説明

半導体装置及びその駆動方法

【課題】閾値電圧(Vth)の経時的に変動する現象を抑制することで、高信頼性を保つことが可能なMIS型半導体装置を提供する。
【解決手段】本発明は、半導体ボディ領域とゲート絶縁膜の間に半導体ボディ領域とは逆の半導体極性のチャネル層を有するMIS型半導体装置であり、当該半導体装置のフラットバンド電圧Vfbを−10ボルト以下とすることにより、半導体ボディ領域表面近傍に誘起されるキャリア電荷密度を当該半導体装置の動作保証範囲内において所定量以下に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MIS(Metal−Insulator−Semiconductor)構造を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置はその用途に応じて、様々な要求仕様を満足するための技術開発が進められている。半導体基板上に絶縁膜構造体を有するデバイスでは、その基本性能向上のため絶縁膜の高品質化が求められている。
【0003】
例えば、一般的にLSIに用いられているシリコン(Si)基板上に形成された半導体装置は、微細化を進めることで集積度を高め、飛躍的に性能を向上させてきた。そのゲート絶縁膜には従来、極めて高品質な熱的に成長させた酸化膜(熱SiO2膜)を用いており、薄膜化等により微細化に対応してきた。近年、熱SiO2膜の薄膜化の限界に直面し、更なる微細化を進めるため、高誘電率絶縁膜等の導入が進められている。
【0004】
一方、ワイドバンドギャップ半導体は、耐圧が高く、大電流を流すことができるパワーデバイスの半導体材料として注目されている。例えば炭化珪素(シリコンカーバイド:SiC)は、特に高い絶縁破壊電界を有するので、次世代の低損失パワーデバイスに最適な半導体として期待されている。
【0005】
SiC上には熱酸化により比較的良質のSiO2膜を形成できる。しかし、そのMIS界面は、界面準位等の多くの熱SiO2膜に係る欠陥を含み、MISトランジスタのチャネル移動度が著しく低いことや信頼性確保が困難なことが課題となっていた。これに対し、近年、熱酸化膜、もしくは、CVDによるSiO2膜形成後、窒化処理工程を付加する事で、SiO2/SiC界面に高濃度の窒素をドーピングし、界面準位を低減させチャネル移動度を改善できることが報告されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、NOガスもしくはN2Oガスを含んだ雰囲気でSiC表面に窒化処理を行う工程と、前記窒化処理工程に続き、化学的もしくは物理的気相成長法によりSiC表面に成膜を行う工程を含む製造方法が開示されている。
【0007】
このようなプロセスを経て形成されたゲート絶縁膜を有するMIS界面は、界面準位を低減でき、チャネル移動度の大幅な改善を実現できることが実証されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−117878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体装置の基本性能を向上させながら信頼性確保を両立させる技術的難易度は年々厳しくなっている。
【0010】
例えばSi上に形成されるMIS型半導体装置、或いはトランジスタ素子のMISFET(MIS Field−Effect−Transistor)では、微細化等の進展に伴い内部電界が増大の一途となっている。そのため、半導体中のキャリアが、よりエネルギーを得て絶縁膜障壁を越える等によりゲート絶縁膜に導入されやすくなり、閾値電圧(Vth)が変動し不安定となる等、様々な信頼性の問題を引き起こす。ゲート絶縁膜に導入され得るキャリアにはエレクトロン(電子)とホール(正孔)があるが、前者に比べ後者の方が導入されるキャリア1個当りのトラップ等の発生ダメージ量(トラップ効率等と言う)が圧倒的に大きいことがよく知られている。
【0011】
さらに、微細化・薄膜化の進展で最近のSi集積回路装置では、従来の熱SiO2膜に代わって高誘電率絶縁膜をゲート絶縁膜として導入せざるを得なくなっている。これら高誘電率絶縁膜は、極めて高品質なことで知られる従来の熱SiO2膜に比べると、その膜質はかなり劣るだけでなく、一般にそのエネルギーギャップが小さくその分半導体中のキャリアから見たエネルギー障壁は低くなる。劣化した膜質はトラップ効率を高め、エネルギー障壁の低下はエレクトロンやホールが絶縁膜に導入される確率を高める。その結果、これら高誘電率絶縁膜を用いた半導体装置では、Vth変動など信頼性の問題がより深刻になることが懸念される。
【0012】
一方、ワイドバンドギャップ半導体から形成されたMISFETでは、半導体側がワイドバンドギャップであるため、バンドギャップが広いSiO2をゲート絶縁膜に用いた場合でも、半導体に対しての障壁高さはより低くなり、それに従って半導体中のキャリアは、より絶縁膜中に導入されやすくなる。
【0013】
図9は、縦型MIS構造のSiC半導体装置1100の構成例を示している。半導体装置1100は、n+基板(SiC基板)110の上に、n-ドリフト層111が積層された構造を有している。n-ドリフト層111の上部には、pボディ領域120が形成されており、pボディ領域120の上部に、pボディコンタクト領域122とn+ソース領域124とが形成されている。n-ドリフト層111、pボディコンタクト領域122及びn+ソース領域124の表面には、チャネル層140が形成されている。さらにチャネル層140の上には、ゲート絶縁膜144およびゲート電極146が形成されている。当該チャネル層140は、pボディ領域120の上方に位置する箇所にチャネル領域を形成する。この「チャネル層」は「埋込層」とも呼ばれる場合もある。n+ソース領域124の表面にはソース電極126が形成され、n+基板110の裏面にはドレイン電極128が形成されている。
【0014】
一般に、機器や装置、部品などには、指定された条件における仕様、性能、使用限度などを定めた定格(あるいは「最大定格」)が規定されており、当該定格値の範囲内での使用において長期信頼性を含めた当該装置の正常動作が保証される。これに対し、「絶対最大定格」は、一瞬たりとも、この値を越えると永久的な破壊等に至る値を指す。したがって、「絶対最大定格」は、「定格」または「最大定格」に比べ、一般に大きな範囲が設定される。以下、本明細書においては、定格(最大定格)、絶対最大定格等の用語を用いる。
【0015】
