説明

加熱容器用蓋およびその製造方法

【課題】飽和状態に近い水蒸気に接触した場合においても蓋に結露による曇り現象を生じることがなく、蓋を装着した状態で加熱容器内の食品等を明確に視認できる加熱容器用蓋およびその効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】透明樹脂材から構成され、加熱容器2の蓋1として被着される加熱容器用蓋1において、少なくとも蓋1の内面側に付着する水分の接触角が5度以下であることを特徴とする加熱容器用蓋1である。また、蓋1の一方の表面に垂直に可視光線を照射した場合に、照射光の強度に対する蓋の他方表面に透過する透過光の強度の比である透明度の平均値が85%以上であることが好ましい。さらに透明樹脂材がポリエーテルサルホン樹脂であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱容器用蓋およびその製造方法に係り、特に飽和状態に近い水蒸気に接触した場合においても蓋に結露による曇り現象を生じることがなく、蓋を装着した状態で加熱容器内の食品・食材等を明確に視認できる加熱容器用蓋およびその効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるコンビニエンスストアやスーパーマーケット等の販売店においては、消費者の需要に対応して、おでん、中華饅頭、温惣菜等の調理食品等が店内に陳列販売されるようになり、誘導加熱機(IH:インダクションヒータ)を装備した加熱容器や蒸し器に食品を収容して保温状態に維持しながら販売されている。このとき水分の蒸発揮散を防止し食品の風味を維持するために、従来から加熱容器に木製等の蓋を装着していた。
【0003】
しかしながら、木製蓋のように不透明である蓋を装着した場合には、食品を外部から視認することが不可能であり、来客に嗜好感を与えて購買意欲をそそる効果が発揮されない欠点がある。
【0004】
その欠点を解消するために、実際にはおでん等の食品を煮込む時には蓋を装着して熱損失を低減して火の回りを良好にして加熱調理する一方、販売中には蓋を取り外して食品を来店者に直接視認させる方式も採用されたが、食品の匂いが過剰に店内に流通する一方で、店内の雰囲気から微細な塵芥等が加熱容器中に混入して食品を汚染する可能性もあり食品衛生上好ましくないという問題もあった。
【0005】
このような問題点に対処するため、従来から耐熱性を有する透明な樹脂材料で形成した蓋も広く使用されている。上記透明な樹脂材料で形成した蓋では、常温度の状態では結露も無く、容器内部に充填した食品を明瞭に視認できる。しかしながら、一旦加熱すると蓋の内外の温度差(約7℃以上)に起因して蓋の内側表面には蒸気が凝縮して曇りを生じてしまうために、容器内部の食品を周辺外部から明瞭に視認することは困難になる。さらに蓋内面における蒸気の凝縮が進行し、微細な凝縮水滴が合体してより大径の水滴に成長した場合には、水滴と透明な蓋との界面および水滴と空気との界面における光の屈折現象により透過像が歪んでしまうので、同様に容器内部の食品を視認することが実質的に不可能になってしまう問題が生起していた。
【0006】
上記問題点を解決するために、例えば下記特許文献1に示すように透明な加熱容器用の蓋基材の少なくとも内側表面に、実質的に透明な酸化チタン(TiO)などの光触媒粒子やシリカ(酸化珪素)、シリコーン等の、親水化を促進する成分を含有する表面層を備え、上記光触媒の光励起に応じて上記表面層が親水性を有するように調製した加熱容器用蓋も提案されている。
【0007】
上記酸化チタンなどの光触媒粒子等を含有する表面層を備えた加熱容器用蓋によれば、上記光触媒の光励起に応じて上記表面層が親水化されるために、蓋の内側に蒸気の凝縮により結露が生じても、生じた結露が蓋の内表面全体に均一に拡がり、蒸気の凝縮による曇り現象の発生が防止できるという効果が指向されている。
