医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法
【課題】 軟質の熱可塑性樹脂を用いて複雑な形状の医療用チューブの成形が行える医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法を提供すること。
【解決手段】 軟質の熱可塑性樹脂からなり内部に軸部を挟んで流路13a,13b,13c,13dが形成された医療用チューブ10を成形するための押出成形用金型20を、金型本体21と、ランド部23を備えたピン22とで構成した。そして、金型本体21の凹部26a,27aの内周面とピン22の外周面との間に成形用材料を通過させる円筒状の後部側成形空間部を形成し、金型本体21の凹部28aの内周面とランド部23との間に医療用チューブ10を形成するための断面形状を備えた先端側成形空間部を形成した。さらに、先端側成形空間部の断面形状のうちの後部側部分の断面形状を、先端側成形空間部の先端部の断面形状と後部側成形空間部の先端部の断面形状との中間の形状にした。
【解決手段】 軟質の熱可塑性樹脂からなり内部に軸部を挟んで流路13a,13b,13c,13dが形成された医療用チューブ10を成形するための押出成形用金型20を、金型本体21と、ランド部23を備えたピン22とで構成した。そして、金型本体21の凹部26a,27aの内周面とピン22の外周面との間に成形用材料を通過させる円筒状の後部側成形空間部を形成し、金型本体21の凹部28aの内周面とランド部23との間に医療用チューブ10を形成するための断面形状を備えた先端側成形空間部を形成した。さらに、先端側成形空間部の断面形状のうちの後部側部分の断面形状を、先端側成形空間部の先端部の断面形状と後部側成形空間部の先端部の断面形状との中間の形状にした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の傷部から排液を排出したり、患者の傷部に薬液を供給したりするために用いられる医療用チューブを成形するための医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者の傷部に溜まる排液を排出するために医療用チューブが用いられている。そして、このような医療用チューブの中に、シリコーンの成形体で構成され、基端側部分が円筒状に形成され、患者の傷部に留置される先端側部分が中心軸を挟んで区分けされた複数の流路に形成されたものがある。また、この医療用チューブの先端側部分には、各流路を形成する壁部のうちの外周側部分をそれぞれ軸方向に沿って切り欠くことによってスリットが形成されている。このスリットを設けることによって医療用チューブの開口部分を大きくして効率的に排液を吸引することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この医療用チューブ(傷部ドレンカテーテル)の先端側部分の断面形状は、リング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路を形成し、そのリング状部分の各片間に対応する部分を切り欠いてスリットを形成することにより四つの流路をそれぞれ外部に連通させた形状や、リング状の内面にリング状の中心から三方に延びる片の各先端部をそれぞれ連結して三つの流路を形成し、そのリング状部分の各片間に対応する部分を切り欠いてスリットを形成することにより三つの流路をそれぞれ外部に連通させた形状に形成されている。
【0004】
また、前述したような従来の医療用チューブを製造する場合には、例えば、断面形状が、リング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路が形成されたチューブを押出成形により形成し、そのリング状部分の各片間に対応する部分を加工処理により切り欠いてスリットを設けることにより医療用チューブを形成したり、直接押出成形によりスリットを備えた医療用チューブを成形したりすることが行われている。
【特許文献1】特公平2−17185号公報
【発明の開示】
【0005】
しかしながら、従来の医療用チューブの製造方法のうち、加工処理によりスリットを形成する場合には、製造工程が増えコストが高くなるという問題がある。また、押出成形により一度で最終形状の医療用チューブを成形する場合には、成形用材料が軟質樹脂であれば、一般に押出成形用金型の金属製スリーブとの滑りが悪いため、例えば真空サイジング法により成形することは困難である。また、軟質であってもシリコーン樹脂(非熱可塑性樹脂)の場合は、粘度が高く、押出成形用金型の成形用空間の形状に近い形状に容易に成形できるが、軟質ポリウレタンや軟質ポリ塩化ビニルのような軟質熱可塑性樹脂からなる成形用材料を用いた場合には、シリコーン樹脂と同様の従来の押出成形方法では成形を行うことはできない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、その目的は、軟質の熱可塑性樹脂を用いて複雑な形状の医療用チューブの成形が行える医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法を提供することである。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る医療用チューブの押出成形用金型の構成上の特徴は、軟質の熱可塑性樹脂からなり内部に軸部を挟んで複数の流路が形成された医療用チューブを成形するための医療用チューブの押出成形用金型であって、一方から他方に貫通する凹部が形成された金型本体と、金型本体の凹部内に設置され凹部の内周面との間に軟質の熱可塑性樹脂からなる成形用材料を通過させる先細り円筒状の後部側成形空間部を形成するピンと、ピンの先端部を構成し、凹部の内周面における先端側部分との間に医療用チューブを形成するための断面形状を備えた先端側成形空間部を形成するランド部とを備え、凹部の先端側部分の内周面と、ランド部の表面とで形成される先端側成形空間部の断面形状のうち、先端部の断面形状を医療用チューブの断面形状と同じにし、後部側部分の断面形状を先端側成形空間部の先端部の断面形状と後部側成形空間部の先端部の断面形状との中間の形状にしたことにある。
【0008】
前述のように構成した本発明に係る医療用チューブの押出成形用金型では、金型本体の凹部の先端側部分の内周面と、ピンの先端部を構成するランド部の表面とで形成される先端側成形空間部の断面形状のうち、後部側部分の断面形状を、先端側成形空間部の先端部の断面形状である医療用チューブの断面形状と後部側成形空間部の先端部の断面形状であるリング状の形状との中間の形状にしている。このため、成形用材料を、従来のように金型本体の凹部とピンとの間に形成された後部側成形空間部のリング状の断面形状から直接医療用チューブの断面形状に変形させるのではなく、一旦リング状の断面形状から医療用チューブの断面形状に近い中間の形状に変形させたのちに、再度中間形状から最終形状である医療用チューブの断面形状に変形させることができる。
【0009】
