説明

半導体積層構造及びこれを備えた光学素子並びに半導体積層構造における光学スペクトルの広帯域化方法

【課題】量子ドットのサイズ、組成等と独立に広帯域化を図ることのできる半導体積層構造及びこれを備えた光学素子並びに半導体積層構造における光学スペクトルの広帯域化方法を提供する。
【解決手段】半導体積層構造1において、基板10と、第1量子ドット層30と、スペーサ層40と、第2量子ドット層50と、キャップ層60と、をこの順で有し、スペーサ層40の厚さを、当該厚さの変化により光学スペクトルが実質的に変化する変化範囲とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の量子ドット層を有する半導体積層構造、これを備えた光学素子及び半導体積層構造における光学スペクトルの広帯域化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用装置や分光分析用の光源として、広帯域光源が用いられている。広帯域光源として、一般的にハロゲンランプが用いられているが、サイズが大きく、寿命が短く、熱線の影響が大きいという欠点を有している。
一方、半導体光学素子であるLED等は、ハロゲンランプと比較して、サイズが小さく、寿命が長く、特定波長領域のみの光を放出させることができるという利点があるが、光の半値幅は50nm程度と短い。
【0003】
そこで、本願発明者らは、III-V族半導体からなる量子ドットによる広帯域発光を提案している(例えば、特許文献1、2等参照)。この広帯域化方法では、量子ドットのサイズ及び組成を分散させることで、広帯域化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/055900号
【特許文献2】特開2009−044052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、量子ドットのサイズの分散を大きくすると、大型サイズのドットに歪みによる欠陥が生じてしまう。また、量子ドットの組成の分散を大きくすると、格子不整合が大きくなって、これによっても歪みによる欠陥が生じてしまう。このようにして生じた欠陥は、非発光の再結合中心として作用するため、サイズや組成の分散による広帯域化には限界があった。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、量子ドットのサイズ及び組成と独立に広帯域化を図ることのできる半導体積層構造及びこれを備えた光学素子並びに半導体積層構造における光学スペクトルの広帯域化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明では、基板と、第1量子ドット層と、スペーサ層と、第2量子ドット層と、キャップ層と、をこの順で有し、前記スペーサ層の厚さを、当該厚さの変化により光学スペクトルが実質的に変化する変化範囲とした半導体積層構造が提供される。
【0008】
上記半導体積層構造において、前記光学スペクトルは、前記スペーサ層が前記変化範囲よりも厚い場合の第1スペクトルと前記スペーサ層が前記変化範囲よりも薄い場合の第2スペクトルとを重ね合わせた形状を呈することが好ましい。
【0009】
上記半導体積層構造において、前記光学スペクトルは、前記第1スペクトル及び前記第2スペクトルよりも半値幅が大きいことが好ましい。
【0010】
また、前記目的を達成するため、本発明では、上記半導体積層構造と、前記半導体積層構造の基板側に形成される第1電極と、前記半導体積層構造のキャップ層側に形成される第2電極と、を備える光学素子が提供される。
【0011】
さらに、前記目的を達成するため、本発明では、基板と、第1量子ドット層と、スペーサ層と、第2量子ドット層と、キャップ層と、をこの順で配置し、前記スペーサ層の厚さを変化させることにより、光学スペクトルを実質的に変化させる半導体積層構造における光学スペクトルの広帯域化方法が提供される。
【0012】
上記半導体積層構造における光学スペクトルの広帯域化方法において、前記光学スペクトルは、前記スペーサ層が前記変化範囲よりも厚い場合の第1スペクトルと前記スペーサ層が前記変化範囲よりも薄い場合の第2スペクトルとを重ね合わせた形状を呈することが好ましい。
【0013】
上記半導体積層構造における光学スペクトルの広帯域化方法において、前記光学スペクトルは、前記第1スペクトル及び前記第2スペクトルよりも半値幅が大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、量子ドットのサイズ及び組成と独立に、スペーサ層の厚さを変化させて広帯域化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態を示す半導体積層構造の模式断面図である。
