説明

半導体結晶による放射線検出器、及びこの検出器を製造する方法

放射線検出器が、第一の表面及び第一の表面の反対側の第二の表面を有する半導体結晶と、半導体結晶の第一の表面と電気的に結合されて、第一の電極と結晶との間に電流を流す第一の電極と、第一の電極と半導体結晶との間に部分的に透過性の電気的障壁を生成するように、第一の表面において半導体結晶と第一の電極との間に設けられる絶縁層とを含んでいる。絶縁層は、約50ナノメートルから約500ナノメートルにわたる厚みを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の各実施形態は一般的には、放射線検出器の分野に関し、さらに具体的には、半導体結晶による放射線検出器、及びこの検出器を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体結晶による放射線検出器は、室温で動作する能力があり、小型で耐久性があり、また半導体結晶に固有の他の特徴を有することから電離放射線を検出するのに用いられている。かかる検出器は、医療診断撮像、核廃棄物監視、工業プロセス監視、及び宇宙天文学を含めた広範な応用に用いられている。電離放射線には、アルファ粒子又はベータ粒子のような粒子放射線と、γ線又はX線のような電磁放射線との両方が含まれる。
【0003】
半導体結晶による放射線検出器は一般的には、広い禁止帯を有するCd−Zn−Te(CZT)のような半導体物質を用いる。従来のCZT放射線検出器は典型的には、第一の電極と第二の電極との間に位置するCZT結晶を含んでいる。これらの電極に跨がって、例えば外部電圧源からの外部電圧を第一及び第二の電極の少なくとも一方に印加することによりバイアス電圧が形成される。バイアス電圧は放射線検出器に電場分布を生ずる。電極の一方は読み出し電極であって一般に陽極電極と呼ばれ、他方の電極は陰極電極である。
【0004】
半導体結晶の内部に吸収された電離放射線によって半導体結晶の内部に発生される電子−正孔対は、分離してそれぞれ外部バイアスにある陽極電極及び陰極電極へ向かって移動し、各電極によって収集される。これらの移動する電子及び正孔が外部信号処理回路においてパルス信号を発生する。
【0005】
電離放射線によって発生される全ての電子及び正孔がそれぞれ陰極電極及び陽極電極によって収集されると、出力電荷信号は結晶の内部に蓄積した電離放射線のエネルギからの変化に正確に等しくなる。蓄積した電荷は電離放射線のエネルギに正比例するので、半導体放射線検出器は電離放射線のエネルギの測定値を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0290142号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、放射線検出器の性能は典型的には、電離放射線を分解する放射線検出器の能力を低下させる漏れ電流によって限定される。従って、漏れ電流を減少させた改良型放射線検出器、及びこの放射線検出器を製造する方法が得られると望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本書に開示される一実施形態によれば、放射線検出器が、第一の表面及び第一の表面の反対側の第二の表面を有する半導体結晶と、半導体結晶の第一の表面と電気的に結合されて第一の電極と結晶との間に電流を流す第一の電極と、第一の電極と半導体結晶との間に部分的に透過性の電気的障壁を生成するように、第一の表面において半導体結晶と第一の電極との間に設けられる絶縁層とを含んでいる。絶縁層は、約50ナノメートルから約500ナノメートルにわたる厚みを有する。
【0009】
本書に開示されるもう一つの実施形態によれば、放射線検出器を製造する方法が提供される。この方法は、カドミウム及びテルルを含む半導体結晶ブロックに勾配付きテルル・リッチ層を形成するために、半導体結晶ブロックの一つの表面をエッチングするステップと、テルル酸化層を形成するために、勾配付きテルル・リッチ層を酸化させるステップと、テルル酸化層に電極を形成するステップとを含んでいる。エッチングするステップは、半導体結晶ブロックの一部を、臭素、メタノール、乳酸、及びエチレングリコールを含む溶液に接触させることを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明のこれらの特徴、観点及び利点、並びに他の特徴、観点及び利点は、添付図面を参照して以下の詳細な説明を読むとさらに十分に理解されよう。図面全体にわたり、類似の参照符号は類似の部材を表わす。
