説明

制電性重合体組成物、その製造方法、それを用いた成形品および重合性化合物

【課題】 ブリーディング、ブルーミングおよび移行汚染が発生しないように改良された制電性重合体組成物を提供する。
【解決手段】 重合性化合物(A)は、窒素オニウムカチオンおよび該窒素オニウムカチオンに弱く配位する弱配位性アニオンを有する。重合性化合物(A)は、高いイオン密度を有し、イオン移動度も大きいので、高いイオン伝導度を有する。また、窒素オニウムカチオンは、有機性を有しているので、重合体および/またはエラストマー中に分散しやすい。また、重合性基を有するので、活性エネルギー線を照射したり加熱することなどにより、重合反応を起し、重合体および/またはエラストマーに固定化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に制電性重合体組成物に関するものであり、より特定的にはブリーディング、ブルーミングおよび移行汚染が発生しないように改良された制電性重合体組成物に関する。この発明はまたそのような制電性重合体組成物の製造方法に関する。この発明はさらにそのような制電性重合体組成物を用いた成形品に関する。この発明はさらにそのような制電性重合体組成物を与える重合性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックやガラスなどの成形物の面が帯電し、その面に埃などが付着して汚れの原因となるという問題、また静電気の高い電圧に起因してICやLSIなどの破壊、不良が起こるという問題、さらに電磁波ノイズにより電子機器の誤作動が起こるという問題等の、静電気に起因する問題がクローズアップされている。
【0003】
樹脂に制電性を付与する方法として、界面活性剤などの帯電防止剤を樹脂表面に塗布する方法や、帯電防止剤を樹脂に練り込む方法が知られている。しかし、帯電防止剤を樹脂表面に塗布する方法では、長期間経過すると制電性が著しく低下するため、持続性を要する制電性樹脂として実用性に乏しいという問題がある。一方、帯電防止剤を樹脂に練り込む方法では、帯電防止剤と樹脂との相溶性が悪く、帯電防止剤が成形品の表面にブリーディングやブルーミングしてしまい、制電効果が低下するという問題点がある。また界面活性剤などの帯電防止剤は、湿度依存性があり、低湿度下では制電効果が失活する、あるいは樹脂を成形した後に帯電防止効果が発現するまで最低1〜3日かかり遅効性であるという問題点がある。
【0004】
また、カーボンブラックやカーボンファイバーなどを樹脂またはゴムに練り込む方法が提案されている。この方法によると、帯電防止性に優れ、帯電防止性に持続性がある樹脂成形品が得られる。しかし、この方法では、透明な成形品が得られない、あるいは成形品の色の選択が制限されるなどの問題点がある。さらに、この方法を用いると、長期間使用する間に、重合体成形品の表面に存在するカーボンブラックやカーボンファイバーなどが成形品表面から剥離し、周囲を汚染するという問題点がある。
【0005】
制電性樹脂組成物の有する分散性の悪さや相溶性の悪さを解決する方法も提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1および特許文献2には、塩化ビニル樹脂における帯電防止剤と樹脂との相溶性の悪さや分散性の悪さという問題点を解決するために、帯電防止剤として過塩素酸アンモニウム塩や過塩素酸リチウムなどの過塩素酸塩を可塑剤に配合した塩化ビニル系樹脂組成物が開示されている。
【0006】
また、ポリオレフィン系樹脂に帯電防止性を付与する方法として、親水性樹脂を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【0007】
また、イオン性塩と熱可塑性ポリマーとを溶融ブレンドした帯電防止組成物が提案されている(たとえば、特許文献5参照)。特許文献5には、窒素オニウムカチオンと弱配位性含フッ素有機アニオンからなる少なくとも1種類のイオン性塩を熱可塑性ポリマーに配合した帯電防止組成物が開示されている。このようなイオン性塩は、高いイオン伝導性を示す。
【0008】
【特許文献1】特開昭64−9258号公報(特許請求の範囲)
【0009】
【特許文献2】特開平2−255852号公報(特許請求の範囲)
【0010】
【特許文献3】特開平4−198308号公報(特許請求の範囲)
【0011】
【特許文献4】特開平7−126446号公報(特許請求の範囲)
【0012】
【特許文献5】特公表2003−511505号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1、2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物では、使用する可塑剤が成形品の表面にブリーディングし、製品を汚染するという問題点がある。
【0014】
また、過塩素酸塩を帯電防止剤として用いると、樹脂組成物から得られるフィルムやシートを用いて金属類を包装する場合、金属表面を腐食する、金属表面が錆びる、あるいは金属表面を汚染するという欠点がある。特に、これらの制電性樹脂組成物を複写機やプリンタなどの制電性ローラや制電性ベルトなどに適用した場合に、高湿度の雰囲気下では、金属製の軸などを腐食するという問題点がある。
【0015】
また、特許文献3、4に記載の方法では、樹脂が実用的に十分な制電性を発現するためには、ポリオレフィン系樹脂に対して、親水性樹脂を10重量%以上添加する必要がある。このため、例えば、成形体の強度が低下するなどの基質樹脂の物性を損なうという問題点がある。また、湿度が低いと、樹脂表面の水分が減少するため、水分に起因する導電性が低下し、制電性が著しく損なわれるという問題点がある。
【0016】
さらに、特許文献5に記載の組成物で用いられるイオン性塩は、熱可塑性樹脂との相溶性が十分でない。このため、イオン性塩が、樹脂成形品の表面にブリーディングやブルーミングしてしまい、製品を汚染する。また、樹脂成形品の表面を払拭することなどにより、制電性が低下し、帯電性の耐久性が十分ではない。特に、高温高湿度の雰囲気下では、ブリーディングやブルーミングが促進されるため、制電性の低下が著しいという問題点がある。
【0017】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、熱安定性に優れ、ブリーディング、ブルーミング、および移行汚染が発生しないように改良された制電性重合体組成物を提供することを目的とする。
【0018】
この発明の他の目的は、湿度に依存せずに、即効性に優れ、物性の低下を招かず、かつ優れた制電性が持続する制電性重合体組成物を提供することにある。
【0019】
この発明のさらに他の目的は、そのような制電性重合体組成物を製造する方法を提供することにある。
【0020】
この発明のさらに他の目的は、そのような制電性重合体組成物を用いた成形品を提供することにある。
【0021】
