説明

分光法を用いたプレートアッセイ

【課題】 分光法を用いたプレートアッセイ方法を提供する。
【解決手段】 (1)被測定化合物を基板表面に固定配置し、被測定化合物に対して特異的に反応して結合を形成する官能基を有する化合物が表面に吸着あるいは結合してなるプラズモン吸収を有する金属粒子を被測定化合物に作用せしめて、基板にエネルギーを照射しそのプラズモン吸収のエネルギーを計測することによって被測定化合物を検出およびまたは定量分析する、および(2)プラズモン吸収を有する金属粒子に被測定化合物が粒子表面に吸着あるいは結合してなる金属粒子を基板表面に固定配置されてなる被測定化合物に対して特異的に反応して結合を形成する官能基とを作用せしめて、基板にエネルギーを照射しそのプラズモン吸収のエネルギーを計測することによって、被測定化合物を検出およびまたは定量分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光法を用いた分析方法に関する。より具体的には、基板表面に被測定物もしくは被測定物に対して特異的に結合する官能基を有する化合物を固定配置し、基板表面に固定配置された被測定物または被測定物に対して特異的に結合する官能基を有する化合物が表面に修飾されてなるプラズモン吸収を有する金属粒子を作用せしめ、基板と該粒子を結合させた後、未反応の化合物を洗浄により除去し、残存した被測定化合物の種類およびまたは量をプラズモン吸収を計測することによって、測定する分析方法に関する。本発明は様々な化合物の分析に適用可能であるが、近年特に高感度化、高速化が要求されているバイオテクノロジーの分野に有用に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
30億のヒトゲノムの塩基配列の解読が完了し、ポストゲノムの時代が到来した。ヒトゲノム解読が完了したことによって、ポストゲノム研究として遺伝子情報の発現をタンパク質レベルで網羅的に調べ、疾患の原因を探るプロテオーム研究の時代へと移行した。プロテオーム研究がもたらす成果として、疾患の原因となるタンパクの同定などが挙げられる。疾患の原因となるタンパク質やその挙動を解明することによって、テーラーメード創薬やタンパク質の発現を目指した病気の診断・治療が可能になる。前述の内容を目的としたタンパク質−核酸の相互作用の研究は、急速に拡大している。
【0003】
また、生体分子間や生体分子に対する薬物の影響を解析する上において、その組み合わせは天文学的に存在する。このため、高感度で高速な分析方法および装置が要求されている。本発明は、様々な生体物質並びに生体物質に特異的な相互作用を大量にかつ同時並行的に高感度で高速度に検出およびまたは解析する方法を提供する。
【0004】
被測定化合物としては核酸、タンパク質、糖、細胞、抗体、抗原、酵素、受容体および環境ホルモンなどが挙げられる。環境ホルモンの生体への影響が問題視されている近年、特にこの分野での分析需要が急増している。環境ホルモンとして具体的には、非特許文献1に記載されている化合物が挙げられる。
【0005】
バイオテクノロジーの分野においてハイスループット分析を実施する手段としては、DNAチップやプロテインチップや糖鎖チップや細胞チップと称される分子アレイが普及している。分子アレイは、一般に核酸やタンパク質などの既知のプローブ(被測定化合物に対して特異的に作用する官能基または化合物)を基板表面上に固定化する、または、検体を基板上に固定化、次いで検体溶液またはプローブをアレイ上に分注し、一定時間作用させ、必要に応じて、未反応の検体を洗浄により除去する。そして、特異的相互作用によって発現した結合(状態)を光学的あるいは電気化学的手法によって検出するものである。前記測定によって得られたシグナルの強度やパターンの情報から被測定物の定性およびまたは定量およびまたは被測定化合物とプローブ間の相互作用の強さ定量分析できる。
【0006】
DNAチップとしての分子アレイは、DNA配列の決定(非特許文献2、非特許文献3)、または特定のDNA試料中の突然変異を検出する(非特許文献4)ことを目的されている。
以下、従来技術として開示または製品化されている分子アレイの支持体の形状、プローブまたは被測定化合物の固定化方法、検出方法、について詳述する。
【0007】
支持体の形状としては、現在、平板型、ビーズ型、キャピラリー型、繊維型、μ−TAS型などが市販されている。
【0008】
