説明

半導体装置及びその作製方法

【課題】チャネル長の短い酸化物半導体トランジスタにおいて、十分なオン/オフ比が取れないことを抑制する。
【解決手段】酸化物半導体層と、当該酸化物半導体層のチャネル形成領域と重畳するゲート電極と、当該酸化物半導体層の第1の領域と重畳するソース電極又はドレイン電極と、当該チャネル形成領域と当該第1の領域との間に第2の領域を有し、当該第2の領域の上層は微小な空洞を含んでいる半導体装置に関する。酸化物半導体層と、当該酸化物半導体層のチャネル形成領域と重畳するゲート電極と、当該酸化物半導体層の第1の領域と重畳するソース電極又はドレイン電極と、当該チャネル形成領域と当該第1の領域との間に第2の領域を有し、当該第2の領域の上層は窒素を含んでいる半導体装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される発明の一態様は、半導体装置及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物半導体を用いてトランジスタを作製し、電子デバイスや光デバイスに応用する技術が注目されている。例えば、特許文献1には、酸化物半導体として、In−Ga−Zn系酸化物を用いてトランジスタを形成し、形成されたトランジスタを用いて表示装置を作製することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−141119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化物半導体層にチャネル形成領域が形成されるトランジスタ(以下「酸化物半導体トランジスタ」という)において、外部から水や水素が酸化物半導体層に侵入する恐れがある。水や水素が侵入した酸化物半導体層に熱処理を行うと、酸化物半導体層に水素が拡散してしまう。酸化物半導体層において、水素の一部はドナーとなり、キャリアである電子を放出する。酸化物半導体層中のキャリア濃度が高まると、ゲート電極に電圧を印加しなくても、酸化物半導体トランジスタにチャネルが形成されてしまう。すなわち、酸化物半導体層がn型化する。このように、酸化物半導体層がn型化した酸化物半導体トランジスタでは、チャネル形成領域の長さ(以下「チャネル長L」という)が短い場合、十分なオン/オフ比が取れない、すなわち、ゲート電極に印加されるゲート電圧によらずドレイン電流が一定となる、またはトランジスタがオフしているときのドレイン電流に対するトランジスタがオンしているときのドレイン電流の比がトランジスタとして機能させるために十分でなくなる恐れが生じる。
【0005】
酸化物半導体トランジスタの作製において、酸化物半導体トランジスタの特性向上等のため、熱処理が必要である。しかしながら、上述のように水や水素が侵入した酸化物半導体層に熱処理を行うと、酸化物半導体層に水素が拡散し、拡散した水素が酸化物半導体層中の酸素と反応し、酸化物半導体中の酸素が引き抜かれてしまう。酸素が引き抜かれた酸化物半導体層はn型化してしまう。これにより、酸化物半導体トランジスタにおいて十分なオン/オフ比が取れなくなってしまう。
【0006】
また、電子デバイスや光デバイスに用いられる酸化物半導体トランジスタは、微細化が求められている。酸化物半導体トランジスタの微細化には、チャネル長Lを短くする必要があるが、チャネル長Lを短くすると上述のように十分なオン/オフ比が取れなくなる恐れが生じる。
【0007】
十分なオン/オフ比が取れない酸化物半導体トランジスタは、例えばスイッチング素子として機能しない。そのため十分なオン/オフ比が取れない酸化物半導体トランジスタを用いた電子デバイスや光デバイスは、その信頼性が低下する恐れがある。
【0008】
以上を鑑みて、開示される発明の一様態では、チャネル長Lの短い酸化物半導体トランジスタにおいて、十分なオン/オフ比が取れないことを抑制することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示される発明の一様態は、酸化物半導体層と、酸化物半導体層上に設けられたゲート絶縁膜と、当該酸化物半導体層のチャネル形成領域上に、当該ゲート絶縁膜を挟んで設けられたゲート電極と、当該酸化物半導体層の第1の領域上に設けられたソース電極又はドレイン電極と、当該チャネル形成領域と当該第1の領域との間に第2の領域とを有し、当該第2の領域の上層は微小な空洞を含んでいることを特徴とする半導体装置に関する。
【0010】
開示される発明の一様態は、酸化物半導体層と、酸化物半導体層上に設けられたゲート絶縁膜と、当該酸化物半導体層のチャネル形成領域上に、当該ゲート絶縁膜を挟んで設けられたゲート電極と、当該酸化物半導体層の第1の領域上に設けられたソース電極又はドレイン電極と、当該チャネル形成領域と当該第1の領域との間に第2の領域とを有し、当該第2の領域の上層は窒素を含んでいることを特徴とする半導体装置に関する。
【0011】
開示される発明の一様態は、酸化物半導体層と、酸化物半導体層上に設けられたゲート絶縁膜と、当該酸化物半導体層のチャネル形成領域上に、当該ゲート絶縁膜を挟んで設けられたゲート電極と、当該酸化物半導体層の第1の領域上に設けられたソース電極又はドレイン電極と、当該チャネル形成領域と当該第1の領域との間に第2の領域とを有し、当該第2の領域の上層は、当該第2の領域の下層よりも窒素を多く含んでいることを特徴とする半導体装置に関する。
【0012】
当該第2の領域の上層には、高ドーズ量で窒素が添加されることにより微小な空洞が形成される。当該微小な空洞の内壁には、外気や絶縁膜からの水素が吸着される。
【0013】
当該微小な空洞は、周りと比較して低密度であるか、空隙であり、直径が0.1nm以上10nm以下、好ましくは2nm以上7nm以下の概略球形領域、または前述の概略球形領域が複数重なった領域である。
【0014】
上述のように、外部からの水素が酸化物半導体層中に拡散し、当該水素が酸化物半導体層中の酸素と反応すると、酸化物半導体層から酸素が引き抜かれる。酸化物半導体層から酸素が引き抜かれると、十分なオン/オフ比が取れない酸化物半導体トランジスタになる。しかし当該微小な空洞の内壁に水素が吸着されると、酸化物半導体層から酸素が引き抜かれない。
【0015】
このように微小な空洞の内壁に水素が吸着され、酸素が引き抜かれない酸化物半導体層を有する酸化物半導体トランジスタは、十分なオン/オフ比が取れないことが抑制される。
【0016】
上述のように酸化物半導体層中に微小な空洞を設けることにより、十分なオン/オフ比が取れる酸化物半導体トランジスタを形成できる。しかしながら、当該微小な空洞を形成すると、酸化物半導体トランジスタのオン電流が低下してしまう。
【0017】
しかしながら、当該第1の領域、及び、当該第2の領域の下層が窒素を含まない領域、あるいは、当該上層と比較して窒素濃度が極めて低い領域であるように、窒素を添加すると、当該第1の領域、並びに、当該第2の領域の下層には微小な空洞が形成されない。そのため当該第1の領域、及び、当該第2の領域の下層を設けることにより、酸化物半導体トランジスタのオン電流の低下を抑制することができる。
