力センサの出力に基づいてロボットのダイレクトティーチをおこなうロボット教示装置
【課題】スイッチなどを用いることなしに、操作感を簡易に変更する。
【解決手段】ロボット教示装置(10)は、少なくとも1軸方向の力と、該1軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の夫々の軸回りのモーメントを検出する力検出部3と、ロボット1を移動させるときに基準とする移動基準座標系を設定する移動基準座標系設定部21と、ロボットを移動基準座標系の原点回りに回転移動させるか、前記移動基準座標系を基準にして並進移動させるかのいずれかの移動方法を設定する移動方法設定部22と、1軸方向の力と、2軸方向の夫々の軸回りのモーメントと、所定の作用基準点の位置とに基づいて、作用基準点における仮想力を算出する仮想力算出部23と、移動基準座標系と移動方法と仮想力とに基づいて、ロボットに対する力制御作用力を算出する力制御作用力算出部24と、力制御作用力に基づいて力制御をおこなう力制御部25とを含む。
【解決手段】ロボット教示装置(10)は、少なくとも1軸方向の力と、該1軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の夫々の軸回りのモーメントを検出する力検出部3と、ロボット1を移動させるときに基準とする移動基準座標系を設定する移動基準座標系設定部21と、ロボットを移動基準座標系の原点回りに回転移動させるか、前記移動基準座標系を基準にして並進移動させるかのいずれかの移動方法を設定する移動方法設定部22と、1軸方向の力と、2軸方向の夫々の軸回りのモーメントと、所定の作用基準点の位置とに基づいて、作用基準点における仮想力を算出する仮想力算出部23と、移動基準座標系と移動方法と仮想力とに基づいて、ロボットに対する力制御作用力を算出する力制御作用力算出部24と、力制御作用力に基づいて力制御をおこなう力制御部25とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力センサの出力に基づいて、ロボットのダイレクトティーチをおこなうロボット教示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来においては、特許文献1に開示されるように、ダイレクトティーチ時に、モード切替スイッチによって、操作感を変えることが開示されている。なお、操作感とは、ダイレクトティーチ時に、ロボットを力制御によって誘導するときの、与える力に対するロボットの操作感覚のことである。
【0003】
さらに、特許文献2には、ダイレクトティーチ時に、Fx、Fy、Fzの並進方向の3成分の力を検出できる力センサを用い、検出された力に応じてロボットを動かすことが開示されている。
【0004】
また、少なくとも1軸方向の力と、該1軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の夫々の軸回りのモーメントを計測できる力センサとして、静電容量式の3軸力センサなどが存在する。そのような3軸力センサは公知であり、小型で安価に生産でき、現在では広範に普及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−123907号公報
【特許文献2】特開平10−156772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、操作感を変更するために、スイッチを切替える必要がある。操作感の変更時にはこのような切替作業が必須となるので、切替作業は比較的煩雑であるという問題があった。
【0007】
さらに、力を作用させる位置を変えた場合には、スイッチなどを用いることなく、操作感を変えることはできなかった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、スイッチなどを用いることなしに、操作感を簡易に変更することのできるロボット教示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、操作部に加えられた操作力により、力制御をおこなってロボットを移動させて、該ロボットの位置・姿勢を教示するロボット教示装置において、少なくとも1軸方向の力と、該1軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の夫々の軸回りのモーメントを検出する力検出部を具備し、前記操作部に接続された力検出部により検出された力に基づいて前記力制御をおこなうようになっており、前記力検出部の座標系中心点と力の作用点とが互いに異なる位置になるように配置されており、さらに、前記ロボットを移動させるときに基準とする移動基準座標系を設定する移動基準座標系設定部と、前記ロボットを前記移動基準座標系の原点回りに回転移動させるか、前記移動基準座標系を基準にして並進移動させるかのいずれかの移動方法を設定する移動方法設定部と、前記1軸方向の力と、前記2軸方向の夫々の軸回りのモーメントと、所定の作用基準点の位置とに基づいて、前記作用基準点における仮想力を算出する仮想力算出部と、前記移動基準座標系設定部により設定された移動基準座標系と、前記移動方法設定部により設定された移動方法と、前記仮想力算出部により算出された仮想力とに基づいて、前記ロボットに対する力制御作用力を算出する力制御作用力算出部と、前記力制御作用力に基づいて力制御をおこなう力制御部と、を備えることを特徴とする、ロボット教示装置が提供される。
【0010】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記1軸方向の力と前記2軸方向の夫々の軸回りのモーメントとに基づいて、前記作用基準点の位置を算出する作用基準点算出部を備える。
【0011】
3番目の発明によれば、1番目の発明において、前記作用基準点の設定位置は任意に変更可能であり、前記仮想力算出部は変更された作用基準点に基づいて新たな仮想力を算出する。
【0012】
4番目の発明によれば、1番目から3番目のいずれかの発明において、さらに、前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか否か、または、回転動作時に同じ回転方向に移動しているか否かを判定する判定部を具備し、前記仮想力算出部は、前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか、または、回転動作時に同じ回転方向に移動していると判定した場合には仮想力の算出方法を変更し、前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動していないか、または、回転動作時に同じ回転方向に移動していないと判定した場合には、前記仮想力の算出方法の変更を無効にして仮想力の算出方法を元に戻す。
【0013】
5番目の発明によれば、1番目から4番目のいずれかの発明において、ダイレクトティーチ時の動作特性を設定するための状態に切替える切替部と、前記切替部によって前記動作特性を設定するための状態に切替えられた場合には、前記力検出部に対して力を作用させたときの、力の作用方向、または、力の作用点の位置に基づいて、前記動作特性を設定する設定部を備える。
【0014】
6番目の発明によれば、1番目から5番目のいずれかの発明において、前記操作部の形状、表面状態、色、文字、柄のうちの少なくとも一つは、前記操作部の部位に応じて、変更されている。
【0015】
7番目の発明によれば、1番目から6番目のいずれかの発明において、前記操作部と前記力検出部とが一体化されており、一体化された前記操作部および前記力検出部は、該操作部および該力検出部を前記ロボットまたはロボットのエンドエフェクタ部に固定するための取付け固定部と、前記操作部および前記力検出部の姿勢および位置を変更する関節構造部とを含んでいる。
【0016】
8番目の発明によれば、7番目の発明において、前記取付け固定部がマグネットを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、1軸方向の力と、その軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の軸回りのモーメントとを検出できれば十分である安価な力検出部、例えば力センサなどを利用して、ダイレクトティーチをおこなっている。さらに、モーメント成分の値を検出できることを利用して、同じ力を作用させても、力を作用させる部位に応じて、ロボットの動きを変えることを可能とする教示装置を提案する。
【0018】
本発明では、同じ力を与えた場合であっても、スイッチなどで操作感を変える必要性なしに、力を作用させる位置によって、簡易に、連続的に、力制御でロボットを動かすときに基準となる力(以降、「力制御作用力」と呼ぶことにする)を変えることができる。このため、本発明では、操作感を簡易に変更すると共に、操作性を向上させられる。
【0019】
以上のように、一つの力成分と二つのモーメント成分からなる3成分さえ検出できればよいので安価な力検出部、例えば力センサで足りる。さらに、力を作用させる部位を変えるだけで、ダイレクトティーチ作業の操作感を変更でできるため、安価かつ操作性を向上させたロボット教示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に基づくロボット制御装置を含むロボットシステムの斜視図である。
【図2】操作部を拡大して示す拡大図である。
【図3】(a)操作部の取付部位を示す第一の拡大図である。(b)操作部の取付部位を示す第二の拡大図である。
【図4】仮想力を算出する概念を説明するための力センサ座標系を示す図である。
【図5】操作部を拡大して示す他の拡大図である。
【図6】仮想力を算出する概念を説明するための図である。
【図7】力制御作用力を説明するための図である。
【図8】操作部およびその周辺の頂面図である。
【図9】作用基準点の位置を変えることによって仮想力を調整することを説明するための図である。
【図10】操作部およびその周辺の他の頂面図である。
【図11】(a)操作部の斜視図である。(b)操作部の頂面図である。(c)操作部の他の頂面図である。
【図12】(a)ピン機構部が上部に設けられている操作部の第一の斜視図である。(b)ピン機構部が上部に設けられている操作部の第二の斜視図である。(c)ピン機構部が側部に設けられている操作部の第一の斜視図である。(d)ピン機構部が側部に設けられている操作部の第二の斜視図である。
【図13】(a)Y軸に対して45度の角度で操作部に力を作用させることを示す図である。(b)図13(a)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。(c)Y軸に対して30度の角度で操作部に力を作用させることを示す図である。(d)図13(c)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。
【図14】(a)Y軸に対して0度の角度で操作部に力を作用させることを示す図である。(b)図14(a)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。(c)Y軸に対して45度の角度で操作部に力を作用させることを示す図である。(d)図14(c)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。
【図15】(a)複数のピン機構部が設けられている操作部の斜視図である。(b)図15(a)に示される一つのピン機構部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
【0022】
図1は本発明に基づくロボット制御装置を含むロボットシステムの斜視図である。図1に示されるロボットシステム10は、ロボット1とロボット制御装置11とを含んでいる。ロボット1は、6軸構成の垂直多関節型ロボットとするが、それ以外の構造のロボットでもよい。図示されるように、ロボット1のロボットアーム2の先端には、ワークWを加工するツール4が取付けられている。なお、便宜上、ツール4は下向きの円錐形としているが、他の形状のツール4を採用してもよい。
【0023】
さらに、図1においては、オペレータがロボット1のツール4近傍に取付けられたグリップを握り、ロボット1の先端を作業点の軌跡に沿って移動しダイレクトティーチするための操作部6が設けられている。言い換えれば、操作部6はロボット1のエンドエフェクタ部に取付けられている。また、図1に示されるように、ワークWは作業台B上に載置されているものとする。
【0024】
図1に示されるように、3軸力センサ3(以下、単に「力センサ」と称する場合がある)が操作部6に取付けられていて、操作部6と一体化している。あるいは、3軸力センサ3はツール4の一部分に取付けられていてもよい。力センサには、力センサ座標系が設定されている。なお、力センサ座標系の原点は、力センサ部分にあるとする。以下においては、力センサ座標系の軸をX軸、Y軸、Z軸とし、X軸、Y軸、Z軸において作用される力をそれぞれFx、Fy、Fzと表すと共に、X軸、Y軸、Z軸回りで作用されるモーメントをそれぞれMx、My、Mzと表す。3軸力センサ3において、力を検出できる軸をZ軸、その軸に直交で且つ互いに直交する2方向の軸をそれぞれX軸、Y軸とする。本実施例では、操作部6の中心軸が力センサ座標系のZ軸と平行になるように、操作部6および3軸力センサ3が配置されているとする。力センサ3は力センサ座標系における、力FzおよびモーメントMx、Myの三つの成分が検出できるものとする。なお、力FzおよびモーメントMx、Myを検出できるセンサであれば、3軸力センサ3以外の多軸力センサを使用してもよい。
【0025】
この力センサ3はロボット制御装置11に接続されており、所定時間毎に検出された力およびモーメントのデータがロボット制御装置11に送られる。ロボット制御装置11は、力センサ3のデータや設定されたデータ、ロボットの位置データなどに基づいて、力制御をおこなうための指令を算出し、ロボット1の各軸の駆動部を制御する。
【0026】
図1に示されるように、ロボット制御装置11は、ロボット1を移動させるときに基準とする移動基準座標系を設定する移動基準座標系設定部21と、ロボット1を移動基準座標系の原点回りに回転移動させるか、移動基準座標系を基準にして並進移動させるかのいずれかの移動方法を設定する移動方法設定部22と、1軸方向の力と前記2軸方向の夫々の軸回りのモーメントと、所定の作用基準点の位置とに基づいて、作用基準点における仮想力を算出する仮想力算出部23と、移動基準座標系設定部21により設定された移動基準座標系と、移動方法設定部22により設定された移動方法と、仮想力算出部23により算出された仮想力とに基づいて、ロボットに対する力制御作用力を算出する力制御作用力算出部24と、力制御作用力に基づいて力制御をおこなう力制御部25とを含んでいる。
