説明

制動力制御装置

【課題】マスタシリンダ圧センサを必要としない制動力制御装置を提供する。
【解決手段】マスタカット弁41は、磁性体(プランジャ)101と、コイル102と、スプリング103と、を備える。磁性体101は、第1液圧配管38と連結通路43との液圧差に応じた差圧作用力が開弁する方向に作用される。コイル102は、磁性体101が動くことにより、誘導起電力が発生する。誘導起電力は液圧が変化した際、特に運転者がブレーキペダル31を操作した際、コイル102に電磁誘導により電流が流れるようになっている。ブレーキペダル31を操作したことにより発生した電流をブレーキ液圧に換算して制動装置に導入する。これより、ブレーキペダル31によるブレーキ液圧を制動力制御装置に導入することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制動力を制御する制動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
女性及び高齢者が運転者の場合、緊急時に車両を制動させようと思っていてもブレーキペダルを踏む力が弱いため、運転者自身が想定している制動がかからないことがある。これに対して、車両の制動力の補助が必要であると判断された際、エンジンのインテークマニホールドの負圧によりブースタ内に発生する圧力差を利用することで、ブレーキペダルを踏む力が同じであっても大きな制動力を発生することができる技術が知られている。例えば、ブレーキスイッチと、マスタシリンダ圧センサを用いて検出したマスタシリンダ圧及びマスタシリンダ圧の変化量と、から制動力を制御する技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
また、車両には、操舵操作に伴い旋回方向に向けたヨーモーメントが発生する。このヨーモーメントが過大であると判断された場合、逆方向のヨーモーメントを車両に作用させてヨーモーメントを軽減させる技術が知られている。例えば、ブレーキ液圧センサを用いて検出するブレーキペダルの操作によって発生したマスタシリンダ圧に基づいて、制動力を制御する技術が開示されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−329766号公報
【特許文献2】特開2001−97195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2において、制動力を制御するために、マスタシリンダの圧力を検出するセンサが必要である。しかし、マスタシリンダの圧力を検出するセンサは他のセンサと同様に誤検知したり、故障したりする恐れがある。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、マスタシリンダ圧センサを必要としない制動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために本発明にかかる制動力制御装置は、ブレーキペダルの操作により流体に圧力を発生させるマスタシリンダと、前記流体の圧力により制動力を発生させる制動装置と、前記マスタシリンダと前記制動装置とを接続する配管と、前記配管内における前記流体の流れを遮断するために操作される電磁弁と、を備えた制動力制御装置であって、前記電磁弁に発生する誘導起電力に基づいて制動力を制御することを特徴とする。
制動力制御装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マスタシリンダ圧センサを必要とせずに、制動力の制御をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態にかかる制動力制御装置が適用される車両の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる制動力制御装置の制御システムの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるマスタシリンダと制動装置とを接続する配管内における流体の流れを遮断する電磁弁の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態にかかるマスタシリンダと制動装置とを接続する配管内における流体の流れを遮断する電磁弁の制御の概略を示すブロック図である。
【図5】ペダル操作によって発生する踏力値及びコイル102に流れる電流値についての時系列変化を示す図である。
