説明

分子線結晶成長装置およびシャッタ機構

【課題】加熱されたセル上へのフレークの落下付着を防止する分子線結晶成長(MBE)装置のシャッタ機構を提供する。
【解決手段】動作時に、セル2の中心軸上で該セル2と対向する位置において蒸発原料を通過させる開口部11を備え、非動作時には、該開口部11以外の部分でセル2上面を覆うシャッタ板1と、シャッタ板1の側面に一体的に取り付けられ、セル2の側面の一部または全体を覆うスカート部4と、シャッタ板1を回転または移動させる駆動軸3と、を有し、シャッタ開の状態でも、セル2の分子線照射開口以外を覆うことを特徴とする分子線結晶成長装置のシャッタ機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子線結晶成長装置およびシャッタ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
分子線結晶成長(Molecular Beam Epitaxy:MBE)装置は、高品質な結晶を製造できるため、半導体レーザやHEMT(High Electron Mobility Transistor :高電子移動度トランジスタ)などの用途として、GaAs等III−V族半導体結晶の製造によく用いられている。
【0003】
MBE装置は、図5に示すように、真空排気装置101に接続された真空容器100内において、高真空下で、分子線源セル(以降、単にセルという)102のルツボ105に充填された原料を内蔵されたヒータ106で加熱することにより発生する蒸気を分子線としてヒータ108で加熱された基板107に照射し、基板107上に薄膜を形成する。
【0004】
基板107を上部に、セル102とシャッタ板103を下部に配置し、シャッタ板103を開閉して基板107上にセル102からの原料(分子線)を供給することで結晶を成長させている。
【0005】
図6に示すように、シャッタ板103の開閉方法は、回転方式とスライド方式がある。どちらの方式も、シャッタ構造としては、シャッタ板103とシャッタ支持棒104からなる構造を有する。回転方式は、シャッタ支持棒104を軸として回転させてシャッタ板103を開閉することによって、ルツボ105からの原料の供給を制御するものである。また、スライド方式は、シャッタ支持棒104を移動軸としてシャッタ板103を一体にルツボ105上を水平にスライドして開閉することによって、ルツボ105からの原料の供給を制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−91492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、MBE装置では、真空容器内壁に基板以外に照射された原料が堆積し、厚くなると剥落する現象がある。従来のシャッタ板の構造では、この剥落した原料(フレークと呼ぶ)が加熱したセルに落下してガスが発生し、成長中の結晶内に不純物として取り込まれて結晶品質を低下させる問題があった。
【0008】
そこで、本発明では、加熱されたセル上へのフレークの落下付着を防止するMBE装置のシャッタ機構を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、動作時に、セルの中心軸上で該セルと対向する位置において蒸発原料を通過させる開口部を備え、非動作時には、該開口部以外の部分でセル上面を覆うシャッタ板と、前記シャッタ板の側面に一体的に取り付けられ、前記セルの側面の一部または全体を覆うスカート部と、前記シャッタ板を回転または移動させる駆動軸と、を有することを特徴とする分子線結晶成長装置のシャッタ機構に関する。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明の一態様によれば、加熱されたセル上へのフレークの落下付着を防止することができ、成長室内の真空度を良い状態で保持できるので不純物の少ない高品質な結晶を製造できる。したがって、この高品質な結晶により、良質なデバイスの製造ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態になるMBE成長装置における回転式シャッタ機構の構造例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態になるMBE成長装置におけるスライド式シャッタ機構の構造例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態になるシャッタ板の開口部の周辺に設けた突起部の基本構造例(逆円錐台形状)を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態になるシャッタ開口部周辺に設けた突起部の変形構造例(多段構造及びホーン形状)を示す図である。
