説明

制動力制御装置

【課題】制動力の制御の精度を向上させることができる制動力制御装置を提供する。
【解決手段】車両に作用させる制動力を制御する制動力制御装置であって、車両に作用させる駆動力Fdriveを取得する駆動力取得手段と、駆動力取得手段により取得された駆動力Fdriveに基づいて制動力を推定する制動力推定手段とを備えることで、駆動力Fdriveと制動力との釣り合い点を意図的に生成することができるので、ブレーキアクチュエータの製造ばらつきや経年劣化等を含めた正確な制動力を推定することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動力を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、制動力を制御する装置として、油圧ブレーキを用いるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の装置は、リニアソレノイド弁へ駆動電流を供給してマスタピストンに付与する駆動力を制御して車両に作用させる制動力を制御するとともに、マスタシリンダ液圧と基準液圧とを比較してリニアソレノイド弁への駆動電流を補正するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−220041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の制動力制御装置にあっては、例えば、従来の制動力制御装置は、リニアソレノイド弁の製造ばらつきや経年劣化等を考慮して制動力を調整することが可能であるが、ブレーキアクチュエータである保持弁やパッド等の製造ばらつきや経年劣化等を考慮して制動力を調整することが困難である。このため、正確に制動力を制御することができない場合がある。
【0005】
そこで、本発明はこのような技術課題を解決するためになされたものであって、制動力の制御の精度を向上させることができる制動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る制動力制御装置は、車両に作用させる制動力を制御する制動力制御装置であって、前記車両に作用させる駆動力を取得する駆動力取得手段と、前記駆動力取得手段により取得された前記駆動力に基づいて前記制動力を推定する制動力推定手段と、を備えることを特徴として構成される。
【0007】
本発明に係る制動力制御装置では、駆動力取得手段により車両に作用させる駆動力が取得され、制動力推定手段により駆動力に基づいて制動力が推定される。このように、油圧の値に基づいて制動力を推定する場合に比べて、作用させた駆動力から実際の制動力を直接的に推定することで、ブレーキアクチュエータの製造ばらつきや経年劣化等を含めた全体の制動力を推定することができる。そして、例えば、推定された制動力を用いて車両制御することで、制動力の制御の精度を向上させることが可能となる。
【0008】
ここで、前記駆動力取得手段は、前記制動力と前記駆動力との釣り合い点における前記駆動力を取得することが好適である。このように構成することで、駆動力を用いて正確な制動力を算出することができる。
【0009】
また、前記駆動力取得手段は、前記車両に一定の前記制動力を作用させた状態で、前記車両に作用させる前記駆動力を増加させて前記釣り合い点を生成することが好適である。また、前記駆動力取得手段は、前記車両に一定の前記駆動力を作用させた状態で、前記車両に作用させる前記制動力を減少させて前記釣り合い点を生成することが好適である。
【0010】
このように構成することで、駆動力と制動力との釣り合い点を意図的に生成し、駆動力を用いて正確な制動力を算出することができる。
【0011】
また、前記駆動力取得手段は、前記車両の発進時における前記釣り合い点での前記駆動力を取得することが好適である。このように構成することで、車両の動き出しや発進時の駆動力を利用して制動力を精度よく調整することができるので、ドライバに違和感を与えることなく制動力を調整することが可能となる。
【0012】
また、前記車両が走行する路面の路面勾配を算出する路面勾配算出手段と、前記制動力推定手段により推定された前記制動力を前記路面勾配に基づいて補正する推定制動力補正手段とを備えることが好適である。このように構成することで、路面勾配を考慮して精度のよい制動力を推定することができる。
【0013】