【図2A】図2Aは、半導体積層構造の製造方法の説明図であって、(a)は基板上に下地層を形成した状態を示し、(b)は下地層上に量子ドットを形成した状態を示す。
【図2B】図2Bは、半導体積層構造の製造方法の説明図であって、(c)は量子ドットが形成された下地層上にスペーサ層を形成した状態を示し、(d)はスペーサ層上に量子ドットを形成した状態を示す。
【図3】図3は、半導体積層構造のガスフローシーケンスの一例を示す。
【図4】図4は、スペーサ層の変化による発光波長と発光強度の変化を示すグラフである。
【図5】図5は、スペーサ層の厚さと、短波長側及び長波長側の光学スペクトルの強度の比を示すグラフである。
【図6】図6は、短波長側と長波長側の発光強度が等しいと見積もったスペーサ層厚さにおける、発光波長と発光強度を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の第2の実施形態を示す半導体積層構造を用いたLED素子の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1から図3は本発明の第1の実施形態を示すものであり、図1は半導体積層構造の模式断面図である。
【0017】
図1に示すように、半導体積層構造1は、基板10と、基板10上に形成された下地層20と、下地層20上に形成された第1量子ドット層30と、を備えている。また、半導体積層構造1は、第1量子ドット層30が形成された下地層20を覆うスペーサ層40と、スペーサ層40上に形成された第2量子ドット層50と、を備えている。さらに、半導体積層構造1は、第2量子ドット層50が形成されたスペーサ層40を覆うキャップ層60を備えている。
【0018】
基板10はIII−V族化合物半導体よりなる。本実施形態においては基板10はGaAsである。基板10の材質としては、下地層20、第1量子ドット層30、スペーサ層40、第2量子ドット層50及びキャップ層60の形成時の温度に耐えうるものであれば特に限定されず、各種の化合物半導体の他、金属酸化物等のセラミックスやサファイア等の鉱物を採用してもよい。基板10に用いて好適な化合物半導体としては、例えば、InP、GaInP、GaAs、GaP、AlAs、AlP、GaN、AlN、InN、AlInAs、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaInP等やIII族窒化物半導体を挙げることができる。また、基板10の厚さは特に限定されず、例えば625μm程度とすることができる。
【0019】
下地層20は、III−V族化合物半導体よりなる。本実施形態においては、下地層20はGaAsである。下地層20のIII−V族化合物半導体の種類は、第1量子ドット層30のIII−V族化合物半導体よりもバンドギャップの大きいものであれば特に限定されない。下地層20に用いて好適な化合物半導体としては、GaAsの他に例えば、InP、GaInP、GaN、AlN、InN、AlInAs、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaInAsP等やIII族窒化物半導体を挙げることができる。また、下地層20の厚さは特に限定されず、例えば90nm程度とすることができる。
【0020】
第1量子ドット層30の量子ドット32は、III−V族化合物半導体よりなる。本実施形態においては、第1量子ドット層30の量子ドット32はInAsである。量子ドット32の化合物半導体の種類としては、InAsの他に例えば、InAsP、InP、GaInAs、GaInAsP等やIII族窒化物半導体を挙げることができる。第1量子ドット層30の量子ドット32の平均高さ及び密度は特に限定されず、例えば0.5〜5nm程度、10〜1011cm−2程度の範囲内とすることができる。
【0021】
スペーサ層40は、III−V族化合物半導体よりなる。本実施形態においては、スペーサ層40はGaAsである。スペーサ層40のIII−V族化合物半導体の種類としては、第1量子ドット層30の量子ドット32のIII−V族化合物半導体よりもバンドギャップの大きいものであれば特に限定されない。スペーサ層40に用いて好適な化合物半導体としては、GaAsの他に例えば、InP、GaInP、GaN、AlN、InN、AlInAs、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaInAsP等やIII属窒化物半導体を挙げることができる。
