説明

半導体装置

【課題】出力電力量が時間に対して変動する半導体装置の場合、最大出力で運転して最大発熱の発生時を想定して冷却装置の仕様を決定する必要がある。冷却能力を低下させることを可能とする技術を提供する。
【解決手段】半導体装置20には溶融物質8が封止されている。その溶融物質は、下記の現象が得られるものが選択されている。溶融物質は、定格変動幅内の小出力範囲内に設定されている第1出力電力量を維持しているときには固体であり、定格変動幅内の大出力範囲内に設定されている第2出力電力量を維持していると溶融し、溶融物質の融点は半導体装置が正常に動作する最高温度以下に設定されている。溶融物質8は、発熱部(半導体チップ14)に対して基板18と反対側に配置されている。溶融物質8によって、半導体装置20のはんだ層16が溶融物質の融点以上に過熱されることを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動作すると発熱する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源装置に用いられるIGBT,パワーMOS,ダイオード等の半導体装置は、動作すると発熱する性質を備えており、空冷または水冷の冷却装置を備えていることがある。
【0003】
前記の半導体装置の中には、長時間に亘って一定の出力電力量で連続動作する使い方がされるものもあるが、出力電力量が時間に対して変動する態様で使用されるものもある。電気自動車やハイブリッド自動車の電源に用いられる半導体装置は、出力電力量が時間に対して変動する態様で運転される。自動車の発進時や登板時には大出力電力量で運転されるものの、大出力電力量で運転される時間は短く、その他の大部分の時間では、巡航速度で走行するための小出力電力量で運転される。出力電力量が時間に対して変動する態様で運転される半導体装置の場合、最大出力で運転するために最大量で発熱する時を想定して冷却装置の仕様を決定する必要があり、大きな冷却能力を持つ冷却装置を作成する必要がある。
大きな冷却能力を実現するためには伝熱部材等を薄くして伝熱効率を向上させるのが有利であるが、伝熱部材等を薄くすると熱容量まで小さくなり、発熱量の変化によって半導体装置の温度が敏感に変わってしまうようになる。定常的な冷却能力を向上させながら、発熱量の変化時の温度変化を抑制することは難しい。
【0004】
そこで、定常的な冷却能力と、発熱量の一時的増大時の温度変化を抑制する能力の両立を図った技術が提案され、特許文献1に開示されている。
特許文献1の技術では、半導体チップを搭載した基板の表面のうち、半導体チップを搭載している面と反対側の面にキャップを取り付け、基板とキャップの間に形成される密閉空間に、一定の温度で溶融するワックスを封止している。
特許文献1の技術によると、発熱量の一時的増大時にはワックスが溶融し、発熱量をワックスの溶融潜熱に吸収することによって、半導体チップや基板等の過熱を防止する。
【0005】
【特許文献1】特開平1−89351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によって半導体装置や基板等の過熱を防止できることもあるが、特許文献1の技術では半導体装置の過熱を防止できない場合もある。特に、半導体装置と基板との間の熱抵抗が高く、両者間に温度差が生じやすいケースでは、特許文献1に技術では半導体装置の過熱を防止できない。
特許文献1の技術では、基板を挟んで半導体装置と向かい会う反対側の面にワックスが接している。そのために、半導体チップと反対側の基板面の温度がワックスの融点以上に昇温することを防止できても、半導体装置や半導体装置を基板に接合している接合層の温度がワックスの融点以上に昇温することを防止するができない。
半導体装置が発熱する場合、接合層に加わるヒートサイクルが接合層の耐久性を顕著に低下させる。接合層に加わる最高温度を低下させる技術が必要とされている。
【0007】
