説明

加工方法及び加工機

【課題】特殊構造に因らず象限切換えに伴う加工精度低下の問題を解決する。
【解決手段】砥石面の断面形状が円弧状になるようにドレス用工具24により砥石車48を加工する方法。(1)砥石車48の一端側から他端側に向かってドレス用工具24を軸方向送りすると共に、砥石車48の径方向中心側から外側に向かって径方向送りすることにより最大径の位置まで砥石車48を加工する工程と、(2)ドレス用工具24を砥石車48から離間させ、その後、径方向送りの送り方向を反転させて砥石車48に対してドレス用工具24を再度接触させる工程と、(3)反転後の送り方向にドレス用工具24を径方向送りすると共に、ドレス用工具24を軸方向送りすることにより、最大径の位置から所定の加工終端位置まで砥石車48を加工する工程と、を連続して実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤、ドレス装置及び旋盤等の加工機による加工方法、及び加工機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、内面研削盤では、砥石の外周面(砥石面)を被研削面に対応する形状に予め整形(ドレス)しておき、この砥石を使ってワーク内周面を研削することが行われる。例えば、玉軸受け外輪の軌道面を研削する場合には、当該軌道面に対応するように、軸方向に沿った断面形状が円弧になるように砥石面が整形される。
【0003】
ところで、内面研削盤は、加工用ヘッドに支持される砥石軸の先端に砥石が固定され、直交型の駆動機構によって、砥石を加工用ヘッドと一体に砥石軸に沿った方向(軸方向)とこれと直交する方向(径方向)とに移動させるものが一般的である。従って、砥石の上記整形は、固定配置されたドレス工具に対して前記砥石を軸方向送りする一方で、これと直交する方向(径方向)に切込み送りをすることにより行われる。しかし、このような作業では、径方向における砥石の送り方向を途中で反転(象限切換え)させる必要があるため砥石面の精度確保が難しいという問題がある。すなわち、移動方向が反転する際に機構部分の摩擦やバックラッシュ等により砥石(ヘッド)に応答遅れが生じ、あるいは反転時に径方向送りについて著しい加速度が突発的に生じる等し、これによって砥石面の最大径の部分に突起等が残る場合がある。
【0004】
そこで、最近では、駆動機構の送り軸をワーク(上記の例では砥石)の回転軸に対してそれぞれ45°以上90°以下の角度で設け、各軸について移動方向の反転を伴うことなく円弧状の加工を可能とすることで、象限切換えに伴う上記のような問題を解消する技術が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−84780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の技術は、砥石を砥石軸に沿った方向(軸方向)とこれと直交する方向(径方向)に移動させるという従来の装置構成を大幅に変更する必要があり、実際の適用には種々の問題を伴うため必ずしも得策とは言えない。また、構造的な変更を伴うため、既存の研削盤への適用も困難である。従って、特許文献1のような特殊構造に因らず象限切換えに伴う加工精度低下の問題を解決することが望まれる。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みて成されたものであり、特殊構造に因らず象限切換えに伴う加工精度低下の問題を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の加工方法は、ワークを回転駆動し、このワークに対して工具を相対的に移動させることにより、回転軸方向に沿ったワーク外周面の断面形状が径方向外側に向かって凸となるように前記工具によりワークを加工する方法であって、前記回転軸方向におけるワークの一端側から他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りすると共に、この軸方向送りの最中にワークの径方向中心側から外側に向かって前記工具をワークに対して相対的に径方向送りすることにより、所定の加工開始位置から最大径の位置まで前記回転軸方向に沿ってワークを加工する前期加工工程と、前記工具をワークに対して相対的に前記径方向送りすることにより前記最大径の位置において前記工具をワークから離間させ、この離間状態で、前記径方向送りの送り方向を反転させて前記工具をワークの径方向外側から中心側に向かって相対的に径方向送りすると共に、前記他端側から一端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りして前記最大径の位置よりも前記一端側に前記工具を戻し、さらに軸方向送りの送り方向を反転させて前記工具を前記一端側から他端側に向かってワークに対して相対的に軸方向送りすることにより、前記回転軸方向であってワーク外周面の接線に沿った方向に前記工具をワークに対して移動させながら前記最大径の位置において前記工具をワークに再度接触させる径方向送り反転工程と、前記反転後の送り方向に前記工具をワークに対して相対的に径方向送りすると共に、前記最大径の位置から前記他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りすることにより、前記最大径の位置から所定の加工終端位置まで前記回転軸方向に沿ってワークを加工する後期加工工程と、を連続して実施するようにしたものである。