この発明のさらに他の目的は、そのような制電性重合体組成物を与える重合性化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明にかかる制電性重合体組成物は、窒素オニウムカチオンおよび該窒素オニウムカチオンに弱く配位する弱配位性アニオンを有する重合性化合物(A)を単独重合または他の重合性化合物と共重合してなる第1の重合体(B)を含む。上記窒素オニウムカチオンと上記弱配位性アニオンとはイオン結合し、イオン性塩を構成している。
【0023】
本明細書で、弱配位性アニオンとは、その共役酸が超強酸(すなわち、100パーセント硫酸より酸性が大きい酸)であるものをいう。好ましくは、アニオンの共役酸のハメット酸性度関数H0は約−10未満(より好ましくは約−12未満)である。このような弱配位性アニオンは、窒素オニウムカチオンに強く配位しないので、窒素オニウムカチオンを裸の状態にし、制電性を強力に発揮させることができる。
【0024】
本発明によれば、窒素オニウムカチオンと弱配位性アニオンとからなるイオン性塩と、重合性基を有する重合性化合物(A)が、重合体中で、重合体の物性を維持しつつ、制電性を発揮する。また、本発明で用いるイオン性塩の構造を有する重合性化合物(A)は、熱安定性に優れるので、ブリーディング、ブルーミング、および移行汚染が発生せず、湿度に依存せずに、即効性に優れ、かつ優れた制電性が持続する制電性組成物を得ることができる。さらに、本発明で用いるイオン性塩の構造を有する重合性化合物(A)は、樹脂を構成する分子に均一に親和することができる。また、このようなイオン性塩の構造を有する重合性化合物(A)は、高い導電率、高い耐熱性を有するので、制電性に優れ、金属を腐食せず、湿度などの環境に依存されない制電性重合体組成物を得ることができる。
【0025】
本発明の好ましい実施態様によれば、少なくとも1種以上の第2の重合体および/またはエラストマー(C)をさらに含む。
【0026】
好ましくは、上記窒素オニウムカチオンは第4級アミンである。上記弱配位性アニオンは少なくとも1個の高フッ素化アルキルスルホニル基を含む弱配位性アニオンフッ素有機アニオン、BF4-又はPF6-である。
【0027】
上記重合性化合物(A)は、好ましくは、2−(トリアルキルアンモニウム)アルキルアクリレートビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、2−(トリアルキルアンモニウム)アルキルメタアクリレートビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N−[3−(トリアルキルアンモニウム)アルキル]アクリルアミドビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド又はN−[3−(トリアルキルアンモニウム)アルキル]メタクリルアミドビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。
【0028】
上記第2の重合体は、好ましくは、ポリオレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリアミド系重合体、ポリ塩化ビニル系重合体、ポリアセタール系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、ポリカーボネート系重合体、アクリレート/メタクリレート系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、熱可塑性エラストマー系重合体、不飽和ポリエステル系重合体、エポキシ系重合体、ジアリールフタレート系重合体、メラミン系重合体、液晶ポリエステル系重合体、フッ素系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリフェニレンエーテル系重合体、ポリイミド系重合体およびシリコーン系重合体からなる群より選ばれる。
【0029】
また、上記エラストマーは、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン、シリコーンゴム、フッ素ゴムおよびウレタンからなる群より選ばれる。
【0030】
上記第1の重合体(B)は、上記重合性化合物(A)を0.05〜100質量%含むのが好ましい。
【0031】
上記第2の重合体および/またはエラストマー(C)100質量部に対して、上記重合性化合物(A)は、0.01質量部以上95質量部以下の割合で含まれるのが好ましい。
【0032】
このように規制するのは、上記イオン性塩の配合量が0.01質量部未満であると、制電性が十分に発揮されないからである。一方、上記重合性化合物(A)の配合量が95質量部を超えると、制電性付与効果が飽和するので、コスト高を招来するという問題があるからである。
【0033】
上記重合性化合物(A)および上記他の重合性化合物は、活性エネルギー線又は熱で重合する重合性基を有するのが好ましい。
【0034】
本発明のさらに好ましい実施態様によれば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアルカリ金属塩、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドのアルカリ金属塩およびトリフルオロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属塩を、上記重合性化合物(A)に対して、0.01〜200モル%の割合で含有する。
【0035】
また、当該制電性重合体組成物は、重合体型帯電防止剤をさらに含むのが好ましい。本発明の組成物に重合体型帯電防止剤を含めると、イオン性塩を安定化することができる。このような重合体型帯電防止剤としては、ポリエーテルブロックポリオレフィン共重合体、ポリオキシアルキレン系共重合体、ポリエーテルエステルアミド系共重合体またはエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジル共重合体が挙げられる。
【0036】
上記第2の重合体および/またはエラストマー(C)100重量部に対して、上記重合体型帯電防止剤を、0.05質量部以上30質量部以下の割合で含有しているのが好ましい。
【0037】
このように規制するのは、上記重合体型帯電防止剤の配合量が0.05質量部未満であると、制電性が十分に発揮されないからである。一方、上記重合体型帯電防止剤の配合量が30質量部を超えると、制電性付与効果が飽和するので、コスト高を招来するという問題があるからである。また、重合体の物性が失われることがあるからである。
【0038】
本発明の他の局面に従う制電性重合体組成物の製造方法においては、窒素オニウムカチオンおよび該窒素オニウムカチオンに弱く配位する弱配位性アニオンを有する重合性化合物(A)と他の重合性化合物とを混合し、得られた混合液を型に注入した後、あるいは該混合液を成形品の表面に塗布した後、硬化させる。硬化は、活性エネルギー線又は熱で行うのが好ましい。
【0039】
この制電性重合体組成物の製造方法によれば、他の方法で得られる制電性重合体組成物より制電性を向上させるとともに、ブリーディング、ブルーミング、および移行汚染の発生を防止することができる。
【0040】
本発明の制電性重合体組成物を用いて、種々の成形品、フィルム、塗料、繊維を得ることができる。また、本発明の制電性重合体組成物を、成形品表面で硬化させて制電性の被覆物とすることもできる。