これによって、一度の変形による形状の変化を小さくすることができ、成形用材料の金型に対する滑りが多少悪くとも複雑な形状の医療用チューブを精度よく成形することができる。なお、押出成形用金型から押し出された医療用チューブは押出成形用金型の外部で多少引き伸ばされる。このため、本発明における医療用チューブの断面形状と同じにした先端側成形空間部の先端部の断面形状の大きさは、医療用チューブの断面形状よりもやや大きくなる。
【0010】
また、本発明に係る医療用チューブの押出成形用金型の他の構成上の特徴は、後部側成形空間部から移動してくる成形用材料の外側に沿った面を形成する外面形成用凹部を備えたプレート部を、金型本体における凹部の先端側に設置して、ランド部の一部をプレート部の外面形成用凹部内の所定位置に伸ばし、ランド部のプレート部内に位置する部分で、成形される医療用チューブに周面が閉塞された流路を形成できるようにするとともに、プレート部の外面形成用凹部とランド部のプレート部内に位置する部分とで形成される空間部を後部側成形空間部の先端部としたことにある。
【0011】
この医療用チューブの押出成形用金型では、金型本体の先端面に、医療用チューブの外側に沿った面を形成する外面形成用凹部を備えたプレート部を設け、このプレート部の外面形成用凹部内(軸方向の前方)にランド部の一部を伸ばしている。このため、医療用チューブが備える複数の流路のうちの所定の流路を両端部以外の周面を閉塞した形状に形成することができる。この場合のプレート部の外面形成用凹部内に伸ばすランド部の一部は複数であってもよい。
【0012】
これによると、周面が閉塞された流路を医療用チューブに複数形成することができる。なお、医療用チューブの所定部分にスリットを設けてそのスリットが設けられた流路を外部に連通させる場合には、ランド部の所定の部分を外周方向に突出させてプレート部の外面形成用凹部の所定の部分に接触させるか、または外面形成用凹部の内周面との間に成形用材料が進入できない僅かな隙間を形成させることにより、その部分にスリットを形成することができる。したがって、すべての流路にスリットを設ける場合には、プレート部を設けなくてもよくなる。
【0013】
また、本発明に係る医療用チューブの押出成形用金型のさらに他の構成上の特徴は、先端側成形空間部の後部側部分の断面形状をリング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路を形成した形状にし、先端側成形空間部の先端部の断面形状をリング状部分の所定部分を切り欠いて四つの流路のうちの少なくとも一つの流路を外部に連通させた形状にしたことにある。これによると、スリットが設けられた異形チューブを一度の押出成形で成形できるため、成形後に、加工処理によってスリットを設ける必要がなくなる。この結果、製造工程を減少でき製造コストの低減化も図れる。なお、この場合のリング状部分を切り欠いて形成されるスリットは、1個の流路だけに設けてもよいし2個〜4個の複数の流路に設けてもよい。
【0014】
また、本発明に係る医療用チューブの押出成形方法の構成上の特徴は、前述した押出成形用金型を用いて医療用チューブを成形する医療用チューブの押出成形方法であって、金型本体の凹部内にピンを設置して形成される先細り円筒状の後部側成形空間部内に軟質の熱可塑性樹脂からなる成形用材料を通過させて成形用材料を円筒状に形成する円筒形成工程と、先端側成形空間部の後部側部分で、円筒形成工程で形成された成形用材料の断面形状をリング状と医療用チューブの断面形状との中間の形状に形成する中間形状形成工程と、先端側成形空間部の先端部で、中間形状形成工程で形成された成形用材料の断面形状を医療用チューブの断面形状に形成する最終形状形成工程とを備えたことにある。
【0015】
このように構成した医療用チューブの押出成形方法は、成形用材料を円筒状に形成する円筒形成工程と、円筒状の成形用材料の断面形状をリング状と医療用チューブの断面形状との中間の形状に形成する中間形状形成工程と、中間形状形成工程で形成された成形用材料の断面形状を医療用チューブの断面形状に形成する最終形状形成工程とを備えている。このため、成形用材料の断面形状は、金型本体の凹部とピンとの間に形成された後部側成形空間部のリング状の断面形状から、一旦医療用チューブの断面形状に近い中間の形状に変形したのちに、中間形状から最終形状の医療用チューブの断面形状に変形する。これによって、成形用材料の一度の変形による形状の変化を小さくすることができ、成形用材料の金型に対する滑りが悪くとも複雑な形状の医療用チューブを精度よく成形することができる。
【0016】
また、本発明に係る医療用チューブの押出成形方法の他の構成上の特徴は、中間形状形成工程で形成される成形用材料の断面形状をリング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路を形成した形状にし、最終形状形成工程で形成される成形用材料の断面形状をリング状部分の所定部分を切り欠いて四つの流路のうちの少なくとも一つの流路を外部に連通させた形状にしたことにある。これによると、スリットが設けられた異形チューブを一度の押出成形で成形できるため、成形後に、加工処理によってスリットを設ける必要がなくなる。また、本発明によると製造工程を減少でき製造コストの低減化も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法を図面を用いて説明する。図1は、同実施形態によって形成された医療用チューブ10を示している。この医療用チューブ10は、外形が略円筒状に形成されたポリウレタンからなる成形体で構成されており、略円筒状の外周部11と、外周部11の内部に軸方向に沿って形成された断面形状が十字状の隔壁部12とで構成されている。隔壁部12を構成する各片の先端部はそれぞれ外周部11の内面に連結されて、外周部11の内部を四つの流路13a,13b,13c,13dに区分している。そして、外周部11における流路13a,13b,13cに対応する部分にそれぞれ流路13a,13b,13cを外部に連通させるためのスリット14a,14b,14cが、それぞれ隔壁部12の中心軸と平行に形成されている。
【0018】
このように構成された医療用チューブ10は、ポリウレタンからなる軟質の熱可塑性樹脂材料を、図2に示した押出成形用金型20を用いて成形される。この押出成形用金型20は、金型本体21と、金型本体21内に設置されたピン22と、ピン22の先端部を構成するランド部23と、金型本体21の先端部に設けられたプレート部24とを備えている。金型本体21は、後部側(図2の左側)に配置された略矩形のブロック体からなりその後端面中央から前端面中央に向って貫通する断面形状が円形のピン保持孔25aを備えたピンホルダ部25と、ピンホルダ部25の前側に配置され内部にピン22の前部側部分を収容する凹部26aが形成されたブッシングホルダ部26とを備えている。
【0019】
そして、ブッシングホルダ部26の内部にブッシング27が設置され、ブッシング27の前側にブッシング28が設置されている。ブッシングホルダ部26に形成された凹部26aは、ピン保持孔25aの直径よりもやや大きな直径の略円柱形の空間部に形成されている。そして、その凹部26aの後端側部分の上部には、ピンホルダ部25の上面に形成された材料入口29から延びてくる材料通路29aが連通している。また、ブッシングホルダ部26の内部におけるやや前部側部分には、前面がやや小さな開口に形成された2段状のブッシング取り付け用の凹部が形成されこの凹部の奥側(後部側)にブッシング27が設置されている。