MIS型半導体装置では、ゲートに係る定格電圧Vgccが規定されており、一般に正電圧、負電圧双方の極性における動作保証がされる。本発明明細書では、MIS型半導体装置のON側の極性のゲート定格電圧をVgccとして定義する。また、MIS型半導体装置のOFF側の極性のゲート定格電圧をVgcc-として定義する。パワー半導体で一般的なnチャンネルMIS型半導体装置を例にとると、例えば一般にVgccは20±2Vの範囲である。ON側の正のゲート電圧VgではVgccを上限とする範囲で動作保証がされる。一方、OFF側の負のゲート電圧ではVgcc-を下限とする範囲で動作保証がされる。一般に半導体装置やその用途に応じて、−Vgccから−Vgcc/2を下限とする範囲で動作保証がされる。すなわち、一般に、Vgcc-は、−Vgccから−Vgcc/2の範囲に設定される。このことは、SiCパワー半導体においても同様である。例えばVgcc=20Vの場合では、−20〜−10V≦Vg≦+20Vの範囲で信頼性も含めた動作を保証する必要がある。
【0016】
本願発明者等は、上記のような大電圧をゲート絶縁膜に印加した場合、ある条件下で閾値電圧(Vth)が不安定となり、経時的に変動する現象が観測されることを新たに見出した。特に、高温下での負電圧印加による負方向のシフトが顕著であることが本発明者によって明らかになった。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、Vthの経時的に変動する現象を抑制する半導体装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の半導体装置は、半導体ボディ領域、ゲート絶縁膜、前記半導体ボディ領域と前記ゲート絶縁膜との間に設けられ、前記半導体ボディ領域とは逆の半導体極性のチャネル層、及び前記ゲート絶縁膜と接して設けられたゲート電極を有するMIS型の半導体装置であって、前記半導体ボディ領域のバンド曲がりがゼロとなるゲート電圧をフラットバンド電圧Vfb、前記半導体装置のオフ側の極性のゲートの定格電圧をVgcc-と定義するとき、前記半導体装置のVfbがVgcc-と同等かそれ以下である。
【0019】
ある実施形態において、前記半導体ボディ領域のバンドギャップをEg、前記半導体装置のオン側の極性のゲートの定格電圧をVgccと定義するとき、前記半導体装置のVfbが−Vgcc/2と−2Egのいずれか低い方と同等かそれ以下である。
【0020】
ある実施形態において、前記半導体装置のゲート絶縁膜容量をCiと定義するとき、前記チャネル層の半導体不純物濃度が1018cm-3より高く5×1019cm-3以下であって、かつ、面積当りの半導体不純物電荷濃度がEg×Ci[C/cm2]と同等かそれ以上である。
【0021】
ある実施形態において、前記半導体装置のゲート絶縁膜容量をCi、前記ゲート絶縁膜に係る固定電荷密度をQfと定義するとき、前記Qfが1.5Eg×Ci[C/cm2]と同等かそれ以上である。
【0022】
ある実施形態において、前記半導体装置のゲート絶縁膜容量をCi、前記ゲート絶縁膜に係る固定電荷密度をQf、前記半導体ボディ領域と前記ゲート電極との仕事関数差をΦmsと定義するとき、Qf−Φms×Ciの値が2Eg×Ci[C/cm2]と同等かそれ以上である。
【0023】
ある実施形態において、前記半導体装置のゲート絶縁膜容量をCi、前記チャネル層の面積当りの半導体不純物電荷濃度をQb、前記半導体ボディ領域と前記ゲート電極との仕事関数差をΦmsと定義するとき、前記チャネル層の半導体不純物濃度が1018cm-3より大きく5×1019cm-3以下であって、かつ、Qb−Φms×Ciの値が2Eg×Ci[C/cm2]と同等かそれ以上である。
【0024】
ある実施形態において、前記半導体ボディ領域及び前記チャネル層が炭化珪素により構成される。
【0025】
ある実施形態において、Vfbが−10ボルト(V)以下である。
【0026】
本発明の半導体装置の駆動方法は、半導体ボディ領域、ゲート絶縁膜、前記半導体ボディ領域と前記ゲート絶縁膜との間に設けられ、前記半導体ボディ領域とは逆の半導体極性のチャネル層、及び、前記ゲート絶縁膜と接して設けられたゲート電極を有するMIS型の半導体装置の駆動方法であって、前記半導体ボディ領域のバンド曲がりがゼロとなるゲート電圧をフラットバンド電圧Vfb、前記半導体装置のオフ側の極性のゲートの定格電圧をVgcc-、前記半導体装置のオン側の極性のゲートの定格電圧をVgcc、前記半導体装置の閾値電圧をVthと定義するとき、VthとVgcc-との間の大きさの電圧を前記ゲート電極に印加する工程と、VthとVgccとの間の大きさの電圧を前記ゲート電極に印加する工程とを含み、前記半導体装置のVfbがVgcc-と同等かそれ以下である。
【0027】
ある実施形態において、前記半導体ボディ領域のバンドギャップをEgと定義するとき、前記半導体装置のVfbが−Vgcc/2と−2Egのいずれか低い方と同等かそれ以下である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、VfbがVgcc-とほぼ同等かそれ以下に設定されているため、ゲート電極に定格電圧の下限または上限等に相当する大電圧を印加したときに問題となるVthが変動する現象が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体装置(SiC縦型MISFET)100の断面図
【図2】本実施形態に係る他の半導体装置(SiC横型MISFET)101の断面図
【図3】従来例に係るSiC横型MISFETのVth寿命の電圧依存性を示す図
【図4】従来例に係るSiC MIS型半導体装置のCV特性を示す図
【図5】本実施形態に係るSiC横型MISFETのCV特性を示す図
【図6】(a)は、異なるVfbを有するSiC横型MISFETのVth変動量のストレス電圧依存性を示す図であり、(b)は、異なるVfbを有する当該半導体装置に印加されるストレス電圧からVfbを除したときのVth変動量の比較を示す図
【図7】異なるVfbを有するSiC横型MISFETのVth寿命の電圧依存性を示す図
【図8】本発明の他の実施形態に係る半導体装置102の構成を模式的に示す断面図
【図9】従来例に係る半導体装置(SiC縦型MISFET)1100の断面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
ある条件下で閾値電圧(Vth)が不安定となり、経時的に変動する現象は、SiO2/SiC界面またはその近傍のSiO2膜中に高密度のホールトラップが存在するために、ホールが上記トラップに捕獲されることで起こると推察できる。本発明は、以下に説明する知見に基づき、フラットバンド電圧Vfbを、ゲート電圧の保証範囲の下限であるVgcc-(典型的には−Vgcc、または、−Vgcc/2)とほぼ同等であるかそれ以下に設定し、それによってVth変動を抑制することができる。以下、Vth変動とVfbとの関係を説明する。
