説明

分割スパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】本発明は、複数のターゲット部材を接合して得られた分割スパッタリングターゲットにおいて、スパッタリングされることにより、バッキングプレートの構成材料が、成膜する薄膜中に混入することを効果的に防止できる技術を提供する。
【解決手段】本発明は、バッキングプレート上に、複数のターゲット部材を低融点ハンダにより接合して形成される分割スパッタリングターゲットにおいて、接合されたターゲット部材間に形成される間隙に沿って、バッキングプレートに保護体を設けたものであり、
ターゲット部材が酸化物半導体であり、保護体が高分子シートであることを特徴とする分割スパッタリングターゲットとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のターゲット部材を接合して得られる分割スパッタリングターゲットに関し、特にターゲット部材が酸化物半導体により構成されている際に好適な分割スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スパッタリング法は、情報機器、AV機器、家電製品等の各電子部品を製造する際に多用されており、例えば、液晶表示装置などの表示デバイスには、薄膜トランジスタ(略称:TFT)などの半導体素子がスパッタリング法により形成されている。透明電極層などを構成する薄膜を、大面積で、高精度に形成する製法として、スパッタリング法が極めて有効なためである。
【0003】
ところで、最近の半導体素子においては、アモルファスシリコンに代わって、IGZO(In−Ga−Zn−O)に代表される酸化物半導体が着目されている。そして、この酸化物半導体についても、スパッタリング法を利用して酸化物半導体薄膜を成膜することが計画されている。しかし、スパッタリングに用いる酸化物半導体のスパッタリングターゲットでは、その素材がセラミックであることから、大面積のターゲットを一枚のターゲット部材で構成することが難しい。そのため、ある程度の大きさを有する酸化物半導体ターゲット部材を複数準備し、所望の面積を有するバッキングプレート上に接合することで、大面積の酸化物半導体スパッタリングターゲットが製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このスパッタリングターゲットのバッキングプレートには、通常、Cu製のバッキングプレートが用いられ、このバッキングプレートとターゲット部材との接合には、熱伝導が良好な低融点ハンダ、例えばIn系の金属が使用されている。例えば、大面積で、板状の酸化物半導体スパッタリングターゲットを製造する際、大面積のCu製バッキングプレートを準備し、そのバッキングプレート表面を複数の区画に分け、その区画に合う面積を有する酸化物半導体ターゲット部材を複数準備する。そして、バッキングプレート上に複数のターゲット部材を配置し、In系やSn系金属の低融点ハンダにより、すべてのターゲット部材をバッキングプレートに接合することが行われる。この接合の際、Cuと酸化物半導体との熱膨張の差を考慮して、隣接するターゲット部材同士の間には、室温時に0.1mm〜1.0mmの間隙ができるように調整して配置されている。
【0005】
このような複数の酸化物半導体ターゲット部材を接合して得られた分割スパッタリングターゲットを使用してスパッタリングにより薄膜を成膜して半導体素子を形成する場合、スパッタリング処理中にターゲット部材間の間隙からバッキングプレートの構成材料であるCuもスパッタリングされて、形成する酸化物半導体の薄膜中に混入するという問題が懸念されている。薄膜中のCuは、数ppmレベルの混入量であるが、その影響は酸化物半導体には極めて大きく、例えば、TFT素子特性の中の電界効果移動度が、ターゲット部材間の間隙に相当する位置で形成された半導体素子(Cuが混入した薄膜)では、それ以外の部分の半導体素子に比べて低くなる傾向があり、ON/OFF比も低下する傾向になる。このような不具合は、昨今の大面積化傾向への大きな障害要因として指摘されており、早急な技術改善を要求されているのが現状である。