説明

半導体ウェーハの搬送装置および搬送方法

【課題】ペルティエ素子を用いた、新たな半導体ウェーハの搬送装置を提供する。
【解決手段】平板のリング状に形成されたペルティエ素子12と、ペルティエ素子12の下面に固定された絶縁板からなるリング状の保持板14と、ペルティエ素子12の上面に固定された絶縁材からなる筒状のヒートシンク16と、ヒートシンク16の上面側を閉塞する蓋体18と、蓋体18で閉塞されたチャンバー20内の空気を排除する吸引装置29と、ヒートシンク16に形成された熱媒体回路30と、熱媒体回路30に熱媒体を供給する送液部37と、ペルティエ素子12へ通電する通電装置15と、蓋体18に連携され、蓋体18とともに、ヒートシンク12等を移動させる移動機構38とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハの搬送装置および搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ製造の分野において、研磨面の両面化が進み、ローディング、アンローディング時のハンドリングにも非接触ハンドリングが求められている。ウェーハに非接触のものとして、いわゆるベルヌーイチャックを用いる方法がある(特開平8−203984号公報)。
このベルヌーイチャックを用いるものにあっては、ウェーハに非接触で搬送しうるため、高温のウェーハの搬送等に有効であった。
【0003】
【特許文献1】特開平8−203984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ベルヌーイチャックを用いる場合には、次のような解決すべき課題がある。
すなわち、
1.窒素ガスの流れにより生じる負圧を利用しているため、保持力が弱い。
2.ウェーハの位置決めのためピンやガイド等が必要で、ウェーハへのピンやガイドの機械的接触が不可避である。
3.大量の窒素ガスの消費による騒音が発生する。
4.窒素ガスへのパーティクルの混入が避けられず、ウェーハ表面にパーティクルが付着し、後工程の、例えば研磨工程においてウェーハ表面の平坦な研磨が阻害される。
5.両面研磨装置のような、ウェーハがキャリア内に収められている状態では、そこからウェーハを取り出すことができない。したがって、両面研磨装置での、ウェーハのローディング、アンローディングには使用できなかった。
【0005】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、ペルティエ素子を用いた、新たな半導体ウェーハの搬送装置および搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る半導体ウェーハの搬送装置は、平板のリング状に形成されたペルティエ素子と、該ペルティエ素子の下面を覆って該下面に固定された絶縁板からなるリング状の保持板と、前記ペルティエ素子の上面を覆って該上面に固定された絶縁材からなる筒状のヒートシンクと、該ヒートシンクの上面側を閉塞する蓋体と、該蓋体で閉塞されたヒートシンク空間(以下、チャンバー)内の空気を排除する吸引装置と、前記ヒートシンクに形成された熱媒体回路と、該熱媒体回路に熱媒体を供給する送液部と、前記ペルティエ素子へ通電する通電装置と、前記蓋体に連携され、該蓋体とともに、ヒートシンク、ペルティエ素子、保持板を移動させる移動機構とを具備することを特徴とする。
【0007】
また、前記移動機構は、前記蓋体とともに、ヒートシンク、ペルティエ素子、保持板を上下動させる上下動機構および水平動させる水平動機構を含むことを特徴とする。
また、前記保持板および前記ヒートシンクはセラミックスで形成するとよい。
【0008】
また本発明に係る半導体ウェーハの搬送方法は、上記いずれかの半導体ウェーハの搬送装置を用いる半導体ウェーハの搬送方法であって、搬送すべきウェーハの表面上に液体を供給する工程と、該ウェーハ上に前記搬送装置を接近させ、搬送装置の保持板下面側をウェーハ表面に供給された液体の表面に当接させる工程と、前記送液部によりヒートシンクの熱媒体回路に熱媒体を供給しつつ前記通電装置によりペルティエ素子に通電し、前記液体を冷却して固化し、ウェーハを保持板に固定する工程と、前記吸引装置により、前記チャンバー内の空気を排除して、チャンバー内空間を負圧にする工程と、前記移動装置により、搬送装置を移動してウェーハを所望個所に搬送する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ペルティエ素子により液体(純水)を氷結させてウェーハを保持板に氷結力によって固定すると共に、密閉空間とされたヒートシンク内の空間(チャンバー)を負圧にすることによって、ウェーハを保持板に強力に保持することができる。