プローブとしては、核酸、ペプチド、糖などが代表的である。プローブの固定化法としては、2種類に大別される。一つ目は、支持体状でプローブを逐次合成して固定化する方法で(特許文献1、特許文献2)、2つ目は別途調製済みのプローブを支持体に固定する方法である(特許文献3)。2つ目の方法の支持体にプローブを固定化する装置としては、ピン、インクジェット、スタンプなどが適用されている。
【0009】
相互作用の検出方法としては、被測定化合物またはプローブを蛍光色素で標識し、相互作用によるスポットの発光を分光的に検出するのが一般的である。この場合、検出器としては一般に電荷結合素子(CCD)が用いられる。また、Perkin Elmer社より市販されているプレートリーダーやスキャナーやデジタルカメラも必要精度に応じて適宜用いることができる。この他、標識せずに物理的な手法で測定する方法としては、以下の方法がある。相互作用に伴って変化する導電性によって検出する電気化学的手法、吸着または結合によって変化した誘電率の変化を測定する表面プラズモン共鳴(surfaceplasmon resonance;SPR)センサー、水晶振動子上での相互作用によって発現する振動周波数の変化を検出する水晶発振子マイクロバランス(quartzcrystal microbalance;QCM)、相互作用によって発現した薄膜の厚みの増分を表面の偏光反射光によって求める偏光解析(ellipsometry)、偏光解析と同様に厚みの変化が相互作用に起因するとして表面を針で走査し厚みの増分を測定する原子間力顕微鏡法(atomic force microscopy;AFM)。また、相互作用を認識する抗体を用いた古典的な免疫学的手法も利用されている。質量分析系を検出器として併用し、分取した化合物の構造解析もなされる場合がある。
【0010】
近年、多く普及しているDNAアレイはDNAのハイブリダイゼーーション現象の解析、配列の解析(非特許文献5)、突然変異部位の検出に用いられる。DNAアレイを代表とする前記分子アレイでは、一般に蛍光色素や電気化学活性な化合物によってラベル化し、検体を反応させ、蛍光の有無と強度によって、定性およびまたは定量分析する。しかしながら、蛍光色素でラベルする際に、ラベル化剤が結合する部位や数を制御することが困難であり、またラベル化することによって生理的・化学的性質が変化してしまうという問題がある。また、長いシーケンスを持つ場合には、解析が困難である(非特許文献4)。
【0011】
表面プラズモン共鳴(SPR)や水晶発振子(QCM)は、金薄膜に固定化した生体分子と結合した生体物質による誘電率や質量変化の変化を測定することによって、相互作用を検出するものであり、高感度であり、ラベル化が不要である。具体的には、タンパク質−核酸の相互作用の強度の分析や定性・定量分析に用いられている。しかしながら、商業的に提供されている “BIACORE社製”(BiacoreAB、Uppsala、Sweden)や日本レーザー社製SPR装置では、吸着・結合に伴う金属表面の誘電率の変化のみしから情報が得られない、および夾雑物質による非特異吸着という問題点を有する。また、SPRはその機械的構造特性上の理由により、一度に高速で多検体を分析するというハイスループットの分析には好適ではない。
【0012】
酵素免疫測定法は、主に医療検査や検疫などの現場で広く用いられており、手法は既に確立されている。特に、近年BSE(牛海綿状脳症)の検査や農薬測定や特定の細菌などの検出を目的とした環境測定分野にも用いられるようになり、この手法を用いた検査は急増している。しかしながら、操作の操作行程が必要とし、実際の測定には大型の専用装置と熟練した専門家の技術が必要である。また、酵素反応は既知のごとく様々な外的因子、特に反応温度などによって大きく影響を受けるという問題点を有する。長時間の分析を要するということも問題大量検査への大きな問題点となっている。
【0013】
【非特許文献1】井口泰泉、シーエムシー出版、環境ホルモンの最新動向と測定・試験・機器開発(2003)
【0014】
【非特許文献2】Mirzabekov、Trends in Biotechnology 12、27−32、(1994)
【0015】
【非特許文献3】Pease et al.、Proc.Natl.Acd.Sci.USA 91、5022−5026(1994)
【0016】
【非特許文献4】Winzeler et al.、Science 281、1194−1197(1998)
【0017】
【特許文献1】特開2004−141152号公報
【0018】
【特許文献2】特開2001−517300号公報
【0019】
【特許文献3】特許3272365公報
【0020】
【非特許文献5】Mirzabekov、Trends in Biotechnology、12、27−32、1994
【0021】
