説明

半導体レーザ装置

【課題】 高出力レーザ素子の出力低下なしに、低出力レーザ素子駆動時の消費電力を低減する半導体レーザ装置を提供することである。
【解決手段】 半導体レーザ装置は、発振波長が異なる2つの半導体レーザ素子10a、10bを基板12上に設けた素子10を搭載し、半導体レーザ素子10aを共振器長が短くなる方向に二分する分離溝20を設け、後方の素子をフォトダイオード10cとし、長共振器長の素子10bを高出力レーザ素子とし、短共振器長の素子10aを低出力レーザ素子としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一基板上に発振波長が異なる複数の半導体レーザ素子を備えた素子を搭載する半導体レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、CD−R記録用の赤外半導体レーザ(発振波長:780nm)と、DVD−ROM再生用の赤色半導体レーザ(発振波長:655nm)といった高出力レーザ素子と低出力レーザ素子とが同一基板上に形成された素子を用いた2波長半導体レーザ装置がある(特許文献1参照)。
【0003】
この2波長半導体レーザ装置は、同一基板上に違う材料、例えばAlGaAs系とAlGaInP系とを成長させ、それぞれにリッジ又はV溝を形成し、それぞれの素子間をエッチングによる分離溝又はイオン注入による絶縁層で分離した構造をとっている。
【0004】
一般に、半導体レーザ装置は温度が上がると出力が低下する。そのため、一定の出力を継続するために、素子の前面又は後面から出力されるレーザ光の一部をフォトダイオードで受光し、そのモニター電流が一定になるように半導体レーザ装置を駆動している(APC(Auto Power Control)駆動)。
【0005】
図4は、素子の後面光を利用してAPC駆動する半導体レーザ装置の斜視図である。図4では内部構成の説明のためキャップの一部を消去している。この半導体レーザ装置は、ステム101上にサブマウント102を介して搭載された半導体レーザ素子103と、ステム101上であって、半導体レーザ素子103の後面光を受光する位置に設けられたフォトダイオード104と、半導体レーザ素子103やフォトダイオード104を囲むキャップ105とを備えている。
【0006】
しかしながら、上記の2波長半導体レーザ装置の場合は、後面光が弱く、モニターできないレベルである。これは、一般的にレーザ出射面(前面及び後面)の酸化防止の為に施される端面コートが原因である。また、端面コートはレーザ光の反射膜としても機能する。2波長半導体レーザ素子の場合、高出力レーザ素子の前面光の出力を確保するため、後面光を高反射させて前面光として効率よく取り出す必要がある。従って、後面の端面コートの反射率を高く、前面の端面コートの反射率を低く設計している。ここで、高出力レーザ素子側と低出力レーザ素子側とで端面コートをかえることは製造上困難である。つまり、低出力レーザ素子の後面の反射率も高くなり、後面光をモニターすることはできない。
【0007】
そこで、2波長半導体レーザ装置の駆動には、フロントモニターが用いられている。図5は、フロントモニターの概要を示す図である。図中、矢印は光路を示している。半導体レーザ装置からの前面光のほとんどがハーフミラー106で反射されアプリケーションに使用される。一方、半導体レーザ装置からの前面光の一部がハーフミラー(或いは部分反射ミラー)106を透過し、フォトダイオード107で受光され、モニター電流として検出され、APC駆動に用いられる。
【特許文献1】特開2002−190649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように2波長半導体レーザ装置のモニター電流検出にフロントモニターを用いる場合、高出力レーザ素子の駆動時は十分なモニター電流が得られるので問題はないが、低出力レーザ素子の駆動時はハーフミラーを透過するレーザ光が少なく、モニター電流が非常に小さくなり、検出が困難となる。
【0009】
また、低出力レーザ素子の共振器長は300μm程度で十分であるが、高出力レーザ素子の共振器長は600μm以上である為、2波長半導体レーザ素子は高出力レーザ素子の共振器長に合わせられる。ここで素子の駆動電流は共振器長に比例するため、低出力レーザ素子の駆動電流は倍以上となる。その結果、素子からの発熱量が大きくなり、素子の劣化を早める原因となる。更に、消費電力が増大するので、携帯端末等のバッテリーの消耗が早くなる。
【0010】
そこで本発明は、高出力レーザ素子の出力低下なしに、低出力レーザ素子駆動時に十分なモニター電流を得る半導体レーザ装置を提供することを目的とする。また、高出力レーザ素子の出力低下なしに、低出力レーザ素子駆動時の消費電力を低減する半導体レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の半導体レーザ装置は、発振波長が異なる複数の半導体レーザ素子を同一基板上に設けた素子を搭載し、少なくとも1つの半導体レーザ素子の共振器長が他の半導体レーザ素子の共振器長と異なることを特徴とするものである。
【0012】
この構成において、長共振器長の素子を高出力レーザ素子とし、短共振器長の素子を低出力レーザ素子とすることで、高出力レーザ素子の出力低下なしに、低出力レーザ素子駆動時の消費電力を低減することができる。
【0013】
上記の半導体レーザ装置において、少なくとも1つの半導体レーザ素子を共振器長が短くなる方向に二分する分離溝を設け、一方をフォトダイオードとして用いることが望ましい。
【0014】
