説明

創傷治癒のための、カテリシジンLL−37、および、それらの誘導体の使用

上皮細胞および間質細胞の増殖を刺激し、それによって、慢性潰瘍のような創傷を治癒するための、抗菌性カテリシジンペプチドLL−37、LL−37のN末端フラグメント、または、C末端の1〜3個のアミノ酸を有するLL−37の伸長した配列の使用である。LL−37の細胞毒性作用は、LL−37を含む医薬組成物や成長培地に、二重層を形成する極性脂質、特にジガラクトシルジアシルグリセロールを含ませることによって減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドLL−37およびN末端フラグメント、ならびに、それらの機能的な誘導体(前記ペプチドは、細胞増殖、上皮の修復、および、創傷治癒に用いることができる)に関し、前記ペプチドの1またはそれ以上を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮は、宿主と、有害な可能性のある環境との間の最初のバリアを構成しており、それゆえに、この境界の防御は、生命の維持に必要である。創傷は、破壊されたバリアを示し、直ちに、即座にバリアの完全な状態を復元させるための一連の厳密に組織化された現象を稼動させる。緊急事態における創傷の閉鎖は、高等な生物では、下等の種で観察される時間がかかる組織の完全な再生プロセスから分岐して進化している。臨床医学において、年齢が高まるにつれて観察される「正常な」治癒の相対的な遅れから、病理学的に非治癒性潰瘍までに及ぶ創傷治癒の欠陥は、主要な難問の一つである。
【0003】
慢性潰瘍は、主要な臨床上の問題を構成しており、ここ数十年にわたり我々の病理学的な創傷プロセスに対する理解が高まっているにもかかわらず、ほんのわずかな治療的な改善しか達成されていない。異なる臨床条件においては全く別の病因が潰瘍形成の発達の基礎となる可能性があるが、理由が何であれ、非治癒性潰瘍は、上皮の移動、増殖、および、バリアの欠陥を閉じることが不可能なことを特徴とする。慢性的な皮膚の潰瘍の最も一般的なタイプは、静脈不全による脚の潰瘍である。これらの患者は、末梢静脈の浮腫を発症させ、続いて皮膚の潰瘍を形成させるが、それに反して、動脈の循環系は無傷のままである。動脈硬化性の不全による脚および足の潰瘍は、あまり一般的ではない。
【0004】
加えて、皮膚の潰瘍は、壊疽性膿皮症や血管炎のような免疫疾患に関連して発症する。現在の治療には、長期的な全身免疫抑制が含まれるが、常に有効とは限らない。口腔、生殖器および胃腸の粘膜における上皮の欠陥および潰瘍が一般的であり、多大な苦痛を引き起こす。例えばアフタやびらん性の苔癬における根本的な病気のメカニズムは常に明白とは限らず、その治療は不十分である。
【0005】
従来の創傷のケアは、壊死性残屑を機械的または酵素的に除去することを含み、それにより、肉芽組織を形成させることができる。細菌が大量に定着した創傷は、侵襲性の感染を予防するために防腐的処置を必要とする場合がある。ヨウ素、クロルヘキシジン、過酸化水素、銀および抗生物質のような多数の局所的な抗菌剤が用いられているが、これらの物質のマトリックスと新生表皮への毒性作用の危険を考慮しなければならない。創傷から壊死性の組織が取り除かれると、肉芽組織の形成を促進するために包帯剤が使用されるべきである。多種多様なこのような包帯剤が利用可能であり、多数の動物実験や臨床試験により創傷治癒に対するそれらの有益な作用が実証されている。
【0006】
創傷の一部が治療耐性であるため、さらなる治療が必要である。ここ十年間で、創傷の修復を促進する成長因子の使用可能性に多大な焦点があてられてきた。成長因子とは、細胞の移動、増殖、血管新生、および、細胞外マトリックスのデノボ合成などの組織の修復に重要な細胞性プロセスをコントロールする分子である。このような成長因子の有益な作用は、多種多様な試験で示唆されてきた(Scharffetter−Kochanek等,Basic Res Cardiol 93:1〜3,1999年)。しかしながら、これまで、慢性潰瘍の成長因子での治療は、臨床実践において極めて残念な結果しか示していない。今のところ、米国と、スウェーデンを除く欧州で認可されているベカプレルミン(Regranex(R))が、特に糖尿病性の足の潰瘍で使用できる唯一の成長因子である。慢性潰瘍の治療における成長因子の臨床上の失敗の理由は、運搬の問題と、迅速な分解に関連すると考えられている。
【0007】
それと同時に、バイオ工学処理されたヒトの皮膚に相当するものに、自己由来で同種異系の材料を用いた、組織の治療法が開発されてきた。培養された上皮性ケラチノサイトは、例えばやけどを負った患者の広範囲の損傷皮膚を被覆するための機能化された治療の構成要素であるが、高価で、時間がかかり、さらに、実験施設が必要である。皮膚の基質を提供するために、無細胞のヒトの死体やウシのコラーゲン(細胞含有または非含有)のような複数の戦略が用いられている。利用可能ないずれの方法も、病気が伝染する可能性やコスト高のようなかなりの難点があり、基礎的な創傷のケアについてほとんど研究されなかった。
【0008】
抗菌ペプチドは、先天性免疫系のエフェクター分子であり、有害な可能性のある微生物に対して、宿主を保護するのに役立つ。それらは、進化過程で保存されており、自然界で広く普及している。これまで、ヒトではほんの数種が同定されており、そのなかでも、デフェンシン、および、ヒトカテリシジン(cathelicidin)抗菌ペプチドhCAP18が、上皮の保護に関与していた(Selsted等,J Biol Chem 258:14485〜14489,1983年)。
【0009】
WO96/08508は、ヒトポリペプチドのFALL−39に関し、前記ペプチドを含み、細菌に対する抗菌活性を有する医薬組成物に関する。このペプチドは、最初の4個のアミノ酸残基にちなんでFALL−39と命名されており、39個のアミノ酸と、前駆タンパク質のC末端部分とからなり、これは、3つの別個のグループによって同時期に同定された(Cowland等,FEBS,1995年;Agerberth等,Proc Natl Acad Sci USA 1995年;Larrick等,FEBS Letters 1996年)。このペプチドは、グラム陽性とグラム陰性細菌のどちらにも効力のある抗菌活性を有することが示されている。C末端ペプチドをさらに特徴付け、最初の2個(FA)が除かれた37個のアミノ酸からなるより短い配列が示され、それにより、LL−37が得られたが、これが容認された現在の呼称である(Gudmundsson等,Eur J Biochem 238:325〜332,1996年)。
【0010】
上記の前駆タンパク質は、hCAP18(ヒト陽イオン性抗菌タンパク質)と命名され、カテリン(cathelin)からなるカテリシジンファミリータンパク質のメンバーであり、このタンパク質は、進化過程で保存されており、様々な種においてC末端部分は可変的である。ヒトにおいて、hCAP18は、このタンパク質ファミリーの唯一のメンバーであるが、それに反して、その他の種では(例えばマウスおよびブタ)、数種のメンバーが存在する。C末端ペプチドLL−37は、細胞外で機能すると考えられており、前駆タンパク質の細胞内の切断の証拠はない。hCAP18/LL−37は、白血球、および、バリア器官(例えば皮膚、粘膜、呼吸上皮および生殖器官)に存在する。hCAP18/LL−37が、バリア上皮に局在していることは、このペプチドの局所感染と全身性の微生物の侵入の予防における保護の役割と一致しているようである。LL−37は、両親媒性であり得る、言い換えれば、両親媒性のαヘリックスコンフォメーションをとることができるシステイン非含有ペプチドとして説明されている。実験で示されているように、このようなペプチドの、グラム陽性細菌および真菌に対する抗菌作用には、安定化された両親媒性αヘリックス構造と組合わされた高い陽イオン性が必要のようである(Giangaspero等,Eur J Biochem 268:5589〜5600,2001年)。両親媒性とαヘリックス構造は、グラム陰性菌の殺菌にはそれほど重要ではないようである。炎症に関しては、hCAP18/LL−37は、皮膚の上皮で(Frohrn等,J Biol Cbem 272:15258〜15263,1997年)、および、粘膜で(Frohm Nilsson等,Infect Immun 67:2561〜2566,1999年)アップレギュレートされる。
【0011】
Dorschner等,J Invest Dermatol 117:91〜97,2001年によれば、切開後のヒトとマウスの皮膚において、カテリシジンの発現が増加したこと、および、マウスの相同なカテリシジン遺伝子が欠失していると、このようなマウスにおいて、A群連鎖球菌属の侵入に対して防御できなかったことが実証されている。
【0012】
WO96/09322(Children’s Medical Center Corporation)においては、抗菌ペプチドPR−39は、シンデカン−1、および、−4誘導活性を有するため、同時に、感染を減少させることができ、そして、シンデューシン(synducin)として、成長因子、マトリックス成分、および、その他の組織の修復に関与する細胞性エフェクターの作用に影響を与えることができることが開示されている。シンデューシンは、慣用のリポソームのような製薬用キャリアーに含ませて投与することができる。
【0013】
東レ(Toray Industries,Inc.)のEP0935965 A1は、活性物質としてブタペプチドPR−39のような抗菌性ペプチドを含む抗ピロリ薬について言及している。ラットにおいて、PR−39の外的な投与はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)に対する抗菌活性があり、胃潰瘍の治癒を促進すると結論付けられている。FALL39は、カテリンファミリーのメンバーの一つとして述べられている。
【0014】
ヘリックス・バイオメディックス社(Helix Biomedix,Inc.)のUS6,255,282では、異なる既知の溶解性ペプチドと構造的および機能的な特性を共有する新規の合成溶解性ペプチドが開示されている。特に、18〜約40個のアミノ酸からなり、αヘリックスコンフォメーションを有するペプチドが、説明されている。しかしながら、溶解性カテリシジンペプチドは述べられていない。
【0015】
同時期に、Frohm Nilsson,Thesis,Karolinska Institutet,Stockholm 2001年は、創傷を受けたヒト皮膚において、ヒトカテリシジン抗菌タンパク質のhCAP18は、生理学的に治癒される際に、高いレベルで、活性C末端ペプチドのLL−37の放出とともに誘導されるが、慢性的な非治癒性潰瘍では誘導されないことを実証した。hCAP18は、正常な創傷治癒の際の創床および上皮において検出されたが、慢性的な脚の潰瘍においては、上皮では検出されず、創床および間質においてのみ検出された。慢性潰瘍の上皮においてhCAP18レベルが低いことと、それらが存在しないことが、治癒の欠陥の原因となることが推測されている。
【0016】
Zasloff,Nature 415:389〜395,2002年では、抗菌性ペプチドの総論において、前記ペプチドについて実証された抗感染薬としての多様な用途を考察しており、医薬開発における抗菌性ペプチドが説明されている。
【0017】
Bals等のEP1358888A1(公開日2003年11月5日)は、血流の減少および動脈硬化症によって生じる病気の予防または治療のための、および、動脈血液の供給の減少による創傷の治療のための、ペプチドLL−37の使用に関する。LL−37の、新しい血管の形成を誘導し、内皮細胞の増殖を刺激する能力が示されている。本発明はもっぱら、血管新生作用に関するものであり、上皮への言及はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
抗菌性ペプチド、特にLL−37の治療的な使用は示唆されていたが、このことは、これまで実現されていなかった。ペプチドが高濃度だと、LL−37は細胞毒性作用を発揮する。しかしながら、LL−37が発揮する可能性のある細胞毒性作用は血清の存在下で阻害されるが、血清を含む医薬製剤は、病気が伝染する危険、限定された入手性、および、コスト高であるため、避けるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
ヒト抗菌性ペプチドhCAP18は、皮膚の上皮で、外傷に対する正常な応答としてアップレギュレートされる。しかしながら、慢性的な非治癒性脚の潰瘍においては、低いレベルのhCAP18しか発見されなかった。特に、慢性的な脚の潰瘍において、hCAP18、および、LL−37は、上皮にはまったく存在しなかったが、創床および間質における炎症性の浸潤には存在していた。今回、我々は、hCAP18は、器官培養された皮膚の創傷の再上皮化の際に誘導されたこと、および、この再上皮化は、LL−37に対する抗体によって、濃度依存性の様式で阻害されたことを示した。これらの発見は、LL−37は、創傷を閉じることにおいて重要な役割を果たし、成長因子として機能することを示唆している。本発明は、インビボで生産された天然LL−37の損失を補填するための、LL−37の使用、または、LL−37から得られた新規の合成ペプチドもしくはそれらの機能的な誘導体に関する。
【0020】
また、hCAP18のアップレギュレーション、および/または、LL−37ペプチドの添加によって、正常な上皮および間質細胞の増殖が刺激されることも示されており、これは、正常な創傷治癒および上皮再生も増強することができることを示す。
【0021】
また、特定の脂質を含む組成物中では、LL−37の細胞毒性が減少し得ることも発見された。
【0022】
図面の説明
図1は、18kDaのhCAP18タンパク質の概略図であり、これは、シグナルペプチド(S.P.)、保存されたカテリン部分、および、抗菌性ペプチドLL−37からなり、インビボで酵素的に切り出される。
図2は、カテリシジンタンパク質ファミリーの概略図であり、様々な種におけるC末端ペプチドの多様性を図説している。
図3A、3Bおよび3Cは、hCAP18のトランスジェニック発現に用いられる、hCAP18のコード配列を含むpIRES2−EGFPベクターのcDNA配列を示す。
【0023】
発明の説明
本発明は、LL−37のN末端フラグメントの少なくとも20個のアミノ酸の配列を有するペプチド(ただしLL−37は除く)、ならびに、製薬上許容できる塩、およびそれらの誘導体を意味する。LL−37は、以下の配列番号1のアミノ酸配列を有する:
H−Leu−Leu−Gly−Asp−Phe−Phe−Arg−Lys−Ser−Lys−Glu−Lys−Ile−Gly−Lys−Glu−Phe−Lys−Arg−Ile−Val−Gln−Arg−Ile−Lys−Asp−Phe−Leu−Arg−Asn−Leu−Val−Pro−Arg−Thr−Glu−Ser−OH。
【0024】
LL−37のN末端配列とは、アミノ酸残基番号1のロイシン(Leu)で始まる配列を意味する。
【0025】
製薬上許容できる塩は、例えば、対イオンとして、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、トリフルオロ酢酸塩、および、塩化物を含む。好ましい塩は、酢酸塩である。製薬上許容できる誘導体の例としては、エステルおよびアミドが挙げられる。
【0026】
本発明のペプチドは、40個以下のアミノ酸からなるアミノ酸鎖を有するべきである。本発明は、C末端に1〜3個のアミノ酸が付加されたLL−37の配列を有するペプチドに関する。Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、Val、およびそれらの誘導体から選択されるいずれかのアミノ酸を付加することができる。38個のアミノ酸を有するペプチドの例の、LL−38(配列番号19)は、C末端にセリンが付加されたLL−37の配列を有する。
【0027】
本発明は特に、少なくとも20個のアミノ酸からなる配列を有するペプチドに関し、LL−36、LL−35、LL−34、LL−33、LL−32、LL−31、LL−30、LL−29、LL−28、LL−27、LL−26、LL−25、LL−24、LL−23、LL−22、LL−21、および、LL−20(それぞれ、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、および、配列番号18の配列を有する)からなる群より選択される。
【0028】
好ましいペプチドは、LL−36、LL−35、LL−34、LL−33、LL−32、LL−31、LL−30、LL−29、LL−28、LL−27、LL−26、および、LL−25からなる群より選択される。
【0029】
本発明のペプチドのアミノ酸配列を以下の表に示す。
【表1】