【図6】制動力制御装置の制御システムを作動させるための制御フローチャートを示す図である。
【図7】マスタカット弁の弁開度及び誘導起電力から制動装置に導入するブレーキ液の液圧の換算を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態にかかる制動力制御装置について図面を参照しながら説明する。
【0011】
制動力制御装置が適用される車両10の一例を図1に示す。車両10は、エンジンやモータ等の動力源20が設けられている。車両10は、動力源20の動力を駆動輪に駆動力として伝達して走行する。車両10は、走行中に車両10を停止又は減速させる制動システムが備えられている。制動システムは、左前輪(WFL)、右前輪(WFR)、左後輪(WRL)、右後輪(WRR)のそれぞれに対して個別の大きさで目標車輪制動トルク(目標車輪制動力)を発生させることができるように構成されている。ここで、ブレーキ液圧の力を利用して各要素間に摩擦力を発生させ、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRに目標車輪制動トルク(目標車輪制動力)を働かせるものについて説明する。これより、制動力制御装置は制御対象輪のブレーキ液圧を制御することで、ABS制御、トラクション制御及びビークルスタビリティ制御等をすることができ、更にブレーキアシスト制御することもできる。
【0012】
本発明の制動システムは、図1及び図2に示すように、運転者が操作するブレーキペダル31と、このブレーキペダル31に入力されたブレーキ操作に伴う操作圧力(ペダル踏力)を所定の倍力比で倍化させる制動倍力装置(ブレーキブースタ)32と、この制動倍力装置32により倍化されたペダル踏力をブレーキペダル31の操作量に応じたブレーキ液圧(以下、マスタシリンダ圧という。)へと変換するマスタシリンダ33と、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク34と、を備えている。これらブレーキペダル31や制動倍力装置32等は、運転者によるブレーキペダル31の操作量に応じたブレーキ液圧を発生させる液圧発生装置として機能する。マスタシリンダ33は図示しない2つの油圧室から構成されており、それぞれの油圧室から液圧配管が延びているようになっている。
【0013】
また、この制動システムには、マスタシリンダ圧を各車輪WFL,WFR,WRL,WRRごとに調整可能な液圧調整装置(以下、ブレーキアクチュエータという。)35と、このブレーキアクチュエータ35を通過したブレーキ液圧(マスタシリンダ圧又はマスタシリンダ圧を調圧したブレーキ液圧)が伝えられる各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの液圧配管36FL,36FR,36RL,36RRと、これら各液圧配管36FL,36FR,36RL,36RRのブレーキ液圧がそれぞれ供給されて、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRに車輪制動トルク(車輪制動力)を発生させる制動装置(ディスクロータやキャリパ等で構成されたものやドラムやホイールシリンダ等で構成されたもの)37FL,37FR,37RL,37RRと、が設けられている。
【0014】
本実施形態のブレーキアクチュエータ35は、右前輪WFR及び左後輪WRLに対してブレーキ液圧を伝える第1液圧系統と、左前輪WFL及び右後輪WRRに対してブレーキ液圧を伝える第2液圧系統と、を備えたものとして例示する。つまり、このブレーキアクチュエータ35は、いわゆるX配管のブレーキ液圧回路を有する構造になっている。その第1液圧系統は、マスタシリンダ33の内部の一方の油圧室から第1液圧配管38を介してブレーキ液圧が供給される。一方、第2液圧系統は、マスタシリンダ33の内部の他方の油圧室から第2液圧配管39を介してブレーキ液圧が供給される。
【0015】
ブレーキアクチュエータ35は、第1液圧系統及び第2液圧系統における、それぞれのブレーキ液の流量調節装置としてのマスタカット弁41,42を備えている。マスタカット弁41は第1液圧配管38が接続され、マスタカット弁42は第2液圧配管39が接続される。各マスタカット弁41,42は、通常は開弁状態にあっていわゆる常開式の流量調整用電磁弁であって、電子制御装置1の指令による通電に伴って弁開度の制御を実行する。従って、マスタカット弁41,42は、コイル102への通電量に応じて弁開度を制御することで、マスタシリンダ33から制動装置37FL,37FR,37RL,37RRに導入されるブレーキ液の流れを遮断するようになっている。また、マスタカット弁41,42は加圧ポンプ69,70から吐出されたブレーキ液の圧力を調節してマスタシリンダ33側へ開放することができるようにもなっている。