【0041】
本発明の他の局面に従う発明は、窒素オニウムカチオンおよび該窒素オニウムカチオンに弱く配位する弱配位性アニオンを有する重合性化合物であって、前記窒素オニウムカチオンは第4級アミンであり、前記弱配位性アニオンは少なくとも1個の高フッ素化アルキルスルホニル基を含む弱配位性フッ素有機アニオン、BF4-又はPF6-である。
【発明の効果】
【0042】
本発明にかかる、窒素オニウムカチオンと弱配位性アニオンとからなるイオン性塩、および重合性基を有する重合性化合物(A)を単独重合または他の重合性化合物と共重合してなる第1の重合体(B)は、広い温度領域で、樹脂を構成する分子に、均一に親和する。また、このような第1の重合体(B)は、高い導電率、高い耐熱性を有するので、制電性・熱安定性に優れ、湿度などの環境に依存されない制電性重合体組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明で用いる重合性化合物(A)は、窒素オニウムカチオン、該窒素オニウムカチオンに弱く配位する弱配位性アニオンおよび上記窒素オニウムカチオンに連結された重合性基を有する。窒素オニウムカチオンと弱配位性アニオンはイオン性塩を構成している。
【0044】
本発明で用いる重合性化合物(A)は、高いイオン密度を有し、イオン移動度も大きいので、高いイオン伝導度を有する。また、窒素オニウムカチオンは、有機性を有しているので、重合体および/またはエラストマー中に分散しやすい。また、重合性基を有するので、活性エネルギー線を照射したり加熱することなどにより、重合反応を起し、重合体および/またはエラストマーに固定化することができる。
【0045】
このようなイオン性塩の構造を有する重合性化合物(A)に用いられる窒素オニウムカチオンは、脂肪族窒素オニウムカチオン、不飽和環式窒素オニウムカチオン、芳香族窒素オニウムカチオンが挙げられる。
【0046】
これらの窒素オニウムカチオンのうち、好ましいのは、第4級アミンである。特に好ましくは、アルキル基の炭素数が1〜18の第4級アルキルアミンである。また、好ましい不飽和環式窒素オニウムカチオンおよび芳香族窒素オニウムカチオンとしては、ピリジニウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、トリアゾリウムが挙げられる。これらの不飽和環式窒素オニウムカチオンおよび芳香族窒素オニウムカチオンの第4級アミンであれば、より好ましい。
【0047】
本発明のイオン性塩に用いられる弱配位性アニオンとしては、少なくとも1個の高フッ素化アルキルスルホニル基を含む弱配位性フッ素有機アニオン、BF4−、またはPF6−であればよい。高フッ素化アルキルスルホニル基とは、全ての非フッ素炭化結合置換基が、スルホニル基に直接結合した炭素原子以外の炭素に結合しているパーフルオロアルカンスルホニル基または部分フッ素化アルカンスルホニル基をいう。
【0048】
[イオン性塩の製造]
【0049】
本発明に用いるイオン性塩は、公知の方法(例えば、渡邊正義他「イオン性液体の機能創生と応用」エヌ・ティー・エス(2004))を用いて製造できる。例えば、第3級アミンをハロゲン化アルキルまたはジアルキルスルホン酸で、4級化した後、目的のアニオンを有する塩を用いてアニオン交換反応を行うことによって、合成できる。第3級アミンの沸点が低い場合は、オートクレーブ反応によって、合成できる。
【0050】
[重合体およびエラストマー]
【0051】
本発明の組成物に用いられる重合体およびエラストマーは、特に制限がなく、公知の重合体およびエラストマーを使用することができる。
【0052】
使用される重合体としては、例えばポリオレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリアミド系重合体、塩化ビニル系重合体、ポリアセタール系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、ポリカーボネート系重合体、アクリレート/メタクリレート系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、熱可塑性エラストマー系重合体、不飽和ポリエステル系重合体、エポキシ系重合体、フェノール系重合体、ジアリールフタレート系重合体、メラミン系重合体、液晶ポリエステル系重合体、フッ素系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリフェニレンエーテル系重合体、ポリイミド系重合体、シリコーン系重合体などが挙げられる。
【0053】
使用されるエラストマーとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。
【0054】
また、これらの重合体およびエラストマーは、1種類に限られず、複数の重合体およびエラストマーを組み合わせて使用してもよい。
【0055】
[配合割合]
【0056】
本発明の制電性重合体組成物は、上記第2の重合体および/またはエラストマー(C)100質量部に対して、上記重合性化合物(A)を0.01質量部以上95質量部以下の割合で含有している。
【0057】
[重合体型帯電防止剤]
【0058】
本発明の制電性重合体組成物は、上記第1の重合体(B)成分単独、又は(B)成分と少なくとも1種以上の第2の重合体および/またはエラストマー(C)成分の2成分であっても、十分に効果を奏する。しかし、さらに、重合体型帯電防止剤を含めることで、優れた制電性を発揮する。使用できる重合体型帯電防止剤としては、例えばポリエーテルブロックポリオレフィン共重合体、ポリオキシアルキレン系共重合体、ポリエーテルエステルアミド系共重合体、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジル共重合体が挙げられる。
【0059】
これらの重合体型帯電防止剤は、分子内にエーテル結合を有する。この結果、エーテル結合内の酸素原子等により、イオン性塩がより安定化し、電気抵抗をより低くすることができる。また、ブロック中のエーテル結合以外の構造部分により、(B)成分である第1の重合体またはエラストマーとの相溶性が増加する。この結果、重合体またはエラストマーの物性の低下が軽減できるので、良好な物性と成型加工性とを有する制電性重合体組成物が得られる。
【0060】
このような重合体型帯電防止剤は、上記重合体および/またはエラストマー(C)100質量部に対して、0.05質量部以上30質量部以下の割合で含有させればよい。
【0061】
[重合性基を有する他の重合性化合物]
【0062】
本発明の制電性重合体組成物は、上記(B)成分に、活性エネルギー線又は熱で重合する重合性基を有する他の重合性化合物を含めることで(すなわち重合性化合物(A)とこの他の重合性化合物を共重合させることで)、優れた制電性を維持できる。使用できる他の重合性化合物としては、例えばアクリレート基、メタクリレート基、ビニル基などを有する重合性化合物が挙げられる。
【0063】