【0030】
新規のペプチドは、細胞増殖、上皮再生、通常の、または慢性的な創傷の治癒のための医薬品として、および、抗菌剤として用いることができる。
【0031】
新規のペプチドは、生理学的な条件下でαヘリックス構造を形成する可能性を有すると考えられている。
【0032】
その他の局面によれば、本発明は、上皮再生、ならびに、創傷のある上皮および間質の治癒のための医薬品を製造するための、
a)配列番号1;
b)配列番号1のN末端フラグメントの少なくとも20個のアミノ酸を含む配列;
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチド、および、製薬上許容できる塩またはそれらの誘導体の使用(前記ペプチドは、非溶解性のメカニズムによって、上皮および/または間質細胞の増殖を増強する)を意味する。
【0033】
本発明は特に、塩、好ましくは酢酸塩の形態の、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドLL−37の使用に関する。
【0034】
本発明はまた、上述のLL−20〜LL−36からなる群より選択されるペプチドの使用に関する。
【0035】
LL−37、ならびに、LL−25〜LL−36は、一次構造における陽イオン性のアミノ酸残基であるリシンおよびアルギニンのために、中性のpHで正味の正電荷(+5〜+7)を有する。特に、LL−34、および、LL−35は、正味の正電荷7を有する。その他のアミノ酸残基は、非極性/疎水性のもの、または、極性で中性のもの、または、わずかに極性で負電荷を有し、それによりペプチド分子全体が両親媒性になっているものが挙げられる。このタイプのペプチドは、負電荷を有するリン脂質の微生物の細胞壁と静電的に相互作用し、疎水性面が二重層へ挿入される。疎水性および/または電荷のいずれかの減少は、ペプチドの抗菌作用を減少させる。本ペプチドが宿主細胞に対して発揮する細胞毒性作用(しばしば溶血活性として評価される)は、それらの抗菌作用と関連していることを示す(Chen等,FEBS Lett 236:462〜466,1988年)。これは、様々な研究により、その他の両親媒性αヘリックス抗菌性ペプチドにも当てはまることが確認されている。
【0036】
ウサギのCAP18の長さ37個のアミノ酸を有するC末端ペプチド(Cap18106142)の研究により、広範なスペクトル抗菌活性は、高い塩基性の20個の残基からなるN末端配列では保持されるが、N末端がトランケーションされている場合は保持されないことが示される(Larrick等,Antimicrob Agents Chemother 37:2534〜2539,1993年)。
【0037】
LL−37、および、新規のペプチドLL−20〜LL−36は、自動ペプチドシンセサイザー、および、標準的なペプチド合成方法を用いて合成することができる。
【0038】
本発明は特に、慢性潰瘍の治療のための医薬品を製造するための、LL−37ペプチド、または、ペプチドLL−20〜LL−36のいずれかの使用に関する。前記慢性潰瘍は、静脈不全、例えば脚の潰瘍、代謝機能障害、例えば糖尿病、または、免疫学的な病気、例えば血管炎および壊疽性膿皮症が原因で起こり得る。本発明のペプチドはまた、外傷またはやけどによる創傷の治療に用いることもできる。説明されているペプチドは、特に、上皮組織の再生に用いることができ、そして、微細な皮膚の擦過傷(microdermabrasion)後の上皮の再生を増強するのに用いることができる。
【0039】
細胞に対して毒性であることに加えて、創傷環境においてLL−37は速やかに分解される。近年、セリンプロテイナーゼ3が、hCAP18の細胞外切断に関与することが示された(Sφrensen等,Blood 97:3951〜3959,2001年)。
【0040】
ペプチドの分解を予防するために、さらに、固有の細胞毒性を減少させるために、本ペプチドを、極性脂質キャリアーと共に製剤化することができる。前記製剤は、本ペプチドの創傷への投与を容易にするであろうし、加えて、投与の後に本ペプチドの持続性の放出を提供する。本ペプチドの安定性は、インビボでもインビトロでも改良される。
【0041】
従って、本発明のその他の目的は、二重層を形成する極性脂質と水溶液とからなるキャリアーと組合わせて、製薬上許容できる塩の形態の抗菌性カテリシジンペプチド、または、それらの誘導体を含む医薬組成物である。
【0042】
本カテリシジンペプチドは、ヒトのLL−37に加えて、異なる動物種から誘導されうるもので、例えば、ヒツジ由来のSC5、ウシ由来のBac5、ブタ由来のPR−39、マウス由来のCRAMP、および、ウサギ由来のp15が挙げられる(図2を参照)。
【0043】
通常、二重層とは、水中において極性脂質が層状に配置されることを意味する。アシル鎖が内部の疎水性部分を形成し、極性ヘッド基が二重層の親水性部分を形成する。このような極性二重層を形成する脂質の例としては、天然または合成の源のいずれでもよく、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ジガラクトシル−ジアシルグリセロール、スフィンゴミエリンなどが挙げられる。水のような極性溶媒中での前記極性脂質の濃度に応じて、リポソーム、または、層状になった結晶性の液体の粘性ゲルが形成され得る。
【0044】
本医薬組成物は特に、二重層を形成する極性脂質と水溶液とからなるキャリアーと組合わされた、製薬上許容できる塩の形態の、
a)配列番号1;
b)配列番号1のN末端フラグメントの少なくとも20個のアミノ酸を含む配列、
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチド、または、それらの誘導体を含む。
【0045】
本ペプチドとともに混合または製剤化される、好ましい二重層を形成する極性脂質としては、中性の電荷を有するものが挙げられる。ジガラクトシル−ジアシルグリセロール、および、その他のグリコリピド、例えばグリコシルセラミドが特に有用であり、これらは天然または合成のいずれでもよく、その中の非イオン性の炭水化物成分が、極性ヘッド基を構成する。生理学的な条件下で両性イオン性であり、中性の極性脂質も、あまり好ましくはないが、なお有用であり、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、および、スフィンゴミエリンが挙げられる。負電荷を有する極性脂質は、正電荷を有するペプチドと強固な複合体を形成するため最も好ましくない。
【0046】
本発明によれば、前記二重層を形成する極性脂質キャリアーは、好ましくは、リン脂質、ガラクトリピドおよびスフィンゴ脂質からなる群より選択される。
【0047】
特に好ましい二重層を形成する極性脂質は、ジガラクトシルジアシル−グリセロール、または、ジガラクトシルジアシルグリセロール高含有の極性脂質の混合物であり、なぜなら、このクラスの極性脂質は、極めて優れた皮膚耐性(cutaneous tolerability)を有するためである。ジガラクトシルジアシルグリセロールは、グリコリピドファミリーに属する脂質クラスであり、植物の細胞膜の成分としてよく知られている。最も豊富なクラスの一つは、2つのガラクトース単位を含むものであり、これらの一般的にを用いられる学術名および略称は、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)であり、時にはガラクトリピドとも呼ばれる。ガラクトリピド、主としてDGDGおよびDGDG高含有材料が調査されており、食品、化粧品および医薬製品のような工業的用途において興味深い界面活性材料であることがわかった。WO95/20944では、医薬、栄養および化粧品用途のための、極性溶媒において二重層を形成する材料として、DGDG高含有材料である「ガラクトリピド材料」の使用が説明されている。この出願において、一般的なペプチドおよびタンパク質と組合わせたガラクトリピドの使用は、開示されておらず、特に本発明のペプチドと組合わせたガラクトリピドの使用も開示されていない。
【0048】
好ましい局面によれば、本発明は、前記二重層を形成する極性脂質キャリアーが、ジガラクトシルジアシルグリセロール高含有の極性脂質混合物である医薬組成物に関する。
【0049】
本発明のその他の好ましい局面は、前記ペプチドが、酢酸塩の形態である医薬組成物である。好ましいペプチドは、酢酸塩の形態のLL−37である。特に好ましくは、LL−37の酢酸塩と、二重層を形成する脂質キャリアーとしてCPL−ガラクトリピドの組合わせを含む医薬組成物である。CPL−ガラクトリピドは、商標であり、ガラクトリピドフラクションが、50〜70重量%のジガラクトシルジアシルグリセロールと、30〜50%のまたはその他の極性脂質とからなる。
【0050】
本医薬組成物中の塩の形態の本ペプチドと、ガラクトリピドキャリアーとの割合は、好ましくは、重量比で1:5〜1:50、特に1:10〜1:25である。
【0051】
二重層を形成する脂質に加えて、キャリアーはまた、水溶液も含む。水溶液とは、pH、イオン強度、等張性などに関して生理学的に、または製薬上許容できる特性を有する溶液を意味する。例えば、水およびその他の生体適合性の溶媒の等張溶液、生理食塩水およびグルコース溶液のような水溶液、ならびに、ヒドロゲル形成材料が挙げられる。このような水溶液は、緩衝化されていてもよく、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。
【0052】
加えて、本医薬組成物は、製薬上許容できる添加剤、例えば組成物中で微生物の成長を予防するための保存剤、抗酸化剤、等張剤、着色剤などを含んでもよい。水性懸濁液において、本組成物は、懸濁化剤および安定化剤と組み合わせてもよい。
【0053】
本組成物のコロイド状の性質により、最終的な滅菌ろ過工程を用いることによって本組成物を無菌的に製造することができる。
【0054】
ゲルを形成するために、本ペプチドは、好ましくは、ヒドロゲル形成材料を用いて製剤化することができる。ヒドロゲル形成材料の例としては、合成ポリマー、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポロキサマーブロックコポリマーなど;半合成ポリマー、例えばセルロースエーテルであり、セルロースエーテルとしては、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシ−プロピルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、および、エチルヒドロキシ−エチルセルロースなど;天然ゴム、例えばアラビアゴム、カラゲナン、キトサン、ペクチン、スターチ、キサンタンガムなどが挙げられる。
【0055】
粘膜付着性のヒドロゲルを使用することが有利である。その観点において、ヒアルロン酸、および、それらの誘導体、カルボマーおよびポリカルボフィルタイプの架橋ポリアクリル酸、容易にゲルを形成するポリマーを使用することが、特に有用であり、これらは、粘膜に強く付着することがわかっている。
【0056】
また、ポロキサマータイプのブロックコポリマー、すなわち、ポリエチレングリコールと、ポリプロピレングリコールブロックとからなるポリマーを使用することも有利である。水に分散された特定のポロキサマーは熱可逆性である:室温では、それらは低い粘性を有するが、温度を上げると著しい粘度増加を示し、体温ではゲル形成が起こる。それによって、投与された医薬製剤と比較的温かい創傷との接触時間を延長することができ、従って、包含されたペプチドの効能を改良することができる。
【0057】
本発明の医薬組成物を、局所用または経腸用に、すなわち口腔内、頬内、舌下、粘膜、鼻、気管支、直腸、および、膣への投与用に製剤化することができる。
【0058】
局所投与用の医薬組成物の非限定的なの例は、溶液、スプレー、懸濁液、乳濁液、ゲル、および、メンブレンである。必要に応じて、本医薬組成物が付与された包帯剤またはバンドエイドまたはギプスを用いることができる。経腸投与用には、錠剤、カプセル、溶液または懸濁液を用いることができる。
【0059】
その他の局面によれば、本発明は、インビトロでの非溶解性のメカニズムによる上皮および/または間質細胞の増殖のための、製薬上許容できる塩の形態の、
a)配列番号1;
b)配列番号1のN末端フラグメントの少なくとも20個のアミノ酸を含む配列、
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチド、または、それらの誘導体の使用に関する。
【0060】
前記増殖は、特に、ヒトの自己由来の上皮および間質細胞のインビトロでの増殖に用いることができる。
【0061】
本発明はまた、真核細胞(例えば上皮および/または間質細胞)を培養するための増殖培地に関し、該増殖培地は、基礎培地と組合わされた、LL−37または上述のペプチドを含む。血清のような細胞毒性を減少させる物質を加えてもよい。アポリポプロテインA−1(アポA−1)は、ヒトの血漿において主要なLL−37結合タンパク質であることがわかっており、LL−37のスカベンジャーとして作用し(Wang等,J Biol Chem 273:33115〜33118,1998年;Sφrensen等,J Biol Chem 274:22445〜22451,1999年)、カテリシジンペプチドの調節に関与するメカニズムであることを示している。細胞毒性を減少させる物質はまた、二重層を形成する極性脂質であってもよく、例えば、上述したような、リン脂質、ガラクトリピドおよびスフィンゴ脂質からなる群より選択される脂質が挙げられる。
【0062】
本発明の増殖培地の基礎培地は、再蒸留水と、以下の多数の原料をベースとする:無機塩、フェノールレッド、グルコース、チミジン、ヒポキサンチン(hypoxanthinine)、HEPES、ピルビン酸ナトリウム、アミノプテリン、アミノ酸およびビタミン。例えばケラチノサイトのような上皮細胞をインビトロで培養するためには、増殖培地は、基礎培地と、a)塩溶液中のLL−37ペプチド、b)ペニシリン+ストレプトマイシン、c)インスリン、d)トランスフェリン、e)トリヨードチロシン(triiodotyronine)、f)ヒドロコルチゾン、g)コレラ毒素、および、選択された細胞毒性を減少させる物質(例えば血清または極性脂質)を含む成長を促進するキットからなるものでもよい。例えば線維芽細胞のような間質細胞をインビトロで培養するためには、増殖培地は、基礎培地と、a)塩溶液中のLL−37ペプチド、b)ペニシリン+ストレプトマイシン、および、選択された細胞毒性を減少させる物質(例えば血清または極性脂質)を含む成長を促進するキットからなるものでもよい。
【0063】
本発明のその他の目的は、インビボでの細胞移植のために、インビトロでのヒトの自己由来の上皮および間質細胞の増殖を増強する方法であり、本方法では、健康な皮膚の切片から細胞を単離し、インビトロで前記単離された細胞を本発明に係る増殖培地で培養し、続いて培養された細胞を回収し、創傷(例えば熱傷および潰瘍)の治療に用いられる。
【0064】
本発明はまた、成長を促進するキットに関し、本キットは、LL−37ペプチドまたは上述のペプチド、および、細胞毒性を減少させる二重層を形成する極性脂質を含み、場合により抗生物質、基礎培地、およびその他の慣用の添加剤と組合わせられ、別個の容器中に入れられる。
【0065】
さらにその他の局面によれば、本発明は、潰瘍およびやけどの細胞移植のための、全長hCAP18のcDNAコンストラクトの、自己由来のヒトのケラチノサイトへのトランスフェクトに関する。上記cDNAコンストラクトは、スイッチメカニズムによりhCAP18遺伝子発現が調節されるように設計される(Resnitzky等,Mol Cell Biol 14:1669〜1679,1994年)。自己由来のヒトのケラチノサイトは、患者から摘出された健康な皮膚片から得られる。ケラチノサイトは、上述したように、単離し、細胞培養で増殖させる。上記cDNAコンストラクトは、ケラチノサイトへトランスフェクトされる。トランスフェクトされたケラチノサイトは、インビトロでさらに増殖され、患者に戻される。
【0066】
本発明は特に、上皮および/または間質細胞のトランスフェクトのための配列番号20の配列を有するhCAP18の完全なcDNA配列を含む遺伝子コンストラクトの使用に関し、これにより、前記細胞の増殖を増強することができる。
【実施例】
【0067】
実施例1.合成ペプチドの製造
9−フルオレニルメトキシカルボニル/tert−ブチル法を用いた固相合成に従って、LL−37ペプチドを合成した。粗ペプチド(トリフルオロ酢酸塩として)を、HPLCで精製し、最終的に凍結乾燥によって単離した(ロット971/26,ポリペプチド・ラボラトリーズA/S(PolyPeptide Laboratories A/S)製,Hilleroed,デンマーク)。純度をHPLCを用いて、エリアを積分することによって測定し、99%と決定した。マススペクトロメトリーを用いて分子量を解析したところ、理論値の4493g/モル(遊離塩基として)に対応していた。アミノ酸組成の解析によれば、各アミノ酸の相対量が、LL−37に関する理論値と対応していたことが示された。アミノ酸解析結果からペプチド含量を計算したところ、73%であることがわり、その残りは対イオンと残留した溶媒であった。
【0068】
LL−37の数個のバッチを合成し、以下の実施例2および5で用いられたLL−37ペプチドは、酢酸塩の形態であった。
【0069】
同様にして、本ペプチドのLL−36と、LL−38を酢酸塩の形態で合成した。
【0070】
以下の実施例と試験で用いられた様々なペプチドは以下の通りである。
【表2】

