説明

副室式ガスエンジン

【課題】エンジンの始動時等において副室が過冷却され難く、かつエンジンの高負荷時においてプラグホルダが冷却され易い副室ガスエンジンを提供する。
【解決手段】副室式ガスエンジン1であって、シリンダブロックに移動可能に収納されるピストン6と、ピストン6とシリンダブロックと協働して主燃焼室10を区画するシリンダヘッド3と、シリンダヘッド3の取付孔3cに挿入されかつ点火プラグ5が取付けられるプラグホルダ4を有する。プラグホルダ4には、燃料ガスが供給される副室11と、副室11と主燃焼室10とを連通する噴孔4aが形成される。取付孔3cとプラグホルダ4の間には、プラグホルダ4からシリンダヘッド3へ熱が移動することを許容し得る熱伝導部材9が設けられる。熱伝導部材9は、熱に対応して変形するバイメタルを含みかつ変形温度に上昇することでプラグホルダ4との接触面積が大きくなる部分を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副室式ガスエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
副室式ガスエンジンは、シリンダブロックに移動可能に収納されるピストンと、ピストンとシリンダブロックと協働して主燃焼室を区画するシリンダヘッドと、シリンダヘッドの取付孔に挿入されかつ点火プラグが取付けられるプラグホルダを有する(特許文献1参照)。プラグホルダには、燃料ガスが供給される副室と、副室と主燃焼室を連通する噴孔が形成される。シリンダヘッドの取付孔には、円環状の熱伝導部材が設けられる。熱伝導部材の内周面がプラグホルダに当接され、熱伝導部材の外周面がシリンダヘッドに当接される。
【0003】
したがってプラグホルダがシリンダヘッドよりも高温になると、プラグホルダの熱が熱伝導部材を介してシリンダヘッドへ移動する。そのためプラグホルダが熱伝導部材によって常時冷却され得る。かくしてプラグホルダが熱源になって主燃焼室内の燃料ガスが点火することや、プラグホルダの過熱による点火プラグの寿命低下が抑制され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−236017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしエンジンの始動時等においてプラグホルダが冷やされると、プラグホルダ内の副室において失火が生じ、燃焼不安定が生じる。そのためエンジンの始動時等において副室が過冷却され難く、かつエンジンの高負荷時においてプラグホルダが冷却され易い副室ガスエンジンが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備える副室式ガスエンジンであることを特徴とする。一つの特徴によると本発明は、シリンダブロックに移動可能に収納されるピストンと、ピストンとシリンダブロックと協働して主燃焼室を区画するシリンダヘッドと、副室式ガスエンジンに形成された取付孔に挿入されかつ点火プラグが取付けられるプラグホルダを有する。プラグホルダには、燃料ガスが供給される副室と、副室と主燃焼室とを連通する噴孔が形成される。副室式ガスエンジンの取付孔とプラグホルダとの間には、プラグホルダから副室式ガスエンジンへ熱が移動することを許容し得る熱伝導部材が設けられる。熱伝導部材は、熱に対応して変形するバイメタルを含みかつ変形温度に上昇することでプラグホルダ及び副室式ガスエンジンの少なくとも一方との接触面積が大きくなる部分を有する。
【0007】
したがって熱伝導部材は、エンジンの始動時などの温度が低い時において、プラグホルダまたはシリンダヘッドとの接触面積が小さい(あるいはゼロである)。そのためプラグホルダの熱が副室式ガスエンジンに伝わり難く、プラグホルダが熱伝導部材によって過冷却されることが抑制され得る。かくしてプラグホルダ内の副室における失火が少なくなり、副室内の燃焼が安定する。
【0008】
一方、熱伝導部材は、エンジン高負荷時の温度が高い時において、プラグホルダまたは副室式ガスエンジンとの接触面積が大きくなる。これによりプラグホルダの熱が副室式ガスエンジンに伝わり易くなり、プラグホルダが冷却され易くなる。かくしてプラグホルダが熱源になって主燃焼室内の燃料ガスが早期着火(プレイグニッション)することが抑制され得る。あるいは点火プラグが高温になって耐久性が低下すること、あるいはプラグホルダが高温になって副室への吸気効率が減少すること等が抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】副室式ガスエンジンの断面図である。