【図5】一般的な分子線結晶成長装置の構成例を示す図である。
【図6】従来のシャッタ部の構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態につき、図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明のMBE成長装置における回転式シャッタ機構の構造例を示す。図1(a)は、分子線が成長基板に向けて照射されるようにシャッタが開かれた状態を上面図及び側面図にて示し、図1(b)は、分子線が成長基板に照射されるのを遮断するようにシャッタが閉じられた状態を上面図及び側面図にて示している。図1(b)のシャッタ閉状態からシャッタ板1の駆動軸3を90度反時計方向に回転させたものが、図1(a)のシャッタ開状態となる。
【0014】
本発明のシャッタ機構は、分子線照射(原料供給)時に、セル2のルツボ21の開口位置に合わせて蒸発原料を通過させる開口部11が設けられ、開口部11以外のセル2の上面を遮蔽するシャッタ板1と、シャッタ板1の側面に取り付けられ、セル2の側面を覆うスカート部4とを有する構造となっている。なお、MBE成長装置における結晶成長は、セル2に備わるルツボ21に充填された原料が、セル2中に内蔵するヒータ22でルツボ21が加熱されることによって蒸発し、成長基板上に分子線として供給されることによってなされる。
【0015】
内蔵するヒータ22によって加熱されたセル2上にフレークが落下しないように、シャッタ板1を単純な板から、シャッタ板1側面にセル2を覆うスカート部4を付加し、シャッタ閉の状態でセル2全体を被覆し、シャッタ開の状態でも、セル2の分子線が照射される開口部以外を覆うシャッタ構造としている。
【0016】
シャッタ板1は、駆動軸3と結合孔12にて接合され、駆動軸3を回転することによってシャッタ開または閉の状態が実現される。
【0017】
スカート部4は、必ずしもシャッタ板1側面全てを覆う必要はなく、上側(例えば、真空容器壁面)からの落下物に対し、セル2が遮蔽できる構造であれば良い。必要最小限のサイズにスカート部4を加工することで、シャッタ板1を軽くでき、高速なシャッタ動作に対応できるようにしている。
【0018】
また、シャッタ板1の成長基板側(図面矢印側)の開口部11の周辺部に突起部(後述)を設け、シャッタ板1の面にフレークが付着しても開閉動作でセル2内にフレークが落下することを防止できる構造としている。
【0019】
以下、シャッタ機構の具体的な構造例を説明する。
【0020】
セル2の外径をΦ40mm, 長さ80mmとし、セル2開口径をΦ10mmとし、シャッタ板1の開閉角度(駆動軸を中心として)を90度とした。また、シャッタ板1とセル2の開口端との距離を5mm、シャッタ板1の開状態および閉状態におけるセル2とスカート部4の距離を5mm以上、回転軸とセル開口中心までの距離を30mmとした。
【0021】
シャッタ板1の形状は、図1(b)の上面図(シャッタ閉)のように、駆動軸3から下に30mmの位置を中心としてΦ50mmの円を描き、同様に、駆動軸3から左横(90度)に30mmの位置を中心としてΦ50mmの円を描き、さらに、同一中心で内径Φ20mmの開口部を設ける。また、駆動軸3を中心としてΦ150mmの円を上記二つのΦ50mmの円とを結ぶように下から左90度まで描き(シャッタ板左下側)、さらに、駆動軸3の右上と上記二つの円Φ50mmとにそれぞれ接線を描き(シャッタ板右上側)、接続した形状が本発明のシャッタ板部の形状となる。さらに、このシャッタ板1の外形の側面に長さ85mmのスカート部を接続している。
【0022】
上述したように、図1(b)のシャッタ閉状態から90度反時計方向にシャッタ板1の駆動軸3を回転させたものが、図1(a)のシャッタ開状態となる。ここでは、シャッタ板1の開閉角度(駆動軸3を中心として)を90度としているが、90度に限定されない。シャッタ板1の駆動によってセル2に対向する開口部11の位置合わせができれば良く、駆動軸3とセル2の開口中心までの距離等と組み合わせて、適宜設定すれば良い。