【特許文献1】特開2002−2766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記光触媒粒子等を含有する表面層を備えた従来の加熱容器用蓋においては、上記光触媒粒子等を蓋成形体の表面に強固に固定する技術が確立されておらず、長期間に渡って凝縮水による蓋の曇り現象の発生を防止することが困難であるという問題点があった。特に、樹脂材料と上記光触媒粒子等との接合性は、温度560〜600℃程度での焼付け処理等のあらゆる加熱処理を実施しても十分に改善されず、一旦は付着した光触媒粒子等が簡単な水洗いや払拭操作により容易に脱落してしまい、親水化による曇り止め効果が短時間で喪失してしまう問題点があった。
【0009】
一方、ガラス材で形成した蓋本体と上記酸化チタン(TiO)等の光触媒粒子との接合性は、双方の構成成分が共に金属酸化物で共通しているために良好であり、温度560〜600℃程度の焼付け処理によって触媒粒子の強固な接合状態が得られる。そしてガラス材に固着された光触媒粒子の親水化効果は半永久的に維持される利点がある。
【0010】
しかしながら、ガラス材で形成した蓋本体では耐衝撃性に難点があり、壊れ易く重量も大きく取扱い操作に高度の注意が必要である問題点が指摘されている。また、ガラス材で形成した蓋本体では、成形操作や曲げ加工に高度の技量を要する上に、成形形状に自由度が少なく使用目的に最適な複雑形状に成形できないなどの問題点もあった。
【0011】
本発明は、上述した従来の問題点を解決するためになされたものであり、特に高温度で飽和状態に近い水蒸気に接触した場合においても蓋に結露による曇り現象を生じることがなく、蓋を装着した状態で加熱容器内の食品等を明確に視認できる効果を有し、その効果を長く維持できる上に成形形状の自由度が高い加熱容器用蓋およびその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明者らは、高湿度の雰囲気に接触した場合においても凝縮水による曇りを蓋に発生させないような樹脂材料およびその処理方法を種々試行し、材料種類および処理方法が高温多湿状態に置いた蓋における水分凝縮による曇りの発生度合いを実験により比較検討した。その結果、特にある種の透明樹脂材料に所定波長の紫外線を照射することにより表面改質処理を実施し、少なくとも蓋の内面側に付着する水分の接触角を所定の値以下に調整したときに、高温度多湿状態に置いた場合においても曇り現象が長期にわたり発生せず容器内部に充填した食品等を容易に視認できる加熱容器用蓋が初めて得られるという知見を得た。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
本発明に係る加熱容器用蓋は、透明樹脂材から構成され、加熱容器の蓋として被着される加熱容器用蓋において、少なくとも蓋の内面側に付着する水分の接触角が5度以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る加熱容器用蓋においては、成形形状の自由度を高めるために樹脂材料から形成されている。樹脂材料としては、加熱容器中に配置した食品を、蓋を通して視認するために透明度が高い樹脂材料が好適に使用されるが、その透明度が損なわれない限度においてフィラー等の強化材を混入した樹脂材料を使用しても良い。
【0015】
高温度に加熱した多湿の食品を配置した加熱容器に蓋を装着した場合には、蓋の内外部での温度差によって蓋の内側表面に水分が凝縮して付着する現象が生じる。このとき、蓋の内面側に付着する水分の接触角が5度以下である場合には、蓋表面の濡れ性(親水性)が高く、凝縮した水滴は蓋表面に分離して形成されずに蓋表面全体に広がるため、水滴部における乱反射が無く、蓋が凝縮水によって曇ることも無く蓋を装着した状態で加熱容器内の食品等を明確に視認できる効果が得られる。
【0016】
