説明

動力伝達シャフトの製造方法

【課題】溶接箇所に関わらず、高度な作業性および繁雑な製造工程を必要とせず、溶接の熱による悪影響を防止することができる動力伝達シャフトの製造方法を提供する。
【解決手段】動力伝達シャフトの製造方法は、外輪11、内輪3、内輪3に連結されるシャフト15、外輪11の開口を閉塞するブーツ16、並びに、外輪11およびブーツ16の内側に形成される内部空間Aに封入される潤滑剤17を備える等速ジョイント1と、外輪11またはシャフト15に溶接により結合される軸状部材5とを備える動力伝達シャフトの製造方法であって、外輪11またはシャフト15の外周面に冷却部材6を当接させた状態で、外輪11またはシャフト15に軸状部材5を溶接することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプロペラシャフトである動力伝達シャフトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力伝達シャフトは、例えば、車両において、エンジンからの動力を車輪等に伝達するために用いられている。一般に、動力伝達シャフトは、等速ジョイントを備えている。この等速ジョイントとして、例えば、外輪と内輪とシャフトとブーツとを有するものを適用することがある。この種の等速ジョイントにおいては、外輪およびブーツの内側のジョイント部分(内部空間)には、グリース等の潤滑剤が封入されている。そして、特に、プロペラシャフト等の軸方向の長さを長くする必要のある動力伝達シャフトは、等速ジョイントに軸状部材を結合することがある。
【0003】
ここで、等速ジョイントと軸状部材とは、一般に溶接することで結合されている。つまり、動力伝達シャフトは、製造時に、溶接の熱による影響を受けることになる。ここで、溶接の熱による影響のうち、問題となるのは、ジョイント部分(内部空間)に封入される潤滑剤の劣化等である。等速ジョイントにおいて広く一般的に用いられるグリース等の潤滑剤は、熱に弱く、熱により劣化しやすいためである。
【0004】
そこで、溶接箇所付近を冷却して製造する動力伝達シャフトが、実開平5−13666号公報(特許文献1)に記載されている。この動力伝達シャフトでは、シャフト(ヨーク)と軸状部材(チューブ)との溶接箇所となる軸状部材の先端に溝を形成し、その溝に対して冷却水を散布することで溶接の熱を冷却している。
【特許文献1】実開平5−13666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の動力伝達シャフトでは、溶接時に、冷却水を直接軸状部材に散布しなければならない。従って、溶接時において、冷却水が溶接箇所に散布される可能性がある。溶接箇所に冷却水が散布されることにより、当該溶接が不完全となるおそれがある。つまり、上記の動力伝達シャフトでは、冷却水が直接軸状部材に散布されるため、当該冷却水が溶接の妨げになる可能性がある。また、当該溶接を行う作業者は、溶接箇所が被水しないよう溶接作業をしなければならず、高度な作業性、および、相当の注意力が要求される。
【0006】
また、上記の動力伝達シャフトでは、冷却水が散布されるのが軸状部材である。つまり、冷却水が直接的に冷却するのは軸状部材である。等速ジョイント(ヨーク側)は直接冷却されておらず、溶接箇所から等速ジョイント側への熱の拡散が防止されていない。従って、シャフト(ヨーク)が等速ジョイントの構成部品であれば、上記の動力伝達シャフトでは、熱が等速ジョイント側に伝達され、ジョイント部分に封入される潤滑剤に熱が伝わってしまう。つまり、等速ジョイントの潤滑剤が劣化してしまう問題がある。また、軸状部材に溝を形成しなければならず、動力伝達シャフトの製造毎に、別途の製造工程が必要となる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、溶接箇所に関わらず、高度な作業性および繁雑な製造工程を必要とせず、溶接の熱による悪影響を防止することができる動力伝達シャフトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の動力伝達シャフトの製造方法は、外輪、内輪、内輪に連結されるシャフト、外輪の開口を閉塞するブーツ、並びに、外輪およびブーツの内側に形成される内部空間に封入される潤滑剤を備える等速ジョイントと、外輪またはシャフトに溶接により結合される軸状部材とを備える動力伝達シャフトの製造方法であって、外輪またはシャフトの外周面に冷却部材を当接させた状態で、外輪またはシャフトに軸状部材を溶接することを特徴とする。
【0009】
