説明

半導体結晶の製造方法および半導体基板

【課題】フラックス法において、高品質な半導体結晶を低コストで生産すること。
【解決手段】まず、MOVPE法に従う結晶成長によって、厚さ約400μmのシリコン基板11の上にAlGaNから成る膜厚約4μmのバッファ層12と、その後のフラックス法に基づく結晶成長の初期段階において消失されない程度の厚さのGaN層13を積層する。ヒータを加熱して混合フラックスの熱対流を発生させることにより、フラックスを攪拌混合させつつ所定の結晶成長条件を継続的に維持した。この時、混合フラックスと窒素ガスとの界面付近が、継続的に III族窒化物系化合物半導体の材料原子の過飽和状態となるので、所望の半導体結晶(n型GaN単結晶20)をテンプレート10の結晶成長面から順調に成長させることができ、これによって、低転位のn型の半導体結晶(n型GaN単結晶20)が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶を、フラックスを用いて結晶成長させるフラックス法と、それを用いて製造される半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウム(Na)フラックス中で窒化ガリウムを結晶成長させる従来のNaフラックス法によれば、約5MPa程度の圧力下において600℃〜800℃の比較的低い温度で、GaN単結晶を結晶成長させることができる。
【0003】
また、下記の特許文献1〜特許文献5に開示されている従来技術などからも分かる様に、 III族窒化物系化合物半導体結晶をフラックス法によって結晶成長させる従来の製造方法では、通常、下地基板(種結晶)として、サファイア基板上にバッファ層などの半導体層を積層したテンプレートや、GaN単結晶自立基板などが専ら用いられている。
【特許文献1】特開平11−060394号公報
【特許文献2】特開2001−058900号公報
【特許文献3】特開2001−064097号公報
【特許文献4】特開2004−292286号公報
【特許文献5】特開2004−300024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のNaフラックス法では、透明で転位密度が低く結晶成長面が略平面の高品質な半導体結晶を得ることは困難であった。また、従来のNaフラックス法では、結晶成長速度や収率にも問題があり、このため、電子デバイス基板などへの実用化は困難であった。これらの問題は、Inx Aly Ga1-x-y N(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)から成るその他の III族窒化物系化合物半導体の結晶成長についても同様である。
【0005】
また、前述の様なテンプレートを用いた場合、 III族窒化物系化合物半導体からなる所望の半導体結晶とサファイア基板との間には大きな熱膨張係数差があるため、所望の半導体結晶を厚く積層すると、反応室から半導体結晶を取り出す際にその結晶中にクラックが多数発生してしまう。このため、下地基板として上記の様なテンプレートを用いた場合、例えば膜厚400μm以上の高品質な半導体結晶を得ることは困難となる。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、フラックス法において、高品質な半導体結晶を低コストで生産することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、本発明の第1の手段は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の中から選択された複数種類の金属元素を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法において、混合フラックスと III族元素とを攪拌混合しながら III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させることである。
【0008】
ただし、本願発明における攪拌混合処理は、揺動、回動、回転などによって反応容器を物理的に運動させることによって実施しても良いし、攪拌棒や攪拌羽根などを用いてフラックスを攪拌することによって実施しても良いし、或いは、加熱手段などを用いてフラックス中に熱勾配を生じさせ、これによってフラックスを熱対流させることで実施しても良い。即ち、本願発明における攪拌混合の処理方式は任意で良い。また、これらの方式は、適当に任意に組み合わせて実施しても良い。
【0009】
また、本発明の第2の手段は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の中から選択された複数種類の金属元素を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法において、 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる下地基板の少なくとも一部に、混合フラックスに溶解する可溶材料を用い、かつ、この可溶材料を III族窒化物系化合物半導体結晶の結晶成長工程中に、または III族窒化物系化合物半導体結晶の結晶成長工程後にその成長温度付近で、当該混合フラックス中に溶解させることである。
【0010】
ただし、上記の可溶材料としては、シリコン(Si)などを用いることができるが、必ずしもこれに限定する必要はない。
また、上記の可溶材料の露出面上に保護膜を形成し、その保護膜の厚さ又は成膜パターンによって、上記の可溶材料がフラックスに溶解する時期または溶解速度を任意に制御することも可能である。この様な保護膜の材料としては、例えば窒化アルミニウム(AlN)やタンタル(Ta)などを用いることができ、これらの保護膜は、結晶成長や真空蒸着やスパッタリングなどの周知の方法によって成膜させることができる。
【0011】
また、本発明の第3の手段は、上記の第2の手段において、上記の可溶材料の少なくとも一部に、所望の III族窒化物系化合物半導体結晶の中に添加すべき不純物を含有させることである。
ただし、必要とされる不純物だけでこの可溶材料の全体を構成しても良い。
【0012】
また、本発明の第4の手段は、上記の第2又は第3の手段において、混合フラックスと III族元素とを攪拌混合しながら III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させることである。
ただし、この場合の攪拌混合処理の実施様態に付いても、前記と同様の任意性が許容され得る。
【0013】
