説明

半導体装置

【課題】高電源電圧回路部に十分なラッチアップ耐性を持たせつつ、低電源電圧回路部においても高電源電圧回路部と同じトレンチ分離を使用しながら高い素子集積度を持った半導体装置を提供する。
【解決手段】トレンチ分離構造を有する半導体装置において、高電源電圧回路部には少なくとも一つのウエル領域とMOS型トランジスタが形成されて成り、ウエル領域の端部にラッチアップを防止するために高エネルギーのアルゴンイオン注入などにより結晶性を破壊されたシリコン領域や、金などの重金属を注入した領域からなるキャリア捕獲領域を形成し、配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子分離構造にトレンチ分離を使用した多電源電圧を持つCMOSデバイス等のトレンチ分離構造を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多電源電圧を使用するCMOSデバイスを有する半導体装置では、ロジック回路などの内部回路を構成する低電源電圧部の集積度を向上させることとともに、入出力回路などに用いられる高電源電圧部のラッチアップ耐性を確保することが重要である。
【0003】
素子分離にはLOCOS法に比べて高集積化に適しているトレンチ分離方法が採用される場合が多いが、トレンチ分離で素子分離した半導体装置においては、高電源電圧回路部に十分なラッチアップ耐性を持たせるためにはウエルの深さを深くして寄生バイポーラ動作を抑える必要があり、またNMOSトランジスタとPMOSトランジスタ間のリーク電流を抑え、耐圧特性を確保するために、トレンチ分離部の分離幅を大きくとる必要があった。このため低電源電圧回路部においても高電源電圧回路部と同じトレンチ分離を使用すると高い集積度が要求される低電源電圧部の素子の集積度が低下するという問題点を有していた。
【0004】
その改善策として、高電源電圧回路部のウエルの深さを低電源電圧回路部のウエルの深さよりも深くしたり、高電源電圧回路部のトレンチ分離部の分離幅を低電源電圧回路部のトレンチ分離幅に比べて広くしたりする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−58673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のようにトレンチ分離で素子分離した多電源電圧を使用する半導体装置においては、高電源電圧回路部に十分なラッチアップ耐性を持たせるためにはウエルの深さを深くして寄生バイポーラ動作を抑える必要があり、またNMOSトランジスタとPMOSトランジスタ間のリーク電流を抑え、耐圧特性を確保するために、トレンチ分離部の分離幅を大きくとる必要があった。このため低電源電圧回路部においても高電源電圧回路部と同じトレンチ分離を使用すると高い集積度が要求される低電源電圧回路部の素子の集積度が低下するという問題点を有していた。
【0007】
また、高電源電圧回路部のウエルの深さを低電源電圧回路部のウエルの深さよりも深くしたり、高電源電圧回路部のトレンチ分離部の分離幅を低電源電圧回路部に比べて広くした例も提案されているが、製造工程が増加したり、分離幅が増大してコストアップに繋がるなどの問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、本発明は半導体装置を以下のように構成した。
【0009】
高電源電圧回路部と低電源電圧回路部とを有し、前記高電源電圧回路部および前記低電源電圧回路部における各素子をトレンチ分離領域により素子分離したトレンチ分離構造を有し、前記高電源電圧回路部には少なくとも一つのウエル領域とMOS型トランジスタが形成されている半導体装置において、前記ウエル領域の接合部にラッチアップを防止するためのキャリア捕獲領域を有する半導体装置とした。
【0010】
また、前記キャリア捕獲領域は結晶性が破壊されたシリコン領域により形成した。
【0011】
また、前記キャリア捕獲領域は、重金属が注入されたシリコン領域により形成した。
【0012】
これらの手段によって、高電源電圧回路部に十分なラッチアップ耐性を持たせつつ、低電源電圧回路部においても高電源電圧回路部と同じトレンチ分離を使用しながら高い素子集積度を持った半導体装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、高電源電圧回路部と低電源電圧回路部とを有し、高電源電圧回路部及び低電源電圧回路部における各素子をトレンチ分離領域により素子分離したトレンチ分離構造を有し、高電源電圧回路部には少なくとも一つのウエル領域とMOS型トランジスタが形成されている半導体装置において、ウエル領域の端部にラッチアップを防止するためのキャリア捕獲領域を有するようにした。