このような活性エネルギー線又は熱で重合する重合性基を有する他の重合性化合物としては、モノマー、オリゴマー、あるいは活性エネルギー線又は熱で重合する重合性基を分子内に3つ以上有するものが挙げられる。以下、それぞれについて説明する。
【0064】
モノマーとしては、例えば、単官能性のものとして、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、イソボルニル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N−イソプロピルアクリルアミド、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。
【0065】
二官能性基のものとして、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0066】
多官能性基のものとして、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンの3モルプロピレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、トリメチルプロパンの6モルエチレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ジペンタンエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのカプロラクトン付加物のヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0067】
オリゴマーとしては、例えば、不飽和ポリエステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0068】
活性エネルギー線又は熱で重合する重合性基を分子内に3つ以上有する他の重合性化合物としては、例えば、ジイソシアネート(例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなど)と、水酸基含有(メタ)アクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの単官能のもの、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどを3官能以上のものとなど)とを反応させてなるものが挙げられる。
【0069】
[他の帯電防止剤]
【0070】
本発明の制電性重合性組成物には、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアルカリ金属塩、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドのアルカリ金属塩、およびトリフルオロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩を、さらに他の帯電防止剤として添加しても良い。このような他の帯電防止剤を添加することで、制電性に相乗効果をもたらすことができる。他の帯電防止剤は、上記イオン性塩に対して、0.01〜200モル%の割合で含有させればよい。アルカリ金属塩としては、例えばリチウム塩が挙げられる。
【0071】
[他の添加物]
【0072】
本発明の制電性重合体組成物には、さらに酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、顔料、抗菌・抗カビ剤、耐光剤、可塑剤、粘着付与剤、分散剤、消泡剤、硬化触媒、硬化剤、レベリング剤、カップリング剤、フィラー、加硫剤、加硫促進剤、有機化酸化物、架橋助剤、光重合開始剤などの公知の添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0073】
[製造方法]
【0074】
本発明の組成物は、例えば、以下のようにして製造される。
【0075】
樹脂表面に制電性重合体組成物を形成するには、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A)成分を他の重合性化合物に少量添加し、これを樹脂表面に塗布し、活性エネルギー線又は熱で共重合させるとよい。
【0076】
イオン性塩の構造を有する第1の重合体(B)と第2の重合体および/またはエラストマー(C)との2成分系で、重合体型帯電防止剤および活性エネルギー線又は熱で重合する他の重合性化合物を含まない組成物を製造するためには、(B)成分と(C)成分の所定量を公知の方法によって混合すればよい。
【0077】
例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサー、タンブラーなどでドライブレンドを行うこともできる。また、単軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラストミル、コニーダ、ロールなどで溶融混練を行っても良い。必要に応じて、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。得られる組成物の形状に特に制限はなく、粉体状、ペレット状、シート状、ストランド状、チップ状など何れの形態であってもよい。
【0078】
また、第1の重合体(B)が溶液状態の重合性モノマー、プレポリマー、オリゴマーまたはポリマーである場合には、第2の重合体および/またはエラストマー(C)に、イオン性塩の構造を有する重合体(B)を添加して溶液状の組成物を形成しても良い。
【0079】
イオン性塩の構造を有する第1の重合体(B)と第2の重合体および/またはエラストマー(C)とに、さらに重合体型帯電防止剤を含める場合には、以下の製造方法がある。
【0080】
(1)イオン性塩の構造を有する第1の重合体(B)と、第2の重合体および/またはエラストマー(C)と、重合体型帯電防止剤とを、一度に配合する。
(2)イオン性塩の構造を有する第1の重合体(B)を、重合体型帯電防止剤に添加して混合し、この混合物を、少なくとも1種類の重合体および/またはエラストマー(C)に配合する。
(3)複数の重合体および/またはエラストマー(C)を用いる場合に、まず、複数の重合体および/またはエラストマー(C)を混合して調整する。この後に、イオン性塩の構造を有する第1の重合体(B)と重合体型帯電防止剤とを添加して混合する。あるいは第2の重合体および/またはエラストマー(C)のプレポリマーなどを用いる場合に、最初に、原料を混合して調整することもできる。
【0081】
上記の方法により得られる組成物は、その方法により制電性の環境依存性が異なる。好ましい方法は、(2)である。
【0082】
本発明の制電性重合性組成物を塗料に用いる場合は、イオン性塩の構造を有する重合体化合物(A)を単独重合または共重合してなる第1の重合体(B)単独、または第1の重合体(B)と少なくとも1種以上の第2の重合体および/またはエラストマー(C)からなる制電性重合体を、有機溶媒、重合性モノマー、プレポリマー、またはオリゴマーに溶解させて添加してもよい。
【0083】