なお、上記水分の接触角は、蓋成形体表面に純水を滴下し形成された水滴の周辺部と蓋成形体の表面との接触角度として測定される。また、蓋の内面側に付着する水分の接触角は3度以下であることが好ましく、1度以下であることがさらに好ましい。
【0017】
また上記加熱容器用蓋において、少なくとも一方の表面が飽和蒸気に接触している加熱容器用蓋の任意の10点を測定点に定め、各測定点において蓋の一方の表面に垂直に可視光線(波長400〜700nm)を照射した場合に、照射光の強度に対する蓋の他方表面に透過する透過光の強度の比である透明度の平均値が85%以上であることが好ましい。
【0018】
なお、上記透明度の測定点は加熱容器内に配置した食品全体の視認状況を評価するために、蓋の全域に及ぶように少なくとも10点選定される。具体的には図1に示すように蓋1が一つの平面部1aと、その外周を取巻き対向する長い2辺の側面部1bと、短い2辺の側面部1cとから成る長方形状の蓋1である場合には、蓋1の平面部1aに4個の測定点P1〜P4を設ける一方、長い2辺の側面部1bには2個ずつの測定点P5,P6およびP7,P8をそれぞれ設け、短い2辺の側面部1cには各1個ずつの測定点P9およびP10をそれぞれ設けることが望ましい。
【0019】
一般に加熱状態で展示販売される食品の温度は50〜105℃の範囲であり加熱容器内部はこの温度での空気に対する水の飽和蒸気圧が作用していると考えられるが、この温度・湿度状態で蓋の各測定点における可視光線の透過比率で表した透明度の平均値が85%以上であれば、飽和蒸気の凝縮に起因する曇り現象が発生せずに蓋は透明状態に維持されるため、容器内部に充填した食品等を容易に視認することができる。より視認性を高めるためには、上記蓋の透明度の平均値は90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい範囲である。
【0020】
さらに、上記加熱容器用蓋において、加熱容器用蓋の3年間の使用期間に実施する中性洗剤による洗浄操作を繰返した後における前記加熱容器用蓋の透明度の平均値が75%以上であることが好ましい。上記3年使用後における蓋の透明度の平均値は80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい範囲である。
【0021】
具体的には、上記加熱容器用蓋の使用期間中に中性洗剤を含ませたスポンジで加熱容器用蓋の表面部を5往復するように擦りつけた後に水洗浄する1回の洗浄操作を1日2回の頻度で累計2200回実施した後における加熱容器用蓋の透明度の平均値を測定し曇り止め効果の持続性が評価される。上記2200回の洗浄操作は加熱容器用蓋を3年間使用した場合における環境負荷に相当する。
【0022】
そして、上記2200回の洗浄操作を実施した後における加熱容器用蓋の透明度の平均値が75%以上であれば透明度の劣化は少なく、曇り止め効果が効果的に持続でき耐久性が高い加熱容器用蓋であることが確認できる。
【0023】
さらに、上記加熱容器用蓋において、前記透明樹脂材がサルホン系樹脂であることが好ましい。サルホン系樹脂は非結晶性樹脂で本来的に透明であり、水は勿論、化学薬品に対する耐食性に優れ、−40℃から+204℃の広範囲の温度耐性を有し、加熱容器の使用温度に十分耐える特性を備えている。
【0024】
また、サルホン系樹脂は通常の射出成形法、押出し成形法、ブロー成形法等の汎用のプラスチック成形法により迅速に成形加工することができる。さらに、切削加工、熱圧入やねじ切りはもとより、超音波溶着や接着、レーザーマーキング等の二次加工も可能であるために、蓋成形体の仕上げ加工および補修も容易である。また、ASTM―D955に準拠して測定した成形収縮率も0.6〜0.7程度であるため、高い形状精度で蓋成形体を形成することが可能である。
【0025】
