間でEREP<EINKの関係を満たすことができるため、TFT基板やカラーフィルタ基板の製造工程においてインキ皮膜の転写防止に有効な撥インキ性が容易に得られるからである。
【0090】
具体例を挙げると、住友スリーエム株式会社製の撥インキ材「Novec EGC−1720」が好適に使用できる。この場合、乾燥後の表面エネルギーEREPが13dyn/cmとなり、撥インキ層12として優れた撥インキ性(機能)を果たすことが判明している。
【0091】
最後に、図4(a)の状態にあるCr膜41Aを除去する(剥がす)と、撥インキ層12のCr膜41Aの上にある部分はCr膜41Aと一緒に除去され、撥インキ層12の窪み11aと11bの内部にある部分12aと12bのみがそのまま残る。このため、図4(b)に示すように、母材10aの窪み11aと11bの内面のみがそれぞれ撥インキ層12aと12bによって選択的に覆われ、窪み11aと11b以外の箇所すなわち凸部14では、親インキ性の母材10aがそのまま露出する。また、この時、印刷版10の表面には、撥インキ層12で覆われた窪み11aと11bによって凹部13aと13bが形成されている。こうして、本発明の第1実施形態に係る印刷版10が得られる。
【0092】
(第1実施形態の表示装置用基板の製造方法)
次に、本発明の第1実施形態に係る印刷版10を用いた凸版反転オフセット印刷法によって、表示装置用基板を製造する方法について、図5を参照しながら説明する。図5は、表示装置用基板の例としてTFT基板を製造する方法を示す概念図である。
【0093】
図5に示すように、印刷版10は、ステージ15の上に上向きに設置されている。したがって、印刷版10の面積の小さい凹部13a、13b及び面積の大きい凹部13cと、凹部13a、13b及び13c以外の領域に形成されている凸部14は、いずれも上方に向いている。
【0094】
TFT基板用透明絶縁板(例えばガラス板)40は、ステージ15の上に印刷版10から所定の間隔をあけて固定されている。透明絶縁板40のTFT等が形成される面(表面)は、上向きとされている。TFT基板用透明絶縁板40は、剛性を持つ板でもよいし、可撓性を持つフィルムでもよい。
【0095】
ブランケット31が巻き付けられている転写胴32は、ステージ15に沿って水平方向に移動可能である。ステージ15の外部には、コーター33が設けられている。
【0096】
図5には、ここで使用される凸版反転オフセット印刷機の転写胴32とブランケット31とコーター33のみが描かれている。これは、当該印刷機の転写胴32とブランケット31とコーター33のみが本発明に関係するからである。当該印刷機の構成は公知であるから、転写胴32とブランケット31を含めて当該印刷機の詳細な構成に関する説明は省略する。
【0097】
最初に、転写胴32の外周面に巻き付けられているブランケット31の表面に、コーター33を用いて印刷用インキを塗布する。その結果、ブランケット31の表面に所定厚さのインキ皮膜21が形成される。インキ皮膜21は、ブランケット31の表面全体に形成されてもよいし、一部に形成されてもよい。ブランケット31の表面にインキ皮膜21を形成する方法は任意であり、均一の厚さでインキ皮膜21を形成することができるものであればよく、コーター33で塗布する方法に限定されない。例えば、スピンコート法などを用いてもよい。
【0098】
ブランケット31の材料(ブランケット材)としては、表面エネルギーの低いものが好ましい。具体的に言えば、ブランケット材の表面エネルギーをEBLANKETとすると、
18dyn/cm≦EBLANKET≦30dyn/cmの関係を満たすブランケット材が好ましい。さらに、18dyn/cm≦EBLANKET≦24dyn/cmの関係を満たすブランケット材がより好ましい。
【0099】
他方、印刷用インキは、その表面エネルギーEINKが、
20dyn/cm≦EINK≦24dyn/cmの関係を満たすものを使用するのが好ましい。この範囲内で、ブランケット31ではじかれることがなく、所望のインキ皮膜21がブランケット31上に形成されるように調整する。
【0100】
撥インキ層12a、12b及び12cの表面エネルギーEREPは、
REP≦18dyn/cmであるのが好ましい。母材10a(凸部14)の表面エネルギーEPROTは、EPROT≧50dyn/cmであるのが好ましい。
【0101】
