説明

半導体装置

【課題】大電力用の半導体素子において、温度上昇分布をより均一にすることである。
【解決手段】電流が大きいために、上部電極層48の抵抗の場所的分布の影響を受け、上部電極層48内における複数の接続部50の平面配置条件に依存して半導体素子の温度上昇分布が定まる大電流用の半導体素子において、パターン2のようにジグザク状に接続部50を配置するのと、パターン1のように1列に接続部50を配置するとのでは、温度上昇分布が明らかに異なる。このことはシミュレーションの結果と定性的によい一致を示す。この他に、各ワイヤのそれぞれが、上部電極層48との間で複数の接続部を形成するようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に係り、特に大電流用半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両には周知のように、インバータ回路等の電力装置のように、大電力を処理する回路が搭載される。これらの大電力処理回路には様々のパワーデバイスが用いられ、例えば、インバータ回路では、パワーダイオードやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transitor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等の大電力用半導体素子が使用される。
【0003】
これらの大電力半導体素子の各電極を外部と接続するには、大電流を扱うために、電流通路の断面積を大きくする必要がある。そのため、例えば、半導体素子チップの下面に広く下部電極を設け、これを回路基板のパッド上に搭載して広い面積で接続し、また、チップの上面からは、電力の大きさに応じて複数本の太いワイヤを用いてワイヤボンディングにより外部端子に接続することが行われる。
【0004】
たとえば、特許文献1には、複数のトランジスタセルを1つのチップとする高周波高出力トランジスタにおいて、セラミック基板の上にコレクタパッド層を設け、これにトランジスタチップをダイボンディングで固着させ、チップの上部のベース電極及びエミッタ電極から、トランジスタセルの数だけの複数のワイヤで外部へ引き出すことが開示される。これ以外にも、1つの電極から複数本のワイヤを引き出すことが行われている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−267956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、パワーデバイスの高性能化、すなわち、通電損失を少なくし、高周波スイッチング動作を可能とすることが進展し、電力装置についても高出力化、小型化が進んできている。例えば、インバータ回路については、この10年余りの間で出力密度(W/cm3)は10倍に向上している。
【0007】
このようにデバイスが大電力を小さな容積の中で処理できるようになると、デバイス内の体積あたりの発熱も増加し、これがデバイスの温度上昇を招く。これにより、いくつかの課題が生ずる。
【0008】
1つは、一般的に半田接合やワイヤボンディング等の接合部位の信頼性、例えばパワーサイクルテストや冷熱サイクルテスト等の信頼性は、温度差が大きいほど低くなるので、デバイスの温度上昇が大きいと、接合部位の長期的信頼性が低下する。
【0009】
次に、パワーデバイスは小型化が進展するといっても、それ自体相当な大きさのチップサイズである。これに高出力化が加わって、そのチップ内での温度差が相当大きくなる。デバイスの最大駆動条件は、チップ内における最高温度の部位で決まってしまうので、温度上昇分布の不均一を考慮して許容最高動作温度を低くして使用せざるを得なくなる。
【0010】
また、デバイスの温度上昇による破壊、特にパワーデバイスは取り扱う電力が大きいため自己発熱による破壊が発生しやすくなる。
【0011】
さらに、高出力化の効果を、チップの縮小に生かしてコストダウンを図るときには、チップ面積が減少し、電流を取り出すためのワイヤ等の接続部材の数に制約が生じ、少ないワイヤ等で接続しようとすると、接続点あたりの電流密度が大きくなり、上記の課題がより大きなものとなってきている。
【0012】
このように大電流用半導体素子を囲む技術進展により、より高密度の電力を取り扱うようになってきたにもかかわらず、従来技術では、単に、チップの下部より電極を取り出し、上部電極から適当な数のワイヤ等を接続するだけである。
【0013】
