説明

制動力制御装置

【課題】リアリフトが発生したときには速やかにリアリフトを解消して車両の動作の安定化を図る制動力制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ブレーキECU6は、後輪(右後輪73、左後輪74)の後輪車輪速Vwrの変化、後輪に基づいて算出する後輪由来車速Vcrの変化、車両100に発生するピッチングモーメントに基づいて車両100にリアリフトが発生したことを判定する。そして、車両100にリアリフトが発生した場合、前輪(右前輪71、左前輪72)に付与する制動力を制限して減速度を小さくする。さらに、ブレーキECU6は、左前輪72の制動力の変化と位相をずらして右前輪71の制動力を変化させて車両100にヨーモーメントを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動力を制御する制動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワゴン車、ワンボックス車、軽トラックなど、ホイールベースが短く、重心位置の高い車両の場合、走行中の急制動時に後輪の1輪または2輪が浮き上がるリフトアップ(以下、リアリフトと称する)が発生する場合がある。特に、下り坂でリアリフトが発生すると運転者に大きな違和感を与える。
【0003】
例えば、軽トラックは、狭い農道での使い勝手を向上するため、ホイールベースが極端に短く設定されている。
また、近年は、車両の居住性、快適性、収納性を向上するため、ワゴン車、ワンボックス車など、車高の高い車両も増加している。
さらに、エンジンがフロントに設置されて、リアの荷重がフロントに比べて小さくなっている車両も多い。
【0004】
このように、ホイールベースの短い車両、車高が高く重心位置の高い車両、リアの荷重が軽い車両が増加していることから、ブレーキ操作時のリアリフトを効果的に抑制することの重要性が高まっている。
【0005】
リアリフトに関する車両制御の技術については、例えば、特許文献1が開示されている。特許文献1の技術によると、リアリフトが発生したときに推定車体速度を変更して車両に制動力を作用させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3533420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、リアリフトの発生時に、効果的に車両を減速および停止することは可能であるが、速やかにリアリフトを解消して車両の動作を安定させることができないという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、リアリフトが発生したときには速やかにリアリフトを解消して車両の動作の安定化を図る制動力制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明の請求項1は、アンチロックブレーキ制御手段によるアンチロックブレーキ制御中に、車両の後輪のリフトアップの発生を判定するリフト判定手段を備え、前記アンチロックブレーキ制御手段は、前記リフト判定手段が前記リフトアップの発生を判定したとき、前記車両の前輪に付与する制動力を制限することを特徴とする制動力制御装置とする。
【0010】
請求項1の発明によると、後輪のリフトアップが発生したとき、アンチロックブレーキ制御手段は、車両の前輪に付与する制動力を制限することができる。したがって、後輪のリフトアップが発生したとき、車両の減速度を小さくできる。
後輪のリフトアップは、車両の減速度が大きいときに発生することから、車両の減速度を小さくすることによってリフトアップを解消できる。
【0011】
また、本発明の請求項2は請求項1に記載の制動力制御装置であって、前記リフト判定手段は、前記アンチロックブレーキ制御中における前記後輪の車輪速の変化に基づいて前記リフトアップの発生を判定することを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明によると、リフト判定手段は、後輪の車輪速の変化に基づいてリフトアップが発生したことを判定できる。
【0013】
また、本発明の請求項3は請求項1または請求項2に記載の制動力制御装置であって、前記リフト判定手段は、前記アンチロックブレーキ制御中の車体運動量に基づいて前記リフトアップの発生を判定することを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明によると、リフト判定手段は、車体運動量に基づいてリフトアップが発生したことを判定できる。