ここでは、円筒形の転写胴32を使用しているが、本発明はこれに限定されるものではない。円筒形以外の形状、例えば平板形の転写胴であってもよい。
【0102】
次に、ステージ15上に設置された印刷版10の表面にブランケット31のインキ皮膜21を押し付けながら転動させる。すると、インキ皮膜21の印刷版10の凸部14に押し付けられた部分は、選択的に凸部14に転写され、転写部21aとなる。これは、凸部14の親インキ性の方が、ブランケット31のそれよりも高いからである。他方、インキ皮膜21の印刷版10の凹部13a、13b、13cに対応する部分は、転写されず、非転写部21bとなってブランケット31上に残存する。これは、その部分が凹部13a、13b、13cの存在のために印刷版10に押し付けられないか、あるいは、押し付けられたとしても、凹部13a、13b、13cの内面の撥インキ層12a、12b、12cによってはじかれるからである。なお、ブランケット31上に残存した非転写部21bは、全体で、所望の印刷パターン50を形成するものである。
【0103】
続いて、ステージ15上に載置されたTFT基板用透明絶縁板40(表示装置用部材)の表面に、ブランケット31上のインキ皮膜21の非転写部21bを押し付けながら転動させる。この時、印刷版10上を転動する際のスタート位置と、TFT基板用透明絶縁板40上を転動する際のスタート位置とを整合させる。すると、ブランケット31上の非転写部21bは、透明絶縁板40の表面に転写される。これは、透明絶縁板40の親インキ性の方が、ブランケット31のそれよりも高いからである。こうして、透明絶縁板40の表面に、非転写部21bからなる印刷パターン50が形成される。
【0104】
ブランケット31の表面エネルギーEBLANKETは、透明絶縁板40の表面エネルギーEPLATEよりも小さくする、すなわち、EBLANKET<EPLATEの関係を満たすようにする。これは、透明絶縁板40の親インキ性をブランケット31のそれよりも高くして、ブランケット31上の非転写部21bが透明絶縁板40の表面に転写されるようにするためである。
【0105】
ブランケット31の表面エネルギーEBLANKETが、透明絶縁板40の表面エネルギーEPLATEよりも大きい場合、すなわちEBLANKET>EPLATEとなる場合は、透明絶縁板40の表面をヘキサメチルジシラザン(HMDS)で洗浄する等の処理により、透明絶縁板40の表面を親インキ性に変えておく必要がある。
【0106】
本発明の第1実施形態に係る凸版反転オフセット印刷法を用いたTFT基板の製造方法において、使用される材料の表面エネルギーの関係をまとめると、以下のようになる。
【0107】
ブランケット31上でのインキ皮膜21の形成からインキ皮膜21の印刷版10への転写までの工程では、次の(a)〜(c)の条件(不等式(1))を満たす必要がある。
【0108】
(a)印刷版10の凹部13a、13b、13cの表面エネルギー(撥インキ層12a、12b、12cの表面エネルギー)EREPは、インキの表面エネルギーEINKよりも小さい。
【0109】
(b)インキの表面エネルギーEINKは、ブランケット31の表面エネルギーEBLANKETに等しいか、それより小さい。
【0110】
(c)ブランケット31の表面エネルギーEBLANKETは、印刷版10の凸部14の表面エネルギー(母材10aの表面エネルギー)EPROTよりも小さい。
【0111】
(a)〜(c)の関係を不等式で表すと、
REP<EINK≦EBLANKET<EPROT (1)
となる。
【0112】
また、ブランケット31上のインキ皮膜21の非転写部21bを透明絶縁板40に転写する工程では、次の(d)〜(f)の条件(不等式(2))を満たす必要がある。
【0113】
(d)印刷版10の凹部13a、13b、13cの表面エネルギー(撥インキ層12a、12bの表面エネルギー)EREPは、インキの表面エネルギーEINKよりも小さい。
【0114】
(e)インキの表面エネルギーEINKは、ブランケット31の表面エネルギーEBLANKETに等しいか、それより小さい。
【0115】
(f)ブランケット31の表面エネルギーEBLANKETは、透明絶縁板40の表面エネルギーEPLATEよりも小さい。
【0116】
(d)〜(f)の関係を不等式で表すと、
REP<EINK≦EBLANKET<EPLATE (2)