【0071】
実施例2.LL−37ペプチドと脂質キャリアーの混合物を含む医薬組成物の製造
以下の原料を用いて医薬組成物を製造した:
【表3】

【0072】
本ペプチドのLL−37(酢酸塩として)(ロット990/37/A)、および、脂質キャリアーのCPL−ガラクトリピド(リコポア・ホールディングAB(Lipocore Holding AB)より入手,ジガラクトシル−ジアシルグリセロール高含有でエンバクから製造された脂質材料)を、50mlガラスフラスコに量り入れた。この2種の原料を穏かに混合し、次に、グリセロール溶液を加えた。この混合物を120分間強く振盪し、次に、1時間放置した。得られた組成物は微細で、均一な分散液であった。これを使用まで冷却して保存した。
【0073】
実施例3.LL-37ペプチドと脂質キャリアーを含む水性混合物の製造
LL-37(トリフルオロ酢酸塩として)(ロット971/26)と、極性を有する二重層を形成する脂質キャリアーの混合物を、以下の原料(重量%)を用いて製造した。
【表4】

【0074】
CPL−ガラクトリピド(リコポア・ホールディングABより入手)は、クロマトグラフィーでエンバクから精製したガラクトリピドフラクションであり、Lucas Meyer GmbHから入手したエピクロン(Epikuron)200は、ダイズ由来のホスファチジルコリンであり、リコポア・ホールディングABから入手したCPL−スフィンゴミエリンは、ウシの乳からクロマトグラフィーで精製したスフィンゴミエリンである。インビトロジェン社(Invitrogen Corp.)製のDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)は、無機塩、グルコース、フェノールレッド、アミノ酸およびビタミンを含む水溶液である。
【0075】
本ペプチドのLL−37と脂質キャリアーを、ガラスフラスコに量り入れ、次に、DMEMを加えた。得られた分散液を、ハイドルフ・プロマックス(Heidolph Promax)ミキサーを用いて、周波数200/分で1.5時間強く振盪し、平衡化させ、室温で約3時間静置した。次に、目視での評価を行い、以下の結果を得た:全てのサンプルは、濁った分散液であり、サンプルB1、B2、C1、および、C2のいずれにおいても濁度の差はなかった。唯一観察された差は、サンプルA1とA2との間であった:前者(ペプチド含有)は、後者(ペプチド非含有)に比べて顕著に濁りが少なかった。サンプルA2は、順番にサンプルB1、B2、C1およびC2に比べて、わずかに濁りが少なかった。これらの観察から、サンプルA1中の2種の成分間が強く相互作用し、それにより、分散液において、ペプチド非含有サンプルA2と比較して、さらに残りの対応するサンプルと比較しても、小さい平均粒度が生じることが示される。室温で保存して1日後に、サンプルA1およびA2は変化せず、すなわち双方とも均質分散液のままであり、A1の濁度はA2より低く、それに反して、その他の4つのサンプルについては、ガラスフラスコの底に大量の沈殿があった。
【0076】
3種のペプチドと極性脂質キャリアーの混合物は全て、例えば運搬システムや、細胞培養における試験のような様々な目的に有用である;しかしながら、ペプチドとガラクトリピドとの混合物の貯蔵寿命はその他のに比べてかなり長いため(沈殿なし)、前記混合物が実際での使用に最も好ましい。
【0077】
実施例4.LL−37ペプチドと脂質キャリアーの混合物を含む水性混合物の製造
LL−37(トリフルオロ酢酸塩として)(ロット971/26)と、極性を有する二重層を形成する脂質キャリアーのサンプルを、以下の原料(重量%)を用いて製造した:
【表5】

【0078】
LTPリピッド・テクノロジーズ・プロバイダーAB(LTP Lipid Technologies Provider AB)製のCPL−ガラクトリピドは、エンバクからクロマトグラフィーで精製したガラクトリピドフラクションである。用いられた様々なリン脂質は、ダイズ由来のホスファチジルコリン(PC),約40%(シグマ;P−3644);乾燥した卵黄由来のPC,約60%(シグマ;P−5394);合成ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC),約99%(シグマ;P−6354);ダイズ由来のPC,約70%(Lipoid S75);および、ダイズ由来のPC,約94%(リポイド(Lipoid)S100)である。PBSは、インビトロジェン社製のリン酸緩衝生理食塩水である(ダルベッコ;カタログ番号14190〜094)。
【0079】
調査された全ての極性脂質は、完全に水和されている場合、0℃を十分に下回る、すなわち−10〜−15℃の範囲の一連の溶融相転移温度を有する。
【0080】
本ペプチドのLL−37と、脂質キャリアーを、100mlガラスフラスコに量り入れ、次に、PBSを加えた。総体積は約30mlであった。このサンプルを、5.5(約150/分の周波数に相当)に設定されたSTミキサー(タイプB1,E.ブフラー,チュービンゲン)を用いて2時間強く振盪し、平衡化させ、室温で約30分間静置した。次に、得られた分散液の濁度を、島津(Shimadzu)製のUV−VISスペクトロフォトメーターUV−160Aで、400〜800nmで記録した。10mmキュベットセルを用いて、純水に対する測定を室温で行った。表3に、濁度データを600nmでの透過率%として示す。また、分散液の目視での評価も行った。分散液を室温で保存して1日および2日後に、濁度測定を再度行った。
【0081】
【表6】