【0016】
ブレーキアクチュエータ35において、第1液圧配管38はマスタカット弁41を介して連結通路43に接続されるとともに、第2液圧配管39がマスタカット弁42を介して連結通路44に接続される。第1液圧配管38及び第2液圧配管39は、マスタカット弁41,42から流出したブレーキ液が通過する流出配管である。第1液圧系統の連結通路43は分岐することにより2本の分岐通路45,46に接続し、第2液圧系統の連結通路44は分岐することにより2本の分岐通路47,48に接続する。また、第1液圧系統の連結通路43及び第2液圧系統の連結通路44は、マスタカット弁41,42にブレーキ液を流入させるようになっている流入配管でもある。第1液圧系統において、各分岐通路45,46はそれぞれ右前輪WFRの液圧配管36FRと左後輪WRLの液圧配管36RLに接続する。一方、第2液圧系統において、各分岐通路47,48はそれぞれ右後輪WRRの液圧配管36RRと左後輪WFLの液圧配管36FLに接続する。
【0017】
各分岐通路45,46,47,48上に、それぞれ制動装置37FR,37RL,37RR,37FLごとのブレーキ液圧を調整可能な液圧調圧部が各車輪WFR,WRL,WRR,WWLごとに配置された保持弁50,51,52,53と、液圧排出通路54,55,56,57と減圧弁58,59,60,61と、から構成される。ここで、各分岐通路45,46,47,48上に保持弁50,51,52,53がそれぞれ配置されており、更に、各保持弁50,51,52,53よりも下流側に液圧排出通路54,55,56,57はそれぞれ分岐通路45,46,47,48から分岐するように接続されている。各液圧排出通路54,55,56,57上に、それぞれ減圧弁58,59,60,61が配置されている。なお、前述した下流とは、ブレーキペダル操作時のブレーキ液の流動方向(つまり、制動装置37FR,37RL,37RR,37FLへと向かう方向)における下流側のことである。
【0018】
保持弁50,51,52,53は常開式の電磁弁であって、非励磁状態の通常時には開弁状態にあり、電子制御装置1の指令による通電に伴って励磁状態となり開弁させられるものである。一方、減圧弁58,59,60,61は常閉式の電磁弁であって、非励磁状態の通常時には閉弁状態にあり、電子制御装置1の指令による通電に伴って励磁状態となり開弁させられるものである。
【0019】
ブレーキアクチュエータ35は、第1液圧系統におけるそれぞれの液圧排出通路54,55が合流して1つの液圧排出結合通路62と、第2液圧系統におけるそれぞれの液圧排出通路56,57が合流して1つの液圧排出結合通路63と、が配置されており、それぞれの液圧排出集合通路62,63はそれぞれ補助リザーバ64,65に接続されている。
【0020】
第1液圧系統において、ポンプ通路66は連結通路43と各分岐通路45,46との分岐点から分岐して液圧排出集合通路62に接続されるように配置される。同様に、ポンプ通路67は連結通路44と各分岐通路47,48との分岐点から分岐して液圧排出集合通路63に接続されるように配置される。
【0021】
それぞれのポンプ通路66,67は、電動機(例として1つの電動機68)によって駆動される加圧ポンプ(加圧部)69,70をそれぞれ配置する。各加圧ポンプ69,70は、それぞれマスタカット弁41,42側の各分岐点に向けてブレーキ液を吐出させるものであり、それぞれに分岐通路45,46と分岐通路47,48に対して加圧されたブレーキ液を供給する。つまり、第1液圧系統の加圧ポンプ69は、右前輪WFRと左後輪WRLに発生させる制動力を増大させるべく、それぞれの制動装置37FL,37RRに供給するブレーキ液の液圧を増加させる。なお、電動機68は、図示しないバッテリからの電力供給により駆動する。また、その各ポンプ通路66,67は、加圧ポンプ69,70から吐出されたそれぞれのブレーキ液の脈動を回避するダンパ室71,72が配置されている。
【0022】
ブレーキアクチュエータ35は、第1及び第2の液圧配管38,39からそれぞれ分岐して補助リザーバ64,65にそれぞれ接続される吸入通路73,74が配置されている。更に、それぞれの吸入通路73,74の補助リザーバ64,65側にリザーバカット逆止弁75,76が配置されている。
【0023】