【非特許文献6】Automation Technology for Genome Characterization、Wiley−Interscience(1997)、T.J.Beugelsdijk、205−225
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
【0023】
本発明は上記に鑑み、高感度で高速に多検体を定量およびまたは定性分析する手段を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本プレートに用いる材料としては、前記透過光を計測する場合には光透過性の高い材料が好ましく、単結晶フッ化カルシウム、シリコン、セラミックス、ガラス、金属、高分子が挙げられる。高分子材料の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0025】
被測定化合物と特異的に結合を形成する化合物は、反応過程および未反応化合物を洗浄する洗浄過程で流去されることなく、基板表面に固定配置された状態を維持することが必要であり、必要に応じて被測定物およびまたは被測定化合物と被測定化合物と特異的に結合を形成する化合物と基板および金属粒子との間にリンカーを介在させることも可能である。具体的リンカーとしては、同仁化学社、Sigma社、Piece社のカタログに記載の化合物を用いることができる。
【0026】
フッ化カルシウム基板にはアミノシラン系ポリマーで基板表面を処理することにより核酸などを固定配置可能であり、金表面にはタンパク質中のチオール基が強固に吸着することにより、リンカーを介在させることなく、安定に固定配置可能である。
【0027】
基板の形状としては、いかなるものも用いることができるが、多検体を高速に測定が可能な平板、ウェル構造、ビーズ、キャピラリー、ファイバーなどを用いることができる。前記化合物の固定化量は表面積に依存するので、前記の基板の表面は、平滑かつバラツキの小さいものが好ましい。
【0028】
前記試薬は、固体状態およびまたは溶液状態およびまたは気体状態のいずれの状態で基板表面に供しても構わない。溶液状態で供する場合には、システムバイオティクスPlatePrep400やカケンジェネックス社製Genex Sampling Systemなどのチップ型分注機を用いることができる。また、吐出量を精密に制御できるインクジェット装置を用いることも可能である。インクジェット分注装置は具体的には、日本レーザー電子製Stampman、メクト ディスペンサー社製MRMJなどが提供されており、正確にかつ少量で基板表面に分注することができる。
【0029】
測定においては、試料は水溶液で湿潤していることが好適である。特に生体試料においては、湿潤状態と乾燥状態では立体構造が異なり、被測定化合物とプローブとの親和性などが変化する可能性がある。また、前記プラズモン吸収を有する金属粒子のプラズモン吸収エネルギーは近傍の誘電率によって変化するため、乾燥状態と湿潤状態では、プラズモン吸収スペクトルが相違する。すなわち、乾燥率によってバラツキによるプラズモン吸収スペクトルのバラツキが生じる。完全に湿潤せしめる方が乾燥率を制御するよりも簡便であることから、完全に湿潤せしめて計測することが好ましい。
プラズモン吸収を有する金属粒子は、金、銀、銅、白金、アルミニウム、亜鉛、スズ、ロジウム、パラジウム、またはイリジウム、ニッケルルテニウム、オスミウム、およびイリジウムからなる群より選択された少なくとも1種類以上の金属を含むものである。金、銀のコロイド水溶液は田中貴金属やBritish Biocell社やPolyscience社などから市販されている。2種類以上の金属からなる金属粒子の場合はコアシェル構造または固溶体構造のいずれであっても構わない。金属の粒子径は1nm〜250nmの範囲が好適であり、さらに、好適には5nm〜100nmの範囲である。粒子径が250nmよりも大きな金属粒子は、重力により沈降する場合があり、反応溶液を攪拌する必要性が生じ、多検体処理を目的とするハイスループットには不適切である。一方、粒子径が1nmよりも小さな粒子の場合は、粒子表面にリガンドを多く導入することが困難となる。
【0030】