【0031】
ワイドバンドギャップ材料、特にSiCでは、SiO2に対するホール障壁がSiの場合の約4.7Vに比べると約2.9Vと低い。このため、例えホールのトラップ数(あるいはトラップ効率)がSi半導体の場合と同程度であるとしても、SiO2中に注入されうるホールの総量が多いことが予想される。実際、SiC半導体のSiO2膜に係るホールトラップはSi半導体の場合よりも多いことが一般に知られている。
【0032】
本願発明者等は、このVth変動の現象機構を解析するため、以下に記す代表的な実験を実施した。先ず、図2に示す横型のSiC−MISFET101を準備した。この横型MISFETは、SiC半導体基板10と、SiC半導体基板10上に形成されたn-型ドリフト層11とを備えている。n-型ドリフト層11の上面側にはp型ボディ領域20が存在し、p型ボディ領域20には、n型のソース領域24およびドレイン領域30が離間して形成されている。p型ボディ領域20上には、ソース領域24およびドレイン領域30と部分的にオーバーラップするようにチャネル層40(または埋込層)が配置されている。チャネル層40上にはゲート絶縁膜44とゲート電極46とがこの順番に配置されている。この横型MISFETは、ゲート電極46に対して、n型ソース領域24とドレイン領域30が対称であることを除いて、基本的に図9に示した縦型MISFETと同じである。この横型MISFETでゲート電極に電圧を印加したときのVthが経時変化する現象を観測した。
【0033】
図3は150℃の高温下で、ゲート電極に負電圧(Vg)を印加したときのVthの寿命の電圧依存性を示す。図3のグラフの縦軸は寿命、横軸は、ゲート電圧VgからVfbを差し引いた値の逆数をマイナス1倍した数値である。ここでの寿命とは、Vthの変動量が10%変動に相当する±0.3Vに達する時間としている。同図の外挿から10年間(87600時間≒約1×105h)の寿命を保証するには、同図の横軸の数値が2を超える必要があることが明らかとなった。すなわち、−1/(Vg−Vfb)が2を超える必要がある。このことから、Vfb−Vg<0.5が導かれる。
【0034】
上記の考察から、一般に、十分に長い寿命を保証するには、Vg>Vfb−Voを満たす必要があることが明らかとなった。ここでVoの値は非常に小さく本例ではおよそ0.5Vであった。Vfbは当該半導体装置のフラットバンド電圧である。フラットバンド電圧Vfbは、ゲート絶縁膜と接する側にチャネル層を有する半導体ボディ領域(図2の構造の例ではp型ボディ領域20)のバンド曲がりがゼロとなるゲート電圧と定義する。
【0035】
Voは、Vo=Qo/Ciと一般化して表現され得る。ここでCiは単位面積当りのゲート絶縁膜容量、QoはVoをCiで規格化した単位面積当たりの電荷量である。このように発明者等は、ゲート電極に負電圧を印加したときのVthの負方向シフト量は、概ねVgがVfbに対してどれだけ負方向にシフトしているか(数直線の正負の概念で言えば、どれだけ低いか)という量により決まることを発見した。この点については、後に図6(a)(b)を参照しながら、より詳しく説明する。
【0036】
Vthの負方向シフトのメカニズムについて、以下のように発明者等は考える。即ち、半導体表面近傍で誘起されたキャリア(この場合はホール)は、熱励起等のプロセスによりゲート絶縁膜に導入される。一般的なチャネル層を有するSiやSiC等のMIS型半導体装置では、特にゲート電圧が負の場合に当該チャネル層の殆どが空乏化していることをシミュレーション等で確認した。この時発生する正電荷は空間電荷であるから絶縁膜に移動し得ない。ゲート絶縁膜に移動可能な正のキャリアはp型の半導体ボディ領域が蓄積状態になって初めて、|Vg−Vfb|に比例して増加する。従って、上述のQoは、半導体ボディ領域表面近傍に誘起されたキャリア電荷密度に、ゲート絶縁膜への注入効率およびゲート絶縁膜でのトラップ効率を掛け合わせた量であってVth変動を引き起こす閾値的なものであると基本的に考えられる。
【0037】
上記の例のように、SiCを始めとするワイドバンドギャップ半導体では、高品質なゲート絶縁膜および半導体との界面を得ることが未だ難しい上にワイドバンドギャップ半導体であるが故にゲート絶縁膜への注入障壁がより低くなる。即ち、上で考察したメカニズムに基づくと、トラップ効率等を十分に低く抑えることが未だ難しい上にゲート絶縁膜への注入効率が原理上高い。このため、ワイドバンドギャツブ半導体における信頼性の諸問題は、Si半導体と比べてもさらに深刻なものであり、その解決は火急の課題となる。
【0038】
本発明では、半導体装置の動作保証範囲において、半導体ボディ領域表面近傍に誘起されるキャリア電荷密度を所定量以下に抑える。従来、半導体装置の動作保証範囲(ここでは特に負のゲート電圧側の保証範囲)において、半導体ボディ領域表面近傍に誘起されるキャリア電荷密度が所定量以下に抑えられた半導体装置、言い換えれば当該Vfbが当該保証範囲の下限(典型的には−Vcc、または、−Vcc/2)とほぼ同等であるかそれ以下になるような半導体装置は、実用上存在しなかった。以下述べるように、Vfbを当該保証範囲の下限とほぼ同等またはそれ以下に設定することが困難であること、または、そうすることで諸々のデメリットが生じるため、このデメリットを上回るようなメリットの得られることが従来知られていなかったためである。したがって、本発明がなされるまでは、Vfbを従来値よりも低い値に設定する動機または発想が存在しなかった。
【0039】
以下、Vfbがゲート電圧の負側の保証範囲の下限とほぼ同等であるかそれ以下に設定された半導体装置の構成を説明する。なお、本明細書において、ある値と「同等」であるとは、その値を中心に±10%の幅に入る大きさを有することである。
【0040】
ゲート絶縁膜と半導体ボディ領域の間にチャネル層を有するMIS構造を有する半導体装置において、当該半導体装置のVfbは、簡単には以下の式で表される。
Vfb=Φms−(Qf+Qb)/Ci ・・・(式1)
Φmsはゲート電極と半導体ボディ領域との仕事関数差、Qfはゲート絶縁膜に係る固定電荷密度、Qbはチャネル層の空間電荷密度、Ciはゲート絶縁膜容量である。
【0041】
