説明

半導体光変調器及び光周波数コム発生光源

【課題】光ファイバ通信で必要なチャンネル間隔(25GHz間隔,50GHz間隔等)の光周波数コムを発生させ、且つ、変調器を1種類にして変調信号の位相調整を不要とすることなどが可能な半導体光変調器及び光周波数コム発生光源を提供する。
【解決手段】例えば、半導体光変調器100は、入力光101を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器102と、この半導体位相変調器102によって発生したサイドバンドの強度を等化する半導体光増幅器103とを、同一の半導体基板上にモノリシック集積した構造とする。また、光周波数コム発生光源は、入力光を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器と、この半導体位相変調器によって発生したサイドバンドの強度を等化する半導体光増幅器と、前記入力光を前記半導体位相変調器へ出力する波長可変半導体レーザとを、同一の半導体基板上にモノリシック集積した構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体光変調器及び光周波数コム発生光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信システムでは、1本の光ファイバに複数の波長の異なる信号光を重畳して伝送容量を拡大する波長分割多重(Wavelength division multiplexing:WDM)伝送技術が導入されている。本システムにおいては、等間隔の光周波数グリッドに一致した光周波数(波長)で発振する半導体レーザを必要なチャンネル数だけ用意することで、光信号を発生する光源を構成している。
【0003】
しかし、本構成の光源では以下のような問題点がある。
(1)必要なチャンネル数の波長の異なる半導体レーザが必要である。
(2)発振光周波数を正確に光周波数グリッドに一致させるために、各半導体レーザの発振光周波数を、波長ロッカ等を用いて個別に安定化する必要がある。
(3)チャンネル数が多くなると、光源を収容するスペースが膨大になる。
【0004】
これらの問題を解決する方法として、電気信号の精度で周波数間隔が決定された複数の光周波数(波長)の光(光周波数コム)を発生する光周波数コム発生光源の実現が有効であると考えられる。
【0005】
膨大なチャンネル数の光周波数コムを発生する光源としては、T. Moriokaらによる、IEE Electronics Letters, vol. 30, no. 10, pp. 790-791, 1994(非特許文献1)の報告にあるように、分散値を制御した光ファイバとファイバリングレーザを用いたスーパーコンティニュウム光発生を原理とした光源が検討されている。図7に示すスーパーコンティニュウム光源では、ファイバリングレーザ01からは繰り返し6.3GHzの能動モード同期パルスを出力し、光ファイバ増幅器(EDFA)02でその出力を1.7Wまで増幅した後、分散値を制御した光ファイバ03内の非線形性を用いてそのスペクトル幅を拡大している。図8に示すように、本構成のスーパーコンティニュウム光源で6.3GHz間隔の光周波数コムを200nmの波長範囲で発生させることに成功している。
【0006】
次世代の光通信システムでは、波長を自由に切り替えることのできる、8〜16チャンネルの等光周波数間隔コムを発生する光源が必要不可欠となる。このような光源は、M. Fujiwaraらによる、IEE Electronics Letters, vol. 37, no. 15, pp. 967-968, 2001(非特許文献2)の報告にあるように、強度変調器(マッハツェンダ変調器)と位相変調器を用いて実現されている。ここでは、この2種類の変調器を用いた構成をAM/FM混変調構成と呼ぶ。
【0007】
図9に示すように、AM/FM混変調構成による光周波数コム発生光源は、強度変調器06と位相変調器07とを直列接続した構成を採る。強度変調器06へは可変出力増幅器10Aを介して発振器08を接続し、位相変調器07へは位相シフタ09及び可変出力増幅器10Bを介して発振器08を接続している。発振器08により正弦波の電圧信号を発生し、位相シフタ09を用いて強度変調器06と位相変調器07へ印加する正弦波電圧信号に位相差を与える。それらの信号は可変出力増幅器10A,10Bでそれぞれ電圧振幅を調整した後に強度変調器06と位相変調器07へ印加される。このAM/FM混変調構成による光周波数コム発生光源の変調器06,07にCWの入力光04を入力して変調することにより、変調サイドバンドを発生させ、光周波数コムを発生する(出力光05)。
【0008】
入力光04の電界振幅と光角周波数をE0、w0、発振器08により発生した変調信号の角周波数をw、位相シフタ09により与えられる位相差をfとし、強度変調器06の強度変調指数をm’、位相変調器07の周波数変調指数をmとすると、出力光05の電界振幅Eは以下の式で与えられる。
【数1】

