説明

列車用無線通信システム

【課題】外来妨害電波の発信源が多数存在する場面においても良好な通信状態を確実に確保することが可能な列車用無線通信システムを提供する。
【解決手段】列車用無線通信システム1は、駅構内21に位置する列車との間で送受信を行う駅用沿線アンテナ3及び漏洩同軸ケーブル5と、同アンテナ及びケーブルの感度の良い方を選択して送受信を行う切替装置7とを備える。漏洩同軸ケーブルは駅のプラットホーム25の屋根29に設置され、列車31の屋根に設けられた車上アンテナ35に指向されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車用無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、鉄道分野においては、無線を用い、基地局と列車との間で、列車の位置・速度・各部作動状態などの情報やそれらに関する指令などの情報が送受信されている(特許文献1参照)。かかる通信は、列車の屋根に設置された車上アンテナと、線路に沿って点在されている沿線アンテナとを用いて行われている。
【特許文献1】特開平7−228251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、現在、上記通信に使用されているISMバンドは、無線LANにおける使用が認められているため、近年、関連する無線通信機器ならびにそれに伴う通信量は増大しており、特に、駅における無線LANの使用は急増するものと考えられる。そのため、無線LANを使用する無線通信機器が外来妨害電波の発信源となり、通信環境が悪化する虞がある。
【0004】
その一方で、より強い無線送受信態様を用意したり、そのための設備を新設したりすることは、駅の利用客に対して無線LANの利用を制限しかねず、また、新たな設備費用が増大するため、望ましいことではない。よって、既存の無線通信システムや駅施設をできる限り利用し、駅利用者に対して制限を課すことなく、良好な通信状態を確実に確保できることが望まれている。
【0005】
なお、上記特許文献1には、沿線アンテナの代わりにLCX(漏洩同軸ケーブル)を用いる態様が開示されているが、上記のような考え方はなく、駅に対する具体的な設置構成なども問題とはされていない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、外来妨害電波の発信源が多数存在する場面においても良好な通信状態を確実に確保することが可能な列車用無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係る列車用無線通信システムは、駅構内に位置する列車との間で送受信を行う駅用沿線アンテナと、駅構内に位置する列車との間で送受信を行う漏洩同軸ケーブルと、前記駅用沿線アンテナ及び前記漏洩同軸ケーブルの感度の良い方を選択して送受信を行う切替装置とを備えている。
【0008】
前記漏洩同軸ケーブルは、駅のプラットホームの屋根に設置されていてもよい。
【0009】
その場合、前記漏洩同軸ケーブルは指向性を有しており、該漏洩同軸ケーブルの感度の高い部位が列車の屋根に設けられた車上アンテナに指向されていると好適である。
【0010】
あるいは、前記漏洩同軸ケーブルは、駅のプラットホームにおける線路に面した側縁に設置されていてもよい。
【0011】
好適には、前記切替装置は、前記駅用沿線アンテナ及び前記漏洩同軸ケーブルのそれぞれの通信状態を評価する通信状態判定部と、該通信状態判定部の判定結果に基づいて前記駅用沿線アンテナ又は前記漏洩同軸ケーブルへの送信経路を選択する送信経路選択部とを備える。
【0012】
また、前記駅用沿線アンテナや前記漏洩同軸ケーブルと、列車との間の送受信に使用される周波数帯域は、ISMバンドであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明によれば、外来妨害電波の発信源が多数存在する場面においても良好な通信状態を確実に確保することが可能となる。
【0014】
なお、本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施の形態によって更に詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明に係る列車用無線通信システムの実施の形態を、添付図面に基づいて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。
【0016】
図1に示されるように、列車用無線通信システム1は、駅用沿線アンテナ3と、漏洩同軸ケーブル5と、切替装置7とを備えている。駅用沿線アンテナ3及び漏洩同軸ケーブル5はそれぞれ、沿線アンテナ用無線機9及び漏洩同軸ケーブル用無線機11に接続されている。
【0017】