また、前記キャリア捕獲領域は、結晶性が破壊されたシリコン領域により形成した。
また、前記キャリア捕獲領域は、重金属が注入されたシリコン領域により形成した。
【0014】
これらの手段によって、高電源電圧回路部に十分なラッチアップ耐性を持たせつつ、低電源電圧回路部においても高電源電圧回路部と同じトレンチ分離を使用しながら高い素子集積度を持った半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の半導体装置の第1の実施例示す模式的上面図である。
【図2】本発明の半導体装置の第1の実施例示す模式的断面図である。
【図3】本発明の半導体装置の第2の実施例示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の半導体装置の第1の実施例を示す模式的上面図である。
【0018】
第1導電型半導体基板としてのP型のシリコン基板101上には、高電源電圧回路部10と低電源電圧回路部20とが配置されている。高電源電圧回路部10には第1ウエルとしてP型の低濃度不純物領域からなるPウエル領域201および第2ウエルとしてN型の低濃度不純物領域からなるNウエル領域202が隣接して形成されており、それらの表面には、複数のMOS型のトランジスタ11が配置されている。さらに、その周囲には素子分離用のトレンチ分離領域301が配置されている。そして、Pウエル領域201とNウエル領域202との接合部には、高エネルギーのアルゴンイオン注入などにより結晶性を破壊されたシリコン領域や、金などの重金属を注入した領域からなるキャリア捕獲領域401が設けられている。
【0019】
低電源電圧回路部20には、トレンチ分離領域301で分離された素子21が配置されている。この素子はMOS型のトランジスタでもよく、ここでは特に限定しない。
【0020】
図2は、本発明の第1の実施例である半導体装置の高電源電圧回路部を示している。図1の切断線AAに沿った模式的断面図である。
【0021】
第1導電型半導体基板としてのP型のシリコン基板101上には、第1ウエルとしてP型の低濃度不純物領域からなるPウエル領域201および第2ウエルとしてN型の低濃度不純物領域からなるNウエル領域202が隣接して形成されるており、それらの表面には、ここでは図示しないが複数のMOS型のトランジスタが形成されており、それらの素子分離用のトレンチ分離領域301が形成されている。そして、Pウエル領域201とNウエル領域202との接合部には、高エネルギーのアルゴンイオン注入などにより結晶性を破壊されたシリコン領域や、金などの重金属を注入した領域からなるキャリア捕獲領域401が形成されている。
【0022】
Pウエル領域201とNウエル領域202との接合部に、高エネルギーのアルゴンイオン注入などにより結晶性を破壊されたシリコン領域や、金などの重金属を注入したシリコン領域からなるキャリア捕獲領域401が形成されていることによって、Pウエル領域201とNウエル領域202、ならびにP型のシリコン基板101と、図示しないがPウエル領域201あるいはNウエル領域202に形成されたMOS型トランジスタのソースまたはドレイン領域との間で、外部からのサージや内部回路動作による電位の変動などのトリガーによって発生するキャリアを効果的に捕獲し、キャリア発生により引き起こされるラッチアップを効果的に防止することができる。
【0023】
図1および図2の例では、第1導電型半導体基板としてP型のシリコン基板、第1ウエルとしてPウエル、第2ウエルとしてNウエルからなる例を示したが、第1導電型半導体基板としてN型のシリコン基板、第1ウエルとしてNウエル、第2ウエルとしてPウエルとしても構わない。
【0024】
また、キャリア捕獲領域401は、トレンチ分離領域301を貫通するように配置した例を示したが、トレンチ分離領域301の下面に形成してもかまわない。
【0025】
なお、図示は省略するが、本発明における半導体装置の低電源電圧回路部においては、動作電圧が低いため、寄生バイポーラ動作やラッチアップは発生しにくい。そのため上記の説明のようなトレンチ分離領域の下面にキャリア捕獲領域は必要ないので高集積化が可能となる。
【0026】
以上の説明のとおり、本発明によって、高電源電圧回路部に十分なラッチアップ耐性を持たせつつ、低電源電圧回路部においても高電源電圧回路部と同じトレンチ分離を使用しながら高い素子集積度を持った半導体装置を得ることができる。