【0027】
さらに、図1に示されるように、ロボット制御装置11は、1軸方向の力と2軸方向の夫々の軸回りのモーメントとに基づいて、作用基準点の位置を算出する作用基準点算出部26と、ロボット1が所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか否か、または、回転動作時に同じ回転方向に移動しているか否かを判定する判定部27と、を含んでいる。
【0028】
また、ロボット制御装置11は、後述するように操作部6が切替部として使用された場合に、力検出部(力センサ3)に対して力を作用させたときの、力の作用方向、または、力の作用点の位置に基づいて、動作特性を設定する設定する設定部28を含んでいる。さらに、ロボット制御装置11の各種設定を入力することのできる入力装置29、例えばティーチングペンダント、キーボードなどがロボット制御装置11に接続されている。
【0029】
図2は操作部を拡大して示す拡大図である。図2に示されるように、力センサ3は操作部6と関節構造部7との間に配置されている。そして、操作部6は関節構造部7を介して取付部8に連結している。図2における操作部6は略筒型のグリップを具備しており、その高さ方向に沿って複数の色の塗料が順次塗布されている。図2においては、異なる三つの色の塗料が順次塗布されているものとする。あるいは、操作部6の表面状態が高さ方向に沿って順次変更されるようにしてもよい。または、操作部6の表面にその高さ方向に沿って異なる文字、柄が順次付加されていてもよい。
【0030】
関節構造部7によって操作部6の位置および姿勢を変更することができ、また変更された状態で操作部6の位置および姿勢を保持できるものとする。関節構造部7は、操作部6の位置、姿勢などをより冗長性を持たせられるように、複数の関節部から構成されていてもよい。取付部8はマグネットなどを含んでおり、他の部材に容易に固定できるものとする。
【0031】
また、図3(a)および図3(b)は操作部の取付部位を示す拡大図である。図3(a)においては、ツール4はツール固定部5を介してロボットアーム2の先端に取付けられている。そして、力センサ3と一体化された操作部6は、取付部8をツール固定部5の或る面に取付けることによって配置されている。
【0032】
図3(b)においては、ツール4およびツール固定部5の代わりに、ハンド9がロボットアーム2の先端部分に取付けられている。そして、力センサ3と一体化された操作部6は、取付部8をロボットアーム2の先端またはハンド9の側部に取付けることによって、配置されている。
【0033】
このように、一体化された力センサ3および操作部6の取付け箇所は、ロボット1の先端や、ツール4、ハンド9、ツール固定部5、あるいはハンドで把持されたワークW、また、そのようなエンドエフェクタ部以外のロボットアーム部などであってよい。なお、そのような取付け箇所は、ツールやハンド、ワークなどが存在する場合のエンドエフェクタ部の形状や取付け可能な箇所を考慮し、エンドエフェクタ部の操作に干渉しない場所かつ操作時に周辺機器に干渉しない場所であるのが好ましく、ティーチング作業に都合のよい場所であるのがさらに望ましい。
【0034】
また、図面には示さないものの、ロボット1の手先部に力センサ3が取付けられている場合には、力センサ3に取付けられたツール4やハンド9などを操作部6として使用し、ツール4やハンド9などの部位に力を作用させて、ダイレクトティーチをおこなうようにしてもよい。
【0035】
図4は仮想力を算出する概念を説明するための力センサ座標系を示す図である。以下、図4を参照して、力センサ座標系上における仮想力を算出する概念を説明する。なお、仮想力の算出は仮想力算出部23がおこなうものとする。
【0036】
図4においては、力センサ3により検出されるZ軸方向に作用する力Fz、X軸回りに作用するモーメントMx、およびY軸回りに作用するモーメントMyを利用する。また、本発明においては、力を作用させる操作部6における位置は、力を検出できる軸に対して平行な軸上であり、図4においてはそのような位置はZ軸上で変更されるものとする。
【0037】
図4における或る点P1(0、0、R1)に対して、マイナスY軸と平行な方向に、F1の大きさの力を作用させたときに検出されるX軸回りのモーメントをMx1とする。同様に、他の点P2(0、0、R2)に対して、マイナスY軸と平行な方向に、F1の大きさの力を作用させたときに検出されるX軸回りのモーメントをMx2とする。ただし、R2>R1>0であるものとする。
【0038】
この場合におけるモーメントMx1、Mx2は、それぞれ以下の式(1)、(2)で表される。
Mx1=F1*R1 (1)
Mx2=F1*R2 (2)
【0039】
そして、R2>R1の関係があるので、Mx2>Mx1である。
【0040】
ここで、仮想力を算出するために、力の作用点と仮定する点を作用基準点と呼ぶことにする。ここでは、作用基準点算出部26が、作用基準点をP2(0、0、R2)に設定するものとする。
【0041】
この場合には、点P2で大きさF1の力を作用させたときに算出される仮想的な力はMx2/R2で表されると共に、点P1で大きさF1の力を作用させたときに算出される仮想的な力は、Mx1/R2で表される。さらにMx2/R2>Mx1/R2の関係があるものとする。
【0042】
従って、同じ大きさの力を作用させても、力を作用させる位置が異なる場合、仮想的な力の大きさは変化する。このように、力の作用する位置を、或る適当な位置に設定し、その位置とモーメントの値から算出される仮想的な力を、仮想力と呼ぶことにする。
【0043】
また、ダイレクトティーチによってロボットを移動させる際に基準とする座標系を、移動基準座標系と呼ぶことにする。移動基準座標系を用いることによって、ロボットの移動動作において、原点位置によって回転時の中心位置が定まると共に、移動基準座標系の姿勢によって並進移動方向が定まる。
【0044】
移動基準座標系の位置および姿勢は、移動基準座標系設定部21によって任意に設定できるものとする。移動基準座標系を例えば、ロボットの手先部に対して位置および姿勢が固定される座標系、ロボットの基準座標系に対して位置および姿勢が固定される座標系、または、力センサ座標系に対して位置および姿勢が固定される座標系などと設定してもよい。つまり、移動基準座標系は、ロボットの基準座標系に対して同じ位置、または、座標系を固定させた部分の移動と共に、位置および姿勢が変化可能に設定することが望ましい。後述する図7においては、移動基準座標系はツール4の先端に固定されるものとする。
【0045】
ロボットの移動基準座標系を上記のように任意の位置に設定することによって、ダイレクトティーチ時に、任意の動きを教示することができる。さらに、移動方法設定部22が移動基準座標系に基づいて、ロボットを回転させるか、または並進方向に移動させるかについての移動方法を設定する。
【0046】
本発明では、前述したように求められる仮想力と、移動基準座標系と、並進移動か回転移動かどうかの移動方法とに基づいて、力制御作用力算出部24が力制御作用力を算出する。そして、力制御部25を用いて、力制御作用力に基づいた力制御によるダイレクトティーチをおこなう。これにより、同じ力を作用させた場合であっても、力を作用させる位置によって操作感を変えることが可能となる。図4を用いて説明した場合には、力センサ座標系の原点に近い位置で力を作用させた方が、同じ力を作用させてもダイレクトティーチ時の動きを小さくすることができる。
【0047】
図5は操作部を拡大して示す他の拡大図である。図5においては、オペレータが操作部6における力を作用させる位置を力センサ座標系の原点に近づけることと、ツール4の先端に近づけることとが対応するような位置関係で、操作部6および力センサ3が一体的に取付けられているものとする。
【0048】
図5においては、力センサ座標系の原点(力センサに設定されており、図7を参照されたい)に近い位置で力を作用させた場合の方が、より細やかな動きでロボット1を操作することが可能である。従って、オペレータがツールを持って細やかな作業をするときには、力を作用させる(文字を書く、また、加工作業などをおこなう)部分により近い位置を持って操作するという感覚に、ダイレクトティーチの操作感を合わせることができる。このため、より直感的な操作を可能にすることができる。
【0049】
なお、必要に応じて、力センサ3に取付けられた物体の質量・重心とロボットの移動動作とを参照すると共に、公知の方法、例えば特許第4267027号に開示される手法によって、重力や慣性力を補償して仮想力を算出することが望ましい。
【0050】
図6は仮想力を算出する概念を説明するための図である。図6においては、力を作用させる点の位置を、Z軸とは異なっていて、Z軸に対して平行な軸上で変えるものとする。図6においては、Z軸に対して平行な軸と、X−Y平面との交点をP0(rx、ry、0)で表す。さらに、力の作用点の位置を(rx、ry、rz)とすると、Mx、Myは、それぞれ以下の式(3)、(4)で表される。ただし、rz≠0とする。
Mx=Fz*ry−Fy*rz (3)
My=−Fz*rx+Fx*rz (4)
【0051】
従って、力Fx、Fyは、それぞれ以下の式(5)、(6)で表される。
Fx=(My+Fz*rx)/rz (5)
Fy=(−Mx+Fz*ry)/rz (6)
【0052】
これら力Fx、Fyの式(5)、(6)から分かるように、rx、ryが定数である場合には、力Fz、およびモーメントMx、Myは既知であるので、力Fx、Fyの大きさは、rzに応じて定まる。
【0053】
図6に示されるように、Z軸に対して平行な軸上に異なる二つの点P1(rx、ry、R1)および点P2(rx、ry、R2)を設定する。そして、これら点P1、P2に対して同じ大きさの力F2(Fx、Fy、Fz)を作用させた場合であっても、上記したのと同様に、作用基準点を設定して、仮想力を求めることにより、異なる大きさの仮想力を得ることができる。
【0054】
従って、同じ大きさの力を作用させる点の位置を、Z軸とは異なる、Z軸に対して平行な軸上で変えた場合でも、仮想力の大きさを変えることができる。
【0055】
図7は力制御作用力を説明するための図である。以下、図7を参照して、力制御作用力によるダイレクトティーチについて説明する。なお、以下の説明においては、移動基準座標系をツール4の先端部分に設定する。
【0056】
はじめに、前述したのと同様に、仮想力算出部23が力センサ座標系に対する仮想力を算出する。次いで、移動基準座標系設定部21が移動基準座標系を定め、移動方法設定部22が、移動基準座標系の原点を中心として回転移動をさせるか、または、移動基準座標系の軸方向と平行な方向に平行移動をさせるかの設定をおこなう。さらに、力制御作用力算出部24が仮想力に基づいて、ロボット1を力制御で動かすための、力制御作用力を算出する。最終的に、力制御作用力に応じて、力制御部25が力制御によりロボット1を操作する。
【0057】
(1)ここで、力制御作用力を算出する場合で、かつ、ロボット1の基準座標系から見た力センサ座標系の位置・姿勢を使用しない場合について述べる。
【0058】
ロボット1を並進移動させるときには、力センサ座標系と移動基準座標系の姿勢を可能な限り合わせておくことが望ましい。そして、力センサ座標系上で算出した仮想力のベクトルFvを、移動基準座標系上の力ベクトルFtとし、力ベクトルFtに基づいて、力制御をおこなう。
【0059】
ロボット1を回転移動させるときにも、力センサ座標系と移動基準座標系の姿勢を可能な限り合わせておくことが望ましい。そして、力センサで検出されるモーメントMsを、移動基準座標系上のモーメントMtとし、モーメントMtに基づいて、力制御をおこなう。
【0060】
あるいは、力センサ座標系上で算出した仮想力Fvと、仮想力が作用する力センサ座標系上の位置Pwとに基づいて、モーメントMvを算出する。そのモーメントを移動基準座標系上のモーメントMtとし、そのモーメントに基づいて、力制御をおこなうようにしてもよい。仮想力が作用する力センサ座標系上の位置は、仮想力を算出する際に用いた作用基準点、または、仮想力の算出で用いた点とは異なる所定の点を用意しその点の位置を用いる。
【0061】
(2)さらに、力制御作用力を算出する場合で、かつ、力センサ座標系の位置・姿勢を使用する場合について以下で述べる。
【0062】
ロボット1を並進移動させるときには、力センサ座標系上で算出した仮想力のベクトルFvを、ロボットの基準座標系から見たベクトルFrに変換する。次いで、その力ベクトルFrを、移動基準座標系上の力ベクトルFtに変換し、力ベクトルFtに基づいて力制御をおこなう。
【0063】
ロボット1を回転移動させるときには、力センサ座標系上で算出した仮想力のベクトルFvを、移動基準座標系上の力ベクトルFtに変換する。さらに、仮想力を算出する際に用いた作用基準点、または、仮想力の算出で用いた点とは異なる所定の点を用意しその点を、移動基準座標系から見た位置Ptに変換する。次いで、移動基準座標系上で、前記力ベクトルFtおよび位置ベクトルPtに基づいて、モーメントMtを求める。そして、そのモーメントMtに基づいて、力制御をおこなう。
【0064】
ここで、力センサ座標系を設定する場合、次のような方法が考えられる。はじめに、力センサ3に取付けられ、力センサ3に対して、位置および姿勢関係が変わらない部分を予め設定する。そして、力センサ座標系とその部分との間の相対位置および姿勢関係を求めて設定しておく。力センサ3および操作部6をロボット1に取付け、その位置・姿勢を変えて、移動不能に固定する。その後、力センサ座標系との位置関係が明らかな部分の、ロボットの基準座標系から見た位置・姿勢(座標系)を求める。
【0065】
この場合、座標系の求め方として、既知の方法、例えば、特許第4191080号に示されるように、6点タッチアップによる方法や、カメラを使用して簡易に求める方法などがある。この値を基に、ロボットの基準座標系から見た、力センサ座標系の位置および姿勢を求める。
【0066】
図8は操作部およびその周辺の頂面図である。図8では、並進移動モード、回転移動モード、および動作無効化モードの三つの動作状態が示されている。図8を参照しつつ、移動基準座標系の原点を中心として回転移動をさせるか、または、移動基準座標系の軸方向と平行な方向に平行移動をさせるかの設定の切替方法について説明する。
【0067】
移動方法の設定の切替方法として、 ロボット制御装置11または3軸力センサ3等に接続された入力装置29、例えば入力用のスイッチや、ティーチングペンダント、キーボードなどを用いて入力をおこなって切替える方法が考えられる。それ以外に、操作部を回転させ、その回転位置に基づいて、設定を切替える方法が考えられる。この方法について、図8を用いて説明する。まず、操作部6の機構を、操作部6をねじったときに、ある閾値以上のトルクで操作部6が回転するようにしておく。そして、図8に示されるように、操作部6の回転位置に応じてモードが切替わるようにする(このとき、回転位置が分かるように、操作部に目印となる、文字や突起をつけておくことが望ましい)。言い換えれば、操作部6は、移動基準座標系の原点を中心として回転移動をさせるか、または、移動基準座標系の軸方向と平行な方向に平行移動をさせるかの設定を切替える切替部としての役目を果たす。
