説明

化粧シート

【課題】高剥離強度であり、長時間水に濡れても強度の低下や寸法変化が少なく、合板、パーチクルボード、中質繊維板等の基材に貼り合わせて化粧板とする表面材、特に、台所、トイレ等の水を使う場所で使用する床材用の表面材として好適に用いることができる化粧シートを提供する。
【解決手段】木材系パルプ90〜60重量%、合成繊維10〜40重量%の割合で配合し、填料をパルプに対して5〜20重量%、シランカップリング剤をSiO重量換算で0.2〜0.5%定着させて抄紙された原紙に、アクリル系樹脂を原紙に対して30〜35重量%含浸した、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が170N/m以上であることを特徴とする化粧シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビヤ印刷機によりベタ印刷と柄印刷を施し、合板、パーチクルボード、中
質繊維板等の基材に貼り合せて化粧板となし、建材用あるいは家具用等の表面材、特に台
所、トイレ、等の水を使う場所で使用する床材用の表面材に利用される化粧シートに関す
る。
【背景技術】
【0002】
化粧シート基材は、薄紙、強化紙、含浸紙等を使用する紙をベースにするタイプと、塩化
ビニルフィルム、ポリオレフィンフィルム等を使用するフィルムをベースにタイプに分け
られる。近年、環境問題等を考慮し、フィルムから紙をベースにしたタイプ、中でも強度
、加工適性の面から含浸紙を使用するタイプへの移行が進んでいる。
【0003】
しかしながら含浸紙はフィルムと比べて紙層間で剥離する問題があり、さらに、水に濡れ
ると強度が大きく低下するため、例えば床表面などの高剥離強度、高表面強度、耐水性、
耐湿性を必要とする部位には使用が限られていた。
【0004】
高剥離強度、高表面強度を得るため、あるいは耐水性を改善するため、原紙の表面に保護
層を有するシートが報告されている(特許文献1)。しかしながら、保護層を設けるため
に工程が煩雑になるばかりでなく、長時間水に浸された場合は、紙の小口から水が浸入し
強度低下を十分に抑えることが出来ないという問題点があった。
【0005】
そこで、原紙についての検討が行われ、例えば特許文献2には、耐水性のある含浸樹脂を
用いる方法が開示されているが、耐水性低下の主原因がパルプを構成するセルロースに起
因することから、長時間水に濡れた場合は強度低下を伴うという問題点があった。また特
許文献3には、合成繊維を混抄した後、熱融着させて良好な耐水性を得る方法が提案され
ているが、抄造後に合成繊維を熱融着させるため含浸工程で樹脂が紙層内部に入らなくな
り高剥離強度を得ることが出来ないという欠点があった。
【0006】
このような課題を解決する技術として、シランカップリング剤を用いた方法が提案されて
いる。
例えば、特許文献4では、シロキサン結合を主鎖結合とするポリマーを含浸、固着する方
法が提案されているが、含浸によりシロキサンを固着するためパルプ表面を均一に覆うこ
とが出来ず、高い耐水性は得られにくいという欠点があった。
特許文献5ではシランカップリング剤を内添して耐水性を向上させる方法が提案されてい
る。しかし、これらの方法では含浸前の紙の撥水性が強くなるため樹脂が紙層内部に入ら
ず、高剥離強度を得ることが出来ないという問題があった。そこで含浸前の段階での撥水
性を抑えると、含浸後の耐水性は十分に得られにくいという問題があった。
【0007】
本発明者らはかかる欠点を解決する化粧シートとして、ポリエチレン系合成パルプを混抄
した原紙にアクリル系樹脂を含浸し、その後ポリエチレン系合成パルプの融点以上の温度
で熱処理した24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が130N/m以上である化粧シートを
提案した(特許文献6)。この化粧シートは、水を使用する部位に用いられる表面材とし
て十分な剥離強度が得られるが、吸水に伴う膨れ等の外観上の不具合を生じる可能性があ
った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−331594号公報
【特許文献2】特開平5−195491号公報、特開平11−58622号公報、特開2002−147004号公報
【特許文献3】特開平6−136685号公報
【特許文献4】特開昭64−6198号公報
【特許文献5】特開平10−212693号公報、特開平10−226980号公報、特開2000−108507号公報、特開2000−119993号公報、特開2001−181994号公報、特開2002−13092号公報
【特許文献6】特願2006−265082号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の問題点を解決することにあり、特に、高剥離強度で、水に濡
れても強度低下や厚さ膨張の少ない化粧シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、特定の配合で製造された含浸紙が、上記課題を解決できることを見出したも
のである。
すなわち、本発明は、