金属粒子は、被測定化合物とプローブとの間の特異的に反応による結合の形成がなされる前は、凝集していないことが好適である。凝集した状態では、前記特異的反応が遅くなるおよびまたは阻害されることがあり、ハイスループット化には不適切である。金属粒子表面にポリエチレングリコールおよびまたはポリエチレングリコール誘導体などの高分子を吸着させることは、以下の2つの理由により好適である。1)ポリマーのエントロピー効果によって、分散安定化される。生体レベルでのイオン強度以上の溶液中で安定に保存することが可能である(H.Otsuka、Y.Akiyama、Y.Nagasaki、K.Kataoka:J.Am.Chem.Soc.、123、8226(2001)およびT.Ishii、H.Otsuka、Y.Nagasaki、K.Kataoka:Langmuir、20、561−564(2004))。市販の金コロイドは一般的には、クエン酸で還元されたものが一般的であり、表面にはクエン酸イオンまたはクエン酸の酸化体であるアセトンジカルボン酸が吸着しており、前記クエン酸イオンおよびまたはアセトンジカルボン酸による静電反発によって分散しているものである。静電反発力のみによって分散安定化されている金属粒子はイオン強度が高い環境下では、静電遮蔽が起こってしまい凝集してしまう。2)親水性高分子、特に生体適合性の高いポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール誘導体を金属粒子表面に吸着させることによって、タンパク質などによる非特異吸着を抑制することが可能であることが知られている(Y.Mori、S.Nagaoka、H.Takiuchi、T.Kikuchi、N.Noguchi、H.Tanzawa、Y.Noishiki:Trans.Am.Soc.Artif.Internal.Organs、28、459(1982))。前記親水性高分子上にタンパク質が吸着すると、高分子は水との相互作用が減少してエンタルピーが増加し、吸着による立体構造の自由度減少と、浸透圧の増加によりエントロピーが減少するため、熱力学的に吸着が置きにくい。また、タンパク質の吸着はポリエチレングリコールの周りの環境を疎水性に変えるものであり、ポリエチレングリコールを極性の高い構造から極性の低い構造に変化させる活性化エネルギーが非常に高くなりタンパク質の非特異吸着が抑制されるものである。金属粒子、特に金および銀粒子は生体分子内のチオールと結合し、非特異吸着が生じやすい。金属粒子のポリエチレングリコール誘導体による被覆については、Y.Mori、S.Nagaoka、H.Takiuchi、T.Kikuchi、N.Noguchi、H.Tanzawa、Y.Noishiki:Trans.Am.Soc.Artif.Internal.Organs、28、459(1982)およびT.Ishii、H.Otsuka、Y.Nagasaki、K.Kataoka:Langmuir、20、561−564(2004)に開示されている方法によって実施可能である。
【0031】
照射される光としては、可視光、紫外光、赤外光、近赤外光を用いることができる。金、銀などからなる金属粒子であって粒子径が250nm以下のものは、可視光領域に電子のプラズモン振動に基づく光吸収を有する。具体的には、金の微粒子の吸収波長は、例えば、S.Linkand、M.A.ElSayedJ.Phys.Chem.B、103、4212−4217(1999)に開示されている。銀の微粒子については、N.Lepold、B.Lendl、J.Phys.Chem.B、107、5723−5727(2003)および、A.Henglein、M.Giersig、J.Phys.Chem.B、103、 9533−9539(1999)に開示されている。本発明の態様によれば、被測定化合物およびまたは被測定化合物に対して特異的に反応して結合を形成する官能基を有する化合物のいずれかにプラズモン吸収を有する金属粒子が結合しているので、特異的反応による結合を形成した場合には、未反応の物質を流去することによって、特異的反応を形成した被測定化合物を識別分析することができる。また、尾崎幸洋、伊藤民武、現代化学、9月、20−27(2003)に開示されているような表面増強ラマン分光法を用いて計測することも可能である。生体試料の場合、650nm〜800nmの波長範囲で蛍光を発するものが多い。この波長領域は、短波長の励起光で励起した場合のラマンシフトと重複するものであり、さらに短波長の励起光で励起すると蛍光発生の量子効率が高くなり、目的とするラマン散乱光のシグナルを遮蔽してしまう。このため、ラマン散乱光を用いて計測する場合には、近赤外光を照射することが好ましく、より好ましくは800nm〜1600nmの領域である。
溶媒は水が50wt%以上含まれている水溶液であることが好ましく、さらに好適には90%以上である。水分含有率が低く、すなわち有機化合物が多量に含有されているような溶媒は、基板を溶解およびまたは変形せしめることがあり、さらに生体成分を測定対象とする場合には、有機溶媒によってタンパク質の変性などをきたす可能性があるので、不適である。溶媒は、必要であれば、緩衝能を持たせることが可能であり、市販されている緩衝剤を適当量添加することが可能である。