【0008】
つまり、ワークに対して工具を軸方向送りしながらこの軸方向送りと直交する径方向送りを行うことによってワーク外周面の断面形状が径方向外側に向かって凸となるように加工する場合、最大径の位置で必ず径方向送りの送り方向を反転させる必要があるが、上記のように、最大径の位置まで加工が進んだ段階で一旦工具とワークとを当該最大径の位置で離間させ、この状態で径方向送りの送り方向を反転させた後に前記最大径の位置から加工を再開する方法によれば、ワークから工具を離間させた状態で径方向送りの送り方向を反転させるため、当該反転時に機構部分の摩擦やバックラッシュ等による応答遅れが生じても加工への影響が無い。従って、径方向送りの象限切換えに伴う加工精度の低下を伴うことなくワークを加工することが可能となる。しかも、この加工方法は、ワークに対してその回転軸方向に沿った軸方向とこの方向と直交する径方向とに相対的に工具を移動させながらワークを加工することを基本とするので、従来周知の一般的な直交型の駆動機構によりワークを駆動する加工機についても適用が可能であり、従って、特殊構造に因らず上記のような象限切換えに伴う加工精度低下の問題を解決することが可能となる。
【0009】
なお、上記方法において、前記径方向送り反転工程では、前記一端側から他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りしながら前記工具をワークから離間させるのが好適である。
【0010】
つまり、径方向送り反転工程においては、最大径の位置で軸方向送りを停止させ、この状態で、工具をワークから離間させるようにもよいが、最大径の位置を境とするその前後加工面の連続性を良好に保つ上では、上記のように軸方向送りを行いながら工具をワークから離間させるのが好適である。
【0011】
この場合、回転軸に沿ったワーク外周面の接線の方向が連続的に変化するように前記ワークを加工する場合には、前記径方向送り反転工程では、前記接線の方向に沿って前記工具をワークから離間させるのが好適である。
【0012】
この方法によれば、回転軸方向に滑らかに連続するより高品質の加工面を得ることが可能となる。
【0013】
一方、本発明に係る加工機は、ワークを保持して該ワークを回転駆動するワーク駆動手段と、前記ワークの回転軸方向に沿って前記ワークとこれを加工するための工具とを相対移動させる軸方向送り駆動手段と、前記ワークの径方向に沿って前記工具とワークとを相対移動させる径方向送り駆動手段と、前記回転軸方向に沿ったワーク外周面の断面形状が径方向外側に向かって凸となるように前記各送り駆動手段を制御する駆動制御手段とを有する加工機において、前記駆動制御手段は、前記回転軸方向におけるワークの一端側から他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りすると共に、この軸方向送りの最中にワークの径方向中心側から外側に向かって前記工具をワークに対して相対的に径方向送りすることにより、所定の加工開始位置から最大径の位置まで前記回転軸方向に沿ってワークを加工する前期加工工程と、前記工具をワークに対して相対的に前記径方向送りすることにより前記最大径の位置において前記工具をワークから離間させ、この離間状態で、前記径方向送りの送り方向を反転させて前記工具をワークの径方向外側から中心側に向かって相対的に径方向送りすると共に、前記他端側から一端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りして前記最大径の位置よりも前記一端側に前記工具を戻し、さらに軸方向送りの送り方向を反転させて前記工具を前記一端側から他端側に向かってワークに対して相対的に軸方向送りすることにより、前記回転軸方向であってワーク外周面の接線に沿った方向に前記工具をワークに対して移動させながら前記最大径の位置において前記工具をワークに再度接触させる径方向送り反転工程と、前記反転後の送り方向に前記工具をワークに対して相対的に径方向送りすると共に、前記最大径の位置から前記他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りすることにより、前記最大径の位置から所定の加工終端位置まで前記回転軸方向に沿ってワークを加工する後期加工工程と、を連続して実施するように構成されたものである。
【0014】
この加工機において、前記駆動制御手段は、前記径方向送り反転工程では、前記一端側から他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りしながら前記工具をワークから離間させるものであるのが好適である。