【0020】
このブッシング27の後端面中央から前端面中央にかけては、後部側が大径で前部側が小径になった円錐台状の凹部27aが形成されており、この凹部27aの後端部の直径は凹部26aの直径と同一に設定されている。そして、ブッシングホルダ部26のブッシング取り付け用の凹部の前部側にブッシング27よりも小さな矩形のブッシング28が前部側をブッシングホルダ部26から突出させた状態で設置されている。ブッシング28の後端面中央から前端面中央にかけては、小径円柱状の凹部28aが形成されており、この凹部28aの直径は凹部27aの前端部の直径と同一に設定されている。また、ピン保持孔25a、凹部26a、凹部27aおよび凹部28aは中心軸がそれぞれ同一線上に位置するように配置されている。
【0021】
ピン22は、ピンホルダ部25のピン保持孔25a内に固定された円柱状の被固定部22aと、被固定部22aの前端から前方に向かって延び被固定部22aよりも直径がやや大きく、軸方向の長さが短い円柱状のストレート部22bと、ストレート部22bの前端から前方に向かって延び前端側が徐々に細くなった円錐台状のテーパ部22cと、ランド部23とで構成されている。そして、ストレート部22bの外周面とブッシングホルダ部26の凹部26aの内周面との間およびテーパ部22cの外周面とブッシング27の凹部27aの内周面との間には、成形用材料が移動するための隙間が形成されており、この隙間で本発明の後部側成形空間部が構成される。
【0022】
また、ピン22の先端部を構成するランド部23は、図3および図4に示したようにしてテーパ部22cの先端部に設けられており、図5ないし図7に示したように4本の棒状体で構成されている。すなわち、ランド部23の基端側(後端側)部分は、図6に示したように、断面形状が扇形の4つの棒状成形部23a,23b,23c,23dで構成されており、この4つの棒状成形部23a,23b,23c,23dは、外周部を略円形にするとともに、内部に医療用チューブ10の隔壁部12と同形の十字形の隙間を形成するようにして軸方向に平行に配置されている。
【0023】
このランド部23の基端側部分は、ブッシング28の凹部28a内における後部側部分配置されており、ランド部23の基端側部分の外周面を結ぶ円形部分と凹部28aの内周面との間には、医療用チューブ10の外周部11と略同じ厚さの円筒状の隙間(実際には、隙間の厚さよりも医療用チューブ10の厚さの方がやや小さくなっている。)が形成されている。そして、この隙間で本発明の先端側成形空間部の後部側部分が構成される。また、ランド部23の先端側部分の断面形状は、図7に示したように、棒状成形部23a,23b,23cの外周面における円弧状部分の中央にそれぞれ突起31a,31b,31cを設けた形状に形成されている。
【0024】
突起31a,31b,31cは、それぞれ後端部が棒状成形部23a,23b,23cの外周面から徐々に幅を広げながら前方に向って高く(棒状成形部23a,23b,23cの外周面から離れる方向)なっていく傾斜部で構成されており、傾斜部の先端部から一定の高さを保って棒状成形部23a,23b,23cの前端部まで延びている。また、棒状成形部23dの外周面には突起は設けられてなく、棒状成形部23dの軸方向の長さは、図5に示したように、他の棒状成形部23a,23b,23cよりも長くなっている。
【0025】
そして、棒状成形部23dの前端面にはピン22の後部側から延びてくるエア吐出用孔32の先端部が開口している。このエア吐出用孔32の先端側部分32aは、後部側部分32bよりも細く形成されており、図8は、テーパ部22c内に形成されたエア吐出用孔32の後部側部分32bを示している。また、ランド部23の先端側部分における棒状成形部23dの先端の突出した部分以外の部分は、ブッシング28の凹部28a内における前部側部分に配置されており、ランド部23の先端側部分と凹部28aの内周面との間には、医療用チューブ10の端面と同形の隙間が形成されている。すなわち、突起31a,31b,31cの先端面は、それぞれ凹部28aの内周面に接触するか、または、凹部28aの内周面との間に成形用材料が進入できない僅かな隙間を形成しており、突起31a,31b,31cが位置する部分で、スリット14a,14b,14cが形成される。
【0026】
プレート部24は、図9および図10に示したように、円板状に形成されており、その中央部に厚み方向に貫通する成形用スリット24aが形成され、外周側部分に円周に沿って一定間隔で厚み方向に貫通する3個のボルト挿通穴33a,33b,33cが形成されている。成形用スリット24aは、図11に示したように、医療用チューブ10の端面形状から流路13dに対応する部分を除去した形状に形成されている。そして、このプレート部24は、成形用スリット24aにおける医療用チューブ10の流路13dに対応する部分(図11における右下部分における周縁部から一定距離を保った部分)に、ランド部23の棒状成形部23dの先端部を位置させた状態でボルト(図示せず)を介してブッシング28の前面に固定されている。
【0027】
このとき、プレート部24の後面中央部は、それぞれ棒状成形部23a,23b,23cおよび突起31a,31b,31cの先端面に当接するか、または、その先端面との間に成形用材料が進入できない僅かな隙間を形成した状態になる。これによって、プレート部24の中央部には、成形用スリット24aと棒状成形部23dとで構成される医療用チューブ10の端面と同形の空間部が形成される。そして、この空間部と、前述したランド部23の先端側部分と凹部28aの内周面との間の隙間とで本発明の先端側成形空間部の先端部が構成される。
【0028】
また、プレート部24の厚みと、棒状成形部23dの突出した先端部の長さとは同じ長さに設定され、棒状成形部23dの先端面がプレート部24の前面と同一面上に位置するようにしている。なお、図示していないが、押出成形用金型20が取り付けられる押出成形装置には、押出成形用金型20と押出成形装置とをつなぎ、材料入口29から材料通路29a側に成形用材料を送り込むアダプタ、材料入口29に送り込む成形用材料を加熱する加熱シリンダー、加熱シリンダー内に設置されたスクリュー、押出成形用金型20の周辺に設けられた各装置を制御する制御装置等、押出成形用金型20を用いて押出成形を行うために必要な各装置や機構が備わっている。
【0029】
このように構成された押出成形用金型20を用いて、医療用チューブ10を成形する場合には、まず、押出成形用金型20を適正温度に加熱にしたのちに、材料投入口(図示せず)に投入した成形用材料を加熱シリンダーで加熱しながらスクリューで送り出して、アダプタを介して材料通路29a内に充填する。ついで、さらに成形用材料を送り出して、成形用材料を材料通路29aから後部側成形空間部内に移動させていく。このとき、成形用材料は、ブッシングホルダ部26の凹部26aの内周面とストレート部22bの外周面との間の隙間で円筒状に形成され、さらにブッシング27の凹部27aの内周面とテーパ部22cの外周面との間の隙間を通過する間に成形用材料は徐々に直径の小さな円筒状に変形していく。
