説明

制振装置及びこれを備えた車両

【課題】制振すべき振動の著しい変化に起因して発生させる相殺振動を大きく変化させる必要がある場合に対応して制振制御の応答性を向上させた制振装置を提供する。
【解決手段】振動Vi3を相殺するために必要な疑似振動Vi3’の算出値に基づいて加振手段2を通じて制振すべき位置に相殺振動Vi4を発生させ、制振すべき位置において振動Vi3と相殺振動Vi4との相殺誤差として残る振動を検出する。そして、相殺誤差として残る振動が小さくなるように適応フィルタ32fの算出を繰り返し実行し、算出の積み重ねにより疑似振動Vi3’及び適応フィルタ32fを真値へ収束させる。さらに、振動Vi3と疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置に発生される相殺振動Vi4との偏差に対応する偏差情報を取得し、取得した偏差情報に基づいて偏差の増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように収束係数32uを変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発生する振動を適応制御により抑制する制振装置に係り、特に適応制御の応答性および安定性を向上させた制振装置及びこれを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両のエンジン等の振動発生源で生じた振動と加振手段を通じて発生させた相殺振動とを制振すべき位置で相殺する制振装置が知られている。このような従来の制振装置として特許文献1及び特許文献2には、適応フィルタを用いて制振すべき振動に相当する疑似振動を算出し、算出した疑似振動に基づいてアクチュエータ等の加振手段を通じて制振すべき位置に相殺振動を発生させ、発生した相殺振動と制振すべき振動との相殺誤差として残る振動を加速度センサで検出し、検出した相殺誤差として残る振動が小さくなるように上記適応フィルタの算出を繰り返し実行し、算出の積み重ねにより疑似振動及び適応フィルタを真値へ収束させるものが開示されている。
【0003】
このような適応制御を行う制振装置は、算出一回当たりに適応フィルタを真値へ近づける度合を示す収束係数を用いて適応フィルタの算出を積み重ねる構成が通例であり、この収束係数により適応フィルタの真値への収束する速度が決定されている。収束係数は、特許文献2に例示されるように、一定の収束係数を用いるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−202902号公報
【特許文献2】特開2008−250131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のように収束係数が常に一定である制振装置では、例えばエンジンの回転数やアクセル開度によって制振すべき振動が変化し、この変化に対応して発生させるべき相殺振動を大きく変化させる必要があるときには適応フィルタの収束が遅くて応答性が低下し所望の制振効果を発揮できない。また、制振すべき振動の微少な変化等により発生させるべき相殺振動を大きく変化させる必要がないときには適応フィルタの収束が速まって挙動が大きくなり、オーバーシュート等の不具合を招いて制振制御の安定性を損なう。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、制振すべき振動の著しい変化に起因して発生させる相殺振動を大きく変化させる必要があるときや無いとき、若しくはこれらが混在する場合であってもこれに適切に対応して制振制御の応答性または安定性を向上させた制振装置及びこれを備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0008】
すなわち、本発明に係る制振装置は、振動発生源で生じる振動と加振手段を通じて発生させる相殺振動とを制振すべき位置で相殺するにあたり、適応フィルタを用いて前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動を算出する疑似振動算出手段と、前記疑似振動算出手段により算出された疑似振動に基づいて前記加振手段を通じて前記制振すべき位置に前記相殺振動を発生させる相殺振動発生指令手段と、前記制振すべき位置において前記振動発生源で生じた振動と前記相殺振動との相殺誤差として残る振動を検出する振動検出手段とを具備し、前記疑似振動算出手段は、前記振動検出手段により検出された振動と前記適応フィルタが真値への収束する速度を決定する収束係数とに基づいて前記相殺誤差として残る振動が小さくなるように前記適応フィルタの算出を繰り返し実行し、算出の積み重ねにより疑似振動及び適応フィルタを真値へ収束させる制振装置であって、前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動と前記疑似振動に基づき前記制振すべき位置に発生される相殺振動との偏差に対応する偏差情報を取得する偏差情報取得手段と、前記偏差情報取得手段により取得された偏差情報に基づいて前記偏差の増加に応じて前記適応フィルタが収束する速度が速まるように前記収束係数を変更する収束係数変更手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、振動発生源から制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動が適応フィルタを用いて疑似振動算出手段により算出され、算出された疑似振動に基づいて相殺振動発生指令手段により加振手段を通じて制振すべき位置に相殺振動が発生され、制振すべき位置において振動発生源で生じた振動と相殺振動との相殺誤差として残る振動が振動検出手段により検出され、検出された振動と適応フィルタが真値への収束する速度を決定する収束係数とに基づいて相殺誤差として残る振動が小さくなるように疑似振動算出手段により適応フィルタが算出され、算出の積み重ねにより疑似振動及び適応フィルタを真値へ収束させる制振制御が実施される。この場合、制振すべき振動の変化に対応して相殺振動を大きく変化させる必要があるときに相殺誤差として残る振動と疑似振動に基づき制振すべき位置に発生される相殺振動との偏差が大きくなることに着目して、偏差情報取得手段により上記偏差に対応する偏差情報を取得し、取得された偏差情報に基づいて偏差の増加に応じて適応フィルタが収束する速度が速まるように収束係数を収束係数変更手段により変更するので、制振すべき位置に発生させる相殺振動を大きく変化させる必要があるときに適応フィルタが収束する速度を速めて高応答化し、制振制御の応答性を向上させることができる。
【0010】
