説明

加熱装置およびそれを備えた画像形成装置

【課題】定着ローラ1が整磁合金製の芯金の再生品であっても非通紙部昇温を防止でき、良好な定着画像を得る電磁誘導加熱方式の定着装置の提供。
【解決手段】定着ローラ1が再生品(リサイクル品)であることを識別できる識別手段を装置本体に設け、再生品投入時、識別手段が再生品と識別した結果、定着条件を変更することで、再生品においても非通紙部昇温を防止でき、良好な定着画像(グロス等)を得ることが出来る。変更する定着条件とは、コイル電流の周波数fである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱部材を加熱する電磁誘導加熱方式の加熱装置およびそれを備えた画像形成装置に関するものである。
【0002】
上記の加熱装置には画像加熱装置が含まれる。画像加熱装置は画像を担持した記録材を加熱処理する装置である。記録材上の未定着トナー像を加熱して定着或いは仮定着する画像定着装置、記録材に定着された画像を加熱して画像の光沢を増大させる光沢増大化装置が挙げられる。また、インクジェットで画像形成された記録材を加熱して乾燥させる像加熱装置が挙げられる。また、加熱装置には、その他、例えば、シート状部材のしわ除去用の熱プレス装置や、熱ラミネート装置、シート状部材の含水分を蒸発させる加熱乾燥装置など、シート状部材を加熱処理する加熱装置などが含まれる。
【背景技術】
【0003】
例えば特許文献1に示されるように、加熱源として高周波誘導を利用した誘導加熱方式の定着装置が提案されている。この装置は、金属導体からなる中空の定着ローラ(加熱部材)の内部にコイルが同心状に配置されている。そして、このコイルに高周波電流を流して生じた高周波磁界により定着ローラに誘導渦電流を発生させ、定着ローラ自体の表皮抵抗によって定着ローラそのものをジュール発熱させるようになっている。この誘導加熱方式の定着装置によれば、電気−熱変換効率が極めて向上するため、ウォームアップタイムの短縮化が可能となる。
【0004】
このような電磁誘導加熱方式の定着装置であっても、被加熱材として装置に通紙使用可能な最大幅サイズの記録材の全域を所定の定着温度で加熱してトナー画像定着するように作動するために、実際にトナー画像を定着する以上のエネルギーを消費しまう。ここで、記録材の幅サイズとは、記録材面において、記録材の搬送方向に直交する方向の記録材寸法である。また、通紙域の温度調整をするための電力制御は、電流及び周波数を可変にして制御している。そのため、通紙域の記録材による放熱などで急激な温度低下が起きた場合に、たくさん電力を供給しようとすると、記録材のサイズによっては、通紙域ではない領域(非通紙領域)に必要以上の電力が供給されてしまう。その結果、定着ローラの非通紙領域が異常昇温(非通紙部昇温)して機内昇温や定着装置構成部材の熱劣化を引き起こすおそれがある。
【0005】
その対応手段として、例えば、特許文献2に示されるように、発熱体である整磁合金のキュリー温度を略定着温度付近に調整し、電流供給手段による供給電流値を固定する手段が有効的である。すなわち、定着ローラの温度立ち上げの際、誘導コイルはコイル駆動電源から定着ローラのキュリー温度に到達可能な固定電流値で通電される。これにより、定着ローラは誘導コイルが発生する高周波交番磁束により加熱されたキュリー温度に達する。定着ローラ温度がキュリー温度に達すると、定着ローラの磁性が急激に低下することで定着ローラの温度がキュリー温度以上には上がらない。つまり、定着ローラではキュリー温度に到達すると力率が低下し、これに伴い誘導コイルの消費電力が低下し、定着ローラは発熱を抑制する方向に働くので自己温度制御が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−033787号公報
【特許文献2】特開2005−250012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
