説明

半導体外観検査装置および検査方法

【課題】
電子ビーム式検査装置の高スループット化および検査画質向上には、偏向制御回路の出力波形の振り戻し時間短縮が課題となる。
【解決手段】
本発明は、検査試料の帯電特性に応じてGUI画面上スキャンモードを切り替え機能を行い時、スキャンモードと検査視野、画素サイズ、光学条件等具体的な検査条件に応じて、従来画像を取得しない偏向信号の振り戻す期間中、登録したパターンを有する試料を照射することにより画像を取得する。取得したから偏向信号の振り戻すアナログ波形を換算し、同アナログ波形と理想的な振り戻し波形を比較して補正データを抽出する。同補正データを偏向波形データ生成部に入力し、実際の波形が理想の波形に近づくように偏向波形データ生成を行うことで振り戻し時間を短縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細なパターンを有する半導体装置、基板、ホトマスク(露光マスク)、液晶等を検査する電子ビームを用いた検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程における異常や不良発生を、早期に、あるいは、事前に検知するため、各製造工程の終了時には半導体ウエハ上のパターン検査が行われる。
この欠陥を検査する方法として、分解能の高い電子ビーム画像を用いて、パターンを検査する方法および装置が実用化されている。実用化にあたって、ウエハの口径増大と回路パターンの微細化に追随して高スループット且つ高精度な検査を行なうためには、非常に高速に、高SNな画像を取得する必要がある。さらに、基板から発生する二次電子、反射電子の高速、且つ高効率な検出が必須である。また、レジスト等の絶縁膜を伴った半導体基板が帯電の影響を受けないように2keV以下の低加速電子ビームを照射している。
【0003】
特許文献1(特開平5−258703号公報)では、通常のSEMの100倍以上(10nA以上)の電子線電流を基板に照射し、発生する二次電子・反射電子・透過電子のいずれかを検出し、その検出信号から得られる画像により欠陥を検出する方法が提案されている。具体的には、ビーム偏向器は20極プレート2段で構成され、ビーム偏向制御回路は偏向波形発生部と、高電圧で低雑音の増幅アンプにより構成し、±180Vのランプ波形を発生することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2(特開2000−100362号公報)には、デジタル値を階段的に指定し、DA変換して得られる階段波を基本走査信号として用いるデジタル方式が提案されている。この方式では、走査信号の偏向位置と各種装置誤差情報、照射位置の高さ情報などから、走査制御および各種補正を、全てデジタル的な演算を用いて実施することが可能になることから、各種位置誤差の補正によるビーム照射位置の精度向上とビーム走査の自由度の向上が実現できる特徴がある。
【0005】
上記いずれの方式でも、偏向手段からランプ波形の偏向信号により試料を移動するステージの進行方向との垂直方向に電子ビームを高速に検査始点から終点までスキャンして画像を取得する。ここのステージの進行方向との垂直方向に行なっている一回スキャンはラインスキャンと呼ぶ。
従来のラインスキャン方式は、図2(a)に示すように、各スキャンがすべて実線で示した一方向にのみ電子ビームを照射して画像を取得する一方向ラインスキャン方式である。一回のラインスキャンが終了したらビームは図2(a)の点線で示したように次のラインススキャンの開始点まで移動する。この移動にかかる時間をビームの振り戻し時間と呼び、通常、この時間中は画像を取得しない。
図2(b)は一方向スキャンモードにおけるビーム走査の偏向制御信号(偏向電圧信号)波形を示すものであり、この波形の有効偏向部分(有効スキャン時間T_valid)は、所定の偏向視野と偏向時間によって決められた傾きで変化する。一方、ビームの振り戻し時間は、偏向制御信号の電圧値を終了時点の電圧から次のラインスキャンが要求する開始電圧まで出来るだけ早く変換することが要求される。
【0006】
しかし、電圧偏向出力回路の応答特性の影響により実際の偏向信号の振り戻しは一定の時間がかからないと、始点電圧まで戻らない現象がある。始点電圧が一定の電圧まで戻らないまま次のラインスキャンが始まると、各ラインに取得した画像の最初の部分に位置ずれが生じ、この位置ずれに起因して、取得した検査画像のスキャン開始領域の画質劣化や感度低下を招く。実際、振り戻し波形は、図2(b)の実線で示されるようなものとなり、点線で示される理想的な振り戻し波形との間でずれが生じる。