また、本発明に係る制振装置は、振動発生源で生じる振動と加振手段を通じて発生させる相殺振動とを制振すべき位置で相殺するにあたり、適応フィルタを用いて前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動を算出する疑似振動算出手段と、前記疑似振動算出手段により算出された疑似振動に基づいて前記加振手段を通じて前記制振すべき位置に前記相殺振動を発生させる相殺振動発生指令手段と、前記制振すべき位置において前記振動発生源で生じた振動と前記相殺振動との相殺誤差として残る振動を検出する振動検出手段とを具備し、前記疑似振動算出手段は、前記振動検出手段により検出された振動と前記適応フィルタが真値への収束する速度を決定する収束係数とに基づいて前記相殺誤差として残る振動が小さくなるように前記適応フィルタの算出を繰り返し実行し、算出の積み重ねにより疑似振動及び適応フィルタを真値へ収束させる制振装置であって、前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動と前記疑似振動に基づき前記制振すべき位置に発生される相殺振動との偏差に対応する偏差情報を取得する偏差情報取得手段と、前記偏差情報取得手段により取得された偏差情報に基づいて前記偏差の減少に応じて前記適応フィルタが収束する速度が遅くなるように前記収束係数を変更する収束係数変更手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、制振すべき振動の変化に対応して相殺振動を大きく変化させる必要がないときに相殺誤差として残る振動と疑似振動に基づき制振すべき位置に発生される相殺振動との偏差が小さくなることに着目して、偏差情報取得手段により上記偏差に対応する偏差情報を取得し、取得された偏差情報に基づいて偏差の減少に応じて適応フィルタが収束する速度が遅くなるように収束係数を収束係数変更手段により変更するので、加振すべき相殺振動を大きく変化させる必要がないときに適応フィルタが収束する速度を低下させて相殺振動の挙動を小さくして、制振制御の安定性を向上させることができる。
【0012】
さらに、本発明に係る制振装置は、振動発生源で生じる振動と加振手段を通じて発生させる相殺振動とを制振すべき位置で相殺するにあたり、適応フィルタを用いて前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動を算出する疑似振動算出手段と、前記疑似振動算出手段により算出された疑似振動に基づいて前記加振手段を通じて前記制振すべき位置に前記相殺振動を発生させる相殺振動発生指令手段と、前記制振すべき位置において前記振動発生源で生じた振動と前記相殺振動との相殺誤差として残る振動を検出する振動検出手段とを具備し、前記疑似振動算出手段は、前記振動検出手段により検出された振動と前記適応フィルタが真値への収束する速度を決定する収束係数とに基づいて前記相殺誤差として残る振動が小さくなるように前記適応フィルタの算出を繰り返し実行し、算出の積み重ねにより疑似振動及び適応フィルタを真値へ収束させる制振装置であって、前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動と前記疑似振動に基づき前記制振すべき位置に発生される相殺振動との偏差に対応する偏差情報を取得する偏差情報取得手段と、前記偏差情報取得手段により取得された偏差情報に基づいて前記偏差の増加に応じて前記適応フィルタが収束する速度が速まり前記偏差の減少に応じて前記適応フィルタが収束する速度が遅くなるように前記収束係数を変更する収束係数変更手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、制振すべき振動の変化に対応して相殺振動を大きく変化させる必要があるときに相殺誤差として残る振動と疑似振動に基づき制振すべき位置に発生される相殺振動との偏差が大きくなり、相殺振動を大きく変化させる必要がないときに前記偏差が小さくなることに着目して、偏差情報取得手段により上記偏差に対応する偏差情報を取得し、取得された偏差情報に基づいて偏差の増加に応じて適応フィルタが収束する速度が速まり偏差の減少に応じて適応フィルタが収束する速度が遅くなるように収束係数を収束係数変更手段により変更するので、加振すべき相殺振動を大きく変化させる必要があるときに適応フィルタが収束する速度を速めて高応答化し、制振制御の応答性を向上させることができる。しかも、加振すべき相殺振動を大きく変化させる必要がないときに適応フィルタが収束する速度を低下させて相殺振動の挙動を小さくして、制振制御の安定性を向上させることができる。したがって、発生させる相殺振動を大きく変化させる必要があるときや無いときが混在する場合に制振制御を適切に実施することが可能となる。
【0014】
上記偏差に対応する偏差情報を用いた制振を実現する具体的構成としては、前記偏差情報取得手段は、前記偏差に対応する偏差情報として前記疑似振動に基づき制振すべき位置に発生される相殺振動の振幅値に対応する加振力振幅成分を取得し、前記収束係数変更手段は、前記偏差情報取得手段により取得された加振力振幅成分に応じて前記収束係数を変更することが挙げられる。
【0015】
上記偏差に対応する偏差情報を用いた制振を実現する他の具体的構成としては、前記偏差情報取得手段は、前記偏差に対応する偏差情報として前記振動検出手段により検出される相殺誤差として残る振動の振幅成分を取得し、前記収束係数変更手段は、前記偏差情報取得手段により取得された相殺誤差として残る振動の振幅成分に応じて前記収束係数を変更することが挙げられる。
【0016】
上記偏差に対応する偏差情報を用いた制振を実現する他の具体的構成としては、前記偏差情報取得手段は、前記偏差に対応する偏差情報として前記振動発生源で生ずる振動に関連する信号に基づいて前記制振すべき位置での振動の周波数の変化量を取得し、前記収束係数変更手段は、前記偏差情報取得手段により取得された周波数の変動量に応じて前記収束係数を変更することが挙げられる。
【0017】
上記偏差に対応する偏差情報を用いた制振を実現する他の具体的構成としては、前記偏差情報取得手段は、前記偏差に対応する偏差情報として前記相殺誤差として残る振動の位相と前記疑似振動に基づき制振すべき位置に発生される振動の位相との位相差を取得し、前記収束係数変更手段は、前記偏差情報取得手段により取得された位相差に応じて前記収束係数を変更することが挙げられる。
【0018】
乗員に快適な乗り心地を提供するためには、上記の制振装置を車両に備えることが挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以上説明したように、制振すべき振動の変化に対応して相殺振動を大きく変化させる必要があるときに相殺誤差として残る振動と疑似振動に基づき制振すべき位置に発生される相殺振動との偏差が大きくなることに着目して、この偏差に応じて適応フィルタが収束する速度を変化するように収束係数を変更するので、制振すべき振動の著しい変化に応じて発生させる相殺振動を大きく変化させる必要の有無に左右されずに制振制御の応答性または安定性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る制振装置の概略全体模式図。
【図2】第1実施形態に係る制御手段の構成および機能の概略ブロック図。
【図3】第1実施形態に係る制御手段の構成を詳細に示すブロック図。
【図4】加振手段から制振すべき位置へ伝達する振動に関する説明図。