ここで、動力伝達シャフトは、一方から他方に動力を伝達するものであり、例えば、車両におけるプロペラシャフト、ドライブシャフト等である。等速ジョイントにおいて、外輪は、金属からなり、少なくとも一方が開口した形状、例えば、カップ状に形成される。内輪は、金属からなり、例えば、リング状に形成される。そして、内輪は、外輪の内側に配置される。
【0010】
シャフトは金属からなり、例えば、円柱状または円筒状等に形成される。そして、シャフトは、内輪に連結される。ブーツは、樹脂またはゴム弾性体等からなり、外輪の開口を閉塞する。つまり、ブーツは、外輪とシャフトとに当接、または、取り付け等がなされる。潤滑剤は、例えばグリース等であり、内部空間(ジョイント部分)に封入される。この内部空間は、外輪およびブーツの内側に形成されるが、詳細には、外輪の内周面、ブーツの内周面、および、シャフトの一部で囲まれた空間である。軸状部材は、金属からなり、例えば、円柱状または円筒状等に形成される。軸状部材は、動力伝達シャフトの軸方向の長さを確保、調整する部材として用いられる。冷却部材は、当接部分を冷却するものであり、例えば、低温を維持する金属部材等である。
【0011】
以下、本発明の特徴的事項について説明する。本発明の動力伝達シャフトの製造方法においては、等速ジョイントのシャフトと軸状部材とを溶接する場合と、等速ジョイントの外輪と軸状部材とを溶接する場合とがある。
【0012】
等速ジョイントのシャフトと軸状部材とを溶接する場合においては、冷却部材が、シャフトの外周面に当接する場合と、外輪の外周面に当接する場合とがある。また、等速ジョイントの外輪と軸状部材とを溶接する場合においても、冷却部材が、シャフトの外周面に当接する場合と、外輪の外周面に当接する場合とがある。
【0013】
このように、冷却部材を等速ジョイントの構成部品に当接させることで冷却を行っているため、従来のように溶接箇所に冷却水が散布されることによる問題が生じることを防止できる。つまり、等速ジョイントと軸状部材との溶接に際して、冷却部材を外輪またはシャフトの外周面に当接させればよく、従来のように溶接箇所への被水防止等の高度な作業性および注意力は要求されない。さらに、冷却水を散布するための溝の形成等の繁雑な製造工程を必要としない。そして、冷却部材により等速ジョイントの構成部品を直接冷却することで、溶接の熱が溶接箇所から等速ジョイント側に拡散することを防止できる。つまり、溶接の熱により潤滑剤が劣化する等の悪影響を防ぐことができる。
【0014】
ここで、冷却部材は、外輪またはシャフトの外周面全周に当接することが好ましい。つまり、冷却部材は、外輪に配置される場合、外輪の外周面の全周に亘って当接し、シャフトに配置される場合、シャフトの外周面の全周に亘って当接する。
【0015】
冷却部材は、等速ジョイントに取り付けた状態において、外輪またはシャフトの外周面に沿って一周し、その全周において当接する。つまり、冷却部材の当接部分は、全体として環状となる。これにより、冷却性能は向上し、溶接の熱による潤滑剤の劣化等をより抑制できる。
【0016】
また、本発明において、冷却部材の配置を以下のようにすることができる。第一の冷却部材の配置としては、冷却部材を、軸状部材との溶接箇所と、内部空間との間に当接させることである。ここで、内部空間は、外輪およびブーツの内側に形成される。つまり、軸方向における内部空間の一端は、外輪のカップ部底面に相当する位置となり、他端は、ブーツとシャフトの外周面とが接する位置となる。そして、溶接箇所とは、軸状部材と外輪またはシャフトが接触する部分の外周面である。
【0017】
シャフトと軸状部材とを溶接する場合、溶接箇所(シャフト−軸状部材)と内部空間との間とは、シャフトの外周面において、溶接箇所からブーツとの接触位置までの間となる。また、外輪と軸状部材とを溶接する場合、溶接箇所(外輪−軸状部材)と内部空間との間とは、外輪の外周面において、溶接箇所から外輪のカップ部内側の底面に相当する位置までの間となる。これにより、溶接による熱は、内部空間に伝わる前に冷却される。つまり、溶接の熱が、潤滑剤に伝達される前に遮断される。従って、より確実に潤滑剤の劣化を防止することができる。
【0018】
第二の冷却部材の配置としては、冷却部材を、外輪の外周面のうち内部空間の径方向外方に当接させることである。ここで、外輪の外周面のうち内部空間の径方向外方とは、外輪の外周面のうち、内部空間に最も近接する位置(カップ部の外周面)である。従って、冷却部材を、外輪の外周面のうち内部空間の径方向外方に当接させることで、仮に、溶接の熱が潤滑剤に伝達されたとしても、その潤滑剤の熱を冷却することができる。つまり、潤滑剤自体を直接的に冷却することができる。
【0019】