整磁合金製の芯金に用いられる材料はニッケル合金が一般的である。このニッケル合金は高価である。また、近年は、できるだけゴミを出さずに省資源化を図る社会的傾向もあって、定着ローラの芯金外周の被覆層である離型層や弾性層の劣化で定着ローラの寿命が尽きると、芯金を再利用して定着ローラを再生するリサイクルが広く行われつつある。
【0008】
この整磁合金製の芯金を再利用して再生した定着ローラを以下においては再生ローラ(再生加熱部材)と記す。再生ローラは、古くなった定着ローラの表面のコーティング層やPFAチューブをウォータージェットやブラスト処理などの切削加工により十分に除去して芯金のみの状態にする。そして、その芯金に再びコーティングやチューブ被覆などの加工を施して定着ローラとして再生したものである。
【0009】
再生ローラは上記のようにローラ表層を切削加工等により芯金から十分に除去する処理をするために芯金の肉厚がリサイクル品ではない新品定着ローラ(以下、再生前ローラ(再生前加熱部材))の芯金の肉厚に比べて薄くなってしまう。そのために、再生ローラは、再生前ローラよりも非通紙部昇温の抑制効果が少なくなってしてしまうという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、電磁誘導加熱される加熱部材が整磁合金製の芯金を再利用した再生加熱部材であっても再生前加熱部材と同様の非通紙部昇温の抑制効果を得ることができるようにした電磁誘導加熱方式の加熱装置を提供することを目的とするものである。また、それを備えた画像形成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明に係る加熱装置の代表的な構成は、整磁合金製の芯金と前記芯金の外周に形成された被覆層とを有し回転可能な加熱部材と、前記加熱部材とニップ部を形成する加圧部材と、前記芯金を電磁誘導加熱する電磁誘導加熱手段と、制御手段と、を有し、前記ニップ部で被加熱材を挟持搬送して加熱する加熱装置において、前記加熱部材に関する識別情報を保有している識別情報保有部と、前記識別情報保有部の識別情報を認識する識別情報認識手段と、を有し、前記制御手段は前記識別情報認識手段で認識される識別情報に応じて装置の電磁誘導加熱の条件を変更して被加熱材を加熱する動作を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電磁誘導加熱される加熱部材が整磁合金製の芯金を再利用した再生加熱部材でも再生前加熱部材と同様の非通紙部昇温の抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は画像形成装置例の概略構成図、(b)は定着装置の要部の横断面模型図
【図2】定着装置の要部の拡大横断面模型図及び制御系統のブロック図
【図3】周波数を変えた場合のIH電源電力
【図4】制御のフローチャート
【図5】外部加熱方式の定着装置の一例の要部の横断面模型図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳しく説明する。
【0015】
[実施例]
(1)画像形成装置例
図1の(a)は本発明に従う電磁誘導加熱方式の加熱装置を、画像を加熱定着する定着装置として備えた画像形成装置の一例の概略構成模型図である。本例の画像形成装置100は転写式電子写真プロセス利用、レーザー走査露光方式の画像形成装置(複写機、プリンター、ファクシミリ、それらの複合機能機等)である。
【0016】
101は原稿読取装置(イメージスキャナー)、102は領域指定装置(デジタイザー)であり、何れも画像形成装置100の上面側に配設してある。原稿読取装置101は該装置の原稿台上に載置した原稿面を内部に設けた光源等からなる走査照明光学系により原稿を走査し、原稿面からの反射光をCCDラインセンサ等の光センサにより読み取り、画像情報を時系列電気デジタル電気信号に変換する。領域指定装置102は原稿の読み取り領域等の設定を行い、信号を出力する。104は原稿読取装置101、領域指定装置101、プリントコントローラ103等からの信号を受けて、画像出力機構の各部に指令を送る信号処理及び種々の作像シーケンス制御を行う制御部(装置制御手段:CPU)である。