【図5】相殺振動の振幅値とこの振幅値に応じて変更される収束係数との関係を示す図。
【図6】本発明の第2実施形態に係る制御手段の構成を詳細に示すブロック図。
【図7】本発明の第3実施形態に係る制御手段の構成を詳細に示すブロック図。
【図8】本発明の第4実施形態に係る制御手段の構成を詳細に示すブロック図。
【図9】第4実施形態において振動発生源から制振すべき位置へ伝達した振動と相殺振動との相殺誤差として残る振動に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る制振装置を、図1〜図5を参照して説明する。
【0022】
本実施形態の制振装置は、図1に示すように、自動車等の車両に搭載されるものであり、座席st等の制振すべき位置posに設けた加速度センサ等の振動検出手段1と、所定の質量を有する補助質量2aを振動させることにより振動Vi2を発生するリニアアクチュエータを用いた加振手段2と、振動発生源gnであるエンジンの点火パルス信号と振動検出手段1からの検出信号とを入力し加振手段2で発生させた振動Vi2を制振すべき位置posへ伝達させることにより制振すべき位置posに相殺振動Vi4を発生させる制御手段3とを有し、車体フレームfrmにマウンタgnmを介して搭載されたエンジン等の振動発生源gnで生じる振動Vi1と加振手段2を通じて制振すべき位置posに発生させた相殺振動Vi4とを制振すべき位置posで相殺させて制振すべき位置posでの振動を低減するものである。
【0023】
制御手段3は、図2に示すように、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3を的確に相殺する相殺振動Vi4を制振すべき位置posに発生させるために、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3を模擬した疑似振動Vi3’を適応アルゴリズムの適応フィルタ32fを用いて算出し、算出した疑似振動Vi3’に基づいて加振手段2を通じて制振すべき位置posに相殺振動Vi4を発生させる。また、制御手段3は、加振手段2から制振すべき位置posへ伝達した相殺振動Vi4と振動Vi3との相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)を振動検出手段1で検出し、検出した相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)が小さくなるように適応フィルタ32fの算出を繰り返し実行し、算出の積み重ねにより疑似振動Vi3’及び適応フィルタ32fを真値へ収束させる制振制御を行う。本実施形態では、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3を相殺するために必要な疑似振動は、振動Vi3を模擬した疑似振動Vi3’であるが、この振動Vi3の模擬を行うことなく加振手段2から制振すべき位置posへ伝達した相殺振動Vi4を直接模擬したものであってもよい。
【0024】
この適応制御による制振制御を実行する制御手段3は、図2に示すように、疑似振動算出手段32と、相殺振動発生指令手段33とを有する。
【0025】
疑似振動算出手段32は、適応フィルタ32fを用いて疑似振動Vi3’を算出すると共に、振動検出手段1より入力した相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)が小さくなるように適応フィルタ32fを逐次更新する。具体的には、疑似振動算出手段32は、疑似振動算出部32aと、学習適応部32bとを有する。疑似振動算出部32aは、疑似振動Vi3’の算出の基礎となる基準波に対して適応フィルタ32fを用いたフィルタリングを施すことにより基準波の振幅及び位相を変化させて疑似振動Vi3’を算出する。学習適応部32bは、振動検出手段1より入力した相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)が無くなるように適応フィルタ32fの算出の基礎である基準波から適応フィルタの真値へ向かって適応フィルタの算出を繰り返し実行し、この算出の積み重ねにより疑似振動Vi3’及び適応フィルタ32fを真値へ収束させるものである。適応フィルタ32fの算出の際には、算出一回当たりに適応フィルタ32fを真値へ近づける度合を示す収束係数32uを用い、この収束係数32uにより適応フィルタ32fが真値へ収束する速度が決定されている。
【0026】
相殺振動発生指令手段33は、疑似振動算出手段32が算出した疑似振動Vi3’に基づいて加振手段2を通じて相殺振動Vi4を制振すべき位置posに発生させる。この相殺振動を発生させるにあたり、図4に示すように、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3に対してこの振動Vi3を逆波形にした振動−Vi3を加振すればよいが、加振手段2で発生させた振動Vi2は制振すべき位置posに伝達する過程で振幅又は位相が変化するので、この変化を考慮して制振すべき位置posに相殺振動Vi4が印加させるように振動Vi2を加振手段2で発生させる必要がある。具体的には、加振手段2から制振すべき位置posまで伝達する振動の振幅及び位相の変化させる振動伝達関数Gの逆伝達関数を逆伝達関数記憶部33aに予め記憶しておき、制振すべき位置posでの振動Vi3を模擬した疑似振動Vi3’を逆波形にした相殺振動Vi4に対して逆伝達関数を加味して振動Vi2を算出する。ここでは、逆伝達関数の振幅成分を1/Gとし、位相成分をPとして逆伝達関数記憶部33aに記憶している。なお、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達する振動の振幅又は位相を変化させる振動伝達関数をG’と示している。
【0027】
上記の構成に対して本実施形態ではさらに、図2に示すように、偏差情報取得手段34と、収束係数変更手段35とを備えている。
【0028】
偏差情報取得手段34は、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3と疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4との偏差に対応する偏差情報を取得する。
【0029】
収束係数変更手段35は、偏差情報取得手段34により取得された加振力振幅成分が大きくなるほど適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように収束係数を変更するものである。
【0030】
このような制御手段3を実現する具体的な制御ブロックを図3に示して説明する。
【0031】