また、前記車両に制動力を作用させる油圧式ブレーキと、前記制動力推定手段により推定された前記制動力に基づいて前記油圧式ブレーキのブレーキ油圧を補正する制動力補正手段とを備えることが好適である。また、前記制動力補正手段は、前記油圧式ブレーキの保持弁の制御量を補正することにより前記ブレーキ油圧を補正することが好適である。このように構成することで、正確な制動力を出力することができる。
【0014】
また、前記制動力補正手段は、前記車両の走行の安全度が所定の基準より低い場合には、前記ブレーキ油圧の補正をリアルタイムに実行することが好適である。このように構成することで、走行の安全度が所定の基準より低い場合には、補正量を迅速に反映させて走行の安全度を高めることが可能となる。
【0015】
さらに、前記制動力推定手段は、前記車両の車輪のスリップ又はロックが発生している場合には、前記制動力の推定を禁止することが好適である。このように構成することで、通常の走行状態ではない場合には、推定値を出力することを回避することができるので、推定精度や制御の信頼性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、制動力の制御の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る制動力制御装置の構成概要を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る制動力制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】停止維持油圧の路面勾配依存性を示すグラフである。
【図4】実施形態に係る制動力制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】実施形態に係る制動力制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
本実施形態に係る制動力制御装置は、例えば車両に作用させる制動力を制御する装置として好適に採用されるものである。
【0020】
最初に、本実施形態に係る制動力制御装置の概要を説明する。図1は、本実施形態に係る制動力制御装置の構成概要を示すブロック図である。図1に示す制動制御装置は、電子制御により各輪に付与する制動力を制御する電子制御ブレーキ機構1、及び、運転者によるブレーキペダル11の踏み込み操作に応答して作動油を圧送するマスタシリンダ14を有している。このマスタシリンダ14には圧送された作動油が戻されるマスタシリンダリザーバ28が接続されている。また、ブレーキペダルの踏力を検出する踏力センサ13が配置されている。
【0021】
マスタシリンダ14からは油圧供給導管15、17が延びており、それらの延長上には通常閉弁されているマスタカット弁20、22がそれぞれ配置されている。油圧供給導管15のマスタカット弁20より上流側には、油圧供給導管15、17内の液圧を検出するマスタ圧センサ24が配置されている。
【0022】
油圧供給導管15、17のマスタカット弁20、22より上流側(油圧供給導管15についてはマスタ圧センサ24より下流側)からは、それぞれ油圧供給導管42、43が分岐し、リザーバ39、41に接続されている。これらリザーバ39、41には、油圧排出導管30、32の一端が接続されており、それらの途中にはモータにより駆動されるポンプ34、36が配置されるとともに、ポンプ34、36の駆動により昇圧された作動油を貯えるアキュムレータ38、40が接続されている。ポンプ34、36とアキュムレータ38、40の間には逆止弁35、37が配置されている。
【0023】
油圧供給導管15、17の他端は、それぞれ2つに分岐され、各車輪2(以下、左右前輪をそれぞれ符号FL、FRで、左右後輪をそれぞれ符号RL、RRで表し、これに対応する構成要素にはこれらの符号をそれぞれ付す。なお、符号FL〜RRを付した場合には、4輪全てに対応する構成要素全てを含むものとする。)に配置される制動装置48(不図示)を駆動するホイルシリンダ48FL〜RRへ接続される。以下、これらの接続路を油圧供給導管46FL〜RRと称する。本実施形態では、油圧供給導管15が油圧供給導管46FR、RLへ接続され、油圧供給導管17が油圧供給導管46FL、RRへと接続されている。一方、リザーバ39、41から延びる油圧排出導管44、45が対応する油圧供給導管46FL〜RRの途中に接続されている。
【0024】
