説明

半導体モジュール及びその製造方法

【課題】表裏両面に電極を備えた半導体素子が発する熱に起因する応力による半導体モジュールの損傷を抑制する。
【解決手段】半導体モジュールは、放熱器と、配線パターンが形成され、表裏両面に電極を有する配線基板と、配線基板の所定面側に配置された半導体素子と、配線基板の所定面上に配置され、半導体素子と配線パターンとを接続するための配線部、および配線基板の周囲に位置する絶縁接合部を有する接合部と、前記半導体素子の所定面側に配置された電極配線と、前記放熱器に接着されることなく載置された絶縁層と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子と配線基板と放熱器を含む半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表裏両面に電極を備えた半導体素子が接合された配線基板と、放熱器(ヒートシンク)と、半導体素子と放熱器との間に配置された絶縁部材とが積層された多層構造の半導体モジュールが用いられている。放熱器として熱伝導性に優れる金属製部材(例えば、金属板)が用いられる場合において、絶縁部材は、放熱器と半導体素子との間の絶縁性を確保するために用いられ、例えば、セラミックスにより形成される。
【0003】
前述の半導体モジュールでは、導電性や熱伝導性を向上させるために各部材間を密着させることが求められる。そこで、各部材同士を接着剤等により接着させる方法を採用した場合、各部材間で発生する応力によって半導体モジュールが破損するおそれがある。これは、半導体素子の発する熱により半導体モジュール全体が高温となった場合に顕著であり、例えば、接着された部材同士の熱膨張率が互いに異なる場合や、接着された部材同士に温度分布が存在する場合に起こり得る。
【0004】
そこで、加圧専用の板状部材(加圧部材)と放熱器とで配線基板および絶縁部材を挟み、加圧部材と放熱器をボルトによって締結し、更に弾性部材を設けることで、温度サイクルによってクラックが発生しても接続状態が維持できる半導体モジュールが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−287833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した技術では、温度サイクルによる半田部分のクラックの発生を押えることは出来ていないという問題があった。さらに、上述した技術では、各部材に加え加圧部材を用いていることから、半導体モジュールの大型化を招くという問題があった。
【0007】
本発明は、表裏両面に電極を備えた半導体素子が発する熱に起因する応力による半導体モジュールの損傷を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]半導体モジュールであって、
放熱器と、
配線パターンが形成された配線基板と、
前記配線基板の所定面側に配置され、表裏両面に電極を有する半導体素子と、
前記配線基板の前記所定面上に配置され、前記半導体素子と前記配線パターンとを接続するための配線部、および前記配線部の周囲に位置する絶縁接合部を有する接合部と、
前記半導体素子の所定面側に配置された電極配線と、
前記放熱器に接着されることなく載置された絶縁層と
を備える、半導体モジュール。
【0010】
適用例1の半導体モジュールによると、放熱器と絶縁層とを互いに接着されることなく接して配置できるので、ある構成部材の変形に追従した他の構成部材の変形が生じることがない。それゆえ、半導体素子と電極配線との接合界面において大きな応力が生じることがなく、接続箇所の損傷を抑制できる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の半導体モジュールにおいて、さらに、
前記配線基板と前記接合部と前記半導体素子と前記電極配線と前記絶縁層と前記放熱器とを含む積層体の積層方向に沿って配置され、前記配線基板と前記放熱器とを締結する締結部を備える、半導体モジュール。
【0012】
このような構成により、積層方向に沿って配置された締結部により配線基板と放熱器とが締結されているので、例えば、積層方向と垂直な方向(各構成要素における他の構成要素と当接する面に沿った方向)に沿って配置され、配線基板を押圧する板状部材等を用いる必要がないので、半導体モジュールを小型化することができる。加えて、締結部により配線基板と放熱器とを締結するので、各構成要素を密着させることができ、放熱器と絶縁層とを互いに接着されることなく接して配置されていたとしても、導電性や熱伝導性を大幅に低減させない、つまり維持することができる。
【0013】
[適用例3]適用例2に記載の半導体モジュールにおいて、さらに、前記配線基板と前記接合部と前記絶縁層とを、それぞれ前記積層方向に貫通するネジ収容部と、前記放熱器に形成され、前記ネジ収容部と連通するネジ穴と、を備え、前記締結部材は、前記ネジ収容部に収容され、前記ネジ穴と係合するネジであり、前記ネジ収容部の収容面には、前記ネジと接する熱伝導性部材が配置されている、半導体モジュール。
【0014】
このような構成により、半導体素子から発せられ、配線基板や接合部や絶縁層を通ってネジ収容部の収容面に至った熱を、熱伝導性部材を介してネジに伝えることができる。したがって、ネジ収容部の収容面に至った熱を、ネジを通って放熱部に導くことができるので、半導体モジュール全体の放熱性を向上させることができる。
【0015】
[適用例4]適用例3に記載の半導体モジュールにおいて、前記熱伝導性部材は、前記収容面において前記配線基板から前記絶縁層に至るまで延び、前記放熱器と接する、半導体モジュール。
【0016】
このような構成により、配線基板や接合部や絶縁層を通ってネジ収容部の収容面に至った熱を、熱伝導性部材を介して放熱器に導くことができ、半導体モジュール全体の放熱性を向上させることができる。
【0017】
[適用例5]適用例4に記載の半導体モジュールにおいて、前記熱伝導性部材は、前記ネジに比べて高い熱伝導性を有する、半導体モジュール。
【0018】
このような構成により、ネジ収容部の収容面の熱のうち、より多くの熱を、熱伝導性部材を介して放熱器やネジに伝えることができる。
【0019】
[適用例6]適用例2ないし適用例5のいずれかに記載の半導体モジュールにおいて、
前記配線基板は多層構造であり、前記積層方向とは異なる方向に伸び、前記締結部と接する放熱層を有する、半導体モジュール。
【0020】
このような構成により、配線基板内に放熱層を設けるので、半導体素子から発せられた熱を放熱層で受けて締結部に導き、締結部を介して放熱器に伝えることができる。したがって、半導体モジュール全体の放熱性を向上させることができる。また、配線基板において、放熱層を介して半導体素子の配置されている側と反対側に熱が伝わることを抑制できるので、この反対側に低発熱電子部品(制御用半導体素子やコンデンサ等)を接合したとしても、低発熱電子部品の昇温を抑制できる。さらに、低発熱電子部品を含めたモジュール全体として、小型化を図る事ができる。
【0021】
[適用例7]適用例1ないし適用例6のいずれかに記載の半導体モジュールにおいて、
前記絶縁接合部は、無機系材料で形成されている、半導体モジュール。
【0022】
このような構成により、絶縁接合部の高温耐性を向上させることができる。
【0023】
[適用例8]適用例1ないし適用例7のいずれかに記載の半導体モジュールにおいて、
前記配線パターンは、
前記配線基板において前記接合部と接触する面に配置された第1の表面配線と、
前記配線基板において前記接合部と接触する面の反対面に配置された第2の表面配線と、
前記配線基板内において前記積層方向に伸び、前記第1の表面配線と前記第2の表面配線とを接続する配線と、
を有する、半導体モジュール。
【0024】
このような構成により、第2の表面配線と電気的に接続されるように配線基板に電子部品が接合された場合に、この電子部品と半導体素子との間を比較的短い距離で接続することができる。したがって、配線に起因する寄生インダクタンスを低減させることができる。
【0025】
[適用例9]多層構造を有する半導体モジュールの製造方法であって、
(a)配線パターンが形成された配線基板を製造する工程と、
(b)半導体素子と前記配線パターンとを接続するための配線部と、前記配線部の周囲に位置する絶縁接合部と、を有する接合部を、前記配線基板の所定面に配置する工程と、
(c)前記半導体素子を前記接合部に接合する工程と、
(d)前記半導体素子が接合された前記接合部および前記配線基板を、電極配線を含む電極配線層に載置する工程と、
(e)前記電極配線層を、絶縁層に載置する工程と、
(f)前記絶縁層を、接着することなく放熱器に載置する工程と、
を備える、半導体モジュールの製造方法。
【0026】
適用例9の半導体モジュールの製造方法によると、放熱器と絶縁層とを互いに接着されることなく接して配置できるので、ある構成部材の変形に追従した他の構成部材の変形が生じることがない。それゆえ、半導体素子と電極配線等の、各部材間の接合界面において大きな応力が生じることがなく、接続箇所の損傷による電気的、熱伝導的な断裂を抑制できる。
【0027】
[適用例10]適用例9に記載の半導体モジュールの製造方法において、さらに、
(g)前記配線基板と前記接合部と前記半導体素子と前記電極配線層と前記絶縁層と前記放熱器とを含む積層体の積層方向に沿って締結部材を配置して、前記締結部材を用いて前記配線基板と前記放熱器とを締結する工程を備える、半導体モジュールの製造方法。