第三の冷却部材の配置としては、冷却部材を複数用い、複数の冷却部材のうち少なくとも一つを軸状部材との溶接箇所と内部空間との間に当接させ、さらに少なくとも一つを外輪の外周面のうち内部空間の径方向外方に当接させることである。これにより、上述した第一の冷却部材の配置による効果と、第二の冷却部材の配置による効果を、併せ持つことになる。つまり、一方の冷却部材が溶接の熱が潤滑剤に伝達される前に遮断し、他方の冷却部材が溶接の熱が潤滑剤に伝達された場合に潤滑剤を直接冷却できる。従って、潤滑剤の劣化は、さらに抑制される。
【0020】
なお、冷却部材の配置としては、上述の第一〜第三の冷却部材の配置が好ましいが、その他に、以下のようにしてもよい。すなわち、シャフトと軸状部材とを溶接する場合において、冷却部材を、外輪の外周面のうち内部空間の径方向外方以外の部分に当接させてもよい。また、外輪と軸状部材とを溶接する場合には、冷却部材を、シャフトの外周面に当接させてもよい。つまり、これらは、冷却部材が、潤滑剤が封入される内部空間に対して溶接箇所とは反対側に配置されている。従って、冷却性能としては、上述した第一〜第三の冷却部材の配置に比べて劣る可能性がある。ただし、冷却部材が内部空間に十分近接していれば、十分な冷却効果を発揮することができる。
【0021】
ここで、冷却部材は、外部に複数開口し内部を貫通する貫通孔が形成され、貫通孔を冷却流体が流通することが好ましい。つまり、冷却部材は内部に貫通孔を有し、この貫通孔は冷却部材の外部に少なくとも2以上開口している。貫通孔は、外部に開口した開口端から流体を流入出させることができる。そして、冷却部材の内部に、貫通孔の開口から冷却流体を流通させる。
【0022】
上記構造の冷却部材を用いれば、動力伝達シャフトの製造の際、冷却部材に冷却流体を継続的に流通させることができる。すなわち、冷却部材の冷却機能を維持、向上させることができる。本発明では、貫通孔に冷却流体を流通させて溶接を行うことにより、冷却部材の冷却性能は向上し、潤滑剤の劣化を防止できる。
【0023】
ここで、この貫通孔は、外輪またはシャフトの外周面に沿うように形成されることが好ましい。つまり、貫通孔は、冷却部材の内部において、外輪またはシャフトの外周面のうち冷却部材が当接される部位からほぼ等距離に形成される。従って、当接面に対して、ほぼ均等に冷却性能を向上させることができる。これにより、冷却対象に対してさらに冷却機能を発揮することができる。
【0024】
さらに、冷却部材が外輪またはシャフトの外周面全周に当接し、貫通孔は、当該外周面に沿うように全周に亘って形成されることが好ましい。これにより、冷却流体を全周に流通させることができ、冷却性能はさらに向上する。さらに、冷却流体は、貫通孔を流通するため、全周に亘って流通させても、溶接箇所に冷却流体が流れ込むこともない。つまり、冷却部材の冷却性能向上に加え、動力伝達シャフトの製造に際し、高度な作業性を必要とせず、作業性を向上させることができる。
【0025】
ここで、等速ジョイントを把持部材により把持した状態で、外輪またはシャフトに軸状部材を溶接する場合、把持部材は、冷却部材であることが好ましい。これにより、動力伝達シャフトの製造に関し、把持部材を冷却部材として利用するため、新たに冷却部材を準備する必要はなく、低コスト化が可能となる。さらに、把持部材による把持位置の他に冷却部材を当接させるためのスペースを確保する必要もない。従って、冷却部材を配置するために、外輪やシャフトの外周面の設計変更などの必要もない。なお、把持部材とは、把持対象を挟み、固定する治具であり、例えば、チャック、万力等である。
【0026】
また、把持部材を上記した冷却部材の構造とすることもできる。すなわち、把持部材の内部に上記した貫通孔を設け、貫通孔に冷却流体を流通させることもできる。これにより、把持部材は、冷却部材として上記の効果を発揮する。
【0027】
なお、従来、動力伝達シャフトの製造において、潤滑剤への熱の影響から、外輪と軸状部材との溶接よりも、シャフトと軸状部材との溶接が採用されていた。この理由は、一般に、外輪に比べてシャフトの方が軸方向に長く形成されており、溶接箇所を内部空間から遠い位置にすることができるからである。しかし、本発明の製造方法によれば、溶接箇所と内部空間との距離が近い場合であっても、内部空間に封入される潤滑剤を溶接の熱から保護することができる。従って、本発明の製造方法を適用することで、等速ジョイントの配置構成を自由に設定することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の動力伝達シャフトの製造方法によれば、溶接箇所に関わらず、高度な作業性および繁雑な製造工程を必要とせず、溶接の熱による悪影響を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。プロペラシャフトは、一方がエンジンに連結し、他方がディファレンシャルギヤに連結し、エンジンからディファレンシャル装置へ動力を伝達する。また、本実施形態において、等速ジョイントに関しては、ボール形等速ジョイントを適用する。ただし、本発明は、これに限られない。