となる。
【0117】
上記のような工程は、TFT基板の製造工程においてパターン化されたレジスト膜を形成する際に使用できる。この場合、インキとしては、液状としたレジスト材が使用される。そうすると、所望パターンを持つレジスト膜が一回の印刷工程で得られるので、レジスト膜の形成とその露光、現像、洗浄といった複雑な工程を必要とするフォトリソグラフィ法に比べて、プロセスが簡略化される。
【0118】
また、上記工程は、TFT基板の製造工程で使用されるTFT、画素電極、絶縁層等の形成にも使用可能である。具体的に言えば、金属で形成されるTFTのゲート電極やドレイン電極(ゲート配線、ドレイン配線も含む)については、例えば、粒子径をナノメータ(nm)オーダーとした金属微粉を分散させてなるインキを使用する。金属微粉の粒子径は、例えば、1〜60nmの範囲に設定するのが好ましく、5nm程度の粒子径がより好ましい。
【0119】
透明導電材で形成される画素電極については、例えば、粒子径をnmオーダーとしたITO(インジウム錫酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)等の透明金属微粉を分散させてなるインキを使用する。透明金属微粉の粒子径は、例えば、1〜60nmの範囲に設定するのが好ましく、5nm程度の粒子径がより好ましい。
【0120】
絶縁層については、例えば、適当な溶剤にアクリル樹脂等の絶縁性樹脂を溶解させてなるインキを使用する。
【0121】
これらの場合、所望パターンを持つTFTのゲート電極やドレイン電極、画素電極等が一回の印刷工程で得られるので、レジスト膜の形成、露光、現像、洗浄といった工程を必要とするフォトリソグラフィ法と、導電膜や絶縁膜を選択的に除去するエッチング法とを組み合わせた場合に比べて、プロセスが大幅に簡略化される。
【0122】
以上説明したように、本発明の第1実施形態に係る表示装置用基板の製造方法では、フォトリソグラフィ法と同等の微細パターンを形成することができる凸版反転オフセット印刷法を用いるので、微細な印刷パターンを高精度で形成することができる。また、上記の構成を持つ印刷版10を用いるため、「中抜け」を防止することができる。したがって、TFT基板のように、「中抜け」が生じやすいと共に微細な印刷パターンを高精度で形成することが必要な表示装置用基板を、「中抜け」を生じることなく確実に製造することができる。
【0123】
また、印刷版10の凸部14に対する凹部13a、13b、13cの深さを大きくしなくても「中抜け」が生じないので、その深さをいっそう小さくすることができる。そこで、凸部14の表面に対する凹部13a、13b、13cの深さDを2μm〜0.05μmの範囲(0.05μm≦D≦2μm)に設定するのが好ましく、1μm〜0.05μmの範囲(0.05μm≦D≦1μm)に設定するのがより好ましい。このように凹部13a、13b、13cの深さDを小さくすると、印刷版10の母材10aをエッチングして凹部13a、13b、13cを形成する工程において、エッチングの寸法精度と形状精度が向上する、印刷版10の各部寸法及び形状の設計自由度が増す、といった効果が得られる。結果として、微細な印刷パターンを高い精度と高いフレキシビリティをもって形成することができることになる。
【0124】
なお、凹部13a、13b、13cの深さDの下限を0.05μmとするのは、必要な撥インキ層12a、12b、12cの最小厚さを考慮したものである。すなわち、凹部13a、13b、13cの深さを0.05μmより小さくすると、内面が撥インキ層12a、12b、12cで覆われた凹部13a、13b、13cが、凸部13a、13b、13cより突出してしまう可能性があるからである。
【0125】
図6は、印刷版10の凹凸高さ(μm)すなわち、母材10a(凸部14)の表面に対する凹部13a、13b、13cの深さx(μm)(図1の深さDに相当する)と、その凹凸深さで印刷可能な印刷線幅y(μm)との関係を示すグラフである。図6において、領域1と領域2を区分する境界は、y=17.8x1.37で表される曲線である。
【0126】
領域2は、上記曲線より左側の領域で、上述した従来技術の印刷版では印刷することができず、不良となってしまう範囲を示す。本発明の印刷版10によれば、領域2に属する場合であっても「中抜け」を生じることなく印刷が可能となることが判明している。