【0015】
また、本発明の請求項4は請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の制動力制御装置であって、前記リフト判定手段は、前記車両に発生するピッチングモーメントが予め設定される閾値を超えた場合に前記リフトアップの発生を判定することを特徴とする。
【0016】
請求項4の発明によると、リフト判定手段は、アンチロックブレーキ制御中の前記車両に発生するピッチングモーメントに基づいてリフトアップが発生したことを判定できる。
【0017】
また、本発明の請求項5は請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の制動力制御装置であって、前記前輪の内で最も大きな荷重がかかる最大荷重前輪を判定する荷重判定手段を備え、前記アンチロックブレーキ制御手段は、前記最大荷重前輪に付与する制動力が、他の前記前輪に付与する制動力より制限値を超えて増大しないように、前記最大荷重前輪に付与する制動力を制限することを特徴とする。
【0018】
請求項5の発明によると、アンチロックブレーキ制御手段は、最も荷重がかかる最大荷重前輪に付与する制動力を制限できる。
【0019】
また、本発明の請求項6は請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の制動力制御装置であって、前記リフト判定手段が前記リフトアップの発生を判定したとき、前記アンチロックブレーキ制御手段は、前記車両の左前輪に付与する制動力の変化と位相をずらして前記車両の右前輪に付与する制動力を変化することを特徴とする。
【0020】
請求項6の発明によると、後輪のリフトアップが発生したとき、車両の左前輪に付与する制動力の変化と右前輪に付与する制動力の変化に位相差を設けることができる。そして、車両を左右に揺らしてヨーモーメントを発生できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、リアリフトが発生したときには速やかにリアリフトを解消して車両の動作の安定化を図る制動力制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る制動力制御装置の構成を示す図である。
【図2】ブレーキECUがリアリフトの発生を判定する手順を示すフローチャートである。
【図3】(a)は、FL油圧OPFLとFR油圧OPFRの油圧パターンの一例を示す図、(b)は、左前輪と右前輪の車輪速の変化を示す図である。
【図4】(a)は、油圧パターンに設けられる制限値を示す図、(b)は、FR油圧OPFRが制限値で制限された状態を示す図、(c)は、制限値で制限されたFR油圧OPFRに応じた右前輪の車輪速の変化を示す図である。
【図5】ブレーキECUがリアリフトを解消する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
車両100に備わる制動力制御装置1は、図1に示すように、運転者が踏み込み操作するブレーキペダル2、運転者がブレーキペダル2を踏み込み操作するときのブレーキ操作力を倍力するブレーキブースタ3、ブレーキブースタ3で倍力されたブレーキ操作力を油圧に変換して作動油を送油ユニット5に送油するマスタシリンダ4、マスタシリンダ4から送油された作動油を車輪7のブレーキ動作部9に送油する送油ユニット5、および、制動力制御装置1を制御するブレーキECU(Electronic Control Unit)6を含んで構成される。
【0024】
車両100には、4つの車輪7(右前輪71、左前輪72、右後輪73、左後輪74)が備わり、ブレーキ動作部9は各車輪7に1つ備わっている。
また、車輪7には、それぞれの車輪速Vwを検出する車輪速センサ8が備わっている。つまり、図1に示すように、右前輪71にFRブレーキ動作部91とFR車輪速センサ81、左前輪72にFLブレーキ動作部92とFL車輪速センサ82、右後輪73にRRブレーキ動作部93とRR車輪速センサ83、左後輪74にRLブレーキ動作部94とRL車輪速センサ84が備わっている。
【0025】
そして、送油ユニット5はブレーキECU6からの指令に応じて、4つのブレーキ動作部9(FRブレーキ動作部91,FLブレーキ動作部92,RRブレーキ動作部93,RLブレーキ動作部94)に作動油を分配して送油し、ブレーキ動作部9を作動させる。
また、送油ユニット5には、マスタシリンダ4から入力される油圧(以下、MC液圧と称する)を検出する油圧センサ5aが備わっている。
