説明

切削工具とその製造方法および製造装置

【課題】切削工具材料を所定形状に切断する際に、切断面の表面が一様に平滑となり、安定した性能を有する切削工具を提供することができる切削工具の製造技術を提供する。
【解決手段】レーザとして、2つの直線偏光レーザをその偏光方向が直交するように合波したレーザを用いて、切削工具材料を切断する切削工具の製造方法。レーザとして、円偏光レーザを用いる切削工具の製造方法。レーザとして、ランダム偏光レーザを用いる切削工具の製造方法。前記製造方法により製造された切削工具。偏光方向が直交する2つの直線偏光レーザの合波レーザの発生手段と、合波レーザを前記切削工具材料に導く光学系とを備えている切削工具の製造装置。円偏光レーザの発生手段を備えている切削工具の製造装置。ランダム偏光レーザの発生手段を備えている切削工具の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド等を切削工具材料とした切削工具とその製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精密切削加工を行う切削工具は、硬度が高く耐摩耗性に優れたダイヤモンド等を切削工具材料として用いている。また、逃げ面およびすくい面を有し、逃げ面およびすくい面が交わる稜線を切刃稜線としている。そして、レーザ切断加工により切断することにより製造されている(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−25118号公報
【特許文献2】特開2004−344957号公報
【特許文献3】特開2008−229810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の製造方法を用いて製造された切削工具には、表面の平滑さが不十分であるので、切断面の表面の粗さが一様ではなく、切削工具としての性能が安定しないという問題があった。
【0005】
このため、切断面の表面が一様に平滑となり、安定した性能を有する切削工具を提供することができる切削工具の製造技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来の切削工具において、切断面の表面の平滑さが欠けており、表面の粗さが一様ではない原因につき検討した結果、従来のレーザ切断加工の場合、切断時のレーザの走査方向とレーザの偏光方向との関係が、切断面の表面の粗さに影響を与えていることが分かった。
【0007】
具体的には、従来、ダイヤモンド、cBN、超硬材料などの硬い材料をレーザ切断加工する場合には、直線偏光レーザで出力するレーザが用いられている。しかし、レーザの走査方向とレーザの偏光方向との関係を意識して切削していなかったため、レーザの走査方向が切断面の表面の粗さに影響を与えていた。
【0008】
そこで、本発明者は、さらに検討を行った結果、切断面の表面が一様に平滑となり、安定した性能を有する切削工具を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造方法であって、
前記レーザとして、2つの直線偏光レーザをその偏光方向が直交するように合波したレーザを用いて、前記切削工具材料を切断することを特徴とする切削工具の製造方法である。
【0010】
従来、直線偏光の偏光方向と同じ方向に加工物を走査させて加工する場合と直線偏光の偏光方向に対し垂直方向に加工物を走査させて加工する場合とで加工精度に差が生じていた。ところが、上記のようにレーザの走査方向が、前記2つの直線偏光レーザの偏光方向が直交するように合波したレーザを加工物に照射することで、走査される加工物の加工に対して直交した偏光レーザが互いに加工精度を補いあうことで一定の加工精度が得られ、加工物の走査方向を考慮する必要が無くなり、360度いずれの方向に加工物を走査しても一定の加工精度で加工することができる。
【0011】
なお、上記の合波されたレーザは、例えば、2つの直線偏光レーザの内の1つがλ/2波長板を通過することにより、偏光方向を90度回転させた後、残る1つの直線偏光レーザと合波することにより得ることができる。
【0012】
また、本発明は、
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造方法であって、
前記レーザとして、円偏光レーザを用いることを特徴とする切削工具の製造方法である。
【0013】
円偏光レーザは、前記した直線偏光レーザや、それを合波したレーザのように、特定の偏光方向を有していないため、レーザの走査方向の調整が容易になる。しかも、切断面が一様に適切な平滑さを有する切削工具を製造することができる。