【0018】
開示される発明の一様態において、当該第2の領域の上層の窒素濃度は、1×1021cm−3以上であることを特徴とする。
【0019】
また開示される発明の一様態において、窒素の代わりに酸素を酸化物半導体層に添加してもよい。酸素を酸化物半導体層に添加した場合にも、酸化物半導体層には微小な空洞が形成される。窒素を添加した場合と同様に、酸化物半導体層の微小な空洞の内壁に水素が吸着されるため、酸化物半導体層の酸素は引き抜かれない。窒素の代わりに酸素を添加した酸化物半導体層を用いた酸化物半導体トランジスタは、窒素を添加した場合と同様に、十分なオン/オフ比が取れる酸化物半導体トランジスタとなる。
【0020】
開示される発明の一様態は、酸化物半導体層と、酸化物半導体層上に設けられたゲート絶縁膜と、当該酸化物半導体層のチャネル形成領域上に、当該ゲート絶縁膜を挟んで設けられたゲート電極と、当該酸化物半導体層の第1の領域上に設けられたソース電極又はドレイン電極と、当該チャネル形成領域と当該第1の領域との間に第2の領域とを有し、当該第2の領域の上層は、当該第2の領域の下層よりも酸素を多く含んでいることを特徴とする半導体装置に関する。
【0021】
開示される発明の一様態において、当該第2の領域の上層の酸素濃度は、1×1021cm−3以上であることを特徴とする。
【0022】
開示される発明の一様態において、当該第2の領域の上層には、微小な空洞が形成されていることを特徴とする。
【0023】
開示される発明の一様態は、酸化物半導体層を形成し、当該酸化物半導体層中の第1の領域上にソース電極又はドレイン電極を形成し、当該酸化物半導体層中のチャネル形成領域上に、ゲート絶縁膜を挟んで重畳するように、ゲート電極を形成し、当該ソース電極又はドレイン電極、及び当該ゲート電極をマスクとして、当該第1の領域及び当該チャネル形成領域との間の第2の領域の上層に窒素を添加し、当該窒素が添加された第2の領域の上層を有する当該酸化物半導体層を加熱することを特徴とする半導体装置の作製方法に関する。
【0024】
開示される発明の一様態において、当該窒素のドーズ量は、5×1016cm−2以上であることを特徴とする。
【0025】
開示される発明の一様態は、酸化物半導体層を形成し、当該酸化物半導体層中の第1の領域上にソース電極又はドレイン電極を形成し、当該酸化物半導体層中のチャネル形成領域上に、ゲート絶縁膜を挟んで重畳するように、ゲート電極を形成し、当該ソース電極又はドレイン電極、及び当該ゲート電極をマスクとして、当該第1の領域及び当該チャネル形成領域との間の第2の領域の上層に酸素を添加し、当該酸素が添加された第2の領域の上層を有する当該酸化物半導体層を加熱することを特徴とする半導体装置の作製方法に関する。
【0026】
開示される発明の一様態において、当該酸素のドーズ量は、5×1016cm−2以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
開示される発明の一様態により、チャネル長Lの短い酸化物半導体トランジスタにおいて、オン/オフ比を取ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】半導体装置の断面図。
【図2】半導体装置の作製方法を示す断面図。
【図3】半導体装置の作製方法を示す断面図。
【図4】窒素の濃度プロファイルを示す図。
【図5】酸化物半導体層の断面TEM写真。
【図6】ゲート電圧及びドレイン電流の関係を示す図。
【図7】酸化物材料の構造を説明する図。
【図8】酸化物材料の構造を説明する図。
【図9】酸化物材料の構造を説明する図。
【図10】半導体装置の作製方法を示す断面図。
【図11】半導体装置の作製方法を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本明細書に開示された発明の実施の態様について、図面を参照して説明する。但し、本明細書に開示された発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、本明細書に開示された発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に示す図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0030】
なお本明細書に開示された発明において、半導体装置とは、半導体を利用することで機能する素子及び装置全般を指し、電子回路、表示装置、発光装置等を含む電気装置およびその電気装置を搭載した電子機器をその範疇とする。
【0031】
なお、図面等において示す各構成の、位置、大きさ、範囲などは、説明を分かりやすくするために、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、開示する発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0032】
なお、本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの序数は、構成要素の混同を避けるために付すものであり、数的に限定するものではないことを付記する。
【0033】
[実施の形態1]
<酸化物半導体トランジスタの構造>
本実施の形態の酸化物半導体トランジスタの構成を図1に示す。図1に示す酸化物半導体トランジスタ201は、基板200上に下地絶縁膜202が設けられ、下地絶縁膜202上に形成された、活性層として機能する酸化物半導体層203と、酸化物半導体層203上に形成されたソース電極及びドレイン電極として機能する電極204a及び電極204bと、酸化物半導体層203、電極204a及び電極204b上のゲート絶縁膜206と、ゲート絶縁膜206を挟んで酸化物半導体層203と重畳する位置に設けられたゲート電極207とを有する。
【0034】
図1に示す酸化物半導体トランジスタ201は、ゲート電極207が酸化物半導体層203の上に形成されているトップゲート型であり、なおかつ、ソース電極及びドレイン電極として機能する電極204a及び電極204bが酸化物半導体層203の上に形成されているトップコンタクト型である。
【0035】
電極204a及び電極204bが酸化物半導体層203と重畳している領域208a及び領域208bは、ソース領域及びドレイン領域として機能する。
【0036】
酸化物半導体トランジスタ201は、電極204a及び電極204bと、ゲート電極207とが重なっていない。酸化物半導体層203の、電極204a及び電極204bとゲート電極207との間には、領域211a及び領域211bが形成される。領域211aは、上層211au及び下層211alを有する。また領域211bは、上層211bu及び下層211blを有する。上層211au及び上層211buは窒素を含んでおり、下層211al及び下層211blは窒素を含まない、あるいは上層211au及び上層211buと比較して極めて窒素濃度が低い。上層211au及び上層211buの窒素濃度は、1×1021cm−3以上であることが好ましい。
【0037】