各油圧供給導管46FL〜RRの途中の油圧排出導管44、45との接続部より上流側には、それぞれ電磁弁(保持弁)52FL〜RRが配置される。油圧排出導管44、45の各油圧供給導管46FL〜RRとの接続部より下流側にはそれぞれ電磁弁(減圧弁)54FL〜RRが配置される。
【0025】
電子制御ブレーキ機構1の制御部であるECU(Electronic Control Unit)3は、電子制御する自動車デバイスのコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリ、及び入出力インターフェイスなどを備えて構成されている。このECU3は、電子制御ブレーキ機構1、センサ4及び駆動アクチュエータ5に接続されている。センサ4は、車両の走行状態や走行環境に関する情報を検出する機能を有しており、例えば、車輪2の回転を車輪速パルスとして検出して車輪速を取得する車輪速センサ、道路の路面の勾配を検出する勾配センサ、GPS(Global Positioning System)車載器等を含んで構成されている。駆動アクチュエータ5は、車両の駆動力を制御する機械的構成要素であって、電子制御可能に構成されている。駆動アクチュエータ5は、例えば、エンジン及びトランスミッション等、又はハイブリッドシステムにおけるモータ等を含んで構成されている。
【0026】
ECU3には、マスタ圧センサ24の出力信号であるマスタシリンダ14内の圧力を示す信号のほか、センサ4の出力信号(車速を示す信号、路面勾配を示す信号等)が入力される。さらに、ECU3は、センサ4の出力信号に基づいて、上述したマスタカット弁20、22、電磁弁52FL〜RR、54FL〜RR、ポンプ34、36、及び駆動アクチュエータ5の作動を制御する制御信号を出力する機能を有している。また、ECU3は、車両に与える制動力を推定し、推定された制動力に対応するブレーキ油圧(停止維持油圧)となるように電子制御ブレーキ機構1を制御する機能を有している。例えば、電磁弁52FL〜RR、54FL〜RRの電流―油圧マップ(I−Pマップ)を用いて必要な制動力に対応するブレーキ油圧を目標油圧として設定して、電子制御ブレーキ機構1を制御する機能を有している。
【0027】
また、ECU3は、車両に付与された駆動力を取得する機能を有している。例えば、ECU3は、発進時に駆動力と制動力とが釣り合うように、電子制御ブレーキ機構1及び駆動アクチュエータ5を制御させて、駆動力と制動力とが釣り合う点における駆動力を取得する機能を有している(駆動力取得手段)。駆動力は、例えば、エンジントルクやモータトルクの制御値から算出可能である。
【0028】
また、ECU3は、取得した駆動力に基づいて制動力を推定する機能を有している(制動力推定手段)。そして、ECU3は、推定した制動力を用いて停止維持油圧を補正する機能を有している。(制動力補正手段)。例えば、ECU3は、電磁弁52FL〜RRの開閉を制御することで、停止維持油圧を補正する機能を有している。また、ECU3は、センサ4により取得された路面勾配に基づいて、取得した駆動力、推定した制動力、又は電磁弁52FL〜RRの開閉制御の少なくとも1つを補正する機能を有していてもよい(推定制動力補正手段)。
【0029】
また、ECU3は、制動力の推定値を学習する機能を有している。例えば、ECU3は、推定した制動力と取得した駆動力との差分を補正量としてメモリに格納し、格納した補正量を学習する機能を有している。ECU3は、学習した補正量に基づいて保持弁の制御量を補正する機能を有していてもよい。
【0030】
さらに、ECU3は、車両の走行状態を考慮して制動力を推定したり、補正したりする機能を有している。例えば、車両の走行の安全度が所定の基準より低い場合には、油圧の補正をリアルタイムに実行する機能を有している。走行の安全度は、例えば、制限速度と車速との差分、路面の摩擦係数等に基づいて他の制御部等により算出される。また、ECU3は、車両の車輪のスリップ又はロックが発生している場合には、制動力の推定を禁止する機能を有している。車輪のスリップ又はロックは、例えば、センサ4の出力信号を用いて判断される。
【0031】