また、上記加熱容器用蓋において、前記透明樹脂材がポリサルホン樹脂であることが好ましい。サルホン系樹脂の中でも特にポリサルホン樹脂は、引張り強度が70MPaであり曲げ強度が106MPaであり荷重撓み温度が174℃であり、強靭で剛性に優れた高強度熱可塑性樹脂であり広い温度範囲で耐熱性および高い構造強度特性を有しているため、加熱容器用蓋の構成材として有効である。
【0026】
さらに、上記加熱容器用蓋において、前記透明樹脂材がポリエーテルサルホン樹脂であることが好ましい。サルホン系樹脂の中でも特にポリエーテルサルホン樹脂は、引張り強度が70MPaであり曲げ強度が111MPaであり荷重撓み温度が204℃であり、強靭で剛性に優れた高強度熱可塑性樹脂であり広い温度範囲で耐熱性および高い構造強度特性を有しているため、加熱容器用蓋の構成材として有効である。特にポリエーテルサルホン樹脂は、高温度の液体に接触しても内分泌攪乱物質、いわゆる環境ホルモンの溶出が無く、その安全性の高さから哺乳瓶等の食品容器の構成材として限定的に使用されている樹脂材料である。
【0027】
したがって、ポリエーテルサルホン樹脂で蓋成形体を形成することにより、耐熱性および構造強度に優れ、しかも環境ホルモン等の有害物の溶出がない安全な加熱容器用蓋が得られる。また、ポリエーテルサルホン樹脂は、本質的に難燃性であるため、加熱容器の加熱源からの引火による火災の危険も無く安全性に優れる。
【0028】
また、前記加熱容器用蓋が食品としてのおでんを加熱する容器に被着される蓋として使用することが有効である。この加熱容器用蓋をコンビニエンスストア等の販売店でおでんを加熱状態で展示販売する加熱容器やショーケースに被着される蓋やケース本体(外殻)として使用すれば、蓋やケース本体が凝縮水によって曇ることが無く蓋を装着した状態で加熱容器内のおでんを明確に視認でき、来店者に購買意欲をそそる効果が得られ販売促進に有効である。
【0029】
さらに、前記加熱容器用蓋が食品としての中華饅頭や温泉饅頭などの蒸し饅頭を蒸す加熱容器やショーケースに被着される蓋や扉、さらにはケース本体(外殻)として使用することも有効である。
【0030】
すなわち、本発明に係る温蔵ショーケースは、商品を収容し加熱状態で保存陳列するケース本体を有する温蔵ショーケースにおいて、上記ケース本体が少なくともケース内面側に付着する水分の接触角が5度以下である前記透明樹脂材から構成されていることを特徴とする。
【0031】
従来、中華饅頭等を蒸した状態で展示販売する温蔵ショーケースを備えた加熱容器では、ケース内外での温度差による結露を防止するために、対向配置した一対のペアガラスの中間部に断熱用の空気層を配置した構造を有するガラス材を曲げ加工したケース本体(外殻)が広く用いられている。
【0032】
しかしながら、上記ペアガラス構造を有するガラス材を組み立てて所定形状に曲げ加工するためには高度の技量が要求され加熱容器の製造原価が高騰する上に、ガラス自体の耐衝撃性が低いために割れ易い等の欠点があった。しかるに、本発明に係る加熱容器用蓋は樹脂で形成されているために、曲げ加工が容易であり、また耐衝撃性も優れており、上記従来の欠点を解消することができる。
【0033】
また、本発明に係る加熱容器用蓋の製造方法は、透明樹脂材料を成形して蓋成形体を形成し、少なくとも蒸気と接触する蓋成形体の表面に波長150〜380nmの紫外線を照射することにより蒸気接触面となる蓋表面を改質し、この蒸気接触面に付着する水分の接触角を5度以下となるように調整することを特徴とする。
【0034】
すなわち本発明で規定する蓋の蒸気接触面に付着する水分の接触角または所定の透明度を実現するために、蓋成形体の表面に所定波長の紫外線(UV)を照射する表面処理が実施される。照射する紫外線の波長が150nm未満であると、紫外線照射による表面改質効果が不十分であり、蓋における十分な曇り止め効果が得られない。一方、紫外線の波長が380nmを超えるように過大に設定しても、上記表面改質効果の更なる向上は期待できない。上記紫外線の波長域のうち、特に波長が185nmである短波長紫外線、波長が254nmである殺菌用紫外線や波長が365nmである長波長紫外線が好適である。