これを解消し、検査感度の要求仕様を満足するためには、振り戻し時間を延ばすことが考えられるが、図2(b)に示す無駄なスキャン時間T_invalidを増やすことになるため、新たにスループット低下の問題を招いてしまう。検査装置のスループットは単位面積あたりの検査時間の逆数で表しているため、無駄な時間T_invalidの長さ、詳しくは振り戻しに必要な整定時間の長さは装置スループット向上の支配的な障害になっている。
【0007】
この無駄時間T_invalidを短縮するための技術として、双方向スキャンモードがある。この双方向スキャンモードとは、図3(a)のように、例えば、(i)‘番目のスキャンでは左から右へ、(ii)’番目は右から左へ、(iii)‘番目はまだ左から右へ、というようにスキャン方向の切替を繰り返してスキャンを行なうものである。
双方向スキャンモードにおけるビーム走査の偏向制御信号(偏向電圧信号)波形は、図3(b)で示される通りであり、画像を取得する有効偏向部分(有効スキャン時間T_valid)は、一方向スキャンと同様、所定の偏向視野と偏向時間によって決められた傾きで変化する。一つのラインスキャンが終了後、偏向電圧を次のラインスキャンの始点が要求する電圧まで変化する。ただし、双方向スキャンの場合には、スキャン方向に沿って前のラインの終点と次のラインの始点位置が基本的に同じ領域であり、その差が微小であるため、ラインスキャン間に要求される偏向電圧の変化は小さく、無駄な時間T_invalidの短縮を図ることができる。すなわち、一方向スキャンと比較し、全体の検査時間が低減でき、スループット向上を図ることができる。
【0008】
しかし、一方向スキャンではラインスキャン時の各始点での試料の帯電状況はほぼ同じであったのに対し、双方向スキャンの場合には、検査試料の帯電特性により、前後ライン間のビームスキャン方向の違いに起因する帯電状況が異なり、取得した画像の画質が一致しない問題が新たに生じてしまう。この画質の違いはノイズとして見られるため、結果として検査感度に影響を及ぼすこととなる。
また、双方向スキャンの場合、前後ラインの終点・始点間の電圧値変換は小さいが、電圧の変化方向は逆であり、各点間の変化率が大きく異なることもある。アナログ電圧の変化率は連続的に変わるしかないため、やはりラインスキャンの間に一定の休止時間も必要となる。
【0009】
一方、特許文献3(特開2002−251975号公報)には、走査速度可変の走査形電子ビーム装置において、走査速度が速い場合走査領域の両端部付近の画質変化や偏向歪などによる性能劣化を防止するため、走査領域の両端部付近を、ブランキング信号の制御によって削除した画像信号に基づいて、欠陥を比較検査する手段技術が開示されているが、この技術でも、ラインスキャン間の余分な休止時間を要求する。
【0010】
【特許文献1】特開平5−258703号公報
【特許文献2】特開2000−100362号公報
【特許文献3】特開2002−251975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、検査装置の高感度・高スループット化を実現するには、各スキャンモードに対して、ラインスキャン間の余分な休止時間を最小化することが必要である。特に、偏向制御信号の振り戻し時間は検査時間の高速化・検査画像の画質向上の障害になり、短縮することは必須である。
また、実検査を行なう場合、一方向ラインスキャン方式と双方向ラインスキャン方式の各利点を有用に使用すべく、検査対象である試料の特性に応じて、スキャンモードの切り替えができるものが有効である。
【0012】
さらに、この休止時間に基づいて電子ビームの走査を制御する走査シーケンスやステージ速度等の設定は検査のスループットまたは検査感度に大きく影響するため、できるだけ精度良く設定することが必要である。従来、休止時間をできるだけ少なく設定するためには、休止時間をある値に設定して実際にスキャンを行い、開始部分のノイズ量が許容値内かどうかを確認して、同ノイズ量に余裕があれば休止時間を短く、許容値を越えていれば休止時間を長く再設定するという作業を何度も繰り返して行なう必要があったが、スキャンモードの切り替えに伴い、ユーザはオンラインでこの休止時間を正確に設定することが必要であるが、休止時間は検査条件毎に違うため、従来のような設定方法では設定に膨大な時間が必要という問題があった。
【0013】
本発明は、電子ビームの走査を制御する偏向信号に対して、各スキャンライン間の偏向信号の整定時間を短縮し、同整定時間に起因するスループットの低下および画質劣化の問題を改善して、電子ビーム式走査装置の高スループット化と高感度を提供するものである。
