説明

半導体接着用熱硬化型樹脂組成物及びそれを用いた半導体装置

【課題】低弾性率かつ密着性に優れた半導体接着用熱硬化型樹脂組成物及びそれを用いた半導体装置を提供する。
【解決手段】(A)数平均分子量500以上30000以下で、かつ、1分子内に少なくとも1つの二重結合を有する炭化水素化合物又はその誘導体と、(B)1つ以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーと、(C)ラジカル重合触媒と、(D)一般式[I]で表されるジスルフィド環式基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体と、(E)充填材と、を必須成分とする半導体接着用熱硬化型樹脂組成物、及び該熱硬化型樹脂組成物を用いて得られた半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体接着用熱硬化型樹脂組成物及び半導体装置に係り、特に、低応力で高密着性の半導体接着用熱硬化型樹脂組成物及びその樹脂を用いた耐半田クラック性に優れた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の生産量は増加の一途をたどっており、これに伴い製造コストの削減は重要な課題となっている。半導体素子とリードフレームの接合方法として、金−シリコン共晶体等の無機材料を接着剤として用いる方法があるが、コストが高く、また熱応力により半導体素子の破壊が起こることもあるため、有機材料等に充填剤を分散させたダイアタッチペースト(ペースト状の接着剤)を使用する方法が主流となっている。
【0003】
一方、半導体装置としての信頼性は、特に耐半田クラック性が重要であるが、半導体素子とリードフレームの接着に用いられるダイアタッチペーストにも、半導体装置の耐半田クラック性を向上させるため、半導体素子とリードフレームとの線膨張率の差を緩和するために低弾性率化が求められている。従来から、低応力変性アクリレート及びゴム成分を使用したダイアタッチペーストが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−12637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまで半導体接着用熱硬化型樹脂組成物を低応力化しようとすると、同時に密着性の低下も起こってしまい、半導体装置の耐久性に影響を与えていた。そのため、低応力と、高密着という両特性を両立させた半導体接着用熱硬化型樹脂組成物が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、低弾性率であり、かつ、高密着性の両特性を有する半導体接着用熱硬化型樹脂組成物を提供し、この樹脂組成物を用いることで耐半田クラック性に優れた半導体装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の成分配合とすること、特に、ジスルフィド環式基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体を用いることで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明の半導体接着用熱硬化型樹脂組成物は、(A)数平均分子量500以上30000以下で、かつ、1分子内に少なくとも1つの二重結合を有する炭化水素化合物又はその誘導体と、(B)1つ以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーと、(C)ラジカル重合触媒と、(D)下記一般式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜14のアルキレン基を表わす。)で示されるジスルフィド環式基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体と、(E)充填材と、を必須成分とすることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の半導体装置は、上記本発明の半導体接着用熱硬化型樹脂組成物を用いて半導体素子を基板上に接着したことを特徴とする。
【0010】
さらに好ましい形態としては、(A)成分が室温で液状であり、かつ1分子内に少なくとも1つのアクリル基又はメタクリル基を有するものであって、(A)成分と(B)成分との質量比が90/10から10/90であり、(A)成分と(B)成分の合計質量100質量部に対して、(D)成分が1〜200質量部である半導体接着用熱硬化型樹脂組成物及びこの半導体接着用熱硬化型樹脂組成物を用いて得られた半導体装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の半導体接着用熱硬化型樹脂組成物は、低弾性率かつ高密着性の特性を有しており、これを用いた半導体装置は、耐半田クラック性が優れているので、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いられる(A)数平均分子量500以上30000以下で、かつ、1分子内に少なくとも1つの二重結合を有する炭化水素化合物又はその誘導体としては、例えば、ブチルゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ポリブタジエン等のジエン系ゴム、又はそれらの水素添加型などの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに好ましい形態としては室温で液状であり、かつ1分子内に少なくとも1つのアクリル基又はメタクリル基を有するものである。(A)成分としては、上記の化合物を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0013】
本発明で使用される(B)1つ以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーは、例えば、脂環式(メタ)アクリル酸エステル、脂肪族(メタ)アクリル酸エステル、芳香族(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられ、具体的には、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールジメタクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート等があるが、これらに限定されるものではない。(B)成分としては、上記の化合物を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0014】
本発明に用いられる(A)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計質量中に10〜90質量%含まれるものが好ましい。10質量%未満であると接着性が悪くなり、90質量%を超えると半導体接着用熱硬化型樹脂組成物の粘度が高くなり作業性に問題が生じるので好ましくない。
【0015】
本発明に用いられる(B)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計質量中に10〜90質量%含まれるものが好ましい。10質量%未満であると半導体接着用熱硬化型樹脂組成物の粘度が高く作業性が悪くなり、90質量%を越えると接着性に問題が生じるので好ましくない。
【0016】