【0127】
なお、上述した第1実施形態の印刷版10では、凹部13aと13bが撥インキ性とされ、凸部14が親インキ性とされているが、本発明はこれに限定されない。印刷に使用されるインキに対する凹部13a、13b及び13c(撥インキ層12a、12b及び12c)の撥インキ性が、凸部14の撥インキ性よりも高くなっていて、印刷版10に接触せしめられたインキ皮膜が、凸部14には転写されるが、凹部13a、13b及び13c(撥インキ層12a、12b及び12c)には転写されないようになっていれば足りる。
【0128】
また、上記説明では、母材10aに窪み11aと11bを形成する際のマスクとしてCr膜41が使用されているが、本発明はこれに限定されないことは言うまでもない。このようなマスクとして使用できるものであれば、Cr以外の任意の膜を使用してもよい。
【0129】
(第2実施形態)
図8(b)は、本発明の第2実施形態に係る凸版反転オフセット印刷用印刷版10Aの構成を示す概略部分断面図である。
【0130】
第2実施形態に係る印刷版10Aは、図8(b)に示すように、板状の母材10aの表面の窪み11a及び11b以外の箇所、すなわち凸部14の表面が、パターン化されたCr膜41Aで覆われている点を除き、上述した第1実施形態に係る印刷版10と同じ構成である。よって、図8(b)において、第1実施形態に係る印刷版10と同一の要素についてはそれと同一符号を付して、その説明を省略する。
【0131】
印刷版10Aは、母材10aの凸部14の表面がパターン化されたCr膜41Aで覆われているため、母材10aの親インキ性の表面が露出していない。しかし、Cr膜41Aは親インキ性であると共にその親インキ性はガラスより高いため、第1実施形態に係る印刷版10と同様に、窪み11a及び11b(撥インキ層12a及び12b)が撥インキ性、凸部14が親インキ性になっている。したがって、第1実施形態に係る印刷版10と同様の効果が得られる。なお、Cr膜41Aの親インキ性はガラスより高いため、第1実施形態に係る印刷版10よりも、凸部14(Cr膜41A)にインキ皮膜が転写されやすい、という効果がある。
【0132】
また、Cr膜41Aは、ガラスよりも洗浄性が優れているため、常に50〜60dyn/cm以上の表面エネルギーを保つことができる。したがって、母材10aの凸部14の表面が露出している第1実施形態の印刷版10に比べて、繰り返し使用に対する耐久性が高い、という利点がある。
【0133】
次に、図7〜図8を参照しながら、第2実施形態に係る印刷版10Aの製造方法について説明する。図7〜図8は、その印刷版10Aの製造方法を工程毎に示す概略部分断面図である。
【0134】
最初に、板状の母材10aの表面に、第1実施形態と同様にしてCr膜41を形成する。
【0135】
次に、Cr膜41の上にレジスト膜42を形成してから、第1実施形態と同様にしてレジスト膜42のパターニングを行う。その結果、レジスト膜42には透孔42aと42bが形成される。この時の状態は、図7(a)に示すようになる。
【0136】
ここで挙げたCr膜41は例示であり、Cr膜41に代えてCr以外の金属膜を使用してもよいことは言うまでもない。
【0137】
次に、こうしてパターン化されたレジスト膜42をマスク(第2マスク)として、第1実施形態と同様にしてCr膜41を選択的にエッチングすると、図7(b)に示すように、Cr膜41に窓41Aaと41Abが形成される。こうして、パターン化されたCr膜41A(第1マスク)が得られる。Cr膜41Aに形成された窓41Aaと41Abは、それぞれ、レジスト膜42の透孔42aと42bの直下に位置している。
【0138】
続いて、レジスト膜42を残したままで、第1実施形態と同様にして、Cr膜41Aを用いて母材10aの表面を選択的にエッチングし、図7(c)に示すように、母材10aの表面に所定深さの窪み11aと11bを形成する。窪み11aと11bの平面形状は、それぞれ、透孔42aと42bの平面形状(例えば矩形)とほぼ同じである。
【0139】
次に、レジスト膜42及びCr膜41Aを残したままで、第1実施形態と同様にして、窪み11aと11bを有する母材10aの表面に撥インキ層12を形成する。その結果、図8(a)に示すように、レジスト膜42の表面と、窪み11a及び11bの内面(内底面と内側面)と、窪み11aと11bの側に露出しているレジスト膜42及びCr膜41Aの端面とが、撥インキ層12で覆われる。なお、撥インキ層12は、第1実施形態で用いたものと同じ撥インキ材を用いて形成する。したがって、撥インキ層12の表面エネルギーEREPは、印刷に使用するインキの表面エネルギーEINKよりも小さい、すなわち