窒素を含む上層211au及び上層211buには、高ドーズ量で窒素が添加されている。高ドーズ量で窒素を添加することにより、上層211au及び上層211buにナノサイズの微小な空洞が形成される。微小な空洞は、酸化物半導体層203の窒素が添加された領域において複数個形成される。
【0038】
当該微小な空洞は、周りと比較して低密度であるか、空隙であり、直径が0.1nm以上10nm以下、好ましくは2nm以上7nm以下の概略球形領域、または前述の概略球形領域が複数重なった領域である。
【0039】
上述のように、酸化物半導体層203に外部からの水素が拡散してしまうと、水素が酸化物半導体層203中の酸素と反応し、酸化物半導体層203から酸素が引き抜かれてしまう。酸化物半導体層203から酸素が引き抜かれると、十分なオン/オフ比が取れない酸化物半導体トランジスタになる。しかし当該微小な空洞の内壁に水素が吸着されていると、酸化物半導体層203から酸素が引き抜かれない。
【0040】
このように微小な空洞の内壁に水素が吸着され、酸素が引き抜かれない酸化物半導体層203を有する酸化物半導体トランジスタ201は、十分なオン/オフ比が取れるトランジスタとなる。
【0041】
また酸化物半導体層203に窒素添加をする際に、下層211al、及び下層211blには、窒素が添加されないように加速電圧を制御する。すなわち、下層211al及び下層211blは窒素を含まない領域、あるいは、上層211au及び上層211buと比較して窒素濃度が極めて低い領域である。
【0042】
上述のように酸化物半導体層203中に微小な空洞を設けることにより、十分なオン/オフ比が取れる酸化物半導体トランジスタを形成できる。しかしながら、当該微小な空洞を形成すると、酸化物半導体トランジスタ201のオン電流が低下してしまう。
【0043】
下層211al及び下層211blは窒素が添加されないので、微小な空洞が形成されない。そのため下層211al及び下層211blを設けることにより、オン電流の低下を抑制することができる。
【0044】
また、窒素の代わりに上層211au及び上層211buに酸素を添加することによっても、上層211au及び上層211buに微小な空洞を形成することができる。
【0045】
上述のように、上層211au及び上層211buに微小な空洞を形成すると、当該微小な空洞の内壁に外気や絶縁膜からの水素が吸着される。微小な空洞の内壁に水素が吸着されると、酸化物半導体層203の酸素は引き抜かれない。よってこのような酸化物半導体層203を用いた酸化物半導体トランジスタ201は、窒素を添加した場合と同様に、十分なオン/オフ比が取れる酸化物半導体トランジスタとなる。
【0046】
上層211au及び上層211buの酸素濃度は、1×1021cm−3以上であることが好ましい。
【0047】
また、酸化物半導体層203は、CAAC−OS(C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor)で構成されていても良い。酸化物半導体層203がCAAC−OSで構成されている場合、非晶質の場合に比べて酸化物半導体層203の導電率を高めることができるので、電極204aと電極204bの間の抵抗を下げることができる。なおCAAC−OSについては後述する。
【0048】
また図1では、酸化物半導体トランジスタ201を覆って絶縁膜212が形成されている。絶縁膜212上には、電極204aに電気的に接続される配線213、電極204bに電気的に接続される配線214、ゲート電極207に電気的に接続される配線215が設けられている。
【0049】
<酸化物半導体トランジスタの作製方法>
図1に示す酸化物半導体トランジスタ201の作製方法を以下に示す。
【0050】
基板200上に下地絶縁膜202を形成する。本実施の形態では、基板200として、ガラス基板、下地絶縁膜202として酸化珪素膜を用いる。
【0051】
下地絶縁膜202上に酸化物半導体膜を形成し、当該酸化物半導体膜をエッチング等で加工し、島状の酸化物半導体層203を形成する(図2(A)参照)。なお酸化物半導体層203の材料についての詳細な説明は後述する。また当該酸化物半導体膜は、後の工程で窒素が添加される上層及び窒素が添加されない下層が形成可能な程度に充分な膜厚を有するように成膜する。酸化物半導体膜の膜厚は、例えば、20nm以上100nm以下、好ましくは、40nm以上80nm以下であればよい。
【0052】
酸化物半導体層203の一部と重畳するように、電極204a及び電極204bを形成する。電極204a及び電極204bの材料として、例えば、チタン膜、アルミニウム膜、チタン膜がこの順で形成された積層膜を用いる。
【0053】
酸化物半導体層203と電極204aが重畳する領域を領域208a、及び酸化物半導体層203と電極204bが重畳する領域を領域208bとする(図2(B)参照)。領域208a及び領域208bは、上述のようにソース領域及びドレイン領域として機能する。
【0054】
次いで、下地絶縁膜202、酸化物半導体層203、電極204a、及び電極204bを覆って、ゲート絶縁膜206を形成する。ゲート絶縁膜206として、例えば酸化珪素膜を用いる。
【0055】
次いで酸化物半導体層203の電極204a及び電極204bが重畳しない領域上に、ゲート絶縁膜206を介してゲート電極207を形成する(図2(C)参照)。ゲート電極207として、例えば窒化タンタル膜とタングステン膜との積層膜を用いる。なお酸化物半導体層203中のゲート電極207と重畳する領域をチャネル形成領域209とし、領域208a及びチャネル形成領域209との間の領域を領域211a、並びに、領域208b及びチャネル形成領域209との間の領域を領域211bとする。領域211a及び領域211bは、ゲート電極207、電極204a、及び電極204bとは重畳しない領域である。
【0056】
次いで酸化物半導体層203に窒素210を添加する(図2(D)参照)。窒素210を添加する際には、ドーズ量は高く加速電圧は低い条件で行う。また酸化物半導体層203への窒素210の添加において、ゲート電極207、電極204a、及び電極204bはマスクとして機能する。
【0057】
以上のような条件で窒素210を添加することにより、領域211aの上層211au、及び領域211bの上層211buを、高濃度窒素含有領域とすることができる。
【0058】
以上のようにして、酸化物半導体トランジスタ201が作製される(図10(A)参照)。
【0059】
窒素210を添加した後、基板200、下地絶縁膜202、酸化物半導体層203、電極204a、電極204b、ゲート絶縁膜206、ゲート電極207を覆って、絶縁膜212を形成する(図10(B)参照)。絶縁膜212を形成後、熱処理を行う。本実施の形態では、450℃で熱処理を行う。
【0060】
上述のように、上層211au及び上層211buに窒素210を添加すると、上層211au及び上層211bu中に微小な空洞が形成される。微小な空洞は、酸化物半導体層203の窒素210が添加された領域(上層211au及び上層211bu)において複数個形成される。
【0061】
図5は、微小な空洞形成の確認のため、窒素添加の有無、窒素添加のドーズ量を変えた酸化物半導体層の断面TEM写真(倍率400万倍)である。