【0028】
このような構成により、積層方向に沿って配置された締結部により配線基板と放熱器とが締結されているので、例えば、積層方向と垂直な方向(各構成要素における他の構成要素と当接する面に沿った方向)に沿って配置され、配線基板を押圧する板状部材等を用いる必要がないので、半導体モジュールを小型化することができる。加えて、締結部により配線基板と放熱器とを締結するので、各構成要素を密着させることができ、放熱器と絶縁層とを互いに接着されることなく接して配置されていたとしても、導電性や熱伝導性を大幅に低減させない、つまり維持することができる。
【0029】
[適用例11]適用例10に記載の半導体モジュールの製造方法において、
前記工程(g)は、加熱しながら、前記半導体素子と前記電極配線とを導電性の接合部材を介して接合する工程を含む、半導体モジュールの製造方法。
【0030】
このような構成により、密着しているが接合していない半導体素子と電極配線間の導電性の接合部材が溶融、接合されることで接合強度が向上し、電気的な接続信頼性を向上させることができる。
【0031】
[適用例12]適用例10または適用例11に記載の半導体モジュールの製造方法であって、さらに、(h)前記配線基板と前記接合部と前記絶縁層とを、それぞれ厚み方向に貫通するネジ収容部の収容面に、熱伝導性部材を配置する工程を備え、前記放熱器は、前記ネジ収容部と連通するネジ穴を有し、前記工程(g)は、前記締結部材としてのネジを、前記熱伝導性部材に接するように前記ネジ収容部に収容し、前記ネジ穴と係合させる工程を含む、半導体モジュールの製造方法。
【0032】
このような構成により、半導体素子から発せられ、配線基板や接合部や絶縁層を通ってネジ収容部の収容面に至った熱を、熱伝導性部材を介してネジに伝えることができる。したがって、ネジ収容部の収容面に至った熱を、ネジを通って放熱部に導くことができるので、半導体モジュール全体の放熱性を向上させることができる。
【0033】
[適用例13]適用例10または適用例11に記載の半導体モジュールの製造方法において、前記工程(a)は、前記配線基板において、前記配線基板を厚み方向に貫通する第1の貫通孔と前記第1の貫通孔に充填された熱伝導性基材とから構成される第1のネジ収容部形成部を形成する工程を含み、前記工程(b)は、前記接合部において、前記接合部を厚み方向に貫通する第2の貫通孔と前記第2の貫通孔に充填された熱伝導性基材とから構成される第2のネジ収容部形成部を形成する工程を含み、前記工程(d)は、前記電極配線層において、前記電極配線層を厚み方向に貫通する第3の貫通孔と前記第3の貫通孔に充填された熱伝導性基材とから構成される第3のネジ収容部形成部を形成する工程を含み、前記工程(e)は、前記絶縁層において、前記絶縁層を厚み方向に貫通する第4の貫通孔と前記第4の貫通孔に充填された熱伝導性基材とから構成される第4のネジ収容部形成部を形成する工程を含み、
さらに、前記配線基板と前記接合部と前記半導体素子と前記電極配線層と前記絶縁層とを積層する工程を含み、
前記工程(g)は、前記第1ないし第4のネジ収容部形成部に充填されている各前記熱伝導性基材に、前記積層方向に沿って延び、前記ネジと係合するネジ山を形成する工程を含む、半導体モジュールの製造方法。
【0034】
このような構成により、半導体素子から発せられ、配線基板や接合部や絶縁層を通ってネジ収容部の収容面に至った熱を、各熱伝導性部材を介してネジに伝えることができる。したがって、ネジ収容部の収容面に至った熱を、ネジを通って放熱部に導くことができるので、半導体モジュール全体の放熱性を向上させることができる。加えて、ネジ収容部に充填された各熱伝導性部材にネジ山が形成された後にネジを収容するので、半導体モジュールの完成後においてネジが緩んだ場合に、ネジを締め直すことができる。
【0035】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、半導体モジュールを搭載した電力変換装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例としての半導体モジュールの構成を示す断面図。
【図2】第1実施例における半導体モジュールの製造方法の手順を示すフローチャート。
【図3】図2に示す配線基板の作製処理の詳細処理手順を示すフローチャート。
【図4】図2に示す外装配線パターン作製処理の詳細手順を示すフローチャート。
【図5】図2に示す接合部作製処理の手順を示すフローチャート。
【図6】図2に示す組み立て処理の詳細手順を示すフローチャート。
【図7】ステップS405における半導体素子の載置工程を模式的に示す説明図。
【図8】第2実施例における半導体モジュールの構成を示す断面図。
【図9】第3実施例における半導体モジュールの構成を示す断面図。
【図10】第4実施例の半導体モジュールの構成を示す断面図。
【図11】第4実施例における組み立て処理の手順を示すフローチャート。
【図12】第5実施例の配線基板作製処理の手順を示すフローチャート。
【図13】第5実施例の外装配線パターン作製処理の手順を示すフローチャート。
【図14】第5実施例の接合部作製処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0037】
A.第1実施例:
A1.半導体モジュールの構成:
図1は、本発明の一実施例としての半導体モジュールの構成を示す断面図である。この半導体モジュール100は、いわゆるパワーモジュールであり、自動車における電力制御等に用いられる。半導体モジュール100は、配線基板10と、複数の半導体素子30と、接合部20と、電極配線層35と、放熱器50と、絶縁層40と、複数のネジ19と、を備えている。半導体モジュール100は、各構成要素(ネジ19を除いた、配線基板10,複数の半導体素子30,接合部20,電極配線層35,放熱器50,絶縁層40)が積層された多層構造を有している。具体的には、放熱器50の上には絶縁層40が配置され、絶縁層40の上には電極配線層35が配置され、電極配線層35の上には半導体素子30と接合部20が配置され、接合部20の上には配線基板10が配置され、ネジ19によって配線基板10と放熱器50とが締結されている。なお、配線基板10の上には、低発熱部品200が積層され得る。低発熱部品200は、半導体素子30に比べて発熱量が低い電子部品であり、例えば、制御用半導体素子やコンデンサ等が該当する。
【0038】
配線基板10は、セラミックス層11と、制御回路用配線12と、主電力ストレートビア13と、上部表面配線14と、下部表面配線15と、第1絶縁接合部16と、ネジ収容部17と、放熱層18とを備えている。
【0039】
セラミックス層11は、セラミックス材料により形成されている。セラミックス材料としては、例えば、酸化アルミナ(Al23)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si34)などを採用し得る。制御回路用配線12は、セラミックス層11内部に形成された配線であり、制御用信号(半導体素子30駆動用の信号)の伝送等に用いられる。主電力ストレートビア13は、セラミックス層11を厚み方向(積層方向)に貫通する導電性部材であり、上部表面配線14と下部表面配線15とを電気的に接続する。下部表面配線15は、セラミックス層11の表面のうち、接合部20と接する表面(以下、「第1表面」と呼ぶ)に配置されている。上部表面配線14は、セラミックス層11の表面のうち、低発熱部品200が接合され得る面(以下、「第2表面」と呼ぶ)に配置されている。第1絶縁接合部16は、絶縁性の無機系材料を主成分としたガラス組成物で形成されており、第2表面において上部表面配線14の周囲に配置されている。なお、上述したセラミックス内部に形成される制御回路用配線12や主電力ストレートビア13の基材としては、例えば、銀や銅、タングステンやモリブデンなどの任意の導電性材料を採用することが望ましい。さらに、セラミックス層11との同時焼成が可能な導電性材料を採用することができる。表面配線14,15では上述の制御回路用配線12と同様の材料を採用しても良いし、セラミックス層11と、制御回路用配線12と、主電力ストレートビア13とからなる多層配線基板を同時焼成した後に、銀や銅やニッケルやアルミニウム等の導電性材料をめっきや印刷等の別プロセスで形成しても良い。なお、図1では、配線基板10と接合部20との接合界面において、表面配線15の層厚に対応する段差が形成されるように記載されているが、実際は、表面配線15は薄膜状に形成されており、配線基板10と接合部20との接合界面に、図示するような段差はほとんど生じない。または、配線基板10と接合部20との接合界面に、段差に対応した形状を有する段差を解消するための段差補正層を接合部20と同種の材料により形成してもよい。よって、以降、本明細書、図面では、下部表面配線15の記載を省略して記載することがある。
【0040】
ネジ収容部17は、第1絶縁接合部16とセラミックス層11と接合部20と電極配線層35と絶縁層40を貫く長孔であり、ネジ19を収容する。ネジ収容部17の収容面は、熱伝導性に優れる材料により被覆されている。かかる材料としては、例えば、銀や銅やニッケルやアルミニウム等を採用することができる。後述するように、ネジ収容部17は、半導体素子30から発せされる熱の放熱経路の一部を形成している。そこで、半導体モジュール100では、ネジ収容部17の収容面を熱伝導性に優れる材料により被覆することにより、放熱性を向上させている。被覆方法としては、高熱伝導性材料を含むペーストをネジ収容部17の収容面に塗布したり、高熱伝導性材料をネジ収容部17の収容面にめっきする方法を採用することができる。なお、ネジ収容部17の少なくとも一部にネジ山を形成することもできる。