被測定対象のRNAやDNAなどの濃度が低い場合には、必要であればPCR転写またはクローニング法などによって増幅してもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明による分析方法は、簡便かつ非特異吸着が抑制された高感度な分析方法である。また該分析方法は、ハイスループットの生体分子の分析などに好適に使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0034】
実施例1
[ビオチン抗体を表面に修飾した金コロイド(以下、ビオチン抗体−金コロイドと称する)の調製]
ビオチン抗体を表面に修飾した金コロイド(以下、ビオチン抗体−金コロイドと称する)を以下の手順で調製した。金コロイド溶液(粒径40nm、0.01wt/vol%、Polysciences社製)1mlに、0.4μmol/lビオチン抗体水溶液150ulを加え、室温で10分間転倒混和した。この溶液に、1.5mg/ml MeO−PEG−SH(分子量10000)の10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4、0.15MNaCl、以下リン酸ナトリウム緩衝液)溶液100μlを添加し、室温で1時間転倒混和した後、遠心分離(4℃、4000G、45分)を行い、沈渣を0.1wt/vol%BSAを含むリン酸ナトリウム緩衝液に分散させた。得られたビオチン抗体−金コロイド溶液の520nmにおける吸光度を測定し、未修飾の金コロイド溶液の520nmにおける吸光度に一致するように、0.1wt/vol%BSAを含むリン酸ナトリウム緩衝液を用いて濃度を調整した。
【0035】
[ビオチン化BSAの調製]
ビオチン化BSAを以下の手順で調製した。BSA 5mgにリン酸ナトリウム緩衝液1mlを加えて溶解し、20mg/ml Biotin−(AC5)2−Osu(同仁化学製)のDMSO溶液をBSAとBiotinのモル比が1:10となるように添加し、室温で2時間転倒混和した。これをPD10でゲル濾過し、未反応のBiotin−(AC5)2−Osuを除いた。得られたビオチン化BSAについて、HABA法によりビオチン導入量を測定した結果、BSA1分子に対してビオチンが7分子結合していることがわかった。
【0036】
[ビオチン化プレートの作成]
以下の手順で上記のビオチン化をプレート表面に固定化して、ビオチン化BSAプレートを作成した。前記の方法で調製したビオチン化BSAをリン酸ナトリウム緩衝溶液に溶解し、2μg/ml〜7.8ng/mlのビオチン化BSAリン酸ナトリウム水溶液を調製した。前記の各濃度のビオチン化BSAのリン酸ナトリウム緩衝液溶液およびリン酸ナトリウム緩衝液を50μlずつマイクロプレート(Nuncイムノプレート、MaxiSorp、ナルジェヌンク社製)に分注し、4℃で一晩静置して、ビオチン化BSAをプレートに修飾した。ビオチン化BSA溶液を捨て、プレートをリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄し、プレート表面に固定配置されなかった余剰のビオチンかBSAを流去した後、各ウエルに1wt/vol%MeO−PEG/PLA(PEG部の分子量5000、ポリラクチド部の分子量5000)のリン酸ナトリウム緩衝液溶液(10vol/vol%MeOHを含む)を100ulずつ分注し、室温で1時間振盪してブロッキングを行った。プレートを0.05wt/vol%Tween20を含むリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄して、表面に固定配置されなかったMeO−PEG/PLAを流去してビオチンプレートを作成した。
ビオチン化プレートにビオチン抗体−金コロイド溶液を50μlずつ分注して、4℃で一晩静置した後、室温で1時間振盪した。ビオチン化プレート表面と結合しなかったビオチン抗体−金粒子を0.05wt/vol%Tween20を含むリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄・流去した後、直ちにプレートリーダーで吸光度(520nm、0.1秒、25ポイント/ウエル)を測定した。
【0037】
比較例1
金コロイドの調製において、0.4μmol/lビオチン抗体水溶液の代わりに、水を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作した結果、修飾に用いたビオチン化BSA溶液の濃度にかかわらず、520nmにおける吸光度の変化は確認されなかった。