【0062】
図5において、下地絶縁膜202として酸素を有する窒化珪素膜を膜厚300nmで形成し、下地絶縁膜202上の酸化物半導体層203として、In−Ga−Zn系酸化物膜(以下「IGZO膜」という)を膜厚30nmで形成する。下地絶縁膜202及び酸化物半導体層203を成膜後、窒素雰囲気中、温度450℃で1時間熱処理を行う。
【0063】
図5(A)は窒素添加なし、図5(B)は窒素添加をドーズ量1×1015cm−2、図5(C)は窒素添加をドーズ量1×1016cm−2、図5(D)は窒素添加をドーズ量5×1016cm−2で行った場合の酸化物半導体層203の断面TEM写真である。なお、窒素添加は加速電圧20kVで行った。
【0064】
図5(A)〜図5(D)において、窒素をドーズ量5×1016cm−2で添加すると、酸化物半導体層203中に微小な空洞が形成されることが示された((図5(D)参照)。
【0065】
よって、酸化物半導体層203中に微小な空洞を形成するには、ドーズ量が5×1016cm−2以上であることが好ましい。
【0066】
酸化物半導体層203から酸素が引き抜かれると、十分なオン/オフ比が取れない酸化物半導体トランジスタになる。しかし当該微小な空洞の内壁に水素が吸着されていると、水素と酸素が反応して水などが形成されることがなく、酸化物半導体層203から酸素が引き抜かれない。
【0067】
このように微小な空洞の内壁に水素が吸着され、酸素が引き抜かれない酸化物半導体層203を有する酸化物半導体トランジスタ201は、十分なオン/オフ比が取れるトランジスタとなる。
【0068】
また領域211aの下層211al、及び領域211bの下層211blは窒素を含まない領域、あるいは上層211au及び上層211buと比較して極めて窒素濃度が低い領域である。
【0069】
上述のように酸化物半導体層203中に微小な空洞を設けることにより、十分なオン/オフ比が取れるトランジスタを形成できる。しかしながら、当該微小な空洞を形成すると、電流経路が切断され酸化物半導体トランジスタ201のオン電流が低下してしまう。
【0070】
下層211al及び下層211blは窒素が添加されないので、微小な空洞が形成されない。そのため下層211al及び下層211blを設けることにより、オン電流の低下を抑制することができる。
【0071】
なお酸化物半導体層203の下層211al及び下層211blに窒素が添加されないようにするために、酸化物半導体層203上に、金属膜、金属酸化物膜、金属窒化物膜等を形成してもよい。当該金属膜、金属酸化物膜、金属窒化物膜等を形成した場合、窒素はこれらの膜を通過して酸化物半導体層203に添加される。これにより、窒素が下層211al及び下層211blに到達しないので、下層211al及び下層211blに窒素が添加されるのを防ぐことができる。
【0072】
次いで、絶縁膜212に、電極204a、電極204b、及びゲート電極207に達するコンタクトホールを形成する。次いで、絶縁膜212上に、当該コンタクトホールを介して、電極204aに電気的に接続される配線213、電極204bに電気的に接続される配線214、ゲート電極207に電気的に接続される配線215を形成する(図1参照)。
【0073】
また上述のように、窒素の代わりに、酸化物半導体層203に酸素を添加した場合においても、酸化物半導体層203に微小な空洞が形成される。窒素を添加した場合と同様に、酸素を添加した酸化物半導体層203の酸素は引き抜かれない。よって酸素を添加した酸化物半導体層203を有する酸化物半導体トランジスタ201は、窒素を添加した場合と同様に、十分なオン/オフ比が取れる酸化物半導体トランジスタとなる。また酸素のドーズ量は、窒素と同様に5×1016cm−2以上であることが好ましい。
【0074】
<酸化物半導体トランジスタの別の構成例及びその作製方法>
上述した酸化物半導体トランジスタ201において、下層211al及び下層211blは、窒素を含まない領域、あるいは上層211au及び上層211buと比較して極めて窒素濃度が低い領域である。
【0075】
しかし、下層211al及び下層211blは、微小な空洞が形成されない程度のドーズ量で窒素が添加されていてもよい。下層211al及び下層211blに窒素が含まれていると、下層211al及び下層211blがn型化領域となり、オン電流をより流しやすくなる。
【0076】
下層211al及び下層211blが低濃度窒素含有領域である酸化物半導体トランジスタ221の作製方法を以下に説明する。
【0077】
まず図2(A)〜図2(D)に基づいて、窒素210の添加までを行う(図3(A)参照)。なお図3(A)と図2(D)は同じ図面である。これにより、上層211au及び上層211buは、高濃度窒素含有領域となる(図3(B)参照)。なお図3(A)に示す窒素210の添加を、第1の添加とする。
【0078】
次いで酸化物半導体層203に対して、窒素210を再度添加する(第2の添加)(図3(C)参照)。なお当該第2の添加は、第1の添加のドーズ量よりも第2の添加のドーズ量の方が小さくなるような条件で行う。また窒素210が下層211al及び下層211blに達するように、第2の添加は第1の添加よりも高い加速電圧で行う。
【0079】
第2の添加により、下層211al及び下層211blは低濃度窒素含有領域となる(図3(D)参照)。下層211al及び下層211blが低濃度窒素含有領域となることにより、オン電流をより流しやすくなる。
【0080】
なお、図3(A)〜図3(D)では、窒素添加を2度行うことで高濃度窒素含有領域である上層211au及び上層211bu、並びに、低濃度窒素含有領域である下層211al及び下層211blを形成する例を示したが、これに限定されない。第1の添加の際に、濃度プロファイルを調節することによっても、下層211al及び下層211blにも窒素が添加される。
【0081】
図4(A)に添加された窒素の濃度プロファイルを示す。図4(A)に示されるように、窒素の濃度は、初めは深さに対して増加するが、所定の深さD1で極大値をとる。深さD1より深くなるに従って、窒素の濃度は緩やかに減少する。
【0082】
図4(B)に、高い加速電圧で窒素を添加した場合の上層211bu及び下層211bl中の窒素の濃度プロファイルを示す。
【0083】
図4(B)に示されるように、上層211buに窒素濃度の極大値が存在する。また下層211blでは窒素濃度は低い。
【0084】
以上、加速電圧を制御することにより、第1の添加のみでも高濃度窒素含有領域及び低濃度窒素含有領域を形成することができる。
【0085】
酸化物半導体層203に対する窒素210添加後、基板200、下地絶縁膜202、酸化物半導体層203、電極204a、電極204b、ゲート絶縁膜206、ゲート電極207を覆って、絶縁膜212を形成する。絶縁膜212を形成後、熱処理を行う。本実施の形態では、450℃で熱処理を行う。
【0086】