次に、制動制御装置における制動力制御の基本動作を説明する。ECU3は、マスタ圧センサ24の出力が目標油圧に不足する場合には、ポンプ34、36を駆動させて昇圧を行う。各ホイルシリンダ48FL〜RRに付与される液圧は、各電磁弁52FL〜RR、54FL〜RRの作動状態を変更することで調整することができる。ホイルシリンダ48FLの場合を例にとると、加圧する場合には、減圧弁54FLを閉弁した状態で保持弁52FLを開く。これにより、作動油が、油圧供給導管32、46FLを経由してホイルシリンダ48FLへと供給されるため、ホイルシリンダ48FLの液圧が増圧し、制動力が強められる。反対に、減圧を行う場合は、ECU3は、保持弁52FLを閉弁して減圧弁54FLを開弁する。これにより、ホイルシリンダ48FLへ供給されていた作動油の一部は、油圧排出導管45からリザーバ28へと戻されるため、ホイルシリンダ48FLに付与される液圧が減圧され、制動力が弱められる。保持弁52FL、減圧弁54FLをともに閉じると、保持弁52FL、減圧弁54FLからホイルシリンダ48FL側の油圧供給導管46FLからの作動油流出が抑えられ、ホイルシリンダ48FLに付与される液圧は保持される。
【0032】
次に、本実施形態に係る制動力制御装置の制動力補正動作について説明する。図2は、本実施形態に係る制動力制御装置の制動力補正動作を示すフローチャートである。図2に示す制御処理は、ECU3により、所定のタイミングから所定の間隔で繰り返し実行される。
【0033】
図2に示すように、制動力制御装置は、停止判定処理から開始する(S10)。S10の処理は、車両が停止しているか否かを判定する処理である。例えば、ECU3は、センサ4に含まれる車輪速センサの出力信号に基づいて、車両が停止しているか否かを判定する。又は、車速センサの出力信号に基づいて車速が0であるか否か、GPSにより自車両の位置が移動したか否かに基づいて、車両の停止を判定してもよい。S10の処理において、車両が停車していないと判定した場合には、図2に示す制御処理を終了する。一方、S10の処理において、車両が停車していると判定した場合には、制動力算出処理へ移行する(S12)。
【0034】
S12の処理は、車両の停止状態を維持するために必要な制動力Fbrakeを算出する処理である。ECU3は、例えば、車両重量、ブレーキ有効径、ブレーキパッド面積等の諸元値、及び、センサ4により取得した路面勾配の値に基づいて、制動力Fbrakeと対応した停止維持油圧を算出する。ECU3は、例えば最もブレーキパッドが磨耗している状態を想定して制動力Fbrakeを算出する。ECU3内にこの計算プログラムを格納しておいて、その都度計算により求めてもよいし、路面勾配値に応じて停止維持油圧を求めておき、これをマップ形式でECU3内に格納しておき、そのマップに基づいて停止維持油圧を求めてもよい。図3は設定される停止維持油圧の一例である。上り勾配S1の場合に、停止維持油圧は最低値Paとなり、それより上りの勾配が大きくなると、停止維持油圧は大きくなる。一方、上りの勾配が小さくなるに連れて停止維持油圧は大きくなり、勾配0で停止維持油圧はP0となり、下りの勾配が大きくなるに連れて停止維持油圧は大きくなる。S12の処理が終了すると、油圧制御処理へ移行する(S14)。
【0035】
S14の処理は、ブレーキ油圧を制御する処理である。ECU3は、電子制御ブレーキ機構1に対して、S12の処理で算出した停止維持油圧を目標油圧として制御信号を出力する。S14の処理が終了すると、ブレーキ操作判定処理へ移行する(S16)。
【0036】
S16の処理は、ドライバによりブレーキをOFFする操作が行われたか否かを判定する処理である。ECU3は、例えば、踏力センサ13が出力するブレーキペダルの踏力信号に基づいて、ブレーキのOFF操作を判定する。S16の処理において、ブレーキのOFF操作が行われていないと判定した場合には、制動力算出処理へ再度移行し(S12)、油圧制御処理を実行する(S14)。このように、ブレーキのOFF操作が行われるまで、S12、S14の処理が繰り返し実行される。一方、S16の処理において、ブレーキのOFF操作が行われたと判定した場合には、油圧保持処理へ移行する(S18)。
【0037】
S18の処理は、S12の処理で算出した停止維持油圧を保持する処理である。ECU3は、例えば、S14の処理で実行した停止維持油圧に基づく制御を続行することで、S12の処理で算出した停止維持油圧を電子制御ブレーキ機構1に保持させる。S18の処理が終了すると、駆動力増加処理へ移行する(S20)。
【0038】
S20の処理は、車両に付与する駆動力を増加させる処理である。ECU3は、停止維持油圧が保たれた状態で、すなわち、車両に制動力を与えた状態で、例えば駆動アクチュエータ5に対して駆動力Fdriveを増加して出力させる制御を行う。この増加処理は、除々に上がるように制御してもよいし、階段状に上がるように制御してもよい。また、センサ4で取得した路面勾配に応じて駆動力の大きさを変化させてもよい。S20の処理が終了すると、発進判定処理へ移行する(S22)。