【0014】
なお、上記の円偏光レーザは、例えば、前記した合波されたレーザがλ/4波長板を通過することにより得ることができる。
【0015】
また、本発明は、
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造方法であって、
前記レーザとして、ランダム偏光レーザを用いることを特徴とする切削工具の製造方法である。
【0016】
ランダム偏光レーザは、前記した直線偏光レーザや、それを合波したレーザのように、特定の偏光方向を有していないため、レーザの走査方向の調整が容易になる。しかも、切断面が一様に適切な平滑さを有する切削工具を製造することができる。
【0017】
なお、上記のランダム偏光レーザは、例えば、レーザをファイバに入射させて通過させた後、コリメータレンズを通して出力させることにより得ることができる。
【0018】
上記発明は、
前記レーザの波長が532nmまたは355nmであることが好ましい。
【0019】
波長が長すぎると、切削工具材料の加工面の熱変質(黒鉛化)層が深くなる恐れがある。一方、波長が短すぎると、表面吸収が大きくなり加工速度が低下する恐れがある。532nmまたは355nmの波長であれば、これらの問題が発生することがなく好ましい。
【0020】
なお、これらの波長においても、浅い熱変質層が形成されるが、例えば、デフォーカスされたレーザを別途照射する等の方法により容易に除去することができる。
【0021】
波長が532nmのレーザとしてはグリーンレーザが、355nmのレーザとしてはUVレーザが挙げられ、特に、グリーンレーザが好ましい。
【0022】
また、上記発明は、
レーザ入射側の前記切削工具材料の表面と、前記レーザによる前記切削工具材料の加工面とが交差する稜線にホーニング面を形成して切刃稜線とすることが好ましい。
【0023】
レーザ入射側の切削工具材料の表面とレーザによる切削工具材料の加工面とが交差する箇所には、ホーニング面が形成されるという知見を得た。このため、レーザ入射側の切削工具材料の表面とレーザによる切削工具材料の加工面とが交差する稜線を切刃稜線として効率的に適切なホーニング面を有する切刃を形成することができる。
【0024】
また、上記発明は、
前記レーザの入射方向に沿って、レーザの焦点位置に対する切削工具材料の相対位置を調整することにより、前記切刃稜線のホーニング面の曲率を制御することが好ましい。
【0025】
前記レーザの入射方向における前記レーザの焦点位置に対する前記切削工具材料の相対位置を調整することにより、切刃稜線のホーニング加工面(ホーニング面)の曲率を制御することができ、簡単な操作で所望する曲率のホーニング面を得ることができる。
【0026】
また、上記発明は、
互いに平行な複数の走査線に沿って前記レーザを走査させると共に、隣接する走査線間のクロスフィード量を調整することにより、前記切刃稜線のホーニング面の曲率を制御することが好ましい。
【0027】
レーザの強度分布はガウス分布であるため、互いに平行な複数の走査線に沿ってレーザを走査させると共に、隣接する走査線間のクロスフィード量(ずれ量)を調整することにより、切刃稜線のホーニング面の曲率を制御して、容易に所望の曲率のホーニング面を得ることができる。
【0028】
また、上記発明は、
前記レーザのビーム径または集光レンズ焦点距離を調整することにより、前記切刃稜線のホーニング面の曲率を制御することが好ましい。
【0029】
切刃稜線のホーニング面の曲率を制御する手段として、前記したレーザの焦点位置に対する切削工具材料の相対位置の調整や、隣接する走査線間のクロスフィード量の調整の他に、ビーム径や集光レンズ焦点距離の調整も採用することができるため、制御できるパラメータが多くなり、自由度が広くなる。
【0030】
また、上記発明は、
レーザ出射側の前記切削工具材料の下面と前記レーザによる前記切削工具材料の加工面とが交差する稜線を切刃稜線とすることが好ましい。
【0031】
レーザ出射側の切削工具材料の表面とレーザによる切削工具材料の加工面とが交差する箇所には、ホーニング面は形成されないため、切刃稜線がより鋭利になる。このため、レーザ出射側の切削工具材料の表面とレーザによる切削工具材料の加工面とが交差する稜線を切刃稜線とすることにより、鋭い切刃稜線を有する切削工具を製造することができる。
【0032】
また、上記発明は、
前記レーザのパルス幅が10〜80nsであるパルスレーザであることが好ましい。
【0033】
レーザ(パルスレーザ)のパルス幅が短すぎると、加工速度が遅くなる恐れがある。一方、長すぎると、熱変質の領域が大きくなる恐れがある。10〜80nsのパルス幅であれば、これらの問題が発生する恐れがないため好ましい。