【0035】
上記蓋成形体の表面に紫外線(UV)を照射する場合には、紫外線ランプと蓋成形体表面との間隔である照射距離を10〜200mm程度に設定し、30秒〜60分間照射することが好適である。
【0036】
上記のように蓋成形体の表面に所定波長の紫外線を照射することにより蒸気接触面となる蓋表面が改質され、この蒸気接触面に付着する水分の接触角が5度以下、好ましくは3度以下に調整でき、優れた曇り止め効果が得られる。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る加熱容器用蓋およびその製造方法によれば、蓋の内面側に付着する水分の接触角が5度以下に調整されているために、蓋表面の濡れ性(親水性)が高くなり凝縮した水滴は蓋表面に分離して形成されずに蓋表面全体に広がる結果、水滴部における乱反射が無く、蓋が凝縮水によって曇ることも無く蓋を装着した状態で加熱容器内の食品等を明確に視認できる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に本発明に係る加熱容器用蓋の実施の形態について、添付図面および以下の実施例を参照してより具体的に説明する。図1は、本発明に係る加熱容器用蓋の一実施形態を示す平面図であり、図2は図1に示す加熱容器用蓋を食品としてのおでんを加熱状態で展示販売する加熱容器に装着した状態を示す断面図である。
【0039】
[実施例1〜実施例12]
透明樹脂材として、ポリエーテルサルホン樹脂(商品名:RADEL―A、Solvay Advanced Polymers社製、成形時の樹脂温度375℃、)およびポリサルホン樹脂(商品名:UDEL、Solvay Advanced Polymers社製、成形時の樹脂温度370℃)の2種類を用意し、それぞれの材料を使用し射出成形法により成形操作を実施して図1に示すような一方に膨出部を有する箱型形状の蓋成形体を多数調製した。
【0040】
次に各蓋成形体について、紫外線ランプと蓋成形体表面との間隔である照射距離を100mmに設定し、加熱蒸気を含む雰囲気に接触する蓋の裏側の表面全体に対して表1に示す条件で紫外線照射を行って表面改質処理を実施し、各実施例用の蓋成形体を調製した。
【0041】
[比較例1〜比較例4]
透明樹脂材として、汎用の透明ポリプロピレン(PP)を用意し、シリンダー温度を210℃、射出圧力を60MPa、金型温度を55℃に設定した射出成形条件で成形操作を実施して実施例1と同一寸法を有する各比較例1〜4用の蓋成形体を調製した。比較例1については紫外線照射を実施せずにそのまま完成品とした。また、比較例2〜4に係る各蓋成形体について、加熱蒸気を含む雰囲気に接触する裏側の表面全体に対して表1に示す条件で紫外線照射を行って表面改質処理を実施し、比較例2〜4用の蓋成形体を調製した。
【0042】
[比較例5〜比較例6]
ポリエーテルサルホン樹脂により形成した実施例1用の蓋成形体およびポリサルホン樹脂により形成した実施例7用の蓋成形体について、加熱蒸気を含む雰囲気に接触する裏側の表面全体に対して紫外線照射による表面改質処理を実施せずに、そのまま比較例5〜6の蓋成形体を調製した。
【0043】
上記のように調製した各実施例用および比較例用の蓋成形体について、図3に示すように、製造直後の各蓋成形体1の裏側の表面に付着させた水滴5の接触角θの平均値を測定した。すなわち、上記水滴5の接触角θは、加熱蒸気を含む雰囲気に接触する蓋成形体の裏側表面の5箇所に純水を滴下して形成された水滴5の周辺部と蓋成形体1の表面との接触角θの平均値として測定した。測定した接触角θの平均値を表1に示す。
【0044】