本発明では、出力電力量が時間に対して変動する態様で運転される半導体装置において、半導体装置自体や半導体装置を基板に接合している接合層の温度が過熱されないようにする技術を提供する。少なくとも、半導体装置自体や半導体装置を基板に接合している接合層の温度が過熱するタイミングを遅らせることができる技術を提供する。過熱現象の発生タイミングを遅らせることができれば、その間に破壊に対する対策を講じることが可能となる。あるいはその間に大発熱状態が終了してしまう場合もある。過熱現象の発生タイミングを遅らせることができれば、そのメリットは大きい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、出力電力量が時間に対して変動する半導体装置では、大出力電力量で大発熱状態で動作する時間が長くは続かず、所定時間後には小出力電力量で小発熱状態で動作する状態に変化することに着目する。発明では、大出力電力量で大発熱状態で動作する時間帯では、溶融物質が溶融することによって、半導体装置が溶融物質の融点以上には昇温しないようにする。半導体装置の発熱を溶融熱に利用すれば、半導体装置が融点以上には昇温しないようにすることができる。あるいは、半導体装置の温度が溶融物質の融点以上に昇温しない期間を設けることができれば、半導体装置が正常に動作しなくなる高温度にまで上昇するタイミングを遅らせることができる。半導体装置を基板に接合している接合層に加わるヒートサイクルを緩和し、接合層の耐久性を高めることもできる。
【0009】
本発明の半導体装置は、定格変動幅内で出力電力量が増減するのに応じて発熱量が増減する性質を備えており、溶融物質が封止されている。その溶融物質は、下記の現象が得られるものが選択されている。
(1)溶融物質は、定格変動幅内の小出力範囲内に設定されている第1出力電力量を維持しているときには固体であり、
(2)溶融物質は、定格変動幅内の大出力範囲内に設定されている第2出力電力量を維持していると溶融し、
(3)溶融物質の融点は、半導体装置が正常に動作する最高温度以下に設定されている。
本発明の半導体装置では、半導体装置の発熱部に対して半導体装置を基板に接合する接合層と反対側に、溶融物質が配置されている。
【0010】
ここでいう定格変動幅は、半導体装置に予定されている出力電力量の範囲をいい、半導体装置の製造者に、正常に動作することを保証するように求められている出力電力量の範囲をいう。
第1出力電力量は、この半導体装置が正常に製造されているか否かを試験する時に用いられる電力量であり、定格変動幅内の小出力範囲内に設定されている。
第2出力電力量も、この半導体装置が正常に製造されているか否かを試験する時に用いられる電力量であり、定格変動幅内の大出力範囲内に設定されている。
本発明の半導体装置は、試験を満たすか否かによって、本発明外の半導体装置から区別可能である。すなわち、前記(1)に示したように、第1出力電力量で連続通電する試験をすると溶融物質は固体であり、前記(2)に示したように、第2出力電力量で連続通電する試験をすると溶融物質が溶融し、しかもその融点が、半導体装置が正常に動作する最高温度(すなわちその温度以上となると正常に動作することが保証されていない温度)以下に設定されていれば、本発明の半導体装置であり、いずれか一つでも満たさなければ、本発明の半導体装置ではない。
【0011】
本発明の半導体装置を第1出力電力量で連続運転している間は、溶融物質は固体の状態を維持する。出力電力量が第2出力電量に増大すると発熱量も増大して昇温する。本発明の半導体装置では、昇温の過程で溶融物質の融点に達して溶融物質が溶融する。この状態が得られると、半導体装置の単位時間あたりの発熱量がさらに増大しても、その熱量は溶融潜熱に代わり、それ以上には昇温しない。本発明の半導体装置では、溶融物質の全部が溶融しきるまでは溶融物質の融点に維持され、それ以上には昇温しない。溶融物質の融点は、半導体装置が正常に動作する最高温度以下に設定されており、半導体装置が正常に動作しなくなる温度に達する現象の発生を抑制することができる。すくなくとも、半導体装置が正常に動作しなくなる温度にまで昇温する現象の発生を遅らせることができる。
本発明の半導体装置では、溶融物質が発熱部に隣接しており、発熱部が溶融物質の融点に維持され、それ以上には昇温しない。従って、半導体装置を基板に接合している接合層や基板の温度は溶融物質の融点よりも低温に維持され、それ以上には昇温しない。半導体装置を基板に接合している接合層に加わるヒートサイクルを緩和し、接合層の耐久性を高めることができる。
【0012】