REP<EINKの関係を満たしている。
【0140】
最後に、図8(a)の状態にあるレジスト膜42を引き剥がすと、撥インキ層12のレジスト膜42上にある部分はレジスト膜42と一緒に除去され、撥インキ層12の窪み11aと11bの内部にある部分12aと12bのみがそのまま残る。このため、図8(b)に示すように、母材10aの窪み11aと11bの内面のみがそれぞれ撥インキ層12aと12bによって選択的に覆われる。
【0141】
他方、母材10aの窪み11aと11b以外の箇所、すなわち凸部14では、その表面がCr膜41Aによって覆われた状態が保持される。したがって、第2実施形態の印刷版10Aでは、凸部14の親インキ性は、母材10aではなくCr膜41Aによって付与されることになる。
【0142】
以上のような工程を経て、本発明の第2実施形態に係る印刷版10Aが得られる。
【0143】
上述したように、第2実施形態に係る印刷版10Aでは、第1実施形態とは異なり、凸部14の親インキ性がCr膜41Aによって付与されているので、第2実施形態の印刷版10Aの母材10aは親インキ性でなくてもよい。したがって、第1実施形態の印刷版10と同じ効果に加えて、母材10aとして使用される材料の選択範囲が広がる、という効果がある。
【0144】
なお、第2実施形態の印刷版10Aを用いた表示装置用基板の製造方法は、第1実施形態の印刷版10を用いたものと同じであるから、その説明は省略する。
【0145】
(第3実施形態)
図11は、本発明の第3実施形態に係る凸版反転オフセット印刷用印刷版10Bの構成を示す概略部分断面図である。
【0146】
第3実施形態に係る印刷版10Bは、図11に示すように、板状の母材10aの平坦な表面10aaの窪み11a及び11b以外の箇所、すなわち凸部14の表面10aaに、微細な凹凸が付与されて粗面化されている点を除き、上述した第1実施形態に係る印刷版10と同じ構成である。よって、図11において、第1実施形態に係る印刷版10と同一の要素についてはそれと同一符号を付して、その説明を省略する。
【0147】
印刷版10Bでは、凸部14における母材10aの表面10aaが粗面化されているため、粗面化されていない第1実施形態の印刷版10よりも凸部14の親インキ性が高められている。したがって、第1実施形態に係る印刷版10よりも、凸部14にインキ皮膜が転写されやすい、という効果がある。
【0148】
次に、図9〜図11を参照しながら、本発明の第3実施形態に係る印刷版10Bの製造方法について説明する。図9〜図11は、その印刷版10Bの製造方法を工程毎に示す概略部分断面図である。
【0149】
最初に、図9(a)に示すように、板状の母材10aの平坦な表面10aaに、ウェットエッチング法、ドライエッチング法、あるいはサンドブラスト法などによって微細な凹凸を付与し、表面10aaの全体を粗面化する。この微細凹凸は、所望の印刷パターン50よりも小さくするのが好ましく、例えば、凸部の頂と凹部の底との距離を500nm以下とするのが好ましい。
【0150】
その後の工程は、第1実施形態と同様である。すなわち、母材10aの粗面化された表面10aaにCr膜41を形成してから、その上にレジスト膜42を形成し、そのレジスト膜42のパターニングを行う。こうして、図9(b)に示すように、レジスト膜42に透孔42aと42bが形成される。次に、こうしてパターン化されたレジスト膜42をマスクとして、Cr膜41を選択的にエッチングし、図9(c)に示すように、Cr膜41に窓41Aaと41Abを形成する。その後、レジスト膜42を除去すると、図10(a)に示す状態になる。
【0151】
続いて、パターン化されたCr膜41Aを用いて、母材10aの表面10aaを選択的にエッチングし、図10(b)に示すように、母材10aの表面10aaに所定深さの窪み11aと11bを形成する。
【0152】
次に、Cr膜41Aを残したままで、窪み11aと11bを有する母材10aに撥インキ層12を形成する。その結果、図10(c)に示すように、Cr膜41Aの表面と、窪み11a及び11bの内面(内底面と内側面)と、窪み11aと11bの側に露出しているCr膜41Aの端面とが、撥インキ層12で覆われる。