【0034】
また、上記発明は、
前記レーザ切断加工を行う際にアシストガスを用いることが好ましい。
【0035】
レーザ切断加工を行う際に、アシストガスを用いると、加工を促進することができると共に、レーザ照射により切削工具材料から飛散した物質がレンズ等に付着することを抑制することができるため、精度の高いレーザ切断加工を行うことができる。なお、アシストガスは、例えば、ノズルを通してレーザが照射されている部分に吹き付けられる。
【0036】
また、上記発明は、
前記アシストガスが、窒素またはアルゴンであることが好ましい。
【0037】
窒素やアルゴンのような不活性ガスは、切削工具材料から気化した物質が対物レンズ等に付着することを抑制するシールドガスとして優れているため、精度の高いレーザ切断加工を行うことができる。
【0038】
また、上記発明は、
前記アシストガスが、酸素または圧縮空気であることが好ましい。
【0039】
酸素や圧縮空気は、レーザ照射により生成される炭化物と酸素を反応させてCOを生成することができるため、切削工具材料に炭化物が付着することを抑制することができる。
【0040】
また、上記発明は、
前記レーザが、対物レンズにより集光されることが好ましい。
【0041】
対物レンズは、通常の凸レンズに比べて焦点距離が短く、集光性が高いため、加工性能が向上し、また、焦点深度も浅くできるため、加工表面粗さの精度が向上する。
【0042】
また、上記発明は、
光学素子を用いて均一に強度分布されたレーザを用いることが好ましい。
【0043】
レーザの強度分布を均一にする光学素子を用いることにより、レーザビーム側面だけでなく、切削工具材料(ワーク)に対し垂直にビームを照射して切断加工することができる。このため、加工できる形状の自由度が広くなる。
【0044】
さらに、本発明は、
上記の製造方法を用いて製造されていることを特徴とする切削工具である。
【0045】
前記の通り、一様に平滑な切断面を有する切削工具を提供することができる。
【0046】
上記発明は、
ダイヤモンドまたはcBNを主成分とする焼結体からなることが好ましい。
【0047】
高硬度のダイヤモンドやcBNを主成分とする焼結体により形成された切削工具は、切削工具としての機能、耐久性に一層優れ、本発明の効果を顕著に発揮することができる。
なお、ここでいう主成分とは、ダイヤモンドやcBNが50wt%超含有されていることをいう。
【0048】
さらに、本発明は、
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造装置であって、
偏光方向が直交する2つの直線偏光レーザの合波レーザの発生手段と、
前記合波レーザを前記切削工具材料に導く光学系と
を備えていることを特徴とする切削工具の製造装置である。
【0049】
前記の通り、レーザ偏光方向が直交するように合波させることにより、切断面の表面を一様に平滑にでき、安定した性能を有する切削工具を容易に製造することができる。なお、切削工具材料を多軸ステージで保持することにより、より効率的な作業ができる。
【0050】
また、本発明は、
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造装置であって、
円偏光レーザの発生手段と、
前記円偏光レーザを前記切削工具材料に導く光学系と
を備えていることを特徴とする切削工具の製造装置である。
【0051】
前記の通り、円偏光レーザを用いることにより、レーザの走査方向の調整が容易になり、しかも、切断面が一様に適切な平滑さを有する切削工具を容易に製造することができる。
【0052】
また、本発明は、
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造装置であって、
ランダム偏光レーザの発生手段と、
前記ランダム偏光レーザを前記切削工具材料に導く光学系と
を備えていることを特徴とする切削工具の製造装置である。
【0053】
前記の通り、ランダム偏光レーザを用いることにより、レーザの走査方向の調整が容易になり、しかも、切断面が一様に適切な平滑さを有する切削工具を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、切断面の表面が一様に平滑となり、安定した性能を有する切削工具とその製造方法および製造装置を提供することができる。また、ホーニング加工性に優れた切削工具を容易に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態の切削工具の製造装置を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の切削工具の製造方法におけるレーザの入射側および出射側の切削工具材料の様子を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態の切削工具の製造方法におけるレーザの走査線とレーザの偏光方向を示す図である。