出力電力量が連続して第2出力電力量以上に維持される時間が所定時間を越えない値に第2出力電力量を設定しておき、第2出力電力量が前記所定時間だけ持続した時になおも未溶融分が残るだけの量の溶融物質を半導体装置に封止しておくことが好ましい。
【0013】
半導体装置の実際の運転状態は半導体装置毎に相違し、時間に対する出力電力量の変動パターンも半導体装置毎に変動する。しかしながら、多くの半導体装置を調べれば、時間に対する出力電力量の平均的変動パターンを特定することができる。あるいは、高出力状態で多用する場合の時間に対する出力電力量の変化パターンを特定することができる。
時間に対する出力電力量の変動パターンが特定されれば、出力電力量が連続して第2出力電力量以上に維持される時間が所定時間を越えないレベルに第2出力電力量を設定することができる。第2電力量を低いレベルに仮定すると、出力電力量が連続して第2出力電力量以上に維持される時間が長く、第2出力電力量が低すぎることが分る。第2電力量を徐々に増大させると、出力電力量が連続して第2出力電力量以上に維持される時間が所定時間に一致する値を見出すことができる。
【0014】
上記のようにして決定した第2出力電力量が前記所定時間だけ持続した時に未溶融分が残るだけの量の溶融物質が半導体装置に封止されていれば、出力電力量が連続して第2出力電力量を超える全期間に亘って、半導体装置の発熱量を溶融潜熱に利用することができる。出力電力量が連続して第2出力電力量を超える全期間に亘って、溶融物質の融点以上に昇温することを防止することができる。その後は半導体装置の出力電力量が減少するために、半導体装置は冷却され始める。半導体装置が正常に動作する最高温度を超えないようにしながら半導体装置を連続動作することができる。
【0015】
第2出力電力量の選定に用いる出力電力量の変動パターンは、多数の半導体装置から得られる平均的変動パターンであってよいし、あるいは、高出力状態で運転することが多い場合の変動パターンであってもよい。半導体装置に封止しておく溶融物質の量は、前記所定時間の間の溶融量に等しくてもよいし、それに余裕分を加味したものであってもよい。
【0016】
出力電力量を所定時間間隔で繰返し計測した場合に、第2出力電力量以上の出力状態が計測される回数が全体の計測回数の1%以下となるレベルに第2出力電力量を設定してもよい。この場合も、第2出力電力量以上の出力状態となると溶融物質が溶融して半導体装置の過熱を防止する。第2出力電力量以上の出力状態が計測される回数が全体の計測回数の1%以下となるレベルに第2出力電力量を設定しておけば、第2出力電力量以上の出力電力量が継続して計測される時間は短く、第2出力電力量が所定時間だけ持続した時に未溶融分が残るだけの量の溶融物質を半導体装置に封止することができる。
前記した出力電力量の変動パターンで運転しながら所定時間間隔で繰返し温度を計測した場合に(ただしこの段階では溶融物質を封止しておかないで計測する)、溶融物質の融点以上の温度が計測される回数が全体の計測回数の1%程度となる融点を持つ溶融物質を選択してもよい。
この場合、溶融物質の存在によって、溶融物質を利用しなければ1%程度の頻度で出現する異常な高温に過熱されることを防止できる。出現頻度が1%程度の高温が持続する時間は短く、溶融物質を利用しなければ1%程度の頻度で出現する異常な高温状態が終了した時に未溶融分が残るだけの量の溶融物質を半導体装置に封止しておくことができる。
【0017】
上記しただけの量の溶融物質が封止されていれば、半導体装置が正常に動作する最高温度を超えないようにしながら連続動作することができるが、それだけの量が封止されていなくても、半導体装置が正常に動作する最高温度を超える温度にまで昇温するまでの時間を遅らせることができる。封止しておく溶融物質の量に関する要件は、課題解決のための必須不可欠な要件ではない。
【0018】
第1出力電力量は、第2出力電力量よりも小さいものであり、定格変動幅内の小出力範囲に選定されている。ここでいう小出力範囲は必ずしも、定格変動幅内の中間値以下であることを意味しない。
電気自動車やハイブリッド自動車等に用いられる半導体装置は、発進時や登板時には大出力電力量で使用されるものの、大出力電力量で運転される時間は短く、その他の時間(これのほうが長い)では、巡航速度を維持するための小出力電力量で利用されることが多い。