【0038】
実施例2
[ビオチン抗体−金コロイドの調製]
金コロイド溶液(粒径40nm、0.01wt/vol%、Polysciences社製)1mlに、0.4μmol/lビオチン抗体水溶液150ulを加え、室温で10分間転倒混和した。この溶液に、1.5mg/ml MeO−PEG−SH(分子量10000)のリン酸ナトリウム緩衝液溶液100μlを添加し、室温で1時間転倒混和した後、遠心分離(4℃、4000G、45分)を行い、沈渣を0.1wt/vol%BSAを含むリン酸ナトリウム緩衝液に分散させた。得られたビオチン抗体−金コロイド溶液の520nmにおける吸光度を測定し、未修飾の金コロイド溶液の520nmに対して2倍の吸光度となるように、0.1wt/vol%BSAを含むリン酸ナトリウム緩衝液で濃度を調整した。これをさらに0.1wt/vol%BSAを含むリン酸ナトリウム緩衝液で1倍〜32倍まで2希釈して、6種類の濃度のビオチン抗体−金コロイドを調製した。
【0039】
[ビオチンプレートの作成]
0.5μg/mlビオチン化BSAのリン酸ナトリウム緩衝液溶液を50μlずつマイクロプレート(Nuncイムノプレート、MaxiSorp、ナルジェヌンク社製)に分注し、4℃で一晩静置して、ビオチン化BSAをプレートに修飾した。ビオチン化BSA溶液を捨て、プレートをリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄した後、各ウエルに1wt/vol%MeO−PEG/PLAのリン酸ナトリウム緩衝液溶液(10vol/vol%MeOHを含む)を100ulずつ分注し、室温で1時間振盪してブロッキングを行った。プレートを0.05wt/vol%Tween20を含むリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄してビオチンプレートを作成した。
【0040】
ビオチンプレートに濃度の異なるビオチン抗体−金コロイド溶液を50μlずつ分注して、4℃で一晩静置した後、室温で1時間振盪した。ビオチン化プレートと結合しなかったビオチン抗体−金粒子を0.05wt/vol%Tween20を含むリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄・流去した後、直ちにプレートリーダーで吸光度(520nm、0.1秒、25ポイント/ウエル)を測定した。
【0041】
比較例2
金コロイドの調製において、0.4μmol/lビオチン抗体水溶液の代わりに、0.4μmol/lウサギ抗体を用いたこと以外は、実施例2と同様に操作した結果、金コロイド溶液の濃度にかかわらず、520nmにおける吸光度の変化は確認されなかった。
【0042】
実施例3
[ビオチン抗体−金コロイドの調製]
金コロイド溶液(粒径40nm、0.01wt/vol%、Polysciences社製)1mlに、0.4μmol/lビオチン抗体水溶液150ulを加え、室温で10分間転倒混和した。この溶液に、1.5mg/ml MeO−PEG−SH(分子量10000)のリン酸ナトリウム緩衝液溶液100μlを添加し、室温で1時間転倒混和した後、遠心分離(4℃、4000G、45分)を行い、沈渣を0.1wt/vol%BSAを含むリン酸ナトリウム緩衝液に分散させた。得られたビオチン抗体−金コロイド溶液の520nmにおける吸光度を測定し、未修飾の金コロイド溶液の520nmにおける吸光度に一致するように、0.1wt/vol%BSAを含むリン酸ナトリウム緩衝液を用いて濃度を調整した。
【0043】
[ビオチンプレートの作成]
2μg/mlビオチン化BSAのリン酸ナトリウム緩衝液溶液を、リン酸ナトリウム緩衝液で1倍(2μg/ml)〜256倍(7.8ng/ml)まで2希釈した。各濃度のビオチン化BSAのリン酸ナトリウム緩衝液溶液およびリン酸ナトリウム緩衝液を50μlずつマイクロプレート(Nuncイムノプレート、MaxiSorp、ナルジェヌンク社製)に分注し、4℃で一晩静置して、ビオチン化BSAをプレートに修飾した。プレート表面に固定配置されなかったビオチン化BSAをリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄・流去した後、各ウエルに1wt/vol%MeO−PEG/PLAのリン酸ナトリウム緩衝液溶液(10wt/vol%MeOHを含む)を100ulずつ分注し、室温で1時間振盪してブロッキングを行った。プレートを0.05wt/vol%Tween20を含むリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄してビオチンプレートを作成した。