また、本発明の第5の手段は、上記の第1乃至第4の何れか1つの手段において、上記の混合フラックスを、少なくともリチウム(Li)又はカルシウム(Ca)、並びにナトリウム(Na)から構成することである。
即ち、用いる混合フラックスのNaに次ぐ第2の主要成分をリチウム(Li)またはカルシウム(Ca)の少なくとも何れか一方とすることである。
【0014】
また、本発明の第6の手段は、上記の第1乃至第5の何れか1つの手段において、 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる前に、水素(H2 )ガス、窒素(N2 )ガス、アンモニア(NH3 )ガス、希ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、またはRn)またはこれらのガスのうちから2種類以上のガスを任意の混合比で混合した混合ガスをクリーニングガスとして、900℃以上1100℃以下の温度で、1分以上の時間を掛けて、種結晶または前記下地基板の結晶成長面をクリーニング処理することである。
ただし、このクリーニング処理に掛ける上記の時間は、2分以上10分以下がより望ましい。
【0015】
また、本発明の第7の手段は、上記の第1乃至第6の何れか1つの手段において、所望の III族窒化物系化合物半導体結晶の中に添加すべき不純物として、当該混合フラックス中に、ボロン(B)、タリウム(Tl)、カルシウム(Ca)、カルシウム(Ca)を含む化合物、珪素(Si)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、アルミナ(Al2 3 )、窒化インジウム(InN)、窒化珪素(Si3 4 )、酸化珪素(SiO2 )、酸化インジウム(In2 3 )、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、またはゲルマニウム(Ge)を含有させることである。
これらの不純物は、1種類だけを含有させても良いし、同時に複数種類を含有させても良い。これらの選択や組み合わせは任意で良い。
【0016】
また、本発明の第8の手段は、 III族窒化物系化合物半導体結晶からなる半導体基板において、請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法によって、その表面の転位密度を1×105 cm-2以下とし、その最大径を1cm以上にすることである。
ただし、上記の転位密度は、低いほど望ましく、また上記の最大径は大きいほど望ましい。特に、工業的な実用性を考慮すると、所望の半導体基板は、直径約45mm程度の円形のものや、約27mm四方の角形のものや、或いは約12mm四方の角形のものなどがより望ましい。
【0017】
また、本発明の第9の手段は、上記の第8の手段において、上記の半導体基板の厚さを300μm以上にすることである。
ただし、上記の半導体基板の厚さは、400μm以上がより望ましく、更に望ましくは400μm〜600μm程度が良い。
【0018】
また、本発明の第10の手段は、上記の第8又は第9の手段において、含有されるリチウム(Li)の体積密度を1×1017cm-3以下にすることである。
【0019】
また、本発明の第11の手段は、上記の第8乃至第10の何れか1つの手段において、基板表面の高さ平均面を基準面とする基板表面の各部の高さ変位の二乗平均の平方根によって示される基板表面粗さを3.0nm以下にすることである。ただし、この基板表面粗さのより望ましい値は1.0nm以下であり、更に望ましくは0.3nm以下である。
【0020】
また、本発明の第12の手段は、上記の第8乃至第11の何れか1つの手段において、基板表面の曲率半径を50cm以上にすることである。ただし、この曲率半径のより望ましい値は1m以上であり、更に望ましくは2m以上であり、更に望ましくは4m以上である。
【0021】
また、本発明の第13の手段は、上記の第8乃至第12の何れか1つの手段において、波長が460nmの青色光の基板に垂直な方向の透過率を0.20以上にすることである。ただし、この透過率のより望ましい値は、0.40以上であり、更に望ましくは0.60以上である。
また、本発明の第14の手段は、上記の第8乃至第13の何れか1つの手段において、波長が380nmの青紫色光の基板に垂直な方向の透過率を0.10以上にすることである。ただし、この透過率のより望ましい値は、0.30以上であり、更に望ましくは0.50以上である。
【0022】
また、本発明の第15の手段は、上記の第8乃至第14の何れか1つの手段において、基板に垂直な方向の電気伝導率を25Ω-1cm-1以上にすることである。ただし、この電気伝導率のより望ましい値は、50Ω-1cm-1以上であり、更に望ましくは80Ω-1cm-1以上である。
【0023】
また、本発明の第16の手段は、上記の第8乃至第15の何れか1つの手段において、基板に垂直な方向の熱伝導率を0.6W/cm℃以上にすることである。ただし、この熱伝導率のより望ましい値は、0.9W/cm℃以上であり、更に望ましくは1.3W/cm℃以上である。
【0024】
また、本発明の第17の手段は、上記の第8乃至第16の何れか1つの手段において、(002)面で反射されるX線のXRDピーク半値幅を500arc.sec.以下にすることである。ただし、このピーク半値幅のより望ましい値は、150arc.sec.以下であり、更に望ましくは50arc.sec.以下である。
【0025】
また、本発明の第18の手段は、上記の第8乃至第17の何れか1つの手段において、(100)面で反射されるX線のXRDピーク半値幅を500arc.sec.以下にすることである。ただし、このピーク半値幅のより望ましい値は、100arc.sec.以下であり、更に望ましくは30arc.sec.以下である。
【0026】
また、本発明の第19の手段は、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法において、請求項8乃至請求項18の何れか1項に記載の半導体基板を結晶成長基板として用いることである。
また、本発明の第20の手段は、上記の第19の手段においてInx Aly Ga1-x-y N(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)から成る III族窒化物系化合物半導体をMOVPE法によって結晶成長させることである。
【0027】
また、本発明の第21の手段は、 III族窒化物系化合物半導体結晶からなる半導体基板において、上記の第19又は第20の手段によって、その III族窒化物系化合物半導体結晶の表面の転位密度を1×105 cm-2以下とし、その半導体基板の最大径を1cm以上にすることである。