本発明の目的は、大電力用の半導体素子において、温度上昇分布をより均一にすることにより、半田接合やワイヤボンディング等の接合部位の信頼性を高めるとともに、パワーデバイスの駆動条件における最高動作温度を高く設定可能にする半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る半導体装置は、基板に半導体素子の下部電極を配置し、この半導体素子の上部接触領域に設けられた上部電極層に電流印加用の接続部材を複数接続する半導体装置であって、前記半導体素子の上部電極層の平面内全体に前記接続部材を離散的に接続し、半導体素子に電流を印加する際に前記上部電極層中の内部抵抗の発熱によって生じる半導体素子全体の温度上昇分布が、前記平面内全体において略均一化するようにしたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る半導体装置は、前記半導体素子の上部電極層の平面を、前記接続部材を接続する方向に略垂直な方向について、各々略同一面積を有する第1エリア及び第2エリアに仮想的に2分し、前記接続部材を、各々隣り合う接続部材同士が異なるエリアに接続されるように接続することが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る半導体装置は、上部電極層はアルミニウムであり、上部電極層全体に印加される電流と上部電極層の厚みとの比が、10A/μm以上であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る半導体装置において、接続部材は、ワイヤボンディング用のワイヤであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る半導体装置によれば、半導体素子内の温度上昇分布をより均一にし、温度上昇の最高値を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、大電流を取り扱う場合に、上部電極におけるワイヤボンディングの接続配置がチップ内の温度上昇に影響するのかどうか、をシミュレーションし、その結果、ワイヤボンディングの上部電極内の配置条件によりチップ内の温度上昇がかなり異なる、との知見を得たことにもとづく。したがって、最初に、シミュレーションの内容と、そのようになる理由のモデルを説明し、次にそれを裏付ける実測結果及び具体的な大電流用の半導体素子の構成等について述べる。
【0020】
シミュレーションの対象としては、車両用インバータ回路を構成する要素の1つである大電流用ダイオードを用いた。図1は、車両用インバータ回路10の構成を示す図である。車両用インバータ回路10は、大電流用IGBT12と大電流用ダイオード14とを並列接続して1組としたものを6つ用いて構成され、周知の接続法により、車両用電池16と、車両用モータ8の各相に接続される。
【0021】
大電流用ダイオード14は、pn接合の一方側がチップの下面全面の下部電極層に接続され、他方側がチップの上面の大部分に接触する上部電極層に接続される構成である。つまり、モデル的には、チップの上面全体と下面全体との間に流れる大電流をpn接合の整流特性に従って整流する素子である。そして、この大電流用ダイオード14は、回路基板に搭載され、下部電極層は回路基板のダイボンディングパッドに例えば、半田付けあるいは金−シリコン共晶等により電気的接続が行われ、上部電極層には、回路基板のリード端子との間でワイヤボンディングにより複数のワイヤで接続される。
【0022】
通常の電流レベルを取り扱っている感覚からは、このような構成のダイオード素子では、上部電極層及び下部電極層が導体であるので、そのどの部位に電流が印加されても、導体中は電流が均一となり、半導体素子の上面全体と下面全体との間に電流が流れる、と考えられる。つまり、上部電極層のどこにワイヤを接続しても、電流の流れ方は同じで、したがって、ダイオード内部の温度上昇も同じと考えられる。シミュレーションは、そのことが大電流の下でも同様かどうかを確かめるものである。
【0023】
ワイヤボンディングの接続配置によるチップ内の温度上昇分布を計算するには、電流によるジュール熱を考慮したシミュレーションを行う必要がある。ここでは、半導体のプロセス・デバイスシミュレーションツールの提供で知られるISE社の電気−熱−機械シミュレータであるSOLIDIS(2D,3D THERMO−ELECTRO−MECHANICAL SIMURATION TOOL)を使用した。
【0024】