次いで、絶縁膜212に、電極204a、電極204b、及びゲート電極207に達するコンタクトホールを形成する。次いで、絶縁膜212上に、当該コンタクトホールを介して、電極204aに電気的に接続される配線213、電極204bに電気的に接続される配線214、ゲート電極207に電気的に接続される配線215を形成する(図11参照)。
【0087】
なお図3及び図11に示す酸化物半導体トランジスタ221において、窒素の代わりに酸素を添加してもよい。窒素の代わりに酸素を添加した場合においても微小な空洞が形成されるため、オン/オフ比が取れる酸化物半導体トランジスタが形成できる。
【0088】
[実施の形態2]
本実施の形態では、開示される発明の一様態で用いることのできる酸化物半導体層について説明する。
【0089】
開示される発明の一様態で用いることのできる酸化物半導体層の酸化物半導体としては、少なくともインジウム(In)あるいは亜鉛(Zn)を含むことが好ましい。特にInとZnを含むことが好ましい。また、該酸化物を用いたトランジスタの電気特性のばらつきを減らすためのスタビライザーとして、それらに加えてガリウム(Ga)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてスズ(Sn)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてハフニウム(Hf)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてアルミニウム(Al)を有することが好ましい。
【0090】
また、他のスタビライザーとして、ランタノイドである、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のいずれか一種あるいは複数種を有してもよい。
【0091】
例えば、酸化物半導体として、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、二元系金属の酸化物であるIn−Zn系酸化物、Sn−Zn系酸化物、Al−Zn系酸化物、Zn−Mg系酸化物、Sn−Mg系酸化物、In−Mg系酸化物、In−Ga系酸化物、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn系酸化物(IGZOとも表記する)、In−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Zn系酸化物、Sn−Ga−Zn系酸化物、Al−Ga−Zn系酸化物、Sn−Al−Zn系酸化物、In−Hf−Zn系酸化物、In−La−Zn系酸化物、In−Ce−Zn系酸化物、In−Pr−Zn系酸化物、In−Nd−Zn系酸化物、In−Sm−Zn系酸化物、In−Eu−Zn系酸化物、In−Gd−Zn系酸化物、In−Tb−Zn系酸化物、In−Dy−Zn系酸化物、In−Ho−Zn系酸化物、In−Er−Zn系酸化物、In−Tm−Zn系酸化物、In−Yb−Zn系酸化物、In−Lu−Zn系酸化物、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn系酸化物、In−Hf−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Ga−Zn系酸化物、In−Sn−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Hf−Zn系酸化物、In−Hf−Al−Zn系酸化物を用いることができる。
【0092】
なお、ここで、例えば、In−Ga−Zn系酸化物とは、InとGaとZnを主成分として有する酸化物という意味であり、InとGaとZnの比率は問わない。また、InとGaとZn以外の金属元素が入っていてもよい。
【0093】
また、酸化物半導体として、InMO(ZnO)(m>0、且つ、mは整数でない)で表記される材料を用いてもよい。なお、Mは、Ga、Fe、Mn及びCoから選ばれた一の金属元素または複数の金属元素を示す。また、酸化物半導体として、InSnO(ZnO)(n>0、且つ、nは整数)で表記される材料を用いてもよい。
【0094】
例えば、In:Ga:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)あるいはIn:Ga:Zn=2:2:1(=2/5:2/5:1/5)の原子比のIn−Ga−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いることができる。あるいは、In:Sn:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)、In:Sn:Zn=2:1:3(=1/3:1/6:1/2)あるいはIn:Sn:Zn=2:1:5(=1/4:1/8:5/8)の原子比のIn−Sn−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いるとよい。
【0095】
しかし、これらに限られず、必要とする半導体特性(移動度、しきい値、ばらつき等)に応じて適切な組成のものを用いればよい。また、必要とする半導体特性を得るために、キャリア濃度や不純物濃度、欠陥密度、金属元素と酸素の原子数比、原子間結合距離、密度等を適切なものとすることが好ましい。
【0096】
例えば、In−Sn−Zn系酸化物では比較的容易に高い移動度が得られる。しかしながら、In−Ga−Zn系酸化物でも、バルク内欠陥密度を下げることにより移動度を上げることができる。
【0097】
なお、例えば、In、Ga、Znの原子数比がIn:Ga:Zn=a:b:c(a+b+c=1)である酸化物の組成が、原子数比がIn:Ga:Zn=A:B:C(A+B+C=1)の酸化物の組成の近傍であるとは、a、b、cが、(a−A)+(b−B)+(c−C)≦r、を満たすことをいい、rは、例えば、0.05とすればよい。他の酸化物でも同様である。
【0098】
酸化物半導体は単結晶でも、非単結晶でもよい。後者の場合、アモルファスでも、多結晶でもよい。また、アモルファス中に結晶性を有する部分を含む構造でも、非アモルファスでもよい。
【0099】
アモルファス状態の酸化物半導体は、比較的容易に平坦な表面を得ることができるため、これを用いてトランジスタを作製した際の界面散乱を低減でき、比較的容易に、比較的高い移動度を得ることができる。
【0100】
また、結晶性を有する酸化物半導体では、よりバルク内欠陥を低減することができ、表面の平坦性を高めればアモルファス状態の酸化物半導体以上の移動度を得ることができる。表面の平坦性を高めるためには、平坦な表面上に酸化物半導体を形成することが好ましく、具体的には、平均面粗さ(Ra)が1nm以下、好ましくは0.3nm以下、より好ましくは0.1nm以下の表面上に形成するとよい。
【0101】
なお、Raは、算術平均粗さを面に対して適用できるよう三次元に拡張したものであり、「基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値」と表現でき、以下の式にて定義される。
【0102】
【数1】

【0103】