【0044】
ビオチンプレートにビオチン抗体−金コロイド溶液を50μlずつ分注して、4℃で一晩静置した後、室温で1時間振盪した。ビオチン化プレート表面と結合しなかったビオチン抗体−金粒子を0.05wt/vol%Tween20を含むリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄・流去した後、直ちにプレートリーダーで吸光度(520nm、0.1秒、25ポイント/ウエル)を測定した。
【0045】
比較例3
金コロイドの調製において、0.4μmol/lビオチン抗体水溶液の代わりに、0.4μmol/lウサギ抗体を用いたこと以外は、実施例3と同様に操作した結果、修飾に用いたビオチン化BSA溶液の濃度にかかわらず、520nmにおける吸光度の変化は確認されなかった(比較例3−1)。別に、0.4μmol/lビオチン抗体水溶液の代わりに、1μmol/l BSAを用い、1.5mg/ml MeO−PEG−SH(分子量10000)のリン酸ナトリウム緩衝液溶液100μlの代わりに、1.5mg/ml MeO−PEG−SH(分子量5000)のリン酸ナトリウム緩衝液溶液50μlを用いたこと以外は、実施例3と同様に操作した結果、修飾に用いたビオチン化BSA溶液の濃度にかかわらず、520nmにおける吸光度の変化は確認されなかった(比較例3−2)。
【0046】
実施例4
[ビオチン抗体−金コロイドの調製]
金コロイド溶液(粒径40nm、0.01wt/vol%、Polysciences社製)1mlに、0.4μmol/lビオチン抗体水溶液150ulを加え、室温で10分間転倒混和した。この溶液に、1.5mg/ml MeO−PEG−SH(分子量10000)のリン酸ナトリウム緩衝液(溶液100μlを添加し、室温で1時間転倒混和した後、遠心分離(4℃、4000G、45分)を行い、沈渣を0.1wt/vol%BSAを含むリン酸ナトリウム緩衝液に分散させた。得られたビオチン抗体−金コロイド溶液の520nmにおける吸光度を測定し、未修飾の金コロイド溶液の520nmにおける吸光度に一致するように0.1wt/vol%BSAを含むリン酸ナトリウム緩衝液で濃度を調整して、ビオチン抗体−金コロイドを調製した。
【0047】
[ビオチンプレートの作成]
0.5μg/mlビオチン化BSAのリン酸ナトリウム緩衝液溶液を50μlずつマイクロプレートに分注し、4℃で一晩静置して、ビオチン化BSAをプレートに修飾した。プレート表面に固定配置されなかったビオチン化BSA溶液をプレートをリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄・流去した後、各ウエルに1wt/vol%MeO−PEG/PLAのリン酸ナトリウム緩衝液溶液(10wt/vol%MeOHを含む)を100ulずつ分注し、室温で1時間振盪してブロッキングを行った。プレートを0.05wt/vol%Tween20を含むリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄してビオチンプレートを作成した。
【0048】
ビオチンプレートにビオチン抗体−金コロイド溶液を50μlずつ分注して、4℃で一晩静置した後、室温で1時間振盪した。ビオチン化プレート表面と結合しなかったビオチン抗体−金粒子を0.05wt/vol%Tween20を含むリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄・流去した後、直ちにプレートリーダーで吸光度(520nm、0.1秒、25ポイント/ウエル)を測定した。
【0049】
比較例4
ビオチンプレートの作成において、1wt/vol%MeO−PEG/PLAのリン酸ナトリウム緩衝液溶液(10wt/vol%MeOHを含む)の代わりに、1wt/vol%ゼラチン/リン酸ナトリウム緩衝液溶液を用いてブロッキングを行った以外は、実施例4と同様に操作した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【0051】
【図1】 ビオチン抗体を修飾した金コロイド(ビオチン抗体−金コロイド)とビオチン抗体を修飾していない金コロイドのビオチン化プレートへの反応性を示す図
【0052】
【図2】
【0053】
ビオチン抗体−金コロイド濃度とプレートへの結合量の相関性とウサギ抗体がビオチン化プレートに結合しないことを示す図
【0054】
【図3】
【0055】