図2は、シミュレータ20の構成を示す図である。このシミュレータ20の基本部分は計算を行う計算カーネル22と、表示処理を行うグラフィカルフロントエンド24である。ユーザは、シミュレーション実行内容を示すコマンドファイルであるソリューションコントロール26と、構造ファイルであるイニシャルグリッド28を事前に定義する。表示に必要なファイルは、グラフィクスセットアップ30とポストスクリプト出力32である。その他は、データファイル等である。
【0025】
シミュレーションは、対象物を計算単位のグリッドに区切り、所定の電気的、熱的境界条件を設定し、次の式(1)の伝熱方程式を解くことで行われる。
【数1】

ここで、ρは密度、cは比熱容量、κは熱伝導率、Hは熱源を示す。ここで熱源の項をジュール熱

として、更に次の式(2)の電流連続の項を入れて計算する。
【数2】

ここで、Jは電流で、

σは電気伝導度、ψは電位を示す。したがって、式(1)、式(2)を同時計算するように熱的電気的結合の定義をコマンドファイル上で宣言しておく。
【0026】
図3は、検討した大電流用の半導体装置(モジュール)の上面構造図である。ここでは55mm×39mmの放熱板/ハウジングケース40の上に、35mm×19mmの回路基板42が取り付けられ、回路基板42上に大電流用ダイオードであるチップ44が配置される。回路基板42には、チップの下部電極からの電流を外部に取り出す電流出力口46が設けられる。詳細な平面配置の寸法は図3の通りである。
【0027】
図4は、検討した大電流用の半導体装置(モジュール)の断面図である。ここでは、放熱板/ハウジングケース40として、厚さ6mmのアルミニウムからなるハウジングケースの上に厚さ3mmの放熱板を積層したものとし、その間には図示されていないグリースが65μm厚みで置かれる。その上に回路基板42が搭載される。
【0028】
放熱板/ハウジングケース40の上の構成は、図4に示すように、下層側から順に、厚さ200μmの下部半田層、400μmのアルミニウム層、700μmのセラミック層、400μmのアルミニウム層、200μmの上部半田層、200μmのシリコンチップ層となる。回路基板42は、アルミニウム−セラミック−アルミニウム積層のいわゆるアルミニウム貼りセラミック回路基板で、DBA(Direct Bond Aluminium)基板と呼ばれる。この回路基板42の下部及び上部に半田層を設け、それぞれ放熱板/ハウジングケース40及びチップ44と接合する。チップ44の上は、1.5mmの空気層とした。
【0029】
図5は、チップ44の平面図である。チップ44は、平面寸法が6.5mm×6.5mm、厚みが200μmのシリコンpnダイオードである。チップ44の下面は、図4で説明したように、全面が上部半田層により、回路基板42のアルミニウム層と接合される。チップ44の上面は、周辺部に0.5mmの余裕をとり、平面寸法5.5mm×5.5mm、厚さ5μmのアルミニウムの上部電極層48が設けられる。つまり、シリコン層は、この5.5mm×5.5mmの面積で、厚さ5μmのアルミニウム上部電極層48と接続されていることになる。
【0030】
チップ44の上部電極層48には、複数のワイヤがボンディングされるが、ボンディングによる上部電極層48の上における各接続部50のそれぞれの大きさは、0.5mm×1mmとする。この接続部50が、チップ44の電流の入力部(印加部)となる。
【0031】
図6は、シミュレーションに用いた主なパラメータの値を示すものである。ただし、シリコンの電気伝導度は、実際のデバイス特性に合うように修正した。また、半導体デバイス全体の放熱性の条件としては、図4において上部は、1.5mmの空気層を挟んで一定の温度になるものとし、下部は、放熱板/ハウジングケース40全体で熱伝導率を210W/m2K)とした。
【0032】
このような条件の下で、チップ44のデバイスとしてのオン電圧等を参考にし、シリコンの電気伝導度を変化させて、式(1)、(2)を実行し、シミュレーションを行う。図7はその様子を示す図で、図7(a)は上記の配置構成の斜視図、(b)は回路基板42上の電流分布、(c)は半導体装置全体の温度上昇分布を模式的に示すものである。この例では、チップ44のほぼ中央において温度上昇が最も高くなっていることが示される。
【0033】