(1)パルプとして、木材系パルプ90〜60重量%、合成繊維10〜40重量%を配合
したものを用い、該パルプに対して填料を5〜20重量%、シランカップリング剤をSi
重量換算で0.2〜0.5%定着させて抄紙された原紙に、アクリル系樹脂を原紙に
対して30〜35重量%含浸した、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が170N/m以
上であることを特徴とする化粧シート、
(2)化粧シートが床材用である、上記(1)記載の化粧シート、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化粧シートは、高剥離強度であり、長時間水に濡れても強度の低下や厚さ膨張
が少ない。従って、特に、台所、トイレ等の水を使う場所で使用する床材用の表面材の化
粧シートとして好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いられる原紙は、パルプとして木材系パルプ90〜60重量%、合成繊維1
0〜40重量%の割合で配合したものを用い、該パルプに対して填料を5〜20重量%、
シランカップリング剤をSiO重量換算で0.2〜0.5%定着させて抄造したもので
ある。
【0013】
木材系パルプは、LBKP単独、あるいは必要に応じてNBKPを添加することが出来
る。木材系パルプの叩解度は500〜600mlcsfにすることが望ましい。500m
lcsf未満では叩解が進みすぎて含浸性が悪くなり高剥離強度が得られなくなる。一方
、600mlcsfを超えると叩解が不十分なため紙の平滑性が低く印刷適性の点から好
ましくない。
【0014】
合成繊維はポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維等を用いることができ
る。これらは異なる2種類以上のものを配合しても良い。
合成繊維の融点は140℃以上のバインダー繊維が用いられる。融点140℃以下では乾
燥工程で汚れやすく、紙の耐熱性の点からも好ましくない。また主体繊維では繊維脱落し
やすいのでバインダー繊維が好ましい。かかる合成繊維としては、例えば、テピルス(帝
人株式会社製)の商品名で市販されているポリエステル繊維が例示され、これらは、融点
、繊維長、繊維径、繊維断面形状等が異なる2種以上のものを配合しても良い。
【0015】
合成繊維の配合量は10重量%未満では耐水性を上げる効果が不十分となり、一方、4
0重量%以上ではウェット強度が低く、紙切れの問題が発生するとともにコスト的にも好
ましくない。
【0016】
填料としては、原紙に遮蔽性を出すために二酸化チタンに代表される白色系填料、あるい
は有機、無機の着色顔料を挙げることが出来る。填料の定着量は木材系パルプと合成繊維
を合わせた重量に対して5〜20重量%になるようにする。定着量がパルプに対して5重
量%未満では遮蔽性が十分でなく、20重量%を超えると遮蔽性は良くなるが高剥離強度
が得られにくくなり好ましくない。
【0017】
本発明で用いられるシランカップリング剤としては、一般式Si(OR)4もしくはR´
nSi(OR)4-nで表されるものが用いられる(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基
。R´はアルキル基、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を含む官能基)
。例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、
メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビ
ニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルト
リメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が例示され、これらは異な
る2種類以上のものを配合しても良い。
シランカップリング剤は加水分解して用いられるが、触媒として、酸性触媒、塩基性触
媒を用いることが出来る。例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、リン酸、クエン酸、酒石酸
、硫酸アルミニウム、アンモニア等が例示され、これらは異なる2種類以上のものを配合
しても良い。これら触媒の使用量は特に限定されず、適宜設定される範囲で用いられる。
【0018】
シランカップリング剤は定着量がSiO重量換算で0.2〜0.5%になるように内添
される。0.2%以下では耐水性を上げる効果が不十分となり、0.5%を超えると原紙
の撥水性が強くて含浸性が悪くなり高剥離強度が得られなくなる。
シランカップリング剤を定着させる方法は、触媒と共にパルプの懸濁液中に添加しパルプ
共存下で加水分解して定着させる方法と、事前に加水分解したものを添加して定着させる
方法のどちらでも良いが、前者の方が品質が一定となりやすく望ましい。
シランカップリング剤の定着量は、添加するときのパルプのpHや添加したあとの処理時
間により変化するが、パルプに対しておよそ1〜3%程度添加することで狙いとする0.