【0030】
<第一実施形態>
第一実施形態のプロペラシャフトの構成について、図1を参照して説明する。図1は、プロペラシャフトを軸方向に切断した断面図である。
【0031】
図1に示すように、プロペラシャフトは、等速ジョイント1と、チューブ5(本発明における「軸状部材」に相当する)と、を備えている。
【0032】
等速ジョイント1は、外輪11と、内輪12と、ボール13と、保持器14と、シャフト15と、ブーツ16と、グリース17(本発明における「潤滑剤」に相当する)とを備えている。
【0033】
外輪11は、金属からなり、カップ状のカップ部21と、円筒状の筒状部22とからなっている。カップ部21は、一方に開口し、他方に底面を有している。カップ部21の内周面には、開口から底面に向かって複数の外輪ボール溝21aが形成されている。ここで、カップ部21の底面の軸方向における位置は、図1に示す位置Dとなる。筒状部22は、カップ部21の底面側の端部から軸方向に延伸している。
【0034】
内輪12は、金属からなり、リング状に形成されている。内輪12は、外輪11のカップ部21の内側に配置されている。内輪12の外周面には、一端から他端に向かって複数の内輪ボール溝12aが形成されている。さらに、内輪12の内周には、内周スプライン(図示せず)が形成されている。この内周スプラインは、シャフト15の外周スプライン(図示せず)と連結する。
【0035】
ボール13は、金属からなり、それぞれの外輪ボール溝21aおよびそれぞれの内輪ボール溝12aに対して周方向に係合するように配置されている。保持器14は、金属からなり、リング状に形成されている。そして、保持器14は、外輪11の内周面と内輪12の外周面の間に配置されている。この保持器14は、開口窓部を周方向に複数有している。そして、それぞれの開口窓部に、ボール13が挿入され、保持器14はボール13を保持している。
【0036】
シャフト15は、金属からなり、円柱状に形成されている。シャフト15は、内輪12に連結している。つまり、シャフト15の一方端部付近の外周面に形成される外周スプラインと、内輪12の内周スプラインとが連結している。
【0037】
ブーツ16は、樹脂、ゴムなどの材料からなり、リング状に形成されている。このブーツ16の一方が外輪11のカップ部21の開口端外周に保持金具18を介して取り付けられ、他方がシャフト15の外周面にクランプ金具(図示せず)で取り付けられている。ブーツ16は、シャフト15が外輪11に対して相対移動できるように、屈曲可能な形状となっている。ここで、ブーツ16とシャフト15との取り付け位置は、軸方向における位置Eとする。
【0038】
ここで、図1に示すように、等速ジョイント1には、外輪11およびブーツ16の内側に内部空間Aが形成されている。具体的には、内部空間Aは、外輪11のカップ部21の内周面、ブーツ16、保持金具18の内周面、および、シャフト15の外周面により形成されている。内部空間Aは、軸方向において、位置Dから位置Eの間に形成されている。この内部空間Aには、グリース17が封入されている。グリース17は、内部空間Aにおいて、ジョイント部分の動作をスムーズにする。
【0039】
チューブ5は、金属からなり、円筒状に形成されている。チューブ5は、等速ジョイント1を構成する外輪11の筒状部22に溶接により結合される。このように、チューブ5は、等速ジョイント1に溶接することにより、プロペラシャフトの軸方向の長さを確保、調整する。
【0040】
次に、プロペラシャフトの製造方法の概要について説明する。上述したように、プロペラシャフトは、等速ジョイント1の外輪11の筒状部22とチューブ5の一方端部とを溶接することにより製造される。つまり、溶接箇所は、筒状部22の端部とチューブ5の一方端部との接触部分の外周面である。図1において、溶接箇所は、軸方向の位置Bと位置Cの間となる。この溶接は、チューブ5の一方端部の全周で行われる。溶接方法としては、アーク溶接で行い、例えば、溶加材等を用いて溶接する。
【0041】
溶接作業を行うにあたり、等速ジョイント1が軸ぶれしないように、等速ジョイント1を同軸上に固定する必要がある。従って、溶接するにあたり、チャック6(本発明における「把持部材」に相当する)を用いて等速ジョイント1を把持する。
【0042】