つぎに、チップの温度上昇分布のみに注目し、上部電極層48の上の接続部50、すなわち電流印加部の配置を変化させてみた。図8の上段に、シミュレーションに用いた、接続部50の配置パターンの例を示す。パターン1は、5つの接続部50を上部電極層48のほぼ中央に一列に配置したものである。ワイヤボンディングでいえば、5本のワイヤを上部電極層48のほぼ中央に並んでボンディングする1列ボンディングに相当する。パターン2は、5つの接続部50を上部電極層48の平面内で、離散的にジグザク状に配置したものである。ワイヤボンディングでいえば、2本のワイヤを上部電極層48の中央から手前側にボンディングし、3本のワイヤを上部電極層48の中央から奥側にボンディングする2列ボンディングに相当する。パターン3は、10個の接続部50を、手前側に5つ、奥側に5つ、2列に分けて上部電極層48に配置したものである。ワイヤボンディングでいえば、10本のワイヤをこのようにボンディングすることもできるが、こみいった作業になる。そこで、1本のワイヤで手前側にボンディングした後ワイヤを切らずにそのままワイヤを延ばし、奥側をもう一度ボンディングするいわば2段ボンディングを行うことで、5本のワイヤで実現することもできる。
【0034】
図8の下段には、上段の配置に対応するチップ44の温度上昇分布のシミュレーション結果が模式的に示されている。すなわち、パターン1のときは、チップ44の中央部が最も温度上昇が大きいが、パターン2では、温度上昇分布が2分され、温度上昇が最も高くなるところの温度(最高温度上昇)もパターン1に比べると低くなることがわかる。パターン3では、さらに温度分布が平坦化する。
【0035】
図9は、図8の3つの接続部配置パターンのそれぞれについて、電流値を変化させたときの、チップ内の最高温度上昇を比較して示したものである。電流値としては、チップ全体としての電流を、50A,100A,150Aと変化させた。このシミュレーション結果から、いずれの電流値においても、パターン2の最高温度上昇は、パターン1のそれよりも低く、パターン3の最高温度上昇は、さらに低くなっていることがわかる。図10は、図9におけるパターン1とパターン2の結果をグラフ化したもので、明らかに、上部電極層48内における接続部50の配置条件で、チップ44の最高温度上昇の値が異なることがわかる。
【0036】
上記のように、通常の電流レベルを取り扱っている感覚からは、上部電極層のどの部位に電流が印加されても、導体中は電流が均一となり、チップ内部に一様に電流が流れてチップ内部の温度上昇も同じと考えられる。これに対し、シミュレーションでは、上部電極層内の電流印加部位、つまり接続部の配置により、チップの温度上昇分布が異なることがわかった。図11と図12は、そのメカニズムの1つのモデルである。図8の温度分布のシミュレーション結果では、どの配置パターンでもチップの周辺部の温度上昇が中央部に比べ低い。これは、図11に示すように、チップ44の端では熱流(ヒートフラックス)52が四方八方に広がるため、熱抵抗が低くなるためと考えることができる。したがって、仮にチップ44内部で均一に発熱が生じたとしても、チップ44のコーナー部の温度上昇が最も低く、チップ44重心部の温度上昇が最も高くなるものと考えられる。
【0037】
もう1つは、上部電極層48及びチップの内部のシリコンデバイスにおける抵抗分布の存在である。図12に示すように、ワイヤ54が上部電極層48に接続される接続部50から電流が印加され、上部電極層48を介し、シリコンデバイス内部に流れる。上部電極層48にも抵抗成分56があり、シリコンデバイスにも抵抗成分58があるので、接続部50から電流が広がるにつれ電圧降下が生ずるが、その大きさは、抵抗成分56,58の大きさと流れる電流の大きさで決まる。上記のシミュレーションでは、チップ44と回路基板42との間は100μmの半田層と200μmのアルミニウム層であり、チップ44の上部電極層48は5μmのアルミニウム層である。したがって、チップ44の下部電極層側の抵抗は、上部電極層48及びシリコンデバイスの抵抗に比べ無視できる。一方、上部電極層48は、通常の電流レベルならば格別、大電流となると、その抵抗成分56の分布が無視できなくなり、シリコンデバイスに注入される電流分布が接続部50の配置の影響を受け、その結果、チップ44内部の温度上昇分布が相違してくるものと考えられる。
【0038】
このように、シミュレーションによれば、ワイヤボンディングの上部電極層内の配置条件によりチップ内の温度上昇がかなり異なる、との知見を得ることができた。この結果を実際に大電流用ダイオードにワイヤボンディングし、電流を印加し、温度上昇分布を調べてみたところ、後に詳述するが、よい一致を見た。
【0039】