【0041】
放熱層18は、セラミックス層11内部において、セラミックス層11と平行に配置されている。放熱層18は、熱伝導性に優れる任意の材料で形成することができ、例えば、上述の制御回路用配線12や主電力ストレートビア13の基材と同様に、銀や銅、タングステン、モリブデンなどのセラミックス層との同時焼成が可能な任意の導電性材料を採用することができる。放熱層18には、図示しない複数の貫通口が設けられており、制御回路用配線12及び主電力ストレートビア13は、かかる貫通口に配置されているため、半導体素子30とは電気的に未接続であり、放熱層は電気配線に対し関与しない構成となっている。また放熱層18の縁部の一部は、ネジ収容部17の収容面およびネジ19と接しており、配線基板10の内部からの連続した放熱経路を形成する事ができる。
【0042】
半導体素子30は、電力用半導体素子(パワーデバイス)であり、パワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)や、ダイオード(ショットキーバリアダイオード等)などを採用することができる。半導体素子30は、下部表面配線15および後述の電極配線と電気的に接続される。なお、実際には、半導体素子30は、バンプ(突起状金属端子)を介して接合され、下部表面配線15および後述の電極配線と電気的に接続されるが、図1では、バンプを省略している。
【0043】
接合部20は、配線部21と第2絶縁接合部22とを備えている。配線部21は、下部表面配線15と半導体素子30とを接続する。配線部21の基材としては、上述したバンプと熱処理により相互拡散し一体化する導電性基材で形成することができる。かかる導電性基材としては、例えば、導電性を有する金属(例えば、銅、銀、錫、アルミニウムなど)を主成分する基材を採用してもよい。配線基板10と第2絶縁接合部22、および、半導体素子30と第2絶縁接合層22とは、拡散接合により接合され、配線基板10と第2絶縁接合部22、および、半導体素子30と第2絶縁接合層22との間に、拡散接合時に形成される拡散層を備えると好ましい。接合面で発生する原子の拡散により拡散層が形成されると、配線基板10と第2絶縁接合部22、および、半導体素子30と第2絶縁接合層22との接合強度を向上できる。第2絶縁接合部22は、配線基板10と半導体素子30との間における配線部21を除く他の部分と、半導体素子30の周囲とに配置されている。第2絶縁接合部22は、絶縁性材料で形成されており、半導体素子30と配線基板10との間の絶縁性を確保する。本実施例では、第2絶縁接合部22は、絶縁性の無機系材料を主成分とし、半導体素子の実装時の加熱工程により軟化する粉末ガラスにより形成されている。粉末ガラスは、例えば、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ビスマスなどから形成される。
【0044】
電極配線層35は、電極配線36と、第3絶縁接合部37とを備えている。電極配線36は、半導体素子30および主電力ストレートビア13と接続されている。第3絶縁接合部37は、電極配線36の周囲に配置されている。第3絶縁接合部37は、絶縁性材料で形成されており、電極配線36と配線基板10との間の絶縁性を確保する。なお、本実施例では、第3絶縁接合部37は、第2絶縁接合部22と同じ基材により形成されている。また、第3絶縁接合部37が、第2絶縁接合部22と異なる基材の場合、第3絶縁接合部37と接合部20との接合界面に、接合部分の段差に対応した接合部20と同種の材料による段差補正層を設けてもよい。段差補正部は、第2絶縁接合部22の一部として構成されてもよい。
【0045】
放熱器50は、半導体素子30と熱的に接続され、半導体素子30の熱を吸収して放出する。放熱器50は、筐体52内部にフィン51が形成された構成を有している。本実施例では、筐体52およびフィン51の基材として、熱伝導性に優れる金属(例えば、銅やアルミニウムやモリブデン等)を採用する。筐体52は、ネジ山が形成されたネジ穴53を備えており、かかるネジ穴53においてネジ19と係合する。筐体52には、図示しない開口が設けられており、この開口を利用して、フィン51からの放熱により温められた冷媒と、筐体52外部の冷媒とが交換される。
【0046】
絶縁層40は、電極配線層35と放熱器50との間に配置されている。絶縁層40は、絶縁性基材により形成されており、半導体素子30と放熱器50との間の絶縁性および電極配線36と放熱器50との間の絶縁性を確保する。本実施例では、絶縁層40の基材として上述したセラミックス材料を採用する。絶縁層40と放熱器50とは、互いに接着されることなく密着されている。このように接着されることなく密着されているのは、以下の理由による。絶縁層40の基材(セラミックス)と放熱器50の基材(金属)とは互いに熱膨張率が異なるため、絶縁層40と放熱器50とが接着されていると、半導体素子30の熱により半導体モジュール100が高温となった際に絶縁層40と放熱器50との間もしくは、放熱器50の変形に追従して生じる絶縁層40および電極配線層35(特に、半導体素子30と接して配置される電極配線36)の変形に起因した半導体素子30と電極配線層35(電極配線36)との接合界面において大きな応力が発生し得る。これに対して、絶縁層40と放熱器50とが接着されずに接して配置されていると、絶縁層40又は放熱器50は、絶縁層40と放熱器50の界面で滑る(ずれる)ことができるので、絶縁層40と放熱器50との接合界面に発生し得る応力ならびに絶縁層40および電極配線層35(電極配線36)の変形とそれに起因する絶縁層40と電極配線層35(電極配線36)との接合界面に発生し得る応力の発生を抑制し、また、発生する応力を低減できるので、絶縁層40および放熱器50の破損、ならびに絶縁層40の変形とそれに起因する絶縁層40と半導体素子30の破損を抑制できるからである。なお、本実施例において「接合」とはバンプなどの導電接合材を介して、半導体素子30と表面配線15が熱溶融等により、一体化して固着されることを意味するのに対し、「密着」とは、上述したように、絶縁層40および放熱器50の界面での滑り(ずれ)を許容しつつ、絶縁層40および放熱器50が互いに接して配置されていることを意味する。
【0047】
ネジ19は、ネジ収容部17およびネジ穴53に収容され、配線基板10と接合部20と電極配線層35と絶縁層40とを、これらの各構成要素の積層方向(以下、単に「積層方向」とも呼ぶ)に沿って貫いて、配線基板10と放熱器50とを所定の締結力で締結する。なお、ネジ19の頭部は、配線基板10における低発熱部品200が接合され得る面に当接している。このように、ネジ19を用いて配線基板10と放熱器50とを所定の締結力で締結しているのは、各層(構成要素)同士を密着させて、導電性や熱伝導性を向上させると共に、絶縁層40と放熱器50との間において応力が発生した場合であっても、各層の変形や界面剥離を抑制できるからである。
【0048】
また、ネジ19は、熱伝導性の優れる基材により形成されている。このような基材としては、銅やアルミニウムやモリブデンなどを採用することができる。また、例えば、ステンレスを基材として銅やアルミニウム等で表面をめっきしたネジを、ネジ19として採用することもできる。後述するように、ネジ19は、前述のネジ収容部17の収容面と同様に、半導体素子30から発せされる熱の放熱経路の一部を形成している。そこで、半導体モジュール100では、ネジ19を熱伝導性の優れる基材により形成することにより、放熱性を向上させている。
【0049】
A2.放熱経路:
図1では、半導体素子30から発せられた熱の放熱経路を、太い実線の矢印で例示している。図1に示すように、半導体モジュール100における放熱経路には、図1に示す2つの経路(経路R1および経路R2)が含まれる。経路R1は、電極配線層35(または電極配線36)および絶縁層40を介して放熱器50に至る経路である。経路R2は、第2絶縁接合部22およびセラミックス層11を介して放熱層18に至り、放熱層18に沿ってネジ収容部17の収容面およびネジ19に至り、ネジ収容部17,ネジ穴53およびネジ19を介して放熱器50に至る経路である。図1では、最も左の半導体素子30についてのみ放熱経路を例示したが、他の半導体素子30についても同様な2つの放熱経路が存在する。
【0050】
このように、第1実施例の半導体モジュール100では、セラミックス層11に放熱層18を設けて、放熱層18,ネジ収容部17およびネジ19を経由して放熱器50に至る放熱経路を形成することにより、放熱性を向上させると共に、放熱層18から上部側(低発熱部品200が配置される側)への熱の伝わりを抑制するようにしている。それゆえ、低発熱部品200への熱の伝導を抑制し、低発熱部品200の昇温を抑制できる。
【0051】
なお、上述したネジ19は、請求項における締結部に相当する。また、ネジ収容部17は請求項における貫通孔に、第2絶縁接合部22は請求項における絶縁接合部に、下部表面配線15は請求項における第1の表面配線に、上部表面配線14は請求項における第2の表面配線に、制御回路用配線12および主電力ストレートビア13は請求項における第1の表面配線と第2の表面配線とを接続する配線に、それぞれ相当する。