また、本発明は、スキャンモードを切替を行なった時に、様々な検査条件に応じて必要な休止時間をGUI画面上で視認する手段を提供するものである。
さらに、本発明は、各スキャンモードに対して、様々な検査条件に応じて休止時間の長さとスキャン開始領域発生可能なずれ量の関係を定量的に計算および表示し、これに基づいて、ユーザに検査感度とスループットについて、効率よく最適値に設定する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一つの形態は、検査試料の帯電特性に応じてGUI画面上スキャンモードの切り替えを行ない、スキャンモードと検査視野、画素サイズ、光学条件等具体的な検査条件に応じて、従来においては画像を取得していなかった偏向信号の振り戻し時間についても、登録したパターンを有する試料に照射することによって得られた画像を取得するものである。そして、この取得した偏向信号から振り戻しのアナログ波形を換算し、このアナログ波形と理想的な振り戻し波形とを比較して抽出された補正データを偏向波形データ生成部に入力して、実際の波形が理想の波形に近づくように偏向波形データ生成を行なうことで、振り戻し時の整定時間を短縮させ、高スループットを実現するものである。
【0015】
また、本発明の他の形態は、まず、各スキャンモードに対して、各具体的な検査条件に応じて登録したパターンを有する試料を照射することにより従来を削除した画像を取得し、GUI画面上に表示される。続いて、取得した画像から偏向電圧信号の振り戻すアナログ波形信号を換算して、そのアナログ出力波形に基づいて、ユーザが設定した光学条件、画素サイズ、画素数、スキャン周期ばらつき等情報毎に休止時間により発生可能なスキャン開始領域ノイズ量を計算してGUI画面上に表示される。この表示された休止時間とスキャン開始領域ノイズの関係に基づいて、検出感度とスループットの最適な検査条件を選ぶことが可能となる。
【0016】
その他、本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば次の通りである。
(1)被検査試料を保持する試料台と、前記被検査試料に電子ビームを照射する照射手段と、前記電子ビームを偏向する偏向手段と、前記偏向手段に偏向制御信号を出力して前記偏向手段を制御する偏向制御手段と、前記制御された偏向手段により偏向された電子ビームによる前記被検査試料からの二次的な電子を検出する検出手段と、を有する検査装置であって、前記偏向制御手段は、偏向制御信号波形の電子ビームの振り戻し時間に対応する部分が補正された偏向制御信号により前記偏向手段を制御することを特徴とする検査装置である。
(2)被検査試料を保持するステージと、前記被検査試料に電子ビームを照射する電子源と、前記照射された電子ビームを集束するレンズ手段と、前記集束された電子ビームを偏向させる偏向手段と、前記偏向手段を制御する偏向制御手段と、前記照射された電子ビームにより前記被検査試料から二次的に発生する電子を検出する検出手段と、前記検出手段で得られた検出信号を画像信号に変換する変換手段と、前記画像信号に基づいた検査結果を表示する表示手段とを備え、前記偏向制御手段は、特定の登録パターンを有する試料に前記電子ビームを照射して取得した画像信号から偏向制御信号を換算する波形換算手段と、換算された前記偏向制御信号の波形から補正データを抽出する補正データ抽出手段と、抽出された補正データを用いて振り戻しの整定時間を短縮した偏向制御信号を生成する偏向波形データ生成手段を有することを特徴とする検査装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電子ビームの走査を制御する偏向信号の振り戻し波形を検出・補正を行って、振り戻しの整定時間を短縮することで、整定時間に起因するスループット低下と画質劣化の問題を改善することが可能となり、電子ビーム式走査装置の高感度・高スループット化を提供することができる。
また、各スキャンモードの様々な検査条件に応じて休止時間の長さとスキャン開始領域発生可能なずれ量の関係を定量的に計算と表示し、ユーザはこの表示結果に基づいて、検査感度とスループットの最適な設定を簡単に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明に係る検査装置の第一の実施の形態について、図1を用いて説明する。図1は電子ビーム走査式装置の構成例を示す概略ブロック図であり、ウエハ等の自動検査装置への適用例であって、各種システム制御を行なう全体制御部1と、全体制御部1からの指令に従って、電子銃30から集束レンズ36と静電電極板32で構成された偏向手段と対物レンズ37とを通ってステージ34上に設置された試料33に照射される電子ビーム31の偏向を制御する偏向制御部2と、試料33に照射された電子ビーム31によって発生する生成物を検出する検出器35と、検出器35により得られた生成物による信号を処理する信号処理部4と、得られた検査結果を表示するGUI画面5とを有して構成される。
