説明

切削工具

【課題】 高い耐欠損性と耐摩耗性を有する切削工具を提供する。
【解決手段】 希土類金属(RE)をRE換算量で0.1〜3質量%、アルミニウム(Al)をAl換算量で0〜0.6質量%、マグネシウム(Mg)をMgO換算量で0〜1質量%、酸素を0〜2.5質量%の割合で含有する窒化珪素質焼結体からなる基体の表面に、Ti1−a−b−c−dAlSi(C1−x)(ただし、MはNb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上であり、0.45≦a≦0.55、0.01≦b≦0.1、0≦c≦0.05、0.01≦d≦0.1、0≦x≦1である。)の被覆層が被着形成されている切削工具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基体の表面に被覆層が成膜されている切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、切削工具や耐摩部材、摺動部材といった耐摩耗性や摺動性、耐欠損性を必要とする部材では、超硬合金やサーメット等の焼結合金、ダイヤモンドやcBN(立方晶窒化硼素)の高硬度焼結体、アルミナや窒化珪素等のセラミックスからなる基体の表面に被覆層を成膜して、耐摩耗性、摺動性、耐欠損性を向上させる手法が使われている。中でも、セラミック工具は安価で耐摩耗性に優れることから高硬度材料の切削に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、イットリア(Y)を0.2重量%以上、マグネシア(MgO)を0.2重量%、両者の合計が3.5重量%以下であり、酸素を1.3〜3.5重量%の割合で含有する窒化珪素質焼結体からなる切削工具が開示され、多孔度を0.2容量%以下に緻密化できることが記載されている。
【0004】
また、かかる窒化珪素質焼結体の表面に被覆層を形成した切削工具も開発されている。例えば、特許文献2では、窒化珪素質焼結体の表面をTiAlNからなる被覆層で被覆した切削工具が開示されている。さらに、被覆層についても種々の開発が進められており、特許文献3では、基体の表面に(TiNbSi)N組成でNbとSiの比率が異なる2層を積層した構成の被覆層について開示されている。
【特許文献1】特表平8−503664号公報
【特許文献2】特開平4−201003号公報
【特許文献3】特開2005−199420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、窒化珪素質焼結体からなる基体の表面にTiAlN被覆層を形成した特許文献2、および窒化珪素質焼結体からなる基体の表面に(TiNbSi)N被覆層を形成した特許文献3のいずれにおいても、さらなる切削性能の向上が求められていた。
【0006】
そこで、本発明の切削工具は、窒化形素質焼結体を基体として、さらに長寿命な切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の切削工具は、希土類金属(RE)をRE換算量で0.1〜3質量%、アルミニウム(Al)をAl換算量で0〜0.6質量%、マグネシウム(Mg)をMgO換算量で0〜1質量%、酸素を0〜2.5質量%の割合で含有する窒化珪素質焼結体からなる基体の表面に、Ti1−a−b−c−dAlSi(C1−x)(ただし、MはNb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上であり、0.45≦a≦0.55、0.01≦b≦0.1、0≦c≦0.05、0.01≦d≦0.1、0≦x≦1である。)の被覆層が被着形成されているものである。
【0008】
ここで、上記構成において、前記窒化珪素質焼結体中に、さらにタングステン(W)をWSi換算で0.1〜2質量%の割合で含有していることが望ましい。
【0009】
また、上記構成において、前記基体と前記被覆層との界面の粗さが0.3〜2μmであることが望ましい。
【0010】