【0052】
A3.半導体モジュール100の製造方法:
図2は、第1実施例における半導体モジュールの製造方法の手順を示すフローチャートである。まず、配線基板10の作製処理(ステップS100)が実行される。この処理では、セラミックス層11や、セラミックス層11内部の配線(制御回路用配線12や主電力ストレートビア13、放熱層18)が形成される。
【0053】
図3は、図2に示す配線基板の作製処理の詳細処理手順を示すフローチャートである。セラミックス材料と有機バインダとを含むスラリーを、ドクターブレード法などによるキャスティングによりシート状に成型し(ステップS105)、かかるシートを定型の金型により打ち抜くことで(ステップS110)、焼成前のセラミックス生シート(グリーンシート)を複数成型する。
【0054】
各グリーンシートの表面の所定位置に配線パターン(制御回路用配線12又は放熱層18を形成する配線パターン)を印刷する(ステップS115)。レーザ照射等による掘削加工により、各グリーンシートの所定位置にビアホールおよびネジ収容部17用の孔(ネジ収容ホール)を形成する(ステップS120)。印刷加工により、ステップS120で形成されたビアホールに導電材料を充填する(ステップS125)。各グリーンシートを仮積層した上で(ステップS130)、所定の圧力を加えて本圧着させる(ステップS135)。グリーンシートの積層体を加熱して脱脂した後に焼成する(ステップS140)。このようにして、配線基板10が作製される。
【0055】
図2に示すように、ステップS100の後、外装配線パターン作製処理が実行される(ステップS200)。この処理では、ステップS100で作製された配線基板10の表面に上部表面配線14および下部表面配線15が形成される。
【0056】
図4は、図2に示す外装配線パターン作製処理の詳細手順を示すフローチャートである。図4では、各工程の右に、各工程の処理結果を模式的に示している。まず、配線基板10の積層方向の2つの表面に、めっき用触媒の核付が行われる(ステップS205)。具体的には、めっきの触媒となる部材(例えば、パラジウム等)から成る薄い層を、配線基板10の表面に形成する。この薄い層の形成は、吹き付けやスパッタ等により実現できる。
【0057】
核付が行われた2つの層にレジスト層を形成する(ステップS210)。レジスト層の形成は、例えば、ドライフィルムレジストを貼り合わせる(ラミネートする)ことにより実現できる。次に、上部表面配線14および下部表面配線15が形成される位置を露光(ステップS215)し、現像することで(ステップS220)、上部表面配線14および下部表面配線15が形成される位置を除く他の部分をマスクする(パターニングする)ことができる。次に、パターニングしたレジスト層をめっきレジストとして用いて電解めっき(例えば、銅めっき)を行い、上部表面配線14および下部表面配線15の位置に導電層を形成し(ステップS225)、その後、レジストを剥離する(ステップS230)。次に、配線基板10の表面をスパッタすることにより、ステップS205で表面配線15が不要なめっき非形成部に形成された導電性のめっき触媒層を取り除き、上部表面配線14および下部表面配線15を形成する(ステップS235)。なお、上述したステップS210〜S235の処理は、配線パターンのスクリーン印刷,乾燥,焼付けの処理で代替することができる。
【0058】
図2に示すように、ステップS200の後、接合部作製処理が実行される(ステップS300)。この処理では、第1絶縁接合部16および接合部20が形成される。
【0059】
図5は、図2に示す接合部作製処理の手順を示すフローチャートである。図5では、図4と同様に、各工程の右に、各工程の処理結果を模式的に示している。まず、後述する拡散接合処理における加熱により軟化する粉末ガラスと、熱分解性の有機結着剤とを、有機溶媒や水などの溶媒を用いて形成されたスラリーが、ドクターブレード法によるシートキャスティング、もしくは、押し出し成型等の方法によりシート状に成形され、乾燥されることにより、ガラス層が作製される(ステップS305)。粉末ガラスとして、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化鉛、酸化ビスマスなどから形成される粉末ガラスを利用できる。また、ガラスシート層には、フィラーとしてアルミナ等のセラミックス粉末材料が配合されても良い。なお、後述するように、本実施例では、厚さの異なる3種類のガラス層が形成される。次に、各ガラス層において、配線部21または第1絶縁接合部16を収容するためのビアと、半導体素子30または低発熱部品200を収容するためのパターン(ビア)を形成する(ステップS310)。これらのビアの形成は、前述のステップS110と同様の、定型の金型による打ち抜き、もしくはステップS120と同様の、レーザ照射等の掘削加工により実現できる。なお、このステップS310の処理では、ネジ収容部17を形成するネジ収容ホールについても形成されるが、説明の便宜上、図示及び説明を省略する。
【0060】
前述のステップS310でビアの形成されたガラス層を、ガラス層に含まれる有機バインダの軟化点以上(例えば、80℃程度の温度)の温度で加熱プレスすることで配線基板10に貼り付ける(ステップS315)。この処理では、まず、配線基板10の積層方向の一方の表面(上述の第2表面)に、配線部21を収容するためのビアの形成されたガラス層(以下、「配線用ガラス層」と呼ぶ)を貼り付け、次に、配線基板10の積層方向の他方の表面(上述の第1表面)に第1絶縁接合部16を収容するためのビアの形成されたガラス層を貼り付け、次に、半導体素子30を収容するためのビアが形成されたガラス層(以下、「チップ収容ガラス層」と呼ぶ)を貼り付ける。
【0061】
ステップS315の後、配線部21の基材のペーストをスクリーン印刷することにより配線部21のパターンを作製して(ステップS320)、乾燥させることで(ステップS325)、第1絶縁接合部16および接合部20が形成される。ペーストは、金属を主成分としており、例えば、アルミニウム金属や酸化銀、銅、ナノ金属、ハンダ合金のような、後述する拡散接合により溶融する金属種と、熱分解性の有機結着剤とを、有機溶媒や水などの溶媒を用いて混練することにより形成される。当該有機接着剤は熱処理時に分解、除去される。なお、配線部21のパターンの作製方法は、スクリーン印刷に限られず、例えば、ディスペンサーによる吐出等の他の方法を採用してもよい。
【0062】
図2に示すように、ステップS300の後、組み立て処理が実行される。この処理により、配線基板10と他の構成要素(電極配線層35や絶縁層40や放熱器50)とが組み付けられる。
【0063】
図6は、図2に示す組み立て処理の詳細手順を示すフローチャートである。まず、表裏両面に電極を持つ半導体素子30の該当する一面を配線基板10に載置し(ステップS405)、リフローを行って半導体素子30と配線部21とを接合する(ステップS410)。
【0064】
図7は、ステップS405における半導体素子の載置工程を模式的に示す説明図である。図7において、上段は、半導体素子30が載置される際の配線基板10と半導体素子30とを表わし、下段は、半導体素子30の載置箇所の拡大図を表わす。なお、図7では、ネジ19を省略している。
【0065】
図7上段に示すように、半導体素子30の電極表面には、バンプ31が形成されている。なお、半導体素子30において、バンプ31が形成された面とは反対の面にも電極ならびに接続用のバンプが形成されているが、図示を省略している。接合部20(第2絶縁接合部22)は、半導体素子30が載置される位置に、半導体素子30を収容するための凹部23を備えている。凹部23の底には、配線部21が露出している。図7上段に示すように、半導体素子30が凹部23に収容され、バンプ31と配線部21とが接触し、リフロー(ステップS415)により加熱されることで、バンプ31を介して半導体素子30と配線部21とが電気的に接合され、かつ第2絶縁接合部22と半導体素子30も熱融着し、配線部21と第2絶縁接合部22からなる接合部20を介して、半導体素子30と配線基板10が接合される。
【0066】
図7下段に示すように、凹部23の底には、バンプ31を収容する窪み22cが形成されている。配線部21の一端は、窪み22cに露出している。図7下段に示すように、第2絶縁接合部22は、半導体素子収容部22aと、配線部収容部22bとを備えている。半導体素子収容部22aは、前述の接合部作製処理のステップS315において貼り付けられたチップ収容ガラス層により形成される。配線部収容部22bは、前述の接合部作製処理のステップS315において貼り付けられた配線用ガラス層により形成される。
【0067】
図6に示す半導体素子30の載置(ステップS405)およびリフロー(ステップS410)が終了すると、半導体素子30の接合状態を検査し(ステップS415)、接合が正常であるか否かの判定が行われる(ステップS420)。半導体素子30の接合が異常であった場合には(ステップS420:NO)、半導体素子30の取外しおよび再接合等のリペアが実行され(ステップS430)、ステップS405に戻る。
【0068】
前述のステップS420において、半導体素子30の接合が正常であったと判定されると(ステップS420:YES)、放熱基板を作成する(ステップS425)。放熱基板とは、電極配線層35と絶縁層40とからなり、放熱器50と接する積層体を意味する。換言すると、放熱基板とは、放熱器50と接する配線形成された絶縁基板を意味する。