特に、工業的な実用性を考慮すると、所望の半導体基板は、直径約45mm程度の円形のものや、約27mm四方の角形のものや、或いは約12mm四方の角形のものなどがより望ましい。
【0028】
また、本発明の第22の手段は、上記の第20の手段において、アルミニウムを含有する III族窒化物系化合物半導体(Inx Aly Ga1-x-y N;0≦x<1,0<y≦1,0<x+y≦1)からなりアクセプタ不純物が添加された半導体結晶層を、窒素分圧比が40%以上80%以下の水素(H2 )と窒素(N2 )の混合気体からなるキャリアガスを用いた結晶成長処理によって積層することである。
【0029】
ただし、より望ましい窒素分圧比の値は、50〜75%であり、更に望ましくは60〜70%が良い。
また、アルミニウムとアクセプタ不純物とを有する上記の半導体結晶層は、必ずしも結晶成長基板上に直接積層する必要はなく、この半導体結晶層と結晶成長基板との間には、その他の結晶成長処理などによってその他の任意の半導体層を積層しても良い。
また、その様なその他の任意の半導体層を結晶成長によって積層する際の結晶成長条件は任意で良く、上記の窒素分圧比などには何ら拘束されない。
以上の本発明の手段により、前記の課題を効果的、或いは合理的に解決することができる。
【発明の効果】
【0030】
以上の本発明の手段によって得られる効果は以下の通りである。
即ち、本発明の第1乃至第7の何れか1つの手段によれば、フラックス法において、高品質な半導体結晶を効率的に低コストで生産するこができ、これによって、請求項8乃至請求項18の少なくとも何れか1つの特徴を有する半導体基板を、現実的な生産レベルで高品質かつ効率的に製造することができる。
【0031】
特に、本発明の第1の手段によれば、攪拌混合処理に基づいて、混合フラックス中への窒素の溶解速度が効果的に増大すると共に、当該フラックス中において、結晶材料が均一に分布する。また、この様な理想的なフラックスを常時結晶成長面にムラなく供給することができる。したがって、本発明の第1の手段によれば、透明で転位密度が低く結晶成長面が略平面の高品質な半導体結晶を得ることができる。また、これらの高品質な半導体結晶は、上記の作用による高い結晶成長速度や収率に基づいて、所望のバルク状に大きく結晶成長させることも容易となる。
【0032】
また、本発明の第2の手段によれば、半導体結晶の結晶成長工程中に、又は半導体結晶の結晶成長工程後に半導体結晶の成長温度付近で、上記の可溶材料がフラックス中に溶解するので、所望の半導体結晶を反応室から取り出す際の降温作用などに伴って、下地基板と半導体結晶との間に応力が働くことがない。したがって、本発明の第2の手段によれば、半導体結晶中のクラックの発生密度を従来よりも大幅に低減させることができる。
また、上記の可溶材料としては、例えばシリコン(Si)などの様な比較的安価な材料を用いることができるため、GaN単結晶自立基板を下地基板として用いる従来の場合よりも、生産コストを安く抑えることができる。
【0033】
また、本発明の第3の手段によって、上記の可溶材料がフラックスに溶け出す現象を不純物の添加処理として利用すれば、不純物の添加が必要な場合に、その不純物の添加処理を他の方法によって実施する必要がなくなる。また、同時に、必要となる不純物材料を節約することもできる。
【0034】
また、本発明の第4の手段によれば、上記の第2又は第3の手段においても、上記の第1の手段における攪拌混合処理の作用・効果と同等の作用・効果を得ることができる。
【0035】
また、本発明の第5の手段によれば、リチウム(Li)またはカルシウム(Ca)のフラックス中における混合比に基づいて、所望の半導体結晶の収率や成長速度を好適または最適に調整することができ、これによって、所望の半導体結晶の生産性を好適または最適に調整することができる。
【0036】
また、本発明の第6の手段によれば、所望の半導体結晶を結晶成長させるべき結晶成長面上の異物または不純物が当該結晶成長面から良好に排除されるので、所望の半導体結晶をより良質に結晶成長させることができる。
【0037】
また、本発明の第7の手段によれば、所望の電気伝導特性やバンドギャップを有する半導体結晶を任意に結晶成長させることができる。
【0038】
また、本発明の第8の手段によれば、発光素子(LED、LD)、受光素子、或いは電界効果トランジスタなどの電子デバイスの半導体ウェハまたは素子の基板として有用な半導体基板を実用レベルで良質に構成することができる。
【0039】
また、本発明の第9の手段によれば、発光素子(LED、LD)、受光素子、或いは電界効果トランジスタなどの電子デバイスの半導体ウェハまたは素子の基板として有用な半導体基板を実用レベルで厚く構成することができる。
【0040】
また、本発明の第10の手段によれば、p型不純物の添加による半導体結晶のp型活性化を阻害する恐れのある不純物であるリチウム(Li)原子が極力排除された半導体基板を構成することができる。
【0041】
また、本発明の第11の手段によれば、結晶成長面で構成される結晶界面の平坦な良質の半導体基板を構成することができる。したがって、この様な半導体基板は、平坦な結晶界面を得る上でも、その上に良質な半導体結晶層を結晶成長させる上でも有利となる。
【0042】
また、本発明の第12の手段によれば、反りに基づいて発生する内部応力の小さな半導体基板や半導体結晶層を得る上で有利となる。また、内部応力が小さな半導体結晶層は、転位が生じにくい点でも有利である。
【0043】
また、本発明の第13または第14の手段によれば、取り扱う光の波長において、透過率の優れた半導体基板を構成することができる。このことは、例えばLEDなどの動作効率に係わる外部量子効率を向上させる上で有利である。
【0044】
また、本発明の第15の手段によれば、電気伝導性の高い基板を構成し、素子の駆動電圧を抑制する上で有利となる。
【0045】
また、本発明の第16の手段によれば、熱伝導性の高い基板を構成し、素子の放熱効果を高める上で有利となる。
【0046】
また、本発明の第17または第18の手段によれば、半導体基板内の転位などによって半導体基板内で光が散乱され難い光素子の半導体基板を構成することができる。
【0047】
また、本発明の第19の手段によれば、良質の半導体基板を結晶成長基板とすることによって良質の半導体結晶を結晶成長させることができる。
また、特に、この製造方法において、本発明の第20の手段を用いれば、良質の半導体基板に基づいて、その上に複数または多数の半導体結晶層を効率よく低コストで積層することができる。
【0048】