【図2】副室近傍におけるガスエンジンの拡大断面図である。
【図3】温度上昇後における副室近傍におけるガスエンジンの拡大断面図である。
【図4】図3のIV―IV線断面矢視図である。
【図5】図4のV―V線断面矢視図である。
【図6】副室近傍における他の形態に係るガスエンジンの拡大断面図である。
【図7】第一状態における図6のガスエンジンの拡大断面図である。
【図8】第二状態における図6のガスエンジンの拡大断面図である。
【図9】副室近傍における他の形態に係るガスエンジンの拡大断面図である。
【図10】温度上昇後における図9のガスエンジンの断面図である。
【図11】図9のXI―XI線断面矢視図である。
【図12】副室近傍における他の形態に係るガスエンジンの拡大断面図である。
【図13】温度上昇後における図12のガスエンジンの断面図である。
【図14】図12の変形部材の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一つの実施の形態を図1〜5にしたがって説明する。ガスエンジン1は、図1に示すように例えば車両の動力を発生するための車両用内燃機関である。ガスエンジン1は、副室式ガスエンジンであって、シリンダブロック2とシリンダヘッド3とプラグホルダ4を有する。
【0011】
シリンダブロック2には、図1に示すようにボア2aが形成される。ボア2aには、ピストン6が直線運動可能に収納される。ピストン6は、連結棒7によってクランクシャフト8に連結される。ピストン6の直線運動は、連結棒7によってクランクシャフト8の回転運動に変換される。
【0012】
シリンダヘッド3は、図1に示すようにシリンダブロック2に連結される。シリンダブロック2とシリンダヘッド3とピストン6によって主燃焼室10が区画される。シリンダヘッド3には、主燃焼室10と連通する吸気ポート3aと排気ポート3bが形成される。吸気ポート3aに吸気弁12が設けられ、排気ポート3bに排気弁13が設けられる。吸気弁12を開けることで燃料ガスを含む希薄混合ガスが吸気ポート3aから主燃焼室10へ供給される。排気弁13を開けることで排気ガスが主燃焼室10から排気ポート3bへ排出される。
【0013】
プラグホルダ(副室部材)4は、図1,2に示すように筒状であって、シリンダヘッド3に形成された取付孔3cに挿入される。プラグホルダ4の一端部は、点火プラグ5によって塞がれ、他端部は、先端部4bによって塞がれる。そのためプラグホルダ4の内部には、副室11が区画される。
【0014】
副室11には、図2に示すように配管15から燃料ガスを含む濃混合ガスが供給される。濃混合ガスは、主燃焼室10に供給される希薄混合ガスに比べて空気に対する燃料の比率が高い。燃料ガスには、例えば天然ガスが含まれる。プラグホルダ4の先端部4bは、半球状であって、シリンダヘッド3から突出して主燃焼室10に臨む。先端部4bには、副室11と主燃焼室10を連通する複数の噴孔4aが形成される。
【0015】
図2に示すように取付孔3cの端部近傍において、プラグホルダ4にフランジ部4fが形成され、シリンダヘッド3にヘッド突出部3dが形成される。フランジ部4fは、プラグホルダ4の外側面に形成される。ヘッド突出部3dは、取付孔3cの構成壁面3eの下端から内周側に突出する。フランジ部4fとヘッド突出部3dの間には、円環状のガスケット14が介在され、取付孔3cに対するプラグホルダ4の位置決めが行われる。
【0016】
プラグホルダ4の外周面には、図2に示すように熱伝導部材9が設置される凹部4eが形成される。凹部4eは、点火プラグ5の先端部の近傍に位置している。凹部4eは、プラグホルダ4の外側面全周に形成される。凹部4eの上側には、凹部4eの上面を構成する上側壁面4cが形成される。凹部4eの下側(すなわち、副室11に近い側)には、凹部4eの下面を構成する下側壁面4dが形成される。上側及び下側壁面4c,4dは、凹部4eの底面から取付孔3cの構成壁面3eに向かって延在する。
【0017】
熱伝導部材9は、図2,4に示すように接触部材9bと複数の変形部材9aを有する。接触部材9bは、熱伝導率の高い材料、例えば金属から形成される。接触部材9bは、C字状であって、中心に孔9b3を有する。接触部材9bは、弾性変形されて凹部4eに設置され、孔9b3にプラグホルダ4が上下方向に貫通する。接触部材9bの外周面は、取付孔3cの構成壁面3eに接触し、好ましくは接触部材9bの外周面の略全長が構成壁面3eに接触する。接触部材9bの内周面は、プラグホルダ4に近接し、好ましくは内周面の全周がプラグホルダ4の凹部4eの底面に接触しない。