【0022】
下地層20のIII−V族化合物半導体及びスペーサ層40のIII−V族化合物半導体は、第1量子ドット層30の量子ドット32のIII−V族化合物半導体よりもバンドギャップが大きい。これにより、半導体積層体1は、バンドギャップが大きい下地層20及びスペーサ層40の間に、バンドギャップが小さい第1量子ドット層30が挟まれた構造を有している。
【0023】
第2量子ドット層50の量子ドット52は、第1量子ドット層30の量子ドット32と同じIII−V族化合物半導体よりなる。本実施形態においては、第2量子ドット層50の量子ドット52はInAsである。量子ドット52の化合物半導体の種類としては、InAsの他に例えば、InAsP、InP、GaInAs、GaInAsP等やIII族窒化物半導体を挙げることができる。第2量子ドット層50の量子ドット52の平均高さ及び密度は特に限定されず、例えば0.5〜5nm程度、10〜1011cm−2程度の範囲内とすることができる。
【0024】
キャップ層60は、スペーサ層40と同じIII−V族化合物半導体よりなる。本実施形態においては、キャップ層60はGaAsである。キャップ層60のIII−V族化合物半導体の種類としては、第2量子ドット層50の量子ドット52のIII−V族化合物半導体よりもバンドギャップの大きいものであれば特に限定されない。キャップ層60に用いて好適な化合物半導体としては、GaAsの他に例えば、InP、GaInP、GaN、AlN、InN、AlInAs、GaInAsP、AlGaInAs、AlGaInAsP等やIII族窒化物半導体を挙げることができる。
【0025】
スペーサ層40のIII−V族化合物半導体及びキャップ層60のIII−V族化合物半導体は、第2量子ドット層50の量子ドット52のIII−V族化合物半導体よりもバンドギャップが大きい。これにより、半導体積層体1は、バンドギャップが大きいスペーサ層40及びキャップ層60の間に、バンドギャップが小さい第2量子ドット層50が挟まれた構造を有している。スペーサ層40の厚さは、当該厚さの変化により光学スペクトルが実質的に変化する変化範囲とされている。
【0026】
以下、本実施形態の半導体積層構造1の製造方法について、図2A、図2B及び図3を参照して説明する。図2A及び図2Bは半導体積層構造の製造方法の説明図であり、図3は半導体積層構造のガスフローシーケンスの一例を示す。
本実施形態の半導体積層構造1の製造方法は、下地層形成工程と、第1ドット形成工程と、スペーサ層形成工程と、第2ドット形成工程と、キャップ層形成工程とを備えている。
【0027】
これらの各工程は、有機金属気相成長法を用いて同一の反応室内で連続的に行う。この有機金属気相成長法では、反応室内に供給された原料ガス(有機金属のガス)が高温の状態になると分解、化学反応を起こし、基材や下地層等の上に結晶情報を引き継いでエピタキシャル成長する。
【0028】
この有機金属気相成長法では、原料ガスとして、例えば、TMAl(トリメチルアルミニウム、Al(CH)、TMIn(トリメチルインジウム、In(CH)、TEGa(トリエチルガリウム、Ga(C)、TMGa(トリメチルガリウム、Ga(CH)、TBAs(ターシャリブチルアルシン、t−CAsH)、AsH(アルシン)、TBP(ターシャリブチルホスフィン、t−CPH)やPH(ホスフィン)を適宜選択して用いることができる。
【0029】
また、反応室内への原料ガス供給時には、H、N等をキャリアガスとして用いることができる。これにより、結晶成長に十分な量の成長用原料をガスとして、安定した流量で供給することができる。
【0030】
<下地層形成工程>
下地層形成工程では、有機金属気相成長法により基板10上に下地層20を形成する。この下地層形成工程では、反応室内に基板10を配置し、反応室を下地層20を構成するIII族元素成分とV族元素成分を含む雰囲気にする。そして、基板10の温度をIII−V族化合物半導体が結晶成長する下地層形成温度にする。これにより、基板10の上にIII−V族化合物半導体たるGaAsを結晶成長させて下地層20を形成する(図2A(a))。
【0031】
本実施形態では、Hをキャリアガスとして、図3に示すように、TEGa及びTBAsをそれぞれ所定の流量で反応室に供給している。また、反応室を所定圧力とし、基板10の温度を下地層形成温度に設定した状態で、所定の下地層形成時間(図3中A)だけ保持する。TEGa及びTBAsの流量は、例えば、それぞれ200sccm及び19.7sccmとすることができる。また、反応室の圧力は、例えば、76Torrとすることができる。また、下地層形成温度及び下地層形成時間は、例えば500℃及び10分とすることができる。