【0039】
S22の処理は、車両が発進したか否かを判定する処理である。ECU3は、例えば、センサ4に含まれる車輪速センサにより車輪速パルスが検出されているか否かを判定する。S22の処理において、車輪速パルスが検出されていないと判定した場合には、駆動力増加処理へ再度移行し、さらに増加された駆動力Fdriveを車両へ付与させる(S20)。このように、車輪速パルスを検出するまで、すなわち、車両に与える駆動力Fdriveと車両に与えられている実際の制動力とが釣り合うまで、駆動力Fdriveを増加させる処理が繰り返し実行される。
【0040】
一方、S22の処理において、車輪速パルスを検出されていると判定した場合には、駆動力の記録処理へ移行する(S24)。S24の処理は、S20の処理で車両に与えた駆動力Fdriveを記録する処理である。ECU3は、例えば、エンジントルクやモータトルクの制御値に基づいて、エンジントルクマップ等を用いて駆動力Fdriveを算出する。そして、ECU3は、算出した駆動力Fdriveを例えばECU3が有するメモリに記録する。S24の処理が終了すると、油圧解除処理へ移行する(S26)。
【0041】
S26の処理は、S18の処理で保持したブレーキ油圧を解除する処理である。ECU3は、電子制御ブレーキ機構1に対して、保持している停止維持油圧を解除させる。S26の処理が終了すると、補正量演算処理へ移行する(S28)。
【0042】
S28の処理は、停止維持油圧とした場合の実際の制動力を推定して、保持弁のI−Pマップを補正するための補正量を算出する処理である。ECU3は、S24の処理で記録した駆動力Fdriveに基づいて、停止維持油圧とした場合の実際の制動力を推定する。S20、S22の処理において、車両に与える駆動力Fdriveと車両に与えられている実際の制動力とが釣り合う点を意図的に生成しているため、S24の処理で記録した駆動力Fdriveと車両に与えられている実際の制動力とは等しくなる。補正量Fcorrectは、S12の処理で生成した制御目標の制動力Fbrakeと、実際の制動力との差分となるため、以下の式1で算出することができる。
correct=Fbrake−Fdrive …(1)
S28の処理が終了すると、補正量学習処理へ移行する(S30)
【0043】
S30の処理は、S28の処理で算出した補正量を学習する処理である。ECU3は、補正量を車両状態や走行環境等と関連付けして記録しておき、停車回数や走行履歴等に基づいて一定の割合で学習した値を元に補正を行う。例えば、ECU3は、所定の停止回数のうち、補正量のばらつきの少ないデータの平均値を実際の補正量として学習する。S30の処理が終了すると、補正処理へ移行する(S32)。
【0044】
S32の処理は、S30の処理で学習した補正量を用いて保持弁の制御量を補正する処理である。例えば、ECU3は、S12の処理で生成した制御目標の制動力Fbrakeと対応する油圧に制御すると、制動力FbrakeにS30の処理で学習した補正量を加算した制動力となるように、保持弁のI−Pマップを補正する。S32の処理が終了すると、停止判定処理へ再度移行する(S10)。
【0045】
以上、図2に示す制御処理を終了する。図2に示す制御処理を実行することにより、通常の制御に比べて車両発進時の保持油圧の解除が遅れるので、制動力を与えた状態で車両が発進する。このため、制動力を与えた状態で制動力と駆動力との釣り合い点が生成されるので、車両に付与した駆動力に基づいて実際の制動力が正確に推定される。そして、推定された制動力を用いて、制動力の制御が補正されるので、ブレーキ機構全体を考慮した制御、例えば、ブレーキアクチュエータの保持弁における製造ばらつき、ブレーキパッドの製造ばらつきや経年劣化等を考慮した制御を行うことが可能となる。
【0046】
次に、本実施形態に係る制動力制御装置の他の制動力補正動作を説明する。本実施形態に係る制動力制御装置は、図2に示す制動力補正動作に替えて、図4に示す制御処理を実行してもよい。図4は、本実施形態に係る制動力制御装置の他の制動力補正動作を示すフローチャートである。図4に示す制御処理は、図2に示す制御処理とほぼ同様であって、例えば、ECU3により、所定のタイミングから所定の間隔で繰り返し実行される。
【0047】
図4に示すように、制動力制御装置は、停止判定処理から開始する(S40)。S40の処理は、図2のS10の処理と同様である。S40の処理において、車両が停車していないと判定した場合には、図4に示す制御処理を終了する。一方、S40の処理において、車両が停車していると判定した場合には、制動力算出処理へ移行する(S42)。