ここでいう第1出力電力量は、その他の時間における出力電力量の最大値程度に設定しておくことが好ましい。あるいは、半導体装置が動作する間の最頻度電力量を第1出力電力量としてもよい。出力電力量が時間に対して変動する場合に、短時間当たりの平均出力電力量を観測することができ、観測期間内の観測回数を出力電力量の範囲毎にカウントとすることができる。ここで、最も多くの回数がカウントされる出力電力の範囲を第1出力電力量とすることができる。
半導体装置を最頻度電力量で運転し続けたときの温度を第1温度とし、半導体装置が正常に動作できる最高温度を第2温度としたときに、第1温度と第2温度の間に融点を持つ材料を選択して封止することが好ましい。こうすることによって、最も多用される出力電力量以下で運転している間は溶融物質が固化しており、それを超える出力電力量となると溶融物質が溶融するために、融点以上に昇温する現象の発生を遅らせことができる。
【0019】
あるいは、半導体装置が動作する間の平均電力量を第1出力電力量としてもよい。半導体装置を平均電力量で運転し続けたときの温度を第1温度とし、半導体装置が正常に動作できる最高温度を第2温度としたときに、第1温度と第2温度の間に融点を持つ材料を選択して封止することが好ましい。こうすることによって、平均的出力電力量以下で運転している間は溶融物質が固化しており、それを超える出力電力量となると溶融物質が溶融するために、融点以上に昇温する現象の発生を遅らせことができる。
【0020】
半導体チップと、その半導体チップに接続されている熱マスとによって、半導体装置を構成してもよい。その熱マスが、溶融物質と、その溶融物質を収容しているケースを備えており、そのケースの耐熱温度が、半導体チップが正常に動作する最高温度度以上に設定されていれば、本発明の半導体装置が得られる。
【0021】
熱マスを利用し、しかも半導体チップの表面に電極が形成されている場合、ケースが導電性であり、半導体チップの電極にケースが接続されており、しかも、ケースにワイヤがボンディングされていることが好ましい。
この場合、ワイヤが溶融物質の融点温度以上に過熱される現象を抑制するか、あるいは少なくとも融点以上に過熱されるタイミングを遅らせることができる。
【0022】
半導体チップは、通常、シリコン等の半導体ブロックを利用して形成されている。そこで、そのブロック内に溶融物質を封止してもよい。マイクロマシニング技術で多用される加工技術を用いると、半導体ブロック内に溶融物質を封止した構造を製造することができる。
【0023】
半導体装置が、融点が相違する2種類の溶融物質を封止していてもよい。
例えば、半導体チップあるいはボンディングワイヤ等の性質から、好ましくはないが短時間であればそれ以上に昇温しても差し支えない第1上限温度と、短時間といえども昇温してはならない第2上限温度が規定されていることがある。
この場合、第1上限温度以下の融点を有する第1種類の溶融物質によって、第1上限温度に到達する機会をなくすか、あるいは少なくとも減らすことができ、第1上限温度以上で第2上限温度以下の融点を有する第2種類の溶融物質によって、第2上限温度に到達する機会をなくすことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、出力電力量が時間に対して変動する半導体装置において、短時間の大出力電力量状態に対処できるだけの能力を持つ冷却装置が必要とされなくなり、小型の冷却装置で対応することが可能となる。その小型冷却装置では冷却できないほどの大発熱量で運転している間は、その発熱を溶融物質の溶融熱に利用してその溶融物質の融点以上に過熱されることを防止できるために、小型の冷却装置によって半導体装置が過熱されることを防止することができる。少なくとも、半導体装置が過熱されるまでの時間を長くとることができ、その間に必要な対策を講じることが可能となる。
本発明によると、半導体装置のみならず、基板や、半導体装置を基板に接合しておく接合層が過熱することを防止することができる。半導体装置を基板に接合している接合層に加わるヒートサイクルを緩和し、接合層の耐久性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に説明する実施例の特徴を列記する。
(特徴1)半導体装置は、電気自動車またはハイブリッド自動車の走行モータに給電する電力量を制御する。