第1項のΦmsはゲート電極材料の真空仕事関数で決まる。例えばSiでは、ゲート電極にドープドポリシリコンを通常用いることから、そのドーパントの極性や濃度によって大凡−1.1V≦Φms≦+1.1Vの範囲となる。ここで、1.1VはSi半導体のバンドギャップ値である。SiCでは、通常、ゲート電極にn+ドープドポリシリコンやアルミニウム等を用いる。このため、バンドギャップ値Egが約3.2Vの4H−SiCの場合では、大凡−3.2V≦Φms≦+0.2Vの範囲となる。また、他のゲート電極材料においても、性能・信頼性上の観点から実用に供されている材料となると、真空仕事関数が概ね4Vから5.3Vの範囲である。したがって、半導体の種類によらず、Φmsは、Siのバンドギャップと同等か、それよりも低い。なお、本明細書においては、バンドギャップEgや仕事関数差Φmsの単位としてボルト(V)を一貫して用いるものである。
【0042】
一方、第2項のQfは、ゲート絶縁膜と半導体の界面の品質に大きく左右される。Qfの低減が、その半導体装置の性能および信頼性を向上させることに直結するため、過去、Qfを低減する努力が重ねられてきた。中でも、Siでは、ゲート絶縁膜に高品質な熱SiO2膜を用いることにより、Qfは極めて低い値に低減されてきた。具体的には、Qfを電気素量qで除した単位で表現し直すと、1011/cm2を下回る程までに低減された。これに対し、SiCでは、高品質なゲート絶縁膜を得にくく、窒化処理を行う等をしても、Qfは1011/cm2台の中程(大雑把には3〜5×1011/cm2程度)辺りが現状である。いずれにしても、Qfの値は半導体装置の性能および信頼性全般に直結するため、従来、Qfを低減する努力が行われ、Qfを高めることの動機付けはなかった。
【0043】
ここまでをまとめると、第1項及び第2項の和である Φms−Qf/Ci の値は、MISFETの構成材料で決まり、その値は、MISFETを構成する半導体のバンドギャップ程度の大きさの範囲にある。
【0044】
一方、第3項のQbは、ゲート絶縁膜下に設けられたチャネル層における単位面積当たりの空間電荷密度である。例えばSi或いはSiC半導体におけるn型チャネル層の場合、負のゲート電圧下では、当該チャネル層全域にわたって、あるいは当該チャネル層の空乏層厚さがチャネル層厚未満である時は当該空乏層全域にわたってその不純物濃度を積算したものに電気素量qを掛けた値が上記の空間電荷密度に相当する。第1項及び第2項と異なり、基本的にQbは材料物性面の制約を受けないが、実際には装置動作設計上の制約からあまり大きくはできない。大きくし過ぎると、例えばパンチスルーや短チャンネル効果などが顕著となり、半導体装置の基本動作すら危うくなるからである。そのため、例えばn+ポリシリコンのゲート電極を有するpチャンネルSi−MISFETにおいては、Vthのn/pチャンネル対象性を保つために以前よく採用されていたチャネル層についても、これら弊害を最小限に留められるように、できるだけ少ない空間電荷量のチャネル層の導入に留める必要があった。そのため、従来のQb/Ciの値は、その半導体のバンドギャップ程度かそれ以下に抑えられていることが一般である。例えば、図9に示すSiC半導体の縦型MIS構造の従来例の場合、Qb/Ciの値は約3.1Vである。これは、4H−SiC半導体のEg値である3.2Vと同等かそれ以下である。
【0045】
以上、各項の和としてのVfbは、半導体装置がチャネル層を有しているか否かに関わらず、大凡当該半導体装置を構成する半導体のバンドギャップEgの倍程度の大きさの範囲内にあるのが一般である。例えばEg=3.2VのSiC半導体の縦型MIS構造の従来例の場合、通常、Vfbは、図4に矢印で示すように約−6.5Vかそれ以上(それと同等かそれより正の値であるの意味。他も同様。)である。同デバイスのVgccは、一般に20V程度である。したがって、上記従来例のVfb値は、−Vgcc〜−Vgcc/2 に比べて格段に高い。
【0046】
以下、図面を参照しながら、本発明による半導体装置の実施形態を説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0047】
(第1の実施形態)
図1の模式的断面図を参照しながら、本発明の実施形態の一例に係る半導体装置100について説明する。
【0048】
図1に示す半導体装置100は縦型MIS構造の炭化珪素(以下、SiC)パワー半導体装置の一例である。この半導体装置100は、第1導電型のSiC半導体基板10と、基板10の表面10a上に形成された第1導電型の第1のSiC半導体層11とを含んでいる。本実施形態のSiC半導体基板10は、n+基板(n+SiC基板)であり、第1のSiC半導体層11はn-ドリフト層である。すなわち、本実施形態では、第1導電型がn型、第2導電型がp型である。n型とp型は相互に入れ替わっても良い。なお、「n+」又は「n-」の符号における上付き文字の「+」又は「−」の表記は、ドーパントの相対的な濃度を表している。「n+」は「n」よりもn型不純物濃度が高いことを意味し、「n-」は「n」よりもn型不純物濃度が低いことを意味している。
【0049】
第1のSiC半導体層11には、第2導電型のボディ領域(ウェル領域)20が形成されている。ボディ領域20内には、第1導電型のソース領域24が形成されている。本実施形態のボディ領域20はp型であり、ソース領域24はn+型である。ボディ領域20にはp型のコンタクト領域22が形成されている。ソース領域24上にはソース電極26が形成されている。なお本実施形態では、ソース電極26は、n+ソース領域24及びpコンタクト領域22の表面に形成され、n+ソース領域24及びpコンタクト領域22の両方と電気的に接触しているが、それぞれ別個に接触させてもかまわない。また、本発明はMIS型構造であればよく、FETでなくても即ちソースとドレインがない所謂MISキャパシタでも構わない。
【0050】
第1のSiC半導体層11上には、第1導電型のSiC半導体チャネル層40がpボディ領域20およびn+ソース領域24の少なくとも一部に接して形成されている。本実施形態における当該チャネル層40は、pボディ領域20及びn+ソース領域24が形成されたn-ドリフト層11の上に、エピタキシャル成長によって形成されている。当該チャネル層40は、pボディ領域20の上方に位置する箇所にチャネル領域42を含んでいる。チャネル層40の上にはゲート絶縁膜44が形成されている。ゲート絶縁膜44の上にはゲート電極46が形成されている。基板10の裏面10bには、ドレイン電極28が形成されている。
【0051】
本実施形態においては、チャネル層40は不純物濃度が2.5×1018cm-3、厚さ30nmである。通常のチャネル層では、特に負ゲート電圧下において、その殆どが空乏化している。従って空間電荷密度Qbの値は、当該不純物濃度と当該厚さとqの積から12×10-7C/cm2と求められる。空乏近似による概算として、上記の例において、当該不純物濃度Nbが濃過ぎる場合には、チャネル層全域にわたって空乏化しないため、当該チャネル層の厚さに代わって最大空乏層厚さWm=2(εs・Φf/q/Nb)1/2 を用いればよい。ここで、εsは半導体の誘電率、Φfは同半導体のフェルミレベルである。例えば本実施形態において、Nb=2×1018cm-3ではWm=41 nm、Nb=1×1019cm-3ではWm=18 nm程度である。