切替装置7には、通信状態判定部13と、送信経路選択部15とが設けられている。通信状態判定部13は、沿線アンテナ用無線機9及び漏洩同軸ケーブル用無線機11を経由して駅用沿線アンテナ3及び漏洩同軸ケーブル5の双方に接続されている。そして、通信状態判定部13は、駅用沿線アンテナ3及び漏洩同軸ケーブル5のそれぞれによる通信状態が良好であるか否かを評価する。
【0018】
送信経路選択部15もまた、沿線アンテナ用無線機9及び漏洩同軸ケーブル用無線機11を経由して駅用沿線アンテナ3及び漏洩同軸ケーブル5の双方に接続されている。さらに、送信経路選択部15は通信状態判定部13とも接続されている。そして、送信経路選択部15は、通信状態判定部13による判定結果に基づいて駅用沿線アンテナ3及び漏洩同軸ケーブル5への送信経路を選択する。
【0019】
次に、図2及び図3を参照しながら、本実施の形態における各構成要素の現場での設置態様について説明する。本発明においては、駅用沿線アンテナや漏洩同軸ケーブルは外来妨害電波の発信源がある所定区間に対して適用されるものであるところ、本実施の形態においては具体的にかかる所定区間を駅構内とした場合として説明する。
【0020】
駅構内21の構成としては、まず、線路23に沿って、駅の中心的構成要素であるプラットホーム25が設けられている。プラットホーム25には、複数の支柱27が立設されており、かかる複数の支柱27によって屋根29が支持されている。
【0021】
前述した切替装置7は、プラットホーム25の近傍に設けられている。駅用沿線アンテナ3及び沿線アンテナ用無線機9もまた、プラットホーム25の近傍に設けられている。従来の列車用無線通信システムのなかには、複数の沿線アンテナが適当な間隔で線路に沿って設けられているものが存在していた。本実施の形態に係る列車用無線通信システム1も同様であり、図示省略する複数の沿線アンテナが適当な間隔で線路23に沿って設けられているが、駅用沿線アンテナ3は特に複数の沿線アンテナのうち、駅構内21に位置する列車との間で送受信を行うものである。
【0022】
また、切替装置7には、漏洩同軸ケーブル用無線機11及び漏洩同軸ケーブル5が接続されている。漏洩同軸ケーブル用無線機11は、支柱27に固定されている。一方、漏洩同軸ケーブル5は、駅構内21のプラットホーム25の屋根29の最外縁において、線路23に沿うように連続的に設けられている。
【0023】
また、漏洩同軸ケーブル5は、列車31に対して次のような態様で設けられている。列車31の屋根33には、車上アンテナ35が付設されている。これは、従来より、例えば適当な間隔で線路に沿って設けられ複数の沿線アンテナとの間で情報の送受信を行うために設けられているものであり、特に本実施の形態に合わせて新規追加された構成ではない。一方、漏洩同軸ケーブル5は、符号Dで示されるように指向性を備えており、その感度の高い部位がプラットホーム25内の列車31の屋根33に設けられた車上アンテナ35に指向されている。
【0024】
次に、以上のような構成を有する本実施の形態に係る列車用無線通信システム1の動作について説明する。列車31は、駅構内21から充分に離れた位置では、従来から線路に沿って設けられた複数の沿線アンテナを用いて必要な情報を送受信しながら運行されている。送受信には、ISMバンドの周波数帯域が使用されている。
【0025】
列車31が駅構内21にさしかかると、駅用沿線アンテナ3と車上アンテナ35による情報の送受信が行われる。さらに、列車31がプラットホーム25に接近あるいは進入したところで、切替装置7においては、駅用沿線アンテナ3による沿線アンテナ用無線機9を経由した受信と、漏洩同軸ケーブル5による漏洩同軸ケーブル用無線機11を経由した受信との双方が一時行われる。
【0026】
切替装置7内の通信状態判定部13は、駅用沿線アンテナ3による受信状態と、漏洩同軸ケーブル5による受信状態とを比較し、何れの受信状態が良好であるかを評価・判断する。かかる判断結果は、送信経路選択部15に送られ、送信経路選択部15は、駅用沿線アンテナ3による通信経路と漏洩同軸ケーブル5による通信経路とのうち、受信状態が良好な方の通信経路を選択して必要な情報の送受信を行う。
【0027】
ここで、駅構内21では外来妨害電波の発信源が多数存在することが考えられる。すなわち、プラットホーム25上には、駅利用者41がISMバンドを用いた無線LAN通信機器を使用していることがある。この場合、無線LAN通信機器が外来妨害電波の発信源(干渉源)となり、通信環境が悪化し、従来設けられていた複数の駅外の沿線アンテナと変わらない駅用沿線アンテナ3だけでは充分な通信環境が確保できない虞がある。
【0028】