(特徴2)半導体装置は、最小電力量と最大電力量が決められており、定格変動幅内で正常に動作する必要がある。
(特徴3)半導体装置は、発進時や登板時には大出力電力量となるものの、大出力電力量で運転される時間は短く、その他の大部分の時間では、巡航速度で走行するための小出力電力量で利用される。
(特徴4)その他の大部分の時間では、冷却装置によって、半導体装置の温度が第1所定温度以下に維持される。その第1所定温度を定格定常温度という。
(特徴5)半導体装置は、第2所定温度までは正常に動作する。その第2所定温度を耐熱温度という。
(特徴6)定格定常温度と耐熱温度と図7に従って、溶融物質の種類が選定されている。
(特徴7)発進時や登板時には大出力電力量となるが、大出力電力量の状態は短時間しか続かない。これを加味して、時間に対して出力電力量が変化する標準パターンが決められている。
溶融物質を内蔵していない半導体装置を標準パターンで運転しながら、所定時間間隔で半導体装置の温度を計測する。計測した温度の出現比率が99%となる閾値を特定する。即ち、所定時間間隔で計測した温度のうちの99%が閾値以下となる閾値を特定する。その閾値によく一致する融点を持つ溶融物質を選定する。この場合、その出現比率が1%である高温に加熱される条件が発生すると溶融物質が溶融するので、半導体装置が溶融温度以上に過熱されることがない。前記条件の出現比率が1%であることから上記条件は短時間で解消する。溶融物質を利用することによって、出現比率が1%である高温に過熱されることを防止する。
(特徴8)短時間の大出力電力量状態の間に溶融物質が溶融する量を計測する。その計測結果を上回る量の溶融物質が封止されている。大出力電力量状態が持続している間は溶融物質が溶融し続け、半導体装置が過熱されてしまうことを防止する。その後は出力電力量が低下して半導体装置の温度が低下する。融点以下に温度低下する際に、溶融物質は凝固熱を放出して固化する。固化するために、次の大出力電力量状態の間に再び溶融熱で吸熱することができる。溶融物質が凝固熱を放出して固化している間は、半導体装置の温度が融点に維持される。溶融物質の存在によって、半導体装置の温度が定格定常温度以下に低下するタイミングが遅れる。しかしながら、温度低下タイミングが遅れること自体は問題とならない。
(特徴9)溶融物質を封止している封止室には、気体も封入されている。気体が膨張・収縮するために、溶融物質の相変化に伴って生じる体積変化が補償される。
【実施例】
【0026】
(第1実施例)
図1の(A)は、第1実施例の半導体装置20の縦断面図を示し、図1の(B)は半導体装置20の横断面図を示している。正確には、(A)は(B)のA−A断面を示し、(B)は(A)のB−B断面を示している。半導体装置20は、伝熱板(基板)18と、伝熱板18にはんだ16で固定されている半導体チップ14と、半導体チップ14にはんだ12で固定されている熱マス10を備えている。伝熱板18の下面には、図示しない水冷装置が接続されている。伝熱板18は冷却装置の一部であり、基板でもある。
熱マス10は、内部に密閉空間4aが形成されているケース4と、その中に封止されている溶融物質(SnIn52)8と不活性気体6を備えている。溶融物質8には、融点が117℃であるSnIn52が使用されている。半導体装置20の定格定常温度は100℃であり、耐熱温度は125℃である。融点が、定格定常温度と耐熱温度の中間にある溶融物質8を利用している。
不活性気体6は、膨張したり圧縮したりする。溶融物質8の相変化に伴う堆積変化を補償する。
ケース4は、カーボンまたはSiCで製造されており、熱伝導率も電気伝導率も融点も高い。
【0027】
半導体チップ14の上面には電極が形成されており、熱マス10のケース4は、はんだ12によって電極に接続されている。半導体チップ14と熱マス10の間は、熱と電気の双方が伝達されるように接続されている。
ケース4の上面にはワイヤ2がボンディングされている。半導体チップ12には、熱マスを10を介してワイヤ2から給電される。
【0028】
半導体装置20は、電気自動車の走行モータを制御するためのものであり、巡航速度で走行している間は、半導体チップ14の温度が100℃程度(定格定常温度)であり、溶融物質8(融点が117℃であるSnIn52)は固体の状態を維持している。半導体装置20は、電気自動車の発進時あるいは登坂時に、大電力量が流されることがある。しかしながらその状態は長く続かず、最大でも30秒程度しか持続しないことが分っている。30秒を経過すれば、小電力量に低下することが分っている。