なお、上記において、Sは、測定面(座標(x,y)(x,y)(x,y)(x,y)の4点で表される四角形の領域)の面積を指し、Zは測定面の平均高さを指す。Raは原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)にて評価可能である。
【0104】
酸化物半導体が結晶性を有する場合には、c軸配向し、かつab面、表面または界面に垂直な方向から見て三角形状または六角形状の原子配列を有し、c軸においては金属原子が層状または金属原子と酸素原子とが層状に配列しており、ab面においてはa軸またはb軸の向きが異なる(c軸を中心に回転した)結晶(CAAC:C Axis Aligned Crystalともいう)を含む酸化物を用いてもよい。CAACを含む酸化物について以下に説明する。
【0105】
CAACを含む酸化物とは、広義に、非単結晶であって、そのab面に垂直な方向から見て、三角形、六角形、正三角形または正六角形の原子配列を有し、かつc軸方向に垂直な方向から見て、金属原子が層状、または金属原子と酸素原子が層状に配列した相を含む酸化物をいう。
【0106】
CAACは単結晶ではないが、非晶質のみから形成されているものでもない。また、CAACは結晶化した部分(結晶部分)を含むが、1つの結晶部分と他の結晶部分の境界を明確に判別できないこともある。
【0107】
CAACに酸素が含まれる場合、酸素の一部は窒素で置換されてもよい。また、CAACを構成する個々の結晶部分のc軸は一定の方向(例えば、CAACが形成される基板面、CAACの表面などに垂直な方向)に揃っていてもよい。または、CAACを構成する個々の結晶部分のab面の法線は一定の方向(例えば、CAACが形成される基板面、CAACの表面などに垂直な方向)を向いていてもよい。
【0108】
CAACは、その組成などに応じて、導体であったり、半導体であったり、絶縁体であったりする。また、その組成などに応じて、可視光に対して透明であったり不透明であったりする。
【0109】
このようなCAACの例として、膜状に形成され、膜表面またはCAACが形成される基板面に垂直な方向から観察すると三角形または六角形の原子配列が認められ、かつその膜断面を観察すると金属原子または金属原子および酸素原子(または窒素原子)の層状配列が認められる結晶を挙げることもできる。
【0110】
CAACに含まれる結晶構造の一例について図7乃至図9を用いて詳細に説明する。なお、特に断りがない限り、図7乃至図9は上方向をc軸方向とし、c軸方向と直交する面をab面とする。なお、単に上半分、下半分という場合、ab面を境にした場合の上半分、下半分をいう。また、図7において、丸で囲まれたOは4配位のOを示し、二重丸で囲まれたOは3配位のOを示す。
【0111】
図7(A)に、1個の6配位のInと、Inに近接の6個の4配位の酸素原子(以下4配位のO)と、を有する構造を示す。ここでは、金属原子が1個に対して、近接の酸素原子のみ示した構造を小グループと呼ぶ。図7(A)の構造は、八面体構造をとるが、簡単のため平面構造で示している。なお、図7(A)の上半分および下半分にはそれぞれ3個ずつ4配位のOがある。図7(A)に示す小グループは電荷が0である。
【0112】
図7(B)に、1個の5配位のGaと、Gaに近接の3個の3配位の酸素原子(以下3配位のO)と、近接の2個の4配位のOと、を有する構造を示す。3配位のOは、いずれもab面に存在する。図7(B)の上半分および下半分にはそれぞれ1個ずつ4配位のOがある。また、Inも5配位をとるため、図7(B)に示す構造をとりうる。図7(B)に示す小グループは電荷が0である。
【0113】
図7(C)に、1個の4配位のZnと、Znに近接の4個の4配位のOと、を有する構造を示す。図7(C)の上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがある。図7(C)に示す小グループは電荷が0である。
【0114】
図7(D)に、1個の6配位のSnと、Snに近接の6個の4配位のOと、を有する構造を示す。図7(D)の上半分には3個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがある。図7(D)に示す小グループは電荷が+1となる。
【0115】
図7(E)に、2個のZnを含む小グループを示す。図7(E)の上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には1個の4配位のOがある。図7(E)に示す小グループは電荷が−1となる。
【0116】
ここでは、複数の小グループの集合体を中グループと呼び、複数の中グループの集合体を大グループ(ユニットセルともいう。)と呼ぶ。
【0117】
ここで、これらの小グループ同士が結合する規則について説明する。Inの上半分の3個のOは下方向に3個の近接Inを有し、下半分の3個のOは上方向に3個の近接Inを有する。Gaの上半分の1個のOは下方向に1個の近接Gaを有し、下半分の1個のOは上方向に1個の近接Gaを有する。Znの上半分の1個のOは下方向に1個の近接Znを有し、下半分の3個のOは上方向に3個の近接Znを有する。この様に、金属原子の上方向の4配位のOの数と、そのOの下方向にある近接金属原子の数は等しく、同様に金属原子の下方向の4配位のOの数と、そのOの上方向にある近接金属原子の数は等しい。Oは4配位なので、下方向にある近接金属原子の数と、上方向にある近接金属原子の数の和は4になる。従って、金属原子の上方向にある4配位のOの数と、別の金属原子の下方向にある4配位のOの数との和が4個のとき、金属原子を有する二種の小グループ同士は結合することができる。その理由を以下に示す。例えば、6配位の金属原子(InまたはSn)が上半分の4配位のOを介して結合する場合、4配位のOが3個であるため、5配位の金属原子(GaまたはIn)の上半分の4配位のO、5配位の金属原子(GaまたはIn)の下半分の4配位のOまたは4配位の金属原子(Zn)の上半分の4配位のOのいずれかと結合することになる。
【0118】
これらの配位数を有する金属原子は、c軸方向において、4配位のOを介して結合する。また、このほかにも、層構造の合計の電荷が0となるように複数の小グループが結合して中グループを構成する。
【0119】
図8(A)に、In−Sn−Zn系酸化物の層構造を構成する中グループのモデル図を示す。図8(B)に、3つの中グループで構成される大グループを示す。なお、図8(C)は、図8(B)の層構造をc軸方向から観察した場合の原子配列を示す。
【0120】
図8(A)においては、簡単のため、3配位のOは省略し、4配位のOは個数のみ示し、例えば、Snの上半分および下半分にはそれぞれ3個ずつ4配位のOがあることを丸枠の3として示している。同様に、図8(A)において、Inの上半分および下半分にはそれぞれ1個ずつ4配位のOがあり、丸枠の1として示している。また、同様に、図8(A)において、下半分には1個の4配位のOがあり、上半分には3個の4配位のOがあるZnと、上半分には1個の4配位のOがあり、下半分には3個の4配位のOがあるZnとを示している。
【0121】