【0048】
S42の処理は、車両の停止状態を維持するために必要な制動力Fbrakeを算出する処理である。この処理は、図2のS12の処理と同様である。S42の処理が終了すると、油圧制御処理へ移行する(S44)。
【0049】
S44の処理は、ブレーキ油圧を制御する処理である。ECU3は、S42の処理で算出した制動力Fbrakeに補正量Fcorrectを加えた制動力に対応するブレーキ油圧を目標油圧として、電子制御ブレーキ機構1に対して制御信号を出力する。ECU3は、例えば、停車ごとに、補正量Fcorrectを意図的に変化させてもよい。S44の処理が終了すると、ブレーキ操作判定処理へ移行する(S46)。
【0050】
S46の処理は、ドライバによりブレーキをOFFする操作が行われたか否かを判定する処理である。この処理は、図2のS16の処理と同様である。S46の処理において、ブレーキのOFF操作が行われていないと判定した場合には、制動力算出処理へ再度移行し(S42)、油圧制御処理を実行する(S44)。このように、ブレーキのOFF操作が行われるまで、S42、S44の処理が繰り返し実行される。一方、S46の処理において、ブレーキのOFF操作が行われたと判定した場合には、油圧保持処理へ移行する(S48)。
【0051】
S48の処理は、S42の処理で算出した停止維持油圧を保持する処理である。この処理は、図2のS18の処理と同様である。S48の処理が終了すると、駆動力増加処理へ移行する(S50)。
【0052】
S50の処理は、車両に付与する駆動力を増加させる処理である。この処理は、図2のS20の処理と同様である。S50の処理が終了すると、発進判定処理へ移行する(S52)。
【0053】
S52の処理は、車両が発進したか否かを判定する処理である。この処理は、図2のS22の処理と同様である。S52の処理において、車輪速パルスが検出されていないと判定した場合には、駆動力増加処理へ再度移行し、さらに増加された駆動力Fdriveを車両へ付与させる(S50)。このように、車輪速パルスを検出するまで、すなわち、車両に与える駆動力Fdriveと車両に与えられている実際の制動力とが釣り合うまで、駆動力Fdriveを増加させる処理が繰り返し実行される。
【0054】
一方、S52の処理において、車輪速パルスを検出されていると判定した場合には、駆動力の記録処理へ移行する(S54)。S54の処理は、S50の処理で車両に与えた駆動力Fdriveを記録する処理である。この処理は、図2のS24の処理と同様である。S54の処理が終了すると、油圧解除処理へ移行する(S56)。
【0055】
S56の処理は、S48の処理で保持したブレーキ油圧を解除する処理である。この処理は、図2のS26の処理と同様である。S56の処理が終了すると、補正量演算処理へ移行する(S58)。
【0056】
S58の処理は、実際に停止維持に必要な制動力を推定して、S44の処理で加算した補正量Fcorrectの値を算出する処理である。ECU3は、S54の処理で記録した駆動力Fdriveに基づいて、実際に停止維持に必要な制動力を推定する。S50、S52の処理において、車両に与える駆動力Fdriveと車両に与えられている実際の制動力とが釣り合う点を意図的に生成しているため、S54の処理で記録した駆動力Fdriveと車両に与えられている実際の制動力とは等しくなる。補正量Fcorrectは、S42の処理で生成した制御目標の制動力Fbrakeと、実際の制動力との差分の逆数となるため、以下の式2で算出することができる。
correct=Fbrake+Fcorrect−Fdrive …(2)
S58の処理が終了すると、停止判定処理へ再度移行する(S40)。
【0057】
以上、図4に示す制御処理を終了する。図4に示す制御処理を実行することにより、通常の制御に比べて車両発進時の保持油圧の解除が遅れるので、制動力を与えた状態で車両が発進する。このため、制動力を与えた状態で制動力と駆動力との釣り合い点が生成されるので、車両に付与した駆動力に基づいて実際の制動力が正確に推定される。そして、推定された制動力を用いて、制動力の制御が補正されるので、ブレーキアクチュエータの保持弁における製造ばらつき、ブレーキパッドの製造ばらつきや経年劣化等を考慮した制御を行うことが可能となる。また、図2に示す制御処理に比べて、I−Pマップを補正することなく駆動力を補正することが可能となるので、汎用性、可用性、拡張性に優れた制動力制御装置とすることができる。さらに、補正量Fcorrectが停車ごとに変更されることにより、広範囲の制動力を補正することが可能となる。