さらに、前記被覆層の厚みが0.5〜2μmであることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の切削工具に用いられるTi1−a−b−c−dAlSi(C1−x)(ただし、MはNb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上であり、0.45≦a≦0.55、0.01≦b≦0.1、0≦c≦0.05、0.01≦d≦0.1、0≦x≦1である。)の被覆層は耐酸化性が高いので、切削時の熱によって切刃表面が酸化されてクレータ摩耗が進行するのを抑制できる。
【0012】
また、上記被覆層は硬度が高くかつ内部応力が小さいものであり、しかも本発明の窒化形素質焼結体からなる基体との密着性もよいので、本発明の切削工具は耐摩耗性と耐チッピング性に優れたものとなる。
【0013】
ここで、上記構成において、前記窒化珪素質焼結体中に、さらにタングステン(W)をWSi換算で0.1〜2質量%の割合で含有していることが、被覆層との密着性を高めるために望ましく、また、この成分を添加すると焼結体の色を黒色または灰色に制御することができる。
【0014】
また、前記基体と前記被覆層との界面の表面粗さが0.3〜2μmであることが、被覆層を安定して形成できるとともに被覆層との密着性を高めるために望ましい。
【0015】
さらに、前記被覆層の厚みが0.5〜2μmであることが望ましく、この厚みであっても被覆層が内部応力によって破壊することなく耐欠損性が高く、しかも耐摩耗性も高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の切削工具の一例について、図1の(a)概略斜視図および(b)概略断面図を基に説明する。
【0017】
図1(a)のように、本発明の切削工具(以下、単に工具と略す。)1は、すくい面2と逃げ面3との交差稜線が切刃4である形状をなし、かつ図1(b)に示すように、窒化形素質焼結体からなる基体(以下、単に基体と略す。)6の表面に被覆層7を成膜した構成となっている。
【0018】
基体6は、希土類金属(RE)をRE換算量で0.1〜3質量%、アルミニウム(Al)をAl換算量で0〜0.6質量%、マグネシウム(Mg)をMgO換算量で0〜1質量%、酸素を0〜2.5質量%の割合で含有する窒化珪素質焼結体からなる。この組成によって、基体6自体の塑性変形性が向上して切刃における耐摩耗性が改善されるとともに本発明の被覆層7との密着性が高いものである。
【0019】
すなわち、希土類金属(RE)の含有量がRE換算量で0.1質量%よりも少ないと、基体6と被覆層7との密着性が悪くなって耐欠損性が低下する。逆に、希土類金属(RE)の含有量がRE換算量で3質量%よりも多いと基体6の耐塑性変形性が悪くなって工具1の耐摩耗性が低下する。また、アルミニウム(Al)の含有量がAl換算量で0.6質量%より多い場合、マグネシウム(Mg)の含有量がMgO換算量で1質量%より多い場合、酸素の含有量が2.5質量%よりも多い場合には、いずれも基体6の耐塑性変形性が低下して工具1の耐摩耗性が低下する。
【0020】
ここで、窒化珪素質焼結体は、窒化珪素の結晶粒子と、希土類金属、アルミニウム、マグネシウム、珪素、酸素及び窒素を含む非晶質の粒界相とを含み、顕微鏡で観察した写真で確認される粒界相の存在割合は5面積%以下であることが望ましい。
【0021】
また、上記粒界相形成成分の望ましい含有比率は、希土類金属(RE)がRE換算量で1〜2質量%、アルミニウム(Al)がAl換算量で0.2〜0.6質量%、マグネシウム(Mg)がMgO換算量で0.2〜0.8質量%、酸素が0.2〜1.5質量%である。さらに、希土類金属(RE)としては、イットリウム(Y)、ランタン(La)、イッテリビウム(Yb)、エルビウム(Er)が特に好適に採用でき、中でもランタン(La)を含有することが、窒化珪素粒子を微粒化して焼結体の硬度を高めるために望ましい。
【0022】
ここで、前記窒化珪素質焼結体中には、さらにタングステン(W)をWSi換算で0.1〜2質量%の割合で含有していることが、被覆層7との密着性を高める点で望ましい。
【0023】