【0052】
以上の簡単な解析的式は、当該不純物濃度が厚さ方向に均一であるという仮定に基づいている。チャネル層の不純物濃度が不均一である場合、厳密には空間電荷密度Qbの値を解析的に求めることはできない。しかし、その場合でも、Qbは同不純物濃度プロファイルを当該空乏層にわたって積分したものから求めればよい。一方、本実施形態におけるゲート絶縁膜44は厚さ70nmの窒化酸化膜であり、ゲート絶縁膜容量Ciは4.9×10-8 F/cm2である。従って、(式1)から、Qbにより引き起こされるVfbのシフト量は−24Vと概算される。
【0053】
本実施形態では、ゲート電極にn+ポリシリコンを用い、半導体ボディ領域20の不純物濃度は2×1018cm-3であるので、仕事関数差Φmsは約−3Vである。また、Qfにより引き起こされるVfbのシフト量は−1V前後である。従って、以上の数値例(計算値)を(式1)の右辺に代入すると、本実施形態のVfbは、−28V前後と概算される。
【0054】
なお、半導体ボディ領域20の不純物濃度は、他の半導体領域との遷移領域における不純物濃度ではなく、他の半導体領域との遷移領域から十分離れた位置における不純物濃度を指す。遷移領域では、位置に応じて不純物濃度が急峻に変化するが、遷移領域から十分離れた位置における不純物濃度は位置に応じて大きく変化しない。例えば本実施形態に係る図1の横方向において、第1のSiC半導体層11からもソース領域24からも遠く濃度プロファイルが安定しているボディ領域20の中央近辺におけるボディ領域20表面近傍の不純物濃度を指す。同様に、図2の横型MOSの実施形態では、ソース領域24からもドレイン領域30からも十分離れた、両領域24と30の真ん中当りの位置における不純物濃度を指すのが一般的である。また、本実施形態のようなチャネルエピ層においては、その半導体不純物濃度は基本的に横方向に変化しない。本実施形態におけるチャネル層の不純物濃度は、ボディ領域20の不純物濃度を規定した横方向位置の真上の位置における不純物濃度を指すものとする。
【0055】
図5は、本実施形態の半導体装置100に係るC−V特性の測定例である。同測定例のVfb(同図中に矢印で示す)は約−13Vと見積もられるが、この値は上記計算値に比べかなり高い。一方、前に示した従来例に係る図4においては、同測定例のVfbは約−7Vであり、これは上述の従来例におけるチャネル層のQb値1.6×10-7C/cm2から算出されるVfbの値とほぼ一致する。これは、本実施形態の製造にあたってチャネル層の厚さを薄くしたこと等が主因となり、当該半導体装置作製における何らかの工程において当該チャネル層に実際に導入された不純物の総量がその目論見値に比べて、少なくなってしまったことが主な原因であることが分かっている。図5で求まるVfb値から逆算すると、同例の実際のQb値は5×10-7C/cm2程度である。以上のことからわかるように、チャネル層の不純物濃度を上げる等して同空間電荷密度を高くすることにより、Vfbを大きく負方向にシフトさせ得ることが確認された。
【0056】
前述したように、ゲート定格電圧Vcc=20VであるSiCパワーデバイスにおいては、一般に、−20〜−10V≦Vg≦+20Vの範囲において動作・信頼性の保証が求められる。
【0057】
図6(a)に、Vfb≒−7V、−11V、−12Vの特性を有する横型MISFETに150℃の高温下で、ストレス電圧として負電圧(Vg)を16min印加したときのVthの負電圧依存性を示す。また、図6(b)に、ストレス電圧からVfbを除いて比較したVthの負電圧依存性を示す。
【0058】
図6(b)からわかるように、Vfbが異なる横型MISFETにおいても、VgがVfb以上のときはVthの変動が見られず、VgがVfbより低いときにVthは負方向に変動する経時変化が見られた。つまり、このVthの負方向変動量は、VgがVfbに対してどれだけ負方向に大きくシフトした電圧であるかによって決まることが確認された。
【0059】
図7は、Vfb≒−7V、−12Vの特性を有する横型MISFETに負電圧(Vg)を印加したときのVthの寿命の電圧依存性を示す。同図の外挿から10年の寿命を保証するには Vg>Vfb−Vo を満たす必要があり、Voの値はVfb≒−7Vの場合と同様に大凡0.4 V〜0.5 Vと見積もれる。上記定数Voは比較的小さな値であるが、本実施形態で見積もられた値に限られるものではない。
【0060】
この新たな知見に基づいて、Vfbを動作保証範囲の下限値(−Vgcc〜−Vgcc/2)と同等かそれ以下となるようにするには、後述する幾つかの具体的構成を採用すればよい。半導体装置が、そのような具体的構成を備えることにより、当該半導体装置の動作保証範囲において、Vth変動に係る信頼性を確保することが可能となる。なお、上記の実験結果は、解析上の利点から、横型MISFETでの結果であるが、縦型MISFETでも同様の結果が得られている。
【0061】
上記のようなVfbを有する半導体装置を実現する第1の具体的構成は、当該半導体装置のチャネル層において、その面積当りの不純物電荷濃度QbをEg×Ci C/cm2 と同等かそれ以上にすることである。QbをEg×Ci C/cm2と同等かそれ以上のレベルにまで増やすことに伴い、Vfbも2Eg(単位はV)と同等かそれ以上と従来例には無い値にまで負にシフトするからである。以下、この理由を説明する。
【0062】
式1の右辺における第1項及び第2項の和である「Φms−Qf/Ci」の値は、前述したように、MISFETを構成する半導体のバンドギャップ(Eg)程度の大きさの範囲にある。
【0063】
SiCの場合、上記の通り、Φmsの取り得る範囲はおよそ−3.2V以上0.2V以下である。また、SiCの場合、Qf/qの取り得る範囲がおよそ3×1011/cm2以上1×1012/cm2以下であることから、Qf/Ciの範囲はおよそ−3V以上−1V以下となる。したがって、「Φms−Qf/Ci」の値は、およそ−0.7Eg以上Eg以下となる。
【0064】
一方、Siの場合、上記の通り、Φmsの取り得る範囲はおよそ−1.1V以上1.1V以下である。また、Siの場合、Qf/qの取り得る範囲がおよそ3×1010/cm2以下であることから、Qf/Ciの範囲はおよそ−0.1V以上0以下となる。したがって、「Φms−Qf/Ci」の値は、およそ−Eg以上Eg以下となる。