上記製法により得られた本発明の制電性重合体組成物は、圧縮成形、トランスファ成形、積層成形、射出成形、押出成形、吹込成形、カレンダ加工、注型、ペースト加工、粉末化、反応成形、熱成形、ブロー成形、回転成形、真空成形、キャスト成形、ガスアシスト成形などの成形に用いられる公知の方法によって成形することができる。また、本発明の制電性重合体組成物を、制電性塗料として用いる場合には、無溶媒塗料、有機溶媒塗料、配ソリッド型塗料、粉体塗料、水系エマルジョン塗料、カチオン電着塗料など、公知の塗料の形態で、使用できる。
【0084】
本発明の制電性重合体組成物から得られる成形品は、自動車用部品、家電機器部品、電子機器部品、電子材料製造機器、電池部材、情報事務機器部品、通信機器、ハウジング部品、光学機械部材、家庭用雑貨品、工業用部材、建材、床材、包装流通部材など、長期間持続して高い制電性を必要とする製品に広く活用できる。具体的には、タイヤ、ホース類、包装用フィルム、包装材、チューブ、シーリング材、手袋、合成皮革、IC、コンデンサ、トランジスタ、LSIなどの電子部品のキャリアテープやキャリアトレイなどと称される容器、被覆剤・塗料、繊維などとして利用できる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例に基づいて、本発明の内容を具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0086】
なお、以下の実施例において、「部」および「%」は、それぞれ「質量部」および「質量%」を意味する。
【0087】
以下の実施例、比較例において、表面抵抗率および体積抵抗率の測定は、URSプローブ(三菱油化(株)製、ハイレスタ(登録商標)UP)を用いて、JIS K 6911に準じて行い、印加電圧は、100ボルト、500ボルトで測定した。
【0088】
また、環境依存性は、次式(1)に従って、算出した。
Δlog10ρV=log10ρV(10℃、相対湿度15%)−log10ρV(32.5℃、相対湿度90%)・・・・(1)
【0089】
ここで、ρVは、体積抵抗率を表す。
【0090】
ブリードの評価は、次の方法により、行った。
【0091】
幅6cm×長さ6cm×厚さ0.3cmのフィルムゲート式の試験片を作製し、温度40℃、相対湿度90%の雰囲気下で7日間放置し、7日間経過後の試験片の状態を目視評価した。
【0092】
実施例および比較例で使用した成分は、下記の通りである。
【0093】
(イオン性塩の構造を有する重合性化合物の合成)
表1に示すイオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−1,A−2,A−3,A−4)を合成した。これらの重合性化合物は、重合性基と、窒素オニウムカチオンおよび該窒素オニウムカチオンに弱く配位する弱配位性アニオンを有する。重合性基と窒素オニウムカチオンは、アルキレン基で結ばれている。
【表1】

【0094】
図1に示すように、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A)は、重合性基が単独で重合または他の重合性化合物と共重合することにより、イオン性塩の構造を有する第1の重合体(B)を与える。
【0095】
(a) 2−(ジメチルエチルアンモニウム)エチルメタクリレートビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(A−1)の合成;
【0096】
2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート 1モル(157.2g)を、60℃に加熱し、攪拌しながら、ジエチル硫酸を1.2モル(184.8g)滴下した。滴下後、この液を70℃に昇温して、60分間攪拌し、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート−ジエチル硫酸4級化物(342g)を得た。次に、得られた2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート−ジエチル硫酸4級化物(107g)を、イオン交換水100mlに希釈し、この溶液に、カリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100gをイオン交換水200mlに希釈したものを、60℃の加熱下で滴下し、40分間攪拌した。この反応液を20時間静置した後、上層の水層を分離除去した。下層の油層部分をイオン交換水で3回洗浄した後、減圧下、70℃で脱水し、2−(ジメチルエチルアンモニウム)エチルメタクリレートビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(A−1)140gを得た。
【0097】
(b) 2−(トリメチルアンモニウム)エチルアクリレートビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(A−2)の合成;
【0098】
2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート塩化メチル4級塩水溶液(79%)245gを、攪拌しながら、カリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド320gをイオン交換水200mlに希釈したものを、60℃に加熱下で滴下し、50分間攪拌した。この反応液を静置した後、上層の水層を分離除去した。下層の油層部分をイオン交換水で3回洗浄した後、減圧下、70℃で脱水し、2−(トリメチルアンモニウム)エチルアクリレートビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(A−2)435gを得た。
【0099】
(c) N−[3−(トリメチルアンモニウム)プロピル]アクリルアミドビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(A−3)の合成;
【0100】
A−2の合成反応において、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレートの代わりにN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミドを使用した以外は、同様に合成反応を行い、N−[3−(トリメチルアンモニウム)プロピル]アクリルアミドビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(A−3)200gを得た。
【0101】
(d) N−[3−(トリメチルアンモニウム)プロピル]メタクリルアミドビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(A−4)の合成
【0102】
A−2の合成反応において、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレートの代わりにN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミドを使用した以外は、同様に合成反応を行い、N−[3−(トリメチルアンモニウム)プロピル]メタクリルアミドビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(A−4)200gを得た。