【0068】
そして、ロボット制御装置11の移動方法設定部22は、操作部6の回転位置が図8における左下位置に在るときには並進移動モードに、右下位置に在るときには回転移動モードに、下方位置に在るときには動作無効化モードになるように設定する。なお、切替え時には、ロボットが動作しないようにしておくことが望ましい。
【0069】
また、ダイレクトティーチをおこなわないときには、3軸力センサ3に力を作用させてもロボット1が移動しないように、動作無効化モードを選択するのが好ましく、それにより、力制御指令が送られないようになる。
【0070】
ところで、本発明では、作用基準点算出部26は仮想力を算出するための作用基準点を1軸方向の力Fzと2軸方向の軸回りのモーメントMx、Myとに基づいて算出するのが好ましい。これにより、検出された力およびモーメントに基づいて、作用基準点を簡易に設定することができる。
【0071】
具体的には、1軸方向の力と、該1軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の夫々の軸回りのモーメントを検出できる力センサを使用する場合、代表的な或る点Paで力Fa(Fx、Fy、Fz)が作用するとする。そして、検出される力をFz、モーメントをMx、My、力の作用点の位置を(rx、ry、rz)とする。
【0072】
このような場合に得られるモーメントMx、Myは、それぞれ以下の式(7)、(8)で表される。
Mx=Fz*ry−Fy*rz (7)
My=−Fz*rx+Fx*rz (8)
【0073】
ただし、これらの力およびモーメントは、重力の影響などが補償され、正味の力であることが望ましい。
【0074】
そして、これら式に基づいて、力センサ3で検出された力FzおよびモーメントMx、Myから、力の作用点を推定することができる。これによって、設定したい点に力を作用させて、その点の位置を推定し、設定することができる。
【0075】
この点に関し、例えば以下のように算出できる。
【0076】
大きさおよび方向が既知の力(例えば、Fzは任意で、(Fx、Fy)=(1、0)、(0、1)などのように異なる値)を選択する。このように方向や大きさが異なる力で、複数回、押付動作をおこない、それらの関係式に基づいて点Paの位置を算出することができる。
【0077】
あるいは、力の作用点PaがZ軸上に配置されている場合には、力を計測できる軸以外の2つの軸で張られる平面と平行でない既知の方向に、適当な大きさの力Faを作用させる。これにより、力Fzの値から、力Fx、Fyの値を求めて、点Paの位置を算出することができる。
【0078】
さらに、力を計測できる軸以外の2つの軸で張られる平面と平行でない既知の方向に、方向が異なるように、複数回、適当な大きさの力Faを作用させてもよい。このような場合であっても、力Fzの値から、力Fx、Fyの値を求めて、点Paの位置を算出することができる。
【0079】
さらに、力の作用点Paが、力を計測できる軸とそれ以外の1つの軸で張られる平面上に配置されている場合に、その平面と平行でなくて且つ力を計測できる軸以外の2つの軸で張られる平面と平行でない既知の方向に、適当な大きさの力Faを作用させる。これによっても、力Fzの値から力Fx、Fyの値を求めて、点Paの位置を算出することができる。
【0080】
ところで、本発明では、作用基準点の位置は任意に設定できるのが好ましい。これによって、さらに、仮想力を調整できるようになる。作用基準点が設定される位置は、操作部6において、実際に存在し得る位置であっても、実際に存在せず仮想的な位置であってもよい。
【0081】
この場合には、力を作用させる位置を変更して仮想力を変更するだけでなく、力を作用させる位置が同じときでも仮想力が変えられるようになる。従って、力を作用させる位置の違いによる、仮想力の拡大縮小をさらに任意に変更することができる。
【0082】
このため、力への応答性を、作用基準点の位置の違いによって、より大きくしたり、また、より小さくしたりするスケーリングが可能となる。これによって、操作感をより所望どおりに簡易に変えることができ、ダイレクトティーチによるロボット1の操作性を向上させられる。
【0083】
図9は作用基準点の位置を変えることによって仮想力を調整することを説明するための図である。以下、図9を参照して、このことを説明する。前述した計算において、作用基準点をP2とした場合に、作用基準点までの距離を仮想的に変えることによって、仮想力を変えるようにする。
【0084】
例えば、n1<1<n2の関係を有する0より大きい二つの係数n1、n2を設定する。この場合には、以下の式(9)が成立する。
n1*R2<R2<n2*R2 (9)
【0085】
このとき、それぞれの係数を用いて仮想基準点の位置を変更したときに求められる仮想的な力を、力Fn1、Fn2とすると、係数n1を用いたときは以下の式(10)が成立し、係数n2を用いたときは以下の式(11)がそれぞれ成立する。
Fn1=Mx1/(R2*n1) (10)
Fn2=Mx1/(R2*n2) (11)
従って、以下の式(12)の関係が得られる。
Fn2<F1<Fn1 (12)
【0086】
従って、係数n2を用いた場合には、力を作用させる位置の違いによる仮想力の変化は小さく、細やかに動かすことができる。一方、係数n1を用いた場合には、力を作用させる位置の違いによる仮想力の変化は大きく、力を作用させる位置を少し変えただけで動き方を大きく変えることができ、ダイナミックに動かすことが可能となる。
【0087】
このように、ロボット制御装置11または3軸力センサ3などに接続された入力装置29を用いて、作用基準点を変更することによって、操作感を簡易に変更することができる。
【0088】
ところで、本発明においては、ロボット制御装置11は、ロボット1が所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか否か、または、回転動作時に同じ回転方向に移動しているか否かを判定する判定部27を備えることが好ましい。
【0089】
そして、判定部27がロボットが所定時間、同じ並進移動動作を継続しているか、または同じ回転移動動作を継続していると判定した場合には、仮想力算出部23は仮想力の算出方法を変更する。さらに、判定部27がロボットが所定時間、同じ並進移動動作を継続していない、または同じ回転移動動作を継続していないと判定した場合には、仮想力の算出方法の変更を無効にして仮想力の算出方法を元に戻す。
【0090】
上記した判定部27は、仮想力の作用方向が同じ方向か否かの判定を通じてロボット1が並進動作を継続しているか、または回転移動動作を継続しているかを判定する。具体的には、仮想力の作用方向が、所定時間、ある角度閾値を超えて変化しないかどうかを通じて上記判定をおこなう。あるいは、判定部27は、実際に移動する位置と移動基準座標系とに基づいて、並進動作時には同じ並進方向に移動しているか、または、回転動作時には同じ回転方向に移動しているかを判定するようにしてもよい。
【0091】
本発明では、このような判定をおこなうことにより、ロボット1を、所定時間にわたって同じ並進移動動作または回転移動動作をさせていると判断できる。さらに、現在の仮想力の大きさが所定時間前の仮想力の大きさ以上である場合には、ロボット1をその方向に継続してより高速で移動させたい状況であると判断する。そして、ロボット1の動作速度を安全な範囲で効果的に大きくするために、所定制限値を超えない程度に、係数を掛けて仮想力を大きくする。
【0092】
また、現在の仮想力の大きさが所定時間前の仮想力の大きさ以上でない場合には、ロボット1をその方向に継続して移動させたいものの、その速度を低下させたい状況であると判断する。そして、ロボット1の動作速度を小さくするために、所定制限値を下回らない程度に、係数を掛けて仮想力を小さくする。
【0093】
なお、ロボット1の移動方向が変わり、所定時間にわたって同じ並進移動動作、または、同じ回転移動動作を継続していないと判定される場合には、仮想力に掛ける係数を1に戻す。これにより、仮想力の算出方法の変更を無効にして仮想力の算出方法を元に戻す。従って、ロボット1を同じ方向に速く動かしたいときに、より速くロボット1を移動させることができる。なお、力を掛けない場合(力検出手段が検出する力またはモーメントが低下、または、仮想力が所定値以下に低下した場合)も同様である。
【0094】
また、力を検出できる方向の力についても、仮想的に大きくしたり小さくしたりして、実際とは異なる大きさの仮想力を算出することができる。その結果、ダイレクトティーチの動作を変えることも可能である。
【0095】
ところで、本発明においては、ダイレクトティーチ時の動作特性を3軸力センサ3により検出された力に基づいて設定するための状態に切替える切替部を有するのが好ましい。この切替部によって動作特性を設定するための状態に切替えられた場合には、3軸力センサ3に対して力を作用させたときの、力の作用方向(力を計測できる1軸方向の力と他の軸にかかる力の比でもよい)、または、力の作用点の位置に基づいて、動作特性を設定する設定部28をさらに備えることも好ましい。
【0096】
つまり、本発明においては、3軸力センサ3に力を作用させるだけの操作によって、ダイレクトティーチ時の動作特性を設定することができる。従って、本発明では、前記操作によってダイレクトティーチ時の動作特性を変え、力を作用させる位置が同じ場合であっても仮想力の大きさを変えたり、力制御のゲインを変えたり、ダイレクトティーチ時に動かない方向を指定したり、移動基準座標系や移動方法、作用基準点を変更するなど、ダイレクトティーチ時の動作を任意に変えることが可能となる。つまり、3軸力センサ3に力を作用させる操作と、その操作に応じたダイレクトティーチ時の動作特性を任意に設定しておくことにより、簡易に、ダイレクトティーチ時の動作特性を設定することができる。これによって、操作感をより所望どおりに簡易に変えることができ、ロボットの操作性を向上させられる。
【0097】
ダイレクトティーチ時の動作特性を設定するための状態に切替える方法としては、ティーチングペンダントなどの入力装置29から設定する方法などがある。本実施例では、操作部6を利用する方法について、図10を用いて説明する。図10は操作部およびその周辺の他の頂面図である。図10に示されるように、操作部6に対して複数の所定方向を設定する。図10では、並進移動モード、回転移動モード、動作無効化モードおよび設定変更可能モードの四つの動作状態が示されている。そして、操作部6によって、所定値以上のパルス状の力が一つの所定方向に複数回連続で与えられたときに、その所定方向に対応した設定が設定部28を通じて行われるようにする。この場合、右方位置に向かう力が操作部6に対して複数回にわたって与えられると、設定変更可能モードとなる。つまり、操作部6は力センサ3により検出された力に応じてダイレクトティーチ時の動作特性を設定するための状態に切替える切替部としての役目を果たす。
【0098】
また、別の次のような方法も考えられる。まず、操作部6の機構を、操作部6をねじったときに、ある閾値以上のトルクで操作部6が回転するようにしておく。そして、図10に示されるように、操作部6の回転位置に応じてモードが切替わるようにする(このとき、回転位置が分かるように、操作部に目印となる、文字や突起をつけておくことが望ましい)。操作部6の回転位置が、図10における左下位置に在るときには並進移動モードに、右下位置に在るときには回転移動モードに、下方位置に在るときには動作無効化モードに、右方位置に在るときには設定変更可能モードになるように設定する。なお、切替え時には、ロボットが動作しないようにしておくことが望ましい。この場合、操作部6の回転位置を右方位置にすると、設定変更可能モードとなる。
【0099】
そして、設定変更可能モードにした後で、所定時間以上連続、かつ、或る大きさ以上の力を入力として受け付けるようにする。この場合、その大きさより小さい力が与えられた場合には、入力として受け付けないようにする。さらに、入力が完了するまでは、力制御によって動かさないようにロボット1を停止させておく。設定変更が完了したら、図10に示される他の動作状態にしておくことが望ましい。
【0100】
本発明では、3軸力センサ3に作用させる力として、操作部6に作用させる力に基づいて、力制御の動作特性や、仮想力の算出方法などを変えて、ダイレクトティーチ時の力に応じたロボット1の動作特性の設定を変更する。
【0101】
操作部6に作用させる力に基づく設定手法として、操作部6に作用させる力の作用方向に応じて設定を切替えるのが好ましい。この場合、力の作用する方向を算出するために、力の作用点の位置の設定に基づいて力を算出する。
【0102】
ここで、図11(a)は操作部の斜視図であり、図11(b)は操作部の頂面図である。図11(a)および図11(b)に示されるように、オペレータによって操作部6は種々の押付方向に押圧されうる。そして、それぞれの押付方向に対して所定の設定を予め関連付ける。これにより、操作部6に対して、或る押付方向に力を作用させると、その押付方向に応じて所定の設定が行われ、設定の切替をおこなうことができる。
【0103】
力の作用方向の求め方については次のように考える。図11(a)および図11(b)に示される実施例のように、操作部6の中心を通るZ軸に直交する或る平面上で、Z軸と前記平面の交点を通る方向に力を作用させる場合、前記交点を力の作用点として、その位置に基づいて力を算出することにより、力の作用方向を求め、前記平面上で作用する力の方向の違いを検出することができる。その力の作用方向の違いに基づいて、設定を切替えることが可能である。
【0104】
図11(c)は操作部の他の頂面図である。図11(c)に示されるように、操作部6の周面に等間隔で複数の押圧部6aを設ける。操作部6の周面に対して力を作用させると、力の作用方向が押圧部6aの位置に応じて所定方向に定まるものとする。このような場合には、単に所望の位置に関連する押圧部6aを押圧することのみによって、力が操作部6にかかるようになる。また、複数の押圧部6aの代わりに、複数の、所定の方向にのみスライドする機構部(図示しない)を操作部6に設けるようにしてもよい。この場合にも同様な効果が得られるのは明らかであろう。
【0105】
操作部6に作用させる力に基づく設定手法として、検出された1軸方向の力と他の軸方向にかかる力との間の比や、力の作用する方向に基づいて、設定を切替えるようにしてもよい。この場合、力の作用する方向を算出するために、力の作用点の位置の設定に基づいて力を算出することになる。
【0106】