次に図1および図2に示すように、各実施例用および比較例用の蓋成形体の膨出部中央にそれぞれ取手4を取り付けることにより各実施例1〜12および比較例1〜6に係る加熱容器用蓋1を調製した。このように調製した各加熱容器用蓋1を、図2に示すように、食品としてのおでんを煮込んだ温度85℃の加熱容器2に装着し、蓋1を装着した時点から内面に蒸気が接触して30分経過後における蓋1各部の透明度を測定した。
【0045】
なお、上記透明度は図1に示すように、蓋1の平面部1aに設定した4個の測定点P1〜P4、長い2辺の側面部1bに設定した2個ずつの測定点P5,P6およびP7,P8および短い2辺の側面部1cに設定した各1個ずつの測定点P9およびP10の合計10点の測定点において測定した。
【0046】
また、各実施例1〜12および比較例5〜6に係る加熱容器用蓋1について、中性洗剤を含ませたスポンジで加熱容器用蓋1の表面部を5往復するように擦りつけた後に水洗浄する1回の洗浄操作を累計で2200回繰返すことにより、実際に3年間使用した状態を作り出した後において、各加熱容器用蓋1の透明度の平均値を測定した。その平均値を下記表1に示す。
【表1】

【0047】
上記表1に示す結果から明らかなように、サルホン系樹脂から成る蓋成形体の裏面側表面に所定条件で紫外線照射を実施して改質処理を加えた各実施例1〜12に係る加熱容器用蓋においては、各蓋の内面側に付着する水分の接触角が5度以下に調整されるために、蓋表面の濡れ性(親水性)が高く、凝縮した水滴は蓋表面に分離して形成されずに蓋表面全体に広がる。そのため、水滴部における乱反射が無く、蓋が凝縮水によって曇ることも無く蓋を装着した状態で加熱容器内の食品等を明確に視認できる効果が得られることが実証された。
【0048】
また、2200回の洗浄操作を実施し、実質的に3年間使用した後における各実施例1〜12に係る加熱容器用蓋の透明度は70〜85%であり、透明度の低下が少なく、紫外線照射処理による曇り止め効果が長期間に渡って持続させることができ耐久性が高い加熱容器用蓋であることが確認できた。
【0049】
一方、透明樹脂材料としてポリプロピレン樹脂を使用した比較例1〜4に係る加熱容器用蓋においては、紫外線照射の実施の有無に関係なく、蒸気との接触表面の改質効果が少なく、付着水の接触角も大きくなり親水化効果が不十分で所定の曇り止め効果が得られないことが再確認された。
【0050】
また、サルホン系樹脂を構成材料として使用しても、紫外線照射を実施していない比較例5〜6に係る加熱容器用蓋においては、蒸気接触表面での改質効果が殆ど無く、曇り止め効果が全く得られていないことが判明した。さらに、洗浄操作を繰返して実施し実質的に3年間使用した後における蓋の透明度もさらに低下するのみであり、加熱容器用蓋としては不適である。
【0051】
以上の実施例においては本発明に係る加熱容器用蓋について食品としてのおでんを加熱状態で展示販売するための加熱容器の蓋を例にとって説明したが、本発明は上記実施例に限定されず、各種の他の用途にも適用可能である。
【0052】
例えば、図4に示すように、前記加熱容器用蓋1が食品としての中華饅頭や温泉饅頭等の蒸し饅頭10を加熱状態に保持し収容する温蔵ショーケース11に開閉自在に被着される蓋(扉)12であり、上記温蔵ショーケース11の左右側面および頂部に形成される透明部13a、13b、13cは、上記加熱容器用蓋1と同一の材料、すなわち所定の紫外線照射処理された透明樹脂で形成されて構成されている。すなわち、温蔵ショーケース11のケース本体(外殻)も上記所定の紫外線照射処理された透明樹脂で形成されている。
【0053】
上記温蔵ショーケース11の内部には複数の傾斜した陳列棚13が配置され、その陳列棚13の上面に中華饅頭や温泉饅頭等の蒸し饅頭10が載置されている。ショーケース11前面側に開閉自在に配置された両開き式の一対の蓋(扉)12には、それぞれ把手15が取り付けられている。
【0054】