【0029】
図6は、熱マス10が用いられていない場合の半導体装置60を示している。この場合、前記した大電力量を流すと、その状態が長く続かないとはいえ、その間に半導体チップ14の温度が125℃を超えてしまう。またはんだ層16が過熱され、くり返しのヒートストレスによりクラック等が発生し、接合強度が落ち、冷却性能も低下してしまう。半導体チップ14やはんだ層16が過熱してしまうので、図6の半導体装置60では、大電力量を流す期間をごく短時間に制限する必要がある。
【0030】
図1(A)と(B)の半導体装置20では、融点が117℃の溶融物質(SnIn52)8が封止されており、大電力量を流しているために半導体チップ14の温度が125℃に向けて上昇する途中で、溶融物質(SnIn52)8の融点(117℃)に至る。すると溶融物質8が溶融する。半導体チップ14の発熱は、溶融物質8を溶融させる溶融熱に利用され、半導体チップ14の温度は、溶融物質(SnIn52)8の融点(117℃)に維持される。当然に、はんだ層16と基板18の温度も、溶融物質(SnIn52)8の融点(117℃)以下に維持される。
半導体装置20には、最大電力量を最大持続時間(30秒)だけ流しても、溶融物質8が溶融しきらない量の溶融物質8が封止されている。従って、固体の溶融物質8が残っている間に、半導体チップ14に流れる電力量が減少する。半導体チップ14に流れる電力量が減少すると、発熱量が減少する。半導体チップ14が125℃にまで昇温することがなくなる。
【0031】
図7に、定格定常温度と耐熱温度が規定された場合に、それらの要求を満たすことができる溶融物質の種類と融点の関係を示す。溶融物質8の種類はSnIn52に限られず、図7に従って選定すればよい。
ここでいう定格定常温度は、半導体チップ14が動作する間の最頻度電力量に維持されている間の半導体チップ14の温度をいう。おおむね、半導体装置が動作する間の平均電力量に維持されている間の半導体チップ14の温度に等しい。
【0032】
図2の(A)は、多くの半導体装置20の運転方法をサーチして得られた平均的結果を示している。横軸は時間であり、縦軸は半導体チップ14を流れる電力量を示している。期間P1は発進時を示し、その他は巡航速度で走行している期間に相当している。電力量がレベルL1を連続して超える時間はt1以下である。
図2の(B)は、図1の(A)の運転パターンによるときの温度変化を示している。カーブC1は熱マス10を持たない図6の半導体装置60に対するものであり、発進期間時P1の間に125℃を越えてしまう。カーブC2は熱マス10を持つ半導体装置20に対するものであり、125℃を越えてしまうことがない。半導体チップ14の温度が125℃に向けて上昇する途中で、溶融物質8の融点T1(117℃)に至る。そのために溶融物質8が溶融する。半導体チップ14の発熱は、溶融物質8を溶融させる溶融熱に利用され、半導体チップ14の温度は溶融物質8の融点T1に維持される。半導体装置20には発進期間P1の間に溶融しきらない量の溶融物質8が封止されている。発進期間P1の間に、半導体チップ14が溶融物質8の融点T1以上に昇温することはない。
【0033】
発進期間時P1が終了すると、出力電力量が減少して半導体チップ14の発熱量が減少する。半導体装置20の温度が低下する過程で、溶融物質8が凝固熱を放出しながら固化する。溶融物質8が凝固熱を放出しながら固化している間は、半導体装置20の温度が、溶融物質8の融点T1に維持される。溶融物質8の存在によって、半導体チップ14の温度が110℃に低下するタイミングが遅れる。しかしながら、温度低下タイミングが遅れること自体は問題を生じさせない。
【0034】
図2(A)のパターンに代えて、高出力状態を最もよく用いるパターンを採用してもよい。その際にも、発進期間P1の間に溶融しきらない量の溶融物質8が封止されていれば、上記の説明がそのまま適用される。
【0035】
図2の(A)(B)は、半導体装置20の運転方法によって変化し、半導体装置20の提供者にはコントロールすることができない。