【実施例2】
【0027】
図3は、本発明の半導体装置の高電源電圧回路部の第2の実施例を示す模式的断面図である。
【0028】
第1導電型半導体基板としてのP型のシリコン基板101上には、第2ウエルとしてN型の低濃度不純物領域からなるNウエル領域202が形成されるており、それらの表面には、ここでは図示しないが複数のMOS型のトランジスタが形成されており、それらの素子分離用のトレンチ分離領域301が形成されている。そして、P型のシリコン基板101とNウエル領域202との接合部付近のP型のシリコン基板101内のトレンチ分離領域301の下面にはP型の高濃度不純物領域からなるキャリア捕獲領域401が形成され、またP型のシリコン基板101とNウエル領域202との接合部には、高エネルギーのアルゴンイオン注入などにより結晶性を破壊されたシリコン領域や、金などの重金属を注入した領域からなるキャリア捕獲領域401が形成されている。
【0029】
P型のシリコン基板101とNウエル領域202との接合部に、高エネルギーのアルゴンイオン注入などにより結晶性を破壊されたシリコン領域や、金などの重金属を注入したシリコン領域からなるキャリア捕獲領域401が形成されていることによって、Nウエル領域202、ならびにP型のシリコン基板101と、図示しないがP型のシリコン基板101あるいはNウエル領域202に形成されたMOS型トランジスタのソースまたはドレイン領域との間で、外部からのサージや内部回路動作による電位の変動などのトリガーによって発生するキャリアを効果的に捕獲し、キャリア発生により引き起こされるラッチアップを効果的に防止することができる。
【0030】
図2の例では、第1導電型半導体基板としてP型のシリコン基板、第2ウエルとしてNウエルからなる例を示したが、第1導電型半導体基板としてN型のシリコン基板、第2ウエルとしてPウエルとしても構わない。また、キャリア捕獲領域401は、トレンチ分離領域301を貫通するように配置した例を示したが、トレンチ分離領域301の下面に形成してもかまわない。その他の説明については図1と同一の符号を付記することで説明に代える。
【0031】
以上の説明のとおり、本発明によって高電源電圧回路部に十分なラッチアップ耐性を持たせつつ、低電源電圧回路部においても高電源電圧回路部と同じトレンチ分離を使用しながら高い素子集積度を持った半導体装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0032】
10 高電源電圧回路部
11 MOS型のトランジスタ
20 低電源電圧回路部
21 素子
101 P型のシリコン基板
201 Pウエル領域
202 Nウエル領域
301 トレンチ分離領域
401 キャリア捕獲領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電源電圧回路部と低電源電圧回路部とを有し、前記高電源電圧回路部および前記低電源電圧回路部における各素子をトレンチ分離領域により素子分離したトレンチ分離構造を有し、前記高電源電圧回路部には少なくとも一つのウエル領域とMOS型トランジスタが形成されている半導体装置において、前記ウエル領域の接合部にラッチアップを防止するためのキャリア捕獲領域を有する半導体装置。
【請求項2】
前記キャリア捕獲領域は、結晶性が破壊されたシリコン領域により形成されている請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記キャリア捕獲領域は、重金属が注入されたシリコン領域により形成されている請求項1記載の半導体装置。
【請求項4】
前記高電源電圧回路部は、第1導電型半導体基板と、第1導電型の第1ウエル及び第2導電型の第2ウエルから成り、前記第1ウエルと前記第2ウエルの接合部に前記キャリア捕獲領域を有する請求項1記載の半導体装置。
【請求項5】
前記高電源電圧回路部は、第1導電型半導体基板と、第2導電型の第2ウエルからなり、前記第1導電型半導体基板と第2ウエルの接合部に前記キャリア捕獲領域を有する請求項1記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−71326(P2011−71326A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221240(P2009−221240)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】