上記図4に示す温蔵ショーケース11によれば、蓋(扉)12、左右および頂部の透明部13a、13b、13cを含むケース本体(外殻)が前記のような紫外線照射された透明樹脂材料で形成されているために、ケース本体内部に高温度の蒸気が充満しても材料内面の濡れ性(親水性)が高くなり凝縮した水滴は材料内面に分離して形成されずに材料内面全体に広がる結果、水滴部における乱反射が無く、透明部13a、13b、13cを含むケース本体が凝縮水によって曇ることも無く蓋(扉)12を閉止した状態でもショーケース11内に陳列した蒸し饅頭10等を外部から明確に視認できる効果が得られる。
【0055】
また、他の適用例として家庭用および業務用の加熱調理鍋に装着する蓋としても有用である。この調理鍋に本発明に係る蓋を装着した場合には、蓋の曇りが発生しないため、加熱調理中に逐次食材への加熱状態が蓋を取らずに確認できる上に、また熱損失を低減することができる。
【0056】
特に加熱調理器具としてのフライパンや誘導加熱(IH)方式のホットプレートに装着する蓋として本発明の蓋材を適用することも効果的である。例えば、餃子を蒸し焼きする場合や卵を目玉焼きとして焼く場合においては、熱の放散を防止しつつ短時間内に焦げ目の付き具合や焼きの進行程度を迅速に把握する必要がある。このとき、本発明の蓋材を使用すれば、蒸気による曇りが発生しないために、上記の調理の進行状況が、蓋を取らずに把握できる上に、蓋の開放による熱の逸散も防止でき加熱効率を高めることが可能になる。
【0057】
また他の用途として、店頭販売用中華饅頭などの蒸し饅頭の蒸し器のケースおよび取り入れ取り出し口を構成する蓋としても有効である。蒸し器の構成材に本発明の蓋材を採用した場合には、蒸気による曇り蓋を通して加温された中華饅頭の状態が容易に視認でき販売促進に有効である。
【0058】
また、従来から店頭販売用の中華饅頭の蒸し器では、ケース内外での温度差による結露を防止するために、対向配置した一対のペアガラスの中間部に断熱用の空気層を配置した構造を有するガラス材を曲げ加工したケース本体が広く用いられているが、上記ペアガラス構造を有するガラス材を所定形状に曲げ加工するためには高度の技量が要求され加熱容器の製造原価が高騰する上に、ガラス自体の耐衝撃性が低いために割れ易い等の欠点があった。しかるに、本発明に係る加熱容器用蓋を適用した場合には、耐衝撃強度および加工性が優れた樹脂で形成されているために、曲げ加工が容易で複雑形状でも容易に形成でき、形状の自由度が高まり製造原価も低減できる。また耐衝撃性も優れているため、取扱い性も向上する。
【0059】
さらに他の用途として、乾燥により鮮度が急激に低下する高級野菜を加湿しながら保管展示販売する加湿機能付きショーケースの蓋材としても有効である。このような加湿雰囲気に接触するショーケースの蓋材に本発明の蓋材を適用した場合には、湿分による曇りが発生しない状態で内部の野菜の鮮度が確認できるため、顧客へのアピール度が高い。さらに、蓋を開閉せずに鮮度の確認ができるために、蓋の開閉頻度が減少し開閉操作に伴う加湿効果を損なう恐れも減少する。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る加熱容器用蓋およびその製造方法によれば、蓋の少なくとも内面側に付着する水分の接触角が5度以下に調整されているため、蓋表面の濡れ性(親水性)が高く、凝縮した水滴は蓋表面に分離して形成されずに蓋表面全体に広がる。そのため、水滴部における乱反射が無く、蓋が凝縮水によって曇ることも無く蓋を装着した状態で加熱容器内の食品等を明確に視認できる効果が得られる。
【0061】
また製造工程においては、紫外線照射による物理的処理が主体になり化学薬品等を使用する処理ではないために、薬剤の溶出がなく食品衛生上の問題は発生し得ない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る加熱容器用蓋の一実施形態を示す平面図。
【図2】図1に示す加熱容器用蓋を、食品としてのおでんを加熱状態で展示販売する加熱容器に装着した状態を示す断面図。