【0065】
Vfbを−2Egよりも低い値に設定する場合を考えると、以下の式が成立することが好ましい。
Qb≧(Φms−Qf/Ci+2Eg)Ci ・・・(式2)
【0066】
SiCの場合、Φms−Qf/Ciの下限値である−0.7Egを代入すると、式2は、以下のように変形される。
Qb≧1.3Eg×Ci ・・・(式3)
【0067】
一方、Siの場合、Φms−Qf/Ciの下限値である−Egを代入すると、式2は、以下のように変形される。
Qb≧Eg×Ci ・・・(式3)
【0068】
以上のことから、QbをEg×Ci C/cm2以上にすると、Vfbを−2Egよりも低い値に設定することができる。また、SiCの場合は、Qbを1.3Eg×Ci C/cm2以上にすることが好ましい。例えば、本実施形態において、当該チャネル層40に導入する半導体不純物の電荷濃度を1.5Eg×Ci C/cm2にした場合には、(式1)の第3項に当たるQbによるVfbシフト分は、従来例の1.5倍程度上回る約−5Vとなる。これに同式の第1項と第2項Φms−Qf/Ciの従来値のままの大凡−4Vを加えると、Vfbは約−9Vとなる。従って、Vgccが18V程度である半導体装置において、Vfb値は−Vgcc/2と同等かそれ以下であることを満たす。
【0069】
さらに、本実施形態で当該チャネル層に導入する不純物を2割増やしQb=1.8Eg×Ci C/cm2にした場合には、同QbによるVfbシフト分が約−6Vとなる。その結果、Vfbは約−10Vとなり、Vgccが20Vの場合でもVfb値が−Vgcc/2と同等かそれ以下となる。
【0070】
導入する不純物濃度を、凡そ5×1019cm-3を超えるレベルまでに高くすると、当該チャネル層は縮退化し、空乏化が非常に困難となるので、本発明の目的に適わない。一般には、工程管理の観点等から、チャネル層の厚さは少なくとも10nm程度は必要である。上記5×1019cm-3を超える範囲まで不純物濃度を高めると、これによるVfbのシフト分は、例えば本実施形態の場合で凡そ−160Vかそれ以下にもなる。本発明の目的上、Vfbをそのレベルまで低下させる必要性は無い。また、一般にパワー半導体装置ではそれほど微細化を求められないので、上記のQbの範囲であれば、チャネル層導入による短チャンネル効果等のデメリットは十分に制御可能であると考えられる。
【0071】
前記のようなVfbを有する半導体装置を実現する第2の具体的構成は、当該半導体装置のゲート絶縁膜に係る固定電荷密度Qfを1.5Eg×Ci C/cm2と同等かそれ以上にすることである。Φms−Qb/Ciが0.5Eg程度に設定される場合、式2から式4を用いて説明したことが、同様に固定電荷密度Qfの好ましい範囲の下限を見積もる場合にも成立する。
【0072】
(式1)の第2項に従い、Qfを1.5Eg×Ci C/cm2と同等かそれ以上の従来例には無いレベルにまで増やすことによって、Vfbも1.5Egと同等かそれ以上負方向にシフトし、従来例には無いVfbの値になる。
【0073】
本実施形態で、同Qfを上記下限値の1.5Eg×Ci C/cm2と同等以上にする場合でも、Qfを約2.4×10-7C/cm2、これを電気素量qで除した単位(Qf/q)で表わすと、約1.5×1012/cm2にまで大きくする必要がある。前述したように、Qfの低減がその半導体装置の性能および信頼性を向上させることに直結することから、過去、Qfを低減する努力が重ねられた。一般に、Qfを大きくすることは、例えばQf/qを1013/cm2台にまで大きくすることも、Qfを低減することに比べれば格段に容易である。
【0074】
前記のようなVfbを有する半導体装置を実現する別の構成としては、(式1)の第1項の仕事関数差Φmsによる効果を利用するものである。Φmsによる寄与だけで本実施形態にあるシフト量までVfbを負にシフトさせるには、ゲート電極の真空仕事関数Φmがより小さい、言い換えればより真空準位に近い必要がある。しかしながら、従来例のn+ポリシリコン電極のΦmでも凡そ4.1Vであるので、例え真空準位に等しいΦm=0の電極材料が見出せたとしてもΦmsを変えることだけによるVfbの負方向シフト量には上記の限界があることになる。
【0075】
そこで、第3の具体的構成として、第2項のQfによる効果と合わせたものが考えられる。即ち、Qf−Φms×Ciの値が2Eg×Ci C/cm2と同等かそれ以上にすることである。この手段によれば、Φmsがより小さい電極を用いる場合には、そのΦmsが小さい分だけQfをむやみに大きくする必要がなくなり、Qfを高レベルにすることによって生じるであろう前述の諸々のデメリットが軽減できる。
【0076】
或いは同様に、第4の具体的構成として、第3項のQbによる効果と合わせたものも考えられる。即ち、Qb−Φms×Ciの値が2Eg×Ci C/cm2と同等かそれ以上にすることである。この構成によれば、Φmsがより小さい電極を用いる場合には、そのΦmsが小さい分だけQbをむやみに大きくする必要がなくなり、Qbを大きくすることによって生じる前述したような諸々のデメリットが軽減できる。
【0077】
最後に、半導体装置は一般的にノーマリオフ(Normally−OFF)型(本実施形態のnチャンネルMISFETではVth>0V)であることが望まれ、現にパワー半導体においても殆どがノーマリオフ(Normally−OFF)型である。本発明によってVfbを従来例には無い値にまで負にシフトさせると、そのままではVthもその分だけ負にシフトし場合によってはノーマリオン(Normally−ON)型になることが懸念される。しかしながら、空乏近似の解析式等に則って、例えば半導体ボディ領域(本実施形態ではp型ボディ領域20)の不純物濃度を高くする等の一般的な手法を用いれば、簡単にVthを大きくする(正方向にシフトさせる)ことができる。なお、本手法はMIS型構造である限り、本実施形態にだけでなく以降述べる実施形態についても全く同様に適用可能できるものである。
【0078】
以上、本発明を好適な実施形態について説明してきたが、こうした記述は発明に対する限定事項ではなく、勿論、上記の実施形態に対して種々の改変が可能である。例えば、上記では、SiC半導体を例に説明したが、その他のワイドバンドギャップ半導体であってもよいしSi半導体であってもよい。上記では主にnチャンネルMIS型半導体装置について記述したが、pチャンネルMISFETに対しても当然に適用可能である。この場合は、半導体極性のnとp、電圧等の正と負の符号、電圧等の大小比較の際の高い(正方向)と低い(負方向)、キャリアのホールとエレクトロン、等を相互に入れ替え等して適宜読み替える。この場合、問題とするVthシフトはエレクトロンによる正方向シフトとなる。トラップ効率で表した一個当たりの損傷を与える程度は、ホールに比べエレクトロンの場合小さいことが予想される。しかし、ますます厳しくなる半導体装置を取り巻く環境を鑑みると、ゲート絶縁膜の高品質化が難しいSiC等に限らずSi半導体に対しても、Vth変動等にかかる信頼性課題の重要性ならびに本発明の意義は少しも衰えることはないものである。