また、液体を固化(氷結)させることによってウェーハを保持するものであるため、完全な非接触による保持とは相違するが、ウェーハを保持する際、ウェーハが動くこともないので、従来のベルヌーイチャックの場合のようなピンやガイドでウェーハを機械的に保持する必要がない。また、液体に純水等のピュアーな液体を用いることによって、ウェーハにパーティクルの付着や汚染を生じさせることもなく、したがって、半導体ウェーハの両面研磨装置における、ウェーハのローディング、アンローディング等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の好適な実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は搬送装置10の概略を示す説明図である。
図1において、12は、公知の材料により平板のリング状に形成されたペルティエ素子である。ペルティエ素子12の大きさは、搬送すべきウェーハWよりも小さく、ドーナッツ状の孔明き板に形成されている。
【0011】
ペルティエ素子12の下面には、該下面側を覆ってセラミックス等の絶縁板からなるリング状の保持板14が固定されている。保持板14の固定には、適宜な接着剤を用いるとよい。15は通電装置であり、ペルティエ素子12に通電する。この通電装置15は、電流の方向を切り替える制御部(図示せず)が設けられている。
【0012】
また、ペルティエ素子12の上面を覆ってセラミックス等の絶縁材からなる筒状のヒートシンク16が固定されている。ヒートシンク16は、ペルティエ素子12と同一の大きさとするのがよい。このヒートシンク16の固定も適宜な接着剤を用いるようにする。ヒートシンク16の上面側は蓋体18によって閉塞され、これによりチャンバー20が形成される。
【0013】
蓋体18にはネジ孔22が形成され、このネジ孔22に管継手24が螺着され、管継手24にはパイプ26が接続され、パイプ26は負圧源28に接続され、これによりチャンバー20内の空気を排除して、空間20内を負圧にすることができるようになっている。管継手24、パイプ26、負圧源28等により吸引装置29が構成される。
【0014】
ヒートシンク16内には熱媒体が循環される熱媒体回路30が形成されている。熱媒体回路30には、循環パイプ32、循環ポンプ34によって、水道水等の熱媒体が循環される。36はタンクである。循環パイプ32、循環ポンプ34等によって送液部37が構成される。
【0015】
搬送装置10は、蓋体18に連携され、蓋体18とともに、ヒートシンク16、ペルティエ素子12、保持板14を移動させる移動機構38を含む。
40は、移動機構38の一部をなす上下動機構である。本実施の形態では、上下動機構40はシリンダ装置を用いている。すなわち、シリンダ装置40は、揺動アーム42上に固定され、そのロッド44下端に上下動盤45が固定され、上下動盤45は連結棹46を介して蓋体18に連結されている。
【0016】
したがって、シリンダ装置40によりロッド44を上下駆動することにより、蓋体18とともに、ヒートシンク16、ペルティエ素子12、保持板14を上下動させることができる。
また、揺動アーム42は、図2に示すように、回転軸48を中心として水平面内で往復回動するように構成されている。これによって、X位置(例えばウェーハW収納位置)においてウェーハWを保持し、Y位置(例えば研磨装置)まで搬送して放出したり、Y位置でウェーハを保持し、X位置まで搬送して放出したりすることができる。
【0017】
揺動アーム42、駆動モータ50等により水平動機構を構成する。なお、水平動機構は上記に限定されない。例えば水平動機構をシリンダ装置によって構成し、直線往復運動をさせるものであってもよい。
【0018】
次に、上記搬送装置10によって、ウェーハWを搬送する方法を説明する。
まず、ウェーハWの保持位置(例えばウェーハWの収納位置)において、ウェーハWの表面上にノズル52(図1)から凍結可能な液体(例えば純水)を供給する。これにより液体はウェーハW表面上に薄い膜を形成する。
【0019】
次いで、上記水平動機構および上下動機構を駆動させ、ウェーハW上に搬送装置10を接近させ、搬送装置10の保持板14下面側をウェーハW表面に供給され、薄い膜を形成した液体の表面に当接させる。
【0020】
次に、送液部37によりヒートシンク16の熱媒体回路30に熱媒体を供給しつつ通電装置15によりペルティエ素子12に通電し、液体を冷却して固化(氷結)し、ウェーハWを保持板14に固定する。ペルティエ素子12の高温側は熱媒体によって吸熱され、放熱される。液体が氷結することによって、ヒートシンク16内のチャンバー20は密閉空間となる。
【0021】
次いで、吸引装置29により、ヒートシンク16のチャンバー20内の空気を排除して、ヒートシンク16内空間を負圧にする。これにより、ウェーハWは、液体の氷結力およびチャンバー20内の負圧によって、完全に保持板14側に保持されることになる。このとき氷結が不充分であったり、ウェーハWとの距離が過大であった場合、チャンバー内の負圧が上昇しない。これを測定することで氷結と保持が確実に行われたかを判定することができる。