【0032】
<第1ドット形成工程>
第1ドット形成工程では、有機金属気相成長法を用いて、下地層20上に量子ドット32を形成する。第1ドット形成工程では、反応室を第1量子ドット層30を構成するIII族元素成分とV族元素成分を含む雰囲気にする。これにより、下地層20上に、III−V族化合物半導体よりなる量子ドット32を形成する(図2A(b))。
【0033】
本実施形態では、図3に示すように、反応室へのTEGaの供給を停止した後、所定のインターバルをおいて反応室へTMInの供給を開始する。そして、反応室を所定圧力とし、基板10の温度を第1ドット形成温度に設定した状態で、所定の第1ドット形成時間(図3中B)だけ保持する。TMIn及びTBAsの流量は、例えば、それぞれ150sccm及び19.7sccmとすることができる。また、反応室の圧力は、例えば、76Torrとすることができる。また、スペーサ層形成温度及びスペーサ層形成時間は、例えば500℃及び4秒とすることができる。
【0034】
<スペーサ層形成工程>
スペーサ層形成工程では、有機金属気相成長法により第1量子ドット層30上にスペーサ層40を形成する。スペーサ層形成工程では、反応室をスペーサ層40を構成するIII族元素成分とV族元素成分とを含む雰囲気にする。そして、基板10の温度をIII−V族化合物半導体が結晶成長するスペーサ層形成温度にする。これにより、第1量子ドット層30の上にIII−V族化合物半導体たるGaAsを結晶成長させてスペーサ層40を形成する(図2B(c))。
【0035】
本実施形態では、図3に示すように、反応室へのTMInの供給を停止した後、反応室へTEGaの供給を開始する。そして、反応室を所定圧力とし、基板10の温度をスペーサ形成温度に設定した状態で、所定のスペーサ層形成時間(図3中C)だけ保持する。TEGa及びTBAsの流量は、例えば、それぞれ200sccm及び19.7sccmとすることができる。また、反応室の圧力は、例えば、76Torrとすることができる。また、スペーサ層形成温度及びスペーサ層形成時間は、例えば500℃とすることができる。スペーサ層形成時間を変化させることにより、スペーサ層40の厚さを変化させることができる。
【0036】
<第2ドット形成工程>
第2ドット形成工程では、有機金属気相成長法を用いて、スペーサ層40上に量子ドット52を形成する。本実施形態においては、第2ドット形成工程は、第1ドット形成工程と同じ条件である。第2ドット形成工程では、反応室を第2量子ドット層50を構成するIII族元素成分とV族元素成分を含む雰囲気にする。これにより、スペーサ層40上に、III−V族化合物半導体よりなる量子ドット52を形成する(図2B(d))。
【0037】
本実施形態では、図3に示すように、反応室へのTEGaの供給を停止した後、所定のインターバルをおいて反応室へTMInの供給を開始する。そして、反応室を所定圧力とし、基板10の温度を第2ドット形成温度に設定した状態で、所定の第2ドット形成時間(図3中D)だけ保持する。TMIn及びTBAsの流量は、例えば、それぞれ150sccm及び19.7sccmとすることができる。また、反応室の圧力は、例えば、76Torrとすることができる。また、スペーサ層形成温度及びスペーサ層形成時間は、例えば500℃及び4秒とすることができる。
【0038】
<キャップ層形成工程>
キャップ層形成工程では、有機金属気相成長法により第2量子ドット層50上にキャップ層60を形成する。キャップ層形成工程では、反応室をキャップ層60を構成するIII族元素成分とV族元素成分とを含む雰囲気にする。そして、基板10の温度をIII−V族化合物半導体が結晶成長するキャップ層形成温度にする。これにより、第2量子ドット層50の上にIII−V族化合物半導体たるGaAsを結晶成長させてキャップ層60を形成する(図1)。
【0039】
本実施形態では、図3に示すように、反応室へのTMInの供給を停止した後、反応室へTEGaの供給を開始する。そして、反応室を所定圧力とし、基板10の温度をスペーサ形成温度に設定した状態で、所定のキャップ層形成時間(図3中E)だけ保持する。TEGa及びTBAsの流量は、例えば、それぞれ200sccm及び19.7sccmとすることができる。また、反応室の圧力は、例えば、76Torrとすることができる。また、キャップ層形成温度及びキャップ層形成時間は、例えば500℃及び3分とすることができる。