【0103】
(e) エチレンー2−(ジメチルエチルアンモニウム)エチルメタクリレートビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド共重合体(B−1)の合成
【0104】
エチレンー2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート共重合体(2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート含有量:65.1モル%,固有粘度:0.55,キシレン溶媒、120℃)100部を、70℃の熱キシレン300mlに溶解し、攪拌しながら、ジエチル硫酸を0.78モル滴下した。滴下後、この溶液をさらに60分間攪拌した。次に得られたエチレン−2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート共重合体−ジエチル硫酸4級化物に、カリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド210gをイオン交換水200mlに希釈したものを、60℃の加熱下で滴下し、40分間攪拌した。この反応液を20時間放置した後、上層の水層を分離除去した。
下層の油層部分をイオン交換水で3回洗浄した後、メタノール1l中に攪拌しながら滴下した。この溶液をガラスフィルターで減圧濾過し、80℃、2時間減圧乾燥後、白色粉末物(B−1)300gを得た。
【0105】
(実施例1)
【0106】
イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−1)を10部添加したポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学(株)製,NKエステル(登録商標)A−200)55部と、ウレタンアクリレート(ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亜合成(株)製、M−305)250部と、イソホロンジイソシアネート(和光純薬(株)製)50部から合成)45部とを混合し、光開始剤(チバ・スペシャルィー・ケミカルズ(株)製、Irg(登録商標)184)3部を添加して紫外線硬化性帯電防止性組成物を得た。この組成物を、バーコータを用いて、厚さ100μmのPET(東洋紡績(株)、A4300)の表面に塗布して、水銀ランプを用いて積算光量300mj/cm2の紫外線で硬化させ、塗膜が形成された帯電防止性塗装品を得た。この塗装品の表面抵抗率は、1×108Ω/sqであった。このフィルムを湿度90%、温度70℃の雰囲気に9時間放置した後の、表面抵抗率は、3×108Ω/sqであった。
【0107】
(比較例1)
【0108】
実施例1において、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−1)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の塗膜が形成されたフィルム塗装品を得た。このフィルムの表面抵抗率は、2×1014Ω/sqであった。さらに。このフィルムを湿度90%、温度70℃の雰囲気に9時間放置した後の表面抵抗率は、1016Ω/sq以上であった。
【0109】
(実施例2)
【0110】
イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−2)を10部とメチルメタクリレート90部を混合し、次いで、ベンゾフェノンとメチルフェニルグリオキシレートとをそれぞれ4部を添加した液状組成物を得た。この液状組成物を、メチルメタクリレート−スチレン共重合体の射出成形板(50mm×50mm×3mm)にバーコータで塗布した後、高圧水銀灯を用いて積算光量1500mj/cm2(照射時間10秒)で空気中で照射し、7μm厚さの硬化被膜を有する透明なメチルメタクリレート−スチレン共重合体の樹脂板を得た。この樹脂板の表面抵抗率は、2×109Ω/sqであった。この被覆樹脂板を湿度65%、温度75℃の雰囲気に12時間放置した後の表面抵抗率は、1×1010Ω/sqであった。
【0111】
(比較例2)
【0112】
実施例2において、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−2)を使用しなかった以外は、実施例2と同様にして、比較例2の塗膜樹脂板を得た。この樹脂板の表面抵抗率は、7×1014Ω/sqであった。さらにこの被覆樹脂板を湿度65%、温度75℃の雰囲気に12時間放置した後の表面抵抗率は、1017Ω/sq以上であった。
【0113】
(実施例3)
【0114】
水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(クラレ(株)製、セプトン(登録商標)2104)20部、ポリプロピレン(日本ポリケム(株)製、ノバテックPP(登録商標)BC6)15部、オイル35部を含む混合液中に、ゴム分が65部である油展EPDMを含む組成物を動的架橋により分散させた。その後、この混合液に、重合体型帯電防止剤(三洋化成工業(株)製、ペレスタット(登録商標)300)に予めイオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−2)のオリゴマー(重合度約500)を5部およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを、イオン性の塩の構造を有する重合性化合物(A−2)に対して、100モル%混練したものを5部混入し、再度混練機で5分間混練した。これをさらに、樹脂押出機にて加熱しながら、ローラ状に成形した。得られた試料の体積抵抗率は、4×106Ω・cmであった。上記(1)式を用いて、環境依存性を算出したところ、環境依存性は、0.6であった。この成形品の表面には、ブリード物の存在は認められなかった。ローラ状の成形物に、1KVの定電圧を連続して100時間印加した後の体積抵抗率は、8×106Ω・cmであった。
【0115】
(比較例3)
【0116】
実施例3において、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加せず、また、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−2)のオリゴマー(重合度約500)の代わりに2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレートのオリゴマ−(重合度約500)を5部混練した以外は、実施例3と同様にして比較例3のローラ状の成形体を得た。得られた試料の体積抵抗率は、5×1011Ω・cmであった。1KVの定電圧を連続して100時間印加した後の体積抵抗率は、8×1013Ω・cmであった。
【0117】
(実施例4)
【0118】
イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−1)を30部溶解したペンタエリスリトールトリアクリレート(共栄化学(株)製、ライトアクリレート(登録商標)PE−3A)4部と、ペンタエリスリトールトリアクリレート96部とを混合した。この混合液に、光重合開始剤ベンジルジメチールケタール4部を添加して、液状組成物を得た。この組成物を、凹部を有する平板状の型に注いだ後に、積算光量500mj/cm2相当の紫外線を照射し、注型成形法により、表面が均一で、厚さ2mmの硬化樹脂組成物成形体を得た。この成形体の体積抵抗率は、2×109Ω・cmであった。この成形体を湿度90%、温度70℃の雰囲気に9時間放置した後の、体積抵抗率は、7×109Ω・cmであった。
【0119】
(比較例4)
【0120】
実施例4において、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−1)の代わりに、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートを30部溶解した以外は、実施例4と同様にして、比較例4の硬化樹脂組成物成形体を得た。この成形体の体積抵抗率は、2×1011Ω・cmであった。この成形体を湿度90%、温度70℃の雰囲気に9時間放置した後の体積抵抗率は、5×1014Ω・cmであった。
【0121】
(実施例5)
【0122】
エポキシアクリレート5部、トリメチロールプロパントリアクリレート25部、ネオペンチルグリコールジアクリレート20部、ポリエチレングリコールジアクリレート40部およびイオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−2)10部を混合し、さらに、2−メチル−2−ヒドロキシプロピルフェノン4部を添加したものを、ディスク基板上にスピンナによって塗布した後、紫外線硬化させて、制電性塗料用樹脂被覆体を得た。この被覆体の印加電圧8kVのときの帯電圧減衰を測定した。帯電圧400Vで半減期は、0.7秒であった。
【0123】
(比較例5)
【0124】
実施例5において、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−2)の代わりに、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレートを溶解した以外は、実施例5と同様にして比較例5の制電性塗料用樹脂被覆体を得た。この被覆体の印加電圧8kVのときの帯電圧減衰を測定した。帯電圧3000Vで半減期は、10秒以上であった。
【0125】
(実施例6)
【0126】
ポリプロピレン(MFI:10)90部、イオン性塩の構造を有するエチレン共重合体(B−1)10部を混練して組成物を得た後、ノズル温度280℃、延伸倍率5.0で溶融紡糸し、2.8デニールの繊維を得た。この繊維を走行速度100mm/分でローラに巻き取った。走行糸条より1cmのところで、春日式電位差測定装置で発生静電気を測定した結果、ローラーでの静電気発生量は、0.4KV以下であった。
【0127】
(比較例6)
【0128】
実施例6において、イオン性塩の構造を有するエチレン共重合体(B−1)の代わりに、エチレン−2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート共重合体を10部添加した以外は、実施例6と同様にして3.0デニールの繊維を得た。ローラーでの静電気発生量は、10KV以上であった。
【0129】
(実施例7)
【0130】
実施例2において、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−2)の代わりに、重合性化合物(A−3)を20部と、メチルメタクリレート80部とトリフルオロメタンスルホン酸リチウム0.5部を混合した以外は、実施例2と同様にして、厚さ10μmの硬化被膜を有する透明なメチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂板を得た。この樹脂板の表面抵抗率は、6×107Ω/sqであった。この被覆樹脂板を湿度95%、温度75℃の雰囲気に12時間放置後の表面抵抗率は、9×107Ω/sqであった。
【0131】
(比較例7)
【0132】
実施例7において、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−3)を使用しなかった以外は、実施例7と同様にして、比較例7の塗膜樹脂板を得た。この樹脂板の表面抵抗率は、9×109Ω/sqであった。さらに、この被覆樹脂板を湿度65%、温度75℃の雰囲気に12時間放置した後の表面抵抗率は、1016Ω/sq以上であった。
【0133】
(実施例8)
【0134】
(イソブタノール:トルエン=3:1)溶媒10部と、ペンタエリスリトールトリアクリレート100部に対して、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−4)30部添加した重合性化合物90部を混合し、次いで、ベンゾフェノンとメチルフェニルグリオキシレートとをそれぞれ4部添加した液状組成物を得た。この液状組成物を、ポリカーボネート樹脂の射出成形板(50mm×50mm×3mm)にスプレー塗布した後、熱風乾燥機(60℃)で3分間乾燥した。この成形板に高圧水銀灯を用いて積算量1500mmJ/cm2(照射時間10秒)で空気中で、紫外線を照射した。厚さ7μmの硬化被膜を有する透明なポリカーボネート樹脂板を得た。この樹脂板の表面抵抗率は、2×109Ω/sqであった。さらに、この被覆樹脂板を湿度75%、温度75℃の雰囲気に12時間放置した後の表面抵抗率は、4×109Ω/sq以上であった。
【0135】
(比較例8)
【0136】
実施例8において、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−4)を使用せず、ペンタエリスリトールトリアクリレートを100部混合した液状組成物を使用した。実施例8と同様にして、比較例8の厚さ8μmの硬化被膜を有する透明なポリカーボネート樹脂板を得た。このポリカーボネート樹脂板の表面抵抗率は、2×1014Ω/sqであった。
【0137】
(実施例9)
【0138】
ゴム添加ポリスチレン100部に対して、イオン性塩の構造を有する重合性化合物(A−3)を25%含有するスチレン共重合体10部を添加して、混練後、重合体組成物を得た。この重合体を熱プレスして、厚さ5.4mmの板を得た。この樹脂板の表面抵抗率は2×107Ω/sqであった。
【0139】
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明によれば、熱安定性に優れ、ブリーディング、ブルーミング、および移行汚染が発生しないように改良された制電性重合体組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】実施例にかかる重合性化合物(A)の重合の様子を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素オニウムカチオンおよび該窒素オニウムカチオンに弱く配位する弱配位性アニオンを有する重合性化合物(A)を、単独重合または他の重合性化合物と共重合してなる第1の重合体(B)を含む制電性重合体組成物。