【0030】
そして、成形用材料は、ブッシング27の凹部27aの内周面とテーパ部22cの外周面との間の隙間からブッシング28の凹部28aの内周面とランド部23の基端側部分の外周面とで形成される先端側成形空間部内の後部側部分に移動していく。これによって、円筒状の成形用材料は、円筒体の内部に十字形の隔壁部12が形成された形状に変形する。さらに、成形用材料が先端側成形空間部内の後部側部分から前方に移動して、ブッシング28の凹部28aの内周面とランド部23の先端側部分との間の隙間に入ると、医療用チューブ10と同じに形状に変形する。
【0031】
そして、成形用材料は、その形状を維持したままプレート部24の成形用スリット24aから外部に押し出されたのちに冷却され医療用チューブ10が得られる。この押出成形の際、成形用材料は、適度な温度に加熱されて材料通路29aからプレート部24の成形用スリット24aに移動するまでに徐々に変形していくため、無理なく成形されていく。そして、得られた医療用チューブ10は寸法精度が良好な成形品になる。
【0032】
以上のように、本実施形態に係る医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法では、材料入口29から材料通路29a内に投入された成形用材料を、後部側成形空間部内で円筒状に形成したのちに、直接医療用チューブ10の形状に変形させるのではなく、一旦円筒状から円筒状の内部に隔壁部12を形成した形状に変形させるようにしている。そして、その円筒状と医療用チューブ10の形状との中間の形状に変形させたのちに最終形状である医療用チューブ10の形状に変形させるようにしている。
【0033】
これによって、成形用材料の形状を徐々に変化させることができ、成形用材料の押出成形用金型20の各部分に対する滑りが多少悪くとも複雑な形状の医療用チューブ10を精度よく成形することができる。また、スリット14a,14b,14cが設けられた医療用チューブ10を一度の押出成形で成形できるため、成形後に、加工処理によってスリットを設ける必要がなくなる。この結果、製造工程を減少でき製造コストの低減化も図れる。
【0034】
また、本発明に係る医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法は、前述した実施形態に限定するものでなく、本発明の技術範囲内で適宜変更が可能である。例えば、前述した実施形態では、医療用チューブ10に三つのスリット14a,14b,14cを形成しているが、このスリットを外周部11における流路13dに対応する部分にも設けて、すべての流路13a,13b,13c,13dが外部と連通するようにしてもよい。また、医療用チューブ10に形成するスリットを一つまたは二つにしてもよい。さらに、医療用チューブに形成する流路も四つに限らず他の複数にしてもよい。また、医療用チューブの形状も前述した実施形態の形状に限らず適宜変更することができる。さらに、医療用チューブを構成する軟質の熱可塑性樹脂についてもポリウレタンに限らずポリ塩化ビニル等の他の材料を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態により成形された医療用チューブを示した斜視図である。
【図2】押出成形用金型の断面図である。
【図3】ピンの先端側部分を示した側面図である。
【図4】ピンの先端側部分を示した断面図である。
【図5】ランド部を拡大した側面図である。
【図6】図3の6−6断面図である。
【図7】図3の7−7断面図である。
【図8】図3の8−8断面図である。
【図9】プレート部の正面図である。
【図10】図9の10−10断面図である。
【図11】プレート部の成形用スリットを拡大した正面図である。
【符号の説明】
【0036】
10…医療用チューブ、11…外周部、12…隔壁部、13a,13b,13c,13d…流路、14a,14b,14c…スリット、20…押出成形用金型、21…金型本体、22…ピン、23…ランド部、24…プレート部、24a…成形用スリット、26a,27a,28a…凹部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の傷部から排液を排出したり、患者の傷部に薬液を供給したりするために用いられる医療用チューブを成形するための医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者の傷部に溜まる排液を排出するために医療用チューブが用いられている。そして、このような医療用チューブの中に、シリコーンの成形体で構成され、基端側部分が円筒状に形成され、患者の傷部に留置される先端側部分が中心軸を挟んで区分けされた複数の流路に形成されたものがある。また、この医療用チューブの先端側部分には、各流路を形成する壁部のうちの外周側部分をそれぞれ軸方向に沿って切り欠くことによってスリットが形成されている。このスリットを設けることによって医療用チューブの開口部分を大きくして効率的に排液を吸引することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この医療用チューブ(傷部ドレンカテーテル)の先端側部分の断面形状は、リング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路を形成し、そのリング状部分の各片間に対応する部分を切り欠いてスリットを形成することにより四つの流路をそれぞれ外部に連通させた形状や、リング状の内面にリング状の中心から三方に延びる片の各先端部をそれぞれ連結して三つの流路を形成し、そのリング状部分の各片間に対応する部分を切り欠いてスリットを形成することにより三つの流路をそれぞれ外部に連通させた形状に形成されている。
【0004】
また、前述したような従来の医療用チューブを製造する場合には、例えば、断面形状が、リング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路が形成されたチューブを押出成形により形成し、そのリング状部分の各片間に対応する部分を加工処理により切り欠いてスリットを設けることにより医療用チューブを形成したり、直接押出成形によりスリットを備えた医療用チューブを成形したりすることが行われている。
【特許文献1】特公平2−17185号公報
【発明の開示】
【0005】