制動システムは、制御対象輪の制動力を増加させる増圧モード、制御対象輪の制動力を保持する保持モード、制御対象輪の制動力を減少させる減圧モードがある。制御対象輪を増圧モード、保持モード又は減圧モードに制御する際、電子制御装置1は、制御対象輪を含む液圧系統のマスタカット弁41,42を閉弁させる。
【0024】
制御対象輪が第1液圧系統に含まれているときに、マスタカット弁41は閉弁され、第1液圧配管38と保持弁50,51の上流の連結通路43とを遮断する。例えば、右前輪WFRが制御対象輪の場合、電子制御装置1は増圧モードへと制御する際、保持弁50が開弁状態で、かつ、減圧弁58が閉弁状態となるように制御することで、右前輪WFRの制動装置37FRへのブレーキ液の液圧を増加させる。電子制御装置1は保持モードへと制御する際、保持弁50と減圧弁58が閉弁状態となるように制御することで、右前輪WFRの制御装置37FRへのブレーキ液の液圧を保持させる。電子制御装置1は、減圧モードへと制御する際、保持弁50が閉弁状態で、かつ、減圧弁58が開弁状態となるように制御することで、右前輪WFRの制御装置37FRへのブレーキ液の液圧を減少させる。
【0025】
同様に、制御対象輪が第2液圧系統に含まれているときに、マスタカット弁42は閉弁され、第2液圧配管39と保持弁52,53の上流の連結通路44とを遮断する。例えば、左前輪WFLが制御対象輪の場合、電子制御装置1は増圧モードへと制御する際、保持弁53が開弁状態で、かつ、減圧弁61が閉弁状態となるように制御することで、左前輪WFLの制動装置37FLへのブレーキ液の液圧を増加させる。電子制御装置1は保持モードへと制御する際、保持弁53と減圧弁61が閉弁状態となるように制御することで、左前輪WFLの制御装置37FLへのブレーキ液の液圧を保持させる。電子制御装置1は、減圧モードへと制御する際、保持弁53が閉弁状態で、かつ、減圧弁58が開弁状態となるように制御することで、左前輪WFLの制御装置37FLへのブレーキ液の液圧を減少させる。
【0026】
制動力制御装置は、例えば、旋回中の車両挙動の安定化制御を行う。安定化制御とは、ビークルスタビリティ制御のことである。車両10は、運転者のステアリングホイール81の操舵操作に伴う旋回動作の最中に、車両の挙動がニュートラルステア傾向を示すこともあれば、オーバーステア傾向やアンダーステア傾向を示すことがある。電子制御装置1は、車速、車両前後方向の加速度や左右方向の横加速度、ヨーレート等の車両走行情報に基づいて、車両10の挙動を判断する。なお、車速は、例えば車輪WFL,WFR,WRL,WRRの車輪速度(車輪速センサ91,92,93,94に計測させる。)や図示しない変速機の出力軸の回転速度等から推定してもよい。車両前後方向の加速度は車両前後加速度センサ95に計測させ、車両横加速度は車両横加速度センサ96に計測させる。ヨーレートはヨーレートセンサ97に計測させる。
【0027】
電子制御装置1は、車体の実際の旋回状態が過大なオーバーステア傾向を示すときに、前後いずれか又は双方の旋回外輪に車輪制動力を発生させることにより、オーバーステア傾向を示すヨーモーメント(実旋回挙動量)とは逆向きのヨーモーメント(旋回制御量)を車体に作用させることができる。これより、車体がオーバーステア傾向を示す際、旋回外輪に発生させた車輪制動力によってオーバーステア傾向を抑えることができる。車体10は、適切な大きさの旋回制御量を旋回外輪に発生させることで、過大なオーバーステア傾向となる実旋回状態を目標旋回状態に抑え、目標旋回状態を保ったまま旋回動作を行うことができる。
【0028】
同様に、電子制御装置1は、車体の実際の旋回状態が過大なアンダーステア傾向を示すときに、前後いずれか又は双方の旋回内輪に車輪制動力を発生させることにより、アンダーステア傾向を示すヨーモーメント(実旋回挙動量)とは逆向きのヨーモーメント(旋回制御量)を車体に作用させることができる。これより、車体がアンダーステア傾向を示す際、旋回外輪に発生させた車輪制動力によってアンダーステア傾向を抑えることができる。車体10は、適切な大きさの旋回制御量を旋回外輪に発生させることで、過大なアンダーステア傾向となる実旋回状態を目標旋回状態に抑え、目標旋回状態を保ったまま旋回動作を行うことができる。
【0029】
目標旋回状態は、目標旋回挙動量(目標とする大きさのヨーモーメント)で旋回している状態のことであり、例えばニュートラルステア傾向や弱アンダーステア傾向を示す状態である。電子制御装置1は車体の実旋回状態がいずれの傾向であるのかに関わらず、目標旋回状態の実現のために発生させる逆向きの目標ヨーモーメント(目標旋回制御量)を演算する。逆向きの目標ヨーモーメントは、実旋回状態と目標旋回状態との偏差、換言するならば実旋回挙動量と目標旋回挙動量との差に応じて決定される。