図3に示すように、周波数検出部41は、振動発生源gnであるエンジンの起爆タイミングを示すエンジンパルス信号を入力し、入力したエンジンパルス信号の周波数が制振すべき位置posでの振動Vi3の周波数fと一致するものと取り扱い、振動Vi3の周波数fを認識する。勿論、エンジンの点火パルス信号に代えて例えばエンジンクランクの回転数を検出するセンサからの検出パルス信号等、その他の信号を用いてもよい。基本電気角算出部42は、認識された周波数fを入力して基本電気角θ(=ωt)を算出する。基準波生成部43は、算出された基本電気角θを基礎として基準波である基準正弦波sinθ及び基準余弦波cosθを生成する。これら基準波は制御手段3での信号処理においての波形の振幅及び位相等の基準となるものである。
【0032】
加速度センサである振動検出手段1で検出される制振すべき位置posでの振動には、振動発生源gnで生じた振動以外にも他の振動が含まれているので、振動検出手段1の出力信号に対して周波数検出部41で認識された周波数f成分の信号のみを取り出すBPF(バンドパスフィルタ)44を施すことにより振動発生源gnで生じた振動のみを振動信号として検出している。
【0033】
この振動信号を模擬するために、振動信号をAsin(θ+φ)、θ=ωtと仮定し、以下の式を利用する。
【0034】
まず、振動信号Asin(θ+φ)に2sinθを乗算すると、
2Asin(θ+φ)×sinθ=Acosφ−Acos(2θ+φ)
と変形できる。この式を収束係数μを用いて積分すると、右辺第二項Acos(2θ+φ)の積分は(μA/2ω)sin(2θ+φ)となり、μをAに比べて非常に小さな値に設定すると振幅が小さく且つ周期関数の積分であるため(μA/2ω)sin(2θ+φ)を無視でき、右辺全体が真値Aに近い値A’の振幅成分及び真値φに近い値φ’の位相成分を有するA’cosφ’に収束する。
【0035】
同様に、振動信号Asin(θ+φ)に2cosθを乗算すると、
2Asin(θ+φ)×cosθ=Asinφ+Asin(2θ+φ)
と変形できる。この式を収束係数μを用いて積分すると、右辺第二項Asin(2θ+φ)の積分も上記と同様に周期関数の積分であるため無視でき、右辺全体が真値Aに近い値A’の振幅成分及び真値φに近い値φ’の位相成分を有するA’sinφ’に収束する。
【0036】
上記で求めたA’cosφ’及びA’sinφ’にsinθ及びcosθをそれぞれ乗算して足し合わせると、
sinθ×A’cosφ’+cosθ×A’sinφ’=A’sinθ×cosφ’+A’cosθ×sinφ’=A’sin(θ+φ’)
と変形できる。したがって、振動信号に対して上記の演算を実施することにより振動信号Asin(θ+φ)を模擬した疑似振動A’sin(θ+φ’)を算出できる。これらA’cosφ’及びA’sinφ’は、いわゆる適応制御における適応フィルタ32fであり、振動信号の入力により疑似振動の振幅A’及び位相φ’を真値たる振幅A及び位相φに収束させるべく自己適応する。また、適応フィルタは、適応フィルタに対して基準波を乗算して足し合わせることにより疑似振動に変形するので、疑似振動と基準波との振幅差及び位相差を表すものといえる。
【0037】
上記の演算処理を用いて振動信号Asin(θ+φ)に基づいて適応フィルタ32fを学習更新しつつ疑似振動を算出するために、図3に示すように疑似振動算出手段32を構成している。すなわち、乗算器45は、振動信号Asin(θ+φ)と2μを基礎とする収束係数とを乗算する。乗算器46、47は、乗算器45での乗算結果に対して基準波生成部43から出力される基準正弦波sinθと基準余弦波cosθをそれぞれ乗算して、積分器48、49へ出力する。積分器48、49は、乗算器46、47からの出力を積分し、疑似振動と基準波との振幅差及び位相差を表す適応フィルタ32fとしてのA’cosφ’及びA’sinφ’を出力する。
【0038】
この適応フィルタ32fに対して基準正弦波sinθ及び基準余弦波θをそれぞれ乗算した後に足し合わせると上記の通り疑似振動A’sin(θ+φ’)となるが、本実施形態では、振幅成分及び位相成分の逆伝達関数を加味した基準波を適応フィルタ32fとの乗算前に生成している。勿論、疑似振動を算出した後に振幅成分及び位相成分の逆伝達関数を加味してもよい。具体的に本実施形態では、逆伝達関数振幅設定部53は、周波数に対応した逆伝達関数の振幅成分が予め記憶されており、認識した周波数fを入力して逆伝達関数の振幅成分1/Gを特定する。同様に、逆伝達関数位相設定部50は、周波数に対応した逆伝達関数の位相成分が予め記憶されており、認識した周波数fを入力して逆伝達関数の位相成分Pを特定する。特定された位相成分Pと基本電気角θとが加算器51で加算されて発振器52に入力される。発振器52は、逆伝達関数の位相成分Pが加味された正弦波sin(θ+P)及び余弦波cos(θ+P)を生成する。乗算器54、55は、生成された正弦波sin(θ+P)及び余弦波cos(θ+P)に対して逆伝達関数振幅設定部53により特定された逆伝達関数の振幅成分1/Gとをそれぞれ乗算して、振幅及び位相の逆伝達関数を加味した基準波を生成する。
【0039】
これら乗算器54、55により生成された振幅及び位相の逆伝達関数を加味した基準波(1/G)sin(θ+P)及び(1/G)cos(θ+P)に対して上記の適応フィルタ32fとしてのA’cosφ’及びA’sinφ’を乗算器56、57でそれぞれ乗算する。乗算器56、57での乗算結果を加算器58で足し合わせ、足し合わせた結果に−1を乗算器59で乗算すると、相殺振動[−(A’/G)sin(θ+φ’+P)]の発生を指令する相殺信号が生成され、加振手段2で相殺振動[−(A’/G)sin(θ+φ’+P)]が加振される。
【0040】
上記の適応制御を用いた制振制御を行う構成に加えてさらに、偏差情報取得手段34を構成する加振力振幅成分取得部34cと、収束係数変更手段35とを有している。
【0041】
偏差情報取得手段34を構成する加振力振幅成分取得部34cは、相殺振動Vi4の振幅値が大きいほど振動発生源gnで生ずる振動に変化が発生した際に相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)が大きくなり、これに伴って振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3と疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4との偏差が大きくなることに着目して、相殺振動Vi4の振幅値に対応する加振力振幅成分を上記偏差の指標として取得している。この加振力振幅成分の具体例としては、相殺振動Vi4の振幅値の基礎となる適応フィルタ32fの振幅成分や疑似振動算出手段32により算出された疑似振動Vi3’の振幅成分等が挙げられる。本実施形態では具体的に、積分器48、49により出力された適応フィルタ32fであるA’cosφ’及びA’sinφ’を入力し、入力した適応フィルタ32fに基づいて適応フィルタ32fの振幅成分A’を加振力振幅成分として取得する。
【0042】