【0079】
(第2の実施形態)
次に、図8を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る半導体装置102について説明する。
【0080】
図8に示す半導体装置102はMIS構造のシリコン(以下、Si)半導体装置における本発明の一実施形態であって、Si半導体基板210は第1の半導体極性を有するp型である。本実施形態にあるような一般的な横型MIS半導体装置においては、半導体基板210が本発明で言うところのボディ領域に相当する。当該ボディ領域(半導体基板)210とその上に形成されたゲート絶縁膜244との間には、第2の半導体極性を有するチャネル層240が形成されており、当該ゲート絶縁膜244の上にはゲート電極246が形成されている。半導体基板210には、第2の半導体極性を有するソース領域224およびドレイン領域230が形成されている。
【0081】
本実施形態では、第1の半導体極性(導電型)がp型、第2の半導体極性がn型であるが、n型とp型は相互に入れ替わっても良い。また、本発明はMIS型構造であればよく、FETでなくても即ちソースとドレインがない所謂MISキャパシタでも勿論構わない。
【0082】
本実施形態においては、ゲート絶縁膜244は例えば高誘電率の絶縁膜材料から成り、そのSiO2等価膜厚は3.5nmである。前述のように、近年ゲート絶縁膜へ適用が進みつつある高誘電率絶縁膜は、従来の熱SiO2膜に比べて膜質がかなり劣るだけでなく、一般にそのエネルギーギャップが小さくその分半導体中のキャリアから見たエネルギー障壁は低いために、Vth変動など信頼性の問題がより深刻になることが懸念される。チャネル層240は例えばイオン注入で形成され、不純物濃度が7.5×1018cm-3で深さが25nmである。
【0083】
本実施形態のようにゲート絶縁膜厚が薄い場合において、本発明に係る効果を得るには、チャネル層240における不純物濃度を1018cm-3台の後半辺りまで高くする必要がある。このような高濃度のチャネル層240の場合、当該チャネル層240の全域にわたって空乏化していない場合がある。そのような場合も、第1の実施形態において前述した方法で、空間電荷密度Qbの概ねを見積もることが出来る。例えば本実施形態のNb=7.5×1018cm-3の場合の空乏層厚さWmは14nm程度である。従って、Qbは約17×10-7C/cm2となる。よって(式1)から、本実施形態においてQbにより引き起こされるVfbのシフト量は約−1.7Vとなる。
【0084】
なお、第1の実施形態の場合と同様、図8に示す横型MOSの実施形態においても、そのボディ領域およびチャネル層の不純物濃度は、当該ソース領域224からも当該ドレイン領域230からも十分離れた、両領域224と230の真ん中当りの横方向位置における不純物濃度を指す。
【0085】
本実施形態では、ゲート電極にn+ポリシリコンを用い、半導体ボディ領域210の不純物濃度は2×1018cm-3である。このため、仕事関数差Φmsは約−1.1Vである。また、Qfにより引き起こされるVfbのシフト量は大凡0Vから−0.1Vの範囲である。一方、前記したように、従来のQb/Ciの値は、一般にその半導体のバンドギャップ程度かそれ以下に抑えられている。したがって、以上の数値例を(式1)の右辺に代入すると、従来例におけるVfbは−2.2Vと同等かそれ以上である。
【0086】
本実施形態が想定する微細な寸法の半導体装置において、ゲート定格Vgccは例えば1.8Vである。SiのバンドギャップEgは約1.1Vであるので、本実施形態の場合、−2Egと動作保証範囲の下限値の−Vgcc/2のいずれか低い方は−2Egとなる。
【0087】
第1の実施形態で述べた知見に基づいて、Vfbを従来例には無い上記−2Egと同等かそれ以下の値になるように、第1の実施形態で前述したいくつかの具体的構成をSi半導体においても講ずることで、当該半導体装置の動作保証範囲においてVthシフトに係る信頼性を確保することが可能となる。
【0088】
上記のようなVfbを有する半導体装置を実現する第1の具体的構成は、当該半導体装置のチャネル層において、その面積当りの不純物電荷濃度QbをEg×Ci C/cm2と同等かそれ以上にすることである。QbをEg×Ci C/cm2と同等かそれ以上の従来例には無いレベルにまで増やすことに伴い、Vfbも−2Egと同等かそれ以下という、従来例には無い低い値にまで負にシフトするからである。
【0089】
例えば、本実施形態において当該チャネル層240に導入する半導体不純物の電荷濃度を1.5Eg×Ci C/cm2にした場合でも、(式1)の第3項に当たるQbによるVfbシフト分は従来例の1.5倍程度上回る約−1.6Vである。これに同式の第1項と第2項Φms−Qf/Ciの従来値のままの大凡−1.1Vを加えると、Vfbは約−2.7Vとなり−2Egと同等かそれ以下であることを満たす。
【0090】
あるいは、前記のようなVfbを有する半導体装置を実現する第2の具体的構成は、当該半導体装置のゲート絶縁膜に係る固定電荷密度Qfを1.5Eg×Ci C/cm2と同等かそれ以上にすることである。(式1)の第2項に従い、Qfを1.5Eg×Ci C/cm2と同等かそれ以上の従来例には無いレベルにまで増やすことによって、Vfbも1.5Egと同等かそれ以上負方向にシフトし、従来例には無いVfbの値になるからである。例えば本実施形態で同Qfが上記濃度下限値の1.5Eg×Ci C/cm2と同等以上にする場合でも、Qfを約16×10-7C/cm2、これを電気素量qで除した単位(Qf/q)で表わすと凡そ1013/cm2にまで大きくする必要がある。前述したように、Si半導体ではそのゲート絶縁膜に熱SiO2膜を用いることができたことでQfを電気素量qで除した単位(Qf/q)で表現すると1011/cm2を下回る程までに低減してきたが、昨今のように高誘電率ゲート絶縁膜が取って代わる場合は一般にそこまでQf/qを低減することは難しく現状で1011/cm2台の中程(大雑把には3〜5×1011/cm2程度)辺りの実力である。半導体装置の性能および信頼性全般に直結することからQfの低減は一般に当然の公知事項であり、あえてQfを高レベルにすることによって生じる諸々のデメリットを上回るような動機は通常存在しなかった。或いはそういった発想自体が無かったが、本発明に記するところの格別の効果を得るための一つの構成としてむしろ逆に従来例にないレベルにまでQfを増大させるものである。一般に、Qfを大きくすることは例えばQf/qを1013/cm2台にまで大きくすることも、Qfを低減することに比べれば格段に容易である。