【0058】
上述した図2、図4に示す制御処理は、例えば、全ての保持弁をまとめて実行して補正してもよいし、保持弁ごとに個別に補正したり、実行する保持弁を選択して実行した保持弁のみ補正したりしてもよい。実行する保持弁を選択する場合には、路面勾配に応じて組み合わせ方を変更してもよい。
【0059】
次に、本実施形態に係る制動力制御装置の他の制動力補正動作を説明する。図5は、本実施形態に係る制動力制御装置の他の制動力補正動作を示すフローチャートである。図5に示す制御処理は、例えば、ECU3により、所定のタイミングから所定の間隔で繰り返し実行される。図5に示す制御処理は、図2、4に示す制御処理をどのタイミングで実行するか等を制御する処理である。
【0060】
図5に示すように、制動力制御装置は、スリップ判定処理から開始する(S60)。S60の処理は、車両の停止状態においてスリップやロックが発生しているか否かを判定する処理である。ECU3は、センサ4が出力した出力信号から車両状態を推定し、スリップやロックが発生しているか否かを判定する。S60の処理において、スリップやロック等が発生していないと判定した場合には、安全度判定処理へ移行する(S64)。一方、S60の処理において、スリップやロック等が発生していると判定した場合には、学習禁止処理へ移行する(S62)。
【0061】
S62の処理は、補正量の学習処理を禁止する処理である。例えば、ECU3は、図2のS30の処理の実行を禁止する。これにより、路面摩擦係数が小さい場合等の特殊な場面を学習して補正量を推定することを回避することができる。S62の処理が終了すると、安全度判定処理へ移行する(S64)。
【0062】
S64の処理は、車両の安全性を判定する処理である。例えば、ECU3は、車両状態や交通環境に関連付けした危険度をテーブルとしてメモリに格納しておき、センサ4から取得される情報や、GPSから得られる自車両情報等に基づいて、実際の車両状態や交通環境に応じた危険度を算出し、所定の危険度を超えるか否か場合、すなわち、安全度が所定値以下となっているか否かを判定する。例えば、閾値を危険度3とし、発進する前(ブレーキOFF前)に車両が動き出している状態を危険度5とすると、発進する前に車両が動きだしたことを検出した場合には、安全度が所定値以下であると判定する。S64の処理において、安全度が所定値以下でないと判定した場合には、図5に示す制御処理を終了する。一方、S64の処理において、安全度が所定値以下であると判定した場合には、リアルタイム補正処理へ移行する(S66)。
【0063】
S66の処理は、リアルタイムで図2、図4に示す補正処理を実行する処理である。例えば、図2に示す制御処理であれば、S30の処理を実行することなく、得られた補正量を用いてS32の処理を実行する。S66の処理が終了すると図5に示す制御処理を終了する。
【0064】
以上で図5に示す制御処理を終了する。図5に示す制御処理を実行することで、車両状態を考慮して制動力の学習が実行されたり、制動力の補正が実行されたりする。
【0065】
上述したように、本実施形態に係る制動力制御装置によれば、ECU3により、車両に作用させる駆動力Fdriveが取得され、駆動力Fdriveに基づいて制動力が推定される。このように、油圧の値に基づいて制動力を推定する場合に比べて、駆動力Fdriveから実際の制動力を直接的に推定することで、ブレーキアクチュエータの製造ばらつきや経年劣化等を含めた全体の制動力を推定することができる。そして、例えば、推定された制動力を用いて車両制御することで、制動力の制御の精度を向上させることが可能となる。また、制動力の推定のために圧力センサ等を備える必要が無いため、簡易な構成で制動力を推定することができる。
【0066】
また、本実施形態に係る制動力制御装置によれば、車両の発進時における釣り合い点での駆動力を取得することができるので、車両の動き出しや発進時の駆動力Fdriveを利用して制動力を精度よく調整することが可能となる。よって、ドライバに違和感を与えることなく制動力を調整することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る制動力制御装置によれば、路面勾配に応じて制動力Fbrakeを算出したり、路面勾配に応じて車両に与える駆動力Fdriveを算出したり、さらには路面勾配に応じて学習の有無やリアルタイムでの補正等を行うように構成することができるので、路面勾配を考慮して精度のよい制動力を推定することができる。