【0015】
その場合、回転軸に沿ったワーク外周面の接線の方向が連続的に変化するように前記ワークを加工するものでは、前記駆動制御手段は、前記径方向送り反転工程では、前記接線方向に沿って前記工具をワークから離間させるものであるのが好適である。
【0016】
このような加工機によれば、上記のような加工方法を自動化することができ、ワークの加工をより安定的に精度良く行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る加工方法及び加工機では、回転軸方向に沿ったワーク外周面の断面形状が径方向外側に向かって凸となるようにワークを加工する場合に、最大径の位置まで加工が進んだ段階で一旦工具とワークを当該最大径の位置で離間させ、この状態で径方向送りの送り方向を反転させた後に前記最大径の位置から加工を再開するようにしたので、径方向送りの象限切換えに伴う加工精度の低下を伴うことなくワークを良好に加工することが可能となる。しかも、ワークに対してその回転軸方向に沿った軸方向とこの方向と直交する径方向とに相対的に工具を移動させながらワークを加工することを基本とするので、従来技術(特許文献1)のように特殊構造を設けることなく上記の利益を享受することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の好ましい実施の形態について図面を用いて説明する。
【0019】
図1は、本発明が適用される内面研削盤の概略構成を平面図で示している。なお、この実施形態において、本発明は、内面研削盤に組込まれるドレス装置として具現化されており、従って、以下の説明では、まず内面研削盤の概要について説明した後に、ドレス装置の詳細について説明することにする。
【0020】
図1に示す内面研削盤(以下、研削盤と略す)は、ベッド10を備え、このベッド10上にワーク駆動装置12、及び砥石駆動装置14が相対向する状態で配設されている。
【0021】
ワーク駆動装置12は、主軸台15を備え、この主軸台15に図略の主軸がZ軸方向(図1の左右方向)に延びる状態で回転可能に支持されている。この主軸の後端(図1では左端)には主軸駆動モータ16が連結され、前端(同図右端)にはワーク20を把持するチャック18が設けられている。そして、このワーク20の本体が前記チャック18に把持された状態で主軸駆動モータ16が作動することにより、図略の主軸と一体にワーク20がその中心軸回りに回転駆動されるようになっている。ワーク20は、例えば玉軸受けの外輪であってこの軸受けの軌道面が被研削面とされる。
【0022】
砥石駆動装置14は、固定台30を備え、この固定台30はベッド10上に固定されている。固定台30上には、X軸テーブル32が前記主軸と直交するX軸方向(図1では上下方向)にスライド可能に設置され、このX軸テーブル32はX軸駆動モータ34及び図略の送りねじ機構によってX軸方向にスライド駆動されるようになっている。
【0023】
X軸テーブル32上には、Z軸テーブル36が前記主軸と平行なZ軸方向(図1では左右方向)にスライド可能に設置され、このZ軸テーブル36はZ軸駆動モータ38及び図略の送りねじ機構によってZ軸方向にスライド駆動されるようになっている。そして、このZ軸テーブル36上に砥石支持台40が設けられている。
【0024】
この砥石支持台40には、スピンドルが回転可能に支持され、このスピンドルも前記主軸と同様にZ軸方向に延びている。このスピンドルの後端(図1では右端)には電動モータからなる砥石駆動モータ44が連結され、前端(同図左端)には砥石把持部42が設けられている。そして、この砥石把持部42に砥石軸46が把持された状態で、当該砥石把持部42、砥石軸46、及びこの砥石軸46の先端に固定された砥石車48が一体に高速回転駆動されるようになっている。
【0025】
つまり、この研削盤では、ワーク20及び砥石車48が回転駆動され、この回転駆動状態でX軸テーブル32及びZ軸テーブル36がスライド駆動されることにより、砥石車48がワーク20の内周側に挿入され、かつ砥石車48の外周面(砥石面)がワーク20の内周面に押付けられる。これによってワーク20の内周面(すなわち、玉軸受け外輪の軌道面)が砥石車48により研削されるようになっている。
【0026】
研削盤には、砥石車48を整形するためのドレス装置(本発明に係る加工機に相当する)が組込まれている。ドレス装置は、ワーク駆動装置12側にアーム22を介して固定的に支持されるドレス用工具24、及びこのドレス用工具24に対して砥石車48をその回転軸方向(Z軸方向)及び径方向(X軸方向)に相対移動させるための送り駆動手段等を含んでおり、当実施形態では、前記砥石駆動装置14が当該駆動手段としての機能を兼務する。つまり、砥石車48が回転駆動され、この回転駆動状態で前記砥石車48がドレス用工具24に対して相対移動されることで、砥石車48の外周面、つまり砥石面がドレス用工具24により整形(ドレス)される。従って、この実施形態では、この砥石車48が本発明のワークに相当する。