ところで、力センサ3に対して或る方向に力を作用させる場合、その方向が同じであれば、力の大きさに関わらず、力センサ座標系上での力の大きさの各軸方向の比は常に同じになる。このため、力の比や力が作用する方向を、入力として、所定の設定をおこなうようにする。
【0107】
図12(a)および図12(b)はピン機構部が上部に設けられている操作部の斜視図である。図示されるピン機構部6cは操作部6の上部において回転動作が可能なように取付けられたピン6bを含んでいる。あるいは、図面には示さないものの、回転動作が可能かつ任意の位置で止められ、さらに、所定の方向のみにスライドするようにして所定の方向にのみ容易に力を作用させられる機構であってもよい。この場合にバネなどによりスライド後に元位置に戻りうるようにするのが好ましい。
【0108】
図12(a)および図12(b)に示されるように、ピン機構部6cのピン6bは回転中心回りに回転動作が可能であり、操作部6に対してピン6bを所望の角度で固定させられるものとする。従って、固定されたピン6bの長手方向に力を加えれば、所望の所定方向に力を作用させることが可能となる。なお、図12(c)および図12(d)はピン機構部6cが側部に設けられている操作部の斜視図であり、このような場合にも同様にピン6bを所望の角度で固定できるものとする。
【0109】
図13(a)はY軸に対して−Z軸に近づく方向に45度の角度で操作部に力を作用させることを示す図であり、図13(b)は図13(a)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。図13(a)に示されるように、Y軸に対して45度の角度で操作部に力を作用させると、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、−1:1になる。従って、図13(b)に示されるように、Y軸に対して45度の角度をなすようにピン6bを固定し、ピン6bの長手方向に力を加えた場合、同様に、力の大きさに関わらず、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、−1:1になる。
【0110】
図13(c)はY軸に対して30度の角度で操作部に力を作用させることを示す図であり、図13(d)は図13(c)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。図13(c)に示されるように、Y軸に対して30度の角度で操作部に力を作用させると、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、−1:2になる。従って、図13(d)に示されるように、Y軸に対して30度の角度をなすようにピン6bを固定し、ピン6bの長手方向に力を加えた場合、同様に、力の大きさに関わらず、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、−1:2になる。
【0111】
さらに、図14(a)はY軸に対して0度の角度で操作部に力を作用させることを示す図であり、図14(b)は図14(a)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。図14(a)に示されるように、Y軸に対して0度の角度で操作部に力を作用させると、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は定まらず、力の作用する方向のみが得られる。このときの、Z軸とY軸との間の力の大きさの比を0:1とおくことにする。従って、図14(b)に示されるように、Y軸に対して0度の角度をなすようにピン6bを固定し、ピン6bの長手方向に力を加えた場合、同様に、力の大きさに関わらず、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、0:1になる。
【0112】
さらに、図14(c)はY軸に対して+Z軸に近づく方向に45度の角度で操作部に力を作用させることを示す図であり、図14(d)は図14(c)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。図14(c)に示されるように、Y軸に対して45度の角度で操作部に力を作用させると、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、1:1になる。従って、図14(d)に示されるように、Y軸に対して45度の角度をなすようにピン6bを固定し、ピン6bの長手方向に力を加えた場合、同様に、力の大きさに関わらず、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、1:1になる。
【0113】
これら図13(a)から図14(d)に示されるように、ピン6bの角度を変更することにより、操作部6に実質的に作用する力の方向や、力の比が定まる。従って、本発明においては、力が作用する方向を入力として、各種の設定をおこなうようにすることができる。
【0114】
あるいは、力センサ3により検出される力に基づいて作用点の位置を計算し、計算された作用点の位置に基づいて設定を変更するようにしてもよい。
【0115】
3軸力センサ3を使用する場合には、力の作用する方向が既知である必要があり、検出可能な軸方向の力に基づいて他の方向に作用する力を算出する。次いで、検出および算出した力と、検出可能なモーメントとに基づいて作用点の位置を算出する。力を作用させる位置が異なる場合には、算出される作用点の位置が異なる。従って、算出された作用点の位置の違いを利用して、設定変更のための入力とする。
【0116】
図15(a)は複数のピン機構部が設けられている操作部の斜視図である。図15(b)は図15(a)に示される一つのピン機構部の拡大図である。図15(a)においては、三つのピン機構部6c1〜6c2が操作部6の周面に高さ方向に順次設けられている。そして、三つのピン機構部6c1〜6c2の力の作用点はZ軸に対して平行な軸上に配置されている。
【0117】
図15(a)および図15(b)から分かるように、それぞれのピン機構部6c1〜6c3のピン6b1〜6b3はそれぞれZ軸に対して既知の角度θ(ここで、θは、0<θ<90°、90°<θ<180°とする)をなすように固定されている。つまり、これらピン6b1〜6b3は互いに平行に配置されている。なお、図から分かるように、これらピン6b1〜6b3は、力を検出できる軸(この場合、Z軸)とそれ以外の軸(この場合、Y軸)とで張られる平面内に力の作用ベクトルが位置するように配置されているものとする。従って、これらピン6b1〜6b3を通じて操作部6には同一の所定方向に力が作用するようになる。
【0118】
この場合には、力を作用させる方向が既知であるので、Y軸方向の力Fyは、Fz*tanθで表される。従って、この力Fyと、X軸回りのモーメントMxとを用いることにより、力の作用点のZ軸方向の位置を求めることができる。
【0119】
この実施例においては、ピン6b1〜6b3のそれぞれの位置で力を作用させ、前述したように算出されるZ軸方向の位置に応じて、力制御の動作特性や、仮想力の算出方法などの設定を簡易に変更することができる。
【0120】
ところで、本発明では、操作部6の形状、表面状態、色、文字、柄のうちの少なくとも一つは、操作部6の部位に応じて,変更されていることが好ましい。操作部6の位置に応じて、操作部の形状、表面状態が変更されていることにより、操作部に対して力を作用させる位置が、操作部においてどの辺りに位置するかということが分かりやすくなる。
【0121】
例えば、図2に示すように、操作部6において力センサ3から離れる方向に位置するほど、表面状態を粗く、または、凹凸や段を大きくし、力センサ3に近づく方向に位置するほど、表面状態をなめらかに、または、凹凸や段などを小さくするなどのように表面状態を変える。これは、力を作用させる位置が、操作部6において力センサ3から離れる方向に位置するほど、操作力に対する移動距離が大きくなり、力センサ3に近づく方向に位置するほど、操作力に対する移動距離が小さくなるという、ダイレクトティーチ時の操作感と、操作部6の表面状態とを対応させている。
【0122】
これによって、本発明による操作部の位置によって異なるダイレクトティーチの操作感と、触覚情報を対応付けることができ、ダイレクトティーチ時の操作性を向上させることができる。また、手触りによって、ダイレクトティーチの操作感の違いが分かるので、予期せぬ操作などを防ぎ、安全性を向上させることもできる。
【0123】
また、操作部の位置に応じて、色や文字、柄などを変え、ダイレクトティーチ時の操作感と視覚情報を対応づけることによって、同様に、ダイレクトティーチ時の操作性や安全性を向上させることができる。
【0124】
ところで、本発明では、一体化された操作部6および力センサ3の位置および姿勢を簡易に変えられるように、ユニバーサルジョイントやフレキシブルチューブなどで構成される、位置および姿勢が変更可能な関節構造部7を設けることが好ましい。このとき、前記関節構造部7は複数のリンクによる組み合わせでもよい。さらに、変更した任意の位置および姿勢で関節部を固定できるように、関節を固定可能な部位を設けることが好ましい。
【0125】
これによって、一体化された操作部6および力センサ3と、ワークなどにおける作業平面とを容易に所望の位置関係にすることができる。また、1軸方向の力と、その軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の軸回りのモーメントのみを検出できる3軸力センサの場合、力を検出できる1軸と、ワークなどにおける作業平面に直交する軸方向が平行となるように、一体化された操作部6および力センサ3を、ロボットの手先などに、簡易に取付けることができるため、ダイレクトティーチ時の操作性が向上する。
【0126】
また、ロボットの基準座標系に対する、力センサ座標系の位置および姿勢を取得しない場合、移動基準座標系と力センサ座標系の姿勢を合わせることが望ましいが、このような関節構造部7を用いることによって、それを容易に設定することができる。
【0127】
関節構造部7をロボットやロボットの手先部などに取付けるときには、スイッチによって取付けや取外しを簡易におこなうことが可能な、マグネットを含む取付部8を用いることによって、関節構造部7をロボットやロボットの手先などに簡易に取付けることができる。または、ボルトや万力などを利用した取付部8を用いて固定させてもよい。また、そのような取付部8の形状を、V字状にするなど、取付けに都合のよい形状にしてもよい。
【0128】
前記関節構造部7や取付部8を用いることによって、一体化された操作部および力センサの、位置および姿勢の調整を簡易におこなうと共に、ロボットやロボットの手先部に簡易に取付けることができる。さらに、1軸方向の力と、その軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の軸回りのモーメントのみを検出できる3軸力センサ3を用いる場合に、本発明によるダイレクトティーチを、より簡易に実現することができる。
【0129】
以上述べたように、本発明により、オペレータの意図に基づいて、簡易に、ダイレクトティーチ時の操作感を変更することが可能なロボット教示装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0130】
1 ロボット
2 ロボットアーム
3 3軸力センサ(力検出部)
4 ツール
5 ツール固定部
6 操作部
7 関節構造部
8 取付部
9 ハンド
10 ロボットシステム(ロボット教示装置)
11 ロボット制御装置
21 移動基準座標系設定部
22 移動方法設定部
23 仮想力算出部
24 力制御作用力算出部
25 力制御部
26 作用基準点算出部
27 判定部
28 設定部
29 入力装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、力センサの出力に基づいて、ロボットのダイレクトティーチをおこなうロボット教示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来においては、特許文献1に開示されるように、ダイレクトティーチ時に、モード切替スイッチによって、操作感を変えることが開示されている。なお、操作感とは、ダイレクトティーチ時に、ロボットを力制御によって誘導するときの、与える力に対するロボットの操作感覚のことである。
【0003】
さらに、特許文献2には、ダイレクトティーチ時に、Fx、Fy、Fzの並進方向の3成分の力を検出できる力センサを用い、検出された力に応じてロボットを動かすことが開示されている。
【0004】
また、少なくとも1軸方向の力と、該1軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の夫々の軸回りのモーメントを計測できる力センサとして、静電容量式の3軸力センサなどが存在する。そのような3軸力センサは公知であり、小型で安価に生産でき、現在では広範に普及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−123907号公報
【特許文献2】特開平10−156772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、操作感を変更するために、スイッチを切替える必要がある。操作感の変更時にはこのような切替作業が必須となるので、切替作業は比較的煩雑であるという問題があった。
【0007】
さらに、力を作用させる位置を変えた場合には、スイッチなどを用いることなく、操作感を変えることはできなかった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、スイッチなどを用いることなしに、操作感を簡易に変更することのできるロボット教示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、操作部に加えられた操作力により、力制御をおこなってロボットを移動させて、該ロボットの位置・姿勢を教示するロボット教示装置において、少なくとも1軸方向の力と、該1軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の夫々の軸回りのモーメントを検出する力検出部を具備し、前記操作部に接続された力検出部により検出された力に基づいて前記力制御をおこなうようになっており、前記力検出部の座標系中心点と力の作用点とが互いに異なる位置になるように配置されており、さらに、前記ロボットを移動させるときに基準とする移動基準座標系を設定する移動基準座標系設定部と、前記ロボットを前記移動基準座標系の原点回りに回転移動させるか、前記移動基準座標系を基準にして並進移動させるかのいずれかの移動方法を設定する移動方法設定部と、前記1軸方向の力と、前記2軸方向の夫々の軸回りのモーメントと、所定の作用基準点の位置とに基づいて、前記作用基準点における仮想力を算出する仮想力算出部と、前記移動基準座標系設定部により設定された移動基準座標系と、前記移動方法設定部により設定された移動方法と、前記仮想力算出部により算出された仮想力とに基づいて、前記ロボットに対する力制御作用力を算出する力制御作用力算出部と、前記力制御作用力に基づいて力制御をおこなう力制御部と、を備えることを特徴とする、ロボット教示装置が提供される。