【0082】
目視での評価から、全ての混合物は、程度の差はあるが濁った分散液を形成することが結論付けられた;サンプルD、E、HおよびIは、最も濁っていない分散液を形成し、これは、表3において最高の光透過率で証明されており、それに反して、サンプルF、GおよびJは、最も濁った分散液を形成し、その結果として、分光光度計の検出で、最低の光透過率が得られた。室温で保存して1日後に、最初に高い濁度を有するサンプルF、GおよびJ(低い透過性)はいずれも、沈殿を生じ、測定されなかった。サンプルD、E、HおよびIはいずれも安定な分散液であり、製造して1日および2日後でも再現性のある濁度データが得られた。
【0083】
サンプルDとHは二連とし、いずれもCPL−ガラクトリピドは含むが、サンプルHは、ガラクトリピドに対するペプチドの重量比がわずかに高いものとした。これにより、サンプルHにおいて、わずかに低い濁度(より高い透過性)が得られ、このことは、このサンプルにおけるペプチドと脂質との相互作用は、サンプルDにおける相互作用より強く、より小さい複合体/凝集体が生じ、より低い濁度になることを示している。
【0084】
コロイド状の安定性に関して、サンプルD、E、HおよびIをさらに2〜8℃で2ヶ月モニターした。
【0085】
【表7】

【0086】
これらのデータと観察から、2種のペプチドと極性脂質キャリアーの混合物が、試験されたそれ以外の混合物より優れていることが示された。CPL−ガラクトリピドを含むキャリアー(サンプルDおよびH)と、ダイズ由来のPCを約40%含むキャリアー(サンプルE)により、最も長いコロイド状の安定性を示す、最も微細に分散した系が得られた;しかしながら、40%ホスファチジルコリンのみを含むリン脂質材料は、工業的な用途にしか用いることができないため、医薬的な使用に許容できるのはCPL−ガラクトリピドのみである。これらのデータにより、様々な医薬用途における、例えばペプチドのためのキャリアー系としての、ガラクトリピド材料の有用性が再度実証される。
【0087】
実施例5.様々な含量のLL−37ペプチド、および、様々な含量のガラクトリピドを含む水性混合物の製造
995ppmのLL−37ペプチド(酢酸塩;ロット990/37/A)の、ストックPBS溶液、および、1.00%のCPL−ガラクトリピドのストックPBS溶液を製造した。ゴム製ストッパーとアルミニウムキャップを備えた20mlガラスバイアル中で、ストック溶液のアリコートと、追加のPBSを混合した。この混合物の組成を表5に示す。室温で1時間平衡化した後に、バイアルを、横向き姿勢で、7.5(約190/分の周波数に相当)に設定されたSTミキサー(タイプB1,E.ブフラー,チュービンゲン)で、1時間撹拌した。次に、この混合物を平衡化させ、室温で一晩静置した。4℃での1日後および5日後のこれら混合物の外観を、透明なコロイド状、わずかに濁った、濁った、乳状のように評価し、表5に結果をまとめる。
【0088】
【表8】