【0018】
変形部材9aは、図3〜5に示すように温度によって変形するバイメタルから形成される。複数の変形部材9aは、下側壁面4dの上に所定間隔で取付けられる。変形部材9aの上に接触部材9bが設置される。変形部材9aは、通常の気温において平板状である。この場合図2に示すように、接触部材9bは、重力によって上側壁面4cから離れる。変形部材9aは、予め設定された変形温度(例えば200〜700℃)になることで厚み方向に変形(スナップ)する。これにより図3に示すように、変形部材9aが接触部材9bを持上げ、接触部材9bの上面が上側壁面4cに押し付けられる。
【0019】
図2に示すように副室11に濃混合ガスが供給され、濃混合ガスが点火プラグ5によって点火されると、火炎が発生する。火炎が発生すると、副室11の圧力が主燃焼室10の圧力より高くなり、副室11から噴孔4aを経て主燃焼室10にトーチ火炎が噴出される。トーチ火炎によって主燃焼室10の希薄混合ガスが燃焼する。
【0020】
図1を参照するように主燃焼室10の希薄混合ガスが燃焼することで、主燃焼室10の圧力が変化してピストン6が上下動する。ピストン6が上下動する際に、吸気弁12と排気弁13が開閉する。これにより新気が主燃焼室10に取込まれ、排気ガスが主燃焼室10から排出される。したがって主燃焼室10において吸気、圧縮、燃焼・膨張、排気の各行程が行われて、ピストン6が上下動する。ピストン6の上下動は、連結棒7によってクランクシャフト8の回転運動に変換される。
【0021】
エンジンを始動した直後の所定時間内、およびエンジンの負荷が小さい時は、図2に示すように熱伝導部材9の温度が変形温度(例えば200〜700℃)以下になっている。したがって変形部材9aは、変形せず、あるいは変形量が小さい。この時、接触部材9bの上面は、上側壁面4cから離れている。接触部材9bの外周面は、その全部または一部においてシリンダヘッド3に当接している。接触部材9bの下面は、変形部材9aを介して下側壁面4dに設置される。
【0022】
そのためプラグホルダ4がシリンダヘッド3よりも温度が高くなった場合、図2に示すようにプラグホルダ4の熱は、変形部材9aと接触部材9bを経てシリンダヘッド3に少しのみ移動する。しかし多くの熱は、プラグホルダ4からシリンダヘッド3に伝わらない。かくしてプラグホルダ4は、熱伝導部材9によって過冷却から抑制され得る。
【0023】
エンジンの負荷が大きくなった場合は、図3,5に示すように変形部材9aが変形温度以上になって変形する。変形部材9aは、接触部材9bを下側壁面4dに対して持上げる。接触部材9bの上面が上側壁面4cに押し当てられ、熱伝導部材9のプラグホルダ4に対する接触面積が大きくなる。これによりプラグホルダ4の熱が熱伝導部材9によってシリンダヘッド3へ伝わり易くなる。かくしてプラグホルダ4が熱伝導部材9によって冷却され易くなる。
【0024】
以上のように副室式ガスエンジン1は、図1,2に示すようにシリンダブロック2に移動可能に収納されるピストン6と、ピストン6とシリンダブロック2と協働して主燃焼室10を区画するシリンダヘッド3と、シリンダヘッド3(副室式ガスエンジン1)に形成された取付孔3cに挿入されかつ点火プラグ5が取付けられるプラグホルダ4を有する。プラグホルダ4には、燃料ガスが供給される副室11と、副室11と主燃焼室10とを連通する噴孔4aが形成される。シリンダヘッド3(副室式ガスエンジン1)の取付孔3cには、プラグホルダ4からシリンダヘッド3(副室式ガスエンジン1)へ熱が移動することを許容し得る熱伝導部材9が設けられる。熱伝導部材9は、熱に対応して変形するバイメタルを含みかつ初期温度から変形温度に上昇することでプラグホルダ4との接触面積が大きくなる部分を有する。
【0025】
したがって熱伝導部材9は、エンジンの始動時などの温度が低い時において、プラグホルダ4と接触する面積が小さい(ほとんどゼロである)。そのためプラグホルダ4の熱がシリンダヘッド3(副室式ガスエンジン1)に伝わり難く、プラグホルダ4が熱伝導部材9によって過冷却されることが抑制され得る。かくしてプラグホルダ4内の副室11における失火が少なくなり、副室11内の燃焼が安定する。
【0026】