【0023】
なお、図1では、スカート部4がシャッタ板1の外形側面の一部を覆った構造例を示したが、全側面を覆ったものでも良い。また、シャッタ板1および駆動軸3の材質としては、実施例では、タンタルの板を加工して用いたが、PBN(Pyrolytic Boron Nitride )、またはタンタルとPBNを組み合わせたものでも良い。
【0024】
ここで、シャッタ板1の駆動軸3は、セル2の中心軸の真上に配置され、駆動軸3とシャッタ板1の側面のスカート部4とが一体となるように配置した(図中「上側」と「矢印↑」で表示したように配置)。
【0025】
好適には、駆動軸3とスカート部4は、例えば、溶接などによって接合し一体化した構成とするのが良い。シャッタ板1の駆動軸3がセル2の中心軸の真上にあると、スカート部4と駆動軸3の一体化が容易となる。このように、一体化することによって、シャッタ全体の機械的強度を高くすることができる。
【0026】
図2は、本発明のMBE成長装置におけるスライド式シャッタ機構の構造例を示す。図2(a)は、分子線が成長基板に向けて照射されるようにシャッタが開かれた状態を上面図及び側面図にて示し、図2(b)は、分子線が成長基板に照射されるのを遮断するようにシャッタが閉じられた状態を上面図及び側面図にて示している。図2(b)のシャッタ閉状態からシャッタ板1の駆動軸3を上側の方向にスライドさせた状態が、図1(a)のシャッタ開状態である。
【0027】
ヒータ22が内蔵されたセル2の寸法及び形状は、上述した図1の回転式シャッタ機構の場合と同一のものを用いた。シャッタ板1の形状は、セル2の中心軸でΦ50mmの円を描き、開閉時のスライド距離分ずらしてΦ50mmの円を描き、二つの円の外側を接線で結んでいる。さらに、シャッタ開側に、同一中心で内径Φ20mmの開口部11を設け、このシャッタ板1の外形の側面に長さ85mmのスカート部4を接続している。
【0028】
なお、シャッタ板1は、駆動軸3と結合孔12にて接合され、駆動軸3を回転することによってシャッタ開または閉の状態が実現される。
【0029】
シャッタ板1のスライド距離は40mmとし、シャッタ板1とセル開口端との距離を5mm、シャッタ板1の開時および閉時のセル2とスカート部4の距離を5mm以上とした。図2(a)のシャッタ閉状態から上方向にシャッタを40mmスライドした状態が、図2(b)のシャッタ開状態となる。ここでは、シャッタのスライド距離を40mmとしたが、シャッタ板1の駆動でセル開口を開閉できれば良く、適宜設定すれば良い。
【0030】
なお、図2では、シャッタ板1の開口部11が下側に設けてあるが、シャッタ板1の上側に設けても良い。この場合、シャッタの開閉動作も上下逆になる。また、本実施形態では、シャッタ板1が平行にスライドしているが、図6の従来例に示すような、てこ型のスライドでも良い。ここでは、図1の回転式シャッタ機構と同様に、シャッタ板1および駆動軸3の材質として、タンタルの板を加工して用いたが、PBN、あるいはタンタルとPBNを組み合わせたものでも良い。
【0031】
図3は、本発明のシャッタ板の開口部の周辺に設けた突起部の基本構造例(逆円錐台形状)を示す。図3は、シャッタ板1の面にフレークが付着しても開閉動作でセル2内にフレークが落下することを防止するために、シャッタ板1の成長基板側の開口部11に逆円錐台形状の突起部13を設けた構造例を示している。図3(a)は突起部の上面図を示し、図3(b)は、(a)のA−A’断面図を示している。
【0032】
本実施例の突起部13は、シャッタ板1の内径Φ20mmの開口部11に、成長基板側に向かって逆円錐台形状の突起を設けた構造とした。さらに、突起部13の高さを5mm、突起部13とシャッタ板1との角度αを60度とした。なお、突起部11とシャッタ板1との角度αは、60度に限定されるものではなく、αが90度以下(0°<α≦90°)であれば良い。
【0033】
図4は、本発明のシャッタ開口部周辺に設けた突起部の変形構造例(多段構造及びホーン構造)を示す図である。図4(a)は、逆円錐台形状の突起部13を2段構造にした例を示し、図4(b)は、ホーン形状の突起部13の構造例を示している。
【0034】
図4(a)の突起部13は、図3に示した逆円錐台形状の突起部13が、突起部13a(シャッタ板1と接する側の突起)、13b(上側に重ねた突起)の2段構造を有している。
【0035】