【0068】
また、本実施形態に係る制動力制御装置によれば、車両の走行の安全度が所定の基準より低い場合には、ブレーキ油圧の補正をリアルタイムに実行することができるので、走行の安全度が所定の基準より低い場合には、補正量を迅速に反映させて走行の安全度を高めることが可能となる。
【0069】
さらに、本実施形態に係る制動力制御装置によれば、車両の車輪のスリップ又はロックが発生している場合には、制動力の推定や学習を禁止することで、推定精度や制御の信頼性を向上させることが可能となる。
【0070】
なお、上述した実施形態は本発明に係る制動力制御装置の一例を示すものである。本発明に係る制動力制御装置は、実施形態に係る制動力制御装置に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、実施形態に係る制動力制御装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0071】
例えば、上述した実施形態では、車両に一定の制動力(Fbrake又はFbrake+Fcorrect)を作用させた状態で、車両に作用させる駆動力Fdriveを増加させて釣り合い点を生成する例を説明したが、車両に一定の駆動力Fdriveを作用させた状態で、車両に作用させる制動力を減少させて釣り合い点を生成してもよい。この場合には、駆動力の出力精度の良い範囲で補正することができるので、車両条件によっては一層精度良く制動力を推定することが可能となる。
【符号の説明】
【0072】
1…電子制御ブレーキ機構、3…ECU、5…駆動アクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に作用させる制動力を制御する制動力制御装置であって、
前記車両に作用させる駆動力を取得する駆動力取得手段と、
前記駆動力取得手段により取得された前記駆動力に基づいて前記制動力を推定する制動力推定手段と、
を備えることを特徴とする制動力制御装置。
【請求項2】
前記駆動力取得手段は、前記制動力と前記駆動力との釣り合い点における前記駆動力を取得する請求項1に記載の制動力制御装置。
【請求項3】
前記駆動力取得手段は、前記車両に一定の前記制動力を作用させた状態で、前記車両に作用させる前記駆動力を増加させて前記釣り合い点を生成する請求項2に記載の制動力制御装置。
【請求項4】
前記駆動力取得手段は、前記車両に一定の前記駆動力を作用させた状態で、前記車両に作用させる前記制動力を減少させて前記釣り合い点を生成する請求項2に記載の制動力制御装置。
【請求項5】
前記駆動力取得手段は、前記車両の発進時における前記釣り合い点での前記駆動力を取得する請求項2〜4の何れか一項に記載の制動力制御装置。
【請求項6】
前記車両が走行する路面の路面勾配を取得する路面勾配取得手段と、
前記制動力推定手段により推定された前記制動力を前記路面勾配に基づいて補正する推定制動力補正手段と、
を備える請求項1〜5の何れか一項に記載の制動力制御装置。
【請求項7】
前記車両に制動力を作用させる油圧式ブレーキと、
前記制動力推定手段により推定された前記制動力に基づいて前記油圧式ブレーキのブレーキ油圧を補正する制動力補正手段と、
を備える請求項1〜6の何れか一項に記載の制動力制御装置。
【請求項8】
前記制動力補正手段は、前記油圧式ブレーキの保持弁の制御量を補正することにより前記ブレーキ油圧を補正する請求項7に記載の制動力制御装置。
【請求項9】
前記制動力補正手段は、前記車両の走行の安全度が所定の基準より低い場合には、前記ブレーキ油圧の補正をリアルタイムに実行する請求項7又は8に記載の制動力制御装置。
【請求項10】
前記制動力推定手段は、前記車両の車輪のスリップ又はロックが発生している場合には、前記制動力の推定を禁止する請求項1〜9の何れか一項に記載の制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−247788(P2010−247788A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102024(P2009−102024)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】