一方、熱伝導部材9は、エンジン高負荷時の温度が高い時において、プラグホルダ4と接触する面積が大きくなる。これによりプラグホルダ4の熱がシリンダヘッド3(副室式ガスエンジン1)に伝わり易くなり、プラグホルダ4が冷却され易くなる。かくしてプラグホルダ4が熱源になって主燃焼室10内の燃料ガスが早期着火(プレイグニッション)することが抑制され得る。あるいは点火プラグ5が高温になって耐久性が低下すること、あるいはプラグホルダ4が高温になって副室11への吸気効率が減少すること等が抑制され得る。
【0027】
熱伝導部材9は、図2に示すようにバイメタルから形成される変形部材9aと、変形部材9aによって押されてプラグホルダ4との接触面積が大きくなる接触部材9bを有する。したがって熱伝導部材9は、全体がバイメタルから形成される構成に比べて安価に形成され得る。
【0028】
接触部材9bは、図2,3に示すようにプラグホルダ4が上下方向に貫通されるC形状である。変形部材9aは、接触部材9bの下側に設置される。プラグホルダ4は、接触部材9bの上方に張出して変形部材9aによって持上げられた接触部材9bが押し当てられる上側壁面4cを有する。
【0029】
したがって接触部材9bは、エンジンの始動時などの温度が低い時において、重力を利用して上側壁面4cから離間してプラグホルダ4との接触面積が小さく(ほとんどゼロに)なる。エンジン高負荷時の温度が高い時において、接触部材9bが変形部材9aによって重力に抗して持上げられた場合は、接触部材9bが上側壁面4cに押し当てられて接触部材9bとプラグホルダ4との接触面積が大きくなる。したがって熱伝導部材9は、重力を利用する構造であるために重力を利用しない構造に比べて簡易に形成され得る。
【0030】
本発明は、上記実施の形態に限定されず、以下の形態等であっても良い。他の形態において副室式ガスエンジン1は、図6〜8に示すように第一と第二の熱伝導部材9c,9dを有していても良い。第一の熱伝導部材9cは、プラグホルダ4に形成された第一の凹部4e1に設置される。第二の熱伝導部材9dは、プラグホルダ4に形成された第二の凹部4e2に設置される。
【0031】
図6〜8に示すように第一の凹部4e1は、点火プラグ5の先端部よりも副室11から離れた位置に形成される。第二の凹部4e2は、点火プラグ5の先端部の近傍あるいは先端部よりも副室11に近い位置に形成される。熱伝導部材9c,9dは、変形部材9a1,9a2と接触部材9b1,9b2を有する。第一の変形部材9a1は、第一変形温度によって変形するバイメタルから形成される。第二の変形部材9a2は、第一変形温度よりも高い第二変形温度で変形するバイメタルから形成される。
【0032】
図6に示すようにエンジンの始動時から所定時間内において、変形部材9a1,9a2は、所定温度(第一変形温度または第二変形温度)よりも低く、変形しない、あるいは変形量が小さい。接触部材9b1,9b2は、重力によって上側壁面4c1,4c2から離れている。そのためプラグホルダ4の熱は、シリンダヘッド3へ伝わり難く、プラグホルダ4は、熱伝導部材9c,9dによって過冷却されることが抑制され得る。かくして副室11内における失火が少なくなり、副室11内の燃焼が安定する。
【0033】
図7に示すようにエンジンが低負荷時において、第一の変形部材9a1が第一変形温度(例えば200℃)になり変形する。第一の接触部材9b1が上側壁面4c1に当接して、第一の熱伝導部材9cによってプラグホルダ4の点火プラグ5の近傍領域が冷却される。これにより点火プラグ5が冷却されて、点火プラグ5の耐久性の低下あるいは溶損が抑制され得る。
【0034】
一方、第二の変形部材9a2は、第一変形温度になっても変形せず、第二の接触部材9b2が上側壁面4c2から離れている。そのためプラグホルダ4の副室11の近傍領域は、第二の熱伝導部材9dによってシリンダヘッド3へ伝わり難い。これにより副室11の過冷却が抑制され、副室11内の失火が減少する。
【0035】
図8に示すようにエンジンが高負荷時において、第二の変形部材9a2が第二変形温度(例えば250〜700℃)になり変形する。第二の接触部材9b2が上側壁面4c2に当接して、第二の熱伝導部材9dによってプラグホルダ4の副室11の近傍領域が冷却される。これによりプラグホルダ4が熱源になって主燃焼室10内の燃料ガスが早期着火することが抑制され得る。
【0036】
以上のように取付孔3cには、図6〜8に示すように第一と第二の熱伝導部材9c,9dが設けられる。第一の熱伝導部材9cは、第二の熱伝導部材9dよりも低い温度で変形し得るバイメタルを含み、かつ第二の熱伝導部材9dよりも主燃焼室10から遠くかつ点火プラグ5が挿入される取付孔3cの入口に近い位置に設置される。
【0037】