ここで、このチャック6について、図2および図3を参照して説明する。図2は、チャック6を示す図である。図3は、チャック6を径方向に切断した断面図である。図2に示すように、チャック6は、金属からなり、チャック上部61と、チャック下部62とを備えている。チャック上部61とチャック下部62は、同形状である。従って、形状については、チャック上部61を説明し、チャック下部62の説明は同符号を付して省略する。
【0043】
チャック上部61は、柱状部61aと、半円状部61bとからなり、一体的に形成されている。柱状部61aは、直方体形状であり、一端が半円状部61bに一体的に結合している。半円状部61bは、リング状を軸方向に切断した半円形状となっている。つまり、等速ジョイント1は、チャック上部61の半円状部61bとチャック下部62の半円状部61bとで挟み込んで把持される。
【0044】
把持状態において、チャック6(半円状部61b)は、リング状となる。第一実施形態において、各半円状部61bの直径は、把持対象である外輪11の筒状部22の外径に等しくなっている。すなわち、チャック6で等速ジョイント1を把持した状態において、チャック6の内周面は、外輪11の外周面に全周に亘って当接する。
【0045】
また、チャック上部61の内部には、貫通孔63が設けられている。貫通孔63は、柱状部61aおよび半円状部61bの内部に連続的に設けられている。貫通孔63は、柱状部61aにおいて、柱延伸方向(図3の上下方向)に延在し、柱状部61aの外部に開口した開口端63aを有している。また、貫通孔63は、半円状部61bにおいて、内周面に沿うように延在し、且つ、柱状部61aにおける貫通孔63に連通している。そして、貫通孔63は、半円状部61bにおける上記切断面(把持状態におけるチャック上部61とチャック下部62の接触面)に、外部に開口した開口端63bを有している。
【0046】
図3に示すように、貫通孔63は、把持状態において、チャック上部61の開口端63bとチャック下部62の開口端63bとが一致し、チャック上部の開口端63aからチャック下部62の開口端63aまで連続的に導通する。
【0047】
また、上記したように、把持状態におけるチャック6の内径は、把持対象である外輪11の外径と一致する。そして、貫通孔63は、チャック6の内周面に沿って延在している。すなわち、貫通孔63は、外輪11の筒状部22の外周面に沿うように、全周に亘って形成されている。
【0048】
次に、第一実施形態のプロペラシャフトの製造工程を順に説明する。第一実施形態では、等速ジョイント1の外輪11にチューブ5を溶接し、プロペラシャフトを製造する。まず、等速ジョイント1とチューブ5を準備する。続いて、等速ジョイント1をチャック6で把持する(把持工程)。ここで、チャック6は、等速ジョイント1の外輪11の筒状部22を把持する。つまり、図1に示すように、チャック6は、外輪11の外周面のうち、位置Cから位置Dの間に配置される。位置Dは、軸方向において、外輪11のカップ部21の底面の位置に相当する。
【0049】
すなわち、把持工程では、チャック6を外輪11とチューブ5との溶接箇所と、内部空間Aとの間(位置C−D間)に配置し、等速ジョイント1を固定する。そして、チャック6は、外輪11の筒状部22の外周面全周に当接している。
【0050】
続いて、チャック6の貫通孔63に冷却水を流す(冷却工程)。冷却水は、チャック上部61における貫通孔63の開口端63aから流入させ、チャック下部62における貫通孔63の開口端63aから流出させる(図3参照)。つまり、冷却水は貫通孔63を流通し、これにより、チャック6は冷却される。特に、貫通孔63は、外輪11の外周面に沿うように全周に亘って設けられているため、流通する冷却水により、冷却対象(外輪11の外周面)に沿って全周に亘って冷却される。この冷却工程は、少なくとも後述する溶接工程が終わるまで継続的に行う。つまり、冷却水は、溶接工程が終わるまで、貫通孔63を継続的に流通している。
【0051】
続いて、等速ジョイント1の外輪11の筒状部22の端部とチューブ5の一方端部とを溶接する(溶接工程)。この溶接箇所は、図1における位置Bから位置Cまでの範囲となる。そして、溶接は、アーク溶接により、位置B−C間で全周に亘って行う。溶接工程中、等速ジョイント1は、チャック6により固定されており(把持工程)、さらに位置C−D間で継続的に冷却されている(冷却工程)。
【0052】
このように、冷却水を流通させたチャック6により、チャック6が全周当接する等速ジョイント1の外輪11の筒状部22が冷却される。すなわち、溶接工程における熱は、チャック6により、筒状部22から内部空間Aに伝わる前に冷却される。従って、第一実施形態のプロペラシャフトの製造方法では、溶接による熱が内部空間Aに伝わることを抑制し、内部空間Aに封入されたグリース17の劣化を防ぐことができる。