【0010】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記1軸方向の力と前記2軸方向の夫々の軸回りのモーメントとに基づいて、前記作用基準点の位置を算出する作用基準点算出部を備える。
【0011】
3番目の発明によれば、1番目の発明において、前記作用基準点の設定位置は任意に変更可能であり、前記仮想力算出部は変更された作用基準点に基づいて新たな仮想力を算出する。
【0012】
4番目の発明によれば、1番目から3番目のいずれかの発明において、さらに、前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか否か、または、回転動作時に同じ回転方向に移動しているか否かを判定する判定部を具備し、前記仮想力算出部は、前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか、または、回転動作時に同じ回転方向に移動していると判定した場合には仮想力の算出方法を変更し、前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動していないか、または、回転動作時に同じ回転方向に移動していないと判定した場合には、前記仮想力の算出方法の変更を無効にして仮想力の算出方法を元に戻す。
【0013】
5番目の発明によれば、1番目から4番目のいずれかの発明において、ダイレクトティーチ時の動作特性を設定するための状態に切替える切替部と、前記切替部によって前記動作特性を設定するための状態に切替えられた場合には、前記力検出部に対して力を作用させたときの、力の作用方向、または、力の作用点の位置に基づいて、前記動作特性を設定する設定部を備える。
【0014】
6番目の発明によれば、1番目から5番目のいずれかの発明において、前記操作部の形状、表面状態、色、文字、柄のうちの少なくとも一つは、前記操作部の部位に応じて、変更されている。
【0015】
7番目の発明によれば、1番目から6番目のいずれかの発明において、前記操作部と前記力検出部とが一体化されており、一体化された前記操作部および前記力検出部は、該操作部および該力検出部を前記ロボットまたはロボットのエンドエフェクタ部に固定するための取付け固定部と、前記操作部および前記力検出部の姿勢および位置を変更する関節構造部とを含んでいる。
【0016】
8番目の発明によれば、7番目の発明において、前記取付け固定部がマグネットを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、1軸方向の力と、その軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の軸回りのモーメントとを検出できれば十分である安価な力検出部、例えば力センサなどを利用して、ダイレクトティーチをおこなっている。さらに、モーメント成分の値を検出できることを利用して、同じ力を作用させても、力を作用させる部位に応じて、ロボットの動きを変えることを可能とする教示装置を提案する。
【0018】
本発明では、同じ力を与えた場合であっても、スイッチなどで操作感を変える必要性なしに、力を作用させる位置によって、簡易に、連続的に、力制御でロボットを動かすときに基準となる力(以降、「力制御作用力」と呼ぶことにする)を変えることができる。このため、本発明では、操作感を簡易に変更すると共に、操作性を向上させられる。
【0019】
以上のように、一つの力成分と二つのモーメント成分からなる3成分さえ検出できればよいので安価な力検出部、例えば力センサで足りる。さらに、力を作用させる部位を変えるだけで、ダイレクトティーチ作業の操作感を変更でできるため、安価かつ操作性を向上させたロボット教示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に基づくロボット制御装置を含むロボットシステムの斜視図である。
【図2】操作部を拡大して示す拡大図である。
【図3】(a)操作部の取付部位を示す第一の拡大図である。(b)操作部の取付部位を示す第二の拡大図である。
【図4】仮想力を算出する概念を説明するための力センサ座標系を示す図である。
【図5】操作部を拡大して示す他の拡大図である。
【図6】仮想力を算出する概念を説明するための図である。
【図7】力制御作用力を説明するための図である。
【図8】操作部およびその周辺の頂面図である。
【図9】作用基準点の位置を変えることによって仮想力を調整することを説明するための図である。
【図10】操作部およびその周辺の他の頂面図である。
【図11】(a)操作部の斜視図である。(b)操作部の頂面図である。(c)操作部の他の頂面図である。
【図12】(a)ピン機構部が上部に設けられている操作部の第一の斜視図である。(b)ピン機構部が上部に設けられている操作部の第二の斜視図である。(c)ピン機構部が側部に設けられている操作部の第一の斜視図である。(d)ピン機構部が側部に設けられている操作部の第二の斜視図である。
【図13】(a)Y軸に対して45度の角度で操作部に力を作用させることを示す図である。(b)図13(a)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。(c)Y軸に対して30度の角度で操作部に力を作用させることを示す図である。(d)図13(c)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。
【図14】(a)Y軸に対して0度の角度で操作部に力を作用させることを示す図である。(b)図14(a)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。(c)Y軸に対して45度の角度で操作部に力を作用させることを示す図である。(d)図14(c)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。
【図15】(a)複数のピン機構部が設けられている操作部の斜視図である。(b)図15(a)に示される一つのピン機構部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
【0022】
図1は本発明に基づくロボット制御装置を含むロボットシステムの斜視図である。図1に示されるロボットシステム10は、ロボット1とロボット制御装置11とを含んでいる。ロボット1は、6軸構成の垂直多関節型ロボットとするが、それ以外の構造のロボットでもよい。図示されるように、ロボット1のロボットアーム2の先端には、ワークWを加工するツール4が取付けられている。なお、便宜上、ツール4は下向きの円錐形としているが、他の形状のツール4を採用してもよい。
【0023】
さらに、図1においては、オペレータがロボット1のツール4近傍に取付けられたグリップを握り、ロボット1の先端を作業点の軌跡に沿って移動しダイレクトティーチするための操作部6が設けられている。言い換えれば、操作部6はロボット1のエンドエフェクタ部に取付けられている。また、図1に示されるように、ワークWは作業台B上に載置されているものとする。
【0024】
図1に示されるように、3軸力センサ3(以下、単に「力センサ」と称する場合がある)が操作部6に取付けられていて、操作部6と一体化している。あるいは、3軸力センサ3はツール4の一部分に取付けられていてもよい。力センサには、力センサ座標系が設定されている。なお、力センサ座標系の原点は、力センサ部分にあるとする。以下においては、力センサ座標系の軸をX軸、Y軸、Z軸とし、X軸、Y軸、Z軸において作用される力をそれぞれFx、Fy、Fzと表すと共に、X軸、Y軸、Z軸回りで作用されるモーメントをそれぞれMx、My、Mzと表す。3軸力センサ3において、力を検出できる軸をZ軸、その軸に直交で且つ互いに直交する2方向の軸をそれぞれX軸、Y軸とする。本実施例では、操作部6の中心軸が力センサ座標系のZ軸と平行になるように、操作部6および3軸力センサ3が配置されているとする。力センサ3は力センサ座標系における、力FzおよびモーメントMx、Myの三つの成分が検出できるものとする。なお、力FzおよびモーメントMx、Myを検出できるセンサであれば、3軸力センサ3以外の多軸力センサを使用してもよい。
【0025】
この力センサ3はロボット制御装置11に接続されており、所定時間毎に検出された力およびモーメントのデータがロボット制御装置11に送られる。ロボット制御装置11は、力センサ3のデータや設定されたデータ、ロボットの位置データなどに基づいて、力制御をおこなうための指令を算出し、ロボット1の各軸の駆動部を制御する。
【0026】
図1に示されるように、ロボット制御装置11は、ロボット1を移動させるときに基準とする移動基準座標系を設定する移動基準座標系設定部21と、ロボット1を移動基準座標系の原点回りに回転移動させるか、移動基準座標系を基準にして並進移動させるかのいずれかの移動方法を設定する移動方法設定部22と、1軸方向の力と前記2軸方向の夫々の軸回りのモーメントと、所定の作用基準点の位置とに基づいて、作用基準点における仮想力を算出する仮想力算出部23と、移動基準座標系設定部21により設定された移動基準座標系と、移動方法設定部22により設定された移動方法と、仮想力算出部23により算出された仮想力とに基づいて、ロボットに対する力制御作用力を算出する力制御作用力算出部24と、力制御作用力に基づいて力制御をおこなう力制御部25とを含んでいる。
【0027】
さらに、図1に示されるように、ロボット制御装置11は、1軸方向の力と2軸方向の夫々の軸回りのモーメントとに基づいて、作用基準点の位置を算出する作用基準点算出部26と、ロボット1が所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか否か、または、回転動作時に同じ回転方向に移動しているか否かを判定する判定部27と、を含んでいる。
【0028】
また、ロボット制御装置11は、後述するように操作部6が切替部として使用された場合に、力検出部(力センサ3)に対して力を作用させたときの、力の作用方向、または、力の作用点の位置に基づいて、動作特性を設定する設定する設定部28を含んでいる。さらに、ロボット制御装置11の各種設定を入力することのできる入力装置29、例えばティーチングペンダント、キーボードなどがロボット制御装置11に接続されている。
【0029】
図2は操作部を拡大して示す拡大図である。図2に示されるように、力センサ3は操作部6と関節構造部7との間に配置されている。そして、操作部6は関節構造部7を介して取付部8に連結している。図2における操作部6は略筒型のグリップを具備しており、その高さ方向に沿って複数の色の塗料が順次塗布されている。図2においては、異なる三つの色の塗料が順次塗布されているものとする。あるいは、操作部6の表面状態が高さ方向に沿って順次変更されるようにしてもよい。または、操作部6の表面にその高さ方向に沿って異なる文字、柄が順次付加されていてもよい。
【0030】
関節構造部7によって操作部6の位置および姿勢を変更することができ、また変更された状態で操作部6の位置および姿勢を保持できるものとする。関節構造部7は、操作部6の位置、姿勢などをより冗長性を持たせられるように、複数の関節部から構成されていてもよい。取付部8はマグネットなどを含んでおり、他の部材に容易に固定できるものとする。
【0031】
また、図3(a)および図3(b)は操作部の取付部位を示す拡大図である。図3(a)においては、ツール4はツール固定部5を介してロボットアーム2の先端に取付けられている。そして、力センサ3と一体化された操作部6は、取付部8をツール固定部5の或る面に取付けることによって配置されている。
【0032】
図3(b)においては、ツール4およびツール固定部5の代わりに、ハンド9がロボットアーム2の先端部分に取付けられている。そして、力センサ3と一体化された操作部6は、取付部8をロボットアーム2の先端またはハンド9の側部に取付けることによって、配置されている。
【0033】
このように、一体化された力センサ3および操作部6の取付け箇所は、ロボット1の先端や、ツール4、ハンド9、ツール固定部5、あるいはハンドで把持されたワークW、また、そのようなエンドエフェクタ部以外のロボットアーム部などであってよい。なお、そのような取付け箇所は、ツールやハンド、ワークなどが存在する場合のエンドエフェクタ部の形状や取付け可能な箇所を考慮し、エンドエフェクタ部の操作に干渉しない場所かつ操作時に周辺機器に干渉しない場所であるのが好ましく、ティーチング作業に都合のよい場所であるのがさらに望ましい。
【0034】
また、図面には示さないものの、ロボット1の手先部に力センサ3が取付けられている場合には、力センサ3に取付けられたツール4やハンド9などを操作部6として使用し、ツール4やハンド9などの部位に力を作用させて、ダイレクトティーチをおこなうようにしてもよい。
【0035】
図4は仮想力を算出する概念を説明するための力センサ座標系を示す図である。以下、図4を参照して、力センサ座標系上における仮想力を算出する概念を説明する。なお、仮想力の算出は仮想力算出部23がおこなうものとする。
【0036】
図4においては、力センサ3により検出されるZ軸方向に作用する力Fz、X軸回りに作用するモーメントMx、およびY軸回りに作用するモーメントMyを利用する。また、本発明においては、力を作用させる操作部6における位置は、力を検出できる軸に対して平行な軸上であり、図4においてはそのような位置はZ軸上で変更されるものとする。
【0037】
図4における或る点P1(0、0、R1)に対して、マイナスY軸と平行な方向に、F1の大きさの力を作用させたときに検出されるX軸回りのモーメントをMx1とする。同様に、他の点P2(0、0、R2)に対して、マイナスY軸と平行な方向に、F1の大きさの力を作用させたときに検出されるX軸回りのモーメントをMx2とする。ただし、R2>R1>0であるものとする。
【0038】
この場合におけるモーメントMx1、Mx2は、それぞれ以下の式(1)、(2)で表される。
Mx1=F1*R1 (1)
Mx2=F1*R2 (2)
【0039】
そして、R2>R1の関係があるので、Mx2>Mx1である。
【0040】
ここで、仮想力を算出するために、力の作用点と仮定する点を作用基準点と呼ぶことにする。ここでは、作用基準点算出部26が、作用基準点をP2(0、0、R2)に設定するものとする。
【0041】