【図1】本発明の一実施形態による半導体結晶による放射線検出器の断面図である。
【図2】読み出しピクセルのアレイとバイアス制御部分とを含む陽極電極の一例の上面図である。
【図3】本発明のもう一つの実施形態による半導体結晶による放射線検出器の断面図である。
【図4】それぞれ異なるバイアス電圧の下での放射線検出器の3種の実施例の漏れ電流を示す図である。
【図5】図4の拡大図である。
【図6】半導体結晶による放射線検出器を製造する例示的な工程の図である。
【図7】エッチング工程の後にオージェ電子分光法(AES)を用いた場合の半導体結晶ブロックの外面から半導体結晶ブロックの内部までのカドミウム、亜鉛及びテルルの濃度を示す図である。
【図8】エッチング工程の後に異なる酸化工程を用いた場合の半導体結晶ブロックの外面から半導体結晶ブロックの中心部までの酸素の濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本書に開示される各実施形態は、半導体結晶による放射線検出器に関するものである。この放射線検出器は、半導体結晶と電極との間に絶縁層を含んで、放射線検出器の漏れ電流を減少させる。また、本書に開示される各実施形態は、放射線検出器を製造する方法に関するものである。この方法は、半導体結晶ブロックに勾配付きテルル・リッチ層を形成するエッチング工程を含んでいる。以下、本発明の各実施形態について、添付図面を参照して議論する。説明を単純にする目的で、様々な実施形態にわたって共通の要素は同じ参照番号を共有するものとする。
【0012】
図1を参照して述べると、例示的な放射線検出器10が、第一の表面14及び第一の表面14の反対側の第二の表面16を有する半導体結晶12を含んでいる。第一の電極18が半導体結晶12の第一及び第二の表面14、16の一方と電気的に結合されて、第一の電極18と半導体結晶12との間に電流を流す。絶縁層20が、第一の電極18と半導体結晶12との間に部分的に透過性の電気的障壁を生成するように、第一又は第二の表面14、16において半導体結晶12と第一の電極18との間に形成されている。第二の電極22が、半導体結晶12の第一及び第二の表面14、16の他方と電気的に結合している。
【0013】
図示の実施形態では、半導体結晶12は、互いに反対側に位置する第一及び第二の表面14、16と、第一及び第二の表面14、16の間に側壁面24、26とを有する平坦なブロックとして構成されている。結晶の側壁面は、第一及び第二の表面以外に四つの表面を含んでいる。半導体結晶12はカドミウム及びテルルを含んでおり、半導体結晶12の実施形態は、CdTe、Cd−Zn−Te又はCd−Mn−Teを含み得る。一つの特定的な実施形態では、半導体結晶12はCdxZn1-xTeを含んでおり、「x」は0.6から1にわたる。もう一つの特定的な実施形態では、x=0.9である。
【0014】
第一及び第二の電極18、22の一方(例えば図示の実施形態では第二の電極22)が読み出し電極であって「陽極電極」と呼ばれ、第一及び第二の電極18、22の他方(例えば図示の実施形態では第一の電極18)は「陰極電極」と呼ばれる。図示の実施形態では、バイアス電圧(V)が陰極電極及び陽極電極18、22に印加される。バイアス電圧は、例えば、陽極電極22をアースに接続し、陰極電極18を外部電圧源(図示されていない)に接続することにより形成される。バイアス電圧(V)によって、放射線検出器10の内部に分布した電場(E)が生じ、この電場は、放射線検出器10の厚みに対するバイアス電圧の比となる。本発明の幾つかの実施形態では、電場(E)は100ボルト/センチメートル(V/cm)から20000V/cmにわたり、300V/cmから3000V/cmにわたり、又は1000V/cmから3000V/cmにわたる。幾つかの実施形態では、陰極電極18は、白金(Pt)、金(Au)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、又は酸化インジウムスズ(ITO)のような伝導性物質を含んでおり、厚みが10ナノメートルから1000ナノメートルにわたる。
【0015】