【0053】
また、従来は溶接を行うために対象部材に溝加工等を施していたが、第一実施形態の製造方法においては、同一のプロペラシャフトを大量生産するにあたり、チャック6を含む全ての部材を、当該製造毎に何ら加工する必要がない。つまり、同一のチャック6を用いてプロペラシャフトを製造することができ、他の部材も溶接のために加工を施すこともない。また、チャック6は、溶接の際、等速ジョイント1を固定する手段である。従って、作業者は、チャック6を通常の製造工程で用いるように用いればよい。このように既存のチャック6を利用することにより、別の冷却部材を準備する必要もない。また、冷却水はチャック6の貫通孔63を流通させているので、冷却水が溶接箇所に散布されるおそれもない。すなわち、第一実施形態のプロペラシャフトの製造方法では、低コスト化が可能であり、且つ、高度な作業性および繁雑な製造工程を必要としない。
【0054】
なお、冷却工程は、溶接工程と同時に行ってもよく、この場合であっても、内部空間Aに溶接による熱が伝わることは抑制される。
【0055】
<第一実施形態の変形態様>
上記第一実施形態においては、チャック6を外輪11の筒状部22の外周面に当接させて、外輪11を把持するようにした。この他に、チャック6を外輪11のカップ部21の外周面に当接させて、外輪11を把持するようにしてもよい。チャック6がカップ部21の外周面のうち図1の位置C−D間に当接する場合には、上述した第一実施形態と同様の効果を奏する。さらに加えて、この場合は、チャック6が内部空間Aに近接しているため、内部空間Aに封入されているグリース17を直接的に冷却するという効果も有する。
【0056】
また、チャック6がカップ部21の外周面のうち図1の位置D−E間、すなわちカップ部21の外周面のうち内部空間Aの径方向外方に当接する場合には、内部空間Aに封入されているグリース17を直接的に冷却する効果を有する。特に、カップ部21の外周面のうち内部空間Aの径方向外方は、内部空間Aに最も近接する位置である。従って、グリース17を直接的に冷却するには、最も効果的である。
【0057】
また、チャック6が冷却機能を有しない場合(冷却水が流通しない等)には、チャック6とは別の冷却部材を外輪11の外周面に当接させることにより、グリース17の劣化に対抗する手段としての効果を発揮する。このチャック6とは別の冷却部材の配置は、上記したチャック6の位置を適宜選択することができる。
【0058】
また、冷却部材をシャフト15の外周面に当接させることも可能である。シャフト15が冷却されることにより、シャフト15を介して内部空間Aにおけるグリース17を冷却でき、結果としてグリース17の劣化を抑制できる。ただし、冷却部材をシャフト15に当接させる場合には、内部空間Aに対して溶接箇所とは反対側に位置することになるため、冷却性能としては上記の場合に比べて劣る可能性がある。
【0059】
また、第一実施形態では、チャック6が外輪11の外周面全周に当接するが、これに限られない。つまり、チャック6は、外輪11の外周面に少なくとも一部が当接し、且つ、外輪11を固定できればよい。チャック6の少なくとも一部が外輪11の外周面に当接することにより、冷却機能は発揮される。ただし、チャック6が外輪11の外周面全周に当接するほうがよりよい。
【0060】
<第二実施形態>
第二実施形態のプロペラシャフトの製造方法について、図4を参照して説明する。図4は、プロペラシャフトを軸方向に切断した断面図である。なお、第二実施形態におけるプロペラシャフトは、第一実施形態と同構成であるため、各構成については、同符号を付して説明を省略する。第二実施形態において、プロペラシャフトは、第一実施形態同様、等速ジョイント1の外輪11と、チューブ5とを溶接して製造される。
【0061】
以下、第二実施形態のプロペラシャフトの製造工程を順に説明する。まず、等速ジョイント1とチューブ5を準備する。続いて、等速ジョイント1をチャック6で把持する(把持工程)。図4に示すように、チャック6は、外輪11の外周面のうち、位置Cから位置Dの間に配置される。把持工程では、チャック6を外輪11とチューブ5との溶接箇所と、内部空間Aとの間(位置C−D間)に配置し、等速ジョイント1を固定する。ここで、チャック6は、外輪11の外周面全周に当接している。
【0062】
さらに、第二実施形態では、把持工程において、第二の冷却部材8を外輪11のカップ部21の外周面に当接させる。ここで、図4に示すように、外輪11の開口端(カップ部21の開口端)の軸方向の位置を位置Hとする。第二の冷却部材8は、外輪11の外周面のうち、位置Dから位置Hまでの間に配置される。つまり、第二の冷却部材8を、外輪11の外周面のうち内部空間Aの径方向外方に当接させる。なお、第二の冷却部材8は、チャック6と同様の形状であり、内径がカップ部21の外径に等しくなっている。つまり、第二の冷却部材8は、内部全周に貫通孔63が形成され、カップ部21の外周面に全周に亘って当接する。