しかしながら、半導体装置20には、最小電力量と最大電力量が決められており、定格変動幅内で正常に動作する必要がある。半導体装置20の提供者には、定格変動幅内で正常に動作する半導体装置20を提供することが求められている。図3の(A)におけるL4は最大出力電力量を例示しており、V1は定格変動幅を例示している。図3の(A)は、最小出力電力量がゼロである場合を示している。
図3(A)のレベルL2は、定格変動幅V1内の小出力範囲内に設定されている第1出力電力量を例示しており、図2(B)の温度T2は、出力電力量が第1出力電力量L2に維持されている間の半導体チップ14の温度を示している。
図3(A)のレベルL3は、定格変動幅V1内の大出力範囲内に設定されている第2出力電力量を例示している。熱マス10を持たない場合の温度変化パターンを示すカーブC3に示すように、第2出力電力量で運転すると、短時間のうちに、半導体チップ14の温度は正常に動作できる最大温度T4を超えてしまう。カーブC4は熱マス10を備えている場合の温度変化を示している。このカーブC4から明らかに、半導体装置20に封止されている溶融物質8は、定格変動幅内の小出力範囲内に設定されている第1出力電力量L2を維持しているときには固体であり、定格変動幅内の大出力範囲内に設定されている第2出力電力量L3を維持していると溶融する。また、溶融物質8の融点は、その半導体装置が正常に動作する最高温度T4以下に設定されている。
上記の条件で試験を行えば、本発明の半導体装置が得られているか否かを検査することができる。
【0036】
半導体装置20が動作する間の最頻度電力量、または半導体装置20が動作する間の平均電力量のいずれかを、第1出力電力量に採用することが好ましいが、最頻度電力量や平均電力量は測定が困難であれば、最頻度電力量または平均電力量であると想定されるものを用いればよい。
第2出力電力量には最大電力量L4を採用することが好ましいが、それに近いものであればよい。出力電力量が連続して第2出力電力量以上に維持される時間が所定時間を越えない値に設定されていれば、実際的には充分であることが多い。ここで所定時間は、溶融物質の封止量から決めることができる。
溶融物質の封止量は、所定時間に亘って第2出力電力量以上に維持されても溶融しきらない量であることが好ましく、さらにこれに余裕を見た量であることが好ましい。ただし好ましいものではあっても必須不可欠ではない。封止量が十分になくても過熱温度の達するタイミングを遅らせることはでき、それで効果が得られることも多いからである。
【0037】
(第2実施例)
図4は、第2実施例の半導体装置40の図1(A)に相当する図面を示している。以下では第1実施例と相違する部分のみを説明する。
熱マス30は、ケース24を備えており、ケース24内には複数個に分割された室24aが形成されている。ケース24内には2種類の溶融物質28、29が封止されている。溶融物質28が封止されている室と、溶融物質29が封止されている室は、交互に配置されている。なお各室24aには、溶融物質28,29の他に、気体6が封入されている。
図7の右側の2つの欄に例示されているように、第1種類の溶融物質28は、融点が217℃であるSnAg3.8Cu1.2であり、第2種類の溶融物質29は、融点が227℃であるSnCu0.7である。ケース24は、カーボンまたはSiCで製造することができる。第1種類の溶融物質28に、融点が221℃であるSnAg3.5を用いてもよい。
【0038】
(第3実施例)
図5は、第3実施例の半導体装置50の図1(A)に相当する図面を示している。以下では第1実施例と相違する部分のみを説明する。
この半導体装置50では、半導体チップ44を形成しているシリコンブロックの中に室44aが形成されている。室44aには溶融物質8が封止されている。なお、各室44aには、溶融物質8の他に、気体6が封入されている。
室44aは、犠牲層を利用しながら微細加工するマイクロマシニング技術で製造することができる。