2〜0.5%の定着量が得られる。
【0019】
化粧シートには、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン(以下PAEと略す)等の
湿潤紙力剤、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ポリアクリルアミド等の紙力増強
剤、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤等の歩留向上剤、消泡剤、等を必要に応じて添加す
ることが出来る。
【0020】
原紙は定法に準じ、湿式抄紙法で抄造される。
原紙は、アクリル系樹脂を原紙に対して30〜35重量%含浸される。
アクリル系樹脂が30重量%未満では24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が低くなり、
35重量%を超えると工程で汚れやすくなり、ブロッキングやコストの点からも好ましく
ない。
用いられるアクリル系樹脂としては、アクリル酸及びそのエステル、メタクリル酸及び
そのエステルの重合体及び共重合体、アクリロニトリル、アクリルアミド、スチレンなど
を共重合させたものを用いることが出来る。これらアクリル系樹脂は、ソープフリー乳化
重合したアクリル系樹脂、内部架橋剤により内部架橋したアクリル系樹脂、自己架橋剤に
より自己架橋したアクリル系樹脂を用いることが出来る。また、スチレン−ブタジエンゴ
ム系、メチルメタクリレート−ブタジエンゴム系の樹脂などを混合して使用しても差支え
ない。
含浸方法は、抄造後にインラインでサイズプレスなどにより含浸する方法、一旦抄造乾
燥巻取り後にオフラインでディップ含浸する方法の何れでも良い。
【0021】
本発明の化粧シートは、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が170N/m以上のもの
である。なお、本発明で言う水浸漬後の紙層間剥離強度とは、湿潤状態で紙層の中間をT
字状態に剥がした際に測定した強度をいう。
24時間水浸漬後の紙層間剥離強度と吸水時の厚さ膨張率は相関関係があり、本発明は
24時間水浸漬後の紙層間剥離強度を170N/m以上にすれば、吸水時の厚さ膨張を低
く抑えることが出来ることを見出したものである。
すなわち24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が170N/m以上あれば、容易には剥離し
ない十分な強度が維持され、さらに厚さ膨張に伴う膨れ等の外観変化も抑えられ、水を使
用する場所に用いられる表面材として好適に用いられる。
【0022】
本発明の化粧シートは、含浸後に平滑処理がなされた、平滑度300秒以上のものが好
ましい。平滑処理は、熱キャレンダー方式を使用することが特に望ましい。熱キャレンダ
ー方式においてキャレンダーロール温度は80〜130℃に設定することが好ましい。8
0℃未満にすると平滑度が低下し、一方130℃を超えるとキャレンダー汚れが悪くなる


【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を挙げ詳細に説明する。
なお、実施例における化粧シートの特性は以下の方法で評価した。
(1)含浸率:式1により算出した。
【数1】

【0024】
(2)SiO換算付着量:蛍光X線分析装置(リガク製ZSXmini)を用いてSi
カウントを測定し、事前に作成した検量線よりSiO換算定着量を求めた。検量線の作
成は次の方法により行った。ブランク試料に対してシランカップリング剤を加水分解した
ものを含浸し、質量の増加分からSiO付着量を測定した。また、蛍光X線分析装置に
よりSiカウントを測定し、先に求めたSiO付着量とSiカウントの値から検量線を
作成した。
【0025】
(3)紙層間剥離強度:紙のMD方向に15mm幅で切り出し、紙の層間で剥がれるよう
にT字に剥離させ、そのときの強度をテンシロン万能試験機(オリエンテック製PTM−
100)にて測定した。
【0026】
(4)24時間水浸漬後の紙層間剥離強度:上記紙層間剥離強度を測定する方法と同様に
作製した測定用サンプルを、23℃の水の中に24時間浸漬した。その後、水中より取り
出して吸い取り紙で余分な水分を拭き取り、紙の層間で剥がれるようにT字に剥離させ、
そのときの強度をテンシロン万能試験機(オリエンテック製PTM−100)にて測定し
た。
【0027】
実施例1
リファイナーで600mlcsfに叩解したLBKP/NBKP(80/20)90重
量部、ポリエステル繊維(帝人製、テピルスTA07N、融点260℃)10重量部に、
メチルトリエトキシシラン/メルカプトプロピルトリメトキシシラン(80/20)を1
重量部添加し、触媒として硫酸バンドをpH4.0〜4.5になるように添加した。その
後30分撹拌してシランカップリング剤を加水分解し定着させた。さらに着色顔料を10