図8(A)において、In−Sn−Zn系酸化物の層構造を構成する中グループは、上から順に4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるSnが、4配位のOが1個ずつ上半分および下半分にあるInと結合し、そのInが、上半分に3個の4配位のOがあるZnと結合し、そのZnの下半分の1個の4配位のOを介して4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInと結合し、そのInが、上半分に1個の4配位のOがあるZn2個からなる小グループと結合し、この小グループの下半分の1個の4配位のOを介して4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるSnと結合している構成である。この中グループが複数結合して大グループを構成する。
【0122】
ここで、3配位のOおよび4配位のOの場合、結合1本当たりの電荷はそれぞれ−0.667、−0.5と考えることができる。例えば、In(6配位または5配位)、Zn(4配位)、Sn(5配位または6配位)の電荷は、それぞれ+3、+2、+4である。従って、Snを含む小グループは電荷が+1となる。そのため、Snを含む層構造を形成するためには、電荷+1を打ち消す電荷−1が必要となる。電荷−1をとる構造として、図7(E)に示すように、2個のZnを含む小グループが挙げられる。例えば、Snを含む小グループが1個に対し、2個のZnを含む小グループが1個あれば、電荷が打ち消されるため、層構造の合計の電荷を0とすることができる。
【0123】
具体的には、図8(B)に示した大グループが繰り返されることで、In−Sn−Zn系酸化物の結晶(InSnZn)を得ることができる。なお、得られるIn−Sn−Zn系酸化物の層構造は、InSnZn(ZnO)(mは0または自然数。)とする組成式で表すことができる。なお、In−Sn−Zn系酸化物の結晶は、mの数が大きいと結晶性が向上するため、好ましい。
【0124】
また、このほかにも、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn系酸化物や、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn系酸化物(IGZOとも表記する。)、In−Al−Zn系酸化物、Sn−Ga−Zn系酸化物、Al−Ga−Zn系酸化物、Sn−Al−Zn系酸化物や、In−Hf−Zn系酸化物、In−La−Zn系酸化物、In−Ce−Zn系酸化物、In−Pr−Zn系酸化物、In−Nd−Zn系酸化物、In−Pm−Zn系酸化物、In−Sm−Zn系酸化物、In−Eu−Zn系酸化物、In−Gd−Zn系酸化物、In−Tb−Zn系酸化物、In−Dy−Zn系酸化物、In−Ho−Zn系酸化物、In−Er−Zn系酸化物、In−Tm−Zn系酸化物、In−Yb−Zn系酸化物、In−Lu−Zn系酸化物や、二元系金属の酸化物であるIn−Zn系酸化物、Sn−Zn系酸化物、Al−Zn系酸化物、Zn−Mg系酸化物、Sn−Mg系酸化物、In−Mg系酸化物や、In−Ga系酸化物、In系酸化物、Sn系酸化物、Zn系酸化物などを用いた場合も同様である。
【0125】
例えば、図9(A)に、In−Ga−Zn系酸化物の層構造を構成する中グループのモデル図を示す。
【0126】
図9(A)において、In−Ga−Zn系酸化物の層構造を構成する中グループは、上から順に4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInが、4配位のOが1個上半分にあるZnと結合し、そのZnの下半分の3個の4配位のOを介して、4配位のOが1個ずつ上半分および下半分にあるGaと結合し、そのGaの下半分の1個の4配位のOを介して、4配位のOが3個ずつ上半分および下半分にあるInと結合している構成である。この中グループが複数結合して大グループを構成する。
【0127】
図9(B)に3つの中グループで構成される大グループを示す。なお、図9(C)は、図9(B)の層構造をc軸方向から観察した場合の原子配列を示している。
【0128】
ここで、In(6配位または5配位)、Zn(4配位)、Ga(5配位)の電荷は、それぞれ+3、+2、+3であるため、In、ZnおよびGaのいずれかを含む小グループは、電荷が0となる。そのため、これらの小グループの組み合わせであれば中グループの合計の電荷は常に0となる。
【0129】
また、In−Ga−Zn系酸化物の層構造を構成する中グループは、図9(A)に示した中グループに限定されず、In、Ga、Znの配列が異なる中グループを組み合わせた大グループも取りうる。
【0130】
なお、In−Sn−Zn系酸化物は、用いるターゲットの組成比は、In:Sn:Znが原子数比で、1:2:2、2:1:3、1:1:1、または20:45:35などとなる酸化物ターゲットを用いる。
【実施例1】
【0131】
図6に、チャネル長L、窒素添加の有無、窒素添加のドーズ量を変えた場合の酸化物半導体トランジスタにおいて、ゲート電圧(Vg)とドレイン電流(Id)の関係を示す。
【0132】
図6(A)乃至図6(C)はチャネル長Lが0.35μm、図6(D)乃至図6(F)はチャネル長Lが0.8μm、図6(G)乃至図6(I)はチャネル長Lが3.0μm、図6(J)乃至図6(L)はチャネル長Lが10.0μmの酸化物半導体トランジスタのゲート電圧(Vg)とドレイン電流(Id)の関係を示している。なお図6で用いた酸化物半導体トランジスタのチャネル幅Wは10μmであった。
【0133】
また、図6(A)、図6(D)、図6(G)、図6(J)の酸化物半導体トランジスタには、窒素添加は行わず、熱処理は450℃で行った。図6(B)、図6(E)、図6(H)、図6(K)の酸化物半導体トランジスタには、加速電圧10kV、ドーズ量1×1014cm−2で窒素添加を行い、熱処理は450℃で行った。図6(C)、図6(F)、図6(I)、図6(L)の酸化物半導体トランジスタには、加速電圧10kV、ドーズ量5×1016cm−2で窒素添加を行い、熱処理は450℃で行った。
【0134】
図6(A)、図6(B)、図6(D)、図6(E)、図6(G)、図6(H)に示すように、チャネル長Lが小さく(3.0μm以下)、かつドーズ量が少ない(1×1014cm−2以下)であると、十分なオン/オフ比は取れず、ゲート電圧Vgを変化させてもドレイン電流Idは変化しない。すなわちこのような酸化物半導体トランジスタはトランジスタとしては機能しない。
【0135】
図6(A)、図6(D)、図(G)に示されるように、窒素添加を行わないと、酸化物半導体トランジスタの十分なオン/オフ比は取れず、酸化物半導体トランジスタがトランジスタとして機能しない。
【0136】
また図6(B)、図6(E)、図6(H)に示すように、窒素添加が行われていてもドーズ量が小さい(1×1014cm−2)と、酸化物半導体トランジスタの十分なオン/オフ比は取れず、酸化物半導体トランジスタがトランジスタとして機能しない。
【0137】
しかしながら、図6(C)、図6(F)、図6(I)に示すように、ドーズ量が5×1016cm−2の酸化物半導体トランジスタは、チャネル長Lが小さい、例えば0.35μm(図6(C)参照)であっても、十分なオン/オフ比が取れる。すなわち、ゲート電圧Vgを変化させるとドレイン電流Idは変化する。図6(C)、図6(F)、図6(I)に示す酸化物半導体トランジスタはトランジスタとして機能する。