m’=1、f=0.5p、m=4の時の出力光05のスペクトル|E|2を図10に示す。この図10から、強度差2.5dB以下で、周波数間隔がwの9本の光周波数コムを発生できることがわかる。上記構成の光周波数コム発生光源により実験的に得られた光スペクトルを図11に示す。この図11と図10から、計算通りの光周波数コムを発生できていることがわかる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】IEE Electronics Letters, vol. 30, no. 10, pp. 790-791, 1994 “Nearly penalty-free,<4ps supercontinuum Gbit/s pulse generation over 1535-1560nm” T. Morioka.他
【非特許文献2】IEE Electronics Letters, vol. 37, no. 15, pp. 967-968, 2001 “Flattened optical multicarrier generation of 12.5GHz spaced 256 channels based on sinusoidal amplitude and phase hybrid modulation” M. Fujiwara.他
【非特許文献3】IEEE Journal of Quantum Electronics vol.29, no. 6, pp. 1817-1823, 1993 “Broad-Range Wavelength-Tunable Superstructure Grating(SSG) DBR Lasers” Y. Tohmori.他
【非特許文献4】Proceedings of International conference on Indium Phosphide and Related Material, Paper FBI-2, pp. 575-578, 2001 “46.9-nm Wavelength-Selectable Arrayed DFB lasers with Integrated MMI Coupler and SOA” H.Oohashi.他
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、スーパーコンティニュウム光源においては、光周波数コムの間隔が、ファイバリングレーザ01の繰り返し周波数となることより、数GHz以下の値しか実現できず、光ファイバ通信で必要なチャンネル間隔(25GHz或いは50GHz)の光周波数コムを発生させることができないという問題があった。また、数百チャンネルもの光周波数コムが発生するため、その1本1本を個別に取り出してチャンネル毎に異なった信号を重畳することが出来なかった。
【0011】
また、AM/FM混変調構成による光周波数コム発生光源では、2種類の変調器06,07が必要なこと、及びそれらへ印加する変調信号の位相、振幅を厳密に調整する必要があることが問題であった。
【0012】
従って本発明は光ファイバ通信で必要なチャンネル間隔(25GHz間隔,50GHz間隔等)の光周波数コムを発生させ、且つ、変調器を1種類にして変調信号の位相調整を不要とすることなどが可能な半導体光変調器及び光周波数コム発生光源を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する第1発明の半導体光変調器は、光周波数コム発生用の半導体光変調器であって、
入力光を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器と、
この半導体位相変調器によって発生したサイドバンドの強度を等化する光増幅器とを有することを特徴とする。
【0014】
また、第2発明の半導体光変調器は、第1発明の半導体光変調器において、
前記半導体位相変調器として、ポッケルス効果を用いた半導体位相変調器を用いたことを特徴とする。
【0015】
また、第3発明の半導体光変調器は、第1発明又は第2発明の半導体光変調器において、前記光増幅器として、半導体光増幅器を用いたことを特徴とする。
【0016】
また、第4発明の半導体光変調器は、第3発明の半導体光変調器において、
前記半導体位相変調器と前記半導体光増幅器が、同一の半導体基板上にモノリシック集積されていることを特徴とする。
【0017】
また、第5発明の半導体光変調器は、第1発明又は第2発明の半導体光変調器において、前記光増幅器として、Er3+をドープした偏波保持ファイバ増幅器を用いたことを特徴とする。
【0018】
また、第6発明の光周波数コム発生光源は、第1発明〜第5発明の何れか1つの半導体光変調器と、
前記入力光を前記半導体位相変調器へ出力する波長可変半導体レーザとを有することを特徴とする。
【0019】
また、第7発明の光周波数コム発生光源は、第3発明の半導体光変調器と、
前記入力光を前記半導体位相変調器へ出力する波長可変半導体レーザとを有し、
前記半導体位相変調器と前記半導体光増幅器と前記波長可変半導体レーザが、前記同一の半導体基板上にモノリシック集積されていることを特徴とする。