【0063】
すなわち、把持工程では、チャック6を溶接箇所と内部空間Aとの間に当接させ、第二の冷却部材8を内部空間Aの径方向外方にある外輪11の外周面に当接させる。このように、軸方向の2箇所において、外輪11を冷却している。
【0064】
続いて、チャック6および第二の冷却部材8の貫通孔63に冷却水を流す(冷却工程)。第二実施形態では、チャック6に加えて、第二の冷却部材8により、内部空間A上の外輪11が冷却される。冷却工程は、少なくとも後述する溶接工程が終わるまで継続的に行う。冷却水は、溶接工程が終わるまで、各貫通孔63を継続的に流通している。すなわち、位置C−D間のチャック6は、溶接箇所と内部空間Aの間を継続的に冷却し、位置D−E間の第二の冷却部材8は、内部空間A上の外周面を継続的に冷却する。
【0065】
続いて、等速ジョイント1とチューブ5を溶接する(溶接工程)。外輪11の筒状部22の端部と、チューブ5の一方端部とを溶接する(位置B−C間)。溶接工程中、等速ジョイント1は、チャック6および第二の冷却部材8により固定されており(把持工程)、位置C−D間およびD−H間で継続的に冷却されている(冷却工程)。第二実施形態では、チャック6および第二の冷却部材8を外輪11に当接させ、且つ、把持させた状態で、当該溶接を行う。
【0066】
すなわち、第二実施形態のプロペラシャフトの製造方法では、溶接による熱の伝わりがチャック6により抑制され、且つ、内部空間Aが第二の冷却部材8により直接的に冷却される。従って、グリース17の劣化を、より確実に防止することができる。
【0067】
なお、チャック6が等速ジョイント1を把持し、固定しているため、第二の冷却部材8は、当該固定機能を有しなくてもよい。つまり、第二の冷却部材8は、冷却部材として、外輪11の外周面に当接するだけでもよく、この場合も内部空間Aを冷却できる。もちろん、チャック6と第二の冷却部材8の位置を相互に入れ換えるようにしてもよい。この場合、外輪11のカップ部21の外周面をチャック6により把持することになり、冷却性能としては同程度である。さらに、第二実施形態においては、2個の冷却部材を用いたが、3個以上の冷却部材を用いてもよい。この場合、より冷却性能が向上する。
【0068】
<第三実施形態>
第三実施形態のプロペラシャフトの製造方法について、図5を参照して説明する。図5は、プロペラシャフトを軸方向に切断した断面図である。なお、第三実施形態において、等速ジョイント1、チューブ5、および、チャック6のそれぞれは第一実施形態と同構成であるため、同符号を付して説明を省略する。
【0069】
第三実施形態において、プロペラシャフトは、等速ジョイント1のシャフト15と、チューブ5とを溶接することで製造される。つまり、第三実施形態においては、第一実施形態に対して、等速ジョイント1の取付方向が逆になっている。図5に示すように、溶接箇所は、シャフト15の一方端部とチューブ5の一方端部との接触部分の外周面である。つまり、図5における軸方向の位置Fから位置Gまでの間で溶接が行われる。なお、シャフト15の他方端部には、内輪12が連結している。第三実施形態のチャック6の内径は、当接されるシャフト15の外径に等しくなっている。
【0070】
次に、第三実施形態のプロペラシャフトの製造工程を順に説明する。まず、等速ジョイント1とチューブ5を準備して、等速ジョイント1のシャフト15の外周面をチャック6で把持する(把持工程)。つまり、図5に示すように、チャック6は、溶接箇所と内部空間Aとの間(位置F−E間)に当接している。
【0071】
続いて、チャック6の貫通孔63に冷却水を流す(冷却工程)。冷却水の流通は、第一実施形態と同様である。そして、貫通孔63は、シャフト15の外周面に沿うように全周に亘って設けられている。このため、チャック6は、流通する冷却水により、冷却対象(シャフト15の外周面)に対して全周に亘って冷却する。冷却工程は、少なくとも後述する溶接工程が終わるまで継続的に行う。
【0072】
続いて、等速ジョイント1のシャフト15の一方端部とチューブ5の一方端部とを溶接する(溶接工程)。溶接は、アーク溶接により、位置F−G間で全周に亘って行う。溶接工程中、等速ジョイント1は、チャック6により固定されており(把持工程)、さらに位置E−F間で継続的に冷却されている(冷却工程)。第三実施形態では、チャック6をシャフト15に当接させ、且つ、把持させた状態で、当該溶接を行う。
【0073】