【0030】
また、制動力制御装置は、急制動操作時における制動力を補助する制御を行う。制動力制御とは、すなわち、制動倍力制御(ブレーキアシスト制御)のことである。ブレーキアシスト制御を実行するか否かの判断は、従来、マスタシリンダ圧の変化量が利用されている。急制動操作時は、普段のブレーキ操作よりも単位時間当りのマスタシリンダ圧の変化量が大きくなるからであり、この単位時間当りのマスタシリンダ圧の変化量がブレーキペダル31の踏み込み速度に相当するからである。
【0031】
一方、本発明の制動力制御装置は、マスタシリンダ圧の計測を行うマスタシリンダ圧センサを備えていない。これより、マスタシリンダ圧の変化から運転者のブレーキ操作を把握することができない。そこで、本発明の制動力制御装置はマスタカット弁41を用いることにより、運転者がブレーキ操作を行ったか否かを検出する。以下、マスタカット弁42はマスタカット弁41と同様の構成であり、同様の制御がなされるため説明を省略する。
【0032】
本発明の実施形態にかかるマスタカット弁41は図3に示すような構成になっている。マスタカット弁41は、図3に示すように、磁性体(プランジャ)101と、コイル102と、スプリング103と、を備える。
【0033】
磁性体101は、第1液圧配管38と連結通路43との液圧差に応じた差圧作用力が開弁する方向に作用される。スプリング103は、磁性体を開弁する方向に作用するようになっている。
【0034】
コイル102は、電流が供給されることにより電磁駆動力が発生し、磁性体101を閉弁する方向に作用する。電磁駆動力はコイル102に供給する電流を制御することにより制御することができる。
【0035】
一方、コイル102は、磁性体101が動くことにより、誘導起電力が発生する。誘導起電力は液圧が変化した際、特に運転者がブレーキペダル31を操作した際、コイル102に電磁誘導により電流が流れるようになっている。
【0036】
マスタカット弁41は、電子制御装置1が磁性体101の動きにより発生した誘導起電力を検出するために、リニア電磁弁であることが望ましい。リニア電磁弁は、前後の差圧(例えば、第1液圧配管38と連結通路43との差圧)が電磁駆動電流に比例して変化するように制御される比例制御弁である。リニア電磁弁が開位置となると、マスタシリンダ33内のブレーキ液がリザーバタンク34に戻される。リニア電磁弁に対してリニア電磁弁前後の差圧を目標とする差圧になるように指示することにより、リニア電磁弁は第1液圧配管38と連結通路43との差圧が所定の値になるように制御される。
【0037】
マスタカット弁41の制御の概略について、図4に示すように、ブロック図を用いて説明する。
【0038】
まず、マスタカット弁41の前後に所定の差圧をかけるための制御について説明する。運転者の操舵操作やブレーキ操作及び走行状態に応じて目標とする制動力を制御するために、電力制御装置1に差圧指示値が入力される。ここで、所定の差圧値に制御するために、電力制御装置1は差圧指示値を変換マップに基づいて電流値に変換する。電力制御装置1は電流指示値を電流コントローラ2に送る。電流コントローラ2がマスタカット弁41内のコイル102に電流を流すことにより、磁性体101は所定の位置に動く。これより、マスタカット弁41の前後に所定の差圧をかけることができる。
【0039】
ここで、ブレーキペダル31の操作がなされた場合について説明する。ブレーキペダル31の操作がなされると、マスタカット弁41内の磁性体101が動くことにより電磁誘導が起き、コイル102に誘導電流が流れる。検知した誘導電流を電流コントローラ2にフィードバックすることにより、ペダル操作がなされたことを検出することが出来る。
【0040】
ブレーキペダル31の操作による踏力値とコイル102に流れる電流値について、図5に示すように、時間の流れに沿って説明する。図5において、上図は図示しない踏力センサ等で検出したペダル操作によって発生する踏力値を示しており、下図はコイル102に流れる電流値を示している。
【0041】
ブレーキペダル31の操作がなされていない状態において、踏力値は0となっており電流値は所定の値Aとなっている。時刻Tにおいてブレーキペダル31の操作がなされると、運転者によって目標の制動力を得るために、踏力値は所定値Pまで上昇する。一方、ブレーキペダル31の操作がなされることにより、マスタカット弁41内の磁性体101が開弁する方向に動くことにより誘導電力が発生する。これより、電流値はAからAに上昇する。その後、マスタカット弁41内の磁性体101の動きが少なくなるにつれて、電流値はAからAに戻る。