【0069】
放熱基板の作製は、具体的には以下の通りである。まず、絶縁層40を形成するセラミックス材料からなる薄板状部材(以下、「セラミックス薄板状部材」と呼ぶ)を作製する。なお、セラミックス薄板状部材には、ネジ収容部17aを形成する孔が設けられている。次に、セラミックス薄板状部材上に電極配線36用のパターンを前述のセラミックス多層基板への外装パターンの作製処理におけるステップS205〜S235の工程と同様に作製する。電極配線36が配置される位置にビアが形成されたガラス層を作製し、セラミックス薄板状部材に貼り付ける。かかるガラス層の作製は、前述の接合部作製処理におけるステップS305およびS310と同様の工程により実現できる。なお、このガラス層には、ネジ収容部17aを形成する孔が設けられている。このようにして、絶縁層40上に電極配線層35が形成された放熱基板が作製される。
【0070】
放熱基板が作製されると、放熱基板および放熱器50を、配線基板10(および接合部20,半導体素子30)に取り付ける(ステップS435)。具体的には、まず、配線基板10(および接合部20,半導体素子30)を放熱基板に載置し、さらに、配線基板10が載置された放熱基板を、接着することなく放熱器50に載置する。ネジ19をネジ収容部17およびネジ穴53に収容し、加熱しながらネジ19をネジ穴53に係合させ、配線基板10と放熱器50とを所定の締結力で締結させる。
【0071】
上述のように放熱基板を接着することなく放熱器50に載置するのは、以下の理由による。放熱器50と放熱基板(絶縁層40)との間の熱膨張係数率の相違により、放熱器50と放熱基板(絶縁層40)との間の変形量(温度変化に伴う変形量)が相違するため、この変形量の差に起因して応力が発生し得る。しかしながら、放熱基板を接着することなく放熱器50に載置することにより、放熱器50と放熱基板(絶縁層40)とを互いに接着されることなく接して配置させることができるので、放熱器50と絶縁層40との変形量の差に起因する応力の発生を抑制し、また、応力を低減させることができる。それゆえ、半導体素子30と電極配線層35(電極配線36)との接合界面において大きな応力が生じることを抑制できるので、接続箇所の損傷を抑制できるからである。
【0072】
なお、本実施例では、ネジ19による締結の際の加熱温度は、半導体素子30の許容可能温度以下であり、かつ、第2絶縁接合部22の基材であるガラス組成物の軟化温度以上、ならびに半導体素子30における配線基板10と接合された面の反対面に形成されたバンプ(図示は省略)の融点以上に設定されている。なお、軟化温度としては、半導体素子30の放熱により達成される温度(例えば、300℃)よりも高い温度(例えば、600℃)に設定される。換言すると、半導体素子30の放熱により達成される温度よりも高い温度を軟化温度とする材料を、第2絶縁接合部22の基材として用いることができる。半導体素子30における導電性の接合部材(例えば接続用のバンプや電極)と電極配線層35とが接触し、加熱されることで、導電性の接合部材を介して半導体素子30と電極配線層35とが電気的に接合される。このような工程を経ることで配線基板10に接合された半導体素子30と電極配線層35(電極配線36)との電気的な接続信頼性が向上する。
【0073】
以上の工程が実行されると、半導体モジュール100が完成する。その後、低発熱部品200を半導体モジュール100に接合することができる。具体的には、例えば、低発熱部品200がバンプを有する半導体素子である場合には、かかるバンプと上部表面配線14とが接するように、半導体素子30を載置してリフローを行うことにより、バンプと上部表面配線14とを接合させることができる。
【0074】
以上の構成を有する第1実施例の半導体モジュール100では、絶縁層40と放熱器50とを接着せずに接して配置するので、絶縁層40と放熱器50との間の熱膨張係数率の相違に起因して絶縁層40と放熱器50とで変形量の差が生じても、この変形量の差に起因する応力の発生を抑制し、また、応力を低減させることができる。それゆえ、絶縁層40と放熱器50との接合界面および半導体素子30と電極配線層35(電極配線36)との接合界面における応力の発生を抑制できるので、接続箇所の損傷を抑制できる。
【0075】
加えて、ネジ19により配線基板10と放熱器50とを締結するので、配線基板10と放熱器50とに挟まれた各構成要素を接着することなく密着させることができ、導電性や熱伝導性を維持させることができる。また、ネジ19により配線基板10と放熱器50とを締結しており、ネジ19のほかに他の締結用の専用部材を用いないので、半導体モジュール100を小型化することができる。また、他の専用部材を用いないので、半導体モジュール100の製造コストの上昇を抑制できる。
【0076】
また、配線基板10の内部に放熱層18を設け、この放熱層18と、ネジ19およびネジ収容部17とを接触させるようにしているので、半導体素子30から発せられる熱の放熱経路として、放熱層18とネジ19とネジ収容部17とを介して放熱器50に至る放熱経路を形成することができる。したがって、半導体モジュール100の放熱性を向上させることができる。また、配線基板10の内部に放熱層18を設け、かつ、放熱層18を、セラミックス層11に比較して熱伝導性に優れる基材で形成しているので、半導体素子30から発せられた熱が、放熱層18を越えて低発熱部品200が配置されている側に伝わることを抑制できる。それゆえ、半導体素子30からの放熱により、低発熱部品200が昇温されることを抑制できる。
【0077】
また、ネジ19をセラミックス層11に比べて熱伝導性の優れる基材により形成し、ネジ収容部17の収容面をセラミックス層11に比べて熱伝導性に優れる材料により被覆するので、ネジ19およびネジ収容部17における熱伝導性を向上させ、半導体モジュール100全体の放熱性を向上させることができる。
【0078】
B.第2実施例:
図8は、第2実施例における半導体モジュールの構成を示す断面図である。第2実施例の半導体モジュール100aは、接合部20と電極配線層35と絶縁層40とが、放熱器50aの内部に配置され、配線基板10と放熱器50aとが当接している点と、ネジ収容部17aが、配線基板10のみを貫き、接合部20と電極配線層35と絶縁層40とを貫いていない点とにおいて、第1実施例の半導体モジュール100と異なり、他の構成は、半導体モジュール100と同じである。
【0079】
図8に示すように、第2実施例の筐体52aの周縁部の積層方向の長さは、第1実施例の筐体52の周縁部の積層方向の長さに比べて長く構成され、筐体52aの周縁部は、配線基板10に当接している。第2実施例における接合部20と電極配線層35と絶縁層40とは、第1実施例における接合部20と電極配線層35と絶縁層40とに比べて、面方向に小さく形成されている。
【0080】
以上の構成を有する第2実施例の半導体モジュール100aは、第1実施例の半導体モジュール100と同じ効果を有する。加えて、接合部20と電極配線層35と絶縁層40の各構成要素の作製過程において、ネジ収容部17aを形成する必要がないので、それら部材の成型プロセスを簡易化することができる。また、配線基板10と筐体52aとを当接させるので、放熱層18とネジ19とネジ収容部17aとを通る放熱経路(図1における経路R2に相当する経路)を短くすることができ、放熱性を向上させることができる。また、配線基板10と放熱器50aとを当接させるので、半導体モジュール100aの積層方向の長さを、第1実施例の半導体モジュール100の積層方向の長さに比べて短くすることができる。
【0081】
C.第3実施例:
図9は、第3実施例における半導体モジュールの構成を示す断面図である。第3実施例の半導体モジュール100bは、ネジ19,ネジ収容部17,ネジ穴53が省略されている点、およびかしめ部90を備えている点において、第1実施例の半導体モジュール100と異なり、他の構成は、半導体モジュール100と同じである。
【0082】
図9に示すように、かしめ部90は、半導体モジュール100bの周縁部において積層方向に沿って延び、半導体モジュール100bの端面に接して配置されている。かしめ部90の端部は、配線基板10における低発熱部品200が接合され得る面と、放熱器50の底面とに接し、配線基板10と放熱器50とを所定の締結力で積層方向にかしめる。かしめ部90は、熱伝導性に優れる基材により形成されており、例えば、第1,2実施例のネジ19と同様な基材により形成することができる。なお、かしめ部90の配置およびかしめ部90を用いた加締めの処理は、図6に示す組み立て処理のステップS435の処理において、ネジ19を用いた締結に代えて実行することができる。
【0083】
第3実施例において、放熱層18は、配線基板10の端面まで伸び、配線基板10の端面においてかしめ部90と接している。したがって、第3実施例では、半導体素子30から発せられた熱の放熱経路として、放熱層18とかしめ部90とを介して放熱器50に至る経路R21が形成されている。
【0084】
以上の構成を有する第3実施例の半導体モジュール100bは、第1実施例の半導体モジュール100と同じ効果を有する。加えて、ネジ収容部17およびネジ穴53を形成する工程を省略できるので、半導体モジュール100bの製造時間や製造コストを低減できる。なお、上述した各実施例からも理解できるように、積層方向に沿って配置され、配線基板と放熱器とを締結する任意の構成を有する部材を、本発明の締結部として採用することができる。