【0026】
車両100には、ヨーレートを検出するヨーレートセンサSY、前後方向および左右方向に発生する加速度を検出する加速度センサSGが備わり、ブレーキECU6には、車輪速センサ8が検出する各車輪7の車輪速Vwを示す車輪速信号、ヨーレートセンサSYが検出するヨーレートを示すヨーレート信号、加速度センサSGが検出する前後左右方向の加速度を示す加速度信号、および油圧センサ5aが検出するMC液圧を示すMC液圧信号が入力される。
【0027】
ブレーキECU6は、車輪7の車輪速Vwに基づいて車両100の車速(車体速)Vcを算出する。例えば、ブレーキECU6は、4つの車輪7の車輪速Vwの中で高速の2つの車輪速Vwの平均値、または、4つの車輪7の車輪速Vwの中で2番面に高速の車輪速Vwを代表値とし、その代表値に基づいて車両100の車速Vcを算出する。
【0028】
また、ブレーキECU6は、算出した車速Vcと、各車輪7の車輪速Vwと、に基づいてスリップ率Srを算出する。例えば、ブレーキECU6は、4つの車輪7の車輪速の平均値を車両100の車輪速Vwとし、車速Vcと車輪速Vwの差に基づいてスリップ率Srを算出する。
【0029】
そして、ブレーキECU6は、算出した車速Vc、スリップ率Sr等に基づいて送油ユニット5に指令を与え、FRブレーキ動作部91,FLブレーキ動作部92,RRブレーキ動作部93,RLブレーキ動作部94に送油する作動油の油圧(以下、ブレーキ油圧と称する)を好適に調節して、4つの車輪7の制動力を好適に制御する。
このように、ブレーキECU6は、4つの車輪7の制動力を好適に制御することによって制動力制御装置1をABS制御(アンチロックブレーキシステム制御)することができる。そして、ブレーキECU6は、制動力制御装置1をABS制御するアンチロックブレーキ制御手段になる。
【0030】
このように構成される制動力制御装置1を備える車両100において、運転者によるブレーキ操作中にリアリフトが発生すると、運転者に違和感が与えられる。
そこで、本実施形態に係る制動力制御装置1は、リアリフトを精度よく検出するとともに、リアリフトが発生したときには、速やかにリアリフトを解消するように構成される。
【0031】
《リアリフトの発生の判定》
車両100がFF(Front engine Front drive)車両の場合、本実施形態に係るブレーキECU6は、図2に示す手順に従ってリアリフトの発生を判定する(適宜図1参照)。
なお、図2に示す手順は、例えば、ブレーキECU6が制動力制御装置1をABS制御中に、ブレーキECU6が実行するように構成される。この構成によって、ブレーキECU6は、ABS制御中に車両100のリアリフトを判定することになる。
【0032】
最初にブレーキECU6は、勾配加速度(勾配G)を算出する(ステップS1)。ブレーキECU6は加速度センサSGが検出する車両100の前後方向の加速度に基づいて、公知の方法で勾配Gを算出する。
【0033】
次にブレーキECU6は、路面の摩擦係数μrを推定する(ステップS2)。ステップS2において、ブレーキECU6は、油圧センサ5aから入力されるMC液圧信号によってMC液圧を検知する。さらに、前輪(右前輪71、左前輪72)の車輪速Vwfに基づいた車速(前輪由来車速Vcf)を算出する。
【0034】
例えば、標準的な摩擦係数μrの路面における車速の減速率(標準減速率dVstd)とMC液圧の関係は予め求められることから、ブレーキECU6は、算出したMC液圧に基づいて標準減速率dVstdを算出する。そしてブレーキECU6は、標準減速率dVstdと、前輪由来車速Vcfの減速率とに基づいて路面の摩擦係数μrを算出(推定)する。
【0035】
ブレーキECU6は、このように算出(推定)した摩擦係数μrが所定値以上かを判定し(ステップS3)、摩擦係数μrが所定値以上のとき(ステップS3→Yes)、手順をステップS4に進めてリアリフトの判定を継続する。一方、摩擦係数μrが所定値より小さいとき(ステップS3→No)、ブレーキECU6は、路面の摩擦係数μrが小さく路面が滑りやすい状態にあるため、精度よくリアリフトを検出できないと判定してリアリフトの判定を終了する。
なお、ステップS2でブレーキECU6がリアリフトの発生を判定するために摩擦係数μrと比較する所定値は、必要とされるリアリフトの検出精度等に応じて適宜設定される値である。
【0036】