【0017】
以下は画像出力機構部(作像機構部)の説明である。105は像担持体としての回転ドラム方の電子写真感光体(以下、ドラムと記す)であり、矢印の時計方向に所定の周速度にて回転駆動される。ドラム105はその回転過程で、帯電装置106により所定の極性・電位の一様な帯電処理を受け、その一様帯電面に対して画像書き込み装置107による像露光Lを受ける。これにより、一様帯電面の露光明部の電位が衰退してドラム105面に露光パターンに対応した静電潜像が形成される。画像書き込み装置107は本例の場合はレーザースキャナーであり、制御部104において信号処理された画像データに従って変調されたレーザー光Lを出力し、回転するドラム105の一様帯電面を走査露光して原稿画像情報に対応した静電潜像を形成する。
【0018】
次いで、その静電潜像が現像装置108によりトナー画像として現像される。そのトナー画像が転写帯電装置109の位置において、給紙機構部側からドラム105と転写帯電装置106との対向ニップ部である転写部Tに所定の制御タイミングにて給送された被加熱材である記録材Pにドラム105面側から静電転写される。
【0019】
給紙機構部は、本例の場合は、大サイズ記録材を積載収容したカセット給紙部111と小サイズ記録材を積載収容したカセット給紙部110を有する。また、カセット給紙部111又は110から1枚分離給紙された記録材Pを転写部Tに所定のタイミングにて搬送する記録材搬送路112を有している。
【0020】
転写部Tでドラム105面側からトナー画像の転写を受けた記録材Pは、ドラム105面から分離されて定着装置114へ搬送される。定着装置114へ搬送された記録材Pは未定着トナー画像の定着処理を受け、画像形成装置外部の排紙トレイ115上に排紙される。 一方、記録材分離後のドラム105面はクリーニング装置113により転写残りトナー等の付着汚染物の除去を受けて清掃されて繰り返して作像される。
【0021】
(2)定着装置
図1の(b)は本実施例における定着装置114の要部の拡大横断面模型図、図2は要部の正面模型図と制御系統のブロック図である。この定着装置114は、加熱ローラ型で、電磁誘導加熱方式の加熱装置である。即ち、互いに所定の押圧力で圧接させて所定のニップ長(ニップ幅)の定着ニップ部Nを形成させた一対の加熱部材(加熱媒体、定着部材)と加圧部材としての、上下並行2本の加熱ローラ1と加圧ローラ2とを有する。
【0022】
加熱ローラ(以下、定着ローラと記す)1は誘導発熱体である中空(円筒状)の金属製の芯金(金属層、導電層)1aを有するローラであり、芯金1aの外周面には、フッ素樹脂等をコーティングした被覆層としての耐熱性の離型層1bが形成されている。
【0023】
定着ローラ1を構成する誘導発熱体である芯金1aは、例えば、鉄、ニッケル、SUS430、鉄―ニッケル合金、鉄―ニッケル―クロム合金、ニッケル―コバルト合金等の磁性金属(導電体、磁性体)である。また、特開2000−39797号公報等に開示されるように、キュリー温度を所望に調整した整磁合金等である。定着ローラ1の芯金1aの厚さは、0.05mm〜1.5mmであり、その芯金1aのキュリー温度は、記録材Pに対してトナー画像tが定着可能な温度よりも高く、コイル6の耐熱温度より低く設定されている。本実施例では、定着温度が195℃で、耐熱温度が230℃に設定されている為、キュリー温度は205℃に設定してある。
【0024】
定着ローラ1は両端部側をそれぞれ定着装置の手前側と奥側の側板(定着ユニットフレーム)21・22間に軸受23を介して回転可能に支持させて配設してある。また内空部には、上記の定着ローラ1に誘導電流(渦電流)を誘起させてジュール発熱させるための高周波磁界を生じる、磁束発生手段(電磁誘導加熱手段)としてのコイル・アセンブリ3を挿入して配設してある(内部加熱方式)。
【0025】