したがって図7に示すようにエンジンの温度が上昇すると、第一の熱伝導部材9cが変形しかつ第二の熱伝導部材9dが変形しない第一状態が生じる。第一状態において第一の熱伝導部材9cによって点火プラグ5の近傍が冷却され、第二の熱伝導部材9dによって副室11の近傍領域が冷却され難くなる。これにより点火プラグ5の耐久性が向上し、かつ副室11の過冷却が抑制され得る。
【0038】
図8に示すように、エンジンの温度がさらに上昇すると、第一と第二の熱伝導部材9c,9dの両方が変形する第二状態(図8参照)が生じる。第二状態において第二の熱伝導部材9dによって副室11の近傍領域が冷却される。これによりプラグホルダ4が熱源になって主燃焼室10内の燃料ガスが早期着火することが抑制され得る。かくしてプラグホルダ4は、第一状態と第二状態によって好適に温度調整され得る。
【0039】
他の形態において副室式ガスエンジン1は、図9〜11に示すように熱伝導部材17を有していても良い。熱伝導部材17は、プラグホルダ4に形成された上側壁面4hと下側壁面(ヘッド突出部3d)との間に設けられる。上側壁面4hは、熱伝導部材17よりも上側に形成されている。
【0040】
図9〜11に示すように熱伝導部材17は、変形部材17aと仲介部材17bと接触部材17cを有する。仲介部材17bと接触部材17cは、熱伝導率の高い材料、例えば金属から形成される。仲介部材17bがガスケット14の上に設置され、仲介部材17bの上に接触部材17cが設置される。仲介部材17bと接触部材17cは、O形状(環状)であって、プラグホルダ4が上下方向に貫通される。
【0041】
図9〜11に示すように仲介部材17bと接触部材17cには、傾斜部17b1,17c1が形成される。傾斜部17b1,17c1は、仲介部材17bと接触部材17cの周方向の所定領域に形成され、かつ相互に対向する。変形部材17aが変形温度になって変形した場合、変形部材17aが仲介部材17bを押し上げる。接触部材17cは、傾斜部17b1,17c1によって仲介部材17bによって上方に押され、かつ径方向に拡張される。
【0042】
これにより図9〜11に示すように接触部材17cが取付孔3cの構成壁面3eと上側壁面4hとに当接して、熱伝導部材17とプラグホルダ4との接触面積が増える。接触部材17cの外周面の一部あるいは全周が取付孔3cの構成壁面3eに当接して、熱伝導部材17とシリンダヘッド3の接触面積が増える。かくして熱伝導部材17によってプラグホルダ4の熱がシリンダヘッド3へ伝わり易くなる。
【0043】
一方、熱伝導部材17は、図9に示すようにエンジンの始動時等においてプラグホルダ4とシリンダヘッド3の両部材から離れる。そのため熱伝導部材17とプラグホルダ4の間、および熱伝導部材17とシリンダヘッド3の間には空気層が形成され得る。したがってプラグホルダ4からシリンダヘッド3に熱が移動することが空気層によって確実に抑制され、副室11の過冷却が確実に抑制され得る。
【0044】
以上のようにシリンダヘッド3は、図9〜11に示すように取付孔3cの構成壁面3eからプラグホルダ4に向けて突出して熱伝導部材17を下側から支持し得るヘッド突出部3dを有する。ヘッド突出部3dと上側壁面4hの間に熱伝導部材17が設置される。したがって熱伝導部材17は、シリンダヘッド3とプラグホルダ4の間に設けられるため、簡易にプラグホルダ4に対して装着させ得る。例えば図2等に示すようにプラグホルダ4の外周に形成された凹部4eに熱伝導部材9を装着するために熱伝導部材9を弾性変形させる必要がない。
【0045】
他の形態において副室式ガスエンジン1は、図12〜14に示す変形部材18aと接触部材18bを備える熱伝導部材18を有していても良い。変形部材18aは、バイメタルから形成される。図14に示すように、変形部材18aが変形温度になることで径方向外方に変形する。
【0046】
図12〜14に示すように接触部材18bは、C形状であって金属等から形成される。接触部材18bは、凹部4e内に設置される。接触部材18bの内周面下部には、変形部材18aに対面する傾斜部18b1が形成される。変形部材18aが変形温度になり、径方向外方に変形すると、接触部材18bが傾斜部18b1によって持上げられ、かつ径方向外方に押される。これにより接触部材18bの上面が上側壁面4cに当接し、接触部材18bの外周面の一部または全部が取付孔3cの構成壁面3eに当接する。
【0047】
図12〜14に示すように変形部材18aは、重力と関係しない方向(径方向)に変形して接触部材18bを押す。これにより接触部材18bとシリンダヘッド3との接触面積および接触部材18bとプラグホルダ4との接触面積が増える。