【0027】
砥石車48は、図2(a)に示すようにZ軸方向に沿った砥石面の断面形状が円弧(回転軸に沿ったワーク外周面の接線の方向が連続的に変化する形状)であり、この形状はワーク20の内周面、つまり玉軸受け外輪の軌道面に対応している。従って、砥石車48の形崩れが生じると、軌道面の品質低下に繋がるため、定期的に、又は必要に応じて適宜ドレス用工具24による整形が実施される。
【0028】
なお、この研削盤において前記各モータ16,34,38,44の駆動制御は、コンピュータを含むコントローラ50によって行われ、ドレス用工具24による砥石車48の整形時には、所定の手順に従って砥石車48のドレスが実行されるように、コントローラ50は、各モータ16,34,38,44に内蔵されるエンコーダからの出力信号に基づき、各モータ16,34,38,44を駆動制御する。以下、この点について詳述する。
【0029】
図2及び図3は、コントローラ50の制御に基づく砥石車48の整形(ドレス)動作の一例を概略的に示している。
【0030】
まず、コントローラ50は、砥石車48を回転駆動し、この回転駆動状態で前記テーブル32,36を駆動することによって、ドレス用工具24の先端が砥石車48の基端部側(砥石軸側)端面の所定のドレス開始位置に位置するように砥石車48を移動させる。そして、図2(a)に示すように、ドレス用工具24に対して相対的に砥石車48をZ軸(+)方向に移動させると共に(以下、Z軸方向の移動を適宜軸方向送りという)、X軸(−)方向、つまり径方向中心側から外側に向かって移動させる(以下、X軸方向の移動を適宜径方向送りという)。これによって目標となる円弧(以下、目標円弧という)に沿ってドレス用工具24を砥石車48に対して相対的に移動させ、砥石車48をその基端部から最大径の位置までZ軸方向に沿ってドレスする(本発明に係る前期加工工程に相当する)。
【0031】
最大径の位置までドレスが進むと、コントローラ50は、砥石車48をドレス用工具24から離間させつつドレス用工具24の先端に対して楕円を描くように砥石車48を移動させた後、再度、砥石車48をドレス用工具24に接触させる(本発明に係る径方向送り反転工程に相当する)。
【0032】
詳しくは、径方向送り(X軸(−)方向)の速度を保ったままで軸方向送り(Z軸(+)方向)の速度を漸減させることにより、図2(b)に示すように、目標円弧のほぼ接線方向に沿って砥石車48をドレス用工具24に対して相対移動させながら該ドレス用工具24から砥石車48を離間させた後、図2(c)に示すようにZ軸(+)方向からZ軸(−)方向に軸方向送りの方向を反転させ、さらに、砥石車48をZ軸(−)方向に軸方向送りながら、図3(a)に示すように、径方向送りの送り方向をX軸(−)方向からX軸(+)方向に反転させる。そして、同図に示すように、砥石車48の前記最大径の位置がドレス用工具24よりもZ軸(−)側に位置するように砥石車48を移動させた後、さらに図3(b)に示すように、軸方向送りの方向をZ軸(−)方向からZ軸(+)方向に反転させ、これによって、目標円弧のほぼ接線方向に沿って砥石車48をドレス用工具24に対して相対移動させながら該ドレス用工具24に対して砥石車48を接近させて、前記最大径の位置において砥石車48をドレス用工具24に再度接触させる。
【0033】
そして、コントローラ50は、図3(c)に示すように、ドレス用工具24に対して相対的に砥石車48をZ軸(+)方向に移動させると共にX軸(+)方向、つまり径方向外側から中心側に向かって移動させ、これによって、目標円弧に沿ってドレス用工具24を砥石車48に対して相対的に移動させ、砥石車48の残りの部分、つまり前記最大径の位置から先端部までをドレスする(本発明に係る後期加工工程に相当する)。これにより砥石車48のドレスが完了する。
【0034】
以上説明したように、このドレス装置では、ドレス用工具24に対して砥石車48を軸方向送り、及び径方向送りすることにより砥石車48の砥石面をその回転軸方向に沿って円弧状にドレス(整形)するが、このドレス装置では、上記の通り、最大径の位置までドレスが進んだ段階で一旦砥石車48をドレス用工具24から離間させ、この状態で径方向送りの送り方向を反転させた後に前記最大径の位置からドレスを再開するため、径方向の象限切換えに伴うドレス精度低下を伴うことなく砥石車48をドレスすることができる。つまり、砥石車48のドレス動作では、最大径の位置で必ず径方向送りの送り方向を反転させる必要があるため、全工程に亘ってドレス用工具を砥石車に接触させた状態でドレスを行うと、径方向送りの反転時に砥石面に突起等が残る場合があるが、このドレス装置では、上記の通り、ドレス用工具24から砥石車48を離間させた状態で径方向送りの方向を反転させるため、仮に反転時に機構部分の摩擦やバックラッシュ等による応答遅れが生じても加工面に影響を与えることが一切なく、従って、象限切換えに伴い砥石面に突起等を形成することなく、砥石車48を目標円弧に従って適切にドレスすることができる。