ここで、窒化珪素質焼結体中に含有される窒化珪素粒子は針状結晶として存在することが、基体6の靭性を高めて切削工具としての耐欠損性を向上させるために望ましい。また、針状結晶のサイズは、耐摩耗性、強度の点から平均粒径が0.1〜0.8μm、望ましくは0.2〜0.7μmであり、平均アスペクト比が1.2〜4、望ましくは1.5〜3.5であることが望ましい。また、タングステン(W)はWSi粒子として存在し、平均粒径0.2〜3μm、望ましくは0.5〜1μmの範囲にあることが、被覆層7との密着力の点で望ましい。また、窒化珪素粒子やWSi粒子等の上記化合物粒子の粒径測定は、窒化珪素質焼結体を切断して鏡面研磨を行い、研磨面を所望によりエッチングした面について行う。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察を行い、その写真について画像解析装置により100個以上の粒子の形状を観察する。なお、粒子が針状となる窒化珪素粒子の場合には各粒子についてその粒子の重心を通る直線を引いてその長さを測定する。そして、角度を2°づつ変えながら1周分についてそれぞれの線分長さを測定し、その平均値を平均粒径として計算する。また、この線分のうちで最も長い線分長さをその粒子の長軸径とし、100個以上の粒子の長軸径を測定してその平均を平均長軸径とする。また、長軸に対して垂直方向で最も幅が大きい部分の線分長さをその粒子の短軸径とし、上記各粒子の短軸径を測定して平均短軸径を見積もる。そして、各粒子について長軸径/短軸径の比率をその粒子のアスペクト比として算出し、これらの平均値である平均アスペクト比を見積もる。
【0024】
ところで、基体6と被覆層7との界面の表面粗さが0.3〜2μmであることが、被覆層7を安定して均一に形成できるとともに被覆層7との密着性を高めるために望ましい。
【0025】
また、被覆層7の厚みが0.5〜2μmであることが望ましく、この厚みであれば被覆層7が内部応力によって破壊することなく耐欠損性が高く、しかも耐摩耗性も高いのである。
【0026】
一方、被覆層7は、Ti1−a−b−c−dAlSi(C1−x)(ただし、MはNb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上であり、0.45≦a≦0.55、0.01≦b≦0.1、0≦c≦0.05、0.01≦d≦0.1、0≦x≦1である。)にて構成されている被覆層8を具備している。
【0027】
被覆層8の組成領域では酸化開始温度が高いので耐酸化性が高く、工具1の切削時の耐摩耗性が向上する、特に焼入鋼等の難削材を加工する際のクレータ摩耗の進行を抑制できる。しかも、被覆層8に内在する内部応力を低減することができるので、切刃4の先端に発生しやすいチッピングが抑制できて耐欠損性が高いものとなる。
【0028】
すなわち、a(Al組成比)が0.45よりも少ないと被覆層8の耐酸化性が低下してしまい、a(Al組成比)が0.55よりも多いと被覆層8の結晶構造が立方晶から六方晶に変化する傾向があり硬度が低下する。aの特に望ましい範囲は0.48≦a≦0.52である。また、b(W組成比)が0.01よりも少ないと被覆層8の内部応力が高くて耐欠損性が低下するとともに、基体6と被覆層8との密着性が低下して切削中にチッピングや被覆層7の剥離が発生しやすくなり、b(W組成比)が0.1よりも多いと被覆層8の硬度が低下する。bの特に望ましい範囲は0.01≦b≦0.08である。さらに、c(Si組成比)が0.05よりも多いと被覆層8の硬度が低下する。cの特に望ましい範囲は0.01≦c≦0.04である。また、d(M組成比)が0.01よりも少ないと酸化開始温度が低くなってしまい、d(M組成比)が0.1よりも多いと金属Mの一部が立方晶とは別の低硬度相として存在して被覆層8の硬度が低下する。dの特に望ましい範囲は0.01≦d≦0.08である。
【0029】
なお、金属MはNb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上であるが、中でもNbまたはMoを含有することが耐摩耗性・耐酸化性に最も優れる点があるから望ましい。
【0030】