幾つかの実施形態では、陽極電極22は、互いに物理的に分離された複数の読み出しピクセル30を含んでいる。読み出しピクセル30は、1又は複数の横列、縦列又は格子を形成するように構成され得る。他の実施形態では、陽極電極22は1個の読み出しピクセルのみを含んでいてもよい。図示の実施形態では、陽極電極22は、フォトンを検出するように構成された作用面積を含んでおり、この作用面積は陽極電極への入射線束率に基づいて動的に調節可能自在である。本書では、「線束率(flow rate)」は秒当たり単位面積当たりの計数を指す。換言すると、陽極電極22の作用面積を検出器10の動作時に調節することができる。幾つかの実施形態では、線束率が高い場合には作用面積を減少させ、線束率が低い場合には増大させることができる。
【0016】
図2は、陽極電極22の一例の上面図である。図2の図示の実施形態に示すように、陽極電極22は、読み出しピクセル30に隣接して少なくとも一つのバイアス制御部分32を含んでいる。図示の実施形態では、各々の横列のバイアス制御部分32が共通バス28を介して互いに電気的に結合されている。放射線検出器10の動作時には、バイアス制御部分32及び読み出しピクセル30はバイアス制御回路33に結合され得る。バイアス制御回路33は線束率制御信号35を受け取って、バイアス制御部分32に加えられる電圧を中央の読み出しピクセル30の電圧に対して変化させることにより、陽極電極22の作用面積を調節する。線束率が低い場合には、バイアス制御部分32のバイアスは電子を読み出しピクセル30に押し出すために読み出しピクセル30よりも負にされる。線束率が高まるにつれて、バイアス制御部分32へのバイアスは、電子の一部を収集して陽極電極22の作用面積を縮小するように接地に近くされ、又は読み出しピクセル30よりも正にされる。バイアス制御部分32及び読み出しピクセル30の様々な構成が、本出願と共通の譲受人に譲渡された米国特許出願公開第2007/0290142号に記載され図示されている形式のものであってよく、この特許出願公開の開示内容を参照により本明細書に援用する。
【0017】
本発明の幾つかの実施形態では、読み出しピクセル30及びバイアス制御電極32は同じ物質を含んでいるが、他の実施形態では、読み出しピクセル30及びバイアス制御部分32は相異なる物質を含んでいてもよい。一実施形態では、半導体結晶12はP型半導体結晶であってCdTeを含む。一実施形態では、読み出しピクセル30がインジウム又はアルミニウムを含んでおり、バイアス制御部分32が金又は白金のような貴金属物質を含み得る。もう一つの実施形態では、半導体結晶12がN型半導体結晶であってCd−Zn−Teを含み、読み出しピクセル30が金又は白金のような貴金属物質を含み、バイアス制御部分32が例えばインジウム又はアルミニウムを含む。
【0018】
図1に戻り、図示の実施形態では、絶縁層20は半導体結晶12と第一の電極(陰極電極)18との間に位置している。一実施形態では、絶縁層20はテルル、酸素及びカドミウムを含んでいる。一実施形態では、絶縁層20でのテルルの濃度及び酸素の濃度は、結晶12から第一の電極18へ向かう方向で増大し、カドミウムの濃度は結晶12から陰極電極18へ向かう方向で減少する。もう一つの実施形態では、絶縁層20は、酸化アルミニウム又は窒化ケイ素を含む堆積絶縁体を含んでいる。幾つかの実施形態では、絶縁層20の厚みは約50ナノメートルから約500ナノメートルにわたる。一実施形態では、絶縁層20の厚みは約100ナノメートルから約200ナノメートルにわたる。一つの特定的な実施形態では、絶縁層20の厚みは140ナノメートルから170ナノメートルにわたる。従って、電子はこの障壁層によって検出器への流入を阻まれ、正孔はトンネル効果によって透過を許されて電極によって収集される。一実施形態では、放射線検出器10は、半導体結晶12の側壁面24、26に堆積させられた絶縁層39を含んでいる。絶縁層39は絶縁層20と同じ物質を有し得る。
【0019】
図3は、もう一つの実施形態による放射線検出器を示す。図3では、放射線検出器40が陰極電極18と半導体結晶12との間に絶縁層20を含んでおり、陽極電極22と半導体電極12との間に絶縁層42を含んでいる。
【0020】