また、本発明の第21の手段によれば、所望の半導体ウェハまたは素子を良質に形成する半導体基板と半導体結晶層を良好に得ることができる。
【0049】
また、本発明の第22の手段によれば、アクセプタ不純物とアルミニウムを有する III族窒化物系化合物半導体からなる上記の半導体結晶層のキャリアの移動度及びフォトルミネセンス強度を大きくし、表面粗さを小さくし、更にこの結晶各部におけるアルミニウム組成比のバラツキや膜厚のバラツキなどを当該半導体結晶層で小さくすることができる。これは、キャリアガス中の窒素濃度の範囲を最適化することで、アルミニウムを含む III族窒化物系化合物半導体層の結晶品質が改善され、表面モフォロジーが平坦化されるからである。また、このような効果は、エピタキシャル成長中の結晶からの原子の再蒸発による欠陥の生成や表面荒れが抑制されるために得られるものと考えることもできる。
そして、これらの半導体結晶の積層によって、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、フォトカプラなどの任意の光素子を良好に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
なお、請求項2に記載の可溶材料の露出面に形成することができる上記の成膜パターンは、フォトリソグラフィーやエッチングなどの周知の技法で形成可能である。また、上記の溶解時期は、これらの保護膜の厚さを薄くする程早めることができ、また、上記の溶解速度は、フラックスに対する上記の可溶材料の露出面積を広くするほど高く設定することができる。即ち、これらの設定によれば、上記の可溶材料の露出面が高温のフラックスに接触した時点から上記の可溶材料の溶解が開始され、かつ、その溶解速度はその露出面の面積に略比例するので、これらの設定条件を適当に調整することによって、上記の可溶材料の溶解開始時刻や溶解所要時間や溶解速度などを任意に調整することができる。また、上記の可溶材料の溶解所要時間は、その可溶材料の種類や厚さやフラックスの温度などによっても任意に調整することができる。
【0051】
また、上記のフラックス法による結晶成長に用いる種結晶や下地基板の製造方法は任意で良く、フラックス法、HVPE法、MOVPE法、MBE法などが有効である。また、その大きさや厚さも任意で良いが、工業的な実用性を考慮すると、直径約45mm程度の円形のものや、約27mm四方の角形や約12mm四方の角形などがより望ましい。また、種結晶や下地基板の結晶成長面の曲率半径は大きいほど望ましい。
また、それらの種結晶や下地基板の転位密度は低いほど望ましいが、請求項2乃至請求項4の何れかの方法を用いる場合には必ずしもその限りではない。即ち、この場合、逆に転位密度が低過ぎると上記の可溶材料(下地基板)がフラックス中に溶解し難くなることがあるため注意を要する。
【0052】
また、用いる結晶成長装置としては、フラックス法が実施可能なものであれば任意でよく、例えば、特許文献1〜5に記載されているもの等を適用又は応用することができる。ただし、フラックス法に従って結晶成長を実施する際の結晶成長装置の反応室の温度は、1000℃程度にまで任意に昇降温制御できることが望ましい。また、反応室の気圧は、約100気圧(約1.0×107 Pa)程度にまで任意に昇降圧制御できることが望ましい。また、これらの結晶成長装置の電気炉、ステンレス容器(反応容器)、原料ガスタンク、及び配管などは、例えば、ステンレス系(SUS系)材料やアルミナ系材料や銅等によって形成することが望ましい。
【0053】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
本実施例1で用いる結晶成長装置の断面図を図1に示す。
1.結晶成長装置
この結晶成長装置は、フラックス法によって、基板8の結晶成長面上に所望の半導体結晶を成長させるためのものであり、耐熱耐圧容器1の内部に配設された加熱容器2には、窒素含有ガス7を導入するためのガス導入パイプ4が連結されている。また、加熱容器2の反対側には、揺動装置5から伸びるシャフト6がガス導入パイプ4と同軸になる様に連結されている。この揺動装置5は、モータ及びモータ制御装置などから構成されている。窒化ホウ素からなる反応容器3には、混合フラックスと上記の基板8を入れる。
【0055】
2.フラックス法による結晶成長
図1の結晶成長装置を用いて、窒化ガリウム単結晶を結晶成長させる結晶成長について以下説明する。
(1)まず、MOVPE法によってサファイア基板の結晶成長面上に膜厚3μmのGaN膜を形成し、これによって、図1の基板8を完成させた。
(2)次に、反応容器3の底部にこの基板8を配置し、更にこの反応容器3にナトリウム(Na)とリチウム(Li)を入れた。この時のナトリウム(Na)の量は、約8.8gであり、リチウム(Li)の量は、約0.027gであった。モル比に換算すれば、99:1である。
【0056】
(3)次に、この反応容器3を加熱容器2の中にセットし、反応容器3を一定の方向に傾けた。この設定によって、基板8はナトリウム(Na)とリチウム(Li)との混合フラックスに触れない様に設定された。
【0057】
(4)次に、約1000℃に加熱した窒素ガス(N2 )を約30分間反応室に通して、この基板8の結晶成長面のクリーニングを行った。この時、加熱容器2内のガス圧を0〜10気圧(1〜10×105 Pa)程度の間で周期的に変動させて、加熱容器2内への窒素(N2 )ガスの流し込み(圧縮)及び排気を繰り返すことによって、クリーニングガスの流入/排気処理を行った。
【0058】
(5)その後、新たに窒素ガスを導入して、加熱容器2内のガス圧を50気圧(約50×105 Pa)まで昇圧して、その温度を890℃に設定した。
(6)その後、揺動装置5を用いて反応容器3を揺動させることによって、図2−A,−B,−Cに例示する様に、原料液9(混合フラックス)を左右に行き来させて、GaN膜の結晶成長面が常時薄い混合フラックス9で覆われる様にした。また、この揺動を継続しながら、上記の温度と圧力も4時間一定に維持した。この時の揺動周期は、毎分1往復〜数往復程度で良い。
【0059】
(7)その後、基板8にフラックスが触れない様に反応容器3を傾けたまま、略常温常圧にまで降温及び降圧して、基板8を加熱容器2内から取り出し、この基板8の周りに付着したフラックス(Na,Li)をエタノールを用いて除去した。これにより、基板8上に結晶成長した厚さが均一で透明なバルク状のGaN単結晶を得た。
【0060】
以上の方法で得られたこのGaN単結晶の厚さは約10μmであり最大径は5cm以上であった。
また、このGaN単結晶について、フォトルミネッセンスを常温下で測定したところ、波長325nmの励起光に対して、10mW以上の強度を示した。