次にブレーキECU6は、加速度センサSGが検出する車両100の前後方向の加速度(前後G)が所定値以上か否かを判定する(ステップS4)。例えば、車両100に備わるブレーキ動作部9の性能及び図示しないタイヤ仕様等から、車両100が減速するときの最大減速度が固有値として決定される。そこで、ブレーキECU6は、ステップS1で算出した勾配Gと最大減速度の合計値に所定の余裕値を加算した値を閾値とし、前後Gが閾値以上のときは(ステップS4→Yes)、リアリフトが発生したと判定する(ステップS9)。また、前後Gが閾値未満のときは(ステップS4→No)、ステップS5に手順を進める。
【0037】
車両100に発生する前後Gは減速度と勾配Gによって発生する加速度であるが、車両100にピッチングモーメントが発生したときにも前後Gが発生する。したがって、最大減速度と勾配Gを合わせた加速度が前後Gより大きい場合、その差分はピッチングモーメントを示している。そして、ブレーキECU6はピッチングモーメントが所定の閾値を超えて発生しているときにリアリフトが発生したと判定する(ステップS9)。つまり、ブレーキECU6は、ステップS4で、ピッチングモーメントが所定の閾値を超えた場合にリアリフトの発生を判定している。
したがって、ステップS4でブレーキECU6が前後Gと比較する閾値の算出に用いられる余裕値は、リアリフトが発生しない範囲のピッチングモーメントに相当する値であり、車両100の設計値として決定される値である。
【0038】
ブレーキECU6はステップS5で、後輪(右後輪73、左後輪74)の車輪速(後輪車輪速Vwr)に基づいた車速(後輪由来車速Vcr)を算出し、後輪由来車速Vcrの減速率dVcrと標準減速率dVstdと比較する。
FF車両でリアリフトが発生すると後輪(右後輪73、左後輪74)は空転するため、制動力による後輪の減速率が高くなる。したがって、後輪由来車速Vcrの減速率dVcrはMC液圧に基づく標準減速率dVstdより大きくなる。そこで、ブレーキECU6は、後輪由来車速Vcrの減速率dVcrが標準減速率dVstdより大きければ(ステップS5→Yes)、リアリフトが発生したと判定する(ステップS9)。
車速(後輪由来車速Vcr)は車両100の運動量(車体運動量)を示す値であり、ブレーキECU6は、ステップS5で車体運動量に基づいてリアリフトの発生を判定する。
【0039】
一方、後輪由来車速Vcrの減速率dVcrが標準減速率dVstd以下のとき(ステップS5→No)、ブレーキECU6は、RRブレーキ動作部93,RLブレーキ動作部94に供給するブレーキ油圧(以下、後輪油圧OPrと称する)を減圧していなければ(ステップS6→No)、リアリフトが発生していないと判定し(ステップS8)、後輪油圧OPrを減圧しているときは(ステップS6→Yes)、後輪油圧OPrの減圧と後輪(右後輪73、左後輪74)の回転速度の回復状態に基づいてリアリフトの発生を判定する。
【0040】
後輪(右後輪73、左後輪74)が接地しているときに後輪油圧OPrが減圧すると、車両100の慣性によって後輪車輪速Vwrは上昇する。したがって、ブレーキECU6は、後輪油圧OPrが減圧するときに、後輪車輪速Vwrが変化しない場合、リアリフトが発生していると判定する。
【0041】
すなわち、ブレーキECU6は、後輪車輪速Vwrが変化しないとき(ステップS7→No)、リアリフトが発生したと判定し(ステップS9)、後輪車輪速Vwrが変化したときは(ステップS7→Yes)、リアリフトが発生していないと判定する(ステップS8)。
ステップS7においてブレーキECU6は、後輪車輪速Vwrの変化に基づいてリアリフトの発生を判定する。
【0042】
以上のように、本実施形態に係るブレーキECU6は、車両100に発生する前後Gの大きさ、後輪由来車速Vcrの減速率dVcrの大きさ、後輪油圧OPrが減圧しているときの後輪車輪速Vwrの変化に基づいて、リアリフト(後輪のリフトアップ)の発生を判定する。したがって、ブレーキECU6は、特許請求の範囲に記載のリフト判定手段になる。
【0043】
《リアリフトの解消》
本実施形態に係るブレーキECU6(図1参照)は、図2に示す手順を実行して車両100(図1参照)にリアリフトが発生したと判定すると、リアリフトを解消するように制動力制御装置1(図1参照)を制御する。
【0044】
従来、図1に示すブレーキECU6は、制動力制御装置1を制御(ABS制御)する場合、車速Vc、路面の摩擦係数μr等から車速Vcが減速する状態(すなわち推定車速の変化)を推定し、車両100の車速が推定車速の変化に追従して減速するようにブレーキ動作部9に供給するブレーキ油圧を制御する。このとき、車速Vcが減速する加速度(減速度)が大きいとリアリフトが発生する。また、リアリフトが発生した場合に減速度が大きい状態が維持されるとリアリフトが解消しない。