収束係数変更手段35は、偏差情報取得手段34により取得された加振力振幅成分たる適応フィルタ32fの振幅成分A’に応じて収束係数32uを変更する。収束係数32uの変更は、ゲインを乗算器35aに出力することにより基礎となる基礎値2μを変化させて行う。収束係数変更手段35は、図5に示すように、加振力振幅成分たる適応フィルタ32fの振幅成分A’が予め設定された閾値Ath以下であるときは、適応フィルタ32fの収束速度が一定値Dsとなるようにゲインを出力し、振幅成分A’が閾値Athを超えている場合は、収束速度がリニアに増加するようにゲインを出力し、収束速度が予め設定された上限値Dmaxに達したときは振幅成分A’の増加に係わらず収束速度が上限値Dmaxになるようにゲインを出力する。上限値Dmaxは、収束係数32uにより決定される収束速度が或る上限を超えて速くなると適応フィルタ32fが発散するので、これを防止すべく設けられるものである。収束係数変更手段35は、上記のように加振力振幅成分の増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように収束係数32uを変更するとともに、加振力振幅成分の減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更する。勿論、適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように収束係数32uを変更する構成のみでもよいし、適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更する構成のみでもよい。
【0043】
以上のように、本実施形態に係る制振装置は、振動発生源gnで生じる振動Vi3と加振手段2を通じて発生させる相殺振動Vi4とを制振すべき位置posで相殺するにあたり、適応フィルタ32fを用いて振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3を相殺するために必要な疑似振動Vi3’を算出する疑似振動算出手段32と、疑似振動算出手段32により算出された疑似振動Vi3’に基づいて加振手段2を通じて制振すべき位置posに相殺振動Vi4を発生させる相殺振動発生指令手段33と、制振すべき位置posにおいて振動発生源gnで生じた振動Vi3と相殺振動Vi4との相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)を検出する振動検出手段1とを具備し、疑似振動算出手段32は、振動検出手段1により検出された振動(Vi3+Vi4)と適応フィルタ32fが真値への収束する速度を決定する収束係数32uとに基づいて相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)が小さくなるように適応フィルタ32fの算出を繰り返し実行し、算出の積み重ねにより疑似振動Vi3’及び適応フィルタ32fを真値へ収束させるものであり、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3と疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4との偏差に対応する偏差情報を取得する偏差情報取得手段34と、偏差情報取得手段34により取得された偏差情報に基づいて偏差の増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ偏差の減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更する収束係数変更手段35とを備えたことを特徴とする。
【0044】
本実施形態では、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3を相殺するために必要な疑似振動Vi3’が適応フィルタ32fを用いて疑似振動算出手段32により算出され、算出された疑似振動Vi3’に基づいて相殺振動発生指令手段33により加振手段2を通じて制振すべき位置posに相殺振動Vi4が発生され、制振すべき位置posにおいて振動発生源gnで生じた振動Vi3と相殺振動Vi4との相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)が振動検出手段1により検出され、検出された振動(Vi3+Vi4)と適応フィルタ32fが真値への収束する速度を決定する収束係数32uとに基づいて相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)が小さくなるように疑似振動算出手段32により適応フィルタ32fが算出され、算出の積み重ねにより疑似振動Vi3’及び適応フィルタ32fを真値へ収束させる制振制御が実施される。この場合、制振すべき振動Vi3の変化に対応して相殺振動Vi4を大きく変化させる必要があるときに相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)と疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4との偏差が大きくなる一方、相殺振動Vi4を大きく変化させる必要がないときに前記偏差が小さくなることに着目して、偏差情報取得手段34により上記偏差に対応する偏差情報を取得し、取得された偏差情報に基づいて偏差の増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ偏差の減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを収束係数変更手段35により変更するので、制振すべき位置posに発生させる相殺振動Vi4を大きく変化させる必要があるときに適応フィルタ32fが収束する速度を速めて高応答化し、加振すべき相殺振動Vi4を大きく変化させる必要がないときに適応フィルタ32fが収束する速度を低下させて相殺振動Vi4の挙動を小さくして、制振制御の応答性および安定性を向上させて、相殺振動Vi4を大きく変化させる必要があるときや無いときが混在する場合であっても適切な制振制御を実現することができる。
【0045】
特に本実施形態では、疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4の振幅値が大きいほど振動発生源gnで生ずる振動Vi3に変化が発生した際に相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)が大きくなり、上記偏差が大きくなることに着目して、偏差情報取得手段34が、偏差に対応する偏差情報として疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4の振幅値に対応する加振力振幅成分である適応フィルタ32fの振幅成分A’を取得し、収束係数変更手段35が、偏差情報取得手段34により取得された加振力振幅成分である適応フィルタ32fの振幅成分A’の増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ適応フィルタ32fの振幅成分A’の減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更するので、上記偏差の指標として加振力振幅成分の大きさを用いることにより制振制御の応答性および安定性を向上させる構成を実現することが可能となる。