このことから、一般的な電流レベルの半導体素子と異なり、電流が大きいために、上部電極層の抵抗の場所的分布の影響を受け、上部電極内における複数の接続部材の平面配置条件に依存して半導体素子の温度上昇分布が定まるような大電流用の半導体素子では、上部電極内における複数の接続部材の平面配置を工夫することで、温度上昇を抑制することが可能となることがわかる。大電流の1つの目安は、例えば、上部電極層48が5μmのアルミニウムの場合、図9の電流50Aである。
【0040】
具体的には、図8のパターン2のように、上部電極層の平面内全体に離散的に接続部を配置することで、一列に配置するのに比べ、最高温度上昇を抑制できる。ここで平面内全体に離散的とは、一列に配置することに対比するもので、例えばジグザク状に配置することである。また、図8のパターン3のように、各ワイヤの接続方向に略垂直な方向について各々略同一の面積を有する第1エリアと第2エリアに仮想的に2分し、各ワイヤを各々隣り合うワイヤ同士が異なるエリアに接続することで、一列に配置するのに比べ、最高温度上昇をさらに抑制できる。この配置は、各ワイヤのそれぞれが上部電極層との間で複数の接続部を形成するものである。
【0041】
以下に、実際の大電流用の半導体装置の構成等につき、図面を用いて詳細に説明する。以下の説明は、上記のシミュレーションの結果を確認するために行ったデバイス製作に基づくものであり、シミュレーションに用いたモデルと、寸法等をほぼ合わせてある。つまり、図3、図4で説明したように、放熱板/ハウジングケースの上に、DBA回路基板を配置し、その上に6.5mm角で厚みが200μmの大電流用ダイオードのチップを取り付け、チップの上部電極層に複数のワイヤを接続して、大電流用の半導体装置としたものである。
【0042】
図13(a)は、シミュレーションにおけるパターン2をワイヤボンディングにより実現する様子を示す図である。なお、比較のためにパターン1に対応するものを図13(b)に示す。以下において、図3から図5、図12と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0043】
図13(a)において、チップ44は、大電流用ダイオードで、その寸法は上記のように6.5mm角、厚みは200μmである。上部電極層48は、5.5mm角の面積で、直接ダイオードデバイスのシリコンに接触しており、厚みが5μmのアルミニウムで構成される。上部電極層48の上には、5本のワイヤ54が接続部50において接続される。ワイヤ54は、直径が300〜500μmのアルミニウムを主成分とするワイヤボンディング用ワイヤで、超音波ワイヤボンディング装置等で上部電極層48にボンディングされる。ボンディング後のワイヤ54と上部電極層48との間の接続部50の大きさは、図13(a)のX方向に約1mm、Y方向に約0.5mm程度である。
【0044】
5本のワイヤ54は、チップ44の上部電極層48において、2本と3本の2列となるように、いわゆるジグザク状に接続部50を配置してボンディングされる。具体的には、5本のワイヤ54において、そのY方向のピッチを約1mmとし、X方向の列のオフセット量を例えば約2〜3mm程度とすることができる。このジグザグ配置により、図8のパターン2と同様のものとできる。なお、図13(b)は、5本のワイヤ54をY方向に沿って1列としたもので、図13(a)のX方向の列オフセット量をゼロにした配置で、図8のパターン1に相当する。
【0045】
図13(a),(b)の構成の大電流用ダイオードについて、実際に電流を印加したときのチップ44の温度分布を実測し、図8から図10で説明したシミュレーション結果と比較した。条件は以下のとおりである。すなわち、初期のチップ温度は20℃、印加電流は、5本のワイヤ54の合計で60〜100Aの間で設定し、1secをオン時間、19secをオフ時間とし、これを繰り返した。チップ44の温度は赤外温度計を用いて測定し、電流印加のオン・オフを繰り返して温度が定常状態となったときのデータを採取した。
【0046】
図14は、図13(a),(b)の2つについて、印加電流100Aのときの実測温度上昇分布の様子と、図8で説明したシミュレーション結果の計算温度上昇分布の様子を比較して示したものである。明らかに、パターン1の場合とパターン2の場合で温度上昇分布が異なるのがわかり、パターン2の場合には温度上昇分布が2分されるのに対し、パターン1ではチップの中央部に集まって温度上昇が起こる。この様子は、計算結果とよく一致する。
【0047】