【0089】
【表9】

【0090】
溶液中で、LL−37ペプチドとガラクトリピドとを特定の割合にすることによって、対応するLL−37非含有サンプルの粒子より小さいサイズの小さい複合体が存在することを示す外観が生じることは明白である。透明な溶液は、優れたコロイド状の安定性を示す。
【0091】
実施例6.コンフォメーション測定
溶液中のLL−37の円二色性(CD)の測定により、コンフォメーション変化に関する情報を明らかにすることができる。LL−37の抗菌活性は、コンフォメーションに依存する:ヘリックス含量が高いと、強い抗菌作用と、高い細胞毒性活性が生じる(Johansson等,J Biol Chem 273:3718〜3724,1998年)。LL−37のαヘリックスコンフォメーションは、対イオン、pH、および、ペプチド濃度に依存することがわかっている(Johansson等,J Biol Chem 273:3718〜3724,1998年)。また、本ペプチドの特定のフラクションは、水溶液中でαヘリックス構造を有し、この構造は、脂質のような添加剤の存在によって、ランダムコイルからαヘリックスへの変化を促進させ得ることもわかっている(Turner等,Antimicrob Agents Chemother 42:2206〜2214,1998年)。
【0092】
円二色性(CD)測定用のサンプルを、200ppmのLL−37(トリフルオロ酢酸塩として,ロット971/26)を含み、0.40%CPL−ガラクトリピド含有または非含有の10mMリン酸緩衝水溶液(pH7.0)中で、製造した。50mlガラスフラスコ中に入れたこれらサンプル(20ml)を、7.5に設定された(約220/分の周波数に相当)STミキサー(タイプB1,E.ブフラー,チュービンゲン)で2時間強く振盪した。次に、それらを平衡化させ、2〜8℃で一晩静置した。
【0093】
ジャスコJ−720(ジャスコ社(Jasco Inc.))の分光旋光計でCDスペクトルを記録した。分散液からの光散乱の作用を減少させるために、キュベットセル(パス長1mm)を備えたサンプル区画を、光電子増倍管の近傍に設置した。サンプルを室温で測定し、スキャンした(280から200nmへ、速度20nm/分で、解像度1nmで、1ランあたり3回の集積)。その結果は、平均残基楕円率[θ]で示し、222nmにおけるαヘリックスコンフォメーションのパーセンテージは、以下の式で推測する:([θ]222+3900)・100/41900。
【0094】
10mMリン酸緩衝溶液(pH7.0)中の200ppmのLL−37のCD測定により、208nmと、222nmで、二重の二色性の最小値がみられたことによって、αヘリックス二次構造が明らかになった。222nmでの最小値を用いてαヘリックス構造のパーセンテージを計算したところ、約63%であることがわかった。同じ緩衝溶液に、濃度0.40%(w/w)でガラクトリピドを加えた場合、LL−37のαヘリックス構造はほとんど影響を受けず、αヘリックス構造は約64%であった。
【0095】
ヘリックスコンフォメーションの強化は、抗菌活性の増加に関連する。また、二次構造もLL−37の創傷治癒能力関連していることが推測され、この場合、αヘリックス構造の高いパーセンテージが、活性の増強を意味する。また、これは、水性緩衝溶液中において高い細胞毒性を有することも意味するが、ガラクトリピドの存在下では、二次構造が保持されるので、活性は影響を受けず、それに対して細胞毒性は減少する。
【0096】
対照として、陰イオン性の合成リン脂質、パルミトイル−オレオイル−ホスファチジルグリセロール(POPG;シグマ−アルドリッチ,P6956)を用い、上述したのと同じ実験条件を用いて試験した。この脂質が存在する場合、より低いパーセンテージ(58%)のαヘリックス構造が観察され、これは、コンフォメーション、すなわちLL−37の活性は、中性ガラクトリピドの影響よりも、負電荷を有するリン脂質の影響を強く受けることことを示す。しかしながら、より重要なことには、4℃で1ヶ月の保存した後に、サンプルは、部分的に分離し、容器の底に沈殿が生じていた。おだやかに撹拌することによって、粗い分散液が得られた。また、対応するガラクトリピドをベースとするサンプルでも、同じタイムポイントで沈殿が観察されたが、わずかな程度であり、おだやかに撹拌することによってこれら沈殿は再分散され、微細な分散液になった。
【0097】
実施例7.細胞毒性試験
材料の毒性の評価には、生きている組織に接近して接触できるインビトロでの細胞毒性分析が有用である。
【0098】
培養された哺乳動物細胞(L929マウス線維芽細胞)におけるインビトロでの細胞毒性に関して、選択された製剤を試験した。試験の設計は、米国薬局方第26版の方法<87>と、ISO10993−5標準に基づく。
【0099】
製剤DおよびE(実施例4,表2を参照)を、濃度10、2、0.4および0.08%(v/v)で、完全細胞培養培地(10%ウシ胎仔血清を含むHAM F12培地)と混合した。これらの試験溶液を用いて、三連の細胞培養物を24時間処理した。三連には、未処理の培養物、ネガティブコントロール(ポリプロピレンの抽出物で処理)、および、ポジティブコントロール(スズで安定化したポリ塩化ビニルの抽出物で処理)が含まれる。
【0100】
いずれの製剤も、10%(v/v)で試験した場合は、毒性なしか、ほんのわずかな毒性しか示さず(細胞毒性度0〜1)、2%、0.4%および0.08%(v/v)で試験した場合は、毒性なし(細胞毒性度0)であった。
【0101】
PBS中に100ppmのLL−37を含むポジティブコントロール溶液での細胞毒性試験では、試験された4種全ての濃度(10、2、0.4および0.08%の細胞培養培地を含む溶液の混合物)で、中度の毒性(細胞毒性度2)を引き起こした。この毒性レベルは、20〜50%の細胞が死滅するか、または、形態的に毒性の兆候を示す、と定義される。スケールは0〜4の範囲であり、医療用デバイスの試験抽出物を試験する場合、グレード3および4は試験には用いない。このポジティブコントロール溶液は、製剤DおよびE(毒性なしか、またはほんのわずかな毒性を示す)よりかなり高い毒性を有する。
【0102】
生物学的実験
hCAP18/LL−37は、炎症および創傷に関連して、皮膚および粘膜で誘導される、および、
hCAP18/LL−37は、広範囲の炎症にもかかわらず、慢性潰瘍の上皮において欠失している、
という我々の近年の発見に基づき、我々は、hCAP18/LL−37は、皮膚上皮の再生能力に関与するという仮説をたてた。この仮説を試験するために、以下の実験を行った。
【0103】
試験1.非炎症性のヒト創傷の治癒におけるhCAP18/LL−37の発現パターンの調査
組織サンプル
ヒト皮膚を、習慣的な腹部または胸部の縮小手術によって得た。滅菌条件下で、3mmの生検用パンチで、上皮側に十分な厚さの創傷を作製した。これらのエクスビボの創傷を、6mmの生検用パンチで切り出し、それに続いて、24−ウェルプレートにトランスファーし、培地(2ml)で覆った。このような創傷は、4〜7日間内に再生可能に再上皮化する(Kratz等,Scand J Plast Reconstr Surg Hand Surg 28:107〜112,1994年;Inoue等,J Invest Dermatol 104:479〜483,1995年;Kratz等,MicroscRes Tech 42:345〜350,1998年)。10%ウシ胎仔血清(FCS)と、抗生物質(PEST=ペニシリン50U/ml、および、ストレプトマイシン50mg/ml)を含むDMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地,GIBCO)を、3日ごとに交換した。創傷を、様々なタイムポイントで、創傷を受けた後、2、4および7日目に回収し、急速冷凍した。総じて、実験を4回繰り返した。4種の異なるドナーを用い、実験ごとにそれぞれの条件で三連の創傷を作製した。それぞれの実験において、単一のドナーからの皮膚だけを用いた。
【0104】
RNAプローブの製造
hCAP18遺伝子に関するmRNAと、hCAP18/LL−37に関する免疫反応性を検出するために、我々は、全てのタイムポイントで創傷のサンプルに対して、インサイチュハイブリダイゼーションと免疫組織化学を実行し、これは全ての時点における再上皮化を表わしている。インサイチュハイブリダイゼーションには、我々は、35Sで標識されたアンチセンスおよびセンスRNAプローブを用い、説明されている通りに実験を行った(Frohm Nilsson等,Infect Immun 67:2561〜2566,1999年)。
【0105】
LL−37抗体の製造
免疫組織化学には、我々は、以下のようにポリクローナルLL−37抗体を産生し、製造した:LL−37ペプチド(ロットYS5253,ユーロダイアグノスティカAB(EuroDiagnostica AB),マルモ,スウェーデン)を、固相合成を用いたFmoc法(FieldsおよびNoble,1990年)に従って、トリフルオロ酢酸塩として製造し、HPLCによって純度98%まで精製した。このペプチドの生物学的活性を抗菌分析で確認した。このペプチドを、標準的なプロトコールに従って3匹のウサギの免疫化に用いた(アグリセラ(AgriSera),ヴェネス,スウェーデン)。ポリクローナル抗血清を、合成LL−37ペプチドを用いて、親和性により精製し、精製した抗血清をELISAで評価した。免疫血清のIgG濃度を、0.5mg/mlに希釈した。免疫前血清を各ウサギから回収し、IgG濃度を2mg/mlとした。