この構成において、分離溝の前方の素子を低出力レーザ素子とし、分離溝の後方の素子をフォトダイオードとすることで、低出力素子の駆動時に、低出力素子の後面光をフォトダイオードで受光してモニター電流を検出し、半導体レーザ装置をAPC駆動できる。
【0015】
また、前記複数の半導体レーザ素子は、共振器長の長い順に高出力な半導体レーザ素子とすることにより、各半導体レーザ素子の消費電力は出力に合ったものとなる。
【0016】
例えば、前記複数の半導体レーザ素子は、AlGaAs系赤外レーザを発振する第1の素子と、AlGaInP系赤色レーザを発振する第2の素子とからなり、短共振器長側の半導体レーザ素子を第1の素子とし、長共振器長側の半導体レーザ素子を第2の素子とすることができる。この逆の場合もある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、少なくとも1つの半導体レーザ素子の共振器長が他の半導体レーザ素子の共振器長と異なり、長共振器長の素子を高出力レーザ素子とし、短共振器長の素子を低出力レーザ素子とすることで、高出力レーザ素子の出力低下なしに、低出力レーザ素子駆動時の消費電力を低減することができる。
【0018】
また本発明によれば、少なくとも1つの半導体レーザ素子を共振器長が短くなる方向に二分する分離溝を設け、分離溝の前方の素子を低出力レーザ素子とし、分離溝の後方の素子をフォトダイオードとすることで、低出力素子の駆動時に、低出力素子の後面光をフォトダイオードで受光してモニター電流を検出し、半導体レーザ装置をAPC駆動できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、半導体レーザ素子の構成を示す斜視図である。半導体レーザ装置(不図示)に搭載されるこの半導体レーザ素子10において、n型(第1導電型)電極11上には、基板12、n型クラッド層13a、13b、13c、活性層14a、14b、14c、p型(第2導電型)クラッド層15a、15b、15c、電流ブロック層16a、16b、16c、キャップ層17a、17b、17c、p型電極18a、18b、18cがこの順で積層されている。p型クラッド層15a、15b、15cの上面にはストライプ状のリッジ22a、22b、22cが形成され、電流ブロック層16a、16b、16cはリッジ22a、22b、22cのトップを避けて形成されている。
【0020】
そしてこの半導体レーザ素子10は、分離溝19、20によって、AlGaInP系赤色レーザを発振する第1の素子(低出力レーザ素子)10aと、AlGaAs系赤外レーザを発振する第2の素子(高出力レーザ素子)10bと、フォトダイオード10cとに分かれている。分離溝19、20は少なくともn型クラッド層13a、13b、13cまでは達している必要があり、好ましくは基板12まで達していることである。
【0021】
第1の素子10aは、図1では、分離溝19の右側手前の素子とすることができる。この素子10aの基板11はGaAsからなり、n型電極11及びp型電極18aはAu等、n型クラッド層13aはAlGaInP、活性層14aはGaInP/AlGaInP、p型クラッド層15aはAlGaInP、電流ブロック層16aはAlInP、キャップ層17aはGaAsからなる。またこのキャップ層17aは形成せずに直接電極を形成してもよい。また、フォトダイオード10cは、第1の素子10aと同構造である。
【0022】
一方、第2の素子10bは、図1では、分離溝19の左側の素子とすることができる。この素子10bのn型クラッド層13bとp型クラッド層15bとがAlGaAsであり、活性層14bはGaAs/AlGaAsの量子井戸構造、ブロック層16bはAlGaAs層かGaAs層からなる。
【0023】
上記の半導体レーザ素子10の製造工程では、基板12上に第1の素子10a(フォトダイオード10c部分を含む)及び第2の素子10bを形成した後、第1の素子10aをエッチングして分離溝20を形成する。その結果、第1の素子10aの後部がフォトダイオード10cとなる。端面コートは、素子の前面、後面、分離溝20の側面とに分けて別々に施す。従って、第1の素子10aの後面と第2の素子10bの後面との反射率を個々に設計できる。即ち、第1の素子10aの後面のコートの反射率を低く、第2の素子10bの後面のコートの反射率を高く設計できる。ここで、フォトダイオード10cは逆バイアスをかけることで受光素子として使用できる。そのため、第1の素子10aの駆動時には、第1の素子10aの後面光をフォトダイオード10cで受光してAPC駆動することができる。
【0024】
なお、端面コートの材料には、Al、SiO、TiO、ZrO、Siなどを用いることができる。また、図1の半導体レーザ素子10では、素子10a、10bを分離するのに分離溝19を設けたが、図2の半導体レーザ素子23のように、分離溝19に替えて絶縁層24を設けてもよい。この絶縁層24は、例えばHプロトンの注入により形成できる。他の構成は図1と同様である。
【0025】
図3は、半導体レーザ素子10を搭載した半導体レーザ装置である。半導体レーザ素子10は、サブマウント30を介してステム31に固定される。p型電極18a〜18cはサブマウント30上に形成された電極32a〜32cに半田付けされている。電極32a〜32cとリード33a〜33cとがそれぞれワイヤ34a〜34cで接続されている。そして、n型電極11はステム31にワイヤ34dで接続されている。
【0026】
次に半導体レーザ装置の特性について具体例を挙げて説明する。例えば、半導体レーザ素子10は次のようなサイズとすることができる。第2の素子10bの共振器長を900μm、第1の素子10aの共振器長を300μm、分離溝の幅を30μm、フォトダイオード10cの長さを570μmとする。この場合、第1の素子10aの特性は、しきい電流20mA、動作電流30mA、モニター電流0.3mA、水平広がり角度8度、垂直広がり角度28度、発振波長653nmである。一方、第2の素子10bの特性は、しきい電流50mA、動作電流95mA、モニター電流なし、水平広がり角度11度、垂直広がり角度16度、発振波長782nmである。