【0020】
また、第8発明の光周波数コム発生光源は、第5発明の半導体光変調器と、
前記入力光を前記半導体位相変調器へ出力する波長可変半導体レーザとを有し、
前記半導体位相変調器と前記波長可変半導体レーザが、同一の半導体基板上にモノリシック集積されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の半導体光変調器によれば、光周波数コム発生用の半導体光変調器であって、入力光を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器と、この半導体位相変調器によって発生したサイドバンドの強度を等化する光増幅器とを有することを特徴としているため、変調器が1つ(半導体位相変調器)だけであり、RF動作部分(変調動作部分)が1カ所である。このため、電気信号(変調信号)の位相調整のような複雑な調整をすることなく、正弦波の電気信号(変調信号)を入力するだけで、光強度のそろった光周波数コム(例えば8チャンネル以上の光周波数コム)を発生することができるコンパクトな光周波数コム発生用の半導体光変調器を実現することができる。
また、本発明の半導体光変調器又は光周波数コム発生光源によれば、半導体位相変調器と半導体光増幅器を同一の半導体基板上にモノリシック集積すること、又は、半導体位相変調器と半導体光増幅器と波長可変半導体レーザを同一の半導体基板上にモノリシック集積することによって、よりコンパクトな光周波数コム発生用の半導体光変調器又は波長可変光周波数コム発生光源を実現することができる。
また、本発明の半導体光変調器又は光周波数コム発生光源によれば、光ファイバ通信で必要なチャンネル間隔(例えば25GHz)の光周波数コムを発生できることから、市販の光フィルタで各々の光周波数コム(チェンネル)を切り出すことが可能になり、チャネル毎に異なる高速信号を重畳することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施例に係る光周波数コム発生用の半導体光変調器の構造図である。
【図2】前記半導体光変調器における半導体位相変調器からの出力光スペクトルを示す図である。
【図3】前記半導体光変調器からの出力光スペクトルを示す図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る波長可変光周波数コム発生光源の構造図である。
【図5】本発明の第3の実施例に係る光周波数コム発生用の半導体光変調器の構造図である。
【図6】本発明の第4の実施例に係る波長可変光周波数コム発生光源の構造図である。
【図7】従来のスーパーコンティニュウム光源の構成例を示す図である。
【図8】前記スーパーコンティニュウム光源からの出力光スペクトル例を示す図である。
【図9】従来のAM/FM混変調構成による光周波数コム発生光源の構造図である。
【図10】前記光周波数コム発生光源からの出力光スペクトル(計算結果)を示す図である。
【図11】前記光周波数コム発生光源からの出力光スペクトル(実験結果)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
<第1の実施例>
図1〜図3に基づき、本発明の第1の実施例に係る光周波数コム発生用の半導体光変調器について説明する。
【0025】
図1に示すように、本発明の第1の実施例に係る光周波数コム発生用の半導体光変調器100は、入力光101を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器102と、この半導体位相変調器102によって発生したサイドバンドの強度を等化する半導体光増幅器103とを、同一のn-InP基板(半導体基板)上にモノリシック集積した構造のものであり、光強度のそろった光周波数コム(複数の光周波数(波長)の光)を発生する(出力光104)。
【0026】
詳述すると、n-InP基板上には、コアが1.35mm組成のInGaAsPで形成された光導波路105が結晶軸(011)方向に作製されている。光導波路105上には変調信号であるRF(高周波)信号を印加するためのRF電極106が形成され、半導体位相変調器102を構成している。RF電極106へRF信号を印加することで、半導体位相変調器102の光導波路105へ電界が印加され、電気光学効果(ポッケルス効果)で屈折率が変化して、位相変調を行うことができる構造となっている。半導体位相変調器102の右端には、活性領域が1.55mm組成のInGaAsPで形成された半導体光増幅器103がモノリシック集積されており、p-電極107からの電流注入で1.55mm帯の光を増幅できる構造となっている。
【0027】
半導体位相変調器102と半導体光増幅器103の間には素子分離溝108が形成され、半導体光変調器100の両端面には反射防止膜109がそれぞれ形成されている。
【0028】
半導体位相変調器100の製造工程1〜10を、以下に記述する。