【0020】
以下、検査装置の簡単な検査動作を示しながら、各部の詳細な説明と具体的な動作を示す。図1において、全体制御部1の中に設けられたシステム制御手段10は、検査シーケンスの決定を行い、各種走査パラメータおよびコマンドを偏向走査制御部11を通じて、偏向制御部2に転送する。偏向制御部2では、前記パラメータに従い、静電電極板32で構成された偏向手段に与える電圧を制御することで電子ビーム31を偏向し、ウエハやマスク等の試料33上の目標位置をスキャンする。そのとき発生する生成物が、検出器35並びに信号処理部4中に設けられた検出回路41とにより試料33の情報として取り込まれ、更に画像処理手段42がこの生成物の情報をビーム偏向位置の画素データとして処理することにより、試料33の画像データが得られる。取得した画像データは、画像処理手段42において、試料上の同パターンを持つ画像もしくは設計データと比較され、その結果を用いてシステム制御手段10によりパターンに差異のある個所の評価やプロセス管理の為のデータ処理を行なうことで検査を行い、検査結果をGUI画面5に表示する。
【0021】
偏向制御部2の偏向波形データ生成手段21は、全体制御部1の偏向走査制御部11からの走査制御パラメータにより、電子ビーム31を走査ラインの始点から終点まで直線的に走査できるようにランプ形の波形を有する偏向制御信号のデジタルデータを生成する。偏向波形発生手段22では前記生成した波形データからアナログ波形を変換し、その後、出力回路23で増幅された偏向制御信号に基づき、静電電極板32で構成される偏向手段を制御して電子ビーム31の偏向を制御する。同時にシステム制御部10からのコマンド指示に基づいて、試料が乗っているステージ34は電子ビーム31との垂直方向で低速移動する。電子ビーム31がラインの始点から終点まで一ラインのスキャンが完了したら、その間にステージ34の移動させて試料33上の次の走査目標ラインに走査開始領域を配置し、連続的に次のラインをスキャン始まる。
【0022】
ラインの連続的なスキャンモードとして、図1の上に示したように一方向スキャンモードと双方向スキャンモードがある。実検査を行なう時、検査対象の試料帯電特性に応じて、スキャンモードの切り替え機能が必要であるところ、本検査装置においては、ユーザの指示によりスキャンモードの切り替えが可能なスキャンモード制御手段13を全体制御部1中に配置することでこれを実現し、その結果はGUI画面5上で確認を行なう。
【0023】
一方、高速検査実現のためには、ビームができるだけ早くスキャンの始点に戻らせる必要があり、偏向系回路の応答特性の整定時間を考慮した上で、振り戻し信号の補正が必要である。さらに、検査条件により偏向信号の振幅や周期等は変化するため、それらの走査条件、例えば、スキャンモードを双方向スキャンから一方向スキャンに切り替えた時などの条件変化に応じて、正確かつ適切に補正を行なうことができる補正手段が必要となる。
【0024】
ここで、上記動作において、偏向制御信号の振り戻し補正の処理は大きく2つの段階からなる。第1の段階は、振り戻し波形の実波形の測定して理想の振り戻し波形との比較から補正データを抽出する段階である。通常の検査モードでは偏向信号の振り戻す間は画像を取得しないためにON状態とされるブランキング信号をOFF状態にし、予め登録した既知のパターンを有する試料を対象として振り戻す時間の画像データを取得することで、変更制御信号の振り戻し波形を測定し、整定時間の補正に用いる補正パラメータの抽出を行なう。
第2の段階は、抽出された補正パラメータを用いて通常の検査時における振り戻しの補正を行なう段階であり、走査毎の走査パラメータとの関係から適切な補正を行い、各検査条件にあった偏向制御信号を生成する。
【0025】
振り戻し波形の実波形の測定し、補正データを抽出する第1の段階では、まず、偏向系回路の振り戻し特性を測定する目的で、予め登録したパターンを有する試料(専用ウエハであっても通常検査に使用するウエハ中に専用のパターンを埋め込んだものでもよい)を利用して画像データを取得する。通常の検査と同様にシステム制御手段10から偏向制御手段2に各種走査パラメータを転送し、通常検査と同様にランプ偏向制御信号を生成する。但し、前述した通り、図4に示すように通常検査の場合は、偏向制御信号のランプ部分でブランキング信号をOFFにしてビームを試料に照射して画像を取得し、偏向信号の振り戻しの間はブランキング信号がONにして画像取らないが、上記の振り戻し波形を測定するモードでは通常検査とは逆に、偏向信号の振り戻し時にブランキング信号をOFFにして画像を取得する必要がある。一方、偏向信号のランプ部分でブランキング信号がONにして画像を取得しない。