【0027】
これに対して従来の半導体レーザ装置の特性は次のようであった。2波長半導体レーザ素子のCD−R記録用(赤外レーザ)の素子及びDVD−ROM再生用(赤色レーザ)の素子の共振器長を900μmとすると、CD−R記録用の素子の特性は上記の第2の素子10bの特性と同じ測定値であった。一方、DVD−ROM再生用の素子の特性は、しきい電流45mA、動作電流60mA、モニター電流なし、水平広がり角度11.5度、垂直広がり角度28度、発振波長655nmであった。
【0028】
これらを比較すると、第2の素子10b(CD−R記録用の素子)の特性は従来と同様でありながら、第1の素子10a(DVD−ROM再生用の素子)のしきい電流及び動作電流は従来の約半分となっていることがわかる。つまり、高出力レーザ素子の特性は従来と同様で出力の低下がなく、低出力レーザ素子駆動時の消費電力を約半分に低減している。また、第1の素子10aの後面光によりフォトダイオード10cでモニター電流0.3mAが検出できている。また共振器長を短くすることで水平広がり角度も広くでき集光スポット特性が改善できる。
【0029】
なお、高出力レーザ素子の共振器長は500μm以上が望ましく、更に望ましくは600μm以上である。一方、低出力レーザ素子の共振器長は500μm以下であることが望ましく、更に望ましくは300μm以下である。
【0030】
このように、低出力レーザ素子の消費電力を低減することにより、素子からの発熱を抑え、素子の劣化を抑制することができる。更に、消費電力の低減により、携帯端末等に搭載した場合にバッテリーの消耗を抑えることができる。
【0031】
上記の実施形態では、高出力レーザ素子としてCD−R記録用の赤外半導体レーザ、低出力レーザ素子としてDVD−ROM再生用の赤色半導体レーザを用いて説明したが、高出力レーザ素子としては他にDVD−R用があり、低出力レーザ素子としては他にCD−ROM用がある。
【0032】
本発明において、分離溝や絶縁層で分離すれば同一基板上に発光素子は3個以上設けてもよい。また、レーザとしては紫外レーザや青色レーザを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の半導体レーザ装置は、DVD−ROM、CD−R/RW、DVD±R/RW、Blu−Ray Discなどの光ディスク再生・記録用の光源として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の半導体レーザ素子の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の絶縁層を有する半導体レーザ素子の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の半導体レーザ素子を搭載した半導体レーザ装置である。
【図4】従来の素子の後面光を利用してAPC駆動する半導体レーザ装置の斜視図である。
【図5】従来のフロントモニターの概要を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
10、23 半導体レーザ素子
10a 第1の素子
10b 第2の素子
10c フォトダイオード
12 基板
19、20 分離溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振波長が異なる複数の半導体レーザ素子を同一基板上に設けた素子を搭載する半導体レーザ装置において、
少なくとも1つの半導体レーザ素子の共振器長が他の半導体レーザ素子の共振器長と異なることを特徴とする半導体レーザ装置。
【請求項2】
少なくとも1つの半導体レーザ素子を共振器長が短くなる方向に二分する分離溝を設け、一方をフォトダイオードとして用いることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記複数の半導体レーザ素子は、共振器長の長い順に高出力な半導体レーザ素子とすることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記複数の半導体レーザ素子は、AlGaAs系赤外レーザを発振する第1の素子と、AlGaInP系赤色レーザを発振する第2の素子とからなり、
短共振器長側の半導体レーザ素子を第1の素子とし、長共振器長側の半導体レーザ素子を第2の素子とすることを特徴とする請求項2記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記複数の半導体レーザ素子は、AlGaAs系赤外レーザを発振する第1の素子と、AlGaInP系赤色レーザを発振する第2の素子とからなり、
長共振器長側の半導体レーザ素子を第1の素子とし、短共振器長側の半導体レーザ素子を第2の素子とすることを特徴とする請求項2記載の半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−49540(P2006−49540A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227592(P2004−227592)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)鳥取三洋電機株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】