重量部、各種製紙用助剤(湿潤紙力剤PAE2重量部、硫酸アルミニウム3重量部、アル
ミン酸ナトリウム0.5重量部)を内添し、定法により湿式抄造法で原紙を抄造した。
この原紙にアクリル系樹脂(日本ゼオン製、二ポールLX814)を含浸率が30〜3
5重量%となるように含浸した。その後、熱キャレンダーにて平滑化処理して平滑度30
0秒の化粧シートを作製した。
【0028】
実施例2
実施例1においてシランカップリング剤の添加量を3重量部とした以外、実施例1と同
様に実施し、化粧シートを作製した。
【0029】
実施例3
実施例1においてLBKP/NBKP(80/20)の添加量を90重量部に代えて60
重量部、ポリエステル繊維の添加量を10重量部に代えて40重量部とした以外、実施例
1と同様に実施し、化粧シートを作製した。
【0030】
実施例4
実施例1においてシランカップリング剤の種類をメチルトリエトキシシラン/メルカプ
トプロピルトリメトキシシラン(80/20)に代えてメチルトリエトキシシランとした
以外、実施例1と同様に実施し、化粧シートを作製した。
【0031】
実施例5
実施例1においてポリエステル繊維に代えてポリプロピレン繊維(三井化学製、SWP
Y600、融点165℃)とした以外、実施例1と同様に実施し、化粧シートを作製した

【0032】
実施例6
実施例1においてポリエステル繊維に代えてビニロン繊維(ユニチカ製、AH)とした
以外、実施例1と同様に実施し、化粧シートを作製した。
【0033】
比較例1
実施例1において使用するパルプ繊維をLBKP/NBKP(80/20)100部と
した以外、実施例1と同様に実施し、化粧シートを作製した。
【0034】
比較例2
実施例3においてシランカップリング剤の添加をなくした以外、実施例3と同様に実施
し、化粧シートを作製した。
【0035】
比較例3
実施例1においてシランカップリング剤の添加量を20重量部とした以外、実施例1と
同様に実施し、化粧シートを作製した。
【0036】
実施例、比較例により得られた化粧シートの特性を表1にします。
実施例1〜6で作製した化粧シートは紙層間剥離強度が300N/m以上の高剥離強度が
得られており、また、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度も170N/m以上の強度が得
られた。
一方、比較例1で作製した化粧シートはポリエステル繊維を配合していないために、紙層
間剥離強度は高いものの、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度は150N/mと低いレベ
ルであった。
同様に、比較例2で作製した化粧シートについてはシランカップリング剤を配合していな
いために、紙層間剥離強度は高いものの、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度は145N
/mと低いレベルであった。比較例1及び比較例2から、本発明はポリエステル繊維およ
びシランカップリング剤を同時に配合することが必要であることがわかる。
また比較例3で作製した化粧シートは、SiO換算での付着量が高い為に撥水性が強く
なり、含浸率が低下して、紙層間剥離強度、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度は低いも
のであった。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の化粧シートは、高剥離強度であり、長時間水に濡れても強度の低下や厚さ膨張が
少ないものであり、合板、パーチクルボード、中質繊維板等の基材に貼り合せて化粧板と
する表面材、特に、台所、トイレ等の水を使う場所で使用する床材用の表面材として好適
に用いることが出来る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプとして、木材系パルプ90〜60重量%、合成繊維10〜40重量%を配合したも
のを用い、該パルプに対して填料を5〜20重量%、シランカップリング剤をSiO
量換算で0.2〜0.5%定着させて抄紙された原紙に、アクリル系樹脂を原紙に対して
30〜35重量%含浸した、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が170N/m以上であ
ることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
化粧シートが床材用である、請求項1記載の化粧シート



【公開番号】特開2009−243029(P2009−243029A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4349(P2009−4349)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】