【0026】
登録した専用パターンは、走査方向に沿って検出できる画像データの諧調値・位置及び画像データの取り込み周波数等の情報からビームの偏向電圧を換算できることを特徴とする。例えば、図5に示す走査始点からの距離に応じて唯一的な諧調値または走査始点からの距離に応じて周期的な諧調値を持つパターン等である。
【0027】
本発明に係る検査装置では、振り戻し波形の実波形を測定すべく、図1に示す通り、信号処理部4中に偏向波形換算手段43が設けられており、上記手法により検出された予め登録した既知のパターンの画像データから、図6に示した手順により波形データを求める。具体的には、画像処理手段42より得られた画像データ諧調値を調べ(ステップ601)、この諧調値と既知パターンを走査したときに設計上得られるべき画像データの位置情報から、実際に画像を取得する時の偏向位置の算出を行い(ステップ602)、対応する偏向振り戻し信号の電圧量を算出する(ステップ603)。さらに、画像データのID番号と画像の取り込み周波数からその偏向電圧に対応するタイミングを計算して(ステップ604)、偏向振り戻し信号の電圧・時間情報を得る。この時点で未処理の画像データがあれば、ステップ601に戻って、他の画像データについても同様の処理を繰り返し(ステップ605)、全ての画像データの処理が終了した時点で、近似・内挿処理を行い、偏向振り戻し波形を求める(ステップ606)。
【0028】
また、上記して得られた偏向振り戻し波形と理想の振り戻し波形との比較から補正データを抽出すべく、図1に示すように、全体制御部1中に補正データ抽出手段12が設けられており、図7のステップに従って補正データの抽出・登録が実行される。具体的には、GUI画面で測定条件、パラメータを設定し(ステップ701)、当該条件下で上記のように振り戻し波形を測定する(ステップ702)。ここで得られた振り戻し波形が最短であるかどうかを確認し(ステップ703)、最短で無ければその整定時間を測定して(ステップ704)再度振り戻し波形と理想な振り戻し波形との比較から差分データを抽出し(ステップ705)、差分データを一定の重み係数により加工して本来の振り戻し波形データに加算し、偏向波形データを更新する(ステップ706)。この更新後の偏向波形データを使用して再度偏向信号を生成し、振り戻し波形の測定を行って(ステップ702)、再度整定時間が最短であるかを確認する(ステップ703)。このように、測定した実振り戻し波形情報と理想の振り戻し波形の差を帰還入力信号として補正データを生成し、偏向データの振り戻し部分の調整を行なって、測定した振り戻し波形と理想の振り戻し波形とが一番近い場合、もしくは主要な整定時間が最小となる場合の補正データを最終の補正データとして登録する(ステップ707)。他の検査条件の補正データも必要な場合には同様のステップを繰り返すことで(ステップ708)、各検査条件において最適な補正データをそれぞれ抽出・登録することができる。
【0029】
以上の振り戻し波形の測定と補正データの抽出は、スキャンのモードの切り替え作業に伴い、ユーザからGUI画面上指定した検査条件、パラメータ等のコマンドに基づいて実施され、算出された補正データを、各検査条件毎に対応する装置定数としてシステム制御手段10又は偏向走査制御手段11に登録する(図1では偏向走査制御手段11に登録する例を示す)。
このように、登録するパターンを有する試料の画像データから振り戻し波形を測定し、補正データを抽出する偏向波形換算手段43、補正データ抽出手段12を備えることで、容易に振り戻し波形の測定が可能となり、しかもこの測定は、検査時と同じ動作状態において偏向回路の特性を測定することとなるので、正確な値を得ることが可能となる。
【0030】
なお、振り戻し波形測定法として上記では画像データを用いた例を示したが、これは振り戻し時の偏向電圧量が算出可能なものであれば、別の形態に置き換えることも可能である。例えば、前記既知パターンを等間隔に配置した直線パターンまたはドットパターンとし、走査時検出される信号を基にパターン間を横切る時間を測定するものであっても、そのタイミングでの偏向電圧差が近似的に算出可能であり、これらの特徴を有するパターンを登録パターンとして使用してもよい。
【0031】