【0045】
そこで、本実施形態にかかるブレーキECU6(図1参照)は、リアリフトが発生した場合、車両100(図1参照)の減速度を小さくするようにブレーキ動作部9(図1参照)を制御する。そのため、ブレーキECU6は、リアリフトが発生した場合、FRブレーキ動作部91(図1参照)とFLブレーキ動作部92(図1参照)に供給する作動油のブレーキ油圧を調節し、右前輪71(図1参照)と左前輪72(図1参照)の制動力を制限する。
【0046】
例えば、通常のABS制御でブレーキECU6(図1参照)が算出する車速Vcの減速度を標準減速度astdとすると、ブレーキECU6は、リアリフトが発生したときは車両100(図1参照)の減速度が標準減速度astdより小さくなるように、FRブレーキ動作部91(図1参照)とFLブレーキ動作部92(図1参照)に供給する作動油の油圧を制限する。
【0047】
また、本実施形態に係るブレーキECU6(図1参照)は、リアリフトが発生した場合、左前輪72(図1参照)の制動力の変化と位相がずれて右前輪71(図1参照)の制動力が変化するようにFRブレーキ動作部91,FLブレーキ動作部92(図1参照)を制御する。具体的に、ブレーキECU6は、図3の(a)に示すように、FLブレーキ動作部92に供給する作動油のブレーキ油圧(FL油圧OPFL)の変化と位相をずらして、FRブレーキ動作部91に供給する作動油のブレーキ油圧(FR油圧OPFR)を変化させる。
【0048】
通常のABS制御で、ブレーキECU6(図1参照)は、推定車速等に基づいてFRブレーキ動作部91(図1参照)に供給する作動油のFR油圧OPFRとFLブレーキ動作部92(図1参照)に供給する作動油のFL油圧OPFLと、について、増圧、保持、減圧を時系列に繰り返し配置したパターン(以下、油圧パターンと称する)をそれぞれ算出し、算出した油圧パターンにしたがってFR油圧OPFRとFL油圧OPFLを制御する。そして、通常のABS制御において、ブレーキECU6は、FR油圧OPFRの増圧、保持、減圧のタイミングとFL油圧OPFLの増圧、保持、減圧のタイミングがほぼ同期するようにそれぞれの油圧パターンを算出する。
したがって、通常のABS制御において、FR油圧OPFRの増圧、保持、減圧と、FL油圧OPFLの増圧、保持、減圧はほぼ同期している。
【0049】
本実施形態に係るブレーキECU6(図1参照)は、リアリフトの発生時に、FR油圧OPFRの増圧、保持、減圧のタイミングとFL油圧OPFLの増圧、保持、減圧のタイミングを時間的にずらして、FR油圧OPFRとFL油圧OPFLを好適な位相差をもって変化させる。この構成によって、ブレーキECU6は、左前輪72(図1参照)に付与する制動力の変化と位相をずらして右前輪71(図1参照)に付与する制動力を変化することができる。
【0050】
このような位相差は、例えば、車速Vcと摩擦係数μrに基づいて設定されることが好ましく、車速Vcと摩擦係数μrと位相差の関係を示すマップが図示しない記憶部に備わる構成とすればよい。ブレーキECU6は、車速(この場合は前輪由来車速Vcf)と摩擦係数μrに基づいて当該マップを参照して位相差を算出できる。このようなマップは、例えば、実験計測等で容易に設定できる。
【0051】
また、ブレーキECU6は、通常のABS制御(リアリフトが発生していないときのABS制御)で使用する油圧パターンを算出するロジックを使用して、リアリフトが発生したときの油圧パターンを算出する。さらに、ブレーキECU6は、油圧パターンの増圧部を所定の係数で補正する。このように、油圧パターンの増圧部を補正することにより、車両100(図1参照)の減速度を標準減速度astdより小さく抑えることができる。つまり、油圧パターンの増圧部は、FR油圧OPFRとFL油圧OPFLの増圧を示す部分であり、増圧部を補正することによって、FR油圧OPFRとFL油圧OPFLを補正できる。したがって、増圧部を小さく補正するとFR油圧OPFRとFL油圧OPFLが小さくなり、右前輪71と左前輪72に付与する制動力を小さく制限できる。その結果、車両100の減速度を小さくすることができる。
【0052】
このように油圧パターンの増圧部を補正する係数は、増圧部を小さく補正する係数が好適であり、例えば、車速Vcと摩擦係数μrに基づいて設定される値である。そこで、車速Vcと摩擦係数μrと当該係数の関係を示すマップが図示しない記憶部に備わる構成とすればよい。ブレーキECU6は、車速(この場合は前輪由来車速Vcf)と摩擦係数μrに基づいて当該マップを参照して増圧部を補正する係数を算出できる。このようなマップは、例えば、実験計測等で容易に設定できる。