【0022】
次いで、上下動機構および水平動機構を駆動して、ウェーハWを上昇かつ水平方向に搬送し、所定の位置へ移動する。
通電装置15の制御部により通電方向を切替えてペルティエ素子12の高温側と低温側を反転させる。ペルティエ素子12は熱媒体から吸熱し、氷結した液体へ放熱することによってこれを溶解し、同時にチャンバー20内部を正圧にすることでウェーハWの保持を解放することができる。
【0023】
このように、本実施の形態では、ペルティエ素子12により液体(純水)を氷結させてウェーハWを保持板14に氷結力によって固定すると共に、密閉空間とされたヒートシンク16内のチャンバー20を負圧にすることによって、ウェーハWを保持板14に強力に保持することができる。
【0024】
本実施の形態では、液体を固化(氷結)させることによってウェーハWを保持するものであるため、完全な非接触による保持とは相違するが、ウェーハWを保持する際、ウェーハWが動くこともないので、従来のベルヌーイチャックの場合のようなピンやガイドでウェーハWを機械的に保持する必要がない。また、液体に純水等のピュアーな液体を用いることによって、ウェーハWにパーティクルの付着や汚染を生じさせることもなく、したがって、半導体ウェーハの両面研磨装置における、ウェーハのローディング、アンローディングに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】半導体ウェーハの搬送装置の概略の説明図である。
【図2】搬送装置の揺動アームの揺動を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
10 半導体ウェーハの搬送装置
12 ペルティエ素子
14 保持板
15 通電装置
16 ヒートシンク
18 蓋体
20 空間
22 ネジ孔
24 管継手
26 パイプ
28 負圧源
29 吸引装置
30 熱媒体回路
32 循環パイプ
34 循環ポンプ
36 タンク
37 送液部
38 移動機構
40 上下動機構(シリンダ装置)
42 揺動アーム
44 ロッド
45 上下動盤
46 連結棹
48 回転軸
50 駆動モータ
52 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板のリング状に形成されたペルティエ素子と、
該ペルティエ素子の下面を覆って該下面に固定された絶縁板からなるリング状の保持板と、
前記ペルティエ素子の上面を覆って該上面に固定された絶縁材からなる筒状のヒートシンクと、
該ヒートシンクの上面側を閉塞する蓋体と、
該蓋体で閉塞されたヒートシンク空間内の空気を排除する吸引装置と、
前記ヒートシンクに形成された熱媒体回路と、
該熱媒体回路に熱媒体を供給する送液部と、
前記ペルティエ素子へ通電する通電装置と、
前記蓋体に連携され、該蓋体とともに、ヒートシンク、ペルティエ素子、保持板を移動させる移動機構とを具備することを特徴とする半導体ウェーハの搬送装置。
【請求項2】
前記移動機構は、前記蓋体とともに、ヒートシンク、ペルティエ素子、保持板を上下動させる上下動機構および水平動させる水平動機構を含むことを特徴とする請求項1記載の半導体ウェーハの搬送装置。
【請求項3】
前記保持板および前記ヒートシンクがセラミックスで形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の半導体ウェーハの搬送装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載の半導体ウェーハの搬送装置を用いる半導体ウェーハの搬送方法であって、
搬送すべきウェーハの表面上に液体を供給する工程と、
該ウェーハ上に前記搬送装置を接近させ、搬送装置の保持板下面側をウェーハ表面に供給された液体の表面に当接させる工程と、
前記送液部によりヒートシンクの熱媒体回路に熱媒体を供給しつつ前記通電装置によりペルティエ素子に通電し、前記液体を冷却して固化し、ウェーハを保持板に固定する工程と、
前記吸引装置により、前記ヒートシンク空間内の空気を排除して、ヒートシンク空間内を負圧にする工程と、
前記移動装置により、搬送装置を移動してウェーハを所望個所に搬送する工程とを含むことを特徴とする半導体ウェーハの搬送方法。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−28318(P2008−28318A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202007(P2006−202007)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000236687)不二越機械工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】