加圧ローラ2は、軸芯2aと、その軸芯の外回りに同心一体にローラ状に形成具備させた表面離型性耐熱ゴム層であるシリコンゴム層(弾性体層)等2bとからなる弾性ローラである。加圧ローラ2は、上記定着ローラ1の下側に並行に配列して、軸芯2aの両端部側をそれぞれ定着装置の手前側と奥側の側板21・22間に軸受26を介して回転自在に保持させてある。また、加圧ローラ2は、定着ローラ1の下面に対して不図示の付勢手段により弾性体層2bの弾性に抗して所定の押圧力にて圧接させて、ローラ回転方向に関して所定のニップ長(二ップ幅)の加熱部としての定着ニップ部Nを形成させている。
【0026】
コイル・アセンブリ3は、ボビン4、磁性材からなるコア(芯材)5、誘導コイル(励磁コイル、誘導発熱源)6、絶縁部材製のステー7等の組み立て体である。コア5はボビン4に形成した通孔に挿入させてあり、コイル6はボビン4の周囲に銅線を巻回して形成されている。ボビン4、コア5、コイル6のユニットをステー7に固定支持させてある。そして、コイル・アセンブリ3は、ボビン4とは別体に形成された前記ステー7に固定され、定着ローラの外部に露呈しないように収納されている。
【0027】
コア5としては、透磁率が大きく自己損失の小さい材料がよく、例えばフェライト、パーマロイ、センダスト等が適している。ボビン4は、コア5とコイル6とを絶縁する絶縁部としても機能している。コイル6は加熱の十分は交番磁束を発生するものでなければならないが、そのためには抵抗成分が低く、インダクタンス成分を高くとる必要がある。コイル6の芯線としてφ0.1〜0.3の細線を略80〜160本ほど束ねたリッツ線を用いている。細線には絶縁被覆電線を用いている。また、コア5を周回するようにボビン4の形状に合わせて横長舟型に複数回巻回してコイルとしてある。コイル6は定着ローラ1の長手方向に巻かれている。6a・6bはコイル6の2本の外方引出しリード線(コイル供給線)であり、ステー7の手前側の丸軸形状部7aを中空軸にしてその中空部から外部に引き出してコイル駆動電源(周波数可変制御部、定電流回路)116に接続してある。コイル駆動電源116は、コイル6に高周波電流を供給する電流供給手段と、定電流を供給する定電流化手段と、周波数を可変制御する周波数可変制御手段である。コイル駆動電源116は制御手段である制御部104により制御される。
【0028】
13は分離爪であり、定着ニップ部Nに導入されて定着ニップ部Nを出た記録材Pが定着ローラ1に巻き付くのを抑え、定着ローラ1から分離させる役目をする。ボビン4、ステー7、分離爪13は、例えば液晶ポリマー、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドなどの耐熱および電気絶縁性エンジニアリング・プラスチックから形成されている。
【0029】
Gは定着ローラ1の手前側の端部に固着させた定着ローラドライブギアである。このドライブギアGに駆動源Mから駆動伝達系を介して回転力が伝達されることで、定着ローラ1が矢印Aの時計方向に所定の周速度にて回転駆動される。加圧ローラ2はこの定着ローラ1の回転駆動に従動して矢印の反時計方向に回転する。
【0030】
14は定着ローラクリーナである。このクリーナは、クリーニング部材としてのクリーニングウエブ14aをロール巻きに保持したウエブ繰り出し軸部14bと、ウエブ巻取り軸部14cと、該両軸部14b・14c間のウエブ部分を定着ローラ1の外面に押し付ける押し付けローラ14dを有する。押し付けローラ14dで定着ローラ1に押し付けたウエブ部分で定着ローラ1面にオフセットしたトナーが拭われて定着ローラ面が清掃される。定着ローラ1に押し付けられるウエブ部分は繰り出し軸部14b側から巻取り軸部14c側にウエブ14aが少しずつ送られることで徐々に更新される。
【0031】
15はサーモスタットであり、定着ローラ温度の異常上昇時(熱暴走時)の対策機構として、定着ローラ1の上方部に設けられている。このサーモスタット15は、定着ローラ1の表面に接触しており、予め設定された温度になると接点を開放してコイル6への通電を切断し、定着ローラ1が所定温度以上の高温となることを防止している。