【0106】
免疫組織化学
全ての生検を急速冷凍し、同様に操作した。簡単に言えば、厚さ6〜7μmのクライオスタット用断片を、1:1000、および、1:2000に希釈したLL−37抗体と共にインキュベートし、間接ペルオキシダーゼ法により、ベクタステイン(Vectastain)キット(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories),バーリンゲーム,米国)を用い、製造元の説明書に従って染色した。断片を、メイヤー(Mayor)のヘマトキシリン溶液で対比染色した。全ての実験を最低3回繰り返し、再現性を確実にした。コントロールとして、一連の組織断片を、一次抗体を加えずに、および、一次抗体として免疫前ウサギIgG(DAKO,グロストルップ,デンマーク)を用いて、平行して処理した。
【0107】
結果
タイムポイント0時間で、組織にわたって、表皮の基底層に、hCAP18のmRNAとLL−37タンパク質の中度の発現がみられ、これは、我々の以前の、表皮の基底部における構成的なhCAP18発現の発見と一致する。再上皮化の際の様々なタイムポイントで回収された創傷は、創傷表面を覆うように移動した上皮において、hCAP18のmRNAと、LL−37タンパク質に関する別個のシグナルを示した。底部にある皮膚のマトリックス中には、hCAP18/LL−37に対して陽性を示す細胞はなかった。これらの結果は、hCAP18のデノボ合成は、再上皮化の際に、炎症を起こすことなくケラチノサイトで生じることを示しており、hCAP18は、上皮再生に関連する可能性があるという我々の仮説を裏打ちしている。
【0108】
試験2.ヒト皮膚の創傷のエクスビボでの再上皮化の、LL−37抗体による阻害
試験1で製造されたLL−37抗体を、ウェルあたり2mlの培地(DMEM,10%FCSおよびPESTを含む)に加え、最終的な抗体の希釈率を、1:10、1:100および1:1000にした。コントロールとして、我々は、対応する免疫前血清を、LL−37抗血清の希釈率1:10に等しい最終IgG濃度で用い、一連の創傷を培地のみで処理した。各実験条件は三連で行われ、2回繰り返された。上述したように、3日ごとに培地を交換し、LL−37抗体または免疫前血清を加えた。エクスビボの創傷を、創傷を受けた後、2、4および7日目に回収した。全ての標本を急速冷凍し、完了した時点で断片化し、スーパーフロスト・プラス・スライダー(Superfrost Plus slides)にマウントし、その後、ヘマトキシリン−エオシンで染色した。評価のために、創傷の中央に最大の再上皮化を示した断片を選択した。ケラチノサイトの増殖能力を、全ての処理条件を代表する創傷において、増殖マーカーKi67(マウスモノクローナルKi67抗血清(DAKO,グロストルップ,デンマーク),1:25希釈)を用いた免疫組織化学で調査した。
【0109】
結果
LL−37抗体での処理は、再上皮化の濃度依存性の阻害を起こした。最高のLL−37抗体濃度(1:10)で処理された創傷はいずれも、再上皮化しなかった。これらの創傷において、唯一、脆く平坦な外観を有するケラチノサイトのみが、それぞれの創傷の端部から移動した。培地濃度(1:100)のLL−37で処理された創傷は、遅い再上皮化を示し、これらの創傷は、4日目ではなく、7日目には大部分が治癒された。その上、上皮は、より薄く、ケラチノサイトは、脆い外観を有していた。最低の濃度(1:1000)のLL−37抗体で処理された創傷は、コントロールの創傷と同等であり、4日目で全て治癒され、2〜3層の強固な上皮が形成された。培地のみで処理されたコントロールの創傷、および、コントロールIgG抗体で処理された創傷の治癒は同等であった。コントロールの創傷において、再上皮化した舌の細胞の大多数は、増殖マーカーKi67に関して陽性であったが、1:10でLL−37で処理された創傷において、Ki67陽性細胞はなかった。我々は、この実験から、LL−37は、皮膚の再上皮化に決定的に関与すること、および、LL−37抗体をブロックすることにより、単一の細胞の最初の創傷端部からの移動を可能にするため、増殖能力が優先的に影響を受けるようであるが、効果的にケラチノサイトのさらなる増殖が防がれることを結論付けた。
【0110】
試験3.合成の生物学的に活性なLL−37ペプチドそのもの、および、極性脂質キャリアーと組合わせた処理による、HaCat細胞の増殖
これらの実験には、HaCat細胞を用いた。HaCat細胞は、不死化したヒトケラチノサイト細胞系であり(Boukamp等,J Cell Biol 106:761〜771,1988年)、これは、実験的なケラチノサイト研究に適している。HaCat細胞を、培地(DMEM,10%FCSおよびPESTを含む)中で培養した。両方のタイプの細胞培養を、合成の生物活性を有するLL−37(ロットYS5253)で処理した。さらに、血清を2または10%で含む培地中の、LL−37(114μg/ml)と、CPL−ガラクトリピド(0.2%)との混合物を加え、増殖を高め、細胞毒性を阻害する能力を評価した。細胞を、様々なタイムポイント(24時間、48時間、72時間および96時間)で回収し、フローサイトメトリー(ベクトン・ディッキンソン(Becton−Dickinson))でカウントし、トリパンブルーで染色し、生存率を評価した。トリパンブルーの陽性反応は、細胞膜はダメージを受けていることを示す。また、増殖と生存率も、ミトコンドリア活性(WST−1,ロシュ(Roche),Cook等,Anal Biochem 179:1〜7,1989年)を測定することによって確認した。
【0111】
【表10】

【0112】
【表11】

【0113】
【表12】

【0114】
結果
LL−37ペプチドでのHaCat細胞の処理により、濃度依存性の増殖の増加が起こる。これは、LL−37ペプチドは、ケラチノサイトの増殖を、EGFのレベルと同等か、またはそれを上回るレベル(上皮細胞増殖にとってのゴールデンスタンダード)まで刺激する能力を有することを示す。我々は、EGFを1.7nMで用いたが、これは、培養においてケラチノサイトの増殖を刺激するのに最適と確立されており、標準的な培養条件になっているためである(Cohen等,Dev Biol 12:394〜407,1965年)。HaCat細胞は、よく増殖する上皮細胞であり、興味深いことに、LL−37は、これらの細胞の増殖をさらに増加させることができる。混合物に脂質を加えた場合、2%血清中、100μg/mlのLL−37によって誘導された細胞毒性作用は完全になくなったが、これは、この実験条件において、脂質は、血清と置き換えることができることを示す。
【0115】
この試験により、10%ウシ胎仔血清(FCS)を含む培地中で、HaCat細胞の細胞培養に添加された合成の生物活性を有するLL−37(25〜100μg/ml)は、濃度依存性で増殖を増加させることが示された。しかしながら、上記ペプチド(100μg/ml)を、2%FCSを含む培地でのケラチノサイト培養に加えた場合、全てのケラチノサイトはトリパンブルー染色陽性になり、これは、これらの細胞に対する細胞毒性作用を示す。
【0116】
カテリシジンの細胞毒性活性は、血清の存在、宿主細胞を起こり得る有害な作用から保護すると考えられているメカニズムによって阻害される。我々のデータにより、LL−37の細胞毒性作用は、血清(10%)の存在下で阻害されることが確認される。加えて、より低い血清濃度(2%FCS)を含む培地中の、LL−37(25μM)と、極性脂質キャリアー(0.2%)の混合物は、細胞毒性作用を阻害し、増殖を増加させる。これらのデータにより、極性脂質キャリアーは、LL−37の生物活性を妨害することなく、血清と類似した保護能力を有することが示唆される。
【0117】
初期のデータは、ヒトケラチノサイトは、HaCat細胞と同じ方法で増殖することを示す。
【0118】
試験4.合成ペプチドLL−36、LL−37およびLL−38での処理によるHaCat細胞の増殖
HaCat細胞を、培地(DMEM,10%FCSおよびPESTを含む)中で培養した。HaCat細胞を、96ウェルプレート(ファルコン(Falcon),米国)に、濃度2000細胞/ウェルでプレーティングした。細胞を−48時間にプレーティングし、0時間、および、48時間後に、異なる濃度の合成LL−37、LL−36およびLL−38ペプチドで刺激した。
【0119】
1回の実験において、各条件あたり6ウェルを用いて試験を行った。1Ci/mmolの3H−チミジン(チミジン、[メチル−3H]−740.0GBq/mmol(20.00Ci/mmol),エタノール:水(7:3)1.0ml,パーキンエルマー・ライフサイエンス社(Perkin Elmer Life Sciences Inc.),ボストン,マサチューセッツ州,米国)を、各ウェルに加え、12〜17時間インキュベートした。72時間および96時間後に、液体シンチレーター(マイクロベータ(MicroBeta)パーキンエルマー・ライフサイエンス社,ボストン,マサチューセッツ州,米国)で、3H−チミジンの取り込みによって、増殖を評価した。
【0120】
【表13】