1.オリフラが(011)方向となっている(100)面のn-InP基板上にn-InPバッファー層及びn-InPクラッド層を、有機金属化学気相蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition, MOCVD)を用いて成長する。
2.次に、1.15mm組成InGaAsP分離閉込(Separate Confinement Heterostructure, SCH)層(厚さ10nm)を成長し、その上に1.35mm組成のInGaAsPコア層(厚さ150nm)を成長する。
3.更に、1.15mm組成InGaAsP SCH層(厚さ10nm)、p-InPクラッド層(厚さ500nm)、1.55mm組成p-InGaAsPコンタクト層(厚さ50nm)を、順次成長する。上記工程2及び本工程3で半導体位相変調器102のエピタキシャル結晶構造を形成する。
4.このn-InP基板を結晶成長装置から取り出して、半導体位相変調器102をSiO2膜でカバーし、それ以外の1.15mm組成InGaAsP SCH層までの結晶をエッチングで除去する。
5.再度、このn-InP基板を結晶成長装置へ戻し、結晶を除去した部分へ、1.15mm組成InGaAsP SCH層(厚さ10nm)、1.55mm組成InGaAsP活性層(厚さ150nm)、1.15mm組成InGaAsP SCH層(厚さ10nm)、p-InPクラッド層(厚さ500nm)、1.55mm組成p-InGaAsPコンタクト層(厚さ50nm)を順次バットジョイント成長し、半導体光増幅器103のエピタキシャル結晶構造を形成する。
【0029】
6.このn-InP基板を結晶成長装置から取り出し、素子ストライプ構造を電子ビーム描画装置で描画し、ドライエッチングによりメサストライプを形成する。
7.エッチングにより除去した領域に、電流狭窄用埋込層として、半絶縁(Semi-insulating, SI)InPを成長し、埋め込み構造を有する素子を形成する。
8.半導体位相変調器102と半導体光増幅器103にRF電極106とp-電極107をそれぞれ形成する。また、半導体位相変調器102と半導体光増幅器103の間の光導波路105部に素子分離溝108を形成することで素子分離を行う。
9.このn-InP基板側(裏面側)に、素子(半導体位相変調器102、半導体光増幅器103)に共通のn-電極110を形成する。
10.チップ(半導体光変調器100)を劈開により取り出し、その両端面に反射防止膜109をそれぞれ形成する。
【0030】
以上の製造工程により作製した半導体光変調器100において、無変調光(被変調光)である入力光101を半導体位相変調器102へ入力し、RF信号として角周波数25GHzの正弦波電気信号を印加した際の半導体位相変調器102の出力光の光スペクトルは、図2に計算結果を示すように強度が一定ではない。このようなスペクトル形状を有する信号光(半導体位相変調器102からの出力光)を十分な強度で半導体光増幅器103へ入力することで、半導体光増幅器103は飽和状態となり、素子内で四光波混合が起こる。これにより、光強度がバラバラだった半導体位相変調器102からの出力光(半導体光増幅器103への入力光)スペクトルは、図3に示すように光強度が平坦となって(等化されて)、半導体光増幅器103から出力された(出力光104)。
【0031】
以上説明したように、本第1の実施例の半導体光変調器100によれば、入力光101を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器102と、この半導体位相変調器102によって発生したサイドバンドの強度を等化する半導体光増幅器103とを有することを特徴としているため、変調器が1つ(半導体位相変調器102)だけであり、RF動作部分(変調動作部分)が1カ所である。このため、電気信号(変調信号)の位相調整のような複雑な調整をすることなく、正弦波の電気信号(変調信号)を入力するだけで、光強度のそろった9チャンネルの光周波数コムを発生することができるコンパクトな光周波数コム発生用の半導体光変調器を実現することができた。
【0032】
また、発生した光周波数コムの周波数間隔が25GHzであることから、光通信システムに用いられるアレー導波路回折格子フィルタ等で各々の光周波数コム(チャンネル)を切り出すことが可能となり、チャネル毎に異なる高速信号を重畳することが可能となった。
また、半導体位相変調器102と半導体光増幅器103を同一の半導体基板上にモノリシック集積したことによって、よりコンパクトな光周波数コム発生用の半導体光変調器を実現することができた。
【0033】
なお、ここではSI-InPで埋め込んだ埋め込み構造の光周波数コム発生用半導体光変調器を示したが、これに限定するものではなく、リッジ構造やハイメサ構造の素子でも、当該半導体光変調器が実現できることは自明である。
【0034】
<第2の実施例>
図4に基づき、本発明の第2の実施例に係る波長可変光周波数コム発生光源について説明する。
【0035】