以上より、第三実施形態のプロペラシャフトの製造方法においても、上記した第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0074】
なお、第三実施形態のプロペラシャフトの製造方法において、上記した第一実施形態の変形態様に相当するものを適用することができる。この場合には、上記効果と同様の効果を得ることができる。また、チャック6に加え、第二実施形態の第二の冷却部材8を、内部空間Aの径方向外方にある外輪11の外周面に当接させてもよい。この場合、第二実施形態同様、冷却機能は、さらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第一実施形態におけるプロペラシャフトを軸方向に切断した断面図である。
【図2】チャック6を示す図である。
【図3】チャック6を径方向に切断した断面図である。
【図4】第二実施形態におけるプロペラシャフトを軸方向に切断した断面図である。
【図5】第三実施形態におけるプロペラシャフトを軸方向に切断した断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1:等速ジョイント、
11:外輪、 21:カップ部、 22:筒状部、 21a:外輪ボール溝、
12:内輪、 12a:内輪ボール溝、 13:ボール、 14:保持器、
15:シャフト、 5:チューブ、 16:ブーツ、 17:グリース、
18:保持金具、
6:チャック、 61:チャック上部、 62:チャック下部、 63:貫通孔、
61a:柱状部、 61b:半円状部、 63a、63b:開口端、
8:第二の冷却部材、 A:内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪、内輪、前記内輪に連結されるシャフト、前記外輪の開口を閉塞するブーツ、並びに、前記外輪および前記ブーツの内側に形成される内部空間に封入される潤滑剤を備える等速ジョイントと、
前記外輪または前記シャフトに溶接により結合される軸状部材と、
を備える動力伝達シャフトの製造方法において、
前記外輪または前記シャフトの外周面に冷却部材を当接させた状態で、前記外輪または前記シャフトに前記軸状部材を溶接することを特徴とする動力伝達シャフトの製造方法。
【請求項2】
前記冷却部材は、前記外輪または前記シャフトの外周面全周に当接する請求項1に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
【請求項3】
前記冷却部材を、前記軸状部材との溶接箇所と前記内部空間との間に当接させる請求項1に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
【請求項4】
前記冷却部材を、前記外輪の外周面のうち前記内部空間の径方向外方に当接させる請求項1に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
【請求項5】
前記冷却部材を複数用い、複数の前記冷却部材のうち少なくとも一つを前記軸状部材との溶接箇所と前記内部空間との間に当接させ、さらに少なくとも一つを前記外輪の外周面のうち前記内部空間の径方向外方に当接させる請求項1に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
【請求項6】
前記冷却部材は、外部に複数開口し内部を貫通する貫通孔が形成され、
前記貫通孔を冷却流体が流通する請求項1に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
【請求項7】
前記貫通孔は、前記外周面に沿うように形成される請求項6に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
【請求項8】
前記冷却部材は、前記外輪または前記シャフトの外周面全周に当接し、
前記貫通孔は、前記外周面に沿うように全周に亘って形成される請求項6に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
【請求項9】
前記等速ジョイントを把持部材により把持した状態で、前記外輪または前記シャフトに前記軸状部材を溶接し、
前記把持部材は、前記冷却部材である請求項1に記載の動力伝達シャフトの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−232189(P2008−232189A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69212(P2007−69212)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】