突起部13は、シャッタ板1の内径Φ20mmの開口部11の周辺に、成長基板側に向かって2段構造の突起部(13a、13b)が設けられている。突起部13aとシャッタ板1との角度αが90度以下とし、かつ、突起部13bとシャッタ板1との角度βが90度以下であり、0°<β<α≦90°であることを特徴としている。
【0036】
また、図4(b)の突起部13は、シャッタ板1の内径Φ20mmの開口部11の周辺に、成長基板側に向かってホーン形状の曲面構造を有している。シャッタ板1と接する突起は、シャッタ板1との角度γが90度以下であり、かつ、上部の突起とシャッタ板1との角度δが90度以下であり、0°<δ<γ≦90°であることを特徴としている。実施例では、突起部下とシャッタ板1との角度γを60度、かつ、突起部上とシャッタ板との角度δを30度とした。
【0037】
以上、図3及び図4に示した突起部13は、上述してきた回転方式またはスライド方式のシャッタ機構のいずれにも適用されるものである。
【0038】
ここで、シャッタ板1、スカート部4、および突起部13の一体化は、例えば、同一のタンタル材を用い、溶接などの手法によって実現される。
【0039】
さらに、好適には、シャッタ板1と、スカート部4および突起部13を加熱できるヒータ構造および温度制御機能を付加する(とくに図示していない)と良い。例えば、シャッタ板1にヒータと熱伝対を絶縁して埋設させ、駆動軸3を介して、ヒータに電源を供給する構造とする。この加熱機構によって、シャッタ板1とシャッタ板1に一体化された突起部13及びスカート部4を、成長時以外の時間に、所定温度に加熱し、これらの部品に付着したフレークを除去することが可能となり、シャッタ機構は毎回クリーンな状態が維持されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、分子線結晶成長装置のシャッタ機構技術の分野に適用される。
【符号の説明】
【0041】
1 シャッタ板
2 セル
3 駆動軸
4 スカート部
11 開口部
12 結合孔
13、13a、13b 突起部
21 ルツボ
22 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作時に、セルの中心軸上で該セルと対向する位置において蒸発原料を通過させる開口部を備え、非動作時には、該開口部以外の部分でセル上面を覆うシャッタ板と、
前記シャッタ板の側面に一体的に取り付けられ、前記セルの側面の一部または全体を覆うスカート部と、
前記シャッタ板を回転または移動させる駆動軸と、
を有することを特徴とする分子線結晶成長装置のシャッタ機構。
【請求項2】
前記シャッタ板は、結晶成長基板側の上面において、前記開口部の周辺部に形成された逆円錐台状またはホーン状の突起部を有することを特徴とする請求項1に記載の分子線結晶成長装置のシャッタ機構。
【請求項3】
前記突起部は、多段構造を有し、前記突起部と前記シャッタ板との角度が上面になる程大きく設定されていることを特徴とする請求項2に記載の分子線結晶成長装置のシャッタ機構。
【請求項4】
前記シャッタ板の駆動軸がセル中心軸の真上に配置され、かつ、前記シャッタ板の駆動軸と前記シャッタ板の側面のスカート部とが一体に形成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の分子線結晶成長装置のシャッタ機構。
【請求項5】
前記シャッタ板は、絶縁して埋設されたヒータと熱伝対を備え、前記駆動軸を介して電源を供給することで所定温度に加熱可能としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の分子線結晶成長装置のシャッタ機構。
【請求項6】
動作時に、セルの中心軸上で該セルと対向する位置において蒸発原料を通過させる開口部を備え、非動作時には、該開口部以外の部分でセル上面を覆うシャッタ板と、
前記シャッタ板の側面に一体的に取り付けられ、前記セルの側面の一部または全体を覆うスカート部と、
前記シャッタ板を回転または移動させる駆動軸と、
を有することを特徴とする分子線結晶成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−131660(P2012−131660A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284469(P2010−284469)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】