【図4】切削工具材料の厚さ方向に対するレーザの焦点の位置を調節することによってホーニング面の曲率を制御する方法を説明する横断面図である。
【図5】クロスフィード量を調節することによって逃げ面の曲率を制御する方法を説明する横断面図である。
【図6】レーザのパルス幅と加工性との関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明をその実施の形態に基づいて説明する。
【0057】
1.切削工具
本実施の形態の切削工具は、ボールエンドミルであって、ボールエンドミルの切刃の材料(切削工具材料)としては、ダイヤモンドおよびcBN製の切削工具材料が好ましく用いられる。ボールエンドミルには、複数の切刃が設けられている。なお、切刃は、台座およびシャンクにロウ付けされる。
【0058】
なお、ダイヤモンドについては、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、気相合成ダイヤモンド、バインダレス焼結ダイヤモンド等が用いられる。
【0059】
2.切削工具の製造装置
(1)切削工具の製造装置の全体構成
【0060】
図1は、本発明の実施の形態の切削工具の製造装置を模式的に示す図である。図1に示すように、切削工具の製造装置1は、偏光方向の異なる直線偏光レーザの合波レーザの発生手段Aと、円偏光レーザの発生手段Bと、合波レーザL3を切削工具材料Wに導く光学系3と、多軸ステージ4と、合波レーザL3を構成する一つの直線偏光レーザL1(またはL2)の偏光方向とレーザの走査方向とを一致させる制御手段(図示省略)とを備えている。図2中の太線矢印は、レーザの通過経路およびレーザの進行方向を示している。
【0061】
(2)合波レーザの発生手段
合波レーザの発生手段Aは、2つのレーザ発振器2、2Aと、直線偏光レーザL1の偏光方向を90°変換するλ/2波長板5とを備えている。
【0062】
各レーザ発振器2、2Aから発せられる各直線偏光レーザL1は、電界の方向が直線的に垂直方向を向いた直線偏光である。また、レーザ発振器2から発せられる直線偏光レーザL1は、λ/2波長板5を通過することにより、偏光方向が90度回転して水平方向を向いた直線偏光のレーザL2となる。そして、これらの直線偏光レーザL1、L2を合波させ、この合波レーザL3を光学系3により切削工具材料Wに導き、所定の走査速度で切削工具材料Wの切削が行われる。
【0063】
なお、直線偏光レーザL1としては、本実施の形態では、波長が532nmのグリーンレーザが用いられるが、355nmの波長のUVレーザを用いることも可能である。また、レーザ発振器2、2Aで発生されるパルス幅は、10〜80nsの範囲内で調整される。
【0064】
(3)円偏光レーザの発生手段
円偏光レーザの発生手段Bは、λ/4波長板6と、λ/4波長板6をレーザの光路に進入、退避自在に配置する図外の機構部を備えており、λ/4波長板6を光路中に進入させることにより、合波レーザL3を円偏光させ、この円偏光レーザL4を光学系3により切削工具材料Wに導いて切削工具材料Wの切削が行われる。
【0065】
(4)光学系
光学系3は、ミラー3aおよび対物レンズ3bを備えている。対物レンズ3bは、ミラー3で反射されたパルスレーザを集光して、多軸ステージ4に保持された切削工具材料Wに照射する。
【0066】
(5)多軸ステージ
多軸ステージ4は、切削工具材料Wの台座部W1の端部を保持し、レーザを切削工具材料Wに対して任意の位置に任意の方向から照射し、また、レーザ照射中にレーザの照射位置を走査させるために設けられる。
【0067】
例えば、図1に示す5軸の多軸ステージの場合には、切削工具材料Wを、X軸、Y軸、Z軸方向に並行移動させ、2つの回転軸を中心として回転させながらレーザ切断加工ができるようになっている。また、レーザ照射中にX軸およびY軸方向の並行移動、回転またはこれらを組み合わせることによりレーザの照射位置を走査させることができる。
【0068】
また、Z軸方向に並行移動させることにより、切削工具材料Wの厚さ方向(図1では垂直)のレーザの焦点と切削工具材料3の相対的な位置関係を調節することができる。
【0069】
(6)アシストガス供給手段