【0153】
最後に、図10(c)の状態にあるCr膜41Aを除去する(引き剥がす)と、撥インキ層12のCr膜41A上にある部分はCr膜41Aと一緒に除去され、撥インキ層12の窪み11aと11bの内部にある部分12aと12bのみがそのまま残る。このため、図11に示すように、母材10aの窪み11aと11bの内面のみがそれぞれ撥インキ層12aと12bによって選択的に覆われ、窪み11aと11b以外の箇所(凸部14)では親インキ性の母材10aの粗面化した表面10aaがそのまま露出した構成となる。こうして、本発明の第3実施形態に係る印刷版10Bが得られる。
【0154】
なお、第3実施形態の印刷版10Bを用いた表示装置用基板の製造方法は、第1実施形態のる印刷版10を用いたものと同じであるから、その説明は省略する。
【0155】
(変形例)
上述した第1〜第3の実施形態は本発明を具体化した例を示すものである。したがって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を外れることなく種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【0156】
例えば、上記第1実施形態では、凸版反転オフセット印刷法によってTFT基板を製造する方法について述べているが、カラーフィルタ基板を製造する場合にも適用が可能である。また、TFT基板やカラーフィルタ基板以外の他の表示装置用基板を製造する場合にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明の第1実施形態に係る凸版反転オフセット印刷用印刷版の構成を示す概略部分断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る印刷版を用いて凸版反転オフセット印刷を行う場合において、印刷版へのインキ皮膜の転写状況を示す概略部分断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る印刷版の製造方法を工程毎に示す概略部分断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る印刷版の製造方法を工程毎に示す概略部分断面図で、図3の続きである。
【図5】本発明の第1実施形態に係る印刷版を用いた凸版反転オフセット印刷法によって、表示装置用基板(TFT基板)を製造する方法を示す概念図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る印刷版の凹凸高さxと、その凹凸深さで印刷可能な印刷線幅yとの関係を示すグラフである。
【図7】本発明の第2実施形態に係る印刷版の製造方法を工程毎に示す概略部分断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る印刷版の製造方法を工程毎に示す概略部分断面図で、図7の続きである。
【図9】本発明の第3実施形態に係る印刷版の製造方法を工程毎に示す概略部分断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る印刷版の製造方法を工程毎に示す概略部分断面図で、図9の続きである。
【図11】本発明の第3実施形態に係る印刷版の製造方法を工程毎に示す概略部分断面図で、図10の続きである。
【図12】従来の平版オフセット印刷によるカラーフィルタ基板の製造方法を示す概念図である。
【図13】従来の凹版オフセット印刷によるカラーフィルタ基板の製造方法を示す概念図である。
【図14】従来の凸版反転オフセット印刷法によるカラーフィルタ基板の製造方法を示す概念図である。
【図15】(a)は従来の凸版反転オフセット印刷法によるカラーフィルタ基板の製造方法において形成された所望の印刷パターンを示す平面図、(b)はそのA−A’線に沿った断面図である。
【図16】(a)は従来の凸版反転オフセット印刷法によるカラーフィルタ基板の製造方法において形成された、中抜け部分を含む印刷パターン示す平面図、(b)はそのA−A’線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0158】
10、10A、10B 印刷版