<第2実施形態>
【0046】
次に、本発明の第2実施形態に係る制振装置を、図6を参照して説明する。
【0047】
図6は、本実施形態の制御手段103の構成及び機能を示すブロック図である。制御手段103は、上記第1実施形態に係る制御手段3とほぼ同様の構成を有するが、偏差情報取得手段34を構成する加振力振幅成分取得部34cの代わりに残振動振幅成分取得部34aを有している。
【0048】
残振動振幅成分取得部34aは、相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)の振幅成分が大きいほど上記の偏差が大きくなることに着目して、相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)の振幅成分を上記偏差の指標として取得している。具体的には、BPF(バンドパスフィルタ)44から出力される振動信号Asin(θ+φ)を入力し、入力した振動信号Asin(θ+φ)から振動成分Aを取得している。
【0049】
この残振動振幅成分取得部34aに対応して収束係数変更手段35は、残振動振幅成分取得部34aにより取得された振動成分Aを入力し、入力した振動成分Aの増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ入力した振動成分Aの減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数を変更している。具体的には、振幅成分A×所定係数kが収束係数32uとなるようにゲインを出力している。勿論、振幅成分に応じていれば、例えば振幅成分Aに対して目的値を0とするPI制御(比例積分制御)等のその他の処理により収束係数32uを決定してもよい。
【0050】
以上のように、本実施形態に係る制振装置は、偏差情報取得手段34を構成する残振動振幅成分取得部34aが、偏差に対応する偏差情報として振動検出手段1により検出される相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)の振幅成分Aを取得し、収束係数変更手段35が、偏差情報取得手段34を構成する残振動振幅成分取得部34aにより取得された相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)の振幅成分Aの増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ振幅成分Aの減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更することを特徴とする。
【0051】
本実施形態では、相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)の振幅成分Aが大きいほど振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3と疑似振動Vi3‘に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4との偏差が大きくなることに着目して、この偏差に対応する偏差情報として振動検出手段1により検出される相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)の振幅成分Aを取得し、取得した振幅成分Aの増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ取得した振幅成分Aの減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更するので、上記偏差の指標として相殺誤差として残る振動の振幅成分Aを用いることにより制振制御の応答性および安定性を向上させる構成を実現することが可能となる。
<第3実施形態>
【0052】
次に、本発明の第3実施形態に係る制振装置を、図7を参照して説明する。
【0053】
図7は、本実施形態の制御手段203の構成及び機能を示すブロック図である。制御手段203は、上記第1実施形態に係る制御手段3とほぼ同様の構成を有するが、偏差情報取得手段34を構成する加振力振幅成分取得部34cの代わりに周波数変動量取得部34bを有している。
【0054】
周波数変動量取得部34bは、制振すべき位置posでの振動Vi3の周波数の変動量が大きいほど上記の偏差が大きくなることに着目して、振動発生源gnで生ずる振動に関連する信号に基づいて制振すべき位置posでの振動の周波数の変化量を上記偏差の指標として取得している。具体的には、周波数変動量取得部34bは、周波数検出部41により認識された周波数fを入力し、入力した周波数fに対して微分処理などを行うことにより周波数fの変動量を取得する。
【0055】
この周波数変動量取得部34bに対応して収束係数変更手段35は、周波数変動量取得部34bにより取得された振動Vi3の周波数fの変動量を入力し、入力した変動量の増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ入力した変動量の減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数を変更している。具体的には、周波数fの変動量に比例して適応フィルタ32fの収束する速度が速まるように収束係数32uを決定している。勿論、周波数fの変動量に応じていれば、例えば一定のゲインを乗じたり、周波数fの変動量が所定閾値を超えるか否かによって予め設定された複数の収束係数32uのうちから一つの収束係数32uを用いるように切替可能に構成してもよい。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る制振装置は、偏差情報取得手段34を構成する周波数変動量取得部34bが、偏差に対応する偏差情報として振動発生源1で生ずる振動Vi3に関連する信号であるエンジンパルス信号に基づいて制振すべき位置posでの振動Vi3の周波数fの変化量を取得し、収束係数変更手段が、偏差情報取得手段34を構成する周波数変動量取得部34bにより取得された周波数fの変動量の増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ取得された周波数fの変動量の減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更することを特徴とする。
【0057】
本実施形態では、制振すべき位置posでの振動Vi3の周波数fの変動量が大きいほど上記偏差が大きくなることに着目して、この偏差に対応する偏差情報として振動発生源gnで生ずる振動Vi3に関連する信号であるエンジンパルス信号に基づいて制振すべき位置posでの振動Vi3の周波数fの変化量を取得し、取得した周波数fの変化量の増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ取得した周波数fの変化量の減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更するので、上記偏差の指標として制振すべき位置posでの振動Vi3の周波数fの変動量を用いることにより制振制御の応答性および安定性を向上させる構成を実現することが可能となる。