この場合には、点P2で大きさF1の力を作用させたときに算出される仮想的な力はMx2/R2で表されると共に、点P1で大きさF1の力を作用させたときに算出される仮想的な力は、Mx1/R2で表される。さらにMx2/R2>Mx1/R2の関係があるものとする。
【0042】
従って、同じ大きさの力を作用させても、力を作用させる位置が異なる場合、仮想的な力の大きさは変化する。このように、力の作用する位置を、或る適当な位置に設定し、その位置とモーメントの値から算出される仮想的な力を、仮想力と呼ぶことにする。
【0043】
また、ダイレクトティーチによってロボットを移動させる際に基準とする座標系を、移動基準座標系と呼ぶことにする。移動基準座標系を用いることによって、ロボットの移動動作において、原点位置によって回転時の中心位置が定まると共に、移動基準座標系の姿勢によって並進移動方向が定まる。
【0044】
移動基準座標系の位置および姿勢は、移動基準座標系設定部21によって任意に設定できるものとする。移動基準座標系を例えば、ロボットの手先部に対して位置および姿勢が固定される座標系、ロボットの基準座標系に対して位置および姿勢が固定される座標系、または、力センサ座標系に対して位置および姿勢が固定される座標系などと設定してもよい。つまり、移動基準座標系は、ロボットの基準座標系に対して同じ位置、または、座標系を固定させた部分の移動と共に、位置および姿勢が変化可能に設定することが望ましい。後述する図7においては、移動基準座標系はツール4の先端に固定されるものとする。
【0045】
ロボットの移動基準座標系を上記のように任意の位置に設定することによって、ダイレクトティーチ時に、任意の動きを教示することができる。さらに、移動方法設定部22が移動基準座標系に基づいて、ロボットを回転させるか、または並進方向に移動させるかについての移動方法を設定する。
【0046】
本発明では、前述したように求められる仮想力と、移動基準座標系と、並進移動か回転移動かどうかの移動方法とに基づいて、力制御作用力算出部24が力制御作用力を算出する。そして、力制御部25を用いて、力制御作用力に基づいた力制御によるダイレクトティーチをおこなう。これにより、同じ力を作用させた場合であっても、力を作用させる位置によって操作感を変えることが可能となる。図4を用いて説明した場合には、力センサ座標系の原点に近い位置で力を作用させた方が、同じ力を作用させてもダイレクトティーチ時の動きを小さくすることができる。
【0047】
図5は操作部を拡大して示す他の拡大図である。図5においては、オペレータが操作部6における力を作用させる位置を力センサ座標系の原点に近づけることと、ツール4の先端に近づけることとが対応するような位置関係で、操作部6および力センサ3が一体的に取付けられているものとする。
【0048】
図5においては、力センサ座標系の原点(力センサに設定されており、図7を参照されたい)に近い位置で力を作用させた場合の方が、より細やかな動きでロボット1を操作することが可能である。従って、オペレータがツールを持って細やかな作業をするときには、力を作用させる(文字を書く、また、加工作業などをおこなう)部分により近い位置を持って操作するという感覚に、ダイレクトティーチの操作感を合わせることができる。このため、より直感的な操作を可能にすることができる。
【0049】
なお、必要に応じて、力センサ3に取付けられた物体の質量・重心とロボットの移動動作とを参照すると共に、公知の方法、例えば特許第4267027号に開示される手法によって、重力や慣性力を補償して仮想力を算出することが望ましい。
【0050】
図6は仮想力を算出する概念を説明するための図である。図6においては、力を作用させる点の位置を、Z軸とは異なっていて、Z軸に対して平行な軸上で変えるものとする。図6においては、Z軸に対して平行な軸と、X−Y平面との交点をP0(rx、ry、0)で表す。さらに、力の作用点の位置を(rx、ry、rz)とすると、Mx、Myは、それぞれ以下の式(3)、(4)で表される。ただし、rz≠0とする。
Mx=Fz*ry−Fy*rz (3)
My=−Fz*rx+Fx*rz (4)
【0051】
従って、力Fx、Fyは、それぞれ以下の式(5)、(6)で表される。
Fx=(My+Fz*rx)/rz (5)
Fy=(−Mx+Fz*ry)/rz (6)
【0052】
これら力Fx、Fyの式(5)、(6)から分かるように、rx、ryが定数である場合には、力Fz、およびモーメントMx、Myは既知であるので、力Fx、Fyの大きさは、rzに応じて定まる。
【0053】
図6に示されるように、Z軸に対して平行な軸上に異なる二つの点P1(rx、ry、R1)および点P2(rx、ry、R2)を設定する。そして、これら点P1、P2に対して同じ大きさの力F2(Fx、Fy、Fz)を作用させた場合であっても、上記したのと同様に、作用基準点を設定して、仮想力を求めることにより、異なる大きさの仮想力を得ることができる。
【0054】
従って、同じ大きさの力を作用させる点の位置を、Z軸とは異なる、Z軸に対して平行な軸上で変えた場合でも、仮想力の大きさを変えることができる。
【0055】
図7は力制御作用力を説明するための図である。以下、図7を参照して、力制御作用力によるダイレクトティーチについて説明する。なお、以下の説明においては、移動基準座標系をツール4の先端部分に設定する。
【0056】
はじめに、前述したのと同様に、仮想力算出部23が力センサ座標系に対する仮想力を算出する。次いで、移動基準座標系設定部21が移動基準座標系を定め、移動方法設定部22が、移動基準座標系の原点を中心として回転移動をさせるか、または、移動基準座標系の軸方向と平行な方向に平行移動をさせるかの設定をおこなう。さらに、力制御作用力算出部24が仮想力に基づいて、ロボット1を力制御で動かすための、力制御作用力を算出する。最終的に、力制御作用力に応じて、力制御部25が力制御によりロボット1を操作する。
【0057】
(1)ここで、力制御作用力を算出する場合で、かつ、ロボット1の基準座標系から見た力センサ座標系の位置・姿勢を使用しない場合について述べる。
【0058】
ロボット1を並進移動させるときには、力センサ座標系と移動基準座標系の姿勢を可能な限り合わせておくことが望ましい。そして、力センサ座標系上で算出した仮想力のベクトルFvを、移動基準座標系上の力ベクトルFtとし、力ベクトルFtに基づいて、力制御をおこなう。
【0059】
ロボット1を回転移動させるときにも、力センサ座標系と移動基準座標系の姿勢を可能な限り合わせておくことが望ましい。そして、力センサで検出されるモーメントMsを、移動基準座標系上のモーメントMtとし、モーメントMtに基づいて、力制御をおこなう。
【0060】
あるいは、力センサ座標系上で算出した仮想力Fvと、仮想力が作用する力センサ座標系上の位置Pwとに基づいて、モーメントMvを算出する。そのモーメントを移動基準座標系上のモーメントMtとし、そのモーメントに基づいて、力制御をおこなうようにしてもよい。仮想力が作用する力センサ座標系上の位置は、仮想力を算出する際に用いた作用基準点、または、仮想力の算出で用いた点とは異なる所定の点を用意しその点の位置を用いる。
【0061】
(2)さらに、力制御作用力を算出する場合で、かつ、力センサ座標系の位置・姿勢を使用する場合について以下で述べる。
【0062】
ロボット1を並進移動させるときには、力センサ座標系上で算出した仮想力のベクトルFvを、ロボットの基準座標系から見たベクトルFrに変換する。次いで、その力ベクトルFrを、移動基準座標系上の力ベクトルFtに変換し、力ベクトルFtに基づいて力制御をおこなう。
【0063】
ロボット1を回転移動させるときには、力センサ座標系上で算出した仮想力のベクトルFvを、移動基準座標系上の力ベクトルFtに変換する。さらに、仮想力を算出する際に用いた作用基準点、または、仮想力の算出で用いた点とは異なる所定の点を用意しその点を、移動基準座標系から見た位置Ptに変換する。次いで、移動基準座標系上で、前記力ベクトルFtおよび位置ベクトルPtに基づいて、モーメントMtを求める。そして、そのモーメントMtに基づいて、力制御をおこなう。
【0064】
ここで、力センサ座標系を設定する場合、次のような方法が考えられる。はじめに、力センサ3に取付けられ、力センサ3に対して、位置および姿勢関係が変わらない部分を予め設定する。そして、力センサ座標系とその部分との間の相対位置および姿勢関係を求めて設定しておく。力センサ3および操作部6をロボット1に取付け、その位置・姿勢を変えて、移動不能に固定する。その後、力センサ座標系との位置関係が明らかな部分の、ロボットの基準座標系から見た位置・姿勢(座標系)を求める。
【0065】
この場合、座標系の求め方として、既知の方法、例えば、特許第4191080号に示されるように、6点タッチアップによる方法や、カメラを使用して簡易に求める方法などがある。この値を基に、ロボットの基準座標系から見た、力センサ座標系の位置および姿勢を求める。
【0066】
図8は操作部およびその周辺の頂面図である。図8では、並進移動モード、回転移動モード、および動作無効化モードの三つの動作状態が示されている。図8を参照しつつ、移動基準座標系の原点を中心として回転移動をさせるか、または、移動基準座標系の軸方向と平行な方向に平行移動をさせるかの設定の切替方法について説明する。
【0067】
移動方法の設定の切替方法として、 ロボット制御装置11または3軸力センサ3等に接続された入力装置29、例えば入力用のスイッチや、ティーチングペンダント、キーボードなどを用いて入力をおこなって切替える方法が考えられる。それ以外に、操作部を回転させ、その回転位置に基づいて、設定を切替える方法が考えられる。この方法について、図8を用いて説明する。まず、操作部6の機構を、操作部6をねじったときに、ある閾値以上のトルクで操作部6が回転するようにしておく。そして、図8に示されるように、操作部6の回転位置に応じてモードが切替わるようにする(このとき、回転位置が分かるように、操作部に目印となる、文字や突起をつけておくことが望ましい)。言い換えれば、操作部6は、移動基準座標系の原点を中心として回転移動をさせるか、または、移動基準座標系の軸方向と平行な方向に平行移動をさせるかの設定を切替える切替部としての役目を果たす。
【0068】
そして、ロボット制御装置11の移動方法設定部22は、操作部6の回転位置が図8における左下位置に在るときには並進移動モードに、右下位置に在るときには回転移動モードに、下方位置に在るときには動作無効化モードになるように設定する。なお、切替え時には、ロボットが動作しないようにしておくことが望ましい。
【0069】
また、ダイレクトティーチをおこなわないときには、3軸力センサ3に力を作用させてもロボット1が移動しないように、動作無効化モードを選択するのが好ましく、それにより、力制御指令が送られないようになる。
【0070】
ところで、本発明では、作用基準点算出部26は仮想力を算出するための作用基準点を1軸方向の力Fzと2軸方向の軸回りのモーメントMx、Myとに基づいて算出するのが好ましい。これにより、検出された力およびモーメントに基づいて、作用基準点を簡易に設定することができる。
【0071】
具体的には、1軸方向の力と、該1軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の夫々の軸回りのモーメントを検出できる力センサを使用する場合、代表的な或る点Paで力Fa(Fx、Fy、Fz)が作用するとする。そして、検出される力をFz、モーメントをMx、My、力の作用点の位置を(rx、ry、rz)とする。
【0072】
このような場合に得られるモーメントMx、Myは、それぞれ以下の式(7)、(8)で表される。
Mx=Fz*ry−Fy*rz (7)
My=−Fz*rx+Fx*rz (8)
【0073】
ただし、これらの力およびモーメントは、重力の影響などが補償され、正味の力であることが望ましい。
【0074】
そして、これら式に基づいて、力センサ3で検出された力FzおよびモーメントMx、Myから、力の作用点を推定することができる。これによって、設定したい点に力を作用させて、その点の位置を推定し、設定することができる。
【0075】
この点に関し、例えば以下のように算出できる。
【0076】
大きさおよび方向が既知の力(例えば、Fzは任意で、(Fx、Fy)=(1、0)、(0、1)などのように異なる値)を選択する。このように方向や大きさが異なる力で、複数回、押付動作をおこない、それらの関係式に基づいて点Paの位置を算出することができる。
【0077】
あるいは、力の作用点PaがZ軸上に配置されている場合には、力を計測できる軸以外の2つの軸で張られる平面と平行でない既知の方向に、適当な大きさの力Faを作用させる。これにより、力Fzの値から、力Fx、Fyの値を求めて、点Paの位置を算出することができる。
【0078】
さらに、力を計測できる軸以外の2つの軸で張られる平面と平行でない既知の方向に、方向が異なるように、複数回、適当な大きさの力Faを作用させてもよい。このような場合であっても、力Fzの値から、力Fx、Fyの値を求めて、点Paの位置を算出することができる。
【0079】
さらに、力の作用点Paが、力を計測できる軸とそれ以外の1つの軸で張られる平面上に配置されている場合に、その平面と平行でなくて且つ力を計測できる軸以外の2つの軸で張られる平面と平行でない既知の方向に、適当な大きさの力Faを作用させる。これによっても、力Fzの値から力Fx、Fyの値を求めて、点Paの位置を算出することができる。
【0080】
ところで、本発明では、作用基準点の位置は任意に設定できるのが好ましい。これによって、さらに、仮想力を調整できるようになる。作用基準点が設定される位置は、操作部6において、実際に存在し得る位置であっても、実際に存在せず仮想的な位置であってもよい。
【0081】
この場合には、力を作用させる位置を変更して仮想力を変更するだけでなく、力を作用させる位置が同じときでも仮想力が変えられるようになる。従って、力を作用させる位置の違いによる、仮想力の拡大縮小をさらに任意に変更することができる。
【0082】
このため、力への応答性を、作用基準点の位置の違いによって、より大きくしたり、また、より小さくしたりするスケーリングが可能となる。これによって、操作感をより所望どおりに簡易に変えることができ、ダイレクトティーチによるロボット1の操作性を向上させられる。
【0083】
図9は作用基準点の位置を変えることによって仮想力を調整することを説明するための図である。以下、図9を参照して、このことを説明する。前述した計算において、作用基準点をP2とした場合に、作用基準点までの距離を仮想的に変えることによって、仮想力を変えるようにする。
【0084】
例えば、n1<1<n2の関係を有する0より大きい二つの係数n1、n2を設定する。この場合には、以下の式(9)が成立する。
n1*R2<R2<n2*R2 (9)