【0091】
あるいは、前記のようなVfbを有する半導体装置を実現する別の構成としては、(式1)の第1項の仕事関数差Φmsによる効果を利用するものである。Φmsによる寄与だけで本実施形態にあるシフト量までVfbを負にシフトさせるには、その分の凡そ1V程度だけゲート電極の真空仕事関数Φmが小さい、言い換えればより真空準位に近い必要がある。しかしながら前述のように、従来例のn+ポリシリコン電極を含め、殆どの実用的なゲート電極材料の真空仕事関数は概ね4Vから5.3Vの範囲であり、Siのバンドギャップ内あるいはそれから大きく外れない範囲に相当するものが殆どである。それゆえ、Φmsを変えることだけによるVfbの負方向シフト量には上記の限界があることになる。
【0092】
そこで、第3の具体的構成として、第2項のQfによる効果と合わせたものが考えられる。即ち、Qf−Φms×Ciの値が2Eg×Ci C/cm2と同等かそれ以上にすることである。この構成段によれば、Φmsがより小さい電極を用いる場合には、そのΦmsが小さい分だけQfをむやみに大きくする必要がなくなり、Qfを高レベルにすることによって生じるであろう前述の諸々のデメリットが軽減できる。
【0093】
或いは同様に、第4の具体的構成として、第3項のQbによる効果と合わせたものも考えられる。即ち、Qb−Φms×Ciの値が2Eg×Ci C/cm2と同等かそれ以上にすることである。この構成によれば、Φmsがより小さい電極を用いる場合には、そのΦmsが小さい分だけQbをむやみに大きくする必要がなくなり、Qbを大きくすることによって生じる前述したような諸々のデメリットが軽減できる。
【0094】
以上、本発明を好適な実施形態について説明してきたが、こうした記述は発明に対する限定事項ではなく、勿論、上記の実施形態に対して種々の改変が可能である。例えば、上記ではSi半導体を例に説明したが、SiC半導体であってもよいしその他のワイドバンドギャップ半導体であってもよい。或いは、上記の実施形態では、主にnチャンネルMIS型半導体装置について記述したが、本発明は、pチャンネルMISFETに対しても適用可能である。この場合は、半導体極性のnとp、電圧等の正と負の符号、電圧等の大小比較の際の高い(正方向)と低い(負方向)、キャリアのホールとエレクトロン、等を相互に入れ替え等して適宜読み替える。
【0095】
上記の各実施形態における半導体装置を駆動する方法は、VthとVgcc-との間の大きさの電圧を前記ゲート電極に印加する工程と、VthとVgccとの間の大きさの電圧を前記ゲート電極に印加する工程とを含み、半導体装置のVfbがVgcc-と同等かそれ以下である点に特徴を有する。この駆動方法によれば、補償範囲内の下限の大きさを有する電圧をゲート電極に印加しても、Vfbが動作保障範囲の下限よりも低く設定されているため、ゲート電圧からVfbを引いた値が負になることがなく、その結果、Vth変動が抑制される。
【0096】
上記の各実施形態における半導体装置を駆動する方法において、半導体装置のVfbが−Vgcc/2と−2Egのいずれか低い方と同等かそれ以下であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、例えばパワーMOSFET及びパワーMOSFETを用いた種々の制御装置や駆動装置に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0098】
10,110,210 基板(半導体基板)
11,111 第1の半導体層(ドリフト層)
20,120 ボディ領域(ウェル領域)
22,122 コンタクト領域
24,124,224 ソース領域
26,126 ソース電極
28,128 ドレイン電極
30,230 ドレイン領域
40,140,240 チャネル層(埋込層、チャネルエピ層)
42 チャネル領域
44,144,244 ゲート絶縁膜
46,146,246 ゲート電極
100 半導体装置
101 横型SiC−MISFET
102 半導体装置
1100 半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ボディ領域、
ゲート絶縁膜、
前記半導体ボディ領域と前記ゲート絶縁膜との間に設けられ、前記半導体ボディ領域とは逆の半導体極性のチャネル層、及び
前記ゲート絶縁膜と接して設けられたゲート電極を有するMIS型の半導体装置であって、
前記半導体ボディ領域のバンド曲がりがゼロとなるゲート電圧をフラットバンド電圧Vfbと定義するとき、
前記半導体装置のVfbが−10ボルト以下である、半導体装置。
【請求項2】
前記半導体ボディ領域及び前記チャネル層が炭化珪素により構成される、請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
半導体ボディ領域、ゲート絶縁膜、前記半導体ボディ領域と前記ゲート絶縁膜との間に設けられ、前記半導体ボディ領域とは逆の半導体極性のチャネル層、及び、前記ゲート絶縁膜と接して設けられたゲート電極を有するMIS型の半導体装置の駆動方法であって、
前記半導体ボディ領域のバンド曲がりがゼロとなるゲート電圧をフラットバンド電圧Vfbと定義するとき、
前記半導体装置はノーマリオフ型であり、
負のゲート電圧を前記ゲート電極に印加することにより前記半導体装置をオフにする工程と、
正のゲート電圧を前記ゲート電極に印加することにより前記半導体装置をオンにする工程とを、
を含み、
前記半導体装置のVfbが、前記半導体装置をオフにする工程において前記ゲート電極に印加される前記負のゲート電圧を中心に±10%の幅に入る大きさ、または前記負のゲート電圧以下である、半導体装置の駆動方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−12769(P2013−12769A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−199315(P2012−199315)
【出願日】平成24年9月11日(2012.9.11)
【分割の表示】特願2012−505928(P2012−505928)の分割
【原出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】