【0085】
D.第4実施例:
D1.半導体モジュールの構成:
図10は、第4実施例の半導体モジュールの構成を示す断面図である。この半導体モジュール100cは、ネジ収容部17及びネジ穴53に熱伝導性部材80が配置されている点において、図1に示す第1実施例の半導体モジュール100と異なり、他の構成は、第1実施例の半導体モジュール100と同じである。
【0086】
熱伝導性部材80は、ネジ19の表面とネジ収容部17の収容面(内壁面)との間、及びネジ19の表面とネジ穴53の収容面(内壁面)との間を埋めるように配置されている。換言すると、熱伝導性部材80は、ネジ収容部17の収容面及びネジ穴53の収容面において、ネジ19と接するように配置されている。熱伝導性部材80は、高い熱伝導性を有し、例えば、金属を基材として形成することができる、本実施例では、熱伝導性部材80は、銀を用いて形成されている。銀は、ネジ19の基材(銅やアルミニウムやモリブデン)よりも熱伝導性に優れている。なお、熱伝導性部材80の基材として、銀に代えて、銅やニッケルやアルミニウムなど、任意の金属を用いて形成することができる。
【0087】
このように、第4実施例では、ネジ収容部17の収容面及びネジ穴53の収容面において、ネジ19と接するように熱伝導性部材80を配置することにより、半導体素子30から発生し、配線基板10や接合部20や電極配線層35や絶縁層40に伝わる熱をより効率的に放熱器50に伝えることができる。つまり、配線基板10や接合部20や電極配線層35や絶縁層40を通ってネジ収容部17の収容面に至った熱を、かかる収容面(熱伝導性に優れる材料により被覆されている)に加えて、熱伝導性部材80を通って放熱器50の筐体52に伝えるようにしている。また、ネジ19の表面全体を、熱伝導性部材80と接するように構成することで、ネジ収容部17の収容面に至った熱のうち、多くの熱を、熱伝導性に優れるネジ19にも伝えるようにしている。
【0088】
D2.半導体モジュール100cの製造方法:
図11は、第4実施例における組み立て処理の手順を示すフローチャートである。第4実施例の組み立て処理は、ステップS432,S433,S434を追加して実施するにおいて、図6に示す第1実施例の組み立て処理と異なり、他の手順は、第1実施例と同じである。
【0089】
上述したステップS425が実行された後、熱伝導性部材80(熱伝導性部材80の基材)をネジ収容部17に充填する(ステップS432)。具体的には、例えば、ナノ銀ペースト(粒子径が数ナノから数十ナノメートルの銀粒子及び溶剤を含む比較的粘度の高いペースト)を、ディスペンサー等を用いてネジ収容部17に充填する。
【0090】
次に、ネジ19をネジ収容部17に収容する(ステップS433)。前述のステップS432によってネジ収容部17には熱伝導性部材80が充填されているため、ネジ19の挿入に伴って、ネジ収容部17におけるネジ19の挿入口から熱伝導性部材80が溢れ出る。そこで、この溢れ出た熱伝導性部材80を取り除く(ステップS434)。その後、前述のステップS435が実行される。なお、前述のステップS433においてネジ19はネジ収容部17に収容済みであるので、第4実施例におけるステップS435では、ネジ19のネジ収容部17への収容は省略して、ネジ19の先端をネジ穴53に係合させる。
【0091】
以上説明した第4実施例の半導体モジュール100cは、第1実施例の半導体モジュール100と同じ効果を有する。加えて、第4実施例の半導体モジュール100cでは、ネジ収容部17の収容面及びネジ穴53の収容面において、ネジ19と接するように熱伝導性部材80が配置されているので、配線基板10や接合部20や電極配線層35や絶縁層40を通ってネジ収容部17の収容面に至った熱を、熱伝導性部材80を介して筐体52に伝えることができる。したがって、半導体素子30から発生し、配線基板10や接合部20や電極配線層35や絶縁層40に伝わる熱をより効率的に放熱器50に伝えることができる。また、ネジ19の表面全面に亘って熱伝導性部材80と接触させるので、熱伝導性に優れるネジ19に対してもネジ収容部17から多くの熱を伝えることができる。このように、本実施例の構成を採用することにより、配線基板10や接合部20や電極配線層35や絶縁層40を通ってネジ収容部17の収容面に至った熱の放熱性を、向上させることができる。また、熱伝導性部材80をネジ19よりも熱伝導性に優れる材料で構成するので、ネジ収容部17の収容面の熱のうち、より多くの熱をネジ19又は筐体52に伝えることができる。
【0092】
なお、第1実施例の半導体モジュール100においても、ネジ収容部17の収容面は熱伝導性に優れる材料(以下、「被覆材料」と呼ぶ)で被覆されている。したがって、ネジ19においてネジ収容部17に位置することとなる部分にネジ山が設けられている構成では、ネジ19の表面は、被覆材料と接する。かかる構成では、被覆材料は、第4実施例における熱伝導性部材80と同様に、ネジ収容部17の収容面において、ネジ19と接するように配置されている。すなわち、第1実施例においても、ネジ収容部17の収容面に至った熱は、被覆材料を通って筐体52に至ると共に、被覆材料を介してネジ19に伝わることとなる。但し、第4実施例では、熱伝導性部材80においてネジ19の表面と熱的に接触する部分の面積は、第1実施例の被覆材料においてネジ19の表面と熱的に接触する部分の面積に比べて、大きい。したがって、ネジ収容部17の収容面に至った熱のうち、より多くの熱を、ネジ19に伝えることができる。
【0093】
E.第5実施例:
図12は、第5実施例の配線基板作製処理の手順を示すフローチャートである。図13は、第5実施例の外装配線パターン作製処理の手順を示すフローチャートである。図14は、第5実施例の接合部作製処理の手順を示すフローチャートである。
【0094】
第5実施例の半導体モジュールは、ネジ収容部17及びネジ穴53への熱伝導性部材80の配置方法において、第4実施例の半導体モジュール100cと異なり、装置構成は、第4実施例の半導体モジュール100cと同じである。上述した第4実施例では、熱伝導性部材80は、配線基板10と接合部20と半導体素子30とが積層された状態でネジ収容部17に充填されていたが、第5実施例では、予め、各層においてネジ収容部17を形成する貫通孔に熱伝導性材料を充填しておき、各層を積層しネジ孔(ネジの一部分を収容するための貫通孔)を形成することにより、熱伝導性部材80をネジ収容部17に配置する。
【0095】
具体的には、図12に示すように、ステップS120を実行した後に、ビアホール及びネジ収容ホール(グリーンシートを厚み方向に貫通する貫通孔)に導電材料(銀や銅、タングステンやモリブデンなど)を充填する(ステップS125a)。
【0096】
図13に示すように、第5実施例の外装配線パターン作製処理は、ステップS235に代えて、ステップS235aが実行される点において、第1実施例の外装配線パターン作製処理と異なり、他の処理は第1実施例と同じである。なお、図13では、第1実施例とは異なり、ネジ収容部17に相当する部分が明らかになるように図示している。
【0097】
具体的には、第5実施例の外装配線パターン作製処理では、ステップS230(レジスト剥離)が実行された後、配線基板10の表面のうち、ネジ収容部17に相当する位置を除く他の部分についてスパッタ(部分的なスパッタ)を行って、めっき触媒層を取り除く(ステップS235a)。この処理の結果、図13に示すように、ネジ収容部17に相当する部分には、比較的多くの導電性のめっき触媒層が残存することとなる。
【0098】
図14に示すように、第5実施例の接合部作製処理は、ステップS310に代えてステップS310aが実行される点と、ステップS315に代えてステップS315aが実行される点と、ステップS330が追加して実行される点とにおいて、第1実施例の接合部作製処理と異なり、他の処理は、第1実施例の接合部作製処理と同じである。なお、図14では、ネジ収容部17に相当する部分が明らかになるように図示している。
【0099】
具体的には、第5実施例の接合部作製処理では、ステップS305が実行された後、各ガラス層において、ビアパターン及びネジ収容ホールパターンと、半導体素子30や低発熱部品200を収容するためのパターン(チップパターン)及びネジ収容ホールパターンとが形成される(ステップS310a)。但し、第1実施例においても、説明は省略しているが、ステップS310においてネジ収容ホールパターンが形成されるので、このステップS310aと第1実施例のステップS310とは、実質的に同一である。
【0100】
次に、ステップS310aにおいて各種パターンが形成されたガラス層が、配線基板10に貼り付けられる(ステップS315a)。上述したように、外装配線パターン作製処理において、ネジ収容部17に相当する位置に導電性のめっき触媒層が残存しているので、ステップS315aにより、残存するめっき触媒層が各ガラス層に設けられたネジ収容ホールに収容されることとなる。
【0101】
ステップS315aが実行された後、上述したステップS320,S325が実行される。ステップS325が実行された後、ネジ収容部17に、ネジ19と係合するネジ山が形成される(ステップS330)。以上の接合部作製処理が完了すると、上述した組み立て処理(ステップS400)が実行される。図6に示すステップS435を実行する際には、ネジ収容部17にネジ山が形成されているので、ネジ19は、かかるネジ山に係合しながらネジ収容部17に収容されていくこととなる。