また、上記被覆層8の非金属成分であるC、Nは切削工具に必要な硬度および靭性に優れたものであり、被覆層8の表面に発生するドロップレット(粗大粒子)を抑制するために、x(C組成比)の特に望ましい範囲は0≦x≦0.5である。ここで、本発明によれば、上記被覆層8の組成は、エネルギー分散型X線分光分析法(EDX)またはX線光電子分光分析法(XPS)にて測定できる。
【0031】
また、上記被覆層8は内部応力がさほど高くないものであるから厚膜化しても被覆層7がチッピングしにくく、焼結助剤量が少なくて靭性がさほど高くない本発明の窒化珪素質焼結体において被覆層8の膜厚が0.5〜2μmであっても、被覆層8自身の内部応力によって剥離やチッピングすることを防止できて十分な耐摩耗性を維持することができる。被覆層8の膜厚の望ましい範囲は0.5〜1.5μmである。
【0032】
さらに、被覆層(全体)7は、被覆層8と、AlN、周期表第4、5および6族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物のうち1つから選ばれる他の被覆層9との2層以上の多層とすることが耐チッピング性を向上させる点で望ましい。なお、被覆層7の膜厚(被覆層8と他の被覆層9との総膜厚)が0.5〜2μmであることが、被覆層8の膜剥離やチッピングを防止し、十分な耐摩耗性を維持することができるため望ましい。なお、高硬度材加工用の切削工具として用いる場合には被覆層7の厚みが1μm〜2μmであり、鋳鉄加工用の切削工具として用いる場合には被覆層7の厚みが0.5μm〜1.5μmであることが望ましい。
【0033】
ここで、基体6と被覆層7との界面粗さが0.3〜2μmであることが、被覆層7の密着性を高めるために望ましい。なお、本発明における界面粗さとは、走査型電子顕微鏡により基体と被覆層との界面付近を観察して界面の凹凸をトレースし、このトレースした線をJISB0601−2001に規格された算術平均高さ(Ra)の算出方法に準拠して算出した値である。ここで、算術平均高さ(Ra)の算出に用いるトレースした線の長さ(カットオフ値)は10μm以上とする。
【0034】
(製造方法)
次に、上述した切削工具の製造方法について、その好適な例を挙げて説明する。
【0035】
まず、出発原料として、例えば、窒化珪素粉末と、所定の焼結助剤粉末とを準備する。また、必要に応じて珪化タングステン(WSi)を形成する粉末を準備する。
【0036】
窒化珪素の原料粉末は、α−窒化珪素、β−窒化珪素、又はこれらの混合物のいずれも用いることができる。これらの粒径は、1μm以下、特に0.5μm以下であることが好ましい。また、ランタンを供給源として用いる際は、酸化ランタン粉末を用いても良いが、酸化ランタンは吸湿性が高いため、水酸化ランタン等のように吸水性が低く、焼成過程で酸化ランタンとなる化合物を用いることが好ましい。また、希土類金属成分としてはもちろんランタン(La)以外の金属成分でもよい。
【0037】
また、珪化タングステン(WSi)を形成する原料粉末としては、酸化タングステン粉末または炭化タングステン粉末を用いることが望ましいが、珪化タングステン(WSi)粉末も使用可能である。
【0038】
これらの原料粉末を、所定の組成となるように調合して、アトライタミル等の公知の粉砕手段を用いて混合、粉砕する。そして、この混合粉末に適宜バインダや溶剤を添加し、スプレードライ法等により造粒する。
【0039】
次に、上記造粒粉末を用いて、例えば金型プレス成形、鋳込み成形、押出成形、射出成形、冷間静水圧プレス成形等の公知の成形手段により所定の工具形状に成形する。その後、この成形体を公知の焼成手段、例えば窒素雰囲気中での常圧焼成法、ガス圧力焼成法、ホットプレス法等により1650〜1800℃の温度で焼成することにより本発明の窒化珪素質焼結体を得ることができる。
【0040】
なお、この焼成に用いる雰囲気は、窒素を主体とするもので、窒化珪素質焼結体が焼成工程で酸化しない範囲で微量の酸素を含む場合もある。また、原料の窒化珪素粉末中にも不可避の酸素が含まれており、焼成時にこれがシリカ(SiO)となって焼結助剤として存在する。さらに、窒化珪素質成形体とともに焼成中にSiOやMgOなどの成分を蒸発させて焼成雰囲気を調整するための焼成雰囲気調整粉末を存在させる場合もある。また、焼成温度や雰囲気によっては、成形体中の焼結助剤成分が揮発する場合があるが、その場合には揮発する分を予め原料中に増加させて調合する。