【0032】
本実施例では、通紙は中央基準で行われる。Cはその中央基準である。すなわち、いかなる記録材サイズでも、記録材の中央部が定着ローラ軸方向中央部を通過することになる。本実施例の画像形成装置においては、通紙できる記録材の最大サイズ(以下、大サイズ紙と記す)はA4横である。また通紙できる記録材の最小サイズ(以下、小サイズ紙と記す)はB5Rである。P1はその大サイズ紙の通紙領域幅、P2は小サイズ紙の通紙領域幅である。
【0033】
11と12は第1と第2のサーミスタである。第1のサーミスタ11は、定着ローラ1の中央温度検知手段である。このサーミスタ11は、小サイズ紙の通紙領域幅P2の略中央部に対応する定着ローラ中央部分において、定着ローラ1を隔ててコイル6に向かい合うように、定着ローラ1の表面に対して弾性部材により押圧して弾性的に圧接させて配置してある。第2のサーミスタ12は、定着ローラ1の端部温度検知手段である。このサーミスタ12は、非通紙部昇温を発生する、大サイズ紙の通紙領域幅P1と小サイズ紙の通紙領域幅P2との差領域に対応する定着ローラ端部において定着ローラ1の表面に対して弾性部材により押圧して弾性的に接触させて配置してある。
【0034】
制御部104は、装置のメイン電源スイッチSWのONにより画像形成装置を起動させて所定の作像シーケンス制御をスタートさせる。定着装置114は駆動源Mの起動により定着ローラ1の回転が開始される。この定着ローラ1の回転に従動して加圧ローラ2も回転する。また、制御部104はコイル駆動電源116を起動させてコイル6に高周波を流す。これによりコイル6の周囲に高周波交番磁束が発生し、定着ローラ1の芯金1aが電磁誘導発熱して、定着ローラ1が所定の定着温度、本実施例では195℃に向かって昇温していく。この定着ローラ1の昇温が第1および第2のサーミスタ11および12で検知され、その検知温度情報が制御部104に入力する。
【0035】
制御部104は、第1のサーミスタ11を温度調整用の温度検知手段として該サーミスタ11から入力する定着ローラ1の検知温度が所定の定着温度195℃に維持されるようにコイル駆動電源116からコイル6に供給される電力を制御する。即ち、制御部104は、定着ローラ1の温度を立ち上げ、定着温度195℃での温度調整を行う。この状態において、定着ニップ部Nに対して作像部側から未定着トナー像(未定着画像)tを担持した被加熱材としての記録材Pが導入されて定着ニップ部Nで挟持搬送されていく。これにより、定着ローラ1の熱と定着ニップ部Nの加圧力で、未定着トナー像tが記録材Pの面に加熱定着される。
【0036】
通紙される記録材Pが小サイズ紙の場合は、定着ニップ部Nの大サイズ紙通紙領域幅P1と小サイズ紙通紙領域幅P2との差領域が非通紙部領域となる。そして、小サイズ紙の通紙が連続的になされと、通紙域である小サイズ紙通紙領域幅P2に対応する定着ローラ部分の温度は所定の定着温度195℃に維持される。しかし、非通紙部領域に対応する定着ローラ部分の温度はこの定着ローラ部分の熱が記録材やトナー画像の加熱に消費されないので所定の定着温度195℃を越えて昇温(非通紙部昇温)していく。
【0037】
本実施例では、定着ローラ1の芯金1aに整磁合金を用いているため、非通紙部昇温し、定着ローラ端部の温度がキュリー温度に達すると、定着ローラ端部の磁性が急激に低下することで発熱量が減少し定着ローラの温度がキュリー温度以上には上がらない。
【0038】
つまり、定着ローラ1ではキュリー温度に到達すると力率が低下し、これに伴いコイル6の消費電力が低下し、定着ローラ1は発熱を抑制する方向に働くので、自己温度制御が可能となる。
【0039】
すなわち、電磁誘導加熱の発熱量Pは、[式1]のように、定着ローラの表皮抵抗Rsに比例し、渦電流iの2乗に比例する。表皮抵抗Rsは[式2]で表され、渦電流iは誘導コイルが発生する磁界Hに比例する。また、磁界Hは、コイルのターン数Nとコイル電流Iに比例することから、定着ローラがキュリー温度未満での発熱量Pは[式3]となる。また、キュリー温度以上になると、δ>>d(d:定着ローラの芯金肉厚)となるため、発熱量Pcは[式4]となる。定着ローラがキュリー温度以上である非通紙部領域では[式4]より、発熱量が周波数に依存せず、コイル電流Iに比例、芯金肉厚dに反比例する。また、通紙部は定着ローラがキュリー温度未満で温度調整されているので上記の式3より、周波数を変更することで表皮抵抗が変わるため発熱量を制御することが可能である。