さらに、このような分割スパッタリングターゲットの問題は、ターゲット部材が酸化物半導体以外の材質の場合であっても同様な不具合を生じる可能性があり、スパッタリングターゲットの大面積化を促進するためにも、解消すべき課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−232580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、大面積のスパッタリングターゲットであって、複数のターゲット部材を接合して得られた分割スパッタリングターゲットがスパッタリングされることにより、バッキングプレートの構成材料が、成膜する薄膜中に混入することを効果的に防止することができる、分割スパッタリングターゲットを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、バッキングプレート上に、複数のターゲット部材を低融点ハンダにより接合して形成される分割スパッタリングターゲットにおいて、接合されたターゲット部材間に形成される間隙に沿って、バッキングプレートに保護体を設けたことを特徴とするものとした。本発明によれば、バッキングプレート上に接合されたターゲット部材間に形成される間隙には、バッキングプレート表面が露出することが無く、バッキングプレートの構成材料がスパッタリングされることを効果的に防止することが可能となる。
【0009】
本発明における保護体とは、バッキングプレート上に接合されたターゲット部材間に形成される間隙に露出するバッキングプレート表面を覆うものであって、成膜する薄膜に悪影響を与えるような物質を、スパッタリング時に間隙から発生させない作用を有するものをいう。このような保護体としては、バッキングプレート表面に、テープ状の保護部材を配置したり、保護体となる物質を塗布、めっき、スパッタリングなどにより設けたり、バッキングプレート自体の表面を酸化して酸化被膜を形成することで設けることができる。特に、本発明において、保護体はテープ状の保護部材を配置することが好ましい。
【0010】
このような保護体の材質としては、成膜する薄膜に混入しても悪影響を与えない物質、例えば、ターゲット部材の組成を構成する元素の全部或いはその一部、これらの元素を含む合金や酸化物などを用いることができる。
【0011】
また、別の材質としては、スパッタリング時に間隙内部でのスパッタリング現象を抑制できる物質、例えば、ターゲット部材よりもその体積抵抗が大きな物質を、即ち高抵抗物質を保護体として用いることができる。このような高抵抗物質を保護体として用いる場合、高抵抗物質の体積抵抗率(Ω・cm)がターゲット部材の体積抵抗率の10倍以上の値を有するものであることが好ましい。
【0012】
尚、上記した保護体の材質に関しては、その材質の化学組成が、バッキングプレートに接合するために用いる低融点ハンダの化学組成とは実質的に異なるものである。例えば、金属インジウムを低融点ハンダとして用いる場合、その際の保護体は金属インジウムではないことを意味する。また、ターゲット部材間の間隙に、低融点ハンダの金属インジウムが残存する場合があるが、この間隙に残存するインジウムが固化した際には、その表面が酸化することがある。このように接合に用いる低融点ハンダの金属インジウムが間隙において固化する場合、そのインジウム表面には均一な酸化膜を形成することが困難であるため、上記した本発明の保護体としての高抵抗物質と同様な効果を奏することはできない。
【0013】
本発明における分割スパッタリングターゲットは、板状、円筒状のものが対象となる。板状のスパッタリングターゲットは、板状バッキングプレート上に、方形面を有する板状のターゲット部材を複数平面配置して接合したものが対象となる。また、円筒状のスパッタリングターゲットは、円筒状バッキングプレートに、円筒状ターゲット部材(中空円柱)を複数貫通させて、円筒状バッキングプレートの円柱軸方向に多段状に配置して接合したもの、或いは、中空円柱を円柱軸方向に縦割りした湾曲状ターゲット部材を、円筒状バッキングプレートの外側面へ、円周方向に複数並べて、接合したものが対象となる。この板状または円筒状の分割スパッタリングターゲットは、大面積のスパッタリング装置に多用されている。尚、本発明は、板状、円筒状の形状を対象としているが、他の形状の分割スパッタリングターゲットへの適用を妨げるものではなく、ターゲット部材についてもその形状に制限はない。そして、ターゲット部材の組成についても、IGZOやZTOなどの酸化物半導体や透明電極(ITO)やAlなどの金属に適用でき、ターゲット部材の組成にも制限はない。
【0014】
本発明における保護体は、Zn、Ti、Snいずれかの金属箔、或いはZn、Ti、Snのいずれか一種以上を80質量%以上含む合金箔、もしくはセラミックシート或いは高分子シートであることが好ましい。このような金属箔やセラミックシートであれば、In系やSn系金属の低融点ハンダとの反応性が低く、酸化物半導体を成膜する場合では、成膜された酸化物半導体薄膜中へ微量に混入しても、Cuに比べ、TFT素子特性への影響を少なくすることができる。
【0015】