本発明に用いられる(C)ラジカル重合触媒は、通常ラジカル重合に用いられている触媒であれば特に限定されないが、望ましいものとしては、急速加熱試験(試料1gを電熱板の上に乗せ、4℃/分で昇温したときの分解開始温度の測定試験)における分解開始温度が40〜140℃となるものが望ましい。分解開始温度が40℃未満だと、接着性熱硬化型樹脂組成物の常温における保存性が悪くなり、140℃を超えると硬化時間が極端に長くなる可能性がある。なお、ここで試料の加熱前の質量に対する1%質量減少時の温度を分解開始温度とする。
【0017】
この条件を満たす触媒の具体例としては、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、ジクミルパーオキサイド等が挙げられるが、これらは単独でも又は硬化性を制御するために2種類以上を混合して用いてもよい。さらに、接着性熱硬化型樹脂組成物の保存性を向上するために各種の重合禁止剤を予め添加しておくことも可能である。この(C)ラジカル重合触媒の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計質量100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。10質量部を越えると接着性熱硬化型樹脂組成物の粘度の経時変化が大きくなり作業性に問題を生じ、0.1質量部未満であると硬化性が著しく低下する可能性がある。
【0018】
本発明に用いられる(D)下記一般式[I]
【化2】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基を表す。好ましいRは水素原子又はメチル基である。Rは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜30、好ましくは1〜14、さらに好ましくは2〜12のアルキレン基を示す。Rに結合していてもよい置換基としては不飽和結合を有する炭化水素基、アルキル基、フェニル基と結合したアルキル基等である。)で表される(メタ)アクリル酸エステル誘導体である。
【0019】
この(メタ)アクリル酸エステル誘導体は、その構造内にジスルフィド環式基を有することを特徴とする。かかる化合物を含むプライマー又は接着剤は従来技術の問題を解決し、金、銀、白金、パラジウム等の貴金属及びその合金に対し、スズ電析や酸化処理等の煩雑な処理を施すことなく、強力かつ耐久的な接着性を発現できるだけでなく、優れた可とう性を有する特徴がある。
【0020】
本発明の一般式[I]式に示される(メタ)アクリル酸エステル誘導体は、特開平7−258248号公報に記載されているようにヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに、チオクト酸を触媒存在下、無溶媒又は不活性溶媒中でエステル化することによって得られる。
【0021】
この(D)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計質量100質量部に対して、1〜200質量部が好ましい。さらに2〜50質量部がより好ましい。1質量部未満であると接着性に問題が生じ、200質量部を越えると耐熱性が低下する可能性がある。
【0022】
本発明で用いられる(E)充填材としては、従来、樹脂中に含有可能なものとして公知なものであればよく、例えば、無機充填材、有機充填材等が挙げられる。無機充填材としては、例えば、金粉、銀粉、銅粉、アルミニウム粉等の金属粉や、溶融シリカ、結晶シリカ、窒化珪素、アルミナ、窒化アルミ、タルク等が挙げられる。これらの内、金属粉は主に導電性や熱伝導性を付与するために用いられる。有機充填材としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリテトラフロロエチレン等のフッ素樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ベンゾグアナミンやメラミンとホルムアルデヒドとの架橋物等が挙げられる。
【0023】
その中でも導電性の用途には特に銀粉の入手が容易なこと、形状や粒径の種類が多く、導電性が良好であり、加熱しても導電性が変化しない点で好ましく、絶縁用途の半導体樹脂ペーストにはシリカが入手の容易さと種類の豊富さの点で好ましい。これらの充填材は、ハロゲンイオン、アルカリ金属イオン等のイオン性不純物の含有量が10ppm以下であることが好ましい。また、充填材の形状としては、例えば、フレーク状、鱗片状、樹脂状、球状等のものが用いられる。
【0024】
必要とされる特性を付与するためには、上記以外の充填材を用いてもよい。例えば、粒径が1〜100nm程度のナノスケール充填材や、シリカとアクリルとの複合材、有機充填材表面に金属コーティングを施したもの等の様な有機化合物と無機化合物との複合充填材等が挙げられる。なお、本発明の充填材は、予め表面をアルコキシシラン、アシロキシシラン、シラザン、オルガノアミノシラン等のシランカップリング材等で処理したものを用いてもよい。
【0025】
この(E)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計質量100質量部に対して、20〜1500質量部が好ましい。さらに50〜1200質量部がより好ましい。20質量部未満であると熱時の接着強度が低下する虞があり、1500質量部を越えると粘度が増大し、作業性が低下する虞がある。
【0026】
本発明の半導体用熱硬化性樹脂組成物は、(A)〜(E)成分を必須成分とするが、それら以外にも必要に応じて硬化促進剤、ゴムやシリコーン等の低応力化剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、顔料、染料、消泡剤、界面活性剤、溶剤等の添加剤を適宜配合することができる。本発明の半導体用熱硬化性樹脂組成物は、(A)〜(E)成分、及びその他の添加剤等を予備混合し、ロール等を用いて混練した後、真空下脱泡する等の製造方法で得られる。
【0027】
本発明の半導体接着用熱硬化型樹脂組成物を用いて半導体装置を製造するには、公知の方法を用いればよく、例えば、半導体素子と基板との間に上記樹脂組成物を介して接着、固定することにより行われる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1〜2、比較例1〜2)
表1の配合に従って各成分を混合し、ロールで混練し、半導体接着用の樹脂ペーストを得た。得られた半導体接着用樹脂ペーストを以下の方法で評価した。その結果を表1に示す。なお、この実施例及び比較例で用いた材料は、下記の方法で入手したものである。
【0030】
(A)成分:アクリル変性ポリブタジエン(日本石油化学(株)製、商品名:MM−1000−80;数平均分子量:1000)
(B)成分:ラウリルアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステルLA)
(C)成分:ジクミルパーオキサイド(日本油脂(株)製、商品名:パークミルD)
【0031】
(D)成分:2−ヒドロキシエチルメタクリレート 6.50g(0.05モル)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド 10.30g(0.05モル)、チオクト酸(=6,8−ジチオオクタン酸) 10.36g(0.05モル)及びベンゼン 100gを500mL四つ口フラスコに入れて溶解し、室温で2週間撹拌し、次式で示す2−メタクリロイルオキシエチル6,8−ジチオオクタネート(以下、2−MEDTと称す。)を得た。
【化3】