また、(100)面で反射されるX線のXRDピーク半値幅を測定したところ、100arc.sec.以下であった。
【0061】
なお、上記の結晶成長では、混合フラックスの第2の主要成分をリチウム(Li)としたが、混合フラックスの第2の主要成分としてリチウム(Li)の代わりにカルシウム(Ca)を用いても良い。また、リチウム(Li)に加えて更にカルシウム(Ca)を用いる様にしても良い。
また、結晶原料である窒素(N)を含有するガスとしては、窒素ガス(N2 )、アンモニアガス(NH3 )、またはこれらのガスの混合ガスなどを用いることができる。また、所望の半導体結晶を構成する III族窒化物系化合物半導体の上記の組成式においては、上記の III族元素(Al,Ga,In)の内の少なくとも一部をボロン(B)やタリウム(Tl)等で置換したり、或いは、窒素(N)の少なくとも一部をリン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)などで置換したりすることもできる。
【0062】
また、p形の不純物(アクセプター)としては、例えばアルカリ土類金属(例:マグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)等)などを添加することができる。また、n形の不純物(ドナー)としては、例えば、シリコン(Si)や、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、或いはゲルマニウム(Ge)等のn形不純物を添加することができる。また、これらの不純物(アクセプター又はドナー)は、同時に2元素以上を添加しても良いし、同時に両形(p形とn形)を添加しても良い。即ち、これらの不純物は、例えばフラックス中に予め溶融させておくこと等により、所望の半導体結晶中に添加することができる。
【実施例2】
【0063】
本実施例2におけるフラックス法での結晶成長工程に用いる下地基板(テンプレート10)の作成手順について、以下図3を用いて説明する。
1.下地基板の作成
(1)まず、シリコン基板11(本願の可溶材料)の裏面に保護膜15を成膜する。この保護膜15は、例えばMOVPE法などに従ってAlN層を積層することによって成膜しても良いし、或いはタンタル(Ta)などの適当な金属をスパッタリング装置又は真空蒸着装置を用いて成膜する様にしても良い。
【0064】
(2)次に、MOVPE法に従う結晶成長によって、厚さ約400μmのシリコン基板11の上にAlGaNから成るバッファ層12を約4μm積層し、更にその上にGaN層13を積層する。このGaN層13は、所望の半導体結晶のフラックス法による成長が開始されるまでの間に、幾らかはフラックスに溶け出す場合があるので、その際に消失されない厚さに積層しておく。
以上の工程(1)、(2)により、テンプレート10(下地基板)を作製することができる。
【0065】
2.結晶成長装置の構成
図4−A,−Bに本実施例1の結晶成長装置の構成図を示す。この結晶成長装置は、窒素ガスを供給するための原料ガスタンク21と、育成雰囲気の圧力を調整するための圧力調整器22と、リーク用バルブ23と、結晶育成を行うための電気炉25を備えており、電気炉25、原料ガスタンク21と電気炉25とをつなぐ配管等は、ステンレス系(SUS系)またはアルミナ系の材料、或いは銅等により形成されている。
【0066】
そして、上記の電気炉25の内部には、ステンレス容器24(反応室)が配置されており、このステンレス容器24には、坩堝26(反応容器)がセットされている。この坩堝26は、例えば、ボロンナイトライド(BN)やアルミナ(Al2 3 )などから形成することができる。
また、電気炉25内の温度は、1000℃以下の範囲内で任意に昇降温制御することができる。また、ステンレス容器24の中の結晶雰囲気圧力は、圧力調整器22,29やリーク用バルブ23などによって、1.0×107 Pa以下の範囲内で配管28を介して任意に昇降圧制御することができる。
【0067】
図4−Bにステンレス容器24の断面図を示す。反応室の側壁27は円筒形に形成されており、その外側下方の足部には、加熱用のヒータHがリング状に配設されている。このヒータHは、該反応室の底部を介して坩堝26(反応容器)を加熱することによって、坩堝26内の混合フラックス9に熱対流を発生させるためのものである。
【0068】
3.結晶成長工程
以下、図4−A,−Bの結晶成長装置を用いた本実施例の結晶成長工程について、図5−A〜Cを用いて説明する。
(1)まず、反応容器(坩堝26)の中に、ナトリウム(Na)とリチウム(Li)及び III元素であるGaを入れ、その反応容器(坩堝26)を結晶成長装置の反応室(ステンレス容器24)の中に配置してから、反応室の中のガスを排気する。ただし、ナトリウム(Na)とリチウム(Li)のモル比は、99:1とした。また、この坩堝中には必要に応じて、例えばアルカリ土類金属等の前述の任意の添加物を予め投入しておいても良い。また、これらの作業を空気中で行うとNaがすぐに酸化してしまうため、基板や原材料を反応容器にセットする作業は、Arガスなどの不活性ガスで満たされたグローブボックス内で実施する。
【0069】
(2)次に、反応室のガス圧を0〜10気圧(1〜10×105 Pa)程度の間で周期的に変動させて、反応室内への窒素(N2 )ガスの流し込み(圧縮)及び排気を繰り返すことによって、基板の結晶成長面のクリーニング処理を行う。この時の処理温度は900℃とし、該クリーニング処理時間は約30分とする。
【0070】
(3)次に、この坩堝の温度を850℃以上880℃以下に調整しつつ、この温度調整工程と並行して、結晶成長装置の反応室には、新たに窒素ガス(N2 )を送り込み、この反応室のガス圧を10〜50気圧(1〜5×106 Pa)程度に維持する。この時、上記のテンプレート10の保護膜15は、上記の昇温の結果生成される融液(混合フラックス)に浸し、テンプレート10の結晶成長面、即ち、GaN層13の露出面は、その融液と窒素ガスとの界面付近に配置する。ただし、この配置場所は、坩堝の底でも良い。
【0071】
(4)その後、図4−BのヒータHを加熱して、混合フラックス9の熱対流を発生させて、これによって、フラックスを攪拌混合させつつ、上記(3)の結晶成長条件を継続的に維持した。
【0072】
以上の様な条件設定により、GaとNaとの融液と窒素ガスとの界面付近が、継続的に III族窒化物系化合物半導体の材料原子の過飽和状態となるので、所望の半導体結晶(n型GaN単結晶20)をテンプレート10(図3)の結晶成長面から順調に成長させることができる(図5−A)。ここで、n型の半導体結晶(n型GaN単結晶20)が得られるのは、フラックス中に融解したシリコン基板11がn型の添加物(Si)として、成長中の結晶中に添加されるためである(図5−B)。