【0041】
上記焼成によって緻密な窒化珪素質焼結体が得られるが、相対密度を高める必要がある場合には、さらに、圧力5MPa〜300MPa、温度1500〜1700℃の条件で熱間性水圧プレス焼成を施すこともできる。
【0042】
次に、上記焼結体を所望により研削加工した後、この基体6の表面に被覆層7を成膜する。被覆層8の成膜方法として、イオンプレーティング法やスパッタリング法等の物理蒸着(PVD)法が好適に適応可能である。成膜方法の一例についての詳細として、被覆層8をイオンプレーティング法で作製する場合について説明すると、金属チタン(Ti)、金属アルミニウム(Al)、金属タングステン(W)、金属シリコン(Si)、金属M(MはNb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上)をそれぞれ独立に含有する金属ターゲットまたは複合化した合金ターゲットに用い、アーク放電やグロー放電などにより金属源を蒸発させイオン化すると同時に、窒素源の窒素(N)ガスや炭素源のメタン(CH)/アセチレン(C)ガスと反応させて成膜する。
【0043】
なお、イオンプレーティング法やスパッタリング法で被覆層8を成膜する際には、被覆層8の結晶構造および配向性を制御して高硬度な被覆層を作製できるとともに基体6との密着性を高めるために成膜時に30〜200Vのバイアス電圧を印加することが好ましい。
【実施例1】
【0044】
窒化珪素(Si)粉末、希土類金属酸化物(RE)粉末、水酸化マグネシウム(Mg(OH))粉末、アルミナ(Al)粉末および酸化タングステン(W)粉末を用いて、焼結体の組成が表1の組成となるように調合し、この混合粉末を、アルミナ製ボールを用いたボールミルで72時間混合した。次に混合した粉体を圧力98MPaでJIS・SNGA120408のスローアウェイチップ形状にプレス成形した。この成形体を脱バインダ処理した後、窒素(N)ガス雰囲気中、1780℃で焼成して窒化珪素質焼結体を得た。そして、この窒化珪素質焼結体の両主面を研削加工するとともに、基体の切刃部分に対してダイヤモンドホイールを用いて刃先処理を施して、切刃先端にすくい面側から見て0.20mm幅で角度20°のチャンファホーニングを形成した。
【0045】
このようにして作製した基体に対して、アークイオンプレーティング法により被覆層の成膜を行った。具体的な成膜方法は、上記基体をアークイオンプレーティング装置にセットし500℃に加熱した後、窒素ガスを圧力4Pa導入した雰囲気中、アーク電流100A、バイアス電圧50V、加熱温度500℃として表2に示す組成の被覆層を成膜した。
【0046】
また、被覆層の組成はキーエンス社製走査型電子顕微鏡(VE8800)を用いて倍率500倍にて観察を行い、同装置に付随のEDAXアナライザ(AMETEK EDAX−VE9800)を用いて加速電圧15kVにてエネルギー分散型X線分光分析(EDX)法の一種であるZAF法により組成の定量分析を行った。また、この方法で測定できなかった元素については、PHI社製X線光電子分光分析装置(Quantum2000)を用い、X線源はモノクロAlK(200μm、35W、15kV)を測定領域約200μmに照射して測定を行い、より正確な組成を算出した。また、上記走査型電子顕微鏡により基体と被覆層との界面付近を観察して界面の凹凸をトレースし、このトレースした線をJISB0601−2001に規格された算術平均高さ(Ra)の算出方法に準拠して界面の粗さを見積もった。測定結果は表2に被覆層の組成として示した。
【0047】
さらに、基体の断面鏡面研磨面について、走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察を行い、その写真について画像解析装置(日本ローパー社製イメージプロプラス)により平均粒径とアスペクト比を見積もった。
【0048】
次に、得られた切削工具形状のスローアウェイチップ(切削工具)を用いて以下の切削条件にて切削試験を行った。結果は表2に合わせて示した。
【0049】
切削方法:外周加工
被削材 :FCD450スリーブ材