また、高分子シートは、高抵抗物質であるため、スパッタリング時に、ターゲット部材間の間隙におけるスパッタリング現象が抑制され、成膜する薄膜への悪影響を防止することができる。セラミックシートとしては、アルミナやシリカ系のシートを用いることができる。本発明における高分子シートの材質としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂材料や、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの汎用プラスチック材料、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂などの準汎用プラスチック材料などが挙げられる。さらに、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレートなどのエンジニアリングプラスチックやポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックも使用できる。特に、ポリイミド樹脂などはテープ状の材料もあり、耐熱性、絶縁性も高いため、本願発明に適したものである。
【0016】
金属箔またはセラミックシート、或いは高分子シートの厚みは0.0001mm〜1.0mmが好ましい。金属箔またはセラミックシートの幅はターゲット部材間に形成される間隙と同じ、またはそれ以上に広いことが好ましく、作業性などを考慮すると、5.0mm〜20mm幅にすることが好ましい。また、バッキングプレート上にZn、Ti、Snいずれかの金属箔や、Zn、Ti、Snのいずれか一種以上を80質量%以上含む合金箔、もしくはセラミックシート或いは高分子シートを配置する場合、低融点ハンダや導電性両面テープなどを用いて貼付することができる。
【0017】
本発明における保護体は、テープ状の第1保護部材とテープ状の第2保護部材とを積層した構造であることが好ましい。このようなテープ状の保護部材を積層した構造であると、本発明に係る分割スパッタリングターゲットを製造することが容易に行え、ターゲット部材やバッキングプレートの材質にあわせて第1保護部材と第2保護部材との材質を適宜選択して適用することができる。この第1保護部材と第2保護部材とのテープ幅は同等であっても、相違していてもよい。尚、この積層構造の保護体は、第1保護部材がターゲット部材側になり、第2保護部材がバッキングプレート側になる状態で、接合されたターゲット部材間に形成される間隙に沿って配置されることになる。
【0018】
本発明における保護体をテープ状の保護部材により設ける場合、狭幅の第1保護部材と広幅の第2保護部材とを積層し、第1保護部材の両端側に第2保護部材が露出した構造とすることができる。この構造では、広幅の第2保護部材の上に、狭幅の第1保護部材が積層した二層構造となる。ターゲット部材とバッキングプレートとの接合はInやSnなどの低融点ハンダにより行われるが、接合時の加熱処理により保護部材と低融点ハンダとが反応して合金化することが予想される。この接合のための低融点ハンダは繰り返し使用するため、使用頻度が高くなると、保護部材との合金化により、低融点ハンダの組成の変動が生じることになり、ターゲット部材とバッキングプレートとの接合が不十分になったり、接合強度や接合面積に悪影響を及ぼすことが考えられる。そこで、第2保護部材を低融点ハンダと反応しない材料を選択し、その上に低融点ハンダと反応しやすい材料による第1保護部材を設けることで、第1保護部材と低融点ハンダとの接触を抑制して、低融点ハンダの組成変動を防止することが可能となる。
【0019】
本発明において、テープ状の保護部材を積層して保護体を設ける場合、第1保護部材の厚みは0.0001mm〜0.3mmが好ましく、第2保護部材の厚みは0.1mm〜0.7mmが好ましい。第1保護部材と第2保護部材との合計厚みは、0.3mm〜1.0mmとすることが好ましい。また、同幅の第1保護部材と第2保護部材を積層する場合、保護部材の幅は5mm〜30mmにすることが好ましい。そして、狭幅の第1保護部材と広幅の第2保護部材とを積層する場合、第1保護部材の幅はターゲット部材間に形成される間隙と同じ、またはそれ以上に広いことが好ましく、作業性などを考慮すると、5mm〜20mmが好ましい。広幅の第2保護部材の幅は第1保護部材の幅よりも3mm〜10mm広くすることが好ましい。
【0020】
また、本発明における保護体は、第1保護部材と、第1保護部材の両端側に並列配置された第2保護部材とからなる三列構造にすることもできる。このように、第1保護部材の両側に第2保護部材を並列に配置すると、上記した狭幅と広幅の保護部材を積層した二層構造の保護体と同様の効果を奏するものとなる。尚、第1保護部材の両端側とは、テープ状の第1保護部材の長手方向に延びる両端辺のことをいう。この三列構造の保護体とする場合、第1保護部材及び第2保護部材の厚みは、0.0001mm〜1.0mmが好ましい。また、第1保護部材の幅はターゲット部材間に形成される間隙と同じ、またはそれ以上に広いことが好ましく、作業性などを考慮すると、5mm〜20mmが好ましく、第2保護部材の幅は3mm〜10mmが好ましい。