【0085】
このとき、それぞれの係数を用いて仮想基準点の位置を変更したときに求められる仮想的な力を、力Fn1、Fn2とすると、係数n1を用いたときは以下の式(10)が成立し、係数n2を用いたときは以下の式(11)がそれぞれ成立する。
Fn1=Mx1/(R2*n1) (10)
Fn2=Mx1/(R2*n2) (11)
従って、以下の式(12)の関係が得られる。
Fn2<F1<Fn1 (12)
【0086】
従って、係数n2を用いた場合には、力を作用させる位置の違いによる仮想力の変化は小さく、細やかに動かすことができる。一方、係数n1を用いた場合には、力を作用させる位置の違いによる仮想力の変化は大きく、力を作用させる位置を少し変えただけで動き方を大きく変えることができ、ダイナミックに動かすことが可能となる。
【0087】
このように、ロボット制御装置11または3軸力センサ3などに接続された入力装置29を用いて、作用基準点を変更することによって、操作感を簡易に変更することができる。
【0088】
ところで、本発明においては、ロボット制御装置11は、ロボット1が所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか否か、または、回転動作時に同じ回転方向に移動しているか否かを判定する判定部27を備えることが好ましい。
【0089】
そして、判定部27がロボットが所定時間、同じ並進移動動作を継続しているか、または同じ回転移動動作を継続していると判定した場合には、仮想力算出部23は仮想力の算出方法を変更する。さらに、判定部27がロボットが所定時間、同じ並進移動動作を継続していない、または同じ回転移動動作を継続していないと判定した場合には、仮想力の算出方法の変更を無効にして仮想力の算出方法を元に戻す。
【0090】
上記した判定部27は、仮想力の作用方向が同じ方向か否かの判定を通じてロボット1が並進動作を継続しているか、または回転移動動作を継続しているかを判定する。具体的には、仮想力の作用方向が、所定時間、ある角度閾値を超えて変化しないかどうかを通じて上記判定をおこなう。あるいは、判定部27は、実際に移動する位置と移動基準座標系とに基づいて、並進動作時には同じ並進方向に移動しているか、または、回転動作時には同じ回転方向に移動しているかを判定するようにしてもよい。
【0091】
本発明では、このような判定をおこなうことにより、ロボット1を、所定時間にわたって同じ並進移動動作または回転移動動作をさせていると判断できる。さらに、現在の仮想力の大きさが所定時間前の仮想力の大きさ以上である場合には、ロボット1をその方向に継続してより高速で移動させたい状況であると判断する。そして、ロボット1の動作速度を安全な範囲で効果的に大きくするために、所定制限値を超えない程度に、係数を掛けて仮想力を大きくする。
【0092】
また、現在の仮想力の大きさが所定時間前の仮想力の大きさ以上でない場合には、ロボット1をその方向に継続して移動させたいものの、その速度を低下させたい状況であると判断する。そして、ロボット1の動作速度を小さくするために、所定制限値を下回らない程度に、係数を掛けて仮想力を小さくする。
【0093】
なお、ロボット1の移動方向が変わり、所定時間にわたって同じ並進移動動作、または、同じ回転移動動作を継続していないと判定される場合には、仮想力に掛ける係数を1に戻す。これにより、仮想力の算出方法の変更を無効にして仮想力の算出方法を元に戻す。従って、ロボット1を同じ方向に速く動かしたいときに、より速くロボット1を移動させることができる。なお、力を掛けない場合(力検出手段が検出する力またはモーメントが低下、または、仮想力が所定値以下に低下した場合)も同様である。
【0094】
また、力を検出できる方向の力についても、仮想的に大きくしたり小さくしたりして、実際とは異なる大きさの仮想力を算出することができる。その結果、ダイレクトティーチの動作を変えることも可能である。
【0095】
ところで、本発明においては、ダイレクトティーチ時の動作特性を3軸力センサ3により検出された力に基づいて設定するための状態に切替える切替部を有するのが好ましい。この切替部によって動作特性を設定するための状態に切替えられた場合には、3軸力センサ3に対して力を作用させたときの、力の作用方向(力を計測できる1軸方向の力と他の軸にかかる力の比でもよい)、または、力の作用点の位置に基づいて、動作特性を設定する設定部28をさらに備えることも好ましい。
【0096】
つまり、本発明においては、3軸力センサ3に力を作用させるだけの操作によって、ダイレクトティーチ時の動作特性を設定することができる。従って、本発明では、前記操作によってダイレクトティーチ時の動作特性を変え、力を作用させる位置が同じ場合であっても仮想力の大きさを変えたり、力制御のゲインを変えたり、ダイレクトティーチ時に動かない方向を指定したり、移動基準座標系や移動方法、作用基準点を変更するなど、ダイレクトティーチ時の動作を任意に変えることが可能となる。つまり、3軸力センサ3に力を作用させる操作と、その操作に応じたダイレクトティーチ時の動作特性を任意に設定しておくことにより、簡易に、ダイレクトティーチ時の動作特性を設定することができる。これによって、操作感をより所望どおりに簡易に変えることができ、ロボットの操作性を向上させられる。
【0097】
ダイレクトティーチ時の動作特性を設定するための状態に切替える方法としては、ティーチングペンダントなどの入力装置29から設定する方法などがある。本実施例では、操作部6を利用する方法について、図10を用いて説明する。図10は操作部およびその周辺の他の頂面図である。図10に示されるように、操作部6に対して複数の所定方向を設定する。図10では、並進移動モード、回転移動モード、動作無効化モードおよび設定変更可能モードの四つの動作状態が示されている。そして、操作部6によって、所定値以上のパルス状の力が一つの所定方向に複数回連続で与えられたときに、その所定方向に対応した設定が設定部28を通じて行われるようにする。この場合、右方位置に向かう力が操作部6に対して複数回にわたって与えられると、設定変更可能モードとなる。つまり、操作部6は力センサ3により検出された力に応じてダイレクトティーチ時の動作特性を設定するための状態に切替える切替部としての役目を果たす。
【0098】
また、別の次のような方法も考えられる。まず、操作部6の機構を、操作部6をねじったときに、ある閾値以上のトルクで操作部6が回転するようにしておく。そして、図10に示されるように、操作部6の回転位置に応じてモードが切替わるようにする(このとき、回転位置が分かるように、操作部に目印となる、文字や突起をつけておくことが望ましい)。操作部6の回転位置が、図10における左下位置に在るときには並進移動モードに、右下位置に在るときには回転移動モードに、下方位置に在るときには動作無効化モードに、右方位置に在るときには設定変更可能モードになるように設定する。なお、切替え時には、ロボットが動作しないようにしておくことが望ましい。この場合、操作部6の回転位置を右方位置にすると、設定変更可能モードとなる。
【0099】
そして、設定変更可能モードにした後で、所定時間以上連続、かつ、或る大きさ以上の力を入力として受け付けるようにする。この場合、その大きさより小さい力が与えられた場合には、入力として受け付けないようにする。さらに、入力が完了するまでは、力制御によって動かさないようにロボット1を停止させておく。設定変更が完了したら、図10に示される他の動作状態にしておくことが望ましい。
【0100】
本発明では、3軸力センサ3に作用させる力として、操作部6に作用させる力に基づいて、力制御の動作特性や、仮想力の算出方法などを変えて、ダイレクトティーチ時の力に応じたロボット1の動作特性の設定を変更する。
【0101】
操作部6に作用させる力に基づく設定手法として、操作部6に作用させる力の作用方向に応じて設定を切替えるのが好ましい。この場合、力の作用する方向を算出するために、力の作用点の位置の設定に基づいて力を算出する。
【0102】
ここで、図11(a)は操作部の斜視図であり、図11(b)は操作部の頂面図である。図11(a)および図11(b)に示されるように、オペレータによって操作部6は種々の押付方向に押圧されうる。そして、それぞれの押付方向に対して所定の設定を予め関連付ける。これにより、操作部6に対して、或る押付方向に力を作用させると、その押付方向に応じて所定の設定が行われ、設定の切替をおこなうことができる。
【0103】
力の作用方向の求め方については次のように考える。図11(a)および図11(b)に示される実施例のように、操作部6の中心を通るZ軸に直交する或る平面上で、Z軸と前記平面の交点を通る方向に力を作用させる場合、前記交点を力の作用点として、その位置に基づいて力を算出することにより、力の作用方向を求め、前記平面上で作用する力の方向の違いを検出することができる。その力の作用方向の違いに基づいて、設定を切替えることが可能である。
【0104】
図11(c)は操作部の他の頂面図である。図11(c)に示されるように、操作部6の周面に等間隔で複数の押圧部6aを設ける。操作部6の周面に対して力を作用させると、力の作用方向が押圧部6aの位置に応じて所定方向に定まるものとする。このような場合には、単に所望の位置に関連する押圧部6aを押圧することのみによって、力が操作部6にかかるようになる。また、複数の押圧部6aの代わりに、複数の、所定の方向にのみスライドする機構部(図示しない)を操作部6に設けるようにしてもよい。この場合にも同様な効果が得られるのは明らかであろう。
【0105】
操作部6に作用させる力に基づく設定手法として、検出された1軸方向の力と他の軸方向にかかる力との間の比や、力の作用する方向に基づいて、設定を切替えるようにしてもよい。この場合、力の作用する方向を算出するために、力の作用点の位置の設定に基づいて力を算出することになる。
【0106】
ところで、力センサ3に対して或る方向に力を作用させる場合、その方向が同じであれば、力の大きさに関わらず、力センサ座標系上での力の大きさの各軸方向の比は常に同じになる。このため、力の比や力が作用する方向を、入力として、所定の設定をおこなうようにする。
【0107】
図12(a)および図12(b)はピン機構部が上部に設けられている操作部の斜視図である。図示されるピン機構部6cは操作部6の上部において回転動作が可能なように取付けられたピン6bを含んでいる。あるいは、図面には示さないものの、回転動作が可能かつ任意の位置で止められ、さらに、所定の方向のみにスライドするようにして所定の方向にのみ容易に力を作用させられる機構であってもよい。この場合にバネなどによりスライド後に元位置に戻りうるようにするのが好ましい。
【0108】
図12(a)および図12(b)に示されるように、ピン機構部6cのピン6bは回転中心回りに回転動作が可能であり、操作部6に対してピン6bを所望の角度で固定させられるものとする。従って、固定されたピン6bの長手方向に力を加えれば、所望の所定方向に力を作用させることが可能となる。なお、図12(c)および図12(d)はピン機構部6cが側部に設けられている操作部の斜視図であり、このような場合にも同様にピン6bを所望の角度で固定できるものとする。
【0109】
図13(a)はY軸に対して−Z軸に近づく方向に45度の角度で操作部に力を作用させることを示す図であり、図13(b)は図13(a)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。図13(a)に示されるように、Y軸に対して45度の角度で操作部に力を作用させると、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、−1:1になる。従って、図13(b)に示されるように、Y軸に対して45度の角度をなすようにピン6bを固定し、ピン6bの長手方向に力を加えた場合、同様に、力の大きさに関わらず、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、−1:1になる。
【0110】
図13(c)はY軸に対して30度の角度で操作部に力を作用させることを示す図であり、図13(d)は図13(c)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。図13(c)に示されるように、Y軸に対して30度の角度で操作部に力を作用させると、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、−1:2になる。従って、図13(d)に示されるように、Y軸に対して30度の角度をなすようにピン6bを固定し、ピン6bの長手方向に力を加えた場合、同様に、力の大きさに関わらず、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、−1:2になる。
【0111】
さらに、図14(a)はY軸に対して0度の角度で操作部に力を作用させることを示す図であり、図14(b)は図14(a)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。図14(a)に示されるように、Y軸に対して0度の角度で操作部に力を作用させると、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は定まらず、力の作用する方向のみが得られる。このときの、Z軸とY軸との間の力の大きさの比を0:1とおくことにする。従って、図14(b)に示されるように、Y軸に対して0度の角度をなすようにピン6bを固定し、ピン6bの長手方向に力を加えた場合、同様に、力の大きさに関わらず、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、0:1になる。
【0112】
さらに、図14(c)はY軸に対して+Z軸に近づく方向に45度の角度で操作部に力を作用させることを示す図であり、図14(d)は図14(c)の角度にピン機構部のピンを位置決めした状態を示す図である。図14(c)に示されるように、Y軸に対して45度の角度で操作部に力を作用させると、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、1:1になる。従って、図14(d)に示されるように、Y軸に対して45度の角度をなすようにピン6bを固定し、ピン6bの長手方向に力を加えた場合、同様に、力の大きさに関わらず、Z軸とY軸との間の力の大きさの比は、1:1になる。
【0113】
これら図13(a)から図14(d)に示されるように、ピン6bの角度を変更することにより、操作部6に実質的に作用する力の方向や、力の比が定まる。従って、本発明においては、力が作用する方向を入力として、各種の設定をおこなうようにすることができる。
【0114】
あるいは、力センサ3により検出される力に基づいて作用点の位置を計算し、計算された作用点の位置に基づいて設定を変更するようにしてもよい。