【0138】
以上図6から、ドーズ量が5×10−6cm−2未満、例えば、1×1014cm−2の酸化物半導体トランジスタでは、チャネル長Lが大きい、例えば3.0μmでも十分なオン/オフ比が取れないことが示された。よってチャネル長Lが小さい(例えば3.0μm以下)酸化物半導体トランジスタでは、窒素のドーズ量は5×1016cm−2以上が好ましい。
【0139】
実施の形態1で示したように、窒素のドーズ量が5×1016cm−2以上であると、酸化物半導体層に微小な空洞が形成される。上述のように、酸化物半導体層中の微小な空洞の内壁には外気や絶縁膜からの水素が吸着される。微小な空洞の内壁に水素が吸着されていると、酸化物半導体層から酸素が引き抜かれない。酸素が引き抜かれない酸化物半導体層を有する酸化物半導体トランジスタは、十分なオン/オフ比を取ることができ、ゲート電圧Vgが変化するとドレイン電流Idが変化する。すなわち、酸化物半導体トランジスタはトランジスタとして機能する。
【0140】
以上本実施例により、開示される発明の一様態の酸化物半導体トランジスタでは、チャネル長Lが短くても十分なオン/オフ比を取ることができることが示された。
【符号の説明】
【0141】
200 基板
201 酸化物半導体トランジスタ
202 下地絶縁膜
203 酸化物半導体層
204a 電極
204b 電極
206 ゲート絶縁膜
207 ゲート電極
208a 領域
208b 領域
209 チャネル形成領域
210 窒素
211a 領域
211au 上層
211al 下層
211b 領域
211bu 上層
211bl 下層
212 絶縁膜
213 配線
214 配線
215 配線
221 酸化物半導体トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体層と、
酸化物半導体層上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記酸化物半導体層のチャネル形成領域上に、前記ゲート絶縁膜を挟んで設けられたゲート電極と、
前記酸化物半導体層の第1の領域上に設けられたソース電極又はドレイン電極と、
前記チャネル形成領域と前記第1の領域との間に第2の領域と、
を有し
前記第2の領域の上層は微小な空洞を含んでいることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
酸化物半導体層と、
酸化物半導体層上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記酸化物半導体層のチャネル形成領域上に、前記ゲート絶縁膜を挟んで設けられたゲート電極と、
前記酸化物半導体層の第1の領域上に設けられたソース電極又はドレイン電極と、
前記チャネル形成領域と前記第1の領域との間に第2の領域と、
を有し、
前記第2の領域の上層は窒素を含んでいることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
酸化物半導体層と、
酸化物半導体層上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記酸化物半導体層のチャネル形成領域上に、前記ゲート絶縁膜を挟んで設けられたゲート電極と、
前記酸化物半導体層の第1の領域上に設けられたソース電極又はドレイン電極と、
前記チャネル形成領域と前記第1の領域との間に第2の領域と、
を有し、
前記第2の領域の上層は、前記第2の領域の下層よりも窒素を多く含んでいることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3において、
前記第2の領域の上層の窒素濃度は、1×1021cm−3以上であることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれか一項において、
前記第2の領域の上層には、微小な空洞が形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
酸化物半導体層と、
酸化物半導体層上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記酸化物半導体層のチャネル形成領域上に、前記ゲート絶縁膜を挟んで設けられたゲート電極と、
前記酸化物半導体層の第1の領域上に設けられたソース電極又はドレイン電極と、
前記チャネル形成領域と前記第1の領域との間の第2の領域の上層は、前記第2の領域の下層よりも酸素を多く含んでいることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記第2の領域の上層には、微小な空洞が形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7において、
前記第2の領域の上層の酸素濃度は、1×1021cm−3以上であることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
酸化物半導体層を形成し、
前記酸化物半導体層中の第1の領域上にソース電極又はドレイン電極を形成し、
前記酸化物半導体層中のチャネル形成領域上に、ゲート絶縁膜を挟んで重畳するように、ゲート電極を形成し、
前記ソース電極又はドレイン電極、及び前記ゲート電極をマスクとして、前記第1の領域及び前記チャネル形成領域との間の第2の領域の上層に窒素を添加し、
前記窒素が添加された第2の領域の上層を有する前記酸化物半導体層を加熱することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記窒素のドーズ量は、5×1016cm−2以上であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項11】
酸化物半導体層を形成し、
前記酸化物半導体層中の第1の領域上にソース電極又はドレイン電極を形成し、
前記酸化物半導体層中のチャネル形成領域上に、ゲート絶縁膜を挟んで重畳するように、ゲート電極を形成し、
前記ソース電極又はドレイン電極、及び前記ゲート電極をマスクとして、前記第1の領域及び前記チャネル形成領域との間の第2の領域の上層に酸素を添加し、
前記酸素が添加された第2の領域の上層を有する前記酸化物半導体層を加熱することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記酸素のドーズ量は、5×1016cm−2以上であることを特徴とする半導体装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−33950(P2013−33950A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−143899(P2012−143899)
【出願日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】