図4に示すように、本発明の第2の実施例に係る波長可変光周波数コム発生光源120は、第1の実施例と同様の構成の光周波数コム発生用半導体光変調器100(半導体位相変調器102、半導体光増幅器103)に波長可変半導体レーザ121をモノリシック集積したことを特徴としている。即ち、光周波数コム発生光源120は、入力光を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器102と、この半導体位相変調器102によって発生したサイドバンドの強度を等化する半導体光増幅器103と、前記入力光を半導体位相変調器102へ出力する波長可変半導体レーザ121とを、同一のn-InP基板(半導体基板)上にモノリシック集積した構造のものであり、光強度のそろった光周波数コムを発生する(出力光104)。
【0036】
本第2の実施例の波長可変光周波数コム発生光源120では、波長可変半導体レーザ121として、分布反射鏡(Distributed Bragg Reflector: DBR)型半導体レーザを採用した。半導体位相変調器102と半導体光増幅器103の間と、波長可変半導体レーザ121と半導体光変調器102の間には、素子分離溝108がそれぞれ形成されている。波長可変半導体レーザ121における活性領域122と波長制御用DBRミラー部123A,123Bの間にも、素子分離溝108がそれぞれ形成されている。光周波数コム発生光源120(半導体光変調器103)の端面には、反射防止膜109が形成されている。
【0037】
光周波数コム発生光源120の製造工程1〜15を、以下に記述する。
1.オリフラが(011)方向となっている(100)面のn-InP基板上にn-InPバッファー層及びn-InPクラッド層を、有機金属化学気相蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition, MOCVD)を用いて成長する。
2.次に、1.15mm組成InGaAsP分離閉込(Separate Confinement Heterostructure, SCH)層(厚さ10nm)を成長し、その上に1.35mm組成のInGaAsPコア層(厚さ150nm)を成長する。
3.更に、1.15mm組成InGaAsP SCH層(厚さ10nm)、p-InPクラッド層(厚さ500nm)、1.55mm組成p-InGaAsPコンタクト層(厚さ50nm)を、順次成長する。上記工程2及び本工程3で半導体位相変調器102のエピタキシャル結晶構造を形成する。
4.このn-InP基板を結晶成長装置から取り出して、半導体位相変調器102をSiO2膜でカバーし、それ以外の1.15mm組成InGaAsP SCH層までの結晶をエッチングで除去する。
5.再度、このn-InP基板を結晶成長装置へ戻し、結晶を除去した部分へ、1.15mm組成InGaAsP SCH層(厚さ10nm)、1.55mm組成InGaAsP活性層(厚さ150nm)、1.15mm組成InGaAsP SCH層(厚さ10nm)、p-InPクラッド層(厚さ500nm)、1.55mm組成p-InGaAsPコンタクト層(厚さ50nm)を順次バットジョイント成長し、半導体光増幅器103及び波長可変半導体レーザ121の活性領域122のエピタキシャル結晶構造を形成する。
【0038】
6.このn-InP基板を結晶成長装置から取り出し、波長制御用DBRミラー部123A,123B以外の部分をSiO2膜でカバーし、1.15mm組成InGaAsP SCH層までの結晶をエッチングで除去する。
7.再度、このn-InP基板を結晶成長装置へ戻し、1.15mm組成InGaAsP分離閉込(Separate Confinement Heterostructure, SCH)層(厚さ10nm)を成長し、その上に1.3mm組成のInGaAsP導波層(厚さ150nm)を成長する。
8.更に、1.15mm組成InGaAsP SCH層(厚さ10nm)、1.05mm組成p-InGaAsP回折格子形成層(厚さ100nm)、p-InPクラッド層(厚さ20nm)を成長する。
9.このn-InP基板を結晶成長装置から取り出し、電子ビーム描画装置で波長制御用DBRミラー部123A,123Bのみに周期197nmの回折格子パターンを描画し、ドライエッチングにより回折格子を形成する。
10.再度、このn-InP基板を結晶成長装置へ戻し、p-InPクラッド層(厚さ380nm)、1.55mm組成p-InGaAsPコンタクト層(厚さ50nm)を、順次成長する。
【0039】
11.このn-InP基板を結晶成長装置から取り出し、素子ストライプ構造を電子ビーム描画装置で描画し、ドライエッチングによりメサストライプを形成する。
12.エッチングにより除去した領域に、電流狭窄用埋込層として、半絶縁(Semi-insulating, SI)InPを成長し、埋め込み構造を有する素子を形成する。