【0073】
ただし、保護膜15を厚く積層しておくことによって、結晶成長工程の実施中には、シリコン基板11がフラックス中に融解しない様にしても良い。この場合には、シリコン(Si)がドープされていない半導体結晶を成長させることもできる。
【0074】
4.結晶成長基板の溶解
以上の結晶成長工程によって、n型GaN単結晶20が例えば約500μm以上の十分な膜厚にまで成長したら、引き続き坩堝の温度を850℃以上880℃以下に維持して、保護膜15及びシリコン基板11がフラックス中に全て溶解するのを待ち(図5−B〜C)、その後も、窒素ガス(N2 )のガス圧を10〜50気圧(1〜5×106 Pa)程度に維持したまま、反応室の温度を100℃以下にまで降温する。
【0075】
ただし、シリコン基板11をフラックス中に溶解させる工程と上記の降温工程とは、幾らか並行に重ねて実施する様にしても良い。また、保護膜15やシリコン基板11は、例えば上記のようにして、GaN単結晶20の成長工程中に少なくともその一部がフラックス中に溶解する様にしても良い。これらの各工程の並列同時進行の様態は、例えば保護膜15の成膜形態などにより適当に調整することができる。
【0076】
5.フラックスの除去
次に、結晶成長装置の反応室から上記のn型GaN単結晶20(所望の半導体結晶)を取り出して、これを30℃以下にまで降温してからその周辺も30℃以下に維持して、n型GaN単結晶20の周りに付着したフラックス(Na)をエタノールを用いて除去する。
以上の各工程を順次実行することによって、従来よりも大幅にクラックが少ない高品質の400μm以上の厚さの半導体単結晶(n型GaN単結晶20)をフラックス法によって低コストで製造することができる。
【実施例3】
【0077】
本実施例3では、後述のLEDの細部(p型層107)の結晶成長条件を決定するために、まず、p型AlGaN結晶層のサンプルを試作して、それらの半導体層の各特性を調査した。
【0078】
このサンプル(p型AlGaN結晶層)の結晶成長処理では、キャリアガスに水素(H2 )と窒素(N2 )の2種混合ガスを用いたた有機金属気相成長法に基づいて、そのキャリアガスの窒素分圧比を0から1に変化させて、上記のp型AlGaN結晶層を積層した。また、結晶成長基板にはサファイア基板を使用した。この時使用した原料ガスは、アンモニアガス(NH3 )、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3)、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3)、トリメチルインジウム(In(CH3)3)、シラン(SiH4)並びにシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5H5)2) である。また、金属原料源のガスを供給するためのバブラには、窒素(N2 )を用いた。
【0079】
上記のサンプル(p型AlGaN結晶層)は、サファイア基板にAlNバッファ層、アンドープGaN層を設けた上にAl0.24Ga0.76N:Mg層を設けて同一条件で低抵抗化処理したのちに得たものである。即ち、目的のp型AlGaN結晶層のアクセプタ不純物としてはマグネシウムをドープした。
次の表1に、これらのサンプルから得られた各半導体の物性を示す。
【表1】

【0080】
以下、上記のキャリアガスの窒素分圧比をRと記す。この表1では、R=1.0の場合を基準として、それよりも望ましい特性が得られた場合を○印で示している。また、R=1.0の場合と略同等の特性が得られた場合を△印で、特性が低下した場合を×印で示した。ただし、これらの評価項目としては、以下のものを採用した。
(1)PL強度
波長326nmのフォトルミネッセンスの強度を比較した。強度が高い場合ほど望ましい。
(2)移動度
ホール移動度を比較した。ホール移動度が高い場合ほど望ましい。
(3)表面粗さ
表面の粗さを比較した。即ち、サンプル(p型AlGaN結晶層)の表面の高さ平均面を基準面とするその表面の各部の高さ変位の二乗平均の平方根(r.m.s.)によって示される表面粗さが小さいほど望ましい。
(4)Al成分分布
サンプル中の各部のAl組成比を測定し、そのバラツキを比較した。Al組成比が均一であるほど望ましい。
(5)膜厚分布
サンプル(p型AlGaN結晶層)の膜厚を測定し、そのバラツキを比較した。膜厚が均一であるほど望ましい。
【0081】
これらの調査結果より、キャリアガスを窒素と水素で構成してその窒素分圧比を0.6≦R≦0.7とした場合に最も良い物性が得られるものと判断することができる。
以下、この様な条件にしたがって形成されたp型AlGaN結晶層を有するLEDの製造例について開示する。
【0082】
図6に、そのLEDの模式的な断面図を示す。このLED100では、先の実施例2の製造方法に従って製造された厚さ約300μmの結晶成長基板101の上にシリコン(Si)を5 ×1018/cm3ドープしたGaN から成る膜厚約3μmのn型コンタクト層104(高キャリア濃度n+ 層)が形成されている。
【0083】
また、このn型コンタクト層104の上には膜厚1.5nmのアンドープIn0.1Ga0.9N から成る層1051と膜厚3nm のアンドープGaN から成る層1052とを20ペア積層した膜厚90nmの多重層105が形成されている。更にその上には、膜厚17nmのアンドープGaNから成る障壁層1062と膜厚3nmのアンドープIn0.2Ga0.8N から成る井戸層1061とが順に形成された多重量子井戸層106を形成している。
【0084】
更に、この多重量子井戸層106の上には、Mgを2 ×1019/cm3ドープした膜厚15nmのp型Al0.2Ga0.8N から成るp型層107が形成されており、また、p型層107の上には、膜厚300nmのアンドープのAl0.02Ga0.98N から成る層108を形成した。更にその上にはMgを1 ×1020/cm3ドープした膜厚200nmのp型GaN から成るp型コンタクト層109を形成した。
【0085】
又、p型コンタクト層109の上には金属蒸着による透光性薄膜p電極110が、n型コンタクト層104上にはn電極140が形成されている。透光性薄膜p電極110は、p型コンタクト層109に直接接合する膜厚約1.5nmのコバルト(Co)より成る第1層111と、このコバルト膜に接合する膜厚約6nmの金(Au)より成る第2層112とで構成されている。
【0086】