【0021】
本発明における保護体が上記した二層構造或いは三列構造とする場合、第2保護部材を、Cu、Al、Ti、Ni、Zn、Cr、Feのいずれかの単金属またはこれらのいずれかを含む合金からなる金属箔として、第1保護部材を、ターゲット部材に含まれる元素の一種以上を含む単金属または合金もしくはセラミック材料で形成することが好ましい。本発明におけるターゲット部材が酸化物半導体により構成されている場合、ターゲット部材を構成する酸化物半導体に含まれる元素の一種からなる単金属または合金もしくはセラミック材料で第1保護部材を形成することが好ましい。
【0022】
また、本発明における保護体が、上記した二層構造或いは三列構造とする場合、第1保護部材はIn、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Mgのいずれか一種以上を含む酸化物又は窒化物からなるセラミック材料により形成することが好ましい。これらセラミック材料であれば、ターゲット部材と同組成か、或いは一部の組成がターゲット部材と同じとなるので、成膜した際に膜中に混入したとしても、TFT素子特性への影響が小さいからである。また、ZrO、Al、などのセラミック材料であれば、抵抗が高いため、スパッタリングの際に分割部分へのプラズマの進入が抑制され、ZrやAlのスパッタリングが効果的に防止できる。このセラミック材料としては、例えば、In、ZnO、Al、ZrO、TiO、IZO、IGZOなどや、ZrN、TiN、AlN、GaN、ZnN、InNなどが挙げられる。尚、これらセラミック材料は、金属のように箔としての加工が難しいため、蒸着法、スパッタリング法、プラズマ溶射法、塗布法などを利用して第1保護部材を形成することで本発明を適用できる。
【0023】
本発明におけるターゲット部材が酸化物半導体である場合、その酸化物半導体は、In、Zn、Gaのいずれか一種以上を含む酸化物からなるものを用いることができる。具体的には、IGZO(In−Ga−Zn−O)、GZO(Ga−Zn−O)、IZO(In−Zn−O)、ZnOが挙げられる。
【0024】
また、本発明におけるターゲット部材が酸化物半導体である場合、その酸化物半導体はSn、Ti、Ba、Ca、Zn、Mg、Ge、Y、La、Al、Si、Gaのいずれか一種以上を含む酸化物からなるものを用いることができる。具体的には、Sn−Ba−O、Sn−Zn−O、Sn−Ti−O、Sn−Ca−O、Sn−Mg−O、Zn−Mg−O、Zn−Ge−O、Zn−Ca−O、Zn−Sn−Ge−O、または、これらの酸化物のGeをMg、Y、La、Al、Si、Gaに変更した酸化物が挙げられる。
【0025】
そして、本発明におけるターゲット部材が酸化物半導体である場合、その酸化物半導体は、Cu、Al、Ga、Inのいずれか一種以上を含む酸化物からなるものを用いることができる。具体的にはCuO、CuAlO、CuGaO、CuInOが挙げられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、複数のターゲット部材を接合して得られた分割スパッタリングターゲットにおいて、スパッタリングされることにより、バッキングプレートの構成材料が、成膜する薄膜中に混入することを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】分割スパッタリングターゲット概略斜視図。
【図2】本実施形態のバッキングプレートの概略平面図。
【図3】単層の保護体を配置した概略断面図。
【図4】二層構造の保護体を配置した概略断面図。
【図5】異なる幅の保護部材による二層構造の保護体を配置した概略断面図。
【図6】三列構造の保護体を配置した概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明における実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
本実施形態の板状のスパッタリンターゲットは、図1に示すように、Cu製バッキングプレート10に、複数のターゲット部材20を配置して接合したものである。これらのターゲット部材同士の間には、0.1mm〜1.0mmの間隙30が形成されている。
【0030】