【0039】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、溶融物質には、スズ(融点231℃)、インジウム(融点157℃)、ナトリウム(融点98℃)、カリウム(融点63℃)、ガリウム(融点30℃)等を利用することができる。また、多様な種類のはんだ材が利用可能となっており、種類によって融点が相違する。必要な融点を持つ種類のはんだ材を選択してもよい。あるいははんだよりも低融点をもつワックスを利用してもよいし、粉末金属とワックスの混合物を利用してもよい。規制したい上限温度によりも低い融点を持つ材料を選択することによって、規制したい上限温度にまで昇温することを防止することができる。あるいは、上限温度にまで上昇するのに要する時間を長時間化することができる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(A)は第1実施例の半導体装置の縦断面図を示し、(B)は横断面図を示す。
【図2】(A)は時間に対する出力電力量の変化パターンの一例を示し、(B)は温度変化パターンの一例を示す。
【図3】(A)は試験に用いる出力電力量の変化パターンを示し、(B)は温度変化パターンを示す。
【図4】第2実施例の半導体装置の縦断面図を示す。
【図5】第3実施例の半導体装置の縦断面図を示す。
【図6】従来の半導体装置の縦断面図を示す。
【図7】定格定常温度と耐熱温度と、それらの要求を満たすことができる溶融物質の種類と融点の関係を示す。
【符号の説明】
【0041】
2:ワイヤ
4:ケース
6:気体
8:溶融物質
10:熱マス
12:はんだ
14:半導体チップ
16:はんだ
18:伝熱板(ヒートシンク:基板)
24:ケース
28:第1溶融物質
29:第2溶融物質
30:熱マス
44:半導体チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定格変動幅内で出力電力量が増減するのに応じて発熱量が増減する性質を備えており、溶融物質が封止されている半導体装置であり、
前記溶融物質は、前記定格変動幅内の小出力範囲内に設定されている第1出力電力量を維持しているときには固体であり、前記定格変動幅内の大出力範囲内に設定されている第2出力電力量を維持していると溶融し、
前記溶融物質の融点が、その半導体装置が正常に動作する最高温度以下に設定されており、
前記溶融物質が、その半導体装置の発熱部に対してその半導体装置を基板に接合する接合層と反対側に配置されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
出力電力量が連続して前記第2出力電力量以上に維持される時間が所定時間を越えないレベルに前記第2出力電力量が設定されており、
前記第2出力電力量が前記所定時間だけ持続した時に未溶融分が残る量の溶融物質が封止されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1出力電力量が、前記半導体装置が動作する間の最頻度電力量と、前記半導体装置が動作する間の平均電力量のいずれかに設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体装置が、半導体チップとその半導体チップに接続されている熱マスを備えており、
その熱マスが前記溶融物質とその溶融物質を収容しているケースを備えており、
そのケースの耐熱温度が、前記半導体チップが正常に動作する最高温度度以上に設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体チップの表面に電極が形成されており、
前記ケースが導電性であり、
前記電極に前記ケースが接続されており、
前記ケースにワイヤがボンディングされていることを特徴する請求項4の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体装置が、半導体チップを備えており、
その半導体チップの内部に前記溶融物質が封止されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記半導体装置が、融点が相違する2種類以上の溶融物質を封止していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−283861(P2009−283861A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137014(P2008−137014)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】