【請求項2】
少なくとも1種以上の第2の重合体および/またはエラストマー(C)をさらに含む請求項1に記載の制電性重合体組成物。
【請求項3】
前記窒素オニウムカチオンが第4級アミンであり、前記弱配位性アニオンが少なくとも1個の高フッ素化アルキルスルホニル基を含む弱配位性フッ素有機アニオン、BF4-又はPF6-である請求項1または2に記載の制電性重合体組成物。
【請求項4】
前記重合性化合物(A)が、2−(トリアルキルアンモニウム)アルキルアクリレートビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、2−(トリアルキルアンモニウム)アルキルメタアクリレートビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N−[3−(トリアルキルアンモニウム)アルキル]アクリルアミドビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド又はN−[3−(トリアルキルアンモニウム)アルキル]メタクリルアミドビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである請求項1から3のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物。
【請求項5】
前記第2の重合体は、ポリオレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリアミド系重合体、ポリ塩化ビニル系重合体、ポリアセタール系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、ポリカーボネート系重合体、アクリレート/メタクリレート系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、熱可塑性エラストマー系重合体、不飽和ポリエステル系重合体、エポキシ系重合体、ジアリールフタレート系重合体、メラミン系重合体、液晶ポリエステル系重合体、フッ素系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリフェニレンエーテル系重合体、ポリイミド系重合体およびシリコーン系重合体からなる群より選ばれ、
前記エラストマーは、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン、シリコーンゴム、フッ素ゴムおよびウレタンからなる群より選ばれる請求項2から4のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物。
【請求項6】
前記第1の重合体(B)は、前記重合性化合物(A)を0.05〜100質量%含む請求項1から5のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物。
【請求項7】
前記第2の重合体および/またはエラストマー(C)100質量部に対して、前記重合性化合物(A)を0.01質量部以上95質量部以下の割合で含有している、請求項2から6のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物。
【請求項8】
前記重合性化合物(A)および前記他の重合性化合物は、活性エネルギー線又は熱で重合する重合性基を有する請求項1から7のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物。
【請求項9】
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのアルカリ金属塩、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドのアルカリ金属塩およびトリフルオロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩からなる群より選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属塩を、前記重合性化合物(A)に対して、0.01〜200モル%の割合で含有する請求項1から8のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物。
【請求項10】
当該制電性重合体組成物は、重合体型帯電防止剤をさらに含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物。
【請求項11】
前記重合体型帯電防止剤は、ポリエーテルブロックポリオレフィン系共重合体、ポリオキシアルキル系共重合体、ポリエーテルエステルアミド系共重合体又はエチレンオキシド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジル系共重合体である請求項10に記載の制電性重合体組成物。
【請求項12】
前記第2の重合体および/またはエラストマー(C)100重量部に対して、前記重合体型帯電防止剤を、0.05質量部以上30質量部以下の割合で含有している、請求項10または11に記載の制電性重合体組成物。
【請求項13】
窒素オニウムカチオンおよび該窒素オニウムカチオンに弱く配位する弱配位性アニオンを有する重合性化合物(A)と他の重合性化合物とを混合し、
得られた混合液を型に注入した後、あるいは前記混合液を成形品の表面に塗布した後、硬化させる制電性重合体組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物を成形してなる成形品。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物を成形したフィルム。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物を含む塗料。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の制電性重合体組成物を成形した繊維。
【請求項18】
請求項8または9に記載の制電性重合体組成物を成形品表面で硬化させた制電性被覆物。
【請求項19】
窒素オニウムカチオンおよび該窒素オニウムカチオンに弱く配位する弱配位性アニオンを有する重合性化合物であって、
前記窒素オニウムカチオンは第4級アミンであり、
前記弱配位性アニオンは少なくとも1個の高フッ素化アルキルスルホニル基を含む弱配位性フッ素有機アニオン、BF4-又はPF6-である重合性化合物。


【図1】
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【公開番号】特開2007−9042(P2007−9042A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190929(P2005−190929)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(398033921)三光化学工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】