13.半導体位相変調器102と半導体光増幅器103にRF電極106とp-電極107をそれぞれ形成し、波長可変半導体レーザ121における活性領域122と波長制御用DBRミラー部123A,123Bに活性領域電流注入電極124と波長制御電極125A,125Bをそれぞれ形成する。また、半導体位相変調器102と半導体光増幅器103の間と、波長可変半導体レーザ121と半導体位相変調器102の間と、波長可変半導体レーザ121における活性領域122と波長制御用DBRミラー部123A,123Bの間の光導波路105部にそれぞれ素子分離溝108を形成することで、素子分離を行う。
14.このn-InP基板側(裏面側)に、素子(半導体位相変調器102、半導体光増幅器103、波長可変半導体レーザ121)に共通のn-電極110を形成する。
15.チップ(光周波数コム発生光源120)を劈開により取り出し、半導体光増幅器103の端面に反射防止膜109を形成する。
【0040】
以上の製造工程により作製した波長可変光周波数コム発生光源120からは、図8に示した光スペクトルと同じ光スペクトルが観測された。また、波長制御電極125A,125Bへ電流を流し、波長制御用DBRミラー部122の屈折率を制御することで、光スペクトルの中心波長を自由に変えることができ、1.54mmから1.55mmの範囲で光周波数コムの波長を制御することができた。
【0041】
以上説明したように、本第2の実施例の光周波数コム発生光源120によれば、入力光を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器102と、この半導体位相変調器102によって発生したサイドバンドの強度を等化する半導体光増幅器103とを有して成る半導体光変調器100と、前記入力光を半導体位相変調器102へ出力する波長可変半導体レーザ121とを有することを特徴としているため、変調器が1つ(半導体位相変調器102)だけであり、RF動作部分(変調動作部分)が1カ所である。このため、電気信号(変調信号)の位相調整のような複雑な調整をすることなく、正弦波の電気信号(変調信号)を入力するだけで、光強度のそろった9チャンネルの光周波数コムを発生することができ、且つ、その中心波長を自由に調整できるコンパクトな波長可変光周波数コム発生光源を実現することができた。
【0042】
また、発生した光周波数コムの周波数間隔が25GHzであることから、光通信システムに用いられるアレー導波路回折格子フィルタ等で各々の光周波数コム(チャンネル)を切り出すことが可能となり、チャネル毎に異なる信号を重畳することが可能となった。
また、半導体位相変調器102と半導体光増幅器103と波長可変半導体レーザ121とを同一の半導体基板上にモノリシック集積したことによって、よりコンパクトな光周波数コム発生光源を実現することができた。
【0043】
なお、ここでは波長可変半導体レーザとしてDBR型半導体レーザを採用したが、他の波長可変半導体レーザ(例えば、Y. Tohmoriらによる、IEEE Journal of Quantum Electronics vol.29, no. 6, pp. 1817-1823, 1993(非特許文献3)の報告にある、超周期構造回折格子DBRレーザや、H.Oohashiらによる、Proceedings of International conference on Indium Phosphide and Related Material, Paper FBI-2, pp. 575-578, 2001(非特許文献4)の報告にある、波長選択型DFBレーザアレー光源)を用いても、本発明による波長可変光周波数コム発生光源が実現できることは言うまでもない。
【0044】
<第3の実施例>
図5に基づき、本発明の第3の実施例に係る光周波数コム発生用の半導体光変調器について説明する。
【0045】
図5に示すように、本発明の第3の実施例に係る光周波数コム発生用の半導体光変調器130は、入力光101を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器102と、この半導体位相変調器102によって発生したサイドバンドの強度を等化するEr3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131とを有することを特徴とするものであり、光強度のそろった光周波数コムを発生する(出力光104)。
【0046】
半導体位相変調器102は、第1の実施例の半導体光変調器100における半導体位相変調器102と同様の構成のものである。半導体位相変調器102の両端面には、反射防止膜109がそれぞれ形成されている。
【0047】
Er3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131には、偏波保持WDMフィルタ133を介して励起用1480nm半導体レーザモジュール132が接続されている。励起モジュール132で励起されることでEr3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131は、1550nm帯の波長領域に光増幅作用を有する。また、半導体位相変調器102の出力は、偏波保持光ファイバ123に結合し、偏波保持WDMフィルタ133を介してEr3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131へ結合している。Er3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131の光増幅利得が飽和するように光入力101と励起モジュール132の出力を調整し、半導体位相変調器102のRF電極106に25GHzの正弦波電気信号を印加することで、光周波数間隔が25GHzの9チャンネルの光周波数コムを有する光出力104が確認できた。