しかしながら、従来の医療用チューブの製造方法のうち、加工処理によりスリットを形成する場合には、製造工程が増えコストが高くなるという問題がある。また、押出成形により一度で最終形状の医療用チューブを成形する場合には、成形用材料が軟質樹脂であれば、一般に押出成形用金型の金属製スリーブとの滑りが悪いため、例えば真空サイジング法により成形することは困難である。また、軟質であってもシリコーン樹脂(非熱可塑性樹脂)の場合は、粘度が高く、押出成形用金型の成形用空間の形状に近い形状に容易に成形できるが、軟質ポリウレタンや軟質ポリ塩化ビニルのような軟質熱可塑性樹脂からなる成形用材料を用いた場合には、シリコーン樹脂と同様の従来の押出成形方法では成形を行うことはできない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、その目的は、軟質の熱可塑性樹脂を用いて複雑な形状の医療用チューブの成形が行える医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法を提供することである。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る医療用チューブの押出成形用金型の構成上の特徴は、軟質の熱可塑性樹脂からなり内部に軸部を挟んで複数の流路が形成された医療用チューブを成形するための医療用チューブの押出成形用金型であって、一方から他方に貫通する凹部が形成された金型本体と、金型本体の凹部内に設置され凹部の内周面との間に軟質の熱可塑性樹脂からなる成形用材料を通過させる先細り円筒状の後部側成形空間部を形成するピンと、ピンの先端部を構成し、凹部の内周面における先端側部分との間に医療用チューブを形成するための断面形状を備えた先端側成形空間部を形成するランド部とを備え、凹部の先端側部分の内周面と、ランド部の表面とで形成される先端側成形空間部の断面形状のうち、先端部の断面形状を医療用チューブの断面形状と同じにし、後部側部分の断面形状を先端側成形空間部の先端部の断面形状と後部側成形空間部の先端部の断面形状との中間の形状にしたことにある。
【0008】
前述のように構成した本発明に係る医療用チューブの押出成形用金型では、金型本体の凹部の先端側部分の内周面と、ピンの先端部を構成するランド部の表面とで形成される先端側成形空間部の断面形状のうち、後部側部分の断面形状を、先端側成形空間部の先端部の断面形状である医療用チューブの断面形状と後部側成形空間部の先端部の断面形状であるリング状の形状との中間の形状にしている。このため、成形用材料を、従来のように金型本体の凹部とピンとの間に形成された後部側成形空間部のリング状の断面形状から直接医療用チューブの断面形状に変形させるのではなく、一旦リング状の断面形状から医療用チューブの断面形状に近い中間の形状に変形させたのちに、再度中間形状から最終形状である医療用チューブの断面形状に変形させることができる。
【0009】
これによって、一度の変形による形状の変化を小さくすることができ、成形用材料の金型に対する滑りが多少悪くとも複雑な形状の医療用チューブを精度よく成形することができる。なお、押出成形用金型から押し出された医療用チューブは押出成形用金型の外部で多少引き伸ばされる。このため、本発明における医療用チューブの断面形状と同じにした先端側成形空間部の先端部の断面形状の大きさは、医療用チューブの断面形状よりもやや大きくなる。
【0010】
また、本発明に係る医療用チューブの押出成形用金型の他の構成上の特徴は、後部側成形空間部から移動してくる成形用材料の外側に沿った面を形成する外面形成用凹部を備えたプレート部を、金型本体における凹部の先端側に設置して、ランド部の一部をプレート部の外面形成用凹部内の所定位置に伸ばし、ランド部のプレート部内に位置する部分で、成形される医療用チューブに周面が閉塞された流路を形成できるようにするとともに、プレート部の外面形成用凹部とランド部のプレート部内に位置する部分とで形成される空間部を後部側成形空間部の先端部としたことにある。
【0011】
この医療用チューブの押出成形用金型では、金型本体の先端面に、医療用チューブの外側に沿った面を形成する外面形成用凹部を備えたプレート部を設け、このプレート部の外面形成用凹部内(軸方向の前方)にランド部の一部を伸ばしている。このため、医療用チューブが備える複数の流路のうちの所定の流路を両端部以外の周面を閉塞した形状に形成することができる。この場合のプレート部の外面形成用凹部内に伸ばすランド部の一部は複数であってもよい。
【0012】
これによると、周面が閉塞された流路を医療用チューブに複数形成することができる。なお、医療用チューブの所定部分にスリットを設けてそのスリットが設けられた流路を外部に連通させる場合には、ランド部の所定の部分を外周方向に突出させてプレート部の外面形成用凹部の所定の部分に接触させるか、または外面形成用凹部の内周面との間に成形用材料が進入できない僅かな隙間を形成させることにより、その部分にスリットを形成することができる。したがって、すべての流路にスリットを設ける場合には、プレート部を設けなくてもよくなる。
【0013】
また、本発明に係る医療用チューブの押出成形用金型のさらに他の構成上の特徴は、先端側成形空間部の後部側部分の断面形状をリング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路を形成した形状にし、先端側成形空間部の先端部の断面形状をリング状部分の所定部分を切り欠いて四つの流路のうちの少なくとも一つの流路を外部に連通させた形状にしたことにある。これによると、スリットが設けられた異形チューブを一度の押出成形で成形できるため、成形後に、加工処理によってスリットを設ける必要がなくなる。この結果、製造工程を減少でき製造コストの低減化も図れる。なお、この場合のリング状部分を切り欠いて形成されるスリットは、1個の流路だけに設けてもよいし2個〜4個の複数の流路に設けてもよい。
【0014】
また、本発明に係る医療用チューブの押出成形方法の構成上の特徴は、前述した押出成形用金型を用いて医療用チューブを成形する医療用チューブの押出成形方法であって、金型本体の凹部内にピンを設置して形成される先細り円筒状の後部側成形空間部内に軟質の熱可塑性樹脂からなる成形用材料を通過させて成形用材料を円筒状に形成する円筒形成工程と、先端側成形空間部の後部側部分で、円筒形成工程で形成された成形用材料の断面形状をリング状と医療用チューブの断面形状との中間の形状に形成する中間形状形成工程と、先端側成形空間部の先端部で、中間形状形成工程で形成された成形用材料の断面形状を医療用チューブの断面形状に形成する最終形状形成工程とを備えたことにある。
【0015】
このように構成した医療用チューブの押出成形方法は、成形用材料を円筒状に形成する円筒形成工程と、円筒状の成形用材料の断面形状をリング状と医療用チューブの断面形状との中間の形状に形成する中間形状形成工程と、中間形状形成工程で形成された成形用材料の断面形状を医療用チューブの断面形状に形成する最終形状形成工程とを備えている。このため、成形用材料の断面形状は、金型本体の凹部とピンとの間に形成された後部側成形空間部のリング状の断面形状から、一旦医療用チューブの断面形状に近い中間の形状に変形したのちに、中間形状から最終形状の医療用チューブの断面形状に変形する。これによって、成形用材料の一度の変形による形状の変化を小さくすることができ、成形用材料の金型に対する滑りが悪くとも複雑な形状の医療用チューブを精度よく成形することができる。
【0016】