10a 印刷版の母材
10aa 母材の表面
11a、11b 母材の窪み
12、12a、12b 撥インキ層
13a、13b、13c 印刷版の凹部
14 印刷版の凸部
15 ステージ
21 インキ皮膜
21a インキ皮膜の転写部
21b、21c インキ皮膜の非転写部
31 ブランケット
32 転写胴
33 コーター
40 TFT基板用透明絶縁板
41 クロム(Cr)膜
41A パターン化されたクロム(Cr)膜
41Aa、41Ab パターン化されたクロム(Cr)膜の窓
42 レジスト膜
42a、42b レジスト膜の透孔
50 印刷パターン
60 TFT基板用ガラス板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸版反転オフセット印刷に使用される印刷版であって、
母材の表面に形成された凹部及び凸部と、
前記凹部の内面を覆う撥インキ層とを備え、
前記凹部の平面形状は、所望の印刷パターンが得られるように形成されており、
前記凸部は、凸版反転オフセット印刷の際にインキ皮膜の対応する部分が転写可能とされていることを特徴とする印刷版。
【請求項2】
前記凹部の深さが2μm〜0.05μmの範囲に設定されている請求項1に記載の印刷版。
【請求項3】
前記凹部の深さが1μm〜0.05μmの範囲に設定されている請求項1に記載の印刷版。
【請求項4】
前記母材が親インキ性であって、その母材が前記凸部において露出している請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷版。
【請求項5】
前記凸部が金属膜で覆われている請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷版。
【請求項6】
前記凸部の表面が粗面化されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の印刷版。
【請求項7】
前記撥インキ層が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるフッ素コーティング樹脂またはシリコーン樹脂により形成されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の印刷版。
【請求項8】
前記撥インキ層の表面エネルギーが18dyn/cm以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の印刷版。
【請求項9】
凸版反転オフセット印刷に使用される印刷版の製造方法であって、
母材の表面に第1マスクを形成する工程と、
前記第1マスクを用いて前記母材を選択的に除去することにより、前記母材に凹部を形成する工程と、
前記凹部が形成された前記母材の表面に、前記第1マスクの上から直接または第2マスクを介在させて撥インキ層を形成する工程と、
前記第1マスクまたは前記第2マスクを除去することにより前記撥インキ層を選択的に除去し、もって前記撥インキ層の残存部分によって前記凹部の内面を覆う工程とを備え、
前記凹部の平面形状は、所望の印刷パターンが得られるように形成されることを特徴とする印刷版の製造方法。
【請求項10】
前記撥インキ層が、前記凹部が形成された前記母材の表面に、前記第2マスクを使用せずに直接形成され、前記第1マスクを除去することにより前記撥インキ層が除去されて、前記凸部において前記母材が露出している請求項9に記載の印刷版の製造方法。
【請求項11】
前記撥インキ層が、前記凹部が形成された前記母材の表面に、前記第2マスクを介在させて形成され、前記第2マスクを除去することにより前記撥インキ層が除去されて、前記凸部が前記第1マスクで覆われている請求項9に記載の印刷版の製造方法。
【請求項12】
前記マスクを前記母材の表面に形成する前に、前記母材の表面を粗面化処理する工程が実行される請求項9〜11のいずれか1項に記載の印刷版の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の印刷版を用いた凸版反転オフセット印刷法により、表示装置用部材上に所望の印刷パターンを形成することを特徴とする表示装置用基板の製造方法。
【請求項14】