図2に示すように、バッキングプレート10の表面には、ターゲット部材同士間に形成される間隙に相当する位置に、保護体50が貼付されている。保護体は、低融点ハンダや導電性両面テープなどを用いて、バッキングプレート10表面に貼付することができる。
【0031】
6枚のターゲット部材は、InやSnの低融点ハンダを用いて、図1に示すように配置して接合される。この接合は、バッキングプレートとターゲット部材とをともに所定温度にまで加熱して、バッキングプレート表面に、溶融した低融点ハンダ(InやSn)を塗布し、ターゲット部材をその低融点ハンダ上に配置し、室温まで冷却することにより行われる。
【0032】
図3には、単層の保護体を用いた場合の断面概略図を示す。単層の保護体50は、厚み0.0001mm〜1.0mmであり、Zn、Ti、Snいずれかの金属箔、Zn、Ti、Snいずれか一種以上を80質量%以上含む合金箔で形成されている。この単層の保護体50の両端側には、Inの低融点ハンダ60が存在した状態となっている。
【0033】
図4には、同幅のテープ状保護部材を積層した二層構造の保護体の断面概略図を示す。二層構造の保護体50は、第1保護部材51と第2保護部材52とから構成されている。そして、この第1保護部材51と第2保護部材との幅は、作業性などを考慮して5mm〜20mmとしている。また、第1保護部材51及び、第2保護部材52の両端側には、Inの低融点ハンダ60が存在した状態となっている。
【0034】
図5には、異なる幅の保護部材を積層した二層構造の保護体の断面概略図を示す。二層構造の保護体50は、第1保護部材51と第2保護部材52とから構成されている。そして、この第1保護部材51の幅は、作業性などを考慮して5mm〜20mmとしており、第2保護部材52の幅は8〜30mmであり、第1保護部材よりも第2保護部材の方が幅は広い。そして、第2保護部材のほぼ中央に第1保護部材51が配置されることにより、第1保護部材の両端側に第2保護部材52が露出した状態となっている。この露出した部分の幅は、両端側のそれぞれの片側で1.5mm〜5mmである。また、第1保護部材51及び、第2保護部材52の両端側には、Inの低融点ハンダ60が存在した状態となっている。
【0035】
図4及び図5で示す第2保護部材52は、厚み0.1mm〜0.7mmであり、Cu、Al、Ti、Ni、Zn、Cr、Feのいずれかの金属箔、これらいずれか一種以上を含む合金箔で形成されている。図4及び図5で示す第1保護部材51は、厚み0.0001mm〜0.3mmであり、ターゲット部材20を構成する元素の一種からなる単金属、ターゲット部材に含まれる元素の一種以上を含む合金、或いは、In、ZnO、Al、ZrO、TiO、IZO、IGZOのいずれかのセラミック材料により形成されている。
【0036】
図4及び図5で示す二層構造の保護体は、例えば、0.3mm厚みのCu箔に、プラズマ溶射によってAl、ZrOのセラミックスを吹き付けることにより作製できる。市販のガスプラズマ溶射装置を用い、厚み0.3mmのCu箔表面に、平均粒径200μmのZrO粉末を原料として、0.0001mm厚のZrOセラミック層が形成できた。また、Alの場合も同様にして作製できた。
【0037】
図6には、三列構造の保護体を用いた場合の断面概略図を示す。三列構造の保護体50は、第1保護部材51の長手方向に延びる両端辺の両側に、第2保護部材52を並列配置した構造とされている。この場合、第1保護部材51の幅は、作業性などを考慮して5mm〜20mmとしており、第2保護部材52の幅は3〜10mmである。図6に示すように、第1保護部材51の両端には第2保護部材が配置され、その第2保護部材52の一端側にはInの低融点ハンダ60が存在した状態となっている。また、第1保護部材及び第2保護部材の厚みは、0.0001mm〜1.0mmである。
【0038】
図3〜図6において保護体として高抵抗物質を用いる場合は、図3の保護体50、図4〜図6における第1保護部材51を高抵抗物質により形成することになる。つまり、図3〜図6において、ターゲット部材、バッキングプレート、低融点ハンダ、保護体(第1保護部材)の中で、保護体(第1保護部材)が最大体積抵抗率値を有することが重要になる。このような高抵抗物質の保護体を用いた分割スパッタリングターゲットは、直流スパッタ法、高周波スパッタ法のいずれにおいても効果を発揮するが、特に直流スパッタ法において好適なものである。
【実施例】
【0039】
以下、具体的な実施例について説明する。製造した分割スパッタリングターゲットは、無酸素銅製のバッキングプレート(厚み30mm、縦630mm、横710mm)と、6枚のIGZO製ターゲット部材(厚み6mm、縦210mm、横355mm)とを接合して製造した。接合用の低融点ハンダはInを用いた。尚、ターゲット部材間の間隙は0.5mmとした。