【0048】
他の形態において熱伝導部材は、全体がバイメタルで形成されても良い。他の形態において熱伝導部材は、バイメタルから形成される変形部材と、金属等から形成される接触部材を一体に有していても良い。
【0049】
他の形態において熱伝導部材は、初期温度から変形温度に上昇することで、プラグホルダとの接触面積は変化しないが、シリンダヘッドとの接触面積が増加する構造であっても良い。他の形態において取付孔3cに三つ以上の熱伝導部材が併設されても良い。
【0050】
他の形態においてガスエンジン1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド3を一体に有していても良い。他の形態においてガスエンジン1は、船舶などの他の動力源、あるいはガスヒートポンプなどに利用されても良い。プラグホルダ4は、シリンダブロック2に形成された取付孔に挿入されても良い。
【符号の説明】
【0051】
1…副室式ガスエンジン
2…シリンダブロック
3…シリンダヘッド
3c…取付孔
3d…ヘッド突出部
3e…構成壁面
4…プラグホルダ
4a…噴孔
4c,4c1,4c2,4h…上側壁面
4d,4d1,4d2・・・下側壁面
4e,4e1,4e2…凹部
5…点火プラグ
6…ピストン
9,9c,9d,17,18…熱伝導部材
9a,9a1,9a2,17a,18a…変形部材
9b,9b1,9b2,17c,18b…接触部材
9b3…孔
10…主燃焼室
11…副室
14…ガスケット
17b…仲介部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
副室式ガスエンジンであって、
シリンダブロックに移動可能に収納されるピストンと、前記ピストンと前記シリンダブロックと協働して主燃焼室を区画するシリンダヘッドと、前記副室式ガスエンジンに形成された取付孔に挿入されかつ点火プラグが取付けられるプラグホルダを有し、
前記プラグホルダには、燃料ガスが供給される副室と、前記副室と前記主燃焼室とを連通する噴孔が形成され、
前記取付孔と前記プラグホルダの間には、前記プラグホルダから前記副室式ガスエンジンへ熱が移動することを許容し得る熱伝導部材が設けられ、
前記熱伝導部材は、熱に対応して変形するバイメタルを含みかつ変形温度に上昇することで前記プラグホルダ及び前記副室式ガスエンジンの少なくとも一方との接触面積が大きくなる部分を有する副室式ガスエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載の副室式ガスエンジンであって、
前記取付孔は、シリンダヘッドに形成され、
前記熱伝導部材は、バイメタルから形成される変形部材と、前記変形部材によって押されて前記プラグホルダとの接触面積及び前記シリンダヘッドの少なくとも一方との接触面積が大きくなる接触部材を有する副室式ガスエンジン。
【請求項3】
請求項2に記載の副室式ガスエンジンであって、
前記接触部材は、前記プラグホルダが上下方向に貫通されるC形状またはO形状であり、
前記変形部材は、前記接触部材の下側に設置され、
前記プラグホルダは、前記接触部材の上方に張出して前記変形部材によって持上げられた前記接触部材が押し当てられる上側壁面を有する副室式ガスエンジン。
【請求項4】
請求項3に記載の副室式ガスエンジンであって、
前記シリンダヘッドは、前記取付孔の構成壁面から前記プラグホルダに向けて突出して前記熱伝導部材を下側から支持し得るヘッド突出部を有し、前記ヘッド突出部と前記上側壁面の間に前記熱伝導部材が設置される副室式ガスエンジン。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の副室式ガスエンジンであって、
前記取付孔には、第一と第二の前記熱伝導部材が設けられ、
前記第一の熱伝導部材は、前記第二の熱伝導部材よりも低い温度で変形し得るバイメタルを含み、かつ前記第二の熱伝導部材よりも前記主燃焼室から遠くかつ前記点火プラグが挿入される前記取付孔の入口に近い位置に設置される副室式ガスエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−47115(P2012−47115A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190629(P2010−190629)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】