【0035】
特に、このドレス装置では、最大径の位置までドレスした後、目標円弧のほぼ接線方向に沿ってドレス用工具24を砥石車48から引き離し、また、砥石車48を再度ドレス用工具24に接触させる際にも、同様に接線方向に沿って砥石車48を移動させながら該砥石車48をドレス用工具24に接触させるため、上記のようにドレス中に砥石車48を一旦ドレス用工具24から引き離しながらも、砥石面の連続性を良好に確保することができるという利点がある。
【0036】
なお、以上説明したドレス装置は、本発明に係る加工機(本発明に係る加工方法を実施可能なドレス装置)の好ましい実施形態の一例であって、その具体的な構成(方法)は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0037】
例えば、上記実施形態では、ドレス用工具24に対して砥石車48をZ軸方向及びX軸方向に相対移動さるための送り駆動手段として砥石駆動装置14が兼用されているが、専用の駆動手段を設けるようにしてもよい。例えばドレス用工具24をベッド10に対してZ軸及びX軸方向に移動させる別の駆動手段を設け、ドレス時には、砥石車48を特定位置に固定的に配置した状態で、ドレス用工具24を移動させながら砥石車48のドレスを行うように構成してもよい。この場合もドレス用工具24側を移動させる点が実施形態と異なるだけで、ドレス用工具24と砥石車48との相対的な動きは上記実施形態と同様である。
【0038】
具体的には、図4に示すように、(1)ドレス用工具24を、砥石車48の基端部側からZ軸(−)方向に移動させながら最大径の位置までドレスし、(2)目標円弧のほぼ接線方向に沿ってドレス用工具24を砥石車48から引き離し、この引き離し状態で、円を描くようにドレス用工具24を移動させた後、(3)ドレス用工具24を目標円弧のほぼ接線方向に沿って砥石車48の基端部側から移動させながら砥石車48に再度接触させ、砥石車48のうち最大径の位置よりも先端側の部分をドレスする、ようにすればよい。
【0039】
なお、ドレス用工具24を砥石車48の最大径の位置で砥石車48から離間させ、再度接触するまでに描く円や楕円の径は、大きい程時間を要するが、加速度を低くできるため高精度が得られるので、半固定値として変更可能とするのが好適である。
【0040】
また、実施形態では、砥石車48をZ軸方向に軸方向送りしながら砥石車48をドレス用工具24から引き離すようにしているが、例えば軸方向送りを停止させた状態でこの動作を行うようにしてもよい。つまり、最大径の位置までドレスを行ったところで軸方向送り(Z軸(+)方向)のみを停止させ、これにより径方向送り(X軸(−)方向)に伴い砥石車48をドレス用工具24から引き離す。要は、砥石車48をドレス用工具24から引き離した状態で径方向送りの方向を反転させるようにすればよい。
【0041】
また、実施形態では、研削盤に組込まれたドレス装置に本発明を適用した例について説明したが、本発明は、これ以外の装置、例えば研削盤自体や旋盤についても本発明は適用可能である。例えば、ワークを回転駆動した状態で、当該ワークに対して回転軸方向に沿って工具(砥石車、バイト)を軸方向送りしながらその移動中に工具を径方向送りし、これによって回転軸方向に沿ったワーク外周面(内周面)の断面形状を円弧状に加工することが考えられ、この場合には、工具の径方向送りの方向を加工中に反転させる必要があるため、象限切換えに伴う突起等の形成が問題となる。従って、研削盤や旋盤についても、本発明を適用することにより象限切換えに伴う上記問題を解消することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る加工機であるドレス装置が組込まれる内面研削盤を示す平面図である。
【図2】コントローラの制御に基づく砥石車のドレス手順を示す模式図である。
【図3】コントローラの制御に基づく砥石車のドレス手順を示す模式図である。
【図4】ドレス用工具側を移動させる場合の砥石車のドレス手順を示す模式図である。
【符号の説明】
【0043】
12 ワーク駆動装置
14 砥石駆動装置
24 ドレス用工具
34 X軸駆動モータ
38 Z軸駆動モータ
44 砥石駆動モータ
46 砥石軸
48 砥石車
50 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを回転駆動し、このワークに対して工具を相対的に移動させることにより、回転軸方向に沿ったワーク外周面の断面形状が径方向外側に向かって凸となるように前記工具によりワークを加工する方法であって、
前記回転軸方向におけるワークの一端側から他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りすると共に、この軸方向送りの最中にワークの径方向中心側から外側に向かって前記工具をワークに対して相対的に径方向送りすることにより、所定の加工開始位置から最大径の位置まで前記回転軸方向に沿ってワークを加工する前期加工工程と、