本発明の各実施形態によれば、所載の絶縁層を含む放射線検出器10、40は、従来の放射線検出器に比較して減少した漏れ電流を有することが判明した。3種の検出器構成例での漏れ電流特性の比較を表1に示す。表1では、実施例1が従来の放射線検出器を示し、実施例2及び実施例3が、図1に関して記載したような陰極と半導体結晶との間に絶縁層を含む放射線検出器を表わす。実施例2及び実施例3はさらに、異なる陰極電極物質及び陽極電極物質を含む検出器を表わす。
表1
実施例1 実施例2 実施例3
絶縁層の厚み(ナノメートル) 0 160 160
半導体結晶物質 Cd0.9Zn0.1Te Cd0.9Zn0.1Te Cd0.9Zn0.1Te
陰極電極物質 インジウム インジウム 金
陽極電極物質 インジウム インジウム 金
バイアス電圧(ボルト) −600 −600 −600
平均漏れ電流(−nA/mm2) 10 0.03 0.02
半値幅(keV) 7.5 4.3 4.2
又は122keVのCo57線源でのエネルギ分解能
表1に示す結果によって実証されるように、従来の放射線検出器(実施例1)は平均漏れ電流が−10nA/mm2である。実施例2は実施例1のものと同じ半導体物質、同じバイアス電圧、並びに同じ陰極電極物質及び陽極電極物質を含んでいるが、平均漏れ電流は−0.03nA/mm2であって、実施例1に比較して大幅に減少している。さらに、実施例2及び実施例3の比較によって示すように、漏れ電流の減少は絶縁層20によって大きく影響されるが、異なる電極物質の利用によって大幅に変化することはない。
【0021】
さらに表1において実証されるように、実施例2及び実施例3は実施例1に比較してエネルギ分解能が大幅に改善されている。本書での「エネルギ分解能」との用語は、類似のエネルギ・レベルを有するエネルギ射線を区別する放射線検出器の能力を指しており、半値全幅(FWHM)法によって評価される。FWHM値が小さいほど、放射線検出器が高い検出分解能を有することを表わす。表1のFWHM値は、NOVA R&D, Inc.社によって提供されているRENA−3読み出しシステムによって測定されており、線源は122keV Co−57であった。データは、較正も補正も行なわない未処理スペクトルに基づいており、系の電子雑音は約3.6keVである。
【0022】
図4は、様々なバイアス電圧の下で測定される放射線検出器10、32の例(実施例4、実施例5)との従来の放射線検出器(実施例1)の漏れ電流比較であって、曲線34は従来の放射線検出器である実施例1の漏れ電流特性を表わし、曲線36は図1に示すような陰極電極18と半導体結晶との間に絶縁層を含む放射線検出器10の一例(実施例4)の漏れ電流特性を表わし、曲線38は、図3に示すような陰極電極と半導体結晶との間、及び陽極電極と半導体結晶との間に絶縁層を含む放射線検出器40のもう一つの例(実施例5)の漏れ電流特性を表わす。図示のように、実施例1と比較すると、実施例4は、例えば陽極電極がアースに接続されており、陰極電極がゼロよりも低い電位の電圧を印加されているときに、負のバイアス電圧において漏れ電流が大幅に低い。一方、実施例5は負及び正のバイアス電圧の両方で漏れ電流が大幅に低い。図5は、実施例4及び実施例5の漏れ電流をさらに分かり易くするために、同じ比較であるが図4よりも縦軸を拡大して示す。
【0023】
図6は、放射線検出器を製造する方法の一例を示す。図6を参照すると、この方法は、ステップ100において、勾配付きテルル・リッチ層を形成するために、半導体結晶ブロックの一つの表面をエッチングするステップと、ステップ102において、テルル酸化層を形成するために勾配付きテルル・リッチ層を酸化させるステップと、ステップ104において、テルル酸化層に電極を形成するステップとを含んでいる。一実施形態では、半導体結晶ブロックはカドミウム及びテルルを含んでいる。一つの特定的な実施形態では、半導体結晶ブロックはカドミウム、亜鉛及びテルルを含んでいる。もう一つの特定的な実施形態では、半導体結晶ブロックはカドミウム、マンガン及びテルルを含んでいる。
【0024】
ステップ100では、幾つかの実施形態では、半導体結晶ブロックの一部を、臭素、メタノール、乳酸、及びエチレングリコールを含む溶液に接触させて、半導体結晶ブロックのこの部分をテルル・リッチ層になるまでエッチングする。一実施形態では、半導体結晶ブロックの一つの表面のみを溶液に接触させて、半導体結晶ブロックに一つのテルル・リッチ層を形成する。もう一つの実施形態では、第一の表面、及び第一の表面の反対側の第二の表面を上述の溶液に接触させて、互いに反対側に位置する第一及び第二のテルル・リッチ層を形成する。さらにもう一つの実施形態では、半導体結晶ブロックの全体を溶液に接触させ、このようにして半導体結晶ブロックの外面全体をテルル・リッチ層にする。一実施形態では、半導体結晶ブロックを、0.5分間から10分間にわたる時間で18℃から30℃にわたる温度の下で溶液に浸漬させる。一実施形態では、溶液での臭素の容積百分率は1%から5%にわたる。