また、本発明に係る医療用チューブの押出成形方法の他の構成上の特徴は、中間形状形成工程で形成される成形用材料の断面形状をリング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路を形成した形状にし、最終形状形成工程で形成される成形用材料の断面形状をリング状部分の所定部分を切り欠いて四つの流路のうちの少なくとも一つの流路を外部に連通させた形状にしたことにある。これによると、スリットが設けられた異形チューブを一度の押出成形で成形できるため、成形後に、加工処理によってスリットを設ける必要がなくなる。また、本発明によると製造工程を減少でき製造コストの低減化も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法を図面を用いて説明する。図1は、同実施形態によって形成された医療用チューブ10を示している。この医療用チューブ10は、外形が略円筒状に形成されたポリウレタンからなる成形体で構成されており、略円筒状の外周部11と、外周部11の内部に軸方向に沿って形成された断面形状が十字状の隔壁部12とで構成されている。隔壁部12を構成する各片の先端部はそれぞれ外周部11の内面に連結されて、外周部11の内部を四つの流路13a,13b,13c,13dに区分している。そして、外周部11における流路13a,13b,13cに対応する部分にそれぞれ流路13a,13b,13cを外部に連通させるためのスリット14a,14b,14cが、それぞれ隔壁部12の中心軸と平行に形成されている。
【0018】
このように構成された医療用チューブ10は、ポリウレタンからなる軟質の熱可塑性樹脂材料を、図2に示した押出成形用金型20を用いて成形される。この押出成形用金型20は、金型本体21と、金型本体21内に設置されたピン22と、ピン22の先端部を構成するランド部23と、金型本体21の先端部に設けられたプレート部24とを備えている。金型本体21は、後部側(図2の左側)に配置された略矩形のブロック体からなりその後端面中央から前端面中央に向って貫通する断面形状が円形のピン保持孔25aを備えたピンホルダ部25と、ピンホルダ部25の前側に配置され内部にピン22の前部側部分を収容する凹部26aが形成されたブッシングホルダ部26とを備えている。
【0019】
そして、ブッシングホルダ部26の内部にブッシング27が設置され、ブッシング27の前側にブッシング28が設置されている。ブッシングホルダ部26に形成された凹部26aは、ピン保持孔25aの直径よりもやや大きな直径の略円柱形の空間部に形成されている。そして、その凹部26aの後端側部分の上部には、ピンホルダ部25の上面に形成された材料入口29から延びてくる材料通路29aが連通している。また、ブッシングホルダ部26の内部におけるやや前部側部分には、前面がやや小さな開口に形成された2段状のブッシング取り付け用の凹部が形成されこの凹部の奥側(後部側)にブッシング27が設置されている。
【0020】
このブッシング27の後端面中央から前端面中央にかけては、後部側が大径で前部側が小径になった円錐台状の凹部27aが形成されており、この凹部27aの後端部の直径は凹部26aの直径と同一に設定されている。そして、ブッシングホルダ部26のブッシング取り付け用の凹部の前部側にブッシング27よりも小さな矩形のブッシング28が前部側をブッシングホルダ部26から突出させた状態で設置されている。ブッシング28の後端面中央から前端面中央にかけては、小径円柱状の凹部28aが形成されており、この凹部28aの直径は凹部27aの前端部の直径と同一に設定されている。また、ピン保持孔25a、凹部26a、凹部27aおよび凹部28aは中心軸がそれぞれ同一線上に位置するように配置されている。
【0021】
ピン22は、ピンホルダ部25のピン保持孔25a内に固定された円柱状の被固定部22aと、被固定部22aの前端から前方に向かって延び被固定部22aよりも直径がやや大きく、軸方向の長さが短い円柱状のストレート部22bと、ストレート部22bの前端から前方に向かって延び前端側が徐々に細くなった円錐台状のテーパ部22cと、ランド部23とで構成されている。そして、ストレート部22bの外周面とブッシングホルダ部26の凹部26aの内周面との間およびテーパ部22cの外周面とブッシング27の凹部27aの内周面との間には、成形用材料が移動するための隙間が形成されており、この隙間で本発明の後部側成形空間部が構成される。
【0022】
また、ピン22の先端部を構成するランド部23は、図3および図4に示したようにしてテーパ部22cの先端部に設けられており、図5ないし図7に示したように4本の棒状体で構成されている。すなわち、ランド部23の基端側(後端側)部分は、図6に示したように、断面形状が扇形の4つの棒状成形部23a,23b,23c,23dで構成されており、この4つの棒状成形部23a,23b,23c,23dは、外周部を略円形にするとともに、内部に医療用チューブ10の隔壁部12と同形の十字形の隙間を形成するようにして軸方向に平行に配置されている。
【0023】
このランド部23の基端側部分は、ブッシング28の凹部28a内における後部側部分配置されており、ランド部23の基端側部分の外周面を結ぶ円形部分と凹部28aの内周面との間には、医療用チューブ10の外周部11と略同じ厚さの円筒状の隙間(実際には、隙間の厚さよりも医療用チューブ10の厚さの方がやや小さくなっている。)が形成されている。そして、この隙間で本発明の先端側成形空間部の後部側部分が構成される。また、ランド部23の先端側部分の断面形状は、図7に示したように、棒状成形部23a,23b,23cの外周面における円弧状部分の中央にそれぞれ突起31a,31b,31cを設けた形状に形成されている。
【0024】
突起31a,31b,31cは、それぞれ後端部が棒状成形部23a,23b,23cの外周面から徐々に幅を広げながら前方に向って高く(棒状成形部23a,23b,23cの外周面から離れる方向)なっていく傾斜部で構成されており、傾斜部の先端部から一定の高さを保って棒状成形部23a,23b,23cの前端部まで延びている。また、棒状成形部23dの外周面には突起は設けられてなく、棒状成形部23dの軸方向の長さは、図5に示したように、他の棒状成形部23a,23b,23cよりも長くなっている。
【0025】
そして、棒状成形部23dの前端面にはピン22の後部側から延びてくるエア吐出用孔32の先端部が開口している。このエア吐出用孔32の先端側部分32aは、後部側部分32bよりも細く形成されており、図8は、テーパ部22c内に形成されたエア吐出用孔32の後部側部分32bを示している。また、ランド部23の先端側部分における棒状成形部23dの先端の突出した部分以外の部分は、ブッシング28の凹部28a内における前部側部分に配置されており、ランド部23の先端側部分と凹部28aの内周面との間には、医療用チューブ10の端面と同形の隙間が形成されている。すなわち、突起31a,31b,31cの先端面は、それぞれ凹部28aの内周面に接触するか、または、凹部28aの内周面との間に成形用材料が進入できない僅かな隙間を形成しており、突起31a,31b,31cが位置する部分で、スリット14a,14b,14cが形成される。
【0026】