【0040】
【数1】

【0041】
(3)非通紙部昇温の抑制効果の維持
前述したように、整磁合金製の芯金を再利用して再生した定着ローラ(再生ローラ(再生加熱部材))は、古くなった定着ローラの表面の被覆層をウォータージェットやブラスト処理などの切削加工により十分に除去して芯金を露出させて芯金のみの状態にする。そして、その芯金に再びコーティングやチューブ被覆などの加工を施して定着ローラとして再生したものである。そして、再生ローラは上記のようにローラ表層を切削加工等により芯金から十分に除去する処理をするために芯金の肉厚がリサイクル品ではない新品定着ローラ(再生前ローラ(再生前加熱部材))の芯金の肉厚に比べて薄くなってしまう。そのため、再生ローラは、再生前ローラよりも非通紙部昇温の抑制効果が少なくなってしてしまう。
【0042】
このような問題を解消するために、本実施例においては、定着ローラ1について、それが再生ローラ(定着ローラ再生品)である場合には、そのメーカー側においてその定着ローラ1に関する識別情報を保有している識別情報保有部Xを定着ローラ1に設ける。また、定着装置の装置本体側には、上記の識別情報保有部Xの識別情報を認識する識別情報認識手段117を具備させる。本実施例では、定着ローラ再生品に芯金の肉厚情報が含まれている識別情報保有部としての芯金肉厚識別マークXを定着ローラ1の端部に印刷している。そして、その定着ローラ1が定着装置114に搭載された状態において、装置本体側に設けられた識別情報認識手段としての識別装置117によりその定着ローラ1の芯金肉厚識別情報を読み取らせる。より具体的には、本実施例では、芯金肉厚識別マークXは肉厚情報を記録したバーコード表示としている。識別装置117は芯金肉厚識別マークXのバーコードに対応したバーコードリーダとしている。
【0043】
そして、識別装置117は装置117に装着されている定着ローラ1の芯金肉厚識別マークXの芯金肉厚値情報を読み取り、制御部104に送る。制御部104は、入力した芯金肉厚情報に応じて装置117の電磁誘導加熱の条件を変更して被加熱材である記録材Pを加熱する動作を実行させる。より具体的には、制御部104は、入力した芯金肉厚情報に応じて装置117の電磁誘導加熱のコイル電流値、周波数を決定し、コイル駆動電源116のコイル電流値、周波数を変更する。その変更した電磁誘導加熱の条件にて記録材Pを加熱する動作を実行させる。
【0044】
図3に、電流値を27Aに固定して周波数を変えた時のIH電源電力を示したグラフを記載する。ここで、破線が周波数25kHz、細線が周波数35kHz、太線が周波数50kHzである。定着ローラ1がキュリー温度未満では、周波数が高くなるにつれてIH電源電力は高くなるが、定着ローラ1がキュリー温度以上である領域ではIH電源電力は周波数によらず一定である。すなわち、通紙部はキュリー温度未満に温度調整されているのでIH電源電力つまり発熱量を周波数のみで制御しながら、非通紙部の発熱量は抑制することが可能である。
【0045】
本実施例での芯金再生による肉厚変化時の定着条件、つまりコイル電流値、周波数の変更方法について説明する。本実施例において、整磁合金の再生前の芯金肉厚をd、再生後の芯金肉厚をd、再生前の電流値をI、再生後のコイル電流値をIとする。
【0046】
芯金を再生することで、[d>d]となると、キュリー温度以上の発熱量Pcは[式4]より増えてしまう。そのため、芯金の再生前と再生後の発熱量Pcを一定にするためには
/d=I/d・・・[式5]
にする必要がある。よって、[I>I]にする(値はd、dの比で決まる)。
【0047】