前記工具をワークに対して相対的に前記径方向送りすることにより前記最大径の位置において前記工具をワークから離間させ、この離間状態で、前記径方向送りの送り方向を反転させて前記工具をワークの径方向外側から中心側に向かって相対的に径方向送りすると共に、前記他端側から一端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りして前記最大径の位置よりも前記一端側に前記工具を戻し、さらに軸方向送りの送り方向を反転させて前記工具を前記一端側から他端側に向かってワークに対して相対的に軸方向送りすることにより、前記回転軸方向であってワーク外周面の接線に沿った方向に前記工具をワークに対して移動させながら前記最大径の位置において前記工具をワークに再度接触させる径方向送り反転工程と、
前記反転後の送り方向に前記工具をワークに対して相対的に径方向送りすると共に、前記最大径の位置から前記他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りすることにより、前記最大径の位置から所定の加工終端位置まで前記回転軸方向に沿ってワークを加工する後期加工工程と、を連続して実施することを特徴とする加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加工方法において、
前記径方向送り反転工程では、前記一端側から他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りしながら前記工具をワークから離間させることを特徴とする加工方法。
【請求項3】
請求項2に記載の加工方法において、
回転軸に沿ったワーク外周面の接線の方向が連続的に変化するように前記ワークを加工すると共に、前記径方向送り反転工程では、前記接線方向に沿って前記工具をワークから離間させることを特徴とする加工方法。
【請求項4】
ワークを保持して該ワークを回転駆動するワーク駆動手段と、前記ワークの回転軸方向に沿って前記ワークとこれを加工するための工具とを相対移動させる軸方向送り駆動手段と、前記ワークの径方向に沿って前記工具とワークとを相対移動させる径方向送り駆動手段と、前記回転軸方向に沿ったワーク外周面の断面形状が径方向外側に向かって凸となるように前記各送り駆動手段を制御する駆動制御手段とを有する加工機において、
前記駆動制御手段は、前記回転軸方向におけるワークの一端側から他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りすると共に、この軸方向送りの最中にワークの径方向中心側から外側に向かって前記工具をワークに対して相対的に径方向送りすることにより、所定の加工開始位置から最大径の位置まで前記回転軸方向に沿ってワークを加工する前期加工工程と、
前記工具をワークに対して相対的に前記径方向送りすることにより前記最大径の位置において前記工具をワークから離間させ、この離間状態で、前記径方向送りの送り方向を反転させて前記工具をワークの径方向外側から中心側に向かって相対的に径方向送りすると共に、前記他端側から一端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りして前記最大径の位置よりも前記一端側に前記工具を戻し、さらに軸方向送りの送り方向を反転させて前記工具を前記一端側から他端側に向かってワークに対して相対的に軸方向送りすることにより、前記回転軸方向であってワーク外周面の接線に沿った方向に前記工具をワークに対して移動させながら前記最大径の位置において前記工具をワークに再度接触させる径方向送り反転工程と、
前記反転後の送り方向に前記工具をワークに対して相対的に径方向送りすると共に、前記最大径の位置から前記他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りすることにより、前記最大径の位置から所定の加工終端位置まで前記回転軸方向に沿ってワークを加工する後期加工工程と、を連続して実施することを特徴とする加工機。
【請求項5】
請求項4に記載の加工機において、
前記駆動制御手段は、前記径方向送り反転工程では、前記一端側から他端側に向かって前記工具をワークに対して相対的に軸方向送りしながら前記工具をワークから離間させることを特徴とする加工機。
【請求項6】
請求項5に記載の加工機において、
回転軸に沿ったワーク外周面の接線の方向が連続的に変化するように前記ワークを加工するものであって、前記駆動制御手段は、前記径方向送り反転工程では、前記接線方向に沿って前記工具をワークから離間させることを特徴とする加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−220191(P2009−220191A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64516(P2008−64516)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】