図15は、実測の温度上昇分布について、印加電流を変化させ、温度上昇の最も大きいところの温度上昇(最高温度上昇)がどのように変わるかを見たものである。これからも、明らかにパターン2のほうがパターン1に比べ最高温度上昇の値が低くなる。また、図15の実測曲線の形は、図10の計算曲線の形によい一致を示す。このように、実測温度上昇分布と、計算温度上昇分布とは定性的によい一致をしており、この結果から、実測の温度上昇分布においても、上部電極層の平面内の接続部の配置条件により、相違が出ることがわかる。
【0048】
したがって、大電流用の半導体素子において、上部電極層の平面内で接続部をジグザグ配置することで、一列に接続部を配置するよりも温度上昇分布を平坦にでき、また最高温度上昇の値を抑制することができる。次に、大電流用の半導体素子について、さらに信頼性を向上させることができる方法について述べる。
【0049】
まず、接続部50の面積を大きくすることで、信頼性を向上させることができる。図16は、接続部50の拡大図で、ワイヤ54は、ボンディング装置のツールにより押しつぶされ、長さL、幅Wの大きさの略長楕円領域で、上部電極層48との間で接続部50を形成し、この領域で電流が印加される。接続部50の面積の大きさは、図17に示すように超音波探傷法により得ることができる。すなわち、ワイヤ54により接続部50が形成されたチップ44を、適当な液体媒体槽60の中に配置し、裏側から超音波プローブ62により超音波を送信し、反射波を受け取ってこれを画像処理し超音波探傷表示装置64に表示する。接続部50とそれ以外のところでは超音波の反射の様相が異なるので、その相違から接続部50の輪郭を求め、その面積を得ることができる。
【0050】
接続部50の面積が大きいほうが、接続部50における電流密度を低下させることができるので好ましい。その形状はボンディング装置のツール形状やボンディング条件で変えることができるが、一般的には長さLが幅Wに対して大きくなる。その比は、例えば、剥離強度等の基準で評価でき、例えば、長さLは、幅Wの2.4倍以上あることが好ましい。
【0051】
図18は、接続部の面積が、大電流の半導体素子の冷熱サイクルテストの進展に従いどのように変化するかを示す図である。横軸は冷熱サイクルテストのサイクル数、縦軸は接続部面積である。このように、冷熱サイクルテストを繰り返すと、次第に接続部の面積が減少してくることがわかる。接続部の面積が減れば、接続部における電流密度が高くなり、そこでの発熱が大きくなり、チップ全体の温度上昇が高くなる。したがって、冷熱サイクルテストが所定レベルの繰り返し数を合格するためにも、また、チップ全体の温度上昇を抑制するためにも、接続部の初期面積は大きいほうがよい。その初期面積の大きさは、冷熱サイクルを合格するためのサイクル数のときにおける接続部の面積減少率と、接続部での発熱等からくる最小面積の条件等から求めることができる。例えば、最小面積を0.5mm×0.5mm=0.25mm2とし、冷熱サイクル合格サイクル数での面積減少率を初期の0.5とすると、初期の接続部の面積は、0.5mm2以上あることが必要となる。
【0052】
次に、図19に示すように、各ワイヤ54について上部電極層48上で2つの接続部70,72を形成することで、チップ44全体の温度上昇分布をより均一にできる。これは、図8のパターン3に相当する接続部70,72の配置だからである。具体的には、上部電極層48の平面内で、図19に示すX方向の2箇所のところでそれぞれ5箇所の接続部を設ける。ワイヤボンディング作業では、−X方向からワイヤ54を+X方向に運んできて、まず上部電極層48の左側の方で1つ目の接続部70を形成し、そのままワイヤ54を切断せずに一旦上方にあげつつ+X方向に運び、上部電極層48の右側のほうで下方に下ろしてそこで2つ目の接続部72を形成し、そこでワイヤ54を切断する。
【0053】
つまり、電流印加は、5本のワイヤ54に分担されて行われるが、1本のワイヤ54では、それぞれ2つの接続部70,72によってさらに分担されて上部電極層48、すなわちチップ44に電流が印加されることになる。したがって、図8で、図9で説明したように、チップ44の温度上昇分布がより平坦化し、最高温度上昇の値がより抑制される。また、接続部70,72における電流密度が低くなるので、接続部70,72における発熱も抑制できる。
【0054】
2つの接続部70,72の間では、あとでボンディングされる2列目の接続部72のほうに電流が流れにくくなる。したがって、2列目の接続部72の接続部面積を、1列目の接続部70の接続部面積より大きめにすることが好ましい。