【0053】
そして、ブレーキECU6は算出した係数で油圧パターンの増圧部を補正し、さらに、FR油圧OPFRの油圧パターンとFL油圧OPFLの油圧パターンを時間的にずらしてFR油圧OPFRとFL油圧OPFLを制御することによって、FR油圧OPFRとFL油圧OPFLの変化に位相差を設ける。
このように、ブレーキECU6が、通常の状態で油圧パターンを算出するロジックを使用して、リアリフトが発生したときの油圧パターンを算出する構成によって、リアリフトが発生したときの油圧パターンを算出するためのロジックを新規設計する必要がなく、ブレーキECU6の設計工数を削減できる。
【0054】
図3の(b)に示すように、右前輪71の車輪速VwFR(実線)は、図3の(a)に実線で示す油圧パターンに応じて増圧、保持、減圧するFR油圧OPFRにともなって減速、速度維持、加速を繰り返し、左前輪72の車輪速VwFL(破線)は、図3の(a)に破線で示す油圧パターンに応じて増圧、保持、減圧するFL油圧OPFLにともなって減速、速度維持、加速を繰り返す。このように、FR油圧OPFRの変化とFL油圧OPFLの変化に位相差を設けると、右前輪71(図1参照)の制動力と左前輪72(図1参照)の制動力の変化に位相差が生じて車両100(図1参照)が左右方向に揺れ、ヨーモーメントが発生する。
そして、リアリフトを発生させるピッチングモーメントがヨーモーメントに変換されてピッチングモーメントが減少し、それにともなって車両100に発生しているリアリフトが解消する。このように、本実施形態に係るブレーキECU6(図1参照)は、車両100にヨーモーメントを発生させてリアリフトを解消する。
【0055】
しかしながら、右前輪71(図1参照)の制動力と左前輪72(図1参照)の制動力の差が大きすぎると荷重移動が発生し、その荷重移動によってブレーキロックが発生するという不具合が生じる。特に、車両100(図1参照)の旋回時など、左右の前輪にかかる荷重が大きく異なって、最大の荷重がかかる車輪7(以下、最大荷重前輪と称する)に大きな制動力が付与されるとブレーキが強くロックすることになり、運転者に大きな違和感を与える。
【0056】
そこで、ブレーキECU6(図1参照)は、右前輪71の制動力と左前輪72の制動力の差を制限するようにFRブレーキ動作部91、FLブレーキ動作部92(図1参照)を制御する。特に、最大荷重前輪に大きな制動力を付与しないようにFRブレーキ動作部91、FLブレーキ動作部92を制御する。例えば、右前輪71が最大荷重前輪の場合、ブレーキECU6は、FR油圧OPFRが所定の制限値を超えてFL油圧OPFLより増大しないようにFR油圧OPFRを制限する。
【0057】
そこで、例えば右前輪71(図1参照)が最大荷重前輪の場合、図4の(a)に一点鎖線で示すように、FL油圧OPFLに対する高圧側の制限値を設定する。このような制限値は、破線で示されるFL油圧OPFLの作動油がFLブレーキ動作部92(図1参照)に供給されたときに、ブレーキロックが発生しない範囲の制動力を右前輪71(図1参照)に発生させるFR油圧OPFRの範囲で決定される。
【0058】
そして、ブレーキECU6(図1参照)は、FL油圧OPFLと位相差をもって変化するFR油圧OPFRが図4の(a)に一点鎖線で示す制限値を超える場合、図4の(b)に示すように制限値をFR油圧OPFRに設定する。そして、設定したFR油圧OPFRの作動油をFRブレーキ動作部91(図1参照)に供給する。
その結果、図4の(c)に実線で示すように右前輪71の車輪速VwFRが変化するとともに、破線で示すように左前輪72の車輪速VwFLが変化する。図3の(b)に示す状態より、右前輪71の車輪速VwFRの低下が抑制される。
【0059】
このように、最大荷重前輪となる右前輪71(図1参照)の車輪速VwFRの低下を抑えることができ、ブレーキロックが発生することを抑制できる。また、右前輪71の車輪速VwFRと左前輪72の車輪速VwFLの変化に位相差を生じさせることができ、車両100(図1参照)にヨーモーメントを発生できる。したがって、車両100に発生しているリアリフトを解消できる。
なお、左前輪72(図1参照)が最大荷重前輪になるときは、FL油圧OPFLを制限するように構成される。
【0060】
図5を参照して、リアリフトが発生しているときにブレーキECU6がブレーキ動作部9を制御する手順を説明する(適宜図1参照)。図5に示す手順は、ABS制御中に、ブレーキECU6が図2に示す手順でリアリフトが発生したと判定したときにブレーキECU6が実行する。
【0061】