【0121】
【表14】

【0122】
【表15】

【0123】
試験5.LL−37ペプチドでの処理によるヒト線維芽細胞の増殖
ここで用いられたペプチドのLL−37、および、以下の試験は、実施例1(ロット971/26)で説明されている通りである。線維芽細胞(間質細胞の一種)を、静脈不全による慢性的な脚の潰瘍を有する患者の外傷のある皮膚と、外傷のない皮膚から得た。パンチ生検(4mm)を、創傷の端部(上皮化したエリアの50%を含む)、および、ひざの部分の外傷のない皮膚から採取した。糖尿病、動脈不全または慢性炎症性疾患の病歴がある個体を排除した。さらに、生検時に潰瘍の端部に湿疹の兆候がある患者、感染の臨床的兆候がある患者、または、全身または局所的な抗生物質治療を受けている患者をも排除した。関与する患者は、いずれも、不活性な局所的な包帯剤および標準的な圧迫包帯で処理された。
【0124】
線維芽細胞を体外移植組織技術を用いて培養した(Hehenberger等,CellBiochem Funct 15:197〜201,1997年)。線維芽細胞を、96ウェルプレート(ファルコン,米国)に、濃度2000細胞/ウェルでプレーティングした。細胞を−48時間でプレーティングし、0時間に異なる濃度の合成LL−37ペプチドで刺激した。1回の実験において、各条件あたり6ウェルを用いて試験を行った。24時間、および、48時間後に、増殖と生存率を、ミトコンドリア活性(WST−1,ロシュ)を測定することによって確認した。下記の表12と表13を参照。細胞増殖の増加(増殖インデックス)は、基準と比較して計算される(コントロール=0μg/ml)。1回の実験において6サンプル/条件からの平均値を示す。
【0125】
【表16】

【0126】
【表17】

【0127】
試験6.HEK293細胞におけるhCAP18のトランスジェニック発現、および、HEK293−hCAP18細胞の増殖
hCAP18に関する全コード配列(16bpの5’非翻訳領域を含む)を含む、イメージクローン3057931由来のBfa1フラグメント(ref)を、バイシストロン性ベクターpIRES2−EGFP(BDバイオサイエンス(BD Biosciences),ベッドフォード,マサチューセッツ州)のSma1部位にクローニングした。ヒト胎児腎臓細胞、HEK293を、Fugene(ロシュ・ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics),インディアナポリス,インディアナ州)を用いて標準的な条件でトランスフェクトし、2週目に400ng/mlのG418抗生物質(インビトロジェン(Invitrogen),ペーズリー,イギリス)で選択した。この細胞を、MoFlo(R) 高速細胞ソーティングフローサイトメーター(ダコ・サイトメーション(DakoCytomation),フォートコリンズ,コロラド州)を用いて、SummitTMデータ解析用ソフトウェアを用いて、EGFP発現に関して選別し、それらのCAP18発現をイムノブロッティングによって定量した。同様に、EGFPのみを発現するベクターでのトランスフェクトによってコントロール細胞系を確立した。
【0128】
増殖分析のために、細胞系を70%密度で回収し、24−ウェルプレートに播いた。24時間後に、培地を交換し、細胞を、5%FCSおよびPESTが添加された培地(OPTIMEM,ギブコ(Gibco)BRL,ライフテクノロジーズ(Life Technologies),スコットランド)2ml中で培養した。全て条件を三連で実行した。2日ごとに培地を交換した。次に、6日目に細胞系を回収し、フローサイトメトリーでカウントした。細胞生存率をトリパンブルーで測定した;全ての条件下で、5%未満の細胞がトリパンブルー陽性であった。細胞増殖の増加(増殖インデックス)は、基準と比較して計算される(HEK293−EGFP)。1回の実験における三連のサンプル/条件からの平均値を示す。
【0129】
【表18】

【0130】
また、HEK293−hCAP18細胞の増殖も3H−チミジンの取り込みによって評価し、得られた結果を以下の表15に示す。細胞増殖の増加(増殖インデックス)は、基準と比較して計算される(HEK293−EGFP)。1回の実験における4つのサンプル/条件からの平均値を示す。
【0131】
【表19】