【0115】
3軸力センサ3を使用する場合には、力の作用する方向が既知である必要があり、検出可能な軸方向の力に基づいて他の方向に作用する力を算出する。次いで、検出および算出した力と、検出可能なモーメントとに基づいて作用点の位置を算出する。力を作用させる位置が異なる場合には、算出される作用点の位置が異なる。従って、算出された作用点の位置の違いを利用して、設定変更のための入力とする。
【0116】
図15(a)は複数のピン機構部が設けられている操作部の斜視図である。図15(b)は図15(a)に示される一つのピン機構部の拡大図である。図15(a)においては、三つのピン機構部6c1〜6c2が操作部6の周面に高さ方向に順次設けられている。そして、三つのピン機構部6c1〜6c2の力の作用点はZ軸に対して平行な軸上に配置されている。
【0117】
図15(a)および図15(b)から分かるように、それぞれのピン機構部6c1〜6c3のピン6b1〜6b3はそれぞれZ軸に対して既知の角度θ(ここで、θは、0<θ<90°、90°<θ<180°とする)をなすように固定されている。つまり、これらピン6b1〜6b3は互いに平行に配置されている。なお、図から分かるように、これらピン6b1〜6b3は、力を検出できる軸(この場合、Z軸)とそれ以外の軸(この場合、Y軸)とで張られる平面内に力の作用ベクトルが位置するように配置されているものとする。従って、これらピン6b1〜6b3を通じて操作部6には同一の所定方向に力が作用するようになる。
【0118】
この場合には、力を作用させる方向が既知であるので、Y軸方向の力Fyは、Fz*tanθで表される。従って、この力Fyと、X軸回りのモーメントMxとを用いることにより、力の作用点のZ軸方向の位置を求めることができる。
【0119】
この実施例においては、ピン6b1〜6b3のそれぞれの位置で力を作用させ、前述したように算出されるZ軸方向の位置に応じて、力制御の動作特性や、仮想力の算出方法などの設定を簡易に変更することができる。
【0120】
ところで、本発明では、操作部6の形状、表面状態、色、文字、柄のうちの少なくとも一つは、操作部6の部位に応じて,変更されていることが好ましい。操作部6の位置に応じて、操作部の形状、表面状態が変更されていることにより、操作部に対して力を作用させる位置が、操作部においてどの辺りに位置するかということが分かりやすくなる。
【0121】
例えば、図2に示すように、操作部6において力センサ3から離れる方向に位置するほど、表面状態を粗く、または、凹凸や段を大きくし、力センサ3に近づく方向に位置するほど、表面状態をなめらかに、または、凹凸や段などを小さくするなどのように表面状態を変える。これは、力を作用させる位置が、操作部6において力センサ3から離れる方向に位置するほど、操作力に対する移動距離が大きくなり、力センサ3に近づく方向に位置するほど、操作力に対する移動距離が小さくなるという、ダイレクトティーチ時の操作感と、操作部6の表面状態とを対応させている。
【0122】
これによって、本発明による操作部の位置によって異なるダイレクトティーチの操作感と、触覚情報を対応付けることができ、ダイレクトティーチ時の操作性を向上させることができる。また、手触りによって、ダイレクトティーチの操作感の違いが分かるので、予期せぬ操作などを防ぎ、安全性を向上させることもできる。
【0123】
また、操作部の位置に応じて、色や文字、柄などを変え、ダイレクトティーチ時の操作感と視覚情報を対応づけることによって、同様に、ダイレクトティーチ時の操作性や安全性を向上させることができる。
【0124】
ところで、本発明では、一体化された操作部6および力センサ3の位置および姿勢を簡易に変えられるように、ユニバーサルジョイントやフレキシブルチューブなどで構成される、位置および姿勢が変更可能な関節構造部7を設けることが好ましい。このとき、前記関節構造部7は複数のリンクによる組み合わせでもよい。さらに、変更した任意の位置および姿勢で関節部を固定できるように、関節を固定可能な部位を設けることが好ましい。
【0125】
これによって、一体化された操作部6および力センサ3と、ワークなどにおける作業平面とを容易に所望の位置関係にすることができる。また、1軸方向の力と、その軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の軸回りのモーメントのみを検出できる3軸力センサの場合、力を検出できる1軸と、ワークなどにおける作業平面に直交する軸方向が平行となるように、一体化された操作部6および力センサ3を、ロボットの手先などに、簡易に取付けることができるため、ダイレクトティーチ時の操作性が向上する。
【0126】
また、ロボットの基準座標系に対する、力センサ座標系の位置および姿勢を取得しない場合、移動基準座標系と力センサ座標系の姿勢を合わせることが望ましいが、このような関節構造部7を用いることによって、それを容易に設定することができる。
【0127】
関節構造部7をロボットやロボットの手先部などに取付けるときには、スイッチによって取付けや取外しを簡易におこなうことが可能な、マグネットを含む取付部8を用いることによって、関節構造部7をロボットやロボットの手先などに簡易に取付けることができる。または、ボルトや万力などを利用した取付部8を用いて固定させてもよい。また、そのような取付部8の形状を、V字状にするなど、取付けに都合のよい形状にしてもよい。
【0128】
前記関節構造部7や取付部8を用いることによって、一体化された操作部および力センサの、位置および姿勢の調整を簡易におこなうと共に、ロボットやロボットの手先部に簡易に取付けることができる。さらに、1軸方向の力と、その軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の軸回りのモーメントのみを検出できる3軸力センサ3を用いる場合に、本発明によるダイレクトティーチを、より簡易に実現することができる。
【0129】
以上述べたように、本発明により、オペレータの意図に基づいて、簡易に、ダイレクトティーチ時の操作感を変更することが可能なロボット教示装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0130】
1 ロボット
2 ロボットアーム
3 3軸力センサ(力検出部)
4 ツール
5 ツール固定部
6 操作部
7 関節構造部
8 取付部
9 ハンド
10 ロボットシステム(ロボット教示装置)
11 ロボット制御装置
21 移動基準座標系設定部
22 移動方法設定部
23 仮想力算出部
24 力制御作用力算出部
25 力制御部
26 作用基準点算出部
27 判定部
28 設定部
29 入力装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部に加えられた操作力により、力制御をおこなってロボットを移動させて、該ロボットの位置・姿勢を教示するロボット教示装置において、
少なくとも1軸方向の力と、該1軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の夫々の軸回りのモーメントを検出する力検出部を具備し、前記操作部に接続された力検出部により検出された力に基づいて前記力制御をおこなうようになっており、前記力検出部の座標系中心点と力の作用点とが互いに異なる位置になるように配置されており、
さらに、
前記ロボットを移動させるときに基準とする移動基準座標系を設定する移動基準座標系設定部と、
前記ロボットを前記移動基準座標系の原点回りに回転移動させるか、前記移動基準座標系を基準にして並進移動させるかのいずれかの移動方法を設定する移動方法設定部と、
前記1軸方向の力と、前記2軸方向の夫々の軸回りのモーメントと、所定の作用基準点の位置とに基づいて、前記作用基準点における仮想力を算出する仮想力算出部と、
前記移動基準座標系設定部により設定された移動基準座標系と、前記移動方法設定部により設定された移動方法と、前記仮想力算出部により算出された仮想力とに基づいて、前記ロボットに対する力制御作用力を算出する力制御作用力算出部と、
前記力制御作用力に基づいて力制御をおこなう力制御部と、
を備えることを特徴とする、ロボット教示装置。
【請求項2】
前記1軸方向の力と前記2軸方向の夫々の軸回りのモーメントとに基づいて、前記作用基準点の位置を算出する作用基準点算出部を備えることを特徴とする、請求項1に記載のロボット教示装置。
【請求項3】
前記作用基準点の設定位置は任意に変更可能であり、
前記仮想力算出部は変更された作用基準点に基づいて新たな仮想力を算出することを特徴とする、請求項1に記載のロボット教示装置。
【請求項4】
さらに、前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか否か、または、回転動作時に同じ回転方向に移動しているか否かを判定する判定部を具備し、
前記仮想力算出部は、
前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか、または、回転動作時に同じ回転方向に移動していると判定した場合には仮想力の算出方法を変更し、
前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動していないか、または、回転動作時に同じ回転方向に移動していないと判定した場合には、前記仮想力の算出方法の変更を無効にして仮想力の算出方法を元に戻す、
ことを特徴とする請求項1〜3の内、いずれか1項に記載のロボット教示装置。
【請求項5】
ダイレクトティーチ時の動作特性を設定するための状態に切替える切替部と、
前記切替部によって前記動作特性を設定するための状態に切替えられた場合には、前記力検出部に対して力を作用させたときの、力の作用方向、または、力の作用点の位置に基づいて、前記動作特性を設定する設定部を備える、請求項1〜4の内、いずれか1項に記載のロボット教示装置。
【請求項6】
前記操作部の形状、表面状態、色、文字、柄のうちの少なくとも一つは、前記操作部の部位に応じて、変更されていることを特徴とする、請求項1〜5の内、いずれか1項に記載のロボット教示装置。
【請求項7】
前記操作部と前記力検出部とが一体化されており、
一体化された前記操作部および前記力検出部は、該操作部および該力検出部を前記ロボットまたはロボットのエンドエフェクタ部に固定するための取付け固定部と、
前記操作部および前記力検出部の姿勢および位置を変更する関節構造部とを含んでいる、請求項1〜6の内、いずれか1項に記載のロボット教示装置。
【請求項8】
前記取付け固定部がマグネットを含む請求項7に記載のロボット教示装置。
【請求項1】
操作部に加えられた操作力により、力制御をおこなってロボットを移動させて、該ロボットの位置・姿勢を教示するロボット教示装置において、
少なくとも1軸方向の力と、該1軸に直交、かつ、互いに直交する2軸方向の夫々の軸回りのモーメントを検出する力検出部を具備し、前記操作部に接続された力検出部により検出された力に基づいて前記力制御をおこなうようになっており、前記力検出部の座標系中心点と力の作用点とが互いに異なる位置になるように配置されており、
さらに、
前記ロボットを移動させるときに基準とする移動基準座標系を設定する移動基準座標系設定部と、
前記ロボットを前記移動基準座標系の原点回りに回転移動させるか、前記移動基準座標系を基準にして並進移動させるかのいずれかの移動方法を設定する移動方法設定部と、
前記1軸方向の力と、前記2軸方向の夫々の軸回りのモーメントと、所定の作用基準点の位置とに基づいて、前記作用基準点における仮想力を算出する仮想力算出部と、
前記移動基準座標系設定部により設定された移動基準座標系と、前記移動方法設定部により設定された移動方法と、前記仮想力算出部により算出された仮想力とに基づいて、前記ロボットに対する力制御作用力を算出する力制御作用力算出部と、
前記力制御作用力に基づいて力制御をおこなう力制御部と、
を備えることを特徴とする、ロボット教示装置。
【請求項2】
前記1軸方向の力と前記2軸方向の夫々の軸回りのモーメントとに基づいて、前記作用基準点の位置を算出する作用基準点算出部を備えることを特徴とする、請求項1に記載のロボット教示装置。
【請求項3】
前記作用基準点の設定位置は任意に変更可能であり、
前記仮想力算出部は変更された作用基準点に基づいて新たな仮想力を算出することを特徴とする、請求項1に記載のロボット教示装置。
【請求項4】
さらに、前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか否か、または、回転動作時に同じ回転方向に移動しているか否かを判定する判定部を具備し、
前記仮想力算出部は、
前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動しているか、または、回転動作時に同じ回転方向に移動していると判定した場合には仮想力の算出方法を変更し、
前記ロボットが所定時間にわたって並進動作時に同じ並進方向に移動していないか、または、回転動作時に同じ回転方向に移動していないと判定した場合には、前記仮想力の算出方法の変更を無効にして仮想力の算出方法を元に戻す、
ことを特徴とする請求項1〜3の内、いずれか1項に記載のロボット教示装置。
【請求項5】
ダイレクトティーチ時の動作特性を設定するための状態に切替える切替部と、
前記切替部によって前記動作特性を設定するための状態に切替えられた場合には、前記力検出部に対して力を作用させたときの、力の作用方向、または、力の作用点の位置に基づいて、前記動作特性を設定する設定部を備える、請求項1〜4の内、いずれか1項に記載のロボット教示装置。
【請求項6】
前記操作部の形状、表面状態、色、文字、柄のうちの少なくとも一つは、前記操作部の部位に応じて、変更されていることを特徴とする、請求項1〜5の内、いずれか1項に記載のロボット教示装置。
【請求項7】
前記操作部と前記力検出部とが一体化されており、
一体化された前記操作部および前記力検出部は、該操作部および該力検出部を前記ロボットまたはロボットのエンドエフェクタ部に固定するための取付け固定部と、
前記操作部および前記力検出部の姿勢および位置を変更する関節構造部とを含んでいる、請求項1〜6の内、いずれか1項に記載のロボット教示装置。
【請求項8】
前記取付け固定部がマグネットを含む請求項7に記載のロボット教示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−157946(P2012−157946A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20042(P2011−20042)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
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