ブレーキECU6はリアリフトの発生を検出すると、車両100が旋回しているか否かを判定する(ステップS10)。
ブレーキECU6はステップS10において、左車輪(左前輪72、左後輪74)の車輪速Vwと右車輪(右前輪71、右後輪73)の車輪速Vwの差が所定値以上のとき、車輪速Vwの遅い側に旋回していると判定する。例えば、右車輪(右前輪71、右後輪73)の車輪速Vwが左車輪(左前輪72、左後輪74)の車輪速Vwより遅い場合、ブレーキECU6は車両100が右旋回していると判定する。
【0062】
車両100が旋回していない場合(ステップS10→No)、ブレーキECU6は、MC液圧に対する前輪(右前輪71、左前輪72)の車輪速(前輪車輪速Vwf)の変化から、荷重のかかっている前輪、すなわち、最大荷重前輪を判定する(ステップS11)。例えば、MC液圧の変化と荷重のかかっている前輪(右前輪71、左前輪72)の前輪車輪速Vwfの標準的な変化の関係を示すマップデータが予め設定され、ブレーキECU6の図示しない記憶部に記憶される構成とすればよい。ブレーキECU6は、当該マップを参照して、油圧センサ5aが検出するMC液圧の変化に対応する右前輪71の車輪速VwFRと左前輪72の車輪速VwFLの標準的な変化を取得できる。そして、取得した車輪7の車輪速Vwの標準的な変化と近い前輪車輪速Vwfの変化を有する前輪を最大荷重前輪と判定できる。
【0063】
そして、ブレーキECU6は、最大荷重前輪の前輪車輪速Vwfに基づいて車両100の車速Vcを算出し(ステップS13)、算出した車速Vc、図2に示すステップS2で推定した路面の摩擦係数μr等から推定車速の変化を推定する。推定車速の変化を推定する方法は、従来のABS制御で広く使用される方法を適用することができる。そして、ブレーキECU6は推定車速に応じてブレーキ動作部9を制御する(ステップS14)。
【0064】
一方、車両100が旋回している場合(ステップS10→Yes)、ブレーキECU6は、旋回外側の前輪を最大荷重前輪とする(ステップS12)。そして、ブレーキECU6は、最大荷重前輪の前輪車輪速Vwfに基づいて車両100の車速Vcを算出し(ステップS13)、手順をステップS14に進めてブレーキ動作部9を制御する。
【0065】
前記したように、ブレーキECU6はステップS14において、車両100が標準減速度astdを超えて減速しないように、FRブレーキ動作部91とFLブレーキ動作部92(図1参照)に供給するFR油圧OPFRとFL油圧OPFLを制御する。
なお、本実施形態においては、ブレーキECU6が最大荷重前輪を判定するように構成される。したがって、ブレーキECU6は、特許請求の範囲に記載の荷重判定手段として機能する。
【0066】
例えば、最大荷重前輪が右前輪71(図1参照)の場合、図4の(b)に示すように、ブレーキECU6(図1参照)は、FR油圧OPFRとFL油圧OPFLを好適な位相差をもって変化させてFRブレーキ動作部91(図1参照)及びFLブレーキ動作部92(図1参照)に作動油を供給する。このとき、FR油圧OPFRが予め設定される制限値を超えないように制限される。そして、右前輪71の車輪速VwFRと左前輪72の車輪速VwFLを位相差をもって変化させて車両100(図1参照)にヨーモーメントを発生させてリアリフトを解消する。
【0067】
以上のように本実施形態に係る制動力制御装置1(図1参照)は、ブレーキECU6(図1参照)がABS制御中に、後輪由来車速Vcrの減速率dVcrの大きさ、後輪油圧OPrが減圧するときの後輪車輪速Vwrの変化、車両100(図1参照)に発生する前後Gの大きさに基づいて、リアリフトの発生を判定することができる。そして、リアリフトが発生した場合、ブレーキECU6がFRブレーキ動作部91に供給する作動油のFR油圧OPFRとFLブレーキ動作部92に供給する作動油のFL油圧OPFLを調節してリアリフトを速やかに解消し、車両100の動作を安定化できる。
したがって、リアリフトが運転者に与える違和感を好適に解消できるという優れた効果を奏する。
【0068】
また、リアリフトを解消するとき、ブレーキECU6(図1参照)は、通常のABS制御でFR油圧OPFRとFL油圧OPFLの油圧パターンを算出するロジックをそのまま利用することができ、リアリフトを解消するための油圧パターンを算出するロジックを新規に備える必要がない。したがって、設計工数を大幅に増やすことなく、リアリフトを解消する機能をブレーキECU6に備えることができるという優れた効果を奏する。
【0069】