【0025】
一実施例として、Cd0.9Zn0.1Te結晶の一つの表面を、臭素、メタノール、乳酸、及びエチレングリコールを含む溶液に5分間にわたり20℃の温度の下で浸漬させた。臭素、メタノール、乳酸、及びエチレングリコールの比は約2:38:20:40であった。半導体結晶ブロックの外面から半導体結晶ブロックの内部までのカドミウム、亜鉛及びテルルの濃度をオージェ電子分光法(AES)を用いて測定したものを図7にそれぞれ曲線44、46、48として示す。スパッタリング時間を厚みとして較正することができ、スパッタリング時間は実質的に、厚みと線形の関係にある。図示のように、この実施例において形成されるテルル・リッチ層は約220秒に位置しており、この時間は較正の後には約160ナノメートルとなる。テルル・リッチ層におけるカドミウム、亜鉛及びテルルの濃度は実質的に線形に変化し、従ってエッチング工程は制御が容易である。
【0026】
ステップ102では、テルル・リッチ層を酸化させる。一実施形態では、テルル・リッチ層をH22水溶液に、3分間から30分間にわたる時間で40℃から150℃にわたる温度において接触させる。3種の実施例の酸素濃度をAES方法によって測定したものを図8に示す。これら3種の実施例は異なる酸化処理を用いることにより得られたものであり、図8ではそれぞれ参照番号50、52、54によって示す。第一の実施例は、半導体結晶のテルル・リッチ層を30%のH22水溶液に約30分間にわたり約20℃の温度の下で接触させることにより得られた。第二の実施例は、半導体結晶のテルル・リッチ層を、40mlの30%H22溶液に0.05gのK2Cr27を含ませたものに約30分間にわたり約20℃の温度の下で接触させることにより得られた。第三の実施例は、酸素プラズマ照射方法を用いて得られた。半導体結晶ブロックを真空圧が約3Paの真空室に載置した。酸素を20cm3/分(sccm)の流量で真空室に充填した。電極に−1000ボルト電位の電圧を印加して、半導体ブロックのテルル・リッチ層から100mmの間隔で隔設した。酸素分子は分解して酸化物イオンとなり、高電圧によって駆動されるテルル・リッチ層を酸化した。
【0027】
ステップ104では、第一の電極及び第二の電極が、例えば堆積工程を通じて半導体結晶の第一及び第二の表面に形成される。
【0028】
以上、本発明の好ましい例示的な実施形態と考えられるものについて本書に記載したが、本発明の他の改変は本書での教示から当業者には明らかであり、従って、本発明の要旨及び範囲に含まれるような全ての改変が特許請求の範囲に確保されることが望ましい。
【符号の説明】
【0029】
10:放射線検出器
12:半導体結晶
14:第一の表面
16:第二の表面
18:第一の電極
20:絶縁層
22:第二の電極
24、26:側壁面
28:共通バス
30:読み出しピクセル
32:バイアス制御部分
33:バイアス制御回路
34:従来の放射線検出器の漏れ電流特性
35:線束率制御信号
36:実施例4の放射線検出器の漏れ電流特性
38:実施例5の放射線検出器の漏れ電流特性
39:絶縁層
40:放射線検出器
42:絶縁層
44:カドミウム濃度
46:亜鉛濃度
48:テルル濃度
50、52、54:酸素濃度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の表面及び該第一の表面の反対側の第二の表面を有する半導体結晶と、
該半導体結晶の前記第一の表面と電気的に結合されて、前記第一の電極と前記結晶との間に電流を流す第一の電極と、
該第一の電極と前記結晶との間に部分的に透過性の電気的障壁を生成するように、前記第一の表面において前記半導体結晶と前記第一の電極との間に設けられる絶縁層であって、厚みが約50ナノメートルから約500ナノメートルにわたる絶縁層と
を備えた放射線検出器。
【請求項2】
前記半導体結晶はカドミウム及びテルルを含んでいる、請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