【0042】
マスタカット弁41内の磁性体は、図5において、開弁する方向に動くことにより誘導電流が発生したが、閉弁する方向に動くことにより誘導電流が発生するようにしてもよい。すなわち、ブレーキペダル31の操作によって、コイル102に流れる電流値はAからA(AはAより小さい値)に減少し、その後、AからAに戻るようにしてもよい。
【0043】
制動力制御装置の制御システムを作動について、図6に示すように、制御フローチャートを用いて説明する。
【0044】
制動力制御装置は、運転中において車両挙動の安定化制御を行うか否かを常に判断している。これより、本発明における制動力を制御する(すなわち、ブレーキペダル31の操作を検知することにより非制御対象輪の制動力を制御する)制御プログラムは所定時間ごとに開始されている。電子制御装置1は、ステップ610において車両挙動安定化制御中か否かを検出する。車両挙動安定化制御中である場合、電子制御装置1はステップ620に進む。以下、車両10は左旋回している最中にオーバーステア傾向となっており、制動力制御装置がオーバーステア傾向を抑えるために右回りのモーメントを発生させることを想定する。制御対象輪はWRL、WRR、WFLとし、非制御対象輪はWFRとする。
【0045】
電子制御装置1はブレーキペダル31の踏み込みを検知したか否かを検出する。ここで、ブレーキペダル31の踏み込みの検知は、上述したように、マスタカット弁41内の磁性体101が動きに従って発生する電流値を計測することで行う。電子制御装置1はブレーキペダル31の踏み込みを検知しない場合、制御プログラムを終了させる。一方、電子制御装置1はブレーキペダル31の踏み込みを検知した場合、ステップ630に進む。
【0046】
電子制御装置1は、ステップ630において、マスタカット弁41内の磁性体101の動きに従って発生する誘導起電力を、非制御対象輪WFRに車輪制動トルクを発生させる制動装置37FRに導入するブレーキ液の液圧に換算する。電子制御装置1が誘導起電力を制動装置37FRに導入するブレーキ液の液圧に換算する例を、図7に示すように、図を参照しながら説明する。
【0047】
図7において、左右軸はマスタカット弁41の弁開度[%]を示しており、前後軸は誘導起電力[A]を示しており、上下軸はマスタシリンダ圧に導入するブレーキ液圧[MPa]を示している。図7において、電子制御装置1は、マスタカット弁41の弁開度及び誘導起電力からブレーキ液圧を換算する。すなわち、電子制御装置1は、図7中において原点0から点(弁開度40[%]、起電力2[A])延びている実線に基づいてブレーキ液圧を換算する。例えば、図7に示すように、弁開度が40[%]であって、誘導起電力が2[A]であるとき、ブレーキ液圧は実線で交わる5[MPa]と換算される。
【0048】
電子制御装置1は、図6において、ステップ630からステップ640に進み、車両挙動安定化制御中か否かを検知し、車両挙動安定化制御中であるならばステップ650に進む。電子制御装置1は、ステップ650において、非制御対象輪WFRの制動装置37FRにステップ630で換算したブレーキ液圧を導入する。これより、電子制御装置1はステップ650の処理を終えると制御プログラムを終了する。
【0049】
また、制動力制御装置は運転中において車両挙動の安定化制御を行っていない場合においても、ブレーキペダル31の操作を検出する必要がある。この場合、電子制御装置1はステップ610において、車両挙動安定化制御中でないと検知した場合、ステップ660に進む。電子制御装置1は、マスタカット弁41を一定開度にすることにより、マスタカット弁41前後のブレーキ液圧を調圧する。すなわち、電子制御装置1は、マスタカット弁41前後のブレーキ液圧を所定値に調整し、マスタカット弁内の磁性体101を所定の場所に保持しておく。これより、マスタカット弁41内の磁性体101がブレーキペダル31の操作によって動くことを精度良く検出することができる。電子制御装置1は、ステップ620に進み、ステップ640までは上述したように、車両挙動安定化制御中である場合と同様の処理を行う。ここで、車両挙動安定化制御中である場合と同様に、制動装置に導入するブレーキ液圧は5[MPa]とする。
【0050】