また、キュリー温度以下の発熱量P(=通紙部の発熱量)は[式3]より、μは構成によって決まるため、fのみ調整可能である。
【0048】
上記より、芯金の再生により[d>d]となることによって[I>I]となる。そこで、キュリー温度以下の発熱量Pを一定にするためには、再生前の周波数:f、再生後の周波数:fとすると、
=f ・・・[式6]
にする必要があるため[f<f]となる(値はI、Iの比、つまりd、dの比で決まる)。
【0049】
本実施例において、再生前の芯金肉厚d=1.2mm、再生後の芯金肉厚d=1.1mm、再生前の電流値をI=20Aとすると、[式5]より再生後のコイル電流値I=19.1Aとなる。そのため、再生前の周波数f=30kHzとすると、[式5]より再生後の周波数f=32.7kHzに設定することで、P、Pcそれぞれの発熱量を再生前後で一定にすることが可能となる。
【0050】
つまり、再生前後の芯金肉厚情報d、dが認識できれば、[式5]、[式6]より再生後のコイル電流値I、再生後の周波数fが一律計算できる。その値を芯金再生後の定着条件として設定することで、キュリー温度以下の発熱量P(=通紙部の発熱量)、キュリー温度以下の発熱量Pc(=非通紙部の発熱量)のそれぞれを、再生前後で一定にすることが可能となるのである。
【0051】
図4に、本実施例の制御方法をフローチャートで表す。本体電源SWがONされると(ステップS01)、制御部104は駆動源Mを起動して定着ローラ1を回転させる(S02)。そして、識別装置117により定着ローラ1に印刷されている芯金肉厚識別部Xの有無を確認する。制御部14は、芯金肉厚識別部Xの存在が確認できれば、装置114に装着されている定着ローラ1は再生ローラであると認識し、芯金肉厚識別部Xの存在が確認できなければ、装置114に装着されている定着ローラ1は再生ローラではないと認識する。
【0052】
定着ローラ1が再生ローラではないと認識した場合には、制御部104は、画像形成装置を通常の定着条件のままプリントジョブ開始状態へ移行させる(S07)。
【0053】
また、制御部104は、識別装置117により芯金肉厚識別部Xが確認できれば、そこから読み取られる芯金肉厚情報(肉厚値)を確認する(S04)。そして、制御部104は、読み取られる芯金肉厚情報に応じて、ROMに予めメモリーされている参照テーブルにより電磁誘導加熱のためのコイル電流値と周波数を決定する(S05)。コイル駆動電源116の通常の定着条件のコイル電流値と周波数を、芯金肉厚情報に応じて決定した上記のコイル電流値と周波数に変更し(S06)、画像形成装置をその変更した定着条件においてプリントジョブ開始状態へ移行させる(S07)。
【0054】
その後、制御部104は、プリントジョブを開始し、通常通紙し(S08)、プリントジョブの終了確認を行い(S09)、プリントジョブを終了する(S10)。その後、本体電源SWのOFFの確認を行う(S11)。本体電源SWがOFFされていなければ、次のプリントジョブの開始待ちとなる(S07)。本体電源SWのOFFを確認したら本体電源をOFFし(S12)、終了動作を行う(S13)。
【0055】
つまり、本実施例のおいては、本体電源SWがONにされたら、必ず定着装置114の定着ローラ識別情報を確認し、最適な定着条件を設定する。そのため、定着ローラ1がいつ交換されても、交換された定着ローラ1が再生ローラであっても、そうでなくとも、確実に、最適な定着条件で定着動作を行う事が可能となっている。
【0056】
本実施例では、定着ローラ1が芯金再生品であるかどうかを識別できる識別手段を装置本体側が設ける。そして、再生品投入時、識別手段が再生品と識別した結果、コイル電流の周波数fを変更することで、再生品においても非通紙部昇温を防止でき、良好な定着画像を得ることが出来る。
【0057】
[その他の実施形態]
(1)上述の実施例では、定着ローラ1が再生品の例であったが、定着ローラを再生品に限定せず、新品の定着ローラに用いても良い。つまり、定着ローラ芯金肉厚情報を、全ての定着ローラに記入し、個々の芯金肉厚に応じた最適な定着条件(コイル電流値、周波数)に設定することが可能となる。また、上述の実施例では、定着ローラに芯金肉厚情報を記載しているが、芯金肉厚情報が他手段(例えばサービスマン)により、制御部104入力されても良い。