<第4実施形態>
【0058】
次に、本発明の第4実施形態に係る制振装置を、図8及び図9を参照して説明する。
【0059】
図8は、本実施形態の制御手段303の構成及び機能を示すブロック図である。制御手段303は、上記第1実施形態に係る制御手段3とほぼ同様の構成を有するが、偏差情報取得手段34を構成する加振力振幅成分取得部34cの代わりに位相差取得部34dを有している。
【0060】
位相差取得部34dは、図9に示すように、相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)の位相φと疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4の位相φ’との位相差Δφ(=φ−φ’)を取得するものである。その構成を以下に具体的に説明する。
【0061】
図8に示すように、まず、除算器60aにおいて振動信号Asin(θ+φ)をリアルタイム振幅検出部60で検出した振幅Aで除算して、振幅1のsin(θ+φ)を得る。
【0062】
リアルタイム振幅検出部60は、振幅1の正弦波sinθの半周期0〜πの積分値が(−cosπ)−(−cos0)=(1)−(−1)=2であり、その平均値は0〜πまでの平均であることから2/πとなることを利用したもので、振動信号Asin(θ+φ)を入力して、絶対値処理を加え、二倍の周波数成分を除去するノッチフィルタを介し、脈動分をLPF(ローパスフィルタ)で除去して2/πを乗ずることにより即時で振幅Aを取得するものである。
【0063】
乗算器61、62は、除算器60aでの除算結果であるsin(θ+φ)に対して2sinθ及び2cosθをそれぞれ乗算して積和定理より、cosφ−cos(2θ+φ)とsinφ+sin(2θ+φ)とを得る。乗算器61の演算結果であるcosφ−cos(2θ+φ)に対して二倍の周波数成分を除去するノッチ処理63を施し、脈動分をLPF(ローパスフィルタ)処理65で除去してcosφを得る。同様に、乗算器62の演算結果であるsinφ+sin(2θ+φ)に対して二倍の周波数成分を除去するノッチ処理64を施し、脈動分をLPF(ローパスフィルタ)処理66で除去してsinφを得る。このように振動信号Asin(θ+φ)の位相成分を有するcosφ及びsinφを即時に特定する。
【0064】
位相差特定部67は、特定されたcosφ及びsinφと適応フィルタ32fであるA’cosφ’及びA’sinφ’とに基づいて位相差を特定するものである。具体的には、これら位相φ及び位相φ’は、共通の基本電気角θを基準とした位相ズレを表すものであるので、疑似振動の位相と制振すべき位置posでの振動の位相とが一致している場合はφとφ’が等しいものとなる。したがって、位相差Δφをφ−φ’と定義して、以下の式を用いて算出される位相差の正弦成分α及び余弦成分βにより位相差を表現している。
正弦成分α=A’sin(φ−φ’)=A’(sinφcosφ’−cosφsinφ’)=sinφ(A’cosφ’)−cosφ(A’sinφ’)
余弦成分β=A’cos(φ−φ’)=A’(cosφcosφ’+sinφsinφ’)=cosφ(A’cosφ’)+sinφ(A’sinφ’)
【0065】
上記の適応制御アルゴリズムは、位相差Δφが±60度の範囲を超えた場合は制御が発散して制振不能となることが判明しているので、余弦成分β>0の条件で正弦成分αの符号によりΔφが進んでいるか遅れているか否かを判断でき、正弦成分αの大きさにより位相差Δφのズレ量を把握できる。
【0066】
この位相差取得部34dに対応して収束係数変更手段35は、位相差取得部34dにより取得された位相差Δφを示す正弦成分α及び余弦成分βを入力し、位相差Δφに応じて適応フィルタ32fが収束する速度が変化するように収束係数を変更している。具体的には、制振すべき位置posの周波数fが変動しているときは位相差Δφも変動することが多いので、位相差Δφが変動していればその変動量に比例して適応フィルタ32fの収束する速度が変化するように収束係数32uを決定している。勿論、位相差Δφの変動量に応じていれば、例えば一定のゲインを乗じたり、位相差Δφの変動量が所定閾値を超えるか否かによって予め設定された複数の収束係数32uのうちから一つの収束係数32uを用いるように切替可能に構成してもよい。
【0067】
以上のように、本実施形態に係る制振装置は、偏差情報取得手段34を構成する位相差取得部34dが、偏差に対応する偏差情報として相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)の位相φと疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4の位相φ’との位相差Δφ(φ−φ’)を取得し、収束係数変更手段35が、偏差情報取得手段34を構成する位相差取得部34dにより取得された位相差Δφの増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ位相差Δφの減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更することを特徴とする。
【0068】
本実施形態では、相殺誤差として残る振動(Vi3+Vi4)の位相φと疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4の位相φ’との位相差Δφ(φ−φ’)が大きくなる傾向にあるときは制振すべき位置posの振動の周波数が変動していることが多く、振動発生源gnから制振すべき位置posへ伝達した振動Vi3と疑似振動Vi3’に基づき制振すべき位置posに発生される相殺振動Vi4との偏差が大きくなることに着目して、この偏差に対応する偏差情報として上記位相差Δφを取得し、取得した位相差Δφの増加に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が速まるように且つ位相差Δφの減少に応じて適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更するので、上記位相差Δφを上記偏差の指標として用いることにより制振制御の応答性および安定性を向上させる構成を実現することが可能となる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0070】
例えば、上記第1〜4の実施形態において、収束係数変更手段35は、適応フィルタ32fが収束する速度が速くなるように収束係数32uを変更する構成と、適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更する構成との双方の構成を有しているが、収束係数変更手段は、適応フィルタ32fが収束する速度が速くなるように収束係数32uを変更する構成のみでもよく、適応フィルタ32fが収束する速度が遅くなるように収束係数32uを変更する構成のみでもよい。