電子制御装置1は、ステップ640において、車両挙動安定化制御中か否かを検知し、車両挙動安定化制御中でないと検知した場合、ステップ670に進む。電子制御装置1は、ステップ670において、ステップ630で換算したブレーキ液圧の勾配が所定値以上か否かを検知する。ブレーキ液圧の勾配とは、誘導起電力の大きさや踏力センサにより検知した踏み込み速度等を考慮して算出される値である。すなわち、誘導起電力が大きい及び踏み込み速度が大きい場合、ブレーキ液圧の勾配は大きくなる。
【0051】
電子制御装置1は、ステップ670において、ブレーキ液圧の勾配が所定値以下であると判断した場合、制御プログラムを終了する。一方、電子制御装置は、ブレーキ液圧の勾配が所定値以上であると判断した場合、ステップ680に進み、ブレーキアシスト制御を行い、制御プログラムを終了する。すなわち、電子制御装置1は、ステップ630で換算したブレーキ液圧を車輪WFL,WFR,WRL,WRRに導入する。
【0052】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0053】
例えば、上記実施形態によれば、マスタカット弁41,42内の磁性体101が動くことにより、運転者のペダル操作を検出したが、保持弁50,51,52,53がマスタカット弁41,42と同様の構成を備えることにより、運転者のペダル操作を検出してもよい。
【0054】
更に、上記実施形態によれば、制動力制御装置は車両挙動の安定化制御と制動倍力の制御とは、別々に作動するようになっているが、同時に制御されるようになっていてもよい。すなわち、車両挙動の安定化制御中に制動倍力制御を行ってもよく、また、その逆も行ってよい。
【0055】
更に、上記実施形態によれば、制動力制御装置は制動倍力の制御をするために、車輪WFL,WFR,WRL,WRRに制動力をかける制動装置にブレーキ液圧を導入したが、制動力制御装置はブレーキブースタ32を作動させてマスタシリンダ33に同様のブレーキ液圧を導入するようにしてもよい。また、制動力制御装置はブレーキ液圧を導入することにより制動力を制御したが、制動装置をバイワイヤ技術に用いられるように電子制御することにより制動力を制御するようにしてもよい。
【0056】
更に、上記実施形態によれば、図7において、弁開度が大きくなる、又は、起電力が大きくなるに従って発生させる液圧は大きくなっているが、弁開度が小さくなる、又は、起電力が小さくなるに従って発生させる液圧は大きくなってもよく、マスタカット弁等の設計に変更させてもよい。また、弁開度及び起電力に比例して液圧を換算する方法に限らず、2次関数、3次関数やマップ関数に応じて換算してもよい。
【符号の説明】
【0057】
10…車両、WFL(WFR,WRL,WRR)…車輪、33…マスタシリンダ、36FL(36FR,36RL,36RR)…液圧配管、37FL(37FR,37RL,37RR)…制動装置、41(42)…マスタカット弁、43(44)…連結通路、45(46)…分岐通路、50(51,52,53)…保持弁、101…磁性体、102…コイル、103…スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により流体に圧力を発生させるマスタシリンダと、
前記流体の圧力により制動力を発生させる制動装置と、
前記マスタシリンダと前記制動装置とを接続する配管と、
前記配管内における前記流体の流れを遮断するために操作される電磁弁と、を備えた制動力制御装置であって、
前記電磁弁に発生する誘導起電力に基づいて制動力を制御する制動力制御装置。
【請求項2】
前記誘導起電力は前記電磁弁内の磁性体が動くことによって発生する誘導起電力である請求項1に記載の制動力制御装置。
【請求項3】
前記配管の一部である前記電磁弁に流体を流入させる流入配管と、
前記配管の一部である前記電磁弁から流体を流出させる流出配管と、を備え、
前記流入配管を流れる流体の流量と前記流出配管を流れる流体の流量とが一定となるように制御された請求項1及び請求項2に記載の制動力制御装置。
【請求項4】
前記制動力制御装置は、車両挙動の安定化制御をする車両挙動安定化制御装置である請求項1乃至請求項3に記載の制動力制御装置。
【請求項5】
前記制動力制御装置は、車両の制動力を補助する制動倍力装置である請求項1乃至請求項3に記載の制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−187966(P2012−187966A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51663(P2011−51663)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】