切削工具の製造装置1には、アシストガス供給手段(図示省略)が設けられる。具体的には、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスや酸素、圧縮空気等のアシストガスを切削工具材料Wのレーザ照射部分(先端部)W2に吹き付けるノズルとノズルに前記アシストガスを所定の圧力、流量で供給するアシストガス供給装置が設けられる。それにより、レーザ照射により切削工具材料から飛散した物質がレンズ等に付着することを抑制して、精度の高いレーザ切断加工を行うことができる。
【0070】
3.レーザ切断加工方法
次に、切削工具の製造装置1を用いたレーザ切断加工方法について説明する。
【0071】
(1)切断加工
図2は、本発明の実施の形態の切削工具の製造方法におけるレーザの走査線とレーザの偏光方向を示す図である。図2に示すように、四角形状の切刃をレーザ切断加工により製造する場合には、切削工具材料の表面にレーザを繰り返し往復させながら照射して切削工具材料を切断する。レーザは、四角形状の輪郭に沿って走査させる。なお、走査速度としては、0.001〜50mm/秒が好ましい。
【0072】
このとき、合波レーザL3の走査方向、すなわち、切削工具材料Wの切断方向と、合波レーザL3を構成する一つの直線偏光レーザL1(またはL2)の偏光方向とが一致するように制御する。これにより、四角形状の輪郭の全周にわたって平滑に切断加工することができ、良好な性能の切削工具を製造することができる。なお、図2中の矢印は、切削工具材料Wの切断方向と一致する直線偏光レーザの偏光方向(振動方向)を示す。
【0073】
(2)ホーニング加工によるホーニング面の曲率の制御
図3は、本発明の実施の形態の切削工具の製造方法におけるレーザの入射側および出射側の切削工具材料の様子を示す図である。なお、図3中の下向きの矢印はレーザ入射方向を示している。図3に示すように、切削工具材料Wにレーザを照射することにより、レーザ入射側にホーニング面21が形成される。一方、レーザ出射側ではホーニング面が形成されないため、稜線が鋭利になる。
【0074】
そして、上記のようにレーザ入射側に形成されたホーニング面21の曲率を制御する方法としては、デフォーカス量Zを調整する方法と、クロスフィード量(ずれ量)を調節する方法が用いられる。
【0075】
(a)デフォーカス量Zを調整する方法
この方法は、切削工具材料の厚さ方向に対するレーザの焦点の位置を調節する方法である。図4は、デフォーカス量Zを調整してホーニング面21の曲率を制御する方法を模式的に示す断面図である。
【0076】
図4に示すように、レーザの焦点位置に対する切削工具材料の相対位置を調整することにより、切刃稜線のホーニング面21の曲率を制御することができ、焦点が浅い(例えば、Z=+9.5μm)場合には、Z=0(焦点位置)と比べて曲率半径が小さくなり、焦点が深い(例えば、Z=−10.5μm)場合には、Z=0と比べて曲率半径が大きくなる。
【0077】
(b)クロスフィード量を調節する方法
この方法は、互いに平行な複数のレーザ走査線の隣接する走査線間のクロスフィード量(CF量)を調整することにより、切刃稜線のホーニング面の曲率を制御する方法である。図5は、CF量と、ホーニングR部の深さ(加工深さ)および幅(加工幅)との関係を示す図である。図5より、CF量が15μmの場合には、加工深さおよび加工幅はそれぞれ21μmおよび1μmとなる。CF量が30μmの場合には、加工深さおよび加工幅はそれぞれ122μmおよび55μmとなる。これから、CF量の大きさが加工深さおよび加工幅に大きく反映していることが分かる。
【0078】
(3)切刃稜線の選択
上記のように、レーザ入射側にホーニング面が形成されるため、Rのある切刃稜線を形成する場合には、レーザ入射側を切刃稜線とする。また、レーザ出射側にはホーニング面が形成されず、切削工具の表面と切断面との稜線が鋭利になるため、鋭利な切刃稜線を形成する場合には、レーザ入射側を切刃稜線とする。
【実施例】
【0079】
(実施例および比較例)
1.切削工具製造装置
本実施例および比較例においては、図1に示す切削工具製造装置を用いた。レーザ発生装置には、波長532nm、14W、パルス幅23nsのQスイッチパルスYVOレーザ2台を用いた。対物レンズ(集光レンズ)には5倍対物レンズ(ミツトヨ社製、M Plan Apo Nir 5× 焦点距離40mm)を用いた。また、アシストガスには窒素を用いた。
【0080】
2.切削工具材料(切削工具材料)
切削工具材料には厚さ0.7mmの単結晶ダイヤモンドを用いた。
【0081】
3.レーザ切断加工