半導体結晶はカドミウム亜鉛テルル、又はカドミウムマンガンテルルを含んでいる、請求項2に記載の検出器。
【請求項4】
絶縁層はテルル、酸素、及びカドミウムを含んでおり、前記酸化層でのテルルの濃度及び酸素の濃度は前記結晶から前記第一の電極へ向かう方向で増大し、前記カドミウムの濃度は前記結晶から前記第一の電極へ向かう前記方向で減少する、請求項3に記載の検出器。
【請求項5】
前記絶縁層は、酸化アルミニウム又は窒化ケイ素を含む堆積絶縁体を含んでいる、請求項1に記載の検出器。
【請求項6】
前記絶縁層の厚みは約100ナノメートルから約200ナノメートルにわたる、請求項1に記載の検出器。
【請求項7】
前記絶縁層の厚みは140ナノメートルから170ナノメートルにわたる、請求項6に記載の検出器。
【請求項8】
物理的に分離された前記読み出しピクセルと、前記バイアス制御部分との間の電圧を制御するバイアス制御回路をさらに含んでいる請求項6に記載の検出器。
【請求項9】
前記半導体結晶の前記第二の表面に第二の電極をさらに含んでおり、前記第一及び第二の電極の一方が、互いから物理的に分離した複数の読み出しピクセルを含んでいる、請求項1に記載の検出器。
【請求項10】
前記第二の電極と前記半導体結晶との間に絶縁層をさらに含んでいる請求項9に記載の検出器。
【請求項11】
前記複数の読み出しピクセルに隣接して複数のバイアス制御部分をさらに含んでいる請求項9に記載の検出器。
【請求項12】
前記読み出しピクセル及び前記バイアス制御部分は相異なる物質を含んでいる、請求項11に記載の検出器。
【請求項13】
前記半導体結晶はP型半導体物質を含んでおり、前記読み出しピクセルはインジウム又はアルミニウムを含んでおり、前記バイアス制御部分は貴金属を含んでいる、請求項12に記載の検出器。
【請求項14】
前記半導体結晶はN型半導体物質を含んでおり、前記読み出しピクセルは貴金属を含んでおり、前記バイアス制御部分はインジウム又はアルミニウムを含んでいる、請求項12に記載の検出器。
【請求項15】
カドミウム及びテルルを含む半導体結晶ブロックに勾配付きテルル・リッチ層を形成するために、前記半導体結晶ブロックの一つの表面をエッチングするステップと、
テルル酸化層を形成するために、前記勾配付きテルル・リッチ層を酸化させるステップと、
前記テルル酸化層に電極を形成するステップと
を備えた放射線検出器を製造する方法であって、
前記エッチングするステップは、前記半導体結晶ブロックの一部を、臭素、メタノール、乳酸、及びエチレングリコールを含む溶液に接触させることを含んでいる、方法。
【請求項16】
前記溶液での臭素の容積百分率は1%から5%にわたる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
臭素、メタノール、乳酸、及びエチレングリコールの比は約2:38:20:40である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記エッチングするステップは、18℃から30℃にわたる温度の下で0.5分間から10分間にわたる時間で行なわれる、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記半導体結晶はカドミウム亜鉛テルルを含んでいる、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記半導体結晶はテルル化カドミウムマンガン結晶である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記勾配付きテルル・リッチ層を酸化させるステップは、前記勾配付きテルル・リッチ層を、40℃から150℃にわたる温度においてH22水溶液に接触させることを含んでいる、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−503481(P2013−503481A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526798(P2012−526798)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/044231
【国際公開番号】WO2011/025631
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】