【0048】
以上説明したように、本第3の実施例の半導体光変調器130によれば、入力光101を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器102と、この半導体位相変調器102によって発生したサイドバンドの強度を等化するEr3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131とを有することを特徴としているため、変調器が1つ(半導体位相変調器102)だけであり、RF動作部分(変調動作部分)が1カ所である。このため、電気信号(変調信号)の位相調整のような複雑な調整をすることなく、正弦波の電気信号(変調信号)を入力するだけで、光強度のそろった9チャンネルの光周波数コムを発生することができるコンパクトな光周波数コム発生用の半導体光変調器を実現することができた。
【0049】
また、発生した光周波数コムの周波数間隔が25GHzであることから、光通信システムに用いられるアレー導波路回折格子フィルタ等で各々の光周波数コム(チャンネル)を切り出すことが可能となり、チャネル毎に異なる高速信号を重畳することが可能となった。
【0050】
<第4の実施例>
図6に基づき、本発明の第4の実施例に係る光周波数コム発生光源について説明する。
【0051】
図6に示すように、本発明の第4の実施例に係る波長可変光周波数コム発生光源140は、入力光を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器102と、前記入力光を半導体位相変調器102へ出力する波長可変半導体レーザ121とを同一のn-InP基板(半導体基板)上にモノリシック集積した構造の半導体光変調器141と、半導体位相変調器102によって発生したサイドバンドの強度を等化するEr3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131とを有することを特徴とするものであり、光強度のそろった光周波数コムを発生する(出力光104)。
【0052】
半導体光変調器141の両端面には、反射防止膜109が形成されている。また、半導体光変調器141において、半導体位相変調器102と波長可変半導体レーザ121の間と、波長可変半導体レーザ121における活性領域122と波長制御用DBRミラー部123A,123Bの間には、素子分離溝108がそれぞれ形成されている。
【0053】
半導体光変調器141における半導体位相変調器102及び波長可変半導体レーザ121は、第2の実施例の光周波数コム発生光源120における半導体位相変調器102及び波長可変半導体レーザ121と同様のものである。即ち、半導体光変調器141の作製は、第2の実施例の光周波数コム発生光源120の製造工程において半導体光増幅器103の製造工程を省くことで行った。
【0054】
Er3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131には、偏波保持WDMフィルタ133を介して励起用1480nm半導体レーザモジュール132が接続されている。励起モジュール132で励起されることでEr3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131は、1550nm帯の波長領域に光増幅作用を有する。また、半導体位相変調器102の出力は、偏波保持光ファイバ134に結合し、偏波保持WDMフィルタ133を介してEr3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131へ結合している。Er3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131の光増幅利得が飽和するように半導体光変調器141の光出力と励起モジュール132の光出力を調整し、半導体位相変調器102のRF電極106に25GHzの正弦波電気信号を印加することで、光周波数間隔が25GHzの9チャンネルの光周波数コムを有する光出力104が確認できた。
【0055】