【0040】
ここで、スペーサ層40の厚さによる半導体積層構造1の光学スペクトルの変化を、図4を参照して説明する。図4は、スペーサ層の変化による発光波長と発光強度の変化を示すグラフである。尚、図4のデータは、スペーサ層40の厚さによる光学スペクトルの変化を観察するため、第1量子データ層30と第2量子データ層50を同じ条件で作製している。また、発光波長及び発光強度のデータは、Arイオンレーザ(514.5nm、88mW)を励起光として用い、量子ドットの発光は20cmの分光器で分光した後、InGaAs光電子増倍管で検出した。また、測定温度は室温とした。
【0041】
図4に示すように、スペーサ層40が十分に厚いと1100nm付近をピークとした第1スペクトルとなり、スペーサ層40が十分に薄いと1195nm付近をピークとした第2スペクトルとなる。具体的には、スペーサ層40が100nmのときに1100nm付近がピークとなり、10nmのときに1195nm付近となる。そして、10nmを超えて100nm未満は、スペーサ層40の厚さの変化により光学スペクトルが実質的に変化する前述の変化範囲となっている。ここでいう「実質的に変化」とは、第1スペクトルと第2スペクトルとを重ね合わせた状態であることをいう。スペーサ層40の厚さが当該変化範囲であるとき、第1及び第2スペクトルの強度が実質的に1:1となる場合を除き、光学スペクトルはピークの長波長側又は短波長側に肩を有する。具体的には、スペーサ層40が50nmのときに1120nm付近がピークとなって長波長側に肩を有し、30nmのときに1190nm付近がピークとなって短波長側に肩を有している。スペーサ層40が30nm及び50nmの場合の光学スペクトルは、スペーサ層40が変化範囲よりも厚い場合の第1スペクトルと、スペーサ層40が変化範囲よりも薄い場合の第2スペクトルとを所定の比率で重ね合わせた形状を呈する。
【0042】
ここで、図5は、スペーサ層の厚さと、第1及び第2スペクトルの強度の比を示すグラフである。
図5に示すように、10nm、30nm、50nm及び100nmのデータに基づいて、スペーサ層40の厚さと第1及び第2スペクトルの強度の比を調べたところ、スペーサ層40の厚さが44nmのときに両者のスペクトルの強度が1:1となることがわかった。
【0043】
そこで、スペーサ層40を44nmとしたところ、図6に示すような光学スペクトルが得られた。図6は、短波長側と長波長側の発光強度が等しいと見積もったスペーサ層厚さにおける、発光波長と発光強度を示すグラフである。図6に示すように、光学スペクトルは、1155nmを中心とし、半値幅が第1スペクトルと比べて大きくなった。具体的に、第1スペクトルでは、半値幅が75nmであったところ、44nmのスペーサ層40を介在させることにより半値幅が123nmにまで拡大した。また、第2スペクトルの半値幅107nmよりも拡大した。
【0044】
このように、本実施形態の半導体積層構造1によれば、第1量子ドット層30上にスペーサ層40を形成して第2量子ドット層50を形成することにより、量子ドット32,52のサイズ及び組成と独立に、スペーサ層40の厚さを変化させて光学スペクトルの広帯域化を図ることができる。すなわち、第1量子ドット30と第2量子ドット50との間に前述の変化範囲とされたスペーサ層40を介在させた上で、これらの量子ドット32,52の組成やサイズを異なるものとすることにより、効果的に広帯域化を図ることができる。
【0045】
尚、前記実施形態においては、半導体積層構造1を発光させて取得した光学スペクトルに基づいて説明をしているが、半導体積層構造1を発光にも受光にも用いることができることはいうまでもない。
【0046】
また、前記実施形態においては、2つの量子ドット層を設けた例を示したが、3以上の量子ドット層を設けてもよいことは勿論である。3つの量子ドット層を有する半導体積層構造は、例えば、下地層、第1量子ドット層、第1スペーサ層、第2量子ドット層、第2スペーサ層、第3量子ドット層、キャップ層を、この順で形成して作製することができる。この場合、第2スペーサ層は、第2量子ドット層のキャップ層としても機能し、第1スペーサ層は、第2量子ドット層の下地層としても機能することとなる。
【0047】
図7は、本発明の第2の実施形態を示す半導体積層構造を用いたLED素子の模式断面図である。