【0040】
IGZO製ターゲット部材は、In、Ga、ZnOの各原料粉末を1mol:1mol:2molの比率で秤量し、20時間のボールミルによる混合処理をした。そして、バインダーとして4質量%に希釈したポリビニルアルコール水溶液を、粉総量に対して8質量%添加して混合した後、500kgf/cmの圧力で成型した。その後、大気中1450℃、8時間の焼成処理をして板状の焼結体を得た。そして、この焼結体を平面研削機により両面を研磨して、厚み6mm、縦210mm、横355mmのIGZO製ターゲット部材を製造した。
【0041】
単層の保護体としては、厚み0.3mmのZn、Tiの2種類の金属箔を用いた。幅の異なる保護部材を積層した二層構造の保護体としては、厚み0.3mm、幅20mmのCu金属箔を第2保護部材として、厚み0.1mm、幅15mmZn箔を第1帯保護部材として積層したものを用いた。また、もう一つの幅の異なる保護部材を積層した二層構造の保護体として、厚み0.3mm、幅20mmのCu金属箔の第2帯状保護体に、原子比でIn:Ga:Zn=1:1:1の合金ターゲットを用いてスパッタリングにより、0.0001mm厚のIGZ膜(幅15mm)を第1保護部材として形成したものを用いた。さらに、同じ幅の保護部材を積層した二層構造の保護体として、厚み0.3mm、幅20mmのCu金属箔を第2保護部材として、厚み100μmのZrOを第1保護部材として、スパッタリングにより第2保護部材の全幅にわたって被覆したものを用いた。また、ZrOの代わりに、Alを被覆したものも用いた。
【0042】
各分割スパッタリングターゲットを作製し、スパッタ評価試験を行った。このスパッタ評価試験は、スパッタリング装置(SMD−450B、アルバック社製)を用い、無アルカリガラス基板(日本電気硝子社製)に厚み14μmのIGZO薄膜を成膜した。そして、この成膜した基板について、分割スパッタリングターゲットの間隙部分に相当する直上部を基板及び、間隙部分以外の基板を切り出した。切り出した基板について、原子吸光分析によりIGZO薄膜中のCuの混入量を測定してスパッタ評価を行った。その結果を表1に示す。尚、比較として、間隙部分に保護体を配置しいていない分割スパッタリングターゲットについても同様にスパッタ評価試験を行った。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、保護体を設けた場合は、IGZO薄膜へのCuの混入量は2ppm未満(原子吸光分析の検出限界以下)であった。これに対して、保護体を設けていない場合は、IGZO薄膜へのCuの混入量は間隙部分で19ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、分割スパッタリングターゲットを用いて大面積の薄膜を形成する際に、成膜する薄膜への不純物の混入を効果的に防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0046】
10 バッキングプレート
20 ターゲット部材
30 間隙
50 保護体
51 第1保護部材
52 第2保護部材
60 低融点ハンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレート上に、複数のターゲット部材を低融点ハンダにより接合して形成される分割スパッタリングターゲットにおいて、
接合されたターゲット部材間に形成される間隙に沿って、バッキングプレートに保護体を設けたものであり、
ターゲット部材が酸化物半導体であり、保護体が高分子シートであることを特徴とする分割スパッタリングターゲット。
【請求項2】
複数のターゲット部材を低融点ハンダによりバッキングプレート上に接合して形成する、請求項1に記載の分割スパッタリングターゲットの製造方法において、
接合される酸化物半導体のターゲット部材間に形成された間隙に沿って、バッキングプレートに高分子シートの保護体を設け、
複数のターゲット部材を低融点ハンダによりバッキングプレート上に接合することを特徴とする分割スパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127005(P2012−127005A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−66787(P2012−66787)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【分割の表示】特願2012−503151(P2012−503151)の分割
【原出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】