前記撥インキ層の表面エネルギーEREPと、前記凸部の表面エネルギーEPROTと、印刷に使用されるインキの表面エネルギーEINKとが、EREP<EINK<EPROTの関係を満たすように設定される請求項13に記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項15】
前記撥インキ層の表面エネルギーEREPと、前記凸部の表面エネルギーEPROTと、印刷に使用されるインキの表面エネルギーEINKとが、EREP≦18dyn/cm、20dyn/cm≦EINK≦24dyn/cm、EPROT≧50dyn/cmを満たすように設定される請求項14に記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項16】
前記撥インキ層の表面エネルギーEREPと、前記凸部の表面エネルギーEPROTと、印刷に使用されるインキの表面エネルギーEINKと、印刷に使用されるブランケットの表面エネルギーEBLANKETとが、EREP<EINK≦EBLANKET<EPROTの関係を満たすように設定される請求項13に記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項17】
前記撥インキ層の表面エネルギーEREPと、前記凸部の表面エネルギーEPROTと、印刷に使用されるインキの表面エネルギーEINKと、印刷に使用されるブランケットの表面エネルギーEBLANKETとが、EREP≦18dyn/cm、20dyn/cm≦EINK≦24dyn/cm、18dyn/cm≦EBLANKET≦30dyn/cm、EPROT≧50dyn/cmを満たすように設定される請求項16に記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項18】
前記撥インキ層の表面エネルギーEREPと、前記凸部の表面エネルギーEPROTと、印刷に使用されるインキの表面エネルギーEINKと、印刷パターンが形成される部材の表面エネルギーEPLATEとが、EREP<EINK≦EBLANKET<EPLATEの関係を満たすように設定される請求項13に記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項19】
前記撥インキ層の表面エネルギーEREPと、前記凸部の表面エネルギーEPROTと、印刷に使用されるインキの表面エネルギーEINKと、印刷パターンが形成される部材の表面エネルギーEPLATEとが、EREP≦18dyn/cm、20dyn/cm≦EINK≦24dyn/cm、18dyn/cm≦EBLANKET≦30dyn/cmを満たすように設定される請求項18に記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項20】
レジスト材を含むインキを用いた凸版反転オフセット印刷により、前記表示装置用部材上にパターン化されたマスクが形成される請求項13〜19のいずれか1項に記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項21】
導電性微粉を含むインキを用いた凸版反転オフセット印刷により、前記表示装置用部材上にパターン化された導電膜が形成される請求項13〜19のいずれか1項に記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項22】
絶縁性樹脂を含むインキを用いた凸版反転オフセット印刷により、前記表示装置用部材上にパターン化された導電膜が形成される請求項13〜19のいずれか1項に記載の表示装置用基板の製造方法。
【請求項23】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の印刷版を用いた凸版反転オフセット印刷法により、表示装置用基板上に所望の印刷パターンを形成する工程を含むことを特徴とする表示装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−246829(P2008−246829A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90579(P2007−90579)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(303018827)NEC液晶テクノロジー株式会社 (547)
【Fターム(参考)】