図7に示すように、このLED素子101は、n型半導体基板110と、n型半導体層120と、下地層122と、第1量子ドット層30と、スペーサ層40と、第2量子ドット層50と、キャップ層60と、p型半導体層170とがこの順に積層されている。本実施形態においては、下地層122と、第1量子ドット層30と、スペーサ層40と、第2量子ドット層50と、キャップ層60と、が半導体積層構造をなしている。そして、スペーサ層40の厚さは、当該厚さの変化により光学スペクトルが実質的に変化する変化範囲とされている。
【0048】
また、n型半導体基板110の下面とp型半導体層170の上面には、それぞれ、n側オーミック電極111とp側オーミック電極171が形成されている。n側オーミック電極111は、下地層122側に形成される第1電極をなし、p側オーミック電極171は、キャップ層60側に形成される第2電極をなしている。n型半導体基板110、n型半導体層115,p型半導体層170は、半導体積層構造の第1量子ドット層30及び第2量子ドット層50を形成する半導体よりも禁制帯幅の大きい半導体を用いる。例えば、量子ドットがInAsの場合には、GaAsとすることができる。
【0049】
以上のように構成されたLED素子101は、順方向の電流を注入することにより、電子と正孔が第1量子ドット層30及び第2量子ドット層50に注入され、半導体積層構造から光が発せられる。この光の半値幅は、スペーサ層40が前述の変化範囲であることから、比較的大きいものとなっている。
【0050】
尚、第2の実施形態においては、光学素子としてLED素子を用いたものを示したが、LED素子をはじめとるす発光素子以外にも、受光素子として構成することもできるし、その他、具体的な細部構成は適宜に変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 半導体積層構造
10 基板
20 下地層
30 第1量子ドット層
32 量子ドット
40 スペーサ層
50 第2量子ドット層
52 量子ドット
60 キャップ層
101 LED素子
110 基板
111 n側オーミック電極
120 n型半導体層
122 下地層
170 p型半導体層
171 p側オーミック電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、第1量子ドット層と、スペーサ層と、第2量子ドット層と、キャップ層と、をこの順で有し、
前記スペーサ層の厚さを、当該厚さの変化により光学スペクトルが実質的に変化する変化範囲とした半導体積層構造。
【請求項2】
前記光学スペクトルは、前記スペーサ層が前記変化範囲よりも厚い場合の第1スペクトルと前記スペーサ層が前記変化範囲よりも薄い場合の第2スペクトルとを重ね合わせた形状を呈する請求項1に記載の半導体積層構造。
【請求項3】
前記光学スペクトルは、前記第1スペクトル及び前記第2スペクトルよりも半値幅が大きい請求項1又は2に記載の半導体積層構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体積層構造と、
前記半導体積層構造の基板側に形成される第1電極と、
前記半導体積層構造のキャップ層側に形成される第2電極と、を備える光学素子。
【請求項5】
基板と、第1量子ドット層と、スペーサ層と、第2量子ドット層と、キャップ層と、をこの順で配置し、
前記スペーサ層の厚さを変化させることにより、光学スペクトルを実質的に変化させる半導体積層構造における光学スペクトルの広帯域化方法。
【請求項6】
前記光学スペクトルは、前記スペーサ層が前記変化範囲よりも厚い場合の第1スペクトルと前記スペーサ層が前記変化範囲よりも薄い場合の第2スペクトルとを重ね合わせた形状を呈する請求項5に記載の半導体積層構造における光学スペクトルの広帯域化方法。
【請求項7】
前記光学スペクトルは、前記第1スペクトル及び前記第2スペクトルよりも半値幅が大きい請求項5または6に記載の半導体積層構造における光学スペクトルの広帯域化方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−38845(P2012−38845A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176135(P2010−176135)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年6月17日掲載 http://iccg16.tipc.cn/ http://210.72.154.189/Prelim_Abstract_Display.php?EID=765
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】