プレート部24は、図9および図10に示したように、円板状に形成されており、その中央部に厚み方向に貫通する成形用スリット24aが形成され、外周側部分に円周に沿って一定間隔で厚み方向に貫通する3個のボルト挿通穴33a,33b,33cが形成されている。成形用スリット24aは、図11に示したように、医療用チューブ10の端面形状から流路13dに対応する部分を除去した形状に形成されている。そして、このプレート部24は、成形用スリット24aにおける医療用チューブ10の流路13dに対応する部分(図11における右下部分における周縁部から一定距離を保った部分)に、ランド部23の棒状成形部23dの先端部を位置させた状態でボルト(図示せず)を介してブッシング28の前面に固定されている。
【0027】
このとき、プレート部24の後面中央部は、それぞれ棒状成形部23a,23b,23cおよび突起31a,31b,31cの先端面に当接するか、または、その先端面との間に成形用材料が進入できない僅かな隙間を形成した状態になる。これによって、プレート部24の中央部には、成形用スリット24aと棒状成形部23dとで構成される医療用チューブ10の端面と同形の空間部が形成される。そして、この空間部と、前述したランド部23の先端側部分と凹部28aの内周面との間の隙間とで本発明の先端側成形空間部の先端部が構成される。
【0028】
また、プレート部24の厚みと、棒状成形部23dの突出した先端部の長さとは同じ長さに設定され、棒状成形部23dの先端面がプレート部24の前面と同一面上に位置するようにしている。なお、図示していないが、押出成形用金型20が取り付けられる押出成形装置には、押出成形用金型20と押出成形装置とをつなぎ、材料入口29から材料通路29a側に成形用材料を送り込むアダプタ、材料入口29に送り込む成形用材料を加熱する加熱シリンダー、加熱シリンダー内に設置されたスクリュー、押出成形用金型20の周辺に設けられた各装置を制御する制御装置等、押出成形用金型20を用いて押出成形を行うために必要な各装置や機構が備わっている。
【0029】
このように構成された押出成形用金型20を用いて、医療用チューブ10を成形する場合には、まず、押出成形用金型20を適正温度に加熱にしたのちに、材料投入口(図示せず)に投入した成形用材料を加熱シリンダーで加熱しながらスクリューで送り出して、アダプタを介して材料通路29a内に充填する。ついで、さらに成形用材料を送り出して、成形用材料を材料通路29aから後部側成形空間部内に移動させていく。このとき、成形用材料は、ブッシングホルダ部26の凹部26aの内周面とストレート部22bの外周面との間の隙間で円筒状に形成され、さらにブッシング27の凹部27aの内周面とテーパ部22cの外周面との間の隙間を通過する間に成形用材料は徐々に直径の小さな円筒状に変形していく。
【0030】
そして、成形用材料は、ブッシング27の凹部27aの内周面とテーパ部22cの外周面との間の隙間からブッシング28の凹部28aの内周面とランド部23の基端側部分の外周面とで形成される先端側成形空間部内の後部側部分に移動していく。これによって、円筒状の成形用材料は、円筒体の内部に十字形の隔壁部12が形成された形状に変形する。さらに、成形用材料が先端側成形空間部内の後部側部分から前方に移動して、ブッシング28の凹部28aの内周面とランド部23の先端側部分との間の隙間に入ると、医療用チューブ10と同じに形状に変形する。
【0031】
そして、成形用材料は、その形状を維持したままプレート部24の成形用スリット24aから外部に押し出されたのちに冷却され医療用チューブ10が得られる。この押出成形の際、成形用材料は、適度な温度に加熱されて材料通路29aからプレート部24の成形用スリット24aに移動するまでに徐々に変形していくため、無理なく成形されていく。そして、得られた医療用チューブ10は寸法精度が良好な成形品になる。
【0032】
以上のように、本実施形態に係る医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法では、材料入口29から材料通路29a内に投入された成形用材料を、後部側成形空間部内で円筒状に形成したのちに、直接医療用チューブ10の形状に変形させるのではなく、一旦円筒状から円筒状の内部に隔壁部12を形成した形状に変形させるようにしている。そして、その円筒状と医療用チューブ10の形状との中間の形状に変形させたのちに最終形状である医療用チューブ10の形状に変形させるようにしている。
【0033】
これによって、成形用材料の形状を徐々に変化させることができ、成形用材料の押出成形用金型20の各部分に対する滑りが多少悪くとも複雑な形状の医療用チューブ10を精度よく成形することができる。また、スリット14a,14b,14cが設けられた医療用チューブ10を一度の押出成形で成形できるため、成形後に、加工処理によってスリットを設ける必要がなくなる。この結果、製造工程を減少でき製造コストの低減化も図れる。
【0034】
また、本発明に係る医療用チューブの押出成形用金型および押出成形方法は、前述した実施形態に限定するものでなく、本発明の技術範囲内で適宜変更が可能である。例えば、前述した実施形態では、医療用チューブ10に三つのスリット14a,14b,14cを形成しているが、このスリットを外周部11における流路13dに対応する部分にも設けて、すべての流路13a,13b,13c,13dが外部と連通するようにしてもよい。また、医療用チューブ10に形成するスリットを一つまたは二つにしてもよい。さらに、医療用チューブに形成する流路も四つに限らず他の複数にしてもよい。また、医療用チューブの形状も前述した実施形態の形状に限らず適宜変更することができる。さらに、医療用チューブを構成する軟質の熱可塑性樹脂についてもポリウレタンに限らずポリ塩化ビニル等の他の材料を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態により成形された医療用チューブを示した斜視図である。
【図2】押出成形用金型の断面図である。
【図3】ピンの先端側部分を示した側面図である。
【図4】ピンの先端側部分を示した断面図である。
【図5】ランド部を拡大した側面図である。
【図6】図3の6−6断面図である。
【図7】図3の7−7断面図である。
【図8】図3の8−8断面図である。
【図9】プレート部の正面図である。
【図10】図9の10−10断面図である。
【図11】プレート部の成形用スリットを拡大した正面図である。
【符号の説明】
【0036】
10…医療用チューブ、11…外周部、12…隔壁部、13a,13b,13c,13d…流路、14a,14b,14c…スリット、20…押出成形用金型、21…金型本体、22…ピン、23…ランド部、24…プレート部、24a…成形用スリット、26a,27a,28a…凹部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質の熱可塑性樹脂からなり内部に軸部を挟んで複数の流路が形成された医療用チューブを成形するための医療用チューブの押出成形用金型であって、
一方から他方に貫通する凹部が形成された金型本体と、
前記金型本体の凹部内に設置され前記凹部の内周面との間に前記軟質の熱可塑性樹脂からなる成形用材料を通過させる先細り円筒状の後部側成形空間部を形成するピンと、