【0071】
また、偏差情報取得手段は、上記偏差に対応する偏差情報として上記加振力振幅成分、相殺誤差として残る振動の振幅成分、制振すべき振動の周波数の変化量、相殺誤差として残る振動の位相と疑似振動に基づき制振すべき位置に発生される振動の位相との位相差のうちのいずれか1つの偏差情報を取得しているが、複数の偏差情報を取得して収束係数を変更するように構成してもよい。単一の偏差情報を取得する構成では、上記偏差の増加や減少の兆候が現れにくい偏差情報を取得していることがあり、この場合、収束係数の変更が遅れてしまうことが考えられる。しかし、複数の偏差情報を取得するように構成すると、上記偏差の増加や減少の兆候が現れやすい偏差情報を取得することが単一の偏差情報を取得する構成に比べて多くなるので、応答性や安全性等の制御精度を向上させることが可能となる。
【0072】
その他、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1…………振動検出手段(加速度センサ)
2…………加振手段(リニアアクチュエータ)
3…………制御手段
32………疑似振動算出手段
32f……適応フィルタ
32u……収束係数
33………相殺振動発生指令手段
34………偏差情報取得手段
35………収束係数変更手段
φ、φ’…位相
Δφ………位相差
gn………振動発生源
pos……制振すべき位置
Vi1……振動発生源で生ずる振動
Vi2……加振手段で発生する振動
Vi3……制振すべき位置での振動
Vi3’…制振すべき位置での振動を模擬した疑似振動
Vi4……相殺振動


【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生源で生じる振動と加振手段を通じて発生させる相殺振動とを制振すべき位置で相殺するにあたり、適応フィルタを用いて前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動を算出する疑似振動算出手段と、前記疑似振動算出手段により算出された疑似振動に基づいて前記加振手段を通じて前記制振すべき位置に前記相殺振動を発生させる相殺振動発生指令手段と、前記制振すべき位置において前記振動発生源で生じた振動と前記相殺振動との相殺誤差として残る振動を検出する振動検出手段とを具備し、前記疑似振動算出手段は、前記振動検出手段により検出された振動と前記適応フィルタが真値への収束する速度を決定する収束係数とに基づいて前記相殺誤差として残る振動が小さくなるように前記適応フィルタの算出を繰り返し実行し、算出の積み重ねにより疑似振動及び適応フィルタを真値へ収束させる制振装置であって、
前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動と前記疑似振動に基づき前記制振すべき位置に発生される相殺振動との偏差に対応する偏差情報を取得する偏差情報取得手段と、
前記偏差情報取得手段により取得された偏差情報に基づいて前記偏差の増加に応じて前記適応フィルタが収束する速度が速まるように前記収束係数を変更する収束係数変更手段とを備えたことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
振動発生源で生じる振動と加振手段を通じて発生させる相殺振動とを制振すべき位置で相殺するにあたり、適応フィルタを用いて前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動を算出する疑似振動算出手段と、前記疑似振動算出手段により算出された疑似振動に基づいて前記加振手段を通じて前記制振すべき位置に前記相殺振動を発生させる相殺振動発生指令手段と、前記制振すべき位置において前記振動発生源で生じた振動と前記相殺振動との相殺誤差として残る振動を検出する振動検出手段とを具備し、前記疑似振動算出手段は、前記振動検出手段により検出された振動と前記適応フィルタが真値への収束する速度を決定する収束係数とに基づいて前記相殺誤差として残る振動が小さくなるように前記適応フィルタの算出を繰り返し実行し、算出の積み重ねにより疑似振動及び適応フィルタを真値へ収束させる制振装置であって、
前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動と前記疑似振動に基づき前記制振すべき位置に発生される相殺振動との偏差に対応する偏差情報を取得する偏差情報取得手段と、
前記偏差情報取得手段により取得された偏差情報に基づいて前記偏差の減少に応じて前記適応フィルタが収束する速度が遅くなるように前記収束係数を変更する収束係数変更手段とを備えたことを特徴とする制振装置。
【請求項3】
振動発生源で生じる振動と加振手段を通じて発生させる相殺振動とを制振すべき位置で相殺するにあたり、適応フィルタを用いて前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動を相殺するために必要な疑似振動を算出する疑似振動算出手段と、前記疑似振動算出手段により算出された疑似振動に基づいて前記加振手段を通じて前記制振すべき位置に前記相殺振動を発生させる相殺振動発生指令手段と、前記制振すべき位置において前記振動発生源で生じた振動と前記相殺振動との相殺誤差として残る振動を検出する振動検出手段とを具備し、前記疑似振動算出手段は、前記振動検出手段により検出された振動と前記適応フィルタが真値への収束する速度を決定する収束係数とに基づいて前記相殺誤差として残る振動が小さくなるように前記適応フィルタの算出を繰り返し実行し、算出の積み重ねにより疑似振動及び適応フィルタを真値へ収束させる制振装置であって、
前記振動発生源から前記制振すべき位置へ伝達した振動と前記疑似振動に基づき前記制振すべき位置に発生される相殺振動との偏差に対応する偏差情報を取得する偏差情報取得手段と、
前記偏差情報取得手段により取得された偏差情報に基づいて前記偏差の増加に応じて前記適応フィルタが収束する速度が速まり前記偏差の減少に応じて前記適応フィルタが収束する速度が遅くなるように前記収束係数を変更する収束係数変更手段とを備えたことを特徴とする制振装置。
【請求項4】
前記偏差情報取得手段は、前記偏差に対応する偏差情報として前記疑似振動に基づき制振すべき位置に発生される相殺振動の振幅値に対応する加振力振幅成分を取得し、
前記収束係数変更手段は、前記偏差情報取得手段により取得された加振力振幅成分に応じて前記収束係数を変更する請求項1〜3のいずれかに記載の制振装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の制振装置を備えた車両。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−112164(P2011−112164A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269276(P2009−269276)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】