次に、上記のように抽出・登録された補正データを用いて通常検査時の振り戻し波形の補正を行なう第2段階では、偏向制御部2に含まれる偏向波形データ生成手段21に対して、システム制御手段10及び偏向走査制御手段11により走査毎の走査パラメータとその走査パラメータに対応する補正用データが与えられることで、検査条件にあった補正がなされた偏向制御信号が形成される。
【実施例2】
【0032】
次に、本発明に係る検査装置の第二の実施形態について、図8、図9、図10を用いて説明する。
本発明に係る第二の実施形態の装置に関する基本構成は、図8に示す通り、第一の実施形態とほぼ同様であるため、一部説明を省略し、ここでは第一の実施形態と異なる部分を主として説明する。この異なる部分は、偏向制御信号の振り戻し波形を換算した後、スキャン開始領域ノイズ計算手段14により検査条件毎にノイズの予測値を計算し、GUI画面5上に表示する点であり、以下にその詳細を説明する。
【0033】
まず、第一の実施形態と同様に、偏向制御信号の振り戻しアナログ波形を換算し、換算された偏向波形の形状により一定の休止時間毎に発生可能なスキャン開始領域ノイズの大きさを予測する。
ここで、スキャン開始領域ノイズの発生原因について図9及び図10を用いて説明する。スキャン開始領域のノイズの原因は各ラインスキャンの開始位置ずれである。各ラインスキャンの開始位置は対応偏向電圧波形の始点電圧により決まるため、ノイズの原因は各ラインスキャン開始点の始点電圧のばらつきにより発生する。この開始点の始点電圧は、偏向振り戻し波形収束時の傾きと各ライスキャン開始タイミング(ラインスキャン周期)のばらつきにより決定する。図9はその偏向振り戻し波形収束時の傾きと各ライスキャン開始タイミングばらつきと取得画像の開始領域ノイズの関係を示すものであり、同図の左に、横軸を時間、縦軸を電圧で表したスキャンを制御する偏向電圧信号の波形を表示する。同図の右は、横方向にステージの移動方向、縦方向にビームのラインスキャン方法を表して、同図左に示す偏向信号に基づいてビームをスキャンして取得した画像である。このパターンは、ステージ移動方向に対して平行に、ラインスキャン方向に対して垂直に、等間隔で配置されたライン&スペースの標準パターンである。
【0034】
図9に示す偏向電圧信号(偏向制御信号)の波形は次の開始電圧に収束せず、かつラインスキャンの開始時間にばらつきがあるケースを示す。同図に示すように、次のスキャン開始時間となる時に、偏向波形は次の開始電圧まで収束していない為、異なる開始タイミングで始めたラインラインスキャンは、そのスキャンの開始電圧値の違いから、試料上の照射位置も異なってしまい、スキャン方向に沿って各ラインの位置ずれが生じる。
【0035】
そこで、本実施の形態では、偏向波形が次の開始電圧に向けの収束程度(傾き)とラインスキャン開始時間のばらつき範囲に基づき、ラインスキャン開始領域に発生するノイズの大きさを決定する。試料の帯電特性に応じて双方向スキャンから一方向スキャンにスキャンモードの切り替えを行なった時点で、ビーム電流、加速電圧等光学条件、及び検査画素サイズ、検査画素数、画像を取得するサンプリング速度等検査条件をGUI画面から入力した上、登録したパターンを使用して、実検査条件での偏向電圧振り戻し時間中の画像を取得する。取得した画像と事前に使用していたパターンの登録情報から波形換算手段で偏向電圧の振り戻し波形を換算する。換算した振り戻し波形の形状(収束前の傾き)に基づいて、想定するラインスキャン開始時間のばらつき範囲毎に発生可能なスキャン開始領域ノイズを計算する。
【0036】
ここで、以下にその計算方法について具体的に説明する。図10の左側に示すように、偏向電圧制御信号の収束波形上に、所定の休止時間tを中心として、スキャン周期のばらつき範囲ΔTに対応する一定の時間内、その収束波形の電圧変化量ΔV(t、ΔT)を計算する。検査画素数と検査視野に対応する偏向電圧の振り範囲から、以下の(式1)で一画素当りの偏向電圧感度を換算できる。
【0037】
(式1) δV_per_pixel= V_pp/画素数
さらに、ある休止時間tとあるスキャン開始時間のばらつき範囲ΔTに対して、発生可能な開始領域ずれノイズδN_startについては、以下の(式2)で計算可能である。
【0038】
(式2) δN_start(t,ΔT) = ΔV(t,ΔT)/δV_per_pixel
休止時間tと開始時間ばらつき範囲を選択可能な領域に振って計算すれば、これらのパラメータに対応するスキャン開始領域のノイズを定量的に計算できる。
【0039】
この結果は、図10の右側に示すようにGUI画面上に表示され、ユーザはスキャンモードの切り替えに伴ってステージ速度等検査条件を設定する際に、各検査条件に対応する発生可能なスキャン開始領域のノイズ量を視覚的に予測することが可能となる。このノイズ量を要求する検査感度を満足するために、休止時間またはステージの移動速度を効率よく最適値に設定することが可能である。