以上説明したように、本第4の実施例の光周波数コム発生光源140によれば、入力光を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器102と、前記入力光を半導体位相変調器102へ出力する波長可変半導体レーザ121とを有する半導体光変調器141と、半導体位相変調器102によって発生したサイドバンドの強度を等化するEr3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器131とを有することを特徴としているため、変調器が1つ(半導体位相変調器102)だけであり、RF動作部分(変調動作部分)が1カ所である。このため、電気信号(変調信号)の位相調整のような複雑な調整をすることなく、正弦波の電気信号(変調信号)を入力するだけで、光強度のそろった9チャンネルの光周波数コムを発生することができ、且つ、その中心波長を自由に調整できるコンパクトな波長可変光周波数コム発生光源を実現することができた。
【0056】
また、発生した光周波数コムの周波数間隔が25GHzであることから、光通信システムに用いられるアレー導波路回折格子フィルタ等で各々の光周波数コム(チャンネル)を切り出すことが可能となり、チャネル毎に異なる信号を重畳することが可能となった。
また、半導体光変調器141は、半導体位相変調器102と半導体光増幅器103とを同一の半導体基板上にモノリシック集積した構造のものであるため、よりコンパクトな光周波数コム発生光源を実現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は半導体光変調器及び光周波数コム発生光源に関するものであり、光ファイバ通信で必要なチャンネル間隔(25GHz間隔,50GHz間隔等)の光周波数コムを発生させる半導体光変調器及び光周波数コム発生光源に適用して有用なものである。
【符号の説明】
【0058】
100 光周波数コム発生用の半導体光変調器
101 入力光
102 半導体位相変調器
103 半導体光増幅器
104 出力光
105 光導波路
106 RF電極
107 p-電極
108 素子分離溝
109 反射防止膜
110 n-電極(裏面)
120 波長可変光周波数コム発生光源
121 波長可変半導体レーザ
122 活性領域
123A,123B 波長制御用DBRミラー部
124 活性領域電流注入電極
125A,125B 波長制御電極
130 光周波数コム発生用の半導体光変調器
131 Er3+ドープ偏波保持ファイバ増幅器
132 励起用1480nm半導体レーザモジュール
133 偏波保持WDMフィルタ
134 偏波保持光ファイバ
140 波長可変光周波数コム発生光源
141 半導体光変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光周波数コム発生用の半導体光変調器であって、
入力光を変調してサイドバンドを発生する半導体位相変調器と、
この半導体位相変調器によって発生したサイドバンドの強度を等化する光増幅器とを有することを特徴とする半導体光変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体光変調器において、
前記半導体位相変調器として、ポッケルス効果を用いた半導体位相変調器を用いたことを特徴とする半導体光変調器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体光変調器において、
前記光増幅器として、半導体光増幅器を用いたことを特徴とする半導体光変調器。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体光変調器において、
前記半導体位相変調器と前記半導体光増幅器が、同一の半導体基板上にモノリシック集積されていることを特徴とする半導体光変調器。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の半導体光変調器において、
前記光増幅器として、Er3+をドープした偏波保持ファイバ増幅器を用いたことを特徴とする半導体光変調器。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の半導体光変調器と、
前記入力光を前記半導体位相変調器へ出力する波長可変半導体レーザとを有することを特徴とする光周波数コム発生光源。
【請求項7】
請求項3に記載の半導体光変調器と、
前記入力光を前記半導体位相変調器へ出力する波長可変半導体レーザとを有し、
前記半導体位相変調器と前記半導体光増幅器と前記波長可変半導体レーザが、前記同一の半導体基板上にモノリシック集積されていることを特徴とする光周波数コム発生光源。
【請求項8】
請求項5に記載の半導体光変調器と、
前記入力光を前記半導体位相変調器へ出力する波長可変半導体レーザとを有し、
前記半導体位相変調器と前記波長可変半導体レーザが、同一の半導体基板上にモノリシック集積されていることを特徴とする光周波数コム発生光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−255857(P2012−255857A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127991(P2011−127991)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】