前記ピンの先端部を構成し、前記凹部の内周面における先端側部分との間に前記医療用チューブを形成するための断面形状を備えた先端側成形空間部を形成するランド部とを備え、
前記凹部の先端側部分の内周面と、前記ランド部の表面とで形成される前記先端側成形空間部の断面形状のうち、先端部の断面形状を前記医療用チューブの断面形状と同じにし、後部側部分の断面形状を前記先端側成形空間部の先端部の断面形状と前記後部側成形空間部の先端部の断面形状との中間の形状にしたことを特徴とする医療用チューブの押出成形用金型。
【請求項2】
前記後部側成形空間部から移動してくる前記成形用材料の外側に沿った面を形成する外面形成用凹部を備えたプレート部を、前記金型本体における前記凹部の先端側に設置して、前記ランド部の一部を前記プレート部の外面形成用凹部内の所定位置に伸ばし、前記ランド部のプレート部内に位置する部分で、成形される医療用チューブに周面が閉塞された流路を形成できるようにするとともに、前記プレート部の外面形成用凹部と前記ランド部のプレート部内に位置する部分とで形成される空間部を前記後部側成形空間部の先端部とした請求項1に記載の医療用チューブの押出成形用金型。
【請求項3】
前記先端側成形空間部の後部側部分の断面形状をリング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路を形成した形状にし、前記先端側成形空間部の先端部の断面形状を前記リング状部分の所定部分を切り欠いて前記四つの流路のうちの少なくとも一つの流路を外部に連通させた形状にした請求項1または2に記載の医療用チューブの押出成形用金型。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載の医療用チューブの押出成形用金型を用いて医療用チューブを成形する医療用チューブの押出成形方法であって、
前記金型本体の凹部内に前記ピンを設置して形成される先細り円筒状の後部側成形空間部内に前記軟質の熱可塑性樹脂からなる成形用材料を通過させて前記成形用材料を円筒状に形成する円筒形成工程と、
前記先端側成形空間部の後部側部分で、前記円筒形成工程で形成された成形用材料の断面形状をリング状と前記医療用チューブの断面形状との中間の形状に形成する中間形状形成工程と、
前記先端側成形空間部の先端部で、前記中間形状形成工程で形成された成形用材料の断面形状を前記医療用チューブの断面形状に形成する最終形状形成工程と
を備えたことを特徴とする医療用チューブの押出成形方法。
【請求項5】
前記中間形状形成工程で形成される前記成形用材料の断面形状をリング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路を形成した形状にし、前記最終形状形成工程で形成される前記成形用材料の断面形状を前記リング状部分の所定部分を切り欠いて前記四つの流路のうちの少なくとも一つの流路を外部に連通させた形状にした請求項4に記載の医療用チューブの押出成形方法。
【請求項1】
軟質の熱可塑性樹脂からなり内部に軸部を挟んで複数の流路が形成された医療用チューブを成形するための医療用チューブの押出成形用金型であって、
一方から他方に貫通する凹部が形成された金型本体と、
前記金型本体の凹部内に設置され前記凹部の内周面との間に前記軟質の熱可塑性樹脂からなる成形用材料を通過させる先細り円筒状の後部側成形空間部を形成するピンと、
前記ピンの先端部を構成し、前記凹部の内周面における先端側部分との間に前記医療用チューブを形成するための断面形状を備えた先端側成形空間部を形成するランド部とを備え、
前記凹部の先端側部分の内周面と、前記ランド部の表面とで形成される前記先端側成形空間部の断面形状のうち、先端部の断面形状を前記医療用チューブの断面形状と同じにし、後部側部分の断面形状を前記先端側成形空間部の先端部の断面形状と前記後部側成形空間部の先端部の断面形状との中間の形状にしたことを特徴とする医療用チューブの押出成形用金型。
【請求項2】
前記後部側成形空間部から移動してくる前記成形用材料の外側に沿った面を形成する外面形成用凹部を備えたプレート部を、前記金型本体における前記凹部の先端側に設置して、前記ランド部の一部を前記プレート部の外面形成用凹部内の所定位置に伸ばし、前記ランド部のプレート部内に位置する部分で、成形される医療用チューブに周面が閉塞された流路を形成できるようにするとともに、前記プレート部の外面形成用凹部と前記ランド部のプレート部内に位置する部分とで形成される空間部を前記後部側成形空間部の先端部とした請求項1に記載の医療用チューブの押出成形用金型。
【請求項3】
前記先端側成形空間部の後部側部分の断面形状をリング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路を形成した形状にし、前記先端側成形空間部の先端部の断面形状を前記リング状部分の所定部分を切り欠いて前記四つの流路のうちの少なくとも一つの流路を外部に連通させた形状にした請求項1または2に記載の医療用チューブの押出成形用金型。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載の医療用チューブの押出成形用金型を用いて医療用チューブを成形する医療用チューブの押出成形方法であって、
前記金型本体の凹部内に前記ピンを設置して形成される先細り円筒状の後部側成形空間部内に前記軟質の熱可塑性樹脂からなる成形用材料を通過させて前記成形用材料を円筒状に形成する円筒形成工程と、
前記先端側成形空間部の後部側部分で、前記円筒形成工程で形成された成形用材料の断面形状をリング状と前記医療用チューブの断面形状との中間の形状に形成する中間形状形成工程と、
前記先端側成形空間部の先端部で、前記中間形状形成工程で形成された成形用材料の断面形状を前記医療用チューブの断面形状に形成する最終形状形成工程と
を備えたことを特徴とする医療用チューブの押出成形方法。
【請求項5】
前記中間形状形成工程で形成される前記成形用材料の断面形状をリング状の内面に十字形の片の各先端部をそれぞれ連結して四つの流路を形成した形状にし、前記最終形状形成工程で形成される前記成形用材料の断面形状を前記リング状部分の所定部分を切り欠いて前記四つの流路のうちの少なくとも一つの流路を外部に連通させた形状にした請求項4に記載の医療用チューブの押出成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−155571(P2008−155571A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349617(P2006−349617)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000228888)日本シャーウッド株式会社 (170)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000228888)日本シャーウッド株式会社 (170)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]