以上、FF車両である車両100(図1参照)を実施形態として本発明を説明したが、本発明をFR(Front engine Rear drive)車両に適用することも可能である。
この場合、図2に示すステップS5の処理が変更される。FR車両の場合、右後輪73、左後輪74(図1参照)は図示しないエンジンによって駆動されることから、リフトアップが発生すると路面抵抗が小さくなって車輪速度Vwが上昇する。したがって、後輪由来車速Vcrの減速率dVcrが、MC液圧に基づく標準減速率dVstdより小さくなる。
【0070】
そこで、車両100(図1参照)がFR車両の場合、ブレーキECU6(図1参照)は、図2のステップS5において、減速率dVcrが標準減速率dVstdより小さいときにリアリフトが発生したと判定する。一方、減速率dVcrが標準減速率dVstd以上のとき、ブレーキECU6はリアリフトが発生していないと判定する。
その他、図2に示す手順及び図5に示す手順はFF車両と同一にして、本発明をFR車両に適用できる。
【0071】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜設計変更が可能である。
例えば、図5のステップS10で、ブレーキECU6(図1参照)は、左車輪と右車輪の車輪速Vwの差に基づいて、車両100(図1参照)の旋回を判定しているが、ヨーレートセンサSY(図1参照)や図示しない舵角センサの検出値に基づいて車両100の旋回を判定する構成であってもよい。
【0072】
また、例えば、図2のステップS4で、ブレーキECU6(図1参照)は、勾配G、車両100(図1参照)の前後G、最大減速度、に基づいてピッチングモーメントを算出しているが、センサ等によってピッチングモーメントを直接検出する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 制動力制御装置
6 ブレーキECU(アンチロックブレーキ制御手段、リフト判定手段、荷重判定手段)
71 右前輪(前輪)
72 左前輪(前輪)
73 右後輪(後輪)
74 左後輪(後輪)
91 FRブレーキ動作部
92 FLブレーキ動作部
93 RRブレーキ動作部
94 RLブレーキ動作部
100 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチロックブレーキ制御手段によるアンチロックブレーキ制御中に、車両の後輪のリフトアップの発生を判定するリフト判定手段を備え、
前記アンチロックブレーキ制御手段は、
前記リフト判定手段が前記リフトアップの発生を判定したとき、前記車両の前輪に付与する制動力を制限することを特徴とする制動力制御装置。
【請求項2】
前記リフト判定手段は、前記アンチロックブレーキ制御中における前記後輪の車輪速の変化に基づいて前記リフトアップの発生を判定することを特徴とする請求項1に記載の制動力制御装置。
【請求項3】
前記リフト判定手段は、前記アンチロックブレーキ制御中の車体運動量に基づいて前記リフトアップの発生を判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の制動力制御装置。
【請求項4】
前記リフト判定手段は、前記アンチロックブレーキ制御中の前記車両に発生するピッチングモーメントが予め設定される閾値を超えた場合に前記リフトアップの発生を判定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の制動力制御装置。
【請求項5】
前記前輪の内で最も大きな荷重がかかる最大荷重前輪を判定する荷重判定手段を備え、
前記アンチロックブレーキ制御手段は、前記最大荷重前輪に付与する制動力が、他の前記前輪に付与する制動力より制限値を超えて増大しないように、前記最大荷重前輪に付与する制動力を制限することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の制動力制御装置。
【請求項6】
前記リフト判定手段が前記リフトアップの発生を判定したとき、
前記アンチロックブレーキ制御手段は、前記車両の左前輪に付与する制動力の変化と位相をずらして前記車両の右前輪に付与する制動力を変化することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−219010(P2011−219010A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91709(P2010−91709)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】