【0058】
(2)電磁誘導加熱手段(磁束発生手段)3による加熱部材1は実施例の内部加熱方式に限られず、例えば、図5のように、電磁誘導加熱手段3を加熱部材1の外側に配設した外部加熱方式の装置構成にすることもできる。
【0059】
(3)温度検知手段11・12はサーミスタに限らず、温度検知素子であればよく、また接触式でも非接触式でも構わない。
【0060】
(4)実施例の装置は被加熱材(記録材)Pの搬送を中央基準で搬送する装置構成であるが、片側基準で搬送する構成の装置にも本発明は有効に適用することができる。
【0061】
(5)本発明の電磁誘導加熱方式の加熱装置は、実施例の画像加熱定着装置としての使用に限られない。その他、例えば、未定着画像を記録用紙に仮定着する仮定着装置、定着画像を担持した記録用紙を再加熱してつや等の画像表面性を改質する表面改質装置等の像加熱装置としても有効である。また、その他、例えば、紙幣等のしわ除去用の熱プレス装置や、熱ラミネート装置、紙等の含水分を蒸発させる加熱乾燥装置など、シート状部材を加熱処理する加熱装置として用いても有効であることは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
1・・加熱部材(定着ローラ)、1a・・芯金、1b・・被覆層、2・・加圧部材(加圧ローラ)、N・・ニップ部、P・・被加熱材(記録材)、104・・制御手段、114・・加熱装置(定着装置)、X・・識別情報認識手段、117・・識別情報認識手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整磁合金製の芯金と前記芯金の外周に形成された被覆層とを有し回転可能な加熱部材と、前記加熱部材とニップ部を形成する加圧部材と、前記芯金を電磁誘導加熱する電磁誘導加熱手段と、制御手段と、を有し、前記ニップ部で被加熱材を挟持搬送して加熱する加熱装置において、
前記加熱部材に関する識別情報を保有している識別情報保有部と、前記識別情報保有部の識別情報を認識する識別情報認識手段と、を有し、前記制御手段は前記識別情報認識手段で認識される識別情報に応じて装置の電磁誘導加熱の条件を変更して被加熱材を加熱する動作を実行させることを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記識別情報保有部が前記加熱部材に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記加熱部材が、前記被覆層を剥して前記芯金を露出させ、その露出した芯金の表面に再び被覆層を形成した再生加熱部材であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記条件の変更が電磁誘導加熱の周波数の変更であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記識別情報が前記芯金の厚さの情報であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の加熱装置。
【請求項6】
記録材に未定着画像を形成する画像形成手段と、前記記録材を加熱して画像定着する定着手段と、を有する画像形成装置であって、前記定着手段が請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の加熱装置であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−141363(P2011−141363A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1094(P2010−1094)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】