【図3】本発明に係る加熱容器用蓋の表面に付着した水滴の接触角を測定する方法を説明する断面図。
【図4】本発明に係る加熱容器用蓋を温蔵ショーケースの蓋(扉)や側壁、頂部の構成材として適用した構成例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0063】
1…加熱容器用蓋、1a…蓋平面部、1b…長辺の側面部、1c…短辺の側面部、2…加熱容器、3…食品(おでん)、4…取手、5…水滴、10…蒸し饅頭(中華饅頭、温泉饅頭)、11…温蔵ショーケース、12…蓋(扉)、13a、13b、13c…透明部、14…陳列棚、15…把手、P1〜P10…透明度測定点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂材から構成され、加熱容器の蓋として被着される加熱容器用蓋において、少なくとも蓋の内面側に付着する水分の接触角が5度以下であることを特徴とする加熱容器用蓋。
【請求項2】
少なくとも一方の表面が飽和蒸気に接触している加熱容器用蓋の任意の10点を測定点に定め、角測定点において蓋の一方の表面に垂直に可視光線を照射した場合に、照射光の強度に対する蓋の他方表面に透過する透過光の強度の比である透明度の平均値が85%以上であることを特徴とする請求項1記載の加熱容器用蓋。
【請求項3】
前記加熱容器用蓋の3年間の使用期間に実施する中性洗剤による洗浄操作を繰返した後における前記加熱容器用蓋の透明度の平均値が75%以上であることを特徴とする請求項1記載の加熱容器用蓋。
【請求項4】
前記透明樹脂材がサルホン系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の加熱容器用蓋。
【請求項5】
前記透明樹脂材がポリサルホン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の加熱容器用蓋。
【請求項6】
前記透明樹脂材がポリエーテルサルホン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の加熱容器用蓋。
【請求項7】
前記加熱容器用蓋が食品としてのおでんを加熱する容器に被着される蓋であることを特徴とする請求項1記載の加熱容器用蓋。
【請求項8】
前記加熱容器用蓋が食品としての蒸し饅頭を蒸す加熱容器に被着される蓋であり、この蓋が蒸し饅頭を収容陳列するケース本体を構成していることを特徴とする請求項1記載の加熱容器用蓋。
【請求項9】
前記加熱容器用蓋が食品としての蒸し饅頭を加熱状態に保持し収容する温蔵ショーケースに開閉自在に被着される扉であり、上記温蔵ショーケースのケース本体も上記加熱容器用蓋と同一材料で形成されていることを特徴とする請求項8記載の加熱容器用蓋。
【請求項10】
商品を収容し加熱状態で保存陳列するケース本体を有する温蔵ショーケースにおいて、上記ケース本体が少なくともケース内面側に付着する水分の接触角が5度以下である透明樹脂材から構成されていることを特徴とする温蔵ショーケース。
【請求項11】
透明樹脂材料を成形して蓋成形体を形成し、少なくとも蒸気と接触する蓋成形体の表面に波長150〜380nmの紫外線を照射することにより蒸気接触面となる蓋表面を改質し、この蒸気接触面に付着する水分の接触角を5度以下となるように調整することを特徴とする加熱容器用蓋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−37575(P2007−37575A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221815(P2005−221815)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(599061110)株式会社 タニックス (1)
【Fターム(参考)】