厚膜p電極120は、膜厚約18nmのバナジウム(V) より成る第1層121と、膜厚が約1.5μmの金(Au)より成る第2層122と、膜厚約10nmのアルミニウム(Al)より成る第3層123とを透光性薄膜p電極110の上から順次積層させることにより構成されている。
【0087】
多層構造のn電極140は、n型コンタクト層104の一部露出された部分の上から、膜厚約18nmのバナジウム(V) より成る第1層141と膜厚約100nmのアルミニウム(Al)より成る第2層142とを積層させることにより構成されている。
【0088】
また、最上部には、SiO2膜より成る保護膜130が形成されている。また、GaN基板101の底面に当たる外側の最下部には、膜厚約500nmのアルミニウム(Al)より成る反射金属層150が、金属蒸着により成膜されている。尚、この反射金属層150は、Rh、Ti、W 等の金属の他、TiN 、HfN 等の窒化物でも良い。
【0089】
以上の構成のLED100において、上記のp型Al0.2Ga0.8N から成るp型層107を形成する際には、原料ガスのキャリアガスとして窒素分圧比がR=2/3なる窒素と水素の混合ガスを用い、かつ、その他の半導体結晶層の結晶成長においては原料ガスのキャリアガスを窒素のみで(即ち、R=1.0として)構成した。このLED100の発光強度は、p型層107をR=1.0として形成した上記と同構成の他の試作品に比べて約2割程度向上していた。
【0090】
この様に、窒素分圧比Rを最適化して形成された、アクセプタ不純物とアルミニウムを有する III族窒化物系化合物半導体層は、LEDやLDの発光層の直上に形成することで当該発光層等に対し広いバンドギャップを有する半導体層として良好に作用する。また、アルミニウムを有するこの III族窒化物系化合物半導体層を非常に良質に形成することができたその他の理由としては、先の実施例2の製造方法に基づいて製造した、極めて良質の半導体結晶からなる結晶成長基板を基板101に用いたためだと考えられる。即ち、結晶成長基板の品質と結晶成長条件(窒素分圧比R)の各最適化の良好な相乗効果によって、上記のLED100の発光強度が約2割も向上したものと考えられる。
【0091】
〔その他の変形例〕
本発明の実施形態は、上記の形態に限定されるものではなく、その他にも以下に例示される様な変形を行っても良い。この様な変形や応用によっても、本発明の作用に基づいて本発明の効果を得ることができる。
(変形例1)
例えば、上記の実施例3では、多重量子井戸層106を形成したが、上記実施例3の様なp型AlGaN層を有するLEDにおいては、その発光層は、例えば単層、単一量子井戸構造(SQW)、多重量子井戸構造(MQW)などの任意の構成をとることができる。また、特に、その発光層を多重量子井戸構造とする場合は、少なくともインジウム(In)を含む適当な組成比の III族窒化物系化合物半導体Aly Ga1-y-z Inz N(0 ≦y <1, 0<z ≦1)から成る井戸層をその発光層中に形成すると良い。
また、上記の様なp型AlGaN層を有するこれらの構造は、LDなどのその他の光素子に応用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、 III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶を用いた半導体デバイスの製造に有用である。これらの半導体デバイスとしては、例えばLEDやLDなどの発光素子や受光素子等以外にも、例えばFETなどのその他一般の半導体デバイスを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】実施例1で用いる結晶成長装置の断面図
【図2−A】実施例1で用いる結晶成長装置の動作を例示する断面図
【図2−B】実施例1で用いる結晶成長装置の動作を例示する断面図
【図2−C】実施例1で用いる結晶成長装置の動作を例示する断面図
【図3】実施例2のテンプレート10の作成工程における断面図
【図4−A】実施例2で用いる結晶成長装置の構成図
【図4−B】実施例2で用いる結晶成長装置の部分的な断面図
【図5−A】実施例2の半導体結晶の結晶成長工程における断面図
【図5−B】実施例2の半導体結晶の結晶成長工程における断面図
【図5−C】実施例2の半導体結晶の結晶成長工程における断面図
【図6】実施例3のLED100の断面図
【符号の説明】
【0094】
2 : 反応室
3 : 反応容器
8 : 種結晶
9 : 混合フラックス
H : ヒータ
10 : テンプレート
20 : 半導体基板
100 : LED
101 : 半導体基板
107 : p型AlGaN層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の中から選択された複数種類の金属元素を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法において、
前記混合フラックスと前記 III族元素とを攪拌混合しながら前記 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる
ことを特徴とする III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の中から選択された複数種類の金属元素を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法において、
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる下地基板の少なくとも一部に、前記混合フラックスに溶解する可溶材料を用い、
前記可溶材料を
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶の結晶成長工程中に、または、
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶の結晶成長工程後にその成長温度付近で、
前記混合フラックス中に溶解させる
ことを特徴とする III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記可溶材料は、少なくともその一部に、
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶の中に添加すべき不純物を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記混合フラックスと前記 III族元素とを攪拌混合しながら前記 III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記混合フラックスは、