(E)成分:充填剤1(銀粉;粒径 0.1〜30μm、平均粒径 3μm、フレーク状)
充填材2(シリカ;平均粒径 3μm、最大粒径 20μm、球状)
(その他):カップリング剤(信越化学工業(株)製、商品名:KBM−403;アルコキシシラン)
【0032】
<評価方法>
[粘度]:E型粘度計(3°コーン)を用いて、25℃、2.5rpmでの値を測定した。
[弾性率]:得られた半導体接着用樹脂組成物を用いて、4×20×0.1mmのフィルム状の試験片を作製し(硬化条件 150℃、30分)、動的粘弾性測定機(DMA)にて引張モードでの測定を行った。
測定条件は以下の通りである。
・測定温度:−100〜300℃
・昇温速度:5℃/分
・周波数:10Hz
・荷重:100mN
ここで、25℃における貯蔵弾性率を弾性率とし5000MPa以下の場合を合格とした。弾性率の単位はMPaである。
【0033】
[ポットライフ]:25℃の恒温槽内に半導体接着用樹脂ペーストを放置した時の粘度が初期粘度の1.5倍以上増粘するまでの日数を測定した。
[熱時接着強度]:2mm×2mmのシリコンチップを、半導体用樹脂ペーストを用いて銅フレームにマウントし、200℃、60分で硬化した。硬化後マウント強度測定装置を用い25℃、260℃での熱時ダイシュア強度を測定した。
【0034】
[耐パッケージクラック性]:6mm×6mmのシリコンチップを、ペーストを用いて銅フレームにマウントし、200℃中60秒間ホットプレート上(HP硬化)又はオーブンを使用し200℃、60分(OV硬化)で硬化した。これを京セラケミカル(株)製エポキシ封止材(商品名:KE−G1200)を用い、下記の条件で成形したパッケージを85℃、相対湿度85%、168時間吸湿処理した後、IRリフロー処理(260℃、10秒)を行い、パッケージの外部クラックの発生数を顕微鏡(倍率:15倍)で、また、パッケージの内部クラックの発生数を超音波顕微鏡で観察した。5個のサンプルについてクラックの発生したサンプル数を示す。
・パッケージ:80pQFP(14×20×2mm厚さ)
・チップサイズ:6mm×6mm(表面アルミ配線のみ)
・リードフレーム:銅
・封止材の成形:175℃、2分間
・ポストモールドキュアー:175℃、8時間
【0035】
【表1】

【0036】
以上より、ジスルフィド環式基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体を含有させることで、樹脂組成物の粘度及び弾性率を低減させ低応力化を達成しながら、同時に熱時接着強度を向上させることができ、この樹脂組成物により半導体素子を基板に接着した半導体パッケージが、耐半田リフロー性を向上させることもできることがわかった。したがって、本発明の樹脂組成物は、半導体接着用に特に優れたものであり、これを用いることで信頼性の高い半導体装置を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)数平均分子量500以上30000以下で、かつ、1分子内に少なくとも1つの二重結合を有する炭化水素化合物又はその誘導体と、
(B)1つ以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーと、
(C)ラジカル重合触媒と、
(D)下記一般式[I]
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜14のアルキレン基を示す。)で表されるジスルフィド環式基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体と、
(E)充填材と、
を必須成分とすることを特徴とする半導体接着用熱硬化型樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が室温で液状であり、かつ1分子内に少なくとも1つのアクリル基又はメタクリル基を有する請求項1記載の半導体接着用熱硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分と(B)成分との質量比が、90/10から10/90である請求項1又は2記載の半導体接着用熱硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)成分と(B)成分の合計質量を100質量部としたとき、前記(D)成分が1〜200質量部である請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体用熱硬化型樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の半導体接着用熱硬化型樹脂組成物を用いて、半導体素子を基板上に接着した半導体装置。

【公開番号】特開2013−4868(P2013−4868A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136496(P2011−136496)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】