【0055】
また、図19に示す1列目の接続部70と2列目の接続部72との間のワイヤループは、高さHと、列間の間隔Sの比、(H/S)を大きくするほうが信頼性を向上させることができる。すなわち、図20は、(H/S)を変化させて、冷熱サイクルテストの進展により接続部の面積減少の様子を見た図であるが、(H/S)が大きいほど、接続部の面積減少は抑制される。ただし、あまりループを高くすると、切断が起こるので、それ以内の(H/S)にする必要がある。
【0056】
このように、大電流用の半導体素子における接続部の配置、本数、その面積等を工夫することで、温度上昇を抑制し、信頼性を向上させることができるが、図2に説明したシミュレータ等を用い、シミュレーションと実測とを組み合わせることで、さらに性能のよい大電流用の半導体装置を得ることができる。図21は、シミュレータを用いて、温度上昇分布等を最適化する方法のフローチャートである。
【0057】
最初に、シミュレータの初期境界条件を設定する(S10)。具体的には、図3、図4、図6等の初期設定を行う。次に、接続部の配置を設定する(S12)。具体的には、図5に示すように、上部電極層48の平面内での接続部50の配置状態を設定する。例えば図8のパターン2、パターン3等のように接続部の本数と配置位置の設定をする。これに加え、図18、図20等で説明した接続部面積の知識を加えることもできる。
【0058】
そして、シミュレーションを実行する(S14)。具体的には、上記式(1)、(2)等を解き、その結果をチップ内の温度上昇分布データとして出力する。シミュレーションの結果を見て、温度上昇が所望のように抑制されているかを判断し(S16)、NGのときは再びS12へ戻り、接続部の設定をやり直し、シミュレーションを改めて実行する。シミュレーション上で温度上昇が所望のように抑制され、OKとなると、そのシミュレーションモデルに従った大電流用の半導体素子を実際に試作する(S18)。そして、実際に電流印加等の駆動を行い、チップの温度上昇を実測する(S20)。その結果を見て、温度上昇が所望のように抑制されているかを判断し(S22)、NGのときは再びS12へ戻り、接続部の設定をやり直し、シミュレーション等を改めて実行する。
【0059】
このように、シミュレーションと実測とを繰り返すことで、シミュレーションの精度が次第に上がってくると、S18の段階がそのままで大電流用の半導体装置の製作に移行できる。こうして、電流が大きいために、上部電極層の抵抗の場所的分布の影響を受け、上部電極内における複数の接続部材の平面配置条件に依存して半導体素子の温度上昇分布が定まる大電流用の半導体素子について、最適の接続部材の平面配置条件を定めることができる。
【0060】
上記において、チップは、大電流用ダイオードとしたが、シミュレーション結果からわかるように、デバイスの種類はダイオードに限られず、半導体素子の上部接触領域に設けられる上部電極層に複数の電流印加用接続部材が接続され、電流が大きいために、上部電極層の抵抗の場所的分布の影響を受け、上部電極内における複数の接続部材の平面配置条件に依存して半導体素子の温度上昇分布が定まる大電流用の半導体素子であればよい。例えば、大電流が上部電極と下部電極との間で流れるラテラル型半導体素子であれば、pn接合が1つのものに限られない。あるいは、チップの上面に複数の種類の電極が設けられる半導体素子であっても、電流を出し入れする上部電極層が、半導体素子の上部接触領域に直接設けられ、電流が大きいために、上部電極層の抵抗の場所的分布の影響を受け、上部電極内における複数の接続部材の平面配置条件に依存して半導体素子の温度上昇分布が定まるものであれば、同様に本発明が実施できる。
【0061】
また、チップの上部電極層に接続されるのはワイヤとして説明したが、シミュレーションの結果からわかるように、上部電極層内における複数の接続部の平面配置条件で温度上昇分布が決まるのであるから、ワイヤ以外の接続部材であってもよい。例えば、ビーム状のリードで接続してもよく、バンプを用いて接続してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る実施の形態の半導体装置が適用される車両用インバータ回路の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態のシミュレーションにおいて、シミュレータの構成を示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態のシミュレーションにおいて、検討した大電流用の半導体装置の上面構造図である。