リチウム(Li)又はカルシウム(Ca)、並びにナトリウム(Na)を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
種結晶または前記下地基板の結晶成長面を、
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる前に、
水素(H2 )ガス、窒素(N2 )ガス、アンモニア(NH3 )ガス、希ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、またはRn)またはこれらのガスのうちから2種類以上のガスを任意の混合比で混合した混合ガスをクリーニングガスとして、
900℃以上1100℃以下の温度で、
1分以上の時間を掛けて、
クリーニング処理する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記混合フラックスは、
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶の中に添加すべき不純物として、
ボロン(B)、タリウム(Tl)、カルシウム(Ca)、カルシウム(Ca)を含む化合物、珪素(Si)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、アルミナ(Al2 3 )、窒化インジウム(InN)、窒化珪素(Si3 4 )、酸化珪素(SiO2 )、酸化インジウム(In2 3 )、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、またはゲルマニウム(Ge)を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法により製造された III族窒化物系化合物半導体結晶からなり、
表面の転位密度が1×105 cm-2以下であり、最大径が1cm以上である
ことを特徴とする半導体基板。
【請求項9】
厚さが300μm以上である
ことを特徴とする請求項8に記載の半導体基板。
【請求項10】
含有されるリチウム(Li)の体積密度が1×1017cm-3以下である
ことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の半導体基板。
【請求項11】
基板表面の高さ平均面を基準面とする基板表面の各部の高さ変位の二乗平均の平方根によって示される基板表面粗さが3.0nm以下である
ことを特徴とする請求項8乃至請求項10の何れか1項に記載の半導体基板。
【請求項12】
基板表面の曲率半径が50cm以上である
ことを特徴とする請求項8乃至請求項11の何れか1項に記載の半導体基板。
【請求項13】
波長が460nmの青色光の基板に垂直な方向の透過率が0.20以上である
ことを特徴とする請求項8乃至請求項12の何れか1項に記載の半導体基板。
【請求項14】
波長が380nmの青紫色光の基板に垂直な方向の透過率が0.10以上である
ことを特徴とする請求項8乃至請求項13の何れか1項に記載の半導体基板。
【請求項15】
基板に垂直な方向の電気伝導率が25Ω-1cm-1以上である
ことを特徴とする請求項8乃至請求項14の何れか1項に記載の半導体基板。
【請求項16】
基板に垂直な方向の熱伝導率が0.6W/cm℃以上である
ことを特徴とする請求項8乃至請求項15の何れか1項に記載の半導体基板。
【請求項17】
(002)面で反射されるX線のXRDピーク半値幅が500arc.sec.以下である
ことを特徴とする請求項8乃至請求項16の何れか1項に記載の半導体基板。
【請求項18】
(100)面で反射されるX線のXRDピーク半値幅が500arc.sec.以下である
ことを特徴とする請求項8乃至請求項17の何れか1項に記載の半導体基板。
【請求項19】
III族窒化物系化合物半導体を結晶成長させる III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法において、
請求項8乃至請求項18の何れか1項に記載の半導体基板を結晶成長基板として用いることを特徴とする III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法。
【請求項20】
Inx Aly Ga1-x-y N(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)から成る III族窒化物系化合物半導体をMOVPE法によって結晶成長させる
ことを特徴とする請求項19に記載の III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法。
【請求項21】
請求項19又は請求項20に記載の III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法により製造された III族窒化物系化合物半導体結晶からなり、
表面の転位密度が1×105 cm-2以下であり、最大径が1cm以上である
ことを特徴とする半導体基板。
【請求項22】
アルミニウムを含有する III族窒化物系化合物半導体(Inx Aly Ga1-x-y N;0≦x<1,0<y≦1,0<x+y≦1)からなりアクセプタ不純物が添加された半導体結晶層を、
窒素分圧比が40%以上80%以下の水素(H2 )と窒素(N2 )の混合気体からなるキャリアガスを用いた結晶成長処理によって積層する
ことを特徴とする請求項20に記載の III族窒化物系化合物半導体結晶の製造方法。

【図1】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図2−C】
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【図3】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【図5−A】
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【図5−B】
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【図5−C】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−277055(P2007−277055A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106720(P2006−106720)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】