切削速度:500m/分
送り :0.5mm/rev
切り込み:2mm
切削状態:湿式
評価方法:上記の条件で50秒間切削後の切刃の状態確認とノーズ摩耗幅を測定。
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1、2に示される結果から、基体である窒化珪素質焼結体中の希土類金属(RE)の含有量がRE換算量で0.1質量%よりも少ない試料No.10では、フレーキングが発生した。まら、希土類金属(RE)の含有量がRE換算量で3質量%よりも多い試料No.11、アルミニウム(Al)の含有量がAl換算量で0.6質量%より多い試料No.12、マグネシウム(Mg)の含有量がMgO換算量で1質量%より多い試料No.13、酸素の含有量が2.5質量%よりも多い試料No.14では、いずれも摩耗幅が大きかった。
【0052】
また、a(Al組成比)が0.55よりも大きい試料No.19では被覆層の結晶構造が一部立方晶から六方晶に変化してしまい工具の耐摩耗性が悪くなってクレータ摩耗が進行した。逆に、a(Al組成比)が0.45よりも小さい試料No.24でも被覆層の酸化開始温度が低く工具の耐摩耗性が悪くてクレータ摩耗が進行した。そして、Wを含まずにb(W組成比)が0である試料No.17、18では工具にフレーキングが発生してしまい、逆に、b(W組成比)が0.1を超える試料No.20では工具の耐摩耗性が悪く、いずれも工具寿命の短いものであった。さらに、c(Si組成比)が0.05を超える試料No.23でも工具の耐摩耗性が悪くてクレータ摩耗が進行した。また、M(Nb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上)を含有しない試料No.15、16、18、21では、酸化開始温度が低下して切削した際に工具の摩耗量が大きく、逆に、d(M組成比)が0.1を超える試料No.22でも耐摩耗性が低下してクレータ摩耗が進行し工具寿命の短いものであった。
【0053】
これに対し、硬質層の組成が本発明の範囲内の試料No.1〜9では、耐酸化性が向上して優れた耐摩耗性を発揮するとともに耐欠損性も良好であり、その結果、工具寿命が長いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の切削工具の一例を示し、(a)概略斜視図および(b)概略断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 切削工具(工具)
2 すくい面
3 逃げ面
4 切刃
6 基体(窒化珪素質焼結体からなる基体)
7 被覆層(全体)
8 被覆層
9 他の被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属(RE)をRE換算量で0.1〜3質量%、アルミニウム(Al)をAl換算量で0〜0.6質量%、マグネシウム(Mg)をMgO換算量で0〜1質量%、酸素を0〜2.5質量%の割合で含有する窒化珪素質焼結体からなる基体の表面に、Ti1−a−b−c−dAlSi(C1−x)(ただし、MはNb、Mo、Ta、Hf、Yから選ばれる1種以上であり、0.45≦a≦0.55、0.01≦b≦0.1、0≦c≦0.05、0.01≦d≦0.1、0≦x≦1である。)の被覆層が被着形成されている切削工具。
【請求項2】
前記窒化珪素質焼結体中に、さらにタングステン(W)をWSi換算で0.1〜2質量%の割合で含有している請求項1記載の切削工具。
【請求項3】
前記基体と前記被覆層との界面の粗さが0.3〜2μmである請求項1または2記載の切削工具。
【請求項4】
前記被覆層の厚みが0.5〜2μmである請求項1乃至3のいずれか記載の切削工具。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−154219(P2009−154219A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331733(P2007−331733)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】