【図4】本発明に係る実施の形態のシミュレーションにおいて、検討した大電流用の半導体装置の断面図である。
【図5】本発明に係る実施の形態のシミュレーションにおいて、検討したチップの平面図である。
【図6】本発明に係る実施の形態のシミュレーションにおいて、用いた主なパラメータの値を示すものである。
【図7】本発明に係る実施の形態のシミュレーションの様子を示す図で、(a)は配置構成の斜視図、(b)は回路基板上の電流分布、(c)は半導体装置全体の温度上昇分布を模式的に示すものである。
【図8】本発明に係る実施の形態のシミュレーションにおいて、接続部の配置と温度上昇分布の関係を示す図である。
【図9】本発明に係る実施の形態のシミュレーションにおいて、接続部の配置により、電流値に対するチップ内の最高温度上昇が異なる様子を示す図である。
【図10】図9におけるパターン1とパターン2の結果をグラフ化したものである。
【図11】本発明に係る実施の形態のシミュレーションの結果に対するモデルの1つを説明する図である。
【図12】本発明に係る実施の形態のシミュレーションの結果に対するモデルの他の1つを説明する図である。
【図13】本発明に係る実施の形態において、上部電極層内でジグザク状にワイヤボンディングを行う様子を1列の配置と比較して示す図である。
【図14】本発明に係る実施の形態において、接続部の配置の違いにより、実測温度上昇分布が異なる様子をシミュレーション結果と比較して示す図である。
【図15】本発明に係る実施の形態において、接続部の配置により、電流値に対するチップ内の最高温度上昇が異なる様子を示す図である。
【図16】接続部の拡大図である。
【図17】接続部の面積の大きさを超音波探傷法により得る様子を示す図である。
【図18】接続部の面積が、大電流用の半導体素子の冷熱サイクルテストの進展に従いどのように変化するかを示す図である。
【図19】他の実施の形態において、各ワイヤについて上部電極層上で2つの接続部を形成する様子を示す図である。
【図20】図9における(H/S)を変化させて、冷熱サイクルテストの進展によりどのように接続部の面積が減少するかを示す図である。
【図21】シミュレータを用いて、温度上昇分布等を最適化する方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0063】
8 車両用モータ、10 車両用インバータ回路、14 大電流用ダイオード、16 車両用電池、20 シミュレータ、40 ハウジングケース、42 回路基板、44 チップ、46 電流出力口、48 上部電極層、50,70,72 接続部、52 熱流(ヒートフラックス)、54 ワイヤ、56,58 抵抗成分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に半導体素子の下部電極を配置し、この半導体素子の上部接触領域に設けられた上部電極層に電流印加用の接続部材を複数接続する半導体装置であって、
前記半導体素子の上部電極層の平面内全体に前記接続部材を離散的に接続し、半導体素子に電流を印加する際に前記上部電極層中の内部抵抗の発熱によって生じる半導体素子全体の温度上昇分布が、前記平面内全体において略均一化するようにしたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記半導体素子の上部電極層の平面を、前記接続部材を接続する方向に略垂直な方向について、各々略同一面積を有する第1エリア及び第2エリアに仮想的に2分し、前記接続部材を、各々隣り合う接続部材同士が異なるエリアに接続されるように接続することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
上部電極層はアルミニウムであり、上部電極層全体に印加される電流と上部電極層の厚みとの比が、10A/μm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
接続部材は、ワイヤボンディング用のワイヤであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−66704(P2006−66704A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248410(P2004−248410)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】