【実施例3】
【0040】
次に本発明に係る検査装置の第三の実施形態について、図11を用いて説明する。本実施形態の検査装置の構成は、ほぼ第一の実施形態と同様であるため、異なる点についてのみ説明する。
双方向スキャンを行なう場合、休止時間中の破線に示したようにフラットな電圧レベルを有する偏向電圧波形が理想であるが、実際には実線のような波形がなっている。同図に示すように、通常、目標終点電圧と始点電圧との間の時間では、走査領域の両端部付近の画質変化や偏向歪などによる性能低下を防止するため、走査領域の両端部付近を、ブランキング信号の制御によって削除した画像信号に基づいて、欠陥を比較検査している。但し、走査領域の両端部付近の画質変化や偏向ひずみ等範囲は光学条件、検査視野等検査条件によりか変わるため、各条件に応じて適切な領域を削除することが必要である。
【0041】
本実施形態は事前に登録したパターンを利用して、図11中のケース1のようなブランキング信号制御によって検査領域の両端部分を適切に削除し、有効な画像領域中のブランキング信号はONであり休止時間中はOFFであるケース2の制御により画像を取得して、GUI画面上に表示する。登録したパターンの画像情報と実際に取得した画像を比較すれば、正確に取得できる画像領域が分けられ、ブランキング信号により削除すべき信号領域も分かれる。画像を取得するサンプリング速度と事前に登録したパターンの画像情報より、必要なブランキング信号タイミングを計算することで、スキャンモードを切り替えた際、双方向スキャン時検査画像両端にカットが必要な領域とタイミングを視覚的に確認することができる。
【0042】
ここで、図11では一例として元々ケース1に削除された領域より若干広い領域の休止時間中の画像を取得すようなケース2のブランキング信号を示したが、その利点は視覚的に休止期間を確認しやすい点である。休止時間中の画像部分を確認できる範囲であれば、他の形のブランキング信号を用いてもよい。例えば、全走査領域にブランキング信号をOFFし、全走査領域の画像を取得してもよい。
【実施例4】
【0043】
次に、本発明に係る検査装置の第4の実施形態について図12を用いて説明する。本実施形態についても、第1の実施形態と共通する部分については一部説明を省略し、異なる点を主として説明する。
本実施形態において第1の実施形態と異なる部分は、振り戻し波形の測定手段の構成であり、本実施形態では、図12に示すように、増幅した偏向制御信号の出力部にて、デジタイザー、アナログ・デジタル変換回路等の偏向波形検出部61を用いて波形を直接検出する構成をとる。高電圧信号そのままで測定することが困難な場合には、抵抗分圧を利用して、検出手段が測定可能な範囲に縮小すればよい。
【0044】
振り戻し波形測定後の処理は、実施形態1と同様に、測定できた振り戻し波形と理想な波形信号とを比較し、整定時間を短縮するように補正データを計算して偏向波形と加算処理し、再度測定という測定フローを繰り返して、整定時間が一番短いか、あるいは所定の仕様を満たす補正データを抽出し、同検査条件の補正パラメータとして装置のデータベースに登録する。そして、実検査時には同値を用いることで、振り戻しの整定時間を短縮でき、高スループット化を実現することが可能となる。
上記測定方法は第1の実施形態1の画像データ換算方法と比較すると、波形を直接計測して補正できる点で有効である。
【0045】
以上のように、本発明を用いて偏向制御システムを構成することにより、電子ビームの走査を制御する偏向信号の振り戻し波形を検出・補正を行って、振り戻しの整定時間を短縮し、同整定時間に起因するスループット低下と画質劣化の問題を改善することが可能となり、電子ビーム式走査装置の高感度・高スループット化を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の電子ビーム走査式装置の構成例を示す概略ブロック図である。
【図2】一方向スキャンモード及び偏向走査信号の時間内訳の説明図である。
【図3】双方向スキャンモード及び偏向走査信号の時間内訳の説明図である。
【図4】一方向スキャン時通常検査と振り戻し波形測定時の制御ブランキング信号を示す図である。
【図5】登録パターンの検出画像データから振り戻し波形の換算例の説明図である。
【図6】振り戻し波形の換算手順の説明図である。
【図7】振り戻し波形補正データの抽出手順の説明図である。
【図8】本発明に係る検査装置の第2の実施形態の構成例を示す概略ブロック図である。
【図9】振り戻し波形収束状態及びスキャン開始時間ばらつきとノイズの関係を示す図である。