ビオチン抗体を修飾した金コロイド(ビオチン抗体−金コロイド)とウサギ抗体またBSAを修飾した金コロイドのビオチン化プレートへの反応性を示す図
【0056】
【図4】 ゼラチンとMeO−PEG/PLAのブロッキング効果を比較した図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定化合物を基板表面に固定配置し、被測定化合物に対して特異的に反応して結合を形成する官能基を有する化合物が表面に吸着およびまたは結合してなるプラズモン吸収を有する金属粒子を被測定化合物に作用せしめて、基板にエネルギーを照射しそのプラズモン吸収のエネルギーを計測することによって、被測定化合物を検出およびまたは定量分析する方法。
【請求項2】
プラズモン吸収を有する金属粒子に被測定化合物が結合およびまたは吸着してなる金属粒子を基板表面に固定配置されてなる被測定化合物に対して特異的に反応して結合を形成する官能基を作用せしめて、基板にエネルギーを照射しそのプラズモン吸収のエネルギーを計測することによって、被測定化合物を検出およびまたは定量分析する方法。
【請求項3】
被測定物が核酸、タンパク質、糖、細胞、抗体、抗原、酵素、受容体および環境ホルモンからなる群より選択された少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1〜請求項2の分析方法。
【請求項4】
前記プラズモン吸収を有する金属粒子が少なくとも金、銀、銅、白金、アルミニウム、亜鉛、スズ、ロジウム、パラジウム、またはイリジウム、ニッケル、ルテニウム、オスミウム、およびイリジウムからなる群より選択された少なくとも1種類以上の金属を含むことを特徴とする請求項1〜請求項2の分析方法。
【請求項5】
前記プラズモン吸収を有する金属粒子の粒子直径が1〜100nmの範囲であることを特徴とする請求項4の金属粒子。
【請求項6】
前記基板に照射するエネルギーが紫外光、可視光、赤外光、近赤外光からなる群より選択された少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1〜請求項2の分析方法。
【請求項7】
基板およびまたは金属粒子の表面に非特異吸着を抑制するブロッキング剤が吸着およびまたは結合されていることを特徴とする請求項1〜請求項2の分析方法。
【請求項8】
基板およびまたは金属粒子の表面に非特異吸着を抑制するブロッキング剤がアルキレングリコールおよびまたはアルキレングリコール誘導体であることを特徴とする請求項1〜請求項2の分析方法。
【請求項9】
前記非特異吸着を抑制するブロッキング剤がポリエチングリコールおよびまたはポリエチレングリコール誘導体であることを特徴とする請求項1〜請求項2の分析方法。
【請求項10】
前記ポリエチレングリコール誘導体がポリエチレングリコールとポリラクチドのブロックコポリマーであることを特徴とする請求項9に記載のポリエチレングリコール誘導体。
【請求項11】
前記ポリエチレングリコールとポリラクチドのブロックコポリマーであって、ポリエチレングリコール部の分子量が500〜50000、ポリラクチド部の分子量が500〜50000の範囲であることを特徴とする請求項9〜請求項10のポリエチレングリコール誘導体。
【請求項12】
前記、被測定化合物およびまたは被測定化合物に対して特異的に反応して結合を形成する官能基を有する化合物がリンカーを介して基板表面およびまたは金属粒子表面に固定されてなることを特徴とする請求項1〜の請求項2の分析方法。
【請求項13】
被測定化合物およびまたは被測定化合物に対して特異的に反応して結合を形成する官能基を有する化合物がリンカーを介さずに直接的に基板表面およびまたは金属粒子表面に固定されてなることを特徴とする請求項1〜の請求項2の分析方法。
【請求項14】
前記基板に用いる材料が単結晶フッ化カルシウム、シリコン、セラミックス、ガラス、金属、高分子からなる群より選択された少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1〜請求項2の分析方法。
【請求項15】
検出器がデジタル画像読み取り装置であることを特徴とする請求項1〜請求項2の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−30155(P2006−30155A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236868(P2004−236868)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(597059085)
【Fターム(参考)】