(1)実施例は、単結晶ダイヤモンドからなる切削工具材料を、円偏光レーザを用いて、四角形状にレーザ切断加工を行った例である。
【0082】
(2)比較例は、単結晶ダイヤモンドからなる切削工具材料を、一つの直線偏光のレーザを用いて、四角形状にレーザ切断加工を行った例である。なお、比較例では、四角形状の一辺部を、レーザの走査方向をレーザの偏光方向に対し垂直方向と一致させて切断し、この一辺部と隣接する他の辺部では、レーザの走査方向をレーザの偏光方向に交差させて切断した。
【0083】
4.加工面粗さの測定
(1)測定方法
レーザ顕微鏡を用いて実施例および比較例の試料の加工面粗さRz(十点平均粗さ:μm)を測定した。
【0084】
(2)測定結果
測定結果を表1に示す。なお、表1においては、レーザの偏光方向に並行な方向をX軸とし、X軸に垂直な方向をY軸としている。
【0085】
【表1】

【0086】
表1から、実施例においては、X軸方向の加工面、Y軸方向の加工面共に加工面粗さRzが充分に小さいことが分かる。なお、実施例、比較例共に、Y軸方向については加工面粗さRzがX軸方向のものよりも良くなったのは、レーザ偏光方向(磁場振動面)に対し、垂直方向(電場振動面)の方が、加工速度が速いためであると考えられる。
【0087】
5.レーザのパルス幅と加工性との関係
次に、レーザのパルス幅を種々変更して、切断面の平滑性との関係を調べた。その結果、パルス幅が10〜80nsの場合には、熱変質層の生成が無く、狭くかつ深い加工幅を形成することができ、平滑性に優れた切断面を形成できることが分かった。
【0088】
図6に、測定結果の一部を示す。図6(a)に示すように、出力12W、波長532nm、周波数10kHz、パルス幅20nsのレーザの場合には、狭くかつ深い加工幅が形成されており、平滑性に優れた切断面を形成することができる。一方、図6(b)に示すように、出力5.6W、波長532nm、周波数6kHz、パルス幅90nsのレーザの場合には、浅くかつ広い加工幅が形成されているため、平滑性に優れた切断面を形成することができない。
【0089】
6.クロスフィード量とホーニング加工性との関係
次に、レーザ走査線の隣接する走査線間のクロスフィード量を種々変更して、ホーニングR部曲率(稜線曲率)(計算値)との関係を調べた。その結果、表2に示すように、クロスフィード量が小さくなるに従い稜線曲率が大きくなることが分かった。このことから、クロスフィード量を調整することにより、切削工具の稜線曲率を調整できることが可能であることが分かった。
【0090】
【表2】

【0091】
7.デフォーカス量とホーニング加工性との関係
次に、レーザ走査線のデフォーカス量を種々変更して、ホーニングR部曲率(稜線曲率)(測定値)との関係を調べた。その結果、表3に示すように、デフォーカス量が大きくなるに従い稜線曲率が大きくなることが分かった。このことから、デフォーカス量を調整することにより、切削工具の稜線曲率を調整できることが可能であることが分かった。
【0092】
【表3】

【0093】
8.レーザビーム径及びレンズ焦点距離とホーニング加工性との関係
次に、レーザビーム径とレンズ焦点距離を種々変更して、ホーニングR部曲率(稜線曲率)(計算値)との関係を調べた。その結果、表4に示すように、レーザビーム径が小さくなるに従い加工稜線曲率が大きくなり、また、レンズ焦点距離が小さくなるに従い加工稜線曲率が小さくなることが分かった。このことから、レーザビーム径及びレンズ焦点距離を調整することにより、切削工具の稜線曲率を調整できることが可能であることが分かった。
【0094】
【表4】

【0095】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 切削工具の製造装置
2、2A レーザ発生装置
3 光学系
3a ミラー
3b 対物レンズ
4 多軸ステ−ジ
5 1/2λ波長板
6 1/4λ波長板
21 ホーニング面
A 合波レーザの発生手段
B 円偏光レーザの発生手段
L1、L2 直線偏光レーザ
L3 合波レーザ
L4 円偏光レーザ
W 切削工具材料
W1 切削工具材料の台座部
W2 切削工具材料のレーザ照射部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造方法であって、
前記レーザとして、2つの直線偏光レーザをその偏光方向が直交するように合波したレーザを用いて、前記切削工具材料を切断することを特徴とする切削工具の製造方法。
【請求項2】
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造方法であって、
前記レーザとして、円偏光レーザを用いることを特徴とする切削工具の製造方法。