【図10】本発明に係る第2の実施形態の検査装置での検出結果の一例を示す図である。
【図11】双方向スキャン時通常検査と休止時間を確認時の制御ブランキング信号を示す図である。
【図12】本発明に係る検査装置の第4の実施形態の構成例を示す概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
1 全体制御部、2 偏向制御部、4 信号処理部、5 GUI画面、10 システム制御手段、11 偏向走査制御手段、12 補正データ抽出手段、13 スキャンモード制御手段、14 スキャン開始領域ノイズ計算手段、21 偏向波形データ生成手段、22 偏向波形発生手段、23 出力回路、30 電子銃、31 電子ビーム、32 静電電極板、33 試料、34 ステージ、35 検出器、36 集束レンズ、37 対物レンズ、41 検出回路、42 画像処理手段、43 偏向波形換算手段、61 偏向波形検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査試料を保持する試料台と、
前記被検査試料に電子ビームを照射する照射手段と、
前記電子ビームを偏向する偏向手段と、
前記偏向手段に偏向制御信号を出力して前記偏向手段を制御する偏向制御手段と、
前記制御された偏向手段により偏向された電子ビームによる前記被検査試料からの二次的な電子を検出する検出手段と、
を有する検査装置であって、
前記偏向制御手段は、
偏向制御信号波形の電子ビームの振り戻し時間に対応する部分が補正された偏向制御信号により前記偏向手段を制御することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の検査装置であって、
さらに、システム制御部を有し、
前記システム制御部に登録された補正データにより前記偏向制御信号は補正されることを特徴とする検査装置。
【請求項3】
被検査試料を保持するステージと、前記被検査試料に電子ビームを照射する電子源と、前記照射された電子ビームを集束するレンズ手段と、前記集束された電子ビームを偏向させる偏向手段と、前記偏向手段を制御する偏向制御手段と、前記照射された電子ビームにより前記被検査試料から二次的に発生する電子を検出する検出手段と、前記検出手段で得られた検出信号を画像信号に変換する変換手段と、前記画像信号に基づいた検査結果を表示する表示手段とを備え、
前記偏向制御手段は、
特定の登録パターンを有する試料に前記電子ビームを照射して取得した画像信号から偏向制御信号を換算する波形換算手段と、換算された前記偏向制御信号の波形から補正データを抽出する補正データ抽出手段と、抽出された補正データを用いて振り戻しの整定時間を短縮した偏向制御信号を生成する偏向波形データ生成手段
を有することを特徴とする検査装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の検査装置であって、
さらに、前記電子ビームを一方向に走査して前記被検査対象に基づく画像を取得する一方向走査モードと、二つの方向を交互に走査して前記被検査対象に基づく画像を取得する双方向走査モードとを切り替えるモード制御手段を有することを特徴とする検査装置。
【請求項5】
請求項4記載の検査装置であって、
前記一方向走査モードと前記双方向走査モードとはGUI画面上で切り替え可能であることを特徴とする検査装置。
【請求項6】
請求項3記載の検査装置であって、
前記偏向制御手段は偏向電圧を換算可能な明確な物理境界がある専用ウエハ又はユーザのウエハ中に埋め込んだ専用パターンを用いて電子ビームを照射して取得した画像信号から偏向制御信号を換算することを特徴とする電子ビームを用いた検査装置。
【請求項7】
請求項3記載の検査装置であって、
さらに、前記波形換算手段で換算したアナログ波形と走査スキャン周期のばらつきタイムにより休止時間の長さに対応する検査画像の開始領域に発生可能なノイズ量を計算する手段を備えたことを特徴とする電子ビームを用いた検査装置。
【請求項8】
請求項7記載の検査装置であって、
前記補正データ抽出手段は、一定な振り戻しの整定時間中に発生可能なノイズ量が所要な目標に以下になるように最適な補正データを抽出することを特徴とする検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−122055(P2009−122055A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298782(P2007−298782)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】