【0132】
試験7.異なる成長培地へ移植するためのヒト細胞の培養
上皮細胞の培養
患者の健康な皮膚から皮膚片(1×1cm)を切り出した。この皮膚をミンチ状にし、トリプシン/EDTA(0.05/0.01%)で処理し、2〜5×106の復元されたケラチノサイトを、75cm2培養フラスコ中で、1.5×106マイトマイシンで前処理した(4μg/ml,2時間)3T3細胞に加えた。LL−37ペプチドを含む増殖培地Aを加えた。トリプシン処理によって細胞をシート状で回収し、患者に移植した。
【0133】
増殖培地Aは、例えばケラチノサイトのような上皮細胞のインビトロでの培養に用いられ、これは、基礎培地と、a)塩溶液中のLL−37ペプチド、b)ペニシリン+ストレプトマイシン、c)インスリン、d)トランスフェリン(transfering)、e)トリヨードチロシン、f)ヒドロコルチゾン、g)コレラ毒素、および、選択された細胞毒性を減少させる物質(例えば血清または極性脂質)を含む成長を促進するキット(GPK)とからなる。
【0134】
間質細胞の培養
間質細胞を4mmの皮膚の生検から得て、皮下組織から取り除き、移植技術を用いて細胞培養皿にプレーティングし、初代の線維芽細胞を得た。増殖培地Bは、生検を培養するのに用いた。細胞をトリプシン処理によって回収し、患者に戻した。
【0135】
増殖培地Bは、例えば線維芽細胞のような間質細胞のインビトロでの培養に用い、これは、基礎培地と、a)塩溶液中のLL−37ペプチド、b)ペニシリン+ストレプトマイシン、および、選択された細胞毒性を減少させる物質(例えば血清または極性脂質)を含む成長を促進するキットとからなる。
【0136】
基礎培地は、無機塩、フェノールレッド、グルコース、チミジン、ヒポキサンチン(hypoxanthinine)、HEPES、ピルビン酸ナトリウム、アミノプテリン、アミノ酸およびビタミンを含む再蒸留水がベースである。
【0137】
実験のまとめ
まとめると、LL−37は、正常な創傷治癒の際に皮膚の上皮で生産されること、および、LL−37は、再上皮化を起こすのに必要であることことが実証された。また、我々は、慢性潰瘍の上皮では、内因性のLL−37が欠失していることも示した。それゆえに、我々は、LL−37、同様に、前記ペプチドのN末端フラグメント、および、それらの機能的な誘導体での処理により、このような潰瘍の治癒を促進するための合理的な戦略が提供されることを提唱する。その上、LL−37の添加、および、hCAP18/LL−37のトランスジェニック発現はまた、健康な細胞の増殖も刺激し、これは、LL−37を用いることによって、正常な上皮および障害のある上皮のインビボでの修復、および、自己由来の細胞移植のための上皮細胞のインビトロでの増殖の両方を増強することができることを示す。また、我々は、細胞毒性を減少させ、LL−37およびその他のカテリシジンペプチドのインビボでの迅速な分解を防御し得る適切なキャリアーと運搬システム同定した。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】18kDaのhCAP18タンパク質の概略図である。
【図2】カテリシジンタンパク質ファミリーの概略図である。
【図3A】hCAP18のトランスジェニック発現に用いられる、hCAP18のコード配列を含むpIRES2−EGFPベクターのcDNA配列を示す。
【図3B】図3Aの続きである。
【図3C】図3Bの続きである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LL−37(配列番号1)のN末端フラグメントの少なくとも20個のアミノ酸の配列を有するペプチド(ただしLL−37は除く)、ならびに、製薬上許容できる塩、およびそれらの誘導体。
【請求項2】
LL−37の配列(配列番号1)のC末端に1〜3個のアミノ酸が付加されている、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
LL−36、LL−35、LL−34、LL−33、LL−32、LL−31、LL−30、LL−29、LL−28、LL−27、LL−26、LL−25、LL−24、LL−23、LL−22、LL−21、および、LL−20(それぞれ、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、および、配列番号18の配列を有する)からなる群より選択される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
医薬品として使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項5】
創傷、細胞増殖、上皮再生の治癒のための医薬品を製造するための、および、抗菌剤として使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項6】
上皮再生、ならびに、創傷のある上皮および間質の治癒のための医薬品を製造するための、
a)配列番号1;
b)配列番号1のN末端フラグメントの少なくとも20個のアミノ酸を含む配列;
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチド(該ペプチドは、非溶解性のメカニズムによって、上皮および/または間質細胞の増殖を増強する)、および、製薬上許容できる塩、ならびにそれらの誘導体の使用。
【請求項7】
酢酸塩の形態のLL−37(配列番号1)である、請求項6に記載のペプチドの使用。
【請求項8】
LL−36、LL−35、LL−34、LL−33、LL−32、LL−31、LL−30、LL−29、LL−28、LL−27、LL−26、LL−25、LL−24、LL−23、LL−22、LL−21、および、LL−20(それぞれ、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、および、配列番号18の配列を有する)からなる群より選択されるペプチドの、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
静脈不全、代謝機能障害、または、免疫学的な異常調節による慢性潰瘍の治療用の医薬品を製造するための、請求項6〜8のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【請求項10】
外傷またはやけどによる創傷の治療用の医薬品を製造するための、請求項6〜8のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【請求項11】
二重層を形成する極性脂質と水溶液とからなるキャリアーと組合わせた、製薬上許容できる塩の形態の抗菌性カテリシジンペプチド、または、それらの誘導体を含む医薬組成物。
【請求項12】
二重層を形成する極性脂質と水溶液とからなるキャリアーと組合わせた、製薬上許容できる塩、または、それらの誘導体の形態で、
a)配列番号1;
b)配列番号1のN末端フラグメントの少なくとも20個のアミノ酸を含む配列、
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドを含む医薬組成物。
【請求項13】
二重層を形成する極性脂質は、リン脂質、ガラクトリピドおよびスフィンゴ脂質からなる群より選択される、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ペプチドは、酢酸塩の形態である、請求項11〜13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
二重層を形成する極性脂質は、少なくとも50%(w/w)のジガラクトシルジアシルグリセロールを含む、請求項11〜14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
ペプチドは、酢酸塩の形態のLL−37である、請求項12〜15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
CPL−ガラクトリピドと組合わせた、LL−37の酢酸塩の複合体を含む、請求項11〜16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
塩としてのペプチドと、ガラクトリピドキャリアーとの比率は、重量比で、1:10〜1:50である、請求項11〜17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
インビトロでの非溶解性のメカニズムによる上皮および/または間質細胞の増殖のための、製薬上許容できる塩、または、それらの誘導体の形態の、
a)配列番号1;
b)配列番号1のN末端フラグメントの少なくとも20個のアミノ酸を含む配列、
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドの使用。
【請求項20】
インビトロでのヒトの自己由来の上皮および間質細胞の増殖のための、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
基礎培地と組合わせて、請求項1〜3のいずれか一項に記載のLL−37またはペプチドを含む、上皮および/または間質細胞を培養するための増殖培地。
【請求項22】
基礎培地中で、二重層を形成する極性脂質と組合わせて、請求項1〜3のいずれか一項に記載のLL−37またはペプチドを含む、上皮および/または間質細胞を培養するための増殖培地。
【請求項23】
極性脂質は、リン脂質、ガラクトリピドおよびスフィンゴ脂質からなる群より選択される、請求項22に記載の培地。
【請求項24】
インビボでの細胞移植のために、インビトロでのヒトの自己由来の上皮および間質細胞の増殖を増強する方法であって、健康な皮膚の切片から細胞を単離し、インビトロで該単離された細胞を請求項21〜23のいずれか一項に記載の増殖培地で培養し、続いて培養された細胞を回収し、創傷(例えば熱傷および潰瘍)の治療に用いる、上記方法。
【請求項25】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のLL−37またはペプチド、および、細胞毒性を減少させる二重層を形成する極性脂質を含み、場合により、抗生物質、基礎培地、およびその他の慣用の添加剤と組合わせた、上皮および/または間質細胞を培養するためのキット。
【請求項26】
細胞の増殖を増強するための、上皮および/または間質細胞のトランスフェクト、および、トランスジェニック発現のための、hCAP18(配列番号20)のcDNA配列を含む遺伝子コンストラクトの使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LL−36、LL−35、LL−34、LL−33、LL−31、LL−28、LL−27、LL−25(それぞれ配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号7、配列番号10、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、および、配列番号18の配列を有する) からなる群より選択される、LL−37のN末端フラグメント(配列番号1)の少なくとも25個のアミノ酸の配列を有するペプチド、ならびに、製薬上許容できる塩、およびそれらの誘導体。
【請求項2】
LL−37(配列番号1)の配列のC末端に1〜3個のアミノ酸が付加されたペプチド。
【請求項3】
配列番号19の配列を有するLL−38からなる、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
医薬品として使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項5】
創傷、細胞増殖、上皮再生の治癒のための医薬品を製造するための、および、抗菌剤として使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項6】
上皮再生、ならびに、創傷のある上皮および間質の治癒のための医薬品を製造するための、
a)配列番号1;
b)配列番号1のN末端フラグメントの少なくとも25個のアミノ酸を含む配列;
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチド(該ペプチドは、非溶解性のメカニズムによって、上皮および/または間質細胞の増殖を増強する)、および、製薬上許容できる塩、ならびにそれらの誘導体の使用。
【請求項7】
酢酸塩の形態のLL−37(配列番号1)である、請求項6に記載のペプチドの使用。
【請求項8】
LL−36、LL−35、LL−34、LL−33、LL−32、LL−31、LL−30、LL−29、LL−28、LL−27、LL−26、および、LL−25(それぞれ、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13の配列を有する)からなる群より選択されるペプチドの、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
静脈不全、代謝機能障害、または、免疫学的な異常調節による慢性潰瘍の治療用の医薬品を製造するための、請求項6〜8のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【請求項10】
外傷またはやけどによる創傷の治療用の医薬品を製造するための、請求項6〜8のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【請求項11】
二重層を形成する極性脂質と水溶液とからなるキャリアーと組合わせた、製薬上許容できる塩、または、それらの誘導体の形態で、
a)配列番号1;
b)配列番号1のN末端フラグメントの少なくとも25個のアミノ酸を含む配列
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドを含む医薬組成物。
【請求項12】
二重層を形成する極性脂質は、リン脂質、ガラクトリピドおよびスフィンゴ脂質からなる群より選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ペプチドは、酢酸塩の形態である、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
二重層を形成する極性脂質は、少なくとも50%(w/w)のジガラクトシルジアシルグリセロールを含む、請求項11〜13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
ペプチドは、酢酸塩の形態のLL−37である、請求項11〜14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
CPL−ガラクトリピドと組合わせた、LL−37の酢酸塩の複合体を含む、請求項11〜15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
塩としてのペプチドと、ガラクトリピドキャリアーとの比率は、重量比で、1:10〜1:50である、請求項11〜16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
インビトロでの非溶解性のメカニズムによる上皮および/または間質細胞の増殖のための、製薬上許容できる塩、または、それらの誘導体の形態の、
a)配列番号1;
b)配列番号1のN末端フラグメントの少なくとも25個のアミノ酸を含む配列、
からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドの使用。
【請求項19】
インビトロでのヒトの自己由来の上皮および間質細胞の増殖のための、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
基礎培地と組合わせた、請求項1〜3のいずれか一項に記載のLL−37またはペプチドを含む、上皮および/または間質細胞を培養するための増殖培地。
【請求項21】
基礎培地中で、二重層を形成する極性脂質と組合わせて、請求項1〜3のいずれか一項に記載のLL−37またはペプチドを含む、上皮および/または間質細胞を培養するための増殖培地。
【請求項22】
極性脂質は、リン脂質、ガラクトリピドおよびスフィンゴ脂質からなる群より選択される、請求項21に記載の培地。
【請求項23】
インビボでの細胞移植のために、インビトロでのヒトの自己由来の上皮および間質細胞の増殖を増強する方法であって、健康な皮膚の切片から細胞を単離し、インビトロで該単離された細胞を請求項20〜22のいずれか一項に記載の増殖培地で培養し、続いて培養された細胞を回収し、創傷(例えば熱傷および潰瘍)の治療に用いる、上記方法。
【請求項24】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のLL−37またはペプチド、および、細胞毒性を減少させる二重層を形成する極性脂質を含み、場合により、抗生物質、基礎培地、および、その他の慣用の添加剤と組合わせた、上皮および/または間質細胞を培養するためのキット。
【請求項25】
細胞の増殖を増強するための、上皮および/または間質細胞のトランスフェクト、および、トランスジェニック発現のための、hCAP18(配列番号20)のcDNA配列を含む遺伝子コンストラクトの使用。
【請求項26】
細胞の増殖を増強するための、上皮および/または間質細胞のトランスフェクト、および、トランスジェニック発現のための医薬品を製造するための、hCAP18(配列番号20)のcDNA配列を含む遺伝子コンストラクトの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【公表番号】特表2006−518375(P2006−518375A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502781(P2006−502781)
【出願日】平成16年1月28日(2004.1.28)
【国際出願番号】PCT/SE2004/000111
【国際公開番号】WO2004/067025
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(505285087)リポペプチド・アクチエボラーグ (7)
【Fターム(参考)】