しかしながら、本実施の形態では、駅用沿線アンテナ3と車上アンテナ35との送受信が外来妨害電波によって阻害されても、漏洩同軸ケーブル5と車上アンテナ35との間で良好な送受信を確保できる。すなわち、漏洩同軸ケーブル5は、車上アンテナ35と極めて近いプラットホーム25の屋根29に設けられており、通信距離が極めて短い通信態様を実現できる。加えて、漏洩同軸ケーブル5は指向性を有しており、その感度の高い部位が車上アンテナ35に指向されている。
【0029】
このため、本実施の形態では、通信距離及び指向性の観点で有利な態様により、漏洩同軸ケーブル5の指向外からの外来電波を遮断できる効果が獲得でき、例え列車31の車両近傍に外来妨害電波の発信源が多数存在していても良好な通信状態を確保することができる。
【0030】
さらに、上述した好ましい効果は、本発明のために特に用意された構造ではない、列車31の屋根33の車上アンテナ35や、プラットホーム25の屋根29を用いるものであり、既存の無線通信システムや駅施設をできる限り利用し、駅利用者41に対して制限を課すことなく実現することができる。
【0031】
また、切替装置7における通信経路のシームレスな切り替えと、連続的に延びる漏洩同軸ケーブル5とを用いることによって、駅構内21において良好な通信状態を途切れることなく確保することができる。さらに、漏洩同軸ケーブル5による良好な通信状態が確認できて始めて、より指向性の広い駅用沿線アンテナ3による通信経路から、より指向性の鋭い漏洩同軸ケーブル5による通信経路に切り替えられるため、漏洩同軸ケーブル5による予期しない通信不調のリスクも回避することができる。
【0032】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【0033】
例えば、図4に示されるように、漏洩同軸ケーブル5を、屋根29に代えてプラットホーム25における線路23に面した側縁下部に設け、それに対応して、列車31における漏洩同軸ケーブル5と対向する部分に車上アンテナ135を設けるようにしてもよい。このような構成によっても、通信距離及び指向性の観点で有利な態様により、列車31の車両近傍に外来妨害電波の発信源が多数存在していても良好な通信状態を確保することができる。加えて、かかる態様は特に用意された構造ではないプラットホーム25を利用するものであり、駅施設をできる限り利用したものでもある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態に係る列車用無線通信システムの構成を示す図である。
【図2】本実施の形態に係る列車用無線通信システムを駅構内に適用した具体的態様を示す図である。
【図3】本実施の形態に関し、漏洩同軸ケーブルと車上アンテナとの関係を示す図である。
【図4】本発明の改変された実施の形態に関する図3と同態様の図である。
【符号の説明】
【0035】
1 列車用無線通信システム
3 駅用沿線アンテナ
5 漏洩同軸ケーブル
7 切替装置
13 通信状態判定部
15 送信経路選択部
21 駅構内
23 線路
25 プラットホーム
29 屋根
31 列車
33 屋根
35 車上アンテナ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駅構内に位置する列車との間で送受信を行う駅用沿線アンテナと、
駅構内に位置する列車との間で送受信を行う漏洩同軸ケーブルと、
前記駅用沿線アンテナ及び前記漏洩同軸ケーブルの感度の良い方を選択して送受信を行う切替装置と
を備えた列車用無線通信システム。
【請求項2】
前記漏洩同軸ケーブルは、駅のプラットホームの屋根に設置されている請求項1に記載の列車用無線通信システム。
【請求項3】
前記漏洩同軸ケーブルは指向性を有しており、該漏洩同軸ケーブルの感度の高い部位が列車の屋根に設けられた車上アンテナに指向されている請求項2に記載の列車用無線通信システム。
【請求項4】
前記漏洩同軸ケーブルは、駅のプラットホームにおける線路に面した側縁に設置されている請求項1に記載の列車用無線通信システム。
【請求項5】
前記切替装置は、前記駅用沿線アンテナ及び前記漏洩同軸ケーブルのそれぞれの通信状態を評価する通信状態判定部と、該通信状態判定部の判定結果に基づいて前記駅用沿線アンテナ又は前記漏洩同軸ケーブルへの送信経路を選択する送信経路選択部とを備える請求項1乃至4の何れか一項に記載の列車用無線通信システム。
【請求項6】
前記駅用沿線アンテナや前記漏洩同軸ケーブルと、列車との間の送受信に使用される周波数帯域は、ISMバンドである請求項1乃至5の何れか一項に記載の列車用無線通信システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−60061(P2007−60061A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240592(P2005−240592)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】