【0102】
なお、図示は省略しているが、放熱基板を作製する際にも、ネジ収容ホールを形成し、かかるネジ収容ホールを、熱伝導性部材で埋める処理が行われる。この放熱基板におけるネジ収容ホールを埋める処理については、例えば、第4実施例と同様にして、ナノ銀ペーストを充填することにより実行することができる。
【0103】
以上の構成を有する第5実施例の半導体モジュールは、第1実施例の半導体モジュール100及び第4実施例の半導体モジュール100cと同様な効果を有する。加えて、ネジ収容部17にネジ山を形成してからネジ19を収容(挿入)するので、第1実施例とは異なり、ネジ収容部17内において、ネジ19は、熱伝導性部材80によって固定(固着)されない。したがって、半導体モジュールの完成後においてネジ19が緩んだ場合に、ネジ19を締め直すことができる。また、配線基板10のネジ収容ホール及びガラス層のネジ収容ホールに熱伝導性部材80を配置する工程を、ビアホールを埋める工程と同じ工程で行うことができるので、ビアホールを埋める工程とは異なる工程により行う場合に比べて、処理時間を短縮することができる。
【0104】
F.変形例:
この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0105】
F1.変形例1:
各実施例では、放熱器50,50aは、当接する構成要素(絶縁層40)と熱膨張率の異なる金属材料で形成されていたが、これに代えて、当接する構成要素と同じ熱膨張率の材料で形成することもできる。具体的には、例えば、放熱器50,50aをセラミックスで形成する構成を採用することができる。この構成では、放熱器50,50aが絶縁性を有するため、絶縁層40を省略できる。したがって、放熱器50,50aと当接する構成要素は、第3絶縁接合部37および電極配線36となる。この構成において、第3絶縁接合部37をセラミックスで形成すると、放熱器50,50aは、当接する構成要素である第3絶縁接合部37と同じ熱膨張率の材料で形成されることとなる。
【0106】
このように、放熱器50,50aと、第3絶縁接合部37とは、互いに同じ熱膨張率の材料で形成されているため、熱膨張率の相違に起因する応力の発生は抑制される。しかしながら、この例の構成においても、温度分布に起因する熱膨張差が発生し、それを起因とした応力が発生し得る。具体的には、第3絶縁接合部37は、放熱器50,50aに比べて半導体素子30により近い位置に配置されているため、半導体素子30からの放熱により、より昇温し易い。それゆえ、放熱器50,50aおよび第3絶縁接合部37に温度分布が生じ、この温度分布に起因して、温度のより高い第3絶縁接合部37が、温度のより低い放熱器50,50aに比べて、より膨張することとなる。その結果、放熱器50,50aと第3絶縁接合部37との間に温度分布に起因する応力が発生し得る。しかしながら、半導体モジュール100,100aでは、ネジ19によって配線基板10と放熱器50,50aとが締結されているため、各実施例と同様に、温度分布に起因する応力によって各構成要素が変形することが抑制される。また、この例においても、放熱器50,50aと第3絶縁接合部37とを接着することなく配置させることで、放熱器50,50aおよび第3絶縁接合部37を、互いの界面において滑らせる(ずらす)ことができるので、応力の発生を抑制し、また、発生する応力を低減させることができ、半導体モジュール100の損傷を抑制できる。
【0107】
F2.変形例2:
各実施例では、図6に示す組み立て工程のステップS425において、絶縁層40と電極配線層35との積層体である放熱基板を作製していたが、本発明は、これに限定されるものではない。ステップS425において、絶縁層40と電極配線層35とを、それぞれ別体として作製して、積層(一体化)しない構成を採用することもできる。この構成では、ステップS435において、絶縁層40と電極配線層35と放熱器50とを配線基板10(および接合部20,半導体素子30)に取り付けることが好ましい。
【0108】
F3.変形例3:
各実施例では、各絶縁接合部16,22,37の基材は、無機系材料のガラス組成物であったが、無機系材料に代えて、有機系材料を採用することができる。例えば、熱可塑性樹脂(ポリイミドや全芳香族ポリアミドなど)や、セラミックス材料を採用することができる。
【0109】
F4.変形例4:
各実施例における半導体モジュール100,100aの構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、半導体素子30の数は複数に限らず1つでもよい。また、半導体素子30における電極の配置位置がバンプ31と同じ面であれば、電極配線36(および第3絶縁接合部37)を省略することができる。また、放熱器50,50aは、フィン51と筐体52,52aとで構成されていたが、これらに代えて、金属板のみで構成することもできる。また、ネジ19の基材は金属であったが、金属に変えて樹脂を採用することもできる。また、放熱層18を省略することもできる。
【0110】
F5.変形例5:
第1実施例では、組み立て処理のステップS435において、ネジ19を用いた配線基板10と放熱器50との締結と、加熱とを同時に行っていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、以下のような処理を行うこともできる。まず、ステップS405〜S420を実行して、半導体素子30の接合が正常であったと判定された場合に(ステップS420:YES)、ステップS425を省略して、配線基板10(および接合部20,半導体素子30)と、電極配線層35とを積層して、かかる積層体を積層方向から加圧しながら加熱する(工程a)。工程aにより、半導体素子30における電性の接合部材(例えば接続用のバンプや電極)と電極配線層35とが接触し、加熱されることで、導電性の接合部材を介して半導体素子30と電極配線層35とが電気的に接合される。
【0111】
次に、工程aの結果得られた積層体(配線基板10(および接合部20,半導体素子30)と電極配線層35)に絶縁層40を載置し、さらに、絶縁層40に放熱器50を載置する(工程b)。次に、工程bの結果得られた積層体(工程aの結果得られた積層体,絶縁層40および放熱器50)において、ネジ19をネジ収容部17およびネジ穴53に収容し、加熱することなくネジ19をネジ穴53に係合させ、配線基板10と放熱器50とを所定の締結力で締結させる(工程c)。以上の処理を採用しても第1実施例と同様な効果を有する。なお、前述の(工程c)において、第2実施例と同様に、ネジ19に代えて、かしめ部90を用いて配線基板10と放熱器50とを締結することもできる。
【0112】
F6.変形例6:
第4実施例では、ナノ銀ペーストを焼成する前にネジ19をネジ収容部17に収容していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ステップS432とS435との間のいずれかにおいて、ネジ収容部17に収容されているナノ銀ペーストを焼成させると共にネジ収容部17にネジ山を形成する工程を実行し、その後、ステップS435を実行することもできる。
【0113】
F7.変形例7:
第5実施例では、接合部20のネジ収容ホールに熱伝導性部材80を配置するために、ステップS225において電解めっきを行い、ステップS235aにおいてネジ収容部17に相当する部分を残存させるように部分的なスパッタを行っていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、外装配線パターン作製処理は、第1実施例と同様に行い、接合部作製処理のステップS315(ビアパターン及びチップパターンの貼り付け)の後にネジ収容ホールにナノ銀ペーストを充填することにより、熱伝導性部材80を配置する構成を採用することもできる。この構成では、ステップS325(乾燥工程)において、加熱してネジ収容ホールに充填されたナノ銀ペーストを焼成させ、第5実施例のステップS330と同様にネジ山を形成することが好ましい。
【0114】
F8.変形例8:
第4実施例では、熱伝導性部材80の基材としてナノ銀ペーストを用いていたが、ナノ銀ペーストに限らず、他の任意の熱伝導性を有する基材を用いることができる。例えば、金や、銅や、パラジウム等の粒子を含む金属ナノ粒子ペーストを用いることができる。また、サーマルグリス(有機糊に金属製フィラー(銀や銅やアルミナ等の粒子)が混ざったもの)等を用いることができる。サーマルグリスは、金属に比べて熱伝導性が低いが、ネジ19表面とネジ収容部17の収容面との間、及び、ネジ19表面とネジ穴53の収容面との間に何も存在しない構成に比べて、放熱性を向上させることができる。なお、ペースト状の部材に代えて、金属粉を熱伝導性部材80として用いることもできる。具体的には、ネジ19収容前のネジ収容部17及び53に金属粉を充填し、余分な金属粉を排出させながらネジ19を挿入することもできる。この構成では、金属粉の焼成は不要となるので半導体モジュールの製造処理を簡素化できる。また、この構成では、半導体モジュール完成後においてネジ19が緩んだ場合に、ネジ19を締め直すことができる。
【0115】
F9.変形例9:
第4,5実施例では、ネジ収容部17またはネジ穴53に熱伝導性部材80を配置する前に、ネジ収容部17の収容面は熱伝導性に優れる材料により被覆されていたが、かかる被覆を省略することができる。また、第4実施例では、ステップS440において、ネジ19の頭部分の周りに溜まった熱伝導性部材81を取り除いていたが、かかる処理を省略することもできる。また、第5実施例では、放熱基板に形成されたネジ収容ホールは、熱伝導性部材で埋められていたが、熱伝導性部材で埋められていなくともよい。この構成においては、熱伝導性部材80から筐体52に熱を直接伝えることができない。しかしながら、熱伝導性部材80を介してネジ19に熱を伝えることができるので、かかる構成においても、放熱性を向上させることができる。また、第5実施例では、いずれの層においてもネジ収容ホールは熱伝導性部材で埋められていたが、これに代えて、一部の層については、熱伝導性部材を省略することもできる。
【0116】
F10.変形例10:
第1ないし第4実施例では、図5に示すように、接合部作製処理におけるガラス層の作製(ステップS305)と乾燥(ステップS325)との間の処理の順序は、(i)ビアパターン及びチップパターンの形成、(ii)ビアパターン及びチップパターンの貼り付け(仮接着)、(iii)配線部印刷、であったが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、(i)ビアパターン及びチップパターンの形成、(ii)配線部印刷、(iii)ビアパターン及びチップパターンの貼り付け(仮接着)、の順序としてもよい。また、例えば、(i)ビアパターン及びチップパターンの貼り付け(仮接着)、(ii)ビアパターン及びチップパターンの形成、(iii)配線部印刷、の順序としてもよい。同様にして、第5実施例の接合部作製処理(図15)においても、ガラス層の作製(ステップS305)と乾燥(ステップS325)との間に実行される3つの処理(ステップS310a,S315a,S320)について、順序を入れ替えてもよい。
【符号の説明】
【0117】
100,100a,100b,100c…半導体モジュール
10…配線基板
11…セラミックス層
12…制御回路用配線
13…主電力ストレートビア
14…上部表面配線
15…下部表面配線
16…第1絶縁接合部
17,17a…ネジ収容部
18…放熱層
19…ネジ
20…接合部
21…配線部
22…第2絶縁接合部
22a…半導体素子収容部
22b…配線部収容部
22c…窪み
22d…余剰部
23…凹部
30…半導体素子
31…バンプ
35…電極配線層
36…電極配線
37…第3絶縁接合部
40…絶縁層
50,50a…放熱器
51…フィン
52,52a…筐体
53…ネジ穴
80…熱伝導性部材
81…溢れ出た熱伝導性部材
90…かしめ部
200…低発熱部品
R1,R2,R21…(放熱)経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体モジュールであって、
放熱器と、
配線パターンが形成された配線基板と、
前記配線基板の所定面側に配置され、表裏両面に電極を有する半導体素子と、
前記配線基板の前記所定面上に配置され、前記半導体素子と前記配線パターンとを接続するための配線部、および前記配線部の周囲に位置する絶縁接合部を有する接合部と、
前記半導体素子の所定面側に配置された電極配線と、
前記放熱器に接着されることなく載置された絶縁層と、
を備える、半導体モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体モジュールにおいて、さらに、
前記配線基板と前記接合部と前記半導体素子と前記電極配線と前記絶縁層と前記放熱器とを含む積層体の積層方向に沿って配置され、前記配線基板と前記放熱器とを締結する締結部材を備える、半導体モジュール。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体モジュールにおいて、さらに、
前記配線基板と前記接合部と前記絶縁層とを、それぞれ前記積層方向に貫通するネジ収容部と、
前記放熱器に形成され、前記ネジ収容部と連通するネジ穴と、
を備え、
前記締結部材は、前記ネジ収容部に収容され、前記ネジ穴と係合するネジであり、
前記ネジ収容部の収容面には、前記ネジと接する熱伝導性部材が配置されている、半導体モジュール。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体モジュールにおいて、
前記熱伝導性部材は、前記収容面において前記配線基板から前記絶縁層に至るまで延び、前記放熱器と接する、半導体モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体モジュールにおいて、
前記熱伝導性部材は、前記ネジに比べて高い熱伝導性を有する、半導体モジュール。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の半導体モジュールにおいて、
前記配線基板は多層構造であり、前記積層方向とは異なる方向に伸び、前記締結部と接する放熱層を有する、半導体モジュール。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の半導体モジュールにおいて、
前記絶縁接合部は、無機系材料で形成されている、半導体モジュール。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の半導体モジュールにおいて、
前記配線パターンは、
前記配線基板において前記接合部と接触する面に配置された第1の表面配線と、
前記配線基板において前記接合部と接触する面の反対面に配置された第2の表面配線と、
前記配線基板内において前記積層方向に伸び、前記第1の表面配線と前記第2の表面配線とを接続する配線と、
を有する、半導体モジュール。
【請求項9】
多層構造を有する半導体モジュールの製造方法であって、
(a)配線パターンが形成された配線基板を製造する工程と、
(b)半導体素子と前記配線パターンとを接続するための配線部と、前記配線部の周囲に位置する絶縁接合部と、を有する接合部を、前記配線基板の所定面に配置する工程と、
(c)前記半導体素子を前記接合部に接合する工程と、
(d)前記半導体素子が接合された前記接合部および前記配線基板を、電極配線を含む電極配線層に載置する工程と、
(e)前記電極配線層を、絶縁層に載置する工程と、
(f)前記絶縁層を、接着することなく放熱器に載置する工程と、
を備える、半導体モジュールの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体モジュールの製造方法において、さらに、
(g)前記配線基板と前記接合部と前記半導体素子と前記電極配線層と前記絶縁層と前記放熱器とを含む積層体の積層方向に沿って締結部材を配置して、前記締結部材を用いて前記配線基板と前記放熱器とを締結する工程を備える、半導体モジュールの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体モジュールの製造方法において、
前記工程(g)は、加熱しながら、前記半導体素子と前記電極配線とを導電性の接合部材を介して接合する工程を含む、半導体モジュールの製造方法。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の半導体モジュールの製造方法であって、さらに、
(h)前記配線基板と前記接合部と前記絶縁層とを、それぞれ厚み方向に貫通するネジ収容部の収容面に、熱伝導性部材を配置する工程を備え、
前記放熱器は、前記ネジ収容部と連通するネジ穴を有し、
前記工程(g)は、前記締結部材としてのネジを、前記熱伝導性部材に接するように前記ネジ収容部に収容し、前記ネジ穴と係合させる工程を含む、半導体モジュールの製造方法。
【請求項13】
請求項10または請求項11に記載の半導体モジュールの製造方法において、
前記工程(a)は、前記配線基板において、前記配線基板を厚み方向に貫通する第1の貫通孔と前記第1の貫通孔に充填された熱伝導性基材とから構成される第1のネジ収容部形成部を形成する工程を含み、
前記工程(b)は、前記接合部において、前記接合部を厚み方向に貫通する第2の貫通孔と前記第2の貫通孔に充填された熱伝導性基材とから構成される第2のネジ収容部形成部を形成する工程を含み、
前記工程(d)は、前記電極配線層において、前記電極配線層を厚み方向に貫通する第3の貫通孔と前記第3の貫通孔に充填された熱伝導性基材とから構成される第3のネジ収容部形成部を形成する工程を含み、
前記工程(e)は、前記絶縁層において、前記絶縁層を厚み方向に貫通する第4の貫通孔と前記第4の貫通孔に充填された熱伝導性基材とから構成される第4のネジ収容部形成部を形成する工程を含み、
さらに、前記配線基板と前記接合部と前記半導体素子と前記電極配線層と前記絶縁層とを積層する工程を含み、
前記工程(g)は、前記第1ないし第4のネジ収容部形成部に充填されている各前記熱伝導性基材に、前記積層方向に沿って延び、前記ネジと係合するネジ山を形成する工程を含む、半導体モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−70017(P2013−70017A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−61802(P2012−61802)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】