【請求項3】
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造方法であって、
前記レーザとして、ランダム偏光レーザを用いることを特徴とする切削工具の製造方法。
【請求項4】
前記レーザの波長が532nmまたは355nmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の切削工具の製造方法。
【請求項5】
レーザ入射側の前記切削工具材料の表面と、前記レーザによる前記切削工具材料の加工面とが交差する稜線にホーニング面を形成して切刃稜線とすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の切削工具の製造方法。
【請求項6】
前記レーザの入射方向に沿って、レーザの焦点位置に対する切削工具材料の相対位置を調整することにより、前記切刃稜線のホーニング面の曲率を制御することを特徴とする請求項5に記載の切削工具の製造方法。
【請求項7】
互いに平行な複数の走査線に沿って前記レーザを走査させると共に、隣接する走査線間のクロスフィード量を調整することにより、前記切刃稜線のホーニング面の曲率を制御することを特徴とする請求項5に記載の切削工具の製造方法。
【請求項8】
前記レーザのビーム径または集光レンズ焦点距離を調整することにより、前記切刃稜線のホーニング面の曲率を制御することを特徴とする請求項5に記載の切削工具の製造方法。
【請求項9】
レーザ出射側の前記切削工具材料の下面と前記レーザによる前記切削工具材料の加工面とが交差する稜線を切刃稜線とすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の切削工具の製造方法。
【請求項10】
前記レーザのパルス幅が10〜80nsであるパルスレーザであることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の切削工具の製造方法。
【請求項11】
前記レーザ切断加工を行う際にアシストガスを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の切削工具の製造方法。
【請求項12】
前記アシストガスが、窒素またはアルゴンであることを特徴とする請求項11に記載の切削工具の製造方法。
【請求項13】
前記アシストガスが、酸素または圧縮空気であることを特徴とする請求項11に記載の切削工具の製造方法。
【請求項14】
前記レーザが、対物レンズにより集光されることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の切削工具の製造方法。
【請求項15】
光学素子を用いて均一に強度分布されたレーザを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれか1項に記載の切削工具の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造されていることを特徴とする切削工具。
【請求項17】
ダイヤモンドまたはcBNを主成分とする焼結体からなることを特徴とする請求項16に記載の切削工具。
【請求項18】
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造装置であって、
偏光方向が直交する2つの直線偏光レーザの合波レーザの発生手段と、
前記合波レーザを前記切削工具材料に導く光学系と
を備えていることを特徴とする切削工具の製造装置。
【請求項19】
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造装置であって、
円偏光レーザの発生手段と、
前記円偏光レーザを前記切削工具材料に導く光学系と
を備えていることを特徴とする切削工具の製造装置。
【請求項20】
レーザを走査させることにより切削工具材料を所定形状に切断して切削工具を製造する切削工具の製造装置であって、
ランダム偏光レーザの発生手段と、
前記ランダム偏光レーザを前記切削工具材料に導く光学系と
を備えていることを特